説明

表示特性を較正する表示特性較正装置量、コンピュータプログラム、記憶媒体及び表示特性較正方法

【課題】表示装置の階調特性と色度を安価に精度を損なうことなく較正するシステムを提供する。
【解決手段】コンピュータ20から出力される画像信号Ri、Gi、Biをマトリックス13、LUT12a、12b、12cを経由して表示パネル11に入力し、表示パネル11に表示された画像をセンサ30で測定し、得られた表示特性(階調特性と色度)と予め決められた表示特性を比較し、差分を解消するようマトリックス13、LUT12a、12b、12cを一旦設定した後、マトリックス13の設定情報でLUT12a、12b、12cを再設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置がその表示面に表示する色及び輝度に対する非線形特性の補正に関し、詳しくはセンサから得られる実測値と予め設定されている目標値を比較して得られる補正量でルックアップテーブルを設定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、CRT、LCD、PDP、電子ペーパ等の表示デバイスを使用した表示装置に画像信号を入力して画像を表示した場合、入力画像信号のレベルと該表示装置の表示画像の出力レベル、例えば輝度との入出力関係(以下、階調特性)が図10−(a)に示すように線形ならば、入力画像信号のレベル変化と相対して表示画像の輝度も変化する。しかし、表示装置等は種々の条件により図10−(b)に示すように歪みのある非線形の階調特性を持っているため、入力画像信号のレベル変化と相対するような表示画像の輝度が得られない。また、この非線形の階調特性は赤、緑及び青等の各色においても異なっている為、色再現においても同様の問題を含んでおり、色の再現性を重視するカラーマネジメントシステム等においては階調特性を目標の階調特性とするための較正作業(以下、キャリブレーション)を行っている。
【0003】
キャリブレーションには、専用のソフトウェアのみで作業が完結するソフトウェアキャリブレーションと、専用のソフトウェアと表示装置とが連携して、または表示装置単独で作業するハードウェアキャリブレーションがある。更にハードウェアキャリブレーションには、簡易モードと高精度モードの2種類のモードを有するものがある。高精度モードは、階調特性、色再現性ともに表示装置前面に設置されたセンサで輝度、色度を測定しながらキャリブレーションするのに対し、簡易モードについては表示装置固有の階調特性についてはセンサで測定するものの、実際のキャリブレーションは予め決められた設定情報を用いて設定するのみである。このような高精度モードと簡易モードを有するハードウェアキャリブレーションを実現する表示装置のブロック図を図11に示す。前段LUT17a、17b、17c、後段LUT12a、12b、12cは階調特性を変換するためのLUT(ルックアップテーブル)を示す。LUTとは、あるレベルの信号が入力されたとき、そのレベルに予め対応づけられたレベルを出力する、メモリー機能を持った変換部である。マトリックス13は、演算処理により入力画像信号の各色配分を調整し目標の色度とする色変換部を示す。
【0004】
高精度モードの処理について詳細に説明する。このモードでは、後段LUT12a、12b、12cは常時スルー状態とする。スルー状態とは、後段LUT12a、12b、12cへの入力信号のレベルと出力信号のレベルが1:1に対応づけられた状態を言う。あるいは後段LUT12a、12b、12cをバイパスして出力するようにしてもよい。前段LUT17a、17b、17c、マトリックス13についてもスルー状態とし、この状態で表示装置10の表示パネル11から出力される輝度、色度をセンサ30で測定する。この実測の入力レベルに対する輝度、つまり階調特性と予め設定してある目標の階調特性を比較し、その差分を解消するよう前段LUT17a、17b、17cを設定する。前段LUT17a、17b、17cの設定を図式化したものを図12に示す。横軸は表示装置10への入力画像信号Ri、Gi、Biのレベルを示し、縦軸は表示パネル11からの輝度値を示す。図12中の点線の曲線は目標とする階調特性を示し、実線の曲線が実測した階調特性、つまり表示装置10固有の階調特性を示す。