説明

表面処理酸化亜鉛粉体及びこれを含有する化粧料

【課題】 疎水性に優れるとともに、洗い流し性の改善された表面処理酸化亜鉛粉体、及びこれを含有する化粧料を提供する。
【解決手段】 下記試験方法1により測定される亜鉛イオン溶出量が30ppm以下となるように処理された酸化亜鉛基粉体の表面上に、さらに特定構造のアクリル系モノマー(例えば、12−メタクリルアミドドデカン酸)を構成モノマーとして含有するポリマーが被覆されていることを特徴とする表面処理酸化亜鉛粉体。
[試験方法1]
酸化亜鉛粉体を水中に0.01質量%となるように分散し、分散液のpHが7.5を保持するように調整する。この分散液を遠心分離し、分離後の上澄み液について、亜鉛イオン濃度(ppm)を測定し、亜鉛イオン溶出量とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面処理酸化亜鉛粉体及びこれを含有する化粧料に関し、特に化粧料に用いる酸化亜鉛粉体に対する疎水性の付与及び洗い流し性の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料、特にメーキャップ化粧料においては、人を美しく見せる美的効果は当然のことながら、その効果の持続性、すなわち化粧持ちも極めて重要な性能の一つとして要求される。このため、化粧料基剤の開発にあたって、化粧持ちの向上は重要な課題の一つとなっている。メーキャップ化粧料の分野においては、汗や涙、あるいは唾液等の水分によって化粧崩れが起こることのないように油性の基剤が用いられることが多いが、このような油性基剤中に親水性の粉体を配合した場合には、基剤との分離が生じやすく、また水分によって親水性粉体が流れ出してしまうため、化粧崩れの大きな原因となる。このような問題点から、従来、化粧料中に粉体を配合する場合には、粉体に予め疎水化処理を施した疎水化粉体を配合することが広く行なわれてきた。
【0003】
化粧料用粉体の疎水化に関しては、多くの方法が知られており、例えば、高級脂肪酸、高級アルコール、炭化水素、トリグリセライド、エステル、シリコーンオイル、シリコーン樹脂等のシリコーン類、あるいはフッ素化合物等を用いて、親水性粉体の表面を被覆して、粉体に疎水性を付与する方法が行なわれている。中でも、シリコーン類を表面処理剤として用いた粉体の疎水化処理は、特に優れた疎水性を付与することができることから、現在までに多くの方法が確立されている(例えば、特許文献1,2参照)。また、近年では、アクリル酸やアクリル酸エステルのコポリマーを粉体の表面処理剤として用いる方法も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
一方、化粧料においてはその洗い流し性も重要な性能の一つとして要求される。しかしながら、前述した従来の疎水化処理粉体を配合した場合には、化粧持ちを向上することはできても、その優れた疎水性のため石鹸等を用いたとしても水では容易に洗い流すことができない。このため、油性の洗い落とし用製剤が広く用いられているが、この油性製剤はさらに石鹸等で洗い流す必要があり、使用者に対する負担が大きい。また、洗い流しを容易にする目的で親水性粉体を配合した場合には、前述したように化粧崩れが生じやすく、化粧持ちに劣る結果となる。このため、化粧をしている間にはその効果を長時間持続することができ、一方で化粧を落とす際には容易に洗い流すことができるという両者の性能を同時に満たすことは非常に困難な課題であった。
【0005】
【特許文献1】特開昭60−163973号公報
【特許文献2】特開昭62−177070号公報
【特許文献3】特開平8−337514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みて行なわれたものであり、その目的は、疎水性に優れるとともに、洗い流し性の改善された表面処理酸化亜鉛粉体、及びこれを含有する化粧料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが前述の課題に鑑み鋭意研究を行なった結果、亜鉛イオン溶出量が30ppm以下となるように処理された酸化亜鉛粉体を基粉体とし、その表面上に特定構造のアクリル系誘導体を構成モノマーとして含有するポリマーを被覆することにより、適当なpH条件下での疎水性−親水性変化に優れた表面処理酸化亜鉛粉体が得られることを見出した。そして、この結果、当該表面処理酸化亜鉛粉体を化粧料中に配合した場合、化粧持ちに優れているにもかかわらず、石鹸等を用いて水で容易に洗い流すことが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明にかかる表面処理酸化亜鉛粉体は、下記試験方法1により測定される亜鉛イオン溶出量が30ppm以下となるように処理された酸化亜鉛粉体基粉体の表面上に、さらに下記一般式(1)で示されるモノマー(A)を構成モノマーとして含有するポリマーが被覆されていることを特徴とするものである。
[試験方法1]
酸化亜鉛粉体を水中に0.01質量%となるように分散し、分散液のpHが7.5を保持するように調整する。この分散液を遠心分離し、分離後の上澄み液について、亜鉛イオン濃度(ppm)を測定し、亜鉛イオン溶出量とする。
【化1】

(式中、Rは水素又は炭素数1〜3のアルキル基、Rは炭素数4〜22のアルキレン基、Xは−NH−基又は酸素原子、Mは水素又は1価の無機又は有機カチオンを表す。)
【0009】
また、前記表面処理酸化亜鉛粉体において、前記酸化亜鉛基粉体が前記亜鉛イオン溶出量が22ppm以下となるように処理された酸化亜鉛粉体であることが好適である。また、前記表面処理酸化亜鉛粉体において、前記酸化亜鉛基粉体がカルボキシル変性シリコーンにより処理された酸化亜鉛粉体であることが好適である。又、前記表面処理酸化亜鉛粉体において、前記カルボキシル変性シリコーンがCOOH当量500〜5000g/molのカルボキシル変性シリコーンであることが好適である。
【0010】
また、前記表面処理酸化亜鉛粉体において、前記ポリマーがモノマー(A)を構成モノマー全量中70モル%以上含有するポリマーであることが好適である。また、前記表面処理酸化亜鉛粉体において、前記ポリマーがさらに下記一般式(2)に示されるモノマー(B)を構成モノマーとして含有することが好適である。
【0011】
【化2】

(式中、Rは水素又は炭素数1〜3のアルキル基、Rは炭素数1〜4のアルキレン基、Xは−NH−基又は酸素原子、Mは水素又は1価の無機又は有機カチオンを表す。)
【0012】
