説明

血液浄化器

【課題】選択透過性に優れ、安全性や性能の安定性が高く、特に慢性腎不全の治療に用いる高透水性能を有し、かつプライミング処理後の透水性能発現性に優れ、かつ長期の保存安定性の高い血液浄化器を提供する。
【解決手段】本発明は、少なくとも血液接触側表面がポリマー粒子の集合体からなる中空糸膜が充填されてなる血液浄化器であって、プライミング処理後10分時点の透水率がプライミング処理後24時間経過時の透水率の90%以上である血液浄化器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液適合性に優れ、安全性や性能の安定性が高く、特に血液浄化用等に適したポリスルホン系中空糸膜および血液適合性に優れ、安全性や性能の安定性が高い血液浄化器に関する。
【背景技術】
【0002】
腎不全治療などにおける血液浄化療法では、血液中の尿毒素、老廃物を除去する目的で、天然素材であるセルロース、またその誘導体であるセルロースジアセテート、セルローストリアセテート、合成高分子としてはポリスルホン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリルなどの高分子を用いた透析膜や限外濾過膜を分離材として用いた血液透析器、血液濾過器あるいは血液透析濾過器などの血液浄化器が広く使用されている。特に中空糸膜を分離材として用いた血液浄化器は体外循環血液量の低減、血中の物質除去効率の高さ、さらに血液浄化器生産時の生産性などの利点から重要度が高い。
【0003】
このように血液処理用の中空糸膜は目的に応じて特定の物質を選択的に透過せしめなければならない。その性能は、中空糸膜の素材、孔の形状あるいは分布状態、膜厚などによって決定される。ところで、近年、透析患者の長期合併症と関連し、透析アミロイドーシスの原因物質と考えられるβ2−ミクログロブリン(β2−MG、分子量11800)、掻痒感、高脂血症と関係すると考えられる副甲状腺ホルモン(分子量約9500)、貧血に関与する赤芽球抑制因子、関節痛、骨痛に関わると考えられる分子量2〜4万の物質など、比較的中高分子量領域の有害物質の除去の必要性が叫ばれるようになった。一方、人体に必要なアルブミン(分子量66000)の漏出は極力抑えなければならない。すなわち、分子量4〜5万以下の物質の透過性に優れ、分子量6万以上の物質の阻止率のよい分画分子量のシャープな選択透過性膜が望まれる。具体的にはβ2−MGのクリアランスが50mL/min.以上かつアルブミンの漏洩量が4g/4hr以下が望ましい。より好ましくはβ2−MGのクリアランスが60mL/min.以上かつアルブミンの漏洩量が3.5g/4hr以下である。
【0004】
また、中空糸膜表面への非特異的なタンパク吸着や変性あるいは血小板の吸着や活性化などを起さないことである。
【0005】
そのため、血液透析療法に用いられる血液透析器や血液透析ろ過器などの血液浄化器には、透水性が高く、かつ分画分子量特性が上記の要求に応ずるように設計された、優れた物質除去性能を有する高分子中空糸膜が求められている。
【0006】
また、血液が中空糸膜表面と接触することにより生じる血液系の活性化を抑制、低減させ、優れた血液適合性を得るために、膜素材選定、膜構造設計が盛んに検討されている。
【0007】
上記した膜素材の中で透析技術の進歩に最も合致したものとして透水性能が高いポリスルホン系樹脂が注目されている。しかし、ポリスルホン系樹脂単体で半透膜を作った場合は、ポリスルホン系樹脂が疎水性であるために血液との親和性に乏しく、エアロック現象を起こしてしまうため、そのまま血液処理用などに用いることはできない。
【0008】
上記した課題の解決方法として、ポリスルホン系樹脂に親水性高分子を配合して製膜し、膜に親水性を付与する方法が提案されている。例えば、ポリエチレングリコール等の多価アルコールを配合する方法が開示されている(特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開昭61−232860号公報
【特許文献2】特開昭58−114702号公報
【0009】
また、ポリビニルピロリドンを配合する方法が開示されている(例えば、特許文献3、4参照)。
【特許文献3】特公平5−54373号公報
【特許文献4】特公平6−75667号公報
【0010】
しかし、このような材料は合成物であるため、生体にとっては異物と認識され、さまざまな生体反応が起こり得る。たとえば、血液と接触した際には、血小板の付着や白血球の活性化などが起こり、血液適合性が悪いことがある。
【0011】
上記の選択透過性能を維持し、かつ血液適合性を改善する方法として、該中空糸膜の少なくとも血液接触面をポリマー粒子の集合体とする方法が開示されている(例えば、特許文献5〜7参照)。
【特許文献5】特開平7−289866号公報
【特許文献6】特開2002−45662号公報
【特許文献7】特開2003−10322号公報
【0012】
一方、血液浄化器においては、該血液浄化器に充填されている中空糸膜中のポリビニルピロリドンの架橋や滅菌処理を目的として放射線照射処理がなされることがある。しかしながら、放射線照射を行った場合、架橋反応や滅菌作用以外に親水性高分子の一部に変性が引き起こされることがある。すなわち、処理雰囲気中の水や酸素と反応して、酸化状態にある不安定な官能基や部分構造が生成したり、加水分解によって新たな官能基が生成したりする。膜全体における親水性高分子の含有率はたとえ少なくても、その殆どは、相分離によってポリスルホン凝集粒子表面に濃縮されて存在するため、血液に対するこれらの影響は無視できるものではない。その結果、これらの変性部分の物理化学的変化により、膜の抗血栓性が低下することがあった。また、照射後の長期保管中にも変性が続いて、実使用時までに抗血栓性が低下するおそれもあった。
【0013】
例えば、上記課題を解決する方法として、放射線照射された膜において、膜中のカルボキシル基含有量と過酸化物含有量とを一定の範囲に制御すると、抗血栓性に優れ、しかも長期保管しても抗血栓状態を保持できる技術が開示されている(特許文献8参照)。
【特許文献8】特開2000−135421号公報
【0014】
しかしながら、上記特許文献において開示されている血液浄化器は、水充填の状態で放射線照射された、いわゆるウエットタイプの血液浄化器に適用される方法である。該ウエットタイプの血液浄化器は、水充填のため重量は当然大きくなり、輸送や取り扱いが不便であるとか、寒冷地では厳寒期に血液浄化器に充填された水が凍結し中空糸膜の破裂や損傷を与える等の問題を有する。さらに、多量の滅菌水の準備など高コスト化の要因を有している。しかも、中空糸膜をわざわざバクテリアが繁殖しやすい湿潤状態にするため、包装後、滅菌するまでの僅かな時間の間にもバクテリアが繁殖することが考えられる。その結果、このようにして製造された血液浄化器は、完全な滅菌状態を得るまでに長時間を有し、更に高コスト化あるいは安全性の問題に繋がるので好ましくない。該技術は、ラジカル捕捉剤の存在下で放射線照射されており、血液浄化用として使用する場合は、事前に該ラジカル捕捉剤を洗浄除去する操作が必要であるという課題を有する。そこで、乾燥状態のポリスルホン系中空糸膜が装填された、いわゆるドライタイプの血液浄化器で、かつラジカル捕捉剤の非存在下で放射線照射しても前記課題が回避できる方法の確立が強く嘱望されている。
【0015】
また、血液浄化器は人工透析器として使用する場合は、使用前に完全な滅菌処理を施す必要がある。該滅菌処理には、ホルマリン、エチレンオキサイドガス、高圧蒸気滅菌あるいはγ線等の放射線あるいは電子線照射滅菌等が用いられており、それぞれ特有の効果を発揮している。このうち、放射線や電子線照射による滅菌は被処理物を包装状態のまま処理できるとともに、滅菌効果が優れていることもあり、好ましい滅菌方法として採用されている。
【0016】
しかしながら、血液浄化器に使用されている中空糸膜や該中空糸膜の固定に使用されている接着剤等は、放射線照射により劣化することが知られており、劣化を防止しつつ滅菌する方法が提案されている。例えば、中空糸膜を飽和含水率以上の湿潤状態とすることにより、γ線照射により中空糸膜の劣化を抑える方法が開示されている。(特許文献9参照)。しかしながら、該方法は上記特許文献8と同様の課題を有する。
【特許文献9】特公昭55−23620号公報
【0017】
上記の湿潤状態を回避し、かつ放射線照射による劣化を抑制する方法として、中空糸膜にグリセリン、ポリエチレングリコール等の滅菌保護剤を含有させ、乾燥状態でγ線照射する方法が開示されている。(例えば、特許文献10参照)。しかしながら、該方法は中空糸膜に保護剤を含有しているために、中空糸膜の含水率を低く抑えることが難しく、また保護剤のγ線照射による劣化の問題や保護剤を使用直前に洗浄、除去するために手間が掛かる等の問題があった。
【特許文献10】特開平8−168524号公報
【0018】
上記の課題を解決する方法として、半透膜を収容した透析器において、半透膜の自重に対して100%以上の水を抱液させ、該透析器内を不活性ガス雰囲気とした後、γ線照射を行う透析器の製造方法が開示されている。(例えば、特許文献11参照)。しかしながら、該放射線を照射する前の中空糸膜の具備すべき特性や放射線照射による中空糸膜のプライミング性に対する影響に関しては言及されていない。
【特許文献11】特開2001−170167号公報
【0019】
また、上記の課題を解決する方法として、中空糸膜の含水率が5%以下、かつ中空糸膜周辺付近の相対湿度が40%以下の状態で放射線を照射して滅菌する方法が開示されている。(例えば、特許文献12参照)。該方法は上記した課題は解決されており、かつ透析型人工腎臓装置製造承認基準の透析膜の溶出物試験に従って測定された波長220〜350nmにおける紫外線吸光度は基準値の0.1以下を満足している。しかしながら、該特許文献12においては滅菌処理時の中空糸膜の周りの酸素濃度の影響や滅菌処理後の経時的な溶出物の溶出量変化等については何ら言及されていない。
【特許文献12】特開2000−288085号公報
【0020】
また、γ線照射により滅菌を行う方法において、中空糸膜の含水率が10wt%以下の状態でγ線照射を行うことで膜素材の不溶化成分が10wt%以下を達成する方法が開示されている。(例えば、特許文献13参照)。該特許文献には、40%エタノール水溶液で抽出される膜の被処理液接触側面積1m2あたりの親水性高分子の量が2.0mg/m2以下が達成できることが開示されている。しかし、該特許文献においても、γ線照射を実施する場合の中空糸膜の周りの酸素濃度の影響や滅菌処理後の溶出物の経時的な溶出量変化あるいは滅菌処理によるプライミング性に及ぼす影響等については何ら言及されていない。
【特許文献13】特開2001−205057号公報
【0021】
また、酸素による医療用具の基材の劣化を回避する方法として酸素不透過性の材料よりなる包装材料で医療用具を脱酸素剤と共に密封し放射線照射をする方法が知られており、血液浄化器についても開示されている。(例えば、特許文献14〜16参照)。
【特許文献14】特開昭62−74364号公報
【特許文献15】特開昭62−204754号公報
【特許文献16】WO98/58842号パンフレット
【0022】
上記した脱酸素剤を用いた放射線照射における劣化としては、特許文献14では臭気の発生が、特許文献15では基材の強度や透析性能の低下が、特許文献16では基材の強度低下やアルデヒド類の発生が記述されているが、前記した抽出物量の増大に関しては言及されていない。また、放射線照射時の包装袋内の酸素濃度に関しては記述されているが、中空糸膜中の水分の重要性に関しては何ら言及されていない。
【0023】
さらに、上記の脱酸素剤を用いた系で放射線滅菌する方法に用いられる包装袋の素材としては、ガス、特に酸素の不透過性の重要性は記述されているが、湿度の透過性に関しては言及されていない。
【0024】
また、内部に膜保護剤がウエット状または半ウエット状で充填されてなる液体処理器を不活性ガス雰囲気下で放射線滅菌する方法が開示されている(例えば、特許文献17参照)。本特許文献において、不活性ガス雰囲気を作り出す達成手段として脱酸素剤を用いる方法が開示されている。また、膜保護剤として水が列挙されている。一方、半ウエット状態における含水率の下限量に関しては言及されていないが、発明が解決しようとする課題において、「グリセリン、生理食塩水あるいは水が滲み出てきて液体処理器の外壁および包装袋内部に付着し、液体処理器の操作時に手に付着する問題があった」と記述されており、飽和含水率以上であることが示唆される。従って、特許文献9と同様の課題を有した技術であると見なせる。
【特許文献17】特開平8−280795号公報
【0025】
滅菌効果の長期維持を図る目的で、ドライタイプの中空糸膜型血液浄化器を真空包装してγ線を照射して滅菌する方法が開示されている(例えば、特許文献18参照)。しかしながら、γ線照射や保存における中空糸膜の劣化については全く配慮がなされていない。また、中空糸膜の含水率に関しても何ら言及がされていない。
【特許文献18】特開2001−149471号公報
【0026】
さらに、上述のごとく血液浄化治療に用いられるポリスルホン系中空糸膜の製造においてポリビニルピロリドンの溶出を抑制したり、滅菌のためにγ線等の放射線を照射する方法において、該照射時の中空糸膜の含水率や照射雰囲気条件に関しては開示されているものもあるが、該放射線を照射する前の中空糸膜の具備すべき特性や放射線照射による中空糸膜のプライミング性に対する影響に関しては言及されていない。
【0027】
また、各種工業用の水処理等に用いられる液体分離膜を空気透過性が抑制された特定組成のフィルムで包装された液体分離膜の包装体および保存方法が開示されている(例えば、特許文献19参照)。該方法は包装体内に特定溶存酸素濃度の脱酸素水が充填された湿式状態での包装体および保存方法に関するものである。
【特許文献19】特開2004−195380号公報
【0028】
また、中空糸膜の乾燥において、マイクロ波を照射して乾燥する方法が開示されているが、該特許文献では、乾燥時の過酸化水素の生成や乾燥された中空糸膜の保存安定性に関しては配慮がなされていない(例えば、特許文献20〜23参照)。
【特許文献20】特開2003−175320号公報
【特許文献21】特開2003−175321号公報
【特許文献22】特開2003−175322号公報
【特許文献23】特開2004−305997号公報
【0029】
ドライタイプの血液浄化器におけるプライミング時の中空糸膜の濡れ性を向上させるために、種々の検討がなされている。特許文献24には、セルロース系ポリマーからなる血液透析膜において生理食塩水または透析液でプライミングした直後と24時間放置した後のアルブミンの篩い係数の比をSCalb(24hr)/SCalb(0hr)≧1.2とする技術が開示されている。該特許文献に開示された技術においては、プライミング処理直後と24時間後の性能の乖離が大きすぎるために性能および品質の安定した血液浄化器を提供することができない可能性がある。
【特許文献24】特開2004−313359号公報
【0030】
また、疎水性高分子および親水性高分子よりなる多孔質膜において、疎水性高分子が有する優れた機械的強度を持ちながら、膜全体の水ぬれ性が良い高分子多孔質膜が開示されている。(特許文献25参照)。該特許文献に記載の発明は、疎水性高分子骨格の周囲が、非常に薄い親水性高分子リッチ層で被覆されていることから膜の水ぬれ性は良好であるかもしれないが、ノズル温度が高いことおよび乾燥に通風乾燥を用いていることからもわかるように、長期保存における親水性高分子の劣化分解については全く配慮がなされていない。
【特許文献25】特開2005−58906号公報
【0031】
特許文献26には、脱気した水または人体に無害な物質の水溶液によって、膜を湿潤状態にする工程と、前記湿潤状態を保持した状態で高圧蒸気滅菌を行う滅菌工程とからなる血液浄化用透析器の滅菌方法が開示されている。該特許文献に開示された技術はプライミング操作自体を簡便にすることを目的とするものであって、プライミング処理後の膜の性能発現性や性能安定化に関する技術は含まれていない。
【特許文献26】特開平7−148251号公報
【0032】
