説明

複合成形体

【課題】十分な密着強度を持ち、且つ100℃以下の金型温度で成形可能なポリブチレンテレフタレート樹脂/金属の複合成形体を提供する。
【解決手段】繊維状強化剤と熱可塑性エラストマーを含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、あるいは全ジカルボン酸成分に対してイソフタル酸成分の含有率が3〜50モル%であるポリブチレンテレフタレート/イソフタル酸共重合体からなる変性ポリブチレンテレフタレート樹脂と繊維状強化剤を含む変性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物と、表面が微細凹凸処理された金属(層)とが一体に付着している複合成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属とポリブチレンテレフタレート樹脂材料からなる複合成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、優れた機械的特性、電気的特性、耐熱性及び耐薬品性を有するため、エンジニアリングプラスチックとして、自動車部品、電気・電子部品などの種々の用途に広く利用されており、ポリブチレンテレフタレート樹脂と金属とのインサートやアウトサート成形で作製された複合成形体も利用されるようになっている。このような樹脂と金属との複合成形体を製造するため、金属表面に樹脂を密着させる技術として、ラミネートの分野で古くから検討がなされており、金属表面に微細な凹凸を形成させた後に熱可塑性樹脂を射出成形して密着性を得る技術が種々検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には予め金属表面をケミカルエッチングする方法が、特許文献2には金属表面をヒドラジン等の水溶性還元剤で処理する方法が示されている。また、特許文献3では、アルマイト処理により微細凹凸処理されたアルミニウム合金を用いることが提案され、特許文献4では、水溶性アミン系化合物水溶液で表面処理された金属を用いて射出成形を行い、更に接合強度を得るためなポリブチレンテレフタレート樹脂にポリカーボネートやポリスチレン、ABS等の非晶性樹脂を配合することが提案されている。
【0004】
しかしながら、これらの手法では、使用環境によっては耐薬品性や耐熱性が不足する場合があり、一方で靱性を悪化させ、特に衝撃強度が低下する等のおそれがあった。また、このような複合成形体の場合、金型温度が高いほど、金属と樹脂の密着強度が向上することが一般的に知られているが、市場においては比較的低い金型温度、特に水温調機で使用できる金型温度での成形加工が求められている。
【特許文献1】特開2001−225352号公報
【特許文献2】特開2003−103563号公報
【特許文献3】特開2006−1216号公報
【特許文献4】特開2003−170531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、十分な密着強度を持ち、且つ100℃以下の金型温度で成形可能なポリブチレンテレフタレート樹脂/金属の複合成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、ポリブチレンテレフタレート樹脂材料として、繊維状強化剤と熱可塑性エラストマーを含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物あるいは繊維状強化剤を含む変性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を使用し、これを表面が微細凹凸処理された金属表面に射出成形することにより、100℃以下の金型温度であっても良好な密着強度を持ち、市場での様々な使用環境にも対応できる複合成形体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち本発明は、繊維状強化剤と熱可塑性エラストマーを含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、あるいは全ジカルボン酸成分に対してイソフタル酸成分の含有率が3〜50モル%であるポリブチレンテレフタレート/イソフタル酸共重合体からなる変性ポリブチレンテレフタレート樹脂と繊維状強化剤を含む変性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物と、表面が微細凹凸処理された金属(層)とが一体に付着していることを特徴とする複合成形体である。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、表面が微細凹凸処理された金属の表面に特定のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を射出成形することにより、これまでインサート成形、アウトサート成形等の金属との一体射出成形を行ってきた分野において、樹脂と金属との密着性が向上するため、樹脂を金属に抱きつかせるための金属加工を簡略化することが可能となる。そのため、設計の自由度が増し、より自由な形状の複合成形体を得ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0010】
本発明に用いるポリブチレンテレフタレート樹脂材料は、(1)繊維状強化剤と熱可塑性エラストマーを含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、あるいは(2)全ジカルボン酸成分に対してイソフタル酸成分の含有率が3〜50モル%であるポリブチレンテレフタレート/イソフタル酸共重合体からなる変性ポリブチレンテレフタレート樹脂と繊維状強化剤を含む変性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物である。この場合、(1)の態様においては、ポリブチレンテレフタレート樹脂としてポリブチレンテレフタレート樹脂を単独で使用してもよいし、またポリブチレンテレフタレート樹脂と変性ポリブチレンテレフタレート樹脂を併用してもよい。
