説明

複合型金属成形体およびその製造方法ならびにこれを用いた電磁駆動装置および光量調整装置

【課題】成形体の内部および表面において水分の付着あるいは浸入を防止して、防錆効果を向上させることが可能な複合型金属成形体を提供する。
【解決手段】相互に溶着した金属粒子33間に樹脂結合剤35および樹脂充填剤36が介在し、表面に複合めっき層38が形成された本発明による複合型金属成形体は、樹脂結合剤35で被覆された金属粒子33を成形型に投入してこれを加圧成形することにより、成形体34を得る。次に、この成形体34中に介在する空隙部分に樹脂充填剤36を含浸させてこれを硬化させた後、成形体34の表面に複合めっき層38を形成することによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相互に溶着した軟磁性材料を含む金属粒子間に樹脂結合剤の炭化物が介在する複合型金属成形体およびその製造方法ならびにこの複合型金属成形体を磁気回路の一部に使用した電磁駆動装置および光量調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
結合剤として樹脂を用い、この樹脂と共に金属粒子を成形型内で圧縮成形する粉末成形法が知られている。この粉末成形法によって得られる成形品、つまり複合型金属成形体は、その寸法形状が成形型に極めて近似したものとなり、成形後の後加工を基本的に必要としないという利点を持つ。このため、粉末成形法は主として材料価格の高いものや、切削加工が困難なものを製造する際に有効な方法であると言える。
【0003】
しかしながら、この粉末成形法によって得られる複合型金属成形体は、金属粒子間に結合剤である樹脂が介在した構造となっているため、その機械的強度に制約がある。このため、上述したような複合型金属成形体は、機械的強度が比較的問題とされない部材として用いられることが多い。例えば、金属粒子として希土類磁石粉末を用いた成形磁性体がモータの円柱状をなすロータなどに採用されている。さらに、金属粒子として軟磁性材料を用いたモータのヨークやステータ、あるいは光学機器に組み込まれるアクチュエータのヨークやトランスの他、磁気ヘッドのコアなどにもその適用範囲が拡げられている。
【0004】
一方、このような樹脂結合剤と金属粒子とからなる複合型金属成形体の防錆処理としては、塗装処理やめっき処理などが知られている。その中でもめっき膜で覆う方法は、簡便性や確実性の面から極めて有効な方法であると考えられている。
【0005】
しかしながら、複合型金属成形体の耐食性を高めるためにめっき処理を行うと、成形体自体が多孔質のため、めっき液が成形体の微細空隙内に浸透できない場合がある。また、内部に浸透できたとしても、そこからめっき液を排除することができず、これが残されたままとなってしまう可能性がある。このため、めっき液が浸透できなかった個所や、めっき液が取り残されてしまった個所から腐食が進行し、長期的に充分な耐食性を確保することが困難となる。
【0006】
このようなめっき膜形成の不具合に対処するため、例えば特許文献1にて提案された技術が知られている。これは、Fe−B系ボンド磁石の製造に際し、めっき液や洗浄液などが成形体の内部に浸透または残留するのを防止しつつ、めっき層を形成することができるようにしたものである。より具体的には、磁石素材の表面に露出する空孔にガラスなどの無機物や樹脂充填剤を含浸させ、この表面を研摩処理により改質させた後、アルカリ性めっき浴によるNiPまたはNiSnストライクめっき層を磁石素材の表面に直接形成する。しかる後、電気めっき層を重ねて形成することにより、耐食性を向上させるようにしている。
【0007】
【特許文献1】特開平09−027433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
鉄などの軟磁性材料を含む成形体を用いた電磁部品を特許文献1に開示された方法を用いて製造する場合、予め成形体の空孔を充填するために無機物や樹脂充填剤などを成形体に含浸させる必要がある。このため、成形体の表面に残留している含浸材料をめっき層の形成に先立ってバレル研磨やサンドブラストなどの表面処理によって除去しなければならない。
