説明

表面処理鋼板の製造方法、表面処理鋼板、および表面処理鋼板に有機樹脂を被覆してなる樹脂被覆表面処理鋼板

【課題】クロメート処理を施した表面処理鋼板に替わる、耐食性、および有機樹脂皮膜の加工密着性に優れた表面処理鋼板の製造方法、表面処理鋼板、および表面処理鋼板に有機樹脂を被覆してなる樹脂被覆表面処理鋼板を提供すること。
【解決手段】鋼板を、Vのオキシ硫酸塩の一種以上と、リンの酸素酸又はリンの酸素酸塩と、Zn化合物とを含有し、且つCrを含有しない水溶液中で浸漬処理あるいは電解処理することを特徴とする。また、鋼板を、Vのオキシ硫酸塩の一種以上と、リンの酸素酸又はリンの酸素酸塩と、Zn化合物と、ホスホン酸塩とを含有し、且つCrを含有しない水溶液中で浸漬処理あるいは電解処理することを特徴とする。さらに、前記鋼板が、Znめっき鋼板又はZnを含む合金めっき鋼板であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Znめっき鋼板などに防錆性、および皮膜密着性に優れた保護皮膜を被覆してなる表面処理鋼板の製造方法、表面処理鋼板、およびその表面処理鋼板に有機樹脂を被覆してなる樹脂被覆表面処理鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼板、特にZnめっき鋼板の分野においては、防錆性およびその上に形成される塗膜や樹脂層などとの密着性を向上させるために、鋼板をリン酸塩やクロム酸塩を含む溶液中で表面処理し、リン酸塩皮膜やクロメート皮膜などの保護皮膜を形成させている。しかし、リン酸塩皮膜を形成させた鋼板は耐食性に乏しく、塗膜や有機樹脂を被覆しない場合に錆を生じやすい。また、塗膜や有機樹脂を被覆した場合、密着性、特に加工時の密着性が不十分である。
クロメート皮膜は電解を伴わない浸漬処理や塗布処理、電解処理などの方法を用いて鋼板上に形成され、リン酸塩皮膜よりも塗膜や有機樹脂を被覆しない場合の防錆性や、塗膜や有機樹脂を被覆した場合の密着性、および加工時密着性に優れている。しかし、電解を伴わない浸漬処理や塗布処理で形成されるクロメート皮膜中には有害な6価クロムが含有されており、人体や環境に対して好ましくない影響を与え得る。また電解処理による電解クロメート皮膜は有害な6価クロムを含む溶液を用いて行われ、さらに電解中に発生するクロム酸ミストは作業環境に好ましくない影響を与え得る。
このように、クロメート皮膜を施した鋼板は防錆性や加工密着性に優れ、そのため多方面で重用されているが、人体や環境に対して好ましくない影響を与える可能性を有しているため、優れた防錆性や加工密着性を有するクロメート皮膜に替わる処理皮膜が求められている。
その一例として、特公昭62−30265号公報は、リン酸と、酸可溶性亜鉛化合物として酸化亜鉛と、重金属促進剤および/または結晶リファイナーと、ホスホナート腐食防止剤としてアミノトリス(メチレン−ホスホン酸)、および水からなる組成物および、その組成物で金属部品をコーティングすることを開示しており、耐腐食性、および塗料密着性が向上することが記載されている。
上記の特公昭62−30265号公報において、重金属促進剤としてバナジウム、チタニウム、ジルコニウム、タングステンおよびモリブデン化合物があげられ、具体的にはモリブデン酸アンモニウム、またはメタバナジウム酸アンモニウムを用いることが記載されている。また結晶リファイナーとしてニッケル、コバルト、マグネシウムまたはカルシウムの酸可溶性塩があげられ、具体的には硝酸ニッケル、硝酸カルシウム、または硝酸コバルトを用いることが記載されている。
