説明

衝撃吸収フレーム

【課題】
車両の衝突時において、十分な衝撃吸収エネルギを確保すると同時に、衝突直後の衝撃荷重を緩和し、また塑性座屈変形が前方から後方へ向かって滑らかに発生する、簡素な構成の衝撃吸収フレームを提供する。
【解決手段】
車両の前方部分に用いられ、衝突時に塑性変形して衝撃エネルギを吸収する、閉断面構造の衝撃吸収フレーム1において、前記衝撃吸収フレーム1の面又はコーナ部分に、当該前方から後方に向かって開口幅3が漸減するように開口される少なくとも1つの孔2を有する。さらには当該孔2は、当該開口幅3が、前方から後方へ向かって滑らかにゼロに近づくように開口されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装備される閉断面形状のフロントサイドメンバ(前方部材)に用いられるものであって、通常の走行時に作用する外力に対しては十分な剛性を備えると共に、車両の衝突時には塑性座屈変形して衝撃エネルギを吸収する車両用衝撃吸収フレームに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の衝突時において上記の衝撃吸収フレームの衝撃荷重−変形ストロークの関係(以下、単に衝撃荷重特性ともいう。)は一般的に図3における実線のような特徴を有する。即ち前記衝撃吸収フレームには衝撃直後の初期段階において最も大きな衝撃荷重が作用する。言い換えれば、前記衝撃吸収フレームの変形ストロークが小さいうちに前記衝撃荷重の最大ピーク値が訪れる(以下、この最初に訪れるピーク値を初期ピーク値ともいう。)。
【0003】
しかし車両に搭乗した乗員の保護の観点からは、上記最大ピーク値を極力小さくすることが好ましい。この観点における理想的な衝撃荷重特性とは、図3において二点鎖線で示すように前記衝撃荷重がいかなるピーク値をも有さない態様であって、同時に衝撃吸収エネルギ(衝撃荷重を変形ストロークで積分して得られるものであって、図3において曲線と横軸によって囲まれる面積)が十分確保されていることも重要である。従って前記衝撃吸収フレームの設計にあたっては、その衝撃荷重特性を上記の理想的な態様に少しでも近づけることが課されることとなる。
【0004】
上記の設計要求に基づいて、従来種々の有用な衝撃吸収フレームが提供されてきた。それら衝撃吸収フレームは例えば以下の如く大別できる。即ち(ア)閉断面の角部に断続的に複数の切欠き部が設けられているもの(例えば特許文献1)・(イ)フレームの側面に断続的に複数の穴を有するもの(例えば特許文献2)・(ウ)車両の前方から後方へ向かう方向に断面積が漸増する中実なもの(例えば特許文献3)・(エ)車両の前方から後方へ向かう方向に肉厚が漸増する円筒状のもの(例えば特許文献4)、の4種類に大別できる。
【0005】
以下に上記4種類の衝撃吸収フレームの特徴を説明する。
上記(ア)及び(イ)は、複数の切欠き部又は複数の穴によって複数の座屈起点を設け衝撃吸収フレームを衝突側である前方から後方へ向かって順に折りたたむように変形させようというものである。
上記(ウ)及び(エ)は、衝突側である前方から後方へ向かって断面積を漸増させる、即ち剛性を漸増させることにより、当該前方から後方へ向かって塑性座屈変形を連続的に発生させようというものである。
【特許文献1】実開平4−43581号公報
【特許文献2】特開平5−85402号公報
【特許文献3】特開2004−203202号公報
【特許文献4】特開平6−264949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記(ア)及び(イ)の構成によれば、上記の複数の切欠き部や穴を備えない一般的な衝撃吸収フレームと比較して、衝突荷重の初期ピーク値を低減できる点で優れている。しかし図4において破線で示すように、塑性座屈変形の過程において比較的大きな衝突荷重が断続的に発生してしまい、このことは前記衝突荷重が、衝突時に原形を保つべき車両の居住空間を構成する部材に繰り返し荷重として作用することとなるので、改善の余地が残されている。
