説明

被検液の性状検知方法およびそれに用いる装置

【課題】 袋内被検液のpH値、抵抗値、袋内発生ガス圧等を物理量をもって検出することで、それらの絶対値を客観的に、かつ正確に把握して、包装袋を帯同させた食品類等の品質低下の程度の、より高精度な評価を可能とする。
【解決手段】 包装袋内の被検液のpH値、電気抵抗値、または袋内発生ガス圧のうちのいずれかを検出するとともに、その検出結果データを、袋内発生ガス量に換算して時間とともに記憶させ、記憶されたその検出結果データを、非接触式のスキャナにより、所要に応じたタイミングで読み取る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、たとえば、生鮮食品、加工食品、飲料、調味料、医薬品、化粧品その他の物品が流通過程におかれた場合に、流通中にそれが晒される環境条件、その物品が消尽等されるまでの経過時間等に応じてそれに生じる品質の低下の程度を客観的に評価するに用いて好適な、被検液の性状検知方法およびそれに用いる装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば食品類等を、軟質包装袋とすることもできる包装容器内に包装して流通過程にのせた場合には、その食品類等は、流通過程でそれが保管、運搬、陳列等されるときの環境温度および、それが生産されてからの、または包装容器に包装されてからの経過時間等に関連して、微生物が増殖し、鮮度低下、変質その他の品質低下を生じることになる。従来は、食品類等のこのような品質低下を客観的に評価する術がなかったので、品質の評価は、包装容器から取り出した食品類等の色、味、匂い等を感覚によって主観的に判断することにより行うことが一般的であり、それ故に、評価精度が必然的に低くなるという問題があった。また、食品を扱う現場では、有害微生物の増殖を抑えるため、低温管理を徹底するのが基本であり、実際に低温状態が維持できているかを的確に把握することが重要とされている。
【0003】
そこで、近年は、食品類等の品質低下の程度および温度管理状態を客観的に評価するための手段として、たとえば本出願人が先に出願した特許文献1および特許文献2に記載されているような、食品類等の管理判断方法および、それに用いるインジケータが提案されている。
前者の判断方法は、密閉された合成樹脂製の容器もしくは軟質フィルム袋内に、pHを調整したpH変色型色素、たとえばアントシアニン色素を含有する、果実、野菜および/またはそれらの搾汁等からなる色素成分と、乳酸菌その他の菌、酵母、かび等とすることができる食品由来微生物とを封入し、色素成分の作用による変色の程度によって、飲食品の低温維持の良否を判断するにあり、また、この判断に用いるインジケータは、密封された合成樹脂製の容器もしくは軟質フィルム袋内に、pH調整したpH変色型色素を含有する色素成分と食品由来微生物とを、好ましくは、培養液および/または培地とともに密封充填してなるものである。
【0004】
そして、後者の判定方法は、中仕切りシール部を介して設けられた独立する複数の収容部分からなる合成樹脂製の透明な軟質フィルム袋内に、好ましくは、ガス産生菌および/または酸産生菌からなる食品由来微生物および、それらの微生物の繁殖を助成する栄養成分を含む他、微生物として酸産生菌を用いた場合には、pH調整したpH変色型色素を含む色素成分をも含む試料溶液のそれぞれを、該収容部分に分けて封入し、使用に先立って前記中仕切りシール部の剥離を通じて前記収容部分どうしを互いに連通させることにより、食品由来微生物および試料溶液を混ぜ合わせ、その後、この袋を判定すべき食品等に随伴帯同させて、該飲食品等の保存中における微生物の増殖による該袋内に生成するガス量もしくは該袋内収容物の色の変化を観察することにより、飲食品等の品質の程度を判定するにある。また、かかる判定に用いるインジケータは、シール強度の低い中仕切りシール部を介して設けられた、相互に独立する複数の収容部分からなる合成樹脂製の透明な軟質フィルム袋内に、食品由来微生物および試料溶液のそれぞれを、該収容部分に分けて封入したものからなり、使用に先立って前記中仕切りシール部の剥離を通じて前記収容部分どうしを互いに連通させることにより、食品由来微生物および試料溶液を混ぜ合わせ、その後、その袋を飲食品等に随伴帯同させて、該飲食品等の保存中における微生物の増殖による該袋内に生成するガス量もしくは該袋内収容物の色の変化を観察するようにしたものである。
【0005】
