説明

表面処理装置および表面処理方法

【課題】放電により生じた寿命の短いラジカルを減衰を受ける前に被処理体に向けて噴出できるようにし、エネルギ効率の高い表面処理を実現する。
【解決手段】貫通微細孔15を有する導電性電極6と誘電体被覆12で被覆された高圧導電体11との間で放電を生じ、その高圧導電体11を貫通微細孔15近傍のガス流速方向上流側に偏って配置することで、放電領域40を高圧導電体11の位置に対応して貫通微細孔15近傍のガス流速方向上流側に限定し、放電により生じた活性粒子を減衰を受ける前にガス流に乗せて効率よく抽出し、貫通微細孔15の出口から、当該出口に対向して置かれた被処理体(図示せず)に向けて噴射して、被処理体の表面処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は表面処理装置および表面処理方法に関し、特に、放電によって発生させた活性粒子を放電領域の外に配置した被処理体に照射することで、被処理体表面を処理する表面処理装置および表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放電によりプラズマを生成して、それを表面処理工程に用いる技術は、広く導入されており、例えば、エンジニアリングプラスチックや樹脂コーティングの接着性改善、金属接着面の前洗浄、FPDなどの大面積デバイスの洗浄に対して、適用されている。但し、プラズマを用いた処理を適用するには、処理対象のチャージアップによる表面での放電による破壊の抑制や、イオンなどの過度に高いエネルギを持つ粒子による表面構造の損傷の抑制などが必要である。加えて、工程の簡素化、高スループット化も求められている。これらの要求を解決する技術として、大気圧リモートプラズマによる中性ラジカルを適用したインラインの処理によるプラズマ処理が注目されている。
【0003】
大気圧リモートプラズマは上記の課題を解決する一方で、大気圧下、特に、酸素を20%程度含む空気雰囲気での大気圧リモートプラズマでは、表面反応の担い手である活性なラジカルが高圧力下での衝突により極めて短時間で失活するといった短所があり、処理効率が上げられない点が課題である。また、ラジカルを失活させないためや放電効率を上げるため、雰囲気ガスや放電ガスとして希ガスなどを消費し、それらのガスの調達のために特殊な設備や追加のコストを必要とする点が課題となっている。
【0004】
例えば、特許文献1には、積層誘電体、金属印刷電極により絶縁基材内に開けられた孔内での放電を行う一体化電極による表面処理装置が示されている。以下、図15を用いて特許文献1を説明する。図15に示されるように、絶縁基材1に複数の貫通孔2が開けられ、電源6に接続された放電電極対3,4間で放電を貫通孔2内に生じさせるものである。このとき、貫通孔2の上部より放電ガスGが供給され、放電ガスGは貫通孔2内の放電領域を通過することで、活性なラジカルを含んだガスとなり、当該ガスの下流に置かれた被処理体5の処理が実現される。
【0005】
特許文献1によれば、複数の貫通孔2を面状の絶縁基材1に分布させることで処理範囲を大面積化することができると共に、少ないガス消費量(低ランニングコスト)で均一な処理を行うことができる。また、電極3を貫通孔2のガス吹出口2b側に配置し、それを接地電極として形成することにより、電極3と被処理体5との間の電位差が大きくなることを抑制し、それにより、荷電粒子の照射を抑え、被処理体5を帯電からのダメージから避けることができる。
【0006】
また、特許文献2には、セグメント化された高圧電極を持つリモートプラズ照射装置が示されている。以下、図16を用いて特許文献2を説明する。特許文献2においては、穴160を有する中空構造の誘電体スリーブ155に対向して設けられた高圧電極115と、接地電極150との間に電圧を印加することで、大気圧近傍で放電プラズマを発生させる。高圧電極115には中空の通路であるキャピラリ120を施し、ガスを流通させる。接地電極150側では、誘電体スリーブ155に設けられた多数のガス噴出し部である穴160が、キャピラリ120の中心に位置合わせされて設けられており、それらの穴160を通して、放電プラズマで生成した反応ガスを被処理基材に照射することで、洗浄、改質処理を行なう。特許文献2には、さらに、図17に示す、高圧電極715のキャピラリが接地側誘電体スリーブと一体化し、高圧電極ごとに流路が制限された例示もある。
【0007】
特許文献2によれば、以上の構造により、リモートプラズマを実現でき、被処理体の高さに関係なく、被処理体に近接させて、プラズマおよび荷電粒子を照射することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−123159号公報(図1)
【特許文献2】特表2004−535041号公報(図1,2,8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来技術には以下のような問題がある。すなわち、特許文献1に記載される表面処理装置では、限られた孔内での沿面放電によりプラズマを発生させるため、放電電力が低く制限され、活性粒子の密度を高く取れない。また、露出した薄い接地電極あるいは、それを覆う誘電体被覆が施されている構造のため、通過する荷電粒子の捕捉能力が低く下流の被処理体への荷電粒子の流出が生じる恐れがある。そのため、接地電極である電極3を導入しているが、貫通孔長を延長することになり、表面処理の担い手である活性粒子のうち、寿命の短い粒子は延長された貫通孔長を通過する時間が増加し、延長長に応じて減衰が進み、処理効率を高く保つことができない可能性がある。減衰したラジカル生成に使われた電気エネルギは表面処理に使われることなく、放電ガスの温度を上昇される影響を与えるだけであるので、処理のエネルギ効率を下げてしまう。さらには、放電ガスの温度が過度に上昇した場合には、熱応力により、電極割れなどの器具の破損が発生する可能性も出てくる。
【0010】
また、特許文献2に記載される大気圧プラズマ照射装置においても、同様に、接地電極が誘電体被覆されており、荷電粒子の除去能力が低く、下流の被処理体への荷電粒子の流出が生じる恐れがある。また、面積の大きい対象を処理する場合、多数の高圧電極、キャピラリ、接地側誘電体スリーブなどの数多い部品が必要となり、組立が煩雑で工数が過大となり組立コストが大きくなる問題を抱える。
