説明

表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造方法および表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体

【課題】ブロー成形された中空成形体内に発泡粒子を充填し、発泡粒子相互を融着させて発泡粒子成形体とし、中空成形体からなる表皮の内面と発泡粒子成形体とが融着一体化し、発泡粒子相互の融着性、ならびに成形体外観に優れた表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡粒子成形体の提供。
【解決手段】ブロー成形法により中空成形体内に発泡粒子を充填し、表皮で被覆された発泡粒子成形体の製造方法において、ブロー成形型の型締め時の金型1温度を[中空成形体基材樹脂のガラス転移温度−30℃]〜[中空成形体基材樹脂のガラス転移温度+30℃]の温度とし、中空成形体内に挿入した複数のスチーム供給排出ピン22の一方をスチーム供給側とし他方をスチーム排出側とし、スチーム供給側のピン21のスチーム供給口におけるスチーム温度T1を[発泡粒子基材樹脂のガラス転移温度+10℃]〜[発泡粒子基材樹脂のガラス転移温度+30℃]に制御して加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスチレン系樹脂発泡粒子成形体の略全面が表皮で被覆された表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造方法に関し、詳しくは、ブロー成形により形成されたポリスチレン系樹脂中空成形体からなる表皮内にポリスチレン系樹脂発泡粒子を充填し、該発泡粒子を加熱して融着させることによりポリスチレン系樹脂発泡粒子成形体を成形し、かつ表皮と発泡粒子成形体とを融着一体化させる、表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造方法に関する。さらに、本発明は、ブロー成形により形成されたポリスチレン系樹脂中空成形体からなる表皮と、該表皮内に位置するポリスチレン系樹脂発泡粒子成形体とからなり、表皮の厚みが薄くても表皮と発泡粒子成形体とが強固に接着した表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、中空状の表皮とその内部に位置する発泡粒子成形体とからなり、表皮と発泡粒子成形体とが融着一体化している表皮被覆発泡成形体が知られている。このような発泡粒子成形体の略全表面を表皮で被覆した発泡成形体を製造する方法は、例えば、下記特許文献1に示されている様に、ブロー成形用分割金型間に垂下させた樹脂パリソンを該金型で挟み込み樹脂パリソンが軟化状態にある間にブロー成形して中空成形体を形成した後、該中空成形体が相当の熱量を保持している間に、該中空成形体内に発泡粒子を充填し、スチームを吹き込むことにより、該発泡粒子を相互に融着させるとともに表皮とも融着一体化させた後、冷却して、表皮で被覆された発泡成形体を得る方法が知られている。
【0003】
また、表皮の厚みが薄い、0.3〜3mmの表皮を有する表皮被覆発泡成形体に関して、ブロー成形法により空調装置の水滴受皿及びその製造方法が特許文献2に開示されている。さらに、前記特許文献1と同様にブロー中空成形体が冷却固化する前に、該中空成形体内に発泡粒子を充填し、スチームを吹き込み、該粒子を加熱して相互に融着させ発泡粒子成形体を形成するとともに表皮と一体化させた後、冷却して、表皮で被覆された発泡成形体を得る方法において、発泡粒子相互の融着性を高めるために、中空成形体内にスチーム供給用のパイプ(ピン)を挿入して一方のパイプからスチームを供給し、他方のパイプから排出を行って発泡粒子間にスチームを流通させて発泡させることが特許文献3に開示されている。
【0004】
【特許文献1】特許第2860007号
【特許文献2】特開平9−280594号公報
【特許文献3】特開平6−166114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法において中空成形体の冷却固化前に、発泡粒子を中空成形体内に充填しスチームを吹き込み発泡粒子成形体を形成し表皮で被覆された発泡成形体とすることは、表皮を形成する中空成形体の保有する熱量を利用して発泡粒子成形体と表皮との融着を十分に行わせるようにしようとするものである。
【0006】
しかし、表皮である中空成形体の厚みが薄くなると熱容量が小さくなるために表皮が冷えやすくなり、その熱溶着力は低下する傾向にあり、表皮と発泡粒子成形体とを十分に熱溶着させる熱容量を得るためには、3.5mm以上の表皮厚みが必要とされている。表皮の肉厚が薄い場合、すなわち表皮の肉厚が3.5mm未満の場合、発泡粒子成形体と表皮との接着強度が、肉厚が3.5mm以上の表皮を有するものと比較して著しく低くなる傾向にあった。表皮と発泡粒子成形体との接着力が十分でないと、表皮被覆発泡成形体に大きな変形が与えられた場合、表皮と発泡粒子成形体との界面で容易に剥離し、両者が強固に接着しているときに比べて、曲げ強度や曲げ剛性が大きく低下してしまう。
【0007】
表皮が厚肉の表皮被覆発泡成形体では、発泡粒子成形体と表皮との接着性が良好な高強度製品は得られているが、表皮の肉厚が厚い成形体は製品全体が重くなる。軽量性を考慮して表皮を薄くすると、上記のように、発泡粒子成形体と表皮との接着強度が著しく低下し、接着強度が十分に高く、製品強度も高い表皮で被覆された発泡成形体は得られていないのが実情であり、軽量性と、発泡粒子成形体と表皮との間の接着強度との両立という点で課題を残すものであった。
【0008】
一方、特許文献2には、発泡粒子相互及び発泡粒子と表皮とが融着した成形体が得られる旨の記載がある。しかしながら、特許文献2にその成形条件等は特に開示されておらず、従来の一般的なブロー成形法による表皮で被覆された発泡成形体を製造する方法と変わらないものと解される。従来と同様の成形条件で成形検証を行ったが、やはり表皮の厚みが薄い場合には、表皮の熱量が不足して発泡粒子成形体と表皮との間で十分な接着力が得られない。ここで、表皮と発泡粒子成形体との融着力を高めようと、単にスチームの温度を高くすると、発泡粒子成形体と表皮との接着力がさらに低下するばかりか、部位によっては発泡粒子相互の融着自体も悪くなってしまう現象が発生した。製品自体が単純な形状であって、曲げ剛性及び曲げ強さがあまり要求されないような用途であれば、仮に発泡粒子間の融着性、表皮と発泡粒子成形体との融着性が不充分な場合であってもある程度は許容し得るが、曲げ剛性や曲げ強さが要求される用途、例えば風呂蓋のような用途においては、発泡粒子相互の融着性、発泡粒子成形体と表皮との融着性の向上が望まれている。
【0009】
さらに、特許文献3に記載の方法について、表皮と発泡粒子成形体間の融着性を向上できないか、検証を行ったところ、表皮の肉厚が薄い場合には、表皮と発泡粒子成形体との接着力が弱い表皮被覆発泡成形体しか得られなかった。さらに、表皮の肉厚が薄くかつ成形品の厚さが相対的に薄い製品の場合には、接着力の低下が顕著であった。
【0010】
本発明は、ブロー成形法により成形された中空成形体内に発泡粒子を充填し、発泡粒子相互を融着させて発泡粒子成形体とし、さらに中空成形体からなる表皮の内面と発泡粒子成形体とが融着一体化した、表皮で被覆された発泡粒子成形体(以下、これを「表皮被覆発泡成形体」と呼称することがある)において、従来表皮の厚みが薄い表皮被覆発泡成形体においては十分に達成されていなかった、表皮と発泡粒子成形体間の接着性の課題を解決した表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、従来得られていなかった、表皮の厚みが薄い表皮被覆発泡成形体において、特に製品成型体自体の厚さも相対的に薄い表皮被覆発泡成形体においても、表皮と発泡粒子成形体とが強固に接着し、発泡粒子相互の融着性、ならびに成形体外観に優れた、表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡粒子成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従来のブロー成形による中空成形体内に発泡粒子を充填し、スチームを供給して発泡粒子相互を融着させた表皮被覆発泡成形体の成形において、発泡粒子の加熱条件は、例えば、前記特許文献1、3に見られるように、0.01〜0.12MPa(G)のスチームが供給される。しかし、このようなスチームで加熱した場合、表皮が薄い表皮被覆発泡成形体である場合には、発泡粒子間相互は接着するものの、表皮と発泡粒子成形体間の接着が十分強固なものが得られない。
【0012】
本発明者らは、ブロー成形により形成された表皮によって被覆された、表皮被覆スチレン系樹脂発泡成形体の製造について、加熱成形条件等について種々検討を重ねた結果、ブロー成形により表皮を形成する際に型締め時の金型温度を特定の温度に制御し、かつポリスチレン系樹脂発泡粒子を成形する際に、従来一般的に実施されている加熱温度範囲を逸脱した高い温度のスチームを供給すると共に、スチーム供給口におけるスチーム温度及び排出口におけるスチーム温度を特定温度に制御して加熱成形することにより、これまで一般に実施されている成形条件では達成できなかった、表皮が薄い表皮被覆発泡成形体においても発泡粒子相互間の融着性に優れるとともに、発泡粒子成形体と表皮との融着性にも優れ、かつ表面性に優れる表皮被覆発泡成形体が得られることを見出した。
【0013】
本発明は、(1)分割可能な成形用金型間にポリスチレン系樹脂からなるパリソンを垂下し、金型を型締めして該パリソンをブロー成形することにより中空成形体を成形し、次いで、該中空成形体内にポリスチレン系樹脂発泡粒子を充填し、中空成形体内に挿入した複数のスチーム供給排出ピンからスチームを供給、排出することにより該発泡粒子を加熱して発泡粒子相互を融着させポリスチレン系樹脂発泡粒子成形体を成形すると共に、中空成形体内面と発泡粒子成形体とを融着一体化させる、中空成形体からなる表皮で被覆された発泡成形体の製造方法であって、型締め時の金型温度を[中空成形体の基材樹脂のガラス転移温度−30℃]〜[中空成形体の基材樹脂のガラス転移温度+30℃]の温度とし、複数の前記ピンの一方をスチーム供給側とし他方をスチーム排出側とし、スチーム供給側のピンのスチーム供給口におけるスチーム温度T1を[発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度+10℃]〜[発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度+30℃]に、かつスチーム排出側のピンのスチーム排出口におけるスチーム温度T2を[発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度−5℃]以上に制御して加熱することを特徴とする表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造方法。
