説明

複合材の製造方法

【課題】拡散接合層を介して接合用部材を接合させる際に接合不良が生じるのを抑制して、その後のプレス加工工程において不良品の発生率が上昇したり、プレス加工品の耐久性が低下したりするのを防止できる複合材の製造方法を提供する。
【解決手段】接合用部材の接合面に形成した拡散接合層の表面を、接合に先立って酸またはアルカリによって洗浄した後、前記拡散接合層を介して接合用部材を接合させる。または接合用部材の接合面に拡散接合層を形成し、防錆処理をしたのち168時間以内に、前記拡散接合層を介して接合用部材を接合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば異なる金属からなる接合用部材を、相対向する接合面のうち少なくとも一方に形成した拡散接合層を介して重ね合わせ、加熱、加圧して接合することで、前記接合用部材からなる複合材を製造するための製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電磁加熱調理器具に用いる器物、例えば炊飯器の内釜等は、熱伝導を受け持つアルミニウム(Al)、アルミニウム合金等からなる熱伝導金属板と、発熱を受け持つ鉄(Fe)、ステンレス鋼、ニッケル(Ni)等からなる磁性金属板とを複合化したいわゆるクラッド材を、所定の内釜等の形状にプレス加工して製造される。
【0003】
クラッド材の製造方法としては従来、長尺の熱伝導金属板と磁性金属板とを連続的にロール圧延して一体化させる方法が一般的である。しかしロール圧延法で製造された長尺のクラッド材を所定の形状にプレス加工する際には、前記2種の金属からなる複合材であって、金属単体でないためリサイクルが容易でない打抜きロスが多量に生じるため、産業資源の有効利用の観点から好ましくなかった。また圧延時に、特に軟らかい熱伝導金属板の厚みがばらついて、クラッド材のプレス加工時にシワや割れが生じやすいという問題もあった。
【0004】
そこで、熱間一軸加圧によりクラッド材を製造する方法が提案された(例えば特許文献1、2参照)。前記熱間一軸加圧法では、プレス加工するために必要最小限の大きさにカットした熱伝導金属板と磁性金属板とを重ね合わせたものを、さらに複数組重ね合わせ、同時に加熱しながら加圧することで接合して一体化できるため、クラッド材の大量生産が可能である。また製造されるクラッド材は、前記のようにプレス加工するために必要最小限の大きさを有するためリサイクルが容易でない打抜きロスが発生するのを最小限に抑えることができる。
【0005】
熱伝導金属板と磁性金属板は直接に接合させてもよいが、前記両金属板の、相対向する接合面のうち少なくとも一方、好ましくは両方に、特に銅(Cu)からなる拡散接合層を形成し、前記拡散接合層を介して両金属板を接合させるのが好ましい。この方法によれば熱間一軸加圧の条件を低温側、低圧側にシフトさせて、クラッド材の製造に要するエネルギーや時間等を削減できる。また、特に熱伝導金属板の厚みのばらつきに起因するプレス加工工程でのシワや割れの発生も抑制できる。
【0006】
また拡散接合層を介した両金属板間の接合強度を高めて、プレス加工工程での不良品の発生率を低減すると共に内釜等のプレス加工品の耐久性を向上させるため、前記両金属板のうち少なくとも一方の接合面に、あらかじめニッケルめっき下地層を形成し、その上に銅からなる拡散接合層を形成することも提案されている(特許文献3等参照)。
【特許文献1】特開平6−15465号公報
【特許文献2】特開平6−179083号公報
【特許文献3】特開平9−129363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし接合面に前記拡散接合層を備えた金属板(接合用部材)は、特にクラッド材(複合材)の製造に先立って保管する期間が長くなるほど、先に説明した熱間一軸加圧法等によって接合させる際に接合不良を生じやすくなり、それに伴ってプレス加工工程での不良品の発生率が上昇すると共に、プレス加工品の耐久性が低下するという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、拡散接合層を介して接合用部材を接合させる際に接合不良が生じるのを抑制して、その後のプレス加工工程において不良品の発生率が上昇したり、プレス加工品の耐久性が低下したりするのを防止できる複合材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
