説明

表面性状測定機

【課題】スタイラスの交換時期を適正に知らせることができる表面性状測定機を提供する。
【解決手段】操作キー51〜58によって入力されたしきい値を記憶するしきい値記憶部64と、スタイラス33のトレース方向の移動距離を検出するスタイラス移動距離検出器36と、このスタイラス移動距離検出器によって検出されたスタイラスの移動距離を累積記憶する累積移動距離記憶部65と、しきい値記憶部64に記憶されたしきい値と累積移動距離記憶部65に記憶された累積移動距離とを比較し、累積移動距離がしきい値を超えたときにスタイラスの交換を表示器41に表示する報知手段(制御手段70)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面性状測定機に関する。詳しくは、スタイラスの交換時期を知らせることができる表面性状測定機に関する。
【背景技術】
【0002】
被測定物の表面粗さや表面形状などの表面性状を測定する表面性状測定機が知られている(例えば、特許文献1など)。
これは、スタイラスを被測定物の表面に接触させ、この状態においてスタイラスを被測定物の表面に沿ってトレースさせると、被測定物の表面性状に応じて、スタイラスがトレース方向に対して交差(直交)する方向へ変位するから、このスタイラスの変位量から被測定物の表面性状を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平4−24408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に表面性状測定機では、スタイラスが被測定物の表面に接触した状態でスタイラスが被測定物の表面に沿ってトレースするため、スタイラスの先端が摩耗しやすい。スタイラスの先端が摩耗したままで測定を行うと、表面性状、とりわけ、表面粗さを正確に測定することができない。
そこで、測定回数や校正日からの経過日数でスタイラスを交換することが考えられる。しかし、測定回数の場合、測定条件の違いにより測定長さが極端に異なるため、同じ測定回数でもスタイラスの摩耗量が異なる。また、校正日からの経過日数の場合、つまり、定期的交換の場合、測定回数も異なることから、スタイラスの摩耗度合いも異なる。従って、スタイラスを適正な時期で交換するのは容易でない。
【0005】
本発明の目的は、スタイラスの交換時期を適正に知らせることができる表面性状測定機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の表面性状測定機は、スタイラスを被測定物の表面に接触させ、この状態において前記スタイラスを被測定物の表面に沿ってトレースしながら、そのトレース方向に対して交差する方向の前記スタイラスの変位を検出し、このスタイラスの変位量から被測定物の表面性状を測定する表面性状測定機において、入力手段と、この入力手段によって入力されたしきい値を記憶するしきい値記憶部と、前記スタイラスのトレース方向の移動距離を検出するスタイラス移動距離検出手段と、このスタイラス移動距離検出手段によって検出された前記スタイラスの移動距離を累積記憶する累積移動距離記憶部と、前記しきい値記憶部に記憶されたしきい値と前記累積移動距離記憶部に記憶された累積移動距離とを比較し、前記累積移動距離が前記しきい値を超えたときに前記スタイラスの交換を報知する報知手段と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
このような構成によれば、しきい値記憶部に記憶されたしきい値と累積移動距離記憶部に記憶された累積移動距離とを比較し、累積移動距離がしきい値を超えたときにスタイラスの交換を報知するようにしたので、スタイラスの交換時期を適正に知らせることができる。
つまり、スタイラスが被測定物の表面に接触した状態で移動した累積移動距離と、スタイラスの摩耗量とは比例する関係にあるから、累積移動距離を基準に交換時期を報知すれば、スタイラスの交換時期を適正に知らせることができる。
なお、「報知」とは、スタイラスの交換を促すメッセージやアイコンを表示部に表示するほか、ブザーを鳴らしてスタイラスの交換を通知する方法、あるいは、スタイラス交換ランプを点灯、点滅させる方法なども含む意味である。
【0008】
本発明の表面性状測定機において、被測定物の異なる材質に対応してしきい値を記憶した材質別しきい値記憶部と、前記入力手段によって入力された材質に対応するしきい値を前記材質別しきい値記憶部の中から読み出し、前記しきい値記憶部に設定するしきい値書込手段と、を備えることが好ましい。
一般的に、スタイラスの摩耗度合いは、被測定物の材質の違いなどによっても異なる。
