説明

補強部材及び補強部材の製造方法

【課題】軽量且つ剛性を有するヒンジ補強材を、製造工程数を削減して製造できるヒンジ補強材の製造方法を提供する。
【解決手段】ヒンジに取り付けられる厚肉のヒンジ取付部120と、ヒンジ取付部120から延出される薄肉の延出部130とからなるアルミニウム合金製のヒンジ補強材110を製造する。ヒンジ取付部120となる第1板材121の端面と延出部130となる第2板材131の端面とを、夫々の一方の面同士が面一となるように接合して長手方向に段差を有する段差板材140とする。次に、段差板材140から個々のヒンジ補強材110を切断又は打ち抜き加工する。ヒンジは例えば自動車のフードヒンジである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒンジにより開閉可能に支持されるアルミニウム又はアルミニウム合金製の開閉部材を補強するアルミニウム又はアルミニウム合金製の補強部材、及び、その補強部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図9は、自動車のフロントフードの周辺の構造を示す斜視図である。図10(a)は一定厚さの補強部材を示す斜視図であり、図10(b)は補強部材本体部と取付部とを別個に製造してそれらを接合させた補強部材を示す斜視図である。
【0003】
自動車のフロントフード520は、エンジンルーム550(エンジンは図示略)の上方を開閉自在に覆う開閉部材であり、フロントフード520後端の左右両側に取り付けられたフードヒンジ500,500'を介して自動車ボディに取り付けられている。フロントフード520は、フロントフードアウタ530とフロントフードインナ540との周縁部をクリンチ結合することによって一体化される。
【0004】
自動車は、高機能化の要請及び排出ガス量の規制等の様々な理由により、軽量化が推し進められており、そのためドア、バックドア、フロントフード520は勿論のことフードヒンジ500,500'についても自動車外板の素材としてアルミニウム合金の適用が進んでいる。
【0005】
しかしながら、アルミニウム合金はヤング率が鋼よりも低く、フロントフード520の開閉に伴い、フードヒンジ500,500'の変形が生じやすいため、フードヒンジ周辺には補強部材が必要となる。
【0006】
そこで、フロントフード520後端の左右両側には、フロントフード520を補強する長尺の補強部材510,510'(図中、破線で示す)が設けられる。この補強部材510,510'は、アルミニウム合金製であり、フロントフードアウタ530とフロントフードインナ540との間に配設される。
【0007】
補強部材とフードヒンジとの取付け部分には特に荷重負荷が掛かるので、補強部材510,510'は、例えば2mm程度の比較的厚肉のアルミニウム合金板材で構成される。例えば、図10(a)に示すように、特許文献1には、フロントフードインナ540の両端部にフード前後方向に沿って配設された高強度の補強部材510が記載されている。
【0008】
また、別の補強部材として、図10(b)に示す補強部材511がある。この補強部材511は、板状の補強部材本体部513と、それより長さが短い板状の取付部512とを取付部512の底面で溶接接合したものである。この補強部材511は、補強部材本体部513が薄肉であるため補強部材全体として軽量である。この補強部材511は、(1)補強部材本体部513を形成するための板材のブランキング工程、(2)取付部512を形成するための板材のブランキング工程、(3)補強部材本体部513のトリミング等の仕上げ工程、(4)取付部512のトリミング等の仕上げ工程、(5)補強部材本体部513と取付部512との接合工程の5工程からなる製造方法により製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−196796号(第4頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、図10(a)に示す補強部材510は、フードにおけるフードヒンジとの取付け部分の強度は確保できるものの、補強部材全体の軽量化が不十分である。そのため、上述した近年における自動車の軽量化要請に反する。また、図10(b)に示した補強部材511は、製造工程数が多すぎて、補強部材の製造が容易ではない。