説明

血管機能を変化させる疾病の診断および治療ツール

【解決手段】
本発明は、血管健康に影響を及ぼす疾病および炎症性疾病に特に役立つ診断および治療ツールならびに応用に関する。詳細には、前記診断および治療ツールは、内皮糖衣の適切な検出または調整を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管健康状態に影響を及ぼす疾病および炎症疾患に特に役立つ診断および治療ツールならびに応用に関する。詳細には、前記診断および治療ツールは、内皮糖衣の適切な検出または調整を使用する。
【背景技術】
【0002】
血管疾患は、現代の人間社会における疾病率と死亡率の主要因である。鬱血性心不全ならびに心筋梗塞、突然心臓死または卒中の大惨事のような心臓血管障害と脳血管障害は、幅広く認識されているが、血管機能不全は、たとえば、腸、腎臓、上肢または下肢(たとえば、末梢動脈閉塞疾患)などの他の臓器または身体部分への血液供給も妨げる場合がある。
【0003】
血管疾患の中心的な病因学的要素は、アテローム発生(すなわち、内膜下層における粥状斑の進行性形成)であり、これは、動脈と小動脈内で炎症性アテローム性動脈硬化病変を引き起こす。血小板付着が動脈狭窄をもたらし、それにより動脈によって送られる血液供給が不十分になることがある。さらに、血小板の炎症が、線維性被膜を破壊し、血栓を形成し、その結果梗塞を引き起こす場合がある。
【0004】
とりわけ内皮機能不全、血管透過率の増大、白血球および血小板凝集の増大、および最終的にアテローム発生とアテローム性動脈硬化症を含む血管病変の進行の発病率および/または速度の傾向は、特に、急性および慢性炎症状態および疾患、慢性血管チャレンジなどの種々の危険因子または症状を増大させたりそれらと関連したりする場合がある。たとえば、慢性関節リウマチと全身性紅斑狼瘡などの慢性炎症疾患の患者は、加速度的なアテローム発生を患う可能性があり(Solomonら、2003, Circulation 107: 1303-7; Romanら、2003. N Engl J Med 349: 2399-406)、ヒトの血流内の高い内毒素レベルは、アテローム性動脈硬化症の高いリスクと関連しており(Stoll et al. 2004. Arterioscler Thromb Vasc Biol 24: 2227-36)、内毒素の連続投与は、ウサギの高コレステロール症食物でアテローム性動脈硬化病変形成を増大させることが分かっており(Lehrら、2001. Circulation 104: 914-20)、予防接種、C反応性タンパク質の注入、内毒素投与などの単一炎症チャレンジでも、ヒトの内皮機能不全の原因になる場合がある。
【0005】
その結果、特に血管変質を発生させる危険があるか血管病変を患うことが疑わしいか分かっている対象と患者群で、アテローム発生的な刺激に対する血管壁の脆弱性を検出できる診断ツールの緊急な必要性が存在する。さらに、アテローム発生的な刺激に対する血管壁の保護能力を高めることができ、それによりさらなる治療および予防処置を提供できる新規な必要性も存在する。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、当該技術分野における前述の必要性に取り組む。
より具体的には、本発明は、さらに、血管脆弱性と病因を検出する診断ツールを教示する。前記診断ツールは、好ましくは、血管病変に対する従来既知の診断手法よりも優れた1つまたは複数の利点、たとえば、より高速、高感度、特異および/または単純な検出、血管病変のより早期の検出、複数の関連パラメータの同時検出、より少ない出発原料からの検出、または低侵襲性もしくは非侵襲性技法によって得た出発原料からの検出を必要とする場合がある。
【0007】
本発明は、血管脆弱性と病因を検出する改善するさらに他の方式も教示する。本発明の予防または治療介入は、好ましくは、血管病変の従来既知の治療より優れた1つまたは複数の利点、たとえば、とりわけ、より高い効果、特異性および/または許容性の治療、発生前または初期段階の血管機能不全を含む疾病の様々な段階全体への効果、既存の療法を補う可能性のある新規メカニズムによる作用を必然的に伴うことがある。
【0008】
詳細には、本発明者は、最終的に、血管脆弱性と疾病(たとえば、炎症チャレンジ)の発生を促進するチャレンジが、内皮糖衣の明らかな変化(たとえば、全身性および微小血管糖衣量または寸法の減少、糖衣透過度の増加、ヒアルロン酸やヘパラン硫酸などの糖衣成分のシェディング、および糖衣代謝に関与する酵素レベルの変化をもたらすことを実証した。
【0009】
したがって、血管健康のための内皮完全性(糖衣機能を含む)の重要性も考慮して、発明者は、糖衣と関連したパラメータまたはマーカーの監視が、血管機能不全と疾病のリスクまたは存在ならびに炎症チャレンジに対するアテローム発生感受性に関する有益な情報を提供できることを意図する。さらに、発明者は、(たとえば、糖衣成分を補充するか、蓄積された糖衣を刺激するか、破壊された糖衣を阻害することによって)糖衣完全性を保護しかつ/または再構成することを目的とする予防および/または治療介入が、血管機能不全と疾病の予後、および炎症ならびに炎症チャレンジに対するアテローム発生感受性を防ぐかまたは改善することができることも意図する。
【0010】
したがって、一態様において、本発明は、対象の血管疾患または血管疾患感受性を診断するために、糖衣の状態、量または寸法の変化、糖衣の透過度、糖衣のシェディングおよび/または糖衣代謝の1つまたは複数の酵素活性を検出する段階を含む方法を提供する。限定ではなく例として、糖衣ホメオスタシスのそのような態様の変化を、血管疾患または血管疾患に対する感受性を有しない対照対象と比較して、病変表現型を示す場合がある大きな差が生じるかどうかを評価することができる。
【0011】
さらに他の態様では、本発明は、対象の炎症チャレンジに対するアテローム発生感受性を診断し、前記対象の糖衣の状態、量または寸法の変化、糖衣の透過度、糖衣のシェディングおよび/または糖衣代謝の1つまたは複数の酵素活性を検出する段階を含む方法を提供する。限定ではなく例として、糖衣ホメオスタシスのそのような態様の変化を、炎症チャレンジを持たない対照対象と比較して、病変表現型を示す場合がある大きな差が生じるかどうかを評価することができる。
【0012】
一実施形態では、糖衣の状態、量または寸法の前記動揺(perturbation)、糖衣の透過度、糖衣のシェディング、および/または糖衣代謝の1つまたは複数の酵素活性を、限定なしに個々の血管(たとえば、個別の動脈または小動脈)内、組織内、身体部分内、臓器レベルおよび/または全身性レベルで検出することができる。
【0013】
上記の診断方法では、糖衣の状態、量もしくは寸法、糖衣の透過度、糖衣のシェディングおよび/または糖衣代謝の1つまたは複数の酵素の活性状態を決定するのに必要な測定が、対象から取り出された生体試料に実行されることが好ましい。そのような生体外分析は、一般に、実行が容易で、高スループット分析に適する。適切な試料には、限定ではなく、対象から得られた全血、血漿または血清の試料が含まれる。これらの体液は、血管内皮組織と直接接触する生体内にあり、したがって糖衣動揺に敏感である。さらに、少なくともいくつかの糖衣指標(たとえば、限定ではなく例として、レクチン様タンパク質と関連した糖衣など)が、尿試料中で検出可能でもよい。
【0014】
一実施形態では、糖衣動揺は、対象から取り出された試料(たとえば、血液、血漿、血清試料)で診断されてもよく、前記試料において、とりわけ糖衣派生分子(たとえば、少糖類、多糖類、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、プロテオグリカン)、糖衣同化または異化に触媒作用を及ぼす酵素(たとえば、ヒアルロニダーゼ)、および/または糖衣と合体されまたは他の方法で関連することができ、それにより(全身性)糖衣の量もしくは寸法および/またはその分子アクセシビリティに関する情報を提供することができる内因性または外因性(たとえば、注入された)物質の存在および/または濃度を検出する段階を含む。限定ではなく例として、試料(たとえば、血漿または尿試料)内で決定されたような糖衣と通常関連する内因性レクチン様タンパク質のプロファイルは、糖衣量または寸法および/またはその分子アクセシビリティに関する適切な情報を提供することができる。限定ではなく例として、前述のような糖衣ホメオスタシスの指標またはマーカーの変化を対照対象と比較して、病変表現型を示す場合がある著しい差異が生じるかどうかを評価することができる。
【0015】
一実施形態では、以上または他の糖衣マーカーの存在および/または濃度は、免疫沈降、酵素免疫吸着法(ELISA)、標識免疫検定法(RIA)、比色および蛍光酵素活性分析などのような当該技術分野で既知の分析技術によって、順次または同時に検出されてもよい。
【0016】
本発明の別の好ましい実施形態では、糖衣の状態は、個々の毛細血管の内皮糖衣寸法または糖衣幅(GW)を決定するサイズ分布法によって決定することができる。さらに、サイズ分布法は、血管中の赤血球幅(RBCW)、血管径(VD)、および毛細管容積余量(CVR)の測定を提供することもできる。したがって、試料は、試験対象から取り出されない。サイズ分布法および技法の使用は、たとえば、高スループット、患者と試料収集者のストレスの低減、検出コストの削減、基準との比較の自動化、装置の携帯化、検出の高速化、および/または困難で算術的に要求の厳しい実験室技術および要員の回避など、1つまたは複数の利点をもたらす場合がある。本発明の方法と装置のさらに他の利点は、たとえば中央および/または稼働ワークステーションへの接続による、家庭での監視の個別化、状態の(半)永久観察が可能化である。したがって、本発明は、対象の血管疾患または炎症チャレンジに対するアテローム発生感受性の分析を可能にする。
【0017】
したがって、本発明は、また、糖衣状態を検出し、かつ/または化合物(たとえば、糖衣同化または異化に触媒作用を及ぼす酵素、および/または糖衣と通常関連する内因性レクチン様タンパク質などの糖衣と合体されまたは他の方法で関連することができる内因性または外因性物質など)の糖衣状態への影響を検出するように構成された糖衣モニタ(GM)装置を提供する。
【0018】
また、本発明は、前述の糖衣モニタ、ソフトウェア、および必要に応じて1つまたは複数のバッファ、試薬、較正検体、陽性および/または陰性対照、および/または前記糖衣モニタを使用して診断方法を実行するのに必要な使用説明書を含むキットに関する。
【0019】
別の好ましい実施形態では、以上その他の糖衣マーカーの存在および/または濃度は、バイオセンサ装置を使用して、順次または同時に検出されてもよい。バイオセンサは、感知可能でかつ特異的な生物学的構成要素(たとえば、検出される検体と結合するための高い親和性と特異性を有する受容体、検出される検体を含む反応に触媒作用を及ぼす酵素、または検出される酵素の基質)を、生物学的事象(たとえば、前記の結合または反応)の監視を可能にする物理的、化学的または物理化学的検出器構成要素と組み合わせる。バイオセンサ技術を使用することにより、たとえば、より少量の試料を使用してスループットを高めかつ患者と試料収集者へのストレスを低減できること、1つの試料で2つ以上のマーカーを同時に検出できること、使い捨て、携帯型、潜在的に低コストの検出が可能になること、より高速な検出、困難で算術的に要求の厳しい実験室技術の回避などの1つまたは複数の利点を提供する。
【0020】
したがって、本発明は、また、対象から取り出された試料において、糖衣派生分子、糖衣同化または異化に触媒作用を及ぼす酵素、および/または糖衣と通常関連する内因性レクチン様タンパク質などの糖衣と合体されまたは他の方法で関連することができる内因性または外因性物質の存在および/または濃度を検出するように構成されたバイオセンサ装置を提供する。
【0021】
また、本発明は、前述のバイオセンサ装置と、必要に応じて1つまたは複数のバッファ、試薬、較正検体、陽性および/または陰性対照、および/または前記バイオセンサ装置を使用して診断方法を実行するのに必要な使用説明書を含むキットに関連する。
【0022】
本発明は、さらに、対象の血管疾患または炎症チャレンジに対するアテローム発生感受性を診断するための本発明の前記の診断方法における、前述のようなバイオセンサ装置またはそのようなものを含むキットに関する。
【0023】
他の実施形態では、いくつかの診断方法は、対象の身体に実行されなければならない場合がある。限定ではなく例として、例に示されたように、舌下微小循環系の直交偏光スペクトル(OPS)イメージングによってヒトや他の対象において、個々の毛細血管における内皮糖衣の状態および/または厚さを測定することができる。別の例として、対象(主に動物対象)の個々の血管における糖衣を、糖衣結合タンパク質に取り付けられた蛍光ラベルまたは糖衣透過トレーサ分子の注入を含む侵襲性顕微鏡可視化技術を使用して検査することができる。さらに他の例として、糖衣状態は、非侵襲性方法である本発明のサイズ分布法によって監視または決定することができる。サイズ分布法は、糖衣モニタで実行されることが好ましい。
【0024】
さらに他の態様は、血管疾患を治療し、炎症チャレンジに対するアテローム発生感受性を低下させ、または炎症性疾病の治療ための薬剤を製造するための糖衣成分の使用に関する。関連した態様は、薬剤としてまたは血管疾患の治療で使用し、炎症チャレンジに対するアテローム発生感受性を低下させ、または炎症性疾病を治療するための糖衣成分に関する。また、特に血管疾患の治療で使用し、炎症チャレンジに対するアテローム発生感受性を低下させ、または炎症性疾病の治療で使用するための糖衣成分を含む医薬組成物が提供される。同様に、血管疾患を治療し、炎症チャレンジに対するアテローム発生感受性を低下させ、または治療を必要とする対象において、治療上または予防上有効な量の糖衣成分を前記対象に投与することを含む方法が開示される。
【0025】
