説明

複合基材及びそれを用いたプリント配線基板の製造方法

【課題】 水系の導電性インクとの密着性を確保し、かつ、基材表面の疎水性の低下に伴う諸問題の発生を有効に回避するプリント配線基板用の複合基材と、その代表的な利用技術とを提供する。
【解決手段】 本発明にかかるプリント配線基板用の複合基材は、上記乾燥後の段階における表面の親水性が、配線の印刷段階における表面の親水性よりも低下するように、表面処理されている。このため、印刷時には水系の導電性インクとの密着性が良好になり、水系の導電性インクのプリント配線基板用の複合基材への転写性が増加するとともに、基材表面の疎水性の低下に伴う諸問題の発生を有効に回避する。それゆえ、本発明にかかるプリント配線基板用の複合基材を備えたプリント配線用基板または電気機器部品では、配線の断線等の電気的トラブルを生じにくくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水または水系の溶剤に金属微粒子を分散させてなるインクを用いてプリント配線基板を製造するのに適した複合基材及びそれを用いたプリント配線基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリント配線基板は様々な電気機器部品等に使用されているが、このプリント配線基板の代表的な製造方法としては、基材に配線回路を印刷して形成する方法を挙げることができる。上記配線回路を形成するための配線材料としては、従来、有機系の溶媒(有機溶剤)に金属微粒子を分散させてなるインク(以下、説明の便宜上、有機溶剤系の導電性インクと称する)が用いられてきた。このような有機溶剤系の導電性インクとしては、例えば、スクリーン印刷で用いられる導電性ペースト等が挙げられる。
【0003】
上記有機溶剤系の導電性インクを用いて基材表面に配線回路を印刷する場合、基材の具体的な材料を選定するためには、耐熱性を考慮する必要がある。すなわち、有機溶剤を蒸発させるために加熱乾燥する点から、基材の耐熱性を考慮して基材の材料が選択される。ここで、有機溶剤系の導電性インクは基材表面との濡れ性が良好であるので、導電性インクを基材表面へ転写して印刷しても配線と基材との密着性は良好なものとなる。したがって、材料選定にあたって導電性インクと基材との密着性を考慮する必要はない。
【0004】
このように、有機溶剤系の導電性インクはその物性が化学的にも物理的にも優れているため、プリント配線基板の製造において広く用いられている。ところが、上記有機溶剤は、作業中に溶剤が蒸発し作業環境の悪化をきたしたり、使用済みの有機溶剤の処理がコストの増大を招いたりする等の問題がある。
【0005】
そこで、近年では、プリント配線回路用の配線材料として、溶水または水系の溶剤(まとめて水系溶剤と称する)に金属微粒子を分散させてなるインク(説明の便宜上、水系の導電性インクと称する)が開発されている。
【0006】
しかしながら、水系の導電性インクは、従来の基材(疎水性が多い)表面との濡れ性が悪く、プリント配線が不明確になりやすい、あるいは、プリント配線が剥離しやすいという問題があり、基材を親水化する必要があった。そのためには、基材として親水性の材料を用いることが考えられるが、プリント配線後の乾燥時や使用時の高湿状態では、親水性の基材は、結露による水滴が生じたり、信号速度異変等の電気的なトラブルを引き起こす可能性が高く、使用は困難であった。
【0007】
特許文献1には、疎水性基材(PETフィルム)表面に、ジカルボン酸とグリコールと反応性シリコーンオイルとからなる珪素含有ポリエステルを水に分散または溶解した塗布液で、被膜を形成し磁気テープ等の滑り性、耐磨耗性を改良する技術が開示されている。しかしながら、特許文献1には、疎水性基材の表面に塗布被膜を形成して表面特性を改良することについて開示されているのみで、水系の導電性インクを用いて形成するプリント配線と基材との密着性については何ら記載されていない。
【特許文献1】特開平10−1537(平成10(1998)年1月6日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点を解消するため、配線を印刷等で描画する際には、水系の導電性インクをはじかず描画配線を明確にかつ基材に密着して保持し、加熱乾燥し金属微粒子を焼結して配線形成後は、表面が疎水性になり、配線基板を高湿条件で使用しても吸湿による電気トラブルを生ずることのないプリント配線基板用の複合基材及びそれを用いたプリント配線基板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のプリント配線基板用の複合基材は、上記の課題を解決するために、基材上に表面層を設け、該表面層上に水系導電性インクを描画し、加熱固化して配線回路を設けるプリント配線基板用の複合基材であって、上記表面層が、親水性基を有し、ガラス転移温度が50〜80℃である樹脂を主とする架橋性樹脂組成物にて層厚1〜5μmに形成され、架橋前に比して架橋後の水接触角が5°以上大きくなることを特徴としている。
