説明

表面分析装置、及び表面分析方法

【課題】二次電子放出量を正確に測定できる表面分析装置を提供する。
【解決手段】赤外線ランプ30によって裏面から加熱した試料21に、グラウンド電極に電流が流れないように径を絞ったイオンビーム5を照射する。グラウンド電極15とコレクタ電極18の間に配置した制御電極に負電圧を印加し、試料21から放出した二次電子だけをコレクタ電極18で捕集するようにする。試料21がチャージアップした場合、サプレッサ電極12の電圧を調節し、試料21に電子を照射し、正電荷を中和する。二次電子放出比を正確に求めることが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面分析装置にかかり、特に、イオンビームを用いた表面分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、表面分析には、試料表面にイオンビームを照射し、試料から放射される二次電子を測定し、評価する装置が使用されている。
図6の符号101は、プラズマディスプレイ装置用の保護膜評価に用いられる表面分析装置の一例であり、図面左方には、図示しないイオン源を有している。
【0003】
イオン源の下流側にはビーム成形器(以下、成形器と呼称)111が配置されており、イオン源内で生成され、引き出されたイオンは成形器111内に入射し、成形器111内でイオンビーム105に成形される。
【0004】
成形器111の下流側には、減速器ユニット(112〜114)が配置され、減速器ユニットはサプレッサ電極112、中間電極113、最終電極114がこの順序で配置されており、成形器111内で成形されたイオンビーム105は、下流側のサプレッサ電極112に向けて放射され、各電極112〜114に形成された孔を通過し、試料121に向けて照射される。
【0005】
試料121前面の、試料121と最終電極114の間には、グラウンド電極115が配置されており、イオンビーム105はグラウンド電極115に形成された孔と最終電極114とで形成された電界によってビーム径が絞られ、試料121表面に入射する。
【0006】
グラウンド電極115と試料121の間にはコレクタ電極118が配置されており、コレクタ118には正電圧が印加されている。試料121にイオンビーム105が照射され、表面から飛び出した二次電子はコレクタ電極118で捕集される。
【0007】
イオンビーム105が照射されたときにコレクタ電極118に流れる電流をIC、試料121に流れる電流をISとすると、試料121に照射されたイオンビーム105の全電流Iionは、
ion = IC−IS
で表される。
【0008】
コレクタ電極118と試料121に流れる電流Ic、Isは測定できるから、イオンビーム105の全電流Iionが算出でき、それにより、イオンビームに対する二次電子放出比Is/Iionを求めることができる。これにより、試料121の評価を行うことができる。
【特許文献1】特開平10−261378号公報
【特許文献2】実公平6−22916号公報
【非特許文献1】阿川義昭,原泰博,山本佳宏,天野繁、“MgO保護膜評価装置の開発”、平成9年度社団法人電気化学会粒子線技術開発研究会資料集第4巻、社団法人電気化学会粒子線技術開発研究会事務局アイオニクス株式会社、平成10年、p.51−55
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら上記のような表面分析装置101では、グラウンド電極115にイオンビーム105が当たり、グラウンド電極115からも二次電子が放出されてしまう。その二次電子がコレクタ電極118に捕集されると、試料121の二次電子放出比が不正確になってしまう。
【0010】
また、コレクタ電極118には、試料121の電位に対して正電圧が印加され、二次電子を効率的に補修できるようにされているが、試料121が絶縁物の場合、イオンビームの照射により、試料121が正電位にチャージアップしてしまい、コレクタ電極118との電位差が小さくなると、コレクタ電極118の電子捕集効率が落ち、二次電子放出比の測定が不正確になってしまう。