前LUT17a、17b、17cの入力側に記憶する入力レベルを白丸で示してある。便宜上、図12では9点しか図示していないが、実際に前LUT17a、17b、17cの入力側に記憶する値はより細かいものとなる。図示するように入力レベルが110の時、目標の出力レベルは170[cd/m2]であるが、表示装置固有の階調特性が歪んでいるため、実際には図12中の黒四角で示した55[cd/m2]しか表示パネル11からは出力されない。実測の階調特性で170[cd/m2]を出力できるのは入力レベルが220の時であるから、前段LUT17a、17b、17cで入力レベル85に対し出力レベル220を対応づけることで133[cd/m2]の輝度を確保することができる。他の入力レベルについても同様、図12中の矢印のように出力レベルを対応づけることで目標の階調特性が得られるようになる。
【0005】
前段LUT17a、17b、17cの設定後、前段LUT17a、17b、17cの補正処理を施した状態で表示パネル11の表示色度をセンサ30で測定する。測定結果が予め設定された目標色度からずれている場合は、その差分を解消するようマトリックス13を設定する。マットリックス13での補正処理は以下に示すような行列演算により行われる。
【数1】

式中Rio、Gio、Bioはマトリックス13への入力レベルであり、Rm、Gm、Bmはマトリックス13が出力する出力レベルである。行列中のRgain、Ggain、Bgainを変えながら、実測色度と目標色度の差分を解消していく。なお、Rgain、Ggain、Bgainの分母255は入力レベルの最大レベルである。行列は上記のように対角成分のみ値が入っているものに限らず、非対角成分に値が入っている場合もある。前段LUT17a、17b、17c及びマトリックス13の設定完了で高精度モードでのキャリブレーション作業は終了する。前段LUT17a、17b、17cとマトリックス13ともにセンサ30で測定しながら設定するため、多少作業時間を要するが、精度よく目標の階調特性、色度に近づけることが可能となる。
【0006】
一方、簡易モードのキャリブレーションでは、高精度モード同様、まず前段LUT17a、17b、17c、マトリックス13、後段LUT12a、12b、12cをスルー状態とし、センサ30で表示パネル11の階調特性を測定する。実測の階調特性と予め設定された階調特性を比較し、その差分を解消するよう後段LUT12a、12b、12cを設定する。簡易モードでは、センサ30による測定はこの処理のみとなる。通常、ここで設定される階調特性は、直線または指数曲線のような、演算を容易とする線形特性を持った階調特性が設定される。後段LUT12a、12b、12cと表示パネル11との組み合わせで線形の階調特性となるため、前段LUT17a、17b、17cでの階調特性の設定や、マトリックス13での色成分の設定は、線形の階調特性を加味した演算で自由に設定することが可能となる。例えば、後段LUT12a、12b、12cと表示パネル11でガンマ係数2.2の指数曲線を階調特性に設定したうえで、ガンマ係数1.8の指数曲線を階調特性に設定したい場合、前段LUT17a、17b、17cの入力レベルをRi、Gi、Biとすると、これに対応づける出力レベルはRi1.8/2.2、Gi1.8/2.2、Bi1.8/2.2と算出により容易に設定することができる。マトリックス13についても、後段LUT12a、12b、12cの設定により、マトリックス13から後段が線形の階調特性となっていることから、予め決められているRgain、Ggain、Bgainをマトリックス13に与えるだけで、目標の色度に補正することが可能となる。図13に予め決められるRgain、Ggain、Bgainの一例を示す。センサ30により測定を行わない分、キャリブレーション処理は高速となる。ただし、実測により前段LUT17a、17b、17c、マトリックス13を設定するわけではないので、前述の高精度モードと比較して精度の低いキャリブレーションとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−096698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、高精度モードと簡易モード双方のキャリブレーションを実現するために、LUTをマトリックスの前段と後段に設ける必要があり、表示装置のコストを増大させていた。