【0010】
また、上記プリント配線基板用の複合基材においては、上記架橋性樹脂組成物が、100〜180℃で架橋開始するブロックイソシアネートを含むことが好ましい。
【0011】
また、上記プリント配線基板用の複合基材においては、上記架橋性樹脂組成物が、難燃性付与剤を含むことが好ましい。
【0012】
また、本発明には、上記プリント配線基板の製造方法も含まれる。すなわち、本発明のプリント配線基板の製造方法は、上記の課題を解決するために、親水性基を有し、ガラス転移温度が50〜80℃である樹脂を主とする架橋性樹脂組成物を、水又は水系溶媒に溶解又は分散させた塗工液を調製し、基材に塗布し乾燥して未架橋の架橋性樹脂組成物からなる表面層を形成し、該表面層上に水系導電性インクで回路を描画し、水系導電性インクを加熱焼成すると同時に表面層を架橋させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明にかかるプリント配線基板用の複合基材は、特殊な表面層を設ける表面処理をし印刷時には表面の親水性を高いものとしておくので、水系の導電性インクで印刷する配線と基材との密着性を良好とすることができる。しかも、その後、水系の導電性インクの印刷配線を乾燥させる温度で表面層を架橋して、基材表面を疎水化させることになるので、得られるプリント配線基板は、プリント配線と基材との密着性が良好で配線の断線や剥離が生じにくく、しかも基材の吸水を伴う電気的トラブルを生じにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の一実施形態について図1および図2に基づいて説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0015】
本発明のプリント配線基板用の複合基材は、水系の導電性インクを用いて配線を印刷し乾燥させて製造されるプリント配線基板の基材として用いられる。上記水系の導電性インクとして、銀、金等の金属微粒子を水または水系溶媒に分散させたペースト状のものを用いることができる。
【0016】
本発明のプリント配線基板用の複合基材は、上記乾燥後の段階における表面の親水性が、配線の印刷段階における表面の親水性よりも低下するように、表面処理されていることを特徴としている。ここでいう「表面処理されている」とは、表面に表面層が形成される、あるいは、樹脂組成物が塗布されていることも含まれる。
【0017】
本発明のプリント配線基板用の複合基材において、表面の親水性の基準は、表面に対する水の接触角(水接触角)を用いる。
【0018】
表面に対する水接触角が、印刷段階よりも印刷した配線の乾燥後の段階において増加するように、上記表面処理がなされている。具体的には、印刷段階における上記水接触角は、60°以下であることが好ましく、乾燥後の水接触角は、印刷段階における水接触角よりも5°以上増加していることが好ましい。
【0019】
上記「水接触角」とは、基材表面に水滴を置いたとき、水滴と基材とが接する点における、水滴表面の接線と、基材表面とのなす角度のことをいう。そして、この水接触角が大きくなると水濡れ性が悪く、疎水性となり、逆に水接触角が小さくなると水濡れ性が良好となり、親水性となる。なお、基材表面の親水性は、基材として一般的に用いられるPETフィルム表面における水接触角(実験値72°)を規準として評価している。
【0020】
乾燥後の水接触角の増加が、印刷時よりも5°未満の場合、印刷前と吸湿性(親水性)が変わらず、プリント配線基板として親水性が高い状態に起こる不具合が発生するので好ましくない。
【0021】
以下、本発明のプリント配線基板用の複合基材を、図1(a)・(b)を参照にして説明する。図1(a)においてプリント配線基板用の複合基材100は、母材1と表面層2とを備えている。母材1は、プリント配線基板に用いられる従来公知の基材で、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)などが挙げられる。また、プリント配線基板に用いられるカラエポ等でもよい。
【0022】