【0009】
しかしながら、この表面処理によって加えられた加工歪により、成形体の磁気特性が劣化してしまう可能性がある。この磁気特性の劣化を抑制しようとすると、成形体に対する表面処理が不充分となってしまい、成形体の表面から含浸材料を完全に除去することができない。この結果、成形体の表面に含浸材料が残留していない箇所と残留している箇所とが存在することとなる。成形体の表面に残留した含浸材料が疎水性の場合、後に続くめっき処理の際に含浸材料の残留領域に対するめっき液の接触が不充分となり、電子の授受が円滑に行われず、結果としてめっき層の形成が困難となる。このため、めっき層の密着強度が向上したとしても、その一方でめっき層の存在しない微小な領域が存在する結果、めっき膜とめっき膜の存在しない微小な領域との隙間に水分が付着または浸入した場合、この部分が起点となって錆が発生してしまう可能性がある。
【0010】
本発明の目的は、上述したような複合型金属成形体の表面に対する防錆効果の向上に加え、その内部への水分の進入を確実に防止し得る複合型金属成形体およびその製造方法ならびにこれを用いた電磁駆動装置および光量調整装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の形態は、金属粒子と、金属粒子と共に加圧成形されて成形体を画成する樹脂結合剤と、前記成形体の空隙部分に介在する樹脂充填剤と、前記成形体の表面を覆う撥水層とを具えたことを特徴とする複合型金属成形体にある。
【0012】
本発明においては、複合型金属成形体の表面が撥水層にて形成されており、水滴や水分が複合型金属成形体の表面に付着しにくく、はじかれ易くなっている。また、成形体の空隙部分に樹脂充填剤が介在しており、水滴などの水分は成形体の内部に浸透しない。
【0013】
本発明において対象となる金属粉末は、目的とする複合型金属成形体に要求される条件を満たすものであれば、任意のあらゆる金属を採用することができ、絶縁層を被覆したものであってもよい。また、その粒度(粒径)は工業的に圧縮成形が可能でありさえすればよい。
【0014】
本発明において採用し得る樹脂結合材としては、金属粉末を成形型のキャビティ内に充填して圧縮形成する際に、金属粉末との結合力が強く、成形後に目的とする熱処理に適したものである。例えば、フラン樹脂やエポキシ樹脂などを用いることができるけれども、これらに限定されるわけではない。なお、フラン樹脂とはフラン環を有する樹脂の総称であり、フルフリルアルコール・フルフラール共縮合型,フルフリルアルコール型,フルフラール・フェノール共縮合型,フルフラール・ケトン共縮合型,フルフリルアルコール・尿素共縮合型,フルフリルアルコール・フェノール共縮合型などの樹脂が該当する。
【0015】
本発明において採用し得る樹脂充填剤としては、シリコーン系樹脂,(メタ)アクリル系樹脂,フェノール樹脂,エポキシ樹脂,ビニル樹脂,スルホン樹脂などを単独または2種類以上組み合わせたものを適宜選択して利用することができる。
【0016】
本発明の第1の形態による複合型金属成形体において、撥水層がフッ素化合物と金属組成物とを含む複合めっき層であってよい。この場合、成形体の表面と撥水層との間に形成されためっき下地層をさらに具えることができる。本発明において採用し得る複合めっき層の金属組成物は、例えばニッケルまたはニッケル合金を挙げることができる。また、めっき下地層は複合めっき層の金属組成物と同じ金属、つまりニッケルまたはその合金を利用することが好ましい。
【0017】
金属粒子が純鉄,センダスト,パーマロイ、珪素鋼およびこれらの何れかを主たる成分とする合金などを単独で、または2種類以上組み合わせた軟磁性材料を含むものであってよい。
【0018】