しかし、上記の特公昭62−30265号公報に記載された組成物を用いて亜鉛めっき鋼板などの金属板に処理皮膜を形成させても、得られた表面処理金属板の特性、特に表面処理金属板に有機樹脂皮膜を被覆した有機樹脂被覆金属板における皮膜の密着性、とりわけ加工密着性は、従来のクロメート処理皮膜を形成させた表面処理金属板に及ばない。また亜鉛めっき鋼板に適用した場合は耐白錆性に乏しい。
本発明は、クロメート処理を施した表面処理鋼板に替わる、耐食性、および有機樹脂皮膜の加工密着性に優れた表面処理鋼板の製造方法、表面処理鋼板、および表面処理鋼板に有機樹脂を被覆してなる樹脂被覆表面処理鋼板を提供することを目的とする。
【特許文献1】特公昭62−30265号公報
【発明の開示】
【0003】
(1)本発明の表面処理鋼板の製造方法は、鋼板を、Vのオキシ硫酸塩の一種以上と、リンの酸素酸又はリンの酸素酸塩と、Zn化合物とを含有し、且つCrを含有しない水溶液中で浸漬処理あるいは電解処理することを特徴とする。
(2)本発明の表面処理鋼板の製造方法は、鋼板を、Vのオキシ硫酸塩の一種以上と、リンの酸素酸又はリンの酸素酸塩と、Zn化合物と、ホスホン酸塩とを含有し、且つCrを含有しない水溶液中で浸漬処理あるいは電解処理することを特徴とする。
(3)本発明の表面処理鋼板の製造方法は、前記(1)又は(2)において、前記鋼板が、Znめっき鋼板又はZnを含む合金めっき鋼板であることを特徴とする。
(4)本発明の表面処理鋼板の製造方法は、前記(1)〜(3)のいずれかにおいて、
前記リンの酸素酸又はリンの酸素酸塩が、リン酸、重リン酸アンモニウム、重リン酸ナトリウム、重リン酸カルシウム、重リン酸マグネシウム、重リン酸アルミニウムの一種以上からなることを特徴とする。
(5)本発明の表面処理鋼板の製造方法は、前記(2)〜(4)のいずれかにおいて、前記ホスホン酸塩が、アミノトリ(メチレン−ホスホン酸)であることを特徴とする。
(6)本発明の表面処理鋼板は、鋼板を、Vのオキシ硫酸塩の一種以上と、リンの酸素酸又はリンの酸素酸塩と、Zn化合物とを含有し、且つCrを含有しない水溶液中で浸漬処理あるいは電解処理して、Vのオキシ硫酸塩から形成された物質と、リンの酸素酸又はリンの酸素酸塩から形成された物質と、Zn化合物から形成された物質と、を含有する保護被膜を鋼板上に被覆してなることを特徴とする。
(7)本発明の表面処理鋼板は、鋼板を、Vのオキシ硫酸塩の一種以上と、リンの酸素酸又はリンの酸素酸塩と、Zn化合物と、ホスホン酸塩とを含有し、且つCrを含有しない水溶液中で浸漬処理あるいは電解処理して、Vのオキシ硫酸塩から形成された物質と、リンの酸素酸又はリンの酸素酸塩から形成された物質と、Zn化合物から形成された物質と、を含有する保護被膜を鋼板上に被覆してなることを特徴とする。
(8)本発明の表面処理鋼板は、前記(6)又は(7)において、前記鋼板が、Znめっき鋼板又はZnを含む合金めっき鋼板であることを特徴とする。
(9)本発明の樹脂被覆表面処理鋼板は、前記(6)〜(8)のいずれかに記載の表面処理鋼板に有機樹脂を被覆してなることを特徴とする。
(10)本発明の樹脂被覆表面処理鋼板は、前記(9)において、前記有機樹脂が、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、またはポリ塩化ビニル系樹脂のいずれかであることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0004】
本発明の表面処理浴においては、皮膜を形成させる主要成分としてMo、Ti、V、Zrのオキシ硫酸塩と、P化合物と、Zn化合物を用いている。さらに、Mg、Alの硫酸塩の一種以上、および/またはホスホン酸塩を積極的に加えた表面処理浴を用いている。さらにまた、オキシ硫酸塩がオキシ硫酸モリブデンまたは硫酸バナジルであることを特徴とし、そして、P化合物が、リン酸、重リン酸アンモニウム、重リン酸ナトリウム、重リン酸カルシウム、重リン酸マグネシウム、重リン酸アルミニウムの一種以上からなることを特徴とする。
