説明

血液検査装置

【課題】凝集物を考慮した上で、血液の特性を表す指標を求められるようにする。
【解決手段】血液検査装置1は、流路部25を通過する血液を撮影するTVカメラ3と、コンピューター7と、を備える。コンピューター7は、TVカメラ3によって撮影された画像の中の所定の解析領域Aの総面積S_allを算出し、解析領域Aの中の赤血球の像が占める総面積S_redを算出し、解析領域Aの中の凝集物の像が占める総面積S_aggを算出し、総面積S_redを総面積S_allと総面積S_aggとの差で除して得られる指標αを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康に対する関心の高まりとともに、健康のバロメータとして血液の特性(流動性、酸素運搬能及び凝集性等)が注目されるようになっている。この血液の特性は、血球速度或いは血球数といった指標を求めることで定量化される。血液の特性を表す指標として、ヘマトクリット値がある。ヘマトクリット値は、血液中に占める血球の容積の割合を示す数値であって、貧血検査などに利用される。ヘマトクリット値の測定方法として、ミクロヘマトクリット法が一般に用いられる。ミクロヘマトクリット法は、ガラス製の毛細管に血液を入れて、血液の赤色部分(血球成分)と透明な部分を遠心分離した後、毛細管内における赤色部分の長さを測定する方法である。この赤色部分には白血球も含まれているが、白血球の数が赤血球の数よりも少ないため、赤色部分の容積を赤血球の容積として測定している。
【0003】
一方、遠心分離法を用いず、血液を微細流路に流した状態で血流を撮影し、その撮影画像を解析することで血球種の判別をすることも知られている。例えば、特許文献1に記載されているように、赤血球の色相範囲を算出し、撮影画像の色相を識別することで赤血球を判別する方法が知られている。また、特許文献2に記載されているように、撮影画像の中から血球滞留部(赤血球、白血球及び血小板が滞留した領域)のエッジを抽出し、そのエッジに囲まれた領域の総面積を求めることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2010/092727
【特許文献2】特開2009−276271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に記載された方法では、凝集物が考慮されていない。凝集物は血小板等が粘着することによってできたものであり、凝集物の量については個人差があることから、凝集物が多い血液サンプルの場合、画像中の所定の解析領域全体に占める凝集物の割合が大きくなる。そのため、本来解析領域内に流入するはずであった赤血球が凝集物によって邪魔されて、解析領域内に流入することができず、真の赤血球数・赤血球量よりも少ない赤血球量・赤血球数を測定することになる。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、凝集物を考慮した上で、血液の特性を表す指標を求められるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するための請求項1に係る発明は、
流路部を通過する血液を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段によって撮影された画像の中の所定の解析領域の総面積を算出する解析領域面積算出手段と、
前記所定の解析領域の中の赤血球の像が占める総面積を算出する赤血球像面積算出手段と、
前記所定の解析領域の中の凝集物の像が占める総面積を算出する凝集物像面積算出手段と、
前記赤血球像面積算出手段によって算出された総面積を、前記解析領域面積算出手段によって算出された総面積と前記凝集物像面積算出手段によって算出された総面積との差で除して得られる指標又はその逆数を算出する指標算出手段と、を備えることを特徴とする血液検査装置である。
【0008】
請求項2に係る発明は、
流路部を通過する血液を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段によって撮影された画像の中の所定の解析領域の総面積を算出する解析領域面積算出手段と、
前記所定の解析領域の中の赤血球の像が占める総面積を算出する赤血球像面積算出手段と、
前記所定の解析領域の中の凝集物の像が占める総面積を算出する凝集物像面積算出手段と、
前記凝集物像面積算出手段によって算出された総面積を、前記解析領域面積算出手段によって算出された総面積と前記赤血球像面積算出手段によって算出された総面積との差で除して得られる指標又はその逆数を算出する指標算出手段と、を備えることを特徴とする血液検査装置である。
【0009】
