説明

表面処理装置

【課題】 チャージアップによるダメージを被処理物に与えることなく、高い異方性を保ったままエッチングなどの処理を行うことができる表面処理装置を提供する。
【解決手段】 本発明の表面処理装置は、プロセスガス活性化室14と、プロセスガスをプロセスガス活性化室14に供給するプロセスガス供給システム24と、プロセスガス活性化室14に供給されたプロセスガスを活性化するプロセスガス活性化機構34と、被処理物が内部に配置される処理室20と、処理室20に反応ガスを供給するための反応ガス供給システム31と、処理室20を真空排気する真空排気機構11と、プロセスガス活性化室14と処理室20との間に配置された多孔板15とを備える。多孔板15は複数の通孔15aを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物の表面を処理する表面処理装置に関するものであり、特に、活性反応種を被処理物の表面に照射してエッチングなどの処理を行う表面処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、InP(インジウムリン),GaAs(ガリウム砒素),およびSi(シリコン)に代表される半導体材料や、SiOやSi,Alといった絶縁性材料を含む基板に所望のパターン形状を形成するために、活性反応種を利用した加工方法が用いられている。この加工方法は、プラズマ中のイオン及びラジカル(活性反応種)を被処理物の表面に照射し、活性反応種と被処理物との物理・化学反応により被処理物の表面を加工するものである。
【0003】
この種の加工方法の1つとして、反応性イオンエッチング(RIE)が知られている。この反応性イオンエッチングでは、平行に配置された2枚の平板電極間に高周波電圧を印加し、この電極間でグロー放電を生起してプラズマを発生させる。この反応性イオンエッチングは、大面積で高密度のプラズマを均一に発生させることができるため、加工速度の高いドライエッチング方法として広く用いられている。また、被処理物が配置される処理室と、活性反応種を生成するプラズマ室とを設け、プラズマ室から活性反応種を引き出して処理室内の被処理物に入射させる反応性イオンビームエッチング(RIBE)も用いられている。
【0004】
これらのエッチング方法では、プラズマ中に、荷電状態にあるイオン性活性反応種と、荷電状態にはない中性活性反応種とが混在し、これらの活性反応種がエッチングに関与する。イオン性活性反応種は、電極によって発生する電界の影響を受けて指向性を有することとなり、これが微細加工技術で重要となる異方性エッチングをもたらしている。
【0005】
しかしながら、イオン性活性反応種を被処理物に照射すると、イオン性活性反応種の有する電荷の影響により、被処理物の表面に局所的な電荷の偏り(チャージアップ)が生じてしまう。このようなチャージアップが生じると、イオン性活性反応種の進行方向が直線的な軌道から偏ってしまい、このために微細な加工が困難となる。また、チャージアップが生じると、被処理物上に形成された素子に電荷が流れ、この素子を破壊するおそれがあるという問題もあった。
【0006】
このようなチャージアップの問題を解決するために、荷電状態にない中性活性反応種を用いたエッチング方法が各種提案されている。特許文献1には、ハロゲン分子を含むプロセスガスを加熱してハロゲン分子からハロゲン原子を解離させて中性活性反応種を生成し、これをノズルから噴出することで指向性を与えて被処理物上に照射してエッチングする技術が開示されている。
【0007】
この特許文献1の記載によれば、ハロゲン原子によるエッチングレートは、被処理物の表面でのハロゲン原子の被覆率が高くなるに従って高くなる。また、被処理物の表面でのハロゲン原子の散乱確率、つまり、被処理物上で反応しなかったハロゲン原子がその反応性を保ったまま被処理物の表面から離脱する確率は、被処理物の表面でのハロゲン原子の被覆率が高くなるに従って高くなる。したがって、トレンチを形成する場合において、エッチングレートを向上させるためにハロゲン原子の被覆率を上昇させると、ハロゲン原子の散乱確率が上昇し、トレンチ側壁へのハロゲン原子の被覆が生じてしまう。側壁へのハロゲン原子の被覆率が高くなると、側壁のエッチングが開始されるために、高いアスペクト比を有するトレンチの形成が困難となる。そこで、特許文献1に開示されている発明では、被処理物の温度を上げることにより、被処理物に対するハロゲン原子の反応確率を上昇させ、被処理物の表面でのハロゲン原子の被覆率を低下させている。これにより、ハロゲン原子の散乱が抑制され、トレンチ側壁をエッチングすることなく、トレンチ底部のみをエッチングすることができる。