特許文献27には、ポリビニルピロリドンを含有するポリスルホン系中空糸膜を用いて作製した血液浄化器において、該中空糸膜からのポリビニルピロリドンの溶出が10ppm以下であり、該中空糸膜を長手方向に10個に分割して、各部位について透析型人工腎臓装置製造承認基準により定められた試験を実施したとき、各部位における抽出液の過酸化水素溶出量が全ての部位で5ppm以下であるドライタイプの中空糸膜が開示されている。しかしながら、該特許文献にはプライミング処理後の中空糸膜の水濡れ性および水濡れ性に関わる性能発現性については一切記載されていない。
【特許文献27】特許3636199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
本発明は、選択透過性に優れ、安全性や性能の安定性が高く、特に慢性腎不全の治療に用いる高透水性能を有し、かつプライミング処理後の透水性能発現性に優れ、かつ長期の保存安定性の高い血液浄化器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0034】
本発明は、少なくとも血液接触面がポリマー粒子の集合体からなる中空糸膜が充填されてなる血液浄化器において、プライミング処理後10分時点の透水率がプライミング処理後24時間経過時の透水率の90%以上であることを特徴とする血液浄化器である。
また、この場合において、上記ポリマー粒子の湿潤状態における平均粒子直径が10〜300nmであることが好ましい。
また、この場合において、上記ポリマー粒子の乾燥状態における平均粒子直径に対する湿潤状態における平均粒子直径の比が1.1以上であることが好ましい。
また、この場合において、中空糸膜がポリスルホン系樹脂およびポリビニルピロリドンからなることが好ましい。
また、この場合において、血液浄化器内の中空糸膜の含水率が600質量%以下であることが好ましい。
また、この場合において、血液浄化器内の中空糸膜を脱気水を用いて含水率5〜600質量%に調整した後、血液浄化器の血液および透析液の出入り口すべてに密栓をした状態で外気および水蒸気を遮断する包装袋で密封して放射線を照射するのが好ましい。
また、この場合において、血液浄化器内の中空糸膜の含水率調整に用いる脱気水が脱酸素水であることが好ましい。
また、この場合において、血液浄化器内の中空糸膜の含水率調整に用いる脱気水が不活性ガス飽和水であることが好ましい。
また、この場合において、脱気水の溶存酸素濃度が0.5ppm以下であることが好ましい。
また、この場合において、血液浄化器の血液および透析液の出入り口すべてを密栓してから少なくとも48時間経過した後、放射線照射することが好ましい。
また、この場合において、放射線照射後の血液浄化器を室温で1年以上保存した後に、血液浄化器より中空糸膜を取り出し、該中空糸膜を長手方向に10個に分割して、各部位について透析型人工腎臓装置製造承認基準により定められた試験を実施した時の中空糸膜の抽出液におけるUV(220〜350nm)吸光度の最大値が0.10以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0035】
本発明の中空糸膜は、内表面(血液接触側表面)の構造や特性が最適化されており、選択透過性および血液適合性に優れている。
また、本発明の血液浄化器はドライタイプであるので、軽い、凍結しない、雑菌が繁殖しにくい等の利点がある。また、本発明の血液浄化器は、プライミング処理後の透水性能発現性に優れており、プライミング処理が短時間で行えるという利点を有する。また、ラジカル捕捉剤が含まれていないので、血液浄化用として使用する場合は、事前に該ラジカル捕捉剤を洗浄除去する操作が不要であるという利点がある。さらに、本発明においては、ドライ状態で、かつラジカル捕捉剤の非存在下で、放射線照射しても放射線照射による中空糸膜の劣化が抑制されるという従来技術では達成しえない効果が発現されるので、該劣化反応により生ずる過酸化水素生成が少なく、本発明の血液浄化器は、長期保存安定性に優れているという利点を有する。例えば、該血液浄化器に装填されているポリスルホン系中空糸膜は、放射線照射を受けても、過酸化水素の生成が抑制されており、該過酸化水素により引き起こされるポリビニルピロリドン等の劣化が抑制されるので、血液浄化器を長期保存しても透析型人工腎臓装置製造承認基準であるUV(220−350nm)吸光度の最大値を0.10以下に維持することができ、血液浄化器を長期保存した場合の安全性を確保できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いる中空糸膜は、ポリスルホン系樹脂およびポリビニルピロリドンから構成されているところに特徴を有する。本発明におけるポリスルホン系樹脂とは、スルホン結合を有する樹脂の総称であり特に限定されないが、例を挙げると
【化1】

【化2】

で示される繰り返し単位をもつポリスルホン樹脂やポリエーテルスルホン樹脂がポリスルホン系樹脂として広く市販されており、入手も容易なため好ましい。
【0037】
本発明に用いられるポリビニルピロリドンは、N−ビニルピロリドンをビニル重合させた水溶性の高分子化合物であり、BASF社より「コリドン」、ISP社より「プラスドン」、第一工業製薬社より「ピッツコール」の商品名で市販されており、それぞれ各種の分子量の製品がある。一般には、親水性の付与効率では低分子量のものが、一方、溶出量を低くする点では高分子量のものを用いるのが好適であるが、最終製品の中空糸膜の要求特性に合わせて適宜選択される。単一の分子量のものを用いても良いし、分子量の異なる製品を2種以上混合して用いても良い。また、市販の製品を精製し、例えば分子量分布をシャープにしたものを用いても良い。
【0038】
本発明においては、過酸化水素含有量が300ppm以下のポリビニルピロリドンを用いてポリスルホン系中空糸膜を製造するのが好ましい。原料として用いるポリビニルピロリドン中の該過酸化水素含有量を300ppm以下にすることで、製膜後の中空糸膜中の過酸化水素溶出量を容易に5ppm以下に抑えることができ、本発明のポリスルホン系中空糸膜の品質安定化が達成できるので好ましい。原料として用いるポリビニルピロリドン中の過酸化水素含有量は250ppm以下がより好ましく、200ppm以下がさらに好ましく、150ppm以下がよりさらに好ましい。
【0039】
上記した原料として用いるポリビニルピロリドン中に存在する過酸化水素が、ポリビニルピロリドンの酸化劣化の引き金となっているものと考えられ、酸化劣化の進行に伴い過酸化水素が爆発的に増加し、さらにポリビニルピロリドンの酸化劣化を促進するものと考えられる。従って、過酸化水素含有量を300ppm以下にするということは、ポリスルホン系中空糸膜の製造工程においてポリビニルピロリドンの酸化劣化を抑える第一の手段である。また、原料段階でのポリビニルピロリドンの搬送や保存時の劣化を抑える手段をとる事も有効であり推奨される。例えば、アルミ箔ラミネート袋を用いて遮光し、かつ窒素ガス等の不活性ガスで封入するとか、脱酸素剤を併せて封入し保存することが好ましい実施態様である。また、該包装体を開封し小分けする場合の計量や仕込みは、不活性ガス置換をして行い、かつその保存についても上記の対策を取るのが好ましい。また、中空糸膜の製造工程においても、原料供給系での供給タンク内を不活性ガスに置換する等の手段をとることも好ましい実施態様として推奨される。また、再結晶法や抽出法で過酸化水素量を低下させたポリビニルピロリドンを用いることも排除されない。
【0040】
本発明の中空糸膜の製造方法は何ら限定されるものではないが、例えば特開2000−300663号公報で知られるような方法で製造できる中空糸膜タイプのものが好ましい。例えば、該特許文献に開示されているポリエーテルスルホン(4800P、住友化学社製)16質量部とポリビニルピロリドン(K−90、BASF社製)5質量部、ジメチルアセトアミド74質量部、水5質量部を混合溶解し、脱泡したものを製膜溶液として、50%ジメチルアセトアミド水溶液を芯液として使用し、これを2重管オリフィスの外側、内側より同時に吐出し、50cmの空走部を経て、75℃、水からなる凝固浴中に導き中空糸膜を形成し、水洗後まきとり、60℃で乾燥する方法が例示できる。
【0041】
本発明におけるポリスルホン系樹脂に対するポリビニルピロリドンの膜中の割合は、中空糸膜に十分な親水性を付与できる範囲であれば良く、ポリスルホン系樹脂が99〜80質量%、ポリビニルピロリドンが1〜20質量%である事が好ましい。ポリスルホン系樹脂に対してポリビニルピロリドンの割合が少なすぎる場合、膜の親水性付与効果が不足する可能性があるため、該割合は1.5質量%以上がより好ましく、2.0質量%以上がさらに好ましく、2.5質量%以上がよりさらに好ましい。一方、該割合が多すぎると、親水性付与効果が飽和し、かつポリビニルピロリドンおよび/または酸化劣化物の膜からの溶出量が増大し、後述するポリビニルピロリドンの膜からの溶出量が10ppmを超える場合がある。したがって、より好ましくは18質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下、よりさらに好ましくは13質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。
【0042】
中空糸膜の膜構造に関しては均一構造に近いスポンジ構造を有するものや、近年、透析効率を向上させる目的で実質的に選択分離を行う緻密層と空隙率が高く膜強度を維持する支持層の組み合わせからなるものがある。
【0043】
しかし、いずれの膜にせよ老廃物の選択透過を決定する因子は主にスポンジ構造、あるいは緻密層の膜構造であり、通常は被処理液と接触する部分に存在する。また、乾燥状態での膜を形成するポリマーの様態は紡糸原液におけるポリマー濃度や孔構造を形成させる相分離を促す溶媒、非溶媒の比率、紡糸口金の温度等によって制御が可能でポリマー粒子の集合体のような膜構造とポリマー同士が線状に絡み合ったような網目状構造を有するものが存在する。本発明では、膜がポリマー粒子の集合体のような膜構造を形成するよう、紡糸原液中のポリマー濃度を曳糸性の限界よりもやや高めに設定した。紡糸原液中のポリマー濃度は、例えばポリエーテルスルホンであれば17質量%以上の設定が好ましい。
【0044】
ポリマー粒子径と物質透過の関係は化学工学の分野で砂利の堆積したところに水を透過させるモデルとしてKozenny−Carmannモデルがよく使用されている。この理論式によると、膜を形成するポリマー粒子径が小さいほど低分子タンパクの除去能が小さくなり、ポリマー粒子径が大きいほど有用タンパクの漏洩量が大きくなる。従って、膜を形成するポリマー粒子径を制御することによって、膜自体の物質透過性能を制御できることになる。通常、示差走査型電子顕微鏡観察により乾燥状態での膜表面構造は観察可能である。
【0045】
しかしながら、電子線を使用して観察される示差走査型電子顕微鏡では、湿潤状態での膜構造観察は不可能であり、膜構造と物質透過性の関連は水溶性の物質透過特性からモデル式によって膜構造を類推することは可能であっても、膜構造を起点として透過性能を制御することは困難であった。また、乾燥状態と比較して湿潤状態ではポリマー鎖の間隙に水分子等が進入していくことにより、膜のポリマー粒子径が膨潤する現象が起こる。
【0046】
本発明者等は、湿潤状態でのポリマー粒子径の測定を可能とする手段として、近年測定方法の可能性展開に富み、多方面で期待されている原子間力顕微鏡を使用することにより評価を行った。原子間力顕微鏡は物質表面の原子間力を検知し、増幅することによって画像化を可能としている。本発明においては、原子間力顕微鏡を用いて乾燥状態での膜構造と湿潤状態での膜構造を観察し、得られた膜構造情報と湿潤時の膜構造変化や物質透過特性、紡糸製膜条件とを比較検討することにより、血液浄化用膜に求められる構造、特性の改良に利用した。
【0047】
湿潤状態におけるポリマー粒子径は、平均直径で10〜300nmであることが好ましい。粒子構造を有することが本発明の特徴の一つであるが、該粒子構造の各粒子はポリスルホン系樹脂とポリビニルピロリドンが混合された見かけ上相溶してなるポリマーアロイ状態のポリマー粒子からなると考えられるので、この単一粒子が凝集することにより形成された凝集粒子の表面にはポリビニルピロリドンがほぼ均一な濃度に濃縮されて存在しているものと推察される。従って、中空糸膜におけるもう一つの代表的な構造である網目構造に比べ、中空糸膜の血液接触側表面の親水性の均一度が高く、血液適合性が向上できたものと推察される。また、平均直径が10nmより小さいと、緻密な膜構造となり目的の分離特性が得られないことがある。したがって、湿潤状態におけるポリマー粒子の平均直径は50nm以上がより好ましく、100nm以上がさらに好ましく、150nm以上がよりさらに好ましい。逆に、平均直径が300nmより大きいと、内表面の凹凸が大きくなり、血液の流れに乱流や滞留が起こり、血液凝固の活性化を誘起してしまう可能性がある。 したがって、湿潤状態におけるポリマー粒子の平均直径は280nm以下がより好ましく、260nm以下がさらに好ましく、240nm以下がよりさらに好ましい。
【0048】
また、湿潤状態でのポリマー平均粒子直径は乾燥状態でのポリマー平均粒子直径と比較して大きいことが好ましい。これは、膜孔内部の流路に媒体としての液体が満たされた場合に効率の良い分画が可能となる。このことから、ポリマー粒子の乾燥状態における平均粒子直径に対する湿潤状態における平均粒子直径の比は1.1倍以上であることが好ましい。該特性付与により前記のタンパク質の選択性のバランス、すなわち、β2−MGに代表される低分子量タンパク質等の不要物質を効率的に除去し、一方では、アルブミンで代表される有用なタンパク質は極力除去しない特性が向上する。治療開始時はタンパク質の透過性を高くしておき、透析の進行による血液の通過によりポリマー粒子の膨潤が進行することによりアルブミンの透過性を低減させることにより上記のタンパク質の選択性のバランスを向上させるという効果が期待できる。すなわち、ポリマー粒子の湿潤膨潤性を利用したタンパク質の選択性向上効果が付与できる。したがって、(湿潤状態のポリマー粒子平均直径)/(乾燥状態のポリマー粒子平均直径)は1.2倍以上がより好ましく、1.3倍以上がさらに好ましく、1.4倍以上がよりさらに好ましい。
【0049】
上記特性を有することにより、高い選択透過性と血液適合性が得られる。
【0050】
上記のポリマー粒子特性は以下の方法で評価した。
(1)サンプル調製
乾燥膜は臨界点乾燥により24hr以上乾燥したものを使用した。これを試料台の上で繊維軸方向に切開し、中空糸膜内表面を露出する形でサンプルとした。湿潤膜は中空糸膜内外に水を通し、これを水中で24hr以上浸積したものを使用した。これを水中に設けた試料台の上で繊維軸方向に切開し、中空糸膜内表面を露出する形でサンプルとした。
(2)測定法
中空糸膜内表面の形態観察は原子間力顕微鏡(AFM)で行った。AFMはSeiko Instruments社製のSPI3800N−SPA300を使用した。湿潤状態での観察は本装置のオプションである、液中観察キットを使用し、純水中で行った。観察中に試料を浸すセルはシャーレセルを使用した。観察モードはDFMモードとした。カンチレバーは長さ450μm、幅60μm、厚さ4μmのSi製矩形型カンチレバーを使用した。カンチレバーはSeiko Instruments社からSi−DF3として市販されているものであり、バネ定数は2N/m程度である。使用するカンチレバーは常に新品で探針先端の汚染がないものを使用した。探針の走査速度は0.25〜1Hzとした。
(3)粒子径測定法
上記測定装置に付属している解析装置を用いて算出した。試料の三次元的なうねりなどを平面化して粒子径測定を行うため、測定後のAFM像は三次元傾斜補正(TILT3)等をかける。場合によってはフラット処理等も必要である。装置付属のソフトに含まれるライン解析処理により、粒子径を決定する。測定する粒子は無作為に選出した120個の粒子であり、異常に大きく見える粒子や異常に小さく見える粒子は測定から除外した。具体的な測定法を図を用いて説明する。図1はライン解析により粒径を決定する粒子の上から見た図である。図2は図1の粒子の断面プロファイルである。各測定点の座標を(x,y,z)とする。zはその測定点における高さである。粒子径は点AC間の距離であるが、ACは粒子の頂点Bを通る線分でなければならない。また、粒子は常に完全な円形とは限らない。点A、Cは頂点Bを通る線分のうち最も長い線分をとるものとする。AC間の距離、すなわち粒子径は以下の式で表される。
D = ((x1−x22+(y1−y221/2
【0051】
