説明

表面防曇かつ防汚性強化ガラス及びその製造方法

【課題】光照射などを必要とせず機能を発現することができ、表面の防曇性および防汚性に優れ、かつ耐傷性が良好な強化ガラス、及び、その簡易な製造方法を提供する。
酸発生剤、ラジカル発生剤として有用な高純度のジアリールヨードニウム塩を安定に、且つ、高収率で得ることができる製造方法を提供する。
【解決手段】フロート法またはダウンドロー法により形成されたガラスの表面に、下記一般式(I)で示されるポリマー鎖を化学結合させてなる表面防曇かつ防汚性強化ガラス。一般式(I)中、X〜Xは各々独立して水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基、又は−COを表し、ここで、Rは水素原子、アルカリ金属、または炭素数1〜10の炭化水素基を表す。Yは−NHSO、−NHCORなどから選択される基を有する分子量10万以下の官能基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス表面に親水性、耐摩擦性に優れた親水性膜を形成することで、防汚性及び防曇性に優れた表面を有し、且つ、耐傷性に優れた表面防曇かつ防汚性強化ガラス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス表面への油性汚れの付着を防止する防汚性、ガラス表面への水滴の付着による曇りを防止する防曇性は、ガラスの実用上重要な特性であり、関連する技術が種々提案されている。
ガラスの生産方式には、コルバーン方式、フルコール方式、フロート法、ヒュウジョン法、ダウンドロー法、リードロー法が知られている。この中でも溶解錫の上に溶融したガラスを流し、板ガラスを形成するフロート法は、鏡面として使用可能な平滑度の高いガラスを生産できる。また、ダウンドロー法は、高度な溶解技術と設備が必要であるが、厚み精度が高く、非常に薄いガラスを生産しうることで知られている。
フロート法およびダウンドロー法により生産されたガラスは他の生産方式に対し、形状精度が高いことから自動車や建築用のガラス、およびディスプレー用のガラス等に使用されており、当該分野では、さらなる表面の耐傷性およびガラス部材の耐衝撃性(物理的強度)や防曇性および防汚性が要求されている。
【0003】
ガラスの物理的強度を改良する方法としては、ガラス生産時の組成調整や表面化学的処理、樹脂フィルムのガラスへの貼り付け、ガラスの積層化、さらには中間樹脂フィルムを挟んだ合わせガラス化による対応が見られるが、ガラス表面における耐傷性、防曇性や防汚性の全てを満足する表面化学的処理や該機能を有する表面貼付樹脂フィルムは見いだされていない。
また、生産効率の観点からは、表面貼付樹脂フィルムによらず、ガラスの生産工程に続く簡便な表面化学処理にて耐傷性、防曇性、防汚性などの必要な特性を付与しうる技術やそのような方法により形成された機能性のガラスが熱望されている。
【0004】
ガラス表面に防曇性や防汚性を付与しうる表面化学的処理としては、例えば、酸化チタンによる光触媒作用の利用が提案されており(例えば、特許文献1参照。)、さらには、ガラスへの化学的処理としての光触媒の応用例が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。光触媒材料は、良好な親水性、防汚性を発現しうるものであるが、名称が示すように光が当たらない場所では利用できないという問題があり、さらに光触媒の代表的な材料である酸化チタン微粒子膜は皮膜性が乏しく脆いために耐傷性が極めて低く、実用上の耐久性を得るのが困難であるという問題がある。
また、光触媒を用いない防汚性の付与方法としては、フッ素樹脂粒子と低分子シランカップリング剤によるガラス表面への化学的処理(例えば、特許文献3参照。)や、炭化水素系樹脂と有機ケイ素化合物とのヒドロシリル化反応によるガラス表面への化学処理(例えば、特許文献4参照。)が提案されているが、これらの処理も、耐傷性および耐久性に乏しいものであった。
【特許文献1】国際出願公開PTC/JP96/00733号パンフレット
【特許文献2】特開平10−146530号公報
【特許文献3】特開平7−138046号公報
【特許文献4】特開2004−322014号公報、
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記問題点を考慮してなされた本発明の目的は、光照射などを必要とせず機能を発現することができ、表面の防曇性および防汚性に優れ、かつ耐傷性が良好な強化ガラスを提供することにある。
また、本発明のさらなる目的は、表面の防曇性、防汚性及び耐傷性に優れた強化ガラスの簡易な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討の結果、ガラス−有機ポリマーのハイブリッド化によりこれらの問題点を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明の表面防曇かつ防汚性強化ガラスは、フロート法またはダウンドロー法により形成されたガラスの表面に、下記一般式(I)で示されるポリマー鎖を化学結合させてなることを特徴とする。
【0007】
【化1】

【0008】
(前記一般式(I)中、X〜Xは各々独立して水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基、又は、−COを表し、ここで、Rは水素原子、アルカリ金属、または炭素数1〜10の炭化水素基を表す。X〜Xのうち任意の2以上が互いに結合して環状構造を形成していてもよい。Yは−NHSO、−NHCOR、−SONHR、−CONHR、−CO、−SO、−PO、−OR、−Si(OR、及び−CFいからなる群より選択される少なくとも1つの基を有する分子量10万以下の官能基を表す。ここで、Rは前記したのと同義であり、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10の炭化水素基を表し、Rは水素原子、又は炭素数1〜10の炭化水素基を表す。nは10〜5000の繰り返し単位を表す。)
なお、本発明において、一般式(I)で示されるポリマー鎖は、前記一般式(I)に包含される異なる構造単位を含む共重合体であってもよい。また、ガラスと一般式(I)で示されるポリマー鎖との化学的結合は、前記一般式(I)におけるYから原子を少なくとも1つ取り除いて形成されるか、または、ポリマー鎖の末端において形成されるものとする。
【0009】
前記一般式(I)で示されるポリマー鎖をガラス表面に化学的結合させる具体的な手段としては、下記一般式(II)で示される末端結合性ポリマーをゾルゲル法によりガラス表面に化学結合させることで、前記一般式(I)で示されるポリマー鎖をガラス表面に化学結合させる方法が好ましく挙げられる。
【0010】
【化2】

【0011】
(一般式(II)中、X〜X、Y、n及び下記Rは、前記一般式(I)におけるのと同義である。ZはC、H、N、O及びSから構成される2価の連結基を表す。Mは−Si(OR、−Ti(OR、−Al(OR、または−Zr(ORを表す。
ポリマー鎖を表面に化学的結合させるフロート法またはダウンドロー法により形成されたガラスとしては、通常の板ガラスのみならず、2枚の積層ガラスであってもよく、また、フロート法またはダウンドロー法により形成された2枚の積層ガラス間に樹脂中間層を挟み込んで形成された合わせガラスであってもよい。
本発明の好ましい使用態様としては、フロート法により形成されたガラス表面に、前記一般式(II)で示される末端結合性ポリマーをゾルゲル法により化学結合させてなる車両用及び建築用の表面防曇かつ防汚性強化ガラスや、ダウンドロー法により形成されたガラス表面に、下記一般式(II)で示される末端結合性ポリマーをゾルゲル法により化学結合させてなるディスプレー用の表面防曇かつ防汚性強化ガラスなどが挙げられる。
本発明によれば、ガラス表面に高い防曇性と防汚性を有する有機ポリマーを化学結合することで樹脂フィルムの耐傷性を満足し、さらに防曇性と防汚性を光の作用を必要とせずに得ることができる。
【0012】
また、本発明の請求項7に係る表面防曇かつ防汚性強化ガラスの製造方法は、フロート法またはダウンドロー法により形成されたガラスの表面に、下記一般式(II)で示される末端結合性ポリマーをゾルゲル法により結合させる工程を有することを特徴とする。
【0013】
【化3】

【0014】
(一般式(II)中、X〜X、Y、n及び下記Rは、前記一般式(I)におけるのと同義である。ZはC、H、N、O及びSから構成される2価の連結基を表す。Mは−Si(OR、−Ti(OR、−Al(OR、または−Zr(ORを表す。
このように、本発明の製造方法によれば、ガラスの生産工程に続くゾルゲル法を用いた簡便な化学処理により、表面防曇性、防汚性、耐傷性の諸機能を有する強化ガラスを得ることができ、画期的な製造方法といえる。
【0015】
本発明の作用は明確ではないが、以下のように推定される。本発明の強化ガラスにおいては、前記一般式(I)で表される親水性または撥油性を有する官能基が高密度に存在するポリマーを、ポリマー鎖の自由運動性を生かしつつ、そのままガラスに化学結合させていることから、高い防曇性、防汚性が達成されたものと考えられる。このとき、本発明の好ましい態様では、親水性・撥油性官能基を有する末端結合性ポリマーをゾルゲル法によりガラス表面に化学結合させて表面層を形成しているため、本来、これらのポリマーが有する物理的強度が有効に働くことができる厚膜をガラス表面に形成でき、且つ、このような表面層が被膜内に架橋構造を有することから、表面耐傷性が確保され、且つ、ガラス表面への柔軟性付与によるガラス自体の強度向上にもつながったものと考える。さらに、ポリマー鎖の末端を化学結合させるガラスとして、通常の生産方法で得られたガラスではなく、フロート法またはダウンドロー法により得られた平滑性の高いガラスを選択したことにより、これらの表面処理、即ち、ポリマー鎖の導入が、塗布膜性の向上に起因して均一に効率よく行われるために、平滑性向上との相乗効果を誘起し、優れた表面防汚性、防曇性とその耐久性、さらには、表面耐傷性をも達成したものと考えている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光照射などを必要とせず機能を発現することができ、表面の防曇性および防汚性に優れ、かつ耐傷性が良好な強化ガラスを提供することができる。
また、本発明の製造方法によれば、このような表面の防曇性、防汚性及び耐傷性に優れた強化ガラスを、ガラスの生産工程に続く簡便な化学処理により、簡易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の表面防曇かつ防汚性強化ガラスは、フロート法またはダウンドロー法により形成されたガラスの表面に、下記一般式(I)で示されるポリマー鎖を化学結合させてなることを特徴とする。
【0018】
【化4】