【0014】
(2)前記ポリスチレン系樹脂発泡粒子の発泡剤含有量が発泡粒子1m当たり60〜250gであることを特徴とする上記(1)記載の表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造方法。
【0015】
(3)中空成形体内のスチームをスチーム排出側のピンから−0.09〜−0.06MPa(G)で吸引することを特徴とする上記(1)又は(2)記載の表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造方法。
【0016】
(4)前記ポリスチレン系樹脂発泡粒子の嵩密度が15〜40kg/mであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造方法。
【0017】
(5)前記中空成形体からなる表皮の平均厚みが0.5mm以上3.5mm未満であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造方法。
【0018】
(6)前記発泡成形体の比表面積が0.4〜1.5cm/cmであることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造方法。
【0019】
(7)前記ピンを中空成形体周縁の対向する両側面から中空成形体内に挿入し、一側面側をスチーム供給側とし他側面側をスチーム排出側とすることを特徴とする上記(6)記載の表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造方法。
【0020】
さらに、(8)ポリスチレン系樹脂発泡粒子成形体と、該発泡粒子成形体の略全面を被覆するポリスチレン系樹脂中空成形体からなる表皮とから構成される表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体において、表皮の平均厚みが0.5mm以上3.5mm未満であり、表皮剥離試験における発泡粒子成形体の材料破壊率が30%以上であることを特徴とする表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体。
【0021】
(9)前記発泡成形体の比表面積が0.4〜1.5cm/cmであることを特徴とする上記(8)記載の表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体。
を要旨とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の製造方法によると、ブロー成形金型の型締め時の金型温度を表皮基材樹脂の[ガラス転移温度−30℃]〜[ガラス転移温度+30℃]の温度範囲とすることにより、金型内で表皮の温度を可能な限り高い温度に保ち、さらに、発泡粒子の成形時に、通常のポリスチレン系樹脂発泡粒子成形においては考えられないほどの高温のスチームを発泡粒子が充填された中空成形体内に供給し、スチーム供給口におけるスチーム温度T1が発泡粒子基材樹脂の[ガラス転移温度+10℃]〜[ガラス転移温度+30℃]、かつスチーム排出口におけるスチーム温度T2が発泡粒子基材樹脂の[ガラス転移温度−5℃]以上となるように、速やかに高温のスチームを中空成形体内に流通させることにより、表皮まで高温のスチームを到達させて中空成形体内面を溶融状態とし、表皮被覆発泡粒子成形体の表皮の厚みが薄い場合であっても、表皮を形成する中空成形体内面と発泡粒子成形体との間の十分な接着強度を達成すると共に、発泡粒子相互間の融着性も確保した、表皮被覆発泡成形体が得られる。
【0023】
また、本発明の表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体は、従来得られていなかった、ポリスチレン系樹脂中空成形体からなる表皮の平均厚みが0.5mm以上3.5mm未満と薄いにもかかわらず、表皮と表皮内部に位置するポリスチレン系樹脂発泡粒子成形体とが強固に接着した表皮被覆発泡成形体であるので、軽量性に優れながらも、曲げ強度や曲げ剛性に優れた発泡成形体となる。特に、上記曲げ物性が低くなりやすい、比表面積が0.4〜1.5cm/cm、即ち相対的に肉薄の表皮被覆発泡成形体においても、十分な曲げ強度や曲げ剛性を有する表皮被覆発泡成形体となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の製造方法は、従来のブロー成形により成形された中空成形体内に発泡粒子を充填し、次いで中空成形体内へスチームを供給して発泡粒子を相互に融着させ表皮と融着一体化させた表皮被覆発泡成形体を製造する際に、ブロー成形により中空成形体を成形する際の型締め時の金型温度を特定の温度に制御するとともに、従来の表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体の成形において適用される温度よりも高い温度のスチームを中空成形体内に供給し、スチーム供給口におけるスチーム温度T1とスチーム排出口におけるスチーム温度T2が特定の温度範囲となるように制御して加熱成形する、表皮被覆発泡成形体を製造する方法である。この本発明の製造方法により、これまで製造が極めて困難で達成できなかった、表皮が薄い表皮被覆発泡粒子成形体においても、発泡粒子相互間の融着性に優れ、かつ発泡粒子成形体と表皮との融着性にも優れた表皮被覆発泡粒子成形体が得られる。
【0025】
より具体的には、中空成形体を成形するときの型締め時の金型温度を、[中空成形体の基材樹脂のガラス転移温度−30℃]〜[中空成形体の基材樹脂のガラス転移温度+30℃]の間の温度とし、中空成形体内に挿入した複数のスチーム供給排出ピン(以下、単にスチームピンという)の一方をスチーム供給側とし他方をスチーム排出側として、従来の製造条件よりも高温(高圧)のスチームを供給し、スチームピンのスチーム供給口におけるスチーム温度T1を[発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度+10℃]〜[発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度+30℃]、かつスチームピンのスチーム排出口におけるスチーム温度T2を[発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度−5℃]以上と、従来よりも高い温度に制御して加熱される。なお、本発明においてスチーム供給排出ピンとは、中空成形体内へスチームを供給する、中空成形体内からスチームを排出する、又はその両方に使用されるピンを意味する。
【0026】
本発明において、スチームによる加熱は、中空成形体内に挿入された複数のスチームピンの一方を供給側とし他方を排出側として、供給側からスチームを供給して排出側を開放するか排出側から吸引を行うことによって行われる。加熱方法としては、供給側と排出側を固定して一方向からのみ加熱を行う一方加熱法、あるいは一方を供給側とし他方を排出側として一度スチーム加熱を行った後供給側と排出側とを交替してスチーム加熱を行う交互加熱法のどちらも採用することができるが、発泡粒子同士をより強固に融着させるためには、交互加熱法が好ましい。なお、交互加熱法を採用する場合には、表皮と発泡粒子成形体とを融着させるためには一度目の加熱が重要であることから、一度目の加熱時にT1及びT2が上記温度範囲を満足すればよく、二度目以降のスチーム加熱条件は発泡粒子の融着状況に応じて適宜決定すればよい。
【0027】
通常、高圧のスチームをスチームチャンバーで所望の圧力に減圧調整し、この圧力を調整したスチームをスチームピンを通して中空成形体内へと供給する。スチーム供給開始直後は中空成形体内の圧力が常圧に近いため、高圧(スチームチャンバー内での圧力)のスチームを供給しても、中空成形体内に供給されるときにはスチームの圧力は低下してしまうので、実際に中空成形体内に供給されているスチームの温度は低くなっている。スチーム供給を続けることにより中空成形体内の圧力が上昇し、中空成形体内に高温のスチームを供給することが可能となる。また、特定温度を超えると発泡粒子が二次発泡して中空成形体内の圧力がさらに上昇するので、より高温のスチームを供給することができるようになる。
このとき、スチームを排出しない場合又はスチーム供給量に対して排出量が小さすぎる場合、或いは発泡粒子の二次発泡力が高すぎてスチームが流通する間隙が小さくなりスチームが排出できない又は排出量が小さくなりすぎる場合には、中空成形体内の圧力が速やかに上昇するので高温のスチームを中空成形体内へ供給することができるが、この高温のスチームを中空成形体内全体に流通させることができなくなる。一方、排出量が大きすぎる場合には、中空成形体内の圧力を上昇させることができず、実際に中空成形体内に供給されるスチーム供給温度を高くすることができない。したがって、中空成形体内に高温のスチームを供給し、かつ十分に流通させるためには、スチームの供給量と排出量とのバランスをとることが重要となる。
【0028】
本発明において、スチームピンのスチーム供給口におけるスチーム温度とは、実際に中空成形体内に供給されているスチームの温度を意味し、スチーム供給中のスチーム供給口におけるスチームの最高到達温度をT1とする。なお、供給側スチームピンが複数である場合、全てのスチームピンの供給口において、スチーム温度T1が上記範囲内である必要がある。
【0029】
一方、スチームピンのスチーム排出口におけるスチーム温度とは、実際にスチームが中空成形体内から排出されるときのスチームの温度を意味し、スチーム供給中のスチーム排出口におけるスチームの最高到達温度をT2とする。ここで、T2が[発泡粒子基材樹脂のガラス転移温度−5℃]以上であるということは、高温のスチームが中空成形体内の発泡粒子間を速やかに流通していることを意味する。仮に、特定のスチームピンにおいてT2が低いと、そのスチームピンの周囲は表皮と発泡粒子成形体との接着力が低くなる。したがって、排出側スチームピンが複数である場合、全てのスチームピンの排出口において、スチーム温度T2が上記範囲内である必要がある。
