説明

表面処理材、レーダユニット、表面処理材製造方法

【課題】適用される金属粒子の材質に関わらず、当該金属粒子による金属調の表面を維持し、かつ通過する電磁波に影響を与えることを回避する。
【解決手段】視覚的に金属調の見栄えが必要な部材であり、かつ電磁波を通過させる必要がある場合に、金属調を出すために基材12に形成される金属微粒子14を予め透明絶縁材料16によってコーティングしておくことで、金属微粒子14同士が密集して形成されても、互いの電気的絶縁性が維持されるため、電子の移動が制限され、ミリ波の電磁波を確実に通過させることができる。また、密集度合いも大きく変わらないため、金属調としての見栄えも維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に金属製粒子がコーティングされた表面処理材、この表面処理材と距離検出用レーダで構成されたレーダユニット、並びに表面処理材製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属薄膜を使った、レーダ装置のビーム経路内にある被覆部品が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1によれば、金属インジウムを40nm程度の薄膜で形成(例えば、蒸着)することで目的(ビームの適正通過)を達成している。
【0004】
上記特許文献1の技術は、インジウムを極めて薄く蒸着することで目的が達成されるが、製造条件が厳しい。すなわち、インジウムの膜質が影響を及ぼすためである。また、他の金属(例えば「スス」)を使っても目的を達成することができない。さらに、インジウムは極めて酸化され易い金属であるため、その膜を酸化から防ぐような十分な保護をする必要がある。
【0005】
一方、電波を遮断することなく金属調のケースを得る技術が提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
この特許文献2では、ケース本体の外表面に、金属粒子を独立させて蒸着することにより、金属層を形成している。金属層はその層厚が金属粒子の粒子径とほぼ同じであり、金属粒子は肉眼で確認できない大きさである。また、金属層では、金属粒子間に必ず隙間が設けられ、この隙間を電波が透過する。これにより、金属調に見え、かつ電波を遮断することがない。
【特許文献1】特許第3366299号公報
【特許文献2】特開2002−189085公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2では、金属粒子間に隙間を設けるための手段として、網状のマスキング部材を介して金属粒子を蒸着させることが開示されているが、「肉眼で確認できないほど小さい隙間」を形成するための具体的なマスキング部材の構造(組成)について、何ら記載がない。少なくとも、金属粒子単位での隙間ではないことは明らかである。
【0008】
本発明は上記事実を考慮し、適用される金属粒子の材質に関わらず、当該金属粒子による金属調の表面を維持し、かつ通過する電磁波に影響を与えることを回避することができる表面処理材、レーダユニット、表面処理材製造方法を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、電磁波が通過する非金属材料で形成された基材と、前記基材の表面に形成され、互いの電気的接触を回避するための絶縁コーティングが施された金属粒子と、を有する表面処理材である。
【0010】
第1の発明において、前記表面処理材が、車両のラジエータグリルに取り付けられるオーナメントである。
【0011】
また、第1の発明において、前記オーナメントにおける車両後方側には、前記基材に向けて電磁波を出力し、当該出力された電磁波の反射波を受信することで、反射対象までの距離を計測する距離検出用レーダが取り付けられ、前記基材である非金属材料が、通過する所定の周波数の電磁波が干渉することのない厚さ以下である。
【0012】
第2の発明は、所定方向に電磁波を出力し、当該出力された電磁波の反射波を受信することで、反射対象までの距離を計測する距離検出用レーダと、電磁波が通過する非金属材料で形成された基材の表面に互いの電気的接触を回避するための絶縁コーティングが施された金属粒子が形成され、前記距離検出用レーダにおける少なくとも前記電磁波出力面側に配置され前記距離検出用レーダを隠蔽するカバーと、を有するレーダユニットである。
