説明

被膜された基材、有機フィルムおよび有機フィルムを基材に塗布する方法

プラスチック表面を有する基材およびそこに付着した有機金属フィルムであって、この金属がf軌道に電子を有するか、またはニオブである有機金属フィルムを含む被膜物が、開示される。また有機金属フィルムを基材に塗布するための方法およびこの有機金属フィルム自体が、開示される。上記有機金属フィルムは、高分子表面を含む種々の表面に良く付着し、そして疎水性の被膜のような後に塗布される被膜にもまたよく付着する。上記有機金属フィルムは、機能性被膜(例えば、疎水性、曇り止め、帯電防止、導電性など)のアンカーとして、または有機/有機界面、有機/無機界面で付着促進剤として(例えば、ポリイミド/ポリエステル界面で付着促進剤として)働き得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本出願は2006年11月15日に出願された米国特許仮出願第60/859,194号に対して優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は有機フィルムで被膜された高分子基材、有機フィルムおよび有機フィルムを基材に塗布する方法に関連する。
【背景技術】
【0003】
様々な基材上に自己集合したフィルムまたは層は、当該分野において周知である。これらのフィルムまたは層は、代表的に、基材表面上の対応する官能基(cofunctional group)に結合する官能基(頭部基(head group))、および層(単数または複数)中の隣接する分子または表面に対していくらかの相互引力を有する有機基を有する。上記自己集合したフィルムは、医療用途および電気的用途ような、様々な適用において用いられる。医療における適用において、自己集合したフィルムは、チタン製整形外科インプラントとその周辺の身体組織との間の界面層を形成するのに用いられる。電気的適用においては、自己集合したフィルムは、有機発光ダイオードに見られるもののような有機−無機界面を組み入むデバイスの性能の改善のために有用である。自己集合した有機層の一例は、特許文献1に開示されており、チタン金属アルコキシドまたはジルコニウム金属アルコキシドのような有機化合物が、天然のオキシド表面を有する金属のような基材に塗布されている。このアルコキシド基は、オキシド基と反応し、しっかりとした表面結合を形成する。遊離の、すなわち未反応のアルコキシド基は、後に塗布される層中の酸基のような反応性の基との反応に利用できる。
【0004】
残念ながら、そのような有機金属被膜は、しばしば耐久性に乏しかったり、多数の基材、特にポリカーボネートおよびポリオキシシランのような高分子基材から容易に除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,645,644号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
より良い耐久性、および様々な基材、特に高分子基材への付着性を有する遷移金属アルコキシド由来の有機金属被膜を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下:
(a)高分子基材、およびこの高分子基材表面に付着した、
(b)金属がf軌道に電子を有するか、またはニオブである、有機金属フィルム
を含む被膜物を提供する。
【0008】
上記有機金属フィルムは、高分子表面を含む種々の表面に良く付着し、そして疎水性の被膜のような後に塗布される被膜にもまたよく付着する。
【0009】
上記有機金属フィルムは、機能性被膜(例えば、疎水性、曇り止め、帯電防止、導電性など)のアンカーとして、または有機/有機界面、有機/無機界面で付着促進剤として(例えば、ポリイミド/ポリエステル界面で付着促進剤として)働き得る。
【0010】
本発明はまた、基材に有機金属被膜、または有機金属フィルムを堆積させる、以下を含む方法を提供する。
【0011】
(a)表面上にフィルムを堆積させるために、上記基材の表面を、金属がf軌道に電子を有するか、またはニオブである金属アルコキシドと接触させること、
(b)上記フィルムをアルコキシドおよびヒドロキシル基を有する高分子金属オキシドを形成するのに十分な条件に曝露させること。
【0012】
