表層欠陥検出装置
【課題】金属被検体の地合ノイズとヘゲ欠陥に起因する検出信号とを精度良く弁別する。
【解決手段】金属被検体の表層部に渦電流を発生させる励磁コイルAと、渦電流により誘起された磁束を検出する検出コイルB,B’とを有する複数のE型センサ5と、複数の渦流探傷センサの検出信号の波形の相互相関値を算出する相互相関値算出手段16と、相互相関値を用いて前記金属被検体の表層の欠陥を判別する判別手段17とを備える。
【解決手段】金属被検体の表層部に渦電流を発生させる励磁コイルAと、渦電流により誘起された磁束を検出する検出コイルB,B’とを有する複数のE型センサ5と、複数の渦流探傷センサの検出信号の波形の相互相関値を算出する相互相関値算出手段16と、相互相関値を用いて前記金属被検体の表層の欠陥を判別する判別手段17とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属被検体の表層に形成された欠陥を検出する表層欠陥検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
厚板などの金属被検体の表層には、耳ヘゲ、トーチヘゲ、およびコーナーヘゲなどと呼ばれる表層欠陥が発生し得る(以下これら表層欠陥をヘゲ欠陥と総称する)。これらヘゲ欠陥の発生要因は、製鋼性の要因および圧延性の要因などがあり、表面から目視で確認出来るものもあれば、非開口のため目視では確認出来ないものもある。このため、非開口の形態のヘゲ欠陥は、通常の検査では見逃されてしまうこともある。そこで、渦流探傷方式の表層欠陥検出方法がヘゲ欠陥の検出に利用されている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
渦流探傷方式の表層欠陥検出方法は、励磁コイルにより金属被検体の表層に渦電流を発生させ、その渦電流によって誘起される検出コイルの誘導電圧を検出することにより、金属被検体の表層に形成された表層欠陥を検出するものである。被検出体の表層に欠陥があった場合には、渦電流の流れに変化が起き、それに伴って検出コイルに発生する励磁電圧が変化するので、この励磁電圧の変化により表層欠陥を検出することができる。
【0004】
例えば、特許文献1に開示されている渦流探傷装置では、E形の渦流センサを脚部が厚板の幅方向に並ぶように設置し、かつ搬送方向へ千鳥配置にて設置して、ヘゲ欠陥の検出を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−284191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1記載のような千鳥配置の渦流探傷装置では、渦流センサの搬送方向における寸法が大きくなり、厚板のバタツキによる影響が出てしまう。一方、渦流センサの脚部を搬送方向に並ぶように配置すると、搬送方向における寸法は小さくなるが、搬送方向に狭いノイズを検出してしまう。その結果、厚板などの金属被検体には搬送方向に狭く幅方向に広い分布の地合ノイズが存在するので、従来の渦流探傷装置では、ヘゲ欠陥に起因する検出信号がこの地合ノイズに埋没してしまい、ヘゲ欠陥に起因する検出信号を精度良く弁別することができなかった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、金属被検体の地合ノイズとヘゲ欠陥に起因する検出信号とを精度良く弁別可能な表層欠陥検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる表層欠陥検出装置は、金属被検体の表層部に渦電流を発生する励磁コイルと、該渦電流により誘起された磁束を検出する検出コイルとを有する複数の渦流探傷センサと、前記複数の渦流探傷センサの検出信号の波形の相互相関値を算出する相互相関値算出手段と、前記相互相関値を用いて前記金属被検体の表層の欠陥を判別する判別手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかる表層欠陥検出装置によれば、金属被検体の地合ノイズとヘゲ欠陥に起因する検出信号とを精度良く弁別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、搬送ラインにおける表層欠陥検出装置の配置の概略図である。
【図2】図2は、センサBoxの構成を説明する概略図である。
【図3】図3は、E型センサの厚み方向の感度特性を示すグラフである。
【図4】図4は、信号処理部の構成を説明する概略図である。
【図5】図5は、信号処理部の位相調整を説明する図である。
【図6】図6は、コンピュータで行われる処理の機能ブロック図である。
【図7】図7は、ヘゲ欠陥の概略図である。
【図8】図8は、ヘゲ欠陥を含む厚板の検出データの2次元マップである。
【図9】図9は、ヘゲ欠陥とノイズを含む検出信号の波形を示す図である。
【図10】図10は、ヘゲ欠陥を含む部分の検出信号と幅広ノイズの検出信号の波形を抜粋した図である。
【図11】図11は、判別アルゴリズム例を示すフローチャートである。
【図12】図12は、ヘゲ欠陥とノイズを含む検出信号の波形における相互相関値の計算例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0012】
まず、図1及び図2を用いて、本発明の実施形態に係る表層欠陥検出装置1の概略構成を説明する。図1は、本発明の実施形態にかかる表層欠陥検出装置1の、金属被検体の搬送ラインにおける配置について説明する概略図である。また、図2は、本発明の実施形態にかかる表層欠陥検出装置のセンサBoxの構成を説明する概略図である。
【0013】