上記(ウ)及び(エ)の構成のように、切欠き部や穴などは設けずに、長手方向において連続した円柱又は円筒などによって構成される衝撃吸収フレームは、その前方端しか座屈の起点として機能し得ないこととなる。従って唯一の座屈の起点としての前記前方端に、長手方向に直交する成分を一部有する衝撃荷重が作用した場合は、当該衝撃吸収フレームが長手方向に真っすぐに、且つ順に連続的に塑性座屈変形することが極めて困難となる。言い換えれば当該衝撃吸収フレームの塑性座屈変形の変形過程が非連続的で変動的な(不安定な)ものとなる恐れがあるので、優れた衝撃荷重特性を期待することは容易ではない。
【0007】
また一般的に、切欠きや穴による軽量化と部材の剛性とは相反する関係にあるので、上記(ア)及び(イ)の構成では、前記切欠きや穴により損なわれる部材剛性を確保するために他の部位において補強部材を追加することを余儀なくされるはずである。言い換えれば上記(ア)及び(イ)の構成では、切欠きや穴が設けられているからといって、必ずしも軽量化されたとはいえない。
さらに上記(ウ)及び(エ)の構成は、テーパ部分を要するので製造が容易ではなく且つ製造コストも高くなる。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
車両の前方部分に用いられ、衝突時に塑性変形して衝撃エネルギを吸収する、閉断面構造の衝撃吸収フレームにおいて、前記衝撃吸収フレームの面又はコーナ部分に、当該前方から後方に向かって開口幅が漸減するように開口される少なくとも1つの孔を有する。
【0010】
前記孔が設けられていることにより車両の衝突時において、十分な衝撃吸収エネルギを確保できると同時に、前記衝撃吸収フレームに対して当該衝突直後に発生する衝撃荷重の初期ピーク値を抑制することができる。
また前記孔の開口幅が前方から後方へ向かって漸減するよう形成されているので、当該衝突による塑性座屈変形が当該衝撃吸収フレームに対して前方から後方へ向かってより滑らかに連続的に発生することとなる。従って、例えば比較的大きな衝撃荷重が断続的に発生する特許文献1や特許文献2の構成と比較して、衝撃荷重の変動がより滑らかとなる。
これにより理想的な衝撃荷重特性を得ることができる。
また孔が設けられることにより、座屈の起点が少なくとも2以上設けられることとなる。これにより車両の衝突時において当該衝撃吸収フレームの前方端に長手方向に直交する成分を有する衝撃荷重が作用したとしても、例えば上記座屈の起点が唯一である特許文献3や特許文献4の構成と比較して、上記塑性座屈変形が長手方向にまっすぐに発生し易くなるので、当該衝突時における当該衝撃吸収フレームの剛性が屈曲することにより極端に減少することを防止できる。この観点からみても、理想的な衝撃荷重特性を得ることができるといえる。
さらに前記衝撃吸収フレームが、単に閉断面構造の部材に孔を設けるという簡素な構成であるので、製造が容易で且つコストも抑制することができる。
【0011】
前記衝撃吸収フレームの面のうち、向かい合う一対の面又はすべての面、或いは前記衝撃吸収フレームのコーナー部のうち、対角上に位置する一対のコーナー部又はすべてのコーナー部にそれぞれ前記孔を有することが好ましい。
【0012】
以上の構成により、前記孔が長手方向に関して対称に設けられているので、車両の衝突による前記衝撃吸収フレームの塑性座屈変形が長手方向により確実にまっすぐ発生することとなるから、当該衝突時における当該衝撃吸収フレームの剛性が屈曲することにより極端に減少することをより確実に防止できる。これにより更に理想的な衝撃荷重特性を得ることができる。
【0013】
前記衝撃吸収フレームは前方端が自由端であって後方端が固定端である片持ち梁であり、前記孔は、前記衝撃吸収フレームの前方1/2〜1/3の領域に開口されていることが好ましい。
【0014】