【0011】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、被処理材に到達する荷電粒子を十分に抑制したうえで、寿命の短いラジカルを大気圧プラズマ発生箇所から高速で輸送することでラジカル密度減衰を抑制し、エネルギ効率の高い表面処理を行うことが可能な表面処理装置および表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、誘電体で被覆された高圧導電体を有する平板状の高圧電極と、前記高圧電極に対向して配置され、1以上の貫通微細孔が形成された導電体表面を有する接地電極と、前記高圧電極と前記接地電極との間に形成された放電空間と、前記放電空間にガスを導入するガス供給手段と、前記高圧電極に交番電圧を印加する高周波高圧電源とを備え、一定速度で前記放電空間にガスを導入し、前記放電空間の圧力を前記貫通微細孔の出口圧力よりも高く保った状態で、前記高圧電極に前記交番電圧を印加することで、放電を生じさせ、当該放電により生じた活性粒子を含むガスを、前記貫通微細孔から、前記貫通微細孔に対向して置かれた被処理体に吹き付けて、前記被処理体の表面処理を行う表面処理装置であって、前記高圧導電体が、それに対向する前記接地電極に設けられた前記貫通微細孔に対して、前記放電空間におけるガス流方向上流側にシフトした位置に設けられていることを特徴とする表面処理装置である。
【発明の効果】
【0013】
この発明は、誘電体で被覆された高圧導電体を有する平板状の高圧電極と、前記高圧電極に対向して配置され、1以上の貫通微細孔が形成された導電体表面を有する接地電極と、前記高圧電極と前記接地電極との間に形成された放電空間と、前記放電空間にガスを導入するガス供給手段と、前記高圧電極に交番電圧を印加する高周波高圧電源とを備え、一定速度で前記放電空間にガスを導入し、前記放電空間の圧力を前記貫通微細孔の出口圧力よりも高く保った状態で、前記高圧電極に前記交番電圧を印加することで、放電を生じさせ、当該放電により生じた活性粒子を含むガスを、前記貫通微細孔から、前記貫通微細孔に対向して置かれた被処理体に吹き付けて、前記被処理体の表面処理を行う表面処理装置であって、前記高圧導電体が、それに対向する前記接地電極に設けられた前記貫通微細孔に対して、前記放電空間におけるガス流方向上流側にシフトした位置に設けられていることを特徴とする表面処理装置であるので、被処理材に到達する荷電粒子を十分に抑制したうえで、寿命の短いラジカルを大気圧プラズマ発生箇所から高速で輸送することでラジカル密度減衰を抑制し、エネルギ効率の高い表面処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1による表面処理装置を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1による表面処理装置の高圧電極の高圧導電体を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1による表面処理装置の高圧電極とスペーサの位置関係を示す上面図である。
【図4】本発明の実施の形態1による表面処理装置の端部スペーサ部を切る断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1による表面処理装置のガス導入孔部をきる断面図である。
【図6】本発明の実施の形態1による表面処理装置の接地電極を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態1による表面処理装置の高圧電極の高圧導電体を示す断面図の一例である。
【図8】本発明の実施の形態2による表面処理装置の放電空間を示す断面図である。
【図9】本発明の実施の形態2による表面処理装置の放電空間を示す図8と垂直な方向から見た断面図である。
【図10】窒素中、乾燥空気中の酸素原子の減衰を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態2による樹脂処理結果を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態3による表面処理装置の構成を示す図である。
【図13】本発明の実施の形態4による表面処理装置の構成を示す図である。
【図14】本発明の実施の形態5による表面処理装置を示す断面図である。
【図15】特許文献1に記載の従来技術を示した図である。
【図16】特許文献2に記載の従来技術を示した図である。
【図17】特許文献2に記載の従来技術を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1による表面処理装置の構成を示す断面図である。図1に示すように、本実施の形態1による表面処理装置は、内部に、放電空間1を備えている。表面処理装置の筐体は、略々矩形の枠状の側枠3と、側枠3の底部に設けられた接地電極6と、接地電極6に対向して側枠3の上部に設けられた押さえふた2とにより構成されている。側枠3、設置電極6、押さえふた2は、いずれも導体から構成されている。放電空間1は、これらの、側枠6と、接地電極6と、押さえふた2とにより囲まれた気密構造となっている。放電空間1が外部に通じているのは、わずかに、後述するガス導入孔42(図5参照)と貫通微細孔群15だけである。押さえふた2と側枠3との間、および、接地電極6と側枠3との間には、ゴム状弾性体8が介在されており、押さえふた2と、側枠3と、接地電極6とを、ねじにて締結することで、それらの間に介在されたゴム状弾性体8を圧縮し、気密を確保する。
【0016】
また、放電空間1内には、押さえふた2と接地電極6との間に、上から順に、ヒートスプレッダ7、高圧電極4、放電部スペーサ52が、垂直方向に並んで配置されている。ヒートスプレッダ7は押さえふた2の下面に密着して設けられている。但し、後述する供給ガス43が導入されるガス導入孔42が設けられている付近のみ、局所的に、ヒートスプレッダ7と押さえふた2の下面との間が密着せずに、所定の隙間(溝)9が形成されている。また、ヒートスプレッダ7の下面には、高圧電極4が固設されている。ヒートスプレッダ7および高圧電極4は、後述するように、それぞれ、略々矩形断面を有する細長い棒状の形状を有している。ヒートスプレッダ7の幅は、図1、図5に示すように、側枠3の4つの内壁のうちの対向する1対の内壁の幅に対して、短く構成されている。高圧電極4の幅は、ヒートスプレッダ7の幅よりもさらに短くなっている。従って、ヒートスプレッダ7および高圧電極4の端面は、いずれも、図1、図5に示すように、側枠3の当該1対の内壁には接触しておらず、それぞれ、所定の隙間10を側枠3の内壁との間に設けている。また、高圧電極4の(長手方向の)長さは、ヒートスプレッダ7の長さと同じになっており、高圧電極4の端面およびヒートスプレッダ7の端面は、側枠3の他方の1対の内壁にそれぞれ接触している。上述したように、ガス導入孔42が設けられている箇所においては、ヒートスプレッダ7の上面と押さえふた2の下面との間には隙間(溝)9がある。当該隙間(溝)9は、ヒートスプレッダ7の端面と側枠3の内壁との間の隙間10を経由して、放電空間1に通じているため、ガス導入孔42から供給された供給ガス43は、隙間9,10を通って、放電空間1に導入される。また、高圧電極4の下面と設置電極6の上面との間には、放電部スペーサ52が固設されていて、下から、高圧電極4を支持している。上述したこれらのヒートスプレッダ7、高圧電極4、および、放電部スペーサ52を、押さえふた2および接地電極6に押し付けることで、放電空間1の空隙高さを一定に保つとともに、各構成要素間の接触熱抵抗を低減する構造となっている。