これらの従来技術はいずれも、インジケータを食品類等に随伴帯同させて、そのインジケータに、食品類等と全く同一の流通経路を辿らせた場合に、食品類等がおかれた環境温度および流通経過時間の影響下で、インジケータ内の食品由来微生物が、袋内被検液のpH値をどの程度変化させ、または、袋内にどの程度の量のガスを発生させたかを、目視による、被検液の変色程度または、袋内に発生した気泡の大きさによって見極めることで、インジケータそれ自体が、主にはどの程度の総熱負荷を受けたかを判断し、この結果を、インジケータを帯同させた食品類等自体の品質低下の進行程度に、たとえば、食品類等毎に予め作成した較正曲線その他を用いて換算することによって、食品類等の品質の低下程度の客観的な評価を可能にするというものである。
【特許文献1】特願2004−504212号
【特許文献2】特開2005−87044号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかるに、上記の提案技術はいずれも、袋内被検液のpH値の変化または、袋内でのガスの発生量の、目視による判断に基いて、食品類等の品質の低下を評価するものであるので、それらによって、だれもが高い客観性をもって十分正確な判断を下すことは困難であった。
【0007】
この発明は、上述したような従来技術に改良を加えることによって、従来技術が抱えるこのような問題点を解決することを課題とするものであり、それの目的とするところは、袋内被検液のpH値、袋内発生ガス圧等を、目視によらず定量的に検出し、袋内発生ガス量をもって常に客観的に、しかも十分正確に把握することができ、結果として、包装袋を帯同させた食品類等の品質低下の程度の、より高精度の評価を可能とする被検液の性状検知方法およびそれに用いる装置を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る被検液の性状検知方法は、包装容器に付設される包装袋に収容した、ガス産生菌および/または酸産生菌とすることが好適な食品由来微生物および、先に述べたと同様の試料溶液を含む被検液の、環境温度および経過時間に関連する状態変化を検知するに当って、包装袋内の被検液のpH値、抵抗値、または袋内発生ガス圧のいずれかを、物理量をもって検出するとともに、その検出結果データを、較正曲線をもって袋内発生ガス量に換算し、たとえば、ICチップのデータメモリに時間とともに記憶させ、そして、記憶されたその検出結果データを、非接触式のスキャナにより、所要に応じたタイミングで読み取るにある。
【0009】
この場合、好ましくは、スキャナからのデータの送信によって、検出結果データに関連する、製造履歴、流通履歴その他の所要の情報を、たとえばデータメモリに書き込む。
【0010】
また好ましくは、包装袋内に区分して収容した食品由来微生物と試料溶液とを、その包装袋を食品類等の包装容器に付設するに当って相互に混合させる。
【0011】
ここで、pH値、抵抗値または袋内発生ガス圧のいずれかの検出は、包装袋内に封入したセンサ機能部により行う。
【0012】
この発明に係る被検液の性状検知装置は、食品由来微生物および試料溶液を含む、予め混合された、または事後的に混合される被検液を収容する包装袋内に、被検液のpH値、抵抗値、または袋内発生ガス圧のいずれかを物理量として検出するセンサを気密に封入し、このセンサに、ICチップおよびアンテナを具えるインレットを袋外で接続するとともに、アンテナに電波を照射してICチップを非接触で駆動するスキャナを設けたものである。
【0013】
この発明に係る他の性状検知装置は、とくに、被検液を収容する包装袋内に、被検液のpH値、抵抗値、または袋内発生ガス圧のいずれかを物理量として検出するセンサ機能部を設けたICチップおよびアンテナを具えるインレットを封入するとともに、アンテナに電波を照射してICチップを非接触で駆動するスキャナを設けたものである。
そして、これらのいずれの装置においても、ICチップに信号処理部を設けることができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明に係る方法では、食品類等の、軟質包装袋とすることもできる包装容器に、被検液を内包する包装袋を付設し、この包装袋内の被検液の、環境温度および経過時間に関連する性状変化の程度を、その被検液のpH値、抵抗値、または袋内発生ガス圧のいずれかを、物理量をもって経時的に検出することによって検知することで、その食品類等が、どの工程でどの程度の性状変化を生じ、最終的にはどの程度の品質にあるかを、被検液の変色程度、袋内発生気泡の大きさ等を目視によって見極める場合に比して、だれもがはるかに正確に評価することが可能となる。