本発明では、予め、材質別しきい値記憶部に被測定物の異なる材質に対応してしきい値を記憶させたので、入力手段によって被測定物の材質が入力されると、入力された材質に対応するしきい値が材質別しきい値記憶部の中から読み出され、しきい値記憶部に設定される。従って、測定者が被測定物の材質毎に最適なしきい値を選んで入力しなくても、被測定物の材質を入力するだけで、最適なしきい値を設定することができる。
【0009】
本発明の表面性状測定機において、測定結果を表示する表示部を備えるとともに、前記報知手段は、前記しきい値記憶部に記憶されたしきい値と前記累積移動距離記憶部に記憶された累積移動距離とを比較し、前記累積移動距離が前記しきい値を超えたときに、前記表示部にスタイラスの交換を通知する交換通知情報を表示する、ことが好ましい。
このような構成によれば、しきい値記憶部に記憶されたしきい値と累積移動距離記憶部に記憶された累積移動距離とが比較され、累積移動距離がしきい値を超えたときに、表示部にスタイラスの交換が通知されるから、測定者は、表示部の表示を見て、スタイラスの交換を知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態に係る表面性状測定機を示す斜視図。
【図2】同上実施形態の内部構造を示す概略図。
【図3】同上実施形態において、演算表示部のカバースライド状態の斜視図。
【図4】同上実施形態において、記憶装置を説明するための図。
【図5】同上実施形態において、しきい値入力画面を示す図。
【図6】同上実施形態において、しきい値入力画面の他の例を示す図。
【図7】同上実施形態において、累積移動距離としきい値との表示画面を示す図。
【図8】同上実施形態において、累積移動距離がしきい値を超えたときの表示画面を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係る表面性状測定機を図面に基づいて説明する。
<表面性状測定機の構成>
図1はハンディタイプの表面性状測定機の外観を示す斜視図、図2は同測定機の内部機構を示す図である。
これらの図に示すように、本実施形態の表面性状測定機1は、大きく分けて、駆動検出部2と、この駆動検出部2を収納可能な演算表示部3とから構成されている。
【0012】
駆動検出部2は、詳細を図2に示すように、検出部ケース10と、この検出部ケース10内に設けられた駆動手段20と、この駆動手段20によって測定方向に沿って直線移動される検出器30とを含んで構成されている。
駆動手段20は、検出部ケース10に固定された駆動源としてのモータ21と、このモータ21に連結されるとともに検出部ケース10内に検出器30の移動方向に沿って平行に配置された送りねじ軸22と、この送りねじ軸22に螺合されたナット部材23と、このナット部材23に連結され検出器30を着脱可能に保持した保持部材24とを含んで構成されている。
【0013】
検出器30は、駆動手段20の保持部材24に着脱可能に保持された検出器本体31と、この検出器本体31の先端に揺動可能に支持されたスタイラスアーム32と、このスタイラスアーム32の先端に着脱可能に取り付けられスタイラスアーム32の軸線に対して直角に突設されたスタイラス33を有するスタイラスチップ35と、検出器本体31においてスタイラスアーム32の基端の揺動量を検出する検出素子34とを備える。
【0014】
スタイラス33が被測定物の表面に沿って移動していくと、被測定物の表面性状、ここでは、表面粗さによってスタイラス33が上下動される。すると、スタイラス33の上下動が検出素子34によって検出信号として検出され、この上下動に伴う検出信号とスタイラス33のトレース方向の移動距離(図2中左右方向の距離)とから被測定物の表面粗さが測定される。
ここで、スタイラス33のトレース方向の移動距離については、スタイラス移動距離検出手段としてのスタイラス移動距離検出器36によって検出されている。スタイラス移動距離検出器36は、例えば、駆動手段20において、送りねじ軸22の回転量からスタイラス33のトレース方向の移動距離を検出できる構造である。
【0015】
演算表示部3は、図3にも示すように、駆動検出部2を上方から収納できる大きさの収納ケース40を有する。
収納ケース40は、幅寸法が片手で掴める大きさの直方体形状で、下面が駆動検出部2を収納するために開放されている。収納ケース40の上面には、前半側に表示部としての液晶表示器41と、電源キー42、測定開始キー43および頁キー44などの主操作キーとが配列されているとともに、後半側にカバー45が前後方向へスライド可能に装着されている。
カバー45の真下には、十字状の4つの操作キー53〜56と、四隅の4つの操作キー51,52,57,58とを有する入力手段としての補助操作キーが配置されている。これらの操作キー51〜58には、測定条件の設定や測定結果の表示切替など指令する複数種の機能が割り付けられている。
【0016】
収納ケース40の内部には、図2に示すように、記憶装置60のほかに、この記憶装置60、電源キー42、測定開始キー43、頁キー44、操作キー51〜58、表示器41および駆動検出部2と接続された制御手段70が内蔵されている。