【0011】
また、(2)の態様においては、変性ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリブチレンテレフタレート樹脂を併用してもよい。
【0012】
特に、生産性向上のために成形サイクルを短くすることが要求される場合には、(1)の態様で実施することが好ましい場合がある。
【0013】
本発明に使用するポリブチレンテレフタレート樹脂とは、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体と炭素数4のアルキレングリコール又はそのエステル形成性誘導体を重縮合して得られるポリブチレンテレフタレートである。また、ポリブチレンテレフタレートは、それ自身70重量%以上を有する共重合体であってもよい。
【0014】
テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(低級アルコールエステル等)以外の二塩基酸成分としては、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、コハク酸等の脂肪族、芳香族多塩基酸又はそのエステル形成性誘導体等が、また、1,4−ブタンジオール以外のグリコール成分としては、通常のアルキレングリコール、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール等、1,3−オクタンジオール等の低級アルキレングリコール、ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等の芳香族アルコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等のアルキレンオキサイド付加体アルコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等のポリヒドロキシ化合物又はそのエステル形成性誘導体等が挙げられる。
【0015】
本発明では、上記の如き化合物をモノマー成分として重縮合により生成するポリブチレンテレフタレートは何れも本発明の(A)成分として使用することができ、単独で、または2種類以上混合して使用される。また、コポリマーに属する分岐ポリマーも用いることができる。ここでいうポリブチレンテレフタレート分岐ポリマーとは、いわゆるポリブチレンテレフタレートまたはブチレンテレフタレート単量体を主体とし、多官能性化合物を添加することにより分岐形成されたポリエステルである。ここで使用できる多官能性化合物としては、トリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸及びこれらのアルコールエステル、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等がある。
【0016】
また、本発明で言う変性ポリブチレンテレフタレート樹脂とは、全ジカルボン酸成分に対してイソフタル酸成分の含有率が3〜50モル%であるポリブチレンテレフタレート/イソフタル酸共重合体である。このようなポリブチレンテレフタレート/イソフタル酸共重合体は、上記ポリブチレンテレフタレートにおいて、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体部分の一部をイソフタル酸に置換したものである。結晶性樹脂として特性を保持するためにも一般的にテレフタル酸成分に対して3〜50モル%変性させたものが用いられ、更に変性割合が3モル%未満では、エラストマー成分を含有しない場合には十分な金属との密着性が得られず、変性割合が50モル%を超えると固化速度が遅くなり生産性に劣る場合がある。
【0017】
イソフタル酸はエステル形成可能な誘導体、例えばジメチルエステルの如き低級アルコールエステルの形で重縮合に使用し、コポリマー成分として導入することも可能である。
【0018】
また、変性割合が上記の範囲あるならば、ジイソフタル酸含有率の異なる2種類以上のポリブチレンテレフタレート/イソフタル酸共重合体を混合したものでも、本発明の変性ポリブチレンテレフタレート樹脂として使用できる。
【0019】
ポリブチレンテレフタレート樹脂及び変性ポリブチレンテレフタレート樹脂は、溶剤としてO−クロロフェノールを用い、35℃で測定した固有粘度(IV)が0.6〜1.2dl/gの範囲にあることが必要であり、好ましくは0.65〜1.0dl/g、更に好ましくは0.65〜0.8dl/gである。固有粘度が0.6dl/g未満では、テトラヒドロフラン等のポリブチレンテレフタレート樹脂を発生源とするガスの発生量を十分低減できず、成形時に外観不良を及びデポジット付着等が発生し好ましくない。また、1.2dl/gを超えると成形時の流動性が不良となる。
【0020】
次に、熱可塑性エラストマーは、成形時の金属の線膨張率と樹脂の収縮率差、および接合後の両材の線膨張差による歪およびその応力を緩和させる。エラストマー種としては特に限定しないが、エンジニアリングプラスチックスであるポリブチレンテレフタレート樹脂に添加することから、耐熱性や耐薬品性等を加味して、コアシェル型エラストマー、オレフィン系エラストマー及びポリエステル系エラストマーが好ましい。
【0021】
熱可塑性エラストマーの配合量がポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し3〜100重量部、好ましくは10〜50重量部である。熱可塑性エラストマーが3重量部より少ない場合には金属と樹脂の密着性に十分な効果が得られず、また100重量部より多い場合は結晶性樹脂としての特性が薄れ、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物としての耐熱性や耐薬品性等の要求性能を満足できなくなる可能性がある。