Degital Instruments社製のNanoscope等、市販されている装置でも同様の取り扱いができる。
【0052】
上記結果を鋭意検討した結果、中空糸膜を製膜する際に、ポリマー濃度、ノズル温度、中空形成剤組成、乾燥条件の設定により湿潤状態での膜構造を制御できることがわかった。具体的には、ポリマー濃度は16〜23質量%が好ましく、ノズル温度は30〜80℃が好ましい。また、中空形成剤濃度はポリマー濃度が低すぎたり、ノズル温度が高すぎると網目構造になりやすく、逆にポリマー濃度が高すぎたり、ノズル温度が低すぎると曳糸性が低下するため中空糸膜の生産性が低下することがある。中空糸膜を乾燥させる際、湿度が20〜100%RHの気体を通風することで湿潤状態でのポリマー粒子径の制御が達成され、目的に合わせた製膜が可能となった。よって乾燥状態の形態は同一であっても、それらを適当な液中に浸積した際に、湿潤状態でのポリマー粒子径を制御できる手法を見出した。湿度を高くすると湿潤状態と乾燥状態の粒子径の比を大きくすることができ、目的に合わせた透過性能に調整できる。ここで湿潤状態と乾燥状態の粒子径の比(以下膨潤比と称する)は(湿潤状態での平均粒子直径)/(乾燥状態での平均粒子直径)であらわした。
【0053】
また、上記の血液適合性、性能安定性に寄与するのは、主として上記構造を有した血液接触側の表面最表層のポリビニルピロリドンであると考えられる。本発明の血液浄化膜において、血液接触側の表面最表層のポリビニルピロリドンの含有率は好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜40質量%、さらに好ましくは15〜40質量%である。親水性高分子含有率がこれより低くても高くても、血液成分の過剰な吸着を招く可能性がある。また、ポリビニルピロリドン含有率がこれよりも高いと、血液との接触で多くのポリビニルピロリドンが溶出する可能性があり、安全性の観点から問題となることがある。
【0054】
本発明においては、中空糸膜よりのポリビニルピロリドンの溶出が10ppm以下で、かつ過酸化水素の溶出が5ppm以下であることが好ましい。
【0055】
ポリビニルピロリドンの溶出量が10ppmを超えた場合は、この溶出するポリビニルピロリドンによる長期透析時の副作用や合併症が起こる可能性がある。該特性を満足させる方法は限定無く任意であるが、例えば、ポリスルホン系樹脂に対するポリビニルピロリドンの割合を上記した範囲にしたり、中空糸膜の製膜条件を最適化する等により達成できる。より好ましいポリビニルピロリドンの溶出量は8ppm以下、さらに好ましくは6ppm以下、よりさらに好ましくは4ppm以下である。該ポリビニルピロリドンの溶出量は、透析型人工腎臓装置製造承認基準の溶出試験法に準じた方法で抽出された抽出液を用いて定量し求めたものである。すなわち、乾燥状態の中空糸膜から任意に中空糸膜を取り出し1.0gをはかりとる。これに100mlのRO水を加え、70℃で1時間抽出を行うことにより得られた抽出液について定量する。
【0056】
該ポリビニルピロリドンの溶出量を減ずる方策は、限定無く任意であるが、例えば、中空糸膜におけるポリスルホン系樹脂に対するポリビニルピロリドンの割合や中空糸膜の製膜条件を最適化する等により達成できるが、特に洗浄方法の最適化が重要である。
【0057】
本発明においては、ポリスルホン系中空糸膜からの過酸化水素の溶出量は5ppm以下であることが好ましい。4ppm以下がより好ましく、3ppm以下がさらに好ましい。該過酸化水素の溶出量が5ppmを超えた場合は、前記したように該過酸化水素によるポリビニルピロリドンの酸化劣化のために保存安定性が悪化し、例えば、長期保存した場合にポリビニルピロリドンの溶出量が増大することがある。保存安定性としては、該ポリビニルピロリドンの溶出量の増加が最も顕著な現象であるが、その他、ポリスルホン系高分子の劣化が引き起こされて中空糸膜が脆くなるとか、モジュール組み立てに用いるポリウレタン系接着剤の劣化を促進しウレタンオリゴマー等の劣化物の溶出量が増加し、安全性の低下に繋がる可能性がある。長期保存における過酸化水素の酸化作用により引き起こされる劣化起因の溶出物量の増加は透析型人工腎臓装置製造承認基準により設定されているUV(220−350nm)吸光度の測定により評価できる。
【0058】
過酸化水素の溶出量も透析型人工腎臓装置製造承認基準の溶出試験法に準じた方法で抽出された抽出液を用いて定量したものである。
【0059】
本発明においては、前記した中空糸膜の長手方向に10個に分割し、各々について測定した時の過酸化水素の溶出量が全ての部位で5ppm以下であることが好ましい実施態様である。先述したように、過酸化水素は中空糸膜の特定部位に存在しても、その個所より中空糸膜素材の劣化反応が開始され中空糸膜の全体に伝播していくため、血液浄化器と用いられる中空糸膜の長さ方向の存在量が全領域に渡り、一定量以下を確保する必要がある。すなわち、特定部位の過酸化水素により開始されたポリビニルピロリドンの酸化劣化が連鎖的に中空糸膜の全体に広がって行き、劣化により過酸化水素量がさらに増大すると共に、劣化したポリビニルピロリドンは分子量が低下するために、中空糸膜より溶出し易くなる。この劣化反応は連鎖的に進行する。従って、該中空糸膜は長期保存すると、過酸化水素やポリビニルピロリドンの溶出量が増大し血液浄化器用として使用する場合の安全性の低下に繋がることがある。
【0060】
過酸化水素の溶出量を上記の規制された範囲に制御する方法としては、例えば、原料として用いるポリビニルピロリドン中の過酸化水素量を300ppm以下にすることが有効な方法であるが、該過酸化水素は上記した中空糸膜の製造過程でも生成するので、該中空糸膜の製造条件を厳密に制御する必要がある。特に、該中空糸膜を製造する際の紡糸溶液の溶解工程および乾燥工程での生成の寄与が大きいので、乾燥条件の最適化が重要である。特に、この乾燥条件の最適化は、中空糸膜の長手方向の溶出量変動を小さくすることに関して有効な手段となる。
【0061】
紡糸溶液の溶解工程に関しては、例えば、ポリスルホン系樹脂、ポリビニルピロリドン、溶媒からなる紡糸溶液を撹拌、溶解する際、ポリビニルピロリドン中に過酸化水素が含まれていると、溶解タンク内に存在する酸素の影響および溶解時の加熱の影響により、過酸化水素が爆発的に増加することがわかった。したがって、溶解タンクに原料を投入する際には、予め不活性ガスにて置換された溶解タンク内に原料を投入するのが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴンなどが好適に用いられる。また、溶媒、場合によっては非溶媒を添加することもあるが、これら溶媒、非溶媒中に溶存している酸素を不活性ガスで置換して用いるのも好適な実施態様である。
【0062】
また、過酸化水素の発生を抑制する他の方法として、製膜溶液を溶解する際、短時間に溶解することも重要な要件である。そのためには、通常、溶解温度を高くすることおよび/または撹拌速度を上げればよい。しかしながら、そうすると温度および撹拌線速度、剪断力の影響によりポリビニルピロリドンの劣化・分解が進行してしまう。事実、発明者らの検討によれば、製膜溶液中のポリビニルピロリドンの分子量は溶解温度の上昇に従い、分子量のピークトップが分解方向に移動(低分子側にシフト)したり、または低分子側に分解物と思われるショルダーが現れる現象が認められた。以上より、原料の溶解速度を向上させる目的で温度を上昇させることは、ポリビニルピロリドンの劣化分解を促進し、ひいては中空糸膜中にポリビニルピロリドンの分解物をブレンドしてしまうことから、例えば、得られた中空糸膜を血液浄化に使用する場合、血液中に分解物が溶出するなど、製品の品質安全上、優れたものとはならなかった。そこで、ポリビニルピロリドンの分解を抑制する目的で低温で原料を混合することを試みた。低温溶解とはいっても氷点下となるような極端な条件にするとランニングコストもかかるため、通常5℃以上70℃以下が好ましい。60℃以下がより好ましい。しかし、単純に溶解温度を下げると溶解時間の長時間化によるポリビニルピロリドン劣化分解、操業性の低下や設備の大型化を招くことになり工業的に実施する上では問題がある。特に、ポリビニルピロリドンは低温溶解をしようとするとポリビニルピロリドンが継粉になり、それ以上溶解することが困難となったり、均一溶解に長時間を要するという課題を有する。
【0063】
低温で時間をかけずに溶解するための溶解条件について検討を行った結果、溶解に先立ち紡糸溶液を構成する成分を混練した後に溶解させることが好ましいことを見出し本発明に到達した。該混練はポリスルホン系高分子、ポリビニルピロリドンおよび溶媒等の構成成分を一括して混練しても良いし、ポリビニルピロリドンとポリスルホン系樹脂とを別個に混練しても良い。前述のごとくポリビニルピロリドンは酸素との接触により劣化が促進され過酸化水素の発生につながるので、該混練時においても不活性ガスで置換した雰囲気で行う等、酸素との接触を抑制する配慮が必要であり別ラインで行うのが好ましい。混練はポリビニルピロリドンと溶媒のみとしてポリスルホン系樹脂は予備混練をせずに直接溶解タンクに供給する方法も本発明の範疇に含まれる。
【0064】
該混練は溶解タンクと別に混練ラインを設けて実施し混練したものを溶解タンクに供給してもよいし、混練機能を有する溶解タンクで混練と溶解の両方を実施しても良い。前者の別個の装置で実施する場合の、混練装置の種類や形式は問わない。回分式、連続式のいずれであっても構わない。スタティックミキサー等のスタティックな方法であっても良いし、ニーダーや攪拌式混練機等のダイナミックな方法であっても良い。混練の効率より後者が好ましい。後者の場合の混練方法も限定なく、ピンタイプ、スクリュータイプ、攪拌器タイプ等いずれの形式でもよい。スクリュータイプが好ましい。スクリューの形状や回転数も混練効率と発熱とのバランスより適宜選択すれば良い。一方、混練機能を有する溶解タンクを用いる場合の溶解タンクの形式も限定されないが、例えば、2本の枠型ブレードが自転、公転するいわゆるプラネタリー運動により混練効果を発現する形式の混練溶解機が推奨される。例えば、井上製作所社製のプラネタリュームミキサーやトリミックス等が本方式に該当する。
【0065】
混練時のポリビニルピロリドンやポリスルホン系樹脂等の樹脂成分と溶媒との比率も限定されない。樹脂/溶媒の質量比で0.1〜3が好ましい。0.5〜2がより好ましい。
【0066】
前述のごとくポリビニルピロリドンの劣化を抑制し、かつ効率的な溶解を行うことが本発明の技術ポイントである。従って、少なくともポリビニルピロリドンが存在する系は窒素雰囲気下、70℃以下の低温で混練および溶解することが好ましい実施態様である。ポリビニルピロリドンとポリスルホン系樹脂を別ラインで混練する場合にポリスルホン系樹脂の混練ラインに本要件を適用してもよい。混練や溶解の効率と発熱とは二律背反現象である。該二律背反をできるだけ回避した装置や条件の選択が本発明の重要な要素となる。そういう意味で混練機構における冷却方法が重要であり配慮が必要である。
【0067】
引き続き前記方法で混練されたものの溶解を行う。該溶解方法も限定されないが、例えば、攪拌式の溶解装置による溶解方法が適用できる。低温・短時間(3時間以内)で溶解するためには、フルード数(Fr=n2d/g)が0.7以上1.3以下、攪拌レイノルズ数(Re=nd2ρ/μ)が50以上250以下であることが好ましい。ここでnは翼の回転数(rps)、ρは密度(Kg/m3)、μは粘度(Pa・s)、gは重力加速度(=9.8m/s2)、dは撹拌翼径(m)である。フルード数が大きすぎると、慣性力が強くなるためタンク内で飛散した原料が壁や天井に付着し、所期の製膜溶液組成が得られないことがある。したがって、フルード数は1.25以下がより好ましく、1.2以下がさらに好ましく、1.15以下がよりさらに好ましい。また、フルード数が小さすぎると、慣性力が弱まるために原料の分散性が低下し、特にポリビニルピロリドンが継粉になり、それ以上溶解することが困難となったり、均一溶解に長時間を要することがある。したがって、フルード数は0.75以上がより好ましく、0.8以上がさらに好ましい。
【0068】
本願発明における製膜溶液は所謂低粘性流体であるため、撹拌レイノルズ数が大きすぎると、撹拌時、製膜溶液への気泡のかみこみによる脱泡時間の長時間化や脱泡不足が起こるなどの問題が生ずることがある。そのため、撹拌レイノルズ数はより好ましくは240以下、さらに好ましくは230以下、よりさらに好ましくは220以下である。また、撹拌レイノルズ数が小さすぎると、撹拌力が小さくなるため溶解の不均一化が起こりやすくなることがある。したがって、撹拌レイノルズ数は、35以上がより好ましく、40以上がさらに好ましく、55以上がよりさらに好ましく、60以上が特に好ましい。さらに、このような紡糸溶液で中空糸膜を製膜すると気泡による曳糸性の低下による操業性の低下や品質面でも中空糸膜への気泡の噛み込みによりその部位が欠陥となり、膜の気密性やバースト圧の低下などを引き起こして問題となることがわかった。紡糸溶液の脱泡は効果的な対処策だが、紡糸溶液の粘度コントロールや溶剤の蒸発による紡糸溶液の組成変化を伴うこともありうるので、行う場合には慎重な対応が必要となる。
【0069】
さらに、ポリビニルピロリドンは空気中の酸素の影響により酸化分解を起こす傾向にあることから、紡糸溶液の溶解は不活性気体封入下で行うのが好ましい。不活性気体としては、窒素、アルゴンなどが上げられるが、窒素を用いるのが好ましい。このとき、溶解タンク内の残存酸素濃度は3%以下であることが好ましい。窒素封入圧力を高めてやれば溶解時間短縮が望めるが、高圧にするには設備費用が嵩む点と、作業安全性の面から大気圧以上2kgf/cm2以下が好ましい。
【0070】
その他、本願発明に用いるような低粘性製膜溶液の溶解に用いられる撹拌翼形状としては、ディスクタービン型、パドル型、湾曲羽根ファンタービン型、矢羽根タービン型などの放射流型翼、プロペラ型、傾斜パドル型、ファウドラー型などの軸流型翼が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
以上のような低温溶解方法を用いることにより、ポリビニルピロリドンの劣化分解が抑制された安全性の高い中空糸膜を得ることが可能となる。さらに付言すれば、製膜には原料溶解後の滞留時間が24時間以内の紡糸溶液を使用することが好ましい。なぜなら、製膜溶液が保温されている間に熱エネルギーを蓄積し、原料劣化を起こす傾向が認められたためである。
【0072】
過酸化水素の溶出量を上記の規制された範囲に制御する方法としては、乾燥工程においても中空糸膜成分、特にポリビニルピロリドンの劣化を抑制することが重要である。中空糸膜の長さ方向の乾燥の均一化を図ることが重要である。エアを一定方向から通風して中空糸膜の乾燥を行うと、中空糸膜のエア入口部より出口部に向かって順次乾燥が進行するため、エア入口部では速く乾燥が終了し、エア出口部で遅れて乾燥が終了する。すなわち、この乾燥速度の差により中空糸膜の膜表面へのポリビニルピロリドンのモビリティーに違いが生じ、ポリビニルピロリドンの表面濃度が変化し、該表面に移動したポリビニルピロリドンの酸化劣化により過酸化水素の生成が増進されるものと推測している。また、中空糸膜内の乾燥の不均一化により発生するポリビニルピロリドンの劣化の程度の違いによる過酸化水素の生成量が変化する要因も加味されているものと推測される。そこで本発明者等は、中空糸膜の乾燥速度の均一化を図り、均等に乾燥させることを目的とし、乾燥時のエアの向きを定時毎(例えば、1時間毎や30分毎)に180度反転しながら中空糸膜束の乾燥処理を行うことを検討した結果、本発明の中空糸膜束を得ることができた。また、劣化による寄与を抑制する目的で、乾燥時の熱による酸化反応速度を抑制するために、乾燥器内温度および乾燥エアの温度をできるだけ低下させることや乾燥時の雰囲気を窒素ガス等の不活性ガスを用いるのがより好ましい。
【0073】
本発明においては、前記したごとく、湿潤状態でのポリマー粒子径の制御をするには、湿度が20〜100%RHに調整された気体を通風することが好ましい。従って、上記エアは該範囲に調湿されたものを用いるのが好ましい。当然であるが、乾燥速度の点より湿度は低い方がよい。従って、20〜80%RHがより好ましく、20〜60%RHがさらに好ましい。該調湿によりポリビニルピロリドンの劣化が抑制され、過酸化水素が低減されるという相乗効果の発現にも繋がる。
【0074】