【0015】
しかもここでは、pH値、抵抗値、または袋内発生ガス圧からなる検出結果データを、予め作成しておいた較正曲線を用いて袋内発生ガス量に換算し、検出時間とともに記憶させ、そして、記憶させたその検出結果データを、非接触式のスキャナにより、所要に応じたタイミングで読み取り、被検液が、保管、運搬その他のそれぞれの工程で、どの程度の性状変化を生じるかを、包装袋から被検液を取り出すことなしに、高い精度で把握することができる。
【0016】
この場合、対象食品類毎に要求される条件(消費期限等)に基づいて、被検液の食品由来微生物含有濃度を調整し、該被検液の性状変化の程度(発生ガス量)と、包装容器に包装される食品類等の性状変化の程度との相関関係を、予め個々に求めておくことが必要である。
【0017】
本発明において用いられる被検液中に含まれる食品由来微生物(ガス産生菌および/または酸産生菌)は、食品類の中に、本来的に存在して、食品類の発酵および/または腐敗をもたらすものであることから、被検液の包装袋が仮りに破袋し、その微生物が食品類等の包装容器の外表面に付着することがあっても、それが被包装食品類には何の影響も及ぼさないことはもちろん、人体には全く無害である。
【0018】
なお、この方法において、スキャナからのデータの送信によって、検出結果データに関連する所要の書き込み、たとえば、製造工場では、識別番号、製品履歴、商品名、製品情報等を書き込み、保管倉庫では、保管情報、出荷情報等を書き込み、そして、販売店では、入荷情報、陳列・展示情報等を書き込むことにより、品質に関連する物理量の検出結果データの読み取りと併せて、食品類等の流通過程での経時時間、品質低下のとくに激しい流通工程、品質低下の原因、その他を明確に特定することができ、その結果を、製造工程および流通過程へ簡易、迅速に、かつ的確にフィードバックすることができる。
【0019】
またここで、包装袋を包装容器に付設するときに、食品由来微生物と試料溶液とを、たとえば、包装袋内の仕切りシール部の剥離によって、その包装袋内で混合させる場合には、包装袋内でそれらを予め混合させる場合のように、包装袋を包装容器に付設するに先だっての、包装袋内での発酵、腐敗等の予めの進行を抑制するための、冷凍、冷蔵等の特別の対策を講じることが不要になるという利点がある。
そして、被検液のpH値、抵抗値、または袋内発生ガス圧のいずれかの、物理量による検出を、包装袋内に気密に封入したセンサ機能部により行うときは、経時的な検出を、一定の条件下で常に正確に行うことができる。
【0020】
この発明に係る装置では、被検液を収容する包装袋内に、その被検液のpH値、抵抗値、または袋内発生ガスのいずれかを検出するセンサを気密に封入して位置決め配置することにより、上述したように、それらのいずれかの物理量の一定の条件の下で常に正確に検出することができる他、包装袋内にセンサだけを封入することで、包装袋それ自体を十分に小型化することができる。
【0021】
またここでは、センサに、ICチップおよび、その端子に接合されたアンテナを具えるインレット、好ましくは、インレット実装体としてのRFID(Radio Frequency Identification)を袋外の所要位置で接続することで、そのRFIDを、被検液を収容する包装袋との機能分離下で、包装容器の最適位置に簡易に配設することができる。
【0022】
そしてまた、上記のアンテナに電波を照射してICチップを非接触で駆動するスキャナを設けることにより、センサによって検出されて、ICチップのデータメモリ等に検出時間とともに記憶された検出結果データを、好ましくは別途書き込まれた所要の関連情報とともに読み取ることができ、先に述べた性状検知方法を好適に実施することができる。
【0023】
なお、この発明に係る他の装置では、とくに、いずれかの物理量を検出するセンサ機能部を設けたICチップおよびアンテナを具えるインレットの全体を、被検液の包装袋内に封入することにより、センサだけを包装袋内に封入する前述の検知装置に比して、包装袋内の被検液の不測の洩出等のおそれを十分に取り除くことができるとともに、検知装置の全体を小型化することができ、また、感度の低下や消費電力の増加を防ぐことができる。
【0024】
