説明

被覆層を有する無機蛍光体粒子及びその製造方法並びに発光装置

【課題】防湿性が向上された無機蛍光体粒子及びその製造方法並びに発光装置を提供する。
【解決手段】無機蛍光体粒子10の表面の一部または全面に、架橋により硬化されたシルセスキオキサンの被覆層12が形成されている。シルセスキオキサンは、以下の構造式で表される繰り返し単位を有し、式中Rは、炭素数1〜20の有機基であり、Rの少なくとも一部は炭素−炭素二重結合、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基のいずれかを含む。このシルセスキオキサンにより、無機蛍光体粒子10の表面に緻密な層を形成し、無機蛍光体粒子10の防湿性を向上する。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆層を有する無機蛍光体粒子及びその製造方法並びに発光装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、青色発光、紫外発光等の半導体発光素子(LED)を発光光源とし、この発光光源を封止する封止樹脂に所定の蛍光体を分散させて白色を得る白色発光装置が提案されている。例えば、下記特許文献1には、(Y、Gd)(Al、Ga)12の組成式で知られるYAG系酸化物母体格子中にCeをドープした蛍光体(YAG系蛍光体)を、青色LEDチップを包囲する封止樹脂中に分散させたものが開示されている。この場合に使用される蛍光体には種々のものがあるが、無機蛍光体は発光強度が高く、長時間の使用に耐えるので好適な材料といえる。
【0003】
また、蛍光体粒子の防湿性等を向上させて劣化を防止するために、蛍光体粒子の表面にコーティングを施すことが行われている。例えば、下記特許文献2には、テトラエトキシシラン(TEOS)等を使用して金属酸化物系蛍光体微粒子の表面にシリカ層を形成する技術が開示されている。
【0004】
また、下記特許文献3には、蛍光体層と基板との間に、シルセスキオキサンと蛍光体との混合層を形成し、蛍光体層と基板との光学的接着性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−242513号公報
【特許文献2】特開2007−284528号公報
【特許文献3】特開昭61−183843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、白色発光装置に使用される蛍光体は、水分により劣化しやすいので、蛍光体粒子の防湿性を向上させる必要がある。この点、特許文献1では、封止樹脂中における蛍光体の分布濃度を、封止樹脂の表面側からLEDチップに向かって高くすると、水分による劣化を抑制しやすいことが記載されている。また、セリウムで付活されたガーネット構造を有するYAG系蛍光体は、水分に強いことも記載されている。しかし、蛍光体粒子の各々の表面に防湿構造をコーティングしない場合には、防湿性の向上は十分でなく、また、ガーネット構造を有する蛍光体の耐湿性も限界がある。
【0007】
そこで、上記特許文献2のように、蛍光体粒子の表面にコーティングを施して防湿性を向上させる必要がある。しかし、特許文献2に示されたTEOSを使用すると、コーティング層にクラック(ひび割れ)が生じやすく、防湿性を向上させにくいという問題があった。また、特許文献3に記載された技術は、蛍光体粒子の表面をシルセスキオキサンでコーティングするものではなく、蛍光体粒子の防湿性を向上させることはできない。
【0008】
本発明の目的は、防湿性が向上された無機蛍光体粒子及びその製造方法並びに発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、被覆層を有する無機蛍光体粒子であって、無機蛍光体粒子の表面の一部または全面がシルセスキオキサンの架橋硬化膜により被覆されたことを特徴とする。ここで、無機蛍光体粒子の表面の一部とは、無機蛍光体粒子の表面積の少なくとも30%以上を指す。また、無機蛍光体粒子の表面の一部に被覆層が形成される場合には、被覆層は無機蛍光体粒子の表面に島状に形成されてもよい。
【0010】
また、上記被覆層を有する無機蛍光体粒子において、前記シルセスキオキサンの被覆層の屈折率が1.3〜2.0であることを特徴とする。
【0011】
また、上記被覆層を有する無機蛍光体粒子において、前記シルセスキオキサンが、以下の構造式で表される繰り返し単位を有することを特徴とする。
【化1】

式中Rは炭素数1〜20の有機基であり、Rの少なくとも一部は炭素−炭素二重結合、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基のいずれかを含む。