別の態様は、血管疾患を治療し、炎症チャレンジに対するアテローム発生感受性を低下させ、または炎症性疾病の治療ための薬剤を製造するための糖衣異化酵素の阻害剤の使用に関する。関連した態様は、薬剤として使用し、血管疾患の治療で使用し、炎症チャレンジに対するアテローム発生感受性を低下させ、または炎症性疾病の治療で使用するための糖衣異化酵素の阻害剤に関する。また、特に血管疾患の治療で使用し、炎症チャレンジに対するアテローム発生感受性を低下させ、または炎症性疾病の治療で使用するための糖衣異化酵素の阻害剤を含む医薬組成物が提供される。同様に、血管疾患を治療し、炎症チャレンジに対するアテローム発生感受性を低下させ、または炎症性疾病の治療するために、そのような治療を必要とする対象において、治療上または予防上有効な量の糖衣異化酵素の阻害剤を前記対象に投与することを含む方法が開示される。
【0026】
上記の診断方法と治療介入が、特に個々の患者に対する治療を有利に調整するために、組合せまたは同時に使用されてもよいことを理解されたい。たとえば、前述のような診断分析によって、1つまたは複数の特定の糖衣成分が、患者において著しく減少したと判断された場合に、次に、前記患者の治療が、前記成分の補充を目的とされてもよい。別の例では、前述の診断分析によって、1つまたは複数の特定の糖衣劣化酵素が、患者において活動し過ぎであると判定された場合に、前記患者の治療が、前記酵素を阻害することを目的とされてもよい。したがって、実施形態では、本発明の診断分析に基づいて、本明細書で定義されたような適切な予防または治療介入が判定または決定されてもよい。
【0027】
また、この診断方法および装置(たとえば、バイオセンサ、サイズ分布法、および/または糖衣モニタ)を使用して、個々の患者の場合でも、糖衣代謝酵素の量または寸法、透過度、シェディング、活性などの糖衣の状態およびパラメータに対して、血管疾患または炎症における治療介入(たとえば、本明細書で開示されたような治療、または他の治療(とりわけ糖尿病患者のインシュリン感受性を改善する薬剤、癌患者のヘパリン治療、炎症性疾病などにおける内皮機能を改善するように設計された既存の治療など))の有効性を監視することができる。
【0028】
炎症が、血管病変を発生させる可能性を高める傾向があることに注意されたい。したがって、一実施形態では、血管疾患の存在またはリスクを決定し、または炎症チャレンジに対するアテローム発生感受性を決定する前述の診断方法、および/または糖衣変調を伴う血管疾患の前述の治療は、特に、炎症を有する対象(たとえば、炎症状態または疾患を有する患者)に有効である。
【0029】
また前述のように、血管病変は、慢性血管チャレンジなどの様々な危険因子およびチャレンジと関連付けられてもよい。したがって、一実施形態では、血管疾患の存在またはリスクを決定する前述の診断方法、および/または糖衣調整を含む血管疾患の前述の治療は、特に、年齢、喫煙、高血糖および脂質異常症から選択された1つまたは複数の危険因子を有する対象、および/または虚血再潅流傷害、第1型糖尿病、第2型糖尿病、高血糖、インスリン抵抗性、代謝症候群、脂質異常症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、高血圧症、癌、感染症および外傷から選択された1つまたは複数の病変を有する対象に有効である。
【0030】
本発明の以上その他の態様と好ましい実施形態は、以下の節および添付の特許請求の範囲で説明される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1a】エタネルセプト前処理のある場合またはない場合の内毒素チャレンジの前と後で全身性糖衣量が決定された。データは、平均±SEM、*p<005,#p<0.01として示される。
【図1b】生理食塩水群(塗りつぶした正方形)とエタネルセプト群(塗りつぶしていない正方形)におけるベースライン下の血漿デクストラン40クリアランス曲線(塗りつぶしていない菱形と塗りつぶした菱形)。内毒素注入4時間後に、生理食塩水群において、デクストラン40血漿クリアランス率がエタネルセプト群より増加した。各時点に示された値は、平均±SEMとして表される。
【図1c】個々の舌下毛細管の直接イメージングによって決定されたような糖衣寸法へのLP(内毒素)の影響を示す図である。内毒素チャレンジの前(1c)と後(1d)で、毛細管糖衣寸法が決定された。X軸は、毛細管糖衣寸法(ミクロン)を示す。
【図1d】個々の舌下毛細管の直接イメージングによって決定されたような糖衣寸法へのLP(内毒素)の影響を示す図である。内毒素チャレンジの前(1c)と後(1d)で、毛細管糖衣寸法が決定された。X軸は、毛細管糖衣寸法(ミクロン)を示す。
【図2】エタネルセプト前処理ない場合(点)またはある場合(菱形)の内毒素が課されたヒト・ボランティアの血漿ヒアルロン酸レベル(図2a)とヒアルロニダーゼ活性(図2b)。データは、平均±SEM(*p<0.05対ベースライン、群間で#p<0.05)として示される。
【図3】炎症のマーカーは、ヒト・ボランティアにおける内毒素チャレンジの際に血漿lL−6レベル(図3a、エタネルセプト前処理のない場合(点)またはある場合(菱形))と血漿CRP血漿レベル(図3b。エタネルセプト前処理のない場合(白棒)とある場合(黒棒))によって評価された。凝固活性(図3c。プロトロンビン断片1+2によって評価された)とフェブリン溶解パラメータ(図3d。Dダイマー・レベルによって決定された)が示される。(ドット:LP+生理食塩水、菱形:LP+エタネルセプト)。データは、平均±SEM(*p<0.05対ベースライン、#p<0.01対ベースライン、群間で#p<0.05)として示される。
【図4】先行技術の測定方法と比較した本発明の測定方法の図である。
【図5】ニトログリセリンのある状態とない状態の測定赤血球幅(図5a)、糖衣幅(図5b)および健常対照に対する糖衣幅の変化(図5c)との血管経の関係を表す図である。
【図6】健常対照対象と癌対象における測定赤血球幅(図6a)と糖衣幅(図6b)および健常対照に対する糖衣幅の変化(図6c)と血管経の関係を表す図である。
【図7】VEGF受容体阻害化合物による治療時の健常対照対象と癌対象の測定赤血球幅(図7a)と糖衣幅(図7b)および健常対照に対する糖衣幅の変化(図7c)と血管径の関係を表す図である。
【図8】健常対照対象と糖尿病対象の測定赤血球幅(図8a)と糖衣幅(図8b)および健常対照に対する糖衣幅(図8c)の変化と血管径の関係を表す図である。
【図9】擬糖化合物による処理時の健常対照対象と糖尿病対象の測定赤血球幅(図9a)と糖衣幅(図9b)および健常対照に対する糖衣幅(図9c)の血管径との関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
定義
本明細書で使用されるとき、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈で明白に指定されない限り単数概念と複数概念の両方を含む。
【0033】
本明細書で使用される用語「comprising」、「comprises」、「comprised of」は、「including」、「includes」、または「containing」または「contains」と同義語であり、また包括的または無制限であり、追加の列挙されていない部材、要素または方法段階を除外しない。本明細書で使用される用語「comprising」、「comprises」および「comprised of」は、用語「consisting of」、「consists」および「consists of」を含むことを理解されよう。
【0034】
端点による数値範囲の詳説は、それぞれの範囲内にあるすべての数と分数ならびに列挙された端点を含む。
【0035】
本明細書においてパラメータ、量、持続時間などの測定可能な値を指すときに使用される用語「約(about)」は、開示された発明を実行するのに適切である限り、指定値から±10%以下、好ましくは±5%以下、より好ましくは±1%以下、さらに好ましくは±0.1%以下の変化量を包含する意味である。修飾語「約(about)」が指す値自体が、具体的かつ好ましく開示されることを理解されたい。
【0036】
本明細書で引用されたすべての文書は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0037】
特に定義されない限り、技術および科学用語を含む本発明を開示する際に使用されるすべての用語は、本発明が属する技術の当業者によって一般的に理解されるような意味を有する。さらに他の指針として、本発明の教示をよりよく理解するために用語の定義が含まれる。
【0038】
用語「対象(subject)」または「患者(patient)」は、動物、より好ましくは温血動物、さらに好ましくは脊椎動物、さらにより好ましくは特に治療、観察または実験の対象であったヒトとヒト以外の動物を指すことが好ましい。用語「哺乳動物」には、限定なしに、ヒト、家畜、動物園動物、スポーツ動物、ペット動物、愛玩動物および実験動物などと分類された任意の動物が含まれる(たとえばネズミ、ラット、ハムスター、ウサギ、犬、猫、モルモット、牛、畜牛、羊、馬、豚および霊長動物(たとえば、猿、類人猿)など)。詳細には、両方の性別とそのすべての年齢分類の両方を含むヒト対象が好ましい。
【0039】
本明細書で使用されるとき、「治療を必要とする対象」のような語句は、血管疾患や炎症などの所定の症状の治療から利益を得るであろう対象を含む。そのような対象には、限定なしに、前記症状と診断された対象、前記症状を発症しがちな対象、および/または前記症状が予防される対象が含まれる。
【0040】
用語「試料」は、一般に、生物源から得られた非精製または精製済みの形態の物質を指す。生体試料は、一般に、体液、組織、細胞などの収集、抽出、生検または切除などに適した方法によって、関心対象などの生物源から取り出される場合がある。本発明において特に有用な試料には、対象から得られた全血、血漿、血清および尿が含まれる。生体試料は、さらに、限定なしに、細胞または組織溶解物、ホモジェネート、上澄み、断片など、その生体試料の適切な派生物を準備するように処理されてもよい。試料が細分され、その一部分(たとえば、当該の検体を含むと期待される部分など)が本発明の診断方法で使用されるように分離または濃縮されてもよい。したがって、試料が、本発明の方法に直接適用されてもよく、使用される前に様々な程度に処理、抽出または精製されてもよい。
【0041】
症状
要約の節で述べたように、本発明は、特に血管疾患および炎症で役立つ診断ツール、予防ツールおよび治療ツールならびに方法について述べる。詳細には、血管疾患および炎症は、さらに、糖衣(glycocalyx)の状態によって特徴付けることができる。
【0042】
本明細書で使用される用語「血管疾患」は、心臓およびと血管を含む脈管系に影響を及ぼす任意の疾患、障害または症状を指す。血管疾患には、限定なしに、心疾患、脳血管疾患、末梢血管疾患、アテローム性動脈硬化症および動脈硬化性血管疾患が含まれる。この用語は、発生前血管病変ならびに明白な症状を引き起こす血管機能不全を含む。たとえば、この用語には、アテロームおよびアテローム斑の出現、およびその結果生じる疾病および障害による血管の狭窄、閉塞または動脈瘤によって引き起こされる発生前および症候性血管機能不全が含まれる。血管疾患の特定の例には、限定ではなく、アテローム性動脈硬化症、鬱血心不全、冠動脈疾患(CAD)、突然心臓死、心筋梗塞、乏血、卒中、末梢血管閉塞疾患(PAOD)などの末梢血管障害、静脈血栓塞栓症、肺塞栓症が含まれる。
【0043】
疾病に対する「感受性(susceptibility)」という用語は、たとえば血管疾患などの疾患に対する対象の罹りやすさ、可能性、脆弱性または疾病素質を示す。
【0044】
用語「炎症」は、当該技術分野で与えられた明示的意味を有する。さらに詳しい指針として、この用語は、一般に、物理的、化学的または生物学的作用物質によって通常引き起こされる細胞または組織障害に対する血管密集組織の反応を指し、これは、従来の一連の痛み、発熱、赤み、膨張および機能喪失による急性の形で現れ、有害物質および/または損傷組織の排除、希釈、または剥離を行うメカニズムとして働く。炎症は、組織学的に、透過性と血流の増大による小動脈、毛細管および小静脈の膨張、血漿タンパク質を含む流体の滲出、および炎症性病巣内への白血球遊走を含む複雑な一連の事象を含む。
【0045】
さらに、この用語は、外部からの物理的もしくは化学的傷害または生物学的作用因子(たとえば、ウィルス、細菌、菌類、原生動物、後生動物寄生体感染)によって引き起こされた炎症、ならびに見掛けからは妥当な理由がない(たとえば、明白な傷や感染のない状態で起こる)炎症、自己抗原に対する炎症応答(自己免疫の炎症)、移植された異種または同種細胞、組織または臓器に対する炎症応答、アレルゲンに対する炎症応答などを包含する。この用語は、急性炎症と慢性炎症の両方を対象として含む。また、この用語は、局部的炎症と全身性炎症の両方を含み、すなわち、1つまたは複数の炎症過程は、特定の組織に制限されず、一般に内皮および/または他の臓器系で生じる。
【0046】
本明細書で使用される用語「炎症」は、とりわけ局所性と全身性を含む炎症部分を含む病変、ならびに急性および慢性の炎症状態、症状または疾病を包含する。限定ではない参考として、用語は、以下の症状のいずれかを指す場合がある。
【0047】
−悪液質(たとえば、癌または感染症(たとえば、AIDSなど)と関連した悪液質)
−グラム陰性菌敗血、内毒素誘導ショック、腐敗性ショック症候群、全身性炎症反応症候群(SIRS)、または多臓器機能不全症候群(MODS)
−予防接種
−移植片対宿主病変(たとえば、移植された異種または同種組織または臓器の移植片対宿主疾病(GVHD)または拒絶(たとえば、同種骨髄または臍帯血移植の拒絶))。
−急性および慢性伝染性ならびに寄生過程(好ましくは大脳マラリアまたは髄膜炎菌性髄膜炎を含む、ウィルス性、細菌性または菌性感染症、および原生動物または後生動物寄生体)。
