説明

複合成形体、複合成形体の製造方法及びインモールドラベル

【課題】製造コストをほとんど増大させず、且つ生産性をほとんど低下させずに、薄い形状の成形体に由来する薄層と樹脂組成物に由来する成形体層との密着性を改善する技術を提供する。
【解決手段】結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体に由来の薄層と、溶融樹脂組成物に由来の成形体層との境界付近に、互いの材料が溶け合い、結晶状態となる混合層が形成される条件で製造する。例えば、金型の内表面の少なくとも一部に断熱層が形成された金型の内部に、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体を配置し、結晶性樹脂を含む溶融樹脂組成物を流し込む成形工程を備える方法で製造する。この製造方法において、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体は、少なくとも薄肉部分の一部が断熱層と重なるように配置し、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体は、少なくとも薄肉部分の相対結晶化度が60%以下のものを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合成形体、複合成形体の製造方法、及びインモールドラベルに関する。
【背景技術】
【0002】
結晶性熱可塑性樹脂において、優れた機械的強度、耐熱性、耐薬品性、電気特性等の物性を有するものが多く知られている。これらの優れた物性を有する結晶性熱可塑性樹脂は、近年自動車、電子・電子部品、化学機器等の部品となる成形体の原料として幅広く使用されている。
【0003】
かかる用途の成形体は、一般に一回の成形によって完成するものも多いが、中には成形を二回に分けて行う二重成形法によらざるを得ない場合もある。特に、複雑な形状の成形体は、1回の成形で所望の成形体を得るのは困難な場合が多い。また、他の部品や金属配線等(端子、プリント配線、コイル等)の全部又は一部を内装した成形部品を得る際にも、二重成形法によらざるを得ない場合が多い。
【0004】
ここで、二重成形法とは、成形体を金型の内部に配置し、その後、金型内部に溶融状態の樹脂組成物を流し込むことで複合成形体を製造する方法である。
【0005】
上記のような二重成形法により製造された複合成形体は、上記成形体に由来する部分と、上記樹脂組成物に由来する部分とが一体化するように構成される。このため、一体化により形成される接合部分は密着性が高い必要がある。しかし、上記成形体が結晶性熱可塑性樹脂組成物から構成される場合、上記密着性は不充分になりやすい。このため、上記密着性を改善する方法が検討されている。
【0006】
例えば、接着剤を用いて上記密着性を改善する方法、上記成形体の、他の成形体との接合面を粗化して、アンカー効果により密着性を改善する方法等が知られている。しかし、前者の接着剤を用いる方法は、接着剤塗布工程が必要になり、複合成形体の生産性が低下し、製造コストが増大する。また、後者の粗面化する方法は、粗面化する成形体を製造するための金型構造が複雑になり、複合成形体の製造コストが増大する。
【0007】
上記の製造コスト増大等の問題がほとんど生じない改善法が、特許文献1に開示されている。特許文献1の複合成形体の製造方法は、金型の内部に配置する上記成形体として、結晶化度を低く抑えた成形体を用いることで、上記密着性を改善する。
【0008】
ところで、上記成形体の結晶化度が低い状態では、上記の結晶性熱可塑性樹脂の特徴が表れにくい。このため、特許文献1では、溶融状態の樹脂組成物を射出する際の金型温度を、成形体に含まれる結晶性樹脂のガラス転移温度以上に設定する方法等を採用する。これにより、複合成形体中の上記成形体に由来する部分も結晶化が充分に進み、結晶性熱可塑性樹脂の特徴を活かした複合成形体が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平06−47830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上の通り、特許文献1によれば、製造コストをほとんど増大させず、且つ複合成形体の生産性をほとんど低下させることも無い。しかし、上記成形体がシート、フィルム等のような薄い形状の場合、金型温度を上記ガラス転移温度以上に上昇させると、金型内に配置された成形体の結晶化が進行してしまい、成形体の結晶化度を低く抑えたことによる密着性向上の効果が十分に得られない。このため、フィルムインモールド成形等では、上記特許文献1に記載の技術を採用することが困難である結果、接着剤を用いる方法を採用することが一般的である。
