説明

表皮角化正常化剤

【課題】 表皮角化細胞を賦活させ、且つコーニファイドエンベロープの構成タンパク質であるインボルクリン及びケラチン10の発現を促進する作用を有し、安全性の優れた表皮角化正常化剤を提供する。
【解決手段】 酸性キシロオリゴ糖を有効成分として含有することを特徴とする表皮角化正常化剤。酸性キシロオリゴ糖が、1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有する前項記載の表皮角化正常化剤。ウロン酸が、グルクロン酸もしくは4−O−メチル−グルクロン酸である前項記載の表皮角化正常化剤。酸性キシロオリゴ糖が、「リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理してキシロオリゴ糖成分とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理することによって得られたキシロオリゴ糖混合物を分離して得たもの」である前項記載の表皮角化正常化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品、医薬部外品を含む、皮膚への外用剤への成分として使用可能な表皮角化正常化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
表皮は皮膚の最も外側を構成している組織であり、外界からの様々な刺激から生体を防御したり、水分の過剰な蒸発を防いだりする役割を担っている。表皮は最下層である基底層に始まり、有棘層、顆粒層、角質層へと続く4層から構成されている。これら表皮を構成する細胞の約95%は基底層から分化した角化細胞である。角化細胞は基底層から徐々に分化しながら上層へ移動し、約2週間で角質細胞となって角質層を形成する。角質層に到達した角化細胞は、2週間で最外層に到達し、剥がれ落ちる。表皮ではそのバリア機能を維持する為、基底層で角化細胞が誕生してから角質層に至って剥がれ落ちるまでのサイクルを4週間の周期で繰り返している。しかし、加齢や不規則な生活、ストレスなどで新陳代謝のサイクルが衰えると、くすみや肌荒れ、小じわなどの皮膚トラブルが発生する。
【0003】
皮膚トラブルを解消する手段としては、従来、種々の外的刺激や加齢により失われるコラーゲン、ヒアルロン酸やアミノ酸などの物質を皮膚に塗布し補う組成物や、紫外線や活性酸素から身を守るための防衛物質を配合した組成物の使用が主流であった。しかし、これらの物質は皮膚を構成する細胞そのものが持つ機能を改善するものではなく、十分な効果を有するものではなかった。
【0004】
また、表皮角化細胞賦活作用を有する種々の生薬が知られており(非特許文献1参照)、表皮角化細胞賦活作用を有するものとして、ハス胚芽抽出物(特許文献1参照)等が知られている。
【0005】
さらに近年、角質細胞に存在するコーニファイドエンベロープ(以下、CE)と呼ばれる膜状構造に注目が集まっている。CEは表皮角化細胞の分化に従って細胞内で産生される複数種のCE前駆体タンパク質が、トランスグルタミナーゼによって架橋され、不溶化されることで形成される(非特許文献2参照)。また、CEの一部にはセラミド等が共有結合し、角質層におけるバリア機能の基盤を形成している(非特許文献3参照)。CEは皮膚の変調により構造が不完全となることが知られており、乾癬や魚鱗癬などの皮膚疾患などでは最外層において脆い形態のCEが認められることが知られている(非特許文献4参照)。
CEの構築を正常化する成分としては、CE構成タンパク質の一つであるインボルクリンの発現を促進する組成物(セイロンテツボクの種子抽出物;特許文献2参照)、インボルクリン及びケラチン10の発現を促進する組成物(Lactobacillus helveticus発酵乳ホエー;非特許文献5参照)が知られている。
【0006】
以上のように、角化細胞賦活作用やCE構築タンパク質の発現促進作用が期待される組成物がいくつか提案されているが、その効果は十分といえるものでは無く、表皮の正常な角化を促進する組成物が求められていた。
ところで、リグノセルロースから酵素処理及びNF膜濃縮により製造される酸性キシロオリゴ糖(特許文献3及び4参照)は、保湿剤としての機能(特許文献5参照)、メラニン生成抑制剤としての機能(特許文献6参照)、アトピー性皮膚炎改善剤としての機能(特許文献7参照)など、皮膚外用剤としての種々の機能が見出されているが、表皮角化正常化に関する機能は見出されていない。
【0007】
【非特許文献1】和漢医薬学雑誌, 15:426-427 (1998)
【非特許文献2】Mol. Med., 31:p5 (1999)
