説明

血管瘤形成血管治療用器具

【課題】 血管瘤形成血管内へステントを留置後、宿主血管とステントとの間隙での血栓形成が早く、血管瘤内への血液の流れ込みを防ぐとともに、ステントと宿主血管の固定性を向上させることができる血管瘤形成血管治療用器具を提供する。
【解決手段】 血管瘤形成血管治療用器具60,70,80は、チューブ状に形成した構造体であって、第1の外径と、第1の外径より大きい第2の外径とに変形可能な構造体と、構造体の側面を被包する膜とを有する血管瘤形成血管用ステント61と、血管瘤形成血管内に配置後の該ステント内に挿入可能であるとともに、ステント配置部の血管を加熱するための加熱機構を備える血管内挿入具62,72,82とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動脈瘤などの血管瘤形性血管の治療に用いられる血管瘤形性血管用ステントおよび血管瘤形性血管治療用器具に関する。
【背景技術】
【0002】
大動脈は、抹消動脈に比べ動脈瘤ができやすい。この動脈瘤は徐々に拡大し、最終的には血管の瘤壁が血圧に抗しきれず破裂してしまう。破裂した場合には、死亡率が腹部で75〜80%、胸部では70%以上と非常に高い極めて悪性の疾患である。従来この動脈瘤治療は病変部位を取り除き人工器官(人工血管)を埋め込むか、病変部周囲を移植片によりラッピングする方法が行われていた。しかし、これらの方法は外科的に開腹するため、患者の侵襲が大きく、出血量も多く、入院期間も長かった。このため、体力の無い高齢の患者や慢性病を有する老人には適応できないという問題があった。これらの問題を解決するため、経皮的にカバー付きステント(ステントグラフト)を留置して、瘤部分を遮断することで瘤を血栓化させる治療法が行われるようになった。この治療方法は、患者の侵襲も少なく、出血量も少ないため、今まで、外科的に治療できなかった患者も治療できるようになった。
【0003】
しかしながら、これらのステントグラフトは、いずれも血管内に留置後、ステントグラフトを宿主血管と固定しているステントグラフト末端部分の間隙から血液が動脈瘤内に流れ込む現象(リーク)が発生していた。リークの主な原因としては、ステントグラフトと宿主血管の密着性の悪さ、固定性の悪さが挙げられている。一旦、このリークが起こると、ステントグラフト留置後も動脈瘤内に血液が送り込まれ、動脈瘤が血栓化せず動脈瘤の内圧が上昇して瘤が拡大してゆき、動脈瘤が破裂するおそれがある。この為、留置後リークが治まらない症例に対しては、リーク部位への更なるステントの追加や外科的手術による人工血管移植術への移行が行われていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、このような問題に鑑みなされたもので、血管瘤形性血管内へステントを留置後、宿主血管とステントとの間隙での血栓形成が早く、血管瘤内への血液の流れ込みを防ぐとともに、ステントと宿主血管の固定性を向上させることができる血管瘤形性血管用ステントおよび血管瘤形性血管治療用器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するものは、チューブ状に形成した構造体であって、第1の外径と、前記第1の外径より大きい第2の外径とに変形可能な構造体と、該構造体の側面を被包する膜とを有する血管瘤形性血管用ステントであって、該ステントは、血栓形成促進部を備えている血管瘤形性血管用ステントである。
【0006】
そして、前記血栓形成促進部は、例えば、前記ステントの一方の端部に設けられている。また、前記血栓形成促進部は、例えば、前記ステントの中央付近の側面に設けられている。また、前記血栓形成促進部は、例えば、蛋白質付着部である。さらに、前記蛋白質は、アルブミン、コラーゲン、ゼラチンの少なくとも1つであることが好ましい。また、前記血栓形成促進部は、前記ステントの外面に固定された繊維集合体からなるものであることが好ましい。さらに、前記血栓形成促進部は、前記ステントの外面に一端が固定され他端が自由端となっている繊維集合体からなるものであることが好ましい。また、前記血栓形成促進部は、前記ステントの外面に固定された伸長可能な繊維集合体からなるものであってもよい。
【0007】
また、上記目的を達成するものは、チューブ状に形成した構造体であって、第1の外径と、前記第1の外径より大きい第2の外径とに変形可能な構造体と、該構造体の側面を被包する膜とを有する血管瘤形性血管用ステントと、血管瘤形性血管内に配置後の該ステント内に挿入可能であるとともに、該ステント配置部の血管を加熱するための加熱機構を備える血管内挿入具とを備える血管瘤形性血管治療用器具である。
そして、前記血管内挿入具は、例えば、血管瘤形性血管内に配置後の該ステントの内面と膨張時に接触可能なバルーンと、該バルーン内に液体を供給するための流路と、該液体を加熱するための加熱手段とを備えるものである。そして、前記加熱手段は、例えば、前記バルーン内に設けられている。また、前記血管内挿入具は、膨張可能なバルーンと、該バルーン内に液体を供給するための流路と、該バルーンにより拡径可能であるとともに前記ステントを加熱するための発熱体とを備えているものであってもよい。さらに、前記血管内挿入具は、前記バルーン内もしくはバルーン付近に設けられた温度検知部を備えていることが好ましい。また、前記加熱機構は、例えば、血管瘤形性血管内に配置後の該ステントの内面に向かって加熱用レーザを照射するレーザ照射手段である。また、前記血管内挿入具は、第1の膨張可能なバルーンと、該第1のバルーン内に液体を供給するための流路と、該第1のバルーンより所定距離離間して設けられた第2のバルーンと、該第2のバルーン内に液体を供給するための流路と、前記第1のバルーンと該第2のバルーン間に加熱用レーザ照射部を備えるレーザ照射手段と、前記第1のバルーンと該第2のバルーン間にて開口する脱血用流路とを備えるものであってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の血管瘤形性血管用ステントは、チューブ状に形成した構造体であって、第1の外径と、前記第1の外径より大きい第2の外径とに変形可能な構造体と、該構造体の側面を被包する膜とを有する血管瘤形性血管用ステントであって、該ステントは、血栓形成促進部を備えている。
このステントは、血栓形成促進部を備えているので、ステント留置後、宿主血管とステントとの間隙での血栓形成が早く、血管瘤内への血液の流れ込みを防ぐとともに、ステントと宿主血管の固定性を向上させることができる。
また、本発明の血管瘤形性血管治療用器具は、チューブ状に形成した構造体であって、第1の外径と、前記第1の外径より大きい第2の外径とに変形可能な構造体と、該構造体の側面を被包する膜とを有する血管瘤形性血管用ステントと、血管瘤形性血管内に配置後の該ステント内に挿入可能であるとともに、該ステント配置部の血管を加熱するための加熱機構を備える血管内挿入具とを備えるものである。