本発明はまた、アルコキシドおよびヒドロキシル基を有する高分子金属オキシドを含む有機金属フィルムであって、上記金属がf軌道に電子を有するか、またはニオブである、有機金属フィルムを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(詳細な説明)
基材の例は、有機金属被膜に結合した官能基と反応する基を、それらの表面上に有するものである。そのような基の例は、オキシド基および/またはヒドロキシル基である。他の基の例は、カルボニル、カーボネートおよびアミドである。そのような基材の非限定的な例は、本質的にそのような基を表面に有するもの、あるいは環境への曝露またはプラズマ処理のような後の処理によってそのような基を形成するものである。周囲条件への曝露の際に、金属オキシド表面を形成する材料の例は、ステンレス鋼を含む鋼、鉄、ならびに周囲環境への曝露の際に非侵食性を有する金属、例えば、タンタル、チタン、チタン合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金が挙げられる。周囲条件への曝露の際にオキシド層を有する材料の追加の例は、セラミック材料、例えば、窒化ケイ素である。また本発明の方法で適しているのは、オキシド被膜、例えば、半導体デバイスにおけるシックフィルムオキシド絶縁体(thick film oxide insulator)が与えられた材料、ならびに酸化表面を有するよう誘導され得る材料、例えばヒ化ガリウム、窒化ガリウムおよび炭化ケイ素である。他の例は、ガラス基材に堆積された、インジウムスズオキシドのような導電性オキシドを含む。また、金属オキシドは、高分子基材の上に堆積され得、例えば、高分子基材上の「堆積された」金属オキシドは抗反射性を提供する。高分子基材の例は、ヒドロキシル基を有する1つ以上のモノマーから製造されるアクリル共重合体のような、OHまたはオキシド基を有するものである。また、添加されたシリカおよび/またはアルミナを有する有機高分子のような複合有機/無機高分子が、利用され得る。意外にも、前述の特許文献1におけるチタンおよびジルコニウム有機金属被膜のような、有機金属被膜にあまり付着しない特定の高分子は、本発明の有機金属被膜に良く付着することが見出された。そのような高分子の例は、芳香族および脂肪族ポリカーボネートを含むポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエポキシド、アクリル高分子およびアクリル共重合体(ヒドロキシル基のない)ならびにポリシロキサンである。上記高分子は、高分子基材または異なる基材上の高分子被膜、例えば高分子表面被膜を有する金属または金属オキシド、および表面にポリシロキサンハードコート(hard coat)を有する眼用レンズのようなポリカーボネート基材の形態であり得る。
【0014】
好ましくは、上記高分子の表面は、有機金属被膜の塗布の前に、例えば空気存在下でその高分子を大気中のプラズマ処理にさらすことによって、酸化される。
【0015】
上記基材に塗布される有機金属フィルム、または有機金属被膜は、金属が元素周期表の第6周期(ランタニド系列)から選択される金属のようなf電子軌道に電子を有する、有機金属から誘導される。適切な金属の例は、La、Hf、Ta、およびWが挙げられるが、Taが好ましい。別の適切な金属の例は、ニオブである。この金属の有機部分は好ましくは、1〜18個の炭素原子、好ましくはエトキシド、プロポキシド、イソプロポキシド、ブトキシド、イソブトキシドおよびターシャリーブトキシドのような2〜8個の炭素原子を有する、アルコキシドである。上記アルコキシドは、単一のエステル、およびそのエステルの重合体の形態であり得る。例えば、好ましい金属Taに関して、上記単一のエステルは、RがC〜C18アルキルであるTa(OR)である。エステルの重合体は、上で述べられたアルキルエステルの縮合によって得られ、代表的には、Rが上で定義された、およびxが正の整数である構造RO−[Ta(OR)−O−]Rを有する。アルコキシドのほかに、アセチルアセトナート(acetyl acetonate)のような他のリガンドが存在し得る。また、例えば塩化物、アセチルアセトナート、アルカノールアミン、およびラクタート(lactate)などのリガンドが存在し得る。
【0016】