また、前記表面処理酸化亜鉛粉体において、前記酸化亜鉛基粉体に対する前記ポリマーの被覆量が質量比で、ポリマー:粉体=3:97〜40:60であることが好適である。 また、本発明にかかる化粧料は、前記表面処理酸化亜鉛粉体を含有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる表面処理酸化亜鉛粉体は、疎水性に優れているとともに、その洗い流し性が著しく改善されているものである。このため、本発明の表面処理酸化亜鉛粉体を化粧料に配合した場合、化粧持ちに優れているにもかかわらず、石鹸等を用いて水で容易に洗い流すことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳述する。
なお、本発明にかかる表面処理酸化亜鉛粉体は、下記試験方法1により測定される亜鉛イオン溶出量が30ppm以下となるように処理された酸化亜鉛基粉体の表面上に、さらに上記一般式(1)で示されるモノマー(A)を構成モノマーとして含有するポリマーが被覆されていることを特徴とするものである。
[試験方法1]
酸化亜鉛粉体を水中に0.01質量%となるように分散し、分散液のpHが7.5を保持するように調整する。この分散液を遠心分離し、分離後の上澄み液について、亜鉛イオン濃度(ppm)を測定し、亜鉛イオン溶出量とする。
【0015】
酸化亜鉛基粉体
本発明にかかる表面処理酸化亜鉛粉体において、基粉体として用いられる酸化亜鉛粉体は、前記試験方法1により測定される亜鉛イオン溶出量が30ppm以下となるように処理された酸化亜鉛粉体である。以下、本発明に用いる試験方法について詳しく説明する。
【0016】
最初に、試験の対象とする酸化亜鉛粉体を0.01質量%となるように水中に分散する。そして、分散液のpHが7.5を保持するように、例えば、Tris緩衝液あるいはNaCl水溶液等によって調整する。
つづいて、この酸化亜鉛粉体分散液について遠心分離を行なう。遠心分離においては、通常の市販の遠心分離機を用いればよい。また、遠心分離の速度、時間等は適宜調整すればよいが、通常の場合、5000〜50000rpm,10〜120分程度で行なう。
【0017】
遠心分離後の上澄み液を適当量採取し、液中の亜鉛イオン濃度(ppm)を測定する。亜鉛イオン濃度を測定する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ICP(誘導結合プラズマ分析)法、原子吸光光度分析法、イオンクロマトグラフィー法等が挙げられる。また、例えば、原子吸光光度測定装置(バリアン社製)、イオンクロマトグフィー(日立社製)等の市販の測定装置を用いて、液中の亜鉛イオン濃度(ppm)を測定することも可能である。
【0018】
本発明において基粉体として用いられる酸化亜鉛粉体は、上記試験方法1により測定される亜鉛イオン溶出量が30ppm以下となるように処理された酸化亜鉛粉体である。亜鉛イオン溶出量が30ppmを超えると、溶出する亜鉛イオンがポリマー中のカルボキシル基と結合してpH応答性に悪影響を及ぼすため、結果として得られる表面処理酸化亜鉛粉体のpH応答性が十分に得られない場合がある。なお、本発明に用いられる酸化亜鉛基粉体としては、さらに亜鉛イオン溶出量が22ppm以下であることが好ましい。
【0019】
本発明に用いる処理前の酸化亜鉛粉体原料としては、特に限定されるものではなく、未処理の酸化亜鉛粉体のほか、予めシリカやアルミナ等が被覆された酸化亜鉛粉体を用いても構わない。例えば、WO99/25654号公報に記載の製法により調製された未処理酸化亜鉛、疎水化処理酸化亜鉛、市販の酸化亜鉛粉体原料としては、例えば、FINEX−50,75(未処理酸化亜鉛,いずれも堺化学社製)、MZ−500(未処理酸化亜鉛,テイカ社製)、AZO−BS(アルミナ被覆酸化亜鉛,正同化学社製),Activox C−80(シリカ被覆酸化亜鉛,Harcross Duhram社製),LU−173(シリカ被覆酸化亜鉛,石原産業社製)等が挙げられる。本発明においては、亜鉛イオンの溶出抑制の点から、アルミナ被覆酸化亜鉛あるいはシリカ被覆酸化亜鉛を特に好適に用いることができる。なお、市販の酸化亜鉛原料であっても、上記試験方法1により測定される亜鉛イオン溶出量が30ppm以下であれば、本発明の酸化亜鉛基粉体としてそのまま用いても構わない。
【0020】
本発明の酸化亜鉛基粉体としては、通常の場合、前記酸化亜鉛粉体原料に対して予め任意の処理剤により処理を施すことによって、上記試験方法1により測定される亜鉛イオン溶出量が30ppm以下となるように調整して用いる。処理剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、カルボキシル変性シリコーン等のシリコーン化合物、パーフルオロアルキルリン酸等のフッ素化合物、シリカ、脂肪酸、パルミチン酸デキストリン等が挙げられる。これらの処理剤のうち、本発明においてはカルボキシル変性シリコーンを最も好適に用いることができる。本発明に用いられるカルボキシル変性シリコーンとしては、例えば、BY16−750,BY16−880(いずれも東レ・ダウコーニング社製)、X22−3710,X22−162C,X22−3701E(いずれも信越シリコーン社製)等が挙げられる。
【0021】
本発明の酸化亜鉛処理剤として用いるカルボキシル変性シリコーンは、例えば、直鎖状シリコーンの側鎖及び/又は末端に、カルボキシル基を含む官能基(例えば、−R−COOH;Rはアルキル基)が導入された化合物であればよく、特に限定することなく用いることができる。なお、本発明に用いるカルボキシル変性シリコーンにおいては、導入されるカルボキシル基が少なすぎると、相対的にシリコーンの疎水性が強くなり過ぎてしまい、結果として得られる表面処理酸化亜鉛粉体が塩基性条件下においても分散できなくなる場合がある。このため、本発明においては、COOH当量が500〜5000g/molのカルボキシル変性シリコーンを用いることがより好適である。以上に例示したカルボキシル変性シリコーンのCOOH当量(g/mol)を以下に示す。
【0022】
商品名 COOH当量(g/mol)
BY16−750(東レ・ダウコーニング社製) 750
BY16−880(東レ・ダウコーニング社製) 3500
X22−3710(信越シリコーン社製) 1450
X22−162C(信越シリコーン社製) 2300
X22−3701E(信越シリコーン社製) 4000
【0023】
また、本発明にかかる表面処理酸化亜鉛粉体は、以上のようにして得られる酸化亜鉛基粉体の表面上に、さらに前記一般式(1)で示されるモノマー(A)を構成モノマーとして含有するポリマーが被覆されているものである。
ポリマー
