説明

血圧測定装置及び血圧測定方法

【課題】被測定者が自由行動下で常時血圧測定する場合に、カフ型血圧計を使わず簡易に校正ができる常時装着可能な血圧測定装置を提供する。
【解決手段】血圧測定装置は、生体内部の血液の流れを検出する血流速度センサー部18と、血流速度センサー部18を駆動させる血流速度センサー駆動部20と、血流速度センサー駆動部20と血流速度センサー部18とを制御し生体内部の血流速度を求める血流速度センサー信号演算部22と、生体内部の血管壁の反射到達時間差を検出する血管径センサー部27と、血管径センサー部27を駆動させる血管径センサー駆動部28と、血管径センサー駆動部28と血管径センサー部27とを制御し生体内部の血管径を求める血管径センサー信号演算部30と、血流速度センサー信号演算部22と血管径センサー信号演算部30との演算結果を用いて被測定者の血圧を求める血圧信号演算部32と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血圧測定装置及び血圧測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、血圧を測定する方法として、超音波を用いて測定する方法が提案されている。例えば、動脈の局所部位において、最大直径及び最小直径を求め、それらのパラメーター値を非線形関数に与えて、その非線形関数により、入力される各時刻の直径を換算することにより、局所部位についての各時刻の圧力を演算するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、血流速度、流量、又は容量などを超音波により及び脈波速度を光波により検出し、この両量を関連付けて血圧及びその変化量を算出する方法が提案されている(例えば、特許文献2及び3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−041382号公報
【特許文献2】特開平4−250135号公報
【特許文献3】特開2004−154231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3にあるように従来の超音波を用いた血圧値の算出には、カフ型血圧計による校正が必要となる。これは24時間自由行動下、血圧測定(24hABPM)や一拍ごとの連続血圧測定を考えた場合、カフを常時身に付けたり、持ち歩いて適時使用するといった不便があり、普段の生活を送る上で実用が困難になる虞がある。
【0006】
また、カフ型血圧計による校正が必要なことに加え、その校正が定期的(30分〜1時間程度)に必要であることがさらに問題となる虞がある。一般的に、脈波伝播速度から血圧値を推定すると、校正間隔が伸びることによって誤差確率が大きくなることが知られている。これは、短時間内では血管弾性特性(E0:無圧力時の血管弾性率、γ:特定血管における定数)が一定とみなせるが、ある時間以上では誤差が大きくなってくるということからである。特許文献1ではカフ型血圧計により求めた最高血圧Ps及び最低血圧Pdからスティフネスパラメーターβを算出しているが、これは前述の血管弾性率と相関があるので、当然ある時間以上では値が変化してくる。すなわち、連続的かつ継続的に正しい血圧値を求めるには、校正は一度行うだけでは足りず、ある程度の間隔、例えば一時間程度ごとに行う必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]被測定者の生体表面から生体内部の血液に波動を送受信して、該生体内部の血液の流れを検出する血流速度センサー部と、前記血流速度センサー部を駆動させる血流速度センサー駆動部と、前記血流速度センサー駆動部と前記血流速度センサー部とを制御し前記生体内部の血流速度を求める血流速度センサー信号演算部と、前記生体内部の血管に超音波を送受信して、該生体内部の血管壁の反射到達時間差を検出する血管径センサー部と、前記血管径センサー部を駆動させる血管径センサー駆動部と、前記血管径センサー駆動部と前記血管径センサー部とを制御し前記生体内部の血管径を求める血管径センサー信号演算部と、前記血流速度センサー信号演算部と前記血管径センサー信号演算部との演算結果を用いて前記被測定者の血圧を求める血圧信号演算部と、を有することを特徴とする血圧測定装置。
【0009】
これによれば、最初にカフ型血圧計を用いて測定した血圧値によって補正係数を求めておくだけで、その後はカフ型血圧計を使用することなく精度良く血圧を測定することができ、被測定者が自由行動下で常時血圧測定する場合に、カフ型血圧計を使わず簡易に校正ができる常時装着可能な血圧測定装置を提供できる。