上記有機金属化合物は、希釈せず用いられ、そして化学蒸着法の技術により真空下で塗布されてもよいし、あるいは希釈剤中に溶解または分散されて、そして以下に記述した被膜技術により塗布されてもよい。適切な希釈剤の例は、メタノール、エタノールおよびプロパノールのようなアルコール、ヘキサン、イソオクタンおよびデカンのような脂肪族炭化水素、エーテル、(例えば、テトラヒドロフラン)、およびジエチルエーテルのようなジアルキルエーテルである。
【0017】
また、アジュバント物質が有機金属組成物中に存在し得る。例は、立体的に込み入ったアルコールおよび酸のような安定剤、界面活性剤および帯電防止剤である。上記アジュバントが存在する場合、組成物の不揮発性内容物に対して、30重量%までの量で存在する。
【0018】
上記組成物中の有機金属化合物の濃度は特に重大ではないが、通常少なくとも0.01ミリモル濃度、代表的には、0.01〜100ミリモル濃度、そしてさらに代表的には、0.1〜50ミリモル濃度である。
【0019】
上記有機金属処理組成物は、すべての成分を低剪断混合(low shear mix)で同時に混合するか、または数段階かけて成分を合わせることにより入手し得る。上記有機金属化合物は湿気と反応性であり、湿気が希釈剤またはアジュバント物質に入らないように、そして混合が実質的に無水雰囲気で行われるように注意するべきである。
【0020】
上記有機金属組成物は、フィルムを形成するために、浸漬のような流動浸漬法(immersion coating)、ロール塗り、吹き付け、またはワイピング(wiping)のような慣習的な方法によって、基材表面に塗布され得る。上記希釈剤は蒸発させることが可能である。このことは、50℃〜200℃に加熱するか、または20℃〜25℃である周囲温度への単純な曝露により達成され得る。生じるフィルムは、未反応のアルコキシドおよびヒドロキシル基を有する多層形態の高分子金属オキシドの形態であると考えられている。このことは、アルコキシドの加水分解および自己縮合が生じる条件下で、上記フィルムを堆積させることにより達成される。これらの反応は、上記フィルムに凝集力を提供する、形成された高分子被膜をもたらす。これらの反応が起こるための必要な条件は、水存在下、例えば湿気を含む雰囲気中で、フィルムを堆積させることである。上記生じるフィルムは、後の反応および上層(overlayer)の物質との可能な共有結合のための、いくらかの未反応のアルコキシド基および/またはヒドロキシル基を有する。しかしながら、容易に共反応性の基について、周囲温度(すなわち、20℃)が十分であり得る。どのような理論にも束縛されることを意図しないが、上記高分子金属オキシドは以下:
[M(O)(OH)(OR)
構造であると考えられている。
ここで、Mが本発明の金属であり、Rが1〜30個の炭素原子を有するアルキル基であり;Mの原子価Vがx+y+zであり;xが少なくとも1であり、yが少なくとも1であり、zが少なくとも1であり;x=V−y−zであり;y=V−x−zであり;z=V−x−yであり;nが2〜1000のように、2より大きい。
【0021】
光学的な用途に関しては、上記生じるフィルムは、代表的には、5〜100ナノメートルの厚みを有する。他の用途に関しては、より厚いフィルムが用いられ得る。有機金属化合物が希釈せず用いられ、そして湿気の無い中で化学蒸着法の技術により塗布されるとき、薄い金属アルコキシドフィルムが形成されると考えられている。重合は、いずれかでも起こる場合には最小限にされ、上記フィルムは、単層形状になり得る。上記有機金属化合物が上に記述したような加水分解および自己縮合条件に供される場合は、より厚いフィルムが形成される。
【0022】
本発明のプロセスは、連続あるいは不連続の、すなわち上記基材表面上でパターンとなっているフィルムまたは層を提供するために用いられ得る。非限定的な例としては、上記基材の表面上に上記組成物を予め決められていた範囲に吹き付けること(例えばインクジェットプリントまたは孔版印刷(stenciling)によるもの)が挙げられる。他の方法は、被膜液をパターンで基材上に、刻印すること(stamping)、石版印刷すること、およびグラビア印刷することを含む印刷技術を適応させることによって、提供され得る。
【0023】
上述のように、上層または別のフィルムは、上記有機金属フィルムへ塗布され得る。そのような上層の物質は、好ましくは、ヒドロキシル基または酸基あるいはそれらの誘導体のような上記アルコキシドおよび/またはヒドロキシル基と反応性である基を有する。