銅からなる拡散接合層は、接合用部材の接続面もしくは前記接続面に形成したニッケルめっき下地層の表面等に、電気銅めっき(光沢銅めっき)によって形成するのが一般的である。また拡散接合層の表面には、銅の酸化を防止するための防錆処理として例えばベンゾトリアゾール(BTA)を塗布して、銅との反応物(Cu−BTA)からなる防錆皮膜が形成されることが多い。
【0010】
しかし形成直後の拡散接合層の表面には、通常、電気銅めっき浴中に含まれる光沢剤等に由来する有機物が吸着していることが多く、ベンゾトリアゾールは有機物が吸着した領域では銅と反応できないため、防錆皮膜は、前記有機物が吸着した領域に対応する多数の欠陥を有する皮膜となる。
【0011】
そのため、たとえ防錆処理を施したとしても、接合前の接合用部材を複合材の製造のために保管している間に、前記欠陥を通して露出した拡散接合層の表面の銅が酸化されて、前記表面に銅の拡散とそれによる接合部材の接合とを阻害する酸化膜が形成されてしまい、接合用部材を熱間一軸加圧法等によって接合させる際に接合不良を生じやすくなり、それに伴ってプレス加工工程での不良品の発生率が上昇すると共に、プレス加工品の耐久性が低下する。
【0012】
そこで発明者は、拡散接合層の表面に形成される酸化膜が原因で、前記拡散接合層を介して接合用部材を接合させる際に接合不良が生じるのを抑制するために検討をした。その結果、接合に先立って拡散接合層の表面を酸またはアルカリによって洗浄して酸化膜を除去すればよいことを見出した。
【0013】
すなわち本発明は、接合により複合材を構成する2つの接合用部材のうち少なくとも一方の接合面に拡散接合層を形成する工程と、接合に先立って拡散接合層の表面を酸またはアルカリによって洗浄する工程と、前記2つの接合用部材を、前記拡散接合層を介して接合する工程とを含むことを特徴とする複合材の製造方法である。
【0014】
なお、洗浄前の拡散接合層の表面に形成される酸化膜の量をできるだけ少なくして、洗浄の工程において確実に酸化膜を除去することを考慮すると、前記洗浄前、特に形成直後の拡散接合層の表面を防錆処理しておくのが好ましい。また、洗浄後の拡散接合層の表面に酸化膜が形成されて接合を阻害するのを抑制することを考慮すると、2つの接合用部材を、拡散接合層の洗浄後1時間以内に接合するのが好ましい。
【0015】
本発明の複合材の製造方法によれば、同一または異なる2種以上の金属からなる種々の接合用部材が、拡散接合層を介して一体に接合された複合材を製造することができる。
中でも接合用部材の一方が熱伝導金属板、他方が磁性金属板であり、製造する複合材が、電磁加熱調理器具に用いる器物のもとになるクラッド材を、本発明の製造方法によって製造するのが好ましい。これにより、クラッド材を構成する熱伝導金属板と磁性金属板との間の接合不良を抑制して、先に説明したようにその後のプレス加工工程を経て前記器物を製造する際に不良品の発生率が上昇したり、プレス加工後の器物の耐久性が低下したりするのを抑制して、前記器物の製造の歩留まりを向上できる。
【0016】
また発明者は、拡散接合層の表面に形成される酸化膜が原因で、前記拡散接合層を介して接合用部材を接合させる際に接合不良が生じるのを抑制するための他の方法についても検討した。その結果、拡散接合層を形成し、防錆処理をした後の接合用部材を、酸化膜が形成される前に接合すれば、先の場合と同様に接合不良の発生を抑制できることを見出した。
【0017】