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、開閉部材におけるヒンジとの取付け部分の強度を十分に高めると共に軽量化された補強部材を提供すると共に、この補強部材を少ない製造工程で製造できる補強部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る補強部材は、ヒンジにより開閉可能に支持されるアルミニウム又はアルミニウム合金製の開閉部材を補強するアルミニウム又はアルミニウム合金製の補強部材において、前記ヒンジが取り付けられるヒンジ取付部と、このヒンジ取付部から延出した延出部とを有し、前記延出部は前記ヒンジ取付部より薄く、前記ヒンジ取付部と前記延出部との各下面は面一で前記開閉部材に固定される予定のものであり、前記ヒンジ取付部の端面と前記延出部の端面とは溶接により接合されており、前記ヒンジ取付部と前記延出部の側面は同一の切断又は打ち抜き工程により切断されていることを特徴とする。
【0013】
この補強部材において、例えば前記開閉部材は自動車のフロントフードであり、前記ヒンジはフードヒンジである。
【0014】
この場合において、前記延出部の厚さは前記ヒンジ取付部の厚さの0.3倍乃至0.7倍であることが好適である。
【0015】
また、本発明に係る補強部材の製造方法は、ヒンジにより開閉可能に支持されるアルミニウム又はアルミニウム合金製の開閉部材を補強するアルミニウム又はアルミニウム合金製の補強部材であって、前記ヒンジが取り付けられるヒンジ取付部と、このヒンジ取付部から延出し前記ヒンジ取付部より薄い延出部とを有する補強部材の製造方法において、前記ヒンジ取付部となる第1板材の端面と前記延出部となる第2板材の端面とを、夫々の一方の面同士が面一となるように接合して長手方向に段差を有する段差板材とする工程と、前記段差板材から個々のヒンジ補強部材形状に切断加工又は打ち抜き加工により分離する工程とを有することを特徴とする。
【0016】
更に、本発明に係る他の補強部材の製造方法は、ヒンジにより開閉可能に支持されるアルミニウム又はアルミニウム合金製の開閉部材を補強するアルミニウム又はアルミニウム合金製の補強部材であって、前記ヒンジが取り付けられるヒンジ取付部と、このヒンジ取付部から延出し前記ヒンジ取付部より薄い延出部とを有する補強部材の製造方法において、前記ヒンジ取付部となる第1板材の端面と前記延出部となる第2板材の端面とを、板厚の中心を通る面の位置を相互に整合させて接合して段差板材とする工程と、前記段差板材から個々のヒンジ補強部材形状に切断加工又は打ち抜き加工により分離する工程とを有することを特徴とする。
【0017】
この他の製造方法において、前記補強部材は平面視で湾曲した部分を有する場合、前記ヒンジ補強部材形状に分離する工程は、前記補強部材の湾曲部分の湾曲方向を同一方向に揃えて切断又は打ち抜くことが好適である。
【0018】
また、本発明の製造方法において、例えば、前記開閉部材は自動車のフロントフードであり、前記ヒンジはフードヒンジである。
【0019】
この場合において、前記延出部の厚さは前記ヒンジ取付部の厚さの0.3倍乃至0.7倍であることが好適である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の補強部材は、ヒンジ取付部の厚さが厚いので、開閉部材とヒンジとの取付け部分の強度を十分に高く確保でき、更にヒンジ取付部から延出される延出部の厚さが薄いので補強部材全体としては軽量にすることができる。また、本発明の補強部材の製造方法は、第1板材の端面と第2板材の端面とを夫々の一方の面同士が面一となるように接合して段差板材とする工程、又は、第1板材の端面と第2板材の端面とを板厚の中心を通る面の位置を相互に整合させて接合して段差板材とする工程と、前記段差板材から個々のヒンジ補強部材を分離する工程との2工程で、また仕上げ工程を含めれば3工程で、補強部材を製造できるので、従来より少ない製造工程で製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態に係る補強部材を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態に係る補強部材をフロントフードに固定した状態を示すフロントフードの裏面図である。
【図3】第1実施形態に係る補強部材の製造方法を順に示す斜視図であり、そのうち(a)は第1板材と第2板材とを、一方の面同士を面一となるように位置合わせする工程を示し、(b)は第1板材と第2板材とそれらの端面で接合して段差板材を得る工程を示し、(c)は個々の補強部材を切断分離する工程を示す。
【図4】本発明の第2実施形態に係る補強部材を示す斜視図である。
