説明

表皮付き発泡樹脂成形品の成形方法及び成形装置

【課題】溶融発泡性樹脂の発泡により形成される発泡層を表皮層の裏側により均一に形成する。
【解決手段】キャビティ1の底部16aに表皮層51を設ける表皮層配置工程と、表皮層51の裏側に溶融発泡性樹脂3を射出して、溶融発泡性樹脂3をキャビティ1内に充填する充填工程と、成形型2を表皮層51の表裏方向にコアバックすることで溶融発泡性樹脂3を発泡させるとともに表皮層51と一体となるように硬化させて表皮付き発泡樹脂成形品を形成する成形工程と、少なくとも成形工程中に、キャビティ1の底部16aに配置された表皮層51を囲む成形型2の壁部16bと表皮層51の外縁部51aの裏側に配置された溶融発泡性樹脂3との間の圧力を表皮層51の中央部51bの裏側に配置された溶融発泡性樹脂3内の圧力よりも低くなるように減圧する減圧工程とを実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形型に設けられたキャビティ内に溶融発泡性樹脂を射出して発泡樹脂成形品を形成する発泡樹脂成形品の成形方法および成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、成形型に設けられたキャビティ内に、発泡剤を含有する溶融発泡性樹脂を射出して供給した後、上記成形型を型開き方向に移動させるコアバックを行うことにより、キャビティ内で上記樹脂を発泡させるように構成した発泡樹脂成形品の成形方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、キャビティ内に溶融発泡性樹脂を射出して供給した後、キャビティの底部と接触する部分を冷却固化させることにより意匠面を構成する表皮層を形成し、その後、成形型をこの表皮層の表裏方向にコアバックすることにより表皮層の裏側に配置された残りの樹脂を発泡させて発泡層を形成し表皮付き発泡樹脂成形品を成形する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−015633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1では溶融発泡性樹脂の一部を意図的に冷却固化させることで表皮層を形成している。しかしながら、このように冷却により固化する溶融発泡性樹脂では、成形型の壁部との接触等により発泡前に意図しない部分が冷却固化する場合がある。このように発泡前に樹脂が冷却固化した場合には、この冷却固化した部分の周囲の樹脂が発泡時に十分に膨張できず、表皮層に対して発泡層を均一に形成できないおそれがある。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で表皮層に対してより均一に発泡層を形成することが可能な表皮付き発泡樹脂成形品の成形方法および成形装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、内部にキャビティが形成された成形型の当該キャビティの底部に表皮層を設ける表皮層配置工程と、上記表皮層の裏側に溶融発泡性樹脂を射出して、当該溶融発泡性樹脂を上記キャビティ内に充填する充填工程と、上記成形型を上記表皮層の表裏方向にコアバックすることで上記キャビティ内に充填された上記溶融発泡性樹脂を発泡させるとともに上記表皮層と一体となるように硬化させて表皮付き発泡樹脂成形品を形成する成形工程と、少なくとも上記成形工程中に、上記キャビティの底部に配置された上記表皮層を囲む成形型の壁部と上記表皮層の外縁部の裏側に配置された上記溶融発泡性樹脂との間の圧力を上記表皮層の中央部の裏側に配置された上記溶融発泡性樹脂内の圧力よりも低くなるように減圧する減圧工程とを備えたことを特徴とする表皮付き発泡樹脂成形品の成形方法を提供する。
【0008】
この方法によれば、表皮層の裏側全体すなわち表皮層の外縁部および中央部の裏側において溶融発泡性樹脂を十分に膨張させることができ、この表皮層の裏側全体により均一な発泡層を形成することができる。すなわち、上記成形型の壁部と表皮層の外縁部の裏側に配置された溶融発泡性樹脂との間の圧力が中央部よりも減圧されており、この表皮層の外縁部の裏側において上記壁部との接触に伴いこの壁部に沿って溶融発泡性樹脂の外表面が冷却固化することで溶融発泡性樹脂の壁部側への膨張が阻害されるのに抗して、溶融発泡性樹脂に壁部側への力が付与されるので、この溶融発泡性樹脂の膨張が抑制されやすい表皮層の外縁部の裏側においても溶融発泡性樹脂を膨張量を十分に確保することができる。
