説明

血液の流動性評価方法および装置

【課題】測定結果のバラツキをできるだけ解消して、測定の信頼性の向上を図れるようにする。
【解決手段】被験者の指先Mの腹側の先端面に圧迫を加える際に、所定の押圧解放状態から、予め決められた短時間内に最大圧となるように、押圧子の硬質の押圧面を皮膚の表面に局部的に押し当て、それにより皮膚下の毛細血管内の血液を周囲に流出させると共に、押圧面の内部に装備した発光素子11から当該押圧面により押圧している皮膚の表面に光Haを照射して、その反射光Hbを押圧面の内部に装備した受光素子12で受光し、その受光データに基づいて血液の流動性を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部から簡単に血液の流動性(主に血液の粘性)を評価することのできる方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、血液の粘性を客観的に知ることで、健康維持に役立てたいという要望が最近では強い。しかし、血液の粘性を知るためには、一般的には採血して検査しなくてはならず、簡単には実施できない。
【0003】
従来、血液の粘性を知るためではないが、生体の末梢循環状態を客観的に測定することにより、心臓の機能や血圧、動脈の硬化状態などを評価する試みがなされている。特許文献1に記載のこの種の装置は、生体の所定部位を虚血させるために該所定部位を押圧する押圧装置と、押圧装置の押圧が解除されたときに生体の所定部位に対する血液の復帰量を光学的に検出する血液復帰量検出装置と、血液復帰量検出装置により検出された血液の復帰量の変化を所定の時間軸に沿って経時的にグラフ表示する血液復帰量表示手段と、を具備しており、虚血状態から復帰する際の血流の戻りの速さにより、機能の評価を行うようにしている。
【0004】
しかし、特許文献1に記載の技術のように、圧迫を解除したときの血流変化を測定するものの場合、圧迫解除時には全ての血管系に血液が一斉に充満することになるので、たとえ光の波長や光学素子の間隔を最適化したとしても、動脈系と毛細血管系の完全な区別が難しい。また心臓から送り出される血液の圧力、いわゆる血圧の影響を受け、血圧は刻々と変化するため校正は困難である。さらに血圧は心臓の鼓動に応じ脈動するので脈動成分を除去せねばならないが、除去は困難である。従って、血液の粘性評価のためには毛細血管系だけの血流データが欲しいにも拘わらず、計測したデータの中には動脈等の余計な情報が含まれてしまうため、感度の良い粘性評価を行うことは無理であった。
【0005】
そこで、それを改善して感度の良い粘性評価を実現できるものとして、特許文献2に、被験者の指先等の皮膚の表面に加圧袋帯を巻いて圧迫を加えることにより、皮膚下の毛細血管内の血液を周囲に流出させると共に、圧迫を加えた皮膚に発光素子から光を照射して、その光の吸収度合いを受光素子の受光光量として計測することにより、毛細血管内の血液量の変化を光学的に測定し、圧迫を加えてからの毛細血管内の血液量の時間変化を求めることにより、血液の流動性を評価する技術が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−89808号公報
【特許文献2】特開2006−68491号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、発明者らの研究の結果、皮膚の表面に圧迫を加えるときは、局部的な測定部位に向けて圧迫を加え始めてから瞬時に所定の加圧状態まで持っていかないと、安定した測定結果が得られないことが分かった。
【0008】
この点、特許文献2に記載の技術は、加圧エアを導入した加圧袋体で指先を押圧するものであるため、局部的な測定部位に向けて瞬時に所定の押圧を加えることは難しく、その結果、測定結果のバラツキを招きやすい問題があることが分かった。
【0009】
本発明は、上記事情を考慮し、測定結果のバラツキをできるだけ解消して、測定の信頼性の向上を図れるようにした血液の流動性評価方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明の血液の流動性評価方法は、被験者の所定部位の皮膚の表面に圧迫を加えることにより、皮膚下の毛細血管内の血液を周囲に流出させると共に、前記所定部位の皮膚に光を照射してその光の吸収度合いを計測することにより、前記毛細血管内の血液量の変化を光学的に測定し、前記圧迫を加えてからの毛細血管内の血液量の時間変化を求めることにより血液の流動性を評価する血液の流動性評価方法において、前記皮膚の表面に圧迫を加える際に、所定の押圧解放状態から、予め決められた短時間内に最大圧となるように、押圧子の硬質の押圧面を皮膚の表面に局部的に押し当て、それにより皮膚下の毛細血管内の血液を周囲に流出させると共に、前記押圧面の内部に装備した発光素子から当該押圧面により押圧している皮膚の表面に光を照射して、その反射光を前記押圧面の内部に装備した受光素子で受光し、その受光データに基づいて血液の流動性を評価することを特徴としている。