【0008】
また、特許文献1には、被処理物の温度を上げることに代えて、中性活性反応種と反応する反応ガス(中性活性反応種を不活性化するためのガス)を被処理物に放出することで、ハロゲン原子などの中性活性反応種による等方性エッチングを防止する技術が開示されている。この技術によれば、トレンチ側壁のエッチングを抑えつつ、トレンチ底部のみをエッチングすることができる。
【0009】
また、特許文献2は、指向性の良好な高速原子線源を用いることでアスペクト比の高い微細加工を実現する技術を開示している。具体的には、放電容器内に誘導結合型プラズマを発生させ、プラズマ中で発生したイオンを電場により加速させる。そして、放電容器下流部に配置された高速原子線源放出孔をイオンが通過する際にイオンを中性化させることで、中性の原子線となり、それを被処理物に照射する。この技術では、中性粒子が用いられているために、被処理物の表面には局所的な電場が生じることがない。したがって、被処理物に対してチャージアップによるダメージを生じさせずに被処理物の処理を行うことができる。また、被処理物表面に局所的な電場が発生したとしても、中性粒子は電場の影響を受けることなく、原子線の進行方向に沿って直進することができる。
【0010】
【特許文献1】特開平7-240396号公報
【特許文献2】特開2002−289583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に開示されている技術は、加熱されたプロセスガスを一つのノズルから噴出することで中性活性反応種に指向性を与える方法を用いているため、大面積の被処理物をエッチングするのには適していない。すなわち、一つのノズルによって、大面積の被処理物を処理するためには、噴射されたプロセスガスの広がりを利用するほかなく、このため、中性活性反応種の指向性(方向性)が損なわれてしまい、高い異方性を保ったままのエッチングが困難である。
【0012】
また、トレンチを形成する場合において、等方性エッチングを防止するためには、反応ガスを中性活性反応種と十分に反応させることにより、トレンチ側壁に中性活性反応種が到達することを防止する必要がある。しかしながら、反応ガスを過剰に投入した場合には、次のエッチングの際に中性活性反応種が被処理物に到達する前に反応ガスと反応してしまい、エッチングが進行しないという別の問題が生じることとなる。また、特許文献2において開示された高速原子線源を用いる場合には、イオンの加速用電源が必要になるなど、装置の構造が複雑になるなどの問題があった。
【0013】
本発明は、上述した従来の問題点に鑑みてなされたもので、チャージアップによるダメージを被処理物に与えることなく、高い異方性を保ったままエッチングなどの処理を行うことができる表面処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した目的を達成するために、本発明の一態様は、プロセスガス活性化室と、プロセスガスを前記プロセスガス活性化室に供給するプロセスガス供給システムと、前記プロセスガス活性化室に供給されたプロセスガスを活性化するプロセスガス活性化機構と、被処理物が内部に配置される処理室と、前記処理室に反応ガスを供給するための反応ガス供給システムと、前記処理室を真空排気する真空排気機構と、前記プロセスガス活性化室と前記処理室との間に配置された多孔板とを備え、前記多孔板は複数の通孔を有することを特徴とする表面処理装置である。
【0015】
多孔板に形成される通孔(細孔)の数は、被処理物のサイズによって適宜増減することができ、また、多孔板のサイズも被処理物の大きさに応じて適宜変更することができる。したがって、プロセスガスが活性化されることによって生じた中性活性反応種を、被処理物の表面全体に指向性良く照射することができる。
【0016】
プロセスガスを活性化すると、イオン(荷電粒子)が発生する場合がある。このような場合でも、多孔板に形成された微細な通孔をイオンが通過するときにイオンと通孔の側壁、残留ガス粒子との間の電荷交換によりイオンを電気的に中性化することができる。つまり、細孔を通過させることにより、イオン性活性反応種を中性活性反応種に変換して被処理物の処理に使用することができる。
【0017】
本発明の好ましい態様は、前記反応ガス供給システムに接続される反応ガス活性化室と、前記反応ガス供給システムから供給された前記反応ガス活性化室内の反応ガスを活性化する反応ガス活性化機構とをさらに備えたことを特徴とする。
