説明

複合磁気部品の製造方法

【課題】 金属磁性粒子とフェライト被膜の境界に、原子の相互拡散による界面層を形成して空隙を少なくし、化学的結合性を向上させて、磁路の形成を容易にすることにより、より高い透磁率の複合磁気部品の製造方法を提供する
【解決手段】 (1)金属磁性粒子をフェライトで被覆する工程と、(2)得られたフェライト被覆金属磁性粒子を厚さ5mm以下の薄板状に圧縮成形する圧縮成形工程と、(3)得られた成形体を、表裏面から均一に加熱することにより熱処理する熱処理工程であって、最高到達温度が500℃以上であり、500℃以上を保持する時間が5分以内である熱処理工程とを含むことを特徴とする金属磁性粒子とフェライトからなる複合磁気部品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライトにより金属磁性粒子を被覆した磁性材料を圧縮成形した後、熱処理により作製する複合磁気部品の製造方法に関する。本発明の製造方法により得られる磁気部品は、スイッチング電源などに搭載されるトランスやリアクトルなどに有用である。
【背景技術】
【0002】
近年各種電子機器は、小型・軽量化されてきており、なおかつ低消費電力化が求められている。これに伴い、電子機器に搭載される電源として高効率かつ小型のスイッチング電源に対する要求が高まっている。特にノート型パソコンや携帯電話等の小型情報機器、薄型CRT、フラットパネルディスプレイに用いられるスイッチング電源では、小型・薄型化が強く求められている。
【0003】
従来のスイッチング電源では、その主要な構成部品であるトランスやリアクトルなどの磁気部品が大きな体積を占めており、スイッチング電源を小型・薄型化するためには、これらの磁気部品の体積を縮小することが必要不可欠となっていた。
【0004】
従来、このような磁気部品の磁芯は、センダストやパーマロイ等の金属磁性材料や、フェライト等の酸化物磁性材料が使用されていた。
【0005】
金属磁性材料は、一般に高い飽和磁束密度と透磁率を有するが、電気抵抗率が低いため、特に高周波数領域では、渦電流損失が大きくなってしまう。スイッチング電源では、回路を高周波駆動することにより、高効率化および小型化する傾向にあるが、上記の渦電流損失の影響から金属磁性材料をスイッチング電源用の磁気部品の磁芯として使用することは困難である。
【0006】
一方、フェライトに代表される酸化物磁性材料は、金属磁性材料に比べ電気抵抗率が高いため、高周波数領域でも発生する渦電流損失が小さい。しかしながら、トランスやリアクトルを小型化した場合、コイルに流す電流は同じでも磁芯にかかる磁場は強くなってしまう。一般に、フェライトの飽和磁束密度は金属磁性材料に比べて小さく、スイッチング電源の磁気部品の磁芯として使用した場合、上記の理由によりその小型化には限界がある。
【0007】
つまり、いずれの材料を用いても、スイッチング電源の磁気部品に対して要求される高周波行動と小型化の双方を満足させることは困難となっていた。
【0008】
最近、金属磁性材料および酸化物磁性材料の両者の長所を有する磁性材料として、飽和磁束密度および透磁率が高い金属磁性材料の表面に、電気抵抗率の高い酸化物磁性材料の皮膜を形成した磁性材料が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0009】
また、1〜10μmの粒子からなる金属磁性材料の表面をM−Fe(但しM=Ni、Mn、Zn、x≦2)で表されるスピネル組成の金属酸化物磁性材で被覆してなる高密度焼結磁性体が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0010】
さらに、表面に超音波励起フェライトめっきによって形成されたフェライト層の被覆を有する金属または金属間化合物の強磁性体微粒子粉末が圧縮成形され、前記フェライト層を介して前記強磁性体粒子間に磁路を形成するものであることを特徴とする複合磁性材料が提案もある(例えば、特許文献3参照。)。
【0011】
【特許文献1】特開昭53−91397号公報
【特許文献2】特開昭56−38042号公報
