説明

被覆付き平板導電体の接合方法

【課題】 被覆付き平板導電体同士の接合方法を提供する。
【解決手段】 本発明になる被覆付き平板導電体同士の接合方法は、第1と第2の被覆付き平板導電体を予め被覆を剥離することなく重ね、この外側からバイパス導電体で挟持し、さらに一対の溶接電極で前記第1と第2の被覆付き平板導電体を挟持してこの溶接電極間に電流を流すことで被覆を溶融剥離することで前記平板導電体を接合する被覆付き平板導電体の接合方法であって、前記一対の溶接電極は前記バイパス導電体の外側から挟持して加圧しながら電流を流すことを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽電池モジュール等の出力端子への配線に用いられる被覆付き平板導電体同士の接合に係り、特に予め被覆を剥離することなく接合するのに好適な被覆付き平板導電体の接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池装置は、太陽からの光を電気に変換することから新しいエネルギ変換装置として期待されており、近年においては一般家庭用の電源として利用が盛んに進められつつある。
【0003】
太陽電池素子の1つ1つは小さな起電力しか得られないが、太陽電池素子を直列、並列に接続することで種々の起電力を得ることができることは周知の通りである(例えば、特許文献1など)。
この従来の太陽電池装置は、図4のように構成されており、1つ1つの太陽電池素子102を直列に接続していく太陽電池群104があり、この太陽電池群の数量によって起電力を調整する。
【0004】
直列接続された太陽電池群104は平板銅線を接続部材とする被覆付き平板導電体106と107に接続されており、この被覆付き平板導電体106、107がそれぞれ被覆付き平板導電体108、109と接続されて外部接続端子へと起電力が導かれている。
【0005】
この被覆付き平板導電体106、107、特に被覆付き平板導電体106は起電力に応じて長さを変える必要がある。この被覆は接続部材同士が接触して電気的に短絡することを防止している。前記したように被覆付き平板導電体106、107は被覆付き平板導電体108、109とそれぞれ接続されるので予め被覆を剥離してから接合する必要があり、種々の起電力に対応するためにそれに合わせた長さにする必要がある。このことが太陽電池装置の製造コストを押し上げる一因となっていた。
【0006】
このため、被覆を予め剥離することなく被覆付き平板導電体同士を接合する方法が求められている。本願出願人は、このような方法が記載されている文献等を調査したが直接記載している文献等を見出すことはできなかった。
しかし、用途は異なるがそのままでは溶接電極間に溶接電流を流せない場合であっても溶接技術を用いて絶縁樹脂を内蔵する制振鋼板同士を接合する方法(分流予熱法)を見出した(例えば特許文献2など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−278905号公報
【特許文献2】特開昭62−192277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図5に示すように、特許文献2記載の方法は重ね合わせた2枚の制振鋼板105、111の外側からバイパス導電体113で2枚の制振鋼板105、111を挟持して、1対の溶接電極115、117をこのバイパス導電体113が挟持している部分とは異なる部分に当接して一方の溶接電極115から第1の制振鋼板105の外側の導電部、バイパス導電体113、第2の制振鋼板111の外側の導電部を介してもう一方の溶接電極117へと電流を流すものであり、バイパス導電体113で第1、第2の制振鋼板105、111の重ね部を所定の挟持力で保持していないと充分な電流を流すことができないという欠点があった。反面、所定の挟持力で保持しようとすると挟持部の幅が狭くなり、バイパス導電体113の取り付け、取り外しに時間がかかり、製造コストが上がるという欠点があった。
【0009】
そして、何よりこの方法では溶接電極115、117とバイパス導電体113とが当接していないので、被覆付き平板導電体同士の接合に利用しようとすると、外側は被覆されているので溶接電極間には電流が流れず、その結果ジュール熱が発生しないので外側の被覆が溶融することはないから、結局平板導電体を接合することができないという致命的な欠点があった。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、バイパス導電体を溶接電極間で挟持し、加圧しながら電流を流す被覆付き平板導電体の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載した発明になる被覆付き平板導電体の接合方法は、第1と第2の被覆付き平板導電体を予め被覆を剥離することなく重ね、この外側からバイパス導電体で挟持し、さらに一対の溶接電極で前記第1と第2の被覆付き平板導電体を挟持してこの溶接電極間に電流を流すことで被覆を溶融剥離することで前記平板導電体を接合する被覆付き平板導電体の接合方法であって、前記一対の溶接電極は前記バイパス導電体の外側から挟持して加圧しながら電流を流すことを特徴とするものである。