【0011】
ここで、所定の押圧解放状態とは、皮膚の表面に対し押圧面が非接触の状態か、皮膚の色が変化しない程度の所定圧力以下で押圧面が皮膚に接触している状態、を指す。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1に記載の血液の流動性評価方法であって、前記圧迫時の最大圧を被験者の最高血圧以上とすることを特徴としている。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の血液の流動性評価方法であって、前記最大圧による圧迫を被験者の脈拍以上の間隔にわたり継続して行い、圧迫開始から終了までの前記受光素子の受光データを収集した後、前記押圧解放状態に戻し、それを1回の測定動作として、その測定動作を複数回、所定の時間間隔で行い、複数回の測定動作で得た受光素子の受光データを処理することにより、血液の流動性を評価することを特徴としている。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の血液の流動性評価方法であって、前記測定動作の前に、前記押圧子により測定対象の皮膚を軽く叩く予備動作を数回繰り返すことを特徴としている。この場合の予備押圧時の圧力は、特に制限はないが、皮膚色が変化しにくいレベル、例えば、測定時の最大圧の1/4〜1/2程度に設定するのがよい。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の血液の流動性評価方法であって、前記測定のための圧迫を加えるべき皮膚の表面が、手の指先の先端の骨のない部分の腹側の部分であり、指の軸線に対して傾斜した先端面であることを特徴としている。
【0016】
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の血液の流動性評価方法であって、前記押圧子の押圧面が透明板の平坦な表面で構成されており、その透明板の内面側に前記発光素子と受光素子とが配設されていることを特徴としている。
【0017】
請求項7の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の血液の流動性評価方法であって、前記発光素子と受光素子の相互位置及び照射する光の波長を、皮膚下の毛細血管にその光が到達するものの、更に深い位置にある細動脈等の血管には到達しないように設定することを特徴としている。
【0018】
請求項8の発明の血液の流動性評価装置は、被験者の所定部位の皮膚の表面を押圧する
押圧子と、押圧および押圧を解放するために前記押圧子を前記皮膚の表面に略垂直に接近離間する方向に直線移動させる押圧駆動装置と、前記押圧子に装備され、前記皮膚の表面を押圧する押圧面を構成する透明板を前面に有するケースの内部に、前記押圧面にて押圧している皮膚の表面に光を照射する発光素子と皮膚の表面からの反射光を受光する受光素子とを収容した光学センサと、前記受光素子の受光データに基づいて皮膚下の毛細血管内の血液量の時間変化を算出する演算手段と、該演算手段による演算結果に基づく血液の流動性の評価内容を表示する表示手段と、を備えることを特徴としている。
【0019】
請求項9の発明は、請求項8に記載の血液の流動性評価装置であって、前記測定のための押圧を加えるべき皮膚の表面を、手の指先の先端の骨のない部分の腹側の部分の指の軸線に対して傾斜した先端面とし、そのために被験者の手の1本の指先を遮光状態でセットすることのできる指先セット台を有すると共に、該指先セット台にセットされた前記指先の先端の骨のない部分の腹側の部分の指の軸線に対して傾斜した先端面に向けて、前記押圧子が接近離間するように前記押圧駆動装置が前記セットされる指の軸線に対して斜めの角度を持って装備されていることを特徴としている。
【0020】
請求項10の発明は、請求項9に記載の血液の流動性評価装置であって、測定動作を実行するために前記押圧駆動装置と前記発光素子および受光素子並びに前記演算手段を制御し、前記指先に対する最大圧での押圧を被験者の脈拍以上の間隔にわたり継続して行い、押圧開始から終了までの前記受光素子の受光データを収集した後、押圧解放状態に戻し、それを1回の測定動作として、その測定動作を複数回、所定の時間間隔で行い、複数回の測定動作で得た受光素子の受光データを前記演算手段に処理させて、血液の流動性を評価する制御装置を備えることを特徴としている。