本発明の第2の形態は、金属粒子を樹脂結合剤で被覆して成形原料を得るステップと、前記成形原料を成形型に投入し、これを加圧成形することによって成形体を得るステップと、前記成形体を加熱することにより前記樹脂結合剤を介して前記金属粒子を一体化させるステップと、前記成形体の空隙部分に樹脂充填剤を含浸させてこれを硬化させるステップと、前記樹脂充填剤を硬化させた前記成形体の表面に撥水層を形成するステップとを具えたことを特徴とする複合型金属成形体の製造方法にある。
【0019】
成形体の作成にあたっては、粉末冶金の分野において公知の成形技術を流用することができる。例えば、常温成形法や温間成形法、あるいは金型を潤滑して成形する金型潤滑法などを用いて成形体を得ることができる。
【0020】
成形体の内部の空隙部分に樹脂充填剤を含浸させる場合、減圧雰囲気または加圧雰囲気にて樹脂充填剤を単独で、あるいは溶剤を混合した状態で行うことが可能である。溶剤を併用した場合、後工程でこの溶剤を除去することが好ましい。
【0021】
本発明の第2の形態による複合型金属成形体において、成形体を加熱することにより樹脂結合剤を介して金属粒子を一体化させるステップは、樹脂結合剤を焼成すると共に金属粒子を相互に溶着させ、金属粒子間に樹脂結合剤の炭化物が介在する焼成状態の成形体を得るステップを含むことが好ましい。例えば、金属粒子と樹脂結合剤とを混合し、金属粒子の表面に樹脂結合剤をコーティングしたものを成形型内に充填し、これを圧縮して成形体を得た後、これを熱処理することにより樹脂結合剤を焼成すると共に金属粒子を相互に溶着させ、焼成成形体を形成する。
【0022】
この場合、成形体の表面に撥水層を形成するステップに先立ち、樹脂充填剤を硬化させた成形体の表面を平滑に研磨するステップをさらに具えることができる。これにより、例えばバレル研磨,サンドブラスト,磁気研磨などの公知の方法を用いて成形体の表面に露出する樹脂充填剤を除去することができる。なお、アクリル樹脂系の樹脂充填剤の中には、含浸後に防錆剤が添加された純水を用いる濯ぎ工程により、成形体の表面に残留している樹脂充填剤を除去することができるものもあることに注意されたい。この場合、成形体の表面に残留している樹脂充填剤を除去した後、成形体を熱水または乾燥炉中に所定時間放置し、成形体内部の樹脂充填剤を硬化させることができる。
【0023】
成形体の表面に形成される撥水層がフッ素化合物と金属組成物とを含む複合めっき層であってよい。この複合めっき層を成形体の表面に形成する場合、含フッ素化合物粒子を共析できるめっき浴であれば、電解および無電解の何れの浴を用いることができる。しかしながら、ピンホールの発生が少なく均一な膜厚を得ることが比較的容易であることから、無電解めっきにて行うことが好ましいと言えよう。具体的に無電解めっきの例としては、フッ素化合物の粒子を含んだニッケル,ニッケルリン合金,ニッケル鉄合金などのめっき浴が挙げられる。また、フッ素化合物粒子としては、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記述する)などの四フッ化エチレン樹脂や、フッ化黒鉛,フッ化ビニリデン樹脂,フッ化ビニル樹脂などで構成される粒子を挙げることができる。これらのフッ素化合物粒子の粒径は、0.01〜10μmの範囲にあるものが好適である。粒径が10μmを超えると、めっき液中での分散性が低下して形成される複合めっき層中に均一に共析しにくくなる可能性が高い。
【0024】
この複合めっき層は、成形体の表面の撥水性を充分に確保できるような厚みが必要であり、通常は1〜3μm程度とすることが好ましい。
【0025】
複合めっき層の撥水性をさらに高めるために熱処理を施すことも有効である。この熱処理は、複合型金属成形体の表面に露出するフッ素化合物粒子を溶融させてフッ素化合物による被覆領域を広げるため、フッ素化合物の融点に対応させて加熱することが必要である。例えば、PTFEを用いた場合の成形体に対する加熱処理は、PTFEの融点である327℃以上の温度、例えば350℃程度を数分から1時間程度保持することにより行われる。
【0026】