したがって本発明は、接合により複合材を構成する2つの接合用部材のうち少なくとも一方の接合面に拡散接合層を形成する工程と、前記拡散接合層の表面を防錆処理する工程と、前記2つの接合用部材を、拡散接合層の形成後168時間以内に、前記拡散接合層を介して接合する工程とを含むことを特徴とする複合材の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の複合材の製造方法によれば、拡散接合層を介して接合用部材を接合させる際に接合不良が生じるのを抑制して、その後のプレス加工工程において不良品の発生率が上昇したり、プレス加工品の耐久性が低下したりするのを防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、接合により複合材を構成する2つの接合用部材のうち少なくとも一方(好ましくは両方)の接合面に拡散接合層を形成する工程と、接合に先立って拡散接合層の表面を酸またはアルカリによって洗浄する工程と、前記2つの接合用部材を、前記拡散接合層を介して接合する工程とを含むことを特徴とするものである。
以下では、接合用部材が熱伝導金属板と磁性金属板、拡散接合層が銅であって、電磁加熱調理器具に用いる器物のもとになるクラッド材を製造する場合を例にとってさらに説明する。
【0020】
前記組み合わせの場合、熱伝導金属板としては、アルミニウム、またはアルミニウム合金からなる板材が挙げられる。特にAg−Mn系アルミニウム合金からなる板材を用いた場合には、内釜等の器物に良好な耐食性を付与することができる。前記熱伝導金属板の接合面に、銅からなる拡散接合層を形成する場合は、まず前記接合面を洗浄し、次いで湿式または乾式のエッチング処理、スマット除去等の処理をして下地を整える。
【0021】
次に亜鉛(Zn)置換めっき等によって厚み100nm未満のごく薄い亜鉛めっき下地層を形成した上にニッケルめっき下地層を形成する。
これにより前記拡散接合層の、接合面に対する密着性を向上して接合後のクラッド材における両金属板間の接合強度を高めて、プレス加工工程での不良品の発生率を低減すると共に、内釜等のプレス加工品の耐久性を向上させることができる。
【0022】
ニッケルめっき下地層は、種々の電気ニッケルめっき、化学ニッケルめっきによって形成できる。ニッケルめっき下地層の厚みは0.1μm以上、5μm以下、特に0.5μm以上、3μm以下であるのが好ましい。
ニッケルめっき下地層の厚みが前記範囲未満では、ニッケルめっき下地層を形成することによる、先に説明した、銅からなる拡散接合層の、接合面に対する密着性を向上する効果が十分に得られないおそれがある。
【0023】
また前記範囲を超える場合には、ニッケルめっき下地層とその上の拡散防止層のトータルの厚みが大きくなりすぎて、発生する内部応力により、前記両層にクラックが発生したり、熱伝導金属板の表面から剥離したりするおそれがある。
次に、前記ニッケルめっき下地層の上に、電気銅めっき(光沢銅めっき)によって銅からなる拡散接合層を形成する。前記電気銅めっきには、特に内部応力が小さく、添加剤(光沢剤)の添加によって鏡面光沢が得られる硫酸銅めっき浴(光沢銅めっき浴)が好適に採用される。
【0024】
光沢剤としては、硫酸銅めっき浴用として汎用されている任意の光沢剤がいずれも使用可能である。前記光沢剤としては、例えば奥野製薬工業(株)製の商品名トップルチナ2000A(第1光沢剤)とトップルチナ2000MJ(第2光沢剤)との組み合わせや、アトテック社(ドイツ)製のカパラシド(登録商標)210A(第1光沢剤)とメーキャップカパラシド210(第2光沢剤)との組み合わせ等が挙げられる。
【0025】
特に後者の光沢剤の組み合わせでは、拡散接合層の表面に吸着される、光沢剤に由来する有機物の量を少なくして、前記拡散接合層の上に欠陥の少ない防錆皮膜を形成することができる。そのため、防錆皮膜を形成した際に、洗浄前の拡散接合層の表面に形成される酸化膜の量をできるだけ少なくして、洗浄の工程において確実に酸化膜を除去することが可能となる。
【0026】
拡散接合層の厚みは1μm以上、20μm以下、特に5μm以上、15μm以下であるのが好ましい。拡散接合層の厚みが前記範囲未満では、前記拡散接合層を設けたことによる、熱間一軸加圧の条件を低温側、低圧側にシフトさせて、クラッド材の製造に要するエネルギーや時間等を削減したり、特に熱伝導金属板の厚みのばらつきに起因するプレス加工工程でのシワや割れの発生を抑制したりする効果が十分に得られないおそれがある。