【0021】
請求項11の発明は、請求項10に記載の血液の流動性評価装置であって、前記制御装置が前記押圧駆動装置を制御することにより、前記各測定動作の前に、前記押圧子により測定対象の皮膚を軽く叩く予備動作を数回繰り返すことを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
請求項1の発明によれば、皮膚の表面に圧迫を加えたときの毛細血管内からの血液流出の速度に基づいて血流抵抗の評価を行うので、毛細血管よりも更に深い位置にある動脈や静脈等の血流の影響を受けずに、感度良く血液の流動性(主に血液の粘性)を評価することができる。つまり、動脈や静脈は元々血管抵抗が毛細血管に比べて低く、圧迫を加えた時には急速に血液が流出するので、それらの影響を受けずに、毛細血管系に残る血液の流出のみの測定が可能であり、それに基づいて精度良く血液の流動性(主に粘性)を評価することができる。特に、血液量の変化を、ヘモグロビンによる光の吸収を利用して外部から光学的に測定するので、測定のための構造の簡略化が図れる。
【0023】
しかも、本発明では、硬質の押圧面を皮膚の表面に局部的に押し当てることによって、所定の押圧解放状態から短時間で最大圧に到達させるので、特許文献2に記載の技術のように柔軟な加圧袋体に加圧エアを導入して締め付けるのと違って、瞬間的に皮膚の限られた部位に圧迫を加えることができる。従って、血液の流動性を評価する上で有効なバラツキの少ないデータを収集することができて、信頼性の高い血液流動性評価を行うことができる。
【0024】
請求項2の発明によれば、圧迫時の最大圧を被験者の最高血圧以上とするので、体内で自然に行われている血液の循環を部分的に停止させ、圧迫部分にある血管内の血液を周囲に確実に排出させることができる。従って、測定精度の向上に寄与することができる。
【0025】
請求項3の発明によれば、複数回の測定データに基づいて評価を下すので、それだけバ
ラツキの少ない精度の高い評価を行うことができる。
【0026】
請求項4の発明によれば、測定動作の前に予備の押圧動作(複数回の軽い叩き動作)を行うので、測定者の緊張をほぐすことができ、被験者に心理的な準備を促すことができる。つまり、急な押圧による驚きを少しでも軽減する効果がある。但し、叩く回数が多すぎたり、叩く強さが強すぎると、血の巡りが良くなることにより、逆に測定データが変わってしまうおそれがあるので、叩く回数や強さは実験値等に応じて設定するのがよい。
【0027】
また、叩き動作により、押圧箇所の皮膚の自然状態への戻りを促進する効果が得られ、測定データのバラツキの軽減に寄与することができる。即ち、人間の皮膚は少しの圧力でも変形し、元に戻るのに時間がかかる。変形量が大きいほど(測定動作時には変形が大きくなる)、戻り時間は大きくなる。変形している皮膚面は、そうでないときと、光の反射状態が異なるため、血液流動特性の測定データが異なってくる。そこで、データの再現性を増すためには、できるだけ皮膚の変形が無くなった状態で測定するのがよい。皮膚の変形は、再度変形しない程度の軽さで複数回叩くと戻りやすい。従って、本発明のように測定前に軽く皮膚面を叩くようにすることにより、測定データの再現性を高めることができる。
【0028】
また、この予備動作の際に、皮膚に押圧面が接触して軽く圧迫を加えるので、そのときの反射光の強度を予備測定して、本測定時の信号増幅ゲインを調整するのに役立てることもできる。
【0029】
また、この予備動作を、押圧駆動系統の円滑動作の準備運動とすることができる。特に押圧駆動系統にエアシリンダを使用した場合、長時間不使用状態にあると動作が安定しない場合があり、それを防止するために予備動作を役立てることができる。
【0030】
請求項5の発明によれば、太い動脈のない指先の特に骨のない部分を測定対象部位とするので、脈動の影響を受けにくい毛細血管の血流抵抗を測定することができる。
【0031】
請求項6の発明によれば、透明板の平坦な表面により皮膚の表面を押圧するので、皮膚色の変化を精度よく光学的に捉えることができる。
【0032】
請求項7の発明によれば、皮膚下の毛細血管より深い位置にある動脈等の血流の影響を極力排することができて、高感度に血液の流動性を評価することができる。
【0033】
請求項8の発明によれば、請求項1の発明の方法を実現することができ、その方法による効果を奏することができる。
