説明

表面が非粘着処理された積層体及びその用途

【課題】 ゴム本来の持つシール性を損なうことなく、ゴム層の固着や固体潤滑剤の脱落を防止し、また高温度環境下で液状となるバインダーの流出によるゴム層の摩滅や、ゴム層の劣化が生じにくい積層体を提供する。
【解決手段】 ゴム層に非粘着処理層が積層されてなる積層体であって、前記非粘着処理層は、固体潤滑剤、フッ素ゴム、加硫剤及び液状担体からなる非粘着処理用塗料組成物を塗装することにより形成した層であり、厚みが5μm未満であるものであることを特徴とする積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が非粘着処理された積層体及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンガスケット分野では、近年アスベスト材料からの代替品としてゴムコートのメタルガスケットが用いられている。これは、ビード加工したメタルによって生じる弾性と、ゴムのミクロシール性の両方を活かしてシール材として構成されたものである。
【0003】
このようなゴムコートのメタルガスケットは、表面がゴム層によって覆われているので、その製造工程においてゴム層同士が固着しやすい問題がある。また、エンジンのガスケット挿入部は、エンジンの運転及び停止の繰り返しによる温度変化が大きいので、エンジンとガスケットとの接合面に膨張率等の差によってズレを生じることがある。更に、ゴムコートのメタルガスケットは、その表面がゴム層であり摩擦抵抗が大きく滑りにくいので、接合面に生じる応力を吸収しにくく、ゴム層が損傷しやすいという問題もある。
【0004】
そこでゴム層の固着を防止する目的で、従来以下の方法が試みられてきた。
1)固体潤滑剤を塗布し非粘着層をゴム層の上に設ける(特許文献1)
2)ワックス等の液状潤滑剤を塗布し非粘着層をゴム層の上に設ける(特許文献2)
3)固体潤滑剤とエポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂の混合物を塗布し非粘着層をゴム層の上に設ける(特許文献3)
【0005】
しかしながら上記1)の方法では、固体潤滑剤は、バインダーによって保持されていないので、ガスケット加工時に固体潤滑剤がプレス金型を汚染したり、高負荷の応力が生じた場合に固体潤滑剤による被着ゴム層の摩滅が発生してガスケットのシール性が低下する問題がある。
【0006】
上記2)の方法では使用温度環境が厳しい場合、バインダーが経年と共に流出して摩擦力の低減効果が損なわれる等の問題がある。
【0007】
上記3)の方法では固体潤滑剤を保持するバインダー層として使用する樹脂がウレタン樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂であり、これらの樹脂を使用した被膜は弾性を有しないため被膜が硬くなり、ミクロシール性に劣る問題がある。
【特許文献1】特開平6−081956号公報
【特許文献2】特開平11−001678号公報
【特許文献3】特開2002−130480
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、ゴム本来の持つシール性を損なうことなく、ゴム層の固着や固体潤滑剤の脱落を防止し、また高温度環境下で液状となるバインダーの流出によるゴム層の摩滅が生じにくい積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ゴム層に非粘着処理層が積層されてなる積層体であって、前記非粘着処理層は、固体潤滑剤、フッ素ゴム、加硫剤及び液状担体からなる非粘着処理用塗料組成物を塗装することにより形成した層であり、厚みが5μm未満であるものであることを特徴とする積層体である。
本発明は、金属板に本発明の積層体を設けたことを特徴とする積層体である。
本発明は、上記本発明の積層体からなるエンジンガスケットである。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明の積層体は、ゴム層に非粘着処理層が積層されてなるものである。
上記積層体において、上記ゴム層は、シール性を付与するため設けるものであり、一般に、ゴム組成物の塗装や圧縮成形等の公知の方法で形成することができる。