耐食性を向上させることを目的として、Crなどの金属をリン酸皮膜中に取り込むことが従来より実施され、とりわけCrは耐食性および塗料などの皮膜密着性に優れており、これまで多用されてきたが、上記示したように環境に有害となる恐れがあり、Crに替わる金属としてMo、W、Vなどを用いることが試みられている。これらの金属はいずれもモリブデン酸イオン、タングステン酸イオン、バナジウム酸イオンなど、金属酸イオンの形で処理浴中に添加されて使用されているが、得られた表面処理皮膜はいずれもCrを用いた表面処理皮膜の特性を示すには至らなかった。
本発明においては、Crに替わる金属としてMo、Ti、V、Zrの一種以上をオキシ硫酸塩の形でP化合物およびZn化合物とともに処理液中に含有させ、この処理浴を用いて形成させた処理皮膜中に、Mo、Ti、V、Zrのオキシ硫酸塩とP化合物およびZn化合物に由来する物質を取り込むことにより、従来のモリブデン酸アンモニウム、バナジウム酸アンモニウム、タングステン酸アンモニウム、チタン酸アンモニウムなどの化合物を含む処理浴を用いて形成させた処理皮膜よりも優れた皮膜特性が得られ、さらにCrを用いた表面処理皮膜と同等以上の皮膜特性が得られることが判明した。この理由についてはよく分からないが、上記のMo、Ti、V、Zrを処理浴中にオキシ硫酸塩の形で含有させることにより、Moについては3価、5価および6価のモリブデンが酸素イオン(O2−)と硫酸イオン(SO2−)と結びついた化合物、そして、Ti、V、Zrについては4価のTi、V、Zrが酸素イオン(O2−)と硫酸イオン(SO2−)と結びついた化合物から由来する物質が、PおよびZnとともに鋼板上に形成させた皮膜の骨格をなす成分となり、この皮膜が優れた防錆性を有していると考えられる。特に、前記鋼板がZnめっき鋼板あるいはZn系合金めっき鋼板である場合は、めっき皮膜中のZnや合金元素とも結びついて、Mo、Ti、V、Zrの一種以上とPとZnが主に皮膜の骨格をなす成分となり、この皮膜が優れた防錆性を有していると考えられる。また、上記皮膜中にさらにMg、Alの一種以上、および/またはホスホン酸塩を積極的に含ませることにより、より防錆性は向上すると考えられる。
さらに、これらの皮膜中には原子価の高い状態のMo、Ti、V、Zrが好ましい形で含まれており、他の物質を酸化させ酸化皮膜形成を促進し、自らは還元されて原子価の低い状態に移ると考えられる。この反応はクロム酸イオンが有している酸化機能と同じようなものと考えられ、皮膜の自己修復性があるために優れた防錆性を示すと考えられる。
以下に本発明についてその内容を説明する。
【0005】
まず処理浴について説明する。本発明の処理浴は、オキシ硫酸モリブデン、硫酸チタニル、硫酸バナジル、硫酸ジルコニルであるMo、Ti、V、Zrのオキシ硫酸塩の一種以上と、リン酸、重リン酸アンモニウム(リン酸二水素アンモニウム)、重リン酸ナトリウム(リン酸二水素ナトリウム)などのP化合物、および酸化亜鉛などのZn化合物を含有する水溶液からなり、それに、耐錆性を向上させる硫酸マグネシウムや硫酸アルミニウムなど、MgまたはAlの硫酸塩の一種以上、および/またはアミノトリ(メチレン−ホスホン酸)などのホスホン酸塩を加えても良い。さらにまた、電導度を向上させ処理浴を安定させるために、例えば硫酸ナトリウムや硫酸アンモニウムなどの塩類を添加してもよい。
オキシ硫酸モリブデン、硫酸チタニル、硫酸バナジル、硫酸ジルコニルなどの含有量の総量は3〜150g/l、好ましくは5〜50g/lである。3g/l未満の場合は皮膜の生成量が少なく、良好な皮膜特性が得られない。150g/lを超えると、皮膜の色調が変化し、また皮膜の加工密着性が低下する。さらに薬品が高価であることに加えて、処理時に鋼板に付着して持ち出される量が増加し、経済的でなくなる。