後方端支持による片持ち梁である前記衝撃吸収フレームの曲げに対する剛性は固定側である後方の領域により大きく支配されるものであって、自由端側である前方の領域による影響は小さい。そこで上記の如く前記孔を、前記衝撃吸収フレームの前方1/2〜1/3の領域に開口すれば、前記衝撃吸収フレームの曲げに対する剛性が当該孔によって損なわれる恐れが大幅に低減される。言い換えれば衝撃荷重特性を改善するために前記孔を設ける場合においても、上記の如く留意して当該孔を配置すれば、通常の走行時において車両に要求される剛性が損なわれる恐れが大幅に低減されることとなる。
また別の観点からみれば、上記の如く当該孔を配置することで、当該衝撃吸収フレームの剛性と軽量化が両立できるともいえる。
【0015】
前記孔の輪郭は、折れ点が存在しないように滑らかな曲線を含むことが好ましい。
【0016】
以上の構成により前記衝撃吸収フレームの前記孔近傍において、車両の衝突による衝撃荷重によって局所的な応力集中が発生するのが抑制されるので、前記衝撃吸収フレームの亀裂やそれに起因する破損などを防止できる。
【0017】
前記孔の開口幅は、前記衝撃フレームの前方から後方へ向かって滑らかにゼロに近づくことが好ましい。
【0018】
以上の構成により前記衝撃吸収フレームの長手方向でみたときに、前記孔を含む領域と含まない領域との剛性が滑らかに連続することとなる。従って前方から連続して発生する塑性座屈変形が前記孔の後端に達した直後の前記衝撃吸収フレームが受ける衝撃荷重がその直前と比べて急増することを抑制できる。即ち衝撃荷重のピーク値の上記抑制効果がより向上されることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る衝撃吸収フレームの実施の形態に関して説明する。
【0020】
図1(a)は、本発明の一実施形態に係る衝撃吸収フレームの斜視図であり、図1(b)〜(e)はその変形例をそれぞれ示す図である。なお図示を簡単にするために図1(a)〜(e)において当該衝撃吸収フレームを構成する壁面の厚みは省略されている。
図2(a)は、本発明の一実施形態に係る衝撃吸収フレームの面のうち、孔が開口されている面を示す図であり、図2(b)及び図2(c)はその変形例をそれぞれ示し、図2(d)は当該孔の比較例である。
図3は、衝撃吸収フレームの衝撃荷重と変形ストロークの関係を示す図であって、実線は一般の衝撃吸収フレーム、二点鎖線は理想的な衝撃吸収フレームに関するものである。
図4は、実線は本発明の一実施形態に係る衝撃吸収フレームの衝撃荷重−変形ストロークの関係を示す図であり、破線は従来の複数の穴を有する衝撃吸収フレーム(特許文献2)の衝撃荷重−変形ストロークの関係を示す図である。
図5は、実線は図2(a)に示す孔を備えた衝撃吸収フレームの衝撃荷重−変形ストロークの関係を示す図であり、破線は図2(d)に示す孔を備えた衝撃吸収フレームの衝撃荷重−変形ストロークの関係を示す図である。
【0021】
本実施形態における衝撃吸収フレーム1は、車両の前方部分(フロントサイドメンバ)に設けられるものであって、通常の走行時に作用する外力に対しては十分な剛性を備えると共に、車両の衝突時には塑性変形(塑性座屈変形を含む)してその衝撃エネルギを吸収するものである。
【0022】
図1に示すように上記衝撃吸収フレーム1は閉断面構造に形成されている。言い換えれば当該衝撃吸収フレーム1は断面が中空であって、4枚の矩形壁面から構成される箱型となっている。また図1には前記衝撃吸収フレーム1が車両に取り付けられた際に車両の前方側に位置する側を「前方」と、後方側に位置する側を「後方」と図示してある。なお当該衝撃吸収フレーム1は、前方端が自由端(無拘束端)であって後方端が固定端となっており、いわゆる片持ち梁の如く支持されている。
【0023】
前記衝撃吸収フレーム1の面(上面1a・下面1b・側面1cを含む)又はコーナ部分には、当該前方から後方に向かって開口幅3が漸減するように開口される少なくとも1つの孔2が設けられている。なお上記開口幅3とは図1(a)に示すように前記衝撃吸収フレーム1の長手方向に直交する向きの前記孔2の幅のことである。
