説明

複合熱伝導部材

【課題】沿面方向の熱伝導性に優れるグラファイトシート等の熱伝導シートを熱伝導金属板に挟んで積層状に構成した積層体であって、層間の熱流動ネックを招くことなく積層体の全厚に及ぶ良好な熱伝導を確保することができる簡易な構成の複合熱伝導部材を提供する。
【解決手段】複合熱伝導部材は、板厚方向の熱伝導によって表面からの放熱が可能な複数枚の熱伝導金属板(2)を重ね合わせ、これら相互に隣接する熱伝導金属板(2)の間には沿面方向の熱伝導によって展開範囲に及ぶ熱拡散が可能な熱伝導シート(3)を層状に挟んで構成され、上記各熱伝導シート(3)には、両面間を連通する少なくとも1つの貫通部(3a)を形成し、この貫通部(3a)には、相互に隣接する熱伝導金属板(2)の間を圧接下で一体に連結固定する層間連結体(4)を形成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導金属板を複数枚重ね、間に熱伝導シートを層状に挟んで構成した複合熱伝導部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回路基板上にマウントしたIC等の発熱部品を冷却するために、アルミフィンによる簡易な放熱手段や、さらに電動ファンによる強制空冷によるものが一般に用いられるが、高出力部品の実装の高密度化に対応するために熱拡散性に優れるグラファイトシートを適用した放熱構成体が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の放熱構成体によれば、発熱部材に接して厚手のグラファイトシートによる放熱用熱伝導シートを設け、このグラファイトシートに重ねるように更にグラファイトシートを配置し、両シート間に熱流動用金属片を介設して放熱部材を構成することにより、空冷空間を挟む熱伝導シートの熱拡散と放熱とによる薄くて軽量の放熱手段を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−256764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記構成の放熱部材は、多数枚のグラファイトシートを多段に重ねるように構成しても放熱容量の増大が困難であり、更なる高出力化による発熱の増大と小型化による集中発熱に対応することが困難であった。すなわち、グラファイトシート間の熱流動は、間に介設する金属片の接触面積によって制限されることに加え、グラファイトシートと熱流動用の金属片とを密着させるための熱伝導性接着剤の熱伝導率が金属に比べて格段に小さいことから、グラファイトシートを多段に重ねても、その熱流動ネックによりグラファイトシート間の十分な熱流動が確保できないという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、沿面方向の熱伝導性に優れるグラファイトシート等の熱伝導シートを熱伝導金属板に挟んで積層状に構成した積層体であって、層間の熱流動ネックを招くことなく積層体の全厚に及ぶ良好な熱伝導を確保することができる簡易な構成の複合熱伝導部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、複数枚の熱伝導金属板を重ね合わせ、これら相互に隣接する熱伝導金属板の間には熱伝導シートを層状に挟んだ複合熱伝導部材であって、上記各熱伝導シートには貫通部を形成し、この貫通部には相互に隣接する熱伝導金属板の間を圧接下で一体に連結固定する層間連結体を形成したことを特徴とする。
【0008】
上記熱伝導金属板は板厚方向の熱伝導によって表面からの放熱が可能である、また、熱伝導シートは沿面方向の熱伝導によって展開範囲に及ぶ熱拡散が可能であり、この熱伝導シートを間に挟んで熱伝導金属板を重ねて上記複合熱伝導部材が構成され、熱伝導シートには貫通部を形成し、熱伝導金属板間には圧接した状態で両金属板を一体的に連結固定する層間連結体を熱伝導シートの貫通部に形成したことから、この層間連結体により、熱伝導シートを熱伝導金属板の間に挟んだ密接状態が維持される。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1の構成において、前記層間連結体は、相互に隣接する2つの熱伝導金属板の対向2面の一方に凹状に陥入するホールと、同他方から熱伝導シートの貫通部を通って対向位置のホールの底部に達する高さに突出したバンプとからなり、ここれらホールとバンプ間に塑性域に達する圧接力を加えた加締処理によって形成し、かつ、全ての熱伝導金属板について板厚方向に重なる位置に配置してなることを特徴とする。
上記複合熱伝導部材は、全層について重なる位置でホールの底部に達するバンプによる凹凸嵌合構成によって層間連結体を形成したことから、全厚に及ぶ簡易な加圧操作により効率よく確実に加締処理することができるとともに、熱伝導シートと熱伝導金属板の接触面の密接状態が除荷後においても安定して維持される。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項2の構成において、前記熱伝導金属板の片面にはホールとバンプの一方のみを形成してなることを特徴とする。
上記複合熱伝導部材は、熱伝導金属板の片面ずつホールとバンプのいずれかに分けたことから、それぞれの表面状態が簡潔化される。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1の構成において、前記熱伝導金属板の材質が銅であることを特徴とする。
