説明

複合材料及びその製造方法

【課題】 電子機器に搭載される電子部品や回路基板の小型化に有用であり、低磁気損失(tanδ)を呈する、複合材料とその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の複合材料は、絶縁材料とこの絶縁材料内に分散している微粒子とを含有しており、微粒子は上記した絶縁材料と実質的に同一成分の絶縁材料で予め被覆されている。
微粒子は有機物又は無機物から構成され、形状は扁平形状が好ましい。
絶縁材料としては、電子部品の分野で通常用いられる絶縁材料を適宜用いる。
本発明の複合材料の好ましい製造方法としては、微粒子を絶縁材料で予め被覆し、前記絶縁材料と実質的に同一成分の絶縁材料中に分散させる方法がある。
本発明の複合材料は回路基板及び/または電子部品の材料として適用することにより、数百MHz〜1GHz帯域における情報通信機器の更なる小型化、低消費電力化を実現することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高周波デバイス用基板材料に用いられる、絶縁材料中に微粒子が分散されてなる複合材料およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
情報通信機器の高速化、高密度化に伴い、電子機器に搭載される電子部品や回路基板の小型化及び低消費電力化が強く求められている。一般に、材料内を伝播する電磁波の波長λgは、真空中を伝播する電磁波の波長λ0と材料の複素誘電率の実部εr’(以下比誘電率εrと示す)及び複素透磁率の実部μr’(以下比透磁率μrと示す)を用いて、
λg=λ0/(εr・μr)1/2
で表すことができるため、比誘電率εr及び比透磁率μrが大きいほど波長短縮率が大きくなり電子部品や回路基板の小型化が可能となることが知られている。そこで、近年粉末を単体として使用するのではなく、粉末を有機ビヒクルと混合したペースト、樹脂材料と複合化した複合材料として高特性の電子部品・回路基板を得ることが行われている。例えば、高周波特性の良い磁性粉末を樹脂に混合、分散させて複合材料とし、この複合材料を用いて磁気特性の高い電子部品や回路基板を得るのである。
【0003】
ところが、情報通信機器等が使用する高周波帯では磁性材料の表面に渦電流が生じ、この渦電流は印加した磁界の変化を打ち消す向きに磁界を生成するため、材料の見かけ上の透磁率低下を招いていた。また、渦電流の増大はジュール熱によるエネルギー損失を生ずるため、回路基板や電子部品等の材料として使用することは困難であった。渦電流を低減するためには、
d = 1/(π・f・μ0・μr・σ)1/2
で表される表皮深さdよりも磁性粉末の直径を小さくすることが効果的である。ここで、fは信号周波数、σは磁性粉末の導電率、μ0は真空の透磁率である。
【0004】
このように、樹脂に分散させる磁性粉末はナノテクノロジーの進歩に伴い微細化が進んでいる。しかしながら、樹脂中への微細な微粒子の均一分散技術は確立されておらず、樹脂中で凝集体を形成している。複合材料中における凝集体は、一つの大きな磁性粒子として振舞うため、高周波では渦電流を生じやすく比透磁率の低下とエネルギー損失の増加を引き起こしている。このような複合材料として用いられる粉末には、特性が良いことのみならず、樹脂材料に対する分散性も要求される。
【0005】
また近年、樹脂中での磁性粉末の接触を抑制し、渦電流を低減させるために、磁性粉末に絶縁性の被膜を形成した絶縁性磁性粉末の製造に関する事例が報告されている。
【0006】
このような絶縁性磁性粉末の製造方法としては、例えば、機械的衝撃力を利用して磁性粉末表面に絶縁性無機材料を被覆する方法(特許文献1)、磁性粉末と絶縁性無機粉末との混合体を乾燥させて固形混合体とする方法(特許文献2)、などが従来文献に示されている。
【0007】
他方、金属粉末を珪素、ホウ素、リン等の酸化物、チタン−バリウム−ネオジウム系、チタン−バリウム−錫系、チタン−バリウム−ストロンチウム系等の誘電性を示す酸化物、さらに、Mn−Zn系フェライト、Ni−Zn系フェライト、Mn−Mg−Zn系フェライト等の磁性酸化物で、絶縁処理および表面処理して得られる無機フィラーを有機樹脂に分散してなる高誘電率複合材料が開示されている(特許文献3)。
【0008】