【0009】
また、本発明において、上記減圧工程では、上記成形型の壁部に形成された排気通路に接続された吸引手段により、上記溶融発泡性樹脂と上記成形型の壁部との間のガスを吸引して当該キャビティから外部に排出するのが好ましい(請求項2)。
【0010】
このようにすれば、比較的簡単な方法で上記溶融発泡性樹脂と上記成形型の壁部との間を減圧することができる。また、コアバック時に発泡に伴って溶融発泡性樹脂内から発生したガスが上記溶融発泡性樹脂と上記成形型の壁部との間に滞留するのを回避することができ、このガスによって溶融発泡性樹脂の膨張が妨げられるのを回避することができる。
【0011】
ここで、上記表皮層としては、例えば、意匠性および耐久性の高いソリッド層が挙げられる。すなわち、表皮層配置工程では、上記表皮層としてソリッド樹脂からなるソリッド層を設ける方法が挙げられる(請求項3)。
【0012】
この方法では、さらに、上記キャビティの底部にソリッド樹脂を射出および充填するとともに硬化させて当該キャビティ内に上記表皮層を形成する表皮層形成工程と、上記成形型をコアバックすることで上記表皮層の裏側に上記溶融発泡性樹脂を充填可能な空間を形成する事前コアバック工程とを備え、上記充填工程は、上記事前コアバック工程の後に実施されるのが好ましい(請求項4)。
【0013】
このようにすれば、表皮層と発泡層とを個別の成形型で形成する場合に比べて、表皮層の搬送作業等を行う必要がなく、作業が容易になる。
【0014】
また、本発明において、上記減圧工程は、上記成形工程と同時あるいはこの成形工程よりも前に開始されるのが好ましい(請求項5)。
【0015】
このように溶融発泡性樹脂の外表面の冷却固化が十分に進行する前に減圧工程を開始すれば、比較的容易に上記表皮層の外縁部の裏側の溶融発泡性樹脂を壁部側に膨張させることができる。
【0016】
また、本発明は、内部にキャビティが形成されており当該キャビティを囲む壁部を備えた成形型と、上記キャビティの底部に表皮層を設ける表皮層配置手段と、上記表皮層の裏側面と上記成形型の壁部との間に溶融発泡性樹脂を射出して当該溶融発泡性樹脂を上記キャビティ内に充填する溶融発泡性樹脂供給手段と、上記キャビティ内に充填された上記溶融発泡性樹脂が発泡して上記表皮層と一体に硬化するように上記成形型をコアバックさせるコアバック手段と、上記表皮層の外縁部の裏側に配置された上記溶融発泡性樹脂と上記成形型の壁部との間の圧力を上記表皮層の中央部の裏側に配置された上記溶融発泡性樹脂内の圧力よりも低くなるように減圧する減圧手段とを備えたことを特徴とする表皮付き発泡樹脂成形品の成形装置を提供する(請求項6)。
【0017】
この装置によれば、減圧手段により成形型の壁部と表皮層の外縁部の裏側に配置された溶融発泡性樹脂との間の圧力が中央部よりも減圧されることで、この表皮層の外縁部の裏側において溶融発泡性樹脂の外表面が冷却固化することで溶融発泡性樹脂の壁部側への膨張が阻害されるのに抗して溶融発泡性樹脂に壁部側への力が付与されるため、この溶融発泡性樹脂の膨張が抑制されやすい表皮層の外縁部の裏側においても溶融発泡性樹脂を膨張量を十分に確保することができ、表皮層の裏側全体より均一な発泡層を形成することができる。
【0018】
上記装置において、上記成形型の壁部には、上記キャビティ内に上記表皮層および上記溶融発泡性樹脂が配置された状態でこの表皮層の外縁部の裏側に配置された上記溶融発泡性樹脂と対向する位置に上記キャビティの内外を連通する排気通路が形成されており、上記減圧手段は、上記排気通路に接続されて上記キャビティ内のガスを吸引して当該キャビティから外部に排出する吸引手段を有するのが好ましい(請求項7)。
【0019】
このようにすれば、比較的簡単な構成で上記溶融発泡性樹脂と上記成形型の壁部との間を減圧することができる。また、コアバック時に発泡に伴って溶融発泡性樹脂内から発生したガスが上記溶融発泡性樹脂と上記成形型の壁部との間に滞留するのを回避することができ、このガスによって溶融発泡性樹脂の膨張が妨げられるのを回避することができる。