【0019】
一般式(I)中、X〜Xは各々独立して水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基、又は、−COを表し、ここでRは水素原子、アルカリ金属、または炭素数1〜10の炭化水素基を表す。
〜Xで表される炭化水素基としては、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基などが挙げられ、炭素数8以下の直鎖、分岐又は環状のアルキル基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロペンチル基等が挙げられる。
【0020】
これらの炭化水素基は更に置換基を有していてもよい。
アルキル基が置換基を有するとき、置換アルキル基は置換基とアルキレン基との結合により構成され、ここで、置換基としては、水素を除く一価の非金属原子団が用いらる。好ましい例としては、ハロゲン原子(−F、−Br、−Cl、−I)、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルジチオ基、アリールジチオ基、アミノ基、N−アルキルアミノ基、N,N−ジアリールアミノ基、N−アルキル−N−アリールアミノ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、Ν−アルキルカルバモイルオキシ基、N−アリールカルバモイルオキシ基、N,N−ジアルキルカルバモイルオキシ基、N,N−ジアリールカルバモイルオキシ基、N−アルキル−N−アリールカルバモイルオキシ基、アルキルスルホキシ基、アリールスルホキシ基、アシルチオ基、アシルアミノ基、N−アルキルアシルアミノ基、N−アリールアシルアミノ基、ウレイド基、N’−アルキルウレイド基、N’,N’−ジアルキルウレイド基、N’−アリールウレイド基、N’,N’−ジアリールウレイド基、N’−アルキル−N’−アリールウレイド基、N−アルキルウレイド基、
【0021】
N−アリールウレイド基、N’−アルキル−N−アルキルウレイド基、N’−アルキル−N−アリールウレイド基、N’,N’−ジアルキル−N−アルキルウレイト基、N’,N’−ジアルキル−N−アリールウレイド基、N’−アリール−Ν−アルキルウレイド基、N’−アリール−N−アリールウレイド基、N’,N’−ジアリール−N−アルキルウレイド基、N’,N’−ジアリール−N−アリールウレイド基、N’−アルキル−N’−アリール−N−アルキルウレイド基、N’−アルキル−N’−アリール−N−アリールウレイド基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリーロキシカルボニルアミノ基、N−アルキル−N−アルコキシカルボニルアミノ基、N−アルキル−N−アリーロキシカルボニルアミノ基、N−アリール−N−アルコキシカルボニルアミノ基、N−アリール−N−アリーロキシカルボニルアミノ基、ホルミル基、アシル基、カルボキシル基、
【0022】
アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、カルバモイル基、N−アルキルカルバモイル基、N,N−ジアルキルカルバモイル基、N−アリールカルバモイル基、N,N−ジアリールカルバモイル基、N−アルキル−N−アリールカルバモイル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルホ基(−SO3H)及びその共役塩基基(以下、スルホナト基と称す)、アルコキシスルホニル基、アリーロキシスルホニル基、スルフィナモイル基、N−アルキルスルフィナモイル基、N,N−ジアルキルスルフィナモイル基、N−アリールスルフィナモイル基、N,N−ジアリールスルフィナモイル基、N−アルキル−N−アリールスルフィナモイル基、スルファモイル基、N−アルキルスルファモイル基、N,N−ジアルキルスルファモイル基、N−アリールスルファモイル基、N,N−ジアリールスルファモイル基、N−アルキル−N−アリールスルファモイル基ホスフォノ基(−PO32)及びその共役塩基基(以下、ホスフォナト基と称す)、ジアルキルホスフォノ基(−PO3(alkyl)2)、ジアリールホスフォノ基(−PO3(aryl)2)、アルキルアリールホスフォノ基(−PO3(alkyl)(aryl))、モノアルキルホスフォノ基(−PO3H(alkyl))及びその共役塩基基(以後、アルキルホスフォナト基と称す)、モノアリールホスフォノ基(−PO3H(aryl))及びその共役塩基基(以後、アリールホスフォナト基と称す)、ホスフォノオキシ基(−OPO32)及びその共役塩基基(以後、ホスフォナトオキシ基と称す)、ジアルキルホスフォノオキシ基(−OPO3(alkyl)2)、ジアリールホスフォノオキシ基(−OPO3(aryl)2)、アルキルアリールホスフォノオキシ基(−OPO(alkyl)(aryl))、モノアルキルホスフォノオキシ基(−OPO3H(alkyl))及びその共役塩基基(以後、アルキルホスフォナトオキシ基と称す)、モノアリールホスフォノオキシ基(−OPO3H(aryl))及びその共役塩基基(以後、アリールフォスホナトオキシ基と称す)、モルホルノ基、シアノ基、ニトロ基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられる。
【0023】
これらの置換基における、アルキル基の具体例としては、前述のアルキル基が挙げられ、アリール基の具体例としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、トリル2基、キシリル基、メシチル基、クメニル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基、クロロメチルフェニル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、フェノキシフェニル基、アセトキシフェニル基、ベンゾイロキシフェニル基、メチルチオフェニル基、フェニルチオフェニル基、メチルアミノフェニル基、ジメチルアミノフェニル基、アセチルアミノフェニル基、カルボキシフェニル基、メトキシカルボニルフェニル基、エトキシフェニルカルボニル基、フェノキシカルボニルフェニル基、N−フェニルカルバモイルフェニル基、フェニル基、シアノフェニル基、スルホフェニル基、スルホナトフェニル基、ホスフォノフェニル基、ホスフォナトフェニル基等を挙げることができる。また、アルケニル基の例としては、ビニル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、シンナミル基、2−クロロ−1−エテニル基等が挙げられ、アルキニル基の例としては、エチニル基、1−プロピニル基、1−ブチニル基、トリメチルシリルエチニル基等が挙げられる。アシル基(G1CO−)におけるG1としては、水素、ならびに上記のアルキル基、アリール基を挙げることができる。
【0024】
これら置換基のうち、より好ましいものとしてはハロゲン原子(−F、−Br、−Cl、−I)、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、N−アルキルアミノ基、N,N−ジアルキルアミノ基、アシルオキシ基、N−アルキルカルバモイルオキシ基、N−アリールカバモイルオキシ基、アシルアミノ基、ホルミル基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、カルバモイル基、N−アルキルカルバモイル基、N,N−ジアルキルカルバモイル基、N−アリールカルバモイル基、N−アルキル−N−アリールカルバモイル基、スルホ基、スルホナト基、スルファモイル基、N−アルキルスルファモイル基、N,N−ジアルキルスルファモイル基、N−アリールスルファモイル基、N−アルキル−N−アリールスルファモイル基、ホスフォノ基、ホスフォナト基、ジアルキルホスフォノ基、ジアリールホスフォノ基、モノアルキルホスフォノ基、アルキルホスフォナト基、モノアリールホスフォノ基、アリールホスフォナト基、ホスフォノオキシ基、ホスフォナトオキシ基、アリール基、アルケニル基が挙げられる。
【0025】
一方、置換アルキル基におけるアルキレン基としては前述の炭素数1から20までのアルキル基上の水素原子のいずれか1つを除し、2価の有機残基としたものを挙げることができ、好ましくは炭素原子数1から12までの直鎖状、炭素原子数3から12までの分岐状ならびに炭素原子数5から10までの環状のアルキレン基を挙げることができる。該置換基とアルキレン基を組み合わせる事により得られる置換アルキル基の、好ましい具体例としては、クロロメチル基、ブロモメチル基、2−クロロエチル基、トリフルオロメチル基、メトキシメチル基、メトキシエトキシエチル基、アリルオキシメチル基、フェノキシメチル基、メチルチオメチルと、トリルチオメチル基、エチルアミノエチル基、ジエチルアミノプロピル基、モルホリノプロピル基、アセチルオキシメチル基、ベンゾイルオキシメチル基、N−シクロヘキシルカルバモイルオキシエチル基、N−フェニルカルバモイルオキシエチルル基、アセチルアミノエチル基、N−メチルベンゾイルアミノプロピル基、2−オキシエチル基、2−オキシプロピル基、カルボキシプロピル基、メトキシカルボニルエチル基、アリルオキシカルボニルブチル基、
【0026】
クロロフェノキシカルボニルメチル基、カルバモイルメチル基、N−メチルカルバモイルエチル基、N,N−ジプロピルカルバモイルメチル基、N−(メトキシフェニル)カルバモイルエチル基、N−メチル−N−(スルホフェニル)カルアバモイルメチル基、スルホブチル基、スルホナトブチル基、スルファモイルブチル基、N−エチルスルファモイルメチル基、N,N−ジプロピルスルファモイルプロピル基、N−トリルスルファモイルプロピル基、N−メチル−N−(ホスフォノフェニル)スルファモイルオクチル基、ホスフォノブチル基、ホスフォナトヘキシル基、ジエチルホスフォノブチル基、ジフェニルホスフォノプロピル基、メチルホスフォノブチル基、メチルホスフォナトブチル基、トリルホスフォノへキシル基、トリルホスフォナトヘキシル基、ホスフォノオキシプロピル基、ホスフォナトオキシブチル基、ベンジル基、フェネチル基、α−メチルベンジル基、1−メチル−1−フェニルエチル基、p−メチルベンジル基、シンナミル基、アリル基、1−プロペニルメチル基、2−ブテニル基、2−メチルアリル基、2−メチルプロペニルメチル基、2−プロピニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基等を挙げることができる。
【0027】
炭化水素として、好ましくは炭素数8以下の炭化水素基、より好ましくは炭素数3以下の炭化水素基である。最も好ましくは炭素数1の炭化水素基である。
【0028】
〜Xが−COを表す場合のRは、水素原子、アルカリ金属、または炭素数1〜10の炭化水素基を表す。
が表す炭化水素基は、前記X〜Xにおけるのと同義であり、好ましくは、炭素数8以下の炭化水素基、より好ましくは炭素数3以下の炭化水素基である。最も好ましくは炭素数1の炭化水素基である。
また、アルカリ金属としては、Li、Na、K、Rbが挙げられ、1価のカチオンとなりカルボン酸アニオン結合していることを表す。
1、X2、およびX3の最も好ましい例としては、水素原子、炭素数1の炭化水素基、−COCH、−COHが挙げられ、特にXとして最も好ましい例としては、−COCH、ヒドロキシメチル基、アルコキシメチル基、アシルオキシメチル基、アルキルチオメチル基、アシルチオメチル基、アルキルアミノメチル基、アシルアミノメチル基が挙げられる。
一般式(I)においては、X〜Xのうち任意の2以上が互いに結合して環状構造を形成しててもよく、好ましい環状構造としては5員環、6員環が挙げられる。
【0029】
一般式(I)におけるYは、−NHSO、−NHCOR、−SONHR、−CONHR、−CO、−SO、−PO、−OR、−Si(OR、または−CFからなる群より選択される少なくとも1つの基を有する分子量10万以下の官能基を表す。ここで、Rは前記したのと同義であり、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10の炭化水素基を表し、Rは水素原子、又は炭素数1〜10の炭化水素基を表す。
nは10〜5000の繰り返し単位を表す。なお、ここでいう炭化水素基はRにおいて記載したものと同義である。
【0030】
Yの最も好ましい例としては、−CONH、−COH、−CONa、−SOH、−SONa−CONHC(CHCHSOH、−CONHC(CHCHSONa、−CO(OCHCHCONH、−CO(OCHCHCOH、−CO(OCHCHCONa、−CO(OCHCHSOH、−CO(OCHCHSONa、−CO(OCHCHOH、−CO(OCHCHOCH、−Q−(CHCH(CONH))−、−Q−(CHCH(COH))−、−Q−(CHCH(CONHC(CHCHSOH))− が挙げられる。
【0031】
上記Yの好ましい構造における、kは1〜20000である。QはC、H、N、O、Sから構成される2価の連結基であり、好ましいQとしては、−CHOCOCHCHS−、−COCHCH(OH)CHOCOCHCHS−が挙げられる。
【0032】
nは10〜5000の繰り返し単位を表す。nは好ましくは10〜1000、より好ましくは30〜1000、最も好ましくは50〜500の範囲である。
本発明において、一般式(I)で示されるポリマー鎖は、前記一般式(I)に包含される異なる構造単位を含む共重合体であってもよい。
以下に、前記一般式(I)に包含されるポリマー鎖を構成しうる構造単位の例を挙げるが、本発明はこれらに制限されるものではない。以下に示される如き構造単位の1種又は2種以上を10〜5000程度結合して一般式(I)で示されるポリマー鎖が形成される。
【0033】
【化5】