この血管瘤形性血管治療用器具は、ステント配置部の血管を加熱するための加熱機構を備えるため、血管瘤形性血管内へステント留置後、宿主血管とステントとの間隙での血栓形成を早くすることができ、血管瘤内への血液の流れ込みを防ぐとともに、ステントと宿主血管の固定性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の血管瘤形性血管用ステントを添付図面に示す好適実施例に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の血管瘤形性血管用ステントを動脈瘤形性血管用ステント(ステントグラフト)に適用した場合の実施例の外観図であり、図2は、図1の実施例のステントの部分拡大図である。図3及び図4は、図1に示すステントにおける維持手段の構成を示す斜視図、図5〜図8は、維持手段および外径拡張手段の動作を示す部分断面側面図、図9は、外径拡張手段の一端部の構成を示す斜視図である。なお、図1〜図9中の上側を「上」または「上端」、下側を「下」または「下端」として説明する。
【0010】
本発明の血管瘤形性血管用ステント1は、チューブ状に形成した構造体であって、第1の外径と、第1の外径より大きい第2の外径とに変形可能な構造体2と、構造体2の側面を被包する膜4とを有する血管瘤形性血管用ステントである。ステント1は、血栓形成促進部(言い換えれば、血液凝固因子良好付着部)11,12を備えている。
【0011】
図1に示す実施例のステント(ステントグラフト、血管内留置物)1は、大動脈内の動脈瘤形成部位に挿入・留置(移植)されるものであり、その輪郭がチューブ状に形成された構造体(三次元構造体)2と、この構造体2を被包する膜4を備える。構造体2は、図1および図2に示すように、チューブ状に形成されている。なお、構造体は、本体チューブと、本体チューブから二股に分岐した2本の分岐チューブを有する構造のものであってもよい。
【0012】
構造体2は、主に、螺旋状に巻かれた複数本のストラット(線状体)27で構成されている。そして、この実施例の構造体2は、螺旋状に同一方向に巻かれた(ほぼ並行するように巻かれた)複数のストラット27aと、この複数のストラット27aと逆方向に巻かれた複数のストラット27bを備えている。このため、構造体2中には、ストラット27aとストラット27bが交差する多数の交差部が形成されている。これらのストラット27(27a,27b)により、構造体2の骨格が形成されている。なお、ストラット27の形状、形態は、螺旋状のものに限らず、その他、例えばリング状(特に複数のリングを連結した形状)のものや網状のものでもよい。
【0013】
構造体2は、外力の作用によってその外径が変化する。すなわち、自然状態(外力を作用させない状態)では、第1の外径である(以下、この状態を「縮径状態」と言う)が、後述する外径拡張手段5a〜5fを作動させると、第1の外径より大きい第2の外径となる(以下、この状態を「拡径状態」と言う)。
この場合、第1の外径は、ステントグラフト1が大動脈内移動できる程度のものであり、第2の外径は、ステントグラフト1が大動脈の内壁に十分に密着できる程度のものである。
【0014】
また、構造体2には、その長手方向に沿って延在する棒状の維持手段3a〜3dが設置されている。この維持手段は、構造体2の外径を第2の外径に維持する機能を有し、構造体2の周方向に沿って、複数配置されているのが好ましい。この実施例のステントグラフト1では、4本の維持手段3a〜3dがチューブ周方向に沿ってほぼ等間隔で設置されている。
【0015】
ストラット27および維持手段3a〜3dの構成材料としては、例えば、ステンレス鋼、Ni−Ti合金、Cu−Zn合金、Ni−Al合金、タングステン、タングステン合金、チタン、チタン合金、タンタル等の各種金属や、ポリアミド、ポリイミド、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素系樹脂等の比較的高剛性の高分子材料、あるいは、これらを適宜組み合わせたものが挙げられるが、このなかでも、特に、ステンレス鋼またはステンレス鋼を芯材とするものが好ましい。また、ストラット27の線径は、特に限定されないが、好ましくは0.03〜2mm程度とすることができる。より好ましくは0.1〜1mm程度とすることができる。
【0016】
維持手段3a〜3dの各上端部および下端部には、ストラット27の端部が固定されている。また、維持手段3a〜3dの途中のストラット27と交差する部位は固定されており、ストラット27同士の交差部位も同様に固定されていることが好ましい。固定は、例えば、接着剤による接着、半田付け等のろう接、溶接、結紮等によりなされる。また、維持手段3a〜3dの中間部に対するストラット27の固定や、ストラット27同士の交差部位の固定は、交差角度が可変となるようなルーズな固定が好ましい。これにより、ステントグラフト1の拡張、収縮をより円滑に行うことができる。なお、ストラット27は、維持手段3a〜3dを構成する部材であるガイド管31に固定される(図3、図4参照)。
このように、維持手段3a〜3dは、ストラット27と共に、構造体2の骨格の一部を形成している。特に、維持手段3a〜3dは、構造体2の長手方向に延在する支柱の役割を果たしている。これにより、構造体2の構造を複雑化することなく、必要かつ十分な強度や弾性、特に均一な強度、弾性を確保することができる。
【0017】
構造体2の内面または外面もしくは両面(この実施例では、外面)には、図1および図2に示すように、膜4が被覆されている。これにより、ステントグラフト1と、管腔内面とが密着するため、留置した後の、位置ズレおよび血管の軸との角度ズレを防止することができる。この膜4は、構造体2の外径の変化に伴い伸縮するもの、または折り畳まれた状態から広がるものが好ましい。膜4は、例えば、織物、編物、不繊布、紙材のような繊維性多孔質膜、その他非繊維性多孔質膜、高分子シートのような緻密膜のいずれでもよい。
【0018】
膜4として、繊維素材を用いる場合には、例えば、セルロース繊維、綿、リンター、カポック、亜麻、大麻、ラミー、絹、羊毛等の天然繊維、ナイロン(ポリアミド)、フッ素樹脂系繊維、レーヨン、キュプラ、アセテート、ビニル樹脂系繊維、アクリル、ポリエチレンテレフタレート(ポリエステル)、ポリプロピレン等の化学繊維、または上記の天然および化学繊維のうちの2以上の組み合わせ(混紡等)を用いることができる。
【0019】
また、膜4として、高分子シートを用いる場合には、その材料として、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、天然ゴム、イソプレンゴム、シリコーンゴム、スチレンーブタジエンゴム、ラテックスゴム等の各種ゴム、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリウレタン系等の各種熱可塑性エラストマー等が使用できる。