請求項3に係る発明は、
流路部を通過する血液を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段によって撮影された画像の中の所定の解析領域の中の赤血球の像が占める総面積を算出する赤血球像面積算出手段と、
前記所定の解析領域の中の凝集物の像が占める総面積を算出する凝集物像面積算出手段と、
前記凝集物像面積算出手段によって算出された総面積を、前記赤血球像面積算出手段によって算出された総面積で除して得られる指標又はその逆数を算出する指標算出手段と、を備えることを特徴とする血液検査装置である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1〜3に記載の発明によれば、血液中の凝集物を考慮した指標を求めることができる。
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、求められた指標から、血液中の流動成分と赤血球の割合を知ることができ、求められた指標を貧血検査等に正確に利用することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、求められた指標から、血液の凝集のし易さや凝集物の割合や血液の流動のしにくさを知ることができる
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、求められた指標から、血液の凝集のし易さと流れやすさのバランスを知ることができる。また、血液の酸素運搬能を知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】血液検査装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】マイクロゲートアレイの断面図である。
【図3】マイクロゲートアレイの流路部の平面図である。
【図4】IV−IV断面図である。
【図5】血液特性の指標を求める際のフローチャートである。
【図6】赤血球の像の総面積を算出する処理の流れを示したフローチャートである。
【図7】凝集物の像の総面積を算出する処理の流れを示したフローチャートである。
【図8】撮影された画像の一例である。
【図9】撮影された画像の中の解析領域の一例である。
【図10】解析領域の中の赤血球を識別できるように表示した画像である。
【図11】解析領域の中の凝集物を識別できるように表示した画像である。
【図12】凝集物を考慮して画像解析により求めた指標と、ミクロヘマトクリット法によって求められたヘマトクリット値との関係を示したグラフである。
【図13】凝集物を考慮せずに画像解析により求めた指標と、ミクロヘマトクリット法によって求められたヘマトクリット値との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0016】
図1は、本発明に係る血液検査装置1の全体構成を示すブロック図である。この図に示すように、血液検査装置1は、血液を供給槽10からマイクロゲートアレイ2に通して排出槽11へ導き、その過程で取得される情報から血液の特性の指標を求めるものである。
【0017】
血液検査装置1は、マイクロゲートアレイ(マイクロチャネルアレイ)2、TVカメラ3、コンピューター7、ディスプレイ8、供給槽10、排出槽11及び複数の溶液びん13,…等を備える。溶液びん13,…には、生理食塩水や生理活性物質などの液体が貯留されている。供給槽10には、血液が貯留されている。排出槽11には、後述の流体制御機器20によって排出された血液が貯留される。
【0018】
血液検査装置1は、流体制御機器20を備える。流体制御機器20は、供給槽10に貯留された血液を所定の圧力でマイクロゲートアレイ2に流し込み、マイクロゲートアレイ2に供給された血液を排出槽11に排出する。具体的には、流体制御機器20は、供給槽10に貯留された血液と溶液びん13,…に貯留された液体を混合して、マイクロゲートアレイ2に供給する。
【0019】
流体制御機器20は、差圧制御部9、バルブ10a、ミクサー12、加圧ポンプ15、減圧ポンプ16及び圧力センサE1,E2等を有する。
【0020】
ミクサー12は、加圧ポンプ15と溶液びん13,…の間に設けられている。ミクサー12が溶液びん13,…から加圧ポンプ15までの流路を選択的に開閉することによって、溶液びん13,…の液体が加圧ポンプ15に送液されるようになる。
【0021】
加圧ポンプ15は、ミクサー12とマイクロゲートアレイ2の間に設けられている。加圧ポンプ15は、溶液びん13,…のうちミクサー12によって選択されたものから液体を吸引して、吸引した液体をマイクロゲートアレイ2に加圧してマイクロゲートアレイ2に送り出す。溶液びん13,…のうち2以上のものが選択された場合には、選択された溶液びん13,…の液体が混合されて、マイクロゲートアレイ2に供給される。