【0034】
【化6】

【0035】
【化7】

【0036】
【化8】

【0037】
【化9】

【0038】
【化10】

【0039】
また、ガラスと一般式(I)で示されるポリマー鎖との化学的結合は、前記一般式(I)におけるYから原子を少なくとも1つ取り除いて形成されるか、または、ポリマー鎖の末端において形成されるものとする。
【0040】
以下、本発明の一般式(I)で表されるポリマーの具体例〔例示化合物(I−1)〜(I−20)〕を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下の具体例において複数の構造単位が記載されている例示化合物(I−1)〜(I−6)及び(I−14)は、記載の2種の構造単位が記載のモル比で含まれるランダム共重合体であることを意味する。
【0041】
【化11】

【0042】
【化12】

【0043】
【化13】

【0044】
ガラス表面とポリマー鎖との化学的結合には、例えば、ガラス表面のシラノール基に対して、シランカップリング基のように共有結合するもの、アンモニウム基のように強くイオン結合するもの、リン酸基やホスホン酸基のように強く水素結合するものが挙げられるが、最も好ましくは、下記一般式(II)で表す末端結合型ポリマーをゾルゲル法によりガラス表面のシラノール基に対して、脱水縮合し共有結合を形成するものである。
【0045】
【化14】

【0046】
一般式(II)中、X〜X、Y、nそれぞれ一般式(I)におけるのと同義であり、好ましい例も同様である。
ZはC、H、N、O、Sから構成される2価の連結基を表す。
Zの好ましい例としては、S原子を含む炭素数1〜10の炭化水素連結基、より好ましくは、O原子及びS原子を含む炭素数1〜10の炭化水素連結基、最も好ましくは、N原子及びS原子を含む炭素数1〜10の炭化水素連結基が挙げられる。
【0047】
Zの好ましい例としては、より具体的には、−CHCHS−、−CHCHCHS−が挙げられ、より好ましい例としては、−CHCH(OH)CHOCOCHCHS−、−CHCH(OH)CHOCOCHCHCHS−、−CHCHOCOCHCHS−などが挙げられ、最も好ましい例としては、−CHCHCONHCHCHS−、−CHCHCONHCHCHCHS−、−CHCHCONHCHCHS−、−CHCHCONHCHCHCHS−、−CHCHNHCOCHCHS−、−CHCHCONHCHCHS−などが挙げられる。
【0048】
Mは、−Si(OR,−Ti(OR、−Al(OR、または−Zr(ORを表し、ここにおけるRは前記一般式(I)におけるのと同義であり、好ましい例も同様である。
【0049】
以下、本発明の一般式(II)で表されるポリマーの具体例〔例示化合物(II−1)〜(II−25)〕を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0050】
【化15】

【0051】
【化16】

【0052】
【化17】

【0053】
【化18】

【0054】
<ポリマーの合成>
前記本発明の一般式(II)のポリマーの合成は、例えば、特開平2002−361800号に記載の方法により実施することができる。
本発明に係る特定親水性ポリマーは、下記一般式(i)で表されるラジカル重合可能なモノマーと、下記一般式(ii)で表されるラジカル重合において連鎖移動能を有するシランカップリング剤を用いてラジカル重合することにより合成することができる。シランカップリング剤(ii)が連鎖移動能を有するため、ラジカル重合においてポリマー主鎖末端にシランカップリング基が導入された下記式(iii)で示される如きポリマーを合成することができる。
【0055】
【化19】

【0056】
上記式(i)、(ii)及び(iii)において、X1〜X4、Y、R、nは、上記式(II)と同義である。また、合成に用いられる式(i)、(ii)で示される化合物は、市販されおり、また容易に合成することもできる。
【0057】
一般式(II)で表されるポリマーを合成するためのラジカル重合法としては、従来公知の方法の何れをも使用することができる。具体的には、一般的なラジカル重合法は、例えば、新高分子実験学3、高分子の合成と反応1(高分子学会編、共立出版)、新実験化学講座19、高分子化学(I)(日本化学会編、丸善)、物質工学講座、高分子合成化学(東京電気大学出版局)等に記載されており、これらを適用することができる。
【0058】
<ガラス表面へのポリマー鎖結合工程>
前記一般式(I)で表されるポリマーをガラス表面に結合させるための好ましい方法について述べる。
ガラス表面とポリマー鎖との化学的結合は、例えば、ガラス表面のシラノール基に対して、シランカップリング基のように共有結合するもの、アンモニウム基のように強くイオン結合するもの、リン酸基やホスホン酸基のように強く水素結合するものなどを用いて実施することができる。これらを用いる方法としては、ガラスの表面を酸や塩基で処理し、表面シラノール基の活性点を増やした後に、シランカップリング基、アンモニウム基、及びリン酸基やホスホン酸基を分子内に有する前記一般式(I)で表されるポリマーをその表面にコートする方法が挙げられる。このように前記一般式(I)で表されるポリマーをガラス表面にコートすることで、ガラスへの共有結合、イオン結合、水素結合が形成され、ポリマーとガラスとの化学結合による強固な固定化が達成される。またこれらのガラスへの結合性基については、一般式(I)のYから結合する場合とポリマー鎖の末端から結合する場合がある。Yとしては、−POまたは−Si(ORの場合が好ましく、−POの場合にはガラス表面に対し水素結合していることが考えられ、−Si(ORの場合には、例えば、−Si(ORO−のように共有結合していることが考えられる。また、Yから結合する場合とポリマー鎖の末端から結合する場合では、防曇性及び防汚性の機能を有するポリマー側鎖官能基の自由運動を高める点からポリマーの末端で結合させる方が好ましい。
より好ましくは、一般式(I)のポリマーを後述する一般式(III)の化合物と併用し、ゾルゲル反応によりガラス表面に高密度にかつ強固な皮膜形成させる方法が挙げられる。
【0059】
また、最も好ましい方法としては、先に述べたように、化学的に強固で安定な共有結合を形成しうる前記一般式(II)で示される末端結合性ポリマーをゾルゲル法によりガラス表面のシラノール基に対し結合させる方法が挙げられ、その方法について、以下、工程順に詳細を説明する。
まず、一般式(II)で示される末端結合性ポリマー(以下、適宜、特定ポリマーと称する)を含む塗布液組成物を調製し、それをガラス表面に塗布する。
ポリマー塗布液組成物を調製するにあたっては、特定ポリマーの含有量は固形分換算で、10質量%以上、50質量%未満とすることが好ましい。この範囲において、好ましい膜強度と皮膜特性が得られ、膜へのクラックの発生が抑制され、好ましい。
また、この特定ポリマーに加えて、下記一般式(III)で示される加水分解性化合物を添加することが、ポリマーの結合強度を高める観点から好ましい。
ここで用いられる下記一般式(III)で表される加水分解性化合物(以下、適宜、単に、加水分解性化合物と称する)は、その構造中に重合性の官能基を有し、架橋剤としての機能を果たす加水分解重合性化合物であり、前記特定ポリマーと縮重合することで、架橋構造を有する強固な皮膜を形成する。
【0060】
【化20】