また、膜4は、同一または異なる材料による2層以上の積層体であってもよい。
【0020】
膜4の構造体2に対する設置箇所は、構造体2の全体でも、一部分でもよいが、好ましくは構造体2の長手方向中央部分、より好ましくは構造体2のほぼ全体の内面または外面を被覆していることが好ましい。これにより、構造体2が拡張し、第2の外径となった場合、管腔内壁とステント1との密着部が大きくなり、留置されたステント1の位置ズレを防止することができる。
図1、図2に示す実施例では、構造体2のほぼ全長に渡り、その外周が筒状の膜4により被覆されており、露出するのは、両端部のみである。
【0021】
そして、構造体2の両端部には、図1および図2に示すように、血栓形成促進部11,12が形成されている。この実施例の血栓形成促進部11,12は、ステントの外面に一端が固定され他端が自由端となっている繊維集合体からなるものである。具体的には、構造体2の両端に繊維集合体が巻き付けられた状態となっている。この繊維集合体の表面には、無数の糸の自由端が露出しており、いわゆるモール状となっている。このため、血液成分(血液凝固因子)との接触面積が広くその付着性が高く、この部分での血栓の形成が速いものとなっている。このように血栓形成促進部11,12は、構造体2の端部に形成することが好ましいが、膜4の軸方向の中央付近の外面に設けてもよい。この場合には、ある程度の幅を有する血栓形成促進部とすることが望ましい。また、血栓形成促進部としては、上記のようなものに限定されるものではなく、例えば、繊維を束ねた伸長可能な繊維集合体を構造体2の端部(好ましくは両端)に巻き付けたものであってもよい。
【0022】
血栓形成促進部11,12に利用される繊維としては、血液成分(凝固因子)の付着が可能なものであればどのようなものでもよく、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリブチレンテレフタレート等から形成される合成繊維、セルロース繊維、綿、リンター、カポック、亜麻、大麻、ラミー、絹、羊毛等の天然繊維などが好適である。
【0023】
さらに、上記のように繊維により形成された血栓形成促進部11,12には、血液成分付着性向上物質(血液凝固因子付着性向上物質、例えば、タンパク質)を付着させておくことが好ましい。タンパク質としては、生体由来のものが好適であり、アルブミン、ゼラチン、コラーゲン、グロブリンなどが使用される。
【0024】
また、血栓形成促進部11,12は、上記のように、膜形成材料とは別に、繊維からなるものを用いるものに限定されるものではなく、例えば、膜4に血栓形成促進部を設けてもよい。例えば、図10に示すように、膜4の一端部もしくは両端部に、上記のような血液成分(血液凝固因子)付着性向上物質(例えば、タンパク質)14を付着させることにより、血栓形成促進部13a,13bを形成することができる。また、図11に示すように、膜4の軸方向中央部分に所定の幅(軸方向の長さ、10〜150mm程度が好適である)を持って、外周面に上記のような血液成分(血液凝固因子)付着性向上物質(例えば、タンパク質)14を付着させることにより、血栓形成促進部13を形成してもよい。これらの場合には、血栓形成促進部となる膜4の部分4aは、他の部分より若干肉厚となっており、タンパク質の付着が良好なものとすることが好ましい。また、膜4の外面全体に、上記のようなタンパク質を付着させて血栓形成促進部を形成してもよい。
【0025】
次に、維持手段3a〜3dおよび外径拡張手段の構造について説明する。
維持手段3a〜3dの下端部には、それぞれ、対応する外径拡張手段が着脱自在に接続(連結)される。外径拡張手段は、縮径状態の構造体2を状態にすると共に、対応する維持手段3a〜3dを作動させるためのものである。
なお、各維持手段3a〜3dおよび各外径拡張手段は、それぞれ、ほぼ同様の構成であるため、以下、図3〜図9に基づき、維持手段3cおよびこれに接続される外径拡張手段5cについて代表的に説明する。
【0026】
維持手段3cは、伸縮自在なガイド管31と、ガイド管31の内径より小さい外径を有すロッド32とで構成され、ロッド32はガイド管31内に挿通されている。
ガイド管31は、弾性材料よりなるコイル(コイルバネ)で構成されている。このガイド管31は、自然状態では伸長しているが、ロッド32の牽引操作により収縮させることができる。
【0027】
前述したように、ガイド管31にはストラット27が固定されている。図3に示すように、ガイド管31が伸長状態のときには、ガイド管31に固定されたストラット27も軸方向に引き延ばされ、構造体2は縮径状態となる。また、図4に示すように、ロッド32の牽引によりガイド管31が収縮すると、ガイド管31に対するストラット27の固定点間の軸方向の距離が縮まり、ストラット27が径方向に拡張し、構造体2は拡径状態となる。
【0028】
なお、ガイド管31の収縮率は、ガイド管31の全長にわたって同一でもよいが、ガイド管31は、長手方向に互いに収縮率が異なる箇所を有するものでもよい。この場合には、ガイド管31に対するストラット27の固定点の位置や固定点間の距離を選択して、構造体2の拡径率(=第2の外径/第1の外径)を部分的に変えることができる。その結果、構造体2の拡径状態における形状を任意に設定することができ、管腔の留置部位への追従性、適合性をより向上させること等が可能となる。
【0029】
ガイド管31に異なる収縮率を与える方法としては、例えば機械的特性(バネ弾性率等)が異なる複数の単位ガイド管を長手方向に接続して1つのガイド管31とする方法や、1本のガイド管に対し、コイル巻線の条件(密度(巻数)、コイル外径等)を変えて弾性率を異なるようにする方法等が挙げられる。
【0030】
ロッド32は、線材で構成され、その上端には、ガイド管31の上端と係合するフック(ストッパー)321が形成されている。なお、フック321は、ガイド管31の上端部に対し、前記と同様の方法により固定されていてもよい。
また、ロッド32の下端部には、ロッド32をループ状に折り曲げて形成された係合部322を有している。この係合部322は、ガイド管31の下端に係合し、これによりガイド管31の収縮状態を維持する(図7参照)。
また、ロッド32の下端、すなわち係合部322のループ部分には、リング33が係合(連結)または固定されている。このリング33は、ロッド32と牽引ワイヤ52とを連結する連結部材である。なお、リング33は、ロッド32に対し、別体でも一体化されたものでもよい。
【0031】
ガイド管31を形成するコイルの材料としては、前記ストラット27の構成材料として挙げたものと同様のものが挙げられる。また、ガイド管31の外径は、特に限定されず、ステント1の外径にもよるが、体腔へ挿入する際の患者の負担と強度とを考慮して、通常は、0.2〜2.5mm程度が好ましく、0.4〜1.2mm程度がより好ましい。なお、ガイド管31のコイルの断面形状は、円形に限らず、楕円形、四角形(扁平形状)等、いかなるものでもよい。
