説明

表面弾性波型振動センサ

【課題】 表面弾性波型振動センサの感度を、共振周波数以外の周波数領域で向上させ、かつ無線通信可能な距離を伸ばすこと。
【解決手段】 SAW電極3を備え、片持ち梁構造となる圧電材料躯体1の形状を、検知すべき所望の周波数に応じつつ、くさび型形状とすることにより、躯体の支持部2から先端部に行くに従って躯体の厚みが変化するために、片持ち梁構造の支点と重心の距離が、直方体形状の圧電材料を用いた場合に比較して変わることによる重り効果で、外部振動が加わった際のSAW電極3の振動の強度が増大し、センサの感度を向上させ、かつ無線通信可能な距離を伸ばすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ガラスが破壊された時に発生するAE(Acoustic Emission)波を表面弾性波(SAW:Surface Acoustic Wave)型素子で検出する表面弾性波型振動センサの高感度化のための構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、建造物の耐震診断や防犯セキュリティ用のガラス破壊検知装置、或いは、設備や工作機械の異常振動検知に利用可能な、対象物の振動現象を検出する振動検知方法並びに振動センサ及び質問器を備えた振動検知システムが開示されている。
【0003】
特許文献1に開示される技術は、振動センサの小型化を可能とする振動検知方法を提供するための解決手段として、シングルポートの表面弾性波(SAW)共振子を備えたバッテリレス振動センサを対象物に取付け、質問器からバッテリレス振動センサに対して連続搬送波を送出する一方で、質問器においてバッテリレス振動センサからの反射波を監視する。対象物において振動現象が生じると、それに伴ってバッテリレス振動センサに機械振動が与えられ、その結果、反射波に変化が生じるので、それに基づいて振動現象を検知するものである。
【0004】
特許文献1の振動センサは、バッテリレスとなっており、振動検知の処理を質問器側で行うことから、振動センサから信号処理部を省略することができ、小型化が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−232708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示される表面弾性波型振動センサすなわち表面弾性波(SAW)電極を主面上に有する圧電材料躯体は、支持部にSAW共振子の一方の端部を固定した片持ち梁構造をしており、固定される側と反対側の厚みが同じである直方体形状をしている。センサの感度は、基本的に、この片持ち梁構造の振動がどれだけ大きいか、すなわち振動の強度で決まる。
【0007】
特許文献1に開示される直方体の圧電材料躯体では、躯体形状で決まる共振周波数から外れると、その周波数に対して、SAW共振子の振動の強度は大きくならず、共振周波数から外れる振動のモードに対して感度の向上は見込めないという課題があった。
【0008】
さらに、このSAW共振子を有するバッテリレス振動センサにおいては、圧電体上のSAW電極および反射器は、受動素子として、質問器から送信される搬送波を振動に基づいて変調された無線信号をバッテリレスで質問器に送信するため、感度が小さいということは、この際の送信出力も小さくなり、質問器との無線通信可能な距離も伸びないということが課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者等は、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、圧電材料の躯体形状から決まる共振周波数を検知したい所望の周波数としつつ、躯体形状を直方体ではなく、底面が略台形の四角柱形状すなわちくさび型形状とすることで振動の強度を大きくすることができ、もって、表面弾性波型振動センサの感度を向上させ得ることを見出し、本願発明をするに至った。
【0010】
本発明によれば、圧電材料から成る躯体の主面上に表面弾性波(SAW)電極および反射器を備え、躯体を底面が略台形の四角柱すなわちくさび型形状とし、くさびの端部を支持部とする片持ち梁構造とする表面弾性波型振動センサが得られる。
【0011】
表面弾性波(SAW)電極および反射器は、櫛歯電極(IDT)で構成することができる。
【0012】
支持されるくさびの端部は、くさびの厚みが厚い側であっても良く、くさびの厚みの薄い側であっても良い。
【0013】
SAW共振子および反射器は、くさびの支持される側の主面の支持部近傍にあることが望ましい。
【0014】
くさびの厚みの薄い側の端部の厚みをa、くさびの厚みの厚い側の端部の厚さをb、くさびの支持される側の主面の支持部から支持されない端部までの長さをLとして、
1<(b/a)≦5、L=1〜10mmとすることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
SAW共振子を備え、片持ち梁構造となる圧電材料躯体の形状を、検知すべき周波数に応じつつ、くさび型形状とすることにより、躯体の支持部から先端部に行くに従って躯体の厚みが変化するために、片持ち梁構造の支点と重心の距離が、直方体形状の圧電材料を用いた場合に比較して、変わることによる重り効果で、外部振動が加わった際のSAW共振子の振動の強度が増大し、センサの感度を向上させることが出来る。
【0016】
このことにより、バッテリレスガラス破壊センサにおいて、センサの感度が向上することにより、質問器への反射出力を大きくすることが出来、通信可能距離をのばすことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による表面弾性波型振動センサの概略図。図1(a)は、くさびの厚い側が支持部である場合の概略図、図1(b)は、くさびの薄い側が支持部である場合の概略図。