−アレルギー性疾患(たとえば、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、喘息、湿疹、じんましん、接触性皮膚炎、全身性アレルギー反応(アナフィラキシー)またはアナフィラキシー・ショック)。より好ましくは、アレルギー性鼻炎と喘息から選択される。
−慢性炎症疾患(一般に、実証できる原因(たとえば、感染、組織傷害)のない状態で、先天または適応免疫の1つまたは複数の炎症過程および/または部分の慢性または回帰性局所または全身活性を通常含む混成群を包含する)、および/または自己免疫疾患(一般に、自己抗体反応または細胞媒介反応を含み、また臓器特異的および非臓器特異的な自己免疫症状を含む自己組織または組織成分に対する免疫反応、すなわち自己抗原を含む)。好ましくは、そのような症状は、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、アジソン病、アルツハイマー病(AD)、強直性脊椎炎、抗リン脂質抗体症候群(APS)、再生不良性貧血、アテローム性動脈硬化症、自己免疫性胃炎、自己免疫性肝炎、自己免疫性血小板減少症、ベーチェット病、腹腔疾病、皮膚筋炎、第I型糖尿病、第II型糖尿病、家族性地中海熱、家族性低温誘導性自己炎症性症候群、グッドバスチャー症候群、痛風、偽痛風、グレーブス病、ギャン-バレー症候群(GB)、ハシモト病、遺伝的間欠熱、特発性血小板減少性紫斑病、クローン病と潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患(IBD)、虚血再潅流傷害、カワサキ病、混合結合組織疾患、マックル-ウェルズ症候群、多発性硬化症(MS)、重症筋無力症、眼球クローヌス症候群(OMS)、視神経炎、Ordの甲状腺炎、骨関節炎、パーキンソン病(PD)、天疱瘡、悪性貧血、結節性多発動脈炎、多発性筋炎、手術後または精神的炎症、原発性胆汁性肝硬変、初期粘液水腫、乾癬、乾癬性関節炎、リウマチ熱、慢性関節リウマチ、ライター症候群、硬皮症、Sjogren症候群、卒中乏血、全身性エリテマトーデス(SLE)、全身型若年性特発性関節炎、タカヤス動脈炎、側頭動脈炎、白斑、温式自己免疫性溶血性貧血、およびウェジナー肉芽腫症から選択されてもよい。
【0048】
炎症および炎症性疾患および症状(たとえば、上に列挙した)は、異なる感受性で、患者のアテローム発生をもたらす可能性がある炎症チャレンジを引き起こす場合がある。
【0049】
より好ましくは、本発明は、糖衣幅および/または毛細管容積余量(Capillary Volume Reserve)の変化などの糖衣の変化状態を特徴とする症状に特に役立つ診断、予防および/または治療ツールおよび/または方法に関する。より好ましくは、症状は、癌、第I型糖尿病や第II型糖尿病などの糖尿病、腎不全、早期動脈硬化、敗血症、高血圧症、悪性高血圧、子癇前症から選択されるが、これらに限定されない。
【0050】
糖衣
本明細書で使用されるとき、「糖衣」は、一般に、血管内皮細胞の管腔表面の多糖を多く含む細胞外基質を指す。糖衣は、主に、水と、とりわけ循環血液からの血漿タンパク質、脂質および酵素を含む多数の分子と、生体内で関連するプロテオグリカン、グリコサミノグリカンおよび糖タンパク質(たとえば、セレクチン、接着分子など)からなる。
【0051】
「糖衣の状態(status of the glycocalyx)」は、相対位置を含む特定時点での糖衣の状態を指す。糖衣の状態は、糖衣パラメータによって特徴付けることができる。糖衣パラメータ(たとえば、体積または寸法、幅、透過性、酵素活性など)に関する用語「変化」は、一般に、任意の方向(たとえば、増加または減少)と、そのような変化の程度を包含する。たとえば、パラメータの値の「減少」は、関連基準値(たとえば、対照(健常)対象における前記パラメータの値など)と比較して、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、または少なくとも約90%の減少を含む場合がある。たとえば、パラメータの値の「増加」は、関連基準値(たとえば、対照(健康)対象における前記パラメータの値など)と比較して、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約40%、少なくとも約60%、少なくとも約80%、少なくとも約100%、少なくとも約150%もしくは200%、または少なくとも約500%もの増大を含む場合がある。糖衣パラメータが変化すると、その結果、糖衣の状態が変化することを理解されよう。
【0052】
より一般には、糖衣劣化を伴う状態は、糖衣量または寸法の減少、糖衣の透過度の増大、糖衣のシェディング(shedding)の増大(すなわち、その結果、糖衣層の厚さが減少する)、糖衣劣化酵素の活性増大および/または酵素合成酵素の活性減少によって特徴付けられる場合がある。たとえば本明細書で開示されたような治療介入が、これらの傾向を逆転することが望ましい。
【0053】
用語「糖衣代謝酵素(enzyme of glycocalyx metabolism)」は、一般に、糖衣またはその1つまたは複数の成分の同化(すなわち、形成)または異化(すなわち、分解)に関与する酵素を含む。限定ではなく参考として、この用語は、ヒアルロニダーゼ、ミエロペルオキシダーゼ、ヘパリナーゼ、ならびに他のエクソグリコシダーゼおよびエンドグリコシダーゼを含む。
【0054】
前述のとおり、内皮糖衣の上記の特徴は、対象から取り出された試料中の1つまたは複数の糖衣関連マーカーを検出することによって有利に決定されてもよい。詳細には、そのようなマーカーには、一般に糖衣と関連することができる糖衣派生分子、糖衣代謝酵素および/または内因性もしくは外因性物質が含まれる場合がある。
【0055】
本明細書の検出に特に適した糖衣派生分子には、限定ではなく、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、シンデカン−1、および完全な血漿グリコサミノグリカン(GAG)分がある。一般に、そのような分子は、糖衣分解またはシェディングの進行により血流中に放出される場合があり、これにより糖衣の劣化変化(degenerative alteration)を示すことができる。
【0056】
特に本明細書での検出に適した糖衣代謝酵素には、限定なしに、ヒアルロニダーゼ、ミエロペルオキシダーゼ、ヘパリナーゼ、および他のエクソグリコシダーゼならびにエンドグリコシダーゼがある。たとえば、そのような酵素の循環レベルの増減は、その触媒作用により生じる進行中の酵素反応を示し、糖衣ホメオスタシスの評価を可能にする。
【0057】
特に本明細書の検出に適した内因性および外因性糖衣と関連した物質には、限定ではなく、とりわけデクストラン40などの糖衣透過トレーサ分子、または一般に糖衣と関連する内因性レクチン様タンパク質がある。たとえば、そのような物質の循環量は、必要に応じてその注射または注入後に、血流から前記物質をなくす糖衣の能力を表わし、それにより糖衣の体積または寸法および分子アクセシビリティの評価が可能になる。
【0058】
バイオセンサ
前述のように、本発明は、また、対象から取り出された試料中の、とりわけ前述のような1つまたは複数の糖衣関連マーカーを検出するように構成されたバイオセンサ素子、ならびにこの診断方法における前記バイオセンサの使用に関連する。
【0059】
本明細書で使用される用語「バイオセンサ」は、一般に、1つまたは複数の固定化生物学的感知物質(たとえば、受容体、抗体、酵素、基質、細胞臓器、または全細胞など)を利用して、分析試料中の対象となる1つまたは複数の所望の検体を検出しかつ/または定量化する素子または装置を指す。固定化生物学的感知物質と前記所望の検体間の結合または化学反応は、検出可能な物理的、化学的または物理化学的信号に変換される。
【0060】
好ましい実施形態では、前記固定化生物学的感知物質は、限定なしに、本明細書で定義されたような糖衣派生分子、糖衣代謝酵素、または内因性もしくは外因性糖衣関連物質と特に結合することができるペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体、アプタマ、ペプチド模倣薬などの受容体でよい。そのような結合は、好ましくは、高い親和力(すなわち、KA≧1x105-1、より好ましくはKA≧1x106-1(たとえば、KA≧1x107-1)、さらに好ましくはKA≧1x108-1、さらに好ましくはKA≧1x109-1(たとえば、KA≧1x1010-1、KA≧1x1011-1、またはKA≧1x1012-1)、またはこれ以上の親和定数(KA)を有する)を示してもよく、ここで、KA=[R_A}/[R][A],Rは受容体を示し、Aは所望の検体を示す。
【0061】
さらに好ましい実施形態では、前記固定化生物学的感知物質は、検出したい糖衣代謝酵素が作用し化学的に変化することができる基質でよい。
【0062】
さらに別の実施形態では、前記固定化生物学的感知物質は、本明細書で定義されたような糖衣派生分子または内因性もしくは外因性糖衣関連物質に作用し化学的に変化させることができる酵素でよい。
【0063】
本発明は、固定化生物学的感知物質と所望の検体間の結合または反応を検出可能な信号に変換し、前記信号を検出する任意の適切な方法を意図する。
【0064】
詳細には、生成信号およびこのバイオセンサ装置の対応検出要素は、限定ではなく、物理化学検出モード、光学検出モード(たとえば、表面プラスモン共鳴を使用するか、吸光または螢光変化に基づく)、圧電気検出モード、電気化学検出モード(たとえば、電極を使用して酸化還元反応を検出する)、温度測定検出モード、または磁気検出モードを採用することができる。バイオセンサの一般設計と使用は、当該技術分野で既知であり、本発明の用途に適用することができ(たとえば、Biosensors: A Practical Approach, 2nd ed., Cooper J and Cass T, eds., Oxford University Press 2003, ISBN 0199638462、およびBiosensors: Theory and Applications, DG Buerk, Technomic Publishing Company 1993, ISBN 0877629757を参照)、これらの文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0065】
治療
要約の節でさらに詳しく説明されたように、本発明は、また、たとえば前述のそれぞれの疾患のような血管および炎症性症状の治療、または糖衣成分により、もしくは糖衣異化酵素の阻害剤を使用することにより、炎症チャレンジに対するアテローム発生感受性を低下させる治療を意図する。
【0066】
用語「治療する(treat)」または「治療(treatment)」は、既に生じるている疾患の治療上の処置(既に生じている血管または炎症性疾病の治療など)と、予防または再発防止処置の両方を含み、目的は、血管または炎症性疾病の収縮と進行の危険を防ぐことなど、望ましくない苦痛の発生の危険を防止または低減することである。有益または所望の臨床結果には、限定ではなく、1つまたは複数の症状または1つまたは複数の生物学的マーカー(たとえば、炎症性サイトカイニン、発熱、アテロームなど)の緩和、疾病範囲の減少、病状の安定化(すなわち、悪化しない)、疾病進行の遅延または減速、病状の回復または軽減がある。また、「治療」は、治療を受けていない場合の予想寿命と比較した寿命の延長を意味することもできる。
【0067】
用語「予防有効量(prophylactically effective amount)」は、研究者、獣医、医師または他の臨床家によって要求されるような、対象の病気の始まりを抑制しまたは遅延させる活性化合物または薬剤の量を指す。本明細書で使用される用語「治療有効量(therapeutically effective amount)」は、研究者、獣医、医師または他の臨床家によって要求される対象の生物学的または医薬応答を引き起こす活性化合物または薬剤の量を指し、これは、とりわけ、治療される疾病または病気の症状の緩和を含む場合がある。治療有効用量と予防有効用量を決定する方法は、当該技術分野で既知である。
【0068】
前述の症状の糖衣の予防的および/または治療的回復に役立つ糖衣成分には、限定ではなく参考として、グリコサミノグリカン、とりわけ分割ヘパリンを含むヘパリン、擬糖、ヒアルロン酸合成経路の基質または中間物、およびキシロシダーゼ(GAG合成物を生成する)が含まれる。
【0069】
前述の症状の治療における阻害の標的として有効な糖衣異化酵素には、限定ではなく参考として、ヒアルロニダーゼ、ミエロペルオキシダーゼ、ヘパリナーゼ、および他のエクソグリコシダーゼとエンドグリコシダーゼが含まれる。
【0070】
用語「阻害(inhibition)」は、糖衣異化酵素の阻害程度、特に糖衣劣化酵素力の阻害程度、たとえば、阻害剤がない状態の前記酵素の活性と比較して、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、さらに約100%の阻害を包含する。そのような阻害程度は、当該技術分野で既知の分析によって測定することができる。
【0071】
用語「阻害剤(inhibitor)」は、一般に、糖衣異化酵素などの所望の標的の阻害を達成することができる物質または分子を指す。
【0072】
本発明は、可逆的阻害剤(すなわち、酵素および/または酵素基質複合体に非共有結合するもの)ならびに不可逆的阻害剤(すなわち、通常酵素の活性部位の1つまたは複数のアミノ酸を共有結合で変化させるもの)の両方を含む任意のタイプの阻害剤を意図する。可逆的阻害剤の中で、本発明は、限定でなく、競合阻害剤、不拮抗阻害剤、混合型阻害剤、部分競合阻害剤、および不拮抗阻害剤を意図する。
【0073】
本明細書での使用に適したタイプの阻害剤には、限定ではなく参考として、ポリペプチドまたはタンパク質、抗体(ペプチド)、ペプチド模倣薬、アプタマ、化学物質(好ましくは、有機分子、より好ましくは有機小分子)、脂質、炭水化物、核酸などが含まれる。
【0074】