表面層2は、親水基を有する親水性樹脂と架橋剤とを含む塗布液を母材1に塗布し、乾燥して形成されたものである。このときの乾燥は、架橋剤が反応しない100℃以下で10分程度にする。表面層2は親水基を有する親水性樹脂を含み未架橋であるので、印刷時には、基材100の表面は親水性になる。したがって、印刷時において、水系の導電性インクと基材100の表面との密着性が良好になる。
【0023】
さらに、表面層2に含まれる架橋剤は、配線回路を印刷後の導電性インク乾燥時の温度で親水性樹脂の親水基と架橋する。このため、親水性樹脂は、親水性が低下する。そして、乾燥後には表面塗布層は、架橋表面層2’となり、疎水化する。したがって、得られるプリント配線基板は、吸湿による電気的な問題を生じなくできる。
【0024】
また、水系の導電性インクを乾燥する温度は、100〜180℃である。また、乾燥時間は、水系の導電性インクまたはプリント配線基板用の複合基材の物性に応じて、適宜設定することができる。標準的には、乾燥温度140℃で10分程度である。
【0025】
また、プリント配線基板用の複合基材100に難燃性を付与するために、上記表面層2は、さらに難燃性付与材を含ませるのが好ましい。難燃性を付与することにより、安全性に優れたプリント配線基板を提供することができる。
【0026】
また、プリント配線基板用の複合基材に難燃性を付与する場合、プリント配線基板用の複合基材は、印刷面とその反対側の面との両方に表面層が設けられるのが好ましい。
【0027】
難燃性の評価は、例えば、UL94に記載の方法を適用することができるが、これに限定されるものではない。上記難燃性規格UL94においてポリイミド相当の94V−0であることが好ましい。
【0028】
<本発明のプリント配線基板用の複合基材の表面層>
本発明のプリント配線基板用の複合基材の表面層は、親水性樹脂、架橋剤を必須とし、難燃性材料を含むことが好ましい。以下、本発明において用いられる(I)親水性樹脂、(II)架橋剤、および(III)難燃性材料(IV)その他の添加剤について、以下に詳細に説明する。
【0029】
(I)親水性樹脂
上記親水性樹脂は、親水基を有している。上記親水基としては、水との相互作用を有する官能基であれば特に限定されないが、例えば、水酸基(OH)、カルボキシル基(COOH)、スルホニル基(SOH)などが挙げられる。また、このような親水基を有する親水性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、などが挙げられる。市販品としては、互応化学工業製のZ‐900シリーズ、または、高松油脂製のペストレジンAシリーズが挙げられる。
【0030】
また、プリント配線基板の製造時に、基材表面に印刷された水系の導電性インクからなる配線を乾燥する温度は、100〜180℃にされる。表面層に含まれる親水性樹脂は、上記乾燥温度(100〜180℃)で軟化する熱可塑性樹脂が好適である。なぜなら、軟化することで、親水性樹脂と水系の導電性インクとの融着性が向上し、導電性インク配線と基材との密着性が良好になるからである。
【0031】
本発明者は、プリント配線部の割れが生じにくい条件を、鋭意検討した結果、表面層の膜厚が0.1〜5μmであり、かつ、親水性樹脂のガラス転移温度が50〜80℃であるとき、プリント配線部の割れが生じないことを見出した。
【0032】
親水性樹脂のガラス転移温度が50℃よりも低くなると、プリント配線の割れが生じやすくなる。また、親水性樹脂のガラス転移温度が80℃よりも高くなると、導電性インクとの融着が困難になる。
【0033】
さらに、表面層の膜厚が5μmを越えるにつれ、プリント配線の割れが生じるやすくなる。また、膜厚が0.1μmよりも小さくなると、融着(接着)効果が発揮できない。
【0034】
上記ガラス転移温度は、示差走査熱量計を用いたDSC曲線(例えば、図2に示すDSC曲線)より求めたTeg(補外ガラス転移終了温度)を意味する(JIS規格 K7121「プラスチックの転移温度測定方法」に準ずる)。
【0035】
(II)架橋剤
本発明において、架橋剤は、100℃未満では架橋反応が生じないで、上記印刷配線の乾燥温度(100〜180℃)で架橋を開始する特性を有するものである。架橋は、上記親水性樹脂の水酸基(OH基)基やカルボキシル基(COOH基)に生ずる。
【0036】
上記特性を有する架橋剤としては、本発明では、ブロックイソシアネートを用いる。ブロックイソシアネートは、イソシアネート基をブロック剤でブロックし、所定の温度になるまでは架橋反応を生じなくしたものである。所定の温度よりも高くなると、ブロック剤が解離し、イソシアネート基としての反応性を発揮する。
【0037】