【0011】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、製造コストをほとんど増大させず、且つ生産性をほとんど低下させずに、薄い形状の成形体に由来する薄層と樹脂組成物に由来する成形体層との密着性を改善する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体に由来の薄層と、溶融樹脂組成物に由来の成形体層との境界付近に、互いの材料が溶け合い、結晶状態となる混合層が形成される条件で製造することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0013】
(1) 金型の内表面の少なくとも一部に断熱層が形成された金型の内部に、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体を配置し、該結晶性熱可塑性樹脂と溶着可能な溶融樹脂組成物を流し込む成形工程を備え、前記結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体は、少なくとも薄肉部の一部が断熱層と重なるように配置され、前記結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体の少なくとも薄肉部は、相対結晶化度が60%以下であり、
(前記相対結晶化度とは、前記溶融樹脂組成物を成形した際、前記断熱層に直接接し固化した部分の結晶化度を100%としたときの結晶化度を指す。)
前記成形工程における金型の温度は、前記結晶性熱可塑性樹脂の再結晶化温度未満であり、前記成形工程における、前記溶融樹脂組成物の温度は、前記ガラス転移温度以上である複合成形体の製造方法。
【0014】
(2) 前記金型温度が、ガラス転移温度未満である(1)に記載の複合成形体の製造方法。
【0015】
(3) 前記結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体の厚みは、10μm以上1000μm以下である(1)又は(2)に記載の複合成形体の製造方法。
【0016】
(4) 前記結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体及び前記溶融樹脂組成物は、ポリアリーレンサルファイド系樹脂又はポリブチレンテレフタレート系樹脂を含む(1)から(3)のいずれかに記載の複合成形体の製造方法。
【0017】
(5) 前記断熱層は、ポリイミド樹脂、及び/又は酸化ジルコニウムを含む(1)から(4)のいずれかに記載の複合成形体の製造方法。
【0018】
(6) 前記結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体は、インモールドラベルである(1)から(5)のいずれかに記載の複合成形体の製造方法。
【0019】
(7) フィルムインモールド成形してなる複合成形体であって、結晶性熱可塑性樹脂フィルム由来の薄層と、結晶性熱可塑性樹脂成形体層である成形体層と、前記薄層と前記成形体層との境界に、前記薄層と前記成形体層とが混合状態になっている混合層と、を備え、前記混合層における結晶性熱可塑性樹脂は結晶状態である複合成形体。
【0020】
(8) 前記混合層は、相対結晶化度が90%以上である(7)に記載の複合成形体。
【0021】
(9) 貼付面に、相対結晶化度が60%以下の結晶性熱可塑性樹脂部が存在するインモールドラベル。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、フィルムインモールド成形を行うにあたって、製造コストをほとんど増大させず、且つ生産性をほとんど低下させずに、薄い形状の一次成形体と二次成形体との密着性を改善することができる
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の効果を説明するための図であり、(a)は従来の方法で使用する金型の断面を模式的に示す図であり、(b)は本発明の方法で使用する金型の断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0025】
<複合成形体の製造方法>
本発明の複合成形体の製造方法は、溶融樹脂組成物を流し込む際に使用する金型に特徴の一つがある。その特徴とは、金型の内表面の少なくとも一部に断熱層が形成されていることである。
【0026】
本発明の製造方法は、第一に、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体を金型内に配置する。このとき、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体の少なくとも一部が上記断熱層と重なるようにする。そして、第二に、金型の内部に、結晶性樹脂を含む溶融樹脂組成物を流し込む。具体的な製造方法について説明する前に、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体、溶融樹脂組成物、成形に用いる金型について説明する。