【0024】
好ましくは、上記上層は有機酸またはその誘導体である。この酸はカルボン酸、スルホン酸、あるいはリン酸(オルトリン酸)、ホスホン酸、またはホスフィン酸のようなリン含有酸(phosphorus acid)であり得る。酸の誘導体は、酸塩、酸エステルおよび酸錯体のような酸として同様に働く官能基を意味する。上記酸の有機基は、モノマー、オリゴマーまたはポリマーであり得る。例えば、上記有機酸は、モノマーのオルトリン酸、ホスホン酸、またはホスフィン酸であり得る。
【0025】
モノマーのリン酸の例は、以下の構造を有する化合物または以下の構造を有する化合物の混合物であり:
(RO)P(O)(OR’)
ここで、xは1〜2であり、yは1〜2であり、そしてx+y=3であり、Rは総数1〜30個、好ましくは6〜18個の炭素を有する基であり、ここでR’はH、アルカリ金属(例えば、ナトリウムまたはカリウム)のような金属、1〜50個の炭素、好ましくはメチルまたはエチルのような1〜4個の炭素を有する置換アルキルを含むアルキル、6〜50個の炭素を有する置換アリールを含むアリールである;好ましくは、R’の部分はHである。上記リン酸の有機成分(R)は、不飽和炭素鎖(例えば、オレフィン)を含む脂肪族化合物(例えば、2〜20個、好ましくは6〜18個の炭素原子を有するアルキル)であり得るか、あるいはアリールまたはアリールで置換された部分であり得る。
【0026】
モノマーのホスホン酸の例は、以下の式を有する化合物または以下の式を有する化合物の混合物であり:
【0027】
【化1】

ここで、xは0〜1であり、yは1であり、zは1〜2であり、そしてx+y+zは3である。好ましくは、RおよびR’’は各々独立して、総数1〜30個、好ましくは6〜18個の炭素を有する基である。R’はH、アルカリ金属(例えば、ナトリウムまたはカリウム)のような金属、またはアミンまたは1〜50個の炭素原子を有する置換アルキルを含むアルキル、好ましくはメチルまたはエチルのような1〜4個の炭素を有する低級アルキル、あるいは6〜50個の炭素を有する置換アリールを含むアリールである。好ましくは、少なくともR’の部分はHである。上記ホスホン酸の有機成分(RおよびR’’)は、不飽和炭素鎖(例えば、オレフィン)を含む脂肪族化合物(例えば、2〜20個、好ましくは6〜18個の炭素原子を有するアルキル)であり得るか、あるいはアリールまたはアリールで置換された部分であり得る。
【0028】
モノマーのホスフィン酸の例は、以下の式を有する化合物または以下の式を有する化合物の混合物であり:
【0029】
【化2】

ここで、xは0〜2であり、yは0〜2であり、zは1であり、そしてx+y+zは3である。好ましくは、RおよびR’’は各々独立して、総数1〜30個、好ましくは6〜18個の炭素を有する基である。R’はH、アルカリ金属(例えば、ナトリウムまたはカリウム)のような金属、またはアミンまたは1〜50個の炭素原子を有する置換アルキルを含むアルキル、好ましくはメチルまたはエチルのような1〜4個の炭素を有する低級アルキル、あるいは6〜50個の炭素を有する置換アリールを含むアリールである。好ましくは、R’の部分はHである。上記ホスフィン酸の有機成分(R、R’’)は、不飽和炭素鎖(例えば、オレフィン)を含む脂肪族化合物(例えば、2〜20個、好ましくは6〜18個の炭素原子を有するアルキル)であり得るか、あるいはアリールまたはアリールで置換された部分であり得る。
【0030】
RおよびR’’を含み得る有機基の例としては、長鎖および短鎖の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、および置換脂肪族炭化水素ならびに置換芳香族炭化水素が挙げられる。置換基の例はカルボン酸のようなカルボキシル、ヒドロキシル、アミノ、イミノ、アミド、チオ、シアノ、およびフルオロが挙げられる。
【0031】