特許文献1のシステムにあっては、各色1個のLUTを用いてキャリブレーションを実現している。しかし、マトリックスに相当する手段がないため、LUTには階調特性の補正ばかりでなく色成分の補正も担わせることになる。前述の従来技術における高精度モードでは、センサで表示パネルの色度を測定しながらマトリックスを設定していた。特許文献1で高精度モードのようなキャリブレーションを実行させた場合、各入力レベル毎かつ各色毎に書き込みと色度及び輝度測定を繰り返すことになる。マトリックスは前述のとおり演算手段であり、前述の行列を変更するだけで全入力レベルに対し色成分が変換されるため、その処理は高速である。一方、LUTへの書き込み速度は一般的に低速であり、各入力レベル各色毎に書き込みを繰り返す特許文献1にあっては、処理が完了するまでに長時間を要することになる。
【0009】
本発明は、前記の不具合を解決するために成されたものであり、各色1個のLUTと1個のマトリックスのみで、長時間を要することなく、表示装置のキャリブレーションを実現する表示特性の較正方法、表示特性較正装置及びコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明に係る表示特性較正装置は、複数色の画像信号の色配分を所定の演算で補正する第1の補正手段と、第1の補正手段の後段に複数色毎に設けられ、入力レベルと出力レベルを対応づけて記憶し、入力レベルに対応づけられた出力レベルを参照し出力することで画像信号の入出力関係を補正する第2の補正手段と、第2の補正手段の後段から出力される複数色毎の出力レベルに応じた画像表示を行う表示部と、表示部の表示特性を測定する測定手段とを備える表示部の表示特性を較正する表示特性較正装置において、前記測定手段で測定された表示特性から得られる色配分が目標とする色配分になるよう前記第1の補正手段を設定する第1の過程と、前記測定手段で測定された表示特性から得られる画像信号の入出力関係と、前記第1の過程で前記第1の補正手段に設定された設定値に基づき、第2の補正手段の設定値を設定する第2の過程との処理を制御する構成としてあることを特徴とする。
【0011】
第2発明に係る表示特性較正装置は、第1の発明において、前記第2の過程が、前記第1の過程の補正が施された状態で、前記測定手段により測定される前記表示特性から得られる画像信号の入出力関係が、目標とする入出力関係になるよう第2の補正手段に設定するべき設定値を取得する設定値取得過程と、前記第1の過程で設定された前記第1の補正手段の設定値に基づき、前記設定値取得過程で取得した設定値を再計算し、再計算した設定値を前記第2の補正手段に設定する過程と、前記第1の補正手段の補正処理を停止させる過程とから構成されることを特徴とする。
【0012】
第3発明に係る表示特性較正装置は、第1の発明において、前記第2の過程が、前記第1の補正手段の補正処理を停止させる過程と、前記第1の過程で設定された前記第1の補正手段の設定値に基づき、第2の補正手段の設定値を設定する設定過程と、前記第1の過程の補正を停止させ、前記設定過程で第2の補正手段が設定された状態で、前記測定手段で測定される前記表示特性から得られる画像信号の入出力関係が、目標とする入出力関係になるよう第2の補正手段を再設定する過程とから構成としてあることを特徴とする。
【0013】
第4発明に係る表示特性較正装置は、第1発明乃至第3発明において、予め記憶された画像信号の入出力関係に補正するための設定値から、特定の設定値を取得し、該設定値を前記第2の補正手段に設定する第3の過程と、予め記憶された画像信号の色配分に補正するための設定値から、特定の設定値を取得し、該設定値を前記第1の補正手段に設定する第4の過程と処理を制御する構成を更に備え、前記第1の過程から前記第2の過程までの処理と前記第3の過程から前記第4の過程までの処理とを選択的に実行する構成としてあることを特徴とする。
【0014】