上記ゴム組成物を構成するゴムとしては、塗膜を形成しうるものであれば特に限定されず、例えばフッ素ゴム、NBR、水素化NBR、SBR、アクリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、EPM、EPDM等が挙げられるが、なかでも耐熱性、耐薬品性の点からフッ素ゴムが好ましい。本発明における非粘着処理層はフッ素ゴムを含有することから、フッ素ゴムとの親和性が良好でゴム層と非粘着処理層との間で高い密着性を有するものとなるため好ましい。
上記ゴム層は、例えば、スプレーコーティング、フローコーティング、浸漬塗布、ディスペンサーコーティング、スクリーンコーティング等の通常の塗布方法により上記ゴム組成物を後述の基材に塗布し、充分に乾燥させた後、加熱焼成することにより形成することができる。
上記ゴム組成物は、後述の加硫剤等、公知の添加剤を含むものであってもよく、使用する組成物の種類等に応じて適宜調製することができる。
上記ゴム層は、例えば、ゴム組成物を塗布し、乾燥させた後、焼成することにより形成することができる。
上記塗布、乾燥及び焼成の各条件は、使用するゴム組成物の組成等に応じて適宜設定することができる。
【0011】
本発明の積層体において、非粘着処理層は、固体潤滑剤、フッ素ゴム、加硫剤及び液状担体からなる非粘着処理用塗料組成物を塗装することにより形成したものであり、厚みが5μm未満であるものである。
フッ素ゴム及びフッ素樹脂を含有する塗料組成物は公知であるが、これによって5μm未満という薄い塗膜をゴム層上に形成することは行われていない。すなわち、従来技術としてはこのような塗料組成物によって5μm以上の塗膜を形成し、フッ素樹脂を表面に偏在させて、表面の非粘着性及び潤滑性を得ることが知られているのみである。
本発明においては、ゴム層上に固体潤滑剤を含有する5μm未満の薄い塗膜を形成させることによって、固体潤滑剤が表面に偏在していない塗膜を形成するものである。このような状態でフッ素ゴムを硬化させることによって、固体潤滑剤をムラなく表面に存在させ、安定して保持することができ、ゴム層本来のシール性も損なうことがなく、ゴム層の固着や固体潤滑剤の脱落を防止し、高温、長時間の焼成によるゴム層の劣化防止を図ることができる。
【0012】
本発明における非粘着処理用塗料組成物に含まれる各成分を以下に説明する。
固体潤滑剤
上記非粘着処理用塗料組成物において、固体潤滑剤は、得られる塗膜に非粘着性等を付与するために添加するものである。
上記固体潤滑剤は、特に限定されないが、耐熱性、耐磨耗性等の点で、フッ素樹脂であることが好ましい。また、固体潤滑剤として、フッ素樹脂に加えてグラファイト、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、フッ化黒鉛、窒化ホウ素等を1種又は2種以上含むものであってよい。
【0013】
上記フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕、テトラフルオロエチレン〔TFE〕/ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕共重合体〔FEP〕、TFE/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PFVE〕共重合体〔PFA〕、TFE/HFP/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体〔EPA〕、TFE/クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕共重合体〔PCTFE〕、TFE/エチレン〔Et〕共重合体〔ETFE〕、ポリビニリデンフルオライド〔PVDF〕等が挙げられ、なかでも耐熱性、耐磨耗性等の点で、PTFEであることが好ましい。
【0014】
上記固体潤滑剤は、平均粒径が0.1〜0.5μmであることが好ましく、より好ましい下限が0.15μmであり、より好ましい上限が0.40μmである。
本明細書において、平均粒径は、堀場製作所製CAPA700(遠心沈降式粒度分布測定装置)にて測定した値である。
【0015】
フッ素ゴム及び加硫剤
上記フッ素ゴムは、得られる非粘着処理層においてバインダー成分として固体潤滑剤を保持するとともに、上述のゴム層のシール性を維持しながら、耐熱性、耐油性、耐LLC性等の特性を向上するために添加するものである。
上記フッ素ゴムは、−CH−を有する繰り返し単位を主鎖に含む含フッ素共重合体であることが好ましい。