【0027】
[結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体]
結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体とは、結晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂薄肉成形体である。含有可能な結晶性熱可塑性樹脂は、特に限定されず、一般的なものを使用することができる。例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等を挙げることができる。また、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体は、2種以上の結晶性熱可塑性樹脂を含んでもよい。また、本発明の効果を害さない範囲で、結晶性熱可塑性樹脂には、任意のモノマー成分が含まれていてもよい。
【0028】
結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体には、本発明の効果を害さない範囲で、結晶性熱可塑性樹脂以外の成分を含んでもよい。その他の成分としては、結晶性熱可塑性樹脂以外の樹脂、無機充填剤、酸化防止剤、顔料、可塑剤、安定剤等の一般的な添加剤を挙げることができる。
【0029】
結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体中の結晶性熱可塑性樹脂の含有量は、特に限定されないが、上記含有量が10質量%以上100質量%以下であれば、結晶性熱可塑性樹脂の優れた物性が、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体の物性として表れやすい傾向にあるため好ましい。
【0030】
結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体の厚みは、特に限定されないが、10μm以上1000μm以下の場合、特開平06−47830号公報に記載の方法では、溶融樹脂組成物を金型内に射出する前に、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体が結晶化してしまいやすい。厚みが10μmより薄い場合、単一材料からなる成形体に対する複合成形体の優位点が少なくなり、実用上応用範囲が狭くなる。また、厚みが1000μm以下の場合、一般的な成形条件下においては、本願技術を用いなければ、溶融樹脂組成物と接触する該薄肉成形体表面からの結晶化が非常に進みやすいことから、従来の方法で複合成形体を安定した品質で製造することは極めて困難である。つまり、上記範囲の場合、従来技術では、接着剤等を使用せずに薄層と成形体層との間の密着性を高めることは非常に困難である。本発明の製造方法を採用すれば、接着剤を使用する必要がなくなる。
【0031】
成形工程前は、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体を非晶状態にする必要がある。本発明の効果である密着性向上のためには、非晶状態の結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体を、溶融樹脂組成物を接触させることで溶かし、この溶かされた部分と溶融樹脂組成物とを混合させながら結晶化させる必要があるからである。非晶状態とは、相対結晶化度が60%以下の場合を指す。上記相対結晶化度の下限は特に限定されないが、例えば10%以上である。相対結晶化度は、X線回折法で結晶化度を測定した値を用い相対的な値を計算することにより得られる。具体的には、複合成形体において成形時に断熱層と接する部分の結晶化度を100%とし、これを基準に所望の箇所での結晶化度を算出する。
【0032】
上記のような非晶状態の結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体の製造方法は、特に限定されないが、例えば、溶融状態で腑型した樹脂を急冷することで製造することができる。具体的には、例えば、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体の原料となる樹脂組成物を、キャビティ表面の温度が上記樹脂組成物に含まれる結晶性熱可塑性樹脂の軟化温度以下(複数種類の結晶性を含む場合には、最も低い軟化温度以下)に設定された金型に充填後、金型表面を冷却することで製造することができる。結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体の厚みが大きすぎると、薄肉成形体の内部が急冷されず、結晶化する場合があるが、薄肉成形体の厚みを上述の好ましい範囲内に設定すれば、薄肉成形体の内部まで非晶状態になりやすい。
【0033】