乾燥器内の風量および風速は、中空糸膜の量、総水分量に応じて調整すればよいが、通常は風量が0.01〜5L/sec(中空糸膜束1本あたり)程度で足りる。通風媒体としては不活性ガスを用いるのが好ましい。乾燥温度は20〜80℃であればよいが、温度を高くすると、中空糸膜の損傷を大きくし、乾燥が部分的にアンバランスになりがちであるから、比較的常温から最高60℃程度までにするのが好ましい。例えば、含水率200〜1000質量%のように含水率が高い状態では、60〜80℃と比較的高い温度で乾燥可能であるが、乾燥が進行し、例えば含水率が1〜50質量%程度に低下するに従い比較的温度の低い常温から最高60℃程度の範囲において乾燥するのが好ましい。乾燥は、中空糸膜の中心部分および外周部分は勿論のこと、それを束ねた中空糸膜束の中心部分および外周部分の含水率に較差がないのが理想的である。実際には中空糸膜、中空糸膜束の、中心部および外周部の含水率に若干の差がある。したがって、ここでいう中空糸膜束の「含水率」とは、中空糸膜束の中心部、中間部および外周部などの何点かの含水率を算定の根拠にして、それら何点かの含水率の平均値を求めた平均の含水率のことである。勿論それほどの精度を期待しない場合には、中空糸膜束の水分総量を算定の根拠にすることも可能であるが、精度が下がるという弊害がある。そして、中空糸膜束の中心部、中間部および外周部などの含水率の較差が小さいということは、品質のよい製品を造るための好ましい実施態様であるから、それを製造する乾燥方法に技術的な配慮をする必要がある。通風媒体として、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスを使用する場合には、実質的に無酸素状態での乾燥であるため親水性高分子の劣化分解が起こりにくく、乾燥温度を高めることが可能である。
【0075】
風量および乾燥温度は、中空糸膜に含まれる水分総量により決まる。含水率が高い場合に風量を例えば0.1〜5L/sec(中空糸膜束1本あたり)という比較的高く設定し、温度も50〜80℃と比較的高く設定する。乾燥が進行し、中空糸膜の含水率が低くなったら、風量を、例えば0.1L/sec(中空糸膜束1本)以下に徐々に下げるという風量を調整し、一方で、温度もそれに連動させ徐々に常温に近づける乾燥方法を採用することが乾燥の工夫の一つである。中空糸膜束の中心部、中間部および外周部などの含水率の較差が小さいということは、各部の乾燥が同時に均一に進行させることでもある。このため、中空糸膜束を通風乾燥するときに送風向きを交互に逆転させるということは、通風乾燥機における中空糸膜束に対する送風の向きを180度変えた方向から交互に変えて送風することである。勿論、その送風方向の反転は中空糸膜束それ自体を通風方向に対して180度交互に回転させるというように装置を工夫する場合もある。又、乾燥のための中空糸膜束を固定し、送風装置に工夫して通風方向を交互に180度程度変えた方向から送風する方法もあるが、送風手段に関しては特に限定する必要はない。特に循環型送風乾燥機の場合には、中空糸膜束それ自体を交互に180度反転させるような装置が設計上は勿論のこと、運転上も合理的に機能する。この一見ありふれたような、反転を含む本発明の乾燥方法は、特に中空糸膜束という、特殊な材料において、ポリビニルピロリドンの局所劣化が抑制されるという品質管理において、汎用の材料の乾燥には見られない、予期しえぬ成果をあげることができたというものである。
【0076】
乾燥における、通風の交互反転時間は、乾燥するための中空糸膜束の水分総量および風速、風量、乾燥温度、空気の除湿程度などの要因により変わる性格のものであるが、均一乾燥を求めるなら、送風方向をこまめに反転させることが好ましい。工業的に実用上設定される風向反転時間は乾燥開始後の含水率にも影響するが、例えば60〜80℃程度の高温で、例えば65℃で1〜4時間、25〜60℃において、例えば30℃程度において1〜20時間乾燥するという総乾燥時間が24時間という長い時間を設定した場合に、30〜60分程度の間隔で機械的に風向を反転させることができる。中空糸膜の含水率が高い初期の乾燥段階において、例えば60〜80℃程度の高温において、0.1〜5L/sec(中空糸膜束1本)程度の比較的風量が多い条件で乾燥する場合には、最初に風の直接当たる部分の乾燥が比較的早いから、10〜120分程度の間隔で風向の反転を1〜5時間程度繰り返す。特に、最初の段階は10〜40分間隔で風向を反転させることが好ましい。中空糸膜束の中心部および外周部の含水率の較差が少なくなり安定してきたら、乾燥温度も徐々に30℃程度の常温に近づけ、反転時間も30〜90分程度の間隔で風向の反転を繰り返し、比較的長い1〜24時間程度その風向の反転を繰り返せばよい。その際の風量および温度の切り換えは、中空糸膜の含水率を考慮して任意に決めることができる。それを定量的に示せば、中空糸膜束の中心部および外周部の含水率が50〜100質量%程度以下になったら、乾燥の状況を観察しながら適宜変更することができる。乾燥ということであるから、固定した時間間隔で機械的に風向反転時間を設定して行うことができる。一方で、乾燥の進行の程度を観察しながら風向反転時間、総乾燥時間を決めるという、状況判断や経験則に頼るような要素もある。なお、本発明でいう含水率とは、中空糸膜の質量(g)を測定し、その後減圧下(−750mmHg以下)で真空乾燥を12時間実施し、乾燥後の質量(g)を測定する。乾燥前後の差を減量(g)として乾燥後質量(g)を基準にして%で求める。以下の式で含水率は決定する。
(減量/乾燥後質量)×100=含水率(質量%)
【0077】
また、マイクロ波を照射して乾燥するのも有効な手段の一つである。従って、上記通風乾燥法とマイクロ波照射乾燥法とを組み合わせて行ってもよい。例えば、含水率が20〜60質量%までは効率のよいマイクロ波照射乾燥法で行い、最後の仕上げを上記通風乾燥法で行うのが好ましい実施態様である。マイクロ波照射乾燥法は減圧下で行うのが好ましい。
【0078】
過酸化水素の溶出量を上記の規制された範囲に制御する方法としては、乾燥工程においても酸素との接触を低減することも重要である。例えば、不活性ガスで置換した雰囲気で乾燥することが挙げられるが、経済性の点で不利である。経済性のある乾燥方法として、減圧下でマイクロ波を照射して乾燥する方法が有効であり推奨される。被乾燥物から液体を除去して所謂乾燥を行うことにおいて、減圧およびマイクロ波を照射することはそれぞれ単独では公知である。しかし、減圧することとマイクロ波を照射することを同時に行うことは、マイクロ波の特性を勘案すると通常併用しがたい組合せである。本願発明者らは、ポリビニルピロリドンの酸化劣化の防止と中空糸膜からの溶出物量の低減による安全性の向上、生産性の向上を達成するべく、この困難性を伴う組み合わせを採用し、乾燥条件の最適化により経済的にも有利である方法により課題解決可能であることを見出した。
【0079】
該乾燥方法の乾燥条件としては、20kPa以下の減圧下で出力0.1〜100kWのマイクロ波を照射することが好ましい実施態様である。また、該マイクロ波の周波数は1,000〜5,000MHzであり、乾燥処理中の中空糸膜の最高到達温度が90℃以下であることが好ましい実施態様である。減圧という手段を併設すれば、それだけで水分の乾燥が促進されるので、マイクロ波の照射出力を低く抑え、照射時間も短縮できる利点もあるが、温度の上昇も比較的低くすることができるので、全体的には中空糸膜の性能低下に与える影響が少ない。さらに、減圧という手段を伴う乾燥は、乾燥温度を比較的下げることができるという利点があり、特に親水性高分子の劣化分解を著しく抑えることができるという有意な点がある。適正な乾燥温度は20〜80℃で十分足りるということになる。より好ましくは20〜60℃、さらに好ましくは20〜50℃、よりさらに好ましくは30〜45℃である。
【0080】
減圧を伴うということは、中空糸膜束の中心部および外周部に均等に低圧が作用することになり、水分の蒸発が均一に促進されることになり、中空糸膜の乾燥が均一になされるために、乾燥の不均一に起因する中空糸膜束の障害を是正することになる。それに、マイクロ波による加熱も、中空糸膜束の中心および外周全体にほぼ等しく作用することになるから、均一な加熱において、相乗的に機能することになり、中空糸膜束の乾燥において、特有の意義があることになる。減圧度についてはマイクロ波の出力、中空糸膜の含水率および中空糸膜の本数により適宜設定すれば良いが、乾燥中の中空糸膜の温度上昇を防ぐため、減圧度は20kPa以下、より好ましくは15kPa以下、さらに好ましくは10kPa以下で行う。20kPa以上では水分蒸発効率が低下するばかりでなく、中空糸膜を構成するポリマーの温度が上昇してしまい劣化してしまう可能性がある。また、減圧度は高い方が温度上昇抑制と乾燥効率を高める意味で好ましいが、装置の密閉度を維持するためにかかるコストが高くなるので0.1kPa以上が好ましい。より好ましくは0.25kPa以上、さらに好ましくは0.4kPa以上である。
【0081】
乾燥時間短縮を考慮すると、マイクロ波の出力は高い方が好ましいが、例えばポリビニルピロリドンを含有する中空糸膜束では過乾燥や過加熱によるポリビニルピロリドンの劣化・分解が起こったり、使用時の濡れ性低下が起こるなどの問題があるため、出力はあまり上げないのが好ましい。また0.1kW未満の出力でも中空糸膜束を乾燥することは可能であるが、乾燥時間が伸びることによる処理量低下の問題が起こる可能性がある。減圧度とマイクロ波出力の組合せの最適値は、中空糸膜束の保有水分量および中空糸膜束の処理本数により異なるものであって、試行錯誤のうえ適宜設定値を求めるのが好ましい。
例えば、本発明の乾燥条件を実施する一応の目安として、中空糸膜束1本当たり50gの水分を有する中空糸膜束を20本乾燥した場合、総水分含量は50g×20本=1,000gとなり、この時のマイクロ波の出力は1.5kW、減圧度は5kPaが適当である。
【0082】
より好ましいマイクロ波出力は0.1〜80kW、さらに好ましいマイクロ波出力は0.1〜60kWである。マイクロ波の出力は、例えば、中空糸膜束の総数と総水分量により決まるが、いきなり高出力のマイクロ波を照射すると、短時間で乾燥が終了するが、中空糸膜が部分的に変性することがあり、縮れのような変形を起こすことがある。マイクロ波を使用して乾燥するという場合に、例えば、中空糸膜に保水剤のようなものを用いた場合に、高出力やマイクロ波を用いて過激に乾燥することは保水剤の飛散による消失の原因にもなる。それに特に減圧の条件を伴うと、中空糸膜への影響を考えれば、従来においては減圧下でマイクロ波を照射することは意図していなかった。本発明の減圧下でマイクロ波を照射するということは、水性液体の蒸発が比較的温度が低い状態において活発になるため、高出力マイクロ波および高温によるポリビニルピロリドンの劣化や中空糸膜の変形等の中空糸膜の損傷を防ぐという二重の効果を奏することになる。
【0083】
本発明は、減圧下におけるマイクロ波により乾燥をするという、マイクロ波の出力を一定にした一段乾燥を可能としているが、別の実施態様として、乾燥の進行に応じて、マイクロ波の出力を順次段階的に下げる、いわゆる多段乾燥を好ましい態様として包含している。そこで、多段乾燥の意義を説明すると次のようになる。減圧下で、しかも30〜90℃程度の比較的低い温度で、マイクロ波で乾燥する場合に、中空糸膜束の乾燥の進み具合に合わせて、マイクロ波の出力を順次下げていくという多段乾燥方法が優れている。乾燥する中空糸膜の総量、工業的に許容できる適正な乾燥時間などを考慮して、減圧の程度、温度、マイクロ波の出力および照射時間を決めればよい。多段乾燥は、例えば、2〜6段という任意に何段も可能であるが、生産性を考慮して工業的に適正と許容できるのは、2〜3段乾燥にするのが適当である。中空糸膜束に含まれる水分の総量にもよるが、比較的多い場合に、多段乾燥は、例えば、90℃以下の温度における、5〜20kPa程度の減圧下で、一段目は30〜100kWの範囲で、二段目は10〜30kWの範囲で、三段目は0.1〜10kWというように、マイクロ波照射時間を加味して決めることができる。マイクロ波の出力を、例えば、高い部分で90kW、低い部分で0.1kWのように、出力の較差が大きい場合には、その出力を下げる段数を例えば4〜8段と多くすればよい。本発明の場合に、減圧というマイクロ波照射に技術的な配慮をしているから、比較的マイクロ波の出力を下げた状態でもできるという有利な点がある。例えば、一段目は10〜20kWのマイクロ波により10〜100分程度、二段目は3〜10kW程度で5〜80分程度、三段目は0.1〜3kW程度で1〜60分程度という段階で乾燥する。各段のマイクロ波の出力および照射時間は、中空糸膜に含まれる水分の総量の減り具合に連動して下げていくことが好ましい。この乾燥方法は、中空糸膜束に非常に温和な乾燥方法であり、前掲の特許文献20〜23の先行技術においては期待できないことから、本発明の作用効果を有意にしている。
【0084】
別の態様を説明すると、中空糸膜束の水分総量が比較的少ないという、いわゆる含水率が400質量%以下の場合には、12kW以下の低出力マイクロ波による照射が優れている場合がある。例えば、中空糸膜束総量の水分量が1〜7kg程度と比較的少量の場合には、80℃以下、好ましくは60℃以下の温度における、3〜10kPa程度の減圧下において、12kW以下の出力の、例えば1〜5kW程度のマイクロ波で10〜240分、0.5〜1kW未満のマイクロ波で1〜240分程度、0.1〜0.5kW未満のマイクロ波で3〜240分程度照射するという、乾燥の程度に応じてマイク口波の照射出力および照射時間を調整すれば乾燥が均一に行われる。減圧度は各段において、一応0.1〜20kPaという条件を設定しているが、中空糸膜の水分含量の比較的多い一段目を例えば0.1〜5kPaと減圧を高め、マイクロ波の出力を10〜30kWと高める、ニ段目、三段目を5〜20kPaの減圧下で0.1〜5kWによる一段よりやや高い圧力下でマイクロ波を照射するという、いわゆる各段の減圧度を状況に応じて適正に調整して変えることなどは、中空糸膜束の水分総量および含水率の低下の推移を考慮して任意に設定することが可能である。各段において、減圧度を変える操作は、本発明の減圧下でマイクロ波を照射するという意義をさらに大きくする。勿論、マイクロ波照射装置内におけるマイクロ波の均一な照射および排気には常時配慮する必要がある。
【0085】
マイクロ波の照射周波数は、中空糸膜束への照射斑の抑制や、細孔内の水を細孔より押出す効果などを考慮すると1,000〜5,000MHzが好ましい。より好ましくは1,500〜4,000MHz、さらに好ましくは2,000〜3,000MHzである。
該マイクロ波照射による乾燥は中空糸膜束を均一に加熱し乾燥することが重要である。上記したマイクロ波乾燥においては、マイクロ波の発生時に付随発生する反射波による不均一加熱が発生するので、該反射波による不均一加熱を低減する手段を取る事が重要である。該方策は限定されず任意であるが、例えば、特開2000−340356号公報において開示されているオーブン中に反射板を設けて反射波を反射させ加熱の均一化を行う方法が好ましい実施態様の一つである。
【0086】
さらに、中空糸膜は絶乾しないのが好ましい。絶乾してしまうと、ポリビニルピロリドンの劣化が増大し、過酸化水素の生成が大幅に増大することがある。また、使用時の再湿潤化において濡れ性が低下したり、ポリビニルピロリドンが吸水しにくくなるため中空糸膜から溶出しやすくなることがある。乾燥後の中空糸膜の含水率は1質量%以上飽和含水率未満が好ましい。1.5質量%以上がより好ましい。中空糸膜の含水率が高すぎると、中空糸膜保存時に菌が増殖しやすくなったり、中空糸膜の自重により糸潰れが発生したり、モジュール組み立て時に接着剤の接着障害が発生することがあるため、中空糸膜の含水率は10質量%以下が好ましく、より好ましくは7質量%以下である。
【0087】
乾燥中の中空糸膜の最高到達温度は、不可逆性のサーモラベルを中空糸膜束を保護するフィルム側面に貼り付けて乾燥を行い、乾燥後に取り出し表示を確認することで測定できる。この時、乾燥中の中空糸膜束の最高到達温度は90℃以下が好ましく、より好ましくは80℃以下に抑える。さらに好ましくは70℃以下である。最高到達温度が90℃を超えると、膜構造が変化しやすくなり性能低下や酸化劣化を起こしてしまう場合がある。特に親水性高分子を含有する中空糸膜では、熱による親水性高分子の分解等が起こりやすいので温度上昇をできるだけ防ぐ必要がある。
【0088】