上記−CH−を有する繰り返し単位としては、例えば、−CF−CH−、−CH−CH−、−CH−CH(CH)−を挙げることができ、これらと共重合することができる−CH−を含まない含フッ素繰り返し単位としては、−CF−CF(CF)−、−CF−CF−、−CF−CFCl−、−CF−CF(CFH)−、及び、−CF−CF(OR)−(式中、Rは炭素数1〜9のフルオロアルキル基である。)等が挙げられる。
【0016】
上記含フッ素共重合体としては、例えば、ビニリデンフルオライド〔VDF〕/HFP共重合体、VDF/TFE/HFP共重合体等のVDF系共重合体;Et/HFP共重合体、TFE/プロピレン〔Pr〕共重合体等が挙げられる。
上記含フッ素共重合体は、例えば、「ダイエル」(商品名、ダイキン工業社製)、「バイトン」(商品名、E.I.デュポン社製)、「アフラス」(商品名、旭硝子社製)等の商品名で市販されている。
前記ゴム層がフッ素ゴムからなるものである場合は、非粘着処理用塗料組成物のバインダー成分として使用されるフッ素ゴムは、ゴム層との密着性が良好となることから、ゴム組成物に使用するゴムと同じ種類であることがより好ましい。
上記非粘着処理用塗料組成物は、上記フッ素ゴムを1種のみ含有するものであってもよいし、2種以上含有するものであってもよい。
上記含フッ素共重合体は、重量平均分子量が5000〜200000であるものが好ましい。
上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー〔GPC〕によるポリスチレン換算の重量平均として求めた値である。
【0017】
上記非粘着処理用塗料組成物において、加硫剤は、ゴム膜の形成を促進し、得られる塗膜を強固にするため添加するものである。
上記加硫剤としては、例えば、ポリアミン類、ポリヒドロキシ芳香族化合物(ポリオール)類、パーオキサイド類等が挙げられるが、なかでもポリアミン類が好ましい。
【0018】
上記ポリアミン加硫剤としては、例えばトリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、エタノールアミン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサ−2−スピロ[5,5]−ウンデカン等の脂肪族ポリアミン及びその塩、ジアミノジフェニルメタン、キシリレンジアミン、フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族アミン及びその塩、変性ポリアミン、ポリアミドアミン等、
Si、Al、TiおよびZrからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属のアミノ基含有金属化合物。
好ましいアミノ基含有金属化合物としては、アミノ基含有シランカップリング剤、アミノ基含有アルミニウムカップリング剤、アミノ基含有チタンカップリング剤、アミノ基含有ジルコニウムカップリング剤があげられる。
好ましいアミノ基含有シランカップリング剤としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、β−アミノエチル−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等
が挙げられる。
上記加硫剤の添加量は、使用するフッ素ゴムの種類や量に応じて適宜選択することができ、特に限定されない。
【0019】
液状担体
上記非粘着処理用塗料組成物において、液状担体とは、他の成分を溶解または分散させうる液体をいい、例えば、水、水と有機溶剤との混合溶媒、有機溶剤等が挙げられる。
【0020】
本発明において、液状担体としてはゴム層の劣化を生じない点で、水が好ましい。上記液状担体として水を用いる場合には、分散剤存在下、乳化重合を行い得られるフッ素ゴムを含有する水性分散液、塊状重合した後粉砕して得られたフッ素ゴムを分散剤を用いて水中に分散させて水性分散液等とすることができる。
【0021】
上記分散剤としては、ラウリル硫酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、ω−ハイドロパーフルオロアルキルカルボン酸塩等のアニオン系界面活性剤;ポリエチレングリコール誘導体、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコール誘導体等の非イオン性界面活性剤;アルキルポリエチレングリコールエーテル、アルキルフェニルポリエチレングリコールエーテル、アルキルポリエチレングリコールエステル、エチレングリコール/プロピレングリコール共重合体、ポリエチレングリコールアルキルエステル、ポリカルボン酸塩等の樹脂系分散剤が挙げられる。