一方、特許文献4では、磁性材料の損失であるヒステリシス損失を低減するために、樹脂中に粒径の大きな(45〜100μm)球状の無機フィラーを分散させる目的で、無機フィラー表面を予めエポキシ樹脂で表面処理を行い、エポキシ樹脂中への表面処理を行った無機フィラーの分散を行っている(特許文献4)。
【0009】
【特許文献1】特開2002−368480号公報
【特許文献2】特開平06−260319号公報
【特許文献3】特開2003−297634号公報
【特許文献4】特開平2−198106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載のように、無機フィラー表面に絶縁性無機材料を機械的衝撃力により被覆する方法では、絶縁性の向上は見られるが、無機フィラーと絶縁性無機材料の結合力が弱く、有機バインダと溶剤に分散させる場合に、分散時のせん断力で絶縁被膜の脱離が発生し、十分な絶縁性を得ることが出来ない。特許文献2記載のように固形混合体を作製する場合も同様の問題点を有する。また、金属アルコキシドを用いたゾル−ゲル法では、相当の絶縁性は示すものの、絶縁被膜の緻密性や厚みが十分とはいえず、より高い絶縁性を示す絶縁被膜を形成する必要がある。
【0011】
また、特許文献3記載の方法で得られた材料は絶縁処理および表面処理して得られた無機フィラーを有機樹脂中に分散してなる複合材料である。しかしながら、無機フィラーの表面被覆物組成と有機樹脂組成が異なるため、相溶性が低下する。
【0012】
有機樹脂との複合材料として比透磁率や比誘電率を高めるには無機フィラーを高充填しなくてはならない。しかし、樹脂中に上記無機フィラーを高充填化すると、相溶性が悪いため、樹脂硬化時に空隙が発生しやすい。また、無機微粒子と樹脂との界面の接着性が低いため、界面での剥離が発生し易い。
【0013】
一方、特許文献4には、ヒステリシス損失を低減させる旨の記載はあるものの、渦電流を低減させる旨の記載はなく、数百MHz〜1GHzの帯域において磁気損失の小さな複合材料を提供するものではない。
【0014】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、電子機器に搭載される電子部品や回路基板の小型化に有用であり、低磁気損失(tanδ)を呈する、複合材料とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、絶縁材料中に微粒子が分散した複合材料において、微粒子を予め上記絶縁材料と実質的に同一成分の絶縁材料で被覆し乾燥させずに該絶縁材料に分散させることで、微粒子が絶縁材料中で良好な分散性を示すことを見出した。
【0016】
すなわち、本発明の第1の態様によれば、絶縁材料中に扁平状の微粒子が分散した複合材料において、前記絶縁材料と実質的に同一成分の絶縁材料で予め被覆されている扁平状の前記微粒子を含有することを特徴とする複合材料が得られる。
【0017】
本発明の第2の態様によれば、前記微粒子の厚さが0.001〜5μm、かつ長さが0.002〜10μmであることを特徴とする第1に記載の複合材料が得られる。
【0018】
本発明の第3の態様によれば、絶縁材料中に粒径0.001〜10μmの微粒子が分散した複合材料において、前記絶縁材料と実質的に同一成分の絶縁材料で予め被覆されている前記粒径の前記微粒子を含有することを特徴とする複合材料が得られる。
【0019】
本発明の第4の態様によれば、前記微粒子が、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、シリコン(Si)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、銀(Ag)、チタン(Ti)およびジルコニウム(Zr)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする第1〜3のいずれかの態様に記載の複合材料が得られる。
【0020】
本発明の第5の態様によれば、前記微粒子が、ニッケル(Ni)、パーマロイ(Ni−Fe)鉄(Fe)、鉄(Fe)−シリコン(Si)系合金、鉄(Fe)−窒素(N)系合金、鉄(Fe)−炭素(C)系合金、鉄(Fe)−ホウ素(B)系合金、鉄(Fe)−リン(P)系合金、鉄(Fe)−アルミニウム(Al)系合金、鉄(Fe)−アルミニウム(Al)−シリコン(Si)系合金からなる群より選ばれる少なくとも1種をを含むことを特徴とする第1〜3のいずれかの態様に記載の複合材料が得られる。
【0021】