【0022】
コアシェル型エラストマー、柔軟なコア層と弾性率の高いシェル層からなるエラストマーである。コア層においては20〜70重量%のゴム状コアポリマーを含む。そのようなゴム状コアポリマーは少なくとも1種のC−Cアルキルアクリレートモノマー(メチル−、エチル−、プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル−、ヘキシル−、ヘプチル−、n−オクチル、および2−エチルヘキシル−アクリレート)、またはC−Cアルキルアクリレートモノマーとは異なる少なくとも1種のエチレン性不飽和共重合体モノマーから誘導されたものであり、少なくとも1種の架橋材またはグラフトリンカーから誘導された単位(例えば、アリルメタクリレートのような不飽和カルボン酸アリルエステル)を含む。
【0023】
アクリルコア−シェル型エラストマーのシェル層は、コアポリマーにグラフトされたシェルポリマーが好ましく、C−Cアルキルメタアクリレートモノマーの少なくとも一つに由来する前記C−Cアルキルメタアクリレートモノマーの少なくとも一つとは異なる、共重合可能なエチレン性不飽和モノマーの少なくとも一つに由来する単位を1〜20重量%、好ましくは3〜15重量%、最も好ましくは4〜8重量%含む。
【0024】
好適な共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとしては、C−Cアルキル(メタ)アクリレート、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、ジビニルベンゼン、アルファ−メチルスチレン、パラ−メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレン、ビニルナフタレン、イソプロペニルナフタレン、および例えばデシルアクリレート、ラウリルメタアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルメタアクリレート、ステアリルアクリレート、イソボルニルメタアクリレートのようなより大きな炭素数であるC−C20アルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、C−Cアルキル(メタ)アクリレートモノマーが、その向上された耐候性のために好ましく、最も好ましいものはC−Cアルキルアクリレートモノマーである。
【0025】
ポリオレフィン系エラストマーには、ポリオレフィンを主鎖、ビニル系ポリマーを側鎖とし、スチレンやアクリロニトリル−スチレン共重合体をグラフトさせたもの等が挙げられる。主鎖として使用するポリオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、イソプレンと、脂肪酸ビニルエステル類(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等)、アクリル酸エステル類(アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸C−C10アルキルエステル等)、などとの共重合体が挙げられる。このようなオレフィン系主鎖としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸C−Cアルキルエステル共重合体(エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体等)、エチレン−アクリル酸C−Cアルキルエステル−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−スチレン共重合体等が例示される。
【0026】
ポリエステル系エラストマーとしては、短鎖エステルからなるハードセグメントと、数平均分子量が約200〜6000のポリエーテル成分および数平均分子量が約200〜10000のポリエステル成分からなるソフトセグメントとを含有する共重合体であり、ハードセグメントとソフトセグメントの比率は20〜90(重量%)対80〜10(重量%)、好ましくは30〜85(重量%)対70〜15(重量%)のものである。ポリエステルハードセグメントを構成するジカルボン酸成分としてはテレフタル酸、イソフタル酸が好ましい。また、ポリエステルハードセグメントを構成するジオール成分としては、炭素数2〜12の脂肪族もしくは脂環族ジオール、即ちエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−ブテンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールや、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパン等のビスフェノール及びそれらの混合物が好ましい。
【0027】
一方、ソフトセグメントを構成するポリエーテル成分としては、特にポリ(アルキレンオキシド)グリコールが好適であり、特にポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールが好ましい。ソフトセグメントを構成するポリエステル成分としては、炭素数2〜12の脂肪族炭化水素であり、同一分子内にカルボン酸とアルコール末端を有する化合物の重縮合物、あるいは環状エステルの開環重合体が好適に用いられ、カプロラクトン重合体等が好ましい。
【0028】
これらの熱可塑性樹脂エラストマーの中でも、耐加水分解性や耐熱老化性が必要な使用環境下では、コアシェル型エラストマー、オレフィン系エラストマーが特に好ましく用いられる。
【0029】
本発明に用いる樹脂組成物には、引張強度等の機械的強度を改善すると共に、成形品の収縮率を抑制し金属との密着性を向上させるために繊維状強化剤が配合される。