【特許文献3】国際公開第03/015109パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記フェライト被覆金属磁性粒子を圧縮成形した磁気部品において、高い透磁率を実現させるためには、金属磁性粒子間の磁路形成を妨げないようにしなければならない。そのためには、金属磁性粒子とフェライト被膜の界面に空隙がなく、かつ化学的に結合している必要がある。金属磁性粒子をフェライト被覆する方法としては、前述の特許文献3に記載の超音波励起フェライトめっき法があるが、この方法では、金属粒子表面のOH基を核としてFe等のイオンが吸着することによって反応が進むので、金属磁性粒子とフェライト被膜の化学的な結合性が十分とはいえない。また、フェライトの成長形態が完全な膜状ではなくて、微粒子が付着したような状態であるため、界面における空隙も少なくない。よって、フェライト被覆した粒子を圧縮成形しただけの複合磁気部品では、従来材料に比べて飛躍的に高い透磁率を得るには不十分であった。
【0013】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、金属磁性粒子とフェライト被膜の境界に、原子の相互拡散による界面層を形成して空隙を少なくし、化学的結合性を向上させて、磁路の形成を容易にすることにより、より高い透磁率の複合磁気部品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、複合磁気部品の圧縮成形後、本発明の条件で熱処理することにより、透磁率が高まることを見出し、本発明に至った。
【0015】
すなわち、本発明は、(1)金属磁性粒子をフェライトで被覆する工程と、(2)得られたフェライト被覆金属磁性粒子を厚さ5mm以下の薄板状に圧縮成形する工程と、(3)得られた成形体を、表裏面から均一に加熱することにより熱処理する熱処理工程であって、最高到達温度が500℃以上であり、500℃以上を保持する時間が5分以内である熱処理工程とを含むことを特徴とする金属磁性粒子とフェライトからなる複合磁気部品の製造方法を提供する。
【0016】
好ましくは、前記熱処理が、赤外線加熱により成形体の表裏面から均一に行うことであることを特徴とする。
【0017】
また、好ましくは、前記熱処理が、2枚の熱板で成形体を表裏面から挟み込むことであることを特徴とする。
【0018】
また、好ましくは、前記圧縮成形する工程で得られた薄板状の成形体が厚さ3mm以下であることを特徴とする。
【0019】
また、好ましくは、前記熱処理の後に、2枚の冷却板により厚さ5mm以下の薄板状の成形体を表裏面から挟み込むことで降温することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、金属磁性粒子とフェライト被膜の組成を適当に選択し、本発明の条件で熱処理をすることにより、金属磁性粒子とフェライト被膜の化学的結合性が向上し、空隙も少なくなる。このため、従来材料に比べて飛躍的に高い透磁率を有する複合磁性材料および複合磁気部品の実現が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の複合磁気部品の製造方法の各工程について詳述する。
【0022】
第1の工程は、(1)金属磁性粒子をフェライトで被覆する工程である。金属磁性材料としては、飽和磁化や磁気異方性などの磁気特性のほか、フェライトの被覆性、圧縮成形性などを考慮して選択することができる。例えば純鉄、鉄系合金、鉄−ケイ素合金、鉄−ニッケル合金、センダスト合金、コバルトおよびコバルト系合金、ニッケルおよびニッケル合金、各種アモルファス合金などの各種の軟磁性材料、あるいはNd−Fe−B、Sm−Coなどの磁気異方性の磁性材料など各種の金属磁性材料を用いることができる。これらの材料を、ガス還元法、固体還元法、熱分解法、電解法、機械的粉砕法、噴霧法(アトマイズ法)などの各種製法によって粒子状にして用いることができる。金属磁性粒子の形状は、球状、粒状、楕円体状、円板状、フレーク状、針状、鋭角状、樹枝状、繊維状、板状、立方体状その他各種形状が可能であり、これらを単独または複数種組み合わせて用いることができる。