【0061】
前記一般式(III)中、Rは水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、Rはアルキル基又はアリール基を表し、XはSi、Al、Ti又はZrを表し、mは0〜2の整数を表す。
及びRがアルキル基を表す場合の炭素数は好ましくは1から4である。アルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、導入可能な置換基としては、ハロゲン原子、アミノ基、メルカプト基などが挙げられる。
なお、この化合物は低分子化合物であり、分子量1000以下であることが好ましい。
【0062】
以下に、該加水分解性化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
XがSiの場合、即ち、加水分解性化合物中にケイ素を含むものとしては、例えば、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、γ−クロロプリピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等を挙げることができる。
これらのうち特に好ましいものとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトルイメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等を挙げることができる。
【0063】
また、XがAlである場合、即ち、加水分解性化合物中にアルミニウムを含むものとしては、例えば、トリメトキシアルミネート、トリエトキシアルミネート、トリプロポキシアルミネート、テトラエトキシアルミネート等を挙げることができる。
XがTiである場合、即ち、チタンを含むものとしては、例えば、トリメトキシチタネート、テトラメトキシチタネート、トリエトキシチタネート、テトラエトキシチタネート、テトラプロポキシチタネート、クロロトリメトキシチタネート、クロロトリエトキシチタネート、エチルトリメトキシチタネート、メチルトリエトキシチタネート、エチルトリエトキシチタネート、ジエチルジエトキシチタネート、フェニルトリメトキシチタネート、フェニルトリエトキシチタネート等を挙げることができる。
XがZrである場合、即ち、ジルコニウムを含むものとしては、例えば、前記チタンを含むものとして例示した化合物に対応するジルコネートを挙げることができる。
【0064】
ポリマー塗布液組成物に加水分解性化合物を添加する場合の添加量は、特定親水性ポリマー中のシランカップリング基に代表される末端結合性基に対して加水分解性化合物中の重合性基が5mol%以上、さらに10mol%以上となる量であることが好ましい。架橋剤添加量の上限は親水性ポリマーと十分架橋できる範囲内であれば特に制限はないが、大過剰に添加した場合、架橋に関与しない架橋剤により、作製した強化ガラスの表面がべたつくなどの問題を生じる可能性がある。
【0065】
末端反応性基を有する特定ポリマー、好ましくは、さらに加水分解性化合物(架橋剤)とを溶媒に溶解し、よく攪拌することで、これらの成分が加水分解し、重縮合することにより製造される有機無機複合体ゾル液が本発明に係るポリマー塗布液となり、これによって、高い親水性と高い膜強度を有する表面層が形成される。
有機無機複合体ゾル液の調製において、加水分解及び重縮合反応を促進するために、酸性触媒または塩基性触媒を併用することが好ましく、実用上好ましい反応効率を得ようとする場合、触媒を含むことが特に好ましい。
【0066】
触媒としては、酸、あるいは塩基性化合物をそのまま用いるか、あるいは水またはアルコールなどの溶媒に溶解させた状態のもの(以下、それぞれ酸性触媒、塩基性触媒と称する)を用いる。溶媒に溶解させる際の濃度については特に限定はなく、用いる酸、或いは塩基性化合物の特性、触媒の所望の含有量などに応じて適宜選択すればよいが、濃度が高い場合は加水分解、重縮合速度が速くなる傾向がある。但し、濃度の高い塩基性触媒を用いると、ゾル溶液中で沈殿物が生成する場合があるため、塩基性触媒を用いる場合、その濃度は水溶液での濃度換算で1N以下であることが望ましい。
【0067】
酸性触媒あるいは塩基性触媒の種類は特に限定されないが、濃度の濃い触媒を用いる必要がある場合には乾燥後に塗膜中にほとんど残留しないような元素から構成される触媒がよい。
具体的には、酸性触媒としては、塩酸などのハロゲン化水素、硝酸、硫酸、亜硫酸、硫化水素、過塩素酸、過酸化水素、炭酸、蟻酸や酢酸などのカルボン酸、そのRCOOHで表される構造式のRを他元素または置換基によって置換した置換カルボン酸、ベンゼンスルホン酸などのスルホン酸などが挙げられ、塩基性触媒としては、アンモニア水などのアンモニア性塩基、エチルアミンやアニリンなどのアミン類などが挙げられる。
【0068】
ポリマー塗布液の調製は、加水分解性化合物及び末端反応性基を有する特定ポリマーをエタノールなどの溶媒に溶解後、上記触媒を加え、攪拌することで実施できる。反応温度は室温〜80℃であり、反応時間、即ち攪拌を継続する時間は1〜72時間の範囲であることが好ましく、この攪拌により両成分の加水分解・重縮合を進行させて、有機無機複合体ゾル液を得ることができる。
【0069】
前記特定ポリマー及び、好ましくは加水分解性化合物を含有するポリマー塗布液組成物を調製する際に用いる溶媒としては、これらを均一に、溶解、分散し得るものであれば特に制限はないが、例えば、メタノール、エタノール、水等の水系溶媒が好ましい。
【0070】
以上述べたように、本発明に係るガラス表面に結合した防曇、防汚性の表面層を形成するための有機無機複合体ゾル液(親水性塗布液組成物)の調製はゾルゲル法を利用している。ゾルゲル法については、作花済夫「ゾル−ゲル法の科学」(株)アグネ承風社(刊)(1988年〕、平島硯「最新ゾル−ゲル法による機能性薄膜作成技術」総合技術センター(刊)(1992年)等の成書等に詳細に記述され、それらに記載の方法を本発明に係るポリマー塗布液組成物の調製に適用することができる。
【0071】
ガラス表面へのポリマー塗布液組成物の適用方法には特に制限はなく、ディッピング法、スプレー法、フローコート法、スピンコート法ならびに各種印刷法等既知の塗布手段が適用できるが、なかでもフローコート法が、機能を発現するのに十分な厚膜を生成可能であり、生産性が高いという観点から好ましい。
ポリマー塗布液組成物の塗布量は、目的により適宜選択されるが、一般的には、固形分換算で0.1〜100g/mの範囲であることが好ましく、1.0〜10g/mの範囲であることがより好ましい。
【0072】
このようにガラス表面にポリマー塗布液組成物を適用した後、ゾルゲル反応を生起、進行させることで、ガラス表面へのポリマー鎖の結合が達成される。
ゾルゲル反応を行わせる条件としては、ゾルゲル反応が効率よく行われ、ポリマー膜の熱劣化による強度低下を抑制するという観点からは、50℃〜300℃の温度範囲が好ましく、より好ましい温度範囲は70℃〜250℃であり、最も好ましくは100℃〜200℃である。また、反応時間は、10秒〜4時間が好ましく、より好ましくは、30秒〜1時間、最も好ましくは、1分〜30分である。
【0073】
図1は、このようにして製造された本発明の強化ガラス10の構造の一例を示す断面図である。本発明のフロート法またはダウンドロー法により形成されたガラスの表面に、下記一般式(I)で示されるポリマー鎖を化学結合させてなる表面防曇かつ防汚性強化ガラス10は、フロート法またはダウンドロー法により形成されたガラス12の表面に、前記特定ポリマーを化学結合させてなるポリマー層14を有する。
【0074】
<ガラス組成物の種類と好ましい例>
次に、本発明に使用されるガラスについて説明する。
ガラスは構成する材料組成により、一般的には、A)ソーダライムガラス(ソーダガラス)、B)ホウケイ酸ガラス、C)鉛ガラス、D)その他酸化物ガラスに分類される。
A)ソーダ石灰ガラスは成型が容易であり、化学的耐久性にも優れ、かつ原料が入手しやすく安価である。板ガラスやびんガラス等に使用されている。B)ホウケイ酸ガラスは、ホウ砂Bを材料に混入したガラスでタッチパネル用のガラスである低膨張ガラス、化学実験用のパイレックス(登録商標)、水銀灯やガラス管用の耐熱ガラスとして使用されている。C)鉛ガラスは、酸化鉛を含みクリスタルガラス、光学レンズ用の高屈折ガラス、ブラウン管の放射線遮蔽ガラスとして使用されている。D)その他酸化物ガラスとしては、耐水性に優れるアルミノケイ酸ガラス、ガラス接合用のはんだとして使用するホウ酸塩ガラス、人工骨等に利用されているリン酸塩ガラスなどがある。
その中でも、A)ソーダライムガラスとD)その他の酸化ガラスであるアルミノケイ酸ガラスは、フロート法及びダウンドロー法により好適に製造される。
特にアルミノケイ酸ガラスについては、通常のソーダライムガラスに対して優れた耐傷性を有する。
【0075】
本発明に用いられるガラス基材は、フロート法及びダウンドロー法により製造されたガラスであれば、いずれも用いることができるが、上記の如く、強化ガラスの耐傷性、寸法精度、平滑性をより高めるという観点からは、ソーダライムガラスやアルミノケイ酸ガラスであって、フロート法及びダウンドロー法製造されたものが好ましい。
以下、本発明に好適に用いられ、フロート法及びダウンドロー法により好適に製造されるガラスの好ましい組成について説明する。
このようなガラスの一例としては、例えば、国際公開第WO/94/08910(PCT/FR93/01035)パンフレットに記載される、航空機等に好適に用いられる重量%で、SiO:65.0〜76.0%、Al:1.5〜50.%、MgO:4.0〜8.0%、CaO:0.0〜4.5%、NaO:10.0〜18.0%、KO:1.0〜7.5%、B:0.0〜4.0%よりなる組成物のガラス、特開平11−11988号公報に記載される合わせガラスに好適に使用される単一ガラス板であって、組成物の重量%が、SiO:58〜66%、Al:13〜19%、LiO:3〜4.5%、NaO:6〜13%、KO:0〜5%、RO:10〜18%、(ただし、RO=LiO+NaO+KO)、MgO:0〜3.5%、CaO:1〜7%、SrO:0〜2%、BaO:0〜2%、RO:2〜10%(ただし、RO=MgO+CaO+SrO+BaO)、TiO:0〜2%、CeO:0〜2%、Fe:0〜2%、MnO:0〜1%、(ただし、TiO+CeO+Fe+MnO=0.01〜3%)のアルミノシリケートガラス組成物、
【0076】
ガラス組成物の重量%で表して、SiO:60〜66%、Al:15〜18%、LiO:3〜4.5%、NaO:7.5〜12.5%、KO:0〜2%、(ただし、LiO+NaO+KO=11〜17%)、MgO:0.5〜3%、CaO:2.5〜6%、SrO:0〜2%、BaO:0〜2%、(ただし、MgO+CaO+SrO+BaO=3〜9%)、TiO:0〜2%、CeO:0〜2%、Fe:0〜2%、MnO:0〜1%、(ただし、TiO+CeO+Fe+MnO=0.01〜3%)のアルミノシリケートガラス組成物などが好ましい。
【0077】
ガラス組成物の配合は、本発明の強化ガラスの使用目的に応じて適宜選択できるが、その際の各成分の選択の裏付けについて以下に説明する。
まず、ガラスの主成分については、SiOが挙げられ、必須の構成成分である。その割合が一般には、58%〜66%の範囲で、良好な耐水性が得られ、ガラス融液の粘性が適切に維持されて、熔融や成形が作業性よく行える。このため、SiOの範囲としては58〜66%が好ましく、さらに60〜66%が好ましい。
Alもまたガラスの重要な構成成分の1つである。Alを含有することにより耐水性が向上するが、大量に加えると粘度が向上するため、十分な効果を得て、作業性を低下させないという観点からは、13〜19%が好ましく、さらに15〜19%が好ましい。
【0078】
LiOは、溶解性を高める成分であるが、過剰に添加すると耐水性が悪し、液相温度が上昇し、成形が困難となる傾向がある。このため、LiOの範囲としては、3〜4.5%が好ましい。
NaOは溶解性を高める成分であり、硬化の観点からは、含有量は6〜13%が好ましく、さらに7.5〜12.5%が好ましい。
Oもまた溶解性を高める成分である。KOの範囲としては5%以下が好ましく、さらに2%以下が好ましい。
なお、上記3成分はいずれも溶解性を高める成分であり、そのような観点からは、LiO+NaO+KOの合計ROは9〜18%が好ましく、さらに10〜17%が好ましい。
【0079】
MgOは溶解性を高める成分であるが、過剰に添加すると液相温度が上がり、成形が困難となる傾向がある。このため、MgOの含有量は3.5%以下が好ましく、さらに0.5〜3%が好ましい。
CaOもMgOと同様の機能を有しており、添加量は1〜7%が好ましく、さらに2.5〜6%が好ましい。
SrOやBaOは、溶解性を高める成分であるとともに液相温度を下げるのに有効な成分である。しかし、ガラスの密度が大きくなるとともに、原料代のアップの要因となる。このため、SrOやBaOはそれぞれ2%以下が好ましく、さらに1%以下が好ましい。
さらに、MgO+CaO+SrO+BaOの合計をROとしたとき、ガラス融液の粘性や液相温度の範囲を適切に維持し、良好な熔融、成形性を達成するという観点からは、ROの範囲としては2〜10%が好ましく、さらに3〜9%が好ましい。
【0080】
Feはガラス融液中でFe2+とFe3+が平衡状態にあり、これらのイオンが融液中の光の透過率、特に赤外域の透過率を大きく左右する。全鉄をFeに換算して2%以上では赤外域の吸収が大きくなりすぎ、熔融や成形時にガラスの温度分布をコントロールできなくなり、品質の悪化を招く。このため、全鉄はFeとして2%以下が好ましい。
TiO,CeO,MnOはFe2+とFe3+の平衡状態を変化させ、また相互作用することにより光の透過率を変化させるのに有効な成分である。しかし、過剰に含有するとガラス素地品質が悪化するとともに、原料代のアップにつながる。このため、TiOの範囲としては3%以下が好ましく、さらに2%以下が好ましい。また、CeOの範囲としては2%以下が好ましい。MnOの範囲としては1%以下が好ましい。
【0081】
ガラス組成物には、以上の成分の他に、目的とする特性を損なわない範囲において、他の成分、例えば、NiO,Cr,CoO等の着色剤、SO,As,Sb等の清澄剤などを含有することができる。
SOは清澄剤として用いる硫酸塩に起因するものであり、硫酸塩を清澄剤に用いる場合に、ガラス中の残存量が0.05%以上とすることで、清澄の効果が得られるが、残存量が0.5%を越えても清澄の効果は同等であり、さらにガラス熔融時の排ガス中に含まれるSOが増加するので、環境上好ましくない。このため、ガラス中に残存するSOは0.05%〜0.5%が好ましい。
一般に清澄剤として用いられるAs,Sbはその毒性より1%以下が好ましく、不純物からの混入する量以下、すなわち0.1%以下とするのが望ましい。
また、揮発性の高いB,ZnO,P,PbO等は、ガラス溶解炉のレンガを浸食するとともに、揮発成分が炉の天井に凝集し、レンガとともにガラス上に落下するなど品質を悪化させるので、不純物からの混入する量以下、すなわち0.1%以下とするのが好ましい。
【0082】
本発明の表面防曇かつ防汚性強化ガラスに用いられるガラス基材は、フロート法又はダウンドロー法で形成されることを要する。
フロート法により形成されたガラス板は平滑性に優れるため、研磨等の後処理が不要となり、低コストでサイズ的にも大きな素板を得ることができる。さらに、フロート法においてはガラスの成形時に、溶解されたガラス素地が熔融錫バス上に送り込まれ、展開されて成形されるため、ガラス内部の応力がよく解放されている。このことから、他の製法と比して、衝撃等でガラスにクラックが入ることが少ないという特徴がある。
また、ダウンドロー法は、空気を冷却媒としてガラス板を成形する方法であり、非接触成形のため、型枠に起因する不純物の混入の懸念がなく、平滑性に優れ、高純度で且つ薄層のガラス板が成形できるため、液晶表示装置などのディスプレイ用として好適に使用される。ダウンドロー法によるガラスの成形方法については、例えば、特開平5−163032号公報、特開2002−167226号などに詳細に記載され、これらに記載の方法で得られたガラスもまた本発明に好適に使用しうる。
【0083】
ガラスの粘性は、高品質ガラスを溶解するには、熔融温度すなわち10poiseの粘性を有する温度が1550℃以下であることが好ましく、さらに1540℃以下が望ましい。また、高平坦度のシート状に成形する目的でガラス組成物をフロート法により形成するためには、作業温度すなわち10poiseの粘性を有する温度が1100℃以下、かつ液相温度が作業温度以下であることが好ましく、さらに作業温度が1055℃以下、かつ液相温度が作業温度以下であることが望ましい。
【0084】
特にフロート法やダウンドロー法により作製されたアルミノケイ酸ガラスやソーダライムガラスを用いることで、上述したゾルゲル法によりポリマー鎖を結合させてなるポリマーハイブリッド膜形成の際に強固な結合を作る。
これは、フロート法やダウンドロー法が表面平滑性の高いガラスを提供し、ゾルゲル工程の際の液塗布が均一にできること、また、アルミノケイ酸ガラスやソーダライムガラスの成分比や結晶構造の点で、表面のシラノール基の密度や活性が高く、ゾルゲル反応の実効率が高いことが起因しているものと考えている。
【0085】
本発明の強化ガラスにおけるガラス基材は、前記のように得られたガラスを単層で使用し、防曇性の窓ガラス、車両用ガラス、鏡などに適用できるが、ガラス基材はこれに限定されず、ポリマー鎖を導入する最表面のみが、表記フロート法又はダインドロー法により形成されたガラスであれば、その他の制限はなく、複数の層を積層した2枚以上の積層ガラス、2枚のガラス板間に樹脂フィルムを挟み込んだ合わせガラスなども用いることができる。
【0086】
即ち、自動車や建築用のガラスには単層ガラスだけでなく、複層ガラス(単なる積層ガラス、積層ガラス間に機能性フィルム等を導入した合わせガラス、積層ガラス間を真空にしたもの等を含む)が使用されている。また、昨今では防犯性(セキュリティ−)の問題から、機能性フィルムをガラス表面に貼付した表面貼付フィルムガラスも見受けられる。
特に安全性が要求される透明な開口部、例えば、自動車、電車、飛行機等の窓、あるいは建物窓の一部には、合せガラス窓が用いられている。合せガラス窓の基本構成はガラス板等の透明板で熱可塑性樹脂、例えば一般に広く用いられているポリビニルブチラールシート等を挾んだものであるが、合せガラス窓に更に機能性を付与する目的から機能性フイルムを介在させることがなされている。例えば安全性を高めるために機械的強度に優れたフイルムを介在させる方法、結露防止効果のため透明な導電膜付フイルムを介在させる方法、あるいは可視光線は通すが近赤外線は通しにくいという光選択透過性機能を持ったフイルムを介在させたりする方法が提案されている。
【0087】
また他の例として、熱可塑性樹脂層の中間に機能性フイルムを設けず、粘着性を有する層でその機能性フイルムを直接、透明なガラス板の一方に貼りつけ、その機能性フイルムの他の面に熱可塑性樹脂層を設ける方法等も提案されている。さらに光選択透過性機能に関しては、ガラス自体に蒸着や表面コーティングを行い、該機能を付与した後に合わせガラスとする試みも提案されている。
このような合わせガラスにおいても、雨の日の防曇性(曇りによる視認性悪化防止)と常に快適さを保つための防汚性(セルフクリーニング)およびその耐久性(耐傷性)は新たな機能として注目されている。
また、特に安全性が求められる車のフロントガラスに対しては、走行安全性上、法的に70%以上の可視光透過率が義務付けられており、車に使用している一般的なフロントガラスには、UVカットや赤外線カット等の機能付与がなされており、既に70%の可視光透過率に近いところまで達している。従って透過光量を低下するような方法での防曇や防汚機能の付与は不可である。またこれは高い透明性を必要とするディスプレー用ガラスにおいても類似である。
【0088】
従って、このような合わせガラスの最表面に本発明の強化ガラスを適用することで、合わせガラスの機能を損なうことなく表面に高い防曇性、防汚性を付与することができる。
図2は、ガラスとして2層の積層ガラスを用いた本発明の強化ガラス20の構造の一例を示す断面図である。ここで2層の積層ガラス22は、フロート法またはダウンドロー法により形成されたガラス12と下層のガラス24とを積層してなるものであり、最表面のフロート法またはダウンドロー法により形成されたガラス12の表面に、前記特定ポリマーを化学結合させてなるポリマー層14を有する。
図3は、ガラスとして合わせガラスを用いた本発明の強化ガラス30の構造の一例を示す断面図である。ここで合わせ32は、フロート法またはダウンドロー法により形成されたガラス12と下層のガラス34A及び、さらにその下方に配置されたガラス板34B、それぞれの間に機能性の樹脂層36A、36Bを有するものであり、本態様では、3枚のガラス板と2層の樹脂層を有する合わせガラス32の例を示している。本態様においても最表面のフロート法またはダウンドロー法により形成されたガラス12の表面に、前記特定ポリマーを化学結合させてなるポリマー層14を有する。
【0089】
以下、本発明の強化ガラスが適用しうる合わせガラスの製造方法やその詳細について説明する。
合わせガラスは、2枚のガラス板間に樹脂フイルムを介在せしめたものであり、その製造にあたっては目的に応じて選択された以下に詳述するような機能性の樹脂フイルムと熱可塑性樹脂層とを前もって積層しておく方法がとられておる。その際、その積層体を保存するにあたっては、熱可塑性樹脂層の吸湿性や熱伸縮性のため、あるいは機能性フイルムと熱可塑性樹脂層との間で剥離が生じたりする可能性もあるため、保存方法、取扱い方法等に注意を要する。特に熱可塑性樹脂として、ポリビニルブチラールシートを用いて、機能性フイルムと積層体を作った場合は、保存方法、取扱い方法に微細な注意を要する。保存時に変形や剥離した積層体による合せガラスを作製すると、合せガラスを作成する際に、光学的に凹凸斑が生じる可能性がある。
【0090】
また、合わせガラス製造工程では、上述の機能性フイルムとポリビニルブチラールシートとの積層体を2枚のガラスに挟み込み、加熱と加圧により接着するのが一般的であるが、ここで、上述のように機能性フイルムとポリビニルブチラールシートの接着力強化が重要なだけでなく、ガラスへの接着力を強化することも合わせガラスの安全性向上に関する別の観点である耐衝撃性の観点で重要である。
【0091】
合わせガラスに用おいられる機能性樹脂フィルムとしては、以下のような、素材からなる透明高分子樹脂フイルムのフイルム又はシートが挙げられる。
例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリケトン、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、ポリスチレンなどや、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セロファン、セルローストリアセテートなどのセルロース樹脂等が挙げられる。
これらの中で二軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフイルム(PET)、及び、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(PEN)は、その優れた寸法安定性、透明性、平滑性、機械的特性のため最適のフイルムである。
【0092】
また、紫外線や赤外線を吸収あるいは反射させるため高屈折率または高吸収率を示す金属または金属含有化合物および有機化合物を表面コーティングすることが好ましい。コストや耐久性等の観点から、好ましくは、金属または金属含有化合物であり、特に金属含有化合物としては、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属イオンの塩、有機金属錯体があげられる。また、該金属または該金属含有化合物の好ましい金属としては、Ag等の貴金属膜、化学周期律表第4A族の、化学的に安定なチタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、第6A族のクロム、その他、銅、ニッケル、バナジウム、タンタル、セリウムなどが挙げられる。
【0093】
高屈折率材としては、好ましくは屈折率が1.4〜2.1、より好ましくは、屈折率が1.8〜2.1のものを挙げることができる。高吸収率とは、モル吸光係数が好ましくは、1千〜20万、好ましくは、1万〜20万のものが挙げられる。
また、ガラスに直接公知のスパッタリング法やアーク蒸着法やイオンプレーティング法などにより該金属または該金属化合物を表面コーティングすることも好ましい。
【0094】
さらに該フィルムを間に挟んだ合わせガラスおよび表面に貼付した強化ガラスに対しては、さらに、紫外線吸収材料、紫外線反射材料、赤外線吸収材料、赤外線反射材料等の光選択透過性材料、及び、低反射防眩性材料、遮音材料、導電性材料、誘電性材料、耐衝撃性材料(ガラス−樹脂中間膜間の接着強化材料)などのさらなる機能を付与するための材料をガラス間に導入することができる。
また、上記材料の形態は、化合物単体でも各種ポリマーとの混合物でもよい。好ましい導入の方法は、(1)該機能性化合物もしくは混合物を含有するフィルムを形成し積層化、(2)該機能性化合物をガラスへ蒸着、(3)該機能性化合物もしくは混合物を含有する液状ペーストを塗布または導入し、光/熱/圧力により固定化することがあげられる。
【0095】
導電性、光選択透過性材料による機能性付与の具体例を以下にあげる。
導電性の機能の例としては、ガラスへの酸化インジウムと酸化錫とからなる薄膜、酸化錫薄膜、金、銀、銅、アルミニウム等の金属等の薄膜等が挙げられる。また太陽エネルギーのうち、目に見えない赤外線を通しにくくした光選択透過性の機能性付与の例としては、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、パラジウム、錫及びこれらの合金、あるいは混合物の金属の薄膜、又はこれら金属の薄膜の片面、又は両面に誘電体を積層したものや、これらの構成を繰返し積層したものが挙げられる。誘電体の例としては、例えば、チタンの酸化物、ビスマスの酸化物、硫化亜鉛、タングステンの酸化物、インジウムの酸化物、ジルコニウムの酸化物、珪素の酸化物等が挙げられる。
【0096】
また、上述の機能性フイルムにおいては、ガラスへの接着性を高めるためにポリビニルブチラール等を利用することが好ましく。さらに、機能性フィルムとポリビニルブチラール等を積層する際に密着性を高めるために金属アルコレートの加水分解法により得られる金属酸化物からなる密着層を設けても良い。
【0097】
この金属酸化物としては、前述の光選択透過性機能付与に用いる誘電体すなわち、チタン、ビスマス、タングステン、インジウム、ジルコニウム、珪素の各酸化物が挙げられる。密着層としては、透明性、耐久性(熱、光、水等)、加工性等の特性の外に、ポリビニルブチラールシート等との優れた接着力が要求されるが、上述の金属酸化物は充分満足する。その上前記金属酸化物はそれ自体粘着性がなく、機能性フイルムの面に施工するうえでも、施工された機能性フイルムにおいても取扱性に優れている。
【0098】
上述の金属酸化物は、前述の通り金属アルコレートの加水分解法で形成されるが、この金属アルコレートとしては、例えばアルキルチタネート、アルキルジルコネート、アルキルシリケート等が挙げられ、それらの化合物としては例えば、アルキルチタネートとしてはテトラ−i−プロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキソキシ)チタン、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン、ジヒドロキシ・ビス(ラクタト)チタン等が挙げられる。アルキルジルコネート及びアルキルシリケート等もアルキルチタネートと同様な化合物が挙げられ、これらアルキルチタネート、アルキルジルコネート、アルキルシリケート等は上記単量体以外に、二量体、四量体等の多量体も好ましい。これらのなかで、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラ−n−ブトキシジルコネートの単量体または二量体、四量体等の加水分解方法により得られるチタンの酸化物及びジルコネートの酸化物の膜はポリビニルブチラールシートとの接着力が高く、特に好ましいものである。
【0099】
また、機能性フイルムと積層するポリビニルブチラールシートとしては、原則として、熱可塑的に加工される可塑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、着色剤等か混入された任意のポリビニルブチラールが適している。熱可塑的に成膜しなければならないポリビニルブチラールは、通常多量の可塑剤が含まれている。合せガラスもしくは表面貼付用として用いられるポリビニルブチラールシートは、通常10〜60重量%、好ましくは20〜40重量%の量で可塑剤が含まれている。可塑剤としては、フタル酸系エステル(例、ジオクチルフタレート)、ジエチレングリコール系エステル及びトリエチレングリコール系エステル(例、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート)等が使用され得る。
【0100】
シート厚みは0.10〜1.50mm、好ましくは0.30〜0.80mmである。また機能性フイルムと接する面の平滑性は、5μm以内、好ましくは2μm以内の表面平滑性を持つものである。この平滑性の度合は、後述の表面形状測定機により測定するものである。この表面の平滑性は本発明の目的の1つである合せガラスもしくは表面貼付ガラス窓用の積層体の保存性に必要であるばかりか凹凸斑のない合せガラス窓をつくる場合においても重要な役割を果す。
【0101】
即ち、機能性フイルムとポリビニルブチラールシートが完全に全面で密着していることにより、熱及び加圧による合わせ化の段階でも、その界面での平滑性は損なわれることなく、均質な凹凸斑のない合せガラスまたは表面貼付ガラス窓になり得る。
ポリビニルブチラールシートの機能性フイルムと接しない面は、ガラス或いは剛直なプラスチック板に接し、積層化する際完全に密着接合させるが、この工程の際、所謂、空気抜きの為、一般には30〜100μmのエンボス形状の凹凸がある。
【0102】
以上述べた機能性フイルムとポリビニルブチラールにより造られた積層体においては接着力が非常に大きく、再度分離しようと思っても困難であり、保存中、取扱い中、あるいは合せガラスもしくは表面貼付ガラス窓として使用した場合に、その破壊時に剥離を生ぜず、非常に良好なものを得ることができる。
【0103】
合せガラスにおいては、例えば2枚の透明板ガラスの間にポリビニルブチラールシート、機能性フイルム、ポリビニルブチラールシートよりなる積層体を入れて、全体を真空袋に収納して、光及びまたは熱及びまたは圧力を加えて合せ窓とするものであって、自動車、建物等の安全ガラス窓として使われる。また、自動車の風防窓としての利用例は、透明板ガラスにポリビニルブチラールシート、機能性フイルムよりなる積層体を合せて、やはり真空袋に納めて光及びまたは熱及びまたは圧力を加えることによる。
【0104】
この場合は、ポリビニルブチラールシートは、透明板ガラスと機能性フイルムとの間に挾みこまれている。
また、上述の積層体の機能性フイルムと接していないポリビニルブチラールシート面は、一般に30〜100μmの凹凸のある形状を持つがこの面に離型フイルムをコートして、ポリビニルブチラールシート間の密着を防いだり、ごみ等の付着を防いだりする。
【0105】
このように本発明の強化ガラスは、フロート法またはダウンドロー法により形成されたガラスを最表面に有する限り、種々のガラス基材に適用することができ、防曇性、防汚性及び耐傷性に優れた表面を与えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の強化ガラスは、高い防曇性及び防汚性を有し、表面耐傷性に優れる強化ガラスであり、とりわけ自動車、電車などの車両や航空機用窓ガラス、建築物等の窓に使用する通常のガラスや合わせガラス、およびディスプレーに有用な高い透明性が要求されるガラス、高湿度の環境下においても曇りを生じない鏡やカーブミラーなど、種々の用途に適用することができる。
【実施例】
【0107】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<合成例1:特定ポリマー(1)の合成>
500ml三口フラスコにアクリルアミド50g、メルカプトプロピルトリメトキシシラン3.4g、及びジメチルアセトアミド220gを入れ、65℃窒素気流下、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.5gを加えた。6時間攪拌しながら同温度に保った後、室温まで冷却した。酢酸エチル2リットル中に投入し、析出した固体をろ取し、水洗して特定ポリマー(1)を得た。乾燥後の重量は52.4gであった。GPC(ポリスチレン標準)により重量平均分子量3000のポリマーであり、13C−NMR(DMSO−d6)により末端にトリメトキシシリル基(50.0ppm)が導入された、前記例示化合物II−1の構造を有するポリマーであることが確認された。
<合成例2>
上記合成例1におけるメルカプトプロピルトリメトキシシラン(3.4g)を下記化合物(4.4g)に変更した他は、同様にして特定ポリマー(2)を得た。乾燥後の重量は13.0gであった。GPC(ポリスチレン標準)により重量平均分子量3000のポリマーであり、13C−NMR(DMSO−d6)により末端にトリメトキシシリル基(50.0ppm)が導入された、前記例示化合物II−2の構造を有するポリマーであることが確認された。
【0108】
【化21】