図1に示されるように、本発明の実施形態にかかる表層欠陥検出装置1は、表層欠陥検出装置1の検出部であるセンサBox2を、搬送ラインのロール3の間に配置する構成である。検査対象となる厚板などの金属被検体4は、ロール3の上を搬送されながらセンサBox2によって欠陥探傷される。この際、センサBox2の上面は金属被検体4のパスラインより5mm〜30mm程度離れるように、センサBox2を配置する。なお金属被検体4の振動が大きい場合には20mm程度離れるようにセンサBox2を配置することが好ましい。また、図1に示される構成は、金属被検体4の裏面のエッジ部の検出用の構成であるが、表層欠陥検出装置1を金属被検体4の表面の検出用の構成または全幅検出用の構成などに設計変更することも可能である。
【0014】
図2に示されるように、センサBox2の内部において、9個のE型センサ5が金属被検体4の搬送方向と垂直方向に配列されている。つまり、本実施形態にかかる表層欠陥検出装置1は、金属被検体4の幅方向に対して9ch検出である。なお、E型センサ5とは、コアが「E」字形をしており、中央を励磁コイルAのコアとして用い、両端を検出コイルB,B’のコアとして用いた渦流探傷センサのことをいう(以下同様)。そして、図2に示されるように、励磁コイルAのコアと両端の検出コイルB,B’のコアとは、金属被検体4の搬送方向に配列している。なお、本実施形態では、E型センサ5の脚の間隔(つまり励磁コイルAのコアと両端の検出コイルB,B’のコアとの間隔)を20mmとし、E型センサ5の厚みを20mmとし、E型センサ5の間隔を6mmとしている。さらに、センサBox2の上面には保護用の樹脂板が設置され、センサBox2がエアパージされている。
【0015】
センサBox2内のE型センサ5の配置間隔は、E型センサ5の厚み方向の感度特性によって以下のように決定する。図3は、E型センサ5の厚み方向の感度特性を示すグラフである。同グラフは、E型センサ5の厚み方向のある相対位置に存在する自然欠陥に対するE型センサ5の単体での出力を示している。
【0016】
同グラフに示されるように、欠陥の位置がE型センサ5の真下からずれると、E型センサ5の出力は低下する。そこで、出力がピーク値の半分となる位置に、隣接するセンサの出力値がピーク値の半分となるように間隔を設定すれば、例えば隣接センサの出力を加算することで、欠陥の検出信号レベル低下を防ぐことが出来る。図3の例では、出力がピーク値の半分となる位置は±13mmであり、この位置で隣接するセンサの出力値がピーク値の半分となるように配置すると、隣り合うE型センサ5の中心間隔は26mmとなる。よって、E型センサ5の厚みが20mmなので、E型センサ5の間隔は6mmとすればよい。
【0017】
次に、図4から図6を参照して、本発明の第1実施形態にかかる表層欠陥検出装置1の信号処理部6の説明を行う。図4は、信号処理部6の構成を説明する概略図であり、図5は、信号処理部6の位相調整を説明する図である。
【0018】
本発明の第1実施形態にかかる表層欠陥検出装置1の信号処理部6は、図4に示されるように、発振器7と差動増幅器8と位相器9と検波器10とA/Dコンバータ12とコンピュータ13とを備える。
【0019】
発振器7は、所定の電流値Iと周波数Fの励磁信号を発振する局部発振器であり、ここでは電流値I=10mA,周波数F=64kHzとしている。発振器7で発振した励磁信号は、励磁信号ケーブルを介してE型センサ5の中央のコアに巻かれた励磁コイルAに流れ、励磁コイルAの周囲に交流磁界を発生する。そして、交流磁界は、検査対象となる金属被検体4の表層部に渦電流を誘起する。
【0020】
E型センサ5の外側のコアに巻かれた検出コイルB,B’は、この渦電流によって発生した磁束による誘起電圧を検出する。このとき、検出コイルB,B’は、互いに一方の端子を接続し、当該誘起電圧が相殺するように構成する。また、検出コイルB,B’の他方の接続しなかった端子は、出力ケーブルを介して、信号処理部6に入力する。
【0021】
信号処理部6に入力された検出コイルB,B’の端子は、差動増幅器8に接続され、差動増幅される。すなわち、差動増幅器8は、検出コイルB,B’にて検出される誘起電圧の差分が増幅されることとなる。なお、差動増幅器8の増幅度は、使用する電流値I、周波数F、およびセンサと金属被検体との距離などによって適切に設定すべきであるが、本実施形態では20倍としている。
【0022】
差動増幅器8にて差動増幅された信号は位相器9を通り、位相器9が位相を調整する。位相器9は、振動等によって生じるガタの信号と欠陥信号との弁別性を向上させるためのものであり、ガタの信号出力が零になるようにインピーダンスを調整する。例えば、図5に示す様に、Y軸成分を出力成分としたときにガタ信号の位相が120°であれば、位相を120°回転して、ガタ信号の位相がX軸と一致するように調整する。
【0023】
位相器9の出力信号は、検波器10に入力され、発振器7からの励磁信号にて検波される。すなわち、検波器10は、位相器9の出力信号と発振器7からの励磁信号とを乗算することによって同期検波をする。
【0024】
検波器10によって検波された検出信号は、A/Dコンバータ12を介してコンピュータ13へ入力される。コンピュータ13は、検出信号を適切なデジタル信号処理して、検出信号のデータからヘゲ欠陥を弁別するものである。
【0025】
図6は、上記コンピュータ13で行われるデジタル信号処理の一例を説明する機能ブロック図である。
【0026】
A/Dコンバータ12は、検出信号を適切なデジタル信号へ変換するものであり、表層欠陥検出装置1を取り付けた製造ラインのライン搬送速度が1.5m/sであり、表層欠陥検出装置1のA/Dコンバータ12のサンプリングピッチを3mmとすれば、サンプリング速度は500Hzとなる。
【0027】