本発明によれば、反応ガスを活性化させることでプロセスガスと反応ガスがより的確に反応するので、少量の反応ガスだけでプロセスガスの反応能力を無力化できる。したがって、反応ガスの導入量を少なくすることができ、残留する反応ガスによる次の被処理物の処理への悪影響を低減させることができる。
【0018】
本発明の好ましい態様は、前記プロセスガス活性化室は前記反応ガス活性化室を兼ね、前記プロセスガス活性化機構は前記反応ガス活性化機構を兼ねることを特徴とする。
本発明によれば、プロセスガスを照射した場所と同じ場所に、同一の活性化機構により活性化された反応ガスを照射することができる。したがって、反応ガスによるプロセスガスの不活性化をより的確に進行させることができる。また、本発明によれば、装置をコンパクトにすることができる。
【0019】
本発明の好ましい態様は、前記プロセスガス活性化機構および前記反応ガス活性化機構は、それぞれ加熱機構およびプラズマ発生機構のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記プロセスガスは、ハロゲンガスであることを特徴とする。ハロゲンはシリコン基板などとの反応性が高いためにエッチングガスとして使用する場合に有効である。
本発明の好ましい態様は、前記反応ガスは、水素ガスであることを特徴とする。水素ガスはハロゲンガスと反応してハロゲン化水素となるため、ハロゲンガスの不活性化に有効である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、活性化したプロセスガス(活性反応種)は、複数の通孔を有する多孔板を介して被処理物に照射されるため、大面積の被処理物に対しても、高い異方性を保ったままエッチングなどの処理を実現することができる。また、イオン性活性反応種が多孔板の通孔を通過することにより中性活性反応種に変換されるので、チャージアップによる被処理物へのダメージを防止することができる。さらに、プロセスガスおよび反応ガスを活性化させることにより、反応ガスとプロセスガスとの反応を的確に進行させることができ、より高精度の加工が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に係る表面処理装置の実施形態について図面を参照して以下に詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態における表面処理装置の全体構成を示す図である。図1に示すように、表面処理装置は、石英ガラス、セラミック、または金属などから構成される真空容器12を備えている。この真空容器12の内部には、プロセスガスの活性化が行われるプロセスガス活性化室14と、半導体基板、ガラス、有機物、セラミックスなどの被処理物18の加工が行われる処理室20とが形成されている。プロセスガス活性化室14および処理室20は、真空容器12により外部と隔離されている。
【0022】
真空容器12の内部には、複数の細孔(通孔)15aが形成された多孔板15が配置されており、この多孔板15によってプロセスガス活性化室14と処理室20とが区画されている。処理室20内には支持台10が配置されており、この上に被処理物18が載置される。このように、プロセスガス活性化室14、処理室20、多孔板15、支持台10は真空容器12内に配置される。細孔15aは互いに平行に延び、多孔板15の全面に亘って均一に配置されている。細孔15aは、支持台10上の被処理物18の表面に対して垂直に向くように、すなわち、細孔15aの長手方向の向きが支持台10上の被処理物18の表面と垂直となるように形成されている。
【0023】
真空容器12の上部にはプロセスガス導入ポート22が設けられており、プロセスガス活性化室14は、このプロセスガス導入ポート22を介してプロセスガス供給システム24に接続されている。このプロセスガス供給システム24は、プロセスガスを供給するプロセスガス供給源25と、プロセスガスの流量を制御する流量制御部26とを備えており、プロセスガスはプロセスガス供給システム24からプロセスガス活性化室14に供給されるようになっている。そして、プロセスガス活性化室14に供給されたプロセスガスは、多孔板15に形成された細孔15aを通じて処理室20に導入される。
【0024】
真空容器12の側部には反応ガス導入ポート30が設けられており、処理室20は反応ガス導入ポート30を介して反応ガス活性化室36に接続されている。また、この反応ガス活性化室36は反応ガス供給システム31に接続されている。この反応ガス供給システム31は、反応ガスを供給する反応ガス供給源32と、反応ガスの流量を調整する流量制御部33とを備えており、反応ガスは反応ガス供給システム31から反応ガス活性化室36を通じて処理室20に供給されるようになっている。また、処理室20には、真空ポンプ(真空排気機構)11が排気管13を介して接続されている。