また、上記のごとく原料ポリビニルピロリドンより混入したり、中空糸膜束の製造工程において生成した過酸化水素を、洗浄により除去する方法も前記した特性値を規制された範囲に制御する方法として有効である。
【0089】
本発明においては、前述したポリビニルピロリドンの溶出量と内毒素であるエンドトキシンの血液側への浸入を阻止したり、中空糸膜を乾燥する際の中空糸膜同士の固着を阻止する等の特性をバランスするために中空糸膜の外表面におけるポリビニルピロリドンの含有率を特定範囲にすることが好ましい。該要求に答える方法として、例えば、ポリスルホン系樹脂に対するポリビニルピロリドンの割合を前記した範囲にしたり、中空糸膜の製膜条件を最適化する等により達成できる。また、製膜された中空糸膜を洗浄することも有効な方法である。製膜条件としては、ノズル出口のエアギャップ部の湿度調整、延伸条件、凝固浴の温度、凝固液中の溶媒と非溶媒との組成比等の最適化が、また、洗浄工程の導入が有効である。
【0090】
中空形成剤としては、0〜60質量%のジメチルアセトアミド(DMAc)水溶液が好ましい。より好ましくは、15〜60質量%、さらに好ましくは25〜60質量%、よりさらに好ましくは30〜58質量%である。中空形成剤濃度が低すぎると、血液接触面の緻密層が厚くなるため、溶質透過性が低下する可能性がある。また中空形成剤濃度が高すぎると、緻密層の形成が不完全になりやすく、分画特性が低下する可能性がある。
【0091】
外部凝固液は0〜50質量%のDMAc水溶液を使用するのが好ましい。外部凝固液濃度が高すぎる場合は、外表面開孔率および外表面平均孔面積が大きくなりすぎ、血液透析使用時エンドトキシンの血液側への逆流入の増大や、バースト圧の低下を起こす可能性がある。したがって、外部凝固液濃度は、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、よりさらに好ましくは25質量%以下である。また、外部凝固液濃度が低すぎる場合には、紡糸溶液から持ち込まれる溶媒を希釈するために大量の水を使用する必要があり、また廃液処理のためのコストが増大する。そのため、外部凝固液濃度の下限はより好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、よりさらに好ましくは15質量%以上である。
【0092】
本発明の中空糸膜の製造において、完全に中空糸膜構造が固定される以前に実質的に延伸をかけないことが好ましい。実質的に延伸を掛けないとは、ノズルから吐出された紡糸溶液に弛みや過度の緊張が生じないように、紡糸工程中のローラー速度をコントロールすることを意味する。吐出線速度/凝固浴第一ローラー速度比(ドラフト比)は0.7〜1.8が好ましい範囲である。前記比が0.7未満では、走行する中空糸膜に弛みが生じ生産性の低下に繋がることがあるので、ドラフト比は0.8以上がより好ましく、0.9以上がさらに好ましく、0.95以上がよりさらに好ましい。1.8を超える場合には中空糸膜の緻密層が裂けるなど膜構造が破壊されることがある。そのため、ドラフト比は、より好ましくは1.7以下、さらに好ましくは1.6以下、よりさらに好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.4以下である。ドラフト比をこの範囲に調整することにより細孔の変形や破壊を防ぐことができ、膜孔への血中タンパクの目詰まりを防ぎ経時的な性能安定性やシャープな分画特性を発現することが可能となる。
【0093】
本発明においては、上述のごとく、過酸化水素の溶出量を低減したり、中空糸膜の外表面におけるポリビニルピロリドンの含有率を特定範囲にするための手段として中空糸膜の製造過程において、前記の乾燥工程の前に洗浄工程を導入することが重要である。例えば、水洗浴を通過した中空糸膜は、湿潤状態のまま綛に巻き取り、3,000〜20,000本の束にする。ついで、得られた中空糸膜を洗浄し、過剰の溶媒、ポリビニルピロリドンを除去する。中空糸膜の洗浄方法として、本発明では、70〜130℃の熱水、または室温〜50℃、10〜40vol%のエタノールまたはイソプロパノール水溶液に中空糸膜を浸漬して処理するのが好ましい。
(1)熱水洗浄の場合は、中空糸膜を過剰のRO水に浸漬し70〜90℃で15〜60分処理した後、中空糸膜を取り出し遠心脱水を行う。この操作をRO水を更新しながら数回繰り返して洗浄処理を行う。
(2)加圧容器内の過剰のRO水に浸漬した中空糸膜を121℃で2時間程度処理する方法をとることもできる。
(3)エタノールまたはイソプロパノール水溶液を使用する場合も、(1)と同様の操作を繰り返すのが好ましい。
(4)遠心洗浄器に中空糸膜を放射状に配列し、回転中心から40℃〜90℃の洗浄水をシャワー状に吹きつけながら30分〜5時間遠心洗浄することも好ましい洗浄方法である。
前記洗浄方法を2つ以上組み合わせて行ってもよい。いずれの方法においても、処理温度が低すぎる場合には、洗浄回数を増やす等必要になりコストアップに繋がることがある。また、処理温度が高すぎるとポリビニルピロリドンの分解が加速し、逆に洗浄効率が低下することがある。上記洗浄を行うことにより、外表面ポリビニルピロリドンの含有率の適正化を行い、固着抑制や溶出物の量を減ずることが可能となるとともに、過酸化水素溶出量の低減にも繋がる。
【0094】
血液浄化器は、滅菌処理が不可欠である。滅菌処理方法としては、その信頼性や簡便性よりγ線や電子線を照射する放射線滅菌が好ましい。しかし、放射線照射により、ポリビニルピロリドンの劣化により過酸化水素が発生すると共に放射線照射時に存在する過酸化水素によりその生成が促進されるので前記のような抑制処置が必要であると共に、長手方向に10個に分割し、各々について測定した時の過酸化水素の溶出が全ての部位で3ppm以下であるポリスルホン系中空糸膜を放射線照射処理することが好ましい実施態様である。このことにより、本発明の第一の要件であるポリスルホン系中空糸膜を長手方向に10個に分割し、各々について測定した時の過酸化水素の溶出が全ての部位で5ppm以下とすることが達成可能となる。従って、本発明においては、γ線や電子線照射により滅菌した後においても、ポリスルホン系中空糸膜を長手方向に10個に分割し、各々について測定した時の過酸化水素の溶出が全ての部位で5ppm以下維持されることが好ましい。
【0095】
本発明においては、上記特性を有した中空糸膜が充填されてなる血液浄化器であることが好ましい。該血液浄化器は、上記方法で得た中空糸膜を血液浄化器容器に装填し、その両端を樹脂で固定した形状のものが好ましい。一例を図3に示す。
【0096】
血液浄化器1は、筒状のハウジング2内に中空糸膜束3を装填し、該中空糸膜束3の両端部をハウジング2の両端部に接着剤等により固定し、ハウジング2の両端部をキャップ5a、5bにより被覆してなる。そして、ハウジング2の側部で一方の端部近傍には、ハウジング2内に透析液を導入する透析液導入口6aを、他方の端部近傍には、透析液を排出する透析液排出口6bをそれぞれ突出形成してある。また、一方のキャップ5aにはハウジング2内に血液を導入する血液導入口7aを、他方のキャップ5bには血液を排出する血液排出口7bをそれぞれ突出形成してある。
【0097】
そして、血液は、矢印Aに示すように、血液導入口7aからキャップ5aと中空糸膜束3の一方の端面とにより形成される空間内に入り、中空糸膜束3の中空部を通り、中空糸膜束3の他方の端面とキャップ5bとにより形成される空間内に入り、血液排出口7bから矢印Bに示すように排出される。一方、透析液は、矢印Cに示すように、透析液導入口6aからハウジング2内に入り、中空糸膜束3の中空糸膜の外側を流れ、矢印Dに示すように、透析液排出口6bから排出される。このとき、透析される血液の流れと透析液の流れとは逆方向の所謂対向流とする。この間に、中空糸膜内を流れる血液中の老廃物が中空糸膜を通して外側の透析液中に透析される。
【0098】
前記ハウジングやキャップの素材としては、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリプロピレン等が挙げられる。また、両端部固定に用いられる接着剤の材料としてはポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂およびシリコーン樹脂等が挙げられる。
【0099】
両端部固定に用いられる接着剤の固定部への注入方法は限定されないが、注入すべき血液浄化器を回転させることにより発生する遠心力を利用して注入する遠心接着法が推奨される。該遠心接着法の方法も限定されない。たとえば、乾燥された中空糸膜束が装填されたハウジングの両端に目止め治具を取り付け、遠心接着機にセットする。遠心接着機を所定の回転数で回転させながら、室温付近の温度で透析液導入口6aおよび6bより所定量の未硬化の接着剤樹脂を注入した後、遠心接着機の温度を注入接着剤樹脂の硬化温度に上昇させ、硬化を終了させるか、あるいは少なくとも樹脂の流動性がなくなるまでプレ硬化させて遠心接着機を停止する。後者の場合は静置状態で加温をしてポスト硬化を行い硬化を終了させる。この遠心接着法は中空糸膜束の接着部の内側を可撓性樹脂層で覆って接着界面の中空糸膜を補強した2層遠心接着法であってもよい。
【0100】
上記遠心接着法の場合、中空糸膜束内の空間全体に接着剤が均一に注入されることが重要である。この注入が不均一になり接着剤の注入量が不充分な箇所が生ずると接着不良に繋がる。特に、中空糸膜同士が固着した部分があると接着剤の浸透が阻害される。従って、この固着部分の解きほぐしをするために、例えば、中空糸膜束端面にノズルより空気を吹き付ける、いわゆる整糸処理等が実施されている。確かに、本整糸処理は固着中空糸膜の解きほぐしには効果があるが、この処理により端面部の中空糸膜の変形が起こり傾き中空糸膜の発生に繋がるので好ましくない。
本発明の中空糸膜束は乾燥時の部分固着が抑制されているので整糸処理をしなくても接着剤の注入の均一性が確保されるという特徴を有する。ただし、接着剤の注入の均一性確保は重要であるので、下記対応等を実施することが好ましい。例えば、接着剤として低粘度の銘柄を選択することが好ましい。二液混合2分後の粘度が2000mPa・s以下が好ましい。1600mPa・s以下がより好ましい。また、血液浄化器組み立てに用いるハウジングに乾燥した中空糸膜束を挿入する時の中空状の包装体で拘束される中空糸膜の充填密度を低くすることが好ましい。
【0101】
充填する中空糸膜の中空糸膜本数、長さは、市場要求や中空糸膜特性により適宜設定される。ハウジングの長さや径は該充填する中空糸膜束の大きさに見合うように設定される。
【0102】
血液浄化器は、滅菌処理が不可欠である。滅菌処理方法としては、その信頼性や簡便性よりγ線や電子線を照射する放射線滅菌が好ましい。しかし、放射線照射によりポリビニルピロリドンが劣化し、過酸化水素が発生すると共に放射線照射時に存在する過酸化水素によりその生成が促進される。従って、該放射線照射をした後においても、前記した特性を有することが好ましい。放射線照射処理後においても該特性を付与するためには、放射線照射前のポリスルホン系中空糸膜として前記特性を有したものを用いることが重要であるが必要要件の一つに過ぎない。該要件を満たした上で、放射線照射による劣化反応の抑制措置が必要である。
【0103】
本発明においては、中空糸膜中の含水率が600質量%以下であることが好ましい。また、放射線照射時、血液浄化器内にラジカル捕捉剤を含まないことが好ましい。含水率が600質量%を超える場合は、血液浄化器の重量が増大するため取り扱い性が低下し、かつ運搬コストが増大するとか、バクテリアが発生し易い、寒冷地で凍結する等の課題が発生することがある。また、ポリビニルピロリドンが架橋しすぎるために血液浄化に用いた際に血液の凝固反応が活性化される可能性がある。一方、含水率が0.8質量%未満では、放射線照射によるポリビニルピロリドンの劣化が促進され、過酸化水素、カルボキシル基および過酸化物等の生成の増大や透析型人工腎臓装置製造承認基準により定められた試験を実施した時の中空糸膜の抽出液におけるUV(220〜350nm)吸光度の増大、長期保存安定性や血液適合性およびその安定性等の低下を引き起こすことがある。従って、1.0〜300質量%がより好ましく、1.5〜200質量%がさらに好ましい。
【0104】
本発明の目的であるドライ状態で、かつラジカル捕捉剤の非存在下で放射線照射による劣化反応を抑制することは難しく、従来は、やむを得ずウェット法で、かつラジカル捕捉剤の存在下で実施されていた。本発明者等は、該課題解決について鋭意検討した結果、上記劣化反応は、中空糸膜のポリビニルピロリドンの局在部分に吸着された酸素ガスにより促進され、かつ、ポリビニルピロリドンの局在部分に吸着された水により抑制されるという推定機構に基づきポリビニルピロリドンの劣化反応を抑制する方法を見出して本発明を完成した。上記劣化反応が酸素の影響を受けることは広く知られている現象であるが、該劣化反応がポリビニルピロリドンの局在部分に吸着された微量水分で抑制されることは本発明者等が初めて見つけた現象である。以下に好ましい実施態様について述べる。
【0105】
本発明者等は、前記した特性を有する中空糸膜を用いてドライ状態で放射線照射する際、脱気した水を用いて中空糸膜の含水率を5質量%以上に調整した血液浄化器は、ラジカル捕捉剤の非存在下でもポリビニルピロリドンの劣化反応が抑制できることを見出した。
【0106】
すなわち、脱気水を用いて含水率が5〜600質量%に調整されたポリビニルピロリドンを含有する中空糸膜が充填された血液浄化器の血液および透析液の出入り口すべてを密栓した状態で外気および水蒸気を遮断する包装袋で密封して放射線を照射することが好ましい。
【0107】
本発明においては、中空糸膜の含水率調整に用いる脱気水は脱酸素水であることが好ましい。また不活性ガス飽和水であることがより好ましい。
【0108】
上記脱酸素水とは、溶存酸素量が0.5ppm以下の水である。溶存酸素量が0.2ppm以下がより好ましく、0.1ppm以下がさらに好ましい。
【0109】
通常、水の中には1m3あたり20L程度の空気が溶け込んでおり、通常の水道水には8mg/L水の酸素ガスが溶け込んでいる。該脱酸素水は、上記溶存酸素量を満たせばその調製方法は限定されない。一般に知られている脱気法で調製されたものが適用できる。例えば、加熱脱気法、真空脱気法、窒素ガスバブリング法、膜脱気法、還元剤添加法および還元法等が挙げられる。膜脱気法は溶存酸素量をppbレベルに低減することも可能であるので特に好ましい。該膜脱気法は非多孔質膜法および多孔質膜法のいずれで調製してもよい。
【0110】
本発明者らは、高度な滅菌効果を得ることができ、長時間保存しても血液浄化器に品質の低下や品質にバラツキのない、最高品質の血液浄化器を提供する為に多観点からその原因や対策を追求した結果、血液浄化器中に含まれる水の量、および水の溶存酸素に対する技術的配慮が微妙に影響するということを知見した。特に、出荷前の血液浄化器の滅菌工程において、放射線照射による活性酸素の生成に対して技術的な配慮をすることにより、最高品質の血液浄化器を医療現場に提供することができるということは本発明者らの知見に基づくものである。活性酸素生成の原因となる水中の溶存酸素を少なくすることは簡単な水処理で達成できるが、それを血液浄化器に含ませるという過程において、大気中の酸素の拡散、浸透というような進入経路に対して非常に注意を要する為に、むしろ予め不活性ガスを飽和させた水を使用することが酸素の浸入を効果的に抑制し、水の取り扱いを簡便にすることができるという利点を有する。
【0111】
溶存酸素の量は、例えば0.001ppm以下というような、より少ない方が推奨されるが、技術的に困難な事情もあり、この操作が血液浄化器の価格にも跳ね返る恐れがあり、自ずと限界がある。通常は、溶存酸素が0.001〜0.5ppm程度まで減らす配慮をすれば、放射線滅菌処理において、過酸化水素最大溶出量を5ppm以下に抑えることができるという一応の目安でもある。ここで、水中の溶存酸素は、例えば、HORIBA製作所社製溶存酸素計OM−51−L1を用いて測定することができる。
【0112】
上記脱酸素水は、逆浸透処理(RO処理)されたものを用いるのが好ましい。
【0113】