本明細書で使用される用語「有機化合物」または「有機分子」は、当該技術分野におけるその幅広い暗示的意味を指す。この用語は、天然産物である有機分子、ならびに半合成または完全合成された有機分子を包含する。
【0075】
本明細書で使用される用語「有機小分子(small organic molecule)」は、一般に医薬で使用される有機分子と同等のサイズを有する有機化合物を指す。この用語は、生体高分子(たとえば、タンパク質、核酸など)を除外する。好ましい有機小分子は、約5000Da以下、たとえば、約4000以下、好ましくは3000Da以下、より好ましくは2000Da以下、さらに好ましくは約1000Da以下(たとえば、約900、800、700、600、または約500Da以下)のサイズの範囲である。
【0076】
用語「抗体」は、本明細書でその最も幅広い意味で使用され、一般に、任意の免疫学的結合剤を指す。この用語は、特に、望ましい生物活性(特に、関心のある抗原を特定的に結合する能力)を示す限り、完全単クローン抗体、多クローン抗体、多価抗体(たとえば、2価、3価、またはそれ以上の多価)、および/または少なくとも2つの完全抗体からなる多特異的抗体(たとえば、二重または多特異的抗体)、および抗体断片(たとえば、Fab、Fab’、F(ab)2、FvおよびscFv断片、ダイアボディ(diabody)、線形抗体、一本鎖抗体分子)、ならびにそのような断片(たとえば、ダイボディ(dibody)、トリボディ(tribody)、およびマルチボディ(multibody))の多価合成物および/または多特異的合成物を包含する。用語「抗体」は、免疫化を含む方法によって生成された抗体を含むだけでなく、関心のある抗原上のエピトープに特に結合することができる少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を包含するように作成される任意のポリペプチド(たとえば、組み換え的に表現されたポリペプチド)も含む。したがって、この用語は、生体外で作成されるか生体内で作成されるかに関係なく、そのような分子に適用される。
【0077】
本明細書で使用される用語「アプタマ」は、タンパク質やペプチドなどの標的分子、より一般的には特にペプチドに結合することができる一本鎖または二本鎖オリゴDNA、オリゴRNAもしくはオリゴDNA/RNA、または任意の類似物を指す。有利には、アプタマは、その標的にかなり高い特異性と親和性(たとえば、KAは、1x109-1程度)を示すことができる。アプタマの生成は、とりわけ、米国特許第5,270,163号、Ellington & Szostak 1990 (Nature 346: 818-822)、Tuerk & Gold 1990 (Science 249: 505-510)、またはKlussmann編集「The Aptamer Handbook: Functional Oligonucleotides and Their Applications」WileyVCH 2006, ISBN 3527310592に記載されており、これらの文献は、参照により本明細書に明確に組み込まれる。
【0078】
本明細書で使用される用語「ペプチド模倣薬」は、対応するペプチドの位相類似物である非ペプチド薬剤を指す。ペプチドのペプチド模倣薬を合理的に設計する方法は、当該技術分野で既知である。たとえば、硫化8−merペプチドCCK26−33を主成分とする3つのペプチド模倣薬および11−merペプチド物質Pを主成分とする2つのペプチド模倣薬の合理的設計と、関連するペプチド模倣薬設計原理は、Horwell 1995 (Trends Biotechnol 13: 132-134)に記載されており、この文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0079】
調合薬
血管および/または炎症疾患の治療のために、本発明の活性物質(詳細には、糖衣成分および/または糖衣異化酵素の阻害剤)が調合薬として処方されると有利である。
【0080】
そのような医薬組成物は、一般に、本発明の1つまたは複数の活性物質、またはその薬学的に許容可能な形態(N−オキシド形式、追加塩、プロドラッグ、溶媒化合物もしくはその立体化学異性体、および1つまたは複数の薬学的に許容可能な担体/賦形剤)を含む。
【0081】
用語「薬学的に許容可能な塩」は、薬学的に許容可能な酸または塩基付加塩を意味する。薬学的に許容可能な酸または塩基付加塩は、この活性物質が形成できる治療上活性な無毒酸および無毒塩基付加塩の形態を含むものである。基本特性を有するこの活性物質は、前記塩基形態を適切な酸で処理することによって、薬学的に許容可能な酸付加塩に変換することができる。適切な酸は、たとえば、無機酸(ハロゲン化水素酸(たとえば、塩化水素、臭化水素酸、硫酸、硝酸、燐酸)などの酸)、または有機酸(たとえば、酢酸、プロパン酸、ヒドロキシ酢酸、乳酸、ピル便酸、蓚酸、マロン酸、琥珀酸(すなわち、ブタンニ酸)、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、シクラミン酸、サリチル酸、p−アミノサリチル酸、パモン酸などの酸)を含む。酸性を有するこれらの活性物質は、前記酸形態を適切な有機塩基または無機塩基で処理することによって、それらの薬学的に許容可能な塩基付加塩に変換することができる。適切な塩基塩形態は、たとえば、アンモニウム塩、アルカリおよびアルカリ土類金属塩(たとえば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩など)、有機塩基を含む塩(たとえば、ベンザチン塩、N−メチルDグルカミン、ヒドラバミン塩)、およびアミノ酸を含む塩(たとえば、アルギニン、リジンなどのような)を含む。
【0082】
本明細書で使用されるとき、「担体」または「賦形剤」には、任意または全ての溶剤、希釈剤、緩衝剤(たとえば、中性緩衝食塩水またはリン酸緩衝食塩水など)、可溶化剤、コロイド、分散媒、ビヒクル、充填剤、キレート試薬(たとえば、EDTA、グルタチオンなど)、アミノ酸(たとえば、グリシンなど)、タンパク質、崩壊剤、結合剤、潤滑剤、湿潤剤、乳化剤、甘味料、着色剤、調味料、芳香剤(aromatiser)、増粘剤、蓄積効果を達成する薬剤、被覆剤、抗真菌薬、防腐剤、酸化防止剤、張性制御剤、吸収遅延剤などが含まれる。薬剤活性物質にこのような媒体と作用物質を使用することは、当該技術分野で周知である。従来の媒体または薬剤が活性物質と不適合でない限り、治療組成物中に使用することが意図されてもよい。
【0083】
医薬組成物を処方する際に使用される実例となる非限定的な担体には、たとえば、水中油型乳剤または油中水滴型乳剤、静脈内(IV)使用に適した有機共溶媒を含むかまたは含まない水溶性組成物、リポソームまたは界面活性剤を含む小胞、ミクロスフェア、マイクロビーズとミクロソーム、粉体、錠剤、カプセル、坐薬、水性懸濁液、エーロゾル、および当業者に明らかな他の担体が含まれる。
【0084】
本発明の医薬組成物は、限定なしに、経口投与(たとえば、経口摂取、吸入など)、鼻腔内投与(たとえば、鼻腔内吸入、鼻腔内粘膜塗布)、非経口的投与(たとえば、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、胸骨内注射または注入)、経皮的または経粘膜的(たとえば、経口、舌下、鼻腔内)投与、局所性投与、直腸、膣または気管内滴注など、本質的に任意の投与経路用に処方されてもよい。このように、本発明の方法および配合物によって達成可能な治療効果は、本発明の所定の応用の特定の必要性により、たとえば全身的、局所的、組織固有などでよい。
【0085】
たとえば、経口投与の場合、医薬組成物は、丸薬、錠剤、ラッカー錠、被覆(たとえば、糖衣)錠、顆粒、ハードおよびソフト・ゼラチン・カプセル、水性、アルコールまたは油性溶液、シロップ、エマルジョンまたは懸濁液の形で処方されてもよい。例として、限定なしに、経口投薬の準備は、適切な量の活性物質を粉体の形で均一によく混合し、必要に応じて、細かく分割された1つまたは複数の固体担体を含め、混合物を丸薬、錠剤またはカプセルで処方することによって適切に達成される。限定的ではなく例示的な固体担体には、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、滑石、砂糖(たとえば、グルコース、マンノース、ラクトース、蔗糖)、糖アルコール(たとえば、マンニトール)、デキストリン、デンプン、ゼラチン、セルロース、ポリビニルピロリジン、低融点ワックス、およびイオン交換樹脂が含まれる。医薬組成物を含む圧縮錠剤は、前述のように活性成分を固体担体と均一によく混合し、必要な圧縮特性を有する混合物を提供し、次に適切な装置で混合物を適切な形状とサイズに圧縮することによって作成することができる。成型された錠剤は、不活性希釈液で湿らせた粉末状活性物質の混合物を適切な装置内で成型することによって作成されてもよい。ソフト・ゼラチン・カプセルと坐薬に適切な担体は、たとえば、脂肪、ワックス、半固体および液体多価アルコール、天然または硬化油などである。
【0086】
たとえば、経口もしくは経鼻エアロゾルまたは吸入投与の場合、医薬組成物は、実例となる担体(たとえば、生理食塩水、ポリエチレングリコール、DPPC、メチルセルロースを含む溶液中、または粉末状分散剤との混合物中)で、さらに、ベンジル・アルコールまたは他の適切な防腐剤、生物学的利用能を強化する吸収促進剤、過フッ化炭化水素、および/または当該技術分野で既知の他の溶解剤または分散剤を使用して処方されてもよい。エーロゾルまたは噴霧液の形の投与に適した医薬組成物は、たとえば、エタノール、水またはそのような溶剤の混合物などの薬学的に許容可能な溶剤中の、本発明の活性物質またはそれらの生理的に許容可能な塩の溶液、懸濁液もしくはエマルジョンである。必要に応じて、配合物は、界面活性剤、乳化剤、安定剤などの他の医薬補助物、および推進剤を含んでもよい。例示的に、送達は、使い捨て送達装置、ミスト噴霧器、呼吸活性化粉末吸入器、エーロゾル定量吸入器(MDI)、または当該技術分野で入手可能な他の多数の噴霧器送達装置の使用によるものでよい。さらに、ミストテントまたは気管内挿入管を介した直接投与を使用してもよい。
【0087】
粘膜面を介して投与する担体の例は、特定の経路(たとえば、経口、舌下、鼻腔内など)に依存する。経口投与されるとき、説明的な例には、医薬等級のマンニトール、デンプン、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、蔗糖ナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどが含まれ、マンニトールが好ましい。鼻腔内投与されるとき、説明的な例には、ポリエチレングリコール、リン脂質、グリコールと糖脂質、蔗糖、および/またはメチルセルロース、ラクトースなどの充填剤を含むかまたは含まない粉末懸濁液と、塩化ベンザルコニウムやEDTAなどの防腐剤が含まれる。特に実例となる実施形態では、約0.1〜3.0mg/mlの濃度の本発明の活性物質を鼻腔内投与するために、リン脂質1,2ジパルミトイル−sn−グリセリン−3−ホスホコリン(DPPC)が、約0.01〜0.2%の等張水性担体(isotonic aqueous carrier)として使用される。
【0088】
たとえば、非経口投与の場合、医薬組成物は、適切な溶剤、希釈剤、可溶化剤または乳化剤などを含む溶液、懸濁液またはエマルジョンとして処方されると有利な場合がある。適切な溶剤は、限定ではなく、水、生理的食塩溶液またはアルコール(たとえば、エタノール、プロパノール、グリセリン)であり、さらに、グルコース溶液、転化糖溶液、蔗糖溶液またはマンニトール溶液などの糖溶液、または前述の様々な溶剤の混合物である。注射剤または懸濁液は、既知の技術により、マンニトール、1,3ブタンジオール、水、リンゲル液または等張食塩水などの適切な無毒の非経口使用可能な希釈剤もしくは溶剤、または適切な分散剤か湿潤剤および沈殿防止剤(合成モノグリセリドもしくはジグリセリドおよび脂肪酸(オレイン酸を含む)を含む無菌油、混合油、不揮発性油など)を使用して処方されてもよい。また、本発明の活性物質と薬学的に許容可能なその塩は、たとえば注射または注入薬剤を作成するために、凍結乾燥されてもよく、取得された凍結乾燥物が使用されてもよい。たとえば、静脈用の担体の1つの実例は、10%のUSPエタノール、40%のUSPプロピレングリコールまたはポリエチレングリコール600、および残りのUSP注射用蒸留水(WFI)を含む。静脈用の他の実例となる担体には、10%USPエタノールとUSP WFI、USP WFI中0.01〜0.1%トリエタノールアミン、またはUSP WFI中0.01〜0.2%ジパルミトイル・ジホスファチジルコリン、および1〜10%スクアレンまたは非経口水中植物油型エマルジョンが含まれる。皮下または筋肉内用の担体の実例には、リン酸緩衝生理食塩(PBS)溶液、WFI中5%ブドウ糖と5%ブドウ糖中0.01〜0.1%トリエタノールアミンまたはUSP WFI中0.9%塩化ナトリウム、もしくは10%USPエタノール、40%プロピレングリコール、および残りの5%ブドウ糖や0.9%塩化ナトリウムなどの許容可能な等張液の1対2または1対4混合物、またはUSP WFI中0.01〜0.2%ジパルミトイルジホスファチジルコリンと1〜10%スクアレンまたは非口径水中植物油型エマルジョンが含まれる。
【0089】