本発明の第6の態様によれば、前記微粒子が、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、インジウム(In)、スズ(Sn)のうちいずれか一種類以上の金属元素を添加した金属粉末であることを特徴とする第4の態様に記載の複合材料が得られる。
【0022】
本発明の第7の態様によれば、前記微粒子が、ゲーサイト(FeOOH)、ヘマタイト(Fe)、マグネタイト(Fe)、マンガン(Mn)−亜鉛(Zn)フェライト、ニッケル(Ni)−亜鉛(Zn)フェライト、コバルト(Co)フェライト、マンガン(Mn)フェライト、ニッケル(Ni)フェライト、銅(Cu)フェライト、亜鉛(Zn)フェライト、マグネシウム(Mg)フェライト、リチウム(Li)フェライト、マンガン(Mn)−マグネシウム(Mg)フェライト、銅(Cu)−亜鉛(Zn)フェライト、マンガン(Mn)−亜鉛(Zn)フェライトからなる群より選ばれる少なくとも一つを含むことを特徴とする第1〜3のいずれかの態様に記載の複合材料が得られる。
【0023】
本発明の第8の態様によれば、前記複合材料中の前記微粒子が10体積%以上含有されていることを特徴とする第1〜7のいずれかの態様に記載の複合材料が得られる。
【0024】
本発明の第9の態様によれば、前記絶縁材料が熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする第1〜8のいずれかに記載の複合材料が得られる。
【0025】
本発明の第10の態様によれば、前記絶縁材料が熱硬化性樹脂を含むことを特徴とする第1〜8のいずれかに記載の複合材料が得られる。
【0026】
本発明の第11の態様によれば、前記前記絶縁材料が、ポリイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリフェニレン樹脂、ポリベンゾシクロブテン樹脂、ポリアリーレンエーテル樹脂、ポリシロキサン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、シアネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、およびポリスチレン樹脂のうち少なくとも一つを含む合成樹脂もしくは液相樹脂を含有することを特徴とする第1〜10のいずれかの態様に記載の複合材料が得られる。
【0027】
本発明の第12の態様によれば、前記絶縁材料が、Al、SiO、TiO、2MgO・SiO、MgTiO、CaTiO、SrTiO、BaTiO、3Al・2SiO、ZrO、SiC、AlNのセラミックスからなる群より選ばれる少なくとも一つを含むことを特徴とする第1〜11のいずれかの態様に記載の複合材料が得られる。
【0028】
本発明の第13の態様によれば、絶縁材料中に微粒子が分散した複合材料において、1GHzの周波数における比透磁率μrが1よりも大きく、かつ損失正接tanδが0.05以下であることを特徴とする第1〜12のいずれかの態様に記載の複合材料が得られる。
【0029】
本発明の第14の態様によれば、絶縁材料中に微粒子が分散した複合材料において、使用時に印加される電界に対して垂直方向と平行方向の誘電率が異なることを特徴とする第1〜13のいずれかの態様に記載の複合材料が得られる。
【0030】
本発明の第15の態様によれば、絶縁材料中に微粒子が分散した複合材料において、複合材料の体積抵抗率が、5×10Ω・cm以上であることを特徴とする第1〜14のいずれかの態様に記載の複合材料が得られる。
【0031】
本発明の第16の態様によれば、微粒子を、絶縁材料を溶解した溶剤中で分散媒体を用いて攪拌することにより、微粒子を機械的に扁平状に変形させる工程と、前記絶縁材料によって表面を被覆した前記扁平状微粒子を得る工程とを同時に行うことで、表面を絶縁材料によって被覆された扁平状微粒子スラリーを製造する工程を有することを特徴とする複合材料の製造方法が得られる。
【0032】
本発明の第17の態様によれば、表面を絶縁材料によって被覆した扁平状微粒子スラリーに、前記絶縁材料と実質的に同一成分の絶縁材料を添加する工程を有することを特徴とする複合材料の製造方法が得られる。
【0033】
本発明の第18の態様によれば、微粒子を、絶縁材料を溶解した溶剤中で攪拌することにより、前記絶縁材料によって被覆した前記微粒子を得る工程と、得られた絶縁材料で被覆された微粒子を、前記絶縁材料と実質的に同一成分の絶縁材料中に分散させる製造方法であって、前記微粒子を、絶縁材料を溶解した溶剤中で攪拌する際に、分散媒体を用いて攪拌することにより、機械的な力を付与し微粒子を扁平状に変形させる工程を含む、製造方法によって製造されたことを特徴とする第1〜15のいずれかの態様に記載の複合材料が得られる。