【0030】
本発明におけるガラス転移温度とは、JIS K7121−1987に基づき、試験片の状態調節として「一定の熱処理を行った後、ガラス転移温度を測定する場合」を採用して測定される中間点ガラス転移温度を意味する。ガラス転移温度を求めるための試験片としては、溶媒溶解法などにより中空成形体用樹脂ペレット或いは発泡粒子から発泡剤や可塑剤などを除去したものを使用する。測定装置としては、ティー・エイ・インスツルメント社製DSCQ1000などを使用することができる。
【0031】
本発明において、中空成形体内へのスチームピンの挿入箇所及び挿入方向は特に限定されるものではないが、中空成形体の内面側全面及び中空成形体内の発泡粒子全体がスチームにより万遍なく加熱されるように、中空成形体の形状に応じて、中空成形体内へと挿入する箇所及び挿入方向を適宜決定する。スチームピンの挿入跡が嫌われる場合にはスチームピンの挿入方向は少ないほど望ましく、スチームピンの挿入は一方向、或いは二方向から行うことが好ましい。
【0032】
スチームピンの配置の例を説明する模式図を示す。図において、1は金型、11は金型側面、12は成形空間部、2はスチームピンを示し、21は供給側スチームピン、22は排出側スチームピンをそれぞれ示す。金型の一方向からスチームピンを挿入する場合には、図1のように金型の側面からスチームピンを挿入するか、図2または図3のように、分割金型の一方の金型面からスチームピンを挿入することができる。また二方向からスチームピンを挿入する場合には、例えば、図4に示すように金型の両側面から、スチームピン同士を対向させてスチームピンを挿入することができる。また図示しないが、両方の金型面からスチームピン同士を対向させてスチームピンを挿入することもできる。
【0033】
図1は金型の一方の側面から、スチームピンを挿入した状態を示す例であり、図1では供給側のスチームピン21と排出側のスチームピン22とを交互に配した例を示す。図1(1)は外観斜視図を示し、図1(2)は、正面図を示す。図1(3)は、図1(2)におけるB−B線切断断面図を示し、金型の一方の側面に供給側のスチームピン21と排出側のスチームピン22が交互に配置された状態を示す。図1(4)は、図1(1)におけるA−A線切断断面図(金型のパーティング部での断面)を示す。
【0034】
図2及び図3は、分割金型の一方の金型面からスチームピンを挿入した状態を示す例である。図2は供給側スチームピン21と排出側スチームピン22とを列毎に交互に配置した例であり、図2(1)は、外観斜視図を示し、図2(2)は、図2(1)におけるA1−A1線切断断面図を示す。図2(3)は、図2(1)におけるB1−B1線切断断面図を示す。スチームピンが挿入された側の金型面(正面)を示す。なお、図示しないが、供給側のスチームピンと排出側のスチームピンとを行毎に交互に配置してもよい。
【0035】
図3は図2と同様に分割金型の一方の金型面からスチームピンを挿入した状態を示す例で、図3は供給側のスチームピン21と排出側のスチームピン22とを市松模様状に交互に配置した例を示す。図3(1)は外観斜視図を示し、図3(2)は、図3(1)におけるA2−A2線切断断面図を示し、図3(3)は、図3(1)におけるB2−B2切断断面図を示す。
【0036】
また二方向からスチームピンを挿入する場合には、一方のスチームピンのうち隣接するスチームピン同士を供給側と排出側とに分けて交互に配置してもよいが、スチームの流通の観点からは図4に示すように相対向する二方向からスチームピンを挿入して、一方側を供給側スチームピンとし、他方を排出側スチームピンとすることがより好ましい。図4は金型の両側面からスチームピンを挿入した状態を示す例であり、図4(1)は外観斜視図を示し、図4(2)は、正面図を示す。図4(3a)は、図4(2)におけるB3−B3線切断断面図を示し、図4(3b)は、図4(2)におけるC−C線切断断面図を示し、図4(4)は、図4(1)におけるA3−A3線切断断面図(金型のパーティング部での断面)を示す。
【0037】
スチームの流通効率の観点から、挿入されるスチームピンの略半数をスチーム供給側とし、残りの略半数をスチーム排出側とすることが好ましい。一方向からスチームピンを挿入する場合には、図1のように供給側と排出側のスチームピンを交互に配置するのが好ましい。特に、金型面から挿入する場合には、図2のように列毎に供給側と排出側を交互に配置することが好ましく、図3のように市松模様状に交互に配置することがさらに好ましい。また二方向からスチームピンを挿入する場合には、一方側のスチームピンのうち隣接するスチームピン同士を供給側と排出側とに分けて交互に配置してもよいが、スチーム流通の観点からは、図4のように相対向する二方向からスチームピンを挿入して一方向側を供給側とし、他方側を排出側とすることがより好ましい。
【0038】
本発明の方法において、スチーム供給口におけるスチーム温度T1を[発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度+10℃]〜[発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度+30℃]に制御すると共にスチーム排出口におけるスチーム温度T2を[発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度−5℃]以上に制御するためには、従来のポリスチレン系樹脂中空成形体内にポリスチレン系樹脂発泡粒子を充填しスチームを供給して表皮被覆発泡成形体を成形する際に使用される通常のスチームよりも高圧(高温)のスチームが採用される。中空成形体内からのスチームの排出条件にもよるが、T1及びT2を上記範囲内に制御し易いことから、スチームチャンバーにおいて[発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度+22℃]〜[発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度+37℃]の温度範囲に調整したスチームを供給することが好ましい。例えば、ガラス転移温度が105℃であるポリスチレンを基材樹脂とする発泡粒子を用いる場合、スチームチャンバーにおける温度が127℃〜142℃のスチーム、すなわちスチームの圧力は0.15〜0.28MPaとなり、従来の製造方法で使用されているスチームの圧力0.01〜0.12MPaよりも高いスチーム圧となる。
【0039】
通常のポリスチレン系樹脂発泡粒子の型内成形では、高温のスチームを使用すると、発泡粒子成形体の表面が荒れて粗悪になり、製品外観が著しく悪化してしまうので、本発明のような高温のスチームが使用されることはない。それに対して、本発明で製造される表皮被覆発泡成形体は、発泡粒子成形体の略全面が表皮で被覆されているので、発泡粒子成形体の表面荒れが製品表面に直接現れることがないため、高温のスチームにより発泡粒子を成形することができる。
【0040】
上記スチーム供給口におけるスチーム温度T1、すなわち中空成形体内に供給される実際のスチーム温度が、[発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度+10℃]未満では、表皮の平均厚みが3.5mm未満であると、表皮と発泡粒子成形体とを強固に融着させることができない。表皮と発泡粒子成形体をより強固に融着させるためには、上記T1は[発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度+12℃]以上であることが好ましく、[発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度+15℃]以上であることがより好ましい。
【0041】
一方、前記T1が[発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度+30℃]を超えるようなスチーム加熱温度では、発泡粒子が収縮、溶融するなどの現象が発生する。また、寸法精度の良好な表皮被覆発泡成形体が得られない。さらに、T1が高すぎると、発泡粒子の二次発泡速度が速くなりすぎて発泡粒子間にスチームが流通する間隙がなくなり、表皮まで高温のスチームを流通させることができないため、表皮と発泡粒子成形体とを強固に接着させることができなくなるばかりか、部位によっては発泡粒子同士の融着も悪くなることがある。かかる観点から、上記T1は、[発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度+28℃]以下であることが好ましく、[発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度+25℃]以下であることがより好ましい。
【0042】
本発明において、中空成形体内に複数のスチームピンを挿入して、一方のピンからスチームを供給し、他方のピンから排出を行って発泡粒子間にスチームを流通させて発泡粒子を二次発泡融着させる際に、スチーム排出口におけるスチーム温度T2を[発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度−5℃]以上とする。T1が前記範囲を満足するが、T2が[発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度−5℃]未満であるということは、排出側スチームピンや表皮内面に高温のスチームが流通し難くなっていることを意味する。T2が低すぎると、排出側スチームピン付近に位置する発泡粒子同士の融着性、表皮と発泡粒子成形体との接着力が低下する。かかる観点から、T2を[発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度−2℃]以上に制御して加熱することが好ましく、より好ましくは[発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度]以上である。なお、通常はT2がT1を超えることはない。
【0043】
T1を前記範囲としつつ、T2を前記範囲内に制御するためには、上記の高圧スチームを中空成形体内に供給すると共に、下記の手段の中から選択される1以上の方法を採用することが必要である。
[a]スチーム流速を速くすること。
[b]二次発泡能力の低い発泡粒子を使用すること。
T1及びT2を効率よく制御することができ、かつ得られた機械的物性が優れた表皮被覆発泡成形体となることから、[a]と[b]の方法を組み合わせることが好ましい。
【0044】