第5発明に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、複数色の画像信号に応じた画像を表示する表示部の表示特性を較正させるためのコンピュータプログラムにおいて、コンピュータに、前記表示部の表示特性から得られる色配分が目標とする色配分になるよう補正する第1の過程と、前記表示部の表示特性から得られる画像信号の入出力関係と、第1の過程の補正情報に基づき、目標とする入出力関係になるよう補正する第2の過程との処理させることを特徴とする。
【0015】
第6発明に係るコンピュータでの読み取りが可能な記録媒体は、第5発明に係るコンピュータプログラムを記録してあることを特徴とする。
【0016】
第5発明に係る表示特性較正方法は、複数色の画像信号に応じた画像を表示する表示部の表示特性較正方法において、前記表示部の表示特性から得られる色配分が目標とする色配分になるよう補正する第1の過程と、第1の過程の補正情報に基づき、目標とする入出力関係になるよう補正する第2の過程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、マトリックス前段のLUTが不要となるため、表示装置のコスト増大を招くことなく、精度の高いキャリブレーションが可能となる。
【0018】
また、色度のキャリブレーションは、処理が高速なマトリックスに担わせるため、キャリブレーション処理時間の増大を招くことなく、精度の高いキャリブレーションが可能となる。
【0019】
また、表示パネル前段にLUTを設けたため、実測することなく、予め記憶した設定値のみで補正することで短時間で処理が終了する簡易的なキャリブレーションが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施の形態に係る表示装置のキャリブレーションシステムの構成を示すブロック図である。
【図2】本実施の形態に係るLUTで設定される階調特性の問題点を示すグラフである。
【図3】本実施の形態に係る高精度モードキャリブレーションを実行するフローチャートである。
【図4】本実施の形態に係るLUTで設定される階調特性を示すグラフである。
【図5】本実施の形態に係るLUTに設定される階調特性を示すグラフである。
【図6】本実施の形態に係る簡易モードキャリブレーションを実行するフローチャートである。
【図7】本実施の形態に係る簡易モードキャリブレーションを実行するフローチャートである。
【図8】本実施の形態2に係る高精度モードキャリブレーションを実行するフローチャートである。
【図9】本実施の形態2に係るLUTに設定される階調特性を示すグラフである。
【図10】表示装置の階調特性を説明するグラフである。
【図11】従来ある表示装置の較正システムの構成を示すブロック図である。
【図12】LUTによる階調特性の補正を説明するグラフである。
【図13】マトリックスに設定される設定値の一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
実施の形態1
図1は本発明に係る表示装置のキャリブレーションシステムの概略ブロック図であり、以下、図に従って説明する。
【0022】
コンピュータ20から赤色の画像信号Ri、緑色の画像信号Gi、青色の画像信号Biを、表示装置10内の色変換回路であるマトリックス13に入力する。マトリックス13から出力された各色画像信号Rm、Gm、Bmは各色毎に設けられた階調補正回路であるR用LUT12a、G用LUT12b、B用LUT12cに入力される。R用LUT12a、G用LUT12b、B用LUT12cから出力された各色画像信号Ro、Go、Boは表示パネル11に出力され、該画像信号レベルに対応した濃度の画像が表示パネル11に表示される。該表示された表示画像をセンサ30で測定して得られた色度及び輝度データSiをコンピュータ20に入力し、コンピュータ20に予め記憶されている目標階調特性と目標色度と比較する。コンピュータ20は該比較して発生した差分を解消するよう、制御信号Coを表示装置10内のマイクロコンピュータMPU14に出力する。制御信号Coに従いMPU14は、マトリックス13の設定値を変更して色特性を補正し、R用LUT12a、G用LUT12b、B用LUT12cの設定値を変更して階調特性を補正する。MPU14には、各種設定情報を記憶するメモリ15と、ユーザが操作可能な入力手段16が更に接続されている。