【図5】ヒンジ取付部と延出部との位置関係を定義する図であり、そのうち(a)はヒンジ取付部の中心面と延出部の中心面とが一致した場合を示し、(b)は両者の中心面が若干ずれた場合を示す。
【図6】第2実施形態に係る補強部材の製造方法を工程順に示す斜視図であり、そのうち(a)は第1板材と第2板材とを、板厚の中心面同士を位置合わせする工程を示し、(b)は第1板材と第2板材とを接合して段差板材を得る工程を示し、(c)は段差板材から補強部材を切断分離する工程を示す。
【図7】第2実施形態に係る補強部材をフロントフードの形状に沿ってプレス加工する工程を説明する断面図である。
【図8】比較例に係る補強部材の製造方法を示す斜視図である。
【図9】自動車のフロントフードの周辺の構造を示す斜視図である。
【図10】従来例又は比較例に係る補強部材を示す斜視図であり、そのうち(a)は一定肉厚の合金板材から製造した従来例に係る補強部材を示し、(b)は補強部材本体部と取付部とを別個に製造してそれらを接合して製造した比較例に係る補強部材を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1実施形態)
以下、添付の図面を参照して本発明の第1実施形態について具体的に説明する。まず、本発明の補強部材を説明する。図1は本発明の補強部材を説明する概略図である。図2は、本発明の補強部材をフロントフードに適用した状態を示す模式図である。
【0023】
図1及び図2に示すように、補強部材110は、厚肉のヒンジ取付部120と薄肉の延出部130とからなる。ヒンジ取付部120と延出部130とはその端面で溶接等により接合されており、両者間に接合部129が形成されている。補強部材110は、アルミニウム又はアルミニウム合金製であり、例えばAA又はJIS規格に規定される3000系、5000系、6000系、7000系等のアルミニウム合金材料が適宜選択される。後述するように、ヒンジ取付部120と延出部130の側面は同一の切断又は打ち抜き工程により切断されている。ヒンジ取付部120と延出部130との各下面は面一で溶接等によりフロントフード520に固定される。
【0024】
ヒンジ取付部120には、取付孔126が複数穿設されている。取付孔126にはボルトが螺合されるようになっており、ヒンジ(例えば図9のフードヒンジ500,500')の一方の回転部材とヒンジ取付部120とが、ボルトにより固定されるようになっている。ヒンジの他方の回転部材は、自動車ボディに固定される。ヒンジ取付部120が厚肉であるのは、ヒンジ取付部120自体の剛性を担保するためである。延出部130は、ヒンジ取付部120から、例えば、フロントフード520前方方向に延出しており、フロントフード520の幅方向両端部においてその強度を確保する。なお、図2に示す補強部材580は、フロントフード520の前方部の強度を確保する。
【0025】
ヒンジ取付部120の厚さ及び延出部130の厚さは特に限定されるものではないが、例えば延出部130の厚さは、ヒンジ取付部120の厚さの0.3倍乃至0.7倍とすることができる。延出部130の厚さがヒンジ取付部120の厚さの0.3倍よりも薄いと延出部130の剛性が損なわれるからであり、一方、延出部130の厚さがヒンジ取付部120の厚さの0.7倍よりも厚いとフード補強部材110全体の重量が増加して自動車等の軽量化の要請に反するからである。
【0026】
次に、本実施形態に係る補強部材の製造方法について、図3(a)乃至(c)を参照して説明する。
【0027】
まず、図3(a)に示すように、ヒンジ取付部120となる厚肉の第1板材121と、延出部130となる薄肉の第2板材131とを、夫々その面121aと面131aとが面一となるように位置合わせする。第1板材121及び第2板材131は、アルミニウム又はアルミニウム合金製であり、例えばAA又はJIS規格に規定される3000系、5000系、6000系、7000系等のアルミニウム合金材料から適宜選択される板材である。板材の厚さは特に限定されるものではなく、補強部材が取り付けられるフロントフード520の厚さ、形状等を考慮して適宜選択される。
【0028】
次に、図3(b)に示すように、第1板材121の端面と第2板材131の端面とを溶接等により接合して段差板材140を形成する。段差板材140は、板材の長手方向に段差142を有している。段差142の寸法は特に限定されるものではなく、補強部材110の剛性を確保しつつ且つ軽量化を達成する観点から適宜選択される。第1板材121と第2板材131との接合方法は、特に限定されるものではないが、例えばMIG溶接、TIG溶接、摩擦攪拌接合、電子ビーム溶接、プラズマ溶接、レーザ溶接、及びこれらの組み合わせを使用できる。レーザ溶接は、炭酸ガスレーザよりもYAGレーザ、ファイバーレーザ、又はディスクレーザによる接合が好ましい。YAGレーザの波長(約1.06μm)、ファイバーレーザの波長(約1.07μm)、及びディスクレーザの波長(約1.06μm)に対するアルミニウム合金の吸収率は、炭酸ガスレーザの波長(約10.6μm)に対する吸収率よりも数倍大きいからである。