【0034】
請求項9の発明によれば、請求項5の発明の方法を実現することができ、その方法による効果を奏することができる。
【0035】
請求項10の発明によれば、請求項2、3の発明の方法を実現することができ、その方法による効果を奏することができる。
【0036】
請求項11の発明によれば、請求項4の発明の方法を実現することができ、その方法による効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態の内容を図面を参照しながら説明する。
図1は実施形態の血液粘性測定装置(血液の流動性評価装置)の原理説明図で、(a)
は指先と光学センサの関係を示す側面図、(b)は光学センサを指先の皮膚に押圧させたときの状態を示す断面図、図2は実施形態の装置の制御系の概略構成を示すブロック図、図3は同装置の機械的な構成を示す側面図、図4は同装置の指先挿入側から見た正面図、図5は光学センサの詳細構成を示し、(a)は平面図、(b)は(a)のVb−Vb矢視断面図、(c)は(a)のVc−Vc矢視断面図、図6は同装置における測定動作の内容を示すタイムチャートである。
【0038】
この血液粘性測定装置では、図1に示すように、測定対象部位(つまり、測定のための押圧を加えるべき皮膚の表面)を、手の指先Mの先端の骨のない部分の腹側の部分の指の軸線に対して傾斜した先端面としており、その先端面に対向させて、光学センサ10(後述の押圧子に取り付けられている)を配設している。そして、そのように指先をセットするために、図3、図4に示すように、被験者の手の1本の指先(人差し指が好適)Mを遮光状態でセットすることのできる指先セット台31を設けている。この指先セット台31の上には、指先ガイド32が設けられ、それら全体が遮光カバー33で覆われている。なお、遮光カバー33や指先ガイド32等は、測定時点で遮光性を確保できるものでありさえすればよい。
【0039】
また、測定部位に対して垂直に押圧接触できるように押圧子51を設けており、その押圧子51を、押圧および押圧を解放するために測定部位に対して略垂直に接近離間する方向(矢印A、B方向)に直線移動できるように、押圧駆動装置50を、指の軸線に対して斜めの角度θを持って配備している。この場合の押圧駆動装置50としては、エアシリンダを利用してもよいが、ここでは、永久磁石52と駆動コイル53を組み合わせた電磁式のアクチュエータを用いている。従って、コイル53に流す電流に応じて押圧力を制御できる。
【0040】
なお、押圧駆動装置50の傾斜角度θは、例えば、約30度〜80度の範囲に入っていれば概ね好ましく、より好ましくは約55度程度であるのがよい。
【0041】
そして、押圧駆動装置50によって矢印A、B方向に直線移動させられる押圧子51の先端面に、皮膚色の変化を測定するための光学センサ10を装備している。光学センサ10は、皮膚の表面を押圧する押圧面が、測定部位の皮膚の表面に対して垂直な方向から押圧するように取り付けられている。
【0042】
光学センサ10は、図1、図5に示すように、皮膚の表面を押圧する押圧面を構成する透明板17を前面に有する遮光ケース15の内部に、押圧面にて押圧している皮膚の表面に光Haを照射する発光素子11と、皮膚の表面(毛細血管Ma)からの反射光Hbを受光する受光素子12とを収容したものである。この場合、発光素子11と受光素子12の距離を規制することで、反射光を求める対象の深さを決めるようにしている。つまり、毛細血管域の血液吸光特性が最も顕著に現れる距離を設定するようにしている。
【0043】
使用する光の種類としては、波長435nm〜580nmの緑色光と、波長850nm〜1150nmの赤外光を想定している。前者の場合、発光素子11と受光素子12の距離は3mm〜7mmくらいに設定し、後者の場合、発光素子11と受光素子12の距離は3mm以下くらいに設定する。赤外光の場合に発光素子11と受光素子12の間の距離を小さくする理由は、赤外光は浸透深さが深くなるので、素子間の距離を小さくして浸透深さを浅くするためである。つまり、皮膚下の僅かの深さ(例えば、0.3mm〜0.9mmくらいの深さ)の毛細血管域の血液吸光特性を調べるためである。
【0044】
また、光学センサ10において重要なことは、発光素子11の光が直接受光素子12入らないようにすることである。そのために、発光素子11を受光素子12より一段下げた
位置に配置し、発光素子11と受光素子12との間に遮光壁13を設けている。また、これら素子11、12は、回路基板16上に搭載している。なお、遮光ケースの上面には、透明板17の表面に並べてノイズキャンセル用の電極19を設けている。