上記複合熱伝導部材は、銅材で形成した熱伝導金属板の板厚方向の熱伝導特性によって全厚に及ぶ優れた熱伝導性を確保でき、また、銅材はアニール処理の適用により、加圧操作による加締処理によって容易かつ確実に層間連結体を形成することができる。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項1の構成において、前記熱伝導シートがグラファイトシートであることを特徴とする。
上記複合熱伝導部材は、グラファイトシートである熱伝導シートにより、沿面方向の熱伝導特性によって全展開域に及ぶ優れた熱伝導性を確保できる。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明に係る複合熱伝導部材は、隣接する熱伝導金属板を圧接した状態で両金属板と一体的に連結固定する層間連結体を熱伝導シートの貫通部に形成したことから、この層間連結体により、熱伝導シートを熱伝導金属板の間に挟んだ密接状態が維持される。したがって、板厚方向の熱伝導に優れる熱伝導金属板と、シートに沿う方向の熱伝導に優れる熱伝導シートとのそれぞれの熱伝導特性に加え、両部材の接触面における熱伝導および熱伝導金属板間の層間連結体による熱伝導が確保され、全体として複層構成の重なり方向の熱伝導特性と各層に沿う方向の熱伝導特性が連係される結果、熱伝導金属板が隣接する範囲において熱伝導シートの展開範囲に及ぶ熱伝導性が確保される。
【0014】
請求項2に係る発明に係る複合熱伝導部材は、請求項1の効果に加え、全層について重なる位置でホールの底部に達するバンプによる凹凸嵌合構成によって層間連結体を形成したことから、全厚に及ぶ簡易な加圧操作により効率よく確実に加締処理することができるとともに、熱伝導シートと熱伝導金属板の接触面の密接状態が除荷後においても維持されるので、安定した熱伝導が可能となる。
【0015】
請求項3に係る発明に係る複合熱伝導部材は、請求項2の効果に加え、熱伝導金属板の片面ずつホールとバンプのいずれかに分けてそれぞれの表面状態が簡潔化されるので、表面のエッチング処理等による熱伝導金属板の表面加工効率およびホールとバンプの嵌合組付けの操作性を確保することができる。
【0016】
請求項4に係る発明に係る複合熱伝導部材は、請求項1の効果に加え、銅材で形成した熱伝導金属板の板厚方向の熱伝導特性によって全厚に及ぶ優れた熱伝導性を確保でき、また、銅材のアニール処理により層間連結体について容易かつ確実に加締処理することができるので、熱伝導金属板の多層化による熱伝導の大容量化が可能となる。
【0017】
請求項5に係る発明に係る複合熱伝導部材は、請求項1の効果に加え、グラファイトシートで形成した熱伝導シートにより、沿面方向の熱伝導特性によって全展開域に及ぶ優れた熱伝導性を確保できることから、熱拡散による放熱効率の向上、ヒートシンクへの熱流効率の向上が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】複合熱伝導部材の分解構成断面図
【図2】複合熱伝導部材の作用説明を付した構成断面図
【図3】複合熱伝導部材の使用状態を表した分解構成断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の複合熱伝導部材の分解構成断面図である。複合熱伝導部材1は、板厚方向の熱伝導によって表面からの放熱が可能な熱伝導金属板である銅板2…を複数枚重ね合わせ、それぞれの間には沿面方向の熱伝導によって展開範囲で熱拡散が可能な熱伝導シートであるグラファイトシート3を層状に挟んで構成する。グラファイトシート3にはその両表面間に形成した貫通部である多数の貫通孔3aを形成し、この貫通孔3aには、その貫通方向の圧接力を受けて塑性変形により銅板間を加締固定する層間連結体4を形成する。
【0020】
層間連結体4は、プレス工程による加締処理によって形成する例について説明すると、相互に隣接する2つの銅板2,2の対向2面の一方に凹状に陥入するホール4aと、同他方から突出して対向位置のホール4aに進入しうるバンプ4bとからなる凹凸嵌合構造によって構成し、そのバンプ4bの突出高さA1は、塑性域に達する圧接力を加えた加締処理でホール4aと一体化するように、挟んだグラファイトシート3の貫通孔3aを通り、ホール4aの深さA2を越えて底部に達する寸法に形成し、かつ、全ての銅板2…について板厚方向に重なる位置に配置する。
【0021】
ホール4aとバンプ4bは、互いに凹凸嵌合可能に円形、四角形等の大きさCが一定の同一形状で等ピッチDの格子状配置に銅板2の片面ずつに分けてエッチング処理等によりその全面に形成する。例えば、板厚Aが0.10mmの銅板2と、シート厚さBが0.05mmのグラファイトシート3とを重ねて多層構成する場合に、グラファイトシート3に直径Cが1mmの円形の貫通孔3aを2mmピッチで格子状配置に形成し、その貫通孔3aの形状、位置と対応して、銅板2の片面に深さA2が0.03mmのホール4aと、他の面に高さA1が0.10mmのバンプ4bとを形成する。
【0022】