【0109】
〔実施例1〜12〕
<ポリマー塗布液組成物(ゾルゲル液)の調製>
以下の成分を均一に混合し、20℃で、2時間撹拌して加水分解を行い、ゾル状のポリマー塗布液組成物を得た。
・特定ポリマー(表1記載の化合物) 0.21g
・テトラメトキシシラン(加水分解性化合物) 0.62g
・エタノール 4.7 g
・水 4.7 g
・硝酸水溶液(1N)〔触媒〕 0.1 g
【0110】
<ガラス基材表面へのポリマー鎖の結合>
基材であるガラス板は、下記表1に記載のものを用い、その表面に、上記ポリマー塗布液組成物を乾燥後の塗布量が2g/m2となるように塗布し、100℃、10分加熱乾燥させてガラス基材表面にポリマー鎖を化学結合させ、実施例1〜12の表面防曇且つ防汚性強化ガラスを得た。
【0111】
〔比較例1〜4〕
基材であるガラス板として下記表1に記載のものを用いた他は、実施例1〜12と同様にして比較例1〜4の表面防曇且つ防汚性強化ガラスを得た。
【0112】
<評価方法>
上記で得られた実施例1〜12、比較例1〜4の表面防曇且つ防汚性強化ガラスを下記の方法で評価した。結果を表1に併記する。
1.透明性
日中に、晴天の屋外における自然光のもとで、上記で得られた実施例1〜12の強化ガラスを通して、100m前方の青信号を目視し、基材となるガラス板との対比において下記の三段階で官能評価した。
○:表面処理なしの場合と変化がない
△:表面処理なしに対しやや見えにくい
×:表面処理なしに対し、明らかに見えにくい
【0113】
2.防曇性
上記で得られた実施例1〜12、比較例1〜4強化ガラス上記で得られたガラスに、昼間、室内の蛍光灯下で、1分間水蒸気を当て、水蒸気から離した後、25℃、RH10%の環境下に配置し、前記と同様の照射条件の蛍光灯下において曇り具合及びその変化を下記基準により三段階で官能評価した。
○:曇りが観察されない
△:曇っているが、10秒以内に回復し、曇りが見られなくなる
×:曇っており、曇りが10秒経過しても回復しない
3.防汚性
上記で得られた実施例1〜12、比較例1〜4の強化ガラス表面に油性インク(三菱鉛筆株式会社製油性マーカー)で線を書き、水を掛け続け、流れ落ちるかを三段階で官能評価した。
○:インクが1分以内にとれる
△:1分を経過した後インクがとれる
×:2分を超え10分間にわたり実施してもインクがとれない
【0114】
4.耐傷性評価
上記で得られた強化ガラスを引っかき硬度計(新東科学株式会社製:サフィア針1mm径)により5g刻みで荷重をかけて傷がつく重さを三段階で評価した。
○:傷がつく荷重が100g以上のもの
△:傷がつく荷重が10〜100gのもの
×:傷がつく荷重が10g未満のもの
5.耐衝撃性評価(ストーンインパクト試験)
上記で得られた強化ガラスの鉄道車両窓の実寸法のサンプルを用意した。ポリマー層14が表面に形成されたガラス12を車両用合わせガラス42の外側に、フロート法による未強化のソーダライムシリケートガラス板46(板厚み2mm)を内側になるように配置して、ポリビニルブチラールの中間膜44を介して、図4に示す如き層構成の車両用合わせガラス40のサンプルを作製した。
前記各合わせガラスサンプルの表面の30カ所に、エアガンにて重さ約2gの小石を、衝突速度90km/h、衝突入射角度0度でこれらガラス基板に衝突させて、ストーンインパクト試験を行った。これは車両正面への適用を考えた試験である。
評価は、「4mm以上のキズがついたもの」と「割れ」た箇所を要交換の目安である不良箇所とし、不良箇所の数として数えることで行い、以下の基準で評価した。
○:不良箇所15箇所未満
△:不良箇所15以上〜25以下
×:不良箇所26以上
【0115】
【表1】