【0013】
第3の発明は、球体状の金属粒子のそれぞれに、シリカ(SiO2)系の絶縁材料をコーティングすることで、前記金属粒子同士を絶縁し、前記絶縁コーティングされた金属粒子を、非金属材料の基材の表面に形成し、この金属粒子が形成された基材の表面を、当該金属粒子が埋没するように、透明塗料を塗布する表面処理材製造方法である。
【0014】
第3の発明において、前記基材が、通過する所定の周波数の電磁波が干渉することのない厚さ以下である。
【発明の効果】
【0015】
以上説明した如く本発明によれば、適用される金属粒子の材質に関わらず、当該金属粒子による金属調の表面を維持し、かつ通過する電磁波に影響を与えることを回避することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1には、本実施の形態に係る表面処理材10が示されている。
【0017】
表面処理材10は、板状の合成樹脂製(例えば、ABS樹脂やポリカーボネイト等)の基材12を備えており、本実施の形態では、その厚さ寸法が0.75mmとされている。
【0018】
基材12の色については特に制限はないが、一般的には黒色であり、例えば、後述する金属微粒子(金属粒子)14のコーティング後に、肉眼で確認される色あいを考慮して、所定の色素を混在させるようにしてもよい。
【0019】
本実施の形態では、基材12の一方の主面に金属微粒子14が形成されており、この形成された面が表面となる。なお、金属微粒14は、例えば、蒸着等により、基材12の一方の主面に形成することができる。
【0020】
金属微粒子14は、例えば直径dが約0.3〜1.0μm程度の略球体状のインジウムであり、粒同士が互いに接触することで電気的な導通状態となる性質を持っている。このような金属微粒子14が密集してコーティングされることで、肉眼では基材12の表面が金属調となる。
【0021】
図2示される如く、略球体状の金属微粒子14の表面には、シリカ(SiO2)製の透明絶縁材料16がコーティングされている。これにより、金属微粒子14は、その周囲が完全に透明絶縁材料16で被覆され、金属微粒子14同士が密集しても、互いに電気的絶縁状態が維持される。
【0022】
図1に示される如く、上記絶縁コーティングされた金属微粒子14が密集された状態で基材12の表面に形成され、さらに、絶縁コーティングされた金属微粒子14が埋没するように透明樹脂塗料18が塗布され、表面処理材10が形成されている。
【0023】
上記形成された表面処理材10の表面は、金属微粒子14の密集により肉眼で金属調に見え、かつこの表面処理材10の表裏面を電磁波が通過するとき、この電磁波が金属微粒子14によって干渉(反射)するといった影響がない。
【0024】
すなわち、可視光線の波長は、0.5μm前後であるため、この波長に近いピッチであれば、肉眼では金属微粒子14で光が反射するため、金属調に見えることになる。
【0025】
一方、本実施の形態で適用される電磁波の波長はミリ波(約4mm)であり、金属微粒子14同士が絶縁されていれば、桁違いの波長(金属微粒子14のピッチが直径+透明絶縁材料16の膜厚であり10μm前後)であるため、金属間の電子の移動が、電子波に影響を及ぼすことは全くない。
【0026】
以下に本実施の形態の作用を説明する。
【0027】
(表面処理材10の製造方法)
まず、金属微粒子14を透明絶縁材料16によってコーティングする。
【0028】
このコーティングにより、金属微粒子14の粒同士は電気的に絶縁状態となる。ここで、金属微粒子14の直径dが10μm程度であれば、金属微粒子14が当該直径d+透明絶縁材料16の膜厚のピッチで密集させることができる。
【0029】
これにより、肉眼で見る金属調には全く影響がない。すなわち、肉眼でみる可視光線の波長は、0.5μm前後であるため、それ以下のピッチ変動はほとんど影響がない。
【0030】
次に、透明絶縁材料16がコーティングされた金属微粒子14を、基材12の表面に形成する。この形成により、メッキが施された表面処理材10が生成される。
【0031】
ここで、表面処理材10における金属微粒子14の形成面に透明樹脂塗料18を塗布し、形成面を埋没させる。これにより、金属微粒子14の形成が剥がれ落ちることを防止することができる。