本発明において、表面処理剤として用いられるポリマーは、前記一般式(1)で示されるモノマー(A)を構成モノマーとして含有するポリマーである。
一般式(1)に示されるモノマー(A)は、アクリル酸あるいはアルキル置換アクリル酸、又はアクリルアミドあるいはアルキル置換アクリルアミドにおいて脂肪酸が付加された化合物である。一般式(1)において、Rは水素又は炭素数1〜3のアルキル基である。Rがアルキル基である場合には直鎖状、分岐状いずれのものでも良い。Rは、水素又はメチル基であることが好ましい。また、一般式(1)において、Rは炭素数4〜22のアルキレン基である。アルキレン基は直鎖状、分岐状いずれのもので良い。Rとしては、例えば、炭素数8のオクチレン基、11のウンデシレン基、12のドデシレン基が挙げられる。また、Rとしては、構造中に芳香族環や炭素−炭素二重結合を含んでいてもよく、例えば、ビニレン基、メチルフェニレン基、ビニルフェニレン基等であっても構わない。また、一般式(1)において、Xは−NH−基又は酸素原子であり、特に−NH−基であることが好ましい。また、一般式(1)において、Mは水素又は1価の無機又は有機カチオンである。1価の無機又は有機カチオンはカルボン酸の塩を形成し得るものであればよく、1価の無機カチオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等が挙げられ、また、1価の有機カチオンとしては、例えば、アンモニウムイオン、モノエタノールアンモニウムイオン、トリエタノールアンモニウムイオン等が挙げられる。なお、Mに関しては、ポリマー製造後、希塩酸あるいは希水酸化ナトリウム溶液等を適当量用いて、カルボン酸(M=水素)あるいはナトリウム塩(M=ナトリウム)の形に可逆的に変換することも可能である。
【0024】
本発明に用いられるモノマー(A)としては、例えば、11−メタクリルアミドウンデカン酸、8−アクリルアミドオクタン酸、12−アクリルアミドドデカン酸、12−メタクリルアミドドデカン酸、3−{4−[(メタクリロキシ)メチル]フェニル}アクリル酸等が挙げられる。なお、本発明のポリマーにおいては、前記モノマー(A)の1種又は2種以上を構成モノマーとすることができる。
【0025】
本発明に用いられるポリマーにおいては、前記モノマー(A)を構成モノマー全量中70モル%以上含有していることが好適である。モノマー(A)が70モル%未満であると、疎水性−親水性の調整効果が小さく、粉体に対して所望の性能を付与することができない場合がある。また、モノマー(A)が90モル%以上であることが特に好適である。なお、本発明にかかるポリマーにおいては、前記モノマー(A)が構成モノマーの全量を占めていても構わない。
【0026】
また、本発明のポリマーとしては、前記モノマー(A)以外の構成モノマーとして、さらに前記一般式(2)に示されるモノマー(B)を好適に用いることができる。
一般式(2)に示されるモノマーは、アクリル酸あるいはアルキル置換アクリル酸、又はアクリルアミドあるいはアルキル置換アクリルアミドにおいてアルキルスルホン酸が付加された化合物である。一般式(2)において、Rは水素又は炭素数1〜3のアルキル基である。Rがアルキル基である場合には直鎖状、分岐状いずれのものでも良い。Rは、水素又はメチル基であることが好ましい。また、一般式(2)において、Rは炭素数1〜4のアルキレン基である。アルキレン基は直鎖状、分岐状いずれのもので良い。Rとしては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基が挙げられ、特にエチレン基、プロピレン基であることが好ましい。また、一般式(2)において、Xは−NH−基又は酸素原子であり、特に−NH−基であることが好ましい。また、一般式(2)において、Mは水素又は1価の無機又は有機カチオンである。1価の無機又は有機カチオンはスルホン酸の塩を形成し得るものであればよく、1価の無機カチオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等が挙げられ、また、1価の有機カチオンとしては、例えば、アンモニウムイオン、モノエタノールアンモニウムイオン、トリエタノールアンモニウムイオン等が挙げられる。なお、Mに関しては、ポリマー製造後、希塩酸あるいは希水酸化ナトリウム溶液等を適当量用いて、スルホン酸(M=水素)あるいはナトリウム塩(M=ナトリウム)の形に可逆的に変換することも可能である。
【0027】
一般式(2)に示されるモノマーとしては、例えば、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−メタクリロキシプロパンスルホン酸カリウム等が挙げられる。
【0028】
なお、本発明のポリマーにおいては、上記一般式(2)に示されるモノマー(B)の1種又は2種以上を構成モノマーとすることができる。
また、本発明にかかるポリマーにおいては、前記モノマー(B)を構成モノマー全量中1〜30モル%含有していることが好適である。モノマー(B)が1モル%未満であると配合による効果が得られず、30モル%を超えると相対的にモノマー(A)の含有量が減少してしまい、粉体に対して所望の性能を付与することができない場合がある。
【0029】
また、本発明のポリマーは、本発明の効果を損なわない範囲であれば、上記モノマー(A),(B)以外のモノマーを構成モノマーとして含有することもできる。含有量は、構成モノマー全量の30モル%以下の範囲であればよく、例えば、1〜20モル%程度含有することができる。このようなモノマーとしては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、メチルアクリルアミド、メチルメタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、エチルアクリルアミド、エチルメタクリルアミド、ジエチルメタクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、ε―カプロラクタム、ビニルアルコール、無水マレイン酸、N,N’−ジメチルアミノエチルメタクリル酸、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、N,N’−ジメチルアクリルアミド、スチレン等が挙げられる。
【0030】