【0010】
[適用例2]上記血圧測定装置であって、前記血圧信号演算部は、前記血管径を水頭圧に換算することにより前記血圧を求める演算を実行することを特徴とする血圧測定装置。
【0011】
これによれば、血管径及び血圧が略線形変化するとみなせるので、血管径の時間変化を測定することで、血圧の時間変化に相関した値を得ることができる。
【0012】
[適用例3]上記血圧測定装置であって、前記被測定者の所定の部位が所定の高さに位置決めされた第1状態で、該第1状態と前記所定の部位が前記被測定者の心臓の高さに位置決めされた第2状態との前記所定の部位の高低差を求める高さ位置センサー部をさらに含み、前記水頭圧は、前記高さ位置センサー部により測定された前記高低差を用いて求められていることを特徴とする血圧測定装置。
【0013】
これによれば、水頭圧を求める際の一要素である高低差を容易に測定できる。
【0014】
[適用例4]上記血圧測定装置であって、前記血流速度センサー部は、送信用素子と受信用素子とから構成し、しかも前記送信用素子と前記受信用素子との対は複数対あり、送受信する波動の進行方向と血液の流れる方向とのなす角度が対ごとに異なることを特徴とする血圧測定装置。
【0015】
これによれば、血管と波動とのなす角度が未知な場合についても血流速度を求めることができる。
【0016】
[適用例5]上記血圧測定装置であって、前記血流速度センサー部は、圧電素子を用いて構成することを特徴とする血圧測定装置。
【0017】
これによれば、圧電素子は構造が簡単なので、血流速度センサーを小型化することができる。
【0018】
[適用例6]被測定者の所定の部位が所定の高さに位置決めされた第1状態で、前記所定の部位の血流速度を該所定の部位の血管径の2乗で割った値に対して所定の比例定数で比例する前記被測定者の血圧であって、前記比例定数を求める校正工程と、前記第1状態で、前記所定の部位の前記血管径及び前記血流速度をそれぞれ測定する工程と、前記血管径、前記血流速度、及び前記比例定数を用いて前記血圧を求める工程と、前記血圧を表示する工程と、及び、前記比例定数の校正が必要か判断する工程と、を有することを特徴とする血圧測定方法。
【0019】
これによれば、最初にカフ型血圧計を用いて測定した血圧値によって補正係数を求めておくだけで、その後はカフ型血圧計を使用することなく精度良く血圧を測定することができ、被測定者が自由行動下で常時血圧測定する場合に、カフ型血圧計を使わず簡易に校正ができる常時装着可能な血圧測定方法を提供できる。
【0020】
[適用例7]上記血圧測定方法であって、前記校正工程は、前記所定の部位が前記被測定者の心臓の高さに位置決めされた第2状態で、前記所定の部位の血管径、及び該所定の部位の収縮期及び拡張期の血管径をそれぞれ計測し、第1平均血管径、平均収縮期血管径、及び平均拡張期血管径を求める工程と、前記第1状態で、該第1状態と前記第2状態との前記所定の部位の高低差を測定する高低差測定工程と、前記高低差を用いて前記第1状態と前記第2状態との間の水頭圧を求める工程と、前記第1状態で、前記所定の部位の血管径、及び該所定の部位の収縮期及び拡張期の血流速度と血管径とをそれぞれ計測し、第2平均血管径、収縮期血流速度、収縮期血管径、拡張期血流速度、及び拡張期血管径を求める工程と、前記第1平均血管径と前記第2平均血管径とを用いて平均血管径変化を求める工程と、前記水頭圧、前記平均血管径変化、前記平均収縮期血管径、及び前記平均拡張期血管径を用いて収縮期血圧と拡張期血圧との血圧差を求める工程と、及び、前記血圧差、前記収縮期血流速度、前記収縮期血管径、前記拡張期血流速度、及び前記拡張期血管径を用いて前記比例定数を求める工程と、を有することを特徴とする血圧測定方法。
【0021】
これによれば、比例定数を容易に校正できる。
【0022】
[適用例8]上記血圧測定方法であって、前記高低差測定工程は、前記第1状態と前記第2状態との前記所定の部位の前記高低差を測定する高さ位置センサー部により測定されていることを特徴とする血圧測定方法。
【0023】
これによれば、水頭圧を求める際の一要素である高低差を容易に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態に係る血圧測定装置が装着された状態を示す外観図。
【図2】本実施形態に係る血流速度センサー及び血管径センサーを示す図。
【図3】本実施形態に係る回路ブロックを示す図。
【図4】本実施形態に係る血圧測定装置の測定位置を示す図。
【図5】本実施形態に係る水頭圧分が加わった血管径を示す図。
【図6】本実施形態に係る血管壁圧力と血管径(容積)との関係を示す図。
