説明

複合透明上部電極をもつ照明または画像表示のための発光パネル

本発明は、少なくとも1つの上部電極が複数のダイオード(5、5’)に対し共通であって、第1伝導層(31)と、第2伝導層(33)と、これら2つの伝導層(31、33)の間に挿入され、ダイオードの活性領域(5、5’)から隔てられた位置に共通電極(3)の2つの伝導層(31、33)の間の直接接触領域(4)を与える窓となる孔をもつ絶縁性透明性緩衝層(32)とを備えたパネルに関する。2つの伝導層の間の直接接触領域が存在することにより、中間の緩衝層は絶縁性を保ちながら、上部電極によって供給される電流の良好な分配ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板によって支持された有機発光ダイオードのアレイから構成される照明パネルまたは画像表示パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術では、次のようなパネルについて記載している。すなわち、各ダイオードは有機エレクトロルミネッセント層から構成され、この有機エレクトロルミネッセント層は、基板と接触している下部電極と、この有機エレクトロルミネッセント層から発せられた光に対し透明な上部電極との間に挿入されている。したがって、これらのパネルは「上面発光」パネルと呼ばれる。場合に応じて、上部電極はカソード(「通常の」ダイオード構造に対して)またはアノード(「逆」構造に対して)となる。
【0003】
一般に、電極間には次のような他の有機層が存在する。すなわち、正孔または電子を注入および輸送するための層、ならびに/または、特に電極間の光共振器における共振効果を用いるような光の取り出しを最適化する層などが存在する。
【0004】
従来技術はまた、上部電極が少なくとも複数のダイオードに共通であって、一般に混合インジウムすず酸化物(ITO)または混合インジウム亜鉛酸化物(IZO)からなる導電性の酸化物層から構成されるようなパネルについても記載している。
【0005】
【特許文献1】米国特許第5、969、474号明細書
【特許文献2】国際公開 WO2004/049465
【特許文献3】米国特許第6,172,459号明細書
【特許文献4】米国特許第6,140,763号明細書
【特許文献5】米国特許第5、739、545号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようなパネルの作製は、有機層の上面にITO導電性酸化物層の成膜を必要とする。しかしながら、そのような成膜を行うための通常の条件のもとでは、特に熱的条件のもとまたはマグネトロンスパッタリングプラズマの適用のもとでは、下地の有機層が劣化するという危険を生じることが知られている。
【0007】
この危険を回避しまたは抑えるために、従来技術は多くの解決方法を提示している。
【0008】
特許文献1は、ダイオードの有機層と透明導電性酸化物層の間に緩衝層を挿入することを提案している。この緩衝層は、導電性酸化物層の成膜の間の有機層の保護、特に酸化を防ぐことを意図したものである。緩衝層の材料として、特許文献1はチタン、クロムもしくはタンタルをベースとした金属導電性材料、またはそれら金属の窒化物を提案している。そこで、特許文献1に記載されているパネルにおいては、上部電極は複数のダイオードに対して共通であって、20nmに等しいかそれ以下の厚さをもつ金属の第1伝導層と、この第1層と接触していてITOまたはIZOからできている第2伝導層とから構成されている。この第2伝導層は、一般に50nmに等しいかそれ以上の厚さをもち、それゆえ第1層の厚さより大きい。緩衝層の厚さが非常に薄いこと、すなわち20nm以下であることに注目すべきである。特に(特許文献1の例2のように)窒化物が使用された場合、十分高い透明性および導電性を維持するために、厚さはたった5nmである。
【0009】
特許文献2は、このような金属緩衝層が保護層として有効であるためには十分な厚さ(>30nm)を持たなければならないが、この大きな厚さにより上部電極はその透明性のかなりの部分を失い、発光効率に対する障害となることを指摘している。特許文献2は、緩衝層の保護性および透明性を高めるために、金属緩衝層にSiOを添加することを提案している。