記憶装置60には、測定条件などを記憶した測定条件記憶部61、測定結果などを記憶する測定結果記憶部62のほかに、しきい値記憶部64、累積移動距離記憶部65および材質別しきい値記憶部66などが設けられている。
しきい値記憶部64には、図4(A)に示すように、スタイラス33の累積移動距離がスタイラス交換距離に達したか否かを判定する基準値としてのしきい値が記憶されている。
累積移動距離記憶部65には、図4(B)に示すように、スタイラス移動距離検出器36によって検出される移動距離の累積移動距離が記憶される。
材質別しきい値記憶部66には、図4(C)に示すように、被測定物の異なる材質(例えば、アルミ、ステンレス、鉄…)に対応して最適なしきい値(L1,L2,L3…)が記憶されている。
【0017】
制御手段70は、測定開始キー43が操作されると、予め設定された測定条件に従って、駆動手段20を駆動させるとともに、この駆動手段20によって移動される検出器30からの検出信号を表面性状測定信号として取り込み、測定結果記憶部62に格納する処理などを行う。
また、入力手段としての操作キー51〜58によってしきい値が入力されると、入力されたしきい値をしきい値記憶部64に書き込む処理を行うとともに、操作キー51〜58によって被測定物の材質が入力されると、その入力された材質に対応するしきい値を材質別しきい値記憶部66の中から読み出し、しきい値記憶部64に書き込むしきい値書込手段を兼ねている。
さらに、しきい値記憶部64に記憶されたしきい値と累積移動距離記憶部65に記憶された累積移動距離とを比較し、累積移動距離がしきい値を超えたときにスタイラス33の交換を報知、具体的には、表示器41にスタイラス33の交換を通知する交換通知情報を表示する報知手段を兼ねている。
【0018】
<表面性状測定機の作用・効果>
測定にあたって、最初に、スタイラス交換のためのしきい値を設定しておく。
これには、例えば、図5に示すしきい値設定画面を表示させた状態において、操作キー55,58を操作して、しきい値を所望の値に設定する。すると、設定されたしきい値がしきい値記憶部64に記憶される。
あるいは、図6に示すしきい値設定画面を表示させた状態において、操作キー55,58を操作して、被測定物の材質を選択する。すると、その選択された材質に対応するしきい値が材質別しきい値記憶部66の中から読み出され、しきい値記憶部64に設定される。
【0019】
このようにして、しきい値をしきい値記憶部64に設定したのち、スタイラス33を被測定物の表面に接触させた状態において、測定開始キー43を押すと、制御手段70は、駆動手段20を駆動させる。駆動手段20が駆動すると、スタイラス33が被測定物の表面に接触したまま移動されるから、被測定物の表面性状に応じてスタイラス33が変位される。すると、検出素子34によって検出されたスタイラス33の表面性状信号と、スタイラス移動距離検出器36からのスタイラス移動距離信号とが制御手段70に取り込まれ、測定結果記憶部62に記憶されるとともに、スタイラス移動距離信号が累積移動距離記憶部65に累積記憶される。
測定が完了すると、制御手段70は、取り込んだスタイラス移動距離信号と表面性状信号を演算処理し、その演算結果を表示器41に表示する。
【0020】
任意時に、表示器41の画面をスタイラスアラーム画面に切り替えると、累積移動距離記憶部65に記憶された累積移動距離と、しきい値記憶部64に記憶されたしきい値とが、図7に示すように表示される。従って、この表示から、累積移動距離がしきい値に達するか否かを確認することができる。
測定を行っていく過程において、累積移動距離がしきい値を超えると、スタイラス33の交換が報知される。つまり、図8に示すように、表示器41には、累積移動距離がしきい値を超えた旨のスタイラスアラームメッセージ、ここでは、「累積移動距離が超えました。」とのスタイラスアラームメッセージ41Aが表示されるとともに、スタイラス33の交換を通知するスタイラスアラームアイコン41Bが表示される。なお、「累積移動距離が超えました。」とのスタイラスアラームメッセージ41Aは数秒後に自動的に消えるが、スタイラスアラームアイコン41Bはステータスバーに表示されたままである。
【0021】
従って、測定者は、この表示を見て、スタイラス33の交換時期がきたことを確認できるから、スタイラス33の交換を行う。つまり、スタイラスアーム32に対してスタイラス33を有するスタイラスチップ35を交換する。
スタイラス33の交換後、累積移動距離(累積移動距離記憶部65)をクリアすると、スタイラスアラームアイコン41Bが消える。
【0022】
従って、本実施形態によれば、しきい値記憶部64に記憶されたしきい値と累積移動距離記憶部65に記憶された累積移動距離とを比較し、累積移動距離がしきい値を超えたときにスタイラス33の交換を報知するようにしたので、スタイラス33の交換時期を適正に知らせることができる。