【図7】本実施形態に係るカフ加圧測定値を示す図。
【図8】本実施形態に係る血流速度センサーを示す図。
【図9】本実施形態に係る測定方法を示す図。
【図10】本実施形態に係る校正ルーチンを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本実施形態について図面に従って説明する。なお、使用する図面は、説明する部分が認識可能な状態となるように、適宜拡大又は縮小して表示している。
【0026】
図1は、本実施形態に係る血圧測定装置が装着された状態を示す外観図である。図2は、本実施形態に係る血流速度センサー及び血管径センサーを示す図である。図3は、本実施形態に係る回路ブロックを示す図である。本実施形態に係る血圧測定装置2は、血流速度センサー10と、血管径センサー12と、を備えている。血圧測定装置2は、被測定者4(図4参照)の手首部16に装着され、橈骨動脈(血管)14の血流速度v及び血管径dを測定し、血圧Pを求める。
【0027】
血流速度センサー10は、手首部16の内側の橈骨動脈14に対して超音波が照射できるような位置に取り付けられている。血流速度センサー10は、血流速度センサー10から出た基本波動f及び受信波動f´をミキシングする。ミキシングされた波動は血流速度センサー信号演算部(信号演算部)22で検波されることによりドップラーシフトの周波数成分のみが抽出される。信号演算部22ではこのドップラー周波数成分Δf(=f−f´)と、波動f,f´及び橈骨動脈14のなす角θより血流速度vが算出される。
【0028】
血流速度センサー10は、血流速度センサー部18と、血流速度センサー駆動部(駆動部)20と、信号演算部22と、を備えている。血流速度センサー部18は、被測定者4の生体表面から生体内部の血液に波動を送受信して、生体内部の血液の流れを検出する。血流速度センサー部18は、発信部(送信用素子)24と受信部(受信用素子)26とから構成されている。発信部24と受信部26との対は複数対あり、送受信する波動の進行方向と橈骨動脈14とのなす角度が対ごとに異なる。駆動部20は、血流速度センサー部18を駆動させる。信号演算部22は、駆動部20と血流速度センサー部18とを制御し生体内部の血流速度vを求める。血流速度センサー部18は、圧電素子を用いて構成されている。これにより、圧電素子は構造が簡単なので、血流速度センサーを小型化することができる。
【0029】
血管径センサー12は、手首部16の内側の橈骨動脈14に対して超音波が照射できるような位置に取り付けられている。血管径センサー12は、数M〜数十MHzのパルス信号やバースト信号を送信し、送信波及び受信波より橈骨動脈14壁からの反射波の到達時間を測定する。血管径センサー部27は、生体内部の橈骨動脈14に超音波を送受信して、生体内部の橈骨動脈14壁の反射到達時間差を検出する。
【0030】
血管径センサー12は、血管径センサー部27と、血管径センサー駆動部(駆動部)28と、血管径センサー信号演算部(信号演算部)30と、を備えている。血管径センサー部27は、発信部29と受信部31とから構成されている。血管径センサー部27は、生体内部の橈骨動脈14に超音波を送受信して、生体内部の橈骨動脈14壁の反射到達時間差を検出する。駆動部28は、血管径センサー部27を駆動させる。信号演算部30は、駆動部28と血管径センサー部27とを制御し生体内部の血管径dを求める。
【0031】
本実施形態に係る血圧測定装置2は、血圧信号演算部32と、表示部34と、気圧センサー(高さ位置センサー部)36と、スイッチ37と、電源部40とを備えている。血圧信号演算部32は、信号演算部22と信号演算部30との演算結果を用いて被測定者4の血圧Pを求める。表示部34は、被測定者4の血圧Pを表示する。また、それをグラフなどで可視化して表示することもできる。さらに、脈拍についても同様に表示してもよい。さらにまた、校正が必要である旨を表示する。気圧センサー36は、血圧測定装置2の高さ位置を測定する。スイッチ37は、血圧測定装置2の各機能部に対して電源部40からの電源の供給/遮断を切り替える。電源部40は、血圧測定装置2の各機能部に対して電源を供給する。本実施形態では、例えば、充電可能な二次電池を想定している。
【0032】
図4は、本実施形態に係る血圧測定装置2の測定位置を示す図である。図5は、本実施形態に係る水頭圧分が加わった血管径dを示す図である。ここで非侵襲の血圧測定に、カフ(圧迫帯)を用いずに血流速度v及び血管径dを測定して血圧Pを算出する方法について説明する。血圧Pは血流量Q及び血管抵抗Rの積により求められる。
【0033】
P=Q・R …(1)
このうち、血流量Qは式(2)に表すような血管径d及び血流速度vの積で求められる。