補正手段14は、各E型センサ5の感度個体差を補正するものである。この補正には、事前に設定しておく設定値を用いる。その後、バンドパスフィルタ15が検出信号の周波数を制限し、幅広ノイズ以外の単純なノイズを除去する。
【0028】
相互相関値算出手段16は、E型センサ5の検出信号の波形の相互相関値を算出するものであり、判別手段17は、当該相互相関値を用いて金属被検体4のヘゲ欠陥を判別するものである。
【0029】
ここで、上記相互相関値算出手段16および判別手段17の機能をより詳しく説明するために、ヘゲ欠陥およびこれをE型センサ5により検出した検出データについて検討する。
【0030】
図7は、ヘゲと呼ばれる表層欠陥を概略的に表した図であり、本発明の実施形態にかかる表層欠陥検出装置1はこれらヘゲ欠陥を検出するための装置である。図7に示されるように、厚板上のヘゲ欠陥には耳ヘゲ、トーチヘゲ、およびコーナーヘゲなどと呼ばれるものがある。図8は、表層欠陥検出装置1における9chのE型センサ5にて上記ヘゲ欠陥を含む厚板を欠陥検出したときの、検出信号の強度を濃淡で2次元画像化した図である。
【0031】
図8に示される2次元マップから読み取れるように、9chのE型センサ5の検出信号には、幅方向に広い出力(つまりノイズ)が検出されている。そして、このノイズのために、ヘゲ欠陥に起因する検出信号が埋没してしまい、ヘゲ欠陥を弁別することが困難となっている。
【0032】
図9は、表層欠陥検出装置1にて上記ヘゲ欠陥を含む厚板を欠陥検出したときの、検出信号の波形をグラフ化したものである。図9のグラフは、表層欠陥検出装置1の各検出チャンネル1〜9の出力電圧を縦軸とし、検出位置(つまり厚板における長さ位置)を横軸としたグラフである。同グラフにおいて、300mm近傍がヘゲ欠陥に起因する検出信号であり、5800mm近傍および13650mm近傍がノイズの検出信号である。
【0033】
図10(a)、(b)および(c)は、上記300mm近傍、5800mm近傍および13650mm近傍の信号波形を抜粋して拡大したものである。図10(b)および(c)から理解できるように、幅広ノイズに起因する検出信号は、各チャンネルの波形が相似形である。一方、図10(a)から理解できるように、ヘゲ欠陥に起因する検出信号は、各チャンネルの波形が大きくずれている。つまり、各チャンネル間の信号波形が相似形ではない。
【0034】
すなわち、上述のように、ヘゲ欠陥に起因する検出信号とノイズとでは、各チャンネル間信号波形の相関が異なるので、本発明では、検出信号の相互相関値を用いて、ヘゲ欠陥に起因する検出信号とノイズを弁別する。
【0035】
以下、図11を参照して、本発明の実施形態にかかる表層欠陥検出方法について説明する。すなわち、上述したコンピュータ13(特に相互相関値算出手段16および判別手段17)における処理について説明する。
【0036】
図11に示されるフローチャートは本発明の実施形態にかかる相関評価のアルゴリズム例である。図11に示されるアルゴリズム例では、まず従来技術を用いた一次スクリーニングを行い、ヘゲ欠陥の候補を抽出する(ステップS1)。すなわち、ヘゲ欠陥に起因する検出信号との弁別が困難な幅広ノイズ以外の単純なノイズを予め除外して、ヘゲ欠陥の判別精度を向上させる。
【0037】
例えば、上述の一次スクリーニングとして、バンドパスフィルタを用いる方法が考えられる。ここで、1つのバンドパスフィルタを用いて一時スクリーニングをしてもよいが、低周波用バンドパスフィルタ(例えば5Hz〜30Hz)と高周波用バンドパスフィルタ(30Hz〜60Hz)を用いて一時スクリーニングすることがより効果的である。さらに、検出信号の幅方向のチャンネルについて差分処理を行った後に一次スクリーニングを行うことがより効果的である。なぜならば、当該差分処理によりある程度の幅広ノイズが相殺されるので、スクリーニングの精度が向上するからである。
【0038】
次に、検出信号が閾値レベルを超えた場所から、検出値の最初のピーク位置を探索する(ステップS2)。そして、そのピーク位置から所定の範囲について各チャンネルの検出信号を調査し、検出レベルが所定レベル以上のチャンネルを評価対象チャンネルとして選択する(ステップS3)。当該所定の範囲として、ピーク位置からのデータ点を規定すること、またはピーク位置からの距離を規定することなどが考えられる。
【0039】
その後、調査の対象となった評価対象チャンネルのうち、最大値をとるチャンネル(以下、これを最大チャンネルと呼ぶ)を探索する(ステップS4)。そして、当該最大チャンネルと他の評価対象チャンネルとの相互相関値を算出する(ステップS5)。なお相互相関値の算出には下式を用いる。
【数1】
ただし、x、yは相関を計算するチャンネルの時系列データ、nはデータ点数、μはn点のデータ平均値、σはn点データの標準偏差、ρは相関値である。相関値ρは1〜−1の値であり、1に近いほど信号波形が相似形であることを示す。−1の場合は信号波形が全くの逆位相であることを示す。
【0040】
上記相互相関値ρをそれぞれのチャンネルについて算出し、これら相互相関値の平均値を代表の相互相関値ρrepとする。例えば、上述の9ch検出の表層欠陥検出装置1において5chが最大チャンネルであった場合、ρ5,1,ρ5,2,ρ5,3,ρ5,4,ρ5,6,ρ5,7,ρ5,8,ρ5,9を算出し、これらの平均値(ρ5,1+ρ5,2+ρ5,3+ρ5,4+ρ5,6+ρ5,7+ρ5,8+ρ5,9)/8を相互相関値ρrepとする。そして、例えば代表の相互相関値ρrepについての閾値を0.85として、当該閾値以下の場合にヘゲ欠陥と判定する(ステップS6)。
【0041】
上記判定が終了した場合、探索範囲を変更してヘゲ欠陥の再探索を開始する(ステップS7)。そしてこの探索を探索範囲を網羅するまで繰り返す。
【0042】