上記[a]のスチーム流速を速くするためには、具体的には、真空ポンプなどを使用して中空成形体内を吸引する方法が採用できる。例えば、上記のような高温(高圧)のスチームを供給する場合には、吸引側の吸引圧力を−0.09〜−0.06MPa(G)としてスチームを排出することが好ましい。
【0045】
さらに、スチームピンの供給口の断面積を小さくする方法が挙げられる。スチームの流速を速くするためには、スチームピン1本あたりの供給口の開口面積が2cm/本以下であることが好ましい。特に、スチーム供給量およびスチーム流速が調整しやすいため、上記開口面積は0.2〜1.8cm/本がより好ましく、0.4〜1.4cm/本が更に好ましい。
【0046】
スチームピンの挿入方向が一方向である場合には、スチームピンの側面のみに供給口及び/又は排出口を有すれば良いが、スチームピンの挿入方向が相対向する二方向である場合には、側面のみではなくピンの先端にも供給口及び/又は排出口を有することが好ましい。
【0047】
本発明におけるスチームピンの内径はスチーム供給量、スチーム排出量、スチーム流速が調整しやすいことから、1.5〜6.0mmが好ましく、2.0〜4.0mmがさらに好ましい。一方、スチームピンの外径が小さすぎるとスチームピンの内径が小さくなってスチーム供給量やスチーム排出量が少なくなりやすいため、T1、T2が達成できない虞がある。スチームピンの素材にもよるが、例えばスチームピンが鋼管である場合には、表皮被覆発泡成形体の成形時に必要な強度を確保するためには、スチームピンの肉厚は概ね2mm以上必要とされることから、スチームピンの直径は5.5mm以上であることが好ましく、6mm以上であることがより好ましい。一方、直径が大きすぎると成形体表面にスチームピンの痕跡が大きくなり、意匠性の面で不利になるため、スチームピンの外径は15mm以下であることが好ましく、10mm以下であることがより好ましい。
【0048】
上記[b]の発泡粒子の二次発泡能力を抑制する方法として、例えば、発泡剤含有量の少ない発泡粒子を使用する方法が例示できる。発泡粒子の発泡剤含有量を、通常一般に使用されている発泡粒子内の含有量よりも少ない含有量、すなわち発泡粒子1m当たり60〜250gに調整された発泡粒子を使用することが好ましい。通常一般には、発泡剤含有量が発泡粒子1m当たり300gを超えるような発泡粒子が使用されるが、発泡剤含有量が少ない発泡粒子を使用することにより、本発明の高温のスチームを使用する成形条件においては、発泡粒子の二次発泡能力と最終到達二次発泡倍率とのバランスに特に優れたものとなるため、上記T1及びT2の温度範囲を達成することが容易となり、発泡粒子相互を十分に融着させ、かつ表皮と発泡粒子成形体とを十分に融着させることができる。
【0049】
また、シード重合法等の方法により発泡粒子の表面付近の分子量を相対的に高く調整した発泡粒子、流動パラフィンやグリセリントリステアレートなどで発泡粒子表面をコートした発泡粒子、本出願人が特願2007−283302号で提案したような発泡粒子の表面に網目模様状の多数の窪みが存在する発泡粒子などを使用しても、発泡粒子の二次発泡能力を抑えることが可能である。
【0050】
二次発泡速度を抑制した発泡粒子の使用は、スチームピン同士の間隔を極端に狭くしなくても、T1及びT2を前記温度範囲内とすることができるため、意匠性の面で有利である。さらに、発泡成形体自体の肉厚が薄い製品、例えば、比表面積(表面積[cm]/容積[cm])が0.4以上の薄物製品であるため、スチームピンの挿入位置が限られてしまい、スチームピン同士の間隔を狭くし難い場合であっても、スチームを確実に排出側のピンへと到達させT2を上記範囲内に制御することが可能となる利点もある。かかる観点から、発泡粒子の発泡剤含有量は、より好ましくは発泡粒子1m当たり80〜240gであり、さらに好ましくは発泡粒子1m当たり100〜200gである。
【0051】
本発明において、発泡粒子中の発泡剤含有量は、[発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度+5℃]の雰囲気下にて発泡粒子を30分間加熱して発泡粒子内に存在する発泡剤を逸散させ、その重量減少分から求められる値である。具体的には、まず、適量の発泡粒子をサンプルとして重量(W1)を測定する。次いで、このサンプルを[発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度+5℃]の温度に調整したオーブン中で30分間加熱する。加熱終了後オーブンから取り出し再び重量(W2)を測定する。W1からW2を差し引きすることによりオーブン中での重量減少を求め、その値をW1で除することにより、発泡粒子中の単位重量あたりの発泡剤含有量を求める。この値に予め求めておいた発泡粒子の見かけ密度を乗ずることにより、発泡粒子中の単位体積あたりの発泡剤含有量を求めることができる。加熱装置としては、タバイ株式会社製ギアオーブンGPH−200などが使用できる。
【0052】
上記コーティング剤としては例えば、流動パラフィン、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリントリステアレート、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル等を用いることができる。コーティング剤はスチレン系樹脂粒子重合時や予備発泡時に添加することができる。
【0053】
表皮と発泡粒子成形体との間の接着力をより高めるためには、製造する表皮被覆発泡粒子成形体の比表面積が大きい場合、特に比表面積が0.4cm/cm以上の場合には、スチームピンを中空成形体周縁の側面から、すなわち金型の側面から中空成形体内へ挿入することが好ましい。さらに、スチームピンを中空成形体周縁の対向する両側面から、すなわち金型の両側面から中空成形体内に挿入し、一側面側をスチーム供給側とし他側面側をスチーム排出側とすることがより好ましい。さらに、供給側スチームピンと排出側スチームピンとの距離を400mm以下とすることがより好ましい。供給側スチームピンと排出側スチームピンとの相互間距離が小さければ小さいほどT1及びT2を上記温度範囲に制御しやすくなるので、その距離は350mm以下であることがさらに好ましく、特に好ましくは300mm以下である。
【0054】
一方、スチームピン挿入跡は空隙部となるため、スチームピン間の距離が近すぎると表皮被覆発泡成形体内の空隙部が多くなり、成形体の機械的強度が低下するため好ましくない。かかる観点から、隣接する供給側スチームピンと排出側スチームピンの相互間距離は150mm以上であることが好ましく、より好ましくは200mm以上であり、さらに好ましくは250mm以上である。
【0055】
また、表皮と発泡粒子成形体との間の十分な接着強度を得るためには、金型側面からスチームピンを挿入する場合には、スチームピンと金型面側の表皮との距離は、50mm以下が好ましく、30mm以下がより好ましい。
【0056】
上記比表面積とは、表皮被覆発泡成形体の表面積[cm]を該成形体の容積[cm]で除した値であり、その値が大きいほど、成形体が厚みの薄い形状であることを意味する。なお、表面に凹凸のある成形体にあっては、その表面を平面的に捉えて表面積を算出する。
成形性を考慮すると、比表面積の下限は、概ね0.04cm/cm程度である。断熱パネルなどの用途に使用する場合には、比表面積が0.4cm/cm以上であることがさらに好ましい。一方、比表面積が大きくなるにつれて、すなわち表皮被覆発泡成形体の製品厚みが薄くなるにつれて、表皮被覆発泡成形体の製造自体が難しくなる傾向にあり、比表面積の上限は概ね1.5cm/cm程度である。
【0057】
本発明において、金型内において樹脂パリソンに圧縮空気を吹き込み中空成形体を形成し、該中空成形体内に発泡粒子を充填し、次いで該中空成形体内にスチームを導入し発泡粒子を二次発泡させ発泡粒子相互を融着させる工程で、型締め時の金型温度を、[中空成形体の基材樹脂のガラス転移温度−30℃]〜[中空成形体の基材樹脂のガラス転移温度+30℃]の範囲内の温度に制御し、前記の加熱条件、従来よりも高温(高圧)のスチームを供給し、その高温のスチームを速やかに中空成形体内に流通させることとの相乗効果により、中空成形体からなる表皮内面がスチームにより溶融し易い状態となり、表皮と発泡粒子成形体との間の接着強度を高めるとともに、発泡粒子相互間の融着性を高めることができる。
【0058】
中空成形体成形時の金型温度が[中空成形体の基材樹脂のガラス転移温度−30℃]未満の温度では、中空成形体内面を溶融し易い状態とすることができないため表皮と発泡粒子成形体との接着を高める効果が得られず、表皮と発泡粒子成形体との接着強度が弱いものとなってしまう。一方、金型温度が[中空成形体の基材樹脂のガラス転移温度+30℃]を超える高い温度の場合には、中空成形体が未だ軟化状態にある為スチームピン挿入時に中空成形体を大きく変形させてしまったり、中空成形体の熱量により発泡粒子を溶融させたりしてしまうため、成形体の表面外観が著しく悪くなり好ましくない。かかる観点から、上記金型温度の下限は[中空成形体の基材樹脂のガラス転移温度−25℃]であることが好ましい。一方その上限は[中空成形体の基材樹脂のガラス転移温度+10℃]であることが好ましく、より好ましくは[中空成形体の基材樹脂のガラス転移温度]であり、さらに好ましくは[中空成形体の基材樹脂のガラス転移温度−10℃]である。
【0059】
本発明の製造方法によると、従来製造することができなかった、表皮の平均厚みが3.5mm未満と薄い場合であっても表皮と発泡粒子成形体とが強固に接着一体化した表皮被覆発泡成形体を製造することができる。軽量化の観点からは、表皮の平均厚みは薄ければ薄いほどよいが、表皮の平均厚みは薄すぎると、表皮と発泡粒子成形体との間で十分な接着強度が得られなくなる虞があるばかりか、発泡粒子形状が表面に浮き出て、成形品表面の外観が低下し意匠性が損なわれることや、実用上の強度を満足できない等の虞がある。かかる観点から、表皮の平均厚みの上限は3mm以下であることが好ましく、より好ましくは2.5mm以下であり、その下限は、0.5mm以上が好ましく、より好ましくは0.7mm以上であり、さらに好ましくは1mm以上である。
一方、表皮厚みが3.5mm以上の場合には製品成形体の軽量化は得られないが、3.5mm以上の場合であっても、本発明の製造方法により、表皮と発泡粒子成形体とが従来よりも強固に接着した表皮被覆発泡成形体を製造することができ、さらに、従来の製造方法よりも成形サイクルを短縮することもできる。
【0060】