成形体の表面に撥水層を形成するステップに先立ち、成形体の表面にめっき下地層を形成するステップをさらに具えることができる。この下地めっき層も、公知の電解めっきまたは無電解めっきにより形成することが可能であるが、ピンホールの発生が少なく、均一な膜厚を得ることが比較的容易である無電解めっきにて行うことが好ましい。ニッケルまたはニッケル合金系の無電解めっきを行う場合、硫酸ニッケルや塩化ニッケルなどのニッケル塩を金属源として用い、クエン酸,りんご酸,マロン酸,グリシンなどの有機物を錯化剤として用い、還元剤としてまた次亜リン酸ナトリウム,ホスフィン酸ナトリウム,水素化素ナトリウム,ヒドラジンなどを用いためっき液を採用することが可能である。
【0027】
なお、無電解ニッケルめっき液に関し、浴安定剤として徴量の鉛またはビスマス化合物などを添加したり、めっき下地層の特性を改善する目的で数種類の微量添加剤を添加する場合もある。これらのめっき液を90℃程度に調整して用いることで、めっき液中の還元剤の作用により、成形体の表面にニッケル合金系のめっき下地層が形成される。また、下地めっき層の厚みは、その上に重ねられる複合めっき層の密着性を確保するため、必要最小限となる厚みにすることが望ましく、好ましくは1〜10μm、特に1〜3μmとすることがさらに好ましい。
【0028】
本発明の第3の形態は、永久磁石と、励磁コイルへの通電により磁気回路を構成するヨークとを具え、このヨークが本発明の第1の形態による複合型金属成形体か、あるいは本発明の第2の形態により製造された複合型金属成形体によって構成されていることを特徴とする電磁駆動装置にある。
【0029】
本発明の第4の形態は、相互に組み合わされて絞り開口を画成する少なくとも2枚の羽根部材と、これら羽根部材の少なくとも一つを駆動して前記絞り開口の大きさを変更するための羽根駆動機構とを具え、前記羽根駆動機構が本発明の第3の形態による電磁駆動装置を含むことを特徴とする光量調整装置にある。
【発明の効果】
【0030】
本発明の複合型金属成形体によると、金属粒子の間に樹脂結合剤および樹脂充填剤が介在し、表面に撥水層が形成されているので、複合型金属成形体の表面に微小欠陥が存在していても、水滴などの水分を付着させにくくすることができる。しかも、複合型金属成形体の内部に水分が侵入することもないので、これが原因となる発錆を未然に防止することが可能であり、従来のものよりも防錆効果を向上させることができる。なお、このような効果は、本発明の製造方法によって得られる複合型金属成形体においても同様である。
【0031】
撥水層がフッ素化合物と金属組成物とを含む複合めっき層の場合、撥水機能に加えて防錆機能を併せ持たせることができる。この複合めっき層の内側にめっき下地層をさらに形成した場合、密着性の良好な高品質の複合めっき層を形成することができる。
【0032】
金属粒子が軟磁性材料を含む場合、複雑な形状であっても望ましい磁気特性を持った複合型金属成形体を容易に製造することができる。
【0033】
成形体を加熱して金属粒子を一体化させるステップが、樹脂結合剤を焼成すると共に金属粒子を相互に溶着させ、金属粒子間に樹脂結合剤の炭化物が介在する焼成状態の成形体を得るステップを含む場合、成形体の機械的強度を高めることができる。
【0034】
成形体の表面への撥水層の形成に先立ち、樹脂充填剤を硬化させた成形体の表面を平滑に研磨するようにした場合、品質の良好な撥水層を形成することができる。特に、成形体の表面に形成される撥水層がフッ素化合物と金属組成物とを含む複合めっき層の場合、密着性の良好な高品質の複合めっき層を形成することが可能である。また、この複合めっき層を形成するステップに先立ち、成形体の表面にめっき下地層を形成するステップをさらに具えた場合、さらに密着性に優れた複合めっき層を形成することができる。
【0035】
本発明の電磁駆動装置によると、励磁コイルへの通電により磁気回路を構成するヨークが本発明による複合型金属成形体にて形成されているので、従来のものと同等の部品点数で信頼性の高い電磁駆動装置を得ることができる。
【0036】