一方、全てのチャンネルを相関値対象にしてしまうと、例えば幅広ノイズもヘゲ欠陥もなく出力自体が小さいため検出信号が微弱である場合、結果的に相互相関値が小さくなってしまうことがあるので、これらのチャンネルを評価対象から排除することが必要である。上記アルゴリズム例では、ステップS2において検出値の最初のピーク位置を探索する際に、すべての点がある閾値以下であるチャンネルは評価対象外とする(ステップS8)。また、評価対象となるチャンネルが2チャンネル以下であるものも、ヘゲ欠陥の候補からはずす(ステップS9)。
【0043】
上記アルゴリズム例を図10に示した(a)ヘゲ部、(b)ノイズ部1、および(c)ノイズ部2に適用した場合の相互相関値ρが以下の表である。
(a) ヘゲ部: 0.8
(b)ノイズ部1: 0.99
(c)ノイズ部2: 0.95
上記表から理解できるように、本発明の実施形態にかかるアルゴリズムによればヘゲ欠陥を検出した場合は相互相関値が幅広ノイズよりも小さくなっている。したがって、上述のように相互相関値の閾値を0.85とすることによりヘゲ欠陥と幅広ノイズを弁別することができる。
【0044】
図12は、図9に示した検出信号の波形を上記アルゴリズム例によって弁別したものである。図12から理解できるように、絶対値2V以上の幅広ノイズに起因する信号の全てが相互相関値が大きくなり、本発明の効果が確認できる。
【0045】
以上より、本発明の実施形態にかかる表層欠陥検出装置1は、金属被検体4の表層部に渦電流を発生する励磁コイルAと、該渦電流により誘起された磁束を検出する検出コイルB,B’とを有する複数のE型センサ5と、複数のE型センサ5の検出信号の波形の相互相関値を算出する相互相関値算出手段16と、相互相関値を用いて前記金属被検体の表層の欠陥を判別する判別手段17とを備えるので、金属被検体4の地合ノイズとヘゲ欠陥に起因する検出信号とを精度良く弁別することができる。
【0046】
さらに、本発明の実施形態にかかる表層欠陥検出装置1は、複数のE型センサ5の検出信号のうち最大の強度をとる検出信号を基準検出信号として選択し、基準検出信号とその他の検出信号の夫々との相互相関値を算出するのでヘゲ欠陥に起因した検出信号の特徴を効果的に利用することができる。
【0047】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、上記の実施の形態の開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。例えば、相関をとる基準となる検出信号(上述の例では最大チャンネル)の選択の方法として、各チャンネルの検出信号における最初に閾値を超えたチャンネルの検出信号を基準の検出信号として相互相関値を計算する方法を採用することもできる。また、各チャンネルの検出信号のうち閾値を超えたチャンネルの検出信号の平均波形を計算し、これを基準の検出信号として相互相関を計算する方法を採用することもできる。
【0048】
また、相互相関値を利用したヘゲ欠陥の判別方法についても以下の様な方法をとり得る。例えば、相互相関値ρをそれぞれのチャンネルについて算出し、これら相互相関値の最小値を代表の相互相関値ρrepとし、この相互相関値ρrepが0.8等の閾値を下回ることによってヘゲ欠陥を判別する方法をとり得る。また、電気ノイズなどの突発ノイズが心配な場合は、相互相関値ρをそれぞれのチャンネルについて算出した後、小さい方から2つ目の相互相関値が0.85以下ならばヘゲ欠陥であると判別する方法が考えられる。
【0049】
板のばたつき、反りなどが少なく信号の低周波変動が少ない条件であれば、一次スクリーニングのための信号処理を行わず、閾値のみで欠陥候補を選択することも可能である。また、渦流探傷センサとして、E型センサではなく、I型センサまたはU型センサなどを使用しても良いし、ホール素子センサなどの使用も可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 表層欠陥検出装置
2 センサBox
3 ロール
4 金属被検体
5 E型センサ
6 信号処理部
7 発振器
8 差動増幅器
9 位相器
10 検波器
12 A/Dコンバータ
13 コンピュータ
14 補正手段
15 バンドパスフィルタ
16 相互相関値算出手段
17 判別手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属被検体の表層に形成された欠陥を検出する表層欠陥検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
厚板などの金属被検体の表層には、耳ヘゲ、トーチヘゲ、およびコーナーヘゲなどと呼ばれる表層欠陥が発生し得る(以下これら表層欠陥をヘゲ欠陥と総称する)。これらヘゲ欠陥の発生要因は、製鋼性の要因および圧延性の要因などがあり、表面から目視で確認出来るものもあれば、非開口のため目視では確認出来ないものもある。このため、非開口の形態のヘゲ欠陥は、通常の検査では見逃されてしまうこともある。そこで、渦流探傷方式の表層欠陥検出方法がヘゲ欠陥の検出に利用されている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
渦流探傷方式の表層欠陥検出方法は、励磁コイルにより金属被検体の表層に渦電流を発生させ、その渦電流によって誘起される検出コイルの誘導電圧を検出することにより、金属被検体の表層に形成された表層欠陥を検出するものである。被検出体の表層に欠陥があった場合には、渦電流の流れに変化が起き、それに伴って検出コイルに発生する励磁電圧が変化するので、この励磁電圧の変化により表層欠陥を検出することができる。
【0004】