【0029】
次に、図3(c)に示すように、段差板材140を破線110tの位置で切断することにより、個々の補強部材110に1回の工程にて分離する。補強部材110の分離方法は特に限定されるものではないが、例えばノコ刃若しくはせん断刃による切断、又はプレスによる打ち抜き加工(ブランキング)等を用いることができる。これにより、ヒンジ取付部120と延出部130の側面は同一の切断又は打ち抜き工程により切断されることになる。
【0030】
その後は、必要によりプレス成形、取付孔126等を形成するための穿孔、トリミング等の仕上げを行い、図1に示したように補強部材110が製造される。なお、プレス成形、穿孔、トリミング等の仕上げ工程は、例えば曲げ加工のみ等の比較的単純な成形加工であるため、第1板材121と第2板材131との溶接部分に対して歪み等の影響を与える虞は少ない。
【0031】
補強部材110は、特に荷重が印加されるヒンジ取付部120の厚さを厚くしてヒンジ取付部120の剛性を確保すると共に、延出部130の肉厚を薄くして補強部材全体を軽量にしている。そして、本実施形態に係る補強部材の製造方法によれば、このような補強部材110を、(1)第1板材121と第2板材131との接合工程、(2)段差板材140のブランキング工程、(3)プレス成形、トリミング等の仕上げ工程のわずか3工程で製造できる。
【0032】
図10(a)に示す一定の厚さの合金板材から製造した従来例に係る補強部材510は、(1)板材のブランキング工程、(2)プレス成形、トリミング等の仕上げ工程の2工程で製造することができるものの、補強部材510には厚さが薄い部分が設けられていないので軽量化の要請に反する。また、図10(b)に示す比較例に係る補強部材511は、上述したように工程数が多すぎて簡易に補強部材を製造できない。これらに対し、本発明製造方法は、工程数を削減して、軽量且つ剛性を有する補強部材を製造することができる。
【0033】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について具体的に説明する。まず、第2実施形態に係る補強部材の構造について説明する。図4は本実施形態に係る補強部材を説明する概略図である。
【0034】
図4及び図5に示すように、補強部材210は、厚肉のヒンジ取付部220と薄肉の延出部230とからなる。ヒンジ取付部220の中心面220pの位置と延出部230の中心面230pの位置とを相互に整合させて、ヒンジ取付部220と延出部230とが、その端面で接合されており、補強部材210は接合部229を有する。補強部材210は、アルミニウム又はアルミニウム合金製であり、第1実施形態と同様に、例えばAA又はJIS規格に規定される3000系、5000系、6000系、7000系等のアルミニウム合金材料が適宜選択される。後述するように、ヒンジ取付部220と延出部230の側面は同一の切断又は打ち抜き工程により切断されている。延出部230は、フロントフード前方方向にカーブ状に(曲折して斜めに)延出される。ヒンジ取付部220には、取付孔226が複数穿設されている。なお、延出部230が湾曲するだけでなく、ヒンジ取付部220が湾曲したものでもよい。
【0035】
ヒンジ取付部220の中心面220pの位置と延出部230の中心面230pの位置とを相互に整合させるとは、図5(a)に示すように、ヒンジ取付部220の中心面220pの位置と延出部230の中心面230pの位置とが一致する場合のみならず、図5(b)に示すように、中心面230pの位置と中心面220pの位置との多少のずれLt(mm)が存在する場合も許容する。即ち、ヒンジ取付部220の厚さをL2(mm)とし、延出部230の厚さをL1(mm)とすると、後述する理由により、Lt≦(L2−L1)×0.25まで、中心面230p及び中心面220pの位置が相互にずれても良い。
【0036】
ヒンジ取付部220の厚さ及び延出部230の厚さは特に限定されるものではないが、例えば第1実施形態と同様に、延出部230の厚さはヒンジ取付部220の厚さの0.3倍乃至0.7倍とすることができる。
【0037】
次に、本実施形態に係る補強部材220の製造方法について、図6(a)乃至(c)を参照して説明する。