【0022】
バルブ10aが、加圧ポンプ15とマイクロゲートアレイ2の間の流路に設けられているとともに、供給槽10の出口に設けられている。バルブ10aが供給槽10の出口を開くことによって、供給槽10内の血液が供給槽10から流れ出て、供給槽10から流れ出た血液が、加圧ポンプ15からマイクロゲートアレイ2に流れる液体に混合される。
【0023】
減圧ポンプ16は、マイクロゲートアレイ2と排出槽11の間に設けられている。減圧ポンプ16は、液体と混合した血液をマイクロゲートアレイ2から吸引して、排出槽11に排出する。これにより、マイクロゲートアレイ2内の血液が減圧される。
【0024】
圧力センサE1は、マイクロゲートアレイ2の上流側に設けられている。具体的には、圧力センサE1は、バルブ10aとマイクロゲートアレイ2の間に設けられている。圧力センサE1は、マイクロゲートアレイ2の上流側の圧力P1を検出し、その検出圧力P1を差圧制御部9に出力する。
【0025】
圧力センサE2は、マイクロゲートアレイ2の下流側に設けられている。具体的には、圧力センサE2は、マイクロゲートアレイ2と減圧ポンプ16の間に設けられている。圧力センサE2は、マイクロゲートアレイ2の下流側の圧力P2を検出し、その検出圧力P2を差圧制御部9に出力する。
【0026】
差圧制御部9は、加圧ポンプ15及び減圧ポンプ16を制御する。加圧ポンプ15及び減圧ポンプ16が差圧制御部9によって制御されることによって、マイクロゲートアレイ2の上流側の圧力と下流側の圧力の差圧が調整され、マイクロゲートアレイ2に供給される血液の流量が所定量に調整される。具体的には、差圧制御部9は、圧力センサE1,E2から検出圧力P1,P2をフィードバックして、検出圧力P1,P2に基づいて加圧ポンプ15及び減圧ポンプ16をフィードバック制御することによってマイクロゲートアレイ2の上流側の圧力と下流側の圧力の差圧を所定値に調整する。なお、差圧制御部9がコンピューター7に組み込まれていてもよい。
【0027】
シーケンス制御部17は、ミクサー12、差圧制御部9及びバルブ10aの統合制御をする。例えば、シーケンス制御部17は、ミクサー12、差圧制御部9及びバルブ10aの順序制御を行う。なお、シーケンス制御部17がコンピューター7に組み込まれてもよい。
【0028】
図1に示された流体制御機器20の構成は一例であり、流体制御機器20が供給槽10内の血液をマイクロゲートアレイ2に供給することによって、供給槽10からマイクロゲートアレイ2を経由して排出槽11までの血液の流れを発生させるのであれば、流体制御機器20の構成は図1に示すものに限らない。例えば、減圧ポンプ16を省略し、供給槽10内の血液が加圧ポンプ15及びバルブ10aによってマイクロゲートアレイ2に供給されるものとしてもよい。また、加圧ポンプ15を省略し、供給槽10内の血液が減圧ポンプ16及びバルブ10aによってマイクロゲートアレイ2に供給されるものとしてもよい。また、供給槽10に貯留された血液が生理食塩水や生理活性物質等の液体と混合されていれば、ミクサー12、溶液びん13及び加圧ポンプ15を省略し(必要に応じて減圧ポンプ16を省略してもよい)、バルブ10aの代わりに供給ポンプを設置し、供給槽10に貯留された血液がその供給ポンプによってマイクロゲートアレイ2に供給されてもよい。
【0029】
マイクロゲートアレイ2は、供給槽10から供給された血液を流通させる複数のゲート25a,…(図3参照)を有する。以下、図2を参照して、マイクロゲートアレイ2について具体的に説明する。図2は、マイクロゲートアレイ2の断面図である。
【0030】
図2に示すように、マイクロゲートアレイ2は、ベース板21、シリコン単結晶基板22,22、外枠23及びガラス平板24等を有する。
ベース板21は、略平板状に形成されているとともに、導入流路21a及び排出流路21bを有する。導入流路21a及び排出流路21bはベース板21の内部に形成されている。導入流路21aの一端がベース板21の周側面において開口し、導入流路21aの他端がベース板21の上面中央部で開口し、導入流路21aがベース板21の周側面からベース板21の上面中央部まで連通する。導入流路21aの一端がチューブを介してバルブ10aに連通している。排出流路21bの一端がベース板21の上面の縁近傍において開口し、排出流路21bの他端がベース板21の周側面において開口し、排出流路21bがベース板21の上面の縁近傍からベース板21の周側面で連通している。排出流路21bの他端がチューブを介して減圧ポンプ16に連通している。
【0031】
