説明

表面保護被膜の形成方法

【課題】プラスチック基材に適切な表面硬度を有し耐熱性、耐候性および密着性に優れた表面保護用の硬化被膜を形成する、生産性と経済性を兼ね備えた方法を提供する。
【解決手段】この表面保護被膜の形成方法は、プラスチック基材の表面に、加熱硬化型シリコーンと溶剤を含む被覆用組成物を塗布する工程と、前記被覆用組成物の塗膜を乾燥する工程と、乾燥された前記被覆用組成物の塗膜を、液状のフッ素系不活性化合物を加熱して発生する蒸気の凝縮潜熱を用いて加熱し硬化させる工程を備える。被覆用組成物としては、(A)オルガノシラントリオールおよび/またはその部分縮合物と(B)コロイド状シリカと(C)溶剤をそれぞれ含む被覆液を使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面保護被膜の形成方法に係わり、さらに詳しくは、プラスチックから成る基材の表面に表面保護用のシリコーン硬化被膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、軽量かつ強靭で加工しやすいという優れた特性を備えているので、様々な分野で使用されている。しかし、前記した長所を備えている反面、表面硬度が低い、耐熱性、耐候性、耐溶剤性に劣る、などの欠点を有している。
【0003】
このような欠点を解消するために、従来から種々の試みがなされており、プラスチックの表面に被覆することにより、表面硬度、耐熱性、耐候性、耐溶剤性などを改善することができる多くの組成物が開発されている。これらの中で被膜の物性が極めて優れているものとして、コロイド状シリカを含むシリコーン組成物の被覆液が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この組成物を使用した表面被覆処理では、被膜の硬化のために要する加熱時間が1時間と長く、生産性の観点から使用が困難な場合があった。
【0004】
また、このような表面保護用の被覆液は、良好な塗工性を維持するために溶剤により希釈されており、得られる被膜の外観を良好に保つために、塗工工程での環境(温度、湿度およびクリーン度)の管理が重要である。そして、そのような塗工環境の管理・維持に関わる費用が、表面保護被膜の形成費用の大きな部分を占めているため、コスト削減の観点からさらに設備の小型化の観点から、環境管理を必要とする塗工工程に要する時間をできるだけ短縮することが求められている。
【0005】
すなわち、被膜の外観を良好に保つために、被覆液(シリコーン組成物)の塗工工程(塗布工程および溶剤の乾燥工程)においては、温度、湿度およびクリーン度を厳密に管理することが重要である。温度、湿度の管理が不十分な場合には、プラスチック基材の表面に塗布された被覆液から溶剤が蒸発する際に気化熱を奪うため、塗膜の表面が冷却され、空気中の水分が結露する。この結露した水滴により、溶剤の乾燥後に細かな窪みが生じるおそれがあり、硬化後の被膜表面で光が乱反射することによる白濁が生じ、外観上極めて好ましくない。
【0006】
このような問題を回避するためには、溶剤の気化熱による冷却温度が露点を下回らないように、塗工工程の環境(塗工環境)における温度と湿度を管理することが重要である。また、クリーン度の管理が不十分な場合には、被膜の表面にゴミやホコリが付着しやすく、これも被膜の外観上極めて好ましくない結果を招く。
【0007】
このように、外観が良好で密着性に優れた表面保護被膜を得るには、塗工環境の温度、湿度およびクリーン度を管理することが重要であり、その管理・維持に多くの費用を必要とするばかりでなく、塗工設備全体が大型化するという問題ある。そのため、塗工工程のような、環境(温度、湿度およびクリーン度)の管理を要する工程にかかる時間をできるだけ短縮することが求められている。
【特許文献1】特開昭56−125466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、プラスチックから成る基材の表面に、適切な表面硬度を有し耐熱性、耐候性および密着性に優れた表面保護用の硬化被膜を、高い生産性と経済性を両立しつつ形成する表面保護被膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の表面保護被膜の形成方法は、プラスチックから成る基材の表面に、加熱硬化型シリコーンと溶剤を含む被覆用組成物を塗布する工程と、前記被覆用組成物の塗膜を乾燥する工程と、乾燥された前記被覆用組成物の塗膜を、液状のフッ素系不活性化合物を加熱して発生する蒸気の凝縮潜熱を用いて加熱し硬化させる工程を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被覆用組成物の塗膜を、加熱された液状フッ素系不活性化合物の蒸気の凝縮潜熱を用いて加熱することで、効率良く短時間で被覆用組成物を硬化させることができ、十分な表面硬度を有し耐熱性、耐候性および密着性に優れた表面保護被膜を生産性よく形成することができる。