【0023】
図1に示すように本発明では、階調特性を補正するためのLUTはマトリックス13の後段に設けられた各色LUT12a、12b、12cのみとなる。これにより表示装置10のコスト増大は回避できるが、各色LUT12a、12b、12cが持つ回路能力を十分に活用できないという問題が発生する。この問題をグラフ化したものを図2に示す。横軸は各色LUT12a、12b、12cへ入力する画像信号Rm、Gm、Bmのレベルを示し、縦軸は表示パネル11から出力される輝度値を示す。マトリックス13、各色LUT12a、12b、12cともにスルー状態とし、その状態でセンサ30により測定された階調特性を実線と黒丸で示し、目標とする階調特性を点線と白丸で示す。従来どおり、特定の輝度値において、これを発する目標の階調特性上の入力レベル(白丸)と、実測の階調特性上の入力レベル(黒丸)とを対応付け、各色LUT12a、12b、12cに記憶する。マトリックス13は各色入力画像信号Ri、Gi、Biの配分率を変えることで、目標とする色度に合わせるものである。つまり、各色入力画像信号Ri、Gi、Biの最大レベルが255とすると、マトリックス13から出力される各色Rm、Gm、Bmの最大レベルが255を下回る場合がある。図2にはマトリックス13により入力画像信号の最大レベルが255から110に補正された場合を示している。この場合、コンピュータ20からは入力レベル0から255の範囲の画像信号が出力されるにもかかわらず、各色LUT12a、12b、12cでは入力レベル110を超える部分(斜線部分)が利用されないことになる。この問題はLUTによる補正の分解能を低下させ、忠実な階調表現を阻害する要因となり、前段LUTで階調変換を行っていた従来技術では起こりえなかった問題である。
【0024】
上記問題を回避するため、本発明では図3に示す手順で高精度モードのキャリブレーションを実行する。表示装置10は、外部からの指示あるいは自発的にキャリブレーションを開始し、表示装置10内のMPU14は各色LUT12a、12b、12cとマトリックス13をスルー状態にする(S11)。次にセンサ30にて、表示パネル11に表示される色度を測定する(S12)。コンピュータ20は、S12で得られた表示パネル固有の色度と予め定めた目標の色度を比較し、その差分を解消するようマトリックス13を設定する(S13)。前述の通りマトリックスは行列演算により色配分を補正するものであり、行列の書き換えとセンサ30による測定を繰り返しながら、目標色度へ近づけていく。マトリックス13の設定が完了した後、色度が目標値になった状態で表示パネル11の階調特性をセンサ30で測定する(S14)。具体的にはコンピュータ20から出力される各色画像信号Ri、Gi、Biの入力レベルを徐々に変化させながら、表示パネル11の輝度値を入力レベル毎に測定していく。各色画像信号Ri、Gi、Biを同時に変化させてもいいし、各色個別に変化させ測定するようにしてもよい。各色画像信号Ri、Gi、Biを同時に変化させる場合は、センサ30あるいはコンピュータ20に測定値を各色毎に分離する機能を持たせる必要がある。コンピュータ20は、S14で得られた表示パネル固有の階調特性と予め定めた目標の階調特性を比較し、その差分を解消する各色LUT12a、12b、12cの設定値を算出する(S15)。前述の通りLUTは入力レベルと出力レベルを対応づけることで階調特性を補正するものである。
【0025】
S15での算出方法について図4にもとづいて詳しく説明する。図4はLUT内で対応づけられる入力レベルと出力レベルを図式化したもので、横軸はLUTへの入力レベル、縦軸はLUT内で入力レベルに対応づけられた出力レベルを表している。LUTに設定される最大値は、想定される入力画像信号の最大値が一般的に割り当てられ、図4にあっては255がその最大値となっている。図4中の黒丸は最大入力レベルが255の時、目標階調特性に補正するためLUTに設定されるべき設定値である。便宜上、黒丸は9点のみ記してあるが、実際は入出力レベルに対する対応関係はより細かく設定される。前述の通り各色LUT12a、12b、12cはマトリックス13の後段に設置するため、マトリックス13で補正された範囲でしかLUTを活用できなくなる。例えばマトリックス13により最大レベルが255から110に抑えられた場合、図4の斜線に示す範囲が利用されないことになる。その結果、S15で算出される設定値は、入出力レベル110内の黒丸及び点線を入出力レベルの最大値が110となるよう伸張した図4中の黒四角及び実線で示したものとなる。