【0034】
本発明の第19の態様によれば、第1〜15、18のいずれかの態様に記載の複合材料によって形成されていることを特徴とする電子部品が得られる。
【0035】
本発明の第20の態様によれば、第16又は17のいずれかの態様に記載の製造方法によって作られた複合材料を少なくとも含むことを特徴とする電子部品が得られる。
【0036】
本発明の第21の態様によれば、第1〜15、18のいずれかの態様に記載の複合材料によって形成されていることを特徴とする回路基板が得られる。
【0037】
本発明の第22の態様によれば、第16又は17のいずれかの態様に記載の製造方法によって作られた複合材料を少なくとも含むことを特徴とする回路基板が得られる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の複合材料は、絶縁材料中に微粒子が分散した複合材料において、微粒子を予め上記絶縁材料と実質的に同一成分の絶縁材料で被覆することで、微粒子が絶縁材料中で良好な分散性を示すため、この材料を回路基板及び電子部品の材料として適用することにより、数百MHz〜1GHz帯域における情報通信機器の更なる小型化、低消費電力化を実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明についてさらに詳しく説明する。
【0040】
本発明によれば、複合材料は、絶縁材料とこの絶縁材料内に分散している微粒子とを含有する。
【0041】
まず、本発明に係る複合材料を構成する微粒子について説明する。
【0042】
微粒子は有機物又は無機物から構成される。無機物の場合、例えば磁性材料が挙げられるが、誘電体材料、ガラス等の他の材料も幅広く用いられる。磁性材料としては、金属粉末の場合、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)基合金、ニッケル(Ni)基合金、コバルト(Co)基合金の1種が存在していればよい。
【0043】
他の材料としては例えばアルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、シリコン(Si)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、銀(Ag)、チタン(Ti)およびジルコニウム(Zr)が挙げられる。
【0044】
なお、合金の例としては例えばニッケル(Ni)、パーマロイ(Ni−Fe)鉄(Fe)、鉄(Fe)−シリコン(Si)系合金、鉄(Fe)−窒素(N)系合金、鉄(Fe)−炭素(C)系合金、鉄(Fe)−ホウ素(B)系合金、鉄(Fe)−リン(P)系合金、鉄(Fe)−アルミニウム(Al)系合金、鉄(Fe)−アルミニウム(Al)−シリコン(Si)系合金が挙げられる。
【0045】
第2成分(合金の場合は、第3成分、第4成分)を含有させる場合は、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、インジウム(In)、スズ(Sn)が挙げられる。
【0046】
また、微粒子が金属酸化物の場合、ゲーサイト(FeOOH)、ヘマタイト(Fe)、マグネタイト(Fe)、マンガン(Mn)−亜鉛(Zn)フェライト、ニッケル(Ni)−亜鉛(Zn)フェライト、コバルト(Co)フェライト、マンガン(Mn)フェライト、ニッケル(Ni)フェライト、銅(Cu)フェライト、亜鉛(Zn)フェライト、マグネシウム(Mg)フェライト、リチウム(Li)フェライト、マンガン(Mn)−マグネシウム(Mg)フェライト、銅(Cu)−亜鉛(Zn)フェライト、マンガン(Mn)−亜鉛(Zn)フェライトのようなフェライト化合物も挙げられる。
【0047】
用いる粉末に関しては、最終的な電子機器の用途に応じて上記粉末から、当業者が適宜決定すればよい。
【0048】
前記微粒子の粒径は、0.001〜10μmが好ましい。磁性材料の場合、平均粒径が0.001μm未満では、超常磁性が生じたりして磁束量が足りなくなってしまう。一方10μmを超えると渦電流損が大きくなり、高周波領域での磁気特性が低下する。
【0049】
前記微粒子の形状は球状、楕円形状、扁平状、ロッド状、無定形状、中空状などが挙げられる。なかでも高透磁率及び低磁気損失の複合磁性体の場合、扁平形状が好ましい。
