説明

表示装置及び発光パネル

【課題】異なる発光色エリアパターンを有する有機ELパネルの発光効率、光の利用効率を改善する。
【解決手段】3原色RGBそれぞれの単色に最適な有機EL素子をストライプ状にパターン化した有機ELパネル100からの各単色RGB光107を液晶パネル108で調光して各単色RGB出力光110とする。また、調光された光107の色純度と表示の視認性を向上させる場合には、ブラックマトリクス付きカラーフィルタ109を通す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜発光素子を用いた表示装置及びその素子を用いた照明板などの発光パネル及び光デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、透過する光の強度を制御する液晶などの光シャッター機能素子を用いるフルカラー表示パネルは、蛍光灯などの白色発光の光源(広波長域発光体)をバックライトに用いて、赤(R)、緑(G)、青(B)のフィルタを透過させて得られる3原色の光により、多色からフルカラー表示を行っている。
【0003】
近年、有機EL発光素子などの、薄膜面発光体が実用となり、バックライトとしての蛍光灯などに代わって用いられると考えられている。しかし、有機EL発光素子の発光スペクトルは可視全域を十分カバーするものではないため、発光波長領域の異なる2種類以上の発光素子を積層や混合で形成して、幅広い(理想的には可視全域)波長に十分な強度の発光成分を持たせた、広波長域発光体を用いることが提案されている。ほとんどの場合、単色性であるところの有機EL発光素子から「白色」発光を実現する手法が示されている。例えば、下記特許文献1には、2種類の発光層を積層し、両方を発光させることによって平面状の白色光源を得る方法が開示されている。
【特許文献1】特開2002−93583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この方法は、2つの原因で、パネルの駆動エネルギーの高効率化実現に逆行している。第1の原因は、単色有機EL発光素子の発光中心を複数種用いて広波長域発光体を構成する上での効率の低下であり、第2の原因は、広波長域発光を液晶などの光シャッター機能素子に入射して用いること自体にある。
【0005】
まず、第1の原因について説明する。単色有機EL発光素子は、各層膜厚、発光中心濃度などの構造の最適化により、チャージバランス、励起状態の高率発光遷移を実現し、発光効率を理論的限界に近い高い値で達成している。
【0006】
この単色性の有機EL素子の発光中心から広発光波長域有機EL素子を実現するには、短波長側・長波長側に亘る2種類以上の単色発光中心の混合あるいは積層により作成する。しかし、この広発光波長域有機EL素子においては、単色で最適化した構造から単純に混合、積層しても、特に、短波長側発光強度が、相対的に低下するという現象が生じる。
【0007】
これは、1つには、再結合発光領域に、狭エネルギ−ギャップと広エネルギ−ギャップが近接して存在すると、長波長発光に対応する狭エネルギ−ギャップの遷移が生じやすくなることに起因している。それに加えて、一度生じた短波長側の発光が長波長側発光中心によって吸収され、長波長側発光に光−光変換される現象(photoluminescence、PL)が生じていることも寄与している。
【0008】
そのため、バックライトとして用いる広発光波長域有機EL素子においては、発光中心濃度や膜厚再調整を行い、広エネルギ−ギャップの遷移に対応する短波長側発光を相対的に増量して「白色化」を図ることになる。これは単色有機EL素子で、構造最適により実現した高効率化に逆行することになり、広発光波長域有機EL素子の効率が単色有機EL素子より、数割劣る原因となっている。
【0009】
第2の原因は、広波長域発光を液晶などの光シャッター機能素子に入射して用いること自体にある。すなわち、そもそもの有機EL素子の共通的な特徴として、単一発光素子では単色性に近い発光を、混合して広波長域化し、さらに、前面のRGBフィルタでカットし単色化して最終的にパネルから出力している。そのために、RGB各画素で常に可視全域化された光の約2/3がカットされて無駄になっているのである。
【0010】
以上を要約すると、有機EL素子を白色バックライト光源として用いるフルカラー表示パネルは、そもそも単一発光素子では、単色性に近い発光を混合して広発光波長域化する過程において効率を低下し、さらに、出射時にRGBフィルタで単色化することによって損失が生じている。したがって、第2の原因による損失は、効率の67%(〜2/3)とみなすことができ、第1の原因による損失は(材料に依存するので一概には言えないが)20%程度とみなすと、全体として7割以上の効率低下が生じるということができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