例えば、特許文献1に開示されている渦流探傷装置では、E形の渦流センサを脚部が厚板の幅方向に並ぶように設置し、かつ搬送方向へ千鳥配置にて設置して、ヘゲ欠陥の検出を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−284191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1記載のような千鳥配置の渦流探傷装置では、渦流センサの搬送方向における寸法が大きくなり、厚板のバタツキによる影響が出てしまう。一方、渦流センサの脚部を搬送方向に並ぶように配置すると、搬送方向における寸法は小さくなるが、搬送方向に狭いノイズを検出してしまう。その結果、厚板などの金属被検体には搬送方向に狭く幅方向に広い分布の地合ノイズが存在するので、従来の渦流探傷装置では、ヘゲ欠陥に起因する検出信号がこの地合ノイズに埋没してしまい、ヘゲ欠陥に起因する検出信号を精度良く弁別することができなかった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、金属被検体の地合ノイズとヘゲ欠陥に起因する検出信号とを精度良く弁別可能な表層欠陥検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる表層欠陥検出装置は、金属被検体の表層部に渦電流を発生する励磁コイルと、該渦電流により誘起された磁束を検出する検出コイルとを有する複数の渦流探傷センサと、前記複数の渦流探傷センサの検出信号の波形の相互相関値を算出する相互相関値算出手段と、前記相互相関値を用いて前記金属被検体の表層の欠陥を判別する判別手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかる表層欠陥検出装置によれば、金属被検体の地合ノイズとヘゲ欠陥に起因する検出信号とを精度良く弁別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、搬送ラインにおける表層欠陥検出装置の配置の概略図である。
【図2】図2は、センサBoxの構成を説明する概略図である。
【図3】図3は、E型センサの厚み方向の感度特性を示すグラフである。
【図4】図4は、信号処理部の構成を説明する概略図である。
【図5】図5は、信号処理部の位相調整を説明する図である。
【図6】図6は、コンピュータで行われる処理の機能ブロック図である。
【図7】図7は、ヘゲ欠陥の概略図である。
【図8】図8は、ヘゲ欠陥を含む厚板の検出データの2次元マップである。
【図9】図9は、ヘゲ欠陥とノイズを含む検出信号の波形を示す図である。
【図10】図10は、ヘゲ欠陥を含む部分の検出信号と幅広ノイズの検出信号の波形を抜粋した図である。
【図11】図11は、判別アルゴリズム例を示すフローチャートである。
【図12】図12は、ヘゲ欠陥とノイズを含む検出信号の波形における相互相関値の計算例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0012】
まず、図1及び図2を用いて、本発明の実施形態に係る表層欠陥検出装置1の概略構成を説明する。図1は、本発明の実施形態にかかる表層欠陥検出装置1の、金属被検体の搬送ラインにおける配置について説明する概略図である。また、図2は、本発明の実施形態にかかる表層欠陥検出装置のセンサBoxの構成を説明する概略図である。
【0013】
図1に示されるように、本発明の実施形態にかかる表層欠陥検出装置1は、表層欠陥検出装置1の検出部であるセンサBox2を、搬送ラインのロール3の間に配置する構成である。検査対象となる厚板などの金属被検体4は、ロール3の上を搬送されながらセンサBox2によって欠陥探傷される。この際、センサBox2の上面は金属被検体4のパスラインより5mm〜30mm程度離れるように、センサBox2を配置する。なお金属被検体4の振動が大きい場合には20mm程度離れるようにセンサBox2を配置することが好ましい。また、図1に示される構成は、金属被検体4の裏面のエッジ部の検出用の構成であるが、表層欠陥検出装置1を金属被検体4の表面の検出用の構成または全幅検出用の構成などに設計変更することも可能である。
【0014】
図2に示されるように、センサBox2の内部において、9個のE型センサ5が金属被検体4の搬送方向と垂直方向に配列されている。つまり、本実施形態にかかる表層欠陥検出装置1は、金属被検体4の幅方向に対して9ch検出である。なお、E型センサ5とは、コアが「E」字形をしており、中央を励磁コイルAのコアとして用い、両端を検出コイルB,B’のコアとして用いた渦流探傷センサのことをいう(以下同様)。そして、図2に示されるように、励磁コイルAのコアと両端の検出コイルB,B’のコアとは、金属被検体4の搬送方向に配列している。なお、本実施形態では、E型センサ5の脚の間隔(つまり励磁コイルAのコアと両端の検出コイルB,B’のコアとの間隔)を20mmとし、E型センサ5の厚みを20mmとし、E型センサ5の間隔を6mmとしている。さらに、センサBox2の上面には保護用の樹脂板が設置され、センサBox2がエアパージされている。
【0015】
センサBox2内のE型センサ5の配置間隔は、E型センサ5の厚み方向の感度特性によって以下のように決定する。図3は、E型センサ5の厚み方向の感度特性を示すグラフである。同グラフは、E型センサ5の厚み方向のある相対位置に存在する自然欠陥に対するE型センサ5の単体での出力を示している。
【0016】
同グラフに示されるように、欠陥の位置がE型センサ5の真下からずれると、E型センサ5の出力は低下する。そこで、出力がピーク値の半分となる位置に、隣接するセンサの出力値がピーク値の半分となるように間隔を設定すれば、例えば隣接センサの出力を加算することで、欠陥の検出信号レベル低下を防ぐことが出来る。図3の例では、出力がピーク値の半分となる位置は±13mmであり、この位置で隣接するセンサの出力値がピーク値の半分となるように配置すると、隣り合うE型センサ5の中心間隔は26mmとなる。よって、E型センサ5の厚みが20mmなので、E型センサ5の間隔は6mmとすればよい。