【0050】
なお、微粒子の形状を扁平形状とする場合は、厚さが0.001〜5μm、及び長さが0.002〜10μmであって、かつアスペクト比(長さ/厚み)が2以上であるのが望ましい。これは、アスペクト比が2より小さいと粉末の反磁界係数が大きくなり、複合材料の比透磁率の低下を招くためである。
【0051】
前記複合材料中に含まれる前記微粒子含量は、10体積%以上であることが好ましい。これは10体積%未満では、磁性粉末の効果が見られず、十分な磁気特性を有さないためである。
【0052】
次に、本発明に係る複合材料を構成する絶縁材料について説明する。
【0053】
本発明によれば、絶縁材料としては、回路基板など電子部品の分野で通常用いられる絶縁材料を適宜用いることが出来る。具体的には、前記複合材料を回路基板の材料として用いる場合、特性インピーダンスを上昇させる観点からは誘電率が低いことが好ましく、前記絶縁性材料として、ポリイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリフェニレン樹脂、ポリベンゾシクロブテン樹脂、ポリアリーレンエーテル樹脂、ポリシロキサン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、シアネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスチレン樹脂などの低誘電率の合成樹脂が好適に選択される。
【0054】
なお、樹脂を用いる場合は熱可塑性樹脂を用いてもよく、また熱硬化性樹脂を用いてもよい。
【0055】
一方、コンデンサやアンテナ素子など高誘電率性が要求される場合には、Al、SiO、TiO、2MgO・SiO、MgTiO、CaTiO、SrTiO、BaTiO、3Al・2SiO、ZrO、SiC、AlNなどのセラミックもしくはこれら無機物と有機物の混合物などを適宜使用できる。
【0056】
次に複合材料の望ましい物性について説明する。
【0057】
複合材料の物性は最終的な電子機器の用途に応じて、当業者が適宜決定するものであるが、使用時印加される電界に対して垂直方向と平行方向の誘電率が異なっていても良い。
【0058】
また、複合材料の体積抵抗率が、5×10Ω・cm以上であることが望ましい。
【0059】
これは体積抵抗率が5×10Ω・cmより小さいと導電電流が流れやすくなり、導電電流に起因する損失が増加するためである。
【0060】
本発明の複合材料は前記の構成を具備すれば製造方法が限定されるものではないが、好ましい製造方法は次の通りである。
【0061】
まず、微粒子を絶縁材料で予め被覆し、絶縁材料中に分散させる工程について説明する。
【0062】
微粒子を、絶縁材料を溶解した溶剤中で攪拌することにより、前記絶縁材料によって被覆した前記微粒子を得る工程と、得られた絶縁材料で被覆された微粒子を、前記絶縁材料と実質的に同一成分の絶縁材料中に分散させる工程とを含むことを特徴としている。
【0063】
なお、微粒子の形状を扁平状とする場合は、攪拌の際に微粒子に機械的な力を付与することによって扁平状に変形させてもよい。
【0064】
微粒子を、絶縁材料を溶解した溶剤中で攪拌する際と、絶縁材料で被覆した微粒子を絶縁材料中に分散させる工程で用いることが出来る装置としては、機械的な力を付与する、ボールミル、ミックスローター、超音波ミキサー、ビーズミル、ニーダおよびフィルミックス分散装置が挙げられるが、本発明に係る分散媒体を使用するためにはサンドミル、ボールミル、遊星ボールミル等が適している。
【0065】
また、分散媒体としては、アルミニウム、スチール、鉛等の金属類あるいは金属酸化物類、アルミナ、ジルコニア、二酸化ケイ素、チタニア等の酸化物焼結体、窒化ケイ素等の窒化物焼結体、炭化ケイ素等の珪化物焼結、ソーダガラス、鉛ガラス、高比重ガラス等のガラス類等が挙げられる。
【0066】
次に、得られたスラリーの塗布方法について述べる。塗布方法はこれを公知の成形方法、例えばプレス法、ドクターブレード法、射出成形法により任意のシート形状に成形し、ドライフィルムを作製することができる。これらの方法の中で、複合材料の積層体を形成のためにはドクターブレード法によってシート状に成形することが望ましい。スラリーは上記の塗布方法に適した粘度調整のために、溶剤を揮発させて濃縮後に塗布を行う。
【0067】