【0032】
ロッド32の構成材料としては、ストラット27の構成材料として挙げたものと同様のものが挙げられる。また、ロッド32の線径は、特に限定されないが、通常、0.05〜1.5mm程度が好ましく、0.1〜0.8mm程度がより好ましい。
【0033】
リング33の構成材料としては、ストラット27の構成材料として挙げたものと同様のものが挙げられる。また、リング33の線径は、特に限定されないが、別体によるリング33の場合、十分な柔軟性を得るために比較的細いものが好ましく、具体的には、0.03〜0.3mm程度が好ましく、0.08〜0.15mm程度がより好ましい。
【0034】
外径拡張手段5cは、外管51と、外管51内に挿通される牽引ワイヤ52と、外管51の上端部に設置され、維持手段3cとの接続部を構成する接続部材(スペーサー)53とを備えている。この外径拡張手段5cは、維持手段3cに対し着脱自在に接続(連結)される。
外管51は、適度な剛性、すなわちロッド32を牽引してガイド管31を収縮させたとき、軸方向に生じる圧縮力に抗し、折れ曲がり等を生じない程度の剛性と、適度な可撓性(柔軟性)とを有するものであり、例えば樹脂製チューブや、ガイド管31と同様のコイル材料よりなる密巻コイルで構成されたものが挙げられる。
【0035】
牽引ワイヤ52は、その外径が外管51の内径より小さく、外管51内を円滑に摺動することができる。牽引ワイヤ52の上端部には、フック521が設けられている。このフック521は、リング33に係合される。また、牽引ワイヤ52の下端側は、外管51の下端開口から所定長さ突出しており、その下端部には、図示しない牽引操作部が形成されている。この牽引操作部を操作して牽引ワイヤ52を下方へ牽引する。
【0036】
フック521が、リング33に係合している状態で、牽引ワイヤ52を下方へ引くと、リング33を介してロッド32が下方へ牽引され、ガイド管31が収縮して構造体2が拡径状態となる。また、牽引ワイヤ52の下端側の所定位置には、牽引ワイヤ52の移動量(牽引量)を示す表示手段として、マーカー522,523が付されている。本実施例では、色彩または形状が異なる等により区別可能な少なくとも2つのマーカー522,523が付されている。これらのマーカー522,523は、種々の目的で利用される。例えば、図5に示すように、係合部322がガイド管31内にあり未だガイド管31の下端と係合しておらず、ガイド管31の伸縮を自由に行うことができる状態であること、図6に示すように、係合部322がガイド管31の下端と係合しまたは係合直前の状態であること等を知ることができる。マーカー522,523は、それぞれ、これらの状態に対応した位置に付されており、外管51の下端開口から出没するマーカー522,523を区別することにより前記状態を認識することができる。
なお、表示手段の他の例としては、牽引ワイヤ52やその牽引手段(巻き取りリール等)に牽引ワイヤ52の移動量に対応した目盛りを付すことが挙げられる。
【0037】
図9に示すように、接続部材53は、扁平形状をなす箱状の部材で構成されており、その上端中央部には、対向する一対の突部531が上方に向かって突出形成されている。この突部531には、ガイド管31の下端が当接または嵌合する。
接続部材53の上方の内部には、維持手段3cと外径拡張手段5cとの接続状態で係合部322の通過を許容する内部空間530が形成されている。また、接続部材53の上端部の両側部には、それぞれ切欠き532が形成されている。
【0038】
維持手段3cと外径拡張手段5cとが接続された状態で、係合部322は内部空間530に侵入し、その端部323が切欠き532を通過してガイド管31の外方へ突出し、ガイド管31の下端への係合を可能とする。すなわち、接続部材53は、維持手段3cと外径拡張手段5cとが接続された状態のままで、維持手段3cによる構造体拡径状態維持の動作の開始を許容する。従って、構造体2の拡径およびその拡径状態の維持のための操作の操作性が向上する。なお、図示の構成では、接続部材53の平面形状は長方形であるが、これに限らず、例えば楕円形であってもよい。
接続部材53の外管51に対する固定は、単に嵌合されているだけでもよいが、接着剤による接着、融着、ろう接、溶接等により固定されていてもよい。
【0039】
外管51の下端部には、束ね部材54が設置されている。この束ね部材54は、外径拡張手段5c,5dの2本の外管51を1つに束ねるものである。この束ね部材54は、2本の外管51より拡径している。従って、束ね部材54は、後述するように、血管(大動脈)内で把持器具により把持される把持部を構成している。
【0040】
束ね部材54の具体例としては、ゴム製のバンド(Oリング)、紐(糸)、バンドのチューブ、金属製または樹脂製のクリップ(挟持部材)等が挙げられる。なお、外径拡張手段5a,5bの各外管51に対しては、このような束ね部材54は、装着されていても、装着されていなくてもよい。
外管51の外径は、特に限定されず、ステント1の外径にもよるが、体腔へ挿入する際の患者の負担と強度とを考慮して、通常は、0.2〜2.5mm程度が好ましく、0.4〜1.2mm程度がより好ましい。
牽引ワイヤ52の構成材料としては、ストラット27の構成材料として挙げたものと同様のものが挙げられる。また、牽引ワイヤ52の線径は、特に限定されないが、通常、0.1〜1.5mm程度が好ましく、0.2〜0.8mm程度がより好ましい。
【0041】
接続部材53としては、金属管を所望の形状に変形させたものや、樹脂成形体等が挙げられる。接続部材53を構成する金属材料としては、例えば、鉄または鉄系合金(ステンレス鋼等)、銅または銅系合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金、チタンまたはチタン合金が挙げられる。接続部材53を構成する樹脂材料としては、例えば、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。
【0042】
維持手段3cおよび外径拡張手段5cを以上のような構造としたことにより、操作性が優れるとともに、維持手段および外径拡張手段としての機能を十分に発揮しつつ、細径化することができる。これにより、管腔への挿入の際の患者の負担の軽減に寄与する。また、細径化により、従来挿入が困難であった部位に対しても可能となり、生体の各所への適用範囲を広げることができる。
【0043】
次に、維持手段3cおよび外径拡張手段5cの動作(作用)について、図5〜図8に基づき説明する。
図5に示すように、まず、維持手段3cに外力が作用していない状態では、維持手段3cのガイド管31は伸長状態であり、これにより、構造体2は縮径状態となっている。このとき、係合部322は、ガイド管31内に収納されている。また、ロッド32と牽引ワイヤ52とは、リング33により連結され、張力が伝達可能とされている
【0044】