【0017】
押さえふた2には2つの貫通穴が設けられており、そのうちの1つの中には、高周波高圧電源30に接続された給電バー17が挿入され、垂直方向に配置されている。また、もう1つの貫通穴は、図1では図示されていないが、図5に示すように、供給ガス43を放電空間1内に供給するためのガス導入孔42となっている。給電バー17と押さえふた2とは、絶縁碍子16を介して、電気絶縁と気密を保ちながら機械的に接合されている。給電バー17は、押さえふた2およびヒートスプレッダ7を貫通して垂直方向に延びており、その先端が、高圧電極4に達し、高圧電極4内に配置された高圧導電体11に導電性弾性体18を介して電気的に接続されている。給電バー17に接続された導電性弾性体18の弾性変形範囲は、ゴム弾性体8のつぶれしろより大きく設定しており、組立時だけでなく、放電開始に伴い、高圧電極4、接地電極6、および、ヒートスプレッダ7の温度が大きく上昇し、熱膨張により変形が生じた後も、導電性弾性体18の変形により、高圧電極4への押し付けが良好に行われる。
【0018】
ヒートスプレッダ7は、給電バー17を通す貫通穴が空いている以外は高圧電極4に密着して設置されている。押さえふた2、側枠3、および、接地電極6は相互に電気的に導通され、接地電位に保たれている。高圧電極4は、図2、図3、図7に示すように、略々矩形の細長い板棒状の形状で、その断面は、図1、図4に示すように、略々矩形(長方形)となっている。また、図2または図7に示すように、表層を誘電体被覆12で覆われており、内部には所定のパターンを持つ高圧導電体11が形成されている。この高圧導電体11の幅および接地位置により、図1に示すように、放電空間1内の放電領域40が規定される。すなわち、高圧導電体11とそれに対向する接地電極6との間の領域が放電領域40として規定される。高圧導電体11は、例えば、図2の例(パターン)のように、放電部スペーサ52をまたぐ図1の放電領域40全体に亘る幅の1本の板棒状の導電体から構成してもよく、あるいは、図7の例(パターン)に示すように、2本の細い板棒状の導電体から構成し、放電部スペーサ52が高圧電極4に接触している領域には高圧導電体11を設けずに、それらの2本の細い板棒状の導電体の一端同士をバスライン14で電気的に接続して内部導通をとる構成とすることもできる。
【0019】
このように、高圧導電体11のパターンとしては複数種類のパターンが考えられるが、それらに共通する特徴としては、高圧導電体11が、それに対向する接地電極6に設けられた貫通微細孔15に対して、貫通微細孔15の入口近傍で、かつ、放電空間1のガス流方向上流側に偏って設けられている点である。すなわち、図6において、破線で示されている範囲が、接地電極6に対向している高圧電極4の高圧導電体11が設けられている領域である。なお、上記近傍の範囲は、後述するラジカル到達距離以内が望ましい。ガス導入孔42から供給された供給ガス43は、隙間9,10を通って、図5の矢印で示すようなガス流方向で流れてきて、高圧電極4および接地電極6間の放電領域40では、図6の矢印で示すガス流方向で供給される。従って、図6の左右の方向がガス流路方向上流となり、図6中央の貫通微細孔15の入口側がガス流路方向下流となる。このとき、貫通微細孔15の2列とそれらに平行する破線の位置とを比較してみると、左右ともに、破線の方が貫通微細孔15の列よりも左右外側に位置していることが分かる。従って、これは、高圧導電体11が、貫通微細孔15の真上ではなく、貫通微細孔15の位置よりもガス流方向上流側に所定距離だけシフトした位置に設けられていることを示している。このガス流方向上流側にシフトされて設けられていることを、本明細書では、ガス流方向上流側に偏って設けられていると呼ぶこととする。なお、図2の例では、貫通微細孔15のガス流方向上流側だけでなく、貫通微細孔15の真上の位置にも、高圧導電体11が設けられており、この部分に設けても特に問題もないが、必ずしも設ける必要もないので、図7のように、貫通微細孔15の真上の位置においては高圧導電体11を無くす構成としてもよい。いずれのパターンでもよいが、但し、ガス流方向上流側には必ず高圧導電体11を設けるようにする。
【0020】
高圧電極4の上面外観を図3に示すが、給電孔21として、一部、誘電体被覆12が設けられておらず高圧導電体11が露出している箇所が、高圧電極4の放電空間1とは反対側の面(高圧電極4の上側の面)に形成されている。こうして給電孔21により露出した高圧導電体11には、高周波高電圧電源30に接続された給電バー17が導電性弾性体18を介して電気的に接続されている。また、図3に示すように、高圧電極4の両端には、端部スペーサ51が施されている。図4は、図3のA−A線の位置で切った表面処理装置の断面図である。端部スペーサ51は、図4に示すように、高圧電極4の両端の下部に配置され、接地電極6の上面および側枠3の内壁に密接して固着されていることで、下方から高圧電極4を支持して、ヒートスプレッダ7に押しつけている。端部スペーサ51は、上述した放電部スペーサ52に対して、図3に示すように垂直に連結されており、これらのスペーサは、全体で、Iの字型になっている。放電部スペーサ52も同じく高圧電極4の下部に設けられ、下方から高圧電極4を支持して、ヒートスプレッダ7に押しつけているので、これらの端部スペーサ51と放電スペーサ52が、高圧電極4をヒートスプレッダ7に押し付けることで、高圧電極4の位置を安定させるとともに、放電空間1の空隙高さが一定に保たれている。なお、以下の説明では、端部スペーサ51と放電スペーサ52とをまとめていう場合には、スペーサ5と呼ぶこととする。
【0021】
図5に示すように、放電空間1に供給される供給ガス43は、給電バー17とは異なる位置に形成されているガス導入孔42により流し込まれる。ガス供給孔42が設けられている位置付近においては、上述の通り、ヒートスプレッダ7は押さえふた2と密着しない構造となっており、隙間(溝)9が形成されている。供給ガス43は、この隙間(溝)9部分を通じて、ヒートスプレッダ7の側面と側枠3との間の隙間10を経由して、図5の矢印で示される流路で、側方から、放電空間1に流入する。このとき、放電空間1側と貫通微細孔15の出口側では圧力差があるため、この圧力差によって生じる応力は、接地電極6の中心を下流側へひずませる。そのため、放電空間1の高さ(放電ギャップ長)を一様にするために、ひずみ量がギャップ長の5%以下となるように、接地電極6の厚さは決められている。接地電極6には、図6に示されるように、複数の貫通微細孔15が長手方向に2列に配列して形成されている。これらの2列の貫通微細孔15の位置は、幅方向には互いに並んでおらず、互い違いになるように、位置をシフトさせて設けている。当該シフト量は、1つの列における隣接する貫通微細孔15間の配置間隔の約1/2である。従って、一方の列の隣接する貫通微細孔15の間に、他方の列の貫通微細孔15が存在するように、位置づけられている。供給ガス43は、放電空間1内の放電領域40を通過することで、活性粒子を含んだ活性粒子含有ガス41となり、貫通微細孔15を通って、貫通微細孔15の下流の、表面処理装置の外部に置かれた被処理体(図示省略)に照射される。