【0038】
まず、図6(a)に示すように、ヒンジ取付部220となる第1板材221は、延出部230となる第2板材231の略2倍の厚さを有する。そして、第1板材221の中心を通る中心面221pの位置と、第2板材231の中心を通る中心面231pの位置とを相互に整合させて配置する。中心面221pと中心面231pとの位置の整合は両者が一致する場合のみならず、中心面231pと中心面221pとが相互にLt(mm)だけずれた場合も含む。ここで、第1板材221の厚さをL2(mm)とし、第2板材の厚さをL1(mm)とすると、Lt≦(L2−L1)×0.25である。第1板材221及び第2板材231は、第1実施形態と同様に、例えばAA又はJIS規格に規定される3000系、5000系、6000系、7000系等のアルミニウム合金材料から適宜選択される板材である。
【0039】
次に、図6(b)に示すように、ヒンジ取付部220となる第1板材221の中心を通る面221pと、延出部230となる第2板材231の中心を通る面231pとを位置合わせさせた状態で、夫々の端面同士を溶接等により接合して、段差板材240を形成する。段差板材240は、上面と下面とに、板材の長手方向に段差242を有している。第1板材221と第2板材231との接合方法は、第1実施形態と同様にレーザ溶接、MIG溶接、TIG溶接等を使用することができる。
【0040】
次に、図6(c)に示すように、段差板材240を破線210tで示す位置で切断して、補強部材210を一回の工程にて分離する。この切断部210tは、図4に示す湾曲した補強部材210の平面的形状に整合するものであり、延出部230の湾曲した延出方向を一方向に配向させて揃えて切断分離する。分離方法は、第1実施形態と同様に、例えばノコ刃若しくはせん断による切断、又はプレスによる打ち抜き加工(ブランキング)を用いることができる。これにより、ヒンジ取付部220と延出部230の側面は同一の切断又は打ち抜き工程により切断されることになる。
【0041】
その後は、必要によりプレス成形、取付孔226等を形成するための穿孔、トリミング等の仕上げを行い、図4に示したように補強部材210が製造される。
【0042】
図7に示すように、プレス成形は、補強部材210の形状をフロントフード520の形状に合わせるように行われる。このプレス成形により、図6(b)に示した段差242は押しつぶされて延出部230の下面がヒンジ取付部220の下面と一致するようになる。そこで、このヒンジ取付部220と延出部230とがフロントフード520の内面に溶接により接合される。このように、プレス成形により延出部230が変形するので、補強部材210とフロントフード520との密着性が阻害されることはない。また、補強部材210は面対称な形状であるため上下面のいずれでもフロントフード520の内面に溶接により接合できる。しかし、中心面230pの位置が中心面220pから上方向又は下方向にLtを超えてずれると、補強部材210の段差のうちいずれか一方が大きくなり、プレス成形しても段差のつぶれ度合いが不十分で、補強部材210とフロントフード520との密着性が阻害される。従って、上述したように、中心面230pの位置が中心面220pから上方向又は下方向にずれる場合は、(L2−L1)×0.25(mm)を上限値とする。
【0043】
補強部材210は、特に荷重が印加されるヒンジ取付部220の厚さを厚くしてヒンジ取付部220の剛性を確保すると共に、延出部230の肉厚を薄くして補強部材全体を軽量にしている。そして、本実施形態に係る補強部材の製造方法によれば、このような補強部材210を、(1)第1板材221と第2板材231との接合工程、(2)段差板材240のブランキング工程、(3)プレス成形、トリミング等の仕上げ工程のわずか3工程で製造することができる。しかも、図6(c)に示すように、延出部230の斜めカーブ方向を揃えて点線210tで囲み、補強部材210を抜き取ることにより、無駄となる板材部分を削減することができ、コストを軽減して補強部材210を製造することができる。この点、図8に示すように、断面L字状板材640から点線640tで囲み、補強部材を抜き取る手法では、(1)第1板材641と第2板材642との接合工程、(2)断面L字状板材640のブランキング工程、(3)トリミング等の仕上げ工程の3工程で製造することができる。しかしながら、この製造方法では、図8に示すように、抜き取られる補強部材の間に使用されない未使用材料部分650が生じ、そのため板材材料の無駄となり、補強部材の製造コストが増加する問題点がある。これに対し、本発明製造方法は、工程数が少なく且つ製造コストを抑制して、軽量且つ剛性を有する補強部材を製造できる。