【0010】
特許文献3および特許文献4は、かなり厚い緩衝層に対し有機ポルフィリン化合物に基づく材料を開示しており、導電性、保護性および透明性をもつという利点があるとしている。
【0011】
本発明の目的は、透明な上部電極の成膜の際に、有機層が劣化する危険を抑えるための、より経済的な別の解決法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的のため、この発明の対象は、基板によって支持された有機発光ダイオードのアレイと、基板と接触する少なくとも1つの下部電極のアレイと、および上部電極のアレイとを備えた照明パネルまたは画像表示パネルであって、各ダイオードが下部電極とこのダイオードから発せられた光に対しそれ自身が透明な上部電極との間に挿入された有機エレクトロルミネッセント層を備えたことを特徴とする。また、少なくとも1つの上部電極は複数のダイオードに対し共通であり、第1伝導層と、第2伝導層と、これら2つの伝導層の間に挿入された透明な緩衝層とを備えたことを特徴とする。さらに各ダイオードの活性領域がこのダイオードの下部電極および上部電極の両者に直接接触しているこのダイオードの有機エレクトロルミネッセント層の領域として定義されていて、複数のダイオードに対し共通な上部電極(3)のそれぞれについて、緩衝層がこの共通電極の2つの伝導層の間の直接的接触のための直接接触領域を与える窓となる孔を持ち、この接触領域が複数のダイオードの活性領域から分離されていることを特徴とする照明パネルまたは画像表示パネルである。
【0013】
緩衝層の窓とは、一般にこの層に形成される開口部または「孔」である。特許文献3および特許文献4に記載されているパネルでは、緩衝層は窓または開口部をもたず、それゆえ中間的な緩衝層がなく、上部電極の2つの伝導層が互いに直接接触するような領域をもたない。緩衝層それ自身が導電性であるために、伝導ブリッジを作るためのこのような直接接触が不要であるためである。ZnSeまたはZnSから特別に作られた、特許文献5記載の緩衝層に、窓や開口部を持つことには利点がない。なぜならば、この場合も緩衝層はやはりその粒界を通した導電性をもつからである。
【0014】
いくつかのダイオードに共通な各上部電極の第1伝導層は、有機エレクトロルミネッセント層と接触している。各ダイオードの活性領域は、より正確にはこのダイオードの下部電極および上部電極の間の重なり領域として定義される。したがって、ダイオードが点灯し発光するとき、この重なり領域においてのみ有機エレクトロルミネッセント層は電場にさらされることになり、これらの活性領域外では発光は起こらない。
【0015】
下部電極および上部電極の各重畳領域、すなわち各交差または重なり領域はそれゆえ1つのダイオードに対応する。このダイオードの活性領域は、それゆえこの下部電極および上部電極の両者と直接接触し、このダイオードから発せられる光を透過することが可能な、このダイオードの有機エレクトロルミネッセント層の面積に対応する。
【0016】
上部電極のそれぞれについて、直接接触領域は上部電極を共通にもつダイオードのどの活性領域とも重なっていないことが好ましい。これは、問題としている上部電極の2つの伝導層の間の接触領域に対応し、緩衝層中に形成された窓または開口部は、活性領域の外側に位置することを意味する。このようにして、もしこれらの接触領域にある第2伝導層の成膜が、存在し得る下地の有機層の劣化を引き起こすとしても、ダイオードの活性領域の外側で起こるためにそのような劣化は問題とならない。
【0017】
ダイオードの有機エレクトロルミネッセント層は、いくつかのダイオードに対し共通とすることができる。上部電極のアレイはただ1つの電極のみを持つことも可能で、その場合はすべてのダイオードに対し共通となる。
【0018】