上記の金属のオキシ硫酸塩はいずれも本発明に適用可能であるが、オキシ硫酸モリブデン
および硫酸バナジルを用いた場合は安定した処理浴が得られ、好ましい。
P化合物の含有量は3〜150g/l、好ましくは5〜50g/lである。3g/l未満の場合は皮膜の生成量が少なく、良好な皮膜特性が得られない。150g/lを超えると皮膜の加工密着性が低下する。さらに処理時に鋼板に付着して持ち出される量が増加し、経済的でなくなる。
上記のP化合物は、正リン酸、縮合リン酸、亜リン酸、次亜リン酸を始めとしたPを含有するPの酸素酸、酸素酸塩類などの化合物の一種以上が適用可能であるが、重リン酸化合物である重リン酸アンモニウム、重リン酸ナトリウム、重リン酸カルシウム、重リン酸マグネシウム、重リン酸アルミニウムを用いた場合は安定した処理浴が得られ、好ましい。
Zn化合物の含有量は1〜10g/l、好ましくは2〜8g/lである。1g/l未満の場合は皮膜の生成量が少なく、良好な耐白錆性が得られない。10g/lを超えると皮膜の加工密着性が低下する。さらに処理時に鋼板に付着して持ち出される量が増加し、経済的でなくなる。
上記のZn化合物は、酸に可溶なものであればよいが、酸化亜鉛を用いた場合は安定した処理浴が得られ、好ましい。
本発明において、上記の金属のオキシ硫酸塩の一種類以上、P化合物、およびZn化合物を含有させた処理浴を用いて表面処理鋼板を作成し、それに有機樹脂を被覆した場合、良好な耐食性および皮膜密着性を示す樹脂被覆表面処理鋼板が得られる。しかし、この処理浴を亜鉛めっき鋼板に適用して有機樹脂を被覆せずに裸で用いた場合、白錆の発生を完全に抑制することはかなり困難である。そのため、処理浴にさらに硫酸マグネシウムや硫酸アルミニウムなどのMgまたはAlの硫酸塩の一種以上、および/またはホスホン酸塩を含有させる。MgまたはAlの硫酸塩の含有量は総量で3〜50g/lが好ましい。3g/l未満では効果が得られず、50g/lを超えて含有させても十分な効果が得られ、それ以上含有させる必要はない。ホスホン酸塩の含有量は総量で1〜80g/lが好ましい。
なお、P化合物としてMgまたはAlを含む、重リン酸マグネシウムまたは重リン酸アルミニウムを用いた場合は、MgまたはAlの硫酸塩を含有させた場合と同様の効果が得られる。
さらにまた、電導度を向上させ処理浴を安定させるために、例えば硫酸ナトリウムや硫酸アンモニウムなどの塩類を50g/l以下含有させてもよい。
処理浴のpHは1〜5が好ましく、より好ましくは2〜4である。pHが1未満の場合は不均一な皮膜となり、pHが5を超えると処理浴が不安定になるとともに、皮膜の耐食性が低下する。
pH調整はアンモニア、苛性ソーダなどのアルカリ、および硫酸、リン酸などの酸の添加により行う。処理浴の温度は20〜50℃の範囲が好ましい。
上記のようにして作成した処理浴を用い、鋼板に処理皮膜を生成させる。処理方法としては浸漬処理、電解処理のいずれも可能である。浸漬処理の場合、1〜60秒、好ましくは2〜10秒で十分な厚さの処理皮膜が得られる。60秒以上浸漬しても皮膜の厚さはそれ程増加しなくなる。
電解処理の場合は短時間で厚い皮膜が得られ、陰極処理、陽極処理のいずれも適用可能である。いずれの場合も0.5〜30A/dm、好ましくは1〜10A/dmの電流密度で0.1〜10秒間通電することが好ましい。0.5A/dm未満では皮膜の成長に時間がかかり過ぎ、短時間で厚い皮膜を得ることができない。30A/dmを超えるとヤケを生じ、均一な皮膜が得られない。10秒間を超えて通電すると皮膜が厚くなり過ぎて、処理皮膜の上に有機樹脂フィルムなどの樹脂皮膜を被覆した場合、樹脂皮膜の加工密着性が低下する。