【0012】
請求項2に記載した発明になる被覆付き平板導電体の接合方法は、断面ほぼコの字状であって、前記第1と第2の被覆付き平板導電体を挟持する部位の対向する位置にそれぞれ外側から内側に向かって前記溶接電極の先端形状に合わせた中空の深さがこのバイパス導電体の厚みを超える凸部が形成されている前記バイパス導電体を使用することを特徴とするものである。
【0013】
請求項3に記載した発明になる被覆付き平板導電体の接合方法は、断面コの字状の対向する挟持面間にばね性を備える前記バイパス導電体を使用することを特徴とするものである。
【0014】
請求項4に記載した発明になる被覆付き平板導電体の接合方法は、挟持部の最も狭い部分の幅が前記第1と第2の被覆付き平板導電体を重ねたときの厚みから前記被覆の材質の加圧時の収縮に応じて定まる分だけ減じた値から前記重ねたときの厚みの1.5倍までである前記バイパス導電体を使用することを特徴とするものである。
【0015】
請求項5に記載した発明になる被覆付き平板導電体の接合方法は、前記第1、第2の溶接電極間の幅の測定結果により、外側の被覆を溶融剥離する段階、内側の被覆を溶融剥離する段階、平板導電体同士を溶接する段階を判断し、それぞれの段階に適応した電流を流すことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1〜5記載の発明によれば、予め被覆を剥離しないでも、バイパス導電体を介して溶接電極間に電流が流れるので、この電流によりジュール熱が発生し、最初に外側の被覆が溶融剥離し、次に内側の被覆が溶融剥離して平板導電体同士が接触する。このようにして平板導電体が接触すると溶接電極間には平板導電体を介して溶接電流が流れるから、平板導電体を接合することができ、製造コストを押さえた被覆付き平板導電体の接合方法を提供することができる。
【0017】
請求項2記載の発明によれば、特にバイパス導電体に溶接電極を収納する形状の凹部を設けてあるので溶接電極の位置合わせも容易で、また凸部を設けているので溶接電極間に流れる電流により発生するジュール熱が適切に被覆に伝達されるから被覆の溶融剥離や被覆剥離後の平板導電体同士の接合が適切に実行できる。
【0018】
請求項3記載の発明によれば、特にバイパス導電体はばね性を備えているのでバイパス導電体の開放端は間隔を広げ易いので接合対象である重ねられた被覆付き平板導電体への取り付けを容易に行うことができる。そして、このばね性を備えることから溶接電極間を加圧しながら溶接電極間に溶接電流を流して平板導電体同士の接合を完了させた後、溶接電極をワークから離すことによりバイパス導電体に印加されていた圧力から開放するとバイパス導電体の開放端は開くからバイパス導電体は接合対象である被覆付き平板導電体から離れるので取り外しを容易に行うことができる。
【0019】
請求項4記載の発明によれば、特にバイパス導電体の挟持幅を被覆付き平板導電体を重ねた厚みに対して広めになるようにしているので、接合対象である重ねられた被覆付き平板導電体への取り付けを容易に行うことができる。
【0020】
請求項5記載の発明によれば、特に溶接電極間の間隔を検出し、それに応じて作業の進行段階を把握して各段階に応じて適当な電流を流すことができるので低コストの被覆付き平板導電体の接合方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明になる被覆付き平板導電体の接合方法の一実施形態を示す概略工程図で、その初段部である。
【図2】本発明になる被覆付き平板導電体の接合方法の一実施形態を示すフ概略工程図で、その中段部である。
【図3】本発明になる被覆付き平板導電体の接合方法の一実施形態を示す概略工程図で、その後段部である。
【図4】本発明になる被覆付き平板導電体の接合方法が利用される太陽電池装置の概略構成図である。
【図5】分流予熱法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1〜図3は本発明になる被覆付き平板導電体の接合方法の一実施形態を示す概略工程図で、図1はその初段部、図2はその中段部、図3はその後段部である。なお、これらの図では全て断面図を示している。