【0034】
Q=(π・d2・v)/8 …(2)
また、血管抵抗Rは橈骨動脈14の中を流れる血液の粘度η及び血管径dの比によって決まり、血管径dが大きいほど血管抵抗Rが小さくなるという関係が成り立つ。Cを定数と考えると。
【0035】
R=η・C/d4 …(3)
これらの関係式を考慮して血圧Pを導き出そうとすると、脈波と呼ばれる容積脈波の強度変化は、実際には血液が脈動するときの血管径dの変化が容積変化として捕らえられているものであり、容積脈波を測定することにより血管径dと相関した値を測定することができ、血管抵抗Rに相関する値を測定することができる。そして、血管内の血流速度vを測定することにより血流量Qに相関する値も求めることができ、したがって、血圧Pを測定することができる。
【0036】
次に、収縮期血圧Psys及び拡張期血圧Pdiaの算出について説明する。収縮期血圧Psys及び拡張期血圧Pdiaは、式(1)〜(3)を用いることにより、式(4)及び(5)のように求めることができる。
【0037】
Psys=π/8・η・C・vsys/dsys2 …(4)
Pdia=π/8・η・C・vdia/ddia2 …(5)
これにより、収縮期血圧Psys及び拡張期血圧Pdiaの血圧差(Psys−Pdia)は、式(6)のように求めることができる。
【0038】
Psys−Pdia=π/8・η・C・(vsys/dsys2−vdia/ddia2) …(6)
ここでvsysは収縮期血流速度、dsysは収縮期血管径、vdiaは拡張期血流速度、ddiaは拡張期血管径である。
【0039】
図6は、本実施形態に係る血管壁圧力と血管径(容積)との関係を示す図である。図6は、血管の管法則を示す図である。従来のカフ加圧による血圧測定ではオシロメトリック波形を得るために管法則の非線形領域を用いている。これに対し、本実施形態では図6に示す略線形近似領域を用いている。この部分では、血管径d及び血管壁圧力(血圧P)が略線形変化するとみなせるので、血管径dの時間変化を測定することで、血圧Pの時間変化に相関した値が得られる。
【0040】
次に、上記式を用いて収縮期血圧Psys及び拡張期血圧Pdiaを算出する方法を説明する。先ず、心臓38の位置と同じ高さH、つまり水頭圧の補正が必要ない状態で、収縮期血流速度vsys、収縮期血管径dsys、拡張期血流速度vdia、及び拡張期血管径ddiaを求める。波動を生体内部の血管に送受信し、血流散乱波のドップラーシフト量から収縮期血流速度vsys及び拡張期血流速度vdiaを、血管両壁の反射到達時間差から収縮期血管径dsys及び拡張期血管径ddiaを算出する。それと同時に、血管径dの時間変化を測定する。血管の管法則より、無加圧若しくは微加圧時においては血管径d及び血管壁圧力(血圧P)が略線形に近似できる。そのとき、血管径dの時間変化は血圧Pの時間変化と相似である(図6参照)。
【0041】
続いて、心臓38の位置と高さhだけ下げた状態の位置Lで同様に血管径dを測定する。その場合、被測定者4が安定状態にあるとすると、血管には心臓38の位置に比べ水頭圧分のみの圧力が余分にかかることになる。つまり、この状態で再び血管径dの時間変化を測定すると、水頭圧分が加わった血圧Pの時間変化が得られる(図5参照)。これより、水頭圧(ρ・g・h)、(ρ:血液の密度、g:重力加速度)に対応する血管径dの変化分Δdがわかる。収縮期及び拡張期での血管径dの変化分は測定により求まり、収縮期血圧Psys及び拡張期血圧Pdiaの血圧差ΔP(=Psys−Pdia)も算出することができる。この値を式(6)に当てはめると比例定数(π/8・η・C)が求まるので、式(4)及び式(5)から収縮期実血圧Prsys及び拡張期実血圧Prdiaが算出できる。
【0042】
血液の密度ρは個人差で1.055±0.005g/cm2程度なので、血圧値への影響は±0.数mmHgであることから一定とみなせる。水頭圧(ρ・g・h)は、高さの測定を正確に行えば正しい値が得られることがわかる。本実施形態によれば、カフ型血圧計などによる他の血圧計による校正が不要で、水頭圧を用いることで非常に簡便に校正が行うことができる。また容積脈波の計測を行わずに済み、波動による血流速及び血管径の測定だけで血圧の常時計測ができる。
【0043】
(水頭圧(ρ・g・h)を血管径dに換算する方法)
本実施形態に係る血圧測定装置を、図4に示すように、手首部16に装着した状態で心臓38の高さと同じ高さHの位置で血管径dの時間変化の測定、及びカフ加圧式血圧計42による収縮期実血圧Prsys及び拡張期実血圧Prdiaの測定を行う。続いて、高さLの位置に腕を下ろし、血管径dの時間変化の測定を行う。これにより、水頭圧による圧力値がどのくらいの血管径d変化に対応するのかを算出できる(図5参照)。