表示装置に用いられる液晶などの光シャッター機能素子に入射させる光の光源として、異なる発光色エリアパターンを有する有機ELパネルを用いる。
【発明の効果】
【0012】
単色の有機EL素子を用いることにより白色化するときの効率の低下は生じない。また、前面RGBフィルタでそれぞれ1/3ずつを捨て去るといった損失も生じない。したがって、高効率化を図ることができる。
【0013】
なお、本発明は、発光ディスプレイ、発光素子、光デバイス、通信用光素子、照明板などに利用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を用いて、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、液晶などの光シャッター機能素子への光入射に合わせて、3原色RGBそれぞれの単色に最適な有機EL素子をストライプ状にパターン化した有機ELパネル(RGB3色エリアパターン有機ELパネル)を用いた表示装置の概略図である。
【0016】
図1において、順次、基板101上に、Alなどの反射機能を有する金属電極膜102、有機薄膜の電子輸送層103、ストライプ状に並列に形成したRGB有機薄膜発光層104、有機薄膜の正孔輸送層105、ITOなどの透明電極106が形成された有機ELパネル100からの各単色RGB光107が各光シャッター機能素子を有する液晶パネル108に入射される。ここで、各単色RGB光107の強度は、液晶パネル108の各光シャッター機能素子で調光される。
【0017】
なお、調光された各単色RGB光107は、さらに、RGB各光フィルタとその間隙をブラックマトリクスでうめたカラーフィルタ109を通して、最終出力される各単色RGB出力光110となる。このカラーフィルタ109は、最終的に出力される各単色RGB出力光110の色純度を確保・調整する機能、外光の入射を抑えて色純度と視認性を向上する機能を果たすが、色純度や視認性が重要でない表示装置においては省略することもありうる。
【0018】
また、液晶パネル108に書き込んである縦線は、下から入る各単色RGB光107と上部に出て行く取り出し光が通る光の経路を模式的に示したもので、それぞれに遮断・独立した構造体の作り込みを必ずしも意味するものではない。カラーフィルタ109についても同様である。
【0019】
また、図2に示すように、発光前面に半透明反射機能を有する保護膜111を設けて有機ELパネル100における有機EL素子を共振器構造とすることにより、有機EL素子発光の指向性を向上させ、光シャッター機能素子への光注入効率を向上させ色調整をすることが可能である。共振器の効果として同時に強度のエンハンスも図り得る。共振器長は、共振器を構成する任意の膜の厚さを変えることによって、画素毎に調整できる。また、この保護膜には、液晶パネルに対する防水・防湿機能をもたせることも可能である。
【0020】
各単色RGB出力光110も、半透明反射機能を有する保護膜111の反射率を高めに設定することにより、指向性をもつことになるので、いわゆる「横から覗かれにくい」ディスプレイとなる。なお、これの実用視野角を広げるためには、拡散板等を挿入して各単色RGB出力光110を取り出せばよい。液晶パネル108で、用途により、視認性向上などの目的で偏向板や、位相差板を用いる光学設計は、従来と同様である。
【0021】
また、反射機能を有する金属電極膜102などから電子輸送層103に電子を効率よく注入させるにあたっては、その界面にLiFなどの仕事関数を調整する層を挿入することは、従来と同様である。
【0022】
RGB3色エリアパターンの有機ELパネル100を形成するには、例えば、図3に示したように、開口部113が1/3のマスクを用いて、マスクを横にスライドさせ、それぞれRGBの発光部の位置でそれぞれの発光材料を蒸着する。マスクは、遮断部(マスク部)112と開口部(膜形成部)113とからなる。この場合、上下薄膜間のショート等を生じさせないために、マスク位置合わせには高度な精度が必要になる。
【実施例2】
【0023】
図4は、短波長側発光層をベタ膜で形成した上に、長波長側発光膜を部分的に形成した構造の有機EL素子をストライプ状にパターン化した有機ELパネル(2色エリアパターン有機ELパネル)のパターンを、液晶などの光シャッター機能素子への光入射口のパターンに合わせた表示装置の概略図である。実施例1と異なるのは、ベタ膜で形成した青色発光層(短波長側発光層)121と部分的に形成した黄色発光層(長波長側発光層)122である。この黄色発光層(長波長側発光層)122からの光107は、液晶パネル108で、その強度が調光され、カラーフィルタ109で、その波長が変換される。
【0024】
図4に示す有機EL素子構造(2色エリアパターン有機ELパネル)のメリットは、発光層の微細パターンを形成するのが1度だけになるので、製膜装置に微細な位置あわせの機構が不要になることである。
【0025】