【0022】
次に、実施の形態1による表面処理装置の動作について説明する。ここでは、供給ガス43として乾燥空気を用い、乾燥空気を原料として、放電により、活性粒子として窒素ラジカルおよび酸素ラジカルを発生させ、それらのラジカルを被処理体に接触させる表面処理について説明する。ガス導入孔42から、放電空間1に、毎分14リットルの流量で乾燥空気(供給ガス43)を供給する。接地電極6に形成された貫通微細孔15の直径は例えば0.12mmであり、貫通微細孔15の個数は例えば112個である。この条件においては、貫通微細孔15の出口圧力は大気圧であり、かつ、貫通微細孔15によって、供給ガス43のガス流のコンダクタンスが制限されるため、放電空間1のゲージ圧力は25kPaG程度となり、放電空間1の圧力は、貫通微細孔15の出口圧力よりも高く保たれている。なお、ここでは、ガスを導入する一定速度として、毎分14リットルの流量としたが、その場合に限らず、放電空間1の圧力を貫通微細孔15の出口圧力よりも高く保つことができる一定速度であれば、適宜決定可能である。このとき、給電バー17を介して、高周波高圧電源30から、高圧電極4内の高圧導電体11に、交番する高電圧を印加することで、放電空間1の高圧導電体11が存在する領域とそれに対向する接地電極6とに挟まれた放電領域40に誘電体バリア放電を生起させ、活性なラジカルを発生させる。放電により発生したラジカルは、貫通微細孔15を通って、その下流の、貫通微細孔15の出口真下に対向して置かれた、図示しない被処理体に衝突し、当該被処理体の表面処理を行なう。
【0023】
本実施の形態1では、高電圧が印加される高圧導電体11が、それに対向する接地電極6に設けられた貫通微細孔15に対して、貫通微細孔15近傍で、かつ、放電空間1におけるガス流方向の上流側に偏って設けられている。従って、放電領域40は、放電空間1の全体ではなく、貫通微細孔15の入口近傍の、貫通微細孔15よりもガス流方向上流側に少し偏った領域となっている。なお、図1の例では、高圧導電体11が図2のパターンのものであるため、放電領域40が貫通微細孔15の入口真上にも及んでいるが、図7のパターンとした場合には、放電領域40は、貫通微細孔15の入口付近の、貫通微細孔15よりもガス流方向上流側に少し偏った領域のみとなる(放電部スペーサ52近傍は放電領域40にならない)。この構成により、ガス流上流で放電により生じたラジカルは、当該ガス流に乗ってラジカル発生後に直ちに効率よく貫通微細孔15にそのまま吸い込まれていくので、活性粒子含有ガス41の輸送距離を大幅に短くし、放電で生じたラジカルが減衰することなく、貫通微細孔15から被処理体に向けて噴出でき、また、放電のエネルギが主にラジカル生成に使われることで、ガス温度の過剰な上昇を抑制し、ガス温度を低く保ったまま、表面処理に寄与するラジカルの密度を増加させることができる。
【0024】
以下に、このことについてさらに詳細に説明する。一般に、放電により生成されるラジカルは、放電空間およびその後の被処理体までの輸送空間でガスとの衝突により、一定の寿命で失活する。図10に、絶対圧1気圧下での酸素ラジカル(酸素原子)寿命を計算した結果と、0.01%酸素を混合した窒素雰囲気と空気雰囲気(酸素濃度21%)それぞれについて示す。図10において、「0.01%−O2/N2」として示された結果が窒素雰囲気の場合で、「乾燥空気」として示された結果が空気雰囲気の場合である。
【0025】
図10の例では、初期に、酸素原子1020−3(1014cm−3)の存在を仮定し、減衰をレート方程式により算出した。初期密度の1/10となる時間をラジカル寿命とすると、窒素雰囲気では、酸素原子寿命は100ms程度あるのに対して、空気雰囲気では70μs程度まで短命化する。中性のラジカルは電界の効果を受けることなく、ガスの移流によってのみ輸送される。そこでラジカルの輸送には、放電空間1と貫通微細孔15内と貫通微細孔15の噴出口から被処理体までのガス流速が重要な役割を果たす。放電空間を流れるおよそのガス流速は、ガス流量を、放電空間の高さとガス流方向の高圧電極の電極幅とで定まる面積で、除算した値となる。また、ラジカル到達距離は、ガス流速とラジカル寿命との乗算で求められる。ラジカル到達距離以遠で発生したラジカルは、貫通微細孔15到達前に減衰してしまい、表面処理への寄与が小さくなる。
【0026】
例えば、放電空間の高さを1mmとし、高圧電極のガス流方向の電極幅を100mmとし、当該高圧電極に対して両側からガスを毎分14Lで流入させた場合(両側から流入するため片側の流入量は毎分7L)、放電領域でのガス流速はおよそ1.2m/sとなり、酸素原子の窒素中寿命100msとするとラジカル到達距離は120mm、酸素原子の空気中寿命を70μsとするとラジカル到達距離は84μmとなる。貫通微細孔15からこれらの距離の離れた遠方で放電して発生したラジカルは貫通微細孔に到達するときには1桁以上失活し、ラジカルの活性エネルギは再結合過程などによりガス温度上昇に使われる。つまり、ラジカル到達距離以遠の領域に投入された放電エネルギのほとんどは熱化して、表面処理には寄与せずガス温度上昇だけを促進する。
【0027】
そこで、本実施の形態1においては、放電空間1の放電領域40における高さを0.1mmまで縮めることとした。放電空間1の放電領域40における高さを0.1mmまで縮めるための構成としては、押さえふた2の下面に厚みのあるヒートスプレッダ7を設け、そのヒートスプレッダ7の下面に、高圧電極4を設ける構成とした。ヒートスプレッダ17を設けた分だけ、放電空間1の放電領域40の高さを低くすることができる。このように、放電空間1の高さを0.1mmまで縮めると、上記と同じガス流量条件では、放電領域40でのガス流速がおよそ12m/sとなり、放電領域40のラジカル到達距離が酸素原子で1200mm,酸素原子で840μmとなり、ラジカル到達距離が約10倍拡大される。本実施の形態1では、高圧導電体11を図2または図7に示すように、細長い板棒状の形状にし、放電部スペーサ52の端部からの高圧導電体11の幅をラジカル到達距離程度としているために、放電エネルギが有効に使われ、高効率での表面処理が実現できる。なお、ここでは、ガス流速がおよそ12m/sとなる例について説明したが、その場合に限らず、放電領域40でのガス流速が10m/s以上であればよく、その場合には良好に被処理体の表面処理を行うことができる。
【0028】