なお、本発明用いる結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体の具体例としては、インモールドフィルムが挙げられる。
【0034】
[溶融樹脂組成物]
溶融樹脂組成物は、結晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物である。含有可能な結晶性熱可塑性樹脂としては、上記結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体の説明で例示したものと同様のものを挙げることができる。本発明においては、溶融樹脂組成物に含まれる結晶性熱可塑性樹脂及び結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体に含まれる結晶性熱可塑性樹脂は、同じ種類のものであることが好ましい。同じ種類の結晶性熱可塑性樹脂を用いれば、成形工程において、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体の溶かされた部分と、溶融樹脂組成物とが混ざり易くなる結果、接合部分の密着性向上の効果が高まるからである。
【0035】
また、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体に含まれる結晶性熱可塑性樹脂、溶融樹脂組成物に含まれる結晶性熱可塑性樹脂のいずれもが、ポリフェニレンサルファイド系樹脂又はポリブチレンテレフタレート系樹脂であることが最も好ましい。ポリフェニレンサルファイド系樹脂としては、例えば、特開2009−132935号公報に記載されるものを使用可能である。ポリブチレンテレフタレート系樹脂としては、例えば、特開2006−111693号公報に記載されるものを使用可能である。
【0036】
溶融樹脂組成物中の結晶性熱可塑性樹脂の含有量は特に限定されないが、上記含有量が10質量%以上100質量%以下であれば、結晶性熱可塑性樹脂の優れた物性が、複合成形体の物性として表れやすい傾向にあるため好ましい。特に、溶融樹脂組成物が、複合成形体の大部分を形成する材料になる場合には、溶融樹脂組成物の物性は複合成形体の物性に大きな影響を与える。
【0037】
溶融樹脂組成物には、本発明の効果を害さない範囲で、結晶性熱可塑性樹脂以外の成分を含んでもよい。その他の成分としては、結晶性熱可塑性樹脂以外の樹脂、無機充填剤、酸化防止剤、顔料、可塑剤、安定剤等の一般的な添加剤を挙げることができる。
【0038】
[金型]
本発明の製造方法に用いる金型は、内表面の少なくとも一部に断熱層が形成されている。断熱層が形成されていることにより、金型内部に射出された溶融樹脂組成物の熱を外部に放出しにくくなる。溶融樹脂組成物の持つ熱を外部へ放出させにくくできる結果、後述する通り、金型温度の条件を低く抑えることができる。
【0039】
断熱層は、どのような材料から形成されてもよいが、ポリイミド樹脂及び/又は酸化ジルコニウムを含むものが好ましい。ポリイミド樹脂及び酸化ジルコニウムは上記熱伝導率が5W/m・K以下であり断熱の効果が充分であることに加えて、射出成形の際の高温にも充分に耐える耐熱性を有するからである。使用可能なポリイミド樹脂の具体例としては、ピロメリット酸(PMDA)系ポリイミド、ビフェニルテトラカルボン酸系ポリイミド、トリメリット酸を用いたポリアミドイミド、ビスマレイミド系樹脂(ビスマレイミド/トリアジン系等)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸系ポリイミド、アセチレン末端ポリイミド、熱可塑性ポリイミド等が挙げられる。なお、ポリイミド樹脂及び/又は酸化ジルコニウムからなる断熱層であることが特に好ましく、これらは、単独でもしくは積層して用いることが出来る。ポリイミド樹脂又は酸化ジルコニウム以外の好ましい材料としては、例えば、テトラフルオロエチレン樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂等が挙げられる。
【0040】
金型の内表面に断熱層を形成する方法は、特に限定されない。例えば、以下の方法で断熱層を金型の内表面に形成することが好ましい。
【0041】
高分子断熱層を形成しうるポリイミド前駆体等のポリマー前駆体の溶液を金型表面に塗布し、加熱して溶媒を蒸発させ、さらに過熱してポリマー化することによりポリイミド膜等の断熱層を形成する方法、耐熱性高分子のモノマー、例えばピロメリット酸無水物と4,4−ジアミノジフェニルエーテルを蒸着重合させる方法、又は、平面形状の金型に関しては、高分子断熱フィルムを用い適切な接着方法又は粘着テープ状の高分子断熱フィルムを用いて金型の所望部分に貼付し断熱層を形成する方法が挙げられる。また、ポリイミド膜を形成させ、さらにその表面に金属系硬膜としてのクローム(Cr)膜や窒化チタン(TiN)膜を形成させることも可能である。また、酸化ジルコニウムの断熱層を形成する方法としては酸化ジルコニウムを金型金属面に溶射し積層する方法が挙げられ、さらにその表面にポリイミド膜を形成してもよい。