上記有機リン含有酸(organophosphorous acid)の代表例は、以下のとおりである:アミノトリスメチレンホスホン酸、アミノベンジルホスホン酸、3−アミノプロピルホスホン酸、O−アミノフェニルホスホン酸、4−メトキシフェニルホスホン酸、アミノフェニルホスホン酸、アミノホスホノ酪酸(aminophosphonobutyric acid)、アミノプロピルホスホン酸、ベンズヒドリルホスホン酸(benzhydrylphosphonic acid)、ベンジルホスホン酸、ブチルホスホン酸、カルボキシエチルホスホン酸、ジフェニルホスフィン酸、ドデシルホスホン酸、エチリデンジホスホン酸(ethylidenediphosphonic acid)、ヘプタデシルホスホン酸、メチルベンジルホスホン酸、ナフチルメチルホスホン酸、オクタデシルホスホン酸、オクチルホスホン酸、ペンチルホスホン酸、フェニルホスフィン酸、フェニルホスホン酸、ビス−(ペルフルオロヘプチル)ホスフィン酸、ペルフルオロヘキシルホスホン酸、スチレンホスホン酸、ドデシルビス−1,12−ホスホン酸、ポリ(ヘキサフルオロプロピル)ホスホン酸。
【0032】
モノマーの上記有機リン含有酸(organophosphorous acid)に加えて、各々のモノマーの酸の自己縮合から生じるオリゴマーの、またはポリマーの有機リン含有酸(organophosphorous acid)が用いられ得る。
【0033】
上記上層に疎水性の性質を提供するために、上記有機酸またはその誘導体は、好ましくはフッ素化物質、代表的に2000未満の数平均分子量を有する過フッ素化オリゴマーである。過フッ素化物質は、下記の構造を有する過フッ素化炭化水素であり得る:
−(CH−X
ここで、Rは過フッ素化アルキル基または過フッ素化アルキレンエーテル基であり、そしてpは2〜4、好ましくは2である。
【0034】
ペルフルオロアルキル基の例は、下記の構造を有するものであり:
【0035】
【化3】

ここで、YはFまたはC2n+1であり;mは4〜20であり、そしてnは1〜6である。
【0036】
ペルフルオロアルキレンエーテル基の例は、以下の構造を有するものであり:
【0037】
【化4】

ここで、Aは酸素基または化学結合であり;nは1〜6であり;YはFまたはC2n+1であり;WはH、F、C2nまたはC2nであり;bは2〜10であり、mは0〜6であり、そしてpは0〜18である。
【0038】
Xは酸基または酸誘導体である。好ましくは、Xは:
【0039】
【化5】

であり、ここでRおよびR’’は200個まで、例えば1〜30個および6〜20個の炭素を有する炭化水素基または置換炭化水素基であり、Rはまた上で述べられたペルフルオロアルキル基を含み得、そしてR’はH、ナトリウムまたはカリウムのような金属、またはアミンまたは脂肪族の基(例えば、1〜50個の炭素を有する置換アルキルを含むアルキル、好ましくはメチルまたはエチルのような1〜4個の炭素を有する低級アルキル)、あるいは6〜50個の炭素を有する置換アリールを含むアリールである。
【0040】
フッ素化物質の例は、以下の構造を有するアルコールのような過フッ素化されたアルコールのエステルであり:
【0041】
【化6】

ここで、YはFまたはC2n+1であり;mは4〜20であり、そしてnは1〜6である。
【0042】
適切なエステルの例は、そのようなアルコールのステアリン酸エステルおよびクエン酸エステルである。そのような物質は、商標ZONYL FTSおよびZONYL TBCのもとにE.I. du Pont de Nemours and Companyから入手可能である。
【0043】
上記基材表面上への塗布のために、上記上層の物質は液体希釈剤に溶解される。この上層の物質の濃度は、代表的には希薄(例えば、固体の上層の物質に対して重量/体積ベースで10パーセント以下、そして油および液体の上層の物質に対して体積/体積ベースで10パーセント、そして好ましくは、0.01〜1.0パーセントの範囲内である)である。この百分率は溶液の総重量または総体積に基づいている。
【0044】
適切な希釈剤の例は、ヘキサン、イソオクタンおよびトルエンのような炭化水素;メチルエチルケトンのようなケトン;メタノールおよびエタノールのようなアルコール;テトラヒドロフランのようなエーテルである。3M Innovative Productsによって提供される、ノナフルオロブチルメチルエーテルのようなフッ素化溶媒およびHFE−7100として入手可能であるフッ素化溶媒、ならびに商標GALDENのもとにSolvay Solexisによって提供される過フッ素化エーテルが、上記フッ素化物質との使用に好ましい。このフッ素化溶媒は、上述の他の溶媒との混合物で用いられ得る。上記フッ素化溶媒または希釈剤はフィルム形成要素ではないが、上記フッ素化化合物はフィルム形成要素であるという点で、このフッ素化溶媒または希釈剤は上記フッ素化物質と異なる。好ましくは、希釈剤の蒸気圧は高く、このことが室温(20〜25℃)での急速な蒸発を可能にする。上記上層の物質は、この上層の物質を希釈剤に加える際に、容易に溶解され得る。