以上のように、本実施の形態1は、誘電体被覆12で覆われた高圧導電体11からなる平板状の高圧電極4と、1以上の貫通微細孔15が形成された導電体表面を持つ接地電極6とを互いに対向させ、これらの放電電極4,6間に供給ガス43を導入し、放電電極4,6間に形成された放電空間1の圧力を貫通微細孔15の出口圧力よりも高く保ち、高圧電極4に高周波高圧電源30により交番電圧を印加することで放電を生じ、当該放電により、供給ガス43を活性化して活性粒子を含む活性粒子含有ガス41とし、貫通微細孔15から当該活性粒子含有ガス41を対向する被処理体(図示省略)に吹き付けて、被処理体の表面を処理する表面処理装置において、高圧電極4により高電圧が印加される高圧導電体11を、それに対向する接地電極6に形成された貫通微細孔15に対して、貫通微細孔15近傍で、かつ、貫通微細孔15の位置よりも放電空間1のガス流方向上流側に偏って施し、効率よくラジカルがガス流に乗って貫通微細孔15に流入されるようにするとともに、高圧導電体11の位置により貫通微細孔15近傍でのみ放電を発生させるように限定することで、ラジカルが失活してしまうようなラジカル到達距離以遠の領域での放電を抑制し、放電で生じたラジカルが減衰することなく、貫通微細孔15から被処理体に向けて効率的に噴出でき、また、放電のエネルギを主にラジカル生成に使われることで、被処理体の表面処理に寄与しないエネルギ投入を低減し、ラジカル密度を低下させないとともに、ガス温度の過剰な上昇を抑制して、ガス温度を低く保ったまま、被処理体の表面処理に寄与する中性な活性粒子の密度を増加することができる。このように、本実施の形態1においては、貫通微細孔15を持つ接地電極6と誘電体被覆された高圧導電体11との間で放電を生じ、その高圧導電体11を貫通微細孔15近傍のガス流速方向上流側に偏って配置することで、放電領域40を高圧導電体11に対応して限定し、放電により生じた活性粒子を減衰を受ける前に抽出することができる。また、本実施の形態1においては、特許文献1の接地電極に比べて、厚さを有し、かつ、誘電体被覆で覆われていない、接地電極6を用いているため、貫通微細孔15を通過するか荷電粒子の補足能力が高く、下流の被処理体への荷電粒子の流出を抑えることができる。
【0029】
また、ラジカル到達距離はガス流速とラジカル寿命との乗算で求められるので、上記の貫通微細孔15に対して偏って規定される放電領域40のガス流上流方向の大きさ(幅)を、放電領域40でのガス流速に、ラジカル寿命の値(すなわち、空気放電では70μs、微量酸素を含む窒素放電においては100ms)を乗じた距離以内にすることで高エネルギ効率で表面処理が可能となる。具体的には、放電領域40がその大きさとなるように、高圧導電体11の半分の幅を、ラジカル到達距離以内にする。また、放電領域40の高さ、すなわち、高圧電極4の下面から貫通微細孔15までの距離も同様にラジカル到達距離以内にすることが望ましい。この構成により、接地電極6や貫通微細孔15の表面でのラジカルの消滅が抑制され、被処理体に到達するラジカルの密度を向上させることができる。あるいは、被処理体に到達するラジカル密度を所定の値に保ったまま、低温の噴出ガスで処理を行うことができるため、温度上昇により変質・損傷を受ける材料に対しても処理を適用することができる。
さらに処理のエネルギ効率を上げるためには、微細孔から最も遠い放電領域から到達するラジカルの減衰が放電による生成時の初期密度の1/2以内程度になるラジカル到達距離の1/2倍以内にすることがより望ましい。具体的には、高圧導電体11の半分の幅を、ラジカル到達距離の1/2倍以内にする。また、放電領域40の高さ、すなわち、高圧電極4の下面から貫通微細孔15までの距離も同様にラジカル到達距離の1/2倍以内にすることがより望ましい。この構成により、接地電極6や貫通微細孔15の表面でのラジカルの消滅が抑制され、より高いエネルギ効率のまま被処理体に到達するラジカルの密度を向上させることができる。あるいは、被処理体に到達するラジカル密度を所定の値に保ったまま、より低温の噴出ガスで処理を行うことができるため、温度上昇により変質・損傷を受ける材料に対しても処理を適用することができる。
【0030】
また、本実施の形態1においては、放電領域40でのガス流速が10m/s以上となるように、放電領域40の高さ、高圧電極4の幅、および、高圧電極4の配置位置(貫通微細孔15までの距離)、供給ガス43の導入速度の少なくとも1つを調整するようにしたので、短寿命のラジカルの減衰を抑制して、被処理体に効率よく吹き付けることができる。
【0031】
さらに、本実施の形態1においては、貫通微細孔15の径(および、供給ガス43の導入速度)は、貫通微細孔15の出口でのガス流出速度が、乾燥空気中の空気放電においては100m/s以上、微量酸素を含む窒素放電においては50m/sとなるように設定するようにしたので、発生したラジカルが貫通微細孔15内ではほとんど減衰しない上に、貫通微細孔15の出口を飛び出した後の速度も確保できるため、被処理体に対してラジカルの減衰を抑制してラジカル照射でき、良好な表面処理を実現することができる。
【0032】
また、本実施の形態1において、放電領域40は高圧導電体11近傍に集中することになるが、面方向(高圧電極伸張方向)の熱伝達率が高く、絶縁性を有する、板状のヒートスプレッダ7を、高圧電極4の放電面と反対側の面に密着して設けるようにしたので、高圧電極4の温度分布のばらつきが緩和され、高圧電極4の均温化が促進されるので、熱応力が低減し、熱応力による電極割れ(電極の破損)を防止することができる。高圧電極4に誘電体被覆12として例えばアルミナ被覆を用いた場合には、ヒートスプレッダ7は、高圧電極4の誘電体被福12よりも厚いアルミナあるいはより熱伝導率の高い窒化物系セラミックを用いるようにするとよい。
【0033】
また、実施の形態1においては、貫通微細孔15の形成は、機械加工、レーザ加工、パイプ埋め込みなどにより実現できるが、それら加工の性質上、孔形状がテーパ状になってしまう事が避けられない場合がある。そのような、やむをえずテーパ状になってしまう場合には、テーパ状の貫通微細孔15において出口でのガス流速が最大となるように、貫通微細孔15の放電空間1側の入口側の径を最大径にし、出口側の径を最小径となるように、貫通微細孔15を形成することが望ましい。
【0034】
また、実施の形態1においては、高圧電極4の放電面の反対側の面の一部に被覆誘電体12を施さずに、高圧電極4に内蔵された高圧導電体11の一部を露出させた部分(給電孔21)を持ち、当該部分に、高周波高圧電源30に接続された導電性部材を接触させて高電圧印加を行う給電方法をとり、当該導電性部材の一部または全部を弾性体から構成するようにしたので、高圧電極4にかかる熱応力を緩和でき、電極割れを防止することができる。なお、本実施の形態1では、当該導電性部材を、給電バー17と導電性弾性体18とから構成し、導電性弾性体18部分に弾性を持たせる構成とした。
【0035】
実施の形態2.