【0024】
図1(a)に示すように、前記衝撃吸収フレーム1の面のうち一対の向かい合う両側面1cのそれぞれには前記孔2が開口されている。当該孔2及び前記開口幅3は図1(a)及び図2(a)に示すように以下の特徴を有する。
【0025】
第1に、前記孔2は略二等辺三角形状の孔であって、等しい長さの2辺に挟まれる辺が長手方向と直交し且つ前方に配置され、当該2辺が接続する頂点(後方端4)が後方に配置されるように設けられている。
【0026】
第2に、上述の如く前記孔2は、前方から後方(後方端4)へ向かって開口幅3が漸減するように開口されている(図2(a)も併せて参照)。
このように前記孔2が設けられていることにより車両の衝突時において図4における実線で示すように、十分な衝撃吸収エネルギを確保できると同時に、前記衝撃吸収フレーム1に対して当該衝突直後に発生する衝撃荷重の初期ピーク値を抑制することができる(図3及び図4も併せて参照)。
また前記孔2の開口幅3が前方から後方へ向かって漸減するよう形成されているので、当該衝突による塑性座屈変形が当該衝撃吸収フレーム1に対して前方から後方へ向かってより滑らかに連続的に発生することとなる。従って、例えば比較的大きな衝撃荷重が断続的に発生する特許文献1や特許文献2の構成と比較して(図4における破線参照)、衝撃荷重の変動がより滑らかとなる(図4における実線参照)。
これにより図3において二点鎖線で示すような理想的な衝撃荷重特性に近い衝撃荷重特性を得ることができる。
また孔2が設けられることにより、座屈の起点が少なくとも2以上設けられることとなる。これにより車両の衝突時において当該衝撃吸収フレーム1の前方端に長手方向に直交する成分を有する衝撃荷重が作用したとしても、例えば上記座屈の起点が唯一である特許文献3や特許文献4の構成と比較して、上記塑性座屈変形が長手方向にまっすぐに且つ順に連続的に発生し易くなるので、当該衝突時における当該衝撃吸収フレーム1の剛性が屈曲することにより極端に減少することを防止できる。この観点からみても、理想的な衝撃荷重特性を得ることができるといえる。
さらに前記衝撃吸収フレーム1が、単に閉断面構造の部材に孔2を設けるという簡素な構成であるので、製造が容易で且つコストも抑制することができる。
【0027】
第3に、前記孔2のそれぞれは、前記衝撃吸収フレーム1を構成する面のうち、向かい合う一対の面に設けられることで、前記衝撃吸収フレーム1の長手方向に関して対称となるように設けられている(図1(a)参照)。
以上の如く前記孔2が長手方向に関して対称に設けられているので、車両の衝突による前記衝撃吸収フレーム1の塑性座屈変形が長手方向により確実にまっすぐ発生することとなるから、当該衝突時における当該衝撃吸収フレーム1の剛性が屈曲することにより極端に減少することをより確実に防止できる。これにより更に理想的な衝撃荷重特性を得ることができる。
【0028】
第4に、前記孔2は、前記衝撃吸収フレーム1の長手方向でみて前方1/2〜1/3の領域に開口されている(図2(a)参照)。言い換えれば前記孔2は、当該衝撃吸収フレーム1の固定端から遠い側、即ちその前方端(自由端・無拘束端)に近い側に設けられている。
一般的に、後方端固定支持による片持ち梁である前記衝撃吸収フレーム1の曲げに対する剛性は固定側である後方の領域により大きく支配されるものであって、自由端側である前方の領域による影響は小さい。そこで上記の如く前記孔2を、前記衝撃吸収フレーム1の前方1/2〜1/3の領域に開口すれば、前記衝撃吸収フレーム1の曲げに対する剛性が当該孔2によって損なわれる恐れが大幅に低減される。言い換えれば衝撃荷重特性を改善するために前記孔2を設ける場合においても、上記の如く留意して当該孔2を配置すれば、通常の走行時において車両に要求される剛性が損なわれる恐れが大幅に低減されることとなる。
また別の観点からみれば、上記の如く当該孔2を配置することで、当該衝撃吸収フレーム1の剛性と軽量化が両立できるともいえる。