【0011】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、二次電子放出比を正確に求めることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、イオンビームにグラウンド電極とコレクタ電極とを通過させ、試料表面に前記イオンビームを照射し、前記試料表面から放出される二次電子を前記コレクタ電極で捕集する表面分析方法であって、前記グラウンド電極に電流計を接続し、前記イオンビームを照射したときに、前記電流計に電流が流れないように、前記イオンビームの径を調節することを特徴とする。
【0013】
請求項2記載の発明は、試料表面にイオンビームを照射し、前記試料に流れた電流と、前記試料から放出された二次電子量を測定する表面分析方法であって、前記試料を加熱しながら前記イオンビームを照射することを特徴とする。
【0014】
請求項3記載の発明は、成形器から放出されたイオンビームを、少なくとも、前記成形器に対して負電圧が印加されたサプレッサ電極と、前記サプレッサ電極に対して正電位になったグラウンド電極とを通過させ、試料表面に照射し、前記試料にながれた電流と前記試料から放出された二次電子量を測定する表面分析方法であって、前記サプレッサ電極を前記成形器と前記グラウンド電極の中間の電位に置き、前記試料に電子を照射し、前記試料に蓄積された正電荷を中和することを特徴とする。
【0015】
請求項4記載の発明は、試料表面にイオンビームを照射し、前記試料に流れた電流と、前記試料から放出された二次電子量を測定する表面分析方法であって、前記試料の周辺部分に金属を配置し、前記イオンビームによって前記試料に蓄積される電荷を、前記金属を介して放出させるように構成されたことを特徴とする。
【0016】
請求項5記載の発明は、コレクタ電極と台座とを有し、前記台座上に試料を配置し、前記コレクタ電極を通過したイオンビームが前記試料に照射され、前記試料から放出された二次電子を前記コレクタ電極で捕集するように構成された表面分析装置であって、前記台座に透光窓を設け、前記台座後方に赤外線ランプを配置し、該赤外線ランプから放射された赤外線が、前記透光窓を通って前記試料裏面に照射されるように構成されたことを特徴とする。
【0017】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の表面分析装置であって、前記試料を透過した前記赤外線が前記コレクタ電極で反射され、前記試料に再照射されるように構成されたことを特徴とする。
【0018】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の表面分析装置であって、前記コレクタ電極の前記試料側の面は、凹面鏡状に成形されたことを特徴とする。
【0019】
請求項8記載の発明は、グラウンド電極と、前記グラウンド電極に対して正電圧が印加されるコレクタ電極とを有し、前記グラウンド電極と前記コレクタ電極とを通過したイオンビームが試料表面に照射され、該試料から放出された二次電子が前記コレクタ電極で捕集されるように構成された表面分析装置であって、前記グラウンド電極と前記コレクタ電極の間に制御電極が設けられ、該制御電極に所望電圧を印加できるように構成されたことを特徴とする。
【0020】
試料にイオンビームを照射する際、コレクタ電極の前方に配置されたグラウンド電極に流れる電流を測定し、グラウンド電極に電流が流れないようにイオンビームの径を調節すると、グラウンド電極にはイオンビームは照射されず、誤差となる二次電子がグラウンド電極から放出されないようになる。
【0021】
グラウンド電極とコレクタ電極の間に制御電極を設け、その制御電極にグラウンド電極とコレクタ電極よりも低い電圧を印加すると、グラウンド電極から放出された二次電子はコレクタ電極には到達せず、他方、試料から放出され、コレクタ電極から漏れ出た二次電子はコレクタ電極側に押し戻され、コレクタ電極で捕集されるので、二次電子の放出量を正確に測定することができる。
【0022】
試料を加熱しながらイオンビームを照射する場合、ガラス基板の抵抗率が低くなるので、試料に蓄積された電荷が流れても、試料の電位の上昇が小さくなる。
【0023】
試料の後方に赤外線ランプを設け、試料裏面に赤外線を照射して加熱する場合、試料の前方に配置されたコレクタ電極を凹面鏡にしておくと、試料を透過した赤外線が凹面鏡で反射され、集光された状態で試料表面に再照射されるので、試料の加熱効率が向上する。
【0024】
成形器から放出されたイオンビームを、少なくとも、その成形器に対して負電圧が印加されたサプレッサ電極と、サプレッサ電極に対して正電位のグラウンド電極とを通過させ、試料表面に照射する場合、試料の電位が上昇したときには、サプレッサ電極を成形器とグラウンド電極の中間の電位に置き、成形器からグラウンド電極まで、正の電位勾配を形成させると、試料に電子が放射され、試料に蓄積された正電荷を中和することができる。