そして、これらのいずれの装置によっても、ICチップに信号処理部を設け、そこで検出データ信号と、基準値信号との比較等(較正曲線による)を行うことで、たとえば、センサ等によって直接的に検出した被検液のpH値を、CO2その他の酸性ガスのガス発生量に換算することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1は、この発明に係る、被検液の性状検知装置を例示する略線平面図であり、図中1は被検液を充填包装した、ここでは三方シールされた軟質の包装袋を示し、この包装袋1は、たとえば両面粘着テープ等によって、食品類等を包装する、軟質包装袋を可とする包装容器に貼着することができる。
【0026】
また2は、包装袋1内に被検液への進入姿勢で、その包装袋1の、図に斜線を施して示すヒートシール部、図では横シール部に融着接合させて、検出部を袋内に気密に封入したセンサを示す。ここでこのセンサ2は、被検液の発生ガス量、pH値、抵抗値または、袋内発生ガス圧のいずれかを、直接的もしくは間接的に物理量として検出できるものとする。
なお、このようなセンサ2の、横シール部からの不測の抜け出しをより確実に防止するためには、センサ2に接着剤を塗布してそれを横シール部に融着接合させることが好ましい。
【0027】
図に示すところでは、このようなセンサ2を、ICチップ3およびそれの端子に接合したアンテナ4を具えるインレット5、好ましくは、それを合成樹脂材料等によって被覆してなるインレット実装体としてのRFID6に、包装袋1外の所要位置で接続する。
【0028】
そしてさらには、アンテナ4に電波を照射して、非接触でICチップ3を駆動して、所要の情報を読み取り、好ましくは、それに加えて必要な情報の書き込みを行うスキャナ7を設ける。
【0029】
図2は、被検液を封入する包装袋の他の例を示す略線平面図であり、これは包装物1の被検液充填スペースを、シール強度、たとえばヒートシール強度の低い中仕切りシール部8によって二分割し、その中仕切りシール部8の一方側に食品由来微生物を、そして他方側に試料溶液を封入したものである。
この包装袋1では、それを食品類等の包装容器に付設させるに際して中仕切りシール部8を剥離させ、食品由来微生物と試料溶液とを混合させることにより、それらが予め混合されている場合に比し、包装袋1内での、発酵、腐敗等の予めの進行を抑制するための特別の対策を講じることが不要となる利点がある。
これがため、ここでは、中仕切りシール部8の、所要に応じた適宜の剥離を可能とするべく、そのシール部8の接合強度を、たとえば、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、シリコン系、ウレタン系等の樹脂材料のコーティング層9の作用下で、他の縦横シール部10、11の接合強度(50N/10mm)の20〜90%、好ましくは30〜70%、より好ましくは、40〜60%の範囲とする。
【0030】
図3は、この発明に係る他の性状検知装置を例示する略線平面図であり、これは、センサ機能部を組み込んだICチップ12およびアンテナ4を具えるインレット13を、包装袋1内に、食品由来微生物および試料溶液を含む被検液とともに気密に封入し、また、先に述べたと同様のスキャナ7を設けたものである。
なおこの装置においてもまた、包装袋1を、図2で述べたような中仕切りシール部8を具えるものとすることもでき、この場合には、インレット13は、そのシール部8のいずれか一方側に封入されることになる。
ところで、この装置においては、包装袋1内でのインレット13の移動を拘束するべく、そのインレット13の少なくとも一部を、包装袋1の内表面に、接着剤によって、またはヒートシール等によって接合させることが好ましい。
【0031】
図4は、図3に示す装置によって、包装袋内の被検液のpH値の変化から、包装袋内の酸性ガスの発生量を検出する場合を例にとって示すブロック線図である。
ここでは、包装袋1がおかれた環境温度および、たとえば、食品類等が製造されてからの、または流通過程におかれてからの経過時間等に関連してその包装袋1内に発生した酸性ガスによるpH値の変化を、包装袋内に封入したインレット13のICチップ12、ひいては、ICチップ12に設けた、たとえば半導体pHセンサ機能部14によって、1〜60分の任意の間隔で検出し、この検出信号をA/D変換した後、その変換値を、信号処理部15で基準値信号(pH値とガス発生量の較正曲線)と比較し、ガス発生量としてデータメモリ16に保存する。
【0032】