【0020】
また、上記装置において、上記表皮層配置手段は、上記キャビティの底部にソリッド樹脂を射出および充填するとともに硬化させて当該キャビティ内にソリッド層からなる上記表皮層を形成する表皮層形成手段を備え、上記コアバック手段は、上記キャビティ内に上記表皮層が形成された状態で当該表皮層の裏側に上記溶融発泡性樹脂を充填可能な空間が形成されるよう上記成形型をコアバックするのが好ましい(請求項8)。
【0021】
この装置によれば、意匠性および耐久性の高いソリッド層からなる表皮層と発泡層とを同一の成形型で成形することができ、表皮層を形成するための成形型等を別途設ける必要がなく、装置全体を簡素化することができる。
【0022】
また、上記装置において、上記溶融発泡性樹脂が発泡するように上記コアバック手段が上記成形型のコアバックを開始する時期と同時あるいはこのコアバックの開始時期よりも前に、上記減圧手段が上記溶融発泡性樹脂と上記成形型の壁部との間の減圧を開始するよう、当該減圧手段を制御する制御手段を備えるのが好ましい(請求項9)。
【0023】
このように制御手段により上記成形型のコアバックを開始する時期と同時あるいはこのコアバックの開始時期よりも前であって溶融発泡性樹脂の外表面の冷却固化が十分に進行する前に減圧が開始されれば、比較的容易に上記表皮層の外縁部の裏側の溶融発泡性樹脂を壁部側に膨張させることができる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明によれば、簡単な構成で表皮層に対してより均一に発泡層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る発泡樹脂成形品の成形装置の実施形態を示す説明図である。
【図2】充填工程における成形装置を示す説明図である。
【図3】減圧工程における成形装置を示す説明図である。
【図4】発泡樹脂成形品の成形過程を示すタイムチャートである。
【図5】溶融発泡性樹脂の膨張が妨げられた状態を示す説明図である。
【図6】溶融発泡性樹脂の膨張が妨げられた状態の他の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、本発明に係る表皮付き発泡樹脂成形品の成形装置100の第1実施形態を示している。この表皮付き発泡樹脂成形品の成形装置100は、キャビティ1が内部に設けられた成形型2と、この成形型2のキャビティ1内に溶融発泡性樹脂3を射出して供給する発泡性樹脂供給手段4と、このキャビティ1内にソリッド樹脂103を射出して供給するソリッド樹脂供給手段104と、キャビティ1内のガスを吸引してキャビティ1の外部に排出しキャビティ1内の少なくとも一部を減圧する真空装置(吸引手段)5と、上記成形型2をコアバックさせるコアバック手段40と、上記真空装置5を制御する制御手段6とを備えている。
【0027】
この成形装置100は、上記ソリッド樹脂供給手段104から成形型2に供給されたソリッド樹脂103をキャビティ1内に充填するとともに硬化させて表皮層51を形成し、その後上記溶融発泡性樹脂供給手段4から成形型2に供給された溶融発泡性樹脂3を表皮層51の裏側に供給してキャビティ1内に充填するとともにこの溶融発泡性樹脂3を発泡させ、かつ所定のタイミングで上記真空装置5を作動させることにより表皮層51の外縁部51aの裏側に配置された溶融発泡性樹脂3と表皮層を囲む成形型2の壁部16bとの間を減圧しつつ、この溶融発泡性樹脂3を上記表皮層51と一体に硬化させて、自動車用、建築資材用、家電用または日用雑貨用等に使用される表皮付き発泡樹脂成形品を形成するように構成されている。
【0028】
上記成形型2は、図1に示すように、固定型14と、この固定型14に対して接離する方向に相対移動可能に支持された移動型15とを有する。上記固定型14には移動型15側に突出する凸部17が形成されており、上記移動型15には固定型14側に突出する壁部16bで囲まれた凹部16が形成されている。この凹部16は上記凸部17に相対応しており、凹部16内に凸部17が嵌入されることにより、両者の間にキャビティ1が区画形成されるようになっている。すなわち、凹部16の上記壁部16bとこの壁部16bで囲まれた底部16aと、この底部16aと対向する上記凸部17の頂壁17aとで囲まれた部分にキャビティ1が区画されている。