図8は、本発明の実施の形態2による表面処理装置の構成を示す断面図である。また、図9は、本実施の形態2における、高圧電極4と接地電極6とを示した図である。本実施の形態2の構成は、基本的に、実施の形態1と同じであるが、高圧電極4と接地電極6の構成と、供給ガス43の供給位置とが異なる。以下では、主に、実施の形態1と異なる点を中心に説明する。
【0036】
本実施の形態2においては、図9に示すように、高圧電極4および接地電極6が共に略々矩形の板状形状となっている。接地電極6には、図9に示すように、複数の貫通微細孔15が縦横に均等に配列されている。図9の例では、7列×5行の計35個の貫通微細孔15が設けられているが、当然ながらこれに限定されるものではなく、縦横に出来るだけ均等に配列されていれば任意の個数でよい。
【0037】
また、高圧電極4には、縦横に配列された略々円形の導電体拡大部13とそれらの導電体拡大部13間を接続するライン状(線状)のバスライン14とから構成された高圧導電体11が設けられている。各導電体拡大部13は、基本的には、接地電極6の貫通微細孔15の配置位置に対応して設けられ、それらは互いに対向しているが、図9の一点鎖線からも分かるように、導電体拡大部13の中心と貫通微細孔15の中心とは一致せず、導電体拡大部13がガス流方向上流側に所定微小距離だけ若干オフセットされて設けられている。但し、図9の例では、中央の端から4列目においては、導電体拡大部13の中心と貫通微細孔15の中心とが一致している。なお、バスライン14で電気的に導電体拡大部13を接続する理由は、単一の高周波高圧電源30で一度にすべての導電体拡大部13に高電圧を供給するためであり、部品点数を増やさず、かつ、組立工程を容易で工数の少ないものにするためである。
【0038】
また、本実施の形態では、高圧電極4を板状にした関係で、ヒートスプレッダ7と高圧電極4とが、側枠3の一方の内壁から対向する他方の内壁まで延びており、ヒートスプレッダ7の両端と高圧電極4の両端とが共に側枠3の内壁に接触している。これにより、本実施の形態では、図1に示した放電部スペーサ52と端部スペーサ51とは設けずに、側枠3の内壁に沿って、略々矩形の高圧電極4の外周部の下面を支持する枠状のスペーサ5が設けられている。
【0039】
また、実施の形態1では、押さえふた2にガス導入孔42を設けて、上方から供給ガス43を放電空間1に流し込んでいたが、本実施の形態では、上述したように、ヒートスプレッダ7と高圧電極4とが、側枠3の一方の内壁から対向する他方の内壁まで延びているため、上方からの供給ガス43の供給が難しいので、図示しないガス供給手段を、放電空間1の側がわ(外周側)に設け、図9に示すように、放電空間1に対して、高圧電極4および接地電極6の外周部から供給ガス43を供給する構成とした。なお、図9では、左右の方向からのみ供給ガス43を供給しているが、これに限らず、外周部全周方向から供給ガス43を供給するようにしてもよい。なお、図9の例では左右方向から供給ガス43を流しているので、左右方向がガス流方向上流となるので、導電体拡大部13の中心を貫通微細孔15の中心に対してオフセットする方向が左右方向となっているが、外周部全周方向から供給ガス43を供給する場合には、外周部全周がガス流方向上流となるので、オフセットする方向もそれに合わせて、外周部に向かって放射状に広がるようにオフセットさせるようにする。
【0040】
本実施の形態2と実施の形態1との違いは、主に、上述した点だけであり、他の構成は同じであるので、ここでは、同一符号を付して示し、説明は省略する。
【0041】
本実施の形態2においては、図8,9の構成において、ガス供給手段(図示省略)から供給ガス43を、放電空間1に、高圧電極4および接地電極6の外周部より流し込む。供給ガス43は、放電により、活性粒子含有ガス41となり、放電空間1から貫通微細孔15を通って外部に流出するが、貫通微細孔15のコンダクタンスにより放電空間1のゲージ圧力は50kPaG程度となる。貫通微細孔15の出口圧力は大気圧で各孔に対して均一であり、かつ、貫通微細孔15のコンダクタンスは放電空間1を含めたガス流路のコンダクタンスよりも十分小さいため、ガス供給孔からの距離にかかわらず、各貫通微細孔15から流れ出る流量は均一化される。こうして、放電により発生したラジカルは、貫通微細孔15を通って図示しない被処理体に供給され、表面処理を行なう。
【0042】
図9に、本実施の形態2の貫通微細孔15と高圧導電体11との位置関係を示しているが、本実施の形態においては、放電空間1の高圧導電体11の導電体拡大部13で規定される領域に主に誘電体バリア放電を生起させ、活性なラジカルを発生させる。導電体拡大部13の中心を貫通微細孔15の中心からオフセットさせることにより、導電体拡大部13は貫通微細孔15のガス流方向上流側に偏って配置されているため、放電により生じたラジカルは、効率よく貫通微細孔15に流れ込むことでき、ラジカル到達距離に達しない領域では放電を生じないため、エネルギ効率の高い表面処理が実現できる。なお、バスライン14直下でも放電が発生するが、バスライン14の面積にほぼ比例して、そこに投入される電力は小さくできるため、物理的強度や電気的信頼性が確保できる範囲で、出来るだけ細いバスライン14を形成することで、無駄なエネルギ消費を低減することができる。
【0043】
図11に、本実施の形態2の構成で、放電空間の高さ0.7mm、放電面積36cm、貫通微細孔の直径0.1mm、微細孔数138個を持つ表面処理装置に、ガス流量14slmで放電電力175Wでポリエチレン板を搬送速度25mm/sで移動させながらラジカルを照射した結果を示す。表面処理装置と被処理体との距離を変えて実験を行い、処理能力を純水の接触角測定により評価した。到達距離10mmではラジカルが減衰するため、処理効果が見られないが、接近するに伴い、親水性が向上し、接触角が小さくなることが分かる。図11においては、供給ガス43を空気とする空気放電の結果が□、供給ガス43を窒素ガスとする窒素放電の結果が○でプロットされているが、それらを見ると、空気放電については窒素放電よりも処理効率は悪いが、本実施の形態の高速なラジカル抽出により処理が実現されている。なお、ここでの窒素放電には微量の酸素が含有されており、酸素濃度1000ppmまでの放電を窒素放電と表現する。
【0044】
以上のように、本実施の形態2においては、供給ガス43を窒素ガスまたは空気とし、放電によりラジカルを発生させ、被処理体の親水化試験を行なった。しかしながら、本発明の効果は親水化に限定されるものではない。誘電体バリア放電は、原理的にあらゆるガス種に対して安定な放電を形成できる。また、大気圧近傍でラジカルの寿命が短いことは、放電ガス種に関わらず一般的に成り立つ事象である。従って、ラジカルを効率的に活用するリモートプラズマプロセスを実現するという目的において、本発明はいかなるガス種にも用いることができる。中でも、原子状窒素、原子状水素、原子状酸素などの原子状ラジカルは、大気圧以上の放電で比較的高い密度で発生し、処理対象に照射することで酸化、窒化、還元、親水化、洗浄など様々な効果を発揮するため、本発明の適用が有効である。
【0045】
以上のように、本実施の形態2においては、上記の実施の形態1で得られた効果と同様の効果を得ることができ、さらに、本実施の形態においては、上記の実施の形態1に対して、高圧電極4およびそれに設けられた高圧導電体11、並びに、接地電極6の形状を異なるものとして、それらを面状の板状部材から構成するようにしたので、比較的大面積を有する被処理体の表面処理に適しており、被処理体の広い面積を一度に表面処理できるため、効率がよい。
【0046】
実施の形態3.