上記ブロックされる元のイソシアネートとしては、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等の脂肪族ジイソシアネート類、シクロヘキサンジイソシアネート、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)等の脂環族ジイソシアネート類、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)等の芳香族ジイソシアネート類、等が挙げられる。上記()内は略号を示す。
【0038】
イソシアネート基をブロックするブロック剤としては、メタノール、エタノール等のアルコール系、フェノール、クレゾール等のフェノール系、アセトアルドキシム、アセトキシム等のオキシム系、ε−カプロラクタム等のラクタム系、マロン酸ジメチル、アセト酢酸メチル等の活性メチレン系、コハク酸イミド等のイミド系、チオ尿素等の尿素系、ジフェニルアラニン、アニリン等のアミン系など種々のタイプの活性水素含有化合物が挙げられる。
【0039】
上記ブロックイソシアネートの市販品としては、三井武田工業製のタケネートシリーズ(WB‐70)、または、旭化成ケミカルズのデュラネートシリーズ(17B‐6OPX、TPA‐B80X、MF‐B60X等)が挙げられる。
【0040】
上記のブロックイソシアネートの使用量は、主要樹脂100重量部に対し1〜30重量部が好ましく、より好ましくは、10〜20重量部である。1重量部よりも少なくなると架橋に使用されない親水基が残り、架橋しても疎水化できず、30重量部よりも多くなるとブリードにより印刷配線を汚したり、基材との密着性を阻害する恐れがあるので上記範囲とされる。上記市販品でタケネートWB−700を用いる場合、親水性樹脂100重量部に対し15重量部前後が最適である。
【0041】
(III)難燃性付与剤
本発明の複合基材の表面層に含有させることが好ましい難燃性付与剤としては、粒状赤燐、リン酸エステル等のリン系のもの、メラニン、尿素等の窒素含有物系のもの、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物系のものを単独または複数を組み合わせて用いる。これら難燃性付与剤は、配線印刷や乾燥後において、表面層表面に滲み出し(ブリード)しないものを用いる。粒状赤燐として燐化学工業社製「ノーバレッド」「ノーバエクセル」シリーズ、日本化学工業社製「ヒシガード」シリーズ、水酸化アルミニウムとして昭和電工社製「ハイジライト」シリーズ等の市販品が、親水性樹脂100重量部に対し、5〜30重量部程度用いられる。
【0042】
また、主要樹脂の分子骨格に上記難燃性付与成分を導入して、特別に難燃性付与剤を添加することなく難燃化を図ることも可能であり、このような樹脂の市販品としては、互応化学工業製のZ‐901がある。
【0043】
(IV)その他の添加剤
本発明の複合基材の表面層には、層形成の塗布液の泡立ちを防止する消泡剤、塗布層の表面を平滑かつ均一厚さにするレベリング剤等を添加してもよい。
【0044】
<本発明にかかる樹脂組成物の調製方法>
本発明の複合基材は、PET樹脂フィルム等の母材に、主要樹脂、架橋剤、難燃性付与剤及びその他の添加剤を、水または水系溶媒に溶解または分散させた塗布液を塗布し、低温乾燥して表面層を形成した複合基材を得る。この複合基材を用いると、水系の導電性インクを用いて、配線描画する印刷工程では、親水基を有する樹脂により、母材と表面層との間、及び、表面層と描画配線との間は密着する。次いで、描画配線を担持する複合基材を描画配線を乾燥する工程で、所定温度により溶媒を飛ばし金属粒子を焼結させることで配線を完成させると同時に、上記表面層を架橋させて複合基材表面を疎水化したプリント配線基板を得る。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
〔実施例1〕
(1)表面層用塗布液の調製
下記の成分を計量し、混合分散機(ディスパー)にて1000rpmで10分攪拌混合し、混合液を200メッシュでろ過して塗布液を調製した(下記の「部」は重量部を示す)。
(a)主要樹脂(互応化学工業製:ポリエステルZ‐901
親水基:水酸基、骨格中にリン成分含有) 100部
(b)溶媒:イオン交換水 100部
(c)架橋剤:オキシム系ブロックイソシアネート
(三田武田工業製:WB‐700) 15部
(d)その他の添加剤
レベリング剤:フッ素系界面活性剤(互応化学工業製:RY‐2) 0.1部
消泡剤:(ビックケミー社製:BYK−032) 0.1部
コロイダルシリカ分散液:(日産化学工業製:スノーテックスST−20) 3部
(2)表面層の形成