本発明のポリマーは、上記モノマーを含有する各種モノマーを公知の重合方法を用いて重合することにより得ることができる。例えば、均一溶液重合法、不均一溶液重合法、乳化重合法、逆相乳化重合法、塊状重合法、懸濁重合法、沈殿重合法等を用いることができる。例えば、均一溶液重合法の場合には、各種モノマーを溶媒中に溶解し、窒素雰囲気下、ラジカル重合開始剤を添加して加熱撹拌することにより本発明のポリマーを得ることができる。なお、ポリアクリル酸あるいはポリアクリルアミドに官能基を付加させるポストモディフィケーションによって、本発明のポリマーを得ることも可能である。
【0031】
重合の際に用いられる溶媒としては、各種モノマーを溶解又は懸濁し得るものであって、水を含まない有機溶媒であればいかなる溶媒でも用いることが可能であり、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール系溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、流動パラフィンなどの炭化水素系溶媒、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等の塩化物系溶媒などの他、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン等が挙げられる。これらの溶媒は2種以上混合して用いてもよい。通常、用いる重合開始剤の開始温度よりも沸点が高い溶媒を選択することが好適である。
【0032】
重合開始剤としては、ラジカル重合を開始する能力を有するものであれば特に制限はなく、例えば、過酸化ベンゾイル等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル等のアゾ系化合物の他、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸系重合開始剤が挙げられる。なお、これらの重合開始剤によらずとも、光化学反応や、放射線照射等によっても重合を行うことができる。重合温度は各重合開始剤の重合開始温度以上とする。例えば、過酸化物系重合開始剤では、通常50〜70℃程度とすればよい。
【0033】
重合時間は特に制限されないが、通常30分〜24時間程度である。比較的高分子量のポリマーを得たい場合には、24時間程度反応させることが望ましい。反応時間が短すぎると未反応のモノマーが残存し、分子量も比較的小さくなることがある。本発明のポリマーの平均分子量は特に制限されず、オリゴマー以上の重合度を有していれば目的とする効果を発揮し得るが、特に平均分子量3000〜10万程度であることが好ましい。なお、2種以上のモノマーを混合して重合を行なうことにより、通常は各種モノマーがランダム状に付加されたコポリマーが得られる。
【0034】
本発明に用いられるポリマーは、ポリマー側鎖に前記モノマー(A)に由来するカルボキシル基を有しており、このカルボキシル基は、酸性〜中性の条件下では疎水性のカルボン酸(−COOH)、塩基性条件下では親水性のカルボキシレートイオン(−COO)に変化する。このため、このポリマーによって粉体の表面を処理した処理粉体は、例えば、酸性〜中性環境において疎水性、塩基性環境において親水性といったように、pH応答性の疎水性−親水性変化を示すようになると考えられる。
そして、このようにして得られた表面処理酸化亜鉛粉体を化粧料中に配合した場合、化粧料が通常用いられる酸性〜中性領域においては疎水性を示すために化粧持ちに優れているにもかかわらず、石鹸等を用いて適度な塩基性環境とした場合には処理粉体の表面が親水性へと変化するため、水によって容易に洗い流すことが可能となる。
【0035】
また、前記モノマー(A)に加えて、さらに前記モノマー(B)を構成モノマーとして有するポリマーは、ポリマー側鎖に前記モノマー(B)に由来するスルホン酸基を有しており、このスルホン酸基は、非常に幅広いpH範囲において親水性のスルホネートイオン(−SO)として存在する。したがって、構成モノマー中の前記モノマー(A)とモノマー(B)のモノマー比率を適宜調整してポリマーを製造することにより、粉体に付与する疎水性−親水性のバランスを好適に調整することが可能となる。例えば、粉体に付与する親水性を高めようとした場合には前記モノマー(B)の割合を増やせばよく、反対に疎水性を高めようとした場合には前記モノマー(A)の割合を増やせばよい。また、前記モノマー(B)を適当量用いることによって、粉体へのポリマーの吸着性を高めることもできる。
【0036】
本発明に用いられるポリマーは、モノマー(A)とモノマー(B)との割合がモル比で(A):(B)=70:30〜99.9:0.1となるように調整することが好適である。モノマー(A)の割合が70:30より少ないと、処理粉体が親水性に偏ってしまうため、十分な疎水性を付与することができない場合があり、一方でモノマー(A)の割合が99.9:0.1より多いと、粉体の表面にポリマーが吸着しにくくなり、粉体の安定性に悪影響を与える場合がある。
【0037】
本発明にかかる表面処理酸化亜鉛粉体において、粉体に対するポリマーの被覆量は、質量比で、ポリマー:粉体=3:97〜40:60、より好ましくは5:95〜30:70である。3:97よりポリマーの被覆量が少ないと、粉体に対して所望の性能を付与することができない場合があり、40:60より被覆量が多いと、化粧料として用いた場合の使用感等について悪影響を与える場合がある。
【0038】
本発明の表面処理酸化亜鉛粉体において、酸化亜鉛基粉体の表面処理は、通常の処理方法により用いればよく、その方法は特に限定されるものではない。例えば、上記ポリマーによって酸化亜鉛基粉体を処理する場合には、ポリマーをエチルアルコール等の適当な溶媒中に溶解し、この溶液中に粉体を混合、攪拌した後、溶媒を留去する方法、あるいはポリマーを高級アルコール等の不揮発性油分に溶解したものを直接混合攪拌する方法が挙げられる。また、本発明にかかる表面処理酸化亜鉛粉体を化粧料中に配合する場合には、化粧料の製造過程において、ポリマーを酸化亜鉛基粉体を含む基剤中に直接混合攪拌してもよい。
【0039】
化粧料
また、本発明にかかる化粧料は、以上のようにして得られる表面処理酸化亜鉛粉体を含有することを特徴とするものである。表面処理酸化亜鉛粉体の配合量は、化粧料全量中3質量%以上であることが好ましく、特に5〜95質量%であることが好ましい。配合量が3質量%未満では本発明の効果が得られない場合がある。
【0040】
本発明にかかる化粧料においては、上記表面処理酸化亜鉛粉体の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、通常化粧料に用いられる水、油分、粉体(未処理)、界面活性剤、フッ素化合物、樹脂、粘剤、防腐剤、香料、紫外線吸収剤、保湿剤、生理活性成分、塩類、溶媒、酸化防止剤、キレート剤、中和剤、pH調整剤等の成分を配合することができる。