【0022】
その他
上記非粘着処理用塗料組成物は、更に熱硬化性樹脂と必要に応じ併用する硬化剤とを含むものであってもよい。
上記熱硬化性樹脂は、得られる非粘着処理層のバインダー成分において積層体の耐熱性、強度等を向上させるために添加するものである。上記熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
上記非粘着処理用塗料組成物は、上記熱硬化性樹脂を1種のみ含有するものであってもよいし、2種以上含有するものであってもよい。
上記熱硬化性樹脂の硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤、フェノール系硬化剤、酸無水物系硬化剤等が挙げられる。
上記硬化剤の添加量は、使用する熱硬化性樹脂の種類や量に応じて適宜選択することができ、特に限定されない。
【0023】
上記非粘着処理層は、シール性を維持する点で、厚みが5μm未満、好ましくは3μm以下である。また厚みの下限は固体潤滑剤の粒径であり、好ましくは0.1μmである。
【0024】
上記非粘着処理層は、非粘着処理層の厚みが上記範囲内にあるので、一般に、固体潤滑剤からなる粒子がバインダー成分からなるマトリックス中に分散している塗膜となる。
上記塗膜は、上記バインダー成分を硬化して固体潤滑剤を保持するものであるので、ゴム本来の持つシール性を損なうことなく、ゴム層の固着、固体潤滑剤の脱落を抑制することができ、また高温度環境下で液状となるバインダーの流出によるゴム層の摩滅や、ゴム層の劣化が生じにくい積層体を提供することができる。
【0025】
上記非粘着処理層は、上述の非粘着処理用塗料組成物を被着ゴム層の表面に塗布し、充分に乾燥させた後に焼成することにより形成することができる。
上記非粘着処理用塗料組成物は、特に限定されないが、一般に固体潤滑剤がバインダー成分に対して多いとバインダー成分で固体潤滑剤が保持できなくなり、固体潤滑剤が脱落する。また、固体潤滑剤がバインダー成分に対して少ないと十分な非粘着性が得られない。これらの比率は使用する固体潤滑剤の粒径とバインダー成分の粒径により決まる為一律に範囲を規定できるものではない。バインダー成分に対する加硫剤の比率は加硫剤が多いとポットライフが短くなり、また、加硫剤が少ないと固体潤滑剤を保持できなくなる。バインダー成分に対する加硫剤の量は加硫剤の種類により異なる為一律に範囲を規定できるものではない。
上記塗布は、上述のゴム層に関して説明した方法等、従来公知の方法にて行うことができる。
上記乾燥及び焼成の条件は特に限定されず、塗布する非粘着処理用塗料組成物の組成や量、ゴム層の組成等に応じて適宜設定することができる。
【0026】
本発明の積層体は、例えば、鉄、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、真鍮等の金属類からなる金属板に設けることができる。
金属板に本発明の積層体を設けた積層体もまた、本発明の一つである。
本発明の積層体は、本発明の積層体を設けたものであるので、シール性、耐磨耗性、耐熱性、耐油性、耐LLC性等に優れている。
上記積層体としては、例えば、オイルシール、継ぎ手、アンテナキャップ、コネクター、ガスケット、バルブシール、埋設ボルト、埋設ナット等の工業部品等が挙げられ、なかでも、メタルガスケットに適する。
上記メタルガスケットとしては、例えば、自動車等のエンジンガスケットが挙げられる。上記積層体からなるエンジンガスケットもまた、本発明の一つである。
【発明の効果】
【0027】
本発明の積層体は、上述の構成よりなるので、ゴム本来の持つシール性を損なうことなく、ゴム層の固着や固体潤滑剤の脱落を防止し、また高温度環境下で液状となるバインダーの流出によるゴム層の摩滅や、ゴム層の劣化を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に実施例及び比較例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例及び比較例のみに限定されるものではない。
各実施例及び比較例における組成物の量は、特に断りがない場合は、質量基準である。
【0029】
実施例1
(1)ゴム層の形成
予めアセトン洗浄しておいたアルミ板に、フッ素ゴム塗料(ダイキン工業(株)製ダイエルDPA−382)をフローコーターにて塗装し、100℃で30分乾燥した後に、200℃で30分焼成して、ゴム層厚み25μmの塗装板を得た。
(2)非粘着処理用塗料組成物の調製