【0045】
次に制御系について説明する。
この血液粘性測定装置は、図2に示すように、光学センサ(血流センサ)10や押圧駆動装置50の他に、制御装置100、押圧駆動装置50の駆動回路101、発光素子駆動回路111、受光信号増幅回路112、血液粘性演算回路(演算手段)113、表示器(表示手段)114、スイッチ110、脈拍センサ120などを備えている。押圧駆動装置50は、制御装置100からの制御信号により駆動回路101を介して駆動制御される。発光素子11は発光素子駆動回路111によって駆動制御され、受光素子12の信号は受光信号増幅回路112によって増幅された上で、血液粘性演算回路113に入力される。血液粘性演算回路113は、受光素子12の受光データに基づいて皮膚下の毛細血管内の血液量の時間変化を算出し、表示器114が、その演算結果に基づく血液の流動性の評価内容を表示する。
【0046】
また、制御装置100は、測定動作を実行するために、スイッチ110からの入力信号や脈拍センサ120からの脈拍信号に応じて、押圧駆動装置50や発光素子11、受光素子12、血液粘性演算回路113などを制御する。即ち、後述するように、指先に対する最大圧での押圧を被験者の脈拍以上の間隔にわたり継続して行い、押圧開始から終了までの受光素子12の受光データを収集した後、押圧解放状態に戻し、それを1回の測定動作として、その測定動作を複数回、所定の時間間隔で行い、複数回の測定動作で得た受光素子12の受光データを演算回路113に処理させて、血液の流動性を評価し、その内容を表示させる。また、制御装置100は、押圧駆動装置50を制御することにより、各測定動作の前に、押圧子51により、測定対象の皮膚を軽く叩く予備動作を数回繰り返させる。
【0047】
次に、血液の粘性測定の原理について述べる。
皮膚下の浅い位置には毛細血管があり、深い位置には動脈や静脈がある。皮膚に圧迫力が加わった場合、動脈や静脈は流路径が大きいので、血液が急速に他の部分へ流出してしまうが、毛細血管は流路径が小さく流路抵抗が大きいので、ゆっくりと血液が周囲へ流出する。また、毛細血管が圧迫された場合、血管流路が更に狭められるので、赤血球の集合化や変形能低下といった粘性の変化の影響で、さらに流出量が減っていくことになる。
【0048】
この血液流出の時間変化(速さ)は、血流抵抗(その一つの要素として血液の粘度がある)に依存する。そこで、本実施形態では、毛細血管内からの血液流出の時間変化を光学的に検出することにより、血流抵抗の一要素である粘性を推定することにしている。
【0049】
次に上述の血液粘性測定装置を用いた測定方法について説明する。
測定する場合は、まず、指先セット台31の上に人差し指Mを挿入して乗せ、上から指先押さえ32と遮光カバー33を被せる。また、脈拍センサ120を脈拍を計測できる別の部位にセットする。その状態でスイッチ110をONする。そうすると、制御装置100が一連の動作を実行する。
【0050】
そのときの動作と信号の推移を図6に示す。
スイッチを入れると、まず、予備動作を行い、次いで本番の測定動作を行う。予備動作と本番の測定動作を一つの組として、それを4回繰り返す。図において、一番上の信号は押圧ONの信号、その下は押圧駆動装置50に入力する電流レベルの信号(押圧力に比例)、その下は押圧方向と逆に加える退避信号、その下は受光素子12による検出波形、その下は脈拍を示している。最初の回の前に一度、退避信号をONし、押圧駆動装置50を
初期化する。
【0051】
次に、押圧子51により測定対象の皮膚を軽く叩く予備動作を数回繰り返してから、本番の測定動作として、最大圧まで押圧力を加える。この際、所定の押圧解放状態(本例では、皮膚の表面に対して押圧面が非接触の状態を指すが、皮膚の色が変化しない程度の所定圧力以下で押圧面が皮膚に接触している状態であってもよい)から、予め決められた短時間内(0.5sec以内)に最大圧となるように、押圧子51の硬質の押圧面(光学センサ10の透明板17の表面)を指先の皮膚の表面に局部的に押し当て、それにより皮膚下の毛細血管内の血液を周囲に流出させる。
【0052】
その際、圧迫を加えて毛細血管内の血液量の変化を光学的に測定するタイミングを、被験者の脈拍と同期させる。押圧動作の立ち上げのタイミングT1、T2は、脈拍のピークP1に同期させてもでもよいし、脈拍の谷部P2に同期させてもよい。いずれの場合も、毎回の測定動作において、同じタイミングで行いさえすればよい。
【0053】