上記の脱酸素水にしたのみでは、周囲の空気中に含まれる酸素が再度溶解してしまい、再溶解した酸素ガスがポリビニルピロリドンの局在部分に吸着されることになり、上記のような好ましくない劣化反応を完全に抑制するのは困難である。窒素等の不活性ガス飽和水を使用することによって、この問題の解決が可能となる。すなわち、不活性ガスを飽和状態で含有することにより、周囲に酸素が含まれる環境で放射線照射を行っても、酸素ガスの水への再溶解が抑制され、水に含まれる酸素濃度が低い状態が保たれることになる。
【0114】
該不活性ガス飽和水の調製方法は特に限定されず、窒素などの不活性ガスをバブリングする方法が好適に用いられ得る。水の溶存酸素を除去する方法として不活性ガスのバブリング法が知られているように、不活性ガスの導入によって溶存酸素は結果的に除去されるが、積極的に酸素を除去した上で不活性ガスを溶存させることも好ましい。具体的には、加熱脱気法、真空脱気法、膜脱気法、還元剤添加法などによってあらかじめ酸素を除去した水に不活性ガスをバブリングすることで酸素の除去、不活性ガスの溶解が効率的に行われる。ここで、不活性ガス飽和水の溶存酸素量は、0.5ppm以下であることが好ましく、0.2ppm以下がより好ましく、0.1ppm以下がさらに好ましい。なお、ここで使用される水は逆浸透膜(RO)処理されたものを用いるのが好ましい。
【0115】
上記脱気水の使用により、非脱気水を使用した場合より放射線照射による中空糸膜の劣化、特にポリビニルピロリドンの劣化反応がより効率的に抑制され、前述のような過酸化水素の生成の増大や透析型人工腎臓装置製造承認基準により定められた試験を実施した時の中空糸膜の抽出液におけるUV(220〜350nm)吸光度の増大、抗血栓性、長期保存安定性およびプライミング処理後の性能発現性の低下等を引き起こす好ましくない劣化反応の抑制効果が増長される。
【0116】
本発明において、上記の脱気水による放射線照射による劣化反応の抑制効果をより効果的に発現させるには、滅菌前の上記血液浄化器内の雰囲気中の酸素濃度が4.0容量%以下であることが好ましい。3.0容量%以下がより好ましく、2.0容量%以下がさらに好ましい。酸素濃度が4.0容量%を超えた場合は、前記した要件を満たしても、放射線や電子線を照射した時の中空糸膜、特にポリビニルピロリドンの劣化が引き起こされる場合がある。また、滅菌前の血液浄化器内の雰囲気中酸素濃度が低過ぎると、中空糸膜構成材料およびポッティング材の劣化は抑制されるが、放射線照射による滅菌効果が十分に発現しない可能性がある。従って、滅菌前の血液浄化器内の雰囲気中酸素濃度は0.1容量%以上が好ましく、0.2容量%以上がより好ましく、0.3容量%以上がさらに好ましい。
【0117】
上記方法において、放射線照射時のポリビニルピロリドンの劣化反応が抑制される機構は以下のごとく推察している。中空糸膜中のポリビニルピロリドンは中空糸膜に均一に分散せずに局在化して存在しており、かつ中空糸膜内部および表面に存在する水は親水性の高いポリビニルピロリドンの周りに選択的に吸着されることにより局在するものと推察される。このポリビニルピロリドンの周りに水が存在することにより、放射線照射により活性化された酸素のポリビニルピロリドンに対する攻撃がブロックされ、劣化反応が抑制されているものと推察している。従って、脱気水化によりその効果がより顕著に発現されると推察される。その上に、本発明においては、酸素と同様に放射線により活性化されて劣化反応を引き起こす過酸化水素量が抑制された中空糸膜が用いられているので、該劣化反応も抑制されるという2重の効奏により本発明の効果が発現されるものと推察している。
【0118】
滅菌後の血液浄化器内の雰囲気中酸素濃度は、2.0容量%以下が好ましい。滅菌後の血液浄化器内の雰囲気中酸素濃度が高すぎると、血液浄化器を長期保存した場合に中空糸膜の構成材料が酸化劣化を受け、血液透析使用時に劣化分解物が血液中に溶出する危険性がある。したがって、滅菌後の血液浄化器内の酸素濃度は1.8容量%以下がより好ましく、1.5容量%以下がさらに好ましい。また、滅菌後の血液浄化器内の雰囲気中酸素濃度は0.01容量%以上が好ましい。滅菌後の血液浄化器内の雰囲気中酸素濃度が低過ぎると、滅菌処理時に既に系内の酸素が消費されてしまっている可能性が生じ、十分な滅菌効果が得られないことがある。したがって、滅菌後の血液浄化器内の雰囲気中酸素濃度は0.02容量%以上がより好ましく、0.03容量%以上がさらに好ましい。
【0119】
上記血液浄化器内の酸素濃度を調整する方法は限定されないが、血液浄化器内に不活性ガスを充填して行うのが好ましい。前述のごとく前記した方法で乾燥された中空糸膜を用いて血液浄化器を組立て、該血液浄化器に脱酸素水または不活性ガス飽和水を注入、充填し、血液浄化器中に存在していた空気を追い出すと共に、中空糸膜中の水分および中空糸膜周りを脱酸素水または不活性ガス飽和水で満たした後に、不活性ガスを血液浄化器内に注入、充填することにより脱酸素水化と酸素濃度低下を同時に行う方法が好ましい。不活性ガスとしては経済性の点より窒素ガスの使用が好ましい。血液適合性や滅菌効果の低下を抑制するために微量の酸素を共存させる場合は、酸素濃度を調整した不活性ガスを用いて置換するのが好ましい。
【0120】
上記方法において、中空糸膜の含水率および血液浄化器内の酸素濃度を調整した後に血液浄化器の血液および透析液の出入り口すべてに密栓するのが好ましい。該方法により血液浄化器に充填されている中空糸膜からの水分の揮散が抑制されると共に、血液浄化器内への外気中に含まれる酸素ガスの浸入が抑制されることにより本発明の効果が顕著に発現される。また、血液浄化器内への雑菌の浸入を阻止できる。また、長期に中空糸膜からの水分の揮散が抑制されるために、中空糸膜の経時による中空糸膜の乾燥による収縮や膜特性の低下が抑制される。そのために、血液浄化器を長期保存した場合の欠陥の発生や膜特性の低下等が抑制されるという効果が発現する。例えば、中空糸膜の収縮が起こると中空糸膜の接着剤による血液浄化器への固定部分の中空糸膜と接着剤界面の剥離が起こり、該部分での液漏れ発生に繋がる。また、クリンプが付与された中空糸膜の場合は、該中空糸膜の乾燥によりクリンプの緩和が起こり透析液の偏流の増大が起こることがある。
【0121】
本発明においては、上記方法で密栓された血液浄化器を、前記した包装袋で密封して放射線を照射するのが好ましい。該包装袋で密封することにより、血液浄化器外面の汚染や雑菌の付着等が阻止される。該方法において、包装袋内の雰囲気ガスは特に限定されない。空気であっても構わないが窒素ガス等の不活性ガス雰囲気にするのが滅菌後に混入する雑菌(好気性菌)の成長を抑制したり、前記の密栓の効果が補完されることより好ましい。さらに、本発明においては、後述のごとく密栓してから経時させて放射線や電子線を照射するのが好ましいことより、この間における外気からの血液浄化器内への酸素ガスの浸入を抑制できる利点もある。また、例えば、血液浄化器の密栓不良があった場合においても血液浄化器への酸素ガスの侵入を抑制することができる。
【0122】
上記した方法は中空糸膜の含水率が5質量%以上の場合に、より簡便かつ低コストに滅菌を行う方法として採用することができる。一方、少なくともクラス100,000の規格に該当するクリーンルーム内で製造されたような滅菌処理にそれほどの配慮を必要としない中空糸膜を用いる場合には、該中空糸膜の含水率を5質量%未満とし、かつ放射線照射処理時に中空糸膜を取り巻く雰囲気の酸素濃度や湿度を最適化する方法を採用することができる。もちろん、中空糸膜の含水率が5質量%以上の場合にも前記方法を付加して用いても何ら問題はない。該方法における第1の要件は、滅菌処理時に中空糸膜を取り巻く雰囲気の酸素濃度に関する要件である。該酸素濃度が3.6容量%以下の状態で放射線照射することが好ましい。1容量%以下がより好ましく、0.1容量%以下がさらに好ましい。3.6容量%を越えた場合は、ポリビニルピロリドンの劣化による過酸化水素生成が増大して前記特性が満たされなくなることがある。
【0123】
上記の包装袋内を不活性ガス雰囲気にする方法は限定されないが、脱酸素剤を用いて包装袋内の酸素を吸収し実質的な脱酸素状態を形成する方法が好ましい。
【0124】
該方法における脱酸素剤は、脱酸素機能を有するものであれば限定されない。例えば、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、亜二チオン酸塩、ヒドロキノン、カテコール、レゾルシン、ピロガロール、没食子酸、ロンガリット、アスコルビン酸および/またはその塩、ソルボース、グルコース、リグニン、ジブチルヒドロキシトルエン、ジブチルヒドロキシアニソール、第一鉄塩、鉄粉等の金属粉等を酸素吸収主剤とする脱酸素剤があげられ、適宜選択できる。また、金属紛主剤の脱酸素剤には、酸化触媒として、必要に応じ、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、塩化第一鉄、塩化第二鉄、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化鉄、臭化ニッケル、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化鉄等の金属ハロゲン化合物等の1種または2種以上を加えても良い。また、脱臭、消臭剤、その他の機能性フィラーを加えることも何ら制限を受けない。また、脱酸素剤の形状は特に限定されず、例えば、粉状、粒状、塊状、シート状等の何れでも良く、また、各種の酸素吸収剤組成物を熱可塑性樹脂に分散させたシート状またはフイルム状脱酸素剤であっても良い。
【0125】
本発明において用いられる包装袋は、例えば、上記脱酸素剤で脱酸素される空間を形成すると共に、該脱酸素された状態を長期に渡り維持する機能を有することが好ましい。従って、酸素ガスの透過度の低い材料で構成されることが必要である。酸素透過度が10cm3/m2・24h・MPa(20℃,90%RH)以下が好ましい。8cm3/m2・24h・MPa(20℃,90%RH)以下がより好ましく、6cm3/m2・24h・MPa(20℃,90%RH)以下がさらに好ましく、4cm3/m2・24h・MPa(20℃,90%RH)以下がよりさらに好ましい。
酸素透過度が10cm3/m2・24h・MPa(20℃,90%RH)を超えた場合は、包装袋で密封していても、外部より包装袋を通じて酸素ガスが通過し、包装袋内の酸素濃度が増大し実質的な脱酸素状態を維持することができなくなるので好ましくない。
【0126】
また、前述のごとく、本発明においては、血液浄化器に充填されている中空糸膜は特定の含水率を保持する必要がある。従って、本発明における包装袋は水蒸気透過度の低い材料で構成し、血液浄化器内への水蒸気の侵入や、逆に、血液浄化器よりの水蒸気の放出を抑制することが好ましい。該水蒸気透過度は50g/m2・24h・MPa(40℃,90%RH)以下が好ましい。40g/m2・24h・MPa(40℃,90%RH)以下がより好ましく、30g/m2・24h・MPa(40℃,90%RH)以下がさらに好ましく、20g/m2・24h・MPa(40℃,90%RH)以下がよりさらに好ましい。50g/m2・24h・MPa(40℃,90%RH)を超えた場合は、包装袋で密封していても、包装袋を通じて水蒸気が通過するために、中空糸膜の乾燥が進行し前記の好ましい含水率が維持できなくなる場合もある。例えば、血液浄化器の密栓不良があった場合においても中空糸膜の乾燥の進行を抑制することができる。
【0127】
本発明において用いられる上記した包装袋の素材や構成は、上記した特性を有すれば限定なく任意である。アルミ箔、アルミ蒸着フィルム、シリカおよび/またはアルミナ等の無機酸化物蒸着フィルム、塩化ビニリデン系ポリマー複合フィルム等の酸素ガスと水蒸気の両方の不透過性素材を構成材とするのが好ましい実施態様である。また、該包装袋における密封方法も何ら制限はなく任意であり、ヒートシール法、インパルスシール法、溶断シール法、フレームシール法、超音波シール法、高周波シール法等が挙げられ、該シール性を有するフィルム素材と前記した不透過性素材とを複合した構成の複合素材が好適である。特に、酸素ガスおよび水蒸気をほぼ実質的に遮断できるアルミ箔を構成層とした外層がポリエステルフィルム、中間層がアルミ箔、内層がポリエチレンフィルムよりなる不透過性とヒートシール性との両方の機能を有したラミネートシートを適用するのが好適である。
【0128】
本発明においては、上記方法において、包装してから少なくとも48時間経過させてから放射線を照射するのが好ましい。72時間以上がより好ましい。ただし、包装後放射線照射までの時間が長すぎると、雑菌が増殖することがあるので、包装後10日以内に該照射を行うのが好ましい。より好ましくは7日以内、さらに好ましくは5日以内である。包装をしてから放射線を照射するまでの間の温度管理は特に必要なく、例えば、室温で行えばよい。48時間未満の状態で該照射処理を行うとプライミング処理後の透水性能の発現性が低下することがある。プライミング後の性能発現性の要因は、長尺繊維を一定の長さに切断した繊細な中空糸膜という事情からすれば、多くの技術要因が錯綜して容易にその原因を特定することは難しいが、中空糸膜の内外表面最表層におけるポリビニルピロリドンの含有量、該中空糸膜からのポリビニルピロリドンの溶出量、含水率、脱気水の溶存酸素濃度などの影響も無視できない。
しかし、生産現場の経験則、技術的観点を加えて、プライミング後の性能発現性を滅菌処理までの経過時間の観点で吟味すれば、次のことが予測される。図4に見るとおり、滅菌処理までの経過時間を10時間、20時間、30時間というように、比較的短くすればプライミング後の性能発現性にばらつきがあり、均一な、安定な製品ができないという可能性が大きい。一方、約48時間を経過してから、例えば60時間、120時間経過してから照射すればプライミング後の性能発現性にばらつきの少ない領域に収束すると言うことである。そうすれば、医療現場に供給した場合に、性能の立ち上がりがよく、透析時間の短縮においても非常に取り扱い上有益であることは間違いない。
【0129】
このプライミング後の性能発現性を90%に設定して、その挙動を中空糸膜からの過酸化水素溶出量との関係について吟味すれば、過酸化水素溶出量が例えば5ppm以下の中空糸膜の場合には、約48時間以下で滅菌処理を行うと、90%付近を中心にばらつきが少ない。一方、過酸化水素溶出量が例えば、10ppm以上の場合に、図4に示す48時間以下の領域でばらつきが大きい挙動を示す傾向が考えられる。しかし、滅菌処理までの経過時間を48時間以上にすれば、ポリスルホン系中空糸膜の過酸化水素溶出量にある程度影響を受けるが、理想のプライミング後の性能発現性を90%以上の領域に収束することが考えられる。このような材料挙動は、例えばポリビニルピロリドンのポリスルホン系中空糸膜の外表面最表層における含有量が25〜50質量%について解析しても同じ傾向を示すものと思われる。
【0130】
さらに、図4に示すような傾向はポリスルホン系中空糸膜の含水率が600質量%以下という条件設定でも多少の挙動の違いが現れるだろうが、脱気水を用いた場合、および不活性ガス飽和水を用いた場合にも、さらには溶存酸素濃度が0.5ppm以下、0.001ppm以上の状態で設定した血液浄化器を使用してプライミング後の性能発現性90%と、滅菌処理までの経過時間48時間の臨界的な挙動を解析すれば同じ傾向を示すことが予想される。このような技術的観点で解析すれば、本件発明のプライミング後の性能発現性、滅菌処理までの経過時間という技術事項が中空糸膜の利用性、品質管理、医療現場の有益性を非常に高めるものである。もちろん、48時間と固定して決め付けることではなく、品質、生産性、材料、構造などの要因を考慮して任意に決めるようなことである。
【0131】
複雑な中空糸膜中の材料、構造からすれば、一元的な理由で決め付けることはできないが、中空糸膜中およびその周りに存在する溶存酸素を5ppm以下、0.001ppm以上に酸素濃度を低くした仕様で血液浄化器の内部を調整した場合に、溶存酸素濃度および中空糸膜中の含水率が時間をかけて、拡散、浸透、移動等により均一な状態となり、材料的に水、溶存酸素、および親水性高分子などに関連する品質が平衡状態になり、このような状態になってから滅菌処理をすれば、均一な品質の良い中空糸膜を含有する血液浄化器となるわけである。むしろ、複雑な材料および構造を有する中空糸膜の一種の材料固定とも言える。このような傾向は、既に本件明細書に詳細に説明をしている。
【0132】
本発明で用いる放射線としては、α線、β線、γ線、中性子線、X線、電子線、紫外線、イオンビームが用いられるが、滅菌効率および取り扱い易さ等から、γ線又は電子線が好適に用いられる。放射線の照射線量は殺菌および架橋が可能な線量であれば特に限定はないが、一般には10〜30kGyが好適である。