【0026】
S16では、S13とS15で求めた設定値に基づき各色LUT12a、12b、12cを設定する。S13で求めた設定値とはマトリックス13に設定される行列である。例えば、マトリックス13で最大レベルをRiは255、Giは200、Biは110に補正する場合、設定される行列式は以下のようになる。
【数2】

上記行列を例えば青色の画像信号Biについて演算すると、マトリックスの出力Bmは以下のように算出される。
【数3】

この演算式に従いS15で求めた設定値を変換する。これを図式化したものが図5である。出力レベルの範囲に変化はなく、入力レベルの範囲がS13の行列式に基づき0〜110から0〜255に伸張されている。この結果、前記斜線領域までLUTを活用できるため、分解能の高い階調補正が可能となる。他色のLUTについても同様の処理を行う。便宜上、マトリックスに設定する行列式を対角成分にのみ値が入っているものとしたが、これに限らず非対角成分に値を設定し色補正するようにしてもよい。
【0027】
各色LUT12a、12b、12cが完了した後、マトリックス13をスルー状態にする(S17)。S16で色配分を加味してLUTが設定されるため、マトリックス13での補正は不要となる。本発明においてマトリックス13は、最適な色配分を迅速に取得することにのみ利用され、実際の色補正は各色LUT12a、12b、12cが担うことになる。以上が本発明における高精度モードキャリブレーションの処理手順となる。
【0028】
本発明における簡易モードキャリブレーションの処理手順について、図6、図7に基づいて説明する。図6は表示装置10の製造工程における処理手順であり、図7はユーザが簡易モードのキャリブレーションを指示した際の処理手順となる。まず、高精度モード同様、マトリックス13、LUT12a、12b、12cをスルー状態にする(S21)。次に表示パネル11の階調特性をセンサ30で測定する(S22)。実測された階調特性を任意の階調特性にするよう各色LUT12a、12b、12cを設定する(S23)。LUTの設定方法は従来通りである。設定された各色LUT12a、12b、12cの設定情報は表示装置10内のメモリ15に記憶される(S24)。製造工程では、ガンマ係数1、1.8、2.2のように複数の階調特性について各色LUT12a、12b、12cを設定する。設定すべき階調特性すべてが設定したか否かを判別し(S25)、他に設定すべき階調特性があればS23に戻り、なければS26に進む。表示パネル11の色度をセンサ30で測定し(S26)、実測の色度が任意の色度となるようマトリックス13を設定する(S28)。色度についても製造工程では、4500[K]、5000[K]、5500[K]、6000[K]と複数の色度についてマトリックス13を設定する。設定すべき色度すべてが設定したか否かを判別し(S29)、他に設定すべき色度があればS27に戻り、なければ処理を終了する。なお、上記処理は製造工程ばかりでなく、ユーザが定期的に行うようにしてもよい。
【0029】
図7に従ってユーザによる簡易モードキャリブレーションの処理手順を説明する。入力手段16を介してユーザによる簡易モードキャリブレーションの実行指示をMPU14が受信する(S31)。具体的には、複数の階調特性と色度をメニュー化したOSD(オンスクリーンディスプレイ)を表示装置10に表示させ、ユーザが表示装置10に設けられた入力手段16を操作し、選択させるようにする。あるいは、ユーザがコンピュータ20を操作し、コンピュータ20からMPU14に指示するようにしてもよい。実行指示にはユーザ所望の階調特性と色度の情報が含まれ、MPU14はこれを取得する(S32)。ユーザ所望の階調特性を実現する各色LUT12a、12b、12cの設定値を、製造工程でメモリ15に記憶した設定情報の中から読み出し(S33)、読み出した設定値をLUT12a、12b、12cに書き込む(S34)。この時点でマトリックス13から後段の階調特性は、表示パネル11固有の歪んだ階調特性ではなく、ガンマ係数等で表される線形の階調特性となる。次にユーザ所望の色度を実現するマトリックス13の設定値を製造工程でメモリ15に記憶した設定情報の中から読み出し(S35)、読み出した設定値をマトリックス13に書き込む(S36)。マトリックス13から後段の階調特性はS34の時点で線形の階調特性となっているから、歪んだ階調特性に対し色変換した時に発生する色ずれは回避される。また、一連の処理ではセンサ30による測定が一切行われず、予め設定した情報のみで調整が行われているため、高速に任意の階調特性、任意の色度を得ることができる。