【0042】
断熱層の形成される位置は、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体が取り付けられる位置と重なる必要がある。これは、金型内に流れ込んだ溶融樹脂組成物の持つ熱が、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体に伝わった後、外部に直ちに放出されることを抑えるためである。したがって、本発明においては、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体の断熱層と接する面のほぼ全体が断熱層上に形成されるように断熱層を形成することが好ましい。ここで、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体ほぼ全体とは、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体の面積の90%以上が断熱層上に取り付けられる場合を指す。より好ましくは、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体の面積の95%以上が断熱層上に取り付けられる場合であり、最も好ましくは、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体の面積の100%が断熱層上に取り付けられる場合である。
【0043】
断熱層の厚みは、特に限定されず、使用する材料等によって適宜好ましい厚みに設定することができる。断熱層の厚みが、20μm以上であれば、充分高い断熱効果が得られるため好ましい。上記金型内表面に形成される断熱層の厚みは均一でもよいし、厚みの異なる箇所を含むものであってもよい。
【0044】
[成形工程]
成形工程とは、内表面の所望の位置に結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体を取り付けた金型を用い、この金型に溶融樹脂組成物を流し込み、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体と溶融樹脂組成物とを一体化して、複合成形体を製造する工程である。
【0045】
金型の内表面において、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体を配置する位置は、特に限定されず、製造する複合成形体に応じて決定する。結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体を金型内表面に配置する方法は、特に限定されず、一般的なフィルムインモールド成形と同様の方法を採用することができる。
【0046】
上記薄肉成形体を金型の内表面に配置した後、金型の内部に溶融樹脂組成物を流し込む。溶融樹脂組成物を金型内部に流し込む方法は、特に限定されない。例えば、従来公知の射出成形機等を用いることができる。本発明の製造方法において、溶融樹脂組成物を金型内に流し込むにあたっては、下記の成形条件にする必要がある。
【0047】
溶融樹脂組成物を金型内に流し込む際の金型温度は、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体に含まれる結晶性熱可塑性樹脂の再結晶化温度未満に設定する必要がある。金型温度を上記再結晶化温度以上に設定すると、溶融樹脂組成物を金型内に流し込む前の、金型温度を設定した時点で、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体の結晶化度が高くなってしまう。一方、金型温度を再結晶化温度未満に設定した場合は、薄肉成形体の結晶化は急速には進まないため、薄肉成形体を金型内に挿入後速やかに溶融樹脂組成物を金型内に流し込むことで、薄肉成形体の溶融樹脂組成物との接触面を結晶化度が低い状態に維持される。ガラス転移温度未満に設定した場合は、薄肉成形体の結晶化度はそのまま維持される。結晶化度の高まった薄肉成形体と、溶融樹脂組成物とが接触しても、接合部分の密着性は充分にならない。このため、上記のような金型温度に設定する必要がある。なお、好ましい金型温度は特に限定されず、適宜成形条件を調整することで設定することが可能である。例えば、金型温度を、上記ガラス転移温度−50℃以上、上記ガラス転移温度−10℃以下に設定することが好ましい。また、薄肉成形品を配置する側の金型温度と、他方の金型温度は同じである必要は無く、溶融樹脂組成物を金型内に流し込んだ後、金型温度を昇温もしくは急冷してもよい。
【0048】