【0012】
前記シルセスキオキサンが、γ−グリシドキシプロピルシルセスキオキサンとフェニルシルセスキオキサンとメチルシルセスキオキサンとの共重合体、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルシルセスキオキサンとフェニルシルセスキオキサンとメチルシルセスキオキサンとの共重合体、3−メタクリロキシプロピルシルセスキオキサンとフェニルシルセスキオキサンとメチルシルセスキオキサンとの共重合体のいずれかであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、被覆層を有する無機蛍光体粒子の製造方法であって、無機蛍光体粒子とシルセスキオキサンとを溶媒中に投入し、前記溶媒中に架橋剤を加えて加熱しながら攪拌し、前記無機蛍光体粒子の表面でシルセスキオキサンを架橋により硬化させる、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、発光装置であって、半導体発光素子により構成された発光光源と、上記各被覆層を有する無機蛍光体粒子が分散され、前記発光光源を封止する封止樹脂と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、無機蛍光体粒子の表面の一部または全面が架橋により硬化されたシルセスキオキサン層により被覆されることにより、無機蛍光体粒子の防湿性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態にかかる被覆層を有する無機蛍光体粒子の断面図の一例である。
【図2】実施形態にかかる発光装置の構成例を示す図の一例である。
【図3】LEDチップから発せられた光の大気中への透過率の計算結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0018】
図1には、実施形態にかかる被覆層を有する無機蛍光体粒子の断面図が示される。図1において、無機蛍光体粒子10の表面には、その全面にシルセスキオキサンの被覆層12が形成されている。また、別の実施形態において、無機蛍光体粒子10の表面の一部に、シルセスキオキサンの被覆層12が形成されてもよい(図面を省略)。
【0019】
無機蛍光体粒子10の表面の一部または全面にシルセスキオキサンの被覆層12が形成された時の膜厚は、好ましくは0.1μm〜100μmの範囲が良く、さらに好ましくは0.3μm〜50μmの範囲が良い。被覆層12の膜厚が0.1μm未満である場合には、被覆層による防湿性が低下してしまう。一方、被覆層12の膜厚が100μmを越える場合には、防湿性が向上するものの発光効率が低下する恐れがある。
【0020】
シルセスキオキサンは緻密な層を形成することができるので、無機蛍光体粒子10に水分が接触することを防止でき、無機蛍光体粒子10の劣化を低減することができる。また、表面にシルセスキオキサン層を被覆することにより、粒子の凝集を防止することができる。このため、無機蛍光体粒子10の凝集による発光性能の低下を抑制することができる。なお、図1の例では、無機蛍光体粒子10を球形に表現しているが、無機蛍光体粒子10の形状は球形には限らない。ここで、上記無機蛍光体粒子10は、酸化物蛍光体、硫化物蛍光体、酸硫化物蛍光体、窒化物蛍光体、酸窒化物蛍光体、ハロゲン化物蛍光体をはじめとする無機物であり、LED用途としては、YAG系蛍光体、シリケート系蛍光体、サイアロン蛍光体などがよく知られている。また、化合物半導体をナノ粒子化することで発光波長を制御する量子ドット系蛍光体も含まれる。例えば酸化物蛍光体として(1)YAG蛍光体である (Y,Gd)Al12:Ce、(2)シリケート蛍光体である(Ba,Sr)SiO:Eu、(3)硫化物蛍光体として(Zn,Cd)S:Eu、(4)酸硫化物蛍光体としてLaS:Eu、(5)窒化物蛍光体としてCaAlSiN:Eu、(6)酸窒化物蛍光体としてα−サイアロン蛍光体であるSi12−(m+n)Al(m+n)(16−n):Eu、(7)ハロゲン化物蛍光体としてKSiF:Mn、等が挙げられ、また量子ドット蛍光体としてはCdSe系量子ドット蛍光体やInP系量子ドット蛍光体が挙げられるが、これらの例示した蛍光体に限定されるものではない。また、これらの蛍光体は単独で使用することもできるし、複数を組み合わせて使用することもできる。
【0021】
上記シルセスキオキサンの例としては、以下の構造式で表される繰り返し単位を有するシルセスキオキサンがあげられる。
【化1】

【0022】