【0029】
上記成形型2の固定型14には、上記溶融発泡性樹脂供給手段4から射出された溶融発泡性樹脂3が導入される発泡性樹脂導入通路18が形成されている。この発泡性樹脂導入通路18は、その一端が上記凸部17の頂壁17aに開口しており、この発泡性樹脂導入通路18を介して溶融発泡性樹脂3がキャビティ1に導入される。
【0030】
一方、上記成形型2の移動型15には、上記ソリッド樹脂供給手段104から射出されたソリッド樹脂103が導入されるソリッド樹脂導入通路118が形成されている。このソリッド樹脂導入通路118は、上記凹部16の底部16aに連通しており、このソリッド樹脂導入通路118を介してソリッド樹脂103がキャビティ1に導入される。
【0031】
上記移動型15の上記壁部16bには、その表裏を貫通して、キャビティ1の内側面を構成する側面16cと成形型2の外側面を構成する側面16dとに開口し、キャビティ1の内外を連通する排気通路15aが複数形成されている。これら排気通路15aは、キャビティ1の内側面を構成する壁部16bの側面16cのうち上記移動型15の移動方向の略中央よりも固定型14側の位置に開口している。これら排気通路15aには上記真空装置5の吸引パイプ20がそれぞれ接続されている。
【0032】
上記溶融発泡性樹脂供給手段4は、円筒状の射出シリンダ21と、この射出シリンダ21内に配設されて回転可能かつ進退可能に支持されたスクリュー22と、このスクリュー22を回転駆動するとともに、進退駆動する駆動機構23とを有している。上記射出シリンダ21の後方上部には、例えばポリプロピレン、ポリエチレンまたはポリスチレン等からなる樹脂ペレットPを投入するためのホッパー24が設置され、かつ上記射出シリンダ21の周壁部には、ホッパー24から投入された樹脂ペレットPを加熱して溶融させるヒータ(図示せず)が設置されている。また、上記射出シリンダ21の長手方向略中央部51bには、超臨界流体供給装置25において生成された超臨界状態(臨界圧力および臨界温度を超えた状態)の窒素や二酸化炭素等からなる超臨界流体を射出シリンダ21内に注入する注入ノズル26が接続されている。
【0033】
そして、上記射出シリンダ21内に投入された樹脂ペレットPがヒーターの熱に応じて溶融状態となることにより生成された溶融樹脂と、上記注入ノズル26から注入された超臨界流体とが、上記スクリュー22の回転に応じて混ぜ合わされることにより、溶融発泡性樹脂3が形成され、表皮付き発泡樹脂成形品の成形時に上記超臨界流体が気化して溶融発泡性樹脂3が発泡するようになっている。すなわち、当実施形態では、上記溶融発泡性樹脂3の発泡剤として、超臨界流体からなる物理発泡剤を使用することにより、液体としての粘度および溶解力と気体としての激しい分子運動性とを併せ持つ上記超臨界流体の性質を利用して超微細発泡成形を行うように構成されている。
【0034】
上記射出シリンダ21内の溶融発泡性樹脂3は、上記スクリュー22の回転に応じて射出シリンダ21の前方側へと押し出される。また、その反力でスクリュー22が後退し、このスクリュー22の後退量が上記溶融発泡性樹脂3の射出量に対応した距離となった時点で、スクリュー22の回転が停止される。その後、上記スクリュー22を駆動機構23により高速で前進させることにより、上記射出シリンダ21の前方部に設けられた先端ノズル27から固定型14の発泡性樹脂導入通路18を介して上記キャビティ1内に溶融発泡性樹脂3が射出されるようになっている。
【0035】
上記ソリッド樹脂供給手段104は、上記溶融発泡性樹脂供給手段4のうち超臨界流体が生成されて射出シリンダ21内に注入される部分を除いた部分と同様の構造を有している。すなわち、このソリッド樹脂供給手段104は、円筒状の射出シリンダ121と、スクリュー122と、このスクリュー122を駆動する駆動機構123と、ホッパー24とを有しており、ホッパー24から射出シリンダ121内に投入されたソリッド樹脂は、スクリュー122の前進により射出シリンダ121の前方部に設けられた先端ノズル127から移動型15のソリッド樹脂導入通路118を介して上記キャビティ1内に射出される。
【0036】