この一方で、データメモリ16に検出時間とともに記憶させたこのような検出結果データの読み出しは、非接触式のスキャナ7の操作によってICチップ12を駆動して、ロッジック回路17を介して、そのデータメモリ16から所要のデータを読み取ることによって行うことができる。
【0033】
ここで好ましくは、スキャナ7に、読み取り機能(リーダー機能)に加えて、書き込み機能(ライタ機能)をも付与することにより、検出結果データに関連する各種の情報を、所要のタイミングでデータメモリ16に書き込むこともできる。
【0034】
以上のような装置は、たとえば食品の鮮度の確認等のために、図5に例示するようにして使用に供することができ、これによれば、包装袋1内の酸性ガスの発生量の検出に基いて、食品の鮮度を常に客観的に把握することができ、また、鮮度の低下原因を、経時的な検出結果に基いて明確に特定することができる。
【0035】
ところで、この発明に用いる食品由来微生物は一般に、食品類等の中にあって、発酵または腐敗を司るものである。ここで、発酵とは、有用微生物およびそれらが作り出す酵素が有機物を代謝し、有用物質を生産する現象を言い、腐敗とは、腐敗微生物が食品中の炭水化物やタンパク質、脂肪などを分解する酵素を菌体外に分泌し、その分解生成物を栄養源として繁殖することによって生じる現象をいう。
このような食品由来微生物が、代謝や作り出す酵素によって食品類中の有機物を分解する際に、分解生産物と共に、酢酸等の有機酸を産生する機能を酸産生機能といい、CO2などの酸性ガスを発生する機能をガス産生機能という。そして、酸産生機能を有する微生物を酸産生菌といい、ガス産生機能を有する微生物をガス産生菌という。
このガス産生菌または酸産生菌による有機物の分解は、ガス産生または酸産生開始温度を超えたあたりから始まり、増殖したガス産生菌または酸産生菌の1つ1つから少量のガスまたは酸を徐々に発生する。なお、このガス産生または酸産生開始温度は、ガス産生菌または酸産生菌の種類や保存状態によって異なるが、ほとんどのガス産生菌または酸産生菌において1〜10℃の範囲内にある。
【0036】
本発明では、微生物のこのようなガス産生機能を、食品類等の腐敗の程度に対応した量のガスを発生させるものとし、また、酸産生機能を、食品類等の腐敗の程度に対応してpH値を変化させるものとして食品の腐敗程度の判定を行うこととしており、これがため、食品由来微生物としては、ガス産生菌および/または酸産生菌を用いることが好ましく、それらの微生物は、酵母、かびおよび細菌のいずれか一種以上であること、ガス産生開始温度および/または酸産生開始温度以上において、主に炭水化物からの酸産生に伴ってCO2とH2を発生するものであること、乾燥状態のものであること等が好ましい。
また、試料溶液は、食品由来微生物の繁殖を助成する栄養成分を含むものであることが好ましい。
【0037】
かかるガス産生菌および/または酸産生菌による有機物分解反応、つまりガス産生反応および/または酸産生反応は、それらが置かれる環境(温度、水、酸素および栄養素の有無、pH値など)および経過(保存)時間によって徐々に進行することから、好ましくは、ガス産生菌および/または酸産生菌を含む被検液を食品類等と同じ条件に調整し、これを包装袋内に充填封入して、その包装袋を食品類等と同じ環境下に置いて一緒に保存し、包装袋内に発生したガスの量またはpH値等を検出すれば、これが食品類等の品質の客観的な判断材料となる。
【0038】
なお、この発明に用いる食品由来微生物は、密閉された包装袋という限られた酸素の存在下で増殖して、ガス産生および/または酸産生を確実に起こさせる必要があることから、低酸素濃度でも生育できるような微好気生菌、通性嫌気生菌あるいは嫌気生菌であることが好ましい。
また、この発明に用いる酸産生菌としては、アルカリ性環境下でも生育できる食品由来微生物のうち、乳酸菌等の細菌、パン酵母等の酵母、および麹カビ等のカビのうちから選ばれるいずれか一種以上を用いることが必要である。これらの菌はいずれも極端なアルカリ性環境下を除くすべての環境下で生育し、増殖することができるため、好適に用いることができる。
【0039】
ちなみに、酸産生菌である乳酸菌を用いた場合の、試料溶液中のグルコースを例とする分解反応としては、
6126→2CH3CHOHCOOH
および
6126→2CH3CHOHCOOH+CO2+C25OH
であり、
前者では、グルコースから乳酸が生成されることになって、被検液のpH値、抵抗値等が変化することになり、後者の反応では、グルコースから、乳酸およびエタノールが生成されることになって、pH値、抵抗値および袋内発生ガス圧等に変化が生じることになる。