圧縮成形によって形状の変形を生じてもよい。金属磁性粒子の粒子サイズは、粒子内部での渦電流の発生が少なく、加圧成形時にフェライト被覆層の損傷が少なく、かつ高い電気抵抗率を保った成形体が容易に得られるような範囲とする。粒子内部での渦電流の発生が少なく、加圧成形時のフェライト被覆層の損傷を低減し、かつ高い電気抵抗率の成形体を得るには、平均粒子径が小さい方が有利である一方で、平均粒子径があまり小さくなると、磁気特性の確保および必要な比透磁率の獲得が困難になる。したがって、金属磁性粒子の粒子サイズは、100nm〜300μmが好ましく、1μm〜30μmの範囲がさらに好ましい。
【0023】
フェライトは、3価の鉄を含む複酸化物のことをいい、粒子間の電気抵抗を高めるには高い電気抵抗率を有するものが好ましい。そのようなフェライトの代表例としては、10〜10Ω・mの高い電気抵抗値を有するNiZnフェライト、Coフェライト、Mgフェライトなどがあげられる。また、金属磁性粒子表面を被覆するには、高い飽和磁化を有することが好ましい。高い電気抵抗率と高い飽和磁化とを併せ持つフェライトとしては、NiZnフェライト、Coフェライト、CoZnフェライトおよびこれらのフェライトを主成分とする複合フェライトが好ましい。
【0024】
被覆は、従来の被覆方法で行うことができる。被覆方法としては、例えば、特許文献1に記載の湿式フェライト製造法、特許文献3に記載の超音波フェライトめっき法、特開平11−1702号公報に記載の被覆方法および特開平04−226003号公報に記載のメカノフュージョン法などがあげられる。
【0025】
上記の方法を簡単に説明する。湿式フェライト製造法は、フェライト成分となる金属の硫酸塩溶液に金属磁性材料粒子を分散し、その溶液に水酸化ナトリウムをpHが12〜13になるまで添加してフェライト粒子を析出させ、この金属磁性材料と析出したフェライト粒子とを洗浄し、乾燥後に高温で焼結することによりフェライト被覆金属磁性粒子を製造する方法である。超音波フェライトめっき法は、超音波を印加しながら金属または金属間化合物の強磁性体微粒子をフェライトめっき反応液中に分散し、金属または金属間化合物の強磁性体微粒子の表面をフェライトめっきによりフェライト層で被覆するフェライト被覆工程と、フェライト層で被覆された金属または金属間化合物の強磁性体微粒子を圧縮成形する圧縮成形工程とを備えたことを特徴とする複合磁性材料の製造方法である。特許文献4に記載の被覆方法は、鉄基金属磁性粉末を含むアルカリ水溶液に、鉄の金属塩と、鉄以外の2価の金属塩1種以上とを所定の配合比率として溶解した水溶液を、非酸化性雰囲気中で添加した後、所定の温度に加熱しつつ、アルカリ水溶液を添加してpH7以上とし、その後、酸素を含む気体を吹き込み、前記鉄基金属磁性粉末の表面にフェライト酸化物の被膜を形成することを特徴とする鉄基金属−フェライト酸化物複合粉末の製造方法である。メカノフュージョンは、複数の異なる素材粒子間に、所定の機械的エネルギー、特に機械的歪力を加えてメカノケミカル的な反応を起こさせる技術により被覆する方法である。
【0026】
上記方法により形成されるフェライト被覆の厚さは、圧縮成形後の成形体においてフェライト被覆層が保たれることにより粒子間の電気抵抗を高めることができる厚さであれば特に制限されない。その厚さは20nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがさらに好ましい。しかしながら、フェライトの比率が大きくなると飽和磁化の大きい金属磁性材料を用いて複合化して飽和磁化の大きい複合磁性材料を得るという効果が小さくなってしまう。このため、複合磁性材料の体積比としては、フェライトの比率が50%以下であることが好ましく、20%以下であることがさらに好ましい。他方で高い電気抵抗率を得るには1%以上であることが好ましい。
【0027】