【0116】
表1より本発明の製造方法により得た本発明の強化ガラスは、透明性が高くかつ防曇性、防汚性が高く、耐傷性、耐衝撃性に優れることがわかる。一方、フロート法及びダウンロード法以外の製造方法により形成されたガラスを用いた比較例1〜4では、本発明の方法と類似の方法でポリマー鎖を結合させていても、耐傷性が十分ではないことがわかる。
【0117】
〔実施例13、14〕
用いるガラス基材と特定ポリマーを下記表2に記載のように代えた他は、実施例1〜12と同様にして実施例13、14の強化ガラスを得た。
〔比較例5、8〕
<表面処理A:ポリシロキサンコート>
表2に記載のガラス基板を用い、以下の処理(表面処理A)を実施して、表面シロキサンコートしてなる比較例5、8の強化ガラスを得た。
<合成例:脂肪族不飽和炭化水素基を有する材料の合成>
攪拌機、温度計、水冷コンデンサを備えた3リットル4ツ口フラスコに、メチルトリエトキシシラン178g、ビニルトリメトキシシラン148g、イソブチルアルコール250g、ダイアセトンアルコール250g、アルミニウムアセチルアセトネート10g、過塩素酸アンモニウム1g、シリカゾルの20%水溶液(商品名;スノーテックスO(日産化学工業(株)製))1200gをこの順に仕込み、40℃で3時間反応させた。このビニル基含有化合物溶液を、処理剤a−1とした。
<ヒドロシリル基含有シロキサン溶液の調製>
下記式(A)で示されるヒドロシリル基含有ジメチルポリシロキサン2g、白金触媒(商品名;CAT−PL−50T(信越化学工業(株)製))0.1g、デカメチルシクロペンタシロキサン98gを混合し、処理剤b−1とした。
【0118】
【化22】