【0017】
次に、図4から図6を参照して、本発明の第1実施形態にかかる表層欠陥検出装置1の信号処理部6の説明を行う。図4は、信号処理部6の構成を説明する概略図であり、図5は、信号処理部6の位相調整を説明する図である。
【0018】
本発明の第1実施形態にかかる表層欠陥検出装置1の信号処理部6は、図4に示されるように、発振器7と差動増幅器8と位相器9と検波器10とA/Dコンバータ12とコンピュータ13とを備える。
【0019】
発振器7は、所定の電流値Iと周波数Fの励磁信号を発振する局部発振器であり、ここでは電流値I=10mA,周波数F=64kHzとしている。発振器7で発振した励磁信号は、励磁信号ケーブルを介してE型センサ5の中央のコアに巻かれた励磁コイルAに流れ、励磁コイルAの周囲に交流磁界を発生する。そして、交流磁界は、検査対象となる金属被検体4の表層部に渦電流を誘起する。
【0020】
E型センサ5の外側のコアに巻かれた検出コイルB,B’は、この渦電流によって発生した磁束による誘起電圧を検出する。このとき、検出コイルB,B’は、互いに一方の端子を接続し、当該誘起電圧が相殺するように構成する。また、検出コイルB,B’の他方の接続しなかった端子は、出力ケーブルを介して、信号処理部6に入力する。
【0021】
信号処理部6に入力された検出コイルB,B’の端子は、差動増幅器8に接続され、差動増幅される。すなわち、差動増幅器8は、検出コイルB,B’にて検出される誘起電圧の差分が増幅されることとなる。なお、差動増幅器8の増幅度は、使用する電流値I、周波数F、およびセンサと金属被検体との距離などによって適切に設定すべきであるが、本実施形態では20倍としている。
【0022】
差動増幅器8にて差動増幅された信号は位相器9を通り、位相器9が位相を調整する。位相器9は、振動等によって生じるガタの信号と欠陥信号との弁別性を向上させるためのものであり、ガタの信号出力が零になるようにインピーダンスを調整する。例えば、図5に示す様に、Y軸成分を出力成分としたときにガタ信号の位相が120°であれば、位相を120°回転して、ガタ信号の位相がX軸と一致するように調整する。
【0023】
位相器9の出力信号は、検波器10に入力され、発振器7からの励磁信号にて検波される。すなわち、検波器10は、位相器9の出力信号と発振器7からの励磁信号とを乗算することによって同期検波をする。
【0024】
検波器10によって検波された検出信号は、A/Dコンバータ12を介してコンピュータ13へ入力される。コンピュータ13は、検出信号を適切なデジタル信号処理して、検出信号のデータからヘゲ欠陥を弁別するものである。
【0025】
図6は、上記コンピュータ13で行われるデジタル信号処理の一例を説明する機能ブロック図である。
【0026】
A/Dコンバータ12は、検出信号を適切なデジタル信号へ変換するものであり、表層欠陥検出装置1を取り付けた製造ラインのライン搬送速度が1.5m/sであり、表層欠陥検出装置1のA/Dコンバータ12のサンプリングピッチを3mmとすれば、サンプリング速度は500Hzとなる。
【0027】
補正手段14は、各E型センサ5の感度個体差を補正するものである。この補正には、事前に設定しておく設定値を用いる。その後、バンドパスフィルタ15が検出信号の周波数を制限し、幅広ノイズ以外の単純なノイズを除去する。
【0028】
相互相関値算出手段16は、E型センサ5の検出信号の波形の相互相関値を算出するものであり、判別手段17は、当該相互相関値を用いて金属被検体4のヘゲ欠陥を判別するものである。
【0029】
ここで、上記相互相関値算出手段16および判別手段17の機能をより詳しく説明するために、ヘゲ欠陥およびこれをE型センサ5により検出した検出データについて検討する。
【0030】
図7は、ヘゲと呼ばれる表層欠陥を概略的に表した図であり、本発明の実施形態にかかる表層欠陥検出装置1はこれらヘゲ欠陥を検出するための装置である。図7に示されるように、厚板上のヘゲ欠陥には耳ヘゲ、トーチヘゲ、およびコーナーヘゲなどと呼ばれるものがある。図8は、表層欠陥検出装置1における9chのE型センサ5にて上記ヘゲ欠陥を含む厚板を欠陥検出したときの、検出信号の強度を濃淡で2次元画像化した図である。
【0031】
図8に示される2次元マップから読み取れるように、9chのE型センサ5の検出信号には、幅方向に広い出力(つまりノイズ)が検出されている。そして、このノイズのために、ヘゲ欠陥に起因する検出信号が埋没してしまい、ヘゲ欠陥を弁別することが困難となっている。
【0032】
図9は、表層欠陥検出装置1にて上記ヘゲ欠陥を含む厚板を欠陥検出したときの、検出信号の波形をグラフ化したものである。図9のグラフは、表層欠陥検出装置1の各検出チャンネル1〜9の出力電圧を縦軸とし、検出位置(つまり厚板における長さ位置)を横軸としたグラフである。同グラフにおいて、300mm近傍がヘゲ欠陥に起因する検出信号であり、5800mm近傍および13650mm近傍がノイズの検出信号である。
【0033】
図10(a)、(b)および(c)は、上記300mm近傍、5800mm近傍および13650mm近傍の信号波形を抜粋して拡大したものである。図10(b)および(c)から理解できるように、幅広ノイズに起因する検出信号は、各チャンネルの波形が相似形である。一方、図10(a)から理解できるように、ヘゲ欠陥に起因する検出信号は、各チャンネルの波形が大きくずれている。つまり、各チャンネル間の信号波形が相似形ではない。
【0034】