【0044】
図7は、本実施形態に係るカフ加圧測定値を示す図である。水頭圧による圧力値がどのくらいの血管径d変化に対応するのかの算出は、下記の(a)〜(c)の方法がある。
(a)血管径d変化は10秒程度計測し、図4の高さH,Lの位置での平均血管径(dm1及びdm2)をそれぞれ算出する。続いて、平均血管径(dm1,dm2)の変化分Δdmを式(7)より求める。
【0045】
Δdm=dm2−dm1 …(7)
水頭圧分の血管径変化Δdを式(8)より求める。
【0046】
Δd=Δdm …(8)
これにより、図4の高さHの位置での平均収縮期血管径dmsys1及び平均拡張期血管径dmdia1を用いると、圧力及び血管径の関係を考えると式(9)が成立する。
【0047】
(Prsys−Prdia):ρ・g・h=(dmsys1−dmdia1):Δdm …(9)
よって水頭圧(ρ・g・h)は、式(10)より求まる(図7(A)参照)。
【0048】
ρ・g・h=(Prsys−Prdia)・Δdm/(dmsys1−dmdia1) …(10)
【0049】
(b)血管径d変化は10秒程度計測し、図4の高さH及びLの位置での平均収縮期血管径(dmsys1,dmsys2)及び平均拡張期血管径(dmdia1,dmdia2)を算出する。続いて、平均血管径(dm1及びdm2)の変化分(Δdmsys,Δdmdia)を式(11)及び(12)より求める。
【0050】
Δdmsys=dmsys2−dmsys1 …(11)
Δdmdia=dmdia2−dmdia1 …(12)
また、上記より平均をとり、水頭圧分の血管径変化Δdを式(13)より求める。
【0051】
Δd=(Δdmsys+Δdmdia)/2 …(13)
これにより、圧力及び血管径の関係を考えると式(14)が成立する。
【0052】
(Prsys−Prdia):ρ・g・h=(dmsys1−dmdia1):(Δdmsys+Δdmdia)/2 …(14)
よって水頭圧(ρ・g・h)は、式(15)より求まる(図7(B)参照)。
【0053】
ρ・g・h=(Prsys−Prdia)・(Δdmsys+Δdmdia)/2・(dmsys1−dmdia1) …(15)
【0054】
(c)上記(a)及び(b)の方法では、図6の略線形近似領域を用いるといった考えで算出したが、ここではより厳密に測定する方法を示す。先ず、図4の高さHの位置での血管径dの時間変化より、血管体積Vの時間変化を算出する。一般的に血管体積V及び血管内圧及びカフ圧の圧力差Ptの関係は式(16)で表せるので、b=0.03mmHg-1を用いると、収縮期実血圧Prsys及び拡張期実血圧Prdiaでの血管体積(Vrsys,Vrdia)の関係から、V0及びVmaxが求まる。これにより血管体積Vの時間変化から、高さHの位置での血管内圧及びカフ圧の圧力差Ptの時間変化が算出できる。
【0055】
V=Vmax+(V0−Vmax)・eb・Pt …(16)
次に、高さLの位置での血管径dの時間変化から血管体積(Vrsys,Vrdia)の時間変化を算出し、式(16)を用いて血管内圧及びカフ圧の圧力差Ptの時間変化を求める。高さH及びLの位置での血管内圧及びカフ圧の圧力差Ptの時間変化より、それぞれの位置での血管内圧及びカフ圧の圧力差Ptの平均値の差分を求め、その値を水頭圧(ρ・g・h)とする。若しくは、それぞれの平均収縮期血圧及び平均拡張期血圧の各同士の差分を求め、その差分の平均値を水頭圧とする。水頭圧(ρ・g・h)及び血管径d(血管体積)の換算ができれば、収縮期実血圧Prsys及び拡張期実血圧Prdiaの血圧差(Prsys−Prdia)は、式(17)のように求まる。
【0056】
Prsys−Prdia=1/b・log{(Vsys−Vmax)/(Vdia−Vmax)} …(17)
ここでVsysは収縮期血管体積、Vdiaは拡張期血管体積である。
【0057】
水頭圧(ρ・g・h)の算出ができれば、前述の関係より血管径dの計測のみで収縮期実血圧Prsys及び拡張期実血圧Prdiaの血圧差(Prsys−Prdia)がわかる。水頭圧(ρ・g・h)の算出は常時連続測定開始前、つまり1日のはじめなどに一度行うことで、より高精度な測定ができる。また、測定位置高さH及びLの高低差hは精度にかかわる重要なパラメーターなので、測定ごとに同じ位置で行う。例えば高さHを心臓38の位置、高さLを腕を真っ直ぐ下ろした位置などに決め、高低差hを測定しておく。若しくは、高精度な気圧センサー36などを用いて高さの計算を行ってもよい。これにより、水頭圧を求める際の一要素である高低差を容易に測定できる。