【非特許文献3】J. Invest. Dermatol., 88:p709 (1987)
【非特許文献4】フレグランスジャーナル臨時増刊 15:117-127 (1996)
【非特許文献5】J. Dairy Sci., 89:2072-2075 (2006)
【特許文献1】特開2002−68993号公報
【特許文献2】特開2005−213187号公報
【特許文献3】特許登録第2643368号公報
【特許文献4】特開2000−333692号公報
【特許文献5】特開2005−187388号公報
【特許文献6】特許登録第3772749号公報
【特許文献7】特開2004−210664号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、表皮角化細胞を賦活させ、且つコーニファイドエンベロープの構成タンパク質であるインボルクリン及びケラチン10の発現を促進する作用を有し、しかも安全性の優れた表皮角化正常化剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決する為鋭意研究した結果、ウロン酸残基が付加した酸性キシロオリゴ糖が表皮角化細胞の増殖を賦活させ且つコーニファイドエンベロープの構成タンパク質であるインボルクリン及びケラチン10の発現を促進する作用を有していること、更に安全性にも優れていることより、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は以下の構成を採用する。
即ち、本発明の第1は、酸性キシロオリゴ糖を有効成分として含有する表皮角化正常化剤である。
【0011】
本発明の第2は、前記酸性キシロオリゴ糖が、1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有する本発明の第1に記載の表皮角化正常化剤である。
【0012】
本発明の第3は、ウロン酸が、グルクロン酸もしくは4−O−メチル−グルクロン酸である本発明の第2に記載の表皮角化正常化剤である。
【0013】
本発明の第4は、酸性キシロオリゴ糖が、「リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理してキシロオリゴ糖成分とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理することによって得られたキシロオリゴ糖混合物を分離して得たもの」である本発明の第1〜第3のいずれかに記載の表皮角化正常化剤である。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、表皮角化細胞の増殖を賦活させ、且つ、コーニファイドエンベロープの構成タンパク質であるインボルクリン及びケラチン10の発現を促進する作用を有し、しかも安全性に優れた表皮角化正常化剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の構成について詳述するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
本発明の表皮角化正常化剤は、酸性キシロオリゴ糖を含有する。キシロオリゴ糖とは、キシロースの2量体であるキシロビオース、3量体であるキシロトリオース、あるいは4量体〜20量体程度のキシロースの重合体である。本発明で使用する酸性キシロオリゴ糖とは、該キシロオリゴ糖1分子中に、少なくとも1つ以上のウロン酸側鎖を有するものを言う。ウロン酸は、天然では、ペクチン、ペクチン酸、アルギン酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デルタマン硫酸等の種々の生理活性を持つ多糖の構成成分として知られている。
本発明の酸性キシロオリゴ糖のウロン酸残基としては、特に限定されないが、グルクロン酸または4−O−メチル−グルクロン酸が好ましい。1分子中のウロン酸側鎖の個数は、平均1〜5個が好ましく、平均1〜2個がより好ましい。
本発明で使用する酸性キシロオリゴ糖におけるキシロースの重合度は、単一重合度であれば、重合度1〜30が好ましく、重合度2〜20がより好ましい。また、様々な重合度の組成物であれば、重合度分布にもよるが、平均キシロース重合度が2〜20が好ましく、3〜13がさらに好ましい。多分散度は1〜2が好ましく、1〜1.6がより好ましい。
尚、分子中のウロン酸の結合位置は特に限定されない。結合の種類も特に限定されないが、キシロースの2位とウロン酸の1位が結合したα−1,2結合が好ましい。
【0016】