【0027】
また前記範囲を超える場合には、拡散接合層とその下のニッケルめっき下地層のトータルの厚みが大きくなりすぎて、発生する内部応力により、前記両層にクラックが発生したり、熱伝導金属板の表面から剥離したりするおそれがある。
拡散接合層の表面には、銅の酸化を防止するための防錆処理を施しておくのが好ましい。防錆処理としては、従来同様に拡散接合層の表面にベンゾトリアゾール等を塗布して、銅との反応物(Cu−BTA)からなる防錆皮膜を形成すればよい。
【0028】
前記Cu−BTAからなる防錆皮膜は、周知のように銅からなる拡散接合層の表面を永続的に被覆するものではない。拡散接合層を形成し、その表面を防錆処理した接合用部材を、例えば常温で保管している間にも前記防錆皮膜は僅かずつ昇華し続ける。そのため保管する期間の長さや保管温度等にもよるが、酸またはアルカリでの洗浄工程を行うまでに、防錆皮膜は消失していく。
【0029】
また、消失せずに残留した前記Cu−BTAは、酸またはアルカリによる洗浄工程において、銅の酸化物と共に除去することが可能である上、拡散接合時の熱により昇華するため、前記Cu−BTAからなる防錆皮膜が、洗浄工程における銅の酸化物の除去に影響を及ぼしたり、接合用部材の接合に影響を及ぼしたりすることはない。
【0030】
磁性金属板としては鉄、ステンレス鋼、ニッケル等の、強磁性を有する種々の金属または合金からなる板材が挙げられる。前記磁性金属板の接合面に、銅からなる拡散接合層を形成する場合は、まず前記接合面を洗浄し、次いでアルカリ中での電解処理、スマット除去等の処理をして下地を整える。次に鉄やステンレス鋼からなる磁性金属板の場合は、前記接合面にニッケルめっき下地層を形成する。
これにより前記拡散接合層の、接合面に対する密着性を向上して接合後のクラッド材における両金属板間の接合強度を高めて、プレス加工工程での不良品の発生率を低減すると共に、内釜等のプレス加工品の耐久性を向上させることができる。
【0031】
次にニッケルめっき下地層の上に、銅からなる拡散接合層を形成する。ニッケルめっき下地層および拡散接合層の形成方法や、形成に用いるめっき浴の組成、拡散接合層の表面に防錆処理を施すのが好ましい点等は、先に説明した熱伝導金属板の場合と同様である。拡散接合層の厚みの好適な範囲、およびその理由も熱伝導金属板の場合と同様である。
【0032】
ニッケルめっき下地層の厚みは0.1μm以上、5μm以下、特に0.5μm以上、3μm以下であるのが好ましい。ニッケルめっき下地層の厚みが前記範囲未満では、ニッケルめっき下地層を形成することによる、先に説明した、銅からなる拡散接合層の、接合面に対する密着性を向上する効果が十分に得られないおそれがある。
また前記範囲を超える場合には、ニッケルめっき下地層とその上の拡散防止層のトータルの厚みが大きくなりすぎて、発生する内部応力により、前記両層にクラックが発生したり、磁性金属板の表面から剥離したりするおそれがある。
【0033】
前記熱伝導金属板と磁性金属板とを、それぞれの接合面に形成した拡散接合層を介して接合するに先立って、本発明では、両金属板の拡散接合層の表面を酸またはアルカリによって洗浄する。
洗浄に用いる酸またはアルカリとしては、下地である拡散接合層や両金属板を損傷させることなしに、前記拡散接合層の表面に形成される酸化膜を除去することができる任意の酸またはアルカリがいずれも使用可能である。例えば銅からなる拡散接合層の表面に形成される銅の酸化膜を除去するのに適した酸としては、例えば硫酸、塩酸、リン酸、硝酸等の無機酸や、シュウ酸、安息香酸等の有機酸が挙げられる。
【0034】
洗浄は、拡散接合層を形成した金属板の全体を酸またはアルカリに浸漬して実施できる他、前記拡散接合層の表面に酸またはアルカリをスプレー噴霧したり、酸またはアルカリを含ませた多孔質体等で拡散接合層の表面をふき取ったりすることでも実施可能である。