また、塗工工程のような、環境(温度、湿度およびクリーン度)の維持・管理に大きな費用を要する工程にかかる時間を短縮することができるので、運転経費を削減することができるうえに、必要なスペース(面積や長さ)や塗工環境を維持・管理するための設備の面積や長さを縮小することができ、省スペース化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明の実施形態は、プラスチック基材の表面に、加熱硬化型のシリコーンと溶剤を含む被覆用組成物を塗布する工程と、この被覆用組成物の溶剤を蒸発させて塗膜を乾燥する工程と、乾燥された塗膜を、加熱された液状フッ素系不活性化合物(以下、フッ素系不活性液体と示す。)の蒸気の凝縮潜熱を用いて加熱し硬化させる工程を備えている。
【0012】
まず、プラスチック基材の表面に塗布される保護被覆用組成物について記載する。この保護被覆用組成物は、末端シラノール基同士の脱水縮合反応により加熱硬化するタイプのシリコーンと、(B)コロイド状シリカと、(C)溶剤とをそれぞれ含有する。
【0013】
末端シラノール基同士の脱水縮合反応により加熱硬化するシリコーンとしては、(A)式:RSi(OH)で示されるオルガノシラントリオールおよび/またはその部分縮合物を例示することができる。
【0014】
式中、Rは1価の炭化水素基を表し、その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ビニル基およびアリル基などが挙げられる。これらの中でメチル基が好ましい。この部分縮合物は、例えば、オルガノトリアルコキシランをコロイド状シリカの水性分散液中で加水分解することにより得られる。(A)成分であるオルガノシラントリオールおよび/またはその部分縮合物の配合量は、保護被覆用組成物全体の5〜45重量%とすることが好ましい。5重量%未満の場合には、被膜の可撓性が低下し亀裂が発生しやすくなり、45重量%を超えると、被膜の表面硬度が著しく低下する。
【0015】
(B)成分であるコロイド状シリカは、通常水性分散液中に分散された形で使用される。このような分散液としては、スノーテックス(商品名:日産化学(株)製)、ルドックス(商品名:デュポン(株))などが例示される。このコロイド状シリカは、酸性または塩基性のいずれであってもよい。コロイド状シリカの配合量は、保護被覆用組成物全体の5〜45重量%とすることが好ましい。5重量%未満の場合には、被膜の表面硬度が十分でなく、また速硬化性も低下する。また45重量%を超えると、被膜の可撓性が低下し、加熱、変形により亀裂を発生しやすくなる。
【0016】
(C)成分である溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノールなどの炭素数1〜4の脂肪族アルコールが挙げられる。好ましくはイソブタノールが用いられる。なお、被覆用組成物(被覆液)の蒸発速度を調節しやすくし、密着性を向上させるために、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテートを前記脂肪族アルコールと併用することが好ましい。溶剤の配合量は、保護被覆用組成物全体の40〜60重量%とすることが好ましい。40重量%未満の場合には、塗布時のレベリング性が悪く、また長期の加熱により亀裂が発生しやすくなる。また、60重量%を超えると、塗布時に十分な膜厚(3〜10μm)が得られず耐摩耗性が低下する。
【0017】
このような保護被覆用組成物は、硬化触媒がなくとも十分硬化するが、硬化時間をより短縮したい場合などは、硬化触媒の使用は有効である。ただし、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドのような4級アンモニウム塩系の化合物を硬化触媒として使用する場合などは、耐水性や耐候性に悪影響が出る場合があるので、耐水性や耐候性が要求される用途には慎重に使用する必要がある。
【0018】