次に、図6に示すように、外管51を保持しつつ牽引ワイヤ52を下方へ引くと、まず、接続部材53の突部532がガイド管31の下端に当接または嵌合する。さらに牽引ワイヤ52を下方へ引くと、ロッド32が牽引され、ガイド管31が収縮し、構造体2は拡径状態となる。また、ガイド管31が収縮することにより係合部322がガイド管31の下端開口から露出し、接続部材53の内部空間530内に侵入する。このとき、係合部322の端部323が切欠き532を通過してガイド管31より外方へ突出する。
【0045】
次に、牽引ワイヤ52の張力を弱め、牽引ワイヤ52を上方へわずかに戻すと、図7に示すように、係合部322の端部323がガイド管31の下端に係合する。これにより、ガイド管31の収縮状態、すなわち構造体2の拡径状態が維持される。
なお、上記構造体2の縮径状態から拡径状態となり、それが維持されるまでの動作は、マーカー522,523等の位置を視認することにより、術者が体外で把握することができる。
【0046】
次に、図7〜図8に示すように、牽引ワイヤ52の上方への移動や回転等の操作を行ってリング33からフック521を外し、その後、牽引ワイヤ52を再度下方へ移動してフック521を接続部材53の内部空間530内に収納する。これにより、維持手段3cから外径拡張手段5cが切り離される。
以上のような操作は、維持手段3cおよび外径拡張手段5c以外の維持手段および外径拡張手段に対しても同様に行われる。術者は、このような操作を、容易かつ円滑に、短時間で行うことができる。
【0047】
なお、構造体2としては、上述したような構造および機構のものに限定されるものではなく、いわゆるバルーンエクスパンダブルステント、セルフエキスパンダブルステントでもよい。
バルーンエクスパンダブルステントはステント自体に拡張機能はなく、ステントを目的部位に挿入した後、ステント内にバルーンを位置させてバルーンを拡張させ、バルーンの拡張力によりステントを拡張(塑性変形)させ目的管腔の内面に密着させて固定するタイプのものである。このため、ステントは、略管状体に形成され、生体内への挿入のための直径を有し、管状体の内部より半径方向外方に広がる力が付加されたときに伸張可能なものである。
【0048】
このようなバルーンエクスパンダブルステントは、例えば、細い波状要素により環状に形成されるとともにステントの軸方向に複数配列された波状環状体と、波状環状体を軸方向に接続する接続部を備えている。バルーンエクスパンダブルステントの形成材料としては、ある程度の生体適合性を有するものが好ましく、例えば、ステンレス鋼、タンタルもしくはタンタル合金、プラチナもしくはプラチナ合金、金もしくは金合金、コバルトベース合金等が考えられる。またステント形状を作製した後に貴金属メッキ(金、プラチナ)をしてもよい。ステンレス鋼としては、最も耐腐食性のあるSUS316Lが好適である。
【0049】
また、セルフエキスパンダブルステントは、ステント自身が収縮および拡張機能を有している。このステントを目的部位に留置するためには、収縮させた状態にて目的部位に挿入した後、収縮状態の維持のために負荷した応力を除去する。例えば、目的部位の内径より小さい外径のシース内にステントを収縮させて収納し、このシースの先端を目的部位に到達させた後、ステントをシースより押し出す。押し出されたステントは、シースより解放されることにより応力負荷が解除され、収縮前の形状に復元し拡張する。これにより、目的部位の内面に密着し固定する。
【0050】
セルフエキスパンダブルステントとしては、円筒状フレーム体と、この円筒状フレーム体を構成するフレームにより区画(囲撓)された開口およびフレームにより区画された切欠部を有するもの、コイル状のもの、円筒状のもの、ロール状のもの、異形管状のもの、高次コイル状のもの、板バネコイル状のもの、カゴまたはメッシュ状のものなどがある。
セルフエキスパンダブルステントの形成材料としては、金属が使用される。金属としては、例えば、ステンレス、タンタル、ニッケルチタン合金、超弾性金属などが好ましい。
【0051】
上述したすべてのタイプのステントにおいて、ステントの大きさは、留置される血管部位、患者の体格などにより相違するが、一般的に、全長は30mm〜400mmが好ましく、特に50mm〜250mmが好ましい。内径は、2〜50mmが好ましく、特には3〜40mmが好ましい。外径は、3mm〜55mmが好ましく、特に5mm〜45mmが好ましい。
【0052】
次に、本発明の血管瘤形性血管治療用器具について、図面を用いて説明する。
本発明の血管瘤形性血管治療用器具60,70,80は、チューブ状に形成した構造体であって、第1の外径と、第1の外径より大きい第2の外径とに変形可能な構造体と、構造体の側面を被包する膜とを有する血管瘤形性血管用ステント61と、血管瘤形性血管内に配置後の該ステント内に挿入可能であるとともに、ステント配置部の血管を加熱するための加熱機構を備える血管内挿入具62,72,82とを備える。
【0053】
図12に示す血管瘤形性血管治療用器具60は、血管瘤形性血管用ステント61と、血管内挿入具62とからなる。そして、この血管内挿入具62は、血管瘤形性血管内に配置後のステント61の内面と膨張時に接触可能なバルーン65と、バルーン内に液体を供給するための流路(ルーメン)68と、バルーン内にて液体を加熱するための加熱手段66を備えている。
血管瘤形性血管用ステント61としては、上述した各種ステントを用いることができる。
【0054】
血管内挿入具62は、チューブ本体63と、その後端に固定されたコネクタ64を備える。チューブ本体63の先端部には、膨張および収縮可能なバルーン65が液密に固定されている。チューブ本体63の外面でありかつバルーン65内となる位置には、加熱モジュール66および温度センサ67が固定されている。チューブ本体63は、内部に2つのルーメン68,69を備えており、これらルーメン68,69は、チューブ本体63の先端に固定された先端部材91により封止されている。また、チューブ本体63の外面には、バルーン65内とルーメン68とを連通する側孔92、加熱モジュール66のリード線93を挿通するための側孔95および温度センサ67のリード線94を挿通するための側孔96を備えている。また、側孔95は加熱モジュール66により、側孔96は温度センサ66により封止されており、バルーン65内は、ルーメン69とは連通していない。
【0055】
また、コネクタ64は、バルーン拡張用ルーメン68と連通する流体ポート64aと、加熱モジュール66のリード線93と電気的に接続されるとともに加熱装置(図示せず)と連結されるための接続部98と、温度センサ67のリード線94と電気的に接続されるとともに温度検知装置(図示せず)と連結されるための接続部97とを備えている。
【0056】