【0025】
他方、試料の周囲に金属を配置しておき、金属の存しない部分にイオンビームを照射するようにすると、試料に蓄積される電荷を金属を介してグラウンド電位に流すことができるので、試料の電位が上昇しないようにすることができる。この金属は、板状の物であっても良いし、試料表面に形成された金属薄膜であってもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、試料の電位が上昇せず、また、上昇した場合でも、試料に蓄積された正電荷を中和することができる。
また、試料から放出される二次電子の捕集効率が高くなり、他方、グラウンド電極から放出される二次電子は捕集しないで済むので、測定精度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の実施形態を図面を用いて説明する。
図1を参照し、符号1は、本発明の第1例の表面分析装置を示している。
【0028】
この表面分析装置1は、図面左方に配置された図示しないイオン源と、そのイオン源の下流側に配置された成形器11とを有している。イオン源内で生成されたキセノン等の正イオンは、図示しない引き出し電極によって引き出され、成形器11に向けて照射される。そのイオンは、成形器11内を通過する際にイオンビーム5に成形され、下流側に向けて照射される。
【0029】
この表面分析装置1では、成形器11の下流側には、サプレッサ電極12と、中間電極13と、最終電極14とが配置されている。各電極12〜14の中央には、孔が設けられており、成形器11から放射されたイオンビーム5は、先ず、サプレッサ電極12の孔に向けて照射される。
【0030】
成形器11と、各減速電極12〜14には、それぞれ可変電源が接続されており、負電圧が印加されている。図2の符号E1は、成形器11から出たイオンビームの電位変化を示しており、成形器11には−20kV、サプレッサ電極12には−25kV、中間電極13には−10kV、最終電極14には−1kVが印加されている。
【0031】
最終電極14の下流側には、グラウンド電極15が配置されている。グラウンド電極15は金属が有底円筒形状に成形されて構成されており、底面の略中央部分には、孔25が設けられている。
【0032】
グラウンド電極15は、底面側が最終電極14側(イオンビーム5の上流方向)に向けられ、開口部側が試料21側(イオンビーム5の下流方向)に向けてられている。グラウンド電極15内部には、金属材料が有底円筒形状に成形されたコレクタ電極18が配置されている。
【0033】
このコレクタ電極18も、底面側がイオンビーム5の上流方向に向けられ、開口部側が下流方向に向けられている。
【0034】
コレクタ電極18の開口部分には金属製の試料台20が配置されており、該試料台20上には測定対象の試料21が配置されている。試料21は、透明なガラス基板と、その表面に形成されたMgO膜とで構成されている。
コレクタ電極18の底面の、グラウンド電極15の孔25と同一軸線上の位置に、孔26が形成されている。
【0035】
成形器11に印加された電圧及び、サプレッサ電極12〜最終電極14に印加された電圧が適切であった場合には、イオンビーム5はグラウンド電極15の孔25よりも小径に集束され、グラウンド電極15の孔25とコレクタ電極18の孔26とを通過し、試料21表面のMgO膜に照射される。
【0036】
イオンビーム5の照射により、試料21表面のMgO膜から飛び出した二次電子は、試料21とグラウンド電極15の間に配置されたコレクタ電極18で補修され、二次電子放出比が求められる。
【0037】
他方、イオンビーム5が孔25よりも大径であった場合、イオンビーム5の周辺部分は孔25の周辺部分のグラウンド電極15に照射されてしまう。図1の符号29は、孔25の周辺に照射されたイオンビーム5を示している。イオンビーム5がグラウンド電極15に照射されると、その部分から二次電子が放出され、コレクタ電極18に補修されると測定精度が悪化してしまう。
【0038】
この表面分析装置1では、グラウンド電極15は、調整用の電流計37を介してグラウンド電位に接続されており、イオンビーム5の径が大きく、グラウンド電極15の孔25を通過しきれなかった場合には、イオンビーム5のグラウンド電極15への照射量に応じて、調整用の電流計37に電流が流れるようになっている。