第2の工程は、(2)得られたフェライト被覆金属磁性粒子を厚さ5mm以下の薄板状に圧縮成形する工程である。圧縮成形方法は、金型を用いて、例えば上下方向から加圧圧縮する単軸圧縮成形、圧縮圧延成形、微粒子をゴム型などにつめて全方向から加圧圧縮する静圧圧縮成形、これらを温間で行う温間単軸圧縮成形、温間静圧圧縮成形(WIP)、熱間で行う熱間単軸圧縮成形および熱間静圧圧縮成形(HIP)などを用いることができる。これらの圧縮成形は、1回または複数回行ってもよく、その際異なる圧縮成形方法を用いてもよい。圧縮温度は、大気雰囲気中でもよいが、成形性が向上する温度であって、フェライト被覆層が保たれる温度であれば特に制限させるものではない。成形が容易であり、かつフェライト層が保たれる温度は、200℃以上500℃未満、好ましくは300〜400℃である。加熱手段としては、抵抗加熱、輻射加熱、熱媒による伝導加熱、誘導加熱、高周波誘導加熱、放電プラズマ加熱などの当該技術において知られている任意の加熱手段を用いることができる。圧縮圧力は、良好な成形体が得られ、フェライト被覆層が保たれる圧力であれば特に制限されない。例えば200〜2000MPa、好ましくは400〜1000MPaである。
【0028】
圧縮成形の温度と圧力の関係は、成形時の温度が高いほど、金属磁性粒子の可塑性が増し、より低い圧力で成形できる関係にある。したがって、温度および圧力はこの関係にしたがって、適宜変更するとよい。成形の際には、ステアリン酸塩、ワックスなどの潤滑剤、および成形のために、ポリビニルアルコール、セルロースなどの補助剤を用いることができる。しかし、これらは、加温時に成形体から揮発するなどして複合磁性材料に残留しないものであることが望ましい。潤滑剤の場合は、ダイの内面など金型と粒子とが接触する部分に用いることが特に有効である。
【0029】
必要な場合には、500℃未満で歪取りのためのアニール処理を行う。
【0030】
第3の工程は、(3)得られた複合磁気部品を、表裏面から均一に加熱することにより熱処理する熱処理工程であって、最高到達温度が500℃以上であり、500℃以上を保持する時間が5分以内で熱処理する工程である。フェライト被覆金属磁性粒子は、熱処理していない状態ではフェライトの成長形態が完全な膜状ではなく、フェライト微粒子が金属磁性粒子表面に付着したような状態であるため、フェライト被覆部分における空隙が存在する傾向がある。また、金属磁性粒子とフェライト被膜との境界面に空隙が存在する。その結果、製造される複合磁気製品の透磁率が低下することとなる。しかし、本発明のように、最高到達温度が500℃以上で熱処理を行うと、被覆したフェライト粒子間の結合(結晶成長)が生じる。それにより、フェライト被覆部分における空隙および金属磁性粒子とフェライト被膜の境界面の空隙が減少することとなる。そのため、金属磁性粒子間の磁気的結合が強くなり、透磁率が向上する。
【0031】
最高到達温度は、500〜1000℃の範囲、好ましくは600〜800℃、さらに好ましくは650〜750℃である。一方、最高到達温度が500℃以上の熱処理を長時間行うと、フェライトと金属磁性粒子間で原子の相互拡散が発生することとなる。フェライトとしてNiZnを用いた磁気部品を透過電子顕微鏡(TEM)とエネルギー分散型X線分光法(EDX)によって分析した場合、被覆したフェライトの酸素と亜鉛が金属粒子に拡散しているのが観察された。そのため、長時間処理すると、原子の相互拡散によりフェライトが半導体化することで全体の抵抗率が低減し、渦電流損失が発生し、周波数特性が低下する。すなわち、長時間の加熱(すなわち500℃以上の保持時間が5分を越える時間)は周波数特性の悪化をもたらす。したがって、透磁率を向上するにはごく短時間の加熱が好ましい。適当な加熱時間は、5分以内、好ましくは1秒〜3分、さらに好ましくは30秒〜1分であるが、最高到達温度との関係によって変動する。これは、フェライト粒子間の結合が、ごく短時間で終了するのに対して、フェライトと金属磁性粒子間の原子の相互拡散が比較的ゆっくりとした反応であり、時間と共に拡散量が多くなっていくためである。500℃以上にさらされる時間を短時間にするには、温度変化を急激に行う必要がある。昇温速度および降温速度が共に、120℃/分以上、具体的には120℃/分〜1200℃/分の範囲、好ましくは150℃/分〜600℃/分、さらに好ましくは300℃/分〜600℃/分の急速熱処理(Rapid Thermal Annealing;RTA)が好ましい。