キシロオリゴ糖の製造方法としては、(1) 加圧加熱、爆砕又はアルカリ処理等の糖化処理を行ない、直接キシロオリゴ糖液を製造する方法、(2) 加圧加熱、アルカリ加熱処理や抽出、精製したキシランを出発原料とし、これに酵素を作用させて糖化処理してキシロオリゴ糖液を製造する方法、(3)植物体の原料を細片化し、アルカリ加熱処理後、直接酵素を作用させて糖化処理してから固液分離し、キシロオリゴ糖液を製造する方法、(4)リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理してキシロオリゴ糖成分とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理してキシロオリゴ糖混合物を得、得られるキシロオリゴ糖混合物から、キシロオリゴ糖と1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有する酸性キシロオリゴ糖を分離する方法が挙げられる。本発明で使用する酸性キシロオリゴ糖の製造方法については、特に限定するものではないが、(4)の製造方法が、大量かつ安価に製造することが可能である点で特に好ましい。以下にその概要を示す。
【0017】
酸性キシロオリゴ糖は、化学パルプ由来のリグノセルロース材料を原料とし、加水分解工程、濃縮工程、希酸処理工程、精製工程を経て得ることができる。加水分解工程では、希酸処理、高温高圧の水蒸気(蒸煮・爆砕)処理もしくは、ヘミセルラーゼによってリグノセルロース中のキシランを選択的に加水分解し、キシロオリゴ糖とリグニンからなる高分子量の複合体を中間体として得る。濃縮工程では逆浸透膜等により、キシロオリゴ糖−リグニン様物質複合体が濃縮され、低重合度のオリゴ糖や低分子の夾雑物などを除去することができる。濃縮工程は逆浸透膜を用いることが好ましいが、限外濾過膜、塩析、透析などでも可能である。得られた濃縮液の希酸処理工程により、複合体からリグニン様物質が遊離し、酸性キシロオリゴ糖と中性キシロオリゴ糖を含む希酸処理液を得ることができる。この時、複合体から切り離されたリグニン様物質は酸性下で縮合し沈殿するのでセラミックフィルターや濾紙などを用いたろ過等により除去することができる。希酸処理工程では、酸による加水分解を用いることが好ましいが、リグニン分解酵素などを用いた酵素分解などでも可能である。
【0018】
精製工程は、限外濾過工程、脱色工程、吸着工程からなる。一部のリグニン様物質は可溶性高分子として溶液中に残存するが、限外濾過工程で除去され、着色物質等の夾雑物は活性炭を用いた脱色工程によってそのほとんどが取り除かれる。限外濾過工程は限外濾過膜を用いることが好ましいが、逆浸透膜、塩析、透析などでも可能である。こうして得られた糖液中には酸性キシロオリゴ糖と中性キシロオリゴ糖が溶解している。イオン交換樹脂を用いた吸着工程により、この糖液から酸性キシロオリゴ糖のみを取り出すことができる。糖液をまず強陽イオン交換樹脂にて処理し、糖液中の金属イオンを除去する。ついで強陰イオン交換樹脂を用いて糖液中の硫酸イオンなどを除去する。この工程では、硫酸イオンの除去と同時に弱酸である有機酸の一部と着色成分の除去も同時に行っている。強陰イオン交換樹脂で処理された糖液はもう一度強陽イオン交換樹脂で処理し更に金属イオンを除去する。最後に弱陰イオン交換樹脂で処理し、酸性キシロオリゴ糖を樹脂に吸着させる。
【0019】
樹脂に吸着した酸性オリゴ糖を、低濃度の塩(NaCl、CaCl、KCl、MgClなど)によって溶出させることにより、夾雑物を含まない酸性キシロオリゴ糖溶液を得ることができる。この溶液から、スプレードライや凍結乾燥処理等により、白色の酸性キシロオリゴ糖組成物の粉末を得ることができる。
【0020】
化学パルプ由来のリグノセルロースを原料とし、キシロオリゴ糖とリグニンからなる高分子量の複合体を中間体とした酸性キシロオリゴ糖組成物の上記製造法のメリットは、経済性とキシロースの平均キシロース重合度の比較的高い酸性キシロオリゴ糖組成物が容易に得られる点にある。平均キシロース重合度は、例えば、希酸処理条件を調節するか、再度ヘミセルラーゼで処理することによって変えることが可能である。また、弱陰イオン交換樹脂溶出時に用いる溶出液の塩濃度を変化させることによって、1分子あたりに結合するウロン酸残基の数が異なる酸性キシロオリゴ糖組成物を得ることもできる。さらに、適当なキシラナーゼ、ヘミセルラーゼを作用させることによってウロン酸結合部位が末端に限定された酸性キシロオリゴ糖組成物を得ることも可能である。
【0021】