【0030】
繊維状強化剤には、例えば無機繊維[例えば、ガラス繊維、炭素繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、金属繊維(例えば、ステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等)等]や、有機繊維(例えば、芳香族ポリアミド繊維、フッ素樹脂繊維、液晶性芳香族繊維等)が含まれ、単独又は2種以上組み合わせて使用されるが、入手の容易性やコスト面からガラス繊維が好ましく用いられる。
【0031】
繊維状強化剤の平均繊維径は特に制限されず、例えば1〜100μm(例えば1〜50μm)、好ましくは3〜30μm程度である。繊維状強化剤の平均繊維長は特に制限されず、例えば0.1〜20mm程度である。
【0032】
繊維状強化剤しては、通常、断面が円形のものが用いられるが、成形品の反り変形を抑えて成形後の密着力の低下を防止する観点から異形断面ガラスを用いてもよい。
【0033】
尚、繊維状強化剤は、必要により収束剤又は表面処理剤(例えば、エポキシ系化合物、アクリル系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物)で表面処理してもよい。繊維状強化剤は、前記収束剤又は表面処理剤により予め表面処理してもよく、材料調製の際に収束剤又は表面処理剤を添加して表面処理してもよい。
【0034】
繊維状強化剤の配合量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂及び/又は変性ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し20〜100重量部である。配合量が20重量部未満だと金属との密着性が低下する可能性があり、機械的特性も不十分である。100重量部を超えると溶融混練性が悪化すると共に成形性が低下し、結果として金属との密着性も低下するため好ましくない。
【0035】
本発明に用いる樹脂組成物には、上記繊維状強化剤以外の無機充填剤を添加することができる。無機充填剤としては、マイカ、タルクやベントナイト等のケイ酸塩類、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、ベーマイト、硫酸亜鉛、酸化亜鉛、あるいはガラスフレークやガラスビーズ等を単独、あるいは複数使用することが可能であり、適量であれば収縮や線膨張に関する樹脂と金属との差を緩和できる。
【0036】
更に、本発明に用いる樹脂組成物には、必要に応じて、慣用の添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐熱安定剤、耐候安定剤等の安定剤、滑剤、離型剤、着色等を添加してもよい。
【0037】
更に、本発明に用いる樹脂組成物には、ポリブチレンテレフタレート樹脂としての性能を低下させない程度であれば、他の熱可塑性樹脂(例えば、ポリアミド、アクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリ乳酸、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、AS、ABS等)や熱硬化性樹脂(例えば、不飽和ポリブチレンテレフタレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等)を添加してもよい。
【0038】
本発明に使用するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、粉粒体混合物や溶融混合物であってもよく、必要により無機充填剤、添加剤等を慣用の方法で混合することにより調製できる。例えば、各成分を混合して、1軸又は2軸の押出機により混練し押出してペレットして調製できる。
【0039】
このように調製したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物と、表面が微細凹凸処理された金属を使用して、射出成形することにより複合成形体を得ることができる。
【0040】
特に本発明に用いるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、成形時の金型温度として、通常の水温調機の範囲である100℃以下で成形を行っても良好な密着性を得ることが可能であり、金型温度を必要以上に上げる必要がない。
【0041】
本発明において用いる金属表面処理の方法としては特に限定されるものではなく、金属の材質や形状、要求特性等に応じて所望により何れもが選択できる。金属表面への微細凹凸処理としては、例えばケミカルエッチングやアルミニウムへのアルマイト処理、液体ホーニングやサンドブラスト等の物理処理の他、無電解メッキ等による加工が挙げられる。ケミカルエッチングについては、金属表面を合成化学薬品等で処理する方法が、金属の種類や処理する目的に応じて種々あり、今日様々な産業分野で利用されている。エッチングに関する具体例を挙げると、例えば特開平10−96088号公報や特開平10−56263号公報に記載されている方法があり、特に限定されず従来法の何れも選択できる。
【0042】
また、アルマイト処理については、アルミニウムに対して施す一般的な表面処理法であり、酸を用いてアルミニウムを陽極で電気分解させることにより、数十nm〜数十μmオーダーの多孔質を形成することが可能である。また、表面に凹部を形成するばかりではなく、逆に凸部を形成する方法としてTRI処理等が知られている。これらのように、金属表面の微細凹凸処理とは、化学的、あるいは物理的、電気的な手法等を用いて、あるいはこれらを組み合わせることにより、数十nm〜数十μmサイズの凹凸を形成することで、本発明の効果が得られる。凹凸径が更に細かい場合には確認が困難になるほか、成形時の樹脂の入り込みが困難になる。また、大きくなりすぎると、樹脂との接触面積が減少することから、目的とする接合強度が得られにくくなる。