本発明における表皮厚みとは、表皮被覆発泡成形体から少なくとも10箇所の測定点を任意に選択し、各測定点における表皮の厚みの算術平均値を意味する。ただし、リブ部や角部などの大きく変形した部分は測定点としない。表皮厚みの測定方法としては、表皮被覆発泡成形体を切断してその表皮断面を厚みゲージなどにより直接計測して求める方法や、表皮被覆発泡成形体を破壊せずに超音波厚み計などにより測定する方法などの従来公知の測定方法を採用することができる。
【0061】
本発明における表皮を形成する中空成形体に使用されるポリスチレン系樹脂は、例えば、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン系樹脂(HIPS)、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)等が例示される。これらは1種又は2種以上の混合物で用いられる。また、耐衝撃性の改良などを目的として、上記ポリスチレン系樹脂に、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体や、それらの完全水素添加物又は部分水素添加物等の熱可塑性スチレン系エラストマーを混合することもできる。
【0062】
なお、型締め時の金型温度は、中空成形体が2層以上の多層構造である場合には、最も内側の層の基材樹脂のガラス転移温度を基準として決定する。さらに、中空成形体の基材樹脂として2種以上の樹脂を混合して使用する場合には、最も混合比率(重量比)が高い樹脂のガラス転移温度を基準とし、最も混合比率が高い樹脂が2種以上ある場合には、それらの中で最も高いガラス転移温度を基準とする。また、中空成形体の基材樹脂として使用する樹脂が2以上のガラス転移温度を示す場合には、それらの中で最も高いガラス転移温度を基準とする。
【0063】
本発明による表皮被覆発泡成形体の表皮は、JIS K7111に準じてノッチ付き試験片により測定されるシャルピー衝撃強さ(ISO 179)が4kJ/m以上であることが実用上好ましい。衝撃強さを上記範囲内に調整しつつ、剛性も確保するためには、表皮を形成するポリスチレン系樹脂としては、耐衝撃性ポリスチレンやABS樹脂などの耐衝撃性に優れるポリスチレン系樹脂を単独で使用するか、スチレンの単独重合体である汎用ポリスチレンに耐衝撃性ポリスチレン及び/又は熱可塑性スチレン系エラストマーを混合したものを使用することが好ましい。例えば、汎用ポリスチレンに耐衝撃性ポリスチレンを混合する場合には、耐衝撃性ポリスチレンの混合比率を30重量%以上とすることが好ましい。
【0064】
特に、表皮の厚みが3.5mm未満と薄い場合には、表皮被覆発泡成形体を金型から離型する際に表皮に亀裂等の破壊が発生しやすいため、この破壊を防ぐために、表皮基材樹脂中の耐衝撃性ポリスチレンの混合比を40重量%以上とすることが好ましく、50重量%以上とすることがより好ましい。
【0065】
一方、大型の中空成形体を成形する場合又は多数個取りを行う場合に、パリソンの長さが1.5m以上となると、パリソンのドローダウンが大きくなりやすく中空成形体を形成することが難しくなる傾向にある。パリソンのドローダウン性を改善するために、上記汎用ポリスチレンとして、長鎖分岐を有する高溶融張力の汎用ポリスチレン、具体的には、200℃における溶融張力が20cN以上である汎用ポリスチレンを使用することが好ましい。高溶融張力の汎用ポリスチレンを耐衝撃性ポリスチレン系樹脂に混合して使用することにより、所望の中空成形体の耐衝撃性を維持したまま、パリソンのドローダウン性を効果的に改善することができる。その混合量は20重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることがより好ましい。このような高溶融張力の汎用ポリスチレンとしては、例えば、PSジャパン株式会社からグレード名G9401やHH32などとして市販されているので、これを入手して使用すればよい。
【0066】
したがって、表皮の厚みが3.5mm未満であり、パリソンの長さが1.5m以上となるような場合には、表皮の基材樹脂を高溶融張力汎用ポリスチレンと耐衝撃性ポリスチレンとの混合物とし、その混合比を60:40〜20:80とすることが好ましく、50:50〜30:70とすることがより好ましい。
【0067】
上記溶融張力は、株式会社東洋精機製作所製のキャピログラフ1Dによって測定される値である。具体的には、シリンダー径9.55mm、長さ350mmのシリンダーと、ノズル径2.095mm、長さ8.0mmのオリフィスを用い、シリンダー及びオリフィスの設定温度を200℃とし、ポリスチレン系樹脂試料の必要量を該シリンダー内に入れ、4分間放置してから、ピストン速度を10mm/分として溶融樹脂をオリフィスから紐状に押出して、この紐状物を直径45mmの張力検出用プーリーに掛け、4分で引き取り速度が0m/分から200m/分に達するように一定の増速で引取り速度を増加させながら引取りローラーで紐状物を引取って紐状物が破断した際の直前の張力の極大値を得る。ここで、引取り速度が0m/分から200m/分に達するまでの時間を4分とした理由は、樹脂の熱劣化を抑えるとともに得られる値の再現性を高めるためである。上記操作を異なる試料を使用し、計10回の測定を行い、10回で得られた極大値の最も大きな値から順に3つの値と、極大値の最も小さな値から順に3つの値を除き、残った中間の4つの極大値を相加平均して得られた値を本発明方法における溶融張力(cN)とする。
【0068】
但し、上記した方法で溶融張力の測定を行い、引取り速度が200m/分に達しても紐状物が切れない場合には、引取り速度を200m/分の一定速度にして得られる溶融張力(cN)の値を採用する。詳しくは、上記測定と同様にして、溶融樹脂をオリフィスから紐状に押出して、この紐状物を張力検出用プーリーに掛け、4分間で0m/分から200m/分に達するように一定の増速で引取り速度を増加させながら引取りローラーを回転させ、回転速度が200m/分になるまで待つ。回転速度が200m/分に到達してから溶融張力のデータの取り込みを開始し、30秒後にデータの取り込みを終了する。この30秒の間に得られたテンション荷重曲線から得られたテンション最大値(Tmax)とテンション最小値(Tmin)の平均値(Tave)を本発明方法における溶融張力とする。ここで、上記Tmaxとは、上記テンション荷重曲線において、検出されたピーク(山)値の合計値を検出された個数で除した値であり、上記Tminとは、上記テンション荷重曲線において、検出されたディップ(谷)値の合計値を検出された個数で除した値である。
尚、当然のことながら上記測定において溶融樹脂をオリフィスから紐状に押出す際には該紐状物に、できるだけ気泡が入らないようにする。
【0069】
本発明において発泡粒子の嵩密度に特に制限はなく、一般に使用されている嵩密度10〜100kg/mの発泡粒子を使用することができるが、スチームによる二次発泡能の制御がさらに容易となるため、発泡粒子の嵩密度は15〜40kg/mであることが好ましく、15〜30kg/mであることがより好ましい。
【0070】
本発明における発泡粒子を製造する方法としては、通常汎用されている発泡粒子を製造する方法が適用される。例えば、密閉容器内でスチレン等の芳香族ビニル系モノマーを水性媒体中に懸濁剤と共に撹拌・分散させ懸濁重合を行い、その途中もしくは終了後に発泡剤、例えば脂肪族炭化水素や、可塑剤などを含浸させることにより発泡性スチレン系樹脂粒子を製造することができる。この発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を加熱発泡させることにより、所要の発泡密度を有する発泡粒子とされる。
【0071】
本発明の製造方法において使用されるスチレン系樹脂発泡粒子の基材樹脂であるスチレン系樹脂として、芳香族ビニル系モノマーの単独重合体または2種以上の芳香族ビニル系モノマーの共重合体、更に50重量%超の芳香族ビニル系モノマーと該モノマーと共重合可能な50重量%未満の芳香族ビニル系モノマー以外のコモノマー成分との共重合体、更に前記単独重合体又は共重合体のみならず、それらの重合体の誘導体が挙げられる。なお、上記スチレン系樹脂中の芳香族ビニル系モノマー成分単位の割合は60〜100重量%であることが好ましく、70〜100重量%であることがより好ましい。このような場合、物性面において均一性に優れるものとなる。
【0072】
上記の芳香族ビニル系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−オクチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、2,4,6−トリブロモスチレン、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。また、上記の芳香族ビニル系モノマー以外のコモノマー成分としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル等のアクリル酸の炭素数が1〜10のアルキルエステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル等のメタクリル酸の炭素数が1〜10のアルキルエステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有不飽和化合物等が挙げられる。
【0073】
本発明のスチレン系樹脂発泡粒子の基材樹脂は、発泡性に優れる点、得られる発泡粒子の型内成形性に優れる点、汎用性などの点からスチレン成分単位の割合は60〜100重量%であることがさらに好ましく、70〜100重量%であることが特に好ましい。
【0074】
なお、発泡粒子として基材樹脂が異なる2種以上の発泡粒子を混合して使用する場合には、中空成形体内に供給するスチームの温度(チャンバー内における温度)、前記T1及びT2の温度を決定する際に、最も混合比率(重量比)が高い発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度を基準とし、最も混合比率が高い発泡粒子が2種以上ある場合には、それらの中で最も低いガラス転移温度を基準とする。また、発泡粒子の基材樹脂が2以上のガラス転移温度を示す場合には、それらの中で最も高いガラス転移温度を基準とする。
【0075】
本発明の製造方法において使用されるスチレン系樹脂発泡粒子の好ましい粒子径の範囲としては、1.0〜3.5mmが好ましく、1.5〜3.2mmがさらに好ましい。発泡粒子の粒子径が上記範囲であることにより、得られる成形体が優れた機械的物性を有すると共に、成形時に中空成形体の細部や薄肉部への発泡粒子の充填性にも優れたものとなる。