溶融樹脂組成物の温度は、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上である。この条件を満たすことで、以下のようにして、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体と溶融樹脂組成物とを一体化させることができる。金型内に流れ込んだ溶融樹脂組成物の熱で溶かされた薄肉成形体と溶融樹脂組成物とが、一体化される接合部分で、これらが混じり合う。そして混合状態で結晶性樹脂が冷却されながら結晶化する。この結果、接合部分の密着性が向上する。なお、好ましい溶融樹脂組成物の温度は、特に限定されないが、例えば、融点+10℃以上融点+50℃以下であることが好ましい。
【0049】
その他の成形条件は、材料の種類、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体の厚み等に応じて適宜設定することができる。
【0050】
<複合成形体>
上述の方法で製造された複合成形体は、接着剤等を特に使用しなくても、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体由来の薄層と溶融樹脂組成物由来の成形体層との密着性に優れる。従来の方法の場合、接着剤等を使用しなければ、一体化させることが困難である。これは、上述の通り、金型温度の条件を、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体に含まれる結晶性樹脂のガラス転移温度以上に設定する必要があるからである。
【0051】
本発明の効果を説明するために、従来の方法をさらに具体的に説明する。従来の方法の場合、図1(a)に示すように、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体が金型内に配置された状態で、金型温度が結晶性樹脂のガラス転移温度以上になると、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体の結晶化度が高まる。結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体の結晶化度が高まると、その後、溶融樹脂組成物が金型内に射出されても、一体化しないか又は非常に密着力が小さい状態で一体化する。
【0052】
一方、本発明の場合には、図1(b)に示すように、金型内に断熱層が形成されている。このため、金型温度の条件を、結晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下に設定しても、溶融樹脂組成物の熱が金型内に保持されやすい。その結果、溶融樹脂組成物の持つ熱で、複合成形体の結晶化度を充分に高めることができる。
【0053】
本発明の複合成形体は、薄層と成形体層との間に混合層が存在する。混合層は、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体を構成する材料と溶融樹脂組成物を構成する材料とが混合する部分である。混合層は、成形工程時に結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体が溶融樹脂組成物に溶かされた部分と、溶融樹脂組成物とが混ざり合ってできる層である。このため、通常、薄層と混合層と成形体層との境界は明確ではない。
【0054】
上記混合層は、相対結晶化度が90%以上であることが好ましい。材料にもよるが、混合層の結晶化度が上記の範囲にあれば、薄層と成形体層との間の密着力は充分になる傾向にある。より好ましい結晶化度の範囲は95%以上100%以下である。
【0055】
結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体に含まれる結晶性熱可塑性樹脂と、溶融樹脂組成物に含まれる結晶性熱可塑性樹脂とが同じ種類の場合には、混合層が形成されているか否かは、薄層と成形体層との間の密着力の大きさから間接的に確認することができる。接着剤等を使用しない場合、薄層と成形体層とを充分に密着させるためには、一体化される材料同士が溶け合った状態で混合して、固まる必要があるからである。ここで、混合層が形成されているといえる密着力は、使用する材料等によって異なるが、およそ結晶性熱可塑性樹脂の引張り強さの50%以上である。なお、上記密着力はピール試験という方法で測定した値を採用する。
【0056】
<インモールドラベル付成形体>
本発明の複合成形体の具体例としては、インモールドラベル付成形体が挙げられる。インモールドラベル付成形体とは、インモールドラベルと樹脂とを一体化させた複合成形体である。インモールドラベルとは、印刷層等の意匠性を有する部分を備えたフィルムであり、本発明における結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体にあたる。
【0057】