【0023】
図1〜図3において、1は厚み0.05mmのPET等からなる絶縁部材でなる被覆付き平板導電体5の被覆、3は幅6mm、厚み0.3mmの平板銅線等からなる被覆付き平板導電体5の平板導電体、7は被覆1、1、1、1を溶融剥離するためのバイパス電流を流すためのバイパス導電体であり、断面コの字状で対向する面に外側から内側に向かってそれぞれ使用する溶接電極の先端形状に合わせた中空の深さがこのバイパス導電体7の厚みを超える凸部7aが形成されている。凸部7aは本発明には必ずしも必要ではないが、溶接電極の位置合わせや被覆付き平板導電体の特定部位を押圧し、電流を流して被覆を溶融剥離し、最終的には平板導電体同士を接合するために好ましいものである。
【0024】
9、10は被覆付き平板導電体5、5の接合を行う時の電流を流す一対の溶接電極である。なお、溶接電源等溶接電極に電流を流すために必要な機材は本発明の主旨には直接関係しないので図示も説明も省略する。
【0025】
11は被覆1、1、1、1を溶融剥離する時のバイパス電流、13は被覆1、1、1、1を溶融剥離後の平板導電体3、3を接合する時の溶接電流、15は溶接電流が流れることにより形成されるナゲットである。
次に、本発明になる被覆付き平板導電体の接合方法について図1〜図3を用いて工程順に説明する。
【0026】
最初に接合する被覆付き平板導電体5、5に応じて溶接電極9、10間に加える圧力と電流を、外側の被覆1、1を溶融剥離する段階、内側の被覆1、1を溶融剥離する段階、および平板導電体3、3を接合する段階に分けて時系列で設定する。この圧力と電流をそれぞれ順に第1の圧力1と電流1、第2の圧力2と電流2、第3の圧力3と電流3と呼ぶことにする。
【0027】
それぞれの段階の所要時間は実験的に求めたり、溶接電極9、10間の変位を測定することで外側の被覆の溶融剥離、内側の被覆の溶融剥離を検出したりして得られた値を基に所定の圧力と電流に変えるようにすることができるが、ここでは実験的に求めた値を使用することとして説明する。
【0028】
このような被覆1,1の溶融剥離と平板導電体3、3の接合のための圧力、電流を時間単位で設定する準備を行った後、予め被覆1、1を剥離することなく、被覆付き平板導電体5、5同士を接合する部分を位置合わせして重ねる(図1の(a))。
【0029】
次に、バイパス導電体7の開口端から被覆付き平板導電体5、5を差し込み、接合する部分に凸部7aの底部を位置合わせしながらバイパス導電体7で被覆付き平板導電体5、5を挟持する(図1の(b))。このとき、バイパス導電体7には弾性があるので被覆付き平板導電体5、5を挟持するのに便宜であり、また凸部7aで被覆付き平板導電体5、5を挟持するようにしているので開口部は被覆付き平板導電体5、5の厚みより幅があるので差し込みが容易である。このようにしてバイパス導電体7で挟持された被覆付き平板導電体5、5を凸部7aの凹部に溶接電極9、10を位置合わせして挟持する。
【0030】
そして、溶接電極9、10間で第1の圧力1で被覆付き平板導電体5、5を押圧しながら、溶接電極9、10間に第1の電流1を所定の時間流す(図1の(c))。このとき、被覆1、1は剥離されていないので、この電流はバイパス電流11となって、バイパス導電体7を介して溶接電極9から溶接電極10に向かって流れる(同図の11の矢印方向)。
【0031】
このとき、このバイパス電流11によってジュール熱が発生し、この発熱により外側の被覆1、1、特に凸部7aが当接する部分が溶融し、蒸発する。このために外側の被覆1、1のこの部分が剥離され、バイパス導電体7の凸部7a、7aが直接平板導電体3、3に接触するようになる(図2の(d))。このとき、バイパス導電体7には弾性があるので凸部7a、7aを中心にして被覆付き平板導電体5、5を押圧しているからである。
【0032】
このようにして外側の被覆1、1を溶融剥離した後、溶接電極9、10間で第2の圧力2で被覆付き平板導電体5、5を押圧しながら、溶接電極9、10間に第2の電流2を所定の時間流す(図2の(e))。このとき、内側の被覆1、1は剥離されていないので、この電流は前記と同じようにバイパス電流11となって、バイパス導電体7を介して溶接電極9から溶接電極10に向かって流れる(同図の11の矢印方向)。
【0033】
そして、同じように、このバイパス電流によってジュール熱が発生し、この発熱により内側の被覆1、1、特に凸部7aが当接する部分が溶融し、蒸発することで内側の被覆1、1のこの部分が剥離され、バイパス導電体7の凸部7a、7aが直接平板導電体3、3に接触するようになる(図2の(e))。このとき、バイパス導電体7には弾性があるので凸部7a、7aを中心にして被覆付き平板導電体5、5を押圧しているからである。