【0041】
本発明にかかる化粧料の形態は、特に限定されるものではないが、例えば、ファンデーション、白粉、口紅、アイシャドウ、チーク、マスカラ、アイライナー等のメイクアップ化粧料や、サンスクリーン剤、下地クリーム、ヘアクリーム等が挙げられる。
【実施例1】
【0042】
以下に本発明の実施例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
まず最初に、本発明に用いるポリマーの合成方法について説明する。
【0043】
合成例1:12−メタクリルアミドドデカン酸(MAD)ホモポリマー
【化3】

【0044】
12−メタクリルアミドドデカン酸(MAD)40.0g(141.34mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(ナカライテスク社製)0.58g(3.53mmol)を、メタノール120.0gに溶解した。アゾビスイソブチロニトリルは、定法に従い、メタノールから再結晶して用いた。60分間アルゴンをバブルして脱気を行ない、セプタムで容器に蓋をして60℃で20時間加熱して重合した。重合反応終了後に大過剰のジエチルエーテル中に反応溶液を滴下して沈殿物を吸引ろ過で回収した。減圧乾燥の後、MADホモポリマー124.15gを得た(収率:60.4%)。
【0045】
合成例2:11−メタクリルアミドウンデカン酸(MAU)/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)コポリマー(90/10)
【0046】
【化4】

【0047】
11−メタクリルアミドウンデカン酸(MAU)18.42g(68.41mmol)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS:シグマ−アルドリッチ・ジャパン社製)1.58g(7.60mmol)、水酸化ナトリウム0.31g(7.60mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(ナカライテスク社製)0.31g(1.89mmol)を、メタノール59.4gに溶解した。60分間窒素をバブルして脱気を行ない、セプタムで容器に蓋をして60℃で20時間加熱して重合した。重合反応終了後に大過剰の酢酸エチル中に反応溶液を滴下して沈殿物を吸引ろ過で回収した。減圧乾燥の後、ランダム状のMAU/AMPSコポリマー(90/10)17.8gを得た(収率:87.9%)。重量平均分子量は92000だった。
【0048】
本発明者らは、ポリマーによる表面処理を行なった表面処理酸化亜鉛粉体の特性について検討を行なうため、まず最初に、未処理酸化亜鉛粉体に上記合成例1のポリマーによる表面処理を行ない、酸性(pH5)及び塩基性(pH10)の各条件における当該処理粉体の水溶性の評価を行った。評価結果を表1及び図1に示す。なお、表面処理酸化亜鉛粉体の製造条件及び評価方法は以下の通りである。
【0049】
MADホモポリマー/未処理酸化亜鉛粉体
エタノール1000g中に、上記合成例1により製造したMADホモポリマー10gを溶解し、さらに、未処理酸化亜鉛粉体(WO99/25654号公報に記載の製法により調製)90gを混合、分散し、エタノールを揮発させた。得られた塊状物質を粉砕し、MADホモポリマー/酸化亜鉛粉体92.1gを得た。
【0050】
処理粉体の水溶性
表面処理酸化亜鉛粉体0.1gを、pH5及びpH10の各種pH緩衝水溶液30mLとともにバイアル中に入れ、マグネチックスターラーにより1分間混合攪拌した後静値し、溶液の状態を確認した。
○:粉体が水中に均一に溶解し、白濁溶液となった。
×:粉体が水と溶解せず、水面上に分離した。
【0051】
【表1】

【0052】
上記水溶性試験において、例えば、pH5の条件下では粉体が水に分散せず、pH10の条件下において粉体が水に分散するといった場合には、当該粉体を化粧品に配合した際には化粧持ちに優れているにもかかわらず、水で容易に洗い流すことが可能となる。しかしながら、表1及び図1に示すように、MADホモポリマーにより表面処理した酸化亜鉛粉体は、pH5の酸性条件下、pH10の塩基性条件下のいずれにおいても、粉体が水中に均一に分散してしまっており、pH応答性のポリマーを被覆しているにもかかわらず、目的とするpH応答性が得られていないことが明らかとなった。
【0053】
以上の結果に対し、本発明者らは、基粉体として用いる酸化亜鉛粉体の亜鉛イオン溶出量に着目した。すなわち、酸化亜鉛基粉体における亜鉛イオンの溶出が、結果として得られる表面処理酸化亜鉛粉体のpH応答性に悪影響を及ぼすものと考えた。
このことから、カルボキシル変性シリコーン処理による亜鉛イオン溶出の抑制を試みた。各種の市販又は調製酸化亜鉛粉体、及びカルボキシル変性シリコーン処理酸化亜鉛粉体の溶出量を測定し、比較を行なった。測定結果を表2に示す。なお、カルボキシル変性シリコーン処理酸化亜鉛の製造方法、及び亜鉛イオン溶出量の測定方法は以下の通りである。
【0054】
カルボキシル変性シリコーン/酸化亜鉛粉体
カルボキシル変性シリコーン(X22−3710:信越シリコーン社製)10.0gをエタノール1000ml中に添加混合した。この溶液中に、未処理酸化亜鉛粉体(WO99/25654号公報に記載の製法により調製)90.0gを添加混合し、分散した。分散液を攪拌混合した後、乾燥させて、目的とするカルボキシル変性シリコーン/酸化亜鉛粉体93.7gを得た。
【0055】
亜鉛イオン溶出量
各種酸化亜鉛粉体を水中に0.01質量%となるように攪拌分散した。分散液のpHが7.5を保持するように、50mM Tris緩衝液、及び100mM NaCl水溶液によって調整した。この分散液を高速冷却遠心機(日立社製)により遠心分離した。分離後の上澄み液20mLを採取し、IPC誘導結合プラズマ分析装置(Rigaku社製)によって亜鉛イオン濃度(ppm)を測定した。
【0056】
【表2】

【0057】
上記表2に示されるように、各種の市販酸化亜鉛粉体あるいは調製酸化亜鉛粉体においては、亜鉛イオン溶出量は約40〜50ppmであった。これに対して、カルボキシル変性シリコーンにより処理した酸化亜鉛粉体の亜鉛イオン溶出量は21.7ppmであり、亜鉛イオンの溶出が著しく抑えられていることが確認された。
【0058】