【0006】
次に、上記の表面処理皮膜を被覆する下地となる鋼板について説明する。鋼板としては、通常のアルミキルド連続鋳造鋼を熱間圧延し表面に生じたスケールを除去した熱延鋼板、熱延鋼板を冷間圧延し焼鈍を施した冷延鋼板や、これらの鋼板にSn、Ni、Co、Mo、Znのいずれか一種からなる単層めっき、または二種以上からなる複層めっきや合金めっきを施しためっき鋼板を用いることができる。その中で汎用性の高いZnめっき鋼板としては、溶融Znめっき鋼板、AlやMgを含んだ溶融Zn系合金めっき鋼板、電気Znめっき鋼板、またはZn−Ni、Zn−Fe、Zn−Co等の電気Zn系合金めっき鋼板、特に電気Zn−Co−Moめっき鋼板があるが、いずれも本発明に使用することができる。
本発明の表面処理は以下のようにして行う。すなわち、上記の熱延鋼板や冷延鋼板に定法を用いて酸洗処理および脱脂処理を施す。または、酸洗処理および脱脂処理を施した後、上記のいずれかのめっきを施し、めっき鋼板とする。次いでこの鋼板またはめっき鋼板を、上記の処理浴中で上記の条件下で浸漬処理または電解処理し、表面処理皮膜を形成させる。
以上のようにして、本発明の表面処理鋼板を得ることができる。
【0007】
次いで本発明の樹脂被覆表面処理鋼板について説明する。本発明の樹脂被覆表面処理鋼板は、上記のようにして作成した表面処理鋼板に、有機樹脂を被覆したものである。有機樹脂としては、表面処理鋼板に被覆可能であれば如何なる樹脂も適用できるが、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、のいずれかを用いることが好ましい。さらに、前記有機樹脂に、コロイダルシリカ、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンワックス、シランカップリング剤又はクロム非含有防錆剤の一種以上を含ませることにより、潤滑性、密着性および耐食性をより向上させることができる。
ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、これらの樹脂の多価酸成分および/または多価アルコール成分の一部を他の成分と置き換えた共重合ポリエステル樹脂、ブチレンテレフタレート単位を主体とする共重合ポリエステル樹脂、これらのポリエステル樹脂をブレンドした樹脂を挙げることができる。
ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、などのホモポリマー、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、オレフィン重合体などの共重合ポリマーを挙げることができる。
ポリ塩化ビニル樹脂としては、ポリ塩化ビニル樹脂に、ジ−(2−エチルヘキシル)フタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルアジペートなどの可塑剤を10〜50重量部含有させたものを用いることが好ましい。
ポリカーボネート樹脂としては、ビスフェノールA−ポリカーボネート樹脂が好ましい。
またポリアミド樹脂としては、6−ナイロン、6,6−ナイロン、6,10−ナイロン、12−ナイロンを挙げることができる。
ウレタン系樹脂としては、環境保全の観点からは有機溶媒系樹脂よりも水に溶解または分散可能な水性樹脂が好ましく、ウレタン樹脂以外にアクリル、オレフィン、ポリエステルあるいはフッ素等で変性したウレタン樹脂が適当である。
アクリル系樹脂としては、水性樹脂が好ましく、アクリル樹脂以外にウレタン、オレフィン、ポリエステルあるいはフッ素等で変性したアクリル樹脂が適当である。