【0034】
このようにして内側の被覆1、1を溶融剥離した後、溶接電極9、10間で第3の圧力3で被覆付き平板導電体5、5を押圧しながら、溶接電極9、10間に第3の電流3を所定の時間流す(図3の(f))。このとき、内側の被覆1、1は剥離されているので、この電流は前記までとは異なり溶接電流13となって、平板導電体3、3を介して溶接電極9から溶接電極10に向かって流れる(同図の13の矢印方向)。
【0035】
そして、同じように、このバイパス電流によってジュール熱が発生し、この発熱により平板導電体3、3、特に凸部7aが当接する部分が溶融し、所定時間の通電後冷却また自然冷却により平板導電体3、3の溶融部が固化しナゲット15が形成される。このとき、バイパス導電体7には弾性があるので凸部7a、7aを中心にして被覆付き平板導電体5、5を押圧しているからである。
【0036】
この後、溶接電極9、10間に印加されていた圧力3を徐々に解除する。こうすることで、バイパス導電体7は弾性により元に形状に戻るので容易に被覆付き平板導電体5、5から離すことができる。
【0037】
このようにして、被覆付き平板導電体3、3同士が予め被覆を剥離することなく接合できる。
【0038】
以上の実施の形態では予め実験的に求めた時間を基準にして圧力と電流をそれぞれの段階に応じて変化させたが、溶接電極9、10間の間隔の変位を基準にしてそれぞれの段階に応じて変化させることもできる。
【0039】
すなわち、それぞれの段階に応じて溶接電極9、10間の間隔を設定しておき、被覆付き平板導電体5、5の接合工程が開始された時点から溶接電極9、10間の変位を測定して設定された間隔と比較することで、外側の被覆1、1の溶融剥離段階、内側の被覆1、1の溶融剥離段階、そして平板導電体3、3の接合段階のいずれに当るか判断し、この判断に従って第1〜第3の圧力1、2、3および電流1、2、3へと変更していくのである。なお、この他にも本発明の主旨を変更することなく種々の変形例が可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 被覆
3 平板導電体
5 被覆付き平板導電体
7 バイパス導電体
7a 凸部
9、10 溶接電極
11 バイパス電流
13 溶接電流
15 ナゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1と第2の被覆付き平板導電体を予め被覆を剥離することなく重ね、この外側からバイパス導電体で挟持し、さらに一対の溶接電極で前記第1と第2の被覆付き平板導電体を挟持してこの溶接電極間に電流を流すことで被覆を溶融剥離することで前記平板導電体を接合する被覆付き平板導電体の接合方法であって、
前記一対の溶接電極は前記バイパス導電体の外側から挟持して加圧しながら電流を流すことを特徴とする被覆付き平板導電体の接合方法。
【請求項2】
前記バイパス導電体は、断面ほぼコの字状であって、前記第1と第2の被覆付き平板導電体を挟持する部位の対向する位置にそれぞれ外側から内側に向かって前記溶接電極の先端形状に合わせた中空の深さがこのバイパス導電体の厚みを超える凸部が形成されていることを特徴とする請求項1記載の被覆付き平板導電体の接合方法。
【請求項3】
前記バイパス導電体は、断面コの字状の対向する挟持面間にばね性を備えることを特徴とする請求項1記載の被覆付き平板導電体の接合方法。
【請求項4】
前記バイパス導電体の挟持部の最も狭い部分の幅は、前記第1と第2の被覆付き平板導電体を重ねたときの厚みから前記被覆の材質の加圧時の収縮に応じて定まる分だけ減じた値から前記重ねたときの厚みの1.5倍までであることを特徴とする請求項1記載の被覆付き平板導電体の接合方法。
【請求項5】
前記第1、第2の溶接電極間の幅の測定結果により、外側の被覆を溶融剥離する段階、内側の被覆を溶融剥離する段階、平板導電体同士を溶接する段階を判断し、それぞれの段階に適応した電流を流すことを特徴とする請求項1記載の被覆付き平板導電体の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−73042(P2011−73042A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227016(P2009−227016)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000227836)日本アビオニクス株式会社 (197)
【Fターム(参考)】