【0035】
酸またはアルカリによる洗浄をして拡散接合層の表面に形成された酸化物を除去した後は、従来同様に熱間一軸加圧法等によって、両金属板を、拡散接合層を介して接合することで、複合材としてのクラッド材が製造される。すなわち熱間一軸加圧法では、あらかじめプレス加工するために必要最小限の大きさにカットした熱伝導金属板と磁性金属板の、それぞれの接合面に前記拡散接合層等を形成したものを、互いの拡散接合層が接するように重ねたものを1組として複数組重ね合わせ、同時に加熱しながら加圧することで、複数組のクラッド材を製造することができる。
【0036】
洗浄後の拡散接合層の表面に酸化膜が形成されて接合を阻害するのを抑制することを考慮すると、洗浄後の接合用部材は1時間以内、特に30分以内に接合するのが好ましい。
クラッド材が炊飯器の内釜等である場合は、プレス加工によって内釜等の内側面となる熱伝導金属板の、拡散接合層を形成した接合面と反対側の面に、フッ素樹脂等からなり、ご飯等のこびり付きや焦げ付き等を防止するためのコーティング層を被覆するのが好ましい。
【0037】
フッ素樹脂としてはテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等が挙げられる。
コーティング層の厚みは、従来同様に5μm以上、50μm以下、特に10μm以上、30μm以下であるのが好ましい。
【0038】
コーティング層は、熱伝導金属板と磁性金属板とを熱間一軸加圧法等によって接合するに先立って形成しておくのが好ましい。これにより、接合時の圧力によってコーティング層の表面平滑性を高めて、ご飯等のこびり付きや焦げ付き等をさらに良好に防止することが可能となる。
【0039】
製造したクラッド材を、熱伝導金属板のコーティング層を形成した面を内側、磁性金属板を外側にしてプレス加工することで前記内釜等が製造される。この際、クラッド材は、先に説明した拡散接合層の表面を酸またはアルカリで洗浄して酸化物を除去したことによる効果によって、両金属板間の接合強度に優れる。そのため、製造される内釜等の器物は、プレス加工工程での不良品の発生率が低減されると共に、製造後の耐久性に優れたものとなる。
【0040】
本発明の他の製造方法は、先に説明した各工程を経てそれぞれの接合面に拡散接合層を形成し、防錆処理をした熱伝導金属板と磁性金属板とを、前記拡散接合層の形成後、いずれも168時間以内、特に72時間以内に、前記熱間一軸加圧法等によって接合して複合材としてのクラッド材を製造することを特徴とするものである。
【0041】
かかる製造方法によれば、拡散接合層の表面に酸化膜が形成される前に両金属板を接合することができる。そのためクラッド材は、先の発明の場合と同様に、両金属板間の接合強度に優れたものとなり、前記クラッド材を用いて製造される内釜等の器物は、プレス加工工程での不良品の発生率が低減されると共に、製造後の耐久性に優れたものとなる。
【0042】
なお防錆処理により拡散接合層の表面に形成される、Cu−BTA等からなる防錆皮膜は、先に説明したように100℃前後に加熱すると蒸発して失われる。そのため、拡散接合層の表面にCu−BTAが残留していたとしても、100℃を超える高温の加熱を伴う、前記熱間一軸加圧法等による接合用部材の接合に、前記Cu−BTAが影響を及ぼすことはない。
【0043】
本発明の製造方法は、以上で説明した熱伝導金属板と磁性金属板とを接合して電磁調理器の器物のもとになるクラッド材を製造する方法には限定されない。
例えば溶接等の他の方法によって接合することが難しい材料同士の接合に、本発明の製造方法を適用することも可能である。その具体例としてはチタン(Ti)とニッケル合金との接合、タングステン(W)、モリブデン(Mo)等の超硬合金の接合、セラミックと金属、セラミックとセラミックとの接合等が挙げられる。
その他、本発明の用紙を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことができる。
【実施例】
【0044】
〈実施例1〉
(熱伝導金属板の形成)