フッ素樹脂水性ディスパージョン注1)(フッ素樹脂含有量60%) 100部
フッ素ゴム水性ディスパージョン注2)(フッ素ゴム含有量60%) 100部
アミノシラン 6部
水 3800部
注1)フッ素樹脂として、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕を含有。
注2)フッ素ゴムとして、ビニリデンフルオライド〔VDF〕/テトラフルオロエチレン〔TFE〕/ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕弾性状共重合体(以下、単にフッ素ゴムという。)を含有。
(3)非粘着処理層の形成
(1)で得られた塗装板を(2)で得られた非粘着処理用塗料に、常温で浸漬塗装し、次いで80〜100℃で5分間乾燥を行った後、200℃で5分間焼成し、厚み1μmの非粘着処理層をもつ積層板を得た。
【0030】
比較例1
実施例1(1)で得られた塗装板を、比較例1の積層板として用いた。
【0031】
比較例2
実施例1で得られた塗装板のゴム層上に、非粘着処理用塗料として、フェノール樹脂(DICフェノライトTD2093社製)をメチルエチルケトン溶媒にて3%となるように希釈した溶液に、PTFE粉末(ダイキン工業製)をフェノール樹脂と同量添加し、分散した塗料に常温で浸漬塗装し、次いで80〜100℃で5分間乾燥を行った後、200℃で5分間焼成し、厚み1μmの非粘着処理層をもつ積層板を得た。
【0032】
実施例及び比較例で作成した積層板について、塗膜表面の非粘着性、耐磨耗性、柔軟性を以下のようにして評価した。
<塗膜表面の非粘着性試験>
1−1)上記積層板を2cm幅で切り出し、2cm×3cmの面積にて塗膜面同士が重なるように重ね、荷重1kg、200℃、1時間保持した(塗膜同士の粘着性)。
1−2)上記積層板を2cm幅で切り出し、別途用意したアルミ板が2cm×3cmの面積にて塗装面に重なるように重ね、荷重1kg、200℃、1時間保持した(塗膜と金属との粘着性)。
2)上記条件で重ね合わせた状態の積層板について、室温下でJIS K6850の引張せん断接着強さ試験法に従い、万能試験機(島津製作所社製)を用いて引張強さを測定し、表面の粘着力を評価した。
【0033】
<塗膜表面の摩擦磨耗性試験>
上記積層板を3cm×5cmで切り出し、ピンオンディスク方式の摩擦磨耗試験機(レスカ 社製FPR2000)を用いて200℃雰囲気下、荷重30g、回転半径10mm、20rpmの条件下で動摩擦係数を測定した。
【0034】
<塗膜の柔軟性試験>
上記積層板を2cm幅で切り出し、JISK5400の屈曲試験機(大佑機材社製)にセットして180°に折り曲げ、塗膜にクラックが発生したか確認した。
【0035】
各試験の結果について、表1にまとめた。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に示すように、実施例1の積層板について、非粘着性を示すこと、また、耐摩擦磨耗性が未処理の積層板(比較例1)より優れ、従来の処理剤を用いた積層板(比較例2)に匹敵すること、更に比較例2の積層板より柔軟性に優れていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の積層体は、上述の構成よりなるので、ゴム本来の持つシール性を損なうことなく、ゴム層の固着や固体潤滑剤の脱落を防止し、また高温度環境下で液状となるバインダーの流出によるゴム層の摩滅や、ゴム層の劣化を改善することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム層に非粘着処理層が積層されてなる積層体であって、
前記非粘着処理層は、固体潤滑剤、フッ素ゴム、加硫剤及び液状担体からなる非粘着処理用塗料組成物を塗装することにより形成した層であり、厚みが5μm未満であるものである
ことを特徴とする積層体。
【請求項2】
固体潤滑剤は、フッ素樹脂である請求項1記載の積層体。
【請求項3】
金属板に請求項1又は2記載の積層体を設けたことを特徴とする積層体。
【請求項4】
請求項3記載の積層体からなることを特徴とするエンジンガスケット。

【公開番号】特開2009−190171(P2009−190171A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−138873(P2006−138873)
【出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】