そして、押圧動作と共に、押圧面の内部に装備した発光素子11から当該押圧面により押圧している皮膚の表面に光を照射して、その反射光を押圧面の内部に装備した受光素子12で受光し、その受光データを収集する。ここで、圧迫時の最大圧は、被験者の最高血圧以上に設定するのが望ましい。例えば、150mmHg〜300mmHgの範囲に設定する。その理由は、最大血圧以上で押さないと、脈動の影響が出やすいからである。但し、あまり強く押すと、肉の変形が戻らないので、好ましくない。なお、人によって最高血圧は異なるので、圧迫時の最大圧(圧迫圧)を固定的に決めておくのではなく、被験者の最高血圧に応じて圧迫時の最大圧(圧迫圧)を調整できるようにしておくこともできる。そうすれば、無理に大きな圧迫を加えることがなく、被験者に対する負担を減らすこともできる。
【0054】
最大圧による圧迫は、被験者の脈拍以上の間隔にわたり継続して行う。例えば、10秒間位継続して行い、その後、押圧駆動装置50に退避方向の駆動信号を一瞬入力して、皮膚の押圧を解放する。
【0055】
圧迫開始から終了までの受光素子12の受光データを収集した後、押圧解放状態に戻し、それを1回の測定動作として、その測定動作を複数回、所定の時間間隔で行い、複数回(図示例では4回)の測定動作で得た受光素子の受光データを処理することにより、血液の流動性を評価する。複数回のデータを採集するのは、測定の偶然性の影響を排除するためであり、4回の受光データのうち、1回目の測定データは不安定になりやすいため、それを捨てた残り3回分の平均値で評価する。但し、測定の安定性と有効性を判断するため、突飛なデータは除外するものとする。
【0056】
原理的には、次の流れで評価することになる。
例えば、血液量が多いと、光の吸収が大となり、受光光量が少くなる。また、血液量が少いと、光の吸収が小となり、受光光量が多くなる。従って、受光光量が多ければ、光の吸収が少ないということであるから、血液量が少、即ち、圧迫で血が逃げやすい、つまり「血液粘度低」であると評価する。また、受光光量が少なければ、光の吸収が多いということであるから、血液量が多、即ち、圧迫で血が逃げにくい、つまり「血液粘度高」と評価する。
【0057】
この場合、指先の皮膚の表面に圧迫を加えたときの毛細血管内からの血液流出の時間変化に基づいて血流抵抗の評価を行うので、毛細血管よりも更に深い位置にある動脈や静脈等の血流の影響を受けずに、感度良く血液の流動性(主に血液の粘性)を評価することができる。
【0058】
つまり、動脈や静脈は元々血管抵抗が毛細血管に比べて低く、圧迫を加えた時には急速に血液が流出するので、それらの影響を受けずに、毛細血管系に残る血液の流出のみの測定が可能であり、それに基づいて精度良く血液の流動性(主に粘性)を評価することができる。特に皮膚下残存血液量の変化を、ヘモグロビンによる光の吸収を利用して外部から光学的に測定するようにしているので、測定構造の簡略化が図れる。
【0059】
しかも、本実施形態では、硬質の押圧面を皮膚の表面に局部的に押し当てることによって、所定の押圧解放状態から短時間で最大圧に到達させるので、特許文献2に記載の技術のように柔軟な加圧袋体に加圧エアを導入して締め付けるのと違って、瞬間的に皮膚の限られた部位に圧迫を加えることができる。従って、血液の流動性を評価する上で有効なバラツキの少ないデータを収集することができて、信頼性の高い血液流動性評価を行うことができる。
【0060】
また、圧迫時の最大圧を被験者の最高血圧以上とするので、体内で自然に行われている血液の循環を部分的に停止させ、圧迫部分にある血管内の血液を周囲に確実に排出させることができ、測定精度の向上に寄与することができる。
【0061】
また、複数回の測定データに基づいて評価を下すので、それだけバラツキの少ない精度の高い評価を行うことができる。
【0062】
また、測定動作の前に予備の押圧動作(複数回の軽い叩き動作)を行うので、測定者の緊張をほぐすことができ、被験者に心理的な準備を促すことができる。つまり、急な押圧による驚きを少しでも軽減する効果がある。但し、叩く回数が多すぎたり、叩く強さが強すぎると、血の巡りが良くなることにより、逆に測定データが変わってしまうおそれがあるので、叩く回数や強さは実験値等に応じて設定するのがよい。
【0063】
また、叩き動作により、押圧箇所の皮膚の自然状態への戻りを促進する効果が得られ、測定データのバラツキの軽減に寄与することができる。即ち、人間の皮膚は少しの圧力でも変形し、元に戻るのに時間がかかる。変形量が大きいほど(測定動作時には変形が大きくなる)、戻り時間は大きくなる。変形している皮膚面は、そうでないときと、光の反射状態が異なるため、血液流動特性の測定データが異なってくる。そこで、データの再現性を増すためには、できるだけ皮膚の変形が無くなった状態で測定するのがよい。皮膚の変形は、再度変形しない程度の軽さで複数回叩くと戻りやすい。従って、本発明のように測定前に軽く皮膚面を叩くようにすることにより、測定データの再現性を高めることができる。