【0032】
ここでいう加熱時間、昇温速度および降温速度などの温度条件は、成形体を対象とするものであり、熱処理時の雰囲気温度を規定するものではない。熱容量のために、成形体の温度は雰囲気温度とは大きく異なるため、温度コントロールは成形体で行う。また成形体の温度は、大きさおよび形状などにより大きく異なる。そのため、例えば、成形体と同様の材質、形状のダミー成形体を作製し、そのダミー成形体に直接温度コントロールを行う熱電対を挿入し、本物の成形体の近くに設置するなどして温度コントロールを行うことが好ましい。加熱装置は、短時間で500℃以上の加熱が可能な装置であれば特に制限されない。
【0033】
高い透磁率を維持しつつ、周波数特性を満足させるためには、成形体内部までより速く、熱の出入りを行うことが好ましい。そのためには、成形体を薄くすることで、熱の入る面積および熱の出る面積を大きくすることが好ましい。大きい熱量を急速に加え、急速に取り去ろうとすると、成形体には熱容量があるので、成形体内部で温度差が生じやすい。厚い成形体では、表面付近と内部で、成形体の特性に違いが生じる。一方、薄板状の成形体では、表面から内部まで熱の分布が少なく、均一な特性の成形体を得ることができる。
【0034】
従って、本発明においては、熱処理を行う成形体は厚さ5mm以下の薄板状である必要があり、厚さ3mm以下であることが好ましい。薄板上成形体の厚みは特に限定されるものではないが、成形体の強度、取り扱い性等を考慮すると0.05mm以上であることが好ましい。
【0035】
また、このような薄板状の成形体に急速にかつ均一に熱を入れ、熱を取り去ることが重要である。通常の電気炉では、急速な昇温、降温をすることができない。また、加熱した電気炉の中に成形体を投入し、取り出す方法や、加熱したトンネル内をベルトコンベアーで通過させるベルト炉などの方法では、基板の表裏面または基板の面方向に均一に伝熱できないため、薄板状の成形体を急速にかつ均一に熱を入れ、熱を取り去ることができない。
【0036】
急速にかつ均一に熱を入れる方法としては、例えば、赤外線ランプにより赤外線を発生させ、薄板状成形体の表面に直接赤外線を当てる方法を好ましい方法として例示できる。その時、薄板状成形体の片面からだけでなく、表裏面から均一に赤外線をあてることが好ましく、この方法により、表面、内部、裏面まで熱の分布が少なく、均一な特性の成形体を得ることができる。
【0037】
また、急速にかつ均一に熱を入れる他の方法としては、熱板で挟み込む方式も好ましい方法として例示できる。成形体に対して十分に大きい熱容量を持つ2枚の熱板を用い、上下面から均一に熱板を押し当てることで、表面、内部、裏面まで熱の分布が少なく、均一な特性の成形体を得ることができる。
【0038】
熱処理後の冷却は成形体の温度を120℃/分〜1200℃/分の範囲、好ましくは150℃/分〜600℃/分、さらに好ましくは300℃/分〜600℃/分の速度で降温できる方法であればいずれも採用できるが、急速にかつ均一に熱を取り去る好ましい方法として、別に用意した2枚の冷却板を上下面から均一に押し当てる方法を例示でき、これにより表面、内部、裏面まで熱の分布が少なく冷却することができる。
【0039】
以上の製造方法を用いることにより、1kHz時の比透磁率が100以上であり、かつ、その透磁率が1kHz時の透磁率の80%に低下する時の周波数である透磁率のカットオフ周波数が10MHz以上である金属磁性粒子とフェライトからなる複合磁気部品が得られる。
【0040】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
フェライト被覆金属粒子粉末の作製は、上述した特許文献3に記載の超音波励起フェライトめっき法により、次のように行った
【0042】
金属磁性材料の粒子としては、水アトマイズ法により作製したNi78Mo5Fe粒子(Niが78重量%、Moが5重量%、残りがFeからなる粒子)(平均粒子径8μm)を20g用いた。フェライトめっきの前処理として、これらの粒子をHO:300ml+47%HSO:1250μl+2mol/l HCl:1250μlの溶液中(液温70℃)に入れて、5分間超音波を印加した。