本発明の光量調整装置によると、羽根部材の少なくとも一つを駆動して絞り開口の大きさを変更するための羽根駆動機構が本発明の電磁駆動装置を含んでいるので、従来のものと同等の部品点数で絞り開口量の制御を安定して行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明を光学機器の光量調整装置に応用した一実施形態について、その外観を分解状態で示す図1を参照しながら以下に詳細に説明する。しかしながら、本発明はこのような実施形態のみに限らず、例えば磁気記録ヘッドのコア材料や、各種電動モータのヨークまたはステータへの適用も可能である。
【0038】
図1に示した本実施形態における光学機器の光量調整装置10は、相互に組み合わされて絞り開口を画成する2枚の絞り板11,12と、これら2枚の絞り板11,12を駆動して絞り開口の大きさを変更するための絞り板駆動機構13とを具える。また、本実施形態における絞り板駆動機構13は、リンクアーム14と、ケース15と、地板16と、電磁駆動装置17とを含み、この絞り板駆動機構13が本発明の羽根駆動機構として機能する。
【0039】
リンクアーム14は、その両端部に形成されたピン18が2枚の絞り板11,12の基端部にそれぞれ形成された長孔19に対して係合し、光を通す開口20が形成されたケース15は、2枚の絞り板11,12を往復動自在に支持する。光を通す開口21が形成された地板16には、リンクアーム14に当接してその揺動端を規定するための図示しないストッパ部が突設されている。
【0040】
本実施形態では、リンクアーム14を揺動させて2枚の絞り板11,12を同時に逆方向に駆動させ、これによって絞り開口の開度を変化させるようにしているが、絞り板11,12の何れか一方のみを駆動して絞り開口の大きさを変更させるようにしてもよい。なお、本実施形態における一方の絞り板11には、絞り開口によって調整し切れないような過大光量が通過するのを遮るためのNDフィルタ22が固定状態で取り付けられている。また、本発明における羽根部材としての絞り板11,12の数を3枚以上に設定することも可能である。
【0041】
本実施形態における電磁駆動装置17は、本発明の永久磁石としてのロータマグネット23と、励磁コイル24と、この励磁コイル24への通電により磁気回路を構成するヨーク25とを具えている。
【0042】
半周ずつ2極に着磁された円筒状をなすロータマグネット23は、地板16に組み込まれた図示しない軸受を介して回転自在に地板16に取り付けられている。ロータマグネット23から突出する支軸26の一端部は、リンクアーム14の中央部に一体的に連結されている。ロータマグネット23の他端部は、地板16に突設された一対のブラケット27の先端部に嵌着されるキャップ部材28に図示しない軸受を介して回転自在に支持されている。
【0043】
本実施形態における励磁コイル24は、ロータマグネット23を駆動するための駆動コイル24dと、ロータマグネット23の回転速度に比例した逆起電力を生成してこれをロータマグネット23の回転の制御に利用するための制動コイル24bとを具えている。これら駆動コイル24dおよび制動コイル24bがヨーク25を挟んで180度隔てて対向配置されている。これら駆動コイル24dおよび制動コイル24bは、導電性の接着テープ29によってヨーク25に固定され、外部からの信号を授受するプリント回路基板30に接続している。
【0044】
所定の隙間を介してロータマグネット23を囲む円筒状のヨーク25は、軟磁性材料にて形成され、ロータマグネット23とで磁気回路を構成する。このヨーク25の内周には一対の位置決め突起31が形成され、弾性変形可能な地板16のブラケット27に形成された嵌合穴32にそれぞれ係合して地板16のブラケット27に対して一体化されている。ヨーク25に形成された一対の位置決め突起31の対向方向と、駆動コイル24dと制動イル24bとの対向方向が直交するように、ヨーク25に対する駆動コイル24dおよび制動コイル24bの取り付け位置が規定されている。これら一対の位置決め突起31は、ロータマグネット23のディテントトルクの磁気的安定位置を設定する機能も有する。すなわち、駆動コイル24dに対する電流の遮断時にロータマグネット23を磁気吸引することにより、絞り板11,12を駆動して開口絞りを閉じた状態に保持することができる。また、駆動コイル24dに通ずる励磁電流の微妙な制御により、絞り開口量の調整を可能としている。