最後に、このようにして得られたドライフィルムを、還元性雰囲気或いは真空中で熱処理及びプレス成型することにより、前記絶縁材料中に微粒子が均一に分散した複合材料を得ることが出来る。
【0068】
本発明に係る製造工程の最大の特徴は、絶縁材料と微粒子からなる複合材料において、微粒子を予め絶縁材料で被覆することで、複合材料中で微粒子の分散性が向上する。このようにして得られた複合材料は高周波においても高透磁率(μ’)、低磁気損失(tanδ)を呈する。具体的には1GHzの周波数における比透磁率μrが1よりも大きく、かつ損失正接tanδが0.05以下である。
【0069】
上述した本発明の複合材料は回路基板及び/または電子部品の材料として適用することにより、数百MHz〜1GHz帯域における情報通信機器の更なる小型化、低消費電力化を実現することが可能となる。
【実施例】
【0070】
次に、本発明に係る実施例について説明する。
【0071】
以下、実施例1により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0072】
(実施例1)
金属元素を添加した平均粒径0.25μmのパーマロイ磁性粉末を、キシレンおよびシクロペンタノン4:1混合液に被覆層となる有機化合物として固形分33%に希釈したポリオレフィン樹脂を溶解した分散液に混合し、さらに分散媒体として平均粒径が200μmのジルコニアビーズを添加し、この状態で遊星攪拌を60分間実施して絶縁材料で被覆した微粒子スラリーを得た。
【0073】
次に、得られた絶縁被覆した微粒子スラリー(スラリーのままで乾燥させずに)と固形分40%ポリオレフィン樹脂とを、さらにジルコニアビーズを用いた遊星攪拌で5分間混合した。静置して分散媒体を沈降させ(磁性粉末の比重は7〜8、ジルコニアの比重は6〜7であるが、ジルコニアビーズの粒径が200μmに対して磁性粉末の粒径は0.25μmであるので、ジルコニアビーズの方が重いためジルコニアビーズが沈降する)、上澄み液をロータリーエバポレーターに導入し、50℃、2.7kPaの減圧下で(減圧のため溶剤の沸点が下がる)溶剤を蒸発させることにより得られた磁性ペーストを、間隙800μmのドクターブレードを用いて基材上に塗布成形した後、常温で乾燥させることにより厚さ50μmのドライフィルムを作製した。このようにして得られたドライフィルムを3枚積層して、減圧プレス装置によってプレス焼成を行った。プレス条件は常圧のまま130℃まで20分で昇温させ、その後2MPaの圧力をかけて5分間保持し、その後160℃まで昇温させて40分間保持し、樹脂を硬化させて面積50mm角、厚さ150μmの複合材料を作製した。
【0074】
この複合材料の複素透磁率をAgilent製ベクトルネットワークアナライザ8719ESを用いてパラレルライン法により測定した。
【0075】
なお、パラレルライン法とは、平行平板型の伝送線路を用いた複素透磁率の測定方法であり、例えば日本応用磁気学会誌、vol.17, p497(1993)に一例が開示されている。
【0076】
その結果、1GHzにおいて比透磁率μr=2.71、磁気損失tanδ=0.027であり(図1参照)、誘電率を空洞共振器摂動法により測定したところ比誘電率=29.2、誘電損失tanδ=0.037であった。
【0077】
次に、この複合磁性体の断面を機械研磨した後、日本電子株式会社製走査型電子顕微鏡JSM−6700Fを用いて観察した。
【0078】
この複合磁性体の断面構造を示す電子顕微鏡写真を図2に示す。複合材料は厚さ50nm、長さ200nmの扁平状の磁性粉末から構成されていることが分かった。
【0079】
(比較例1)
実施例1において、本発明の有機化合物による絶縁被覆を行わなかったものを比較例1とした。キシレンおよびシクロペンタノン4:1混合液に被覆層となる高分子ポリマーとしてポリオレフィン樹脂を溶解した分散液に混合し、さらに分散媒体として平均粒径が200μmのジルコニアビーズを添加し、この状態で遊星攪拌を30分間実施して磁性粉末スラリーを得た。このようにして得られたスラリーにポリシクロオレフィン樹脂を固形分比率40%に希釈して得た樹脂ワニスを添加しさらに遊星攪拌で5分間混合した。遊星攪拌時の公転速度はいずれも2000rpm、自転速度は800rpmとした。
【0080】
その後、実施例1の条件で厚さ50μmの複合材料を作製した。
【0081】