シリコン単結晶基板22,22は、互いに離れてベース板21の上面に並設されている。この2つのシリコン単結晶基板22,22の間の隙間22cには、ベース板21の導入流路21aの他端が開口している。また、シリコン単結晶基板22,22の上面には、隆起部22aが凸設されている。隆起部22aは、シリコン単結晶基板22,22の並設方向(Y方向)及びシリコン単結晶基板22,22の厚み方向(上下方向:Z方向)に対して垂直な方向(図2中のX方向:図2の紙面に垂直な方向)に延在している。
【0032】
外枠23は、シリコン単結晶基板22,22の周囲を囲うように枠状に形作られている。外枠23は、ベース板21の上面の縁部分に固定されている。外枠23とシリコン単結晶基板22,22とが離れており、外枠23とシリコン単結晶基板22,22の間には隙間22dが設けられ、隙間22dにベース板21の排出流路21bの一端が開口している。
【0033】
ガラス平板24は、平板状に形成されている。ガラス平板24が外枠23を塞ぐようにして外枠23の上面に固定され、ガラス平板24とベース板21が外枠23により間隔を空けて対向している。また、ガラス平板24の下面と隆起部22aの上面との間には、微細な流路群の流路部25が形成されている。
【0034】
図3は、流路部25を上から見た平面図であり、図4は、図3に示されたIV−IVに沿った面を矢印方向に見て示した断面図である。図3及び図4に示すように、整流素子である複数の六矩形状の土手部22b,…が隆起部22aの上面に凸設され、これら土手部22b,…が隆起部22aの幅方向(Y方向)中央部において所定の間隔を空けてX方向に並列されている。隆起部22aの上面はガラス平板24から離れており、土手部22b,…がガラス平板24に当接している。これにより、隆起部22aの上面の上に流路部25が形成されている。流路部25は、土手部22b,…の間に形成されているとともに並列された複数のゲート25a,…と、ゲート25a,…よりも隙間22c側(図3中の上側)に形成された空間である上流テラス25bと、ゲート25a,…よりも隙間22cの反対側(図3中の上側)に形成された空間である下流テラス25cとから構成されている。本実施形態においては、ゲート25aの幅tは、赤血球の血球径(約8μm)よりも狭く形成されている。また、特に限定はされないが、上流テラス25b、ゲート25a、下流テラス25cにおける隆起部22a幅方向(図中のY方向)の各長さla,lb,lcは、いずれも約30μmに形成されている。
【0035】
以上の構成を具備するマイクロゲートアレイ2においては、供給槽10から導入流路21aを通じて導入された血液は、流路部25を通過した後、排出流路21bを通じて排出槽11へ排出されることとなる。より詳細には、流路部25を流れる血液中の血球、例えば赤血球は、まず上流テラス25bを通過した後、ゲート25aを変形しながら通過し、最後に下流テラス25cを通過することとなる。
【0036】
図1に示すように、撮影手段としてのTVカメラ3は、マイクロゲートアレイ2内の血液の流れを撮影する。このTVカメラ3は、マイクロゲートアレイ2におけるガラス平板24に対向して設置され、流路部25を流れている血液をガラス平板24超しに撮影する。TVカメラ3によって得られた血液画像は、コンピューター7に出力されるとともに、ディスプレイ8に表示されるようになっている。TVカメラ3は、例えばデジタルCCDカメラであり、動画が撮影可能なカメラである。より具体的には、TVカメラ3は、血液の流れを撮影するのに十分な解像度を有した高速カメラである。TVカメラ3が高速カメラであれば、血流が速くても、撮影画像中の血球形状を認識することができる。なお、TVカメラ3が静止画を撮影するカメラであってもよく、その場合、撮影時の露出時間を短くし、シャッタースピードを速くするか、暗所で短時間の閃光で撮影する。また、TVカメラ3が単位時間当たりのフレーム数の少ない低速動画カメラである場合には、血流を遅くする。
【0037】
コンピューター7は、CPU、RAM、ROM及び記憶媒体(例えば、磁気記憶媒体、半導体記憶媒体等)等を有し、ROM又は記憶媒体に記録されたプログラム7aに従って演算処理を行う。具体的には、コンピューター7は、プログラム7aに従って、TVカメラ3から出力された血液画像を解析して血液特性を求める。
ディスプレイ8は、TVカメラ3から出力された血液画像や、コンピューター7によって求められた血液特性等を表示する。
【0038】
続いて、血液検査装置1の動作について、図5を参照して説明する。
図5は、血液の特性の指標を求める際の血液検査装置1の動作順序を表したフローチャートである。
【0039】