【0025】
プロセスガスの種類は処理の種類により異なるが、SF,CHF,CF,Cl,Ar,O,N,Cなどのプロセスガスが使用される。また、処理の種類によっては、複数のプロセスガスを同時に使用する場合もある。この場合には、複数のプロセスガスを供給可能なように、プロセスガスの種類ごとに別々のプロセスガス供給システムを設けてもよい。
【0026】
反応ガスの種類は処理の種類により異なるが、例えば水素ガスが使用される。また、処理の種類によっては、複数の反応ガスを同時に使用する場合もある。この場合には、複数の反応ガスを供給可能なように、反応ガスの種類ごとに別々の反応ガス供給システムを設けてもよい。
【0027】
プロセスガス活性化室14に供給されたプロセスガスは、熱、プラズマなどを利用したプロセスガス活性化機構によりプロセスガス活性化室14内で活性化される。熱を利用して活性化する場合には、図1に示すように、プロセスガス活性化室14内にヒータ34が配置される。例えば、Clガスを活性化する場合、Cl分子は、ヒータ34に接触することにより、または、ヒータ34からの赤外線輻射によるエネルギーを受けて、2つのCl原子に解離し、これによりClガスが活性化する。このように、ヒータ等の加熱機構を用いてプロセスガスを加熱することにより、プロセスガス中の分子を電気的に中性な原子に解離させ、これにより中性活性反応種が得られる。なお、多孔板15内にヒータを埋め込んでもよく、また多孔板15そのものをヒータとしてもよい。
【0028】
一方、プラズマを利用してプロセスガスを活性化する場合は、次に示すようなプラズマ発生機構が用いられる。図2はプラズマ発生機構を備えた表面処理装置の構成例を示す模式図である。図2に示すように、真空容器12の外部には、プロセスガス活性化室14を囲むようにコイル37が配置されている。このコイル37には、マッチングボックス38及び高周波電源39が接続され、例えば、13.56MHzの高周波電圧がコイル37に印加されるようになっている。このコイル37に高周波電流を流すことでプロセスガス活性化室14内に誘導磁場を生じさせ、磁界の時間変化が電界を誘導し、その電界でプロセスガス中の電子が加速されてプロセスガス活性化室14内にプラズマPが生成される。このプラズマPの発生によりプロセスガスが活性化される。すなわち、Cl分子が解離してCl原子となり、あるいはClイオンとなる。なお、コイル37、マッチングボックス38、及び高周波電源39によりプラズマ発生機構が構成される。
【0029】
このように、プラズマを利用してプロセスガスを活性化する場合は、反応性の高い粒子である、中性活性反応種とイオン性活性反応種とが混在した活性反応種が得られる。この場合、イオン性活性反応種(荷電粒子)は、上述したように、被処理物18の表面に電荷が蓄積する、いわゆるチャージアップを生じさせてしまう。そこで、本実施形態では、多孔板15に形成された多数の細孔15aを通過させることにより、イオン性活性反応種を中性活性反応種に変換させる。一般に、イオンがオリフィス状の細孔を通過する際に、細孔の壁との接触や、細孔内の残留ガスとの衝突により電荷交換を生じ、イオンの大部分が中性化することが知られている。この場合、多孔板15は導電性材料から構成することが必要であり、電気的に接地する必要がある。
【0030】
活性化されたプロセスガスの処理室20への供給は常時行われるわけではなく、後述するように反応ガスを処理室20に供給しないときに行う必要がある。本実施形態では、プロセスガス供給システム24の流量制御部26により、プロセスガスを処理室20に供給するタイミングが制御されるようになっている。
【0031】
図1及び図2には反応ガス活性化室36が図示されているが、反応ガスを活性化しなくても中性活性反応種の反応ガスとの反応によって、中性活性反応種の反応能力を中性化する(反応能力を無力化する)ことができる場合には、反応ガス活性化室は不要である。しかし、反応ガスとプロセスガスとの反応性が低い場合には、反応ガス活性化室を設けて反応ガスを活性化することが必要となる。
【0032】