熱伝導金属板としての厚み1mmのJIS3003系アルミニウム合金板を、炊飯器の内釜をプレス加工によって形成するために必要な大きさにカットしたものを用意し、前記熱伝導金属板の片面である接合面を露出させ、他の面をマスキング剤で被覆した状態で、エッチング液〔奥野製薬工業(株)製の商品名トップアルソフトの50g/リットル水溶液〕に浸漬して50℃で30秒間、エッチング処理をし、次いで67.5%硝酸に30℃で50秒間浸漬してスマット除去をした。
【0045】
次に前記熱伝導金属板を亜鉛置換めっき浴〔奥野製薬工業(株)製の商品名サブスターZN−1の180cc/リットル水溶液〕に浸漬して20℃で30秒間、亜鉛置換めっきをして、接合面に厚み100nm未満の亜鉛置換めっき下地層を形成し、次いで下記の各成分からなるニッケルめっき浴(ワット浴)に浸漬して電流密度2.6A/dmの条件で、50℃で6.5分間のニッケルめっきをして、前記亜鉛置換めっき下地層の上に厚み2μmのニッケルめっき下地層を形成した。
【0046】
(ニッケルめっき浴)
硫酸ニッケル:240g/リットル
塩化ニッケル:45g/リットル
ホウ酸:30g/リットル
【0047】
次に前記熱伝導金属板を、下記の各成分からなる光沢銅めっき浴Aに浸漬して電流密度3A/dmの条件で、25℃で13.5分間の光沢銅めっきをして、前記ニッケルめっき下地層の上に銅からなる拡散接合層を形成した後、ベンゾトリアゾールを主成分とする防錆処理液〔奥野製薬工業(株)製の商品名トップリンスの5cc/リットル水溶液〕に30℃で6秒間浸漬して防錆処理をした。
【0048】
(光沢銅めっき浴A)
硫酸銅:225g/リットル
硫酸:60g/リットル
光沢剤
アトテック社製のカパラシド(登録商標)210A:0.5cc/リットル
アトテック社製のメーキャップカパラシド210:5cc/リットル
【0049】
(磁性金属板の形成)
磁性金属板としての厚み0.5mmのステンレス鋼板を、先の熱伝導金属板と同じ大きさ、同じ形状にカットしたものを用意し、前記磁性金属板の片面である接合面を露出させ、他の面をマスキング剤で被覆した状態で10%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、電流密度5A/dmの条件で1分間電解脱脂した後、5%塩酸に30℃で1分間浸漬して酸化膜を除去した。
【0050】
次いで、先の熱伝導金属板と同様の条件でニッケルめっき下地層の形成、銅からなる拡散接合層の形成の各工程を経て拡散接合層を形成した後、前記拡散接合層の表面を、同様の条件で防錆処理した。
【0051】
(クラッド材の製造)
前記熱伝導金属板と磁性金属板とをそれぞれ2ヶ月間に亘って温度15℃、相対湿度50%の環境下で保管した後、それぞれの拡散接合層の表面を純水で洗浄し、次いで0.9%硫酸水溶液に浸漬して25℃で15秒間洗浄した。
【0052】
そして両金属板を洗浄後30分以内に、熱間一軸加圧法によって接合させた。すなわち、互いの拡散接合層を当接させた状態で重ね合わせたものを1組として複数組を重ね合わせ、同時に255℃に加熱しながら4.9×10Paの圧力で35分間加圧することで接合、一体化して複合材としてのクラッド材を製造した。
【0053】
前記クラッド材の熱伝導金属板と磁性金属板とを、それぞれクラッド材の面方向と直行する反対方向に引っ張って剥離させるT型剥離試験を、複数のクラッド材について行った際に、両金属板の拡散接合層の界面で層間剥離し、幅1cmあたりの複合材の引き剥がし強度が40kgf/10mm未満であったものを接合不良、クラッド材を形成するいずれかの層の内部、特に熱伝導金属板の内部で層内破壊し、剥離強度が40kgf/10mm以上であったものを接合良好として評価した。そして全サンプル数に占める接合不良の個数の百分率を求めて不良率としたところ、実施例1のものは不良率が0.1%であった。
【0054】
比較のため、2ヶ月間保管後の拡散接合層の表面を純水で洗浄したものの、酸による洗浄を行わなかったものを比較例1として同様にT型剥離試験を行い、不良率を求めたところ0.5%であり、酸で洗浄して銅の酸化膜を除去することにより、接合不良を大幅に低減できることが確認された。