このようにして得られた酸性キシロオリゴ糖組成物は、水に溶解させたり、またはスプレードライヤーで乾燥し粉体に加工後、表皮角化正常化剤とすることができる。その際、乾燥吸湿性を改善するためにデキストリン、シクロデキストリン等のキャリアーを添加してもよい。また、外用用途に支障のない材質を用いてマイクロカプセル化したり、リポソームに内含させて添加してもよい。表皮角化正常化剤における酸性キシロオリゴ糖組成物の含有率としては、0.001〜50質量%(以下、%は全て質量%とする)の範囲で使用することができるが、0.01〜10%がより好ましい。
本発明の酸性キシロオリゴ糖組成物を配合した表皮角化正常化剤の形態としては、適当な濃度の水溶液にした酸性キシロオリゴ糖自身を直接外用塗布しても良いが、化粧水等の化粧品基材、入浴剤や敏感肌用クリーム等の医薬部外品基材、軟膏やローション等の医薬品基材等の各種基剤を混合して使用することも出来る。前記各種基剤としては、表皮角化正常化作用及び安全性等を損なわない限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択した成分が挙げられ、例えば、収斂剤、殺菌剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、細胞賦活剤、抗酸化剤、活性酸素除去剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料などが挙げられる。これらの成分は、酸性キシロオリゴ糖組成物と併用した場合、相乗的に作用して通常期待される以上の優れた作用効果をもたらすことがある。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0023】
<分析法の概要>
酸性キシロオリゴ糖の物理化学的性質の分析法を以下に示した。
(1)全糖量の定量
全糖量は検量線をD−キシロース(和光純薬工業(株)製)を用いて作製し、フェノール硫酸法(還元糖の定量法 第2版、学会出版センター発行:ISBN 4-7622-0102-2)にて定量した。
(2)還元糖量の定量
還元糖量は検量線をD−キシロース(和光純薬工業(株)製)を用いて作製、ソモジ−ネルソン法(還元糖の定量法 第2版、学会出版センター発行:ISBN 4-7622-0102-2)にて定量した。
(3)ウロン酸量の定量
ウロン酸は検量線をD−グルクロン酸(和光純薬工業(株)製)を用いて作製、カルバゾール硫酸法の変法(Anal. Biochem., 54, 484-489(1991)参照)にて定量した。酸性キシロオリゴ糖の1分子当たりのウロン酸個数は、下式によって求めた。
1分子当たりのウロン酸個数 = ウロン酸濃度 ÷ 還元糖濃度
(4)平均キシロース重合度の決定法
糖液の全糖濃度と還元糖濃度を測定し、下式によって平均キシロース重合度を求めた。
平均キシロース重合度=全糖濃度÷還元糖濃度
(5)酸性キシロオリゴ糖の分子量分布分析法
酸性キシロオリゴ糖の分子量分布は、ゲル濾過クロマトグラフィー法によって分析した。
Waters製Alliance (2695 Separations Module)を使用し、カラムはSHODEX製Ohpak SB-803 HQ(8.0×300mm)とOhpak SB-802.5 HQ(8.0×300mm)を直列に接続して用いた。カラムオーブンは50℃に設定した。溶離液には0.2M NaCl溶液を用い、流速は0.5ml/minとした。検出は示差屈折系(2414 RI Detector)を用いた。分子量分布の標準曲線の作成には、プルランの標準品(Shodex製STANDARD P-82)を用いた。尚、低分子のオリゴ糖画分の標準品としてはグルコース(M.W.180)およびマルトトリオース(M.W.504)、マルトヘプタオース(M.W.1152)を用いた。得られた酸性キシロオリゴ糖のクロマトグラフィーと、分子量標準曲線から、酸性キシロオリゴ糖の分子量分布(プルラン換算)および多分散度を求めた。
(6)酵素力価の定義
酵素として用いたキシラナーゼの活性測定にはカバキシラン(シグマ社製)を用いた。酵素力価の定義はキシラナーゼがキシランを分解することで得られる還元糖の還元力をDNS法(還元糖の定量法 第2版、学会出版センター発行:ISBN 4-7622-0102-2)を用いて測定し、1分間に1マイクロモルのキシロースに相当する還元力を生成させる酵素量を1ユニット(U)とした。
【0024】
<各種酸性キシロオリゴ糖の調製例>
<調製例1>