この複合材料の複素透磁率を実施例1と同様にパラレルライン法により測定したところ、1GHzにおいて比透磁率μr=5.62、磁気損失tanδ=0.186であり(図3参照)、誘電率を空洞共振器摂動法により測定したところ比誘電率=58.4、誘電損失tanδ=0.027であった。
【0082】
次に、電子顕微鏡を用いて実施例1と同様に、この複合磁性体の断面構造を観察した。
【0083】
この複合材料の断面構造を示す電子顕微鏡写真を図4に示す。複合材料は厚さ200〜500nm、長さ1〜2μmの磁性粉末から構成されている。実施例と比較して粒子径が大きく、実施例と比べて分散が不十分であることが分かった。即ち、本発明によって作製された複合材料の磁性粉末の分散性が比較例よりも高いことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上説明の通り本発明の複合材料、及びその製造方法は、回路基板、電子部品、電子機器等の製造に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の実施例1の複合材料の複素透磁率を表すグラフである。
【図2】本発明の実施例1の複合材料の断面の電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明の比較例1の複合材料の複素透磁率を表すグラフである。
【図4】本発明の比較例1の複合材料の断面の電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁材料中に扁平状の微粒子が分散した複合材料において、前記絶縁材料と実質的に同一成分の絶縁材料で予め被覆されている扁平状の前記微粒子を含有することを特徴とする複合材料。
【請求項2】
前記微粒子の厚さが0.001〜5μm、かつ長さが0.002〜10μmであることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
絶縁材料中に粒径0.001〜10μmの微粒子が分散した複合材料において、前記絶縁材料と実質的に同一成分の絶縁材料で予め被覆されている前記粒径の前記微粒子を含有することを特徴とする複合材料。
【請求項4】
前記微粒子が、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、シリコン(Si)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、銀(Ag)、チタン(Ti)およびジルコニウム(Zr)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複合材料。
【請求項5】
前記微粒子が、ニッケル(Ni)、パーマロイ(Ni−Fe)鉄(Fe)、鉄(Fe)−シリコン(Si)系合金、鉄(Fe)−窒素(N)系合金、鉄(Fe)−炭素(C)系合金、鉄(Fe)−ホウ素(B)系合金、鉄(Fe)−リン(P)系合金、鉄(Fe)−アルミニウム(Al)系合金、鉄(Fe)−アルミニウム(Al)−シリコン(Si)系合金からなる群より選ばれる少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複合材料。
【請求項6】
前記微粒子が、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、インジウム(In)、スズ(Sn)のうちいずれか一種類以上の金属元素を添加した金属粉末であることを特徴とする請求項4に記載の複合材料。
【請求項7】
前記微粒子が、ゲーサイト(FeOOH)、ヘマタイト(Fe)、マグネタイト(Fe)、マンガン(Mn)−亜鉛(Zn)フェライト、ニッケル(Ni)−亜鉛(Zn)フェライト、コバルト(Co)フェライト、マンガン(Mn)フェライト、ニッケル(Ni)フェライト、銅(Cu)フェライト、亜鉛(Zn)フェライト、マグネシウム(Mg)フェライト、リチウム(Li)フェライト、マンガン(Mn)−マグネシウム(Mg)フェライト、銅(Cu)−亜鉛(Zn)フェライト、マンガン(Mn)−亜鉛(Zn)フェライトからなる群より選ばれる少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の複合材料。
【請求項8】
前記複合材料中の前記微粒子が10体積%以上含有されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の複合材料。
【請求項9】
前記絶縁材料が熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の複合材料。