硬化触媒の配合量は、(A)成分であるオルガノシラントリオールおよび/またはその部分縮合物と(B)コロイド状シリカとの混合物の固形分100重量部に対して、0.1〜5.0重量部とすることが好ましい。0.1重量部未満の場合には、被膜の十分な硬度が得られず、また5.0重量部を超えると被膜にゆず肌などを生じ好ましくない。
【0019】
本発明の被覆用組成物は、例えば、次のような方法で得ることができる。すなわち、所定量のオルガノトリアルコキシシランおよびコロイド状シリカに適当な加水分解触媒(例えば、無水酢酸または氷酢酸)を加えて縮合させる。必要に応じて、生成したアルコールと水を留去し、脂肪族アルコールを含む溶剤を加えた後、pHを中性に戻して数週間熟成する。最後に、この溶液に必要に応じて硬化用触媒を加えることにより、被覆液が得られる。
【0020】
次に、このような被覆用組成物を用いて表面保護被膜を形成する工程を順に説明する。
【0021】
まず、ポリカーボネートやアクリル樹脂のようなプラスチックから成る基材の表面をイソプロピルアルコール等で脱脂洗浄した後、その上にプライマーの層を形成することが好ましい。前記被覆用組成物を基材表面に直接塗布するのではなく、プライマー層の上に塗布することで、表面保護被膜の密着性および接着性を向上させることができる。プライマーとしては、ポリメチルアクリレートやポリメチルメタクリレートのようなアクリル系のものなど、公知のものを使用することができる。
【0022】
プライマー層の形成は、プラスチック基材の表面にプライマーを塗布し、室温で溶剤を蒸発させて塗膜を乾燥した後、加熱硬化させることにより行う。プライマーの塗布、および溶剤の蒸発・乾燥は、温度、湿度およびクリーン度が管理された塗工環境(クリーンルーム)において行なわれる。このような塗工環境(クリーンルーム)における温度および湿度は、例えば25℃、35〜50%RHに管理・維持される。塗布方法としては、例えば、浸漬法、スプレー法、フローコート法およびロールコート法などがある。
【0023】
プライマーの溶剤の乾燥は、遠赤外線ヒーターを用いて行うことができる。遠赤外線ヒーターの使用により、溶剤の蒸発・乾燥に要する時間を短縮することができる。
【0024】
プライマーを硬化させるための加熱手段としては、熱風オーブンのような公知の加熱手段を採ることができるが、加熱されたフッ素系不活性液体の蒸気の凝縮潜熱を用いて加熱する方法を採ることが好ましい。
【0025】
ここで、フッ素系不活性液体としては、例えば、フロリナート(商品名:3M社製)や、GALDEN(商品名:SOLVAY SOLEXIS社製)などを挙げることができる。これらのフッ素系不活性液体は、以下に示す特性を有しているので、プライマーや被覆用組成物を加熱する媒体として好適している。すなわち、前記フッ素系不活性液体は、熱安定性が高く長時間の加熱でも劣化しないうえに、蒸気の密度が空気の約20倍と大きく空気中で拡散しないので、容器内に滞留して飽和蒸気層を形成する。また、化学的に安定かつ不活性で他の物質と反応しにくいうえに、溶解力が低くほとんどの有機・無機材料を溶解しない。さらに、表面張力が低く、物体の表面に濡れ広がりやすいので、液切れが速い。またさらに、蒸発熱が小さいので、蒸気層から取り出すと即座に乾く。
【0026】
こうして、プライマーをフッ素系不活性液体の蒸気の凝縮潜熱を用いて加熱し硬化させた後、室温で放置して冷却する。室温での冷却の代わりに、フッ素系不活性液体をスプレーし気化熱を奪うことで冷却することも可能である。
【0027】
次いで、硬化されたプライマーの上に、前記した被覆用組成物(被覆液)を塗布し、室温で溶剤を蒸発させて塗膜を乾燥する。被覆用組成物の塗布方法としては、浸漬法、スプレー法、フローコート法およびロールコート法などを用いることができる。また、被覆用組成物の塗布および溶剤の蒸発・乾燥は、温度および湿度が管理され(例えば、温度25℃で湿度が35〜50%RH)、かつクリーン度が管理された塗工環境(クリーンルーム)で行なわれる。被覆用組成物の溶剤の乾燥は、遠赤外線ヒーターを用いて行うことができる。遠赤外線ヒーターの使用により、溶剤の蒸発・乾燥に要する時間を短縮することができる。
【0028】
こうして被覆用組成物の塗膜を乾燥した後、この塗膜を加熱されたフッ素系不活性液体の蒸気中に保持し、その蒸気が凝縮する際に発生する潜熱(凝縮潜熱)を用いて加熱する。この加熱により、(A)成分であるオルガノシラントリオールおよび/またはその部分縮合物と(B)コロイド状シリカとの混合物中の末端シラノール基同士の脱水縮合反応により硬化が生じ、十分な表面硬度を有する被膜が形成される。