【0133】
本発明の血液浄化器は、プライミング処理後10分時点の透水率がプライミング処理後24時間経過時の透水率の90%以上であることが好ましい。92%以上であることがより好ましく、94%以上がさらに好ましい。このことにより、プライミング処理で膜の性能発現に必要な親水化が十分行えると共に血液浄化器の信頼性が向上する。透水率の比が90%に満たないとは、プライミング処理による膜の親水化が不十分であり、本来の膜性能が発現されていないのみならず、水とのなじみが不足している疎水性部があることを示しており、血液還流時に疎水部へのタンパク吸着による目詰まりや血小板の粘着の危険がある。透水率の比が90%以上であることは、実質的に必要な膜性能が発現する状況が進行中であることを示し、速やかに水とのなじみが進行しつつある適正な状態であることを示している。
【0134】
血液浄化器は、使用に当って生理食塩水や透析液で、充填、洗浄および気泡の追い出し等を行う、いわゆるプライミング処理が実施される。ポリスルホン系中空糸膜は、水との馴染み性が必ずしも充分でない場合があり、該プライミング処理に時間を要したりプライミング処理後、十分に水となじみ、性能が発現する迄に時間がかかる場合があるという課題を有する。特に、本発明のようなドライタイプの血液浄化器の場合は、該プライミング処理時における透水率等の中空糸膜の性能が所定レベルに到達する時間が変動する場合があり、短時間で所定レベルの膜性能が発現する中空糸膜の開発が嘱望されており、本発明は、該要求に答えるものである。
【0135】
本発明の血液浄化器は、該血液浄化器を放射線照射後室温で1年以上保存した後に、血液浄化器より中空糸膜を取り出し、ほぼ等分に10分割してそれぞれについて透析型人工腎臓装置製造承認基準により定められた試験を実施した時の中空糸膜の抽出液におけるUV(220〜350nm)吸光度の最大値が全ての部位で0.10以下であるのが好ましい。2年以上経過しても該特性が維持されるのがより好ましい。血液浄化器の保障期間は3年に設定されているので少なくとも3年間該特性が維持されるのが特に好ましい。1年経過でUV(220〜350nm)吸光度の最大値が0.06以下が維持されれば3年間の維持が可能であることを経験的に確認している。
【実施例】
【0136】
以下、本発明の有効性を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
【0137】
1、透水率の測定
透析器の血液出口部回路(圧力測定点よりも出口側)を鉗子により封止し、全ろ過とする。37℃に保温した純水を加圧タンクに入れ、レギュレーターにより圧力を制御しながら、37℃恒温槽で保温した透析器へ純水を送り、透析液側から流出した濾液量をメスシリンダーで測定する。膜間圧力差(TMP)は
TMP=(Pi+Po)/2
とする。ここでPiは透析器入り口側圧力、Poは透析器出口側圧力である。TMPを4点変化させ濾過流量を測定し、それらの関係の傾きから透水率(mL/hr/mmHg)を算出する。このときTMPと濾過流量の相関係数は0.999以上でなくてはならない。また回路による圧力損失誤差を少なくするために、TMPは100mmHg以下の範囲で測定する。中空糸膜の透水率は膜面積と透析器の透水率から算出する。
UFR(H)=UFR(D)/A
ここでUFR(H)は中空糸膜の透水率(mL/m2/hr/mmHg)、UFR(D)は透析器の透水率(mL/hr/mmHg)、Aは透析器の膜面積(m2)である。
【0138】
2、膜面積の計算
透析器の膜面積は中空糸膜の内径基準として求める。
A=n×π×d×L
ここで、nは透析器内の中空糸膜本数、πは円周率、dは中空糸膜の内径(m)、Lは透析器内の中空糸膜の有効長(m)である。
【0139】
3、ポリビニルピロリドンの溶出量
透析型人工腎臓装置製造承認基準に定められた方法で抽出し、該抽出液中のポリビニルピロリドンを比色法で定量した。
乾燥中空糸膜の場合には、中空糸膜1gに純水100mlを加え、70℃で1時間抽出する。得られた抽出液2.5ml、0.2モルクエン酸水溶液1.25ml、0.006規定のヨウ素水溶液0.5mlをよく混合し、室温で10分間放置した、後に470nmでの吸光度を測定した。定量は標品のポリビニルピロリドンを用いて上記方法に従い測定する事により求めた検量線にて行った。
湿潤中空糸膜の場合は、モジュールの透析液側流路に生理食塩水を500mL/minで5分間通液し、ついで血液側流路に200mL/minで通液した。その後、血液側から透析液側に200mL/minでろ過をかけながら3分間通液した後にフリーズドライして乾燥膜を得て、該乾燥膜を用いて上記定量を行った。
【0140】
4、UV(220−350nm)吸光度
透析型人工腎臓装置製造承認基準に定められた方法で抽出した抽出液を分光光度計(日立製作所製U−3000)を用いて波長範囲200〜350nmの吸光度を測定し、この波長範囲での最大の吸光度を求めた。
該測定は、中空糸膜を長手方向に2.7cmずつ10個に等分し、各々の部位から乾燥状態の中空糸膜1gをはかりとり全サンプルについて測定した。
湿潤中空糸膜の場合は、ポリビニルピロリドン溶出量の測定と同様に処理することにより得た乾燥膜を用いて測定した。
【0141】
5、過酸化水素の定量
透析型人工腎臓装置製造承認基準に定められた方法で抽出した抽出液2.6mlに塩化アンモニウム緩衝液(PH8.6)0.2mlとモル比で当量混合したTiCl4の塩化水素溶液と4−(2−ピリジルアゾ)レゾルシノールのNa塩水溶液との混合液を加え、さらに0.4mMに調製した発色試薬0.2mlを加え、50℃で5分間加温後、室温に冷却し508nmの吸光度を測定した。標品を用いて同様に測定して求めた検量線を利用して定量値を求めた。
該測定は、中空糸膜を長手方向に2.7cmずつ10個に等分し、各々の部位から乾燥状態の中空糸膜1gをはかりとり全サンプルについて測定した。
湿潤中空糸膜の場合は、ポリビニルピロリドン溶出量の測定と同様に処理することにより得た乾燥膜を用いて測定した。また、湿潤状態の中空糸膜について定量する場合は、フリーズドライ法で乾燥して得た乾燥膜について測定した。
【0142】
6、ポリマー粒子直径の測定
以下の方法で実施した。
(1)サンプル調製
乾燥膜は臨界点乾燥により24hr以上乾燥したものを使用した。これを試料台の上で繊維軸方向に割腹し、中空糸膜内表面を露出する形でサンプルとした。湿潤膜は中空糸膜内外に水を通し、これを水中で24hr以上浸積したものを使用した。これを水中に設けた試料台の上で繊維軸方向に割腹し、中空糸膜内表面を露出する形でサンプルとした。
(2)測定法
中空糸膜内表面の形態観察は原子間力顕微鏡(AFM)で行った。AFMはSeiko Instruments社製のSPI3800N−SPA300を使用した。湿潤状態での観察は本装置のオプションである、液中観察キットを使用し、純水中で行った。観察中に試料を浸すセルはシャーレセルを使用した。観察モードはDFMモードとした。カンチレバーは長さ450μm、幅60μm、厚さ4μmのSi製矩形型カンチレバーを使用した。カンチレバーはSeiko Instruments社からSi−DF3として市販されているものであり、バネ定数は2N/m程度である。使用するカンチレバーは常に新品で探針先端の汚染がないものを使用した。探針の走査速度は0.25〜1Hzとした。
(3)粒子径測定法
上記測定装置に付属している解析装置を用いて算出した。試料の三次元的なうねりなどを平面化して粒子径測定を行うため、測定後のAFM像は三次元傾斜補正(TILT3)等をかける。場合によってはフラット処理等も必要である。装置付属のソフトに含まれるライン解析処理により、粒子径を決定する。測定する粒子は無作為に選出した120個の粒子であり、異常に大きく見える粒子や異常に小さく見える粒子は測定から除外した。具体的な測定法を図を用いて説明する。図1はライン解析により粒径を決定する粒子の上から見た図である。図2は図1の粒子の断面プロファイルである。各測定点の座標を(x,y,z)とする。zはその測定点における高さである。粒子径は点A,C間の距離であるが、ACは粒子の頂点Bを通る線分でなければならない。また粒子は常に完全な円形とは限らない。点A,Cは頂点Bを通る線分のうち最も長い線分をとるものとする。AC間の距離、すなわち粒子径は以下の式で表される。
D = ((x1−x22+(y1−y221/2
【0143】
7、β2MGクリアランス
膜面積1.5m2(中空糸膜内径基準)の血液浄化器に、総タンパク質濃度7.0 ±0.5g/dL に調整し、37℃に保温したACD 添加牛血漿を血液側流量200mL/minで流し、市販透析液を500mL/min 、ろ過流量15mL/minで流す。血液浄化器出口血漿はろ過流量分のACD 添加生理食塩水と共に、元の血漿の入ったビーカーに戻すリサイクル回路とする。牛血漿にはヒトβ2MG を0.05〜0.1mg/L の濃度になるように添加する。透析開始から5min間隔で20min 間、血液入口、出口、透析液出口中のβ2MG 濃度を測定する。クリアランスは以下の式で計算する。
CL(β2MG)=200×[(200×CBi)−(185×CBo)]/(200×CBi)
ここで、CBi :血液入口部濃度、CBo :血液出口部濃度である。
また、以下の式で計算される%MBEが±50%を超える場合はデータとして採用しない。
%MBE=100×(MB-MD)/MD
ここでMB:(200×CBi)−(185×CBo)、MD:515×CDoである。
【0144】
8、アルブミン漏出量
クエン酸を添加し、凝固を抑制した37℃の牛血液を用いた。牛血漿で希釈し、ヘマトクリットを30%に調製した。該血液を血液浄化器に200mL/minで送液し、20mL/minの割合で血液をろ過した。このとき、ろ液は血液に戻し、循環系とする。溶血を防止する目的で血液浄化器は予め生理食塩水で十分に置換しておく。循環開始後5分後に所定のろ過流量を得ていることを確認し、開始15分後から15分おきにろ液を約1ccサンプリングした。また、開始後15分、60分、120分時に血液浄化器入り口側と出口側の血液をサンプリングし、遠心分離により血漿を得て、これを試験液とした。採取したサンプルをA/G B−テストワコー(和光純薬工業社製)を用いてブロムクレゾールグリーン(BCG法)により、ろ液及び血液・血漿中のアルブミン濃度を算出する。その濃度を基にアルブミンの篩係数を次式により求めた。
SCalb=2×Cf/(Ci+Co)
ここでCfはろ液中のアルブミン濃度、Ciは血液浄化器入り口での血液・血漿中のアルブミン濃度、Coは血液浄化器出口での血液・血漿中のアルブミン濃度をそれぞれ示す。この式に15分及び120分時のデータを代入することにより、15分及び120分でのアルブミンの篩係数を得ることができる。
また、3L除水換算のアルブミンリーク量は次のように求めることができる。30分、45分、60分、75分、90分、105分、120分でサンプリングし、同様にA/GB−テストワコーのBCG法により、ろ液中のアルブミン濃度を算出する。これらのデータを用い、縦軸にアルブミンリーク(TAL[mg/dL])、横軸にln(時間[min])(lnT)をとり、表計算ソフト(ex.マイクロソフト社製EXCEL−XP)を用いて一次近似によりフィッティングカーブを描き、その関係式TAL=a×lnT+bにおける定数aおよびbを求める(相関係数は0.95以上が好ましく、0.97以上がさらに好ましく、0.99以上がより好ましい)。この式TAL=a×lnT+bを用いてT=0からT=240で積分し、これを240[min]で除することにより、平均のアルブミンリーク濃度[mg/dL]を算出する。求めた平均のアルブミンリーク濃度に30dLを乗ずることにより、本願での3L除水換算でのアルブミンリーク量を得ることができる。
【0145】
(実施例1)
混練溶解機に、ポリエーテルスルホン(住化ケムテックス社製スミカエクセル(登録商標)4800P)1質量部、ポリビニルピロリドン(BASF社製コリドン(登録商標)K90)0.144質量部およびジメチルアセトアミド(DMAc)1質量部を仕込み、2時間攪拌し混練をおこなった。引き続き3.02質量部のDMAcとRO水0.16質量部の混合液を添加した。攪拌機の回転数を上げてさらに1時間攪拌を続行し均一に溶解した。このとき、混練および溶解は窒素雰囲気下で行なった。混練および溶解時の温度は40℃を超えないように冷却した。ついで、真空ポンプを用いて系内を−500mmHgまで減圧して製膜溶液の脱泡を行った。脱泡が完了した後、系内は再度窒素置換を行い弱加圧状態で維持した。なお、上記ポリビニルピロリドンは、過酸化水素含有量130ppmのものを用いた。得られた製膜溶液を2段の焼結フィルターに順に通した後、75℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成剤として予め脱気処理した53質量%DMAc水溶液とともに吐出、紡糸管により外気と遮断された400mmの乾式部を通過後、60℃の20質量%DMAc水溶液中で凝固させ、湿潤状態のまま綛に捲き上げた。該中空糸膜約10,000本の束の周りにフィルムを巻きつけた後、27cmの長さに切断し、80℃の熱水中で30分間×4回洗浄した。これを長手方向に流路のとられた通風乾燥機にて60℃で3時間乾燥したのち、50℃で20時間乾燥させた。乾燥開始から乾燥終了までの間、1時間おきに通風の向きを180度反転させて乾燥を実施した。また、通風に用いるエアは、35%RHに調湿したものを用いた。これにより乾燥した中空糸膜を得た。得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は28μm、含水率は3.0質量%、疎水性高分子に対する親水性高分子の割合は3.1質量%であった。PVP溶出量は3ppmであり問題ないレベルであった。
【0146】
得られたポリスルホン系中空糸膜を長手方向に2.7cmずつ10個に等分し、各々の部位から乾燥状態のポリスルホン系中空糸膜1gをはかりとり、透析型人工腎臓装置製造承認基準に定められた試験により抽出液を得、抽出液中の過酸化水素溶出量およびUV(220−350nm)吸光度を測定した。両測定値とも全部位において低レベルで安定しており、それぞれの測定値の最大値は2ppmおよび0.03であった。
【0147】
上記方法で調製したポリスルホン系中空糸膜をポリカーボネート製の容器に挿入し、両端部をウレタン樹脂で接着固定するとともに樹脂端部を切断し中空部を開口させ、流入口を有するキャップを装着してポリスルホン系中空糸膜の有効長215mm、膜面積1.5m2の血液浄化器を作製した。一方、RO水を中空糸膜脱気モジュールに通すことで溶存酸素濃度0.05ppmとした脱酸素水に窒素をバブリングし、窒素飽和水を調製した。この窒素飽和水を血液浄化器の血液側に200ml/分で5分間充填した後、血液側を止めて、0.1MPaの圧力で、60℃の窒素ガスで充填水を追い出し、さらに該通気を続けることにより中空糸膜の含水率を30質量%に調整した。該条件により乾燥された血液浄化器の血液および透析液の出入口すべてをエチレン−プロピレン系合成ゴムよりなるキャップで栓をし、外層が厚み25μmの2軸延伸ポリアミドフィルムと内層が厚み50μmの未延伸ポリエチレンフィルムの積層体よりなる包装袋に密封した。密封状態で室温下、72時間保存した後に、25kGyのγ線を照射した。
【0148】
上記方法で得られた血液浄化器の特性および該血液浄化器中のポリスルホン系中空糸膜の特性を表1に示す。本実施例で得られたポリスルホン系中空糸膜はγ線照射後も過酸化水素溶出量が少なく、かつUV(220−350nm)吸光度が低く高品質が維持されていた。その他の特性も良好であった。また、血液浄化器のポリビニルピロリドン溶出量が低く、プライミング処理後の透水性発現性や長期保存安定性も良好であり血液浄化器として実用性の高いものであった。
【0149】
【表1】

【0150】
【表2】

【0151】
【表3】

【0152】
(比較例1)
実施例1において、通風乾燥に用いるエアとして7%RHの除湿エアを用いるように変更し、2段目の乾燥温度を40℃に変更する以外は、実施例1と同様の方法で比較例1のポリスルホン系中空糸膜および血液浄化器を得た。結果を表2に示す。
本比較例で得られたポリスルホン系中空糸膜は選択透過性が劣っていた。中空糸膜の乾燥に除湿エアを用いたために、ポリマー粒子の膨潤比が低くなったために引き起こされたものと考えられる。