さらに本実施形態では前記衝撃吸収フレーム1が適用される自動車のフロントサイドメンバの全長の略2/3後方部分にはエンジンやタイヤが収納されている。従って車両の衝突時において当該衝撃吸収フレーム1の変形ストロークが前方から1/3を越えると、それ以降の衝撃吸収は主として該エンジン及びタイヤが負担することとなる。言い換えれば当該衝撃吸収フレーム1の全長略2/3後方部分においては大きな塑性座屈変形が発生し難い。従って当該衝撃エネルギは、当該衝撃吸収フレーム1の全長の略1/3前方部分において吸収されることが望ましく、この観点からは本実施形態において説明する有用な効果を奏する前記孔2が前方から全長の略1/3に至るまでの領域に開口されていることが好ましい。
【0029】
第5に、前記孔2の輪郭は、応力集中が発生する恐れのある折れ点が存在しないように滑らかな曲線Rを含んでいる(図2(a)参照)。言い換えれば上記の如く当該孔2は略二等辺三角形状に形成されており、その3つの頂点はいずれも滑らかな円弧を描くように丸みを帯びている。
これにより前記衝撃吸収フレーム1の前記孔2近傍において、車両の衝突による衝撃荷重によって局所的な応力集中が発生するのが抑制されるので、前記衝撃吸収フレーム1の亀裂やそれに起因する破損などを防止できる。
【0030】
第6に、前記孔2は、その開口幅3が、前記衝撃吸収フレーム1の前方から後方へ向かって滑らかにゼロに近づくように開口されている(図2(a)参照)。より具体的には略二等辺三角形状に形成される当該孔2の頂角Dが約30度前後となっている。
これにより前記衝撃吸収フレーム1の長手方向でみたときに、前記孔2を含む領域と含まない領域との剛性が滑らかに連続する(接続される)こととなる。従って前方から連続して発生する塑性座屈変形が前記孔2の後方端4に達した直後の前記衝撃吸収フレーム1が受ける衝撃荷重がその直前と比べて急増することを抑制できる。即ち上述した衝撃荷重のピーク値の抑制効果がより向上されることとなる。
上記の作用効果は図2(d)で示される前記孔2の比較例を用いて更に深く理解することができる。即ち図2(d)に示される如く前記孔2の開口幅3が後方端4において急激にゼロとなる場合は、前記衝撃吸収フレーム1の長手方向でみたときに、前記孔2を含む領域と含まない領域との剛性が急激に変化することとなる。具体的には前者と後者との境界において前記衝撃吸収フレーム1の剛性が急激に増大する。従って図5において破線で示すように前記衝撃吸収フレーム1の変形ストロークが当該後方端4を越えた場合、その越えた直後に大きな衝撃荷重が前記衝撃吸収フレーム1の固定端に作用することとなる。一方図2(a)で示される如く前記孔2を形成すれば、図5において実線で示すように上記境界を越えた直後に発生する衝撃荷重の増大を大幅に抑制することができる。
【0031】
ところで図1(a)及び図2(a)において説明した前記衝撃吸収フレーム1は、以下のように変更することができる。
【0032】
図1(b)に示すように上記孔2は、前記衝撃吸収フレーム1の面のうち向かい合って対を成す上面1a及び下面1bにそれぞれ開口されていてもよい。
また図1(c)に示すように上記孔2は、前記衝撃吸収フレーム1のすべての面(上面1a・下面1b・両側面1cのすべて)にそれぞれ開口されていてもよい。
また図1(d)に示すように上記孔2は、前記衝撃吸収フレーム1のコーナー部のうち、4つすべてのコーナ部(角部)に設けられていてもよい。この場合、当該一のコーナ部を挟む2つの面、例えば上面1aと側面1cを同一平面となるよう展開した場合における当該孔2の形状の特徴は図2(a)に示されるものと同様であることが好ましい。なお前記孔2を上記の如く4つすべてのコーナー部に設けることに代えて、対角上に位置する一対のコーナー部にのみ設けてもよい。