【0119】
表2に示すガラス基材に、まず、合成例1で得られた処理剤a−1をフローコート法により塗布し、130℃で1時間加熱硬化した。その後、処理剤a−1を塗布、硬化した基材に、前記のようにして得られた処理剤b−1をフローコートした後、100℃、1時間加熱したものを、エタノールで浸したティッシュペーパーで拭き、室温で1時間乾燥して、表面シロキサン処理を行って、比較例5の表面処理ガラスを得た。
【0120】
〔比較例6、9〕
<表面処理B:フッソ樹脂微粒子コート>
表2に記載のガラス基板表面に、まず、テトラエトキシシラン〔Si(OC2 54 :TEOS〕を16g、エタノール(EtOH)を68.5g、水(予めHClでpH4に調整)を5.5gそれぞれ秤り取り、約80℃で約4時間加熱還流を行いシリカゾル溶液を得ておく。
第1液として、液中のフッ素樹脂が、該シリカゾル溶液(平均分子量約3000)の固形分に対して約80重量%となるように、シリカゾル溶液中にフッ素樹脂粒子の懸濁液〔商品名ネオフロンNDー1(ダイキン工業(株))〕を添加混合した溶液を調製する。次に第1液を、全体の固形分が約3重量%となるように溶媒としてエチレングリコールモノエチルエーテルで希釈し、第2液とする。
次いで、該第2液をコーテイング液としてガラス基板の表面に塗布した後、約620℃で約10分間加熱処理を行い、膜厚約0.1μmのSiO2 薄膜を形成して、比較例6、9の表面処理ガラスを得た。
【0121】
〔比較例7、10〕
<表面処理C:酸化チタン光触媒コート>
285.6g(0.3モル)のチタンテトライソプロポキシド(Ti(OPr)4) に撹拌しながら、60.3g(0.6モル)のアセチルアセトン(AcAc)をビュレットを用いて徐々に滴下し、約1時間撹拌することにより安定なTi(AcAc)2(OPr)2錯体溶液(150mL)を得た(溶液(イ))。
下記表2に記載のガラス基板に、上記溶液(イ)を用いてディッピング法により、基板上に薄膜を形成させた(基板引き上げ速度=3.8cm/分)。約30分静置乾燥した後に、空気中で、500℃の温度条件下30分間焼成して、比較例7、10の表面処理ガラスを得た。
走査型電子顕微鏡による膜厚分析の結果(測定精度=約10%)、膜厚は約70nmであった。X線回折による測定の結果、形成された膜は、アナターゼ型酸化チタン構造を有していることが明らかになった。
【0122】
<性能評価>
実施例13〜14、比較例5〜10の強化ガラスを、実施例1〜12と同様に評価した結果を下記表2に示す。
【0123】
【表2】