チューブ本体63としては、ある程度の可撓性を有するものが好ましく、例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等)、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂、ポリアミドエラストマー、シリコンゴム、ラテックスゴム等が使用でき、好ましくは上記の熱可塑性樹脂であり、より好ましくはポリウレタンである。
そして、チューブ本体63の長さは、200〜600mm、より好ましくは、450〜550mm、外径は、1.0〜5.0mm、より好ましくは、1.15〜4.0mm、肉厚は、0.1〜0.4mm、より好ましくは、0.15〜0.25mmである。
【0057】
バルーン65は、膨張・収縮が可能であり、収縮時には、チューブ本体の外周に密着あるいは折り畳まれた状態となることができるように構成されている。バルーン65の材質としては、ある程度の可塑性と駆動流体圧や血圧による著しい容積変動を抑制できる程度の硬度を有するものが好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体などのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、架橋型エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリウレタンなどの熱可塑性樹脂、ポリアミドエラストマー、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が使用できる。
【0058】
バルーン65は、それぞれの両端部がチューブ本体の外周面に、例えば接着(例えば、熱融着)により、固定されている。また、バルーンの大きさは、膨張時に、ステント内面と接触可能であることが必要である。具体的には、バルーン65の大きさとしては、目的とする血管部位により相違するが、大動脈に用いる場合には、膨張時の外径が、3〜52mm、好ましくは、4〜42mmである。また、長さは、10〜70mm程度が好ましい。
【0059】
加熱モジュール66としては、バルーン内に注入された液体を40℃〜100℃に加熱できるものであることが望ましく、特に、40℃〜80℃に加熱できるものであることが好ましい。加熱モジュール66としては、高周波ヒータ(電熱線)などが使用できる。また、温度センサ67としては、サーミスタが好適である。
【0060】
この実施例の血管瘤形性血管治療用器具60の作用を図12を用いて説明する。
血管瘤(動脈瘤)99aが形成された血管(大動脈)99に通常の方法を用いて、ステント61を配置する。そして、大腿動脈より、血管内挿入具62を挿入し、バルーン65のほぼ中央がステント61の先端部付近に位置するように配置する。この状態が図12に示す状態である。そして、コネクタ64の液体ポート64aより液体をルーメン68内に圧入し、バルーン65を膨張させて、バルーン65をステント61の先端部に密着させる。これにより、ステント61の先端部と血管内壁との密着性は向上する。続いて、図示しない加熱装置を作動させて、加熱モジュール(発熱モジュール)を発熱させ、これにより、バルーン内に注入された液体を加熱する。液体の温度は、温度センサ67により検知され、この検知結果を用いて、液体が過剰加熱されないように加熱を調整する。そして、液体が加熱されることにより、ステント61を介して、血管瘤99aの上流側端部付近99bも加熱され、ステント61の先端部の外面と血管99の内面(特に99c部分)に位置する血液は加熱されることにより、凝固が生じ、血栓化し硬化する。これにより、ステント61の外面と血管内面間を通過し血管瘤形成部内に血液が流入するいわゆるリークを防止できる。そして、必要により、上記の加熱作業を、ステント61の下流側端部についても行ってもよい。
【0061】
次に、図13に示す血管瘤形性血管治療用器具70について説明する。
血管瘤形性血管治療用器具70は、血管瘤形性血管用ステント61と、血管内挿入具72とからなる。血管内挿入具72は、膨張可能なバルーン65と、バルーン65内に液体を供給するための流路68と、バルーン65により拡径可能であるとともにステント61を加熱するための発熱体73を備えている。血管瘤形性血管用ステント61としては、上述した各種ステントを用いることができる。
【0062】
血管内挿入具72は、チューブ本体73と、その後端に固定されたコネクタ64を備える。チューブ本体73の先端部には、膨張および収縮可能なバルーン65が液密に固定されている。バルーン65の外面には、バルーン65により拡径可能なコイル状の発熱体である加熱モジュール71および加熱モジュール71と接触するように設けられた温度センサ74が設けられている。チューブ本体73は、内部に2つのルーメン68,69を備えており、これらルーメン68,69は、チューブ本体73の先端に固定された先端部材91により封止されている。また、チューブ本体73の外面には、バルーン65内とルーメン68とを連通する側孔92、加熱モジュール71のリード線93および温度センサ74のリード線94を挿通するための側孔75を備えている。
【0063】
また、コネクタ64は、バルーン拡張用ルーメン68と連通する流体ポート64aと、加熱モジュール71のリード線93と電気的に接続されるとともに加熱装置(図示せず)と連結されるための接続部98と、温度センサ74のリード線94と電気的に接続されるとともに温度検知装置(図示せず)と連結されるための接続部97とを備えている。
【0064】
チューブ本体73としては、上述したチューブ本体63にて説明したものが好適に使用できる。また、チューブ本体73の長さは、200〜600mm、より好ましくは、450〜550mm、外径は、1.0〜5.0mm、より好ましくは、1.15〜4.0mm、肉厚は、0.1〜0.4mm、より好ましくは、0.15〜0.25mmである。
【0065】
バルーン65は、膨張・収縮が可能であり、収縮時には、チューブ本体の外周に密着あるいは折り畳まれた状態となることができるように構成されている。バルーン65の材質としては、ある程度の可塑性と駆動流体圧や血圧による著しい容積変動を抑制できる程度の硬度を有するものが好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体などのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、架橋型エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリウレタンなどの熱可塑性樹脂、ポリアミドエラストマー、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が使用できる。
【0066】
バルーン65は、それぞれの両端部がチューブ本体の外周面に、例えば接着(例えば、熱融着)により、固定されている。また、バルーンの大きさは、膨張時に、ステント内面と接触可能であることが必要である。具体的には、バルーン65の大きさとしては、目的とする血管部位により相違するが、大動脈に用いる場合には、膨張時の外径が、3〜52mm、好ましくは、4〜42mmである。また、長さは、10〜70mm程度が好ましい。