【0044】
(その他の実施形態)
上述の場合においては、ヒンジは自動車のフロントフードのフードヒンジについて説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、厚肉のヒンジ取付部と薄肉の延出部とからなる種々の補強部材に適用されるものであり、例えば、自動車の左右対称部位のヒンジ部、即ち、ドアヒンジ、バックドアヒンジ、トランクヒンジ等に使用される補強部材としても適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
110:補強部材
120:ヒンジ取付部
121:第1板材
126:取付孔
130:延出部
131:第2板材
140:段差板材
142:段差
210:補強部材
220:ヒンジ取付部
221:第1板材
226:取付孔
230:延出部
231:第2板材
240:段差板材
242:段差
500:フードヒンジ
510:従来の補強部材
512:取付部
513:補強部材本体部
520:フロントフード
530:フロントフードアウタ
540:フロントフードインナ
550:エンジンルーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒンジにより開閉可能に支持されるアルミニウム又はアルミニウム合金製の開閉部材を補強するアルミニウム又はアルミニウム合金製の補強部材において、前記ヒンジが取り付けられるヒンジ取付部と、このヒンジ取付部から延出した延出部とを有し、前記延出部は前記ヒンジ取付部より薄く、前記ヒンジ取付部の端面と前記延出部の端面とは溶接により接合されており、前記ヒンジ取付部と前記延出部の側面は同一の切断又は打ち抜き工程により切断されていることを特徴とする補強部材。
【請求項2】
前記開閉部材は自動車のフロントフードであり、前記ヒンジはフードヒンジであることを特徴とする請求項1に記載の補強部材。
【請求項3】
前記延出部の厚さは前記ヒンジ取付部の厚さの0.3倍乃至0.7倍であることを特徴とする請求項1又は2に記載の補強部材。
【請求項4】
ヒンジにより開閉可能に支持されるアルミニウム又はアルミニウム合金製の開閉部材を補強するアルミニウム又はアルミニウム合金製の補強部材であって、前記ヒンジが取り付けられるヒンジ取付部と、このヒンジ取付部から延出し前記ヒンジ取付部より薄い延出部とを有する補強部材の製造方法において、前記ヒンジ取付部となる第1板材の端面と前記延出部となる第2板材の端面とを、夫々の一方の面同士が面一となるように接合して長手方向に段差を有する段差板材とする工程と、前記段差板材から個々のヒンジ補強部材形状に切断加工又は打ち抜き加工により分離する工程とを有することを特徴とする補強部材の製造方法。
【請求項5】
ヒンジにより開閉可能に支持されるアルミニウム又はアルミニウム合金製の開閉部材を補強するアルミニウム又はアルミニウム合金製の補強部材であって、前記ヒンジが取り付けられるヒンジ取付部と、このヒンジ取付部から延出し前記ヒンジ取付部より薄い延出部とを有する補強部材の製造方法において、前記ヒンジ取付部となる第1板材の端面と前記延出部となる第2板材の端面とを、板厚の中心を通る面の位置を相互に整合させて接合して段差板材とする工程と、前記段差板材から個々のヒンジ補強部材形状に切断加工又は打ち抜き加工により分離する工程とを有することを特徴とする補強部材の製造方法。
【請求項6】
前記補強部材は平面視で湾曲した部分を有し、前記ヒンジ補強部材形状に分離する工程は、前記補強部材の湾曲部分の湾曲方向を同一方向に揃えて切断又は打ち抜くことを特徴とする請求項5に記載の補強部材の製造方法。
【請求項7】
前記開閉部材は自動車のフロントフードであり、前記ヒンジはフードヒンジであることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載の補強部材の製造方法。
【請求項8】
前記延出部の厚さは前記ヒンジ取付部の厚さの0.3倍乃至0.7倍であることを特徴とする請求項4乃至7のいずれか1項に記載の補強部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−228606(P2010−228606A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78866(P2009−78866)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】