この図に示すように、血液が流体制御機器20によってマイクロゲートアレイ2へ流される(ステップS1)。具体的には、最初に、供給槽10へ計測対象の血液を注ぐとともに、必要に応じて溶液びん13へ生理食塩水等を加える。そして、シーケンス制御部17が差圧制御部9を制御することによって、差圧制御部9が加圧ポンプ15及び減圧ポンプ16を動作させるととともに、圧力センサE1,E2の検出圧力P1,P2に基づいて加圧ポンプ15及び減圧ポンプ16をフィードバック制御する。これによりマイクロゲートアレイ2に所定の差圧が加えられる。また、シーケンス制御部17がミクサー12及びバルブ10aを動作させると、供給槽10の血液がマイクロゲートアレイ2に加えられる差圧によってマイクロゲートアレイ2へ流れる。
【0040】
血液がマイクロゲートアレイ2に供給されて、血液が流路部25を通過している時に、TVカメラ3が流路部25における血液を撮影する(ステップS2)。TVカメラ3は撮影した血液画像をコンピューター7に出力し、コンピューター7はその血液画像を入力するとともに、その血液画像をディスプレイ8に表示させる。図8は、ステップS2の処理で撮影された血液画像の一例を示したものである。なお、撮影タイミングは、血液が流路部25に流れ込んだ後であれば、どのようなタイミングでもよい。また、流路部25において血流が発生した後に血流が流体制御機器20によって止められた状態で、TVカメラ3が流路部25における血液を撮影してもよい。
【0041】
次に、図5に示すように、コンピューター7が、ステップS2の処理で撮影された血液画像の中から所定の解析領域Aを抽出する(ステップS3)。具体的には、ステップS2において動画が撮影された場合には、コンピューター7は動画中の所定のフレームの中から解析領域Aを抽出し、ステップS2において静止画が撮影された場合には、その静止画から解析領域Aを抽出する。解析領域Aの位置は、ゲート25a,…の像よりも上流側でもよいし、ゲート25a,…の像よりも下流側でもよい。図9は、抽出された解析領域A内の像を示したものである。なお、TVカメラ3による撮影範囲が解析領域Aである場合、ステップS3における抽出処理を省略する。その場合、解析領域AはTVカメラ3によって撮影された画像の全体となる。
【0042】
次に、図5に示すように、コンピューター7が、抽出した解析領域Aの総面積S_allを算出する(ステップS4)。具体的には、コンピューター7が解析領域A内の画素数を計数し、数えられた画素数が解析領域Aの総面積S_allを表す。
【0043】
次に、コンピューター7は、抽出した解析領域Aの中に含まれる赤血球の像を認識し、解析領域Aの中の赤血球の像が占める総面積S_redを算出する(ステップS5)。図10は、抽出された解析領域A内の像のうち赤血球の像を黒く塗りつぶしたものである。
【0044】
具体的には、コンピューター7は、図6に示すような処理を行うことによって、赤血球の像が占める総面積S_redを算出する。まず、コンピューター7が、ステップS2の処理で撮影された血液画像の中から所定の解析領域Aを抽出する(ステップS51)。ステップS51の処理で抽出した解析領域Aの像と、ステップS3の処理で抽出した解析領域の像は同じである。次に、コンピューター7は、抽出した解析領域Aを所定の閾値で二値化する(ステップS52)。所定の閾値は、赤血球の像の階調値と、赤血球以外の血球種の像の階調値とを仕切るものである。赤血球は、凝集物(血小板が凝集したもの)や白血球よりも輝度が低いから、解析領域Aの二値化処理によって解析領域A内の赤血球の像が黒色の階調値(ゼロ)になり、赤血球以外の部分が白色の階調値(1)になる。二値化処理後、コンピューター7は、抽出した解析領域Aの中から、階調値が所定の閾値以下となる画素の数を計数する(ステップS53)。つまり、コンピューター7は、ステップS52の処理で二値化した像のうち黒の階調値(ゼロ)の画素の数を計数する。数えられた画素数は、赤血球の像が占める総面積S_redを表す。なお、コンピューター7は、解析領域Aの中から、階調値が赤血球の色相範囲(赤色の色相範囲)に収まる画素の数を数えることによって、赤血球の像が占める総面積S_redを算出してもよい。
【0045】
図5に示すように、コンピューター7は、赤血球の像が占める総面積S_redの算出後、抽出した解析領域A内に含まれる凝集物の像を認識し、解析領域Aの中の凝集物の像が占める総面積S_aggを算出する(ステップS6)。図11は、抽出された解析領域A内の像のうち凝集物の像を黒く塗りつぶしたものである。
【0046】
