説明

複合材料及びその製造方法並びに放熱板

【課題】 製造が容易でしかも加工性が良好な複合材料を提供する。
【解決手段】 複合材料1はマトリックス相2が金属で構成され、分散相3が高硬度微粒子3aの周囲にカーボン微粒子3bが凝集したもので構成されている。マトリックス相2の金属にはアルミニウム合金が使用され、高硬度微粒子3aとしてSiCの微粒子が使用されている。高硬度微粒子3aの粒子径は10μm〜100μm程度で、カーボン微粒子3bの粒子径は数十nmのものが使用されている。高硬度微粒子3a及びカーボン微粒子3bの合計充填率は体積%で50〜70%で、そのうちカーボン微粒子3bの高硬度微粒子3aに対する割合が数%以上となっている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は金属をマトリックス相とし、高硬度の材質製の微粒子を分散相とした複合材料及びその製造方法並びに放熱板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】半導体装置の放熱板(ヒートシンク)を金属製とした場合は、金属と半導体装置の熱膨張率の差が大きく、半導体装置が破損する虞があるため、従来、放熱板として金属マトリックス相にセラミックスを分散させたもの、例えばSiC粒子をアルミニウム基材に分散させた複合材料が知られている。前記複合材料を放熱板に使用する場合は、電子部品を搭載する側の面を所定の粗さに加工したり、穴開け加工を行う必要がある。ところが前記複合材料は非常に高硬度の材料であるため、前記加工が困難で加工コストも高くなる。
【0003】この問題を解消するものとして特開平11−87581号公報には、図3に示すように、金属マトリックス42a中に分散粒子42bを含有する金属基複合材料42と、その表面に固着して配設された加工用部材(加工容易材)43とよりなる複合材料41が提案されている。加工用部材43は熱膨張率が金属基複合材料42の熱膨張率の±60%以内であるとともに、ビッカース硬さHvが150以下となっている。この複合材料41は加工用部材43と分散粒子42bとをマトリックス用の溶融金属によって高圧条件下で鋳込むことにより製造される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところが、特開平11−87581号公報に開示された複合材料41のように加工用部材(加工容易材)43を金属基複合材料42の片側に配設した場合は、加工用部材43と金属基複合材料42との熱膨張係数の差により、鋳造後に複合材料41に変形(反り)が発生するという問題がある。
【0005】本発明は前記従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その第1の目的は製造が容易でしかも加工性が良好な複合材料を提供することにあり、第2の目的はその複合材料の製造方法を提供することにある。また、第3の目的は前記複合材料を使用した放熱板を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】前記第1の目的を達成するため請求項1に記載の発明では、金属をマトリックス相とし、高硬度の材質製の微粒子の周囲にカーボン微粒子を凝集させたものを分散相とした。なお、高硬度の材質とは炭化珪素(SiC)程度の硬度を有する材質を意味する。
【0007】従って、この発明の複合材料では高硬度の材質製の微粒子の一部が高硬度微粒子より硬度の低いカーボン微粒子と置換された状態となるため、複合材料の熱伝導率、熱膨張係数及び強度を維持したまま加工性が向上する。また、高硬度微粒子の周囲にカーボン微粒子が凝集した状態のため、凝集し易いカーボン微粒子を使用しても、複合材料全体に高硬度微粒子とカーボン微粒子とが均一化された状態で分散され、複合材料の物性が安定する。
【0008】請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記金属は高熱伝導率を有する。高熱伝導率とはアルミニウムの熱伝導率と同程度以上の熱伝導率であることを意味する。従って、この発明では、複合材料の熱伝導率が高くなって放熱性が向上する。
【0009】第2の目的を達成するため請求項3に記載の発明では、高硬度の材質製の微粒子とカーボン微粒子とを混合して、周囲にカーボン微粒子を凝集させた高硬度微粒子を成形型内に充填した後、マトリックス相となる金属を溶融したものを加圧状態で鋳込むようにした。
【0010】この発明の製造方法では、高硬度微粒子とカーボン微粒子とが予め混合されて、高硬度微粒子の周囲にカーボン微粒子が凝集された状態の混合物(混合粉体)が形成される。そして、その混合物が成形型内に充填されるため、単純に双方の微粒子を成形型内に入れて混合した場合と異なり、高硬度微粒子とカーボン微粒子とが成形型内に均一化された状態で分散される。その状態で、マトリックス相となる溶融金属が加圧状態で成形型内に注入されるため、複合材料は金属マトリックス相に高硬度微粒子とカーボン微粒子とが成形型内に均一化された状態で分散された構造となる。