【請求項10】
前記絶縁材料が熱硬化性樹脂を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の複合材料。
【請求項11】
前記絶縁材料が、ポリイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリフェニレン樹脂、ポリベンゾシクロブテン樹脂、ポリアリーレンエーテル樹脂、ポリシロキサン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、シアネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、およびポリスチレン樹脂のうち少なくとも一つを含む合成樹脂もしくは液相樹脂を含有することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の複合材料。
【請求項12】
前記絶縁材料が、Al、SiO、TiO、2MgO・SiO、MgTiO、CaTiO、SrTiO、BaTiO、3Al・2SiO、ZrO、SiC、AlNのセラミックスからなる群より選ばれる少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の複合材料。
【請求項13】
絶縁材料中に微粒子が分散した複合材料において、1GHzの周波数における比透磁率μrが1よりも大きく、かつ損失正接tanδが0.05以下であることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の複合材料。
【請求項14】
絶縁材料中に微粒子が分散した複合材料において、使用時に印加される電界に対して垂直方向と平行方向の誘電率が異なることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の複合材料。
【請求項15】
絶縁材料中に微粒子が分散した複合材料において、複合材料の体積抵抗率が、5×10Ω・cm以上であることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の複合材料。
【請求項16】
微粒子を、絶縁材料を溶解した溶剤中で分散媒体を用いて攪拌することにより、微粒子を機械的に扁平状に変形させる工程と、前記絶縁材料によって表面を被覆した前記扁平状微粒子を得る工程とを同時に行うことで、表面を絶縁材料によって被覆された扁平状微粒子スラリーを製造する工程を有することを特徴とする複合材料の製造方法。
【請求項17】
表面を絶縁材料によって被覆した扁平状微粒子スラリーに、前記絶縁材料と実質的に同一成分の絶縁材料を添加する工程を有することを特徴とする複合材料の製造方法。
【請求項18】
微粒子を、絶縁材料を溶解した溶剤中で攪拌することにより、前記絶縁材料によって被覆した前記微粒子を得る工程と、得られた絶縁材料で被覆された微粒子を、前記絶縁材料と実質的に同一成分の絶縁材料中に分散させる製造方法であって、前記微粒子を、絶縁材料を溶解した溶剤中で攪拌する際に、分散媒体を用いて攪拌することにより、機械的な力を付与し微粒子を扁平状に変形させる工程を含む、製造方法によって製造されたことを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の複合材料。
【請求項19】
請求項1〜15、18のいずれかに記載の複合材料を少なくとも含むことを特徴とする電子部品。
【請求項20】
請求項16又は請求項17のいずれかに記載の製造方法によって作られた複合材料を少なくとも含むことを特徴とする電子部品。
【請求項21】
請求項1〜15、18のいずれかに記載の複合材料を少なくとも含むことを特徴とする回路基板。
【請求項22】
請求項16又は請求項17のいずれかに記載の製造方法によって作られた複合材料を少なくとも含むことを特徴とする回路基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−249673(P2009−249673A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97762(P2008−97762)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【出願人】(000006758)株式会社ヨコオ (158)
【Fターム(参考)】