つづいて、本発明者らは、カルボキシル変性シリコーンで処理した酸化亜鉛粉体を基粉体として、さらにMADホモポリマーによる表面処理を行ない、得られたポリマー/カルボキシル変性シリコーン/酸化亜鉛粉体について、酸性(pH5)及び塩基性(pH10)の各条件における当該処理粉体の水溶性についての評価を行なった。評価結果を表3及び図2に示す。なお、比較例として、調製酸化亜鉛粉体及び疎水化処理酸化亜鉛粉体を用いた場合の水溶性評価結果を併せて示す。また、表面処理酸化亜鉛粉体の製造条件及び評価方法は以下の通りである。
【0059】
実施例1−1:MADホモポリマー/カルボキシル変性シリコーン/酸化亜鉛粉体
カルボキシル変性シリコーン(X22−3710:信越シリコーン社製)10.0gをエタノール1000ml中に添加混合した。この溶液中に、酸化亜鉛粉体(WO99/25654号公報に記載の製法により調製)90.0gを添加、分散した。分散液を攪拌混合し、乾燥させて、カルボキシル変性シリコーン/酸化亜鉛粉体93.7gを得た。別途、エタノール1000g中に上記合成例1により製造したMADホモポリマー10.0gを溶解し、以上で得られたカルボキシル変性シリコーン/酸化亜鉛粉体90.0gを添加混合し、乾燥させて、目的とするMADホモポリマー/カルボキシル変性シリコーン/酸化亜鉛粉体90.3gを得た。
【0060】
【表3】

【0061】
上記表3及び図2に示すように、酸化亜鉛基粉体をしてカルボキシル変性シリコーン/酸化亜鉛粉体を用い、さらにMADホモポリマーにより表面処理した実施例1−1の表面処理酸化亜鉛粉体においては、pH5の酸性条件下においては粉体が水中に全く溶解しておらず、粉体が優れた疎水性を示す一方で、pH10の塩基性条件とした場合には、粉体が水中に均一に溶解しており、粉体が親水性に変化することが明らかとなった。すなわち、実施例1−1の表面処理酸化亜鉛粉体を化粧料に配合した場合、一般的な化粧料が用いられる酸性〜中性領域では優れた疎水性を示すため、化粧持ちに優れているにもかかわらず、石鹸等を用いて適度な塩基性環境とした場合には粉体の表面が親水性へと変化するため、水で容易に洗い流すことが可能になると考えられる。
【0062】
これに対して、未処理酸化亜鉛粉体を用いた比較例1−1においては、pH5,pH10の双方ともに粉体が水に溶解してしまっている。また、疎水化処理酸化亜鉛粉体を用いた比較例1−2においては、pH5,10の双方で粉体が溶解していない。これらのことから、pH応答性のポリマーを被覆していない酸化亜鉛粉体においては、親水性、疎水性の違いこそあっても、pHの変化に応じた親水性−疎水性変化が全く得られないことがわかる。
【実施例2】
【0063】
つづいて、本発明者らは、各種表面処理酸化亜鉛粉体を配合した化粧料を調製し、各化粧料の洗浄性、耐水性、紫外線防御能について評価を行なった。化粧料の組成と評価結果とを併せて下記表4に示す。なお、化粧料に用いた各種表面処理酸化亜鉛粉体の製造条件、及び化粧料の評価方法は以下のとおりである。
【0064】
実施例2−1
エタノール1000g中に上記合成例1により製造したMADホモポリマー10.0gを溶解し、パーフルオロアルキルリン酸処理酸化亜鉛90.0g(特開2005―232279号公報に記載の製法により調製,亜鉛イオン溶出量:18.5ppm)を添加混合し、乾燥させて、実施例2−1のMADホモポリマー/パーフルオロアルキルリン酸,アクリル酸アルキルジメチコン/酸化亜鉛粉体92.0gを得た。
【0065】
実施例2−2
無水ケイ酸5.0gをエタノール1000ml中に添加混合した。この溶液中に、花びら状酸化亜鉛95.0gを添加混合し、分散した。分散液を攪拌混合した後、乾燥させて、シリカ/酸化亜鉛粉体89.9gを得た(亜鉛イオン溶出量:19.2ppm)。別途、エタノール1000g中に上記合成例1により製造したMADホモポリマー10.0gを溶解し、以上で得られたシリカ/酸化亜鉛粉体90.0gを添加混合し、乾燥させて、実施例2−2のMADホモポリマー/シリカ/酸化亜鉛粉体を88.5g得た。
【0066】
実施例2−3
カルボキシル変性シリコーン(X−22−3710:信越化学社製)10.0gをエタノール1000ml中に添加混合した。この溶液中に、酸化亜鉛(WO99/25654号公報に記載の製法により調製)90.0gを添加混合し、分散した。分散液を攪拌混合した後、乾燥させて、カルボキシル変性シリコーン/酸化亜鉛粉体90.7gを得た(亜鉛イオン溶出量:21.7ppm)。別途、エタノール1000g中に上記合成例1により製造したMADホモポリマー10.0gを溶解し、以上で得られたカルボキシル変性シリコーン/酸化亜鉛粉体90.0gを添加混合し、乾燥させて、実施例2−3のMADホモポリマー/カルボキシル変性シリコーン/酸化亜鉛粉体87.7gを得た。
【0067】
比較例2−1
上記実施例2−1で用いたパーフルオロアルキルリン酸,アクリル酸アルキルジメチコン/酸化亜鉛粉体(MADホモポリマーによる表面処理を行なわない)を比較例2−1とした。
【0068】
比較例2−2
上記実施例2−2で用いたシリカ/酸化亜鉛粉体(MADホモポリマーによる表面処理を行なわない)を比較例2−2とした。
【0069】
比較例2−3
MADホモポリマーによる表面処理を行なわなかった他は、上記実施例2−3と同様の条件で、比較例2−3のカルボキシル変性シリコーン/酸化亜鉛粉体88.0gを得た。
【0070】
比較例2−4
ステアリン酸10.0gをエタノール1000ml中に添加混合した。この溶液中に、酸化亜鉛(WO99/25654号公報に記載の製法により調製)95.0gを添加混合し、分散した。分散液を攪拌混合した後、乾燥させて、比較例2−4のステアリン酸/酸化亜鉛粉体91.7gを得た。
【0071】
比較例2−5
パルミチン酸デキストリン処理酸化亜鉛90.0g(WO99/25654号公報に記載の製法により調製)を比較例2−5とした。
【0072】
洗浄性
サンプル0.1mLを前腕内側部の10cm×5cmの範囲に塗布し(2μL/cm2)、15分間乾燥させ、塗布部分(直径2cmの範囲)のサンプルを、アセトン5mLを用いて抽出した(洗浄前)。その後、市販ボディーソープ2mLを十分に泡立て、サンプル塗布部を5回なでるように洗浄した後、水で洗い流し乾燥させ、塗布部分(先程とは別の直径2cmの範囲)のサンプルをアセトン5mLを用いて抽出した(洗浄後)。洗浄前後のアセトン溶液について、ICP(誘導結合プラズマ質量分析計)を用いて、無機粉末量の定量を行い洗浄前のアセトン溶液に対して、洗浄後のアセトン溶液中に無機粉末がどれだけ残存しているかを試験した。評価基準は以下のとおりである。
A:残存量20%未満
B:残存量20%以上30%未満
C:残存量30%以上40未満
D:残存量40%以上
【0073】
耐水性