【0045】
このような光量調整装置10のヨーク25が本発明の複合型金属成形体にて形成されており、その一部の断面構造を模式的に図2に示す。ヨーク25は、金属粒子33と、金属粒子33と共に成形体34を画成する樹脂結合剤35と、成形体34の空隙部分に介在する樹脂充填剤36と、成形体34の表面を覆うめっき下地層37と、複合めっき層38とを具える。成形体34は、金属粒子33を樹脂結合剤35と共に加圧成形することによって画成される。複合めっき層38は、めっき下地層37の上に重ねて形成される。図示実施形態においては、複合めっき層38が形成されていない欠陥領域Zがあり、ここには樹脂充填剤36が露出した状態となっている。
【0046】
このように、何らかの原因で樹脂充填剤36の除去が不完全となっている部分に複合めっき層38が形成されていない微小な欠陥領域Zが存在していたとしても、複合めっき層38がヨーク25の表面全域に亙って形成されている。このため、成形体34の表面の大部分が撥水性となって水分が付着または保持されにくく、錆による悪影響がヨーク25の表面には及ばない。しかも、ヨーク25の内部は金属粒子33と樹脂結合剤35および樹脂充填剤36が充填されて空隙が存在しないため、水滴などの水分がヨーク25の内部に浸透するような不具合も発生しない。従って、ヨーク25の表面および内部共に水分の付着や浸入を抑制する結果、高い防錆効果を得ることが可能である。
【0047】
上述したヨーク25は、次のようにして製造することが可能である。すなわち、金属粒子33として鉄粉 Somaloy 500(スウェーデン国ヘガネス社の商品名)を用意した。また、樹脂結合剤35としてフラン樹脂VF303(日立化成株式会社の商品名)を用意し、さらにその酸性触媒としてA3(日立化成株式会社の商品名)を用意した。そして、フラン樹脂100質量部に対し酸性触媒を1質量部加え、40℃で5分間攪拌しながら硬化反応を促進したものをアセトン10倍量で希釈し液状とした。これを浮遊流動させた状態の鉄粉に散布し、溶剤であるアセトンを蒸発させて酸性触媒を含むフラン樹脂を鉄粉の表面に被覆した。さらに、固体潤滑剤としてステアリン酸亜鉛SZ-2000(堺化学工業株式会社の商品名)を用意し、先の鉄粉に対し0.5質量部添加して混合し、成形原料を得た。これをヨーク25の軸線と平行な方向から1cm2当たりの加圧力を8.0トン加えて加圧成形体を得た。
【0048】
成形型から取り出された加圧成形体を平らな耐熱板の上に載せ、まず加圧成形体の一部を構成するフラン樹脂の硬化のための加熱を180℃にて1時間行った。次いで、この加圧成形体を真空雰囲気中にて600℃まで昇温し、これを1時間保持して加圧成形体に含まれるステアリン酸亜鉛の除去と、フラン樹脂からの分解ガスの放出とを行った。さらに、水素還元雰囲気にて850℃で1時間保持し、鉄粉の溶着およびフラン樹脂の焼成を行って焼成成形体を得た。
【0049】
次に、樹脂充填剤36としてシリコーン樹脂SH1107(東レダウコーニング株式会社の商品名)を用意し、これが約30質量%となるようにアセトンを希釈剤として混合した含浸溶液を作成した。そして、この含浸溶液をビーカー内に入れ、先の焼成成形体をこの含浸溶液中に浸漬させ、これを減圧容器に収容し、減圧容器内を1000Paに15分保持し、ビーカー内の含浸溶液を焼結結合体の空隙中に浸透させるようにした。しかる後、減圧容器からビーカーを焼結結合体と共に取り出し、焼結結合体を120℃で20分間加熱して含浸溶液中のアセトンを揮発させ、焼結結合体の乾燥を行った。
【0050】