【0043】
その後、純水を入れたガラス製の反応容器中にNi78Mo5Fe粒子を移し替え、19.5kHzの超音波を印加した。この反応容器に反応液(HO:500ml+FeCl・4HO:3.98g+NiCl・6HO:1.19g+ZnCl:0.68g)および酸化液(HO:500ml+NaNO:1.00g)をそれぞれ3ml/分、2ml/分の速度で供給しながら、適宜アンモニア水を滴下することによりpHを10.0に保った。このめっき処理を60分間行った。めっき処理後、粒子を分級・乾燥させた。
【0044】
上記のフェライト被覆Ni78Mo5Fe粒子を超硬合金製の金型に充填し、10トン重/cm(980MPa)の一軸プレスにより内径36mmφ、外径50mmφ、厚さ1mmおよび3mmのリングコア形状に成形した。
【0045】
厚さ3mmのリングコアに1次および2次巻線をそれぞれ5ターン巻回し、B−Hアナライザにて複素透磁率μ=μ’+iμ”を10kHz〜10MHzの周波数領域で測定した。その実部μ’および虚部μ”の周波数依存性を示したものがそれぞれ図2の符号1と符号2である(なお、図2において、複素透磁率の実部μ’および虚部μ”は、真空透磁率との比で示した)。厚さ1mmのリングコアも3mmのリングコアと同様の透磁率の周波数依存性を示す。
【0046】
厚さ1mmと3mmのリングコアを大気中で、図1のように、上下に赤外線ランプ12と赤外線反射板13を有する赤外線ランプアニール炉により、表裏面から均一に加熱するRTAを行った。昇温速度300℃/分、最高到達温度600℃、最高到達温度保持時間1秒、降温速度300℃/分(500℃以上の時間41秒)で、熱処理を行った。なお、図中14、15はそれぞれ搬送治具及び治具ガイドである。熱処理後の複素透磁率を上記と同様の条件で測定した。その実部μ’および虚部μ”の周波数依存性を示したものがそれぞれ図2の符号3から6である。なお、降温は冷風吹き付けにより行った。
【0047】
図2の符号1のように、熱処理前は60程度であった比透磁率(すなわち複素透磁率の実部μ’)が、厚さ1mmおよび3mmのものについては、熱処理をすることによって符号3、5のように1MHzまでフラットな周波数依存性を維持したまま、125に向上した。
【0048】
(比較例1)
実施例1で得たフェライト被覆Ni78Mo5Fe粒子を超硬合金製の金型に充填し、10トン重/cm(980MPa)の一軸プレスにより内径36mmφ、外径50mmφ、厚さ7mmのリングコア形状に成形した。このリングコアに実施例1と同様に1次および2次巻線を巻回し、B−Hアナライザにて複素透磁率μ=μ’+iμ”を10kHz〜10MHzの周波数領域で測定したところ、厚さ3mmのリングコアと同様の周波数特性を示した。
【0049】
このリングコアにつき、実施例1と同様にして赤外線ランプアニール炉により、表裏面から均一に加熱するRTAを行い、熱処理後の複素透磁率を上記と同様の条件で測定したところ、図2符号7、8に見られるように1MHz以下でμ'が低下し、虚部μ”が大きくなり、損失が発生してしまうことが分かった。
【0050】
(比較例2)
実施例1で得たと同様の厚さ3mmのリングコアにつき、赤外線ランプアニール炉の上面の赤外線のみ稼動させ、サンプルの片面からのみランプ加熱を行った以外は実施例1と同様にして、RTAを行い、熱処理後の複素透磁率を上記と同様の条件で測定したところ、図2符号9、10に見られるように1MHz以下でμ'が低下し、虚部μ”が大きくなり、損失が発生してしまうことが分かった。
【0051】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で、フェライトめっきを施した複合磁性粒子により、リングコア形状に圧縮成形した内径36mmφ、外形50mmφ、厚さ1mm及び3mmのリングコアを準備した。図3のような30mm厚さの2枚のセラミックス熱板16で表裏面から均一に加熱できる装置を作製し、RTAの検討を行った。なお、図中17は熱板ガイドである。すなわち、成形体11を、電気炉で400℃以下に予備加熱し、その状態で、図3のピン状のサンプル搬送冶具18に乗せ、上下面から均一に2枚の700℃に加熱した熱板16を押し当てた、熱板16が均一にサンプルにあたり、かつ、サンプルが変形しないよう、加圧は0.1MPaで行った。RTAは、昇温速度600℃/分、最高到達温度600℃、最高到達温度保持時間1秒、降温速度300℃/分(500℃以上の時間31秒)であった。