【0039】
調整用の電流計37に電流が流れていない場合には、イオンビーム5はグラウンド電極15に照射されていないので、逆に、調整用の電流計37に電流が流れていた場合、中間電極13に印加する電圧と、最終電極14に印加する電圧とを調整し、調整用の電流計37に電流が流れなくなるまでイオンビーム5の径を絞ると、コレクタ電極18には、グラウンド電極15から飛び出した二次電子は補修されず、正確に測定できるようになる。
この場合、中間電極13に印加する電圧と最終電極14に印加する電圧の両方を調整してもよいし、いずれか一方の電極に印加する電圧だけを調整してもよい。
【0040】
この表面分析装置1では、試料台20の後方の試料21裏面位置に、赤外線ランプ30が配置されている。試料台20中央部分には、孔から成る透光窓27が設けられている。
【0041】
赤外線ランプ30は、フィラメント31と集光鏡32とを有しており、フィラメント31に通電され、放射された赤外線35は、図3に示すように、直接又は集光鏡32で反射され、透光窓27を通過し、基板21裏面に照射されるように構成されている。
【0042】
試料21のガラス基板は絶縁物であり、その表面に形成されたMgO膜も絶縁物である。従って、MgO膜表面にイオンビームを照射した場合、チャージアップしてしまう。
【0043】
ガラス基板がソーダライムガラスの場合、比抵抗は、室温では1013Ωcm程度になる。大きさが25mm×25mm、厚みが2mmの場合、厚み方向の抵抗値は、
1013×0.2/(2.5×2.5)=3.2×1011Ω
となる。
【0044】
試料21に流れる電流が60nA程度であるとすると、表面電位は、
3.2×1011×60nA=1.9×104V(=19kV)
となる。100〜1000eVのイオンビームは、試料21表面に到達できず、MgO膜の表面分析を行うことはできない(実際には、試料21の表面電位は、最大でもイオンビームの入射電圧までしか上昇しないので、19kVの電位になることはない。)。
【0045】
この表面分析装置1では、予めフィラメント31に通電し、赤外線35を放射させ、試料21を昇温させている。また、試料21がガラス基板であり、赤外線35が透過してしまい、加熱の効率が低下するので、コレクタ電極18の底面の試料21に面する部分は凹状に成形され、表面には金薄膜が成膜され、凹面鏡19が構成されている。
【0046】
従って、試料21を透過した赤外線35は、凹面鏡19で反射され、集光された状態で、試料21表面に再照射され、試料21が効率よく加熱されるように構成されている。
【0047】
図4に、ソーダライムガラス基板の温度と比抵抗の関係を示す。100℃程度に加熱した場合、比抵抗は1010Ωcm程度、300℃程度まで加熱した場合、106Ωcm程度まで低下する。
【0048】
300℃まで加熱した場合、試料21の抵抗値は、
106×0.2/(2.5×2.5)=3.2×104Ω
となる。60nAの電流が流れる場合、
【0049】
3.2×104×60nA=192×10-5V(=1.9mV)
となり、イオンビーム5の入射電圧に比べて充分に小さいので、イオンビーム5により加えられる電荷は、試料21表面からガラス基板を縦方向に流れ、試料台20を介してグラウンドに流れる。
【0050】
試料台20と赤外線ランプ30には、熱電対及び温度計40、38が取り付けられており、300℃程度に昇温した後、イオンビーム5を照射するようになっている。
【0051】
試料21が加熱されている場合、イオンビーム5が照射された場合でも、その表面の電位はグラウンド電位に近い。従って、試料21とコレクタ電極18との間の電位差が大きい。
【0052】
このように、本表面分析装置1では、試料21表面がチャージアップすることがなく、集束されたイオンビーム5が試料21に照射され、試料21表面で発生した二次電子は、コレクタ電極18によって効率よく捕集され、コレクタ電極18と試料21とにそれぞれ接続された電流計35、36により、コレクタ電極18と試料21に流れた電流がそれぞれ測定され、二次電子放出比が正確に求められる。
【0053】
なお、MgO膜の比抵抗は小さく、膜厚も1000 程度と薄いので無視できる。
【0054】
次に、本発明の他の表面分析装置を説明する。図5の符号2は、その表面分析装置を示しており、上記第1例の分析装置1と同じ部材には、同じ符号を付して説明を省略する。