【0153】
(比較例2)
実施例1において、過酸化水素含有量が500ppmのポリビニルピロリドンを原料とし、混練および溶解温度を85℃とし、原料供給系や溶解槽の窒素ガス置換を取り止め、かつ中空糸膜の乾燥を常圧下でマイクロ波を照射して乾燥するように変更した以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を得た。マイクロ波の照射出力は中空糸膜中の含水率が65質量%になるまでは2kW、それ以降は0.8kWとし含水率が0.5質量%になるまで乾燥した。また、乾燥開始時から乾燥終了時までの間、各中空糸膜束の下部から8m/秒の風速にて除湿エア(7%RH)を糸束の下部から上部へと通風した。該乾燥時の中空糸膜の最高到達温度は65℃であった。本比較例においても除湿エアを用いて乾燥したために、ポリマー粒子の膨潤比が低く選択透過性が劣っていた。また、本比較例で得られた中空糸膜の過酸化水素溶出量はレベルが高く、かつ過酸化水素溶出量のサンプリング個所による変動が大きく低品質であった。本比較例においても除湿エアを用いて乾燥したために、ポリマー粒子の膨潤比が低く選択透過性が劣っていた。
【0154】
上記方法で得られた中空糸膜を用いて、脱酸素処理および不活性ガス置換処理していない水を用いた以外は実施例1と同様にして血液浄化器を組立て、50時間保存した後、滅菌処理を行った。
【0155】
本比較例で得られた血液浄化器は上記のごとく選択透過性が劣っている上にγ線照射により過酸化水素溶出量が増大し、長期保存安定性に劣っており、血液浄化器として低品質であった。また、該γ線照射による劣化によりプライミング処理後の透水性発現性が劣っていた。これらの結果を表2に示す。
【0156】
(比較例3)
比較例2において、血液浄化器内および包装袋内を不活性ガス交換せず、滅菌までの保存期間を120時間とした以外は、比較例2と同様にして血液浄化器を組立ておよび滅菌処理を行った。得られた中空糸膜および血液浄化器の特性を表2に示す。本比較例では、比較例2の課題に加えて、モジュール内雰囲気中に存在する酸素ガスが中空糸膜含有水に溶解することにより、γ線照射によるポリビニルピロリドンの劣化抑制効果が低下するので、γ線照射により過酸化水素溶出量が増大し、UV(220−350nm)吸光度が悪化した。従って、長期保存安定性がさらに悪化した。また、プライミング処理後の透水性能の発現性が劣っており、血液浄化器として低品質であった。
【0157】
(実施例2)
ポリエーテルスルホン(住化ケムテックス社製スミカエクセル(登録商標)4800P)1質量部、ポリビニルピロリドン(BASF社製コリドン(登録商標)K−90)0.21質量部、DMAc1.5質量部を2軸のスクリュータイプの混練機で混練した。得られた混練物をDMAc2.57質量部および水0.28質量部を仕込んだ攪拌式の溶解タンク内に投入し、3時間攪拌し溶解した。混練および溶解は内温が30℃以上に上がらないように冷却した。ついで真空ポンプを用いて系内を減圧して製膜溶液の脱泡を行った。なお、上記ポリビニルピロリドンとしては、過酸化水素含有量100ppmのものを用い、原料供給系での供給タンクや前記の溶解タンクを窒素ガス置換した。得られた製膜溶液を2段のフィルターに通した後、70℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成剤として予め脱気処理した50質量%DMAc水溶液と同時に吐出し、紡糸管により外気と遮断された350mmのエアギャップ部を通過後、60℃の水中で凝固させた。凝固浴から引き揚げられた中空糸膜は85℃の水洗槽を45秒間通過させ溶媒と過剰のポリビニルピロリドンを除去した後、綛に巻き取った。該中空糸膜約10,000本の束の周りにポリエチレン製のフィルムを巻きつけた後、30℃の40vol%イソプロパノール水溶液で30分×2回浸漬洗浄した。
【0158】
得られた湿潤中空糸膜束をマイクロ波照射方式の乾燥器に導入し、以下の条件で乾燥した。7kPaの減圧下、1.5kWの出力で30分間中空糸膜束を加熱した後、マイクロ波照射を停止すると同時に減圧度1.5kPaに上げ3分間維持した。つづいて減圧度を7kPaに戻し、かつマイクロ波を照射し0.5kWの出力で10分間中空糸膜束を加熱した。この際、中空糸膜束表面の最高到達温度は65℃であった。乾燥前の中空糸膜束の含水率は315質量%、1段目終了後の中空糸膜束の含水率は29質量%、2段目終了後の中空糸膜束の含水率は16質量%であった。引き続き実施例1と同様の調湿エアを用いた交互通風方向切り替え法で乾燥を行い含水率は3.3質量%の乾燥中空糸膜を得た。得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は27μmであった。
【0159】
得られた中空糸膜を長手方向に2.7cmずつ10個に等分し、各々の部位から乾燥状態の中空糸膜1gをはかりとり、透析型人工腎臓装置製造承認基準に定められた試験により抽出液を得、抽出液中の過酸化水素溶出量およびUV(220−350nm)吸光度を測定した。両測定値とも全部位において低レベルで安定しており、それぞれの測定値の最大値は2ppmおよび0.04であった。
【0160】
このようにして得られた中空糸膜を用いて、実施例1と同様にして血液浄化器を組み立てた。該血液浄化器を実施例1と同様の方法で、中空糸膜の含水率を280質量%に調整し、滅菌までの保存時間を216時間とした以外は、実施例1と同様の方法でγ線照射を行った。
本実施例で得られた中空糸膜および血液浄化器は、実施例1で得られたものと同様に高品質であった。結果を表1に示した。
【0161】
(実施例3)
実施例2と同様の方法で、ポリスルホン(アモコ社製P−3500)18質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製コリドン(登録商標)K−60)9質量%、ジメチルアセトアミド(DMAc)68質量%、水5質量%よりなる製膜溶液を調製した。なお、上記ポリビニルピロリドンとしては、過酸化水素含有量100ppmのものを用いた。得られた製膜溶液を2段のフィルターに通した後、40℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成剤として予め減圧脱気処理した55質量%DMAc水溶液と同時に吐出し、紡糸管により外気と遮断された600mmのエアギャップ部を通過後、50℃の水中で凝固させた。ドラフト比は1.1であった。凝固浴から引き揚げられた中空糸膜は85℃の水洗槽を45秒間通過させ溶媒と過剰のポリビニルピロリドンを除去した後巻き上げた。該中空糸膜約10,000本の束を純水に浸漬し、121℃×1時間オートクレーブにて洗浄処理を行った。引き続き実施例1と同様にして乾燥した。乾燥後の中空糸膜の含水率は1.6質量%であった。得られた中空糸膜の内径は201μm、膜厚は43μmであった。
【0162】
得られた中空糸膜を長手方向に2.7cmずつ10個に等分し、各々の部位から乾燥状態の中空糸膜1gをはかりとり、透析型人工腎臓装置製造承認基準に定められた試験により抽出液を得、抽出液中の過酸化水素溶出量およびUV(220−350nm)吸光度を測定した。両測定値とも全部位において低レベルで安定しており、それぞれの測定値の最大値は3ppmおよび0.04であった。
【0163】
このようにして得られた中空糸膜を用いて、該中空糸膜の含水率調整に用いる水を脱気水とし、かつ包装後からγ線照射までの放置時間を120分に変更する以外は、実施例1と同様の方法で血液浄化器を得た。なお、密栓した血液浄化器と共に脱酸素剤(王子タック株式会社製 タモツ(登録商標))1個を包装袋で密封して、包装袋内の脱酸素を行い、長期保存しても血液浄化器内に酸素ガスが侵入するのを抑える対処をした。本実施例で得られた中空糸膜および血液浄化器は、実施例1で得られたものと同様に高品質であった。結果を表1に示した。
【0164】
(実施例4)
実施例2と同様の方法で、ポリスルホン(アモコ社製P−1700)17質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製コリドン(登録商標)K−60)5質量%、ジメチルアセトアミド(DMAc)73質量%、水5質量%よりなる製膜溶液を調製した。なお、上記ポリビニルピロリドンとしては、過酸化水素含有量120ppmのものを用いた。得られた製膜溶液をフィルターに通した後、40℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成剤として減圧脱気処理された35質量%DMAc水溶液と同時に吐出し、紡糸管により外気と遮断された600mmのエアギャップ部を通過後、50℃の水中で凝固させた。凝固浴から引き揚げられた中空糸膜は85℃の水洗槽を45秒間通過させ溶媒と過剰のポリビニルピロリドンを除去した後巻き上げた。該中空糸膜約10,000本の束を純水に浸漬し、121℃×1時間オートクレーブにて洗浄処理を行い、実施例1と同様の方法で乾燥を行った。含水率は1.4質量%であった。乾燥処理中の中空糸膜の最高到達温度は56℃であった。得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は43μmであった。
【0165】
得られた中空糸膜を長手方向に2.7cmずつ10個に等分し、各々の部位から乾燥状態の中空糸膜1gをはかりとり、透析型人工腎臓装置製造承認基準に定められた試験により抽出液を得、抽出液中の過酸化水素溶出量およびUV(220−350nm)吸光度を測定した。両測定値とも全部位において低レベルで安定しており、それぞれの測定値の最大値は2ppmおよび0.03であった。
【0166】
このようにして得られた中空糸膜を用いて、該中空糸膜の含水率を360質量%にした以外は実施例1と同様の方法で血液浄化器を組み立て、密栓、包装してから50時間後にγ線に変え加速電圧が5000kVである電子線照射機を用いて電子線を照射するように変更する以外は、実施例1と同様にして滅菌血液浄化器を得た。本実施例で得られた中空糸膜および血液浄化器は、実施例3で得られたものと同様に高品質であった。結果を表1に示した。
【0167】
(比較例4)
実施例2と同様の方法で、ポリスルホン13質量%、ポリビニルピロリドン5質量%、ジメチルアセトアミド77質量%、水5質量%よりなる製膜溶液を調製した。なお、上記ポリビニルピロリドンとして、過酸化水素含有量500ppmのものを用いた。85℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成剤として減圧脱気処理された65質量%DMAc水溶液と同時に吐出し、中空糸膜を得た。得られた中空糸膜を用いて血液浄化器を作製し、血液浄化器に密栓をせず、滅菌までの保存期間を216時間とした以外は、比較例3と同様にして滅菌処理を行った。結果を表2に示す。本比較例では、中空糸膜の断面構造が網目構造であった。また中空糸膜中に存在する水が窒素飽和状態になっていない上、血液、透析液の出入口に栓をしなかったため、血液浄化器内に空気が浸入し、γ線照射時に中空糸膜の周りが空気で満たされ、比較例3よりさらに中空糸膜素材の劣化が増大したものと思われる。
【0168】
(参考例1および2)
実施例1の方法において、それぞれ包装後、室温で24時間および40時間放置後に実施例1と同様の条件でγ線照射をするように変更する以外は、実施例1と同様して中空糸膜および血液浄化器を得た。これらの特性を表3に示す。本比較例では密栓をしてからγ線処理までの時間が短いために、実施例1で得られた血液浄化器に対して、プライミング処理後の透水性能の発現性が劣っていた。従って、本比較例の血液浄化器は実用性の低いものであった。また、プライミング処理後の透水性能の発現性に対する包装してからγ線照射までの経過時間が影響することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明の血液浄化器は、ドライタイプであるので、軽い、凍結しない、雑菌が繁殖しにくい等の利点がある。また、本発明の血液浄化器は、プライミング処理後の透水性能発現性に優れており、プライミング処理が短時間で行えるという利点を有する。また、ラジカル捕捉剤が含まれていないので、血液浄化用として使用する場合は、事前に該ラジカル捕捉剤を洗浄除去する操作が不要であるという利点がある。さらに、本発明においては、ドライ状態で、かつラジカル捕捉剤の非存在下で、放射線照射しても放射線照射による中空糸膜の劣化が抑制されるという従来技術では達成しえない効果が発現されるので、該劣化反応により生ずる過酸化水素生成が少なく、本発明の血液浄化器は、長期保存安定性に優れているという利点を有する。例えば、該血液浄化器に装填されている中空糸膜は、放射線照射を受けても、過酸化水素の生成が抑制されており、該過酸化水素により引起されるポリビニルピロリドン等の劣化が抑制されるので、血液浄化器を長期保存しても透析型人工腎臓装置製造承認基準であるUV(220−350nm)吸光度の最大値を0.10以下に維持することができ、血液浄化器を長期保存した場合の安全性が確保できるという利点がある。従って、産業界に寄与することが大である。
【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1】ライン解析により粒径を決定する際の概念図である。
【図2】図1の粒子の断面プロファイルを示す図である。
【図3】血液浄化器の断面図である。
【図4】プライミング処理後の性能発現性と滅菌処理前経過時間との一般的傾向を表す模式図である。
【符号の説明】
【0171】
1:血液浄化器
2:ハウジング
3:中空糸膜束
4:接着樹脂
5:キャップ
6a:透析液導入口
6b:透析液排出口
7a:血液導入口
7b:血液排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも血液接触側表面がポリマー粒子の集合体からなる中空糸膜が充填されてなる血液浄化器であって、プライミング処理後10分時点の透水率がプライミング処理後24時間経過時の透水率の90%以上である血液浄化器。
【請求項2】
該ポリマー粒子の湿潤状態における平均粒子直径が10〜300nmである請求項1に記載の血液浄化器。
【請求項3】
該ポリマー粒子の乾燥状態における平均粒子直径に対する湿潤状態における平均粒子直径の比が1.1以上である請求項1または2に記載の血液浄化器。
【請求項4】
該中空糸膜がポリスルホン系樹脂とポリビニルピロリドンからなる請求項1〜3いずれか記載の血液浄化器。
【請求項5】
血液浄化器内の中空糸膜の含水率が600質量%以下である請求項1〜4いずれか記載の血液浄化器。
【請求項6】
血液浄化器内の中空糸膜を脱気水を用いて含水率5〜600質量%に調整した後、血液浄化器の血液および透析液の出入り口すべてに栓をした状態で外気および水蒸気を遮断する包装袋で密封して放射線を照射することを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の血液浄化器。
【請求項7】
血液浄化器内の中空糸膜の含水率調整に用いる脱気水が脱酸素水である請求項6に記載の血液浄化器。
【請求項8】
血液浄化器内の中空糸膜の含水率調整に用いる脱気水が不活性ガス飽和水である請求項6に記載の血液浄化器。
【請求項9】
脱気水の溶存酸素濃度が0.5ppm以下であることを特徴とする請求項6〜8いずれか記載の血液浄化器。
【請求項10】
血液浄化器の血液および透析液の出入り口すべてに密栓をしてから少なくとも48時間経過した後、放射線照射することを特徴とする請求項1〜9いずれか記載の血液浄化器。
【請求項11】
放射線照射後の血液浄化器を室温で1年以上保存した後に、血液浄化器より中空糸膜を取り出し、該中空糸膜を長手方向に10個に分割して、各部位について透析型人工腎臓装置製造承認基準により定められた試験を実施した時の中空糸膜の抽出液におけるUV(220〜350nm)吸光度の最大値が0.10以下である請求項1〜10いずれか記載の血液浄化器。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−301007(P2007−301007A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−130256(P2006−130256)
【出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】