すなわち、上述のように、ヘゲ欠陥に起因する検出信号とノイズとでは、各チャンネル間信号波形の相関が異なるので、本発明では、検出信号の相互相関値を用いて、ヘゲ欠陥に起因する検出信号とノイズを弁別する。
【0035】
以下、図11を参照して、本発明の実施形態にかかる表層欠陥検出方法について説明する。すなわち、上述したコンピュータ13(特に相互相関値算出手段16および判別手段17)における処理について説明する。
【0036】
図11に示されるフローチャートは本発明の実施形態にかかる相関評価のアルゴリズム例である。図11に示されるアルゴリズム例では、まず従来技術を用いた一次スクリーニングを行い、ヘゲ欠陥の候補を抽出する(ステップS1)。すなわち、ヘゲ欠陥に起因する検出信号との弁別が困難な幅広ノイズ以外の単純なノイズを予め除外して、ヘゲ欠陥の判別精度を向上させる。
【0037】
例えば、上述の一次スクリーニングとして、バンドパスフィルタを用いる方法が考えられる。ここで、1つのバンドパスフィルタを用いて一時スクリーニングをしてもよいが、低周波用バンドパスフィルタ(例えば5Hz〜30Hz)と高周波用バンドパスフィルタ(30Hz〜60Hz)を用いて一時スクリーニングすることがより効果的である。さらに、検出信号の幅方向のチャンネルについて差分処理を行った後に一次スクリーニングを行うことがより効果的である。なぜならば、当該差分処理によりある程度の幅広ノイズが相殺されるので、スクリーニングの精度が向上するからである。
【0038】
次に、検出信号が閾値レベルを超えた場所から、検出値の最初のピーク位置を探索する(ステップS2)。そして、そのピーク位置から所定の範囲について各チャンネルの検出信号を調査し、検出レベルが所定レベル以上のチャンネルを評価対象チャンネルとして選択する(ステップS3)。当該所定の範囲として、ピーク位置からのデータ点を規定すること、またはピーク位置からの距離を規定することなどが考えられる。
【0039】
その後、調査の対象となった評価対象チャンネルのうち、最大値をとるチャンネル(以下、これを最大チャンネルと呼ぶ)を探索する(ステップS4)。そして、当該最大チャンネルと他の評価対象チャンネルとの相互相関値を算出する(ステップS5)。なお相互相関値の算出には下式を用いる。
【数1】
ただし、x、yは相関を計算するチャンネルの時系列データ、nはデータ点数、μはn点のデータ平均値、σはn点データの標準偏差、ρは相関値である。相関値ρは1〜−1の値であり、1に近いほど信号波形が相似形であることを示す。−1の場合は信号波形が全くの逆位相であることを示す。
【0040】
上記相互相関値ρをそれぞれのチャンネルについて算出し、これら相互相関値の平均値を代表の相互相関値ρrepとする。例えば、上述の9ch検出の表層欠陥検出装置1において5chが最大チャンネルであった場合、ρ5,1,ρ5,2,ρ5,3,ρ5,4,ρ5,6,ρ5,7,ρ5,8,ρ5,9を算出し、これらの平均値(ρ5,1+ρ5,2+ρ5,3+ρ5,4+ρ5,6+ρ5,7+ρ5,8+ρ5,9)/8を相互相関値ρrepとする。そして、例えば代表の相互相関値ρrepについての閾値を0.85として、当該閾値以下の場合にヘゲ欠陥と判定する(ステップS6)。
【0041】
上記判定が終了した場合、探索範囲を変更してヘゲ欠陥の再探索を開始する(ステップS7)。そしてこの探索を探索範囲を網羅するまで繰り返す。
【0042】
一方、全てのチャンネルを相関値対象にしてしまうと、例えば幅広ノイズもヘゲ欠陥もなく出力自体が小さいため検出信号が微弱である場合、結果的に相互相関値が小さくなってしまうことがあるので、これらのチャンネルを評価対象から排除することが必要である。上記アルゴリズム例では、ステップS2において検出値の最初のピーク位置を探索する際に、すべての点がある閾値以下であるチャンネルは評価対象外とする(ステップS8)。また、評価対象となるチャンネルが2チャンネル以下であるものも、ヘゲ欠陥の候補からはずす(ステップS9)。
【0043】
上記アルゴリズム例を図10に示した(a)ヘゲ部、(b)ノイズ部1、および(c)ノイズ部2に適用した場合の相互相関値ρが以下の表である。
(a) ヘゲ部: 0.8
(b)ノイズ部1: 0.99
(c)ノイズ部2: 0.95
上記表から理解できるように、本発明の実施形態にかかるアルゴリズムによればヘゲ欠陥を検出した場合は相互相関値が幅広ノイズよりも小さくなっている。したがって、上述のように相互相関値の閾値を0.85とすることによりヘゲ欠陥と幅広ノイズを弁別することができる。
【0044】
図12は、図9に示した検出信号の波形を上記アルゴリズム例によって弁別したものである。図12から理解できるように、絶対値2V以上の幅広ノイズに起因する信号の全てが相互相関値が大きくなり、本発明の効果が確認できる。
【0045】
以上より、本発明の実施形態にかかる表層欠陥検出装置1は、金属被検体4の表層部に渦電流を発生する励磁コイルAと、該渦電流により誘起された磁束を検出する検出コイルB,B’とを有する複数のE型センサ5と、複数のE型センサ5の検出信号の波形の相互相関値を算出する相互相関値算出手段16と、相互相関値を用いて前記金属被検体の表層の欠陥を判別する判別手段17とを備えるので、金属被検体4の地合ノイズとヘゲ欠陥に起因する検出信号とを精度良く弁別することができる。
【0046】
さらに、本発明の実施形態にかかる表層欠陥検出装置1は、複数のE型センサ5の検出信号のうち最大の強度をとる検出信号を基準検出信号として選択し、基準検出信号とその他の検出信号の夫々との相互相関値を算出するのでヘゲ欠陥に起因した検出信号の特徴を効果的に利用することができる。