具体的には、コンピューター7は、図7に示すような処理を行うことによって、凝集物の像が占める総面積S_aggを算出する。まず、コンピューター7が、ステップS2の処理で撮影された血液画像の中から解析領域Aを抽出する(ステップS61)。ステップS61の処理で抽出した解析領域Aの像と、ステップS3の処理で抽出した解析領域の像は同じである。次に、コンピューター7は、抽出した解析領域Aの像に対し、垂直方向のSobelフィルター及び水平方向のSobelフィルターをかけることで、解析領域A内に含まれる血球像(赤血球の像、白血球の像及び凝集物の像)を含む血球滞留部のエッジを抽出する(ステップS62)。そして、コンピューター7は、解析領域Aの像をグレースケール化するとともに、所定の閾値で二値化する(ステップS63)。二値化処理によって、解析領域Aの中の血球滞留部が白色の階調値(1)になり、血球滞留部以外が黒色の階調値(ゼロ)になる。次に、コンピューター7は、二値化した解析領域Aの像をモルフォロジー処理によって膨張伸縮処理し、解析領域Aの中の白色部分の隙間を白色に塗り潰す(ステップS64)。そして、ここまで残った白色部分が血球滞留部としてコンピューター7によって認識される。
【0047】
次に、コンピューター7は、白色となった血球滞留部を赤血球の像、白血球の像及び凝集物の像に判別する(ステップS65)。具体的には、コンピューター7は、ステップS61で抽出した解析領域Aの中の血液滞留部に相当する部分の中から、階調値が所定の閾値以下となる像(又は階調値が赤色の色相範囲なる像)を赤血球の像として判別する。赤血球は凝集物や白血球よりも輝度が低いためである。また、コンピューター7は、ステップS61で抽出した解析領域Aの中の血球滞留部に相当する部分の中から階調値が所定の閾値以上である像であるとともにステップS62で認識したエッジの単位面積当たりの画素数が所定数よりも少ない像を、白血球の像として判別する。白血球は、赤血球よりも輝度が高く、血小板及び赤血球よりも大きいためである。また、コンピューター7は、ステップS61で抽出した解析領域Aの中の血球滞留部に相当する部分の中から階調値が所定の閾値以上である像でるとともにステップS62で認識したエッジの単位面積当たりの画素数が所定数よりも多い像を、凝集物の像として判別する。凝集物を構成する血小板は、赤血球よりも輝度が高く、白血球及び赤血球よりも小さいためである。
【0048】
次に、コンピューター7は、判別した凝集物の像の画素数を計数する(ステップS66)。数えられた画素数は、凝集物の像が占める総面積S_aggを表す。
【0049】
なお、解析領域Aの像の中から赤血球の像、白血球の像及び凝集物の像を判別する方法は、例えば特開平10−48120号公報、特開平10−90163号公報及び特開平10−275230号公報などに記載された方法であってもよい。
【0050】
図5に示すように、コンピューター7は、凝集物の像が占める総面積S_aggの算出後、血液の特性の指標を算出する(ステップS7)。具体的には、次式に示すように、コンピューター7は、総面積S_redを、総面積S_allと総面積S_aggの差で除して得られた指標αを算出する。指標αは、解析領域Aから凝集物を排除した領域のうち、赤血球が占める面積の割合を表す。凝集物の有無や量に影響されることなく、流動成分に対する赤血球の割合を指標αとして算出することができる。なお、コンピューター7は、指標αの逆数、つまり、総面積S_allと総面積S_aggの差を総面積S_redで除して得られた指標1/αを算出してもよい。
【0051】
【数1】

【0052】
また、次式に示すように、コンピューター7は、総面積S_aggを、総面積S_allと総面積S_redの差で除して得られた指標βを算出する。指標βは、解析領域Aから赤血球を排除した領域のうち、凝集物が占める面積の割合を表す。指標βから、血液の凝集のし易さや凝集物の割合や血液の流動のしにくさを知ることができる。なお、コンピューター7は、指標βの逆数、つまり、総面積S_allと総面積S_redの差を総面積S_aggで除して得られた指標1/βを算出してもよい。
【0053】
【数2】

【0054】
また、次式に示すように、コンピューター7は、総面積S_aggを総面積S_redで除して得られた指標γを算出する。指標γは、凝集物と赤血球の比率を表す。指標γから、血液の凝集のし易さと流れやすさのバランスを知ることができる。また、指標γから、血液の酸素運搬能を知ることができる。なお、コンピューター7は、指標γの逆数、つまり、総面積S_redを総面積S_aggで除して得られた指標1/γを算出してもよい。
【0055】
【数3】

【0056】
ステップS7では、コンピューター7が、指標α,β,γ,1/α,1/β,1/γのうち少なくとも一つを算出する。勿論、これらの全てを算出してもよい。
【0057】
次に、コンピューター7は、算出した指標α,β,γ,1/α,1/β,1/γをディスプレイ8に表示させるとともに、算出した指標α,β,γ,1/α,1/β,1/γを記憶媒体に記憶する。そして、血液検査装置1の1回の検査動作が終了する。