【0055】
また、拡散接合層の表面における酸化膜の厚みを下記の測定方法によって求めたところ、2ヶ月間保管後は1.5nmであったものが酸による洗浄後は0nmとなり、前記洗浄によって酸化膜を除去できることが確認された。
【0056】
(酸化膜の厚み測定)
表面に拡散接合層を形成した磁性金属板の、前記拡散接合層の表面以外の表面を絶縁皮膜で被覆した状態で、陰極として、陽極である白金電極と共に1Mの水酸化リチウムと6Mの水酸化カリウムとを含む電解液中に浸漬し、両極間に印加する電圧を変化させながら、電流密度の変化を測定した。そして電流密度の変化のピークのうちCuOからCuへの還元反応、およびCuOからCuへの還元反応に基づくピークの面積を測定した結果から酸化膜の厚みを求めた。
【0057】
〈実施例2〉
下記の各成分からなる光沢銅めっき浴Bを用いたこと以外は実施例1と同様にして拡散接合層を形成し、その表面を防錆処理して熱伝導金属板および磁性金属板を作製し、クラッド材を製造した。
【0058】
(光沢銅めっき浴B)
硫酸銅:225g/リットル
硫酸:60g/リットル
光沢剤
奥野製薬工業(株)製の商品名トップルチナ2000A:0.5cc/リットル
奥野製薬工業(株)製の商品名トップルチナ2000MU:5cc/リットル
【0059】
前記クラッド材について実施例1と同じT型剥離試験をし、不良率を求めたところ0.2%であった。比較のため、2ヶ月間保管後の拡散接合層の表面を純水で洗浄したものの、酸による洗浄を行わなかったものを比較例2として同様にT型剥離試験を行い、不良率を求めたところ8%であり、やはり酸で洗浄して銅の酸化膜を除去することにより、接合不良を大幅に低減できることが確認された。
【0060】
また、拡散接合層の表面における酸化膜の厚みを先に説明した測定方法によって求めたところ、2ヶ月間保管後は3nmであったものが酸による洗浄後は0nmとなり、前記洗浄によって酸化膜を除去できることが確認された。
【0061】
〈実施例3〉
実施例2と同様にして拡散接合層を形成し、その表面を防錆処理して作製した熱伝導金属板および磁性金属板を保管せず、いずれも拡散接合層の形成後72時間以内に、前記熱間一軸加圧法によって接合、一体化して複合材としてのクラッド材を製造した。接合直前の拡散接合層の表面における酸化膜の厚みを、先に説明した測定方法によって求めたところ0nmであり、拡散接合層の表面には、いまだ酸化膜が形成されていないことが確認された。
【0062】
そして製造したクラッド材について実施例1と同じT型剥離試験をし、不良率を求めたところ0.2%であり、拡散接合層の表面に酸化膜が形成される前に接合することにより、接合不良を大幅に低減できることが確認された。
以上の結果を表1にまとめた。
【0063】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合により複合材を構成する2つの接合用部材のうち少なくとも一方の接合面に拡散接合層を形成する工程と、
接合に先立って拡散接合層の表面を酸またはアルカリによって洗浄する工程と、
前記2つの接合用部材を、前記拡散接合層を介して接合する工程とを含むことを特徴とする複合材の製造方法。
【請求項2】
洗浄前の拡散接合層の表面を防錆処理する工程を含む請求項1に記載の複合材の製造方法。
【請求項3】
2つの接合用部材を、拡散接合層の洗浄後1時間以内に接合する請求項1または2に記載の複合材の製造方法。
【請求項4】
接合用部材の一方が熱伝導金属板、他方が磁性金属板であり、製造する複合材が、電磁加熱調理器具に用いる器物のもとになるクラッド材である請求項1ないし3のいずれか1つに記載の複合材の製造方法。
【請求項5】
接合により複合材を構成する2つの接合用部材のうち少なくとも一方の接合面に拡散接合層を形成する工程と、
前記拡散接合層の表面を防錆処理する工程と、
前記2つの接合用部材を、拡散接合層の形成後168時間以内に、前記拡散接合層を介して接合する工程とを含むことを特徴とする複合材の製造方法。