次に、2リットルの容積の遠心バレルを用意し、ここに一辺が10mmの三角錐形状のセラミックス製研磨メディアをバレル容積の50%となるように入れた。さらに、弱アルカリ性コンパウンドとしてクリマックスA-1(東邦鋼機株式会社の商品名)を1質量%およびクリマックスK-5(東邦鋼機株式会社の商品名)を1質量%添加した水溶液と共に乾燥処理を終えた焼結結合体をバレルに投入した。この状態にて10分間のバレル研磨を行った。そして、防錆剤としてRP-W(ヘンケルジャパン株式会社の商品名)を1質量%添加した純水を用い、バレル研磨処理された焼結結合体の水洗を行った。
【0051】
次に、水洗処理を終えた焼結結合体に対し無電解ニッケルリンめっき処理を施し、その表面に2μmの膜厚のめっき下地層を形成した。具体的には、めっき速度が15μm/hとなるように、pHが4〜6,浴温が90℃に調整されたシューマーSE-660(日本カニゼン株式会社の商品名)をめっき浴として用いた。
【0052】
しかる後、めっき下地層が形成された焼結成形体の表面にフッ素化合物を含む複合めっき層を形成するため、PTFEを含む無電解ニッケルリンめっき処理を行い、2μmの膜厚のPTFE複合めっき層を形成した。使用しためっき浴は、めっき速度が10μm/hとなるように、pHが4〜6,浴温が90℃に調整されたカニフロンA(日本カニゼン株式会社の商品名)である。
【0053】
このようにして複合めっき層が形成された焼結結合体を350℃に60分間加熱し、複合めっき層に含まれるPTFEの表面拡散を促進させ、本実施形態のヨーク25を得た。このヨーク25を図1に示した光量調整装置10に組み込み、電流遮断時における絞り閉じ動作の確認を行ったところ、円滑な動作が行えることを確認することができた。
【0054】
このような本実施形態におけるヨーク25(以下、これを実施例と呼称する)の発錆状態および耐食性を評価するため、以下の2種類のヨークを比較例1,2として別途作成した。比較例1のヨークは、バレル研磨処理までは先の実施例と全く同じであるが、複合めっき層を形成せず、めっき下地層をそのまま表面のめっき層として形成したものである。ただし、このめっき層の膜厚は4μmとなるようにした。また、比較例2のヨークは、シリコーン樹脂SH1107を焼成成形体に含浸させず、それ以外は全て先の実施例と同じ処理を施したものである。なお、実施例および比較例1,2共に何れも試料としてそれぞれ300個ずつ用意した。
【0055】
このようにして用意されたヨークの表面およびこれらを切断した後の切断面の外観をそれぞれ100個ずつ観察し、錆による変色があるか否かを確認した。一方、これらの試料を100個ずつ60℃,90%RHの高温高湿度環境に1000時間さらし、耐食性評価の加速試験(耐食性試験1)を行った。また、残りの各100個の試料を濃度4%の塩水が噴霧される35℃に保持した環境に4時間さらし、耐食性評価のさらに厳しい試験(耐食性試験2)を行った。
【0056】
これらの結果を表1に示す。この表1において、○印は何も問題がなかったことを表し、×印は何らかの問題が認められたことを示す。なお、比較例2のヨークについては、耐食性試験1,2の前段階において、すべて内部に赤錆による変色が認められていたため、耐食性試験1,2を行っていない。
【0057】
【表1】

【0058】
この表1から明らかなように、実施例および比較例1のヨークは、表面および内部共に錆による変色が認められなかった。しかしながら、比較例2のヨークの内部は、錆による変色がすべての試料で認められた。
【0059】
耐食性試験1において、実施例のヨーク25は、表面および内部共に発錆は認められなかった。しかしながら、比較例1のヨークの内部は、点状の錆が12個の試料で認められた。
【0060】
耐食性試験2においても実施例のヨーク25は、表面および内部共に発錆は認められなかった。しかしながら、比較例1のヨークの内部は、96個の試料に錆の発生が認められた。
【0061】
なお、本発明はその特許請求の範囲に記載された事項のみから解釈されるべきものであり、上述した実施形態においても、本発明の概念に包含されるあらゆる変更や修正が記載した事項以外に可能である。つまり、上述した実施形態におけるすべての事項は、本発明を限定するためのものではなく、本発明とは直接的に関係のないあらゆる構成を含め、その用途や目的などに応じて任意に変更し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明を光学機器の光量調整装置に応用した一実施形態の外観を分解状態で表す立体投影図である。