【0058】
以上のように、本実施形態によれば、指標α,β,γやそれらの逆数は、総面積S_agg等から求められたものである。従って、凝集物を考慮した血液特性の指標α,β,γ,1/α,1/β,1/γを求めることが出来る。また、指標α,β,γ,1/α,1/β,1/γが凝集物を考慮したものであるから、撮影タイミングにとらわれずにステップS2の撮影を行うことができる。
【実施例1】
【0059】
幾つかの血液について、上述の実施形態に記載された血液検査装置1を用いて指標αを算出するとともに、ヘマトクリット遠心器を用いたミクロヘマトクリット法によってヘマトクリット値を測定した。そして、図12に示すように、測定したヘマトクリット値を縦軸とし、算出した指標αを横軸として、グラフにプロットをした。そして、R二乗平均法によって相関係数Rを求めたら、相関係数Rの値が0.88となった。従って、相関係数Rの値が1に近いから、ヘマトクリット値と指標αの相関性が高いことがわかった。
【0060】
一方、同じ血液について、血液検査装置1によって算出された総面積S_redを総面積_allで除した。そして、図13に示すように、測定したヘマトクリット値を縦軸とし、S_red/S_allを横軸として、グラフにプロットした。そして、R二乗平均法によって相関係数Rを求めたら、相関係数Rの値が0.37となった。相関計数が1に近くないから、ヘマトクリット値とS_red/S_allの相関性が低いことがわかった。
【符号の説明】
【0061】
1 血液検査装置
2 マイクロゲートアレイ
3 TVカメラ(撮影手段)
7 コンピューター(解析領域面積算出手段、赤血球像面積算出手段、凝集物像面積算出手段)
25 流路部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路部を通過する血液を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段によって撮影された画像の中の所定の解析領域の総面積を算出する解析領域面積算出手段と、
前記所定の解析領域の中の赤血球の像が占める総面積を算出する赤血球像面積算出手段と、
前記所定の解析領域の中の凝集物の像が占める総面積を算出する凝集物像面積算出手段と、
前記赤血球像面積算出手段によって算出された総面積を、前記解析領域面積算出手段によって算出された総面積と前記凝集物像面積算出手段によって算出された総面積との差で除して得られる指標又はその逆数を算出する指標算出手段と、を備えることを特徴とする血液検査装置。
【請求項2】
流路部を通過する血液を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段によって撮影された画像の中の所定の解析領域の総面積を算出する解析領域面積算出手段と、
前記所定の解析領域の中の赤血球の像が占める総面積を算出する赤血球像面積算出手段と、
前記所定の解析領域の中の凝集物の像が占める総面積を算出する凝集物像面積算出手段と、
前記凝集物像面積算出手段によって算出された総面積を、前記解析領域面積算出手段によって算出された総面積と前記赤血球像面積算出手段によって算出された総面積との差で除して得られる指標又はその逆数を算出する指標算出手段と、を備えることを特徴とする血液検査装置。
【請求項3】
流路部を通過する血液を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段によって撮影された画像の中の所定の解析領域の中の赤血球の像が占める総面積を算出する赤血球像面積算出手段と、
前記所定の解析領域の中の凝集物の像が占める総面積を算出する凝集物像面積算出手段と、
前記凝集物像面積算出手段によって算出された総面積を、前記赤血球像面積算出手段によって算出された総面積で除して得られる指標又はその逆数を算出する指標算出手段と、を備えることを特徴とする血液検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図12】
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【図13】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−247205(P2012−247205A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116752(P2011−116752)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】