10%広葉樹クラフトパルプスラリーのpHを硫酸を用いて6.0とした後、Tricoderma reesei由来の市販のキシラナーゼを5000U/Lとなるように添加した。攪拌混合しながら50℃、45分間インキュベートした。固液分離によってパルプを除去し、糖濃度0.2%の糖液を1000L得た。RO膜を用いて50倍に濃縮後、硫酸を用いてpH3.0に調整した。次いで120℃、1気圧で100分間加熱処理を行い、リグニンを会合・沈殿させた。次いで、活性炭によって脱色後、糖液を強カチオン交換樹脂(オルガノ製200CT)、弱アニオン樹脂(オルガノ製IRA96SB)、強カチオン交換樹脂(オルガノ製200CT)、弱アニオン樹脂(オルガノ製IRA96SB)の順に通液する操作を行った。弱アニオン樹脂に50mM NaCl溶液を通液して得られた画分について濃縮・噴霧乾燥を行い、酸性キシロオリゴ糖を0.7kg得た。
得られた酸性キシロオリゴ糖の平均キシロース重合度は10.1、多分散度は1.28であった。オリゴ糖1分子中のウロン酸個数は1.4個であった。
調製例1において得られた酸性キシロオリゴ糖をUX10とした。
【0025】
<調製例2>
調製例1と同様にして得られた糖濃縮液に終濃度0.2Nとなるように硫酸を加え、120℃、1気圧で120分間加熱処理を行い、リグニンを会合・沈殿させると共にオリゴ糖を酸加水分解し、低分子化した。調製例1と同様に精製を行い、弱アニオン樹脂の吸着画分から酸性キシロオリゴ糖を0.4kg得た。
得られた酸性キシロオリゴ糖の平均キシロース重合度は4.6、多分散度は1.03であった。オリゴ糖1分子中のウロン酸個数は1個であった。
調製例2において得られた酸性キシロオリゴ糖をUX5とした。
【0026】
<調製例3>
調製例1で得られたUX10をゲル濾過クロマトグラフィーに供し、高分子画分を分取した。すなわち、直径2.5cm、長さ1mのカラムにSephadex G-10(GEヘルスケア・バイオサイエンス社製)を充填し、蒸留水に40%で溶解したUX10を10mlアプライした。カラムを50℃に保ちながら流速2.5ml/minで通液し、4分おきにフラクションを回収した。前述の全糖濃度の測定法に従い各フラクションの糖濃度を測定した。各フラクションの糖濃度をグラフ化し、図1に示した。比較的高分子画分が溶出していると思われるフラクション17から28までを一つにまとめ、凍結乾燥によって粉末化した。
得られた高分子画分の平均キシロース重合度は23、多分散度は1.35であった。オリゴ糖1分子中のウロン酸個数は1.6個であった。
調製例3において得られた酸性キシロオリゴ糖をUX23とした。
【0027】
以上、調製例1、2および3において得られた酸性キシロオリゴ糖の分子量分布パターンを図2に示す。
【0028】
<表皮角化細胞賦活活性測定試験>
正常ヒト表皮角化細胞(クラボウ社製)を正常ヒト皮膚角化細胞用無血清培地(DSファーマ社製)に3×10cells/mLとなるように懸濁し、96well plate (AGCテクノグラス社製)に各wellあたり200μlずつ播種した。2日間の培養によってコンフルエントに達したことを確認後、UX5、UX10またはUX23のいずれかを0.1%含有する培地に交換した。24時間培養後、WST-1試薬(同仁化学社製)を各wellあたり20μlずつ添加し、1時間インキュベートした。培養後、440nmの吸光度を測定し、細胞賦活活性の指標とした。試験はn=3で実施し、得られた数値データはDunnetの多重比較検定を行った。
UX5、UX10、UX23を添加した試験区をそれぞれ実施例1、実施例2、実施例3とし、酸性キシロオリゴ糖を添加せずに培養した試験区を比較例1としたときの表皮角化細胞賦活活性を図3に示した。
実施例1〜3の試験区はいずれも比較例1よりも高い吸光度を示したことから、UX5、UX10、UX23には表皮角化細胞賦活活性があることが確認された。
また、平均キシロース重合度が短い酸性キシロオリゴ糖が、より高い活性を示す傾向が見られた。
【0029】
<インボルクリン及びケラチン10の発現に与える影響>
正常ヒト表皮角化細胞(クラボウ社製)を正常ヒト皮膚角化細胞用無血清培地(DSファーマ社製)に3×10 cells/mLとなるように懸濁し、24well plate (AGCテクノグラス社製)に各wellあたり1mlずつ播種した。2日間の培養によってコンフルエントに達したことを確認後、UX5、UX10またはUX23のいずれかを0.05%含有する培地に交換し、培養を継続した。酸性キシロオリゴ糖含有培地に交換した日を0日目とし、培養4日目にトリプシン処理によって細胞を回収し、illustra RNAspin(GEヘルスケアサイエンス社製)を用いてmRNAを抽出した。得られたmRNAに対して、逆転写酵素(ReverTra Ace(登録商標);東洋紡社製)を用いてcDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型として、インボルクリン及びケラチン10の発現定量解析をリアルタイムPCR法によって実施した。