【0055】
この表面分析装置2は、制御電極17を有している。該制御電極17は、有底円筒形形状の金属電極であり、グラウンド電極15内に配置されている。
【0056】
制御電極17の底面側は、イオンビーム5の上流方向に向けられており、その内部に、コレクタ電極18が配置されている。従って、グラウンド電極15内には、制御電極17とコレクタ電極18とが入籠状に配置されている。
【0057】
制御電極17の底面には、孔28が形成されており、グラウンド電極15、制御電極17、コレクタ電極18に形成された各孔25、28、26は、同一中心軸線上に配置されている。従って、サプレッサ電極12、中間電極13、最終電極14を通過したイオンビーム5は、各孔25、28、26内を通過して、試料21表面に照射される。
【0058】
この制御電極17には、可変電源39が接続されており、負電圧を印加できるように構成されている。制御電極17に、グラウンド電極15及びコレクタ電極18の電位よりも低い電圧を印加すると、イオンビーム5の周辺部分がグラウンド電極15に衝突して二次電子44が発生した場合、その二次電子44は制御電極17が形成する電界によって押し戻され、コレクタ電極18に入射しないようになっている。
【0059】
試料21表面から放出され、コレクタ電極18の孔26から上流側に漏れ出た二次電子45についても、制御電極17が形成する電界によって押し戻され、コレクタ電極18に入射する。従って、グラウンド電極15から放出される二次電子は測定されず、他方、試料21から放出された二次電子の捕集効率は高くなる結果、二次電子放出係数が正確に測定される。
【0060】
グラウンド電極15の電位をゼロとすると、コレクタ電極18の電位は正であるから、結局、制御電極17の電位はグラウンド電極15よりも低い負電圧を印加すればよく、具体的には−30〜−50V程度の負電圧を印加するのが適当である。
【0061】
また、試料21は、金属製の台座20上に、金属製のクランプ22によって押しつけられている。符号41は、試料21のガラス基板を示しており、その表面には、MgO膜42が形成されている。クランプ22と、MgO膜42の間にはリング状の金属板50が配置されており、試料21は、クランプ22と金属板50によって、台座20に押しつけられるように構成されている。
【0062】
台座20は、電流計36が挿入された状態でグラウンド電位に接続されており、クランプ22は、台座20に取り付けられている。従って、金属板50は、クランプ22、及び台座20を介してグラウンド電位に接続されている。MgO膜42にイオンビーム5が照射され、表面に生成した電荷は、MgO膜42表面と接触している金属板50を通じてグラウンド電位に流れる。従って、金属板50によって試料21がチャージアップしにくくなっている。
【0063】
なお、上記金属板50は、試料21とは別体であり、試料21上に配置したが、試料21のMgO膜42表面に、リング形状の金属薄膜を形成し、クランプ22をその金属薄膜に当接させてもよい。
【0064】
次に、イオンビーム5の照射により、試料21の電位が上昇した場合を説明する。図2の符号E2は、イオンビーム5照射後の空間電位を示しており、イオンビーム5照射開始時の試料21の電位はゼロVであった(符号E1の空間電位。)のに対し、電圧VUだけチャージアップしている。
【0065】
空間電位E1、E2から分かるように、成形器11の電位が−20kVであるのに対し、サプレッサ電極12の電位は−25kVになっており、成形器11の電位よりも負方向に大きな電位にされている。このように、成形器11からサプレッサ電極12に至る間には負の電位勾配が形成されており、成形器11を通過した電子は、その電位勾配によって押し戻され、試料21に到達しないようになっている。
【0066】
従って、逆に、サプレッサ電極12を成形器11よりもグラウンド電位に近づけると、電子はサプレッサ電極12によって押し戻されないようになる。図2の符号E3は、−20kVと−10kVの成形器11と中間電極13に対し、成形器11の電位をその中間の−15kVに設定した場合の電位勾配であり、成形器11とサプレッサ電極12の間Lも、正の電位勾配になっている。この電位勾配E3は、成形器11からコレクタ電極18に至るまで、正になっており、上記のように、試料21が正電圧にチャージアップした場合であっても成形器11から放出された電子が正の電位勾配によって加速され、試料21表面に照射される。その結果、試料21に蓄積された正電荷が中和され、正のチャージアップが解消される。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の表面分析装置の一例を説明するための図