図12は、本発明の実施の形態3による表面処理装置の部分断面図、および、高圧電極4の導電体11が存在する層の断面を装置上面から見た図、並びに、接地電極6の装置上面から見た図である。本実施の形態3は、接地電極6の表面において、貫通微細孔15周辺部分だけを円筒状の島状に盛り上げて形成して、その部分だけ、接地電極6の厚さを厚くした点が、実施の形態1乃至2と主に異なる点である。以下では、これらの円筒状の島状に盛り上げられて形成された部分を、接地電極突起部20と呼ぶこととする。なお、接地電極突起部20の断面形状は、図12に示すように、略々矩形となっている。また、本実施の形態においては、実施の形態2と同様に、高圧電極4と接地電極6とを、略々矩形の板状形状にしている。但し、本実施の形態においては、高圧導電体11の形状も、略々矩形の板状となっている点が、実施の形態2と異なる。他の構成については、実施の形態1または2と同じであるため、ここでは、それらの説明を省略する。
【0047】
以下、図12を参照して、実施の形態3を説明する。接地電極6の円筒形の接地電極突起部20が形成されている箇所では、高圧電極4との間の放電領域40の高さが狭くなり、高電圧が印加された場合には、接地電極突起部20部分にだけ放電が生じる。なお、貫通微細孔15の中心は、接地電極突起部20の中心と一致せず、実施の形態2と同様に、放電領域40をガス流方向上流側に偏って存在させるように、接地電極突起部20をガス流方向上流側に若干オフセットさせて形成している。
【0048】
以上のように、本実施の形態3によれば、上述の実施の形態1および2と同様の効果が得られるとともに、さらに、本実施の形態3においては、各貫通微細孔15周辺の接地電極6の表面高さを高くするように接地電極突起部20を設けるようにしたので、接地電極突起部20が存在する場所では高圧電極4との間の放電空間高さが狭くなり、高電圧が印加された場合には、接地電極突起部20領域だけに放電が生じる構成としたため、貫通微細孔15に到達できるラジカル生成に寄与することができる放電領域40にのみ放電電力を集中できるため、処理のエネルギ効率が良く、ガス温度が過度に上昇しない表面処理装置を実現できる。
【0049】
実施の形態4.
図13は、本発明の実施の形態4による表面処理装置の断面図、および、高圧電極4の導電体11の存在する層の断面を装置上面から見た図、並びに、接地電極6の装置上面から見た図である。実施の形態4は、高圧電極4の高圧導電体11が、互いに平行に並んで配置された、複数の帯状導電体21から構成され、接地電極6の接地電極突起部20が、互いに平行に並んで配置された、複数の帯状突起部22から構成されて、それらの複数の帯状導電体21と複数の帯状突起部22とが互いに直交している構成である点が実施の形態3と異なる。なお、各帯状導電体21は、実施の形態2の導電体拡大部13と同様に、バスライン14により接続されている。また、なお、帯状突起部22の断面形状は、図13に示すように、略々矩形となっている。他の構成については、実施の形態3と同じである。
【0050】
以下、図13を用いて実施の形態4を説明する。高電圧が高圧電極4に印加されると、高圧電極4の高圧導電体11を構成する帯状の帯状導電体21と接地電極6の帯状の接地電極突起部20とが互いにオーバーラップしている領域(以下、オーバーラップ領域と呼ぶ。)でのみ放電が生じる。貫通微細孔15はこれらのオーバーラップ領域付近に形成されているが、貫通微細孔15の中心はオーバーラップ領域の中心と一致せず、実施の形態2と同様に、放電領域40をガス流方向上流側にオフセットさせて存在させるように、帯状突起部22をガス流方向上流側に若干オフセットさせて形成する。
【0051】
また、帯状導電体21と帯状突起部22とは、必ずしも直交する必要はなく、一定の角度を持って交わるオーバーラップ領域が存在すればよい。また、均等な幅である必要はなく、非放電領域での導電体が細くなる形状であってもかまわない。
【0052】
以上のように、本実施の形態4によれば、上述の実施の形態1〜3と同様の効果が得られるとともに、さらに、本実施の形態4においては、貫通微細孔15に到達できるラジカル生成に寄与できる放電領域にのみ放電電力を集中できるため、処理のエネルギ効率が良く、ガス温度が過度に上昇しない表面処理装置を実現できるだけでなく、帯状突起部22を設けたことにより接地電極6の強度が増し、放電空間1の内圧上昇が招く接地電極6のひずみが抑制され、実施の形態3で用いた接地電極6よりも薄い接地電極6を用いた場合でも、安定した放電が形成可能となり、ラジカル到達時間が短縮され、より効率的な表面処理が実現可能となる。
【0053】
実施の形態5.