【0032】
なお、本実施の形態に係る金属微粒子14をコーティングして電気的絶縁状態とするために透明絶縁材料16を適用したが、無色透明(透明度100%)である必要はない。例えば、表面に色味を出すため、所定の色素を加えたり、透明度を100%未満にしてもよい。また、これは、金属微粒子14を基材12に形成した後に塗布する透明樹脂塗料18によっても実現可能である。
【0033】
(電磁波通過原理)
本実施の形態に係る表面処理材10が肉眼で金属調に見え、かつ電磁波(ミリ波)を通過する原理を図3を用いて説明する。
【0034】
図3(A)は従来の一般的な表面処理材10Aであり、金属微粒子には何ら施されていないため、金属微粒子14の粒同士が電気的導通状態となっている。このため、金属微粒子14間を電子eが行き来するため、電子が振動し易くなっている。このため、電磁波がくると、この振動している電子eによって通過が妨げられ、反射してしまう結果となる。
【0035】
一方、図3(B)は本実施の形態に係る表面処理材10であり、金属微粒子に透明絶縁材料がコーティングされているため、金属微粒子の粒同士が電気的絶縁状態となっている。このため、金属微粒子間を電子が行き来できず、電子が振動しにくくなっている。このため、電磁波がくると、電子eが振動できないため、電磁波は通過することができる。
【0036】
以上説明したように本実施の形態では、視覚的に金属調の見栄えが必要な部材であり、かつ電磁波を通過させる必要がある場合に、金属調を出すために基材12に形成される金属微粒子14を予め透明絶縁材料16によってコーティングしておくことで、金属微粒子14同士が密集して形成されても、互いの電気的絶縁性が維持されるため、電子の移動が制限され、ミリ波の電磁波を確実に通過させることができる。また、密集度合いも大きく変わらないため、金属調としての見栄えも維持することができる。
【実施例】
【0037】
図4乃至図6には、本発明の表面処理材を車両のオーナメント20として適用した実施例が示されている。
【0038】
図4に示される如く、車両22の前方に設けられたエンジンフード24の先端部であるフロントフェイス面は、車両幅方向両端部にヘッドライト26が設けられている。ヘッドライト26の下端部には、左右のヘッドライト26の間に掛け渡され、かつ車両22の側面面に回り込むように、バンパー28が取り付けられている。
【0039】
ここで、エンジンフード24、一対のヘッドライト26、バンパー28によって囲まれた矩形の空間には、装飾部材としてラジエータグリル30が取り付けられている。ラジエータグリル30は、エンジンフード24に取り付けられる場合もあるし、一対のヘッドライト26の間の車両ボディ(図示省略)に取り付けられる場合もある。
【0040】
ラジエータグリル30は、ラジエータ(図示省略)に空気を送り込むため、所定の隙間が設けられた複数のルーバー30Aで構成されている。なお、隙間があればよいため、ルーバー30Aに限らず、ハニカム状に形成された構造であってもよい。
【0041】
ラジエータグリル30はクロムメッキ処理されている。また、ラジエータグリル30の正面中央に取り付けられているオーナメント20も同様にクロムメッキ処理されている。
【0042】
オーナメント20は、車両22のメーカーや車種を特定するマーク等をモチーフとして生成されるようになっている。この成形品が、前記表面処理材10(図1参照)である。従って、オーナメント20の車両前方に向いた面には、金属膜が形成されており、金属膜の主材料である金属微粒子14が透明絶縁材料16によってコーティングされ、粒同士の電気的絶縁を維持している。
【0043】
このオーナメント20の車両後方側には、ミリ波レーダ32が配設されている。ミリ波レーダ32は、車両22の前方に所定の周波数(ミリ波)の電磁波を出力し、障害物に当たって反射してくる電磁波(反射波)を受信して距離を測定するための検出端末である。例えば、魚群探知機に適用されるシングアランド法のような原理が適用可能である。
【0044】
ミリ波レーダ32によって検出される障害物までの距離情報は、例えば、障害物の早期発見、視野の補助、衝突予測等に適用され、運転中の安全性を助長する装備品として利用されるようになっている。
【0045】