ここで、上記構造式(化1)のRは、炭素数1〜20の有機基である。有機基としては、直鎖状炭化水素基、分枝状炭化水素基、環状炭化水素基、架橋環式炭化水素基、炭素−炭素二重結合を有する炭化水素基または芳香族炭化水素基、エポキシ基や(メタ)アクリロイル基のような官能基を有する有機基等が挙げられるが、少なくとも一部に架橋反応に寄与する有機基(炭素−炭素二重結合を有する炭化水素基、エポキシ基や(メタ)アクリロイル基のような官能基を有する有機基)を含む。直鎖状炭化水素基、分枝状炭化水素基、環状炭化水素基、架橋環式炭化水素基は柔軟性を付与するとともに、炭素数が4以上のものを導入すれば、吸湿性が低下し水蒸気に対する耐性を付与することが出来る。また、環状又は架橋環式炭化水素基が入ることで光学特性、耐熱性が向上する。芳香族炭化水素基は屈折率を調整する上で必要である。また、上記繰り返し単位数をnとすると、nの範囲は、4〜2000がよく、より好ましくは8〜1000であり、更に好ましくは10〜200である。nが小さいと収縮率が大きくなり被覆層12にクラックが入りやすくなる。一方、nが大きくなると、あまりに粘稠すぎて粒子全面を覆うことが困難となる。
【0023】
直鎖状炭化水素基としては、比較的工業的に入手可能な点で、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基等の炭化水素基が好ましい。また、分枝状炭化水素基としては、イソプロピル基、イソブチル基等の炭化水素基が好ましい。また、環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の環状炭化水素基が好ましく、またノルボルナン骨格を有するような架橋環式炭化水素基も耐熱性の観点で好ましい。また、炭素−炭素二重結合を有する炭化水素基としては、ビニル基、アリル基を有する炭化水素基が好ましい。以上に述べた炭化水素基の中で、原料入手の容易性の観点からメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜5の直鎖状炭化水素基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0024】
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、ジフェニルメチル基、シンナミル基、スチリル基、トリチル基等のベンゼン環と炭化水素基とを有した置換基、トルイル基、クメニル基、メシル基、キシリル基等のベンゼン環に置換基が結合した芳香族炭化水素基等が挙げられる。4−メチルフェニルエチル基、4−メチルフェニルプロピル基、2,4−ジメチルフェニルエチル基等、ベンゼン環に置換基が結合していても良い。芳香族炭化水素基は、樹脂の耐熱性を向上させるが、芳香族環とシリコン原子との間に置換基がない場合は、置換基がある場合と比較して一般的に耐熱性が低下しないことから、フェニル基、トルイル基、クメニル基、メシル基、キシリル基等の芳香族炭化水素基が特に好ましく、一般的に入手が容易なフェニル基がさらに好ましい。
【0025】
R中には、前述の炭素−炭素二重結合を有する炭化水素基や、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基のような有機性官能基を少なくとも一部有する必要がある。R中に炭素−炭素二重結合、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基のような有機性官能基を含むことにより、これらが架橋反応することにより硬化されてより強固なコーティング膜が得られる。このような有機性官能基により架橋反応を行わせると、反応生成物の架橋密度を上げやすいので好適である。また、Rは単一基(単独重合体)であっても複数の基からなる共重合体であってもよい。
【0026】
官能基の割合としては、あまりに多すぎるとコーティング膜にクラック等が生じ欠陥が生じやすくなるので、シルセスキオキサンを構成するケイ素化合物前駆体中の80モル%以下、より好ましくは50モル%以下としたほうが良い。
【0027】
実施形態にかかるシルセスキオキサンは、下記一般式で示されるモノマーを、酸性または塩基性条件で加水分解して製造することができる。
【化2】

【0028】
ここで、Xは加水分解性基を示し、塩素、臭素、ヨウ素のハロゲン原子、もしくはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基を示す。これらの中でメトキシ基、エトキシ基が原料入手の容易性と反応性が高く、LEDへのハロゲン混入の恐れが無いことから、特に好ましい。
【0029】