水性製剤が好ましい場合、そのような水性製剤は、1つまたは複数の界面活性剤を含んでもよい。たとえば、組成物は、少なくとも1つの適切な界面活性剤(たとえば、リン脂質界面活性剤)を含むミセル分散の形でよい。リン脂質の実例となる例には、ジミリストイル・ホスファチジル・グリセロール(DPMG)、ジパルミトイル・ホスファチジル・グリセロール(DPPG)およびジステアロイル・ホスファチジル・グリセロール(DSPG)などのジアシルホスファチジル・グリセロールと、ジミリストイル・ホスファチジルコリン(DPMC)、ジパルミトイル・ホスファチジルコリン(DPPC)およびジステアロイル・ホスファチジルコリン(DSPC)などのジアシルホスファチジル・コリンと、ジミリストイル・ホスファチジン酸(DPMA)、ジパニトイル・ホスファチジン酸(DPPA)およびジステアロイル・ホスファチジン酸(DSPA)などのジアシルホスファチジン酸と、ジミリストイル・ホスファチジル・エタノールアミン(DPME)、ジパルミトイル・ホスファチジル・エタノールアミン(DPPE)およびジステアロイル・ホスファチジル基エタノールアミン(DSPE)などのジアシルホスファチジル・エタノールアミンとが含まれる。一般的に、水性製剤中の界面活性剤と活性物質のモル比は、約10:1〜約1:10、より好ましくは5:1〜約1:5になるが、水性製剤では、対象とする特定の目的に最も適した任意の有効量の界面活性剤を使用することができる。
【0090】
坐薬の形で直腸に投与されるとき、そのような製剤は、本発明による活性物質を、通常温度で固体であるが直腸腔内で液化しかつ/または溶解して薬を放出するカカオバター、合成グリセリド・エステルまたはポリエチレングリコールなどの適切な無刺激賦形剤と混合することによって作成することができる。
【0091】
マイクロカプセル、埋没物またはロッドに適切した担体は、たとえば、グリコール酸と乳酸の共重合体である。
【0092】
当業者は、以上の説明が網羅的ではなく例示的であることを理解するであろう。実際には、本明細書で説明された特定の組成物を様々な治療計画で使用するのに適した投薬および治療計画の開発として、多くの追加の処方技術および薬学的に許容可能な賦形剤と担体溶液が当業者に周知である。
【0093】
この活性物質は、単独で使用されてもよく、当該技術分野で既知の任意の血管疾患または炎症性疾病治療と組合せで使用されてもよい(「併用療法」)。本明細書で意図されるような併用療法は、本発明の少なくとも1つの活性物質と、少なくとも1つの他の薬学的または生物学的活性成分とを含むことができる。前記のこの活性物質と前記の薬学的または生物学的活性成分は、同じかまたは異なる医薬組成物で、同時投与されてもよく、任意の順序で順次投与されてもよい。
【0094】
使用されるこの活性物質の用量または量は、必要に応じて、投与される1つまたは複数の他の活性化合物との組合せで、個々のケースに依存し、また恒例により、最適な効果を達成するために個々の状況に適応される。したがって、これは、治療する病気の性質と重大度に依存するか、性別、年齢、体重、公衆衛生、食事、投与の形態と時間、および治療するヒトまたは動物の個々の応答性に依存するか、使用される化合物の投与経路、効果、代謝的安定性および作用持続時間に依存するか、治療が急性か慢性か予防的かに依存するか、本発明の薬剤に加えて他の活性化合物が投与されるかに依存する。
【0095】
限定ではなく、病気の種類と重大度により、典型的な1日投与量は、前述の因子により、体重で約1μg/kg〜100mg/kg以上の範囲になる。症状により数日間以上にわたって投与が繰り返される場合、治療は、病状の所望の抑制が行われるまで維持される。本発明の活性物質の好ましい投与量は、体重で約0.05mg/kg〜約10mg/kgの範囲でよい。したがって、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kgまたは10mg/kg(または、これらの任意の組合せ)のうちの1つまたは複数の投与量が、患者に投与されてもよい。そのような投与量は、断続的(たとえば、週1回または3週ごと)に投与されてもよい。
【0096】
サイズ分布法(Size Distribution Method)
本発明のさらに他の実施形態において、発明者は、糖衣の状態を評価する方法を決定した。糖衣の状態は、サイズ分布法を使用して評価することができ、個々の毛細血管の内皮糖衣寸法または糖衣幅(GW)が決定される。さらに、サイズ分布法は、血管内の赤血球幅(RBCW)、血管径(VD)、および毛細管容積余量(CVR)の測定値を提供することができる。
【0097】
本明細書で使用されるとき、「赤血球幅(RBCW)」は、血管の微小血管区分における赤血球の幅の複数測定値の平均値として定義される。微小血管区分は、単一列の赤血球だけを潅流させるという特徴を有するので(図4に示したように)、単一赤血球の幅の測定を行うことができる。
【0098】
本明細書で使用されるとき、「血管径(VD)」は、単一列の赤血球が潅流する血管の微小血管区分の直径として定義される。本発明者は、驚くべきことに、RBCWの測定の際に、赤血球の数パーセントが、赤血球がたいてい遮断される管腔内皮膜上の糖衣領域内に入り込むことを発見した。したがって、RBCWの測定により、糖衣領域に入り込むいくつかの測定値が提供され、したがって血管径の値が提供される。微小血管区分における赤血球幅(RBCW)の複数測定値の最大値を測定することにより、血管径(VD)の正確な測定値が求められることが分かった。
【0099】
本明細書で使用されるとき、「糖衣幅(GW)」は、赤血球幅と血管径の間の隙間の寸法である。糖衣幅(GW)は、個々の毛細血管の内皮糖衣の寸法を指すので、糖衣の状態を示す。
【0100】
本明細書で使用されるとき、「毛細管容積余量(Capillary Volume Reserve)(CVR)」は、RBCWmaxの2乗に対するRBCWの2乗の比率として定義される。CVRは、以下の式により定義することができる。
CVR=RBCWmax2/RBCW2
ここで、VDが単一RBCの最大幅と等しいかそれより大きい場合に、RBCWmaxはVDと等しい。
他のすべてのケースで、RBCWmaxは、単一RBCの最大幅と等しい。
【0101】
臨床顕微鏡で取得された画像にサイズ分布測定を実行することができる。第1の例では、血管が視覚化され、血管を潅流する赤血球の連続画像が取得される。各画像ごとに、視覚化された赤血球のRBCWが測定され、サイズ分布が得られる。この測定方法は、所定の血管の少なくとも10個、好ましくは50、100、250、500、1000、2500、5000個、もしくはそれを超える数のRBCW値を測定する。これらの値の測定から、赤血球がたいてい遮断される管腔内皮膜上の糖衣領域に数パーセントの赤血球が入り込むことが明らかになった。したがって、サイズ分布測定によって統計的分布が提供され、測定値の大部分が、血管内の実際のRBCW値を提供するが、実際の血管径の測定値を提供するのは測定値の数パーセントだけである。したがって、サイズ分布測定からのp50値は、血管内の実際の平均RBCW値を提供するが、p99値は、血管経の値に対応する最大RBCW値を提供する。本明細書で使用されるとき、用語「p50値」は、提示された値より実際値が低い可能性が50%であり、提示された値より実際値が高い可能性が50%であることを示す。したがって、「p50値」は、平均RBCW値を指すか、または中央RBCW値に対応する。本明細書で使用されるとき、用語「p99値」は、提示された値より実際値が低い可能性が99%であり、提示された値より実際値が高い可能性が1%であることを示す。したがって、「p99値」は、最大RBCW値に対応し、その結果、血管径に対応する。
【0102】
本明細書で使用されるとき、「平均」値は、測定された値の平均値、中央値または最頻値を指す。平均値は、本明細書で使用されるとき、データセットの算術平均を指す。中央値は、本明細書で使用されるとき、データセットの高い方の半分を低い方の半分から分ける数を指す。最頻値は、本明細書で使用されるとき、データセット内に最も頻繁に生じる値を指す。
【0103】
糖衣幅は、血管径から実際のRBCW値を引いて2で割ったものと等しいので、実際のRBCW値と血管径の測定値から糖衣幅(GW)を決定することができる。糖衣幅を決定することによって、サイズ分布法は、糖衣の状態を提供する。
【0104】
糖衣の状態は、さらに、所定の式にしたがってCVR値を決定することにより評価することができる。CVR値が、血管径と糖衣幅の両方に関する情報を提供するので、この値を使用して、糖衣の状態を評価することができる。糖衣幅が変化しないまま血管径が増減する場合、CVR値は、糖衣幅値に反して、糖衣の状態に関するより正確な情報を提供する。
【0105】
この手法の有利な点は、本発明が、管壁の管腔表面の正確な位置を識別することなく糖衣状態を決定する方策を提供することである。また、RBC幅の白血球誘導過渡的拡張を使用する必要がない(図4を参照)。
【0106】
したがって、本発明の測定方法は、臨床で画像化されたすべてのRBC潅流微小血管の赤血球幅、血管径、糖衣幅および毛細管容積余量の自動化された非侵襲性評価と、実験的生体顕微鏡記録とを可能にする。
【0107】
本明細書で使用される用語「非侵襲性」は、皮膚を機械的に貫通せず破損もしない方法を指す。したがって、この方法は、身体の切開も生物組織の除去も必要としない。
【0108】
さらに、発明者は、赤血球幅、血管径、糖衣幅および毛細管容積余量の分析を可能にするために、所定の微細血管内で数秒の赤血球貫流しか必要としないことを発見した。さらに、所定の視野内のすべての微細血管を同時に分析することができ、したがって、単一視野の記録に数秒しかかからず、複数視野の記録をせいぜい数分以内に達成することができる。したがって、本発明の測定方法は、100個を超える血管から短時間で、赤血球幅、血管径、糖衣幅、および毛細管容積余量の正確な分布を提供する。
【0109】
より好ましくは、微細血管は、小さい直径を有する血管を指し、また好ましくは100μm未満、より好ましくは50μm未満、より好ましくは25μm、20μm、19μm、18μm、17μm、16μm、15μm、14μm、13μm、12μm、11μm、10μm、9μm、8μm、7μm、およびより好ましくは約10μm以下の直径を有する血管を指す。
【0110】
好ましい実施形態では、本発明は、さらに、糖衣の状態を評価するために、
(a)血管、好ましくは微細血管内の赤血球の幅(RBCW)を測定する段階と、
(b)赤血球幅測定値のサイズ分布から糖衣幅(GW)を決定し、それにより糖衣の状態を評価する段階とを含む方法に関する。
【0111】
より好ましい実施形態では、本発明は、さらに、糖衣の状態を評価するために、(a)血管、好ましくは微細血管内の赤血球幅(RBCW)を測定する段階と、
(a1)測定されたRBCWのサイズ分布を決定する段階と、
(b)測定されたRBCWのサイズ分布から糖衣幅(GW)を決定し、それにより糖衣の状態を評価する段階とを含む方法に関する。
【0112】
さらに、段階(a)で得られた測定値のサイズ分布は、さらに、毛細管容積余量を決定するために使用されてもよい。本発明の方法によれば、糖衣幅は、(血管径(VD)から赤血球幅(RBCW)を引いたもの)を2で割ったものとして定義することができる。
【0113】
毛細管容積余量は、赤血球が糖衣量にアクセス可能なときの最大血管血液量の比率として定義することができ、次の式にしたがって決定される。
CVR=RBCWmax2/RBCW2
ここで、VDが単一RBCのRBCW最大幅と等しいかそれより大きい場合にRBCWmaxはVDと等しい。
すべての他のケースで、RBCWmaxは、単一RBCの最大幅と等しい。
【0114】
別の実施形態では、本発明は、糖衣の状態を評価するために、
(a)血管、好ましくは微細血管内の少なくとも10個、好ましくは50、100、250、500、1000、2500または5000個を超える赤血球の幅を測定する段階と、
(b)段階(a)を、少なくとも10個、好ましくは50、100、250、500および1000個を超える血管、好ましくは微細血管に繰り返す段階と、
(c)赤血球幅測定値のサイズ分布から糖衣幅を評価し、それにより糖衣の状態を決定する段階とを含む方法に関する。
【0115】
さらに別の実施形態では、本発明は、糖衣の状態を評価するために、
(a)血管、好ましくは微細血管内の少なくとも10個、好ましくは50、100、250、500、1000、2500または5000個を超える赤血球の幅を測定する段階と、
(b)段階(a)を、少なくとも10個、好ましくは50、100、250、500および1000個を超える血管、好ましくは微細血管に繰り返す段階と、
(b1)測定されたRBCWのサイズ分布を決定する段階と、
(c)サイズ分布から糖衣幅を決定し、それにより糖衣の状態を評価する段階とを含む方法に関する。
【0116】
さらに他の実施形態では、本発明の方法は、さらに、
(d)赤血球幅測定値のサイズ分布から毛細管容積余量を決定する段階とを含む。
【0117】
本発明の別の実施形態では、糖衣の状態を評価するための方法は、
(a)第1の血管内、好ましくは微細血管内の少なくとも10個、好ましくは50、100、250、500、1000、2500または5000個を超える赤血球の幅を測定する段階と、
(b)段階(a)を、少なくとも10個、好ましくは50、100、250、500または1000個を超える血管、好ましくは微細血管に繰り返す段階と、
(c)RBCの最大幅値と中央幅値を決定する段階と、
(d)最大幅値と中央幅値との差を決定する段階とを含み、
前記差が、糖衣幅を決定し、糖衣の状態を評価する方法。
【0118】
本発明の別の実施形態では、発明者は、測定をおよそ数分で実行することができ、したがって、本発明の方法は、制御刺激に応じて赤血球幅、血管径、糖衣幅および毛細管容積余量の動的変化の検出を可能にすることを発見した。
【0119】
したがって、本発明は、糖衣の状態を調整する化合物、心臓血管系危険因子、生活因子を識別する方法を提供し、この方法は、
(a)前記化合物、心臓血管系危険因子または生活因子のある状態とない状態で、血管内の少なくとも10個、好ましくは50、100、250、500、1000、2500、5000個を超える赤血球の幅を測定する段階と、
(b)段階(a)を、少なくとも10個、好ましくは50、100、250、500および1000個を超える血管に繰り返す段階と、
(c)本発明の方法により糖衣の状態を評価する段階とを含み、前記化合物、心臓血管系危険因子または生活因子のある状態とない状態での糖衣の状態の差が、糖衣の状態を調整するときの前記化合物、心臓血管系危険因子または生活因子を識別する。
【0120】
さらに他の実施形態では、本発明は、化合物をスクリーニングする方法に関し、この方法は、