【0076】
本発明において、発泡粒子内の発泡剤含有量を通常のポリスチレン系樹脂発泡粒子よりも少量、すなわち発泡粒子内発泡剤含有量を前記範囲に調整する方法としては、いかなる方法も採用することができる。例えば、従来一般的な量の発泡剤を含有する発泡性樹脂粒子を加熱発泡させ発泡粒子とした後、発泡剤を発泡粒子から逸散させて所定量に減量するまで通気性の容器内に保管することにより発泡剤含有量を調整する方法や、発泡性樹脂粒子の製造時にあらかじめ発泡剤量を従来よりも少ない量に調整して発泡剤含有量の少ない発泡性樹脂粒子を製造し、通常よりも高温のスチームで所定の発泡倍率まで予備発泡させることにより、発泡剤含有量を少なく調整した発泡粒子を得る方法などが挙げられる。これらの方法の中でも、最終的な表皮被覆発泡成形体の機械的強度が優れたものとなることから、発泡剤を発泡粒子から逸散させ、所定量に減量するまで保管することにより発泡剤含有量を少ない量に調整する方法が好ましい。
【0077】
本発明における発泡粒子の製造に使用される発泡剤は、従来のポリスチレン系樹脂発泡粒子の製造に使用される、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ペンタン、シクロペンタンなどの炭化水素、塩化メチル、塩化エチルなどの塩素化炭化水素、空気、二酸化炭素、窒素などの無機ガス等が使用できる。それらの発泡剤の中でも、発泡粒子内の残存発泡含有量を制御しやすいことからノルマルブタン、イソブタン、ペンタン、シクロペンタンなどの炭化水素の使用が好ましい。
【0078】
表皮と発泡粒子成形体との接着力が不十分であると成形体の機械的強度、特に曲げ剛性及び曲げ強さが低くなるため、使用できる用途が限定されてしまい実用性に乏しいものとなる。したがって、表皮の厚みが薄くかつ成形体自体の厚みも薄い表皮被覆発泡成形体を、高い機械的強度が要求される用途、例えば風呂蓋として使用する場合などには、表皮と発泡粒子成形体とが強固に接着している必要がある。両者の接着が不十分であると表皮と発泡粒子成形体との界面で界面剥離が生じる。一方、両者が十分に融着されていると、両者間の接着強度が発泡粒子の材料強度又は発泡粒子成形体の発泡粒子間の接着強度を上回るため、発泡粒子成形体において発泡粒子間の剥離又は発泡粒子の材料破壊が生じる。十分な接着力という観点から、表皮と発泡粒子成形体とを剥離させる表皮剥離試験において、発泡粒子成形体が材料破壊を生じることが望ましく、発泡粒子成形体の材料破壊率は30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上であり、さらに好ましくは70%以上である。なお、本発明においては、発泡粒子間の剥離又は発泡粒子の材料破壊の両者を併せて発泡粒子成形体の「材料破壊」という。
【0079】
上記材料破壊は、発泡粒子成形体の見かけ密度にもよるが、表皮と発泡粒子成形体との接着強度が概ね0.2kgf/cm以上となると発生することから、表皮と発泡粒子成形体との間の接着強度は0.2kgf/cm以上であることが好ましく、0.3kgf/cm以上であることがより好ましく、0.4kgf/cm以上であることがさらに好ましい。発泡粒子成形体の機械的強度が律速となるため、表皮と発泡粒子成形体とが完全に融着している場合には接着強度の上限は概ね1.2kgf/cm程度となる。
【0080】
本発明において、表皮と発泡粒子成形体との接着性を評価する表皮剥離試験は以下のように行う。測定用試験片として、表皮被覆発泡成形体から50mm×50mm×(成形体厚み)に切り出す。ただし、成形体の厚みが200mmを超える場合には、表皮から厚み方向200mmまでを切り出して試験片とする。この試験片の上下面を接着剤にて接着強度測定用冶具に強固に接着させ、引張強度試験機テンシロンなどの測定装置を使用して、10mm/分の引張速度にて引張試験を行なう。このとき、表皮の接着面側の全表面積から、表皮と発泡粒子成形体とが界面剥離した部分の面積を差し引き、その値を表皮の接着面側の全表面積で除した値の百分率を表皮剥離試験における発泡粒子成形体の材料破壊率(%)とする。また、表皮剥離試験時の最大点応力を接着強度(kgf/cm)とする。
【0081】
本発明における表皮被覆発泡成形体を構成する発泡粒子成形体の見かけ密度は、15〜40kg/mであることが好ましく、15〜30kg/mであることがより好ましい。発泡粒子成形体の見かけ密度が上記範囲内であると、表皮被覆発泡成形体が実用的な強度と軽量性とを兼ね備えたものとなる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明に示す評価結果は比較例との対比により本発明の効果を相対的に示すものであり、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0083】
[表皮の厚み]
表皮被覆発泡成形体の表皮厚みは下記の方法により求めた。得られた表皮被覆発泡成形体の板面において板面の外周から50mm以上内側の部分から任意の10箇所を測定点として選択し、JFEアドバンテック株式会社製超音波厚さ計(形式:TI−65W、B探触子)を使用して、音速をポリスチレン測定用の2340m/secに設定し、各測定点における表皮厚みを測定した。この測定を両板面に対して行い、それらの測定値を算術平均した値を表皮被覆発泡成形体の表皮の厚み[mm]とした。
【0084】
[ガラス転移温度]
中空成形体基材樹脂のガラス転移温度及び発泡粒子基材樹脂のガラス転移温度は、JIS K7121−1987に準拠した以下の方法により測定した。まず、中空成形体基材樹脂のガラス転移温度を測定する場合には中空成形体形成用樹脂ペレット約1gを、発泡粒子基材樹脂のガラス転移温度を測定する場合には発泡粒子約1gを200mlのクロロホルムに溶解させた後、その溶液にメタノール700mlを添加して基材樹脂を再沈殿させた。沈殿した基材樹脂を濾過により分離し、120℃の雰囲気下で4時間乾燥させた。乾燥後、約10mgを測定用試料として採取し、測定装置としてティー・エイ・インスツルメント社製DSCQ1000を使用して、窒素ガス流量30ミリリットル/分の条件下にて、加熱速度10℃/分で220℃まで昇温してその温度で10分間保持し、その後、冷却速度10℃/分で30℃まで冷却して試験片の状態調節を行い、再度、加熱速度20℃/分で220℃まで昇温してDSC曲線を得た。2回目の昇温時のDSC曲線から中間点ガラス転移温度を求めた。
【0085】
[発泡剤含有量]
発泡粒子中の発泡剤含有量は上記した重量変化法により測定した。装置として、タバイ株式会社製ギアオーブンGPH−200を使用した。約2gの発泡粒子をサンプルとして採取し、その重量を小数点第4位まで秤量し、初期重量W1[g]を求めた。このサンプルを、ダンパー開度を60%とし、オーブン内温度を[発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度+5℃]に調整したオーブン中に載置して30分間加熱した。加熱後、サンプルをオーブンから取り出し、その重量を小数点第4位まで秤量し、加熱後重量W2[g]を求めた。W1からW2を引き算することによりオーブン中での重量減少分[g]を求め、その値をW1で除し、単位換算することにより、発泡粒子1kgあたりの発泡剤含有量[g/kg]を求めた。この値に予め求めておいた発泡粒子の見かけ密度[kg/m]を乗ずることにより、発泡粒子中の1mあたりの発泡剤含有量[g/m]を求めた。
【0086】
「発泡粒子の見かけ密度及び嵩密度」
水の入ったメスシリンダー内に重量:W[g]の発泡粒子群を、金網を使用して沈めることにより、水位上昇分から読取れる該発泡粒子群の体積:V[L]を測定し、該発泡粒子群の重量を該発泡粒子郡の体積にて除し(W/V)、単位を[kg/m]に換算することにより発泡粒子の見かけ密度[kg/m]を求めた。さらに、該見かけ密度を1.6で除することにより発泡粒子の嵩密度[kg/m]を求めた。
【0087】
[T1及びT2の測定方法]
T1及びT2は以下の方法により測定した。中空成形体内にスチームピンを挿入する際に、各スチームピンごとに熱電対を1本ずつ沿わせて、スチームピン先端と熱電対の先端とが一致する深さまで熱電対を中空成形体内に挿入した。それらの熱電対により、各スチームピンごとに一度目のスチーム加熱開始から加熱終了までの温度変化を測定して、各スチームピンごとに加熱中の供給側の最高到達温度T1及び排出側の最高到達温度T2を求めた。なお、前記したように、T1については、全ての供給側スチームピンにおいて発泡粒子基材樹脂の[ガラス転移温度+10℃]〜[ガラス転移温度+30℃]を満足する必要があるので、各スチームピンにおいて測定値されたT1の最高値と最低値とを表中に記載した。また、T2については、全ての排出側スチームピンにおいて発泡粒子基材樹脂の[ガラス転移温度−5℃]以上を満足する必要があるので、各スチームピンにおいて測定されたT2の最低値を表中に記載した。
【0088】
以下、中空成形体内に供給されるスチームの圧力はスチームチャンバーにおけるスチーム圧力(ゲージ圧)を意味し、排気側の圧力は吸引圧力(ゲージ圧)を意味する。
【0089】
[スチレン系樹脂発泡粒子]
ポリスチレン(表中「GP」と記載)を基材樹脂とし、ブタン1.6重量%及びシクロヘキサン1.4重量%を含有する発泡性ポリスチレン樹脂粒子を、102℃の雰囲気下で予備発泡し、嵩密度21kg/m、平均粒子径3.1mmのポリスチレン発泡粒子を得た。得られた発泡粒子を常温下にて保存することにより、発泡粒子中の発泡剤を逸散させて、発泡粒子中の発泡剤含有量を調整した。
【0090】
実施例1
PSジャパン株式会社製耐衝撃性ポリスチレン(商品名:PSJ‐ポリスチレン、グレード名:H0104、表中「HI1」と記載)とPSジャパン株式会社製汎用ポリスチレン(商品名:PSJ‐ポリスチレン、グレード名:G9401、表中「GP1」と記載)とを表1に示す配合割合にてドライブレンドし、内径65mmの押出機に供給し、185℃にて加熱溶融し、表皮用溶融樹脂とした。
次いで、該溶融樹脂を185℃に調整したアキュムレーターに充填し、該溶融樹脂を該アキュムレーターの下流側に連結されたダイから押出してパリソンを形成した。
次に、得られた軟化状態にあるパリソンをダイ直下に位置する、表1に示す温度に調整された平板形状の分割金型(金型成形空間部の寸法:縦190cm、横90cm、厚み4cm、比表面積:0.53cm/cm)間に配置して、型締め後、パリソンの内部に加圧気体(空気)を吹込み、表1に示す厚みの中空成形体(表皮)を形成した。