ここで、反応ガスとは、中性活性反応種と反応することで、中性活性反応種の被処理物との反応能力を無力化するガスのことをいう。一般に、中性活性反応種を被処理物に照射した場合、照射した中性活性反応種の一部が被処理物の表面で反応しないまま被処理物から離脱または反射することが知られている。中性活性反応種が被処理物から離脱すると、中性活性反応種との反応を生じさせたくない部分に中性活性反応種が付着して反応を起こしてしまう。例えば、トレンチを形成する場合に、被処理物の表面に対して垂直に入射した中性活性反応種は、トレンチの底に照射され、その部分だけをエッチングする。しかしながら、トレンチの底で反応しなかった中性活性反応種は底から離脱する。また、底が中性活性反応種で覆い尽くされている場合には、底に吸着されずにそのまま反射する。このときの離脱、反射の方向はランダムであり、本来、エッチングを行いたくないトレンチ側壁に中性活性反応種が付着してしまう。その結果、トレンチの側壁がエッチングされ、アスペクト比の高いトレンチ構造を高精度に形成することができなくなる。したがって、余分な中性活性反応種の反応能力を無力化する必要があり、そのために反応ガスが使用される。
【0033】
反応ガスの活性化は、上述のプロセスガスの活性化と同様な方法により行う。すなわち、加熱機構、プラズマ発生機構、あるいはこれらの組合せからなる反応ガス活性化機構を用いて反応ガスを反応ガス活性化室36内で活性化させる。なお、図1および図2には、加熱機構としてのヒータ35が図示されている。そして、反応ガス活性化機構により活性化された反応ガスは処理室20に導入される。反応ガスの処理室20への導入は常時行われるわけではなく、後述するようにプロセスガスを導入しないときに行う必要がある。本実施形態では、反応ガス供給システム31の流量制御部33により、反応ガスを処理室20に供給するタイミングが制御されるようになっている。
【0034】
なお、図3及び図4に示すように、プロセスガス活性化室14が反応ガス活性化室36を兼ねることもできる。ここで、図3は図1に対応しており、図4は図2に対応している。この場合には、反応ガス供給システム31は反応ガス活性化室36を兼ねるプロセスガス活性化室14に接続され、プロセスガス活性化機構が反応ガス活性化機構を兼ねる。プロセスガスと反応ガスは交互にプロセスガス活性化室14に導入され、活性化されるように、流量制御部26,33によりそれぞれの流量が制御される。この構成例によれば、活性化したプロセスガスが照射される被処理物18の表面に、活性化した反応ガスを照射できる。つまり、プロセスガスを照射した場所と同じ場所に同じように反応ガスを照射することができるので、反応ガスによるプロセスガスの不活性化をより的確に進行させることができる。
【0035】
プロセスガス活性化室14で活性されたプロセスガスは、多孔板15に形成された多数の細孔15aを通過し処理室20へ導入される。多孔板15および真空容器12のサイズは被処理物18のサイズに合わせて適宜決定される。すなわち、被処理物18のサイズが大きいときには大きな多孔板15および大きな真空容器12を用意する。このように、被処理物18のサイズが大きい場合であっても、真空容器12および多孔板15のサイズを大きくすることにより、処理可能な領域を広げることができる。
【0036】
多孔板15に形成された細孔15aによって得られる効果は次の通りである。活性化したプロセスガス、つまり、中性活性反応種(中性粒子)が細孔15aを通過することにより、中性活性反応種の進行方向がそろえられる。上述したように、細孔15aの長手方向の向きが、被処理物18の表面と垂直となるように、多孔板15に細孔15aが形成されているので、支持台10上の被処理物18の表面に対して垂直に中性活性反応種を照射することができる。その結果、被処理物18を垂直方向に精度よく加工することが可能となり、高いアスペクト比を有するトレンチを形成することができる。
【0037】
なお、前述のように、活性反応種にイオン性活性反応種が含まれる場合には、導電性材料から構成された多孔板15を用い、これを電気的に接地する必要がある。これにより、イオン性活性反応種は、細孔15aを通過する際に、細孔15a中の残留ガスや細孔15a側壁との間の電荷交換により中性活性反応種に変換される。
【0038】
また、多孔板15の細孔15aは、その細孔15aの有する気体の流れに対するコンダクタンスによりプロセスガス活性化室14と処理室20との間に圧力差を生じさせることを可能にする。例えば、プロセスガスの活性化のためにプラズマを使用する場合には、プロセスガス活性化室14の圧力を1Pa程度にすることが必要である。一方、処理室20は、多孔板15と被処理物18との距離の10倍以上長い粒子の平均自由行程(一つの粒子が他の粒子と衝突するまでの距離)が確保されるような真空度(例えば10−1Pa以下)を必要とする。例えば、Oをプロセスガスとして使用する場合、10−1Paでの平均自由行程は70mm程度である。したがって、多孔板15と被処理物18との間の距離は7mm程度以下であることが必要となる。これは、活性化した中性活性反応種が被処理物18に垂直に入射するためには、中性活性反応種が多孔板15から被処理物18まで移動する間に他の粒子と衝突することを避けなければならないからである。このように、処理室20は、多孔板15と被処理物18との距離よりも十分長い平均自由行程を確保できるような真空度とする必要がある。