【0045】
上記上層の物質の溶液は、浸漬、ロール塗り、吹き付け、またはワイピングによって、光学製品(optical article)の表面に塗布され得る。この上層の物質の塗布後、蒸発の間ワイピング有りまたはワイピング無しで、好ましくは周囲温度で、または任意に熱の利用によって、上記希釈剤を蒸発させることが可能となる。
【0046】
生じる層は、代表的には薄く、約10〜100ナノメートルまたはそれ未満の厚みを有する。上記フッ素化された上層は疎水性であり、70より大きく、代表的には75〜130の水接触角を有する。この水接触角は、TANTEC contact angle meter Model CAM−MICROのような接触角測角器を用いて測定され得る。
【実施例】
【0047】
下記の実施例は、本発明に従う種々の被膜物およびそれらの調製法を示す。指示が無い限り、すべての部は重量によるものである。
【0048】
(実施例1)
イソプロパノール中タンタルイソプロポキシドの0.25%溶液1ミリリットルを、ティッシュペーパー(Kimberly Clark製の「Kimwipe」)上に分散し、ポリシロキサンベースのハードコートを有するポリカーボネートレンズに5秒間すり込んだ。次いで、5%HFE−7100(3M Innovative Products)、94%Soltrol−10(CP Chem)および1%オレンジオイル香料(Citrus and Allied)中ポリ(ヘキサフルオロプロピレンオキシド)−モノホスホン酸(p(HFPO)PA)の0.2%溶液1ミリリットルを、上記タンタルアルコキシドで被膜されたレンズ表面に吹きつけた。30秒の期間の後に、このフルオロポリマー被膜がタンタルアルコキシドと反応したので、溶媒層はレンズ表面から分かれ始めた。次いで、任意の明らかに残っている被膜または溶媒を、極細繊維の布(Hilco Optiwipe)を用いて、優しくこの表面からふき取った。最初に、そして極細繊維の布(Hilco Optiwipe)を用い150g/cmでその表面を磨耗した後に、水接触角(WCA)測定を行った(表1)。
【0049】
上記有機タンタル被膜が、磨耗後になお活性であることを示すために、上記p(HFPO)PA被膜を再塗布し、WCAが増加して最初のレベルに戻った(表1)。
【0050】
(実施例2(比較))
イソプロパノール中アルミニウムイソプロポキシドの0.25%溶液1ミリリットルを、ティッシュペーパー(Kimberly Clark製の「Kimwipe」)上に分散し、ポリシロキサンベースのハードコートを有するポリカーボネートレンズに5秒間すり込んだ。次いで、5%HFE−7100(3M Innovative Products)、94%エタノール(Univar)および1%オレンジオイル香料(Citrus and Allied)中ポリ(ヘキサフルオロプロピレンオキシド)−モノホスホン酸の0.2%溶液1ミリリットルを、上記アルミニウムアルコキシドで被膜されたレンズ表面に吹きつけた。30秒の期間の後に、このフルオロポリマー被膜がアルミニウムアルコキシド層と反応したので、溶媒層はレンズ表面から分かれ始めた。次いで、任意の明らかに残っている被膜または溶媒を、極細繊維の布(Hilco Optiwipe)を用いて、優しくこの表面からふき取った。最初に、そして極細繊維の布(Hilco Optiwipe)を用い150g/cmでその表面を磨耗した後に、水接触角測定を行った(表1)。
【0051】
上記有機アルミニウム被膜が、磨耗後に不活性であることを示すために、上記p(HFPO)PA被膜を再塗布し、WCAは増加しなかった(表1)。
【0052】
(実施例3(比較))