【0091】
次に、中空成形体内に、外径10mm、内径6mm(肉厚2mm)のスチームピン40本を5行8列の格子状に、かつ各スチームピンのピッチ間隔200mmに配置し、一方の金型面から他方の金型面に向かって深さ35mmまで中空成形体内に挿入した。次いで、中空成形体内部に、ポリスチレン系樹脂発泡粒子として、表1に示す嵩密度であり、表1に示す発泡剤含有量に調整したポリスチレン発泡粒子を充填した。発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度は105℃であった。中空成形体内に発泡粒子を充填する際、スチームピンより、中空成形体内の空気を排出させながら発泡粒子を充填した。空気排出後、挿入されたスチームピンのうち半数の20本をスチーム供給側とし残りの20本を排出側として市松模様のごとく配置して、排出側のピンから−0.08MPa(G)で吸引しながら、供給側のピンから0.21MPa(G)のスチームを15秒間供給した。このときのスチーム供給口におけるスチーム温度T1は各スチームピンにおいて全て122℃であり、スチーム排出口におけるスチーム温度T2の最低値は106℃であった。次いで、スチームを供給していたピンを排出側とし、排出していたピンを供給側として、排出側のピンから−0.08MPa(G)で吸引しながら、供給側のピンから0.21MPa(G)スチームを10秒間供給することによって、発泡粒子を加熱成形して、中空成形体内に発泡粒子間の空隙が埋まり且つ相互の発泡粒子が融着した発泡粒子成形体を得た。
【0092】
次いで発泡粒子成形体の層内に挿入された前記スチームピンから吸引冷却した後、型を開いて表皮被覆発泡成形体を取り出した。この成形体を40℃、大気圧下で24時間養生して目的とする表皮被覆発泡成形体を得た。得られた表皮被覆発泡成形体は表皮内面と発泡粒子成形体とが強固に融着されていた。得られた表皮被覆発泡成形体の接着強度等の諸物性を表1に示す。
【0093】
実施例2
PSジャパン株式会社製耐衝撃性ポリスチレン(商品名:PSJ‐ポリスチレン、グレード名:H0104、表中「HI1」と記載)とPSジャパン株式会社製汎用ポリスチレン(商品名:PSJ‐ポリスチレン、グレード名:G9401、表中「GP1」と記載)とを表1に示す配合割合にてドライブレンドし、内径65mmの押出機に供給し、185℃にて加熱溶融し、表皮用溶融樹脂とした。
次いで、該溶融樹脂を185℃に調整したアキュムレーターに充填し、該溶融樹脂を該アキュムレーターの下流側に連結されたダイから押出してパリソンを形成した。
次に、得られた軟化状態にあるパリソンをダイ直下に位置する、表1に示す温度に調整された平板形状の分割金型(金型成形空間部の寸法:縦42cm、横73cm、厚み2cm、比表面積:1.08cm/cm)間に配置して、型締め後、パリソンの内部に加圧気体(空気)を吹込み、表1に示す厚みの中空成形体(表皮)を形成した。
【0094】
次に、中空成形体内に、金型両側面のパーティング面から外径8mm、内径3mm(肉厚2.5mm)のスチームピンを各々3本ずつ計6本、隣接するスチームピンのピッチ間隔を150mmとして、反対側の側面に向かって深さ215mmまで中空成形体内に挿入し、対向するスチームピンの先端の相互距離を300mmとした。次いで、中空成形体内部に、ポリスチレン系樹脂発泡粒子として、表1に示す嵩密度であり、表1に示す発泡剤含有量に調整したポリスチレン発泡粒子を充填した。発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度は105℃であった。中空成形体内に発泡粒子を充填する際、該スチームピンから中空成形体中の空気を排出させながら発泡粒子を充填した。空気排出後、充填された発泡粒子の層内に挿入したスチームピンのうち、一方の側面側の3本のピンを供給側とし、他方の側面側の3本のピンを排出側として、排出側のピンから−0.08MPa(G)で吸引しながら、供給側のピンから0.21MPa(G)のスチームを15秒間供給した。このときの各スチームピンのスチーム供給口におけるスチーム温度T1は各スチームピンにおいて全て122℃であり、排出口におけるスチーム温度T2の最低値は106℃であった。次いで、スチームを供給していたピンを排出側とし、スチームを排出していたピンを供給側として、排出側のピンから−0.08MPa(G)で吸引しながら、供給側のピンから0.21MPaのスチームを8秒間供給することにより、発泡粒子を加熱成形して、中空成形体内に発泡粒子間の空隙が埋まり且つ相互の発泡粒子が融着した発泡粒子成形体を得た。
冷却した後、型を開いて表皮被覆発泡成形体を取り出した。この成形体を40℃、大気圧下で24時間養生して表皮被覆発泡成形体を得た。得られた表皮被覆発泡成形体は表皮内面と発泡粒子成形体とが強固に融着されていた。得られた表皮被覆発泡成形体の接着強度等の諸物性を表1に示す。
【0095】
実施例3、4
実施例2に使用したのと同じ耐衝撃性ポリスチレンと汎用ポリスチレンとを表1に示す配合割合にてドライブレンドし、内径65mmの押出機に供給し、185℃にて加熱溶融し、表皮用溶融樹脂とした以外は実施例2と同様にして表皮被覆発泡成形体を得た。得られた表皮被覆発泡成形体の諸物性を表1に示す。
【0096】
実施例5
PSジャパン株式会社製耐薬品性耐衝撃性ポリスチレン(商品名:PSJ‐ポリスチレン、グレード名:RX100、表中「HI2」と記載)を内径65mmの押出機に供給し、185℃にて加熱溶融し、表皮用溶融樹脂とした以外は実施例2と同様にして表皮付き発泡成形体を得た。得られた表皮被覆発泡成形体の諸物性を表1に示す。
【0097】
実施例6
旭化成株式会社製アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(商品名:スタイラック−ABS、グレード名:A4521、表中「ABS1」と記載)を内径65mmの押出機に供給し、230℃にて加熱溶融し、表皮用溶融樹脂としたこと、発泡粒子として発泡剤含有量を197g/mに調整した発泡粒子を用いたこと以外は実施例2と同様にして表皮被覆発泡成形体を得た。得られた表皮付き発泡成形体の諸物性を表1に示す。
【0098】
実施例7
表皮の平均厚みを1.0mmとしたこと以外は実施例2と同様にして表皮被覆発泡成形体を得た。得られた表皮被覆発泡成形体の諸物性を表1に示す。
【0099】
実施例8
表皮の平均厚みを2.5mmとしたこと以外は実施例2と同様にして表皮被覆発泡成形体を得た。得られた表皮被覆発泡成形体の諸物性を表1に示す。
【0100】
実施例9
発泡粒子として発泡剤含有量を118g/mに調整した発泡粒子を用いたこと以外は実施例2と同様にして表皮被覆発泡成形体を得た。このときのT2の最低値は107℃であった。得られた表皮被覆発泡成形体の諸物性を表1に示す。
【0101】
実施例10
発泡粒子として発泡剤含有量を197g/mに調整した発泡粒子を用いたこと以外は実施例2と同様にして表皮被覆発泡成形体を得た。このときのT2の最低値は103℃であった。得られた表皮被覆発泡成形体の諸物性を表1に示す。
【0102】
実施例11
供給側のスチームピンから0.24MPa(G)のスチームを13秒間供給し、次いで、スチームを排出していたピンを供給側として、0.24MPa(G)のスチームを5秒間供給することにより発泡粒子を加熱成形したこと以外は実施例2と同様にして表皮被覆発泡成形体を得た。このときのT1は各スチームピンにおいて全て125℃、T2の最低値は109℃であった。得られた表皮被覆発泡成形体の諸物性を表1に示す。
【0103】
実施例12
供給側のスチームピンから0.18MPa(G)のスチームを20秒間供給し、次いで、スチームを排出していたピンを供給側として、0.18MPa(G)のスチームを12秒間供給することにより発泡粒子を加熱成形したこと以外は実施例2と同様にして表皮被覆発泡成形体を得た。このときのT1は各スチームピンにおいて全て117℃、T2の最低値は101℃であった。得られた表皮被覆発泡成形体の諸物性を表1に示す。
【0104】
実施例13
金型の温度を100℃としたこと以外は実施例2と同様にして表皮被覆発泡成形体を得た。このときのT1は各スチームピンにおいて全て124℃、T2の最低値は106℃であった。得られた表皮被覆発泡成形体の諸物性を表1に示す。
【0105】
実施例14
実施例14は本発明の製造方法に係る実施例である。表皮の平均厚みを4.0mmとしたこと以外は実施例1と同様にして表皮被覆発泡成形体を得た。得られた表皮被覆発泡成形体の諸物性を表1に示す。従来の製造方法(参考例1)と比べて、得られた表皮被覆発泡成形体は表皮と発泡粒子成形体との接着性に優れ、さらに成形サイクルも短縮可能となった。
【0106】
比較例1
0.12MPa(G)のスチームを15秒間供給し、次いで、スチームを排出していたピンを供給側として、0.12MPa(G)のスチームを10秒間供給することにより発泡粒子を加熱成形したこと以外は、実施例1と同様にして表皮被覆発泡成形体を得た。このときのT1は各スチームピンにおいて全て108℃、T2の最低値は86℃であった。得られた表皮被覆発泡成形体の諸物性を表2に示す。T1の温度が低すぎるため、表皮の内側を溶融させることができず、表皮と発泡粒子成形体との接着強度が低い表皮被覆成形体しか得られなかった。
【0107】
比較例2
0.12MPa(G)のスチームを15秒間供給し、次いで、スチームを排出していたピンを供給側として、0.12MPa(G)のスチームを8秒間供給することにより発泡粒子を加熱成形したこと以外は、実施例2と同様にして表皮被覆発泡成形体を得た。このときのT1は各スチームピンにおいて全て108℃、T2の最低値は86℃であった。得られた表皮被覆発泡成形体の諸物性を表2に示す。比較例1と同様に、T1の温度が低すぎるため、表皮と発泡粒子成形体との接着強度が低い表皮被覆成形体しか得られなかった。
【0108】
比較例3
0.30MPa(G)のスチームを15秒間供給し、次いで、スチームを排出していたピンを供給側として、0.30MPa(G)のスチームを10秒間供給することにより発泡粒子を加熱成形したこと以外は、実施例2と同様にして成形を行った。このときのT1は各スチームピンにおいて全て138℃、T2の最低値は109℃であった。スチームの温度が高すぎてスチームピン付近の発泡粒子は溶融し、スチームピンから離れた部位は表皮と発泡粒子成形体との接着及び発泡粒子同士の融着が悪かった。良好な表皮被覆成形体が得られなかったため、接着強度、融着率の評価は行わなかった。