【0067】
コイル状の加熱モジュール71としては、バルーンにより拡径可能な形状もしくは形態となっていることが必要である。この実施例では、コイル状となっているため、バルーンにより拡径する。また、加熱モジュール71としては、40℃〜100℃に発熱できるものであることが望ましく、特に、40℃〜80℃に発熱可能であることが好ましい。加熱モジュール71としては、コイル状ヒータ(電熱線)などが使用できる。また、温度センサ74としては、サーミスタが好適であり、温度センサ74は、加熱モジュールに接触していることが好ましい。
【0068】
この実施例の血管瘤形性血管治療用器具70の作用を図13を用いて説明する。
血管瘤(動脈瘤)99aが形成された血管(大動脈)99に通常の方法を用いて、ステント61を配置する。そして、大腿動脈より、血管内挿入具72を挿入し、バルーン65のほぼ中央がステントの先端部付近に位置するように配置する。この状態が図13に示す状態である。そして、コネクタ64の液体ポート64aより液体をルーメン68内に圧入し、バルーン65を膨張させて、加熱モジュール71を拡径させ、加熱モジュール71をステント61の先端部に密着させる。これにより、ステント61の先端部と血管内壁との密着性は向上する。続いて、図示しない加熱装置を作動させて、加熱モジュール(発熱モジュール)を発熱させる。加熱モジュールの温度は、温度センサ74により検知され、この検知結果を用いて、加熱モジュールが過剰発熱しないように加熱を調整する。そして、加熱モジュールが発熱することにより、ステント61を介して、血管瘤99aの上流側端部付近も加熱され、ステント61の先端部の外面と血管99の内面(特に99c部分)に位置する血液は加熱されることにより、凝固が生じ、血栓化し硬化する。これにより、ステント61の外面と血管内面間を通過し血管瘤形成部内に血液が流入するいわゆるリークを防止できる。そして、必要により、上記の加熱作業を、ステント61の下流側端部についても行ってもよい。
【0069】
次に、図14に示す血管瘤形性血管治療用器具80について説明する。
血管瘤形性血管治療用器具80は、血管瘤形性血管用ステント61と、血管内挿入具82とからなる。血管内挿入具82は、第1の膨張可能なバルーン84と、第1のバルーン84内に液体を供給するための流路85と、第1のバルーン84より所定距離離間して設けられた第2のバルーン86と、第2のバルーン86内に液体を供給するための流路87と、第1のバルーン84と第2のバルーン86間に加熱用レーザー照射部101を備えるレーザー照射手段102と、第1のバルーン84と第2のバルーン86間にて開口する脱血用流路88とを備えている。血管瘤形性血管用ステント61としては、上述した各種ステントを用いることができる。
【0070】
血管内挿入具82は、先端部分を除き2重管構造をしたチューブ本体83と、このチューブ本体83内に回転可能に収納されたレーザー照射機能付きシャフト102を備えている。
チューブ本体83は、先端まで延びる内側チューブ部83bと先端部を除きこの内側チューブ部を被包する外側チューブ83aを備えている。内側チューブ部83bの先端部には、第1のバルーン84が液密に固着されており、バルーン84は内側チューブ部83b内に形成された流路85と内側チューブ部83bの先端部側面に形成された側孔85aにより連通している。外側チューブ部83aの先端より若干基端側の位置には、第2のバルーン86が液密に固着されており、バルーン86は外側チューブ部83a内に形成された流路87と外側チューブ部83bの先端部側面に形成された側孔87aにより連通している。第1のバルーン84と第2のバルーン86間の距離は、30〜200mm程度が好適であり、特に、50〜150mmが好適である。また、チューブ本体83は、第1のバルーン84と第2のバルーン86間にて開口する脱血用流路88を備えており、この実施例では、脱血用流路86は、第2のバルーン86より若干先端側の位置にて開口する側孔88aを備えている。
【0071】
そして、外側チューブ部83aと内側チューブ部83b間に形成される筒状空間89内には、レーザー照射機能付きシャフト102が回転可能に収納されている。シャフト102の先端には、レーザー照射部101が2つ固定されている。また、レーザー照射部101に対応する位置の外側チューブ部は、レーザー透過性とレーザー耐久性を備える材料により形成された窓部105となっている。このような材料としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ラテックス、セルロース等のレーザー光透過性に優れたものが好ましい。
【0072】
チューブ本体83としては、上述したチューブ本体63にて説明したものが好適に使用できる。また、チューブ本体83の長さは、200〜600mm、より好ましくは、450〜550mm、外径は、1.0〜5.0mm、より好ましくは、1.15〜4.0mm、肉厚は、0.1〜0.4mm、より好ましくは、0.15〜0.25mmである。
【0073】
バルーン84,86は、膨張・収縮が可能であり、収縮時には、チューブ本体の外周に密着あるいは折り畳まれた状態となることができるように構成されている。バルーン84,86の材質としては、ある程度の可塑性と駆動流体圧や血圧による著しい容積変動を抑制できる程度の硬度を有するものが好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体などのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、架橋型エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリウレタンなどの熱可塑性樹脂、ポリアミドエラストマー、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が使用できる。
【0074】
バルーン84,86は、それぞれの両端部がチューブ本体の外周面に、例えば接着(例えば、熱融着)により、固定されている。また、バルーン84,86の大きさは、膨張時に、ステント内面と接触可能であることが必要である。具体的には、バルーン84,86の大きさとしては、目的とする血管部位により相違するが、大動脈に用いる場合には、膨張時の外径が、3〜52mm、好ましくは、4〜42mmである。また、長さは、10〜70mm程度が好ましい。
【0075】
レーザー照射部101としては、血管を加熱できるものが使用される。血管の加熱温度としては、レーザー照射部としては、40℃〜100℃に血管を加熱できるものが望ましく、特に、40℃〜80℃に加熱可能であることが好ましい。レーザー照射部101としては、Nd:YAGレーザー、ホロニウム:YAGレーザーなどが使用できる。