【0011】第3の目的を達成するため請求項4に記載の発明の放熱板は、請求項1又は請求項2に記載の複合材料を使用した。従って、この発明では、放熱板の電子部品を搭載する側の面を所定の粗さに加工したり、穴開け加工を行う場合に、高硬度微粒子だけが分散相を構成している複合材料に比較して加工が容易となる。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、本発明を具体化した一実施の形態を図1及び図2に従って説明する。図1(a)は複合材料の模式断面図である。複合材料1はマトリックス相2が金属で構成されている。分散相3は図1(b)に示すように、高硬度の材質製の微粒子(以下、高硬度微粒子という)3aの周囲にカーボン微粒子3bが凝集したもので構成されている。
【0013】マトリックス相2の金属には高熱伝導率を有するもの、即ちアルミニウムの熱伝導率と同程度以上の熱伝導率を有する金属が使用されている。この実施の形態ではでマトリックス相2の金属にアルミニウム又はアルミニウム合金(以下、単にアルミニウム合金と言う)が使用されている。
【0014】高硬度の材質としては炭化珪素(SiC)と同程度の熱伝導率及び熱膨張率を有するセラミックスが使用されている。この実施の形態では高硬度微粒子3aとしてSiCの微粒子が使用されている。高硬度微粒子3a及びカーボン微粒子3bの粒度や充填量は、複合材料1に要求される特性(物性)に応じて設定されるが、高硬度微粒子3aの粒子径は例えば数μm〜100μm程度で、カーボン微粒子3bの粒子径は例えば数nm〜100nm程度である。この実施の形態では高硬度微粒子3aとして粒子径が10μmのものと100μmのものとの混合物が使用され、カーボン微粒子3bとしては粒子径が0.035μm即ち、35nmのものが使用されている。高硬度微粒子3a及びカーボン微粒子3bの充填率は体積%で50〜70%で、そのうちカーボン微粒子3bの高硬度微粒子3aに対する割合が数%以上となっている。
【0015】次に前記のように構成された複合材料1の製造方法を図2に基づいて説明する。複合材料1は、2段階に分けて製造される。第1段階では分散相を構成する高硬度微粒子3a及びカーボン微粒子3bの混合物(混合粉体)が調整される。混合物はSiC粉末(微粒子)とカーボン粉末(微粒子)とをボールミルにて混合することにより調整される。カーボン微粒子3bは粒子径が小さい(0.035μm)ため凝集し易いが、ボールミルで混合することにより、高硬度微粒子3a(SiC微粒子)の周囲にカーボン微粒子3bが凝集したものが比較的容易に得られる。
【0016】次にこの混合物を図2(a)に示すように、成形型4内に充填する。この実施の形態では成形型4に金型が使用されている。高硬度微粒子3aとカーボン微粒子3bとを成形型4内に入れて混合した場合は、高硬度微粒子3aとカーボン微粒子3bとが偏った状態で充填され易い。しかし、高硬度微粒子3a(SiC粒子)の周囲にカーボン微粒子3bが凝集したものが予め調整されて、それが成形型内に充填されるため、高硬度微粒子3aとカーボン微粒子3bとが成形型4内に均一化された状態で分散される。
【0017】その状態で溶融状態のアルミニウム合金5が成形型4内に加圧状態で注入されて、図2(b)の状態となる。そして、所定時間経過後、成形型4が冷却されてアルミニウム合金が凝固、冷却される。そして、製品としての複合材料1が成形型4から取り出される。
【0018】前記のようにして製造された複合材料1は、例えば半導体装置用の放熱部材として使用される。その場合、複合材料1は、電子部品を搭載する側の面が所定の粗さに加工されたり、必要に応じて穴開け加工が行われる。このとき、従来の複合材料と異なり、分散相3の一部が高硬度微粒子3aに代えてカーボン微粒子3bで構成されているため、加工が容易になる。
【0019】この実施の形態では以下の効果を有する。
(1) 複合材料1が、金属をマトリックス相2とし、高硬度微粒子3aの周囲にカーボン微粒子3bを凝集させたものを分散相3としている。従って、分散相3全体を高硬度微粒子3aで構成したものに比較して、表面の切削(研削)加工や穴開け加工等が容易となる。
【0020】(2) 高硬度微粒子3aの周囲にカーボン微粒子3bを凝集させたものを分散相3としているため、マトリックス相2に高硬度微粒子3a及びカーボン微粒子3bを均一化した状態で分散させ易くなり、反り等の熱変形が防止される。
【0021】(3) マトリックス相2としてアルミニウムの熱伝導率と同程度以上の熱伝導率を有する金属が使用されている。従って、半導体装置等の電子部品の放熱材として使用するのに好適となる。