【0029】
このように構成される本発明の実施形態においては、被覆用組成物の塗膜の硬化工程で、加熱されたフッ素系不活性液体の蒸気が液体に状態変化するときに放出する大きな凝縮潜熱を利用して、塗膜の加熱を行っているので、短時間の加熱で効率的に硬化反応を進めることができ、十分な表面硬度を有し耐熱性、耐候性および密着性に優れた表面保護被膜を生産性よく形成することができる。また、プライマーの硬化工程での加熱も、同様にフッ素系不活性液体の蒸気の凝縮潜熱を利用して行うことで、さらに生産性を上げることができる。
【0030】
また、プライマーおよび被覆用組成物の硬化工程での加熱を、加熱されたフッ素系不活性液体の蒸気の凝縮潜熱を用いて行っているので、温度、湿度およびクリーン度が管理された環境を必要とする前段の溶剤乾燥工程の時間を、溶剤乾燥を熱風オーブン加熱により行う従来の方法に比べて、大幅に短縮することができる
【0031】
すなわち、プライマーの硬化および被覆用組成物の硬化を、熱風オーブンの加熱により行う従来の方法では、被覆用組成物やプライマーの塗膜中に溶剤が少しでも残留していると、加熱硬化工程で溶剤の揮発により平滑な膜が形成されないが、加熱されたフッ素系不活性液体の蒸気の凝縮潜熱を利用した加熱では、この蒸気中に溶剤が持ち込まれても、平滑な膜形成に悪影響を及ぼすことがない。したがって、溶剤の乾燥をそれほど完全に行う必要がないので、溶剤乾燥に要する時間が短時間で済むという利点がある。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、プライマーとしては、紫外線吸収剤を含有するポリメチルメタクリレート溶液であるSHP470(商品名:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)を使用し、被覆用組成物としては、AS4700F(商品名:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)を使用した。AS4700Fは、メチルトリアルコキシシランの加水分解物およびその部分縮合物とコロイダルシリカおよび溶剤としてn−ブタノールおよび2−プロパノールを含有する被覆液である。また、フッ素系不活性液体としては、フロリナートFC−3283(商品名:3M社製、沸点128℃)を使用した。さらに、実施例および比較例のいずれの工程も、クリーン度が管理されたクリーンルーム内で行なった。
【0033】
実施例1
25℃、50%RHの塗工環境において、ポリカーボネート成形板(縦150mm×横150mm、厚さ3mm)の表面をイソプロピルアルコールで洗浄した後、その上にプライマーをフローコート法により塗布した。そして、同じ管理された塗工環境に20分間置き、プライマーの溶剤を蒸発・乾燥させた。
【0034】
次いで、10リットルのビーカーにフッ素系不活性液体を約300g入れ、化学実験用ホットプレートで加熱してフッ素系不活性液体の蒸気を発生させた。そして、この蒸気中に、プライマーを塗布して溶剤を乾燥させたポリカーボネート成形板を入れ、フッ素系不活性化合物の蒸気の凝縮潜熱を用いて5分間加熱し、プライマーを硬化させた。
【0035】
次いで、フッ素系不活性液体の蒸気中からポリカーボネート成形板を取り出し、25℃(室温)で15分間冷却した。
【0036】
次に、25℃、50%RHの塗工環境において、プライマーの硬化処理を終えたポリカーボネート成形板の上に被覆用組成物をフローコート法により塗布した。そして、同じ管理された塗工環境に20分間置き、被覆用組成物の溶剤を蒸発・乾燥させた。
【0037】
次いで、プライマーの加熱・硬化工程と同様に、加熱して発生させたフッ素系不活性液体の蒸気中に、被覆用組成物を塗布して溶剤を乾燥させたポリカーボネート成形板を入れ、蒸気から液体への状態変化(凝縮)に伴って発生する潜熱(凝縮潜熱)を用いて25分間加熱し、被覆用組成物を硬化させた。こうして、ポリカーボネート成形板の表面にプライマーの層(硬化層)を介して表面保護被膜が形成された。
【0038】
このような実施例1の工程の流れおよび各工程にかかる時間(分)を、図1(a)に示す。この図からもわかるように、温度および湿度の管理が必要な塗工環境での工程の時間の合計は50分であり、表面保護被膜の形成全体に要した時間は95分であった。
【0039】
実施例2