上記溶融発泡性樹脂供給手段4とソリッド樹脂供給手段104とは、成形型2に対して同一方向に並んで配置されており、上記成形型2は、図示しない回転駆動装置によって回転されることで、図1に示すようにこれら樹脂供給手段4、104側に上記移動型15が配置されてソリッド樹脂供給手段104の先端ノズル127と移動型15のソリッド樹脂導入通路118とが連通する状態と、図2に示すようにこれら樹脂供給手段4、104側に上記固定型14が配置されて溶融発泡性樹脂供給手段4の先端ノズル27と固定型14の発泡性樹脂導入通路18とが連通する状態とに切り替えられる。
【0037】
上記コアバック手段40は、上記成形型2をコアバックさせるためのものである。このコアバック手段40は、図2および図3に示すように上記樹脂供給手段4、104側に上記固定型14が配置されている状態で、図示しないモータ等の駆動手段により上記移動型15をこの固定型14から離間する方向、より詳細には、上記凹部15の底部16bと凸部17の頂壁17aとを離間させる方向に移動させることで成形型2を型開きすなわちコアバックさせる。
【0038】
上記真空装置5は、開閉弁28を有する吸引パイプ20と、負圧発生用のチャンバ29と、このチャンバ29内の空気を吸引する真空ポンプ30とを有している。この真空装置5は、上記制御手段6から出力される制御信号に応じて、上記キャビティ1内のガスを上記排気通路15aを介してキャビティ1の外部に排出してキャビティ1のうちこの排気通路15aが開口する部分すなわち上記移動型15の壁部16b近傍の圧力を減圧する。
【0039】
次に、図4に示すタイミングチャート等を参照しつつ、上記成形装置100を使用した表皮付き発泡樹脂成形品の成形方法について説明する。
【0040】
まず、成形サイクルの開始時点T0で成形型2を型開きすることにより、前回の成形サイクルで形成した表皮付発泡樹脂成形品を取り出した後、所定時間が経過した時点T1で上記移動型15を移動させて型締めを行う。この時点で、成形型2は上記固定型14が各樹脂供給手段4、104側になるように配置されており、上記移動型15を固定型14から接離する方向に移動させることで成形型2の型開きおよび型締めを行う。
【0041】
上記型締め開始時点T1から例えば5sec程度が経過して型締め動作が終了した後の所定時点T2で、表皮層形成工程を実施しキャビティ1の底部にソリッド層からなる表皮層を成形する。この表皮層形成工程を行なう前に、上記成形型2を回転させて移動型15が各樹脂射出装置4、104側になるように配置しておく。
【0042】
この表皮層形成工程では、まず、ソリッド樹脂供給装置104の先端ノズル127を移動型15のソリッド樹脂導入通路118に連結する。次に、上記ソリッド樹脂供給手段104のスクリュー122を前進させて射出シリンダ121内のソリッド樹脂103を先端ノズル127から成形型2のソリッド樹脂導入通路118に対する射出を開始し、キャビティ1内にソリッド樹脂103を供給する。本実施形態では、上記型締動作が終了した時点で移動型15の凹部16と固定型14の凸部17との間に区画されるキャビティ1全体にソリッド樹脂103が充填される。充填が完了すると、上記成形型2を上記ソリッド樹脂が硬化する温度に維持してソリッド樹脂103を冷却硬化させ、これにより、キャビティ1の底部16aにソリッド層からなる表皮層51を成形する。すなわち、キャビティ1の底部16aに表皮層51が配置される。このように、本実施形態では、上記ソリッド樹脂供給装置104および成形型2を所定の温度に維持するための装置がキャビティ1の底部16aにソリッド層からなる表皮層51を成形するための表皮層形成手段およびキャビティ1の底部16aに表皮層51を配置するための表皮層配置手段として機能する。
【0043】
上記表皮層51が成形されると(所定時点T3)、上記回転装置により成形型2を回転させ、固定型14が各樹脂射出装置4、104側になるように配置する。その後、所定時点T4からT5まで上記コアバック装置40により移動型15を表皮層51の表裏方向に移動させて成形型2をコアバックさせて、キャビティ1の表皮層51の裏側に所定容量の空間を形成する(事前コアバック工程)。
【0044】