なお、上記有機樹脂中に樹脂層全体の硬さを高め、耐疵付き性、および耐摩耗性、さらには耐食性向上を目的としてコロイダルシリカを含有させても良い。また、潤滑性向上を目的としてポリテトラフルオロエチレンおよびポリエチレンワックス等の潤滑剤粉末を含有させても良い。
さらに、クロム非含有防錆剤を含有させることにより、より耐食性を向上させる。また、シランカップリング剤を含有させた有機樹脂層を設けることが、より耐食性および密着性を向上させる。
【0008】
有機樹脂を本発明の表面処理鋼板上に形成させる方法としては、フィルムラミネート、押し出しラミネートなどのラミネート法、粉体塗装法、ロールコート法、スプレー法、静電塗装法等、公知の塗装方法が適用可能である。ラミネート法の場合、これらの樹脂を延伸フィルム、または未延伸フィルムとして製膜し、その樹脂フィルムを本発明の表面処理鋼板に熱接着法を用いて積層してもよいし、ポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系、メラミン系などの接着剤を用いて表面処理鋼板に接着してもよい。さらに樹脂を加熱溶融し、直接表面処理鋼板上に押し出して積層してもよい。
さらに、ポリ塩化ビニル樹脂のように、ポリマーと可塑剤を溶媒に溶解させてゾル状にしたものを表面処理鋼板に塗布し、その後加熱してゲル化させてもよい。
中でも、環境保全の観点から有機溶媒系樹脂よりも水に溶解または分散可能な水性樹脂を用い、有機樹脂層の厚さが比較的薄くてよいこと、塗装作業の簡便さ、および経済性の観点から、樹脂を溶解した水溶液中に本発明の表面処理鋼板を浸漬し、絞りロール等を用いて余分の樹脂溶液を除去した後、乾燥させる方法を採用することが好ましい。乾燥方法は熱風乾燥、ガスオーブン、電気オーブン、誘導加熱炉等、いずれの手段を用いてもよく、処理量と経済性の観点から最も有利な方法を採用すればよい。また、塗装被膜が生成した後、UV照射や電子線照射を併用してもよい。
以上のようにして、本発明の本発明の樹脂被覆表面処理鋼板を得ることができる。
以下、実施例にて本発明をさらに詳細に説明する。
【0009】
(実施例)
表面処理鋼板の作成 厚さ0.3mmの冷延鋼板に、定法を用いてアルカリ電解脱脂処理及び硫酸酸洗処理を施した後、下記の条件でZnめっき、Zn−Co−Moめっき、またはZn−Ni合金めっきを施し、Znめっき鋼板、Zn−Co−Moめっき鋼板、またはZn−Ni合金めっき鋼板を作成した。
[Znめっき条件]
浴組成
ZnSO・7HO:250g/l
(NHSO:30g/l
浴温 :40 ℃
電流密度 :20 A/dm
めっき付着量 : 5 g/m
[Zn−Co−Moめっき条件]
浴組成
ZnSO・7HO:250g/l
CoSO・7HO:50g/l
(NHMo24・4HO:0.2g/l
(NHSO:30g/l
光沢剤(ジシアンジアミドホルムアルデヒド縮合物の塩酸塩):4ml/l
浴温 :40 ℃
電流密度 :20A/dm
めっき付着量 : 5 g/m
[Zn−Ni合金めっき条件]
浴組成
ZnSO・7HO:250g/l
NiSO・7HO:50g/l
(NHSO:15g/l
ポリビニールアルコール:2g/l
浴温:50 ℃
電流密度:25 A/dm
めっき付着量:5 g/m
上記のようにして作成したZnめっき鋼板、Zn−Co−Moめっき鋼板、またはZn−Ni合金めっき鋼板に、表1から表4に示す浴組成の表面処理浴、条件で表面処理を施し、表面処理鋼板を作成した。
【0010】
【表1】

【0011】
【表2】

【0012】
【表3】

【0013】
【表4】