(a)少なくとも1つの化合物がある状態で、血管、好ましくは微細血管内の少なくとも10個、好ましくは50、100、250、500、1000、2500、5000個を超える赤血球の幅を測定する段階と、
(b)段階(a)を、少なくとも10個、好ましくは50、100、250、500および1000個を超える血管、好ましくは微細血管に繰り返す段階と、
(c)段階(a)と(b)の測定を、少なくとも1つの他の化合物に繰り返す段階と、
(d)化合物がない状態で段階(a)と(b)の測定を繰り返し、それにより対照測定を確立する段階と、
(c)前記化合物のある状態とない状態で、糖衣の状態を評価し、GW、および必要に応じてRBCW、VD、およびCVRを決定する段階とを含み、糖衣の状態が、使用された化合物と対照測定に関して評価され、それにより前記化合物の糖衣の状態を調整する能力がスクリーニングされる。
【0121】
さらに他の実施形態では、本発明は、糖衣および/または毛細管容積余量を調整する化合物、心臓血管系危険因子または生活因子を識別する方法であって、前記方法は、
a)前記化合物、心臓血管系危険因子、または生活因子がない状態で、少なくとも1つの血管内の赤血球(RBC)の平均幅値を定義する情報をコンピュータ・プログラムに導入する段階と、
b)前記化合物、心臓血管系危険因子または生活因子がある状態で、少なくとも1つの血管内でRBCの平均幅値と最大幅値を定義する情報をコンピュータ・プログラムに導入する段階と、
c)前記化合物、心臓血管系危険因子または生活因子がない状態のGWが、前記化合物、心臓血管系危険因子または生活因子がある状態のGWと異なるかどうかを評価する段階と、
d)c)で陽性評価された化合物、心臓血管系危険因子または生活因子を識別する段階とを含む。
【0122】
本発明によれば、心臓血管系危険因子と生活因子という用語は、年齢、喫煙、高血糖および脂質異常症から、および/または虚血再潅流傷害、第1型糖尿病、第2型糖尿病、高血糖、インスリン耐性、代謝症候群、脂質異常症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、高血圧症、癌、感染症および外傷から選択された1つまたは複数の危険病変を有する対象において、選択された1つまたは複数の危険因子を指す。
【0123】
したがって、一態様では、本発明は、対象における癌もしくは糖尿病または癌または糖尿病に対する感受性を診断するために、前記対象における糖衣の状態の変化を検出する方法を提供する。限定ではなく例として、癌または糖尿病と診察された対象における糖衣の状態の変化を、癌または糖尿病と診察されず癌または糖尿病に対する感受性もない対照対象と比較して、病理学的表現型を示す場合がある著しい差が生じるかどうかを評価することができる。
【0124】
他の実施形態では、診断方法によっては、対象の身体に実行されなくてもよいものもある。限定ではなく例として、例に示されたように、第1の血管、および好ましくは微細血管内の少なくとも10個、好ましくは50、100、250、500、1000、2500、5000個を超える赤血球の幅を測定し、またこの測定を、生体顕微鏡記録によってヒトや他の対象の少なくとも10個、好ましくは50、100、250、500、1000個を超える血管に繰り返す。
【0125】
このタイプの生体顕微鏡記録測定技法が、単純で迅速な診断方法であり、糖衣結合タンパク質または糖衣浸透トレーサ分子に付着された蛍光ラベルの注入を含む侵襲性顕微鏡視覚化技法が不要になることに注意されたい。
【0126】
上記の診断方法および治療介入が、特に個々の患者に対する治療を好都合に調整するために、組合せで使用されてもよく同時に使用されてもよいことを理解されたい。たとえば、前述のような診断分析で、患者の糖衣の状態が著しく変化したと判断された場合は、その後で、前記患者の治療が、糖衣の状態の回復に向けられてもよい。
【0127】
また、この診断方法を使用して、個々の患者の場合でも、糖衣の状態に対して、糖衣の状態を回復する際に任意の治療介入(たとえば、本明細書で開示されたような治療、またはとりわけ糖尿病患者のインシュリン感度を改善する治療、癌患者のヘパリン治療、炎症性疾病での内皮機能を改善するように設計された既存の治療など)の有効性を監視することができる。
【0128】
本発明のさらに他の実施形態は、
(a)RBCW分布データを読み取り、
(b)本発明の方法により糖衣の状態を決定し、それによりGWを決定し、必要に応じてRBCW、VDおよびCVRを決定するように構成された、コンピュータ読取り可能媒体または類似の独立型コンピュータ装置上に記憶されたコンピュータ・プログラムに関する。
【0129】
さらに別の実施形態では、本発明は、本発明による方法を使用することによって得られた、少なくとも1個の血管内の赤血球の平均幅値を含むデータを含むコンピュータ装置に関する。
【0130】
さらに別の実施形態では、本発明は、コンピュータ・プログラムであって、前記プログラムがデータ処理システム上で実行されたときに、
(i)本発明の方法段階を含むか、
(ii)GWを決定し、また必要に応じて、RBC幅分布データからRBCW、VDおよびCVRを決定するための方法段階を実行するように適応されたコード手段を含むコンピュータ・プログラムに関する。
【0131】
さらに別の実施形態では、本発明は、本明細書に記載されたようなコンピュータ・プログラムに関し、サイズ分布データとGW、および必要に応じて、RBCW、VDおよびCVR値が、標準値と比較される。前記標準値は、データベースから検索によって得られることが好ましい。
【0132】
さらに別の実施形態では、本発明は、糖衣を調整する化合物を識別する方法に関し、前記方法は、
(a)前記化合物がない状態で、少なくとも1つの血管内のRBCW値を定義する情報をコンピュータ・プログラムに導入する段階と、
(b)前記化合物がある状態で少なくとも1つの血管内のRBCW値を定義する情報をコンピュータ・プログラムに導入する段階と、
(c)本発明の方法にしたがって糖衣の状態を決定する段階と、
(d)前記化合物がある状態での糖衣の状態が、前記化合物がない状態での糖衣の状態と異なるかどうかを評価する段階と、
(e)(d)で陽性評価された化合物を識別する段階とを含む。
【0133】
さらに別の実施形態では、本発明は、
(i)本発明の方法段階を含むか、
(ii)方法段階が、RBCW分布データから赤血球幅、血管径、糖衣寸法および/または毛細管容積余量を決定する、データ処理システムを動作させる方法に関する。さらに別の実施形態では、本発明は、本発明の方法段階を実行する手段および/またはRBC幅分布データから赤血球幅、血管径、糖衣寸法、および毛細管容積余量段階を決定する方法段階を実行する手段を含むデータ処理システムに関する。
【0134】
さらに別の実施形態では、本発明は、本発明による方法の段階のそれぞれを実行するように適応されたコード手段が記憶されたコンピュータ読取り可能媒体に関する。
【0135】
さらに別の実施形態では、本発明は、本発明による方法を使用することにより得られた赤血球幅、血管径、糖衣寸法、毛細管容積余量および/またはRBC幅分布データを含むデータを含むコンピュータ装置に関する。
【0136】
本発明による装置が、ヒトも含む、ネズミ、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギなどを含むすべての種類の動物の糖衣の状態を視覚化し決定することができることに注意されたい。視覚化は、血管を視覚化することができる身体の任意の部分と、好ましくは舌、耳、皮膚、爪、目などに実行することができる。
【0137】
上記の態様と実施形態は、さらに、以下の非限定的な例によって支援される。

例1
この例は、内毒素誘導炎症反応が、ヒトの糖衣量または寸法の減少をもたらし、またこのプロセスで腫瘍壊死因子α(TNFα)が効力を発することを実証する。詳細には、健康な男性ボランティアが、可溶性TNFα受容体エタネルセプト(Etanercept)の前処理のある場合(n=8)とない場合(n=13)で、少量の内毒素の投与を静脈に受けた。全身性および微小血管糖衣が、ベースライン時と内毒素チャレンジ後4時間で評価された。
【0138】
物質と方法
調査設計
21人の健康な白人男性ボランティアを調査した。調査は、アムステルダムのAcademic Medical Centreの施設内倫理委員会によって承認され、すべてのボランティアから書面のインフォームド・コンセントを得た。参加者たちには心疾患の履歴はなかった。対象は、喫煙をせず、薬剤を使用しておらず、その調査の前月に熱性疾患はなかった。病歴、理学的診断、通常臨床検査、心電図および胸部X線は、正常で比較可能であった。実験はすべて夜間絶食後に行われた。すべての対象の全身性糖衣量、微小血管糖衣厚さおよび生化学を含むベースライン測定を行った。5日後に、対象を、食塩水(n=13)またはエタネルセプト(n=8;Enbrel[登録商標]50mg、Wyeth Pharmaceuticals, Madison, NJ, USA)の筋肉注射に割り振った。48時間後に、すべての対象に、内毒素を静脈にボーラス注入した(体重で1ng/kg。United States Pharmacopeial Convention Inc, Rockville, MD, USA)。内毒素血症と関連した臨床症状の発生、時間および重大度を、従来発表のように記録した(Suffrediniら、1999. J Infect Dis 172: 1278-82)。内毒素注入後、血圧、心拍数および体温を含む生命徴候を一定間隔で測定した。全身性糖衣量と微小血管糖衣厚さを、内毒素注入約4時間後でかつベースライン測定と同じ時刻に測定した。
【0139】
全身性糖衣量の評価
糖衣透過トレーサ・デクストラン40(前掲のNieuwdorp Mら、2006. Diabetes 55: 480-6; Suffrediniら、1999)の血管内分布量から循環血漿量を減算することによって、従来発表のように全身性糖衣量を評価した。循環血漿量は、従来発表の方法(Orthら.1998. Anesth Analg 87: 1234-8)で計算された。標識自己赤血球の脈管内分布量を使用して循環血液量を定量化した。血液を抜き取り、1,330rpmの遠心分離機に5分間かけた。次に、フルオレセインナトリウム(フルオレスセイン−ジ−Na 25%、250mg/ml、AZUA Pharmacy, Amsterdam, the Netherlands)を赤血球部分に5分間添加した。よく洗浄した後、標識赤血球を生理食塩水に初期体積(60ml)まで再懸濁し、再注入した。次に、注入後4、5、6および7分に血液を抜き取った。全赤血球プール内の標識赤血球の一部分を使用して循環赤血球量(VERY)を評価した。注入前の無標識赤血球は陰性対照の役割を果たした。FACScan分析装置(FACS Calibur[登録商標], Becton Dickinson, Mountain View, USA)を使用して、血液中の標識赤血球の一部分を測定した。少なくとも100、000個の細胞が計数された。データをCellquest(Becton Dickinson, San Jose, CA, USA)で分析した。10、000rpmのHettich−Haematokrit遠心分離機でヘパリン添加血液を5分間遠心分離した後、ヘマトクリット(Ht)値を測定した。循環血漿量の式([1−Ht]xVERY)/Ht)により、VERYと大血管Htから循環血漿量を計算した。
【0140】
糖衣区分を含む総血管内容積を評価するプローブとして、デクストラン40(Rheomacrodex; NPBI International, Emmercompascuum, the Netherlands)を使用した。アナフィラキシー反応の危険を少なくするために、デクストラン40の注入前に10mlのデクストラン1(Promiten; NPBI International, Emmercompascuum, the Netherlands)をボーラス注入した。100mlのデクストラン40を静脈注入した5、7、10、15、20および30分後に血液サンプリングを繰り返した。デクストラン40の濃度は、デクストラン40グルコース・ポリマー(Van Kreelら、1998. Clin Chim Acta 275: 71-80)の加水分解後の注入後試料中のグルコース濃度の増大を測定することによって計算された。ヘキソキナーゼ法(Gluco-quant, Hitachi 917; Hitachi)を使用して、1時点当たりのグルコース濃度を二重に評価した。デクストラン40の初期血管内分布量を決定するために、測定したデクストラン40濃度の指数関数当て嵌めによって注入時のデクストラン40の濃度を評価した。指数時定数(τ[min])を使用して、デクストラン40全身性クリアランス率(τ-1-1)を決定した。
【0141】
微小血管糖衣の評価
個々の毛細血管内の内皮糖衣の厚さを、従来発表(前掲のNieuwdorpら、2006; Nieuwdorpら、2006. Diabetes 55: 1127-32)のように、舌下微小循環系(Cytometrics, Philadelphia, PA, USA)の直交偏光スペクトル(OPS)によって測定した。要するに、毛細管を白血球が通過する前と通過直後に5本の個々の毛細管内に流れる赤血球の幅を測定した。健康な毛細管では、糖衣は、赤血球排除ゾーンとして知られる管腔内皮表面から赤血球を分離することによって毛細管血の充填を制限する。定常状態では、この赤血球排除ゾーンは、内皮糖衣の最大厚さの上限を表わす。白血球が一時的に毛細管内皮糖衣を圧縮するので、毛細管赤血球カラムの対応する一時的拡張を使用して毛細管糖衣寸法を評価することができる(Hanら、2006. Journal of Fluid Mechanics 554: 217-35)。倍率325xを提供する5x対物レンズで、728x576画素のサイズで記録された画像をフレーム・レート25/秒で収集した。参加者の臨床詳細を知らされていない1人の観測者が、lmage Pro Plus(Media Cybernetics, Silverspring, MD, USA)で画像分析を行った。自発的な毛細管白血球通過の前と後で、デジタル・カリパスを使用して、解剖学的毛細管直径と流動赤血球カラム幅を測定した。参加者1人当たり少なくとも5本の毛細管の糖衣寸法を決定した。これらの結果の平均は計算され、さらなる分析に使用された。さらに、毛細管密度の示度として、1視野当たりの毛細管数を数えた。