次に、上記表皮層51の裏側に溶融発泡性樹脂3を供給する(充填工程)。この充填工程では、まず、溶融発泡性樹脂供給手段4の先端ノズル27を固定型14の発泡性樹脂導入通路18に連結する。次に、上記溶融発泡性樹脂供給手段4のスクリュー22を前進させて射出シリンダ21内の溶融発泡性樹脂3を先端ノズル27から発泡性樹脂導入通路18に対する射出を開始し、表皮層51の裏側にソリッド樹脂103を供給して、キャビティ1内に溶融発泡性樹脂3を充填する。より詳細には、この表皮層51の裏側面と上記移動型15の壁部16bと凸部17の頂壁17aとで囲まれた領域全体に溶融発泡性樹脂3を充填する。
【0045】
次に、上記充填工程が終了した時点T6から所定時期が経過した時点T7で、成形型2の移動型15を型開き方向に移動させるコアバックを開始することにより、キャビティ1内に略充填された溶融発泡性樹脂3を発泡させて膨張させるとともに表皮層51と一体に硬化させ、表皮層51の裏側にこの表皮層51と一体の発泡層52を形成し、表皮付き発泡樹脂成形品を成形する(成形工程)。例えば、この成形工程は、上記充填工程が終了した時点T6から1〜2sec程度経過後(T7)に実施する。
【0046】
ここで、上記溶融発泡性樹脂3の外表面には、上記充填工程にて表皮層51、移動型15の壁部16bおよび凸部17の頂壁17aと接触することで溶融発泡性樹脂3が冷却硬化されることで、スキン層52a(図5参照)が形成されている。このスキン層52aは、変形しにくくその近傍に配置されている溶融発泡性樹脂3の発泡に伴う膨張を阻害するように働く。そのため、上記充填工程後において成形型2を単純にコアバックさせただけでは、上記スキン層52a近傍の溶融発泡性樹脂3の膨張量が他の部分に比べて小さくなり、発泡層52が表皮層51の裏側に均一に形成されないという問題が生じる。
【0047】
すなわち、上記表皮層51の外縁部51aの裏側に配置された溶融発泡性樹脂3すなわち上記移動型15の壁部16b近傍に配置された溶融発泡性樹脂3は、表皮層51と凸部17の頂壁17aに形成されたスキン層52aに加え上記移動型15の壁部16bに形成されたスキン層52aに囲まれておりこの壁部16b側への膨張が抑制されるため、この表皮層51の外縁部51aの裏側には十分な発泡層52が形成されない。例えば、図5に示すように、発泡層52が壁部16b側に膨張せず中央部51bに向かって引っ張られる結果、発泡層52が、表皮層51の裏側面から後方に向かうに従って中央部51bに向かって傾斜するような形状となる場合がある。この場合には、特に、発泡層52が中央部51bに引っ張られるのに伴って表皮層51の外縁部51aが後方に変形するという問題が生じやすい。また、図6に示すように、表皮層51の外縁部51aにおいて、表皮層51と発泡層52とが剥離してしまう場合がある。
【0048】
これに対して、本方法では、上記成形工程にてコアバックを開始するタイミングとほぼ同時に、上記真空装置5により上記表皮層51の外縁部51aの裏側に配置された溶融発泡性樹脂3と上記移動型15の壁部16bとの間のガスを前記排気通路15aを介してキャビティ1の外へ吸引し始める。そして、この溶融発泡性樹脂3と壁部16bとの間の圧力を減圧して、この圧力を表皮層51の中央部51bに配置された溶融発泡性樹脂3内の圧力よりも低い圧力としつつコアバックを行う。ここで、真空ポンプ30を作動し始めてから上記溶融発泡性樹脂3と壁部16bとの間の圧力が実質的に減圧されるまでには所定の時間を要する。そこで、本実施形態では、上記コアバック開始時点T7からこの所定の時間分例えば1sec程度前のタイミングT17から、上記真空装置5の開閉弁28を開放して上記真空ポンプ30を作動させることにより、コアバック開始とほぼ同時に溶融発泡性樹脂3と壁部16bとの間を減圧する(減圧工程)。
【0049】
この減圧により、表皮層51の外縁部51aの裏側に配置された溶融発泡性樹脂3には上記移動型15の壁部16b側への力が加えられるため、この溶融発泡性樹脂3は、コアバックに伴いスキン層52aによりその膨張が阻害されるのに抗して壁部16b側へ膨張しつつ後方に膨張する。ここで、溶融発泡性樹脂3が発泡する際には樹脂3の外部にガスが排出されるが、このガスが上記真空ポンプ30により外部に排出されることによっても、溶融発泡性樹脂3の膨張が促進される。これにより、表皮層51の裏側には均一に発泡層52が形成され、表皮層51の裏側に均一な発泡層52を備えた表皮付発泡樹脂成形品が成形される。
【0050】