【図2】その装置の空間電位を説明するための図
【図3】試料の加熱方法を説明するための図
【図4】ガラス基板の温度と抵抗率の関係を示すグラフ
【図5】コレクタ電極とグラウンド電極の間に設けた制御電極を説明するための図
【図6】従来技術の表面分析装置を説明するための図
【符号の説明】
【0068】
1、2……表面分析装置
5……イオンビーム
11……成形器
12……サプレッサ電極
15……グラウンド電極
17……制御電極
18……コレクタ電極
19……凹面鏡
20……台座
21……試料
27……透光窓
25、26……孔
30……赤外線ランプ
35……赤外線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームをグラウンド電極とコレクタ電極とを通過させ、試料表面に前記イオンビームを照射し、前記試料表面から放出される二次電子を前記コレクタ電極で捕集する表面分析方法であって、
前記グラウンド電極に電流計を接続し、前記イオンビームを照射したときに、前記電流計に電流が流れないように、前記イオンビームの径を調節することを特徴とする表面分析方法。
【請求項2】
試料表面にイオンビームを照射し、前記試料に流れた電流と、前記試料から放出された二次電子量を測定する表面分析方法であって、
前記試料を加熱しながら前記イオンビームを照射することを特徴とする表面分析方法。
【請求項3】
成形器から放出されたイオンビームを、少なくとも、前記成形器に対して負電圧が印加されたサプレッサ電極と、前記サプレッサ電極に対して正電位となっているグラウンド電極とを通過させ、試料表面に照射し、前記試料に流れた電流と前記試料から放出された二次電子量を測定する表面分析方法であって、
前記サプレッサ電極を前記成形器と前記グラウンド電極の中間の電位に置き、前記試料に電子を照射し、前記試料に蓄積された正電荷を中和することを特徴とする表面分析方法。
【請求項4】
試料表面にイオンビームを照射し、前記試料に流れた電流と、前記試料から放出された二次電子量を測定する表面分析方法であって、
前記試料の周辺部分に金属を配置し、前記イオンビームによって前記試料に蓄積される電荷を、前記金属を介して放出させるように構成されたことを特徴とする表面分析方法。
【請求項5】
コレクタ電極と台座とを有し、前記台座上に試料を配置し、前記コレクタ電極を通過したイオンビームが前記試料に照射され、前記試料から放出された二次電子を前記コレクタ電極で捕集するように構成された表面分析装置であって、
前記台座に透光窓を設け、前記台座後方に赤外線ランプを配置し、該赤外線ランプから放射された赤外線が、前記透光窓を通って前記試料裏面に照射されるように構成されたことを特徴とする表面分析装置。
【請求項6】
前記試料を透過した前記赤外線が前記コレクタ電極で反射され、前記試料に再照射されるように構成されたことを特徴とする請求項5記載の表面分析装置。
【請求項7】
前記コレクタ電極の前記試料側の面は、凹面鏡状に成形されたことを特徴とする請求項6記載の表面分析装置。
【請求項8】
グラウンド電極と、前記グラウンド電極に対して正電圧が印加されるコレクタ電極とを有し、
前記グラウンド電極と前記コレクタ電極とを通過したイオンビームが試料表面に照射され、該試料から放出された二次電子が前記コレクタ電極で捕集されるように構成された表面分析装置であって、
前記グラウンド電極と前記コレクタ電極の間に制御電極が設けられ、該制御電極に所望電圧を印加できるように構成されたことを特徴とする表面分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−116467(P2008−116467A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−312415(P2007−312415)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【分割の表示】特願平11−2528の分割
【原出願日】平成11年1月8日(1999.1.8)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】