また図1(e)に示すように上記孔2は、各側面1c(又は、上面1a及び下面1b)に2つ並べて設けられていてもよい。この場合、同一面内に設けられる2つの前記孔2は、図2(a)で示される上記孔2よりもその頂角が小さく設定されており、また2つの前記孔2は、前記衝撃吸収フレーム1の前方端から同じ距離だけ離れた位置に並べて配置されていることが好ましい。
以上の如く図1(b)〜(e)に示すように前記孔2の配置は、前記衝撃吸収フレーム1の面又はコーナ部分に少なくとも1つ設けられていさえすれば、自由に決定することができる。なお図1(b)〜(e)に示すそれぞれの変形例においても前記衝撃吸収フレーム1はその長手方向に関して対称であるといえるので、この対称性によって得られる上述の効果がこれらにおいても発揮されることは勿論である。
【0033】
また図2(b)に示すように上記孔2は、等しい長さの前記2辺が互いに引き寄せられるように湾曲されていてもよい。即ち当該孔2の長手方向中央における開口幅3が、図2(a)で示される前記孔2の長手方向中央における開口幅3よりも狭くなっている。
また図2(c)に示すように上記孔2は、上記等しい長さの2辺が互いに離れあうように湾曲されていてもよい。即ち上記孔2の長手方向中央における開口幅3が、図2(a)で示される前記孔2の長手方向中央における開口幅3よりも広くなっている。
以上の如く図2(b)及び図2(c)に示すように前記孔2の開口幅3は、少なくとも上記前方から後方に向かって漸減するように開口されていれば、その幅を長手方向において自由に決定することができる。
【実施例】
【0034】
次に図1(a)及び図6に基づいて、本発明に係る衝撃吸収フレームの実施例に関して説明する。
図6は、衝撃吸収フレームの衝撃解析結果であって、図6(a)には本発明の一実施形態に係る衝撃吸収フレームの解析結果を、図6(b)には比較例である一般的な衝撃吸収フレームの解析結果を示す図である。なお図6(a)及び(b)において破線は変形前の形状を表している。
【0035】
本実施例においては図1(a)に示す衝撃吸収フレーム1に関して衝撃解析を行った。
当該衝撃吸収フレーム1の素材はアルミニウム合金とし、当該衝撃吸収フレーム1を構成する壁面の厚みは2.5mm、長手方向に100mm、長手方向から見たときの当該衝撃吸収フレーム1の横幅及び縦幅を50mmとした。
また当該衝撃吸収フレーム1の衝撃解析の結果の考察を容易にするために、上記の孔2が1つも設けられていない一般的な衝撃吸収フレーム1Xに関しても同様の衝撃解析を行った。
【0036】
本衝撃解析において前記の衝撃吸収フレーム1及び衝撃吸収フレーム1Xには、その前方端から図6に示す矢印の方向へ衝撃荷重を作用させる。即ちある定められた運動エネルギを有する物体を前記の衝撃吸収フレーム1及び衝撃吸収フレーム1Xにそれらの前方側から衝突させ、長手方向に略30mm塑性座屈変形させる。
【0037】
前記の衝撃吸収フレーム1及び衝撃吸収フレーム1Xの衝撃後における変形の様子を図図6(a)及び図6(b)にそれぞれ示す。
図6(a)に示すように本発明の一実施形態に係る衝撃吸収フレーム1では、前方から後方へ向かって連続的に塑性座屈変形が発生していることがわかる。また当該衝撃吸収フレーム1の固定端付近では、長手方向と直交する方向への若干のひずみ(膨張)が見られるものの、剛性が高く設定されているので殆ど変形していない。以上の結果より当該衝撃吸収フレーム1の前方端に加えられた衝撃エネルギは専ら当該前方において吸収されることとなり、前記固定端にはほとんど到達しなかったということができる。
一方で図6(b)に示すように比較例としての衝撃吸収フレーム1Xでは、後方の固定端側において上記の塑性座屈変形が集中して発生していることがわかる。この結果より前記衝撃吸収フレーム1Xの前方端に加えられた衝撃荷重は当該衝撃吸収フレーム1Xに殆ど吸収されずに固定端の壁面(車両に相当)に直接に作用し、その反作用によって当該衝撃吸収フレーム1Xの後方端から順に塑性座屈変形が発生したということができる。
【0038】