図14は、本発明の実施の形態5による表面処理装置の断面を示す図である。実施の形態5においては、接地電極6内部に、温度調整用の流体の熱媒体を流すための流路19が設けてあり、当該流路19に熱媒体を流すことで金属製の接地電極を一定の温度で制御することができる。他の構成については、実施の形態1ないし4と同じであるため、ここでは、その説明を省略する。なお、図14は、図8に示す実施の形態2の構成に、本実施の形態による流路19を設けた構成が図示されているが、この場合に限らず、他の実施の形態1,3,4にも流路19を適用できることは言うまでもない。
【0054】
以下、図14を用いて実施の形態5を説明する。本実施の形態5においては、流路19に流す温度調整用の熱媒体の温度により、接地電極6の温度を制御する。具体的には、放電初期においては、接地電極6よりも高い温度の媒体を流路19に流して、接地電極6の温度を高め、一方、放電が連続して行われる場合には、低い温度の媒体を流路19に流して、接地電極6の温度上昇を抑制する。熱媒体の温度については、接地電極6の温度を温度センサ等で検知して適宜変更してもよいが、予め、接地電極6を温める場合の温度と冷やす場合の温度の2種類を用意しておき、予め用意されたそれらの温度のいずれかを選択して、接地電極6の温度調整を行うようにしてもよい。
【0055】
なお、放電初期に接地電極6の温度を高めておくことの効果としては、酸素ラジカルのオゾン(O3)への転換を抑止でき、酸素ラジカルによる効率的な表面処理が実現できるという効果がある。一方、放電が連続して行われる場合に接地電極6の温度を冷却することの効果としては、長時間の連続した放電の際には接地電極6の温度が上昇してしまうので、これを抑制し、ガス温度の過度の上昇を防ぎ、熱応力による電極割れ等の破損を防止するとともに、熱に弱い樹脂などの有機系被処理体に対しての表面処理を実施可能とすることができるという効果がある。
【0056】
なお、流路19に流す温度調整用の熱媒体として、例えば、空気、水、油、有機溶媒などが使用できる。また、流路19を接地電極6内部に設ける例について説明したが、接地電極6の温度を調整する機能を有するものであれば、例えば、ロウ付けや、溶接などで、接地電極6に熱的に密に接触して、接地電極6に付随して配置されるものでもかまわない。
【0057】
以上のように、本実施の形態においては、上記の実施の形態1〜4と同様の効果が得られるとともに、さらに、本実施の形態においては、温度調整用の熱媒体を流すための流路19を設け、放電初期においては、接地電極6よりも高い温度の媒体を流路19に流して、接地電極6の温度を高め、一方、放電が連続して行われる場合には、低い温度の媒体を流路19に流して、接地電極6の温度上昇を抑制するようにしたので、放電初期には、酸素ラジカルのオゾン(O3)への転換を抑止でき、酸素ラジカルによる効率的な表面処理を実現し、一方、放電が連続して行われる場合には、ガス温度の過度の上昇を防ぎ、熱応力による電極割れ等の破損を防止するとともに、熱に弱い樹脂などの有機系被処理体に対しての表面処理も実施可能とすることができる。
【符号の説明】
【0058】
1 放電空間、2 押さえふた、3 側枠、4 高圧電極、5 スペーサ、6 接地電極、7 ヒートスプレッダ、8 ゴム状弾性体、11 高圧導電体、12 誘電体被覆、13 導電体拡大部、14 バスライン、15 貫通微細孔、16 絶縁碍子、17 給電バー、18 導電性弾性体、19 流路、20 接地電極突起部、21 帯状導電体、22 帯状接地電極突起部、30 高周波高圧電源、40 放電領域、41 活性粒子含有ガス、42 ガス流方向、43 供給ガス、51 端部スペーサ、52 放電部スペーサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体で被覆された高圧導電体を有する平板状の高圧電極と、
前記高圧電極に対向して配置され、貫通微細孔が形成された導電体表面を有する接地電極と、
前記高圧電極と前記接地電極との間に形成された放電空間と、
前記放電空間にガスを導入するガス供給手段と、
前記高圧電極に交番電圧を印加する高周波高圧電源と
を備え、
所定の速度で前記放電空間にガスを導入し、前記放電空間の圧力を前記貫通微細孔の出口圧力よりも高く保った状態で、前記高圧電極に前記交番電圧を印加することで、放電を生じさせ、当該放電により生じた活性粒子を含むガスを、前記貫通微細孔から、前記貫通微細孔に対向して置かれた被処理体に吹き付けて、前記被処理体の表面処理を行う表面処理装置であって、
前記高圧導電体が、それに対向する前記接地電極に設けられた前記貫通微細孔に対して、前記放電空間におけるガス流方向上流側にシフトした位置に設けられている
ことを特徴とする表面処理装置。
【請求項2】
前記ガス流方向上流側にシフトした位置に設けられた前記高圧電極によって規定される放電領域の大きさを、前記放電領域におけるガス流速に前記活性粒子の寿命値を乗算して求めた距離以内とし、
前記活性粒子の寿命値を、前記ガスが窒素ガスにおける窒素放電の場合には100msとし、前記ガスが空気における空気放電の場合には70μsとした
ことを特徴とする請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項3】
前記接地電極は、前記貫通微細孔の周辺において前記接地電極の一部が前記高圧電極側に突起して形成された接地電極突起部を有し、
前記接地電極突起部が、前記貫通微細孔に対して、前記放電空間におけるガス流方向上流側にシフトした位置に設けられている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の表面処理装置。
【請求項4】
前記接地電極は、前記貫通微細孔の周辺において前記接地電極の一部が前記高圧電極側に帯状に突起して形成された帯状突起部を有し、
前記高圧電極の高圧導電体が帯状導電体から構成され、
前記帯状突起部と前記帯状導電体とが一定の角度でオーバーラップしており、
当該オーバーラップする領域が、前記貫通微細孔に対して、前記放電空間におけるガス流方向上流側にシフトした位置に設けられている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の表面処理装置。
【請求項5】
前記ガスが空気であって、
前記放電空間における前記ガス流のガス流速が10m/sを超える
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の表面処理装置。
【請求項6】
前記ガスが窒素ガスにおける窒素放電の場合には、前記貫通微細孔の出口でのガス流速を50m/sを超える速度にし、
前記ガスが空気における空気放電の場合には、前記貫通微細孔の出口でのガス流速を100m/sを超える速度にした
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の表面処理装置。
【請求項7】
前記高圧電極の放電面の反対側の面に接触して設けた、高圧電極伸張方向の熱伝達率が高い絶縁体の板から構成された、ヒートスプレッダを
さらに備えたことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の表面処理装置。
【請求項8】
前記高圧電極は前記誘電体で被覆されていない露出された部分を有し、
前記高周波高圧電源は、前記高圧電極の露出された部分に導電性部材を接触させて、それを介して、前記交番電圧を印加を行うものであって、
前記導電性部材の一部または全部が弾性体で構成されている
ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の表面処理装置。
【請求項9】
前記接地電極の温度を調整するための温度調整用の媒体を流すための流路を、前記接地電極の内部または外部のいずれかに設けた
ことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の表面処理装置。
【請求項10】
誘電体で被覆された高圧導電体を有する平板状の高圧電極と、貫通微細孔が形成された導電体表面を有する接地電極とを対向させて、放電空間を形成するステップと、
前記放電空間の外部に、前記貫通微細孔に対向させて、被処理体を設置するステップと、
所定の速度で前記放電空間にガスを導入し、前記放電空間の圧力を前記貫通微細孔の出口圧力よりも高い状態に保つステップと、
前記放電空間に放電を生じさせて活性粒子を発生させるために、前記高圧電極に交番電圧を印加するステップと、
発生した前記活性粒子を含んだガスを前記貫通微細孔から前記被処理体に吹き付けて、前記被処理体の表面処理を行うステップと
を備えた表面処理方法であって、
前記高圧導電体を、それに対向する前記接地電極に設けられた前記貫通微細孔に対して、前記放電空間におけるガス流方向上流側にシフトした位置に設ける
ことを特徴とする表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−4405(P2013−4405A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136348(P2011−136348)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】