サンプル0.1mLを前腕内側部の10cm×5cmの範囲に塗布し(2μL/cm)、15分間乾燥させた。塗布部分(直径2cmの範囲)のサンプルを、アセトン5mLを用いて抽出した(洗浄前)。前腕内側部を流水中に15分間当てた後、塗布部分(先程とは別の直径2cmの範囲)のサンプルをアセトン5mLを用いて抽出した(洗浄後)。洗浄前後のアセトン溶液について、310nmの吸光度を比較し、洗浄前のアセトン溶液に対して、洗浄後のアセトン溶液中にサンプルがどれだけ残存しているかを試験した。評価基準は以下のとおりである。
A:85%以上残存
B:75%以上85%未満残存
C:65%以上75%未満残存
D:65%未満残存
【0074】
紫外線防御効果
専門パネル20人により、晴天の日に試料を使用してもらい、紫外線防御効果を評価した(前腕内側部に2μL/cmのサンプルを塗布し、15分間乾燥させる)。評価基準は以下のとおりである。
A:20人中16人以上が、紫外線防御効果が良好と回答
B:20人中12〜15人が、紫外線防御効果が良好と回答
C:20人中6〜11人が、紫外線防御効果が良好と回答
D:20人中5人以下が、紫外線防御効果が良好と回答
【0075】
【表4】

【0076】
上記表4に示すように、実施例2−1〜2−3の表面処理酸化亜鉛粉体を配合した実施例2−4〜2−5の化粧料においては、洗浄性、耐水性、および紫外線防御効果のいずれにも優れた効果を示すものであった。これに対して、比較例2−1〜2−5の表面処理酸化亜鉛粉体を配合した比較例2−6〜2−10の化粧料においては、全ての評価項目において優れた効果を示すものはなく、特に優れた洗浄性と耐水性とを兼ね備えた化粧料を得ることはできなかった。
【実施例3】
【0077】
以下に本発明の他の実施例を挙げることにより、本発明についてさらに詳しく説明を行なうが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0078】
実施例3−1
エタノール1000g中に上記合成例1により製造したMADホモポリマー10.0gを溶解し、パルミチン酸デキストリン処理酸化亜鉛90.0g(WO99/25654号公報に記載の製法により調製)を添加混合し、乾燥させて、実施例3−1のMADホモポリマー/パルミチン酸デキストリン/酸化亜鉛粉体92.0gを得た。
【0079】
実施例3−2
オクチルトリエトキシシラン(日本ユニカー社製)10.0gをエタノール1000ml中に添加混合した。この溶液中に、酸化亜鉛(WO99/25654号公報に記載の製法により調製)90.0gを添加混合し、分散した。分散液を攪拌混合した後、乾燥させて、オクチルトリエトキシシラン/酸化亜鉛粉体90.2gを得た(亜鉛イオン溶出量:19.7ppm)。別途、エタノール1000g中に上記合成例1により製造したMADホモポリマー10.0gを溶解し、以上で得られたオクチルトリエトキシシラン/酸化亜鉛粉体90.0gを添加混合し、乾燥させて、実施例3−2のMADホモポリマー/オクチルトリエトキシシラン/酸化亜鉛粉体89.7gを得た。
【0080】
実施例3−3
カルボキシル変性シリコーン(X22−3710:信越シリコーン社製)10.0gをエタノール1000ml中に添加混合した。この溶液中に、酸化亜鉛粉体(未処理酸化亜鉛,MZ−500:テイカ社製)90.0gを添加、分散した。分散液を攪拌混合し、乾燥させて、カルボキシル変性シリコーン/酸化亜鉛粉体90.7gを得た。別途、エタノール1000g中に上記合成例2により製造したMAU/AMPSコポリマー(MAU/AMPS=90/10)10.0g、を溶解し、以上で得られたカルボキシル変性シリコーン/酸化亜鉛粉体90.0gを添加混合し、乾燥させて、実施例3−1のMAU/AMPSコポリマー(MAU/AMPS=90/10)/カルボキシル変性シリコーン/酸化亜鉛粉体88.7gを得た。
【0081】
実施例3−4
カルボキシル変性シリコーン(X22−3710:信越シリコーン社製)10.0gをエタノール1000ml中に添加混合した。この溶液中に、酸化亜鉛粉体(未処理酸化亜鉛,MZ−500:テイカ社製)90.0gを添加、分散した。分散液を攪拌混合し、乾燥させて、カルボキシル変性シリコーン/酸化亜鉛粉体88.8gを得た。別途、エタノール1000g中に上記合成例2により製造したMAU/AMPSコポリマー(MAU/AMPS=90/10)10.0g、を溶解し、以上で得られたカルボキシル変性シリコーン/酸化亜鉛粉体90.0gを添加混合し、乾燥させて、実施例3−2のMAU/AMPSコポリマー(MAU/AMPS=95/5)/カルボキシル変性シリコーン/酸化亜鉛粉体86.7gを得た。
【0082】
12−メタクリルアミドドデカン酸(MAD)/N−ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)コポリマー(90/10)
12−メタクリルアミドドデカン酸(MAD)19.14g(67.63mmol)、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA:興人社製)0.86g(7.51mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(ナカライテスク社製)0.33g(1.97mmol)を、メタノール60.0gに溶解した。アゾビスイソブチロニトリルは、定法に従い、メタノールから再結晶して用いた。60分間アルゴンをバブルして脱気を行ない、セプタムで容器に蓋をして60℃で20時間加熱して重合した。重合反応終了後に大過剰のジエチルエーテル中に反応溶液を滴下して沈殿物を吸引ろ過で回収した。減圧乾燥の後、MAD/HEAAコポリマー(90/10)16.90gを得た。
【0083】
実施例3−5
カルボキシル変性シリコーン(X22−3710:信越シリコーン社製)10.0gをエタノール1000ml中に添加混合した。この溶液中に、酸化亜鉛粉体(未処理酸化亜鉛,MZ−500:テイカ社製)90.0gを添加、分散した。分散液を攪拌混合し、乾燥させて、カルボキシル変性シリコーン/酸化亜鉛粉体88.8gを得た。別途、エタノール1000g中に上記MAD/HEAAコポリマー(MAD/HEAA=90/10)10.0g、を溶解し、以上で得られたカルボキシル変性シリコーン/酸化亜鉛粉体90.0gを添加混合し、乾燥させて、実施例3−3のMAD/HEAAコポリマー(MAD/HEAA=90/10)/カルボキシル変性シリコーン/酸化亜鉛粉体86.7gを得た。
【0084】
実施例3−6
パウダー型ファンデーション 配合量(質量%)
(1)実施例3−3の表面処理酸化亜鉛粉体 10.0
(2)タルク 40.7