【0142】
血液サンプリングと実験室的方法
ベースライン測定時、ならびに内毒素注入後のt=0、1/2、1、3、4および24時間後に、対象から血液試料を抜き取った。遠心分離後、アリコットを液体窒素中で瞬間冷凍し−80℃で貯蔵した。標準化されたフローサイトメトリー分析で、EDTA血漿中の白血球血漿濃度とサブトラクションを決定した。血漿CRPレベルは、市販の分析物(Roche, Switzerland)で測定された。有効エタネルセプト投与のマーカーとして、血漿可溶性TNFα受容体タイプ2(sTNFR2)レベルが、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)(R&D Systems Inc, Minneapolis, MN, USA)を使用して測定された。血漿IL−6レベル(TNFα活性により生じたサイトカイニン)が、Cytometric Bead Array技術(R & D systems, Minneapolis, MN, USA)を使用して測定された。トロンビン生成を評価するために、プロトロンビン活性化フラグメントF1+2(Dade Behring, Marburg, Germany)をELISAによって測定した。自動化された定量的ラテックス粒子免疫測定(Biomerieux, Durham, NC, USA)により、フェブリン形成とその後の内因性フェブリン溶解の反映としてDダイマー・レベルを測定した。ELISA(Echelon Biosciences, Salt Lake City, UT, USA)によって、全量(低分子量と高分子量を含む)ヒアルロン酸を評価する定量的血漿ヒアルロン酸を測定した。ELISA(Seikagaku Corporation, Tokyo, Japan)によって、アクチナーゼE(Sigma, St. Louis, MO, USA)による血清前処理後にヘパラン硫酸を測定した。少し修正を加えた従来発表の分析により、総血漿ヒアルロニダーゼ活性を決定した(24)。要するに、コバリンク・プレート(Nunc, Wiesbaden, Germany)をビオチン化ヒアルロン酸(0.2 mg/mL, HyluMed[登録商標] Sterile IUO Sodium hyaluronate, Genzyme Corp, Cambridge, MA, USA)で被覆した。血漿試料を800倍に希釈し、pH3.7、37℃で2.5時間プレートに添加した。標準曲線にはウシのヒアルロニダーゼ(Sigma, St. Louis, MO, USA)を使用した。アビジン-ビオチン複合体(Vectastain, Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA)の結合により残量のヒアルロン酸を決定し、その後、o−フェニレンジアミン(OPD)と30%のH22を加えた。読取り装置においてOD492nmでプレートを測定した。
【0143】
単球フローサイトメトリー手法
全血試料をパイロジェンを含まないリチウム・ヘパリン管内で収集し、次に9ボリュームの氷冷赤血球溶解緩衝液で10分間保温し、4℃で10分間遠心分離した。残りの細胞を氷冷PBSで2回洗浄した。フローサイトメトリー分析用に、抗体と混合したFACS緩衝液中で0.5×106個の細胞を保温した。すべての試薬を滴定して、製造業者によって推奨されたような最適な結果を得た。フルオレセイン・イソチオシアネート(FITC)標識マウス抗ヒトCD14(lgG2a)、抗ヒト・アロフィコシアニン(APC)標識CD18(IgG1)およびフィコエリトリン(PE)標識抗ヒトCD11b(IgG1)とCD62L(IgG1)(R&D Systems, San Jose, CA, USA)によって細胞表面の染色を行った。適切なイソタイプ対照抗体を使用して非特異性抗体結合を修正した。染色後、細胞を洗浄して4%パラホルムアルデヒド中に固定し、FACS Calibur血球計算器フローサイトメトリーによって分析した。CellQuestソフトウェア(Becton Dickinson, Franklin Lakes, NJ, USA)によってデータを分析した。
【0144】
統計的分析
すべての値は、平均±SEMとして提供される。個別試料のt検定によって、内毒素生理食塩水と内毒素エタネルセプト群間のベースライン特性の差を分析した。処置群内の変化を一元配置分散分析によって分析した。処置群間の変化を二元配置分散分析(相互作用処理と時間)によって分析した。全身性糖衣量と他のパラメータ間の相関関係をSpearmanの順位相関係数試験(両側)によって計算した。P<0.05は、統計的に意味する差を表わすと考えられた。
【0145】
結果
エタネルセプト前処理のある場合またはない場合の内毒素注入に対する臨床応答
内毒素注入前、臨床特徴に生理食塩水とエタネルセプト群間の差は見られなかった。内毒素注入と全身性糖衣量測定は十分に許容され、重大な悪影響には遭遇しなかった。内毒素注入によって、寒気、頭痛、筋肉痛、吐き気などの特有の臨床症状が生じた。これらの症状は、両群で一時的であったが、エタネルセプト群より生理食塩水群の方がより頻繁でより集中的であった(データは示されず)。エタネルセプト前処理後にsTNFR2レベルが著しく増大し(1.8±0.2〜520±34ng/mL、p<0.0001)、エタネルセプトが有効に投与されたことが示された。エタネルセプト群では、内毒素注入後4時間血漿レベルが上昇し続け(646±83ng/mL)、それに対して、生理食塩水群では、sTNFR2血漿レベルがわずかしか影響を受けなかった(内毒素注入後4時間で2.1±0.3から5.2±0.5ng/mL,p<0.01)。生理食塩水群では、内毒素注入4時間後に血圧、心拍数および体温が著しく変化した(収縮期血圧:127±11から119±5mmHg、ns;拡張期血圧:67±8から51±9mmHg、p<0.01:心拍数:59±6から82±5、p<0.01;および体温:36.6±0.5から38.3±0.4℃、p<0.01。すべてのパラメータに関してベースライン特性と比較)。エタネルセプトはこれらの変化を弱めた(収縮期血圧:125±7から123±10mmHg、ns;拡張期血圧:69±6から67±6mmHg、ns、心拍数:62±4から69±3、ns;および体温:36.6±0.5から37.3±0.5℃。すべてのパラメータに関してベースライン特性と比較)。
【0146】
エタネルセプトは、内毒素誘導糖衣動揺を弱める
2群間でベースラインの全身性糖衣量が比較可能であった(生理食塩水群:1.6±0.6に対してエタネルセプト群:1.7±0.5リットル、ns)。全身性糖衣量は、主にデクストラン40分布量の減少(4.7±0.6から4.1±0.9リットル、p<0.O5。図1aと図1bを参照)により、生理食塩水群での内毒素注入後に大幅に減少した(0.8±0.4リットル,p<0.01)。循環血漿量が増大し(3.1±0.4から3.3±0.7リットル,p<0.05)、それに伴ってヘマトクリット値がわずかに低下した(0.44±0.03〜0.41±0.03%、p<0.01)。さらに、内毒素によって、デクストラン40の全身性クリアランス率(τ-1)が2倍になった(0.008±0.005から0.015±0.008分-1、p<0.01)。エタネルセプトは、循環血漿量(2.9±0.5から2.8±0.6リットル、ns)、ヘマトクリット値(0.43±0.02から0.42±0.02%、ns)、または全身性デクストラン40クリアランス率(0.009±0.002から0.009±0.001分-1、ns)に影響を及ぼすことなく、デクストラン40分布量の減少(4.6±0.6から3.9±0.5リットル、p<0.05)により内毒素誘導糖衣量損失を減少させた(1.1±0.2リットルに、p<0;01)。
【0147】
微小血管糖衣に関しては、内毒素注入により生理食塩水群の中央微小血管糖衣厚が減少した(1.1から0.4μm、p<0.01。図1cと図1dを参照)。糖衣が減少した結果、白血球通過前の毛細管赤血球カラム幅の増大(4.9±0.2から5.3±0.3μm、ns)を受けて毛細管血液充填率が少し増大した。さらに、糖衣の減少に伴って、解剖学的毛細管径が減少した(7.0±0.2から6.2±0.3μm、<0.05)。エタネルセプト前処理群での類似の変化(59±7から43±15、<0.01)を有する内毒素チャレンジにより、毛細管密度が大幅に減少した(1視野当たり60±18から44±16。p<0.01)。
【0148】
内毒素注入による糖衣成分の変化
血漿ヒアルロン酸レベル(糖衣シェディングのマーカー)は、生理食塩水群での内毒素注入後の最初の1時間以内に大幅に上昇し(62±18から85±24ng/mL、p<0.05)、一方、エタネルセプトでは、内毒素誘導シェディングが減少した(58±13から46±10ng/mL、p<0.05)(図2a)。血漿ヒアルロニダーゼ活性は、生理食塩水群において内毒素注入4時間後に大幅に減少し(ベースラインと比較して−56±20%、p<0.01)、一方、エタネルセプト群では、ヒアルロニダーゼ活性は影響を受けなかった(ベースラインと比較して−8±14%、ns;図2b)。特に、ヘパラン硫酸血漿レベルは、前処理を有するどちらの場合も、内毒素チャレンジ後4時間にあまり変化しなかった(生理食塩水群:5.3±1.1から5.5±1.2μg/mlに対してエタネルセプト群:5.4±1.3から5.1±1.0μg/ml、ns。ベースラインと比較して)。しかしながら、内毒素注入24時間後、生理食塩水群では血漿パラン硫酸レベルがさらに上昇した(エタネルセプト群7.4±1.5μg/mlに対して11.2±2.1μg/mL、p<0.01)。
【0149】
エタネルセプト処理がTNFα誘導された炎症および凝固応答を減少
生理食塩水群の炎症マーカーは、内毒素チャレンジ後に上昇した(IL−6:4.2±6.3から678±427pg/ml、CRP:0.5±0.4から26.7±7.6mg/L、p<0.01。ベースラインと比較。図3aと図3bを参照)。エタネルセプトは、この増加を大幅に減少させた(IL−6:4.6±3.1から127±98pg/ml、p<0.05。ベースラインと比較。CRP:0.6±0.4から16.0±3.4mg/L、p<0.01。ベースラインと比較。図3aと図3b)。平行して、内毒素4時間後に、両方処理群で、循環白血球の数が、ベースラインと比較して2倍になった。
【0150】
内毒素注入後の白血球分化に関しては、生理食塩水群では単球数に4時間で76±29%の著しい低下が観察され(ベースラインと比較してp<0.01)、エタネルセプトは、51±32%のあまり大きくない減少と関連した(ベースラインと比較してp<0.05)。2群間にはCD14+の単球数に大きさ差はなかった(27±10対26±13%、ns)。しかしながら、CD11b+/CD18+(Mac−1複合体)の単球数は、生理食塩水後にエタネルセプトより高かった(中央0.82±0.2対0.65±0.1、p<0.01)。最後に、単球を表わすCD62L+の割合(L−セレクション)が、生理食塩水群で内毒素後最大4時間後で減少し、一方、エタネルセプト群では増大が観察された(−8±37%対+66±42%、p<0.05)。
【0151】
平行して、生理食塩水群での内毒素誘導トロンビン生成とその後のフェブリン溶解のマーカーが、内毒素チャレンジ3時間後に著しく増大し始め(F1+2;0.3±0.1から2.8±1.5nmol/L、およびDダイマー:0.2±0.1から0.4±0.1mg/L、ベースラインと比較してp<0.05;図3cと図3d)、一方、エタネルセプトは、この増加を著しく少なくした(F1+2:0.3±0.1から2.1±0.9nmol/L、およびDダイマー:0.2±0.1から0.3±0.1mg/L、p<0.05)。両群のベースラインと内毒素注入4時間後のデータを蓄えたとき、全身性糖衣量とF1+2またはDダイマー・レベル間に逆相関関係が存在した(それぞれr=−0.74とr=−0.60、両方のp<0.01)。
【0152】
結論
これらのデータは、TNFαによって部分的に引き起こされた炎症活性が、内皮糖衣を動揺させることが実証する。このメカニズムにより、炎症によって生じる血管脆弱性が増大する。このデータにしたがって、本発明は、糖衣健康の検出と調節を含む炎症および血管疾患に対する診断および治療法を提供する。
【0153】
例2
この例は、本発明の方法と2つの先行技術の方法との比較例を提供する。本発明の方法は、(1)RBC幅の白血球誘導過渡的拡張を使用する先行技術の方法、および(2)(図4の)トレーサを使用して糖衣の状態を評価する先行技術の方法と比較される。
【0154】
本発明の方法(図4Aと図4C)は、赤血球幅(RBCW)、血管径(VD)、毛細管容積余量および糖衣幅(GW)を決定するサイズ分布測定を実行することによって、赤血球(3)が潅流された個々の毛細血管(1)内の内皮糖衣(2)の状態を測定する。単一測定を行なうために、血管は、5秒の視覚化を必要とし、少なくとも10本の血管に100回を超えるRBCW測定が実行される。約1分間視覚化することによって、測定数を少なくとも10倍に増やすことができる。測定されたRBCW値のサイズ分布は、糖衣の状態の正確な評価を可能にする。
【0155】
2.1 RBC幅の白血球誘導過渡的拡張
RBC幅(図4B)の白血球誘導過渡的拡張に基づく先行技術の方法は、すべての視覚化された血管に、測定1回当たり約2個の白血球を測定し、したがって糖衣の状態を決定するのに十分なデータが収集されるまでに少なくとも10分の視覚化時間を必要とする。さらに、この種の測定は、白血球(4)の(希な)通過を許容する血管上でのみ実行できることに注意されたい。微細血管などの小さい血管では、きわめて長い視覚化時間が必要である。