このようにして作成した表面処理鋼板の耐食性を、下記に示す要領で評価した。比較材1として、無水クロム酸:25g/l、硫酸:0.1g/lを処理浴として電解クロメート処理し、電気Zn−Co−Moめっき鋼板上に全クロム量として30mg/mのクロム水和酸化物皮膜を形成させた電気Zn−Co−Moめっき鋼板を使用した。また、クロメート処理なしの電気Zn−Co−Moめっき鋼板も比較材2として使用した。
【0014】
表面処理鋼板の耐食性の評価
耐食性
表1から表4に示す本発明の表面処理鋼板、および比較材1、2について、90度折り曲げを行った試験片を用いて、JIS−Z2371に基づいた塩水噴霧試験を24時間実施した後、表面を目視観察し、平板部分と90度折り曲げ加工部分とを次に示す5段階の評点で評価した。
評点5:表面に変化が認められない。
評点4:表面に実用上問題とならない程度のわずかな白錆が認められる。
評点3:表面に実用上問題となる程度の白錆が認められる。
評点2:表面にかなりの白錆が認められる。
評点1:表面全体に白錆が認められる。
結果を表5に示す。
【0015】
【表5】


次に、上記の表1から表4の中から選んだ表面処理鋼板に、表6及び表7に示す樹脂をそれぞれの条件で積層し、樹脂被覆表面処理鋼板を作成した。さらに、クロメート処理なしの電気Zn−Co−Moめっき鋼板(比較材2)の上に有機樹脂を被覆した比較材4を作成した。また、従来の電解クロメート処理を行い、電気Zn−Co−Moめっき鋼板上に全クロム量として30mg/mのクロム水和酸化物皮膜を形成させた電気Zn−Co−Moめっき鋼板(比較材1)の上に有機樹脂を被覆した比較材3を作成した。
【0016】
【表6】

【0017】
【表7】


このようにして得られた樹脂被覆表面処理鋼板の皮膜密着性を、先に示した耐食性とともに下記に示す要領で評価した。
【0018】
皮膜密着性
樹脂被覆表面処理鋼板を絞り比2.2で円筒カップ状に絞り加工し、カップ側面の皮膜を粘着テープで強制剥離し、皮膜の剥離程度を目視観察し、次に示す5段階の評点で評価した。
評点5:剥離が認められない。
評点4:実用上問題とならない程度のわずかな剥離が認められる。
評点3:実用上問題となる程度の剥離が認められる。
評点2:かなりの剥離が認められる。
評点1:側面全体に剥離が認められる。
以上の特性評価結果を表8に示す。
【0019】
【表8】


表5に示すように、本発明の表面処理鋼板は、比較材2と比較して、優れた特性を示し、従来の電解クロメートを施した比較材1と比べても、同等以上の耐食性を有している。
また、本発明の表面処理鋼板に有機樹脂を被覆した樹脂被覆表面処理鋼板は、表8に示すように、電解クロメート無しのZn−Co−Moめっき鋼板の上に有機樹脂を被覆した比較材4よりも優れた特性を有し、従来の電解クロメートの上に有機樹脂を被覆した比較材3と比べても、同等以上の優れた耐食性、皮膜密着性を有している。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、Mo、Ti、V、Zrのオキシ硫酸塩の一種以上と、P化合物と、Zn化合物とを含有する水溶液中で鋼板を浸漬処理、または電解処理することを特徴とする表面処理鋼板の製造方法であり、さらに、Mg、Alの硫酸塩の一種以上、およびまたはホスホン酸塩を積極的に加えた水溶液中での、鋼板の浸漬処理または電解処理を特徴とする。さらにまた、前記オキシ硫酸塩がオキシ硫酸モリブデンまたは硫酸バナジルであることを特徴とする。そして、前記P化合物が、リン酸、重リン酸アンモニウム、重リン酸ナトリウム、重リン酸カルシウム、重リン酸マグネシウム、重リン酸アルミニウムの一種以上からなることを特徴とする表面処理鋼板の製造方法である。