加水分解は、水を用いて行い、通常触媒を加えて行うことが好ましい。加水分解は、酸性または塩基性条件で行うことが好ましく、塩酸、硝酸、硫酸、蟻酸、酢酸などの酸触媒、トリエチルアミン、ピリジン、N,N−ジイソプロピルアミン、ピペラジン、テトラメチルエチレンジアミン、エタノールアミン等のアミン触媒、テトラブチルアンモニウムフルオライド、ベンジルトリブチルクロライド、ベンジルトリエチルクロライド、フェニルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムブロマイド等の第4級アンモニウム塩触媒を使用することが好ましい。この中でも有機アミン触媒が残留した場合の問題点も少なく更に好ましい。この触媒使用量は原料モノマーのモル数に対して0.01〜1.0当量が好ましく、0.02〜0.5当量がさらに好ましい。
【0030】
加水分解条件としては、反応温度0〜100℃が好ましく、触媒を使用することにより反応が容易に進行することから、10〜40℃がより好ましい。
【0031】
この加水分解、重縮合反応には水が必要であるが、原料モノマーのモル数に対して3〜100当量使用することが好ましく、5〜50当量使用することが特に好ましい。
【0032】
また、この加水分解、重縮合反応では、有機溶媒を使用することが好ましく、有機溶媒としては、トルエン、キシレン等の非プロトン性溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒、等の溶媒を使用することができる。
【0033】
反応終了後は、非極性溶媒(有機溶媒)を添加して反応生成物と水とを分離し、有機溶媒に溶解した反応生成物を回収し、水で洗浄後に溶媒を留去することにより目的の生成物を得ることができる。
【0034】
以上のようにして得られたシルセスキオキサンは、分子量が低いとコーティング皮膜が脆くなるので好ましくない。また、分子量が高いとコーティングを行いにくくなるので好ましくない。そこで、重量平均分子量Mw(ポリスチレン換算、ゲルパーミェーションクロマトグラフ(GPC)測定値)が500〜100000の範囲にあるものが好ましく、1000〜50000の範囲にあるものがさらに好ましい。本発明のシリコーン共重合体は、分散度(重量平均分子量Mw(ポリスチレン換算)を数平均分子量Mn(ポリスチレン換算、GPC測定値)で割ったもの)が広いと、経験的にゲル分が含まれる場合が多く好ましくない。そこで、上記分散度としては、1.1〜3.5の範囲にあるものが好ましく、1.1〜2.5の範囲にあるものがさらに好ましい。GPCの測定条件は以下の通りである。
<GPC測定条件>
装置名:日本分光(株)製
「HPLCユニット HSS−2000」カラム:ShodexカラムLF−804
移動相:テトラヒドロフラン
流速:1.0mL/分
検出器:日本分光(株)製「RI−2031Plus」
温度:40.0℃
試料量:サンプルループ 100μリットル
試料濃度:約0.1質量%に調製。
【0035】
上記シルセスキオキサンを溶解する好ましい有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、シクロへキサノール等の一価のアルコール溶媒、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール等のアルコール溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル等のエステル溶媒、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコール系溶媒が例示される。なお、前記加水分解・重縮合終了後生成物を単離せず反応液を後述の処理に適用することもできる。
【0036】
以上のようにして得られたシルセスキオキサンは、無機蛍光体粒子10及び架橋剤とともに溶媒中で加熱しながら攪拌し、架橋(硬化)させて無機蛍光体粒子10の表面に被覆層12を形成する。架橋(硬化)膜による被覆率は30%以上であれば防湿効果が認められるが、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上であり、全面被覆されている場合が最も好ましい。被覆層12が形成された無機蛍光体粒子10は、濾過により溶媒と分離し、加熱減圧乾燥して本実施形態の被覆層を有する無機蛍光体粒子を得る。ここで、硬化剤としては、シルセスキオキサン中に含まれている官能基がグリシジル又はシクロへキセンオキサイドの場合には、エポキシ樹脂のカチオン硬化剤として使用されているものが使用でき、(メタ)アクリロイル基の場合には、AIBN等のラジカル重合開始剤が使用できる。また、架橋反応の溶媒としては、上記シルセスキオキサンを溶解する有機溶媒を使用することができる。このように、本実施形態では、被覆層12が架橋により硬化されているので、無機蛍光体粒子10からの剥離、ひび割れ等を防止することができる。