母材として市販のPETフィルム(厚み:75μm)を20cm角にカットし、容器に入れた上記塗布液に約4/5(16mm)まで浸せきし、引き上げ速度1.5mm/秒で引き上げ、100℃10分、オーブン中で乾燥し、母材フィルムの表裏両面に未架橋の表面層を設けた複合基材(以下、未架橋の基材と記す)を得た。
【0047】
(3)水系の導電性インクの調製、及び、プリント配線基板の製造
硝酸銀水溶液を分散剤と還元剤とが溶解した水溶液に滴下して得られる銀粒子含有液を洗浄し、粒子径10〜100μmの銀粒子を、純水65重量%及びプロパンジオール10重量%からなる混合溶媒に分散させ、5重量%の増粘剤を加え、銀粒子含有量が20重量%の銀コロイドからなる水系の導電性インクを調製した。
【0048】
(4)プリント配線基板の製作
上記未架橋の表面層に設けた複合基材の片面に、市販のディスペンサー描画装置にて、上記水系の導電性インクからなる3cm幅のラインを描画し、140℃で10分加熱乾燥して導電性インク中の銀粒子を焼結し(焼結配線と記す)プリント配線基板を作製した。
【0049】
(5)評価
上記、未架橋の表面層を設けた複合基材(未架橋の基材)及び描画した導電性インクを加熱乾燥して焼結し、架橋済み表面層を基材(架橋基材と記す)に対し、次の評価を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0050】
1)水接触角
上記未架橋基材及び架橋基材の表面にイオン交換水の液滴をたらし、基材表面と液滴の接点でひいた液滴の接線と基材面とのなす角を、接触角計(協和化学社製)で測定し、その2倍を水接触角とした。
【0051】
2)インクの濡れ性
上記未架橋基材の表面に、描画装置を用いて水系の導電性インクでラインを描画した直後に、水系の導電性インクが収縮するかどうかを目視確認し、次の基準で濡れ性を評価した。
○:水系の導電性インクの収縮が認められない、または僅かで認識困難なレベル。
×:明らかに水系の導電性インクが弾かれ、収縮が明白。
【0052】
3)焼結配線の密着性
上記架橋基材の表面をカッターナイフで4mm角の格子20個に分け、各格子に粘着テープを貼り付け剥離しはがれた格子の数により焼結配線の密着性を、次の基準で評価した。
○:剥がれた格子の数が0〜1個 ×:剥がれた格子の数が2〜20個
4)架橋基材の表面層厚さ
上記架橋基材の表面層の厚さをダイヤル式シックネスゲージ(最小目盛:0.001mm)にて測定した。
【0053】
5)焼結配線の割れ
焼結配線部を目視およびビデオマイクロスコープ(500倍)にて割れの有無をチェックし、次の基準で評価した。
○:割れが認められない。 ×:割れが認められる。
6)難燃性
難燃性規格UL94に準じて、評価した。
【0054】
7)水性樹脂のガラス転移温度
JIS規格K7121「プラスチックの転移温度測定方法」に準じ、DSC曲線によりTeg(ガラス転移終了温度)を求めた。
【0055】
8)高湿環境下で放置後の表面層の剥がれ
上記架橋基材を、35℃、85%RHの湿度環境に1週間放置後、常温常湿下で、表面層がセロテープ(登録商標)を貼り、90℃剥離を行い、表面層が母材PETフィルムから剥がれてくるか否かを確認し、次の基準で評価した。
○:表面層の剥がれなし。 ×:表面層の剥がれが認められる。
9)湿度環境下でのスクリーン印刷適正
上記未架橋基材を、23℃、85%RHの常温湿度下に15〜20時間置いて調湿後、水系の導電性インクを用い、メッシュスクリーンによるスクリーン印刷を10回連続で行い、インクの弾きなく印刷できるか否かを確認し、次の基準でスクリーン印刷適正を評価した。
○:水系の導電性インクが弾かれず印刷できる。
×:水系の導電性インクが弾かれ印刷不可。
〔実施例2〕
主要樹脂として、骨格に難燃性成分を有しない樹脂(互応化学工業製:ポリエステルZ‐501、親水基:水酸基)を用いた以外、実施例1と同様にして塗布液調製、表面層形成、プリント配線基板の作製を行い、項目1)〜8)の評価を行った。結果を表1および表2に示す。
〔実施例3〕
主要樹脂として、親水/疎水成分を付加したエステル系ポリマー(高松油脂:ペストレジンA‐613D)を用い、ブロックイソシアネートを、オキシム系ブロックイソシアネート(三田武田工業製:WB‐820、HDI系)に変え、描画後の乾燥温度を160℃にした以外、実施例1と同様にして塗布液調製、表面層形成、プリント配線基板の作製を行い、項目1)〜8)の評価を行った。結果を表1および表2に示す。
〔比較例1〕
主要樹脂として、親水性基を有しないポリエステル樹脂(互応化学工業製:Z‐570)を用いた以外、実施例1と同様にして塗布液調製、表面層形成、プリント配線基板の作製を行い、項目1)〜8)の評価を行った。結果を表1および表2に示す。