【0058】
(血管径の測定方法)
血管径dの測定の場合、図3に示す血管径センサー12の駆動部28により、図2に示すように数M〜数十MHzのパルス信号やバースト信号を送信し、送信波及び受信部26の受信波より血管壁からの反射波の到達時間を測定する。仮に、反射波到達時間が1.73μs、生体内部での音速を1500m/sとすると、血管径dは2.6mmと算出できる。例えば、超音波の送受信にはピエゾ素子を用いてもよい。さらに血管径dの測定方法としては、超音波ビームから得られるエコー信号に基づいて血管壁などを追跡するエコートラッキング法が知られている。エコートラッキング法により、超音波の波長以下の数μm程度の精度で血管壁などの変位を計測することができる。
【0059】
(血流速度の測定方法)
図8は、本実施形態に係る血流速度センサーを示す図である。血流速度vを測定する場合、図3に示す血流速度センサー10の駆動部20から出た基本波動f及び受信部26の受信波動f´(図2参照)をミキシングして信号演算部22で検波を行うことによりドップラーシフトの周波数成分のみを抽出する。信号演算部22ではこのドップラー周波数成分Δf(=f−f´)と、波動及び橈骨動脈14のなす角θより式(18)を利用して血流速度vを算出する。
【0060】
v=ε・Δf/(2・f・cosθ) …(18)
ここでεは生体内部の音速、fは入力した波動の周波数、vは血流速度、θは橈骨動脈14及び波動のなす角である。実際には波動及び橈骨動脈14のなす角θを求めることは困難なので、図8に示すような複数個の血流速度センサーを用いて波動及び橈骨動脈14のなす角θが未知な場合についても血流速度vが求められるように、2個の血流速度センサーを用いて測定する血流の流れる方向に対して角度θと角度θ−αの2つの超音波波動が送受信できるセンサーを用いる。2個の血流速度センサーのなす角をαとすると、波動及び橈骨動脈14のなす角θを求めることができる。すなわち、生体表面から内部に波動を送受信する血流速度センサー10は1対となる。血流速度センサーがそれぞれ受信するドップラー周波数成分Δf0,Δf1、そして2個の血流速度センサーのなす角をαとすると式(19)を用いてθを求める。
【0061】
θ=Tan-1(Δf1/Δf0−cosα)/sinα …(19)
そして、ここで求めた波動及び橈骨動脈14のなす角θ及びドップラー周波数成分Δf0をΔf=Δf0として式(18)に代入することにより、血流速度vを求める。
【0062】
例えば、血流速度vを求めるために、1MHzのパルス信号を送信し、受信波のドップラー周波数成分Δfを算出する。ドップラー周波数成分Δfが0.33kHzで橈骨動脈14と波動とのなす角θが45度のとき、血流速度vはおよそ50cm/sと算出できる。以上求めた血管径d及び血流速度vより、一拍ごとの血圧Pを算出する。つまり、一拍ごとに式(4)及び(5)にあるように血管径d及び血流速度vを超音波などの波動で測定し、血圧Pを決定する。式(4)及び(5)にある比例定数(π/8・η・C)は、式(6)を変形した式(20)より求まる。
【0063】
π/8・η・C=(Psys−Pdia)/(vsys/dsys2−vdia/ddia2) …(20)
よって式(4)及び(5)の関係からサンプルレートごと若しくは一定間隔ごとに血圧Pを算出することにより、安定した常時血圧測定を非加圧下で行うことができる。
【0064】
(簡便な校正方法)
比例定数(π/8・η・C)は、生体情報を多分に反映しているため、ある程度の間隔で値の校正を行う必要がある。その場合、図4のように高さHの位置及び高さLの位置、それぞれでの血管径d及び血流速度vを超音波などの波動により前述の通り求め、収縮期血圧Psys及び拡張期血圧Pdiaの血圧差(Psys−Pdia)を、水頭圧(ρ・g・h)及び血管径dの換算により求める、以上よりカフ加圧無しでも適時校正できる。
【0065】
(血圧測定方法及び校正値算出)
図9は、本実施形態に係る血圧測定方法を示す図である。先ず、スイッチ37を投入後、ステップS10に示すように、比例定数(π/8・η・C)算出のための校正を行う。ステップS10の詳細については後述する。
【0066】
続いて、ステップS20に示すように、血管径d及び血流速度vを測定する。測定方法は前述の超音波反射到達時間を測定し血管径dを測定するものや、ドップラー法により血流速度vを測定する方法を用いる。
【0067】
次に、ステップS30に示すように、ステップS10の校正ルーチンにより求めてある比例定数を用いて血圧Pを算出する。同一箇所、同時刻の血管径d及び血流速度vの時間的変化を求め、血圧Pの時間変化を算出することもできる。