【0037】
図2(a),(b)には、実施形態にかかる発光装置の構成例が示される。図2(a)が平面図であり、図2(b)が図2(a)のB−B断面図である。図2(a),(b)において、発光装置14は、LEDチップ16(半導体発光素子)、ケース部18、アウターリード20,22等を備え、LEDチップ16は、ケース部18の凹部24に収容されている。また、アウターリード20,22は、凹部24の底部においてLEDチップ16とそれぞれ電気的に導通され、ケース部18の外に延出している。なお、LEDチップ16の実装は、ワイヤボンドタイプであるが、フリップチップタイプであってもよい。
【0038】
上記凹部24には、封止樹脂26が収容され、LEDチップ16を封止している。この封止樹脂26には、図1に示される被覆層12を有する無機蛍光体粒子10が分散されている。
【0039】
図1に示される被覆層12を有する無機蛍光体粒子10は、LEDチップ16からの光を受けて、異なる波長の光を発生するために使用される。そこで、LEDチップ16から入射する光及び無機蛍光体粒子10から発生する光の、各界面における反射率を低減する(透過率を向上させる)必要がある。このため、上記各シルセスキオキサンで構成される被覆層12の屈折率を、無機蛍光体粒子10及び封止樹脂26の屈折率に応じて調整する必要がある。本実施形態では、被覆層12の屈折率としては1.3〜2.0の範囲とするのが好適である。なお、屈折率の測定には、通常分光エリプソメータやプリュースター角法、最小偏角法、アッベ屈折率計などの方法が採用される。後述するように、上記屈折率の範囲では、透過率を90%以上とすることができる。また、上記屈折率の範囲を1.5〜1.7の範囲とすると、透過率を95%以上とすることができ、特に好適である。
【0040】
被覆層12を構成する各シルセスキオキサンの屈折率を調整するには、例えばフェニルシルセスキオキサンとメチルシルセスキオキサンとを使用する。フェニルシルセスキオキサン自体の屈折率が1.55であり、メチルシルセスキオキサン自体の屈折率が1.44であることから、この屈折率を目安に所望の屈折率になるように、フェニルシルセスキオキサンとメチルシルセスキオキサンとの重量分率を決定する。すなわち、屈折率を上げるには、フェニルシルセスキオキサンの割合を上げ、屈折率を下げるには、メチルシルセスキオキサンの割合を上げる。なお、他の種類のシルセスキオキサン(例えば、ナフチル基、トリフルオロメチル基等を有するシルセスキオキサンを例示できる)を使用することにより、さらに広い範囲で屈折率を調整できる。
【0041】
ここで、図2(a),(b)に示された発光装置14において、LEDチップ16から発せられた光が大気中に放出される割合を透過率とし、LEDチップ16から発せられ、封止樹脂26に出てきた光が、無機蛍光体粒子10の表面の被覆層12を透過し、無機蛍光体粒子10へ進入し、無機蛍光体粒子10に吸収され、波長変換され発光された光が、無機蛍光体粒子10から被覆層12を透過し、封止樹脂26に出てきた光が大気に放出される、というモデルを考える。このとき、上記各界面でのフレネル反射率を以下の式で算出して透過率を算出し、これらの透過率を積算した。なお、簡単のため、光は界面に対して垂直に入射するとしている。また、LEDチップ16から発せられる励起波長、蛍光体発光波長のいずれに対しても、封止樹脂26の屈折率は1.41、無機蛍光体粒子10の屈折率はYAG蛍光体の1.833とした。
【0042】
上記フレネル反射率Rnは、
【数1】

となる。ここで、発光装置14から発せられた光が封止樹脂を通して封止樹脂と蛍光体の被覆層との界面に入射した場合には、封止樹脂の屈折率をnとし、蛍光体の被覆層の屈折率をnとして上記式(数1)に代入することができる。また、蛍光体の被覆層中に入った光が、当該被覆層と蛍光体との界面に入射した場合には、当該被覆層の屈折率をnとし、蛍光体の屈折率をnとして上記式(数1)に代入することができる。また、透過光量は、各界面において、入射光量の(1−Rn)倍となる。
【0043】
図3には、LEDチップ16から発せられた光の大気中への透過率の計算結果が示される。図3では、縦軸が透過率であり、横軸が被覆層12の屈折率である。図3に示されている通り、上記封止樹脂26と無機蛍光体粒子10の屈折率との関係においては、被覆層12の材料の屈折率が1.3〜2.0の範囲で90%以上の透過率が得られている。また、1.5〜1.7の範囲で95%以上の透過率が得られており、最適な屈折率範囲といえる。