【0030】
実施の形態2
図8は実施の形態2に係る高精度モードのキャリブレーションの処理フローである。キャリブレーションシステムの構成については、図1に示す実施の形態1の構成と同一となる。また実施の形態1に係る高精度モードのキャリブレーションの処理フローを示す図3と同一の符号を振った図8中のステップS11、S12、S13については、実施の形態1と同一であるため説明を省略する。
【0031】
実施の形態2では、S13でマトリックス13が設定された後、マトリックス13をスルー状態とする(S14b)。次にS13で設定された設定情報に基づき、LUT12a、12b、12cの入力レベルを設定する(S15b)。S15bでの処理を図9に従って説明する。S11でLUT12a、12b、12cはスルー状態としているため、S15b前のLUT12a、12b、12cの設定値は図9中の黒四角及び点線で示したものになる。S14bではマトリックス13により入力信号のレベルは補正が施される。例えば最大入力レベルが110に補正された場合、LUT12a、12b、12cの入力レベルが0〜110の範囲にのみ利用され、実施の形態1と同様、図9中の斜線領域は利用されないことになる。そこでS15bでは、出力レベルはそのままに、S14bで0〜110の範囲に縮小した入力レベルを0〜255に伸張する。その結果、図9中に黒四角及び点線で示すS11で設定したLUT12a、12b、12cの設定値は、黒菱形及び実線で示した設定値に変換されることになる。S15bでLUT12a、12b、12cの設定値が変換された状態で表示パネル11の階調特性をセンサ30で測定し(S16b)、予め定めた目標の階調特性と比較して、その差分が解消されるよう各色LUT12a、12b、12cを設定する(S17b)。S16b、S17bについては、実施の形態1のS14、S15と同様の処理となるため説明は省略する。
【0032】
実施の形態2では、S15bでLUTの入力レベルが255まで伸張されるため、図9に図示した斜線領域までLUTを活用でき、分解能の高い階調補正が可能となる。なお、マトリックス13をスルー状態にするステップ(S14b)をマトリックス13設定直後としたが、これに限定されずセンサ30で表示画像の階調特性を測定(S16b)する前であってもよい。
【0033】
上述の実施形態では、コンピュータと表示装置が連動してキャリブレーション処理を実行するようにしたが、これに限定されるものではなく、コンピュータでの処理を表示装置内のMPUに担わせ、表示装置単独でキャリブレーション処理を実行するようにしてもよい。あるいはコンピュータでの処理の一部分、例えば測定値と目標値の比較は表示装置内のMPUに担わせるようにしてもよい。逆に表示装置内での処理をコンピュータに担わせるようにしてもよい。
【0034】
上述の実施形態では、色補正の手段として行列演算を行うマトリックスを用いる構成としたが、これに限定されるものではなく、画像信号を相対的に伸縮させる増幅回路を用いるようにしてもよい。
【0035】
上述の実施形態では、RGB三色の画像信号を入力する構成としたが、これに限定されるものではなく、二色以上の画像信号を入力するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0036】
10:表示装置
11:表示パネル
12a:赤画像信号用LUT
12b:緑画像信号用LUT
12c:青画像信号用LUT
13:マトリックス
14:MPU
15:メモリ
16:入力手段
20:コンピュータ
30:センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数色の画像信号の色配分を所定の演算で補正する第1の補正手段と、