【0022】(4) マトリックス相2がアルミニウム又はアルミニウム合金であるため、軽量で必要な熱伝導性を確保できる。
(5) 熱伝導率が高いSiCが高硬度微粒子3aとして使用され、熱伝導率の高いカーボン微粒子3bが分散相3に使用されている。従って、分散相3の充填率を高めて複合材料1の熱膨張率を半導体装置の熱膨張率に近づけた場合でも複合材料1の熱伝導率を高くでき、放熱材として使用したときの放熱効率が向上する。
【0023】(6) 高硬度微粒子3aは粒子径が数μm〜100μm程度で、カーボン微粒子3bは粒子径が数nm〜百nm程度である。従って、高硬度微粒子3aの周囲にカーボン微粒子3bが適度に凝集した状態に調整し易い。
【0024】(7) 高硬度微粒子3aとカーボン微粒子3bとがボールミルで混合される。従って、高硬度微粒子3aの周囲にカーボン微粒子3bが適度に凝集した状態の混合物を調整し易い。
【0025】実施の形態は前記に限定されるものではなく、例えば次のように構成してもよい。
○ マトリックス相2の金属はケイ素を含むアルミニウムと同程度以上の熱伝導率を有するものであればよく、アルミニウム合金に限らず他の金属例えば銅を使用してもよい。この場合、熱伝導率がアルミニウム合金より高いため、複合材料1を放熱材として使用する際に放熱効率が向上する。
【0026】○ 分散相3を構成する高硬度微粒子3aは炭化ケイ素の微粒子に限らず、炭化ケイ素と同程度以上の熱伝導率及び熱膨張率を有する他の材質でもよい。
○ 複合材料1の使用方法としては、半導体装置の放熱部材や電子部品搭載基材に限らない。放熱部材以外の用途に使用する場合は、高硬度微粒子3aとして熱伝導率を考慮せずに硬度が大きな他の材質、例えば、窒化ホウ素(BN)、炭化チタン、炭化タングステン等を使用してもよい。
【0027】前記実施の形態から把握される請求項記載以外の発明(技術思想)について、以下に記載する。
(1) 請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記高硬度の材質は炭化珪素と同程度以上の熱伝導率及び熱膨張率を有するセラミックスである。
【0028】(2) 請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記金属はアルミニウム又はアルミニウム合金である。
(3) 請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記高硬度の微粒子は粒子径が数μm〜100μm程度で、前記カーボン微粒子は粒子径が数nm〜百nm程度である。
【0029】(4) 請求項3に記載の発明において、前記高硬度の微粒子とカーボン微粒子とはボールミルで混合される。
【0030】
【発明の効果】以上詳述したように請求項1及び請求項2に記載の発明によれば、製造が容易でしかも加工性が良好となる。また、請求項3に記載の発明によれば、前記複合材料を生産性良く簡単に製造することができる。また、請求項4に記載の発明によれば、製造が容易でしかも加工性が良好な放熱板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)は一実施の形態の複合材料の模式断面図、(b)は微粒子の状態を示す模式拡大断面図。
【図2】 製造工程を示す模式断面図。
【図3】 従来技術の複合材料の模式断面図。
【符号の説明】
1…複合材料、2…マトリックス相、3…分散相、3a…高硬度微粒子、3b…カーボン微粒子、4…成形型。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 金属をマトリックス相とし、高硬度の材質製の微粒子の周囲にカーボン微粒子を凝集させたものを分散相とした複合材料。
【請求項2】 前記金属は高熱伝導率を有する請求項1に記載の複合材料の製造方法。
【請求項3】 高硬度の材質製の微粒子とカーボン微粒子とを混合して、周囲にカーボン微粒子を凝集させた高硬度微粒子を成形型内に充填した後、マトリックス相となる金属を溶融したものを加圧状態で鋳込む複合材料の製造方法。
【請求項4】 請求項1又は請求項2に記載の複合材料を使用した放熱板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2002−38224(P2002−38224A)
【公開日】平成14年2月6日(2002.2.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−225189(P2000−225189)
【出願日】平成12年7月26日(2000.7.26)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】