【0044】
無機蛍光体粒子10の表面の一部または全面にシルセスキオキサンの被覆層12が形成された際の膜厚の測定方法としては、従来公知な分析手段で決定することができる。例えば、顕微FT−IR解析法、透過型分析電子顕微鏡(TEM)、X線マイクロアナライザー(EPMA)などの各種方法が採用される。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の具体例を実施例として説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
まず、各種シルセスキオキサン共重合体を以下の合成例に従って合成した。
【0047】
合成例1
γ−グリシドキシプロピルシルセスキオキサンとフェニルシルセスキオキサンとメチルシルセスキオキサンとの共重合体の合成
【0048】
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた500mL4つ口フラスコに、トルエン56.7gと水16.25gとを仕込み、26%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を2.12g(0.006モル)加えた。次にγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン14.30g(0.0605モル)、フェニルトリメトキシシラン30.0g(0.151モル)及びメチルトリメトキシシラン12.4g(0.0908モル)とトルエン28.35gとの溶液を20〜30℃で滴下した。滴下終了後、同温度で2時間熟成させた。このときの反応溶液をガスクロマトグラフ(GC)で分析した結果、原料は残っていないことが分かった。次にトルエンと水を追加して抽出し、その後、水で溶液が中性になるまで洗浄した。トルエン油層を回収し、トルエンを除去して、目的の粘性液体状の共重合体34.6gを得た。ゲルパーミェーションクロマトグラフ(GPC)分析データは、Mw=4,590、Mw/Mn=2.36(ポリスチレン換算)であった。
【0049】
合成例2
2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルシルセスキオキサンとフェニルシルセスキオキサンとメチルシルセスキオキサンとの共重合体の合成
【0050】
合成例1に記載の原料であるγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン14.91g(0.0605モル)に変更した以外は合成例1と同様の操作で目的の共重合体36.07gを得た。GPC分析データは、Mw=4,710、Mw/Mn=2.33(ポリスチレン換算)であった。
【0051】
合成例3
3−メタクリロキシプロピルシルセスキオキサンとフェニルシルセスキオキサンとメチルシルセスキオキサンとの共重合体の合成
【0052】
合成例1に記載の原料であるγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン15.03g(0.0605モル)、26%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を硝酸0.63g(0.01モル)に変更した以外は合成例1と同様の操作で目的の共重合体35.1gを得た。GPC分析データは、Mw=1,210、Mw/Mn=1.95(ポリスチレン換算)であった。
【0053】
次に、以上により得た各重合体を使用し、以下の実施例1〜3に示す手順により蛍光体粒子表面への被覆層の形成を行った。
【0054】
実施例1
シリケート系の蛍光体(BaSrMg)SiO(Intematex社製Y−450C、粒径10μm)2質量部と、合成例1の共重合体1質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート20質量部、カチオン重合開始剤であるサンエイドSI−100L(三新化学工業株式会社製)0.02質量部を添加して、100ミリリットルフラスコ中で激しく攪拌しながら160℃のオイルバスで3時間反応させた。反応終了後、濾過により蛍光体を回収し、80℃で減圧乾燥機により乾燥した。これにより、架橋により硬化された合成例1の共重合体(シルセスキオキサン)により表面の全面が被覆された無機蛍光体粒子を得た。被覆後の粒径は38μm(被覆層の厚み14μm)であった。粒径は以下の方法で測定した数平均値である。
<粒径の測定方法>
使用機器:Microtrac MT3300EXII(日機装(株)社製)
粒子条件:
透過性:反射
屈折率:1.50
球形:真球形
溶媒条件:トルエン