【0124】
表2より、本発明のゾルゲル処理により得た実施例13、14の強化ガラスは、透明性が高くかつ防曇性、防汚性が高く、耐傷性に優れる。他方、基材として平滑性に優れたフロート法により得られたガラス基板を使用していても、本発明の以外の方法で表面親水化、或いは、撥水化処理された比較例5〜10の表面処理ガラスは、防曇性、防汚性、耐傷性のいずれも本発明に比較して劣ることがわかる。
【0125】
〔実施例15〕
前記実施例13において、下記表3に記載の2層のガラスからなる積層ガラスを用いた他は同様にして、上層のアルミノケイ酸ガラス表面にポリマー鎖を化学結合させて、実施例15の強化ガラスを得た。
〔実施例16〕
ポリビニルブチラールシート(積水化学工業(株)製STタイプ、以下”PVB”と略す)の厚さ0.38mmのものを用意し、そのPVBの一方の面、即ち機能性フイルムと接する面を平滑化した。平滑化の方法は、シリコン樹脂の塗布してある離形フイルム(基材はPET、厚さ38μm)をPVBの一方の面に当て120℃、30分間50g/cmの圧力で成型する要領で行った。
その際の平滑面の凹凸は1.5μm以内で、他の面は50μmでエンボス形状であった。
また機能性フイルムとしては耐衝撃性付与のための二軸延伸PET(厚さ100μm)を使用した。
このような合わせガラスを使用して、その最上層であるアルミノケイ酸ガラス表面に実施例13と同様にしてポリマー鎖を化学結合させ、実施例16の強化ガラスを得た。
〔比較例11、12〕
上記実施例15、16に使用した積層ガラス、合わせガラス表面に本発明に係る特定ポリマーによる処理を行わなかったものをそれぞれ比較例11、12とした。
上記実施例15、16及び比較例11、12を、実施例1〜12と同様に評価した。結果を下記表3に示す。
【0126】
【表3】

【0127】
表3より本発明のゾルゲル処理法により得たガラス部材は、積層ガラス、合わせガラスに適用した場合でも、透明性が高く、かつ防曇性、防汚性が高く、耐衝撃性に優れることがわかる。また、実施例15と比較例11、実施例16と比較例12との対比において、本発明の製造方法を適用した強化ガラスは、積層ガラス、合わせガラスの特性を損なうことなく、その表面耐傷性が改良されており、一層の高強度を実現していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】ガラス板表面に特定ポリマーを化学結合させてなる本発明の強化ガラスの一態様を示す断面図である。
【図2】基材となるガラスとして2層の合わせガラスを用いた本発明の強化ガラスの一態様を示す断面図である。
【図3】基材となるガラスとしてガラス板間に樹脂層を有してなる積層ガラスを用いた本発明の強化ガラスの一態様を示す断面図である。
【図4】耐衝撃性評価(ストーンインパクト試験)に使用した車両用合わせガラスの層構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0129】
10、20、30,40 表面防曇かつ防汚性強化ガラス
12 フロート法またはダウンドロー法により形成されたガラス
14 ガラス表面に化学結合されたポリマー鎖からなるポリマー層
22 2枚のガラスからなる積層ガラス
32、42 ガラス板間に樹脂層を挟んで構成された合わせガラス
44 ポリビニルブチラールの中間膜
46 未強化のソーダライムシリケートガラス板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロート法またはダウンドロー法により形成されたガラスの表面に、下記一般式(I)で示されるポリマー鎖を化学結合させてなる表面防曇かつ防汚性強化ガラス。
【化1】

(前記一般式(I)中、X〜Xは各々独立して水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基、又は−COを表し、ここで、Rは水素原子、アルカリ金属、または炭素数1〜10の炭化水素基を表す。X〜Xのうち任意の2以上が互いに結合して環状構造を形成していてもよい。Yは−NHSO、−NHCOR、−SONHR、−CONHR、−CO、−SO、−PO、−OR、−Si(OR、及び−CFからなる群より選択される少なくとも1つの基を有する分子量10万以下の官能基を表す。ここで、Rは前記したのと同義であり、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜10の炭化水素基を表し、Rは水素原子、又は炭素数1〜10の炭化水素基を表す。nは10〜5000の繰り返し単位を表す。ここで、前記一般式(I)において示されるポリマー鎖は、前記一般式(I)で示される異なる複数種の構造単位を含む共重合体をも包含するものとする。また、ガラスの表面と一般式(I)で示されるポリマー鎖との化学結合は、前記一般式(I)におけるYから原子を少なくとも1つ取り除いて形成されるか、または、ポリマー鎖の末端において形成されるものとする。
【請求項2】
下記一般式(II)で示される末端結合性ポリマーをゾルゲル法によりガラス表面に化学結合させることで、前記一般式(I)で示されるポリマー鎖をガラス表面に化学結合させてる請求項1に記載の表面防曇かつ防汚性強化ガラス。
【化2】

(一般式(II)中、X〜X、Y、n及び下記Rは、前記一般式(I)におけるのと同義である。ZはC、H、N、O及びSから構成される2価の連結基を表す。Mは−Si(OR、−Ti(OR、−Al(OR、または−Zr(ORを表す。
【請求項3】
フロート法またはダウンドロー法により形成されたガラスが、フロート法またはダウンドロー法により形成された2枚の積層ガラスであることを特徴とする請求項2に記載の表面防曇かつ防汚性強化ガラス。
【請求項4】
フロート法またはダウンドロー法により形成されたガラスが、フロート法またはダウンドロー法により形成された2枚の積層ガラス間に樹脂中間層を挟み込んで形成された合わせガラスであることを特徴とする請求項2に記載の表面防曇かつ防汚性強化ガラス。
【請求項5】
フロート法により形成されたガラス表面に、下記一般式(II)で示される末端結合性ポリマーをゾルゲル法により化学結合させてなる車両用及び建築用の表面防曇かつ防汚性強化ガラス。
【化3】

(一般式(II)中、X〜X、Y、n及び下記Rは、前記一般式(I)におけるのと同義である。ZはC、H、N、O及びSから構成される2価の連結基を表す。Mは−Si(OR、−Ti(OR、−Al(OR、または−Zr(ORを表す。
【請求項6】
ダウンドロー法により形成されたガラス表面に、下記一般式(II)で示される末端結合性ポリマーをゾルゲル法により化学結合させてなるディスプレー用の表面防曇かつ防汚性強化ガラス。
【化4】

(一般式(II)中、X〜X、Y、n及び下記Rは、前記一般式(I)におけるのと同義である。ZはC、H、N、O及びSから構成される2価の連結基を表す。Mは−Si(OR、−Ti(OR、−Al(OR、または−Zr(ORを表す。
【請求項7】
フロート法またはダウンドロー法により形成されたガラスの表面に、下記一般式(II)で示される末端結合性ポリマーをゾルゲル法により結合させる工程を有することを特徴とする表面防曇かつ防汚性強化ガラスの製造方法。
【化5】

(一般式(II)中、X〜X、Y、n及び下記Rは、前記一般式(I)におけるのと同義である。ZはC、H、N、O及びSから構成される2価の連結基を表す。Mは−Si(OR、−Ti(OR、−Al(OR、または−Zr(ORを表す。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−137713(P2007−137713A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−333323(P2005−333323)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】