【0039】
処理室20は、真空ポンプ11により真空排気される。これにより、処理室20内を十分な真空度に保つことができ、不要な粒子とプロセスガス中の反応種との衝突を避けることができる。なお、真空容器12内を真空に保った状態で被処理物18の出し入れができるようなロードロック機構を設置することが好ましい。
【0040】
なお、被処理物18に対して均一に中性活性反応種を照射するために、回転機構を設けて支持台10をその軸周りに回転させることが好ましい。また、回転機構に加え、支持台10を被処理物18の表面と平行に移動させる移動機構を設けてもよい。また、処理の性能は被処理物18の温度に依存することが知られているので、支持台10にヒータなどの温度制御機構を設けることが好ましい。これにより被処理物18とプロセスガスとの反応を制御することができる。
【0041】
次に、本実施形態に係る表面処理装置の動作について図1を参照して説明する。
まず、処理室20の支持台10の上に被処理物18を載置する。次に、処理室20に接続されている真空ポンプ11を作動させ、真空容器12の内部空間を1Pa以下の真空にする。このとき、真空容器12内を1×10−3Pa以下の高真空にすることが好ましい。これは、残留ガスが不純物となって、被処理物18の処理に悪影響を及ぼすのを避けるためである。ロードロック機構が設置してある場合には、真空ポンプ11を作動させた状態で、被処理物18を真空容器12内に搬入する。
【0042】
次に、プロセスガス供給源25からプロセスガス活性化室14へプロセスガスを導入する。このとき、プロセスガスの流量を流量制御部26により所定の流量に調整する。プロセスガスの種類は処理の種類により異なるが、エッチング加工を行う場合には、SF,CHF,CF,Cl,Ar,O,N,C等などのプロセスガスが使用される。
【0043】
プロセスガス活性化室14に導入されたプロセスガスは、ヒータ34により活性化される。なお、ヒータ34に代えて、プラズマ発生機構、あるいは、加熱機構とプラズマ発生機構との組合わせなどのプロセスガス活性化機構を用いることもできる。活性化されたプロセスガス、つまり活性反応種は多孔板15の細孔15aを通過し、その際、活性反応種の進行方向がそろえられる。したがって、活性反応種(中性粒子)は処理室20内の被処理物18に対して垂直に照射される。このように、活性化したプロセスガス、つまり中性活性反応種を被処理物18に照射することで被処理物18のエッチングなどの処理が行われる。
【0044】
なお、前述のように、プラズマ発生機構を用いる場合は、イオン(荷電粒子)が生じるが、この場合には、イオンが細孔15aを通過する際に、細孔15aの側壁との接触や、細孔15a内の残留ガスとの衝突により電荷交換が行われ、イオンの大部分は中性化する。したがって、処理室20内の被処理物18へはイオンはほとんど照射されないので、被処理物18のチャージアップの問題は基本的には生じない。
【0045】
反応ガスは、反応ガス供給源32から反応ガス活性化室36に導入される。このとき、反応ガスの流量を流量制御部33により所定の流量に調整する。そして、反応ガスは反応ガス活性化室36内でヒータ(反応ガス活性化機構)35により活性化され、処理室20へと導入される。反応ガスの種類は処理の種類により異なるが、未反応のプロセスガスとの反応するガス(例えば水素ガス)が選択される。処理室20へ導入された反応ガスは未反応のプロセスガスと反応し、被処理物18のエッチングにとっては不活性な分子となる。そして、この不活性分子は真空ポンプ11により排出される。
【0046】
活性化されたプロセスガスと反応ガスの処理室20への導入は常時行われるわけではなく、間欠的に行われる。まず、プロセスガスを活性化して得られた中性活性反応種を上述のように被処理物18に照射し、エッチングなどの処理を行う。次に、流量制御部26を操作してプロセスガスの供給を止めることにより、中性活性反応種の被処理物18への照射を止める。次に、反応ガスを反応ガス供給源32から反応ガス活性化室36へ導入し、ここで上述のように反応ガスを活性化し、続いて処理室20へと導入する。未反応の中性活性反応種は反応ガスと反応することにより不活性化され、ガス分子として被処理物18から離脱する。そして、この不活性化されたガスを真空排気機構にて排気する。続いて、反応ガスの供給を止め、中性活性反応種を処理室20に再度導入する。これらの手順を繰り返すことでエッチングなどの処理を行う。