【0076】
この実施例の血管瘤形性血管治療用器具80の作用を図14を用いて説明する。
血管瘤(動脈瘤)99aが形成された血管(大動脈)99に通常の方法を用いて、ステント61を配置する。そして、大腿動脈より、血管内挿入具82を挿入し、第1のバルーン84が血管瘤99aよりも上流側となり、第2のバルーン86が血管瘤99aよりも下流側となり、レーザー照射部101がステント61の先端部付近となるように配置する。そして、流路85および流路87より液体を圧入し、バルーン84,86を膨張させて、それぞれのバルーン84,86を血管内壁に密着させる。続いて、脱血流路88に図示しない吸引手段(例えばシリンジ)を接続し、第1のバルーン84と第2のバルーン86により閉塞部となった部分に位置する血液を脱血する。この状態が図13に示す状態である。
【0077】
そして、図示しないレーザー照射装置を作動させて、レーザー照射部101よりレーザーをステント61の先端部付近に照射する。これによりレーザー照射部位の血管内壁は加熱され、変性し硬化する。そして、シャフト102を回転させることにより、レーザー加熱により環状に変性硬化した血管部位が形成される。そして、必要により、上記の加熱作業を、ステント61の下流側端部についても行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は、本発明の血管瘤形性血管用ステントの実施例を示す全体斜視図である。
【図2】図2は、図1に示したステントの部分拡大図である。
【図3】図3は、図1に示すステントにおける維持手段の構成(構造体が縮径状態)を示す斜視図である。
【図4】図4は、図1に示すステントにおける維持手段の構成(構造体が拡径状態)を示す斜視図である。
【図5】図5は、本発明のステントの一実施例における維持手段および外径拡張手段の動作を示す部分断面側面図である。
【図6】図6は、本発明のステントの一実施例における維持手段および外径拡張手段の動作を示す部分断面側面図である。
【図7】図7は、本発明のステントの一実施例における維持手段および外径拡張手段の動作を示す部分断面側面図である。
【図8】図8は、本発明のステントの一実施例における維持手段および外径拡張手段の動作を示す部分断面側面図である。
【図9】図9は、外径拡張手段の一端部の構成を示す斜視図である。
【図10】図10は、本発明の血管瘤形性血管用ステントの他の実施例を示す全体斜視図である。
【図11】図11は、本発明の血管瘤形性血管用ステントの他の実施例を示す全体斜視図である。
【図12】図12は、本発明の血管瘤形性血管治療用器具の実施例を説明するための説明図である。
【図13】図13は、本発明の血管瘤形性血管治療用器具の他の実施例を説明するための説明図である。
【図14】図14は、本発明の血管瘤形性血管治療用器具の他の実施例を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0079】
1 血管瘤形性血管用ステント
60 血管瘤形性血管治療用器具
70 血管瘤形性血管治療用器具
80 血管瘤形性血管治療用器具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブ状に形成した構造体であって、第1の外径と、前記第1の外径より大きい第2の外径とに変形可能な構造体と、該構造体の側面を被包する膜とを有する血管瘤形性血管用ステントであって、該ステントは、血栓形成促進部を備えていることを特徴とする血管瘤形性血管用ステント。
【請求項2】
前記血栓形成促進部は、前記ステントの一方の端部に設けられている請求項1に記載の血管瘤形性血管用ステント。
【請求項3】
前記血栓形成促進部は、前記ステントの中央付近の側面に設けられている請求項1に記載の血管瘤形性血管用ステント。
【請求項4】
前記血栓形成促進部は、血液成分付着性向上物質である請求項1ないし3のいずれかに記載の血管瘤形性血管用ステント。
【請求項5】
前記血液成分付着性向上物質は、アルブミン、コラーゲン、ゼラチン、グロブリンの少なくとも1つである請求項4に記載の血管瘤形性血管用ステント。
【請求項6】
前記血栓形成促進部は、前記ステントの外面に固定された繊維集合体からなるものである請求項1ないし3のいずれかに記載の血管瘤形性血管用ステント。
【請求項7】
チューブ状に形成した構造体であって、第1の外径と、前記第1の外径より大きい第2の外径とに変形可能な構造体と、該構造体の側面を被包する膜とを有する血管瘤形性血管用ステントと、血管瘤形性血管内に配置後の該ステント内に挿入可能であるとともに、該ステント配置部の血管を加熱するための加熱機構を備える血管内挿入具とを備えることを特徴とする血管瘤形性血管治療用器具。
【請求項8】
前記血管内挿入具は、血管瘤形性血管内に配置後の該ステントの内面と膨張時に接触可能なバルーンと、該バルーン内に液体を供給するための流路と、該液体を加熱するための加熱手段とを備えている請求項7に記載の血管瘤形性血管治療用器具。
【請求項9】
前記加熱手段は、前記バルーン内に設けられている請求項8に記載の血管瘤形性血管治療用器具。
【請求項10】
前記血管内挿入具は、膨張可能なバルーンと、該バルーン内に液体を供給するための流路と、該バルーンにより拡径可能であるとともに前記ステントを加熱するための発熱体とを備えている請求項7に記載の血管瘤形性血管治療用器具。
【請求項11】
前記血管内挿入具は、前記バルーン内もしくはバルーン付近に設けられた温度検知部を備えている請求項7ないし10のいずれかに記載の血管瘤形性血管治療用器具。
【請求項12】
前記加熱機構は、血管瘤形性血管内に配置後の該ステントの内面に向かって加熱用レーザを照射するレーザ照射手段である請求項7に記載の血管瘤形性血管治療用器具。
【請求項13】
前記前記血管内挿入具は、第1の膨張可能なバルーンと、該第1のバルーン内に液体を供給するための流路と、該第1のバルーンより所定距離離間して設けられた第2のバルーンと、該第2のバルーン内に液体を供給するための流路と、前記第1のバルーンと該第2のバルーン間に加熱用レーザ照射部を備えるレーザ照射手段と、前記第1のバルーンと該第2のバルーン間にて開口する脱血用流路とを備えるものである請求項7に記載の血管瘤形性血管治療用器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−73538(P2008−73538A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273126(P2007−273126)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【分割の表示】特願平11−93620の分割
【原出願日】平成11年3月31日(1999.3.31)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】