このようなミリ波レーダ32は、オーナメント20の車両後方側に配設されることで、オーナメント20が車両走行中の風雨の防護体としての役目を兼ねる。これにより、ミリ波レーダ32の寿命を延ばすことができる。
【0046】
また、オーナメント20には、前述した表面処理材10(図1参照)が適用されている。このため、オーナメント20としての本来の機能、すなわち、金属調に見える光沢のある装飾部材としての機能を維持し、かつ、ミリ波レーダ32から出力される電磁波、並びにその反射波を確実に通過させることができる。
【0047】
なお、本実施例では、表面処理材10を車両22のラジエータグリル30に取り付けたオーナメント20として適用した例を示したが、電磁波を通過し、かつ金属調に見えるようにするための部位(例えば、車両後方や両サイドの障害物を検出するミリ波レーダ)を隠蔽するための部材として利用してもよい。
【0048】
さらに、車両に限らず、内部から電波を発信したり、外部からの電波を受ける機構のケーシングであり、金属調の見栄えが必要な場合に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本実施の形態に係る表面処理材の断面図である。
【図2】本実施の形態に係る絶縁コーティングされた金属微粒子であり(A)は外観図、(B)は一部断面図である。
【図3】(A)は従来の金属微粒子における電磁波通過状態を示す概念図、(B)は本実施の形態に係る絶縁コーティングされた金属微粒子における電磁波通過状態を示す概念図である。
【図4】本実施の形態に係る表面処理材が適用された車両の実施例を示す斜視図である。
【図5】図4に示すラジエータグリルの正面図である。
【図6】図4に示すラジエータグリルの側面断面図である。
【符号の説明】
【0050】
10 表面処理材
12 基材
14 金属微粒子(金属粒子)
16 透明絶縁材料(絶縁コーティング)
18 透明樹脂塗料
20 オーナメント(レーダユニット)
22 車両
24 エンジンフード
26 ヘッドライト
28 バンパー
30 ラジエータグリル
30A ルーバー
32 ミリ波レーダ(レーダユニット、距離検出用レーダ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波が通過する非金属材料で形成された基材と、
前記基材の表面に形成され、互いの電気的接触を回避するための絶縁コーティングが施された金属粒子と、
を有する表面処理材。
【請求項2】
前記表面処理材が、車両のラジエータグリルに取り付けられるオーナメントである請求項1記載の表面処理材。
【請求項3】
前記オーナメントにおける車両後方側には、前記基材に向けて電磁波を出力し、当該出力された電磁波の反射波を受信することで、反射対象までの距離を計測する距離検出用レーダが取り付けられ、
前記基材である非金属材料が、通過する所定の周波数の電磁波が干渉することのない厚さ以下である請求項2記載の表面処理材。
【請求項4】
所定方向に電磁波を出力し、当該出力された電磁波の反射波を受信することで、反射対象までの距離を計測する距離検出用レーダと、
電磁波が通過する非金属材料で形成された基材の表面に互いの電気的接触を回避するための絶縁コーティングが施された金属粒子が形成され、前記距離検出用レーダにおける少なくとも前記電磁波出力面側に配置され前記距離検出用レーダを隠蔽するカバーと、
を有するレーダユニット。
【請求項5】
球体状の金属粒子のそれぞれに、シリカ(SiO2)系の絶縁材料をコーティングすることで、前記金属粒子同士を絶縁し、
前記絶縁コーティングされた金属粒子を、非金属材料の基材の表面に形成し、
この金属粒子が形成された基材の表面を、当該金属粒子が埋没するように、透明塗料を塗布する表面処理材製造方法。
【請求項6】
前記基材が、通過する所定の周波数の電磁波が干渉することのない厚さ以下である請求項5記載の表面処理材製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−280857(P2009−280857A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133190(P2008−133190)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】