印刷層等が設けられる位置は、特に限定されず、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体の表面側であっても、裏面側であってもよい。また、印刷層を形成する方法も特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。
【実施例】
【0058】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0059】
<結晶性熱可塑性樹脂フィルム1>
ポリフェニレンサルファイド系樹脂(ガラス転移温度(Tg)が80℃、再結晶化温度(Tc)120℃、ポリプラスチックス社製「フォートロン(登録商標)0220A9」)を用いて、Tダイによる溶融押出法で溶融状態からガラス転移温度より低い温度で急冷することにより、縦45mm、横45mm、厚み0.1mm(100μm)の結晶性熱可塑性樹脂フィルム1を製造した。
【0060】
結晶性熱可塑性樹脂フィルム1の結晶化度を、X線回折法を用いる一般的な方法で測定した。結晶化度は14.4%であった。後述する通り、複合成形体において、成形時に断熱層と直接接していた箇所の結晶化度は、33.9%である。これを100%とすると、結晶性熱可塑性樹脂フィルム1の相対結晶化度は42.3%である。
【0061】
結晶性熱可塑性樹脂フィルム1上にスクリーン印刷により、意匠性を有する印刷層を形成し、インモールドラベル1を製造した。
【0062】
<結晶性熱可塑性樹脂フィルム2>
ポリブチレンテレフタレート系樹脂(ガラス転移温度(Tg)が30℃、ポリプラスチックス社製「ジュラネックス(登録商標)500FP」)を用いて、Tダイによる溶融押出法で溶融状態からガラス転移温度より低い温度で急冷することにより、縦45mm、横45mm、厚み0.1mm(100μm)の結晶性熱可塑性樹脂フィルム2を製造した。
【0063】
結晶性熱可塑性樹脂フィルム2の結晶化度をフィルム1の場合と同様にX線回折法で測定した。結晶化度は12.5%であった。後述する通り、複合成形体において、成形時に断熱層と直接接していた箇所の結晶化度は、28.5%である。これを100%とすると、結晶性熱可塑性樹脂フィルム2の相対結晶化度は43.9%である。
【0064】
結晶性熱可塑性樹脂フィルム2上にスクリーン印刷により、意匠性を有する印刷層を形成し、インモールドラベル2を製造した。
【0065】
<金型1>
断熱層を形成するための材料として、ポリイミド樹脂ワニス(ファインケミカルジャパン社製)、熱伝導率0.2W/m・Kを用いた。上記ポリイミド樹脂の熱伝導率はレーザーフラッシュ法により熱拡散率、アルキメデス法により比重、DSCにより比熱を測定し算出した。
【0066】
幅50mm×長さ50mm×厚さ2mmの射出成形用金型の金型内表面に、ポリイミド樹脂ワニスをスプレーし、250℃、1時間で焼付けした後、ポリイミド面を研摩し、断熱層厚みを100μmに調整した。
【0067】
<金型2>
断熱層を形成しない以外は金型1と同様の金型を、比較例用の金型として準備した。
【0068】
<複合成形体1の製造方法>
複合成形体1の製造には射出成形機、金型1を用いた。先ず、金型内の断熱層上にインモールドラベル1を配置した。より具体的には、印刷層を有する面と断熱層が接するように配置した。そして、金型温度を70℃に設定し、320℃の溶融樹脂組成物(複合成形体1、2の製造においては、ポリフェニレンサルファイド系樹脂(ガラス転移温度(Tg)が80℃、再結晶化温度(Tc)120℃、ポリプラスチックス社製「フォートロン(登録商標)6165A6」)を使用した。)が金型内に流れ込むように設定した。冷却し固化させて金型から複合成形体1を取り出した。インモールドラベルと溶融樹脂組成物とが接触した部分(混合層に相当する部分)及び断熱層に直接溶融樹脂組成物が接触し固化した部分の結晶化度をX線回折法で測定した(より具体的には、結晶性熱可塑性樹脂フィルム1での測定と同様に行なった)。それぞれの結晶化度は31.4%及び33.9%であった。したがって、相対結晶化度は、92.6%になる。
【0069】
<複合成形体2の製造方法>
金型1の代わりに金型2を用い、金型温度の条件を140℃に設定した以外は、複合成形体1と同様の方法で、複合成形体2を製造した。
【0070】
<複合成形体3の製造方法>
インモールドラベル1の代わりにインモールドラベル2を使用し、金型温度の条件を40℃に設定し、溶融樹脂組成物(複合成形体3、4の製造においては、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(ガラス転移温度(Tg)が30℃、ポリプラスチックス社製「ジュラネックス(登録商標)3300」)を使用した。)の温度を260℃に設定した以外は、複合成形体1と同様の方法で、複合成形体3を製造した。インモールドラベルと溶融樹脂組成物とが接触した部分(混合層に相当する部分)及び断熱層に直接溶融樹脂組成物が接触し固化した部分の結晶化度をX線回折法で測定した。それぞれの結晶化度は28.2%及び28.5%であった。したがって、相対結晶化度は98.9%になる。