第1の補正手段の後段に複数色毎に設けられ、入力レベルと出力レベルを対応づけて記憶し、入力レベルに対応づけられた出力レベルを参照し出力することで画像信号の入出力関係を補正する第2の補正手段と、
第2の補正手段の後段から出力される複数色毎の出力レベルに応じた画像表示を行う表示部と,
表示部の表示特性を測定する測定手段と
を備える表示部の表示特性を較正する表示特性較正装置において、
前記測定手段で測定された表示特性から得られる色配分が目標とする色配分になるよう前記第1の補正手段を設定する第1の過程と、
前記測定手段で測定された表示特性から得られる画像信号の入出力関係と、前記第1の過程で前記第1の補正手段に設定された設定値とに基づき、第2の補正手段の設定値を設定する第2の過程との処理を制御する構成としてあることを特徴とする表示特性較正装置。
【請求項2】
前記第2の過程は、
前記第1の過程の補正が施された状態で、前記測定手段により測定される前記表示特性から得られる画像信号の入出力関係が、目標とする入出力関係になるよう第2の補正手段に設定するべき設定値を取得する設定値取得過程と、
前記第1の過程で設定された前記第1の補正手段の設定値に基づき、前記設定値取得過程で取得した設定値を再計算し、再計算した設定値を前記第2の補正手段に設定する過程と、
前記第1の補正手段の補正処理を停止させる過程とから構成されることを特徴とする請求項1に記載の表示特性較正装置。
【請求項3】
前記第2の過程は、
前記第1の補正手段の補正処理を停止させる過程と、
前記第1の過程で設定された前記第1の補正手段の設定値に基づき、第2の補正手段の設定値を設定する設定過程と、
前記第1の過程の補正を停止させ、前記設定過程で第2の補正手段が設定された状態で、前記測定手段で測定される前記表示特性から得られる画像信号の入出力関係が、目標とする入出力関係になるよう第2の補正手段を再設定する過程とから構成としてあることを特徴とする請求項1に記載の表示特性較正装置。
【請求項4】
予め記憶された画像信号の入出力関係に補正するための設定値から、特定の設定値を取得し、該設定値を前記第2の補正手段に設定する第3の過程と、
予め記憶された画像信号の色配分に補正するための設定値から、特定の設定値を取得し、該設定値を前記第1の補正手段に設定する第4の過程と処理を制御する構成を更に備え、
前記第1の過程から前記第2の過程までの処理と前記第3の過程から前記第4の過程までの処理とを選択的に実行する構成としてあることを特徴とする請求項1乃至3に記載の表示特性較正装置。
【請求項5】
コンピュータに、複数色の画像信号に応じた画像を表示する表示部の表示特性を較正させるためのコンピュータプログラムにおいて、
コンピュータに、
前記表示部の表示特性から得られる色配分が目標とする色配分になるよう補正する第1の過程と、
前記表示部の表示特性から得られる画像信号の入出力関係と、第1の過程の補正情報とに基づき、目標とする入出力関係になるよう補正する第2の過程との処理させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項6】
請求項5に記載のコンピュータプログラムを記録してあることを特徴とするコンピュータでの読み取りが可能な記録媒体。
【請求項7】
複数色の画像信号に応じた画像を表示する表示部の表示特性較正方法において、
前記表示部の表示特性から得られる色配分が目標とする色配分になるよう補正する第1の過程と、
前記表示部の表示特性から得られる画像信号の入出力関係と、第1の過程の補正情報とに基づき、目標とする入出力関係になるよう補正する第2の過程とを含むことを特徴とする表示特性較正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−95285(P2011−95285A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246023(P2009−246023)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(391010116)株式会社ナナオ (160)
【Fターム(参考)】