【0047】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、上記の実施の形態の開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。例えば、相関をとる基準となる検出信号(上述の例では最大チャンネル)の選択の方法として、各チャンネルの検出信号における最初に閾値を超えたチャンネルの検出信号を基準の検出信号として相互相関値を計算する方法を採用することもできる。また、各チャンネルの検出信号のうち閾値を超えたチャンネルの検出信号の平均波形を計算し、これを基準の検出信号として相互相関を計算する方法を採用することもできる。
【0048】
また、相互相関値を利用したヘゲ欠陥の判別方法についても以下の様な方法をとり得る。例えば、相互相関値ρをそれぞれのチャンネルについて算出し、これら相互相関値の最小値を代表の相互相関値ρrepとし、この相互相関値ρrepが0.8等の閾値を下回ることによってヘゲ欠陥を判別する方法をとり得る。また、電気ノイズなどの突発ノイズが心配な場合は、相互相関値ρをそれぞれのチャンネルについて算出した後、小さい方から2つ目の相互相関値が0.85以下ならばヘゲ欠陥であると判別する方法が考えられる。
【0049】
板のばたつき、反りなどが少なく信号の低周波変動が少ない条件であれば、一次スクリーニングのための信号処理を行わず、閾値のみで欠陥候補を選択することも可能である。また、渦流探傷センサとして、E型センサではなく、I型センサまたはU型センサなどを使用しても良いし、ホール素子センサなどの使用も可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 表層欠陥検出装置
2 センサBox
3 ロール
4 金属被検体
5 E型センサ
6 信号処理部
7 発振器
8 差動増幅器
9 位相器
10 検波器
12 A/Dコンバータ
13 コンピュータ
14 補正手段
15 バンドパスフィルタ
16 相互相関値算出手段
17 判別手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属被検体の表層部に渦電流を発生させる励磁コイルと、該渦電流により誘起された磁束を検出する検出コイルとを有する複数の渦流探傷センサと、
前記複数の渦流探傷センサの検出信号の波形の相互相関値を算出する相互相関算値算出手段と、
前記相互相関値を用いて前記金属被検体の表層の欠陥を判別する判別手段と、
を備えることを特徴とする表層欠陥検出装置。
【請求項2】
前記相互相関値算出手段は、前記複数の渦流探傷センサの検出信号から一つの基準検出信号を選択し、該基準検出信号とその他の検出信号の夫々との相互相関値を算出することを特徴とする請求項1に記載の表層欠陥検出装置。
【請求項3】
前記相互相関値算出手段は、前記複数の渦流探傷センサの検出信号のうち最大の強度をとる検出信号を基準検出信号として選択することを特徴とする請求項2に記載の表層欠陥検出装置。
【請求項4】
前記相互相関値算出手段は、前記複数の渦流探傷センサの検出信号のうち最初に閾値を超えた検出信号を基準検出信号として選択することを特徴とする請求項2に記載の表層欠陥検出装置。
【請求項5】
前記相互相関値算出手段は、前記複数の渦流探傷センサの検出信号の平均波形の検出信号を基準検出信号として選択することを特徴とする請求項2に記載の表層欠陥検出装置。
【請求項6】
前記渦流探傷センサは、金属被検体の表層部に渦電流を発生させる励磁コイルと、該渦電流により誘起された磁束を検出する第1及び第2の検出コイルとを有するセンサであることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の表層欠陥検出装置。
【請求項1】
金属被検体の表層部に渦電流を発生させる励磁コイルと、該渦電流により誘起された磁束を検出する検出コイルとを有する複数の渦流探傷センサと、
前記複数の渦流探傷センサの検出信号の波形の相互相関値を算出する相互相関算値算出手段と、
前記相互相関値を用いて前記金属被検体の表層の欠陥を判別する判別手段と、
を備えることを特徴とする表層欠陥検出装置。
【請求項2】
前記相互相関値算出手段は、前記複数の渦流探傷センサの検出信号から一つの基準検出信号を選択し、該基準検出信号とその他の検出信号の夫々との相互相関値を算出することを特徴とする請求項1に記載の表層欠陥検出装置。
【請求項3】
前記相互相関値算出手段は、前記複数の渦流探傷センサの検出信号のうち最大の強度をとる検出信号を基準検出信号として選択することを特徴とする請求項2に記載の表層欠陥検出装置。
【請求項4】
前記相互相関値算出手段は、前記複数の渦流探傷センサの検出信号のうち最初に閾値を超えた検出信号を基準検出信号として選択することを特徴とする請求項2に記載の表層欠陥検出装置。
【請求項5】
前記相互相関値算出手段は、前記複数の渦流探傷センサの検出信号の平均波形の検出信号を基準検出信号として選択することを特徴とする請求項2に記載の表層欠陥検出装置。
【請求項6】
前記渦流探傷センサは、金属被検体の表層部に渦電流を発生させる励磁コイルと、該渦電流により誘起された磁束を検出する第1及び第2の検出コイルとを有するセンサであることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の表層欠陥検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2012−159439(P2012−159439A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20175(P2011−20175)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
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