(3)セリサイト 24.3
(4)酸化チタン 4.8
(5)ナイロン粉末 2.8
(6)黒酸化鉄 0.2
(7)黄酸化鉄 2.8
(8)ベンガラ 1.0
(9)流動パラフィン 4.0
(10)ミリスチン酸オクチルドデシル 3.0
(11)イソステアリン酸ソルビタン 3.0
(12)オクチルドデカノール 3.0
(13)防腐剤 0.1
(14)殺菌剤 0.1
(15)酸化防止剤 0.1
(16)香料 0.1
(製法) (1)〜(8),(13)〜(16)を加熱溶解した(9)〜(12)に加えて、ヘンシェルミキサーにて混合し、パウダー型ファンデーションを得た。
以上のようにして得られたパウダー型ファンデーションは、化粧持ちに優れており、さらに石鹸を用いて容易に水で洗い流すことが可能であった。
【0085】
実施例3−7
2層タイプW/Oサンスクリーン 配合量(質量%)
(1)タルク 10.0
(2)実施例3−4の表面処理酸化亜鉛粉体 10.0
(3)オクタン酸イソセチル 5.0
(4)デカメチルシクロペンタシロキサン 26.8
(5)ジメチルポリシロキサン 10.0
(6)POE変性ジメチルポリシロキサン 2.0
(7)イオン交換水 28.0
(8)1,3−ブチレングリコール 8.0
(9)防腐剤 0.1
(10)香料 0.1
(製法) (3)〜(6)を70℃で加熱混合し、油相とした。別に(7)中に(8),(9)を溶解させ、これを水相とした。油相中に(1),(2)の粉末を加え、ホモミキサーで分散した。この中に先の水相を添加し、ホモミキサーで乳化した。さらに(10)を混合して容器に充填した。
以上のようにして得られた2層タイプW/Oサンスクリーンは、化粧持ちに優れており、さらに石鹸を用いて容易に水で洗い流すことが可能であった。
【0086】
実施例3−8
2層タイプW/Oサンスクリーン 配合量(質量%)
(1)タルク 10.0
(2)実施例3−5の表面処理酸化亜鉛粉体 10.0
(3)オクタン酸イソセチル 5.0
(4)デカメチルシクロペンタシロキサン 26.8
(5)ジメチルポリシロキサン 10.0
(6)POE変性ジメチルポリシロキサン 2.0
(7)イオン交換水 28.0
(8)1,3−ブチレングリコール 8.0
(9)防腐剤 0.1
(10)香料 0.1
(製法) (3)〜(6)を70℃で加熱混合し、油相とした。別に(7)中に(8),(9)を溶解させ、これを水相とした。油相中に(1),(2)の粉末を加え、ホモミキサーで分散した。この中に先の水相を添加し、ホモミキサーで乳化した。さらに(10)を混合して容器に充填した。
以上のようにして得られた2層タイプW/Oサンスクリーンは、化粧持ちに優れており、さらに石鹸を用いて容易に水で洗い流すことが可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】MADホモポリマー/未処理酸化亜鉛粉体のpH5緩衝溶液、及びpH10緩衝溶液の写真図である。
【図2】本発明にかかる実施例1−1(MADホモポリマー/カルボキシル変性シリコーン/酸化亜鉛粉体)、比較例1−1(未処理酸化亜鉛粉体)、及び比較例1−2(疎水化処理酸化亜鉛粉体)の各種粉体のpH5緩衝溶液、及びpH10緩衝溶液の写真図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記試験方法1により測定される亜鉛イオン溶出量が30ppm以下となるように処理された酸化亜鉛基粉体の表面上に、さらに下記一般式(1)で示されるモノマー(A)を構成モノマーとして含有するポリマーが被覆されていることを特徴とする表面処理酸化亜鉛粉体。
[試験方法1]
酸化亜鉛粉体を水中に0.01質量%となるように分散し、分散液のpHが7.5を保持するように調整する。この分散液を遠心分離し、分離後の上澄み液について、亜鉛イオン濃度(ppm)を測定し、亜鉛イオン溶出量とする。
【化1】

(式中、Rは水素又は炭素数1〜3のアルキル基、Rは炭素数4〜22のアルキレン基、Xは−NH−基又は酸素原子、Mは水素又は1価の無機又は有機カチオンを表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の表面処理酸化亜鉛粉体において、前記酸化亜鉛基粉体が亜鉛イオン溶出量22ppm以下となるように処理された酸化亜鉛粉体であることを特徴とする表面処理酸化亜鉛粉体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の表面処理酸化亜鉛粉体において、前記酸化亜鉛基粉体がカルボキシル変性シリコーンにより処理された酸化亜鉛粉体であることを特徴とする表面処理酸化亜鉛粉体。
【請求項4】
請求項3に記載の表面処理酸化亜鉛粉体において、前記カルボキシル変性シリコーンがCOOH当量500〜5000g/molのカルボキシル変性シリコーンであることを特徴とする表面処理酸化亜鉛粉体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の表面処理酸化亜鉛粉体において、前記ポリマーがモノマー(A)を構成モノマー全量中70モル%以上含有するポリマーであることを特徴とする表面処理酸化亜鉛粉体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の表面処理酸化亜鉛粉体において、前記ポリマーがさらに下記一般式(2)に示されるモノマー(B)を構成モノマーとして含有することを特徴とする表面処理酸化亜鉛粉体。
【化2】

(式中、Rは水素又は炭素数1〜3のアルキル基、Rは炭素数1〜4のアルキレン基、Xは−NH−基又は酸素原子、Mは水素又は1価の無機又は有機カチオンを表す。)
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の表面処理酸化亜鉛粉体において、前記酸化亜鉛基粉体に対する前記ポリマーの被覆量が質量比で、ポリマー:粉体=3:97〜40:60であることを特徴とする表面処理酸化亜鉛粉体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の表面処理酸化亜鉛粉体を含有することを特徴とする化粧料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−277415(P2007−277415A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−105879(P2006−105879)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】