【0071】
<複合成形体4の製造方法>
金型1の代わりに金型2を用い、金型温度の条件を20℃に設定した以外は、複合成形
体3と同様の方法で、複合成形体4を製造した。
【0072】
<複合成形体5、6の製造方法>
金型温度を110℃に設定して、複合成形体1と同じく複合成形体を得た。その際、金型にインモールドラベルを配置後3秒後に溶融樹脂組成物を射出充填して、複合成形体5を得た。また、配置後20秒後に溶融樹脂組成物を射出充填して、複合成形体6を得た。
【0073】
<評価>
インモールドラベルが、溶融樹脂組成物により形成された成形体層と充分に密着しているか否かについて、ピール試験という方法で評価した。
複合成形体1及び複合成形体3においては、フィルムと溶融樹脂組成物は一体化しており、フィルムだけを剥離させることはできなかった。また、複合成形体2及び複合成形体4においては、フィルムは溶融樹脂組成物とは簡単に剥離し、ピール強度は0.3N/mm以下であった。ピール試験方法とは、JIS K6854−1の90°剥離試験に準じ、成形体層上のインモールドラベルを幅10mmの帯状に切り、インモールドラベルの一端を剥し、冶具で固定した後、一定速度で垂直に引き剥がし、その際の強度又は破壊形態により評価した。複合成形体5はフィルムと溶融樹脂組成物は一体化しておりフィルムだけを剥離出来ないが、複合成形体6においてはフィルムと溶融樹脂組成物は簡単に剥離する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型の内表面の少なくとも一部に断熱層が形成された金型の内部に、結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体を配置し、該結晶性熱可塑性樹脂と溶着可能な溶融樹脂組成物を流し込む成形工程を備え、
前記結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体は、少なくとも薄肉部の一部が断熱層と重なるように配置され、
前記結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体の少なくとも薄肉部は、相対結晶化度が60%以下であり、
(前記相対結晶化度とは、前記溶融樹脂組成物を成形した際、前記断熱層に直接接し固化した部分の結晶化度を100%としたときの結晶化度を指す。)
前記成形工程における金型温度は、前記結晶性熱可塑性樹脂の再結晶化温度未満であり、
前記成形工程における、前記溶融樹脂組成物の温度は、ガラス転移温度以上である複合成形体の製造方法。
【請求項2】
前記金型温度が、ガラス転移温度未満である請求項1に記載の複合成形体の製造方法。
【請求項3】
前記結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体の厚みは、10μm以上1000μm以下である請求項1又は2に記載の複合成形体の製造方法。
【請求項4】
前記結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体及び前記溶融樹脂組成物は、ポリアリーレンサルファイド系樹脂又はポリブチレンテレフタレート系樹脂を含む請求項1から3のいずれかに記載の複合成形体の製造方法。
【請求項5】
前記断熱層は、ポリイミド樹脂又は/及び酸化ジルコニウムからなる請求項1から4のいずれかに記載の複合成形体の製造方法。
【請求項6】
前記結晶性熱可塑性樹脂薄肉成形体は、インモールドラベルである請求項1から5のいずれかに記載の複合成形体の製造方法。
【請求項7】
結晶性熱可塑性樹脂フィルムを用いて、フィルムインモールド成形してなる複合成形体
であって、
前記結晶性熱可塑性樹脂フィルムと一体化される成形体層と、
前記結晶性熱可塑性樹脂フィルムと前記成形体層とが一体化される部分に、前記結晶性熱可塑性樹脂フィルムを構成する材料と前記成形体層を構成する材料とが混合状態になっている混合層と、を備え、
前記混合層における結晶性熱可塑性樹脂は結晶状態である複合成形体。
【請求項8】
前記混合層は、相対結晶化度が90%以上である請求項7に記載の複合成形体。
【請求項9】
貼付面に、相対結晶化度が60%以下の結晶性熱可塑性樹脂部が存在するインモールドラベル。

【図1】
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【公開番号】特開2012−144036(P2012−144036A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223237(P2011−223237)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】