【図2】実施の形態1における、くさびの先端側速度と支持部側速度の比の周波数特性。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
図1は、本発明による表面弾性波型振動センサの概略図であり、図1(a)は、くさびの厚い側が支持部である場合の概略図である。図1(b)は、くさびの薄い側が支持部である場合の概略図である。なお、質問器からの搬送波の送受信に寄与するアンテナは図示していない。
【0020】
図1(a)あるいは図1(b)に示す形状の圧電材料を躯体とする表面弾性波型振動子は、以下の作製手順および評価方法により、作製・評価される。
【0021】
(設計および構造について)
図1(a)および図1(b)のように定義されるa、bおよびLの値を、それぞれ、くさびの薄い側の端部の厚みa=0.05mm、くさびの厚い側の端部の厚みb=0.25mm、主面の長さ(=圧電材料躯体の長さ)L=2mmとしてみる。なお比較対象とする従来の直方体形状の圧電体材料躯体は、長さ2mm、幅1mm、厚みは0.25mmとしている。
【0022】
圧電材料躯体1の長さLのうち、例えば、0.5mmは支持部2に固定する部分であるとすれば、実際に振動する部分の長さは1.5mmとなる。従来の直方体形状であれば、材料をBカットのLT(LiTaO3)とすれば、共振周波数は60kHzとなり、これは、ガラス破壊のモードとして検出したいAE波の周波数範囲に含まれている。
【0023】
ここで、前述の重り効果について、説明する。図1(a)のように、支持部側の厚みを先端部よりも厚くする構造にした場合、重心の位置が直方体形状に比較して、支持部側になり、基本振動モードの波長が短くなることから、共振周波数は直方体形状から計算される共振周波数60kHzよりも高周波側にずれることが理解されるであろう。一方、図1(b)のように、支持部側の厚みを先端部よりも薄くする構造の場合には、同様に重心位置が直方体形状に比較して先端部側になることから、共振周波数は低周波側にずれることとなる。なお、厚みaとbの値は、共振子自身の強度を考慮して決定する必要があり、正確な共振周波数は、計算および実測によるべきである。
【0024】
(作製手順について)
例えば、主面上にSAW電極3および反射器4となるそれぞれの櫛歯電極(IDT)を有する圧電材料を、図1(a)あるいは図1(b)の形状にダイサー等により切りだし、接着剤等により、支持される側を支持部であるパッケージケースの台座等に固定する。
【0025】
さらに、レーザ光を反射させる、金等の高反射の金属膜を共振子表面に薄くコートしておけば、レーザドップラー振動計により振動を観察することが容易である。
【0026】
(測定について)
加振機で強制振動を加えた場合の表面弾性波型振動子の振動強度、すなわち支持部側と先端部側の振動振幅の比である速度比を、レーザドップラー振動計を用いて測定することができる。
【0027】
実際に表面弾性波型振動センサを作製して、評価した結果、図2に示す実施の形態における、くさびの先端側速度と支持部側速度の比の周波数特性が得られた。
【0028】
本実施の形態によれば、圧電材料をBカットのLTとして、図1(a)の構造である場合、従来の直方体形状の構造と比較して、図2中の矢印で示される85kHz近傍の共振周波数付近で、先端側の速度と支持部側の速度の比で6倍ほどになることが分かった。この振動強度から、SAW電極3のIDTのインピーダンス変化量を見積もると、従来構造に比較して、25倍となる。さらに、バッテリレスでの無線通信可能な距離を算出すると、従来と比較して2.2倍となる。
【0029】
図1(b)のくさびの薄い側が支持部である場合、すなわち、低周波領域で用いる場合については、図2に一部見られるように、従来品より低周波の30kHz以下の領域で大変位が得られる。
【0030】
上述の効果を期待するには、圧電材料躯体の寸法については、支持部強度および検知するAE波の周波数を考慮し、1<(b/a)≦5,L=1〜10mmの範囲が好適である。圧電材料としては、前述のLiTaO3の他に、温度特性に優れた水晶やランガサイト等の圧電単結晶や、PZT(ジルコン酸チタン酸鉛)等の焼結体等を用いても良く、その特性を考慮して、a、bおよびLの値を選ぶことが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、ホームセキュリティやATM、店頭用などの防犯用ガラス破壊センサして利用可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 圧電材料躯体
2 支持部
3 SAW電極
4 反射器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電材料から成る躯体の主面上に表面弾性波電極および反射器を備え、躯体を底面が略台形の四角柱すなわちくさび型形状とし、くさびの端部を支持部とする片持ち梁構造とことを特徴とする表面弾性波型振動センサ。
【請求項2】
前記表面弾性波電極および反射器は、櫛歯電極であることを特徴とする請求項1に記載の表面弾性波型振動センサ。
【請求項3】
前記くさびの厚みの薄い側の端部の厚みをa、くさびの厚みの厚い側の端部の厚さをb、くさびの支持される側の主面の支持部から支持されない端部までの長さをLとした場合、
1<(b/a)≦5、L=1〜10mm
となることを特徴とする請求項1ないし2のいずれか1項に記載の表面弾性波型振動センサ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−210313(P2010−210313A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54768(P2009−54768)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】