また、図5に示すように、発光前面に半透明反射機能を有する保護膜111を設けて有機EL素子を共振器構造とすることにより、有機EL素子発光の指向性を向上させ、光シャッター機能素子への光注入効率を向上させ、同時に色調整をすることが可能である。この保護膜は、液晶パネル108に対する防水・防湿機能をもたせることも可能である。
【0026】
図4,5に示す2色エリアパターンの有機ELパネル100を蒸着法により形成するには、まず、青色発光層121をベタ膜で形成する。その後、図6(a)に示したように、開口部が1/3又は2/3のマスクを用い、長波長側発光層のパターンを形成する。マスクとしては、図6(b)に示したように、開口部を短冊状にしてマスクの強度補強をしたものをもちいることが可能になる。
【0027】
開口部を1/3又は2/3とするかは、短波長側発光を2色(B、G)として追加形成する発光体を1色(R)として使う場合は開口部が1/3とし、短波長側発光を1色(B)として追加形成する発光体を2色(R,G)として使う場合は開口部が2/3とする。
【0028】
2色エリアパターンの有機ELパネル100においては、短波長側発光層部と長波長発光層部を積層した部分においては、出力として使用される長波長発光のみが生じればよい。したがって、「白色光」を出させる場合より、素子構造の最適化はより容易となり、その効果として発光効率は単色有機EL素子に近づいて高効率化することができる。
【0029】
また、(1)長波長発光部を短波長側発光部の発光の前面側に置き、PL発光を助長して利用する、(2)短波長−長波長で励起寿命を大−小の関係にする(短波長側発光層の材料を励起寿命の長い燐光材料にし、長波長側発光層の材料を励起寿命が比較的短い燐光材料にするなど)、等の設計がディスプレイの発光効率向上に有効である。なお、3重項励起状態を発光に利用する燐光発光素子は,その励起寿命がそれ以外のものより桁で長いと言う特徴があり,これまでに知られているものは、いずれも発光強度の1/e減少特性時間において1μ秒より長い。
【0030】
図1、2、4、5に示す色エリアパターンを有する有機ELパネル100の作成には、蒸着のみならず、インクジェットヘッドなどを用いた塗布による形成法なども用いることができる。
【0031】
図7に示すように、2色エリアパターンの有機EL素子で、部分的に長波長発光層を形成する共振器構造をとることには、さらに構造上のメリットが生じる。
【0032】
図7において、長波長側の共振器長201は短波長側の共振器長202より長いので、通常、透明電極膜厚を厚くしたり、膜厚追加のための透明バッファ層を設けたりするが、この構造では、長波長側の部分形成発光層部の膜厚分だけ共振器長が長くなることになる。すなわち、短波長発光部分で共振器長を短波長に合わせ、同時に、長波長発光部分では長波長に共振器長を合わせる、という設計が容易となる。
【0033】
例えば、1波長が共振器長になっている素子においては、短波長側共振波長が500nm,長波長側発光波長が585nm、長波長発光層屈折率が1.7とすると、(585−500)/1.7/2=25nmに長波長発光層部膜厚を設定すればよい。
【0034】
以上の発光色エリアパターンの有機EL素子において、設計によっては、図8に示すストライプのライン方向のほうが、それと直交する方向より視野角が広くなる特徴がある。
【0035】
例えば、発光層121,122のストライプのライン方向と、フィルタ123,124,125のライン方向とを同じにすることによって、青色発光層121からのライン方向の発光は、Bフィルタ部125を通るが、Gフィルタ部124には、黄色発光層122からの発光のみならず90°方向の青色発光層121からの発光が通ることになる。なお、123はRフィルタ部である。
【0036】
例えば、コンピュータ用表示装置としての用途では、多くの場合、ストライプのライン方向を横にするほうが有効である。液晶パネルなどは、2枚(以上)の透明基板を構成要素とするので、「各画素のサイズやピッチ」と「液晶パネル基板の厚さや有機ELパネルと液晶パネルとの間隔」などの比率によっては、このような角度依存性を勘案した装置構成が重要になる。
【実施例3】
【0037】
図9は、2色エリアパターンの有機ELパネル100の前面に、液晶パネルなどの代わりに、2色エリアパターンと同じ周期のマスクパターンを形成した透明板を組合せ、重ね方を微調整することにより、発光色を変えられる発光パネルの概略図であって、301は遮断部付透明板、302は透過部、303は遮断部である。
【0038】
遮断部付透明板301の遮断部303は、2色エリアパターンの整数倍の周期や、あるいは、ランダムに間引いたパターンを採用することも可能である。また、遮断部303は半透明でもよく、遮断部付透明板301の全域において透過率が周期的に変化するもの、色選択性があるものでもよい。
【0039】