【0109】
比較例4
発泡粒子として発泡剤含有量を276g/mに調整した発泡粒子を使用した以外は実施例2と同様にして表皮被覆発泡成形体を得た。このときのT1は各スチームピンにおいて全て122℃、T2の最低値は94℃であった。得られた表皮被覆発泡成形体の諸物性を表2に示す。発泡粒子の二次発泡速度が速すぎるため、高温のスチームを中空成形体内に速やかに流通させることができず、表皮と発泡粒子成形体との接着強度が低く、さらに発泡粒子間の融着率も低い表皮被覆発泡成形体しか得られなかった。
【0110】
比較例5
金型型締め時の金型温度を60℃(本発明で特定する温度未満)とした以外は実施例2と同様にして表皮被覆発泡成形体を得た。得られた表皮被覆発泡成形体の諸物性を表2に示す。金型温度が低すぎるため、表皮と発泡粒子成形体との接着強度が低い表皮被覆成形体しか得られなかった。
【0111】
比較例6
金型型締め時の金型温度を140℃(本発明で特定する温度を超える温度)とした以外は実施例2と同様にして表皮被覆発泡成形体を得た。金型温度が高すぎたため、表皮にピンが正常に刺さらず、さらに発泡粒子も均一に充填できなかったため、物性評価をしなかった。
【0112】
比較例7
排出側のピンから−0.04MPa(G)で吸引しながら0.21MPa(G)のスチームを20秒間供給した。このときのスチーム供給口におけるスチーム温度T1各スチームピンにおいて全て123℃であり、排出口におけるスチーム温度T2の最低値は97℃であった。次いで、スチームを供給していたピンを排出側とし、排出していたピンを供給側として、排出側のピンから−0.04MPa(G)で吸引しながら、供給側のピンから0.21MPa(G)スチームを10秒間供給することにより発泡粒子を加熱成形したこと以外は、実施例2と同様にして表皮被覆発泡成形体を得た。得られた表皮被覆発泡成形体の諸物性を表2に示す。スチームの排出力が低いため、供給される高温のスチームを中空成形体内全体に流通させることができず、表皮と発泡粒子成形体との接着強度が低い表皮被覆成形体しか得られなかった。
【0113】
比較例8
表皮肉厚を1.5mmと薄くした以外は下記参考例1と同様の従来の製造条件により表皮付き発泡成形体を得た。得られた表皮付き発泡成形体の諸物性を表2に示す。T1が低すぎかつT2も低すぎたため、表皮と発泡粒子成形体との接着強度が低い表皮被覆成形体しか得られなかった。
【0114】
参考例1
参考例1は従来の製造条件で、表皮肉厚が厚い表皮被覆発泡粒子成形体を製造した例である。従来どおり、表皮肉厚を4.0mmとし、金型温度を60℃とし、発泡粒子内発泡剤含有量が315g/mの発泡粒子を使用し、従来のスチーム温度を適用し、−0.05MPa(G)で吸引した以外は実施例1と同様にして表皮被覆発泡成形体を得た。得られた表皮被覆発泡成形体の諸物性を表2に示す。
【0115】
【表1】

【0116】
【表2】

【0117】
【表3】

【0118】
表1及び表2における表皮被覆発泡成形体の物性評価方法を以下に示す。
【0119】
[表皮被覆発泡成形体の見かけ密度]
表皮被覆発泡成形体の重量を該成形体の体積で除し、単位を[kg/m]に換算することにより求めた。
【0120】
[発泡粒子成形体の見かけ密度]
表皮被覆発泡成形体から表皮を切除して発泡粒子成形体を切り出し、該発泡粒子成形体の重量を発泡粒子成形体の外形寸法から求めた体積で除し、単位を[kg/m]に換算することにより求めた。
【0121】
[材料破壊率及び接着強度の測定方法]
接着強度測定用試験片として、得られた板形状の表皮被覆発泡粒子成形体の板面の中心部及び4隅(R部を除く)の計5箇所から、50mm×50mm×製品厚に切り出した。試験片の上下面を接着剤にて接着強度測定用冶具に強固に接着させ、引張強度試験機テンシロンにて10mm/分の引張速度にて各試験片について表皮剥離試験を行なった。
上記剥離試験後の試験片の破壊面を観察し、表皮の接着面側の全表面積から界面剥離した部分の面積を差し引いた値を表皮の接着面側の全表面積で除して百分率に換算し、それらの値の中で最も低い値を材料破壊率[%]とした。また、最も低い材料破壊率を示した試験片における最大点応力を接着強度[kgf/cm]とした。
【0122】
[融着率の測定方法]
融着率測定用試験片として、得られた板形状の表皮被覆発泡粒子成形体の板面の中心部及び4隅(R部を除く)の計5箇所から、表皮を含まないようにして150mm×150mm×(表皮を除いた製品厚)に切り出した。該試験片を割って破断面を観察し、発泡粒子100個以上について、目視により破壊された発泡粒子と界面で剥離した発泡粒子数をそれぞれ計測し、破壊された発泡粒子と界面で剥離した発泡粒子の合計数に対する破壊された発泡粒子の割合を求め、それらの値の中で最も低い値を融着率(%)とした。
【0123】
表皮と発泡粒子成形体との間の接着力が異なる表皮被覆発泡成形体を用いて、曲げ剛性の評価を行った。曲げ剛性の指標として以下の方法により測定される5mm曲げ評価結果を表3に示す。
【0124】
[5mm曲げたわみ荷重の測定方法]
実施例2〜6及び比較例2にて得られた表皮被覆発泡成形体(長さ730mm、幅420mm、成形体厚み20mm、見かけ密度200kg/m、表皮平均厚み1.5mm)の長さ方向中央部付近から、成形体幅方向と試験片の長さ方向とを一致させて長さ420mm(成形体全幅)、幅200mm、厚み20mm(成形体全厚み)の試験片を切り出した。この試験片を使用して、試験速度20mm/分、支点間距離350mm、支持台先端部の半径5mm、加圧くさび先端部の半径25mmとした以外はJIS K7221−2:1999に基づいて5mmたわみ時の荷重を測定し、その測定値を5mm曲げたわみ荷重とした。
【0125】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0126】
図面は、本発明におけるスチームピンの配置を説明する模式図である。
【図1】は、金型の側面の一方からスチームピンを挿入した例を示す。
【図2】は、一方の金型面からスチームピンを挿入した一例を示す。
【図3】は、一方の金型面からスチームピンを挿入した一例を示す。
【図4】は、金型の側面の相対向する側からスチームピンを挿入した例を示す。
【符号の説明】
【0127】
1 金型
11 金型側面
12 成形空間部
2 スチームピン
21 供給側スチームピン
22 排出側スチームピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分割可能な成形用金型間にポリスチレン系樹脂からなるパリソンを垂下し、金型を型締めして該パリソンをブロー成形することにより中空成形体を成形し、次いで、該中空成形体内にポリスチレン系樹脂発泡粒子を充填し、中空成形体内に挿入した複数のスチーム供給排出ピンからスチームを供給、排出することにより該発泡粒子を加熱して発泡粒子相互を融着させポリスチレン系樹脂発泡粒子成形体を成形すると共に、中空成形体内面と発泡粒子成形体とを融着一体化させる、中空成形体からなる表皮で被覆された発泡成形体の製造方法であって、型締め時の金型温度を[中空成形体の基材樹脂のガラス転移温度−30℃]〜[中空成形体の基材樹脂のガラス転移温度+30℃]の温度とし、複数の前記ピンの一方をスチーム供給側とし他方をスチーム排出側とし、スチーム供給側のピンのスチーム供給口におけるスチーム温度T1を[発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度+10℃]〜[発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度+30℃]に、かつスチーム排出側のピンのスチーム排出口におけるスチーム温度T2を[発泡粒子の基材樹脂のガラス転移温度−5℃]以上に制御して加熱することを特徴とする表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項2】
前記ポリスチレン系樹脂発泡粒子の発泡剤含有量が発泡粒子1m当たり60〜250gであることを特徴とする請求項1記載の表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項3】
中空成形体内のスチームを排出側のピンから−0.09〜−0.06MPa(G)で吸引することを特徴とする請求項1又は2記載の表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項4】
前記ポリスチレン系樹脂発泡粒子の嵩密度が15〜40kg/mであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項5】
前記中空成形体からなる表皮の平均厚みが0.5mm以上3.5mm未満であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項6】
前記発泡成形体の比表面積が0.4〜1.5cm/cmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項7】
前記ピンを中空成形体周縁の対向する両側面から中空成形体内に挿入し、一側面側をスチーム供給側とし他側面側をスチーム排出側とすることを特徴とする請求項6記載の表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項8】
ポリスチレン系樹脂発泡粒子成形体と、該発泡粒子成形体の略全面を被覆するポリスチレン系樹脂中空成形体からなる表皮とから構成される表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体において、表皮の平均厚みが0.5mm以上3.5mm未満であり、表皮剥離試験における発泡粒子成形体の材料破壊率が30%以上であることを特徴とする表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体。
【請求項9】
前記発泡成形体の比表面積が0.4〜1.5cm/cmであることを特徴とする請求項8記載の表皮被覆ポリスチレン系樹脂発泡成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−46920(P2010−46920A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−213276(P2008−213276)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【Fターム(参考)】