上記において、銅板2は、アニール処理することによって次のプレス工程において加圧荷重を抑えつつ容易かつ確実な圧接処理が可能となる。層間連結体4を構成するホール4aとバンプ4bは、大きさCが2mm以下の円形、隣接ピッチDをその2倍とし、細かい方が良好な結果を得ることができ、同一形状で等ピッチに配置することにより、エッチング処理等による表面加工およびホールとバンプの嵌合組付けの効率を確保することができる。また、形状は、円形限るものでなく、必要により多角形状とし、さらに、直線状に延ばすことにより熱伝導方向を限定することが可能となる。
【0023】
次いで、ホール4aとバンプ4bおよび貫通孔3aで一組として重なり方向に見て中心位置が揃うように、最外側位置の銅板2,2の外側面を除き、銅板2…とグラファイトシート3…をそれぞれ同一形状に構成して、例えば、13枚のグラファイトシート3を1枚ずつ層状に挟んで互いに嵌合するように14枚の銅板2…を重ね合わせ、更に、プレス機等によって最外側位置の銅板2,2の外側から、ホール4aとバンプ4bとが塑性変形によって銅板2…とグラファイトシート3…との接触面が密接状態になる程度の圧力Pによって加圧することにより、13層のグラファイトシート3を一体に圧接した略2mm厚の多層密接構成の複合熱伝導部材1が得られる。
【0024】
この加圧操作によって得られた一体の複合熱伝導部材1は、図2の作用説明を付した断面図に示すように、隣接の銅板2,2から加圧力Pを受けることによってホール4aとバンプ4bが塑性変形し、銅板間を一体に加締固定する層間連結体4を形成することにより、加圧力Pの除荷後においても銅板2,2とグラファイトシート3との接触面に圧接力が作用して密接状態に維持される。
【0025】
その結果、銅板2とグラファイトシート3の接触面間の熱伝導T1および層間連結体4における隣接層間の熱伝導T2が確保されることから、板厚方向の熱伝導に優れる銅板2の熱伝導特性とシートに沿う方向T3の熱伝導に優れるグラファイトシート3の熱伝導特性が連係され、複数の銅板2…が隣接する厚さ範囲においてグラファイトシート3…の展開範囲に及ぶ熱伝導性が確保される。
【0026】
上述の構成による複合熱伝導部材1は、重ね合わせた熱伝導金属板2の間に、塑性変形によって金属板間を加締固定する層間連結体4を形成することにより、熱伝導金属板2と熱伝導シート3との接触面および隣接する熱伝導金属板2の間の熱伝導によって全層に及ぶ熱伝導シート3の熱伝導特性を生かして多層化による大容量の熱伝導板として構成することができる。
【0027】
したがって、図3の複合熱伝導部材の使用状態を表した分解構成断面図に示すように、配線基板PCB上にマウントしたIC等の発熱体Hと接して複合熱伝導部材1を設けることにより、その全表面から効率よく放熱することができ、また、ヒートシンクと接続することにより、効率よく冷却することができる。その熱伝導特性は、赤外線サーモグラフィ等による温度分布解析により、高度の熱伝導特性および放熱特性が確認されている。
【0028】
なお、前記層間連結体は、ホールとバンプとによる凹凸嵌合構造に限らず、塑性域に及ぶ加圧力による加締連結可能な構造に広く及ぶとともに、その他の機械的、電磁的、化学的等の手段による金属間の一体的連結手段に広く及ぶものであり、これら一体的連結手段については、凹凸嵌合構造による前述の層間連結体と同様の作用効果を奏することが明らかであることから、その説明を省略する。
【符号の説明】
【0029】
1 複合熱伝導部材
2 銅板(熱伝導金属板)
3 グラファイトシート(熱伝導シート)
3a 貫通孔(貫通部)
4 層間連結体
4a ホール
4b バンプ
A 板厚
A1 バンプ高さ
A2 ホール深さ
B シート厚さ
C 直径(大きさ)
D 隣接ピッチ
H 発熱体
P 加圧力
T1 熱流
T2 熱流
T3 熱流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の熱伝導金属板を重ね合わせ、これら相互に隣接する熱伝導金属板の間には熱伝導シートを層状に挟んだ複合熱伝導部材であって、
上記各熱伝導シートには貫通部を形成し、この貫通部には相互に隣接する熱伝導金属板の間を圧接下で一体に連結固定する層間連結体を形成したことを特徴とする複合熱伝導部材。
【請求項2】
前記層間連結体は、相互に隣接する2つの熱伝導金属板の対向2面の一方に凹状に陥入するホールと、同他方から熱伝導シートの貫通部を通って対向位置のホールの底部に達する高さに突出したバンプとからなり、ここれらホールとバンプ間に塑性域に達する圧接力を加えた加締処理によって形成し、かつ、全ての熱伝導金属板について板厚方向に重なる位置に配置してなることを特徴とする請求項1記載の複合熱伝導部材。
【請求項3】
前記熱伝導金属板の片面には、ホールとバンプの一方のみを形成してなることを特徴とする請求項2記載の複合熱伝導部材。
【請求項4】
前記熱伝導金属板の材質が銅であることを特徴とする請求項1記載の複合熱伝導部材。
【請求項5】
前記熱伝導シートがグラファイトシートであることを特徴とする請求項1記載の複合熱伝導部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−233734(P2011−233734A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103143(P2010−103143)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(392007957)株式会社日本ドゥローイング (4)
【Fターム(参考)】