【図2】図1に示した光量調整装置の一部を構成するヨークの内部構造を模式的に拡大して示す断面図である。
【符号の説明】
【0063】
10 光量調整装置
11,12 絞り板
13 絞り板駆動機構
17 電磁駆動装置
25 ヨーク
33 金属粒子
34 成形体
35 樹脂結合剤
36 樹脂充填剤
37 めっき下地層
38 複合めっき層
Z 欠陥領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粒子と、
金属粒子と共に加圧成形されて成形体を画成する樹脂結合剤と、
前記成形体の空隙部分に介在する樹脂充填剤と、
前記成形体の表面を覆う撥水層と
を具えたことを特徴とする複合型金属成形体。
【請求項2】
前記撥水層がフッ素化合物と金属組成物とを含む複合めっき層であることを特徴とする前記請求項1に記載の複合型金属成形体。
【請求項3】
前記成形体の表面と前記撥水層との間に形成されためっき下地層をさらに具えたことを特徴とする請求項2に記載の複合型金属成形体。
【請求項4】
前記金属粒子が軟磁性材料を含むことを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の複合型金属成形体。
【請求項5】
金属粒子を樹脂結合剤で被覆して成形原料を得るステップと、
前記成形原料を成形型に投入し、これを加圧成形することによって成形体を得るステップと、
前記成形体を加熱することにより前記樹脂結合剤を介して前記金属粒子を一体化させるステップと、
前記成形体の空隙部分に樹脂充填剤を含浸させてこれを硬化させるステップと、
前記樹脂充填剤を硬化させた前記成形体の表面に撥水層を形成するステップと
を具えたことを特徴とする複合型金属成形体の製造方法。
【請求項6】
前記成形体を加熱することにより前記樹脂結合剤を介して前記金属粒子を一体化させるステップは、前記樹脂結合剤を焼成すると共に前記金属粒子を相互に溶着させ、前記金属粒子間に前記樹脂結合剤の炭化物が介在する焼成状態の成形体を得るステップを含むことを特徴とする請求項5に記載の複合型金属成形体の製造方法。
【請求項7】
前記成形体の表面に撥水層を形成するステップに先立ち、前記樹脂充填剤を硬化させた前記成形体の表面を平滑に研磨するステップをさらに具えたことを特徴とする請求項6に記載の複合型金属成形体の製造方法。
【請求項8】
前記成形体の表面に形成される撥水層がフッ素化合物と金属組成物とを含む複合めっき層であることを特徴とする請求項7に記載の複合型金属成形体の製造方法。
【請求項9】
前記成形体の表面に撥水層を形成するステップに先立ち、前記成形体の表面にめっき下地層を形成するステップをさらに具えたことを特徴とする請求項8に記載の複合型金属成形体の製造方法。
【請求項10】
永久磁石と、励磁コイルへの通電により磁気回路を構成するヨークとを具え、このヨークが請求項1から請求項4の何れかに記載の複合型金属成形体か、あるいは請求項5から請求項9の何れかに記載の方法により製造された複合型金属成形体によって構成されていることを特徴とする電磁駆動装置。
【請求項11】
相互に組み合わされて絞り開口を画成する少なくとも2枚の羽根部材と、
これら羽根部材の少なくとも一つを駆動して前記絞り開口の大きさを変更するための羽根駆動機構と
を具え、前記羽根駆動機構が請求項10に記載の電磁駆動装置を含むことを特徴とする光量調整装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−18823(P2010−18823A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178109(P2008−178109)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】