【0068】
次に、ステップS40に示すように、血圧Pを表示部34に表示する。また、それをグラフなどで可視化して表示部34に表示することもできる。さらに、脈拍についても同様に表示してもよい。
【0069】
次に、ステップS50に示すように、校正が再度必要であるか判断する。必要があればステップS10に戻り校正を行う。必要がなければステップS60へ進む。校正が必要である場合とは、例えば血圧が通常と比べて±15mmHg以上変化した場合である。この場合再校正の指示が表示部34に表示される。
【0070】
次に、ステップS60に示すように、測定の続行が必要であるか判断する。必要があればステップS20に戻り血管径d及び血流速度vを測定する。必要がなければ終了する。これにより、最初にカフ型血圧計を用いて測定した血圧値によって補正係数を求めておくだけで、その後はカフ型血圧計を使用することなく精度良く血圧を測定することができ、被測定者が自由行動下で常時血圧測定する場合に、カフ型血圧計を使わず簡易に校正ができる。
【0071】
図10は、本実施形態に係る校正ルーチンを示す図である。
ステップS10の校正ルーチンの詳細を示したフローを図10に示す。水頭圧換算方法の(a)による手順は以下の通りである。先ず、ステップS110に示すように、図4の高さHの位置での血管径dを計測すると同時に平均血管径dm1を算出する。血管径変化は10秒程度測定する。
【0072】
次に、ステップS120に示すように、腕を高さLの位置に移す。その際の高さH及びLの位置の高低差hを測定する。なお、高さ位置センサー部としての高精度な気圧センサー36(図3参照)などを用いて高さの計算を行ってもよい。これにより、水頭圧を求める際の一要素である高低差を容易に測定できる。
【0073】
次に、ステップS130に示すように、水頭圧(ρ・g・h)を算出する。
【0074】
続いて、ステップS140に示すように、血管径d及び血流速度vを測定すると同時に平均血管径dm2を求める。
【0075】
次に、ステップS150に示すように、高さH及びLの位置での平均血管径変化Δdm(=dm1−dm2)を算出する。
【0076】
次に、ステップS160に示すように、拡張期血圧Pdia及び収縮期血圧Psysの血圧差(Psys−Pdia)を算出する。図4の高さHの位置での平均収縮期血管径dmsys1及び平均拡張期血管径dmdia1を用いると、式(9)を変形して式(21)より、拡張期血圧Pdiaと収縮期血圧Psysとの血圧差(Psys−Pdia)を算出する。
【0077】
Psys−Pdia=ρ・g・h・(dmsys1−dmdia1)/Δdm …(21)
なお、この場合拡張期実血圧Prdiaと収縮期実血圧Prsysとの血圧差(Prsys−Prdia)は、拡張期血圧Pdiaと収縮期血圧Psysとの血圧差(Psys−Pdia)と等しいとして算出する。
【0078】
次に、ステップS170に示すように、以下の式より比例定数(π/8・η・C)を算出する。式(20)より、比例定数(π/8・η・C)を算出する。なお、この場合拡張期血圧Pdiaと収縮期血圧Psysとの血圧差(Psys−Pdia)は、拡張期実血圧Prdiaと収縮期実血圧Prsysとの血圧差(Prsys−Prdia)と等しいとして算出する。また、水頭圧と血管径変化との関係は変わらないので拡張期血圧Pdiaと収縮期血圧Psysとの血圧差(Psys−Pdia)はカフ圧無しで算出することができる。これにより、比例定数を容易に校正できる。
【0079】
本実施形態の血圧測定装置及び血圧測定方法によれば、カフを使用することなく適時校正を簡便にすることができ、精度良く血圧Pを測定することができる。またそれによりウエアラブルで常時計測可能な血圧測定装置及び血圧測定方法が提供できる。
【符号の説明】
【0080】
2…血圧測定装置 4…被測定者 10…血流速度センサー 12…血管径センサー 14…橈骨動脈(血管) 16…手首部 18…血流速度センサー部 20…駆動部(血流速度センサー駆動部) 22…信号演算部(血流速度センサー信号演算部) 24…発信部(送信用素子) 26…受信部(受信用素子) 27…血管径センサー部 28…駆動部(血管径センサー駆動部) 29…発信部 30…信号演算部(血管径センサー信号演算部) 31…受信部 32…血圧信号演算部 34…表示部 36…気圧センサー(高さ位置センサー部) 37…スイッチ 38…心臓 40…電源部 42…カフ加圧式血圧計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定者の生体表面から生体内部の血液に波動を送受信して、該生体内部の血液の流れを検出する血流速度センサー部と、