25℃、50%RHの塗工環境において、表面をイソプロピルアルコールで脱脂洗浄されたポリカーボネート成形板(縦150mm×横150mm、厚さ3mm)の上に、プライマーをフローコート法により塗布した。そして、同じ管理された塗工環境に20分間置き、プライマーの溶剤を蒸発・乾燥させた。
【0040】
次いで、10リットルのビーカーにフッ素系不活性液体を約300g入れ、ホットプレートで加熱してフッ素系不活性液体の蒸気を発生させた。そして、この蒸気中に、プライマーの溶剤を乾燥させたポリカーボネート成形板を入れ、フッ素系不活性液体の蒸気の凝縮潜熱を用いて5分間加熱し、プライマーを硬化させた。
【0041】
次いで、フッ素系不活性液体の蒸気中からポリカーボネート成形板を取り出し、25℃のフッ素系不活性液体のミストに1分間接触させた後、25℃(室温)に4分間放置して冷却した。
【0042】
次に、25℃、50%RHの塗工環境において、プライマーの硬化処理を終えたポリカーボネート成形板の上に被覆用組成物をフローコート法により塗布した。そして、同じ管理された塗工環境に20分間置き、被覆用組成物の溶剤を蒸発・乾燥させた。
【0043】
次いで、プライマーの加熱・硬化工程と同様に、被覆用組成物を塗布して溶剤を乾燥させたポリカーボネート成形板をフッ素系不活性液体の蒸気中に入れ、フッ素系不活性液体の蒸気の凝縮潜熱を用いて25分間加熱し、被覆用組成物を硬化させた。こうして、ポリカーボネート成形板の表面にプライマーの硬化層を介して表面保護被膜が形成された。
【0044】
このような実施例2の工程の流れおよび各工程にかかる時間を、図1(b)に示す。この図からもわかるように、温度および湿度の管理が必要な塗工環境での工程の時間の合計は50分であり、表面保護被膜の形成全体に要した時間は85分であった。
【0045】
実施例3
25℃、50%RHの塗工環境において、表面をイソプロピルアルコールで脱脂洗浄されたポリカーボネート成形板(縦150mm×横150mm、厚さ3mm)の上にプライマーをフローコート法により塗布した。そして、同じ管理された塗工環境で遠赤外線ヒーターにより10分間加熱し、プライマーの溶剤を乾燥させた。
【0046】
次いで、10リットルのビーカーにフッ素系不活性液体を約300g入れ、ホットプレートで加熱してフッ素系不活性液体の蒸気を発生させた。そして、この蒸気中に、プライマーの溶剤を乾燥させたポリカーボネート成形板を入れ、フッ素系不活性液体の蒸気の凝縮潜熱を用いて5分間加熱し、プライマーを硬化させた。
【0047】
次いで、フッ素系不活性液体の蒸気中からポリカーボネート成形板を取り出し、25℃のフッ素系不活性液体のミストに1分間接触させた後、25℃(室温)に4分間放置して冷却した。
【0048】
次に、25℃、50%RHの塗工環境において、プライマーの硬化処理を終えたポリカーボネート成形板の上に被覆用組成物をフローコート法により塗布した。そして、同じ管理された塗工環境で遠赤外線ヒーターにより10分間加熱し、被覆用組成物の溶剤を乾燥させた。
【0049】
次いで、プライマーの加熱・硬化工程と同様に、被覆用組成物を塗布して溶剤を乾燥させたポリカーボネート成形板をフッ素系不活性液体の蒸気中に入れ、フッ素系不活性液体の蒸気の凝縮潜熱を用いて25分間加熱し、被覆用組成物を硬化させた。こうして、ポリカーボネート成形板の表面にプライマーの硬化層を介して表面保護被膜が形成された。
【0050】
このような実施例3の工程の流れおよび各工程にかかる時間を、図1(c)に示す。この図からもわかるように、温度および湿度の管理が必要な塗工環境での工程の時間の合計は30分であり、表面保護被膜の形成全体に要した時間は65分であった。
【0051】
比較例
25℃、50%RHの塗工環境において、表面をイソプロピルアルコールで脱脂洗浄されたポリカーボネート成形板(縦150mm×横150mm、厚さ3mm)の上にプライマーをフローコート法により塗布した。そして、同じ管理された塗工環境に30分間置き、プライマーの溶剤を乾燥させた。
【0052】
次いで、プライマーの溶剤を乾燥させたポリカーボネート成形板を125℃の熱風オーブンに入れ、30分間加熱してプライマーを硬化させた。
【0053】
次いで、熱風オーブンからポリカーボネート成形板を取り出し、25℃(室温)で15分間冷却した。
【0054】
次に、25℃、50%RHの塗工環境において、プライマーの硬化処理を終えたポリカーボネート成形板の上に被覆用組成物をフローコート法により塗布した。そして、同じ管理された塗工環境に30分間置き、被覆用組成物の溶剤を乾燥させた。
【0055】