屈折率:1.36
測定方法
検出器の部位に溶剤を満たし、バックグラウンド測定を行う(30秒)。その後、サンプルローディングをクリックし、濃度が装置の指定範囲に収まることを確認しながら、サンプルの分散液を溶剤で満たされた検出器部位に滴下する。濃度が指定範囲に入ったら測定を開始する(30秒)。
【0055】
実施例2
実施例1で合成例1の共重合体を合成例2の共重合体20質量部に代えたほかは、実施例1と同様の操作を行なった。これにより、架橋により硬化された合成例2の共重合体(シルセスキオキサン)により表面の全面が被覆された無機蛍光体粒子を得た。被覆後の粒径は42μm(被覆層の厚み16μm)であった。
【0056】
実施例3
実施例1で使用したシリケート系蛍光体を40質量部、合成例3の共重合体20質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート360質量部、ラジカル重合開始剤であるAIBN(和光純薬株式会社製)0.5質量部を添加して、窒素気流下で1リットルフラスコ中で激しく攪拌しながら80℃のオイルバスで3時間反応させた。反応終了後、濾過により蛍光体を回収し、80℃で減圧乾燥機により乾燥した。これにより、架橋により硬化された合成例3の共重合体(シルセスキオキサン)により表面の全面が被覆された無機蛍光体粒子を得た。被覆後の粒径は18μm(被覆層の厚み4μm)であった。
【0057】
実施例4
以上の各実施例1〜3により得られた、各シルセスキオキサンで被覆された無機蛍光体粒子をシリコーン系の封止樹脂SCR−1011(信越化学株式会社製)に15質量%混合し、ハイシェアミキサー(テクノサポート社製L4RT)を用いてよく混合した後、簡易ディスペンサーを用いてLEDチップ上に成形し、オーブン中で30℃で7時間、100℃で1時間かけて硬化した。
【0058】
上述した封止樹脂により封止されたLEDチップを使用して、図2(a),(b)に示された発光装置14を製造し、この発光装置14に対して、定格通電電流20mAを流したところ、発光出力は17〜20mWの範囲を示した。
【0059】
上記発光装置14は、例えば以下の手順により製造することができる。まず、LEDチップ16を製造する。すなわち、基板上に、n型半導体層と発光層とp型半導体層とを、スパッタリング法、MOCVD(有機金属化学気相成長法)、HVPE(ハイドライド気相成長法)、MBE(分子線エピタキシー法)などを用いて形成することにより半導体発光層を形成し、得られた半導体発光層の上に、フォトリソグラフィー技術及びリフトオフ技術を用いて、p電極とn電極とを形成することによりLEDチップ16とする。
【0060】
次に、アウターリード20,22の製造方法について説明する。金属板を打ち抜くことにより、一方のアウターリード20と他方のアウターリード22の形状を有する部分が複数個形成された50mm×144mm×厚さ0.15mmのリードフレームを形成する。このリードフレームに絶縁性構造体、ケース部18となる樹脂材料をモールド形成して、凹部24を有するケース部18、一方のアウターリード20と他方のアウターリード22が形成されたモールドリードフレームを形成する。
【0061】
次に、モールドリードフレームの凹部24から露出する一方のアウターリード22の素子載置部に、LEDチップ16を樹脂製接着剤にて実装する。
【0062】
次に、ワイヤボンディングにより、一方のアウターリード20寄りに配置されたLEDチップ16のp電極とアウターリード20とを、ボンディングワイヤによって導電接続するとともに、LEDチップ16のn電極と他方のアウターリード22とを、ボンディングワイヤによって導電接続する。
【0063】
その後、凹部24内に、本実施例の被覆層を有する無機蛍光体粒子が分散された封止樹脂26を充填し、加熱硬化してLEDパッケージとする。LEDパッケージはリードフレームから個片に分断されることにより、本実施例の発光装置14が得られる。
【0064】
以上のようにして製造した発光装置14の環境試験として、10個の発光装置14と被覆層を有さない無機蛍光体粒子を用いた10個の発光装置をエージングボードに実装し、85℃、85%RH(相対湿度)の環境下で20mA通電試験を500時間行い、0時間に対する500時間後の発光出力の変化率を測定した。環境試験の結果、実施例の試験素子は発光出力の低下がなかった。
【0065】
比較例1
被覆層を有さない無機蛍光体粒子を用いた以外は実施例4と同様に10個の発光装置を製造して環境試験を行った。この結果、ほぼ50%の発光出力の低下があった。
【0066】
比較例2