また、その製造方法を用いてなる表面処理鋼板、およびその表面処理鋼板に有機樹脂を被覆した樹脂被覆表面処理鋼板である。本発明の表面処理鋼板の製造方法は作業環境の保全性に優れ、その製造方法を用いてなる表面処理鋼板は耐食性に優れており、さらにその表面処理鋼板に有機樹脂を被覆した樹脂被覆表面処理鋼板は耐食性に加えて皮膜の密着性に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を、
Vのオキシ硫酸塩の一種以上と、リンの酸素酸又はリンの酸素酸塩と、Zn化合物とを含有し、且つCrを含有しない水溶液中で浸漬処理あるいは電解処理することを特徴とする、表面処理鋼板の製造方法。
【請求項2】
鋼板を、Vのオキシ硫酸塩の一種以上と、リンの酸素酸又はリンの酸素酸塩と、Zn化合物と、ホスホン酸塩とを含有し、且つCrを含有しない水溶液中で浸漬処理あるいは電解処理することを特徴とする、表面処理鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記鋼板が、Znめっき鋼板又はZnを含む合金めっき鋼板であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の表面処理鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記リンの酸素酸又はリンの酸素酸塩が、リン酸、重リン酸アンモニウム、重リン酸ナトリウム、重リン酸カルシウム、重リン酸マグネシウム、重リン酸アルミニウムの一種以上からなる、請求項1〜3のいずれかに記載の表面処理鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記ホスホン酸塩が、アミノトリ(メチレン−ホスホン酸)である、請求項2〜4のいずれかに記載の表面処理鋼板の製造方法。
【請求項6】
鋼板を、Vのオキシ硫酸塩の一種以上と、リンの酸素酸又はリンの酸素酸塩と、Zn化合物とを含有し、且つCrを含有しない水溶液中で浸漬処理あるいは電解処理して、
Vのオキシ硫酸塩から形成された物質と、リンの酸素酸又はリンの酸素酸塩から形成された物質と、Zn化合物から形成された物質と、
を含有する保護被膜を鋼板上に被覆してなることを特徴とする、表面処理鋼板。
【請求項7】
鋼板を、Vのオキシ硫酸塩の一種以上と、リンの酸素酸又はリンの酸素酸塩と、Zn化合物と、ホスホン酸塩とを含有し、且つCrを含有しない水溶液中で浸漬処理あるいは電解処理して、
Vのオキシ硫酸塩から形成された物質と、リンの酸素酸又はリンの酸素酸塩から形成された物質と、Zn化合物から形成された物質と、
を含有する保護被膜を鋼板上に被覆してなることを特徴とする、表面処理鋼板。
【請求項8】
前記鋼板が、Znめっき鋼板又はZnを含む合金めっき鋼板である、請求項6又は7に記載の表面処理鋼板。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかに記載の表面処理鋼板に有機樹脂を被覆してなる樹脂被覆表面処理鋼板。
【請求項10】
前記有機樹脂が、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、またはポリ塩化ビニル系樹脂のいずれかである、請求項9に記載の樹脂被覆表面処理鋼板。

【公開番号】特開2009−68115(P2009−68115A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283766(P2008−283766)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【分割の表示】特願2000−610880(P2000−610880)の分割
【原出願日】平成12年4月11日(2000.4.11)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】