前記血流速度センサー部を駆動させる血流速度センサー駆動部と、
前記血流速度センサー駆動部と前記血流速度センサー部とを制御し前記生体内部の血流速度を求める血流速度センサー信号演算部と、
前記生体内部の血管に超音波を送受信して、該生体内部の血管壁の反射到達時間差を検出する血管径センサー部と、
前記血管径センサー部を駆動させる血管径センサー駆動部と、
前記血管径センサー駆動部と前記血管径センサー部とを制御し前記生体内部の血管径を求める血管径センサー信号演算部と、
前記血流速度センサー信号演算部と前記血管径センサー信号演算部との演算結果を用いて前記被測定者の血圧を求める血圧信号演算部と、
を有することを特徴とする血圧測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の血圧測定装置において、
前記血圧信号演算部は、前記血管径を水頭圧に換算することにより前記血圧を求める演算を実行することを特徴とする血圧測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の血圧測定装置において、
前記被測定者の所定の部位が所定の高さに位置決めされた第1状態で、該第1状態と前記所定の部位が前記被測定者の心臓の高さに位置決めされた第2状態との前記所定の部位の高低差を求める高さ位置センサー部をさらに含み、
前記水頭圧は、前記高さ位置センサー部により測定された前記高低差を用いて求められていることを特徴とする血圧測定装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の血圧測定装置において、
前記血流速度センサー部は、送信用素子と受信用素子とから構成し、しかも前記送信用素子と前記受信用素子との対は複数対あり、送受信する波動の進行方向と血液の流れる方向とのなす角度が対ごとに異なることを特徴とする血圧測定装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の血圧測定装置において、
前記血流速度センサー部は、圧電素子を用いて構成することを特徴とする血圧測定装置。
【請求項6】
被測定者の所定の部位が所定の高さに位置決めされた第1状態で、前記所定の部位の血流速度を該所定の部位の血管径の2乗で割った値に対して所定の比例定数で比例する前記被測定者の血圧であって、前記比例定数を求める校正工程と、
前記第1状態で、前記所定の部位の前記血管径及び前記血流速度をそれぞれ測定する工程と、
前記血管径、前記血流速度、及び前記比例定数を用いて前記血圧を求める工程と、
前記血圧を表示する工程と、及び、
前記比例定数の校正が必要か判断する工程と、
を有することを特徴とする血圧測定方法。
【請求項7】
請求項6に記載の血圧測定方法において、
前記校正工程は、
前記所定の部位が前記被測定者の心臓の高さに位置決めされた第2状態で、前記所定の部位の血管径、及び該所定の部位の収縮期及び拡張期の血管径をそれぞれ計測し、第1平均血管径、平均収縮期血管径、及び平均拡張期血管径を求める工程と、
前記第1状態で、該第1状態と前記第2状態との前記所定の部位の高低差を測定する高低差測定工程と、
前記高低差を用いて前記第1状態と前記第2状態との間の水頭圧を求める工程と、
前記第1状態で、前記所定の部位の血管径、及び該所定の部位の収縮期及び拡張期の血流速度と血管径とをそれぞれ計測し、第2平均血管径、収縮期血流速度、収縮期血管径、拡張期血流速度、及び拡張期血管径を求める工程と、
前記第1平均血管径と前記第2平均血管径とを用いて平均血管径変化を求める工程と、
前記水頭圧、前記平均血管径変化、前記平均収縮期血管径、及び前記平均拡張期血管径を用いて収縮期血圧と拡張期血圧との血圧差を求める工程と、及び、
前記血圧差、前記収縮期血流速度、前記収縮期血管径、前記拡張期血流速度、及び前記拡張期血管径を用いて前記比例定数を求める工程と、
を有することを特徴とする血圧測定方法。
【請求項8】
請求項7に記載の血圧測定方法において、
前記高低差測定工程は、
前記第1状態と前記第2状態との前記所定の部位の前記高低差を測定する高さ位置センサー部により測定されていることを特徴とする血圧測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−239972(P2011−239972A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115044(P2010−115044)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】