【0156】
第1に、この方法によって得られた糖衣幅のデータは、本発明の方法により実行された測定と比較可能である。しかしながら、本発明のデータによる許容誤差は、先行技術の方法より小さい(すなわち、パーセント信頼水準が高い)ことに注意されたい。これは、個々の白血球の幅の差によって説明することができる。
【0157】
第2に、本発明の方法により、データが、RBC幅の白血球誘導過渡的拡張に基づく先行技術の方法の10〜100倍高速に得られる。
【0158】
2.2 トレーサ法
先行技術の糖衣状態の測定は、血流へのトレーサの追加を使用して実行される。この方法は、患者から血液を採り、患者の外で血液をマークし、マークした血液を患者に注入することを必要とする。数時間後(通常は4時間後)に、血液を患者から抜き取り抽出し分析する。この分析は、糖衣の状態に関する情報を提供する。
【0159】
本発明の方法と比較して、
(1)この先行技術の方法は、きわめて労働集約的で長時間かかる。(2)この先行技術の方法は、患者にとってきわめて不快である。実際には、患者によっては、トレーサに対するアレルギー反応を起こし、患者の寿命を危険にさらすことがある。(3)さらに、より小さな血管は、赤血球の貫流が制限されるので、この先行技術の方法は、糖衣の状態の1回の測定しか提供せず、その測定が正確でない場合がある。
【0160】
例3
この例は、本発明の方法により糖衣の状態を確立することによって、糖衣の状態を素早く検出できることを実証する。
【0161】
物質と方法
サイズ分布測定を実行することによって個々の毛細血管内の内皮糖衣の状態を測定し、それにより、赤血球幅(RBCW)、血管径(VD)、毛細管容積余量および糖衣幅(GW)を決定した。MicroScan Video Microscope System (MicroVision Medical, The Netherlands)を使用して臨床舌下ビデオ顕微鏡画像を取得した。このシステムは、5x倍率を備えたLED照明付き携帯型ビデオ顕微鏡である。赤血球速度の評価を改善するために、ストロボスコープ照明が導入される。このシステムは、ADキャプチャ装置に接続されて画像をコンピュータ・ハードドライブに直接記録されるデジタル信号に変換する標準ビデオ出力(PALまたはNTSC)を有する。
【0162】
赤血球幅(RBCW)は、ここでは、単一列赤血球潅流を促進する微小血管区分における赤血球幅の複数測定値の中央値として表される。血管径(VD)は、単一赤血球潅流を促進する微小血管区分の赤血球幅の複数測定値の最大値またはp99値であり、糖衣幅は、赤血球幅と血管径の隙間の寸法である。毛細管容積余量(CVR)は、(RBCW)^2に対する(VD)^2の比率である。
【0163】
サイズ分布測定を実行することにより糖衣の状態を決定し、それにより、臨床顕微鏡によって得られた画像からRBCWを決定した。測定には、所定の血管内の赤血球カラムの幅の順次測定から赤血球幅、血管径、糖衣幅および毛細管容積余量を直接導き出す本発明による新しいアルゴリズムが使用された。この方法は、所定の容器内の1000個を超える数のRBCW値の分布を分析し、それにより、RBCW測定の数パーセントが、一般にRBCが遮断される管腔内皮膜上の糖衣領域に入り込むことが明らかになった。糖衣の状態を分析するために所定の微細血管内にわずか数秒のRBC潅流しか必要なく、所定の視野内のすべての微細血管を同時に分析した。単一視野の記録にわずか数秒しかかからず、複数の視野の記録が、数分のうちの1分以内に達成された。その結果、100個を超える血管からの赤血球幅、血管径、糖衣幅および毛細管容積余量の正確な分布が得られた。
【0164】
結果
舌下噴霧ニトログリセリンで処理された対象と処理されてない対照対象間で糖衣の状態の測定値を比較した。ニトログリセリンが糖衣を破損させることが知られているので、舌下噴霧ニトログリセリンは、制御された刺激を提供する。図5aと図5bに示されたように、処理した対象内の糖衣の状態と未処理の対象内の糖衣の状態に明確な相違が見られる。この例で実行されたような糖衣の状態の動的変化の検出は、ほぼ数分で検出することができた。糖衣の状態は、RBCWに直接関連した(図5aと図5b)。この結果から、わずか100個のRBCの分析で類似の結果が得られたことが分かった。
【0165】
結論
これらのデータから、本発明の方法を使用して糖衣の状態を実行できることが実証された。さらに、本発明の方法が、糖衣の状態の動的変化を素早く検出する正確な方法を提供することが分かる。
【0166】
例4
この例は、例2で述べたような方法を用いて糖衣の状態を定義することによって、本発明が、癌対照と健常対照のケースで糖衣の状態を区別できることを実証する。また、治療効果も評価することができる。
【0167】
結果
糖衣の状態の測定値を、癌と診断された対象と健常対照対象間で比較した。図6aと図6bに示されたように、健常対照と癌対象間で糖衣の状態の明確な差異を確認することができる。この例で実行されたような糖衣の状態の動的変化の検出は、ほんの数分で検出することができた。診断対象をVEGF受容体阻害化合物で処理した後、図7aと図7bに示されたように、この治療の効果を視覚化することができる。
【0168】
結論
これらのデータは、糖衣の状態を使用して、糖衣の破損、この例では癌によって引き起こされた破損を診断することができることを実証する。さらに、特定化合物による癌の治療の効果を評価することができる。
【0169】
例5
この例は、例2で述べたような方法を使用して、糖衣の状態を定義することによって、本発明が、糖尿病と健常対照のケースで糖衣の状態を区別できることを実証する。また、治療の効果も評価することができる。
【0170】
糖尿病群として、理学的検査で心筋梗塞、卒中、末梢血管疾患または大血管疾病の徴候の症状の履歴として定義された大血管疾病の明確な症状のない第2型糖尿病を患っている21人の非喫煙男性患者を使用した。13人の血糖正常な非喫煙の健常男性対象が、対照群となった。
【0171】
結果
糖尿病(ミクロアルブミン尿症のない)と診断された対象と健常対照対象間で、糖衣の状態の測定値が比較された。図8aと図8bに示されたように、健常対象と糖尿病対象の糖衣の状態に明確な差異を確認することができる。この例で実行されたような糖衣の状態の動的変化の検出は、ほんの数分で検出することができる。診断対象を擬糖化合物で処置した後で、図9aと図9bに示されたように、この治療の効果を視覚化することができる。
【0172】
結論
これらのデータは、糖衣の状態を使用して、糖衣の破損、この例では糖尿病によって引き起こされた損傷を診断することができることを実証する。さらに、特定化合物による糖尿病の治療の効果を評価することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖衣の状態を評価する方法であって、
(a)血管内の少なくとも10個の赤血球の幅を測定する段階と、
(b)段階(a)を、少なくとも10個の血管に繰り返す段階と、
(c)前記赤血球幅測定値のサイズ分布から糖衣の状態を評価し、それにより前記糖衣幅を決定する段階とを含む方法。
【請求項2】
(d)前記赤血球幅測定値の前記サイズ分布から前記毛細管容積余量を決定する段階をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記糖衣の前記状態を調整する化合物、心臓血管系危険因子、または生活因子を識別する方法であって、
(a)前記化合物、心臓血管系危険因子または生活因子のある状態とない状態で、血管内の少なくとも10個の赤血球の幅を測定する段階と、
(b)段階(a)を、少なくとも10個の血管に繰り返す段階と、
(c)請求項1または2の方法により前記糖衣の前記状態を評価する段階とを含み、
前記糖衣の前記状態を調整するときに、前記化合物、心臓血管系危険因子または生活因子のある状態とない状態の前記糖衣の前記状態の差が、前記化合物、心臓血管系危険因子または生活因子を識別する方法。
【請求項4】
コンピュータ読取り可能媒体または類似の独立型コンピュータ装置に記憶され、
(a)RBCW分布データを読み取り、
(b)請求項1から請求項3のいずれか1項の方法により前記糖衣の前記状態を決定するように構成されたコンピュータ・プログラム。
【請求項5】
対象の血管疾患もしくは血管疾患に対する感受性を診断する方法であって、前記対象において、糖衣の量もしくは寸法の変化、糖衣の透過度、糖衣のシェディング、および/または糖衣代謝の1つもしくは複数の酵素の活性を検出する段階を含む方法。
【請求項6】
前記診断する段階は、
(a)炎症状態または疾病を有する対象と、
(b)年齢、喫煙、高血糖および脂質異常症から選択された1つまたは複数の危険因子を有する対象と、
(c)虚血再かん流傷害、第1型糖尿病は、第2型糖尿病、高血糖、インスリン抵抗性、代謝症候群、脂質異常症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、高血圧症、癌、感染症および外傷から選択された1つまたは複数の危険病変を有する対象に実行される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
対象における炎症チャレンジに対するアテローム発生感受性を診断する方法であって、前記対象において、糖衣の量もしくは寸法の変化、糖衣の透過度、糖衣のシェディング、および/または糖衣代謝の1つもしくは複数の酵素の活性を検出する段階を含む方法。
【請求項8】
糖衣の前記量または寸法、糖衣の透過度、糖衣のシェディング、および/または糖衣代謝の1つもしくは複数の酵素の前記活性を決定する測定が、対象から取り出された試料に実行される、請求項5〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記試料において、少糖類もしくは多糖類、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸またはプロテオグリカンを含む糖衣派生分子と、ヒアルロニダーゼ、ミエロペルオキシダーゼ、ヘパリナーゼおよび他のエクソグリコシダーゼとエンドグリコシダーゼを含む糖衣同化もしくは異化に触媒作用を及ぼす酵素と、および/または糖衣と通常関連する内因性レクチン様タンパク質を含む内因性もしくは外因性糖衣関連物質の存在および/または濃度を検出する段階を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記検出が、バイオセンサ装置による、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
少糖類もしくは多糖類、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸またはプロテオグリカンを含む糖衣派生分子と、ヒアルロニダーゼ、ミエロペルオキシダーゼ、ヘパリナーゼ、エクソグリコシダーゼおよびエンドグリコシダーゼを含む糖衣同化もしくは異化に触媒作用を及ぼす酵素と、および/または糖衣と通常関連する内因性レクチン様タンパク質を含む内因性もしくは外因性糖衣関連物質の存在および/または濃度を検出するように構成されたバイオセンサ装置。
【請求項12】
請求項11で定義されたようなバイオセンサ装置と、必要に応じて、1つまたは複数のバッファ、試薬、較正検体、陽性および/または陰性対照、および/または使用説明書とを含むキット。
【請求項13】
血管疾患もしくは炎症性疾病を治療し、または炎症チャレンジに対するアテローム発生感受性を低下させるための薬剤を製造するための糖衣成分の使用法。
【請求項14】
血管疾患もしくは炎症性疾病を治療する薬剤を製造し、または炎症チャレンジに対するアテローム発生感受性を低下させるための糖衣異化酵素の阻害剤の使用法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図2】
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【図2−2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図3−4】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図6−3】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図7−3】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図8−3】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図9−3】
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【公表番号】特表2011−507560(P2011−507560A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−535403(P2010−535403)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【国際出願番号】PCT/EP2008/066524
【国際公開番号】WO2009/068685
【国際公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(510150617)ユニフェルシテイト マーストリヒト (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITEIT MAASTRICHT
【住所又は居所原語表記】Department of Physiology,Minderbroederberg 4−6,Maastricht,The Netherlands
【出願人】(510150662)
【氏名又は名称原語表記】ACADEMISCH ZIEKENHUIS MAASTRICHT
【住所又は居所原語表記】P.Debyelaan 25,Maastricht,The Netherlands
【Fターム(参考)】