本実施形態では、前記排気通路15aが前記壁部16bの側面16cのうち固定型14寄りの位置に開口しており、表皮層51から離間した位置において溶融発泡性樹脂3に壁部16b側へのより強い力が働くよう構成されており、図5に示すように発泡層52が表皮層51の裏側面から後方に向かうに従って中央部51bに向かって傾斜するような形状となりやすい場合に特に効果的である。
【0051】
前記コアバックを開始してから所定時間が経過すると(所定時点T8)、コアバックの終了と同時に真空ポンプ30の作動を停止させ、上記真空装置5を使用した減圧工程および成形工程を終了する。その後は、所定のタイミングT9で成形型2を型開きし、成形された表皮付発泡樹脂成形品を取り出す作業に移る。
【0052】
ここで、本実施形態では、上記回転装置の制御、各樹脂射出装置4、104の制御、コアバック手段40の制御および真空ポンプ30の開閉弁28の制御は全て上記制御手段6により行っている。
【0053】
以上のように、本成形方法によれば、成形型2の壁部16bと表皮層51の外縁部51aの裏側に配置された溶融発泡性樹脂3との間の圧力が表皮層51の中央部51bの裏側に配置された溶融発泡性樹脂3内の圧力よりも減圧されており、スキン層によりこの表皮層51の外縁部51aの裏側において溶融発泡性樹脂3の壁部16b側への膨張が阻害されるのに抗して溶融発泡性樹脂3に壁部16b側への力を付与することができ、この表皮層の外縁部51aの裏側においても溶融発泡性樹脂3を十分に膨張させることができる。そのため、表皮層51の裏側全体に均一に発泡層52を形成することができ、表皮層51の変形や表皮層51と発泡層52との剥離等を回避することができる。
【0054】
ここで、上記表皮層51はソリッド樹脂により成形されたソリッド層に限らない。例えば、発泡性樹脂により成形してもよい。ただし、表皮層51をソリッド層とすれば、高い意匠性および耐久性を得ることができる。
【0055】
また、上記表皮層51を上記成形型2のキャビティ1内に配置する方法は、上記のような成形型2のキャビティ1内にソリッド樹脂を射出して冷却固化させる方法に限らない。例えば、別途表皮層51を成形しておき、この成形された表皮層51を成形型2のキャビティ1の底部16aに設置するよにしてもよい。ただし、表皮層51を成形型2を用いて射出成形し、同じ成形型2を用いて溶融発泡性樹脂を発泡させて発泡層52を形成するようにすれば、装置全体を簡素化できるとともに、表皮層51をキャビティ1内に搬送する作業等を行う必要がなく作業が容易になる。
【0056】
また、上記減圧工程は、上記成形工程の開始後に開始してもよい。ただし、この減圧工程を上記成形工程と同時あるいはこの成形工程よりも前に開始すれば、成形工程において溶融発泡性樹脂の外表面の冷却固化が進行してこの外表面が変形し難くなる前に溶融発泡性樹脂を壁部側に膨張させることができ、この膨張を容易に行わせることができる。
【符号の説明】
【0057】
1 キャビティ
2 成形型
3 溶融発泡性樹脂
4 溶融発泡性樹脂供給手段
5 真空装置(吸引手段)
6 制御手段
15a 排気通路
16a 底部
16b 壁部
40 コアバック手段
51 表皮層
51a 外縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にキャビティが形成された成形型の当該キャビティの底部に表皮層を設ける表皮層配置工程と、
上記表皮層の裏側に溶融発泡性樹脂を射出して、当該溶融発泡性樹脂を上記キャビティ内に充填する充填工程と、
上記成形型を上記表皮層の表裏方向にコアバックすることで上記キャビティ内に充填された上記溶融発泡性樹脂を発泡させるとともに上記表皮層と一体となるように硬化させて表皮付き発泡樹脂成形品を形成する成形工程と、
少なくとも上記成形工程中に、上記キャビティの底部に配置された上記表皮層を囲む成形型の壁部と上記表皮層の外縁部の裏側に配置された上記溶融発泡性樹脂との間の圧力を上記表皮層の中央部の裏側に配置された上記溶融発泡性樹脂内の圧力よりも低くなるように減圧する減圧工程とを備えたことを特徴とする表皮付き発泡樹脂成形品の成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載の表皮付き発泡樹脂成形品の成形方法であって、