イソプロパノール中ジルコニウムプロポキシドの0.25%溶液1ミリリットルを、ティッシュペーパー(Kimberly Clark製の「Kimwipe」)上に分散し、ポリシロキサンベースのハードコートを有するポリカーボネートレンズに5秒間すり込んだ。次いで、5%HFE−7100(3M Innovative Products)、94%エタノール(Univar)および1%オレンジオイル香料(Citrus and Allied)中ポリ(ヘキサフルオロプロピレンオキシド)−モノホスホン酸の0.2%溶液1ミリリットルを、上記ジルコニウムアルコキシドで被膜されたレンズ表面に吹きつけた。30秒の期間の後に、このフルオロポリマー被膜がジルコニウムアルコキシド層と反応したので、溶媒層はレンズ表面から分かれ始めた。次いで、任意の明らかに残っている被膜または溶媒を、極細繊維の布(Hilco Optiwipe)を用いて、優しくこの表面からふき取った。最初に、そして極細繊維の布(Hilco Optiwipe)を用い150g/cmでその表面を磨耗した後に、水接触角測定を行った(表1)。
【0053】
上記有機ジルコニウム被膜が、磨耗後に不活性であることを示すために、上記p(HFPO)PA被膜を再塗布し、WCAは増加しなかった(表1)。
【0054】
(実施例4(比較))
イソプロパノール中チタンn−ブトキシドの0.5%溶液1ミリリットルを、ティッシュペーパー(Kimberly Clark製の「Kimwipe」)上に分散し、ポリシロキサンベースのハードコートを有するポリカーボネートレンズに5秒間すり込んだ。次いで、5%HFE−7100(3M Innovative Products)、94%エタノール(Univar)および1%オレンジオイル香料(Citrus and Allied)中ポリ(ヘキサフルオロプロピレンオキシド)−モノホスホン酸の0.2%溶液1ミリリットルを、上記チタンアルコキシドで被膜されたレンズ表面に吹きつけた。30秒の期間の後に、このフルオロポリマー被膜がチタンアルコキシド層と反応したので、溶媒層はレンズ表面から分かれ始めた。次いで、任意の明らかに残っている被膜または溶媒を、極細繊維の布(Hilco Optiwipe)を用いて、優しくこの表面からふき取った。最初に、そして極細繊維の布(Hilco Optiwipe)を用い150g/cmでその表面を磨耗した後に、水接触角測定を行った(表1)。
【0055】
上記有機チタン被膜が、磨耗後に不活性であることを示すために、上記p(HFPO)PA被膜を再塗布し、WCAは増加しなかった(表1)。
【0056】
(実施例5(比較))
この実施例では、有機金属を被膜する段階を用いなかった。5%HFE−7100(3M Innovative Products)、94%エタノール(Univar)および1%オレンジオイル香料(Citrus and Allied)中ポリ(ヘキサフルオロプロピレンオキシド)−モノホスホン酸の0.2%溶液1ミリリットルを、ポリシロキサンベースのハードコートを有するポリカーボネートレンズに吹きつけた。溶媒を蒸発させ(30秒)、次いで、任意の明らかに残っている被膜または溶媒を、極細繊維の布(Hilco Optiwipe)を用いて、優しくこの表面からふき取った。最初に、そして極細繊維の布(Hilco Optiwipe)を用い150g/cmでその表面を磨耗した後に、水接触角測定を行った(表1)。
【0057】
【表1】

1 接触角測角器TANTEC Contact Angle Meter、Model CAM−MICROを用いて測定した水接触角。
【0058】
極細繊維の布を用い、約150g/cmの圧力で前後に擦ること(1サイクル)によって、摩耗試験を行った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)高分子基材、およびこの高分子基材表面に付着した、
b)金属がf軌道に電子を有するか、またはニオブである有機金属フィルム
を含む、被膜物。
【請求項2】
請求項1に記載の被膜物であって、前記高分子が、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエポキシド、アクリル高分子および共重合体、ならびにポリシロキサンから選択される、被膜物。
【請求項3】
請求項1に記載の被膜物であって、前記金属がLa、Hf、TaおよびWから選択される、被膜物。
【請求項4】
請求項1に記載の被膜物であって、前記有機金属フィルムが未反応のアルコキシド基およびヒドロキシル基を有する、被膜物。
【請求項5】
請求項1に記載の被膜物であって、異なるフィルムが前記有機金属フィルム上に堆積される、被膜物。
【請求項6】