〔比較例2〕
主要樹脂として、ガラス転移温度が50℃よりも低い(47℃)樹脂(互応化学工業製:ポリエステルZ‐446)を用い、ブロックイソシアネートを、オキシム系ブロックイソシアネート(三田武田工業製:WB‐820、HDI系)に変え、描画後の乾燥温度を160℃にした以外、実施例1と同様にして塗布液調製、表面層形成、プリント配線基板の作製を行い、項目1)〜8)の評価を行った。結果を表1および表2に示す。
〔比較例3〕
実施例1と同じ塗工液にて、母材PETフィルムの浸漬、引き上げ速度を2.5mm/secと遅くし、表面層の厚みを9μmにした以外、実施例1と同様にして塗布液調製、表面層形成、プリント配線基板の作製を行い、項目1)〜8)の評価を行った。結果を表1および表2に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
表1及び表2より、実施例の複合基材は、表面層に形成する主要樹脂が、親水基を有し、所定範囲のガラス転移温度を有し、表面層が所定厚みに形成されているので、1)〜8)の評価が良好であるが、比較例1の複合基材は、表面層が親水基を有しない樹脂を主とする架橋性樹脂組成物で形成されているので、未架橋時の水接触角が60°を超え、水系の導電性インクの濡れ性、印刷適正が悪い。比較例2の複合基材は、表面層を形成する主要樹脂のガラス転移温度が50℃よりも低いので、得られる焼結配線が割れを生じやすい。また、比較例3の複合基材は、表面層の膜厚が9μmと厚いので、その上に設けた焼結配線に割れが生じやすく、電気的トラブルが生じやすい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のプリント配線基板用の複合基材は、以上のように、印刷時には、水系の導電性インクとの密着性が良好になり、水系の導電性インクのプリント配線基板用の複合基材への転写性が増加する。また、乾燥後には、結露による水滴や塵の付着などによる湿度の影響を受けにくくなるので、電子機器産業において様々な用途に用いることができる。例えば、本発明は、半導体装置の製造、液晶表示装置の製造に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】(a)は、本発明にかかるプリント配線基板用の複合基材の概略構成を示す断面図であり、(b)は、難燃性を付与した場合における、本発明にかかるプリント配線基板用の複合基材の概略構成を示す断面図である。
【図2】本発明にかかるプリント配線基板用の複合基材の表面層に含まれる親水性樹脂のガラス転移温度を、DSC法により測定した結果の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0061】
1 母材
2 表面層
2’ 架橋表面層
3 印刷配線(導電性インク焼成)
100 プリント配線基板用の複合基材
200 プリント配線基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に表面層を設け、該表面層上に水系導電性インクを描画し、加熱固化して配線回路を設けるプリント配線基板用の複合基材であって、上記表面層が、親水性基を有し、ガラス転移温度が50〜80℃である樹脂を主とする架橋性樹脂組成物にて層厚1〜5μmに形成され、架橋前に比して架橋後の水接触角が5°以上大きくなることを特徴とするプリント配線基板用の複合基材。
【請求項2】
上記架橋性樹脂組成物が、100〜180℃で架橋開始するブロックイソシアネートを含むことを特徴とする請求項1に記載のプリント配線基板用の複合基材。
【請求項3】
上記架橋性樹脂組成物が、難燃性付与剤を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のプリント配線基板用の複合基材。
【請求項4】
親水性基を有し、ガラス転移温度が50〜80℃である樹脂を主とする架橋性樹脂組成物を、水又は水系溶媒に溶解又は分散させた塗工液を調製し、基材に塗布し乾燥して未架橋の架橋性樹脂組成物からなる表面層を形成し、該表面層上に水系導電性インクで回路を描画し、水系導電性インクを加熱焼成すると同時に表面層を架橋させることを特徴とするプリント配線基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−36933(P2006−36933A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−219221(P2004−219221)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】