【0043】
本発明に用いる金属種は特に限定されず、例えば、銅やアルミニウム、マグネシウム、ニッケル、チタン、鉄等やその合金類を利用することができる。また、ニッケルやクロム、金等でメッキ加工された金属表面にある金属についても同様に利用することができる。
【実施例】
【0044】
以下実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例中の部は重量部を示す。
実施例1〜7、比較例1〜3
表1に示す組成のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を、日本製鋼(株)製2軸押出機を用いて、シリンダー温度260℃でコンパウンドして作成した。
【0045】
得られた樹脂組成物からソデック社製の射出成形機を使用して、図1に示す密着強度測定用複合成形品を成形した。金属としては、アルミニウム(A1050)にケミカルエッチングの類として知られる「大成プラス社のNMT処理」を施したものを用いた。また、成形は金型温度90℃と140℃の2条件で行った。密着強度については、図1に示す複合成形品を用いて、図2に示すように、突出部分を一定速度の治具に押し付ける方法で破壊強度を測定した。測定には、オリエンテック社製テンシロンUTA−50KN−RTCを使用した。表1に示すように、金型温度140℃では何れも高い密着性を得るものの、金型温度90℃では実施例のもののみが高い密着性を示した。
【0046】
気密性試験に関しては、同様に表面処理したアルミピンを金型温度90℃にてインサート成形することで、図3に示す複合成形品を得て、これを図4に示す治具にセットした後、圧縮エアーにより圧力を加えていき、金属と樹脂の界面からの気密漏れを確認することで評価した。圧力は0.1MPa刻みで1分間保持して、気密漏れが確認できない場合に更に0.1MPa高め、最大0.6MPaまで測定を行った。結果を表1に示す。
【0047】
また、使用した成分の詳細は以下の通りである。
・ポリブチレンテレフタレート樹脂:固有粘度0.7dl/gのポリブチレンテレフタレート樹脂(ウィンテックポリマー社製)
・ポリブチレンテレフタレート/イソフタル酸共重合体:ポリブチレンテレフタレート骨格中のテレフタル酸の12.5モル%をイソフタル酸で変性させたポリブチレンテレフタレートコポリマー(固有粘度0.74dl/g、ウィンテックポリマー社製)
・エラストマー
a:ポリエステル系エラストマー(東洋紡社製ペルプレンGP400)
b:コアシェル型エラストマー(ローム&ハース社製パラロイドEXL-2311)
c:オレフィン系エラストマー(日本油脂社製モディパーA5300)
・繊維状強化剤:ガラス繊維(日本電気硝子社製φ13)
【0048】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】密着強度測定用複合成形品の形状を示す図である。
【図2】複合成形品の密着強度を測定する状況を示す図である。
【図3】気密性試験に用いた複合成形品の形状を示す図である。
【図4】複合成形品の気密性試験の状況を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状強化剤と熱可塑性エラストマーを含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、あるいは全ジカルボン酸成分に対してイソフタル酸成分の含有率が3〜50モル%であるポリブチレンテレフタレート/イソフタル酸共重合体からなる変性ポリブチレンテレフタレート樹脂と繊維状強化剤を含む変性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物と、表面が微細凹凸処理された金属(層)とが一体に付着していることを特徴とする複合成形体。
【請求項2】
繊維状強化剤の配合量がポリブチレンテレフタレート樹脂及び/又は変性ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し20〜100重量部である請求項1記載の複合成形体。
【請求項3】
熱可塑性エラストマーの配合量がポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し3〜100重量部である請求項1記載の複合成形体。
【請求項4】
熱可塑性エラストマーが、コアシェル型エラストマー、オレフィン系エラストマー及びポリエステル系エラストマーから選ばれた1種以上である請求項3記載の複合成形体。
【請求項5】
繊維状強化剤がガラス繊維である請求項1〜4の何れか1項記載の複合成形体。
【請求項6】
表面が微細凹凸処理された金属を予め金型内にセットし、処理面に対して繊維状強化剤と熱可塑性エラストマーを含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物あるいは繊維状強化剤を含む変性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を射出成形することで得られる請求項1〜5の何れか1項記載の複合成形体。
【請求項7】
複合成形体が、金型温度100℃以下の金型を用いて作成されたものである請求項6記載の複合成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−149018(P2009−149018A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330133(P2007−330133)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(501183161)ウィンテックポリマー株式会社 (54)
【Fターム(参考)】