従来公知のゾルゲル法によりTEOS(テトラエトキシシラン)を使用して実施例1で使用したシリケート系の蛍光体の表面にシリカ層を形成(被覆後の粒径は41μm(被覆層の厚み15.5μm))し、この蛍光体を使用して上記と同様に10個の発光装置を製造して環境試験を行った。この結果、3個の発光装置では、500時間後の発光出力の低下がなかったが、残り7個の発光装置では、ほぼ50%の発光出力の低下があった。これは、TEOS由来のシリカ層の場合、クラックが生じやすいためである。
【0067】
実施例5〜7
実施例4で使用されたシリケート系蛍光体に代わって、硫化物蛍光体(根本特殊化学(株)製、品番GSS、粒径21μm)を使用した以外は、実施例4と同様に発光装置14を製造し、環境試験を実施した。被覆後の蛍光体の粒径は30μm(被覆層の厚み4.5μm)であった。すなわち、硫化亜鉛蛍光体を使用し、実施例1〜3の手順によりシルセスキオキサンで表面の全面を被覆した無機蛍光体粒子を製造し、これを封止樹脂26(信越化学株式会社製SCR−1011)に分散させたものでLEDチップ16を封止した発光装置14を10個製造した。なお、当該方法により得られた無機蛍光体粒子の被覆層の膜厚は、実施例1〜3の場合と同程度であった。この発光装置14をエージングボードに実装し、85℃、85%RH(相対湿度)の環境下で20mA通電試験を500時間行い、0時間に対する500時間後の発光出力の変化率を測定した。環境試験の結果、実施例の試験素子は発光出力の低下がなかった。
【0068】
比較例3
被覆層を有さない硫化亜鉛蛍光体を用いた以外は実施例5と同様に10個の発光装置を製造して環境試験を行った。この結果、ほぼ70%の発光出力の低下があった。
【0069】
以上により、本実施例のシルセスキオキサンによるコーティングは、湿度に弱い硫化亜鉛蛍光体の耐湿保護に効果的であることが示され、有用であることがわかった。
【符号の説明】
【0070】
10 無機蛍光体粒子、12 被覆層、14 発光装置、16 LEDチップ、18 ケース部、20,22 アウターリード、24 凹部、26 封止樹脂。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機蛍光体粒子の表面の一部または全面がシルセスキオキサンの架橋硬化膜により被覆されたことを特徴とする被覆層を有する無機蛍光体粒子。
【請求項2】
前記シルセスキオキサンの被覆層の屈折率が1.3〜2.0であることを特徴とする請求項1に記載の被覆層を有する無機蛍光体粒子。
【請求項3】
前記シルセスキオキサンは、以下の構造式で表される繰り返し単位を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の被覆層を有する無機蛍光体粒子。
【化1】

式中Rは炭素数1〜20の有機基であり、Rの少なくとも一部は炭素−炭素二重結合、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基のいずれかを含む。
【請求項4】
前記シルセスキオキサンが、γ−グリシドキシプロピルシルセスキオキサンとフェニルシルセスキオキサンとメチルシルセスキオキサンとの共重合体、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルシルセスキオキサンとフェニルシルセスキオキサンとメチルシルセスキオキサンとの共重合体、3−メタクリロキシプロピルシルセスキオキサンとフェニルシルセスキオキサンとメチルシルセスキオキサンとの共重合体のいずれかであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の被覆層を有する無機蛍光体粒子。
【請求項5】
無機蛍光体粒子とシルセスキオキサンとを溶媒中に投入し、
前記溶媒中に架橋剤を加えて加熱しながら攪拌し、前記無機蛍光体粒子の表面でシルセスキオキサンを架橋により硬化させる、
ことを特徴とする被覆層を有する無機蛍光体粒子の製造方法。
【請求項6】
半導体発光素子により構成された発光光源と、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の被覆層を有する無機蛍光体粒子が分散され、前記発光光源を封止する封止樹脂と、
を備えることを特徴とする発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−137143(P2011−137143A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265442(P2010−265442)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】