上記減圧工程では、上記成形型の壁部に形成された排気通路に接続された吸引手段により、上記溶融発泡性樹脂と上記成形型の壁部との間のガスを吸引して当該キャビティから外部に排出することを特徴とする表皮付き発泡樹脂成形品の成形方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の表皮付き発泡樹脂成形品の成形方法であって、
上記表皮層配置工程では、上記表皮層としてソリッド樹脂からなるソリッド層を設けることを特徴とする表皮付き発泡樹脂成形品の成形方法。
【請求項4】
請求項3に記載の表皮付き発泡樹脂成形品の成形方法であって、
上記表皮層配置工程は、上記キャビティの底部にソリッド樹脂を射出および充填するとともに硬化させて当該キャビティ内に上記表皮層を形成する表皮層形成工程を含み、
上記表皮層形成工程後に、上記成形型をコアバックすることで上記表皮層の裏側に上記溶融発泡性樹脂を充填可能な空間を形成する事前コアバック工程とを備え、
上記充填工程は、上記事前コアバック工程の後に実施されることを特徴とする表皮付き発泡樹脂成形品の成形方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の表皮付き発泡樹脂成形品の成形方法であって、
上記減圧工程は、上記成形工程と同時あるいはこの成形工程よりも前に開始されることを特徴とする表皮付き発泡樹脂成形品の成形方法。
【請求項6】
内部にキャビティが形成されており当該キャビティを囲む壁部を備えた成形型と、
上記キャビティの底部に表皮層を設ける表皮層配置手段と、
上記表皮層の裏側面と上記成形型の壁部との間に溶融発泡性樹脂を射出して当該溶融発泡性樹脂を上記キャビティ内に充填する溶融発泡性樹脂供給手段と、
上記キャビティ内に充填された上記溶融発泡性樹脂が発泡して上記表皮層と一体に硬化するように上記成形型をコアバックさせるコアバック手段と、
上記表皮層の外縁部の裏側に配置された上記溶融発泡性樹脂と上記成形型の壁部との間の圧力を上記表皮層の中央部の裏側に配置された上記溶融発泡性樹脂内の圧力よりも低くなるように減圧する減圧手段とを備えたことを特徴とする表皮付き発泡樹脂成形品の成形装置。
【請求項7】
請求項6に記載の表皮付き発泡樹脂成形品の成形装置であって、
上記成形型の壁部には、上記キャビティ内に上記表皮層および上記溶融発泡性樹脂が配置された状態でこの表皮層の外縁部の裏側に配置された上記溶融発泡性樹脂と対向する位置に上記キャビティの内外を連通する排気通路が形成されており、
上記減圧手段は、上記排気通路に接続されて上記キャビティ内のガスを吸引して当該キャビティから外部に排出する吸引手段を有することを特徴とする表皮付き発泡樹脂成形品の成形装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の表皮付き発泡樹脂成形品の成形装置であって、
上記表皮層配置手段は、上記キャビティの底部にソリッド樹脂を射出および充填するとともに硬化させて当該キャビティ内にソリッド層からなる上記表皮層を形成する表皮層形成手段を備え、
上記コアバック手段は、上記キャビティ内に上記表皮層が形成された状態で当該表皮層の裏側に上記溶融発泡性樹脂を充填可能な空間が形成されるよう上記成形型をコアバックすることを特徴とする表皮付き発泡樹脂成形品の成形装置。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかに記載の表皮付き発泡樹脂成形品の成形装置であって、
上記溶融発泡性樹脂が発泡するように上記コアバック手段が上記成形型のコアバックを開始する時期と同時あるいはこのコアバックの開始時期よりも前に、上記減圧手段が上記溶融発泡性樹脂と上記成形型の壁部との間の減圧を開始するよう、当該減圧手段を制御する制御手段を備えることを特徴とする表皮付き発泡樹脂成形品の成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−46011(P2011−46011A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194142(P2009−194142)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】