インボルクリン、ケラチン10およびβアクチン(ハウスキーピング遺伝子として使用)を検出するプローブは、TaqMan(登録商標) Gene Expression Assays(アプライドバイオシステムズ社製)を用い、リアルタイムPCRの反応にはPremix Ex Taq(タカラバイオ社製)を用いた。リアルタイムPCRを行う装置にはDNA Engine Opticon(登録商標)(MJ Research社製)を用い、PCR産物の定量、解析はOpticon Monitor(MJ Research社製)を用いた。PCR反応液は、cDNA 1μl、TaqMan(登録商標)プローブ1μl、超純水8μlおよびPremix Ex Taq 10μlを加えた20μlの反応系とした。リアルタイムPCRの反応条件は、95℃で10秒間プレヒートした後に「95℃・10秒、60℃・45秒、蛍光強度測定」を1サイクルとして50サイクル行った。インボルクリンおよびケラチン10のmRNA発現量は、ハウスキーピング遺伝子として用いたβアクチンのmRNA発現量に対する相対値として求めた(比較Ct法;Methods.,25,(4),402-408(2001)参照)。
UX5を添加した試験区を実施例4、UX10を添加した試験区を実施例5、UX23を添加した試験区を実施例6とし、酸性キシロオリゴ糖を添加せずに培養した試験区を比較例2としたときのインボルクリンおよびケラチン10の相対発現量を、表1に示した。
【0030】
【表1】

【0031】
表1によれば、酸性キシロオリゴ糖の添加により、インボルクリンの発現量が増加しており(実施例4〜6)、UX5(実施例4)およびUX10(実施例5)添加試験区では、オリゴ糖無添加(比較例2)の約2倍の発現量を示した。また、ケラチン10の発現量については、UX5(実施例4)添加試験区においてオリゴ糖無添加(比較例2)の1.45倍の発現量となり、UX10(実施例5)およびUX23(実施例6)添加試験区よりも発現促進作用が強かった。
【0032】
以上の結果より、酸性キシロオリゴ糖には、表皮角化細胞賦活作用、及び、CE構成タンパク質(インボルクリン、ケラチン10)の発現促進作用があることが明らかになった。また、その作用はキシロース平均キシロース重合度が短い方が強い傾向を示した。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の酸性キシロオリゴ糖を有効成分として含有する表皮角化正常化剤は、化粧品、医薬部外品を含む、皮膚への外用剤の成分として使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】調製例1の酸性キシロオリゴ糖のゲル濾過分画時の各フラクションにおける糖濃度を示す図である。
【図2】調製例1〜3の酸性キシロオリゴ糖の分子量分布を示す図である。
【図3】実施例1〜3と比較例1の表皮角化細胞賦活活性の評価を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性キシロオリゴ糖を有効成分として含有することを特徴とする表皮角化正常化剤。
【請求項2】
酸性キシロオリゴ糖が、1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有することを特徴とする請求項1に記載の表皮角化正常化剤。
【請求項3】
ウロン酸が、グルクロン酸もしくは4−O−メチル−グルクロン酸であることを特徴とする請求項2に記載の表皮角化正常化剤。
【請求項4】
酸性キシロオリゴ糖が、「リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理してキシロオリゴ糖成分とリグニン成分の複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理することによって得られたキシロオリゴ糖混合物を分離して得たもの」であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の表皮角化正常化剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−143832(P2009−143832A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321447(P2007−321447)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】