本発明は、上記の好ましい実施形態に記載されているが、本発明はそれだけに制限されない。本発明の精神と範囲から逸脱することのない様々な実施形態が他に成されることは理解されよう。さらに、本実施形態において、本発明の構成による作用効果を述べているが、これら作用効果は一例であり、本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】(a)は、本発明の一実施形態に係る衝撃吸収フレームの斜視図であり、(b)〜(e)はその変形例をそれぞれ示す図。
【図2】(a)は、本発明の一実施形態に係る衝撃吸収フレームの面のうち、孔が開口されている面を示す図であり、図2(b)及び図2(c)はその変形例をそれぞれ示す図であり、図2(d)は当該孔の比較例を示す図。
【図3】衝撃吸収フレームの衝撃荷重と変形ストロークの関係を示す図であって、実線は一般の衝撃吸収フレーム、二点鎖線は理想的な衝撃吸収フレームに関するもの。
【図4】実線は本発明の一実施形態に係る衝撃吸収フレームの衝撃荷重−変形ストロークの関係を示す図であり、破線は従来の複数の穴を有する衝撃吸収フレーム(特許文献2)の衝撃荷重−変形ストロークの関係を示す図。
【図5】実線は図2(a)に示す孔を備えた衝撃吸収フレームの衝撃荷重−変形ストロークの関係を示す図であり、破線は図2(d)に示す孔を備えた衝撃吸収フレームの衝撃荷重−変形ストロークの関係を示す図。
【図6】衝撃吸収フレームの衝撃解析結果であって、図6(a)には本発明の一実施形態に係る衝撃吸収フレームの解析結果を、図6(b)には比較例である一般的な衝撃吸収フレームの解析結果を示す図。
【符号の説明】
【0040】
1 衝撃吸収フレーム
2 孔
3 開口幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前方部分に用いられ、衝突時に塑性変形して衝撃エネルギを吸収する、閉断面構造の衝撃吸収フレームにおいて、
前記衝撃吸収フレームの面又はコーナ部分に、当該前方から後方に向かって開口幅が漸減するように開口される少なくとも1つの孔を有する、ことを特徴とする衝撃吸収フレーム。
【請求項2】
前記衝撃吸収フレームの面のうち、向かい合う一対の面又はすべての面、或いは前記衝撃吸収フレームのコーナー部のうち、対角上に位置する一対のコーナー部又はすべてのコーナー部にそれぞれ前記孔を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の衝撃吸収フレーム。
【請求項3】
前記衝撃吸収フレームは前方端が自由端であって後方端が固定端である片持ち梁であり、
前記孔は、前記衝撃吸収フレームの前方1/2〜1/3の領域に開口されている、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の衝撃吸収フレーム。
【請求項4】
前記孔の輪郭は、折れ点が存在しないように滑らかな曲線を含む、ことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の衝撃吸収フレーム。
【請求項5】
前記孔の開口幅は、前記衝撃フレームの前方から後方へ向かって滑らかにゼロに近づく、ことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の衝撃吸収フレーム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−45296(P2007−45296A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230795(P2005−230795)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「自動車軽量化のためのアルミニウム合金高度加工・形成技術」に係る研究開発項目「アルミニウム/鋼ハイブリッド構造の開発」(委託研究)、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】