また、予め、材質別しきい値記憶部66に被測定物の異なる材質に対応してしきい値を記憶させたので、操作キー51〜58などによって被測定物の材質が入力されると、入力された材質に対応するしきい値が材質別しきい値記憶部66の中から読み出され、しきい値記憶部64に設定される。従って、被測定物の材質毎に最適なしきい値を入力しなくても、被測定物の材質を入力するだけで、最適なしきい値を設定することができる。
【0023】
<変形例>
本発明は、前述の実施形態に限定されるものでなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれる。
前記実施形態では、累積移動距離がしきい値を超えたときにスタイラス33の交換を促すスタイラスアラームメッセージ41Aや、スタイラスアラームアイコン41Bを表示器41に表示するようにしたが、これに限られない。
例えば、ブザーを鳴らしてスタイラス33の交換を通知する方法、あるいは、スタイラス交換ランプを点灯、点滅させる方法などでもよい。
【0024】
前記実施形態では、測定開始キー43が押されたことを条件として、スタイラス移動距離検出器36からの信号を取り込んで、スタイラス33の移動距離を累積記憶するようにしたが、測定開始キー43が押されたことに加え、検出素子34によって検出されたスタイラス33の表面性状信号が入力されたこと(つまり、スタイラス33が被測定物の接触していること)を条件として、スタイラス移動距離検出器36からの信号を取り込んで、スタイラス33の移動距離を累積記憶するようにすれば、スタイラス33の摩耗量をより正確に検出できる。
【0025】
また、駆動手段20については、モータ21と、送りねじ軸22と、ナット部材23と、保持部材24とで構成したが、これに限られない。駆動源としてエアーまたは油圧シリンダを用い、このシリンダによって検出器を直線移動させるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、粗さ測定機や形状測定機などの表面性状測定機などに利用できる。
【符号の説明】
【0027】
1…表面性状測定機、
33…スタイラス、
36…スタイラス移動距離検出器(スタイラス移動距離検出手段)
41…液晶表示器(表示部)、
51〜58…操作キー(入力手段)
64…しきい値記憶部、
65…累積移動距離記憶部、
66…材質別しきい値記憶部、
70…制御手段(報知手段、しきい値書込手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタイラスを被測定物の表面に接触させ、この状態において前記スタイラスを被測定物の表面に沿ってトレースしながら、そのトレース方向に対して交差する方向の前記スタイラスの変位を検出し、このスタイラスの変位量から被測定物の表面性状を測定する表面性状測定機において、
入力手段と、
この入力手段によって入力されたしきい値を記憶するしきい値記憶部と、
前記スタイラスのトレース方向の移動距離を検出するスタイラス移動距離検出手段と、
このスタイラス移動距離検出手段によって検出された前記スタイラスの移動距離を累積記憶する累積移動距離記憶部と、
前記しきい値記憶部に記憶されたしきい値と前記累積移動距離記憶部に記憶された累積移動距離とを比較し、前記累積移動距離が前記しきい値を超えたときに前記スタイラスの交換を報知する報知手段と、
を備えたことを特徴とする表面性状測定機。
【請求項2】
請求項1に記載の表面性状測定機において、
被測定物の異なる材質に対応してしきい値を記憶した材質別しきい値記憶部と、
前記入力手段によって入力された材質に対応するしきい値を前記材質別しきい値記憶部の中から読み出し、前記しきい値記憶部に設定するしきい値書込手段と、
を備えることを特徴とする表面性状測定機。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の表面性状測定機において、
測定結果を表示する表示部を備えるとともに、
前記報知手段は、前記しきい値記憶部に記憶されたしきい値と前記累積移動距離記憶部に記憶された累積移動距離とを比較し、前記累積移動距離が前記しきい値を超えたときに、前記表示部にスタイラスの交換を通知する交換通知情報を表示する、
ことを特徴とする表面性状測定機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−169616(P2011−169616A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31116(P2010−31116)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】