【0064】
また、この予備動作の際に、皮膚に押圧面が接触して軽く圧迫を加えるので、そのときの反射光の強度を予備測定して、本測定時の信号増幅ゲインを調整するのに役立てることもできる。
【0065】
また、この予備動作を、押圧駆動系統の円滑動作の準備運動とすることができる。特に押圧駆動系統にエアシリンダを使用した場合、長時間不使用状態にあると動作が安定しない場合があり、それを防止するために予備動作を役立てることができる。
【0066】
また、本実施形態では、太い動脈のない指先の特に骨のない部分を測定対象部位とするので、脈動の影響を受けにくい毛細血管の血流抵抗を測定することができるし、透明板17の平坦な表面により皮膚の表面を押圧するので、皮膚色の変化を精度よく光学的に捉えることができる。また、光学センサ10の光の届く深さを制限しているので、皮膚下の毛細血管より深い位置にある動脈等の血流の影響を極力排することができて、高感度に血液
の流動性を評価することができる。
【0067】
また、脈拍に同期して測定動作を行うので、脈動による測定結果のバラツキを抑制できる。つまり、毛細血管を通過する血液は心拍(脈拍)に同期した動きを持っており、指を押圧した時は、指の心臓側に近い血管では血圧に逆らって血液が戻されることになるので、血圧の高いときと低いときでは血液の逃げる量が違ってくる。このため、血圧の高くなる脈の立ち上がりのときと、血圧の低くなる脈の立ち下がりのときとで、血液の逃げる量に違いが出る。従って、測定の再現性を高めるためには、常に脈拍に同期したタイミングで押圧と解放を行うのがよく、そうすることにより、測定結果から脈動に伴う血管内圧の変動成分を除去することができ、それにより測定結果のバラツキが軽減し、測定精度を高めることができる。
【0068】
なお、光学センサ10を取り付けた部分を首振りできる構造にすることで、指の表面に真っ直ぐに押圧面が当たるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施形態の血液粘性測定装置(血液の流動性評価装置)の原理説明図で、(a)は指先と光学センサの関係を示す側面図、(b)は光学センサを指先の皮膚に押圧させたときの状態を示す断面図である。
【図2】同装置の制御系の概略構成を示すブロック図である。
【図3】同装置の機械的な構成を示す側面図である。
【図4】同装置の指先挿入側から見た正面図である。
【図5】同装置における光学センサの詳細構成を示し、(a)は平面図、(b)は(a)のVb−Vb矢視断面図、(c)は(a)のVc−Vc矢視断面図である。
【図6】同装置における測定動作の内容を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0070】
10 光学センサ
11 発光素子
12 受光素子
17 透明板
31 指先セット台
50 押圧駆動装置
51 押圧子
100 制御装置
113 血液粘性演算回路(演算手段)
114 表示器(表示手段)
120 脈拍センサ
M 指先

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の所定部位の皮膚の表面に圧迫を加えることにより、皮膚下の毛細血管内の血液を周囲に流出させると共に、前記所定部位の皮膚に光を照射してその光の吸収度合いを計測することにより、前記毛細血管内の血液量の変化を光学的に測定し、前記圧迫を加えてからの毛細血管内の血液量の時間変化を求めることにより血液の流動性を評価する血液の流動性評価方法において、
前記皮膚の表面に圧迫を加える際に、所定の押圧解放状態から、予め決められた短時間内に最大圧となるように、押圧子の硬質の押圧面を皮膚の表面に局部的に押し当て、それにより皮膚下の毛細血管内の血液を周囲に流出させると共に、前記押圧面の内部に装備した発光素子から当該押圧面により押圧している皮膚の表面に光を照射して、その反射光を前記押圧面の内部に装備した受光素子で受光し、その受光データに基づいて血液の流動性を評価することを特徴とする血液の流動性評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の血液の流動性評価方法であって、
前記圧迫時の最大圧を被験者の最高血圧以上とすることを特徴とする血液の流動性評価方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の血液の流動性評価方法であって、