図9(a)では、黄色を一部カットし、図9(b)では、遮断部付透明板301を横にずらして青色をカットすることにより、それぞれ白緑色、黄色の出力光が得られることを示している。このように、遮断部付透明板301を移動させることによって、すなわち、遮断部付透明板301と有機ELパネル100との配置状態によって、出力光の色調を変えることができる。
【0040】
本実施例においても、半透明反射機能を有する保護膜111を形成した共振器構造を採用するか、半透明反射機能を有する保護膜111を省略するかは、発光の指向性が必要な用途かどうかによって選択される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る表示装置の概略図
【図2】図1に示す有機ELパネル100を共振器構造とした表示装置の概略図
【図3】図1,2に示す有機ELパネル100を蒸着で形成する際に用いる蒸着マスクを示す図
【図4】本発明に係る他の表示装置の概略図
【図5】図4に示す有機ELパネル100を共振器構造とした表示装置の概略図
【図6】図4,5に示す有機ELパネル100を蒸着で形成する際に用いる蒸着マスクを示す図
【図7】2色エリアパターンの有機ELパネル100の共振器長の説明図
【図8】2色エリアパターンの有機ELパネル100の視野角の説明図
【図9】本発明に係る発光パネルの概略図
【符号の説明】
【0042】
100…有機ELパネル、101…基板、102…反射機能を有する金属電極膜、103…電子輸送層、104…RGB有機薄膜発光層、105…正孔輸送層、106…透明電極、107…各単色RGB光、108…液晶パネル、109…ブラックマトリクス付きカラーフィルタ、110…各単色RGB出力光、111…半透明反射機能を有する保護膜、121…青色発光層(短波長側発光層)、122…黄色発光層(長波長側発光層)、123…Rフィルタ部、124…Gフィルタ部、125…Bフィルタ部、201…長波長側の共振器長、202…短波長側の共振器長、301…遮断部付透明板、302…透過部、303…遮断部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
背面から導入した光の強度や波長を変換して前面に導出する表示装置において、前記背面に用いる光源は、2色以上のエリアパターンを有し、そのエリアパターンからの発光の強度や波長を変換することを特徴とする表示装置
【請求項2】
前記光源が、有機EL素子からなることを特徴とする請求項1に記載の表示装置
【請求項3】
前記有機EL素子は、その前面に半透明反射機能を有する膜を有し、その背面に反射機能を有する膜を有することにより光共振器構造としたことを特徴とする請求項2に記載の表示装置
【請求項4】
前記有機EL素子の発光波長域は、赤色波長域、緑色波長域、青色波長域の3領域であることを特徴とする請求項2又は3に記載の表示装置
【請求項5】
前記有機EL素子の発光波長域は、可視短波長側波長域、可視長波長側波長域の2領域であることを特徴とする請求項2又は3に記載の表示装置
【請求項6】
前記可視短波長側波長域、可視長波長側波長域の2領域は、平面状に形成した可視短波長側波長域の発光層上に、可視長波長側波長域の発光層をパターン状に部分的に形成することを特徴とする請求項5に記載の表示装置
【請求項7】
前記可視短波長側波長域の発光層の励起寿命は、可視長波長側波長域の発光層の励起寿命より長いことを特徴とする請求項6に記載の表示装置
【請求項8】
前記可視短波長側波長域の発光層からの発光は、燐光発光であることを特徴とする請求項7に記載の表示装置
【請求項9】
平面状に2色以上のエリアパターンを有する有機ELパネル上に、そのエリアパターンと同一又は整数倍の周期で、有機ELパネルからの発光を部分的に遮蔽する遮蔽部を有する透明板を設置し、有機ELパネルと透明板との配置状態によって、前面に出射する出力光の色調を変えることを特徴とする発光パネル
【請求項10】
前記有機ELパネルは、その前面に半透明反射機能を有する膜を有し、その背面に反射機能を有する膜を有することにより光共振器構造とした有機EL素子からなることを特徴とする請求項9に記載の発光パネル
【請求項11】
平板状の可視短波長側発光層上に、可視長波長側発光層を部分的に形成した共振器構造の有機EL素子からなる発光パネルにおいて、可視短波長側発光層の部分では、その可視短波長の共振器長を有し、可視短波長側発光層上に可視長波長側発光層を追加形成した部分では、追加形成した可視長波長側発光層の膜厚によって、その可視長波長に適した共振器長となることを特徴とする発光パネル

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−3825(P2007−3825A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183867(P2005−183867)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】