【0052】
上の熱処理品について、実施例1と同様に、B−Hアナライザにて複素透磁率を測定し評価した。複素透磁率の周波数特性の結果を図4に示す。
図4の符号1に示すように熱処理前は60程度であった比透磁率(すなわち複素透磁率の実部μ’)が、厚さ1mmおよび3mmのものについては、熱処理をすることによって符号3、5のように1MHzまでフラットな周波数依存性を維持したまま、125に向上した。
【0053】
(比較例3)
比較例1と同様にして得た厚さ7mmのリングコアにつき、実施例2と同様にして図3に示す熱板加熱により同様の条件でRTAを行い、熱処理後の複素透磁率を上記と同様の条件で測定したところ、図4符号7、8に見られるように1MHz以下でμ'が低下し、虚部μ”が大きくなり、損失が発生してしまうことが分かった。
【0054】
(比較例4)
実施例1で得たと同様の厚さ3mmのリングコアにつき、図3の熱板加熱装置の下面の熱板のみ稼動させ、上面の熱板は接触させずに、成形体の下面からのみ熱板加熱を行った以外は実施例1と同様にして、RTAを行い、熱処理後の複素透磁率を上記と同様の条件で測定したところ、図4符号9、10に見られるように1MHz以下でμ'が低下し、虚部μ”が大きくなり、損失が発生してしまうことが分かった。
【0055】
(実施例3)
実施例2と同様の方法で、フェライトめっきを施した複合磁性粒子により、リングコア形状に圧縮成形した内径36mmφ、外形50mmφ、厚さ1、3及び5mmのリングコアを準備し、実施例2で用いたと同様の熱板加熱装置と、図5のような30mm厚さの2枚のステンレス製の冷却板で表裏面から均一に冷却できる強制冷却装置を作製し、熱板加熱装置で急速加熱、強制冷却装置による急速冷却でRTAの検討を行った。
【0056】
すなわち、成形体を、別の電気炉で400℃以下に予備加熱し、その状態で、図3の熱板加熱装置のピン状の搬送冶具18に乗せ、上下面から均一に2枚の700℃に加熱した熱板16を押し当てた、熱板が均一にサンプルにあたり、かつ、サンプルが変形しないよう、加圧は0.1MPaで行った。その後、ピン状の搬送冶具に乗せたまま、図5の強制冷却装置にセットし、室温の冷却板19を押し当てた。冷却板が均一にサンプルにあたり、かつ、サンプルが変形しないよう、加圧は0.1MPaで行った。RTAは、昇温速度600℃/分、最高到達温度600℃、最高到達温度保持時間1秒、降温速度300℃/分(500℃以上の時間31秒)であった。
【0057】
実施例1と同様にして、B−Hアナライザにて熱処理品の複素透磁率を測定し評価した。複素透磁率の周波数特性の結果を図6に示す。
図6の符号1に示すように、熱処理前は60程度であった比透磁率(すなわち複素透磁率の実部μ’)が、熱処理をすることによって符号3、5、7のように厚さ1、3および5mmのものについっては1MHzまでフラットな周波数依存性を維持したまま、125に向上した。
【0058】
(比較例5)
比較例1と同様にして得た厚さ7mmのリングコアにつき、実施例3と同様にして図3に示す熱板加熱装置、図5に示す強制冷却装置を用いて同様の条件でRTAを行い、熱処理後の複素透磁率を上記と同様の条件で測定したところ、図6符号7、8に見られるように1MHz以下でμ'が低下し、虚部μ”が大きくなり、損失が発生してしまうことが分かった。
【0059】