【0040】
また、酵母を用いた発酵では、試料溶液中のグルコースがアルコール発酵によって分解されて、
6126→2CO2+2C25OH
で表わされるように、二酸化炭素およびエタノールが生成されて被検液のpH値、抵抗値および、袋内ガス圧が変化することになる。
【0041】
そして、このような分解反応の結果としてのpH値の変化は、ガラス電極をセンサとして用いることの他、水素イオンセンサ、半導体センサ等を用いることによって検出することができ、抵抗値の変化は、それを直接的に測定する他、電流または電圧を測定することで検出することができ、また、袋内発生ガス圧の変化は、歪みセンサ、圧電素子等を用いることで検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
かくして、この発明によれば、包装袋内の被検液の、環境変化、経時変化等に伴う性状変化を、物理量をもって客観的に検出することで、その包装袋を付設させた包装容器内の食品類等の品質低下の程度を、より高精度に具体的に評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】この発明に係る性状検知装置の実施形態を示す略線平面図である。
【図2】包装袋の変更例を示す略線平面図である。
【図3】他の性状検知装置の実施形態を示す略線平面図である。
【図4】図3に示す装置のブロック線図である。
【図5】この発明に係る装置の使用例を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1 包装袋
2 センサ
3、12 ICチップ
4 アンテナ
5、13 インレット
6 RFID
7 スキャナ
8 中仕切りシール部
9 コーティング層
10 縦シール部
11 横シール部
14 半導体センサ機能部
15 信号処理部
16 データメモリ
17 ロジック回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
包装容器に付設される包装袋に収容した、食品由来微生物および試料溶液を含む被検液の、環境温度および経過時間に関連する状態変化を検知する方法であって、
包装袋内の被検液のpH値、電気抵抗値、または袋内発生ガス圧のうちのいずれかを検出するとともに、その検出結果データを、袋内発生ガス量に換算して時間とともに記憶させ、記憶されたその検出結果データを、非接触式のスキャナにより、所要に応じたタイミングで読み取る被検液の性状検知方法。
【請求項2】
スキャナからのデータの送信によって、検出結果データに関連する所要の情報の書き込みを行う請求項1に記載の被検液の性状検知方法。
【請求項3】
包装袋の、包装容器への付設に際して、食品由来微生物と試料溶液とを混合させる請求項1もしくは2に記載の被検液の性状検知方法。
【請求項4】
pH値、抵抗値、または袋内発生ガス圧のうちのいずれかの検出を、包装袋内に封入したセンサ機能部により行う請求項1〜3のいずれかに記載の被検液の性状検知方法。
【請求項5】
食品由来微生物および試料溶液を含む被検液を収容する包装袋内に、被検液のpH値、抵抗値、または袋内発生ガス圧のうちのいずれかを検出するセンサを封入し、このセンサに、ICチップおよびアンテナを具えるインレットを袋外で接続するとともに、アンテナに電波を照射してICチップを非接触で駆動するスキャナを設けてなる被検液の性状検知装置。
【請求項6】
食品由来微生物および試料溶液を含む被検液を収容する包装袋内に、被検液のpH値、抵抗値、または袋内発生ガス圧のうちのいずれかを検出するセンサ機能部を設けたICチップおよびアンテナを具えるインレットを封入するとともに、アンテナに電波を照射してICチップを非接触で駆動するスキャナを設けてなる被検液の性状検知装置。
【請求項7】
ICチップに信号処理部を設けてなる請求項5もしくは6に記載の被検液の性状検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−3388(P2007−3388A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−184696(P2005−184696)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【出願人】(000206233)大成ラミック株式会社 (56)
【Fターム(参考)】