次いで、被覆用組成物の溶剤を乾燥させたポリカーボネート成形板を125℃の熱風オーブンに入れ、25分間加熱して被覆用組成物を硬化させた。こうして、ポリカーボネート成形板の表面にプライマーの硬化層を介して表面保護被膜が形成された。
【0056】
このような比較例の工程の流れおよび各工程にかかる時間を、図1(d)に示す。この図からもわかるように、温度および湿度の管理が必要な塗工環境での工程の時間の合計は70分であり、表面保護被膜の形成全体に要した時間は175分であった。
【0057】
次に、実施例1〜3および比較例でそれぞれ形成された表面保護被膜について、外観、テーバー摩耗試験による耐摩耗性および密着性を、それぞれ以下に示すように測定し評価した。
【0058】
[外観]
硬化後の被膜を室温に戻し、目視により外観を観察した。
【0059】
[テーバー摩耗試験による耐摩耗性]
テーバー摩耗試験機により、摩耗輪CS−10F、500g荷重、摩耗回数500回の条件で被膜の表面を摩耗させ、ヘーズメーターにより測定したヘーズ値からΔHを算出した。
【0060】
[密着性]
被膜の表面に1mm間隔で縦横に各11本の平行線を入れて100個のマス目をクロスカットし、その面にセロハン粘着テープを貼り付けた。その後テープを引き剥がし、100個のマス目の剥離状態を観察した。全てのマス目が剥離しない状態を良好とした。
【0061】
測定評価結果を表1に示す。また、実施例1〜3および比較例において、管理が必要な塗工環境(クリーンルーム)の工程時間とその改善率、および全工程に要した時間とその改善率を表1に示す。なお、塗工環境の工程時間の改善率、および全工程に要した時間の改善率は、いずれも比較例における各時間を基準にして求めたものである。
【0062】
【表1】

【0063】
表1から、実施例1〜3においては、温度、湿度およびクリーン度の管理が必要な塗工環境(クリーンルーム)の工程の時間、および表面保護被膜の形成の全工程に要する時間を短縮できることがわかる。また、実施例1〜3においては、十分な表面硬度および耐摩耗性を有し、密着性に優れた表面保護被膜を生産性よく形成できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1(a)〜(d)は、それぞれ本発明の実施例1〜3および比較例における工程の流れと各工程にかかる時間を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックから成る基材の表面に、加熱硬化型シリコーンと溶剤を含む被覆用組成物を塗布する工程と、
前記被覆用組成物の塗膜を乾燥する工程と、
乾燥された前記被覆用組成物の塗膜を、液状のフッ素系不活性化合物を加熱して発生する蒸気の凝縮潜熱を用いて加熱し硬化させる工程
を備えることを特徴とする表面保護被膜の形成方法。
【請求項2】
前記被覆用組成物は、(A)オルガノシラントリオールおよび/またはその部分縮合物と、(B)コロイド状シリカ、および(C)炭素数1〜4の脂肪族アルコールを含む溶剤をそれぞれ含有することを特徴とする請求項1記載の表面保護被膜の形成方法。
【請求項3】
前記被覆用組成物の塗膜を乾燥する工程は、遠赤外線ヒーターにより加熱する工程を有することを特徴とする請求項1または2記載の表面保護被膜の形成方法。
【請求項4】
前記被覆用組成物を塗布する工程の前に、
前記プラスチックから成る基材の表面にプライマー組成物を塗布する工程と、前記プライマー組成物の塗膜を乾燥する工程と、乾燥された前記プライマー組成物の塗膜を加熱して硬化させる工程を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の表面保護被膜の形成方法。
【請求項5】
前記プライマー組成物の塗膜を加熱して硬化させる工程は、該塗膜を、液状のフッ素系不活性化合物を加熱して発生する蒸気の凝縮潜熱を用いて加熱し硬化させる工程を有することを特徴とする請求項4記載の表面保護被膜の形成方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−17644(P2010−17644A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179785(P2008−179785)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(000221111)モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社 (257)
【Fターム(参考)】