【0047】
プロセスガスと反応ガスのそれぞれの供給時間や、ガスを切り替える際の真空排気時間などについては、被処理物18の種類やガスの種類などにより適宜最適化する。図3や図4に示す構成を有する表面処理装置の場合も、その動作は上述の図1に示す表面処理装置の動作と同様である。
【0048】
被処理物18はその表面が中性活性反応種の入射方向と垂直になるように、支持台10の上に配置されているので、被処理物18の表面の垂直方向への加工を行うことができる。なお、被処理物18の表面には、必要に応じてレジストなどの保護膜が予め被覆され、処理を不要とする部分がカバーされる。これにより、所望の部分のみを加工することができる。
【0049】
被処理物18をその表面全体に亘って均一に処理するために、処理中に被処理物18を回転させることが有効である。これに加え、被処理物18をその表面と平行に移動させてもよい。また、支持台10にヒータを設けた場合には、被処理物18の温度を変化させることにより、被処理物18とプロセスガスとの反応を制御することができる。
【0050】
以上、具体例を挙げながら本発明の実施の形態について説明を行ったが、発明は上記実施形態に限定されるものでなく、本発明の範疇を逸脱しない限りあらゆる変形や変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態に係る表面処理装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】プラズマ発生機構を備えた表面処理装置の構成例を示す模式図である。
【図3】図1に示す表面処理装置の他の構成例を示す模式図である。
【図4】図2に示す表面処理装置の他の構成例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0052】
10 支持台
11 真空ポンプ
12 真空容器
13 排気管
14 プロセスガス活性化室
15 多孔板
15a 細孔(通孔)
18 被処理物
20 処理室
22 プロセスガス導入ポート
24 プロセスガス供給システム
25 プロセスガス供給源
26 流量制御部
30 反応ガス導入ポート
31 反応ガス供給システム
32 反応ガス供給源
33 流量制御部
34,35 ヒータ
36 反応ガス活性化室
37 コイル
38 マッチングボックス
39 高周波電源
P プラズマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセスガス活性化室と、
プロセスガスを前記プロセスガス活性化室に供給するプロセスガス供給システムと、
前記プロセスガス活性化室に供給されたプロセスガスを活性化するプロセスガス活性化機構と、
被処理物が内部に配置される処理室と、
前記処理室に反応ガスを供給するための反応ガス供給システムと、
前記処理室を真空排気する真空排気機構と、
前記プロセスガス活性化室と前記処理室との間に配置された多孔板とを備え、
前記多孔板は複数の通孔を有することを特徴とする表面処理装置。
【請求項2】
前記反応ガス供給システムに接続される反応ガス活性化室と、
前記反応ガス供給システムから供給された前記反応ガス活性化室内の反応ガスを活性化する反応ガス活性化機構とをさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項3】
前記プロセスガス活性化室は前記反応ガス活性化室を兼ね、前記プロセスガス活性化機構は前記反応ガス活性化機構を兼ねることを特徴とする請求項2に記載の表面処理装置。
【請求項4】
前記プロセスガス活性化機構および前記反応ガス活性化機構は、それぞれ加熱機構およびプラズマ発生機構のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項2に記載の表面処理装置。
【請求項5】
前記プロセスガスは、ハロゲンガスであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の表面処理装置。
【請求項6】
前記反応ガスは、水素ガスであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の表面処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−286715(P2006−286715A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−101350(P2005−101350)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】