請求項5に記載の被膜物であって、前記異なるフィルムが、前記有機金属フィルム
の前記アルコキシド基および/またはヒドロキシル基と反応性である基を有する組成物から誘導される、被膜物。
【請求項7】
請求項6に記載の被膜物であって、前記組成物が有機リン含有酸であり、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸(それらの誘導体も含む)から選択される、被膜物。
【請求項8】
請求項7に記載の被膜物であって、前記有機リン含有酸またはその誘導体がフッ素化された物質である、被膜物。
【請求項9】
請求項1に記載の被膜物であって、該被膜物がアイウェアである、被膜物。
【請求項10】
請求項1に記載の被膜物であって、該被膜物が電気光学製品である、被膜物。
【請求項11】
基材に有機金属被膜を堆積させる方法であって、
(a)該基材の表面上にフィルムを堆積させるために、該基材の表面を、金属がf軌道に電子を有するか、またはニオブである金属アルコキシドと接触させる工程、
(b)該フィルムを、アルコキシドリガンドおよびヒドロキシルリガンドを有する高分子金属オキシドを形成するのに十分な条件に曝露する工程、
を包含する、方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、前記フィルムが前記アルコキシド基の加水分解および自己縮合が生じる条件に曝露される、方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって、前記フィルムが湿気を含む雰囲気に曝露される、方法。
【請求項14】
請求項11に記載の方法であって、前記金属がLa、Hf、TaおよびWから選択される、方法。
【請求項15】
請求項11に記載の方法であって、前記基材が金属、金属オキシド、半金属、高分子、セラミックおよびガラスから選択される、方法。
【請求項16】
請求項11に記載の方法であって、堆積より前の前記基材の表面が、オキシド基および/またはヒドロキシル基を有する、方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であって、前記高分子金属オキシドが前記基材に共有結合される、方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法であって、前記共有結合が、前記基材のオキシド基および/またはヒドロキシル基と、前記高分子金属オキシドに結合したアルコキシド基および/またはヒドロキシル基との反応を通して形成される、方法。
【請求項19】
請求項11に記載の方法であって、前記高分子金属オキシドフィルムに異なるフィルムを塗布する、さらなる段階を含む、方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法であって、前記異なるフィルムが有機リン含有酸から堆積される方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法であって、前記有機リン含有酸がホスホン酸である、方法。
【請求項22】
アルコキシドリガンドおよびヒドロキシルリガンドを有する高分子金属オキシドを含む有機金属フィルムであって、該金属がf軌道に電子を有するか、またはニオブである、有機金属フィルム。
【請求項23】
請求項22に記載の有機金属フィルムであって、前記金属がLa、Hf、TaおよびWから選択される、有機金属フィルム。
【請求項24】
請求項23に記載の有機金属フィルムであって、該有機金属フィルム上に堆積された異なるフィルムを有する、有機金属フィルム。

【公表番号】特表2010−510090(P2010−510090A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537201(P2009−537201)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【国際出願番号】PCT/US2007/023964
【国際公開番号】WO2008/060582
【国際公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(508124051)アキュロン, インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】