前記最大圧による圧迫を被験者の脈拍以上の間隔にわたり継続して行い、圧迫開始から終了までの前記受光素子の受光データを収集した後、前記押圧解放状態に戻し、それを1回の測定動作として、その測定動作を複数回、所定の時間間隔で行い、複数回の測定動作で得た受光素子の受光データを処理することにより、血液の流動性を評価することを特徴とする血液の流動性評価方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の血液の流動性評価方法であって、
前記測定動作の前に、前記押圧子により測定対象の皮膚を軽く叩く予備動作を数回繰り返すことを特徴とする血液の流動性評価方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の血液の流動性評価方法であって、
前記測定のための圧迫を加えるべき皮膚の表面が、
手の指先の先端の骨のない部分の腹側の部分であり、指の軸線に対して傾斜した先端面であることを特徴とする血液の流動性評価方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の血液の流動性評価方法であって、
前記押圧子の押圧面が透明板の平坦な表面で構成されており、その透明板の内面側に前記発光素子と受光素子とが配設されていることを特徴とする血液の流動性評価方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の血液の流動性評価方法であって、
前記発光素子と受光素子の相互位置及び照射する光の波長を、皮膚下の毛細血管にその光が到達するものの、更に深い位置にある細動脈等の血管には到達しないように設定することを特徴とする血液の流動性評価方法。
【請求項8】
被験者の所定部位の皮膚の表面を押圧する押圧子と、
押圧および押圧を解放するために前記押圧子を前記皮膚の表面に略垂直に接近離間する方向に直線移動させる押圧駆動装置と、
前記押圧子に装備され、前記皮膚の表面を押圧する押圧面を構成する透明板を前面に有するケースの内部に、前記押圧面にて押圧している皮膚の表面に光を照射する発光素子と皮膚の表面からの反射光を受光する受光素子とを収容した光学センサと、
前記受光素子の受光データに基づいて皮膚下の毛細血管内の血液量の時間変化を算出す
る演算手段と、
該演算手段による演算結果に基づく血液の流動性の評価内容を表示する表示手段と、
を備えることを特徴とする血液の流動性評価装置。
【請求項9】
請求項8に記載の血液の流動性評価装置であって、
前記測定のための押圧を加えるべき皮膚の表面を、手の指先の先端の骨のない部分の腹側の部分の指の軸線に対して傾斜した先端面とし、そのために被験者の手の1本の指先を遮光状態でセットすることのできる指先セット台を有すると共に、
該指先セット台にセットされた前記指先の先端の骨のない部分の腹側の部分の指の軸線に対して傾斜した先端面に向けて、前記押圧子が接近離間するように前記押圧駆動装置が前記セットされる指の軸線に対して斜めの角度を持って装備されていることを特徴とする血液の流動性評価装置。
【請求項10】
請求項9に記載の血液の流動性評価装置であって、
測定動作を実行するために前記押圧駆動装置と前記発光素子および受光素子並びに前記演算手段を制御し、前記指先に対する最大圧での押圧を被験者の脈拍以上の間隔にわたり継続して行い、押圧開始から終了までの前記受光素子の受光データを収集した後、押圧解放状態に戻し、それを1回の測定動作として、その測定動作を複数回、所定の時間間隔で行い、複数回の測定動作で得た受光素子の受光データを前記演算手段に処理させて、血液の流動性を評価する制御装置を備えることを特徴とする血液の流動性評価装置。
【請求項11】
請求項10に記載の血液の流動性評価装置であって、
前記制御装置が前記押圧駆動装置を制御することにより、前記各測定動作の前に、前記押圧子により測定対象の皮膚を軽く叩く予備動作を数回繰り返すことを特徴とする血液の流動性評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−161492(P2008−161492A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−355164(P2006−355164)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000231590)日本精密測器株式会社 (64)
【Fターム(参考)】