この結果から、フェライト被覆金属磁性粒子を圧縮成形後にRTA熱処理する場合、熱処理を行う成形体が厚さ5mm以下の薄板状である必要があることが分かった。さらに、RTA熱処理としては赤外線加熱により成形体の表裏面から均一に行う方法、または、2枚の熱板により成形体を表裏面から挟み込むことで行う方法を採用できることがわかった。さらには、成形体が厚さ5mm以下の薄板状であり、その熱処理の降温時に、2枚の冷却板により成形体を表裏面から挟み込むことで降温する方法を採用すれば、成形体の厚みが5mmの場合でも厚みが3mm以下の場合と遜色ない比透磁率の周波数依存性を示すことがわかった。この降温する方法を採用しない場合は成形体の厚さが3mm以下であることが好ましい。これらのRTA熱処理を採用することにより、比透磁率100以上で、カットオフ周波数10MHz以上と、飛躍的に高い透磁率を有するメガヘルツ対応の高周波磁気部品が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
これにより、ノート型パソコン・小型携帯機器・薄型ディスプレイなどのスイッチング電源に向けた、高機能でかつ小型・薄型の磁気部品を作ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例1の赤外線ランプアニール炉の概念図である。
【図2】熱処理前および、赤外線ランプアニール炉によるRTA処理後におけるフェライト被覆Ni78Mo5Fe粒子の複素透磁率の実部μ’および虚部μ”を周波数に対してプロットしたグラフを示す図である。
【図3】実施例2の熱板加熱装置の概念図である。
【図4】熱処理前および、熱板加熱装置によるRTA処理後におけるフェライト被覆Ni78Mo5Fe粒子の複素透磁率の実部μ’および虚部μ”を周波数に対してプロットしたグラフを示す図である。
【図5】実施例3の強制冷却装置の概念図である。
【図6】熱処理前および、熱板加熱装置と強制冷却装置によるRTA処理後におけるフェライト被覆Ni78Mo5Fe粒子の複素透磁率の実部μ’および虚部μ”を周波数に対してプロットしたグラフを示す図である。
【符号の説明】
【0062】
11 成形体
12 赤外線ランプ
13 赤外線反射板
14 搬送冶具
15 冶具ガイド
16 熱板
17 熱板ガイド
18 搬送冶具
19 冷却板
20 冷却板ガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)金属磁性粒子をフェライトで被覆する工程と、
(2)得られたフェライト被覆金属磁性粒子を厚さ5mm以下の薄板状に圧縮成形する圧縮成形工程と、
(3)得られた成形体を、表裏面から均一に加熱することにより熱処理する熱処理工程であって、最高到達温度が500℃以上であり、500℃以上を保持する時間が5分以内である熱処理工程と
を含むことを特徴とする金属磁性粒子とフェライトからなる複合磁気部品の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理が、成形体の表裏面から均一に赤外線加熱することであることを特徴とする請求項1に記載の金属磁性粒子とフェライトからなる複合磁気部品の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理が、2枚の熱板で成形体を表裏面から挟み込んで行うことであることを特徴とする請求項1に記載の金属磁性粒子とフェライトからなる複合磁気部品の製造方法。
【請求項4】
前記圧縮成形工程で得られた薄板状の成形体が厚さ3mm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属磁性粒子とフェライトからなる複合磁気部品の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理の後に、2枚の冷却板により成形体を表裏面から挟み込むことで降温することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属磁性粒子とフェライトからなる複合磁気部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−186072(P2006−186072A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−377258(P2004−377258)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】