少なくともダイオードの位置においては上部電極は透明であるので、パネルのダイオードは「上面発光」ダイオードである。これらの電極は、例えばダイオードの固有の発光の発色特性を改良するために、および/または光の取り出し効率を改善する目的で電極間の光共振効果を調整するために、半透明であってもよい。
【0019】
緩衝層は絶縁性をもつことが好ましい。上部電極のそれぞれについて、緩衝層の表面導電率はこの上部電極の第2伝導層の表面導電率の1/10未満であることが好ましい。ある層の表面導電率とは、この層の正方形の表面要素の導電率を意味している。したがって、特許文献1の例2にあるように窒化物ベースの材料から作られた緩衝層の場合、緩衝層の厚さは5nmよりかなり厚くなるであろう。上部電極の2つの伝導層の間の接触のための直接接触領域が伝導ブリッジを確保するために必要であるのは、正確には緩衝層の低い表面導電率のためである。特許文献5においては、上部電極の2つの伝導層の間の伝導ブリッジが、中間(特にZnSe)緩衝層によって提供されており、本発明のように直接接触領域によって提供されているのではないことに注目すべきである。共通上部電極のそれぞれについて、緩衝層の表面導電率はこの電極の第1伝導層の表面導電率より小さいことが好ましい。この緩衝層の表面導電率は、第1伝導層の表面導電率の1/10未満であることが好ましい。もし上述の低導電率条件にかなうのであれば、有機材料を緩衝層に用いることができる。例えば、スピロ−TAB,スピロ−TTB、NPB,TPD、BCPまたはBphenを用いることができる。下地の有機層を保護する機能が確実に効果的とするためには、この有機材料は十分厚いことが必要である。共通上部電極のそれぞれについて、緩衝層は無機材料であって、それによりダイオードの被覆に対し有利な寄与を与えることが好ましい。この材料は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化タンタル:SiO、SiN、TaO、(ここで、0<x≦2;0<y≦1.33;および0<z≦2.25)のグループの中から選ばれることが好ましい。
【0020】
緩衝層は絶縁性であるので、電流は直接接触領域を通して同じ上部電極の2つの伝導層の間を流れる。この直接接触領域は、本発明によればダイオードの間に、より正確にはダイオードの活性領域または発光領域の間に位置する。
【0021】
絶縁緩衝層は有機エレクトロルミネッセント層とダイオードの下部電極との間の接触領域を覆っているので、この緩衝層は上部電極の第2伝導層の成膜の間、特にこの成膜が保護されていない有機層の劣化の危険を生じるようなエネルギー条件で行われるときに、活性領域すなわち発光領域を効果的に保護することができる。
【0022】
絶縁緩衝層は上部電極の2つの伝導層の間に挿入されているので、第1伝導層は有機層の全領域と直接接触することが可能であり、この層の中でこの領域による一様な有機エレクトロルミネッセント発光を得るために、この全領域にわたって一様な電場を与える。
【0023】
本発明の1つの好ましい変形では、この緩衝層は分割された緩衝要素に分けられ、緩衝層の窓や開口部が逆に連続表面を形成する。
【0024】
共通上部電極のそれぞれについて、第2伝導層の材料は酸化物ベース、すなわち透明導電性酸化物(TCO)であることが好ましい。混合インジウムすず酸化物(ITO)または混合インジウム亜鉛酸化物(IZO)が用いられることが好ましい。これらの酸化物が成膜される条件は、緩衝要素によって与えられる保護が無いような有機層では劣化を引き起こす危険性を生じる。さらに、これらの混合酸化物を用いる1つの利点は、それらが、劣化、特に大気中の酸素および/または水蒸気による劣化の危険性に対し、ダイオードの有機エレクトロルミネッセント層を効果的に保護することになり、それゆえ封止機能を備えるということである。
【0025】
第2伝導層の厚さは、100nmに等しいかそれより厚いことが好ましい。そのような厚さにより、第2伝導層によって与えられる封止機能を強化することができる。
【0026】
共通上部電極のそれぞれについて、第1伝導層の材料は金属であることが好ましい。この第1伝導層の厚さは1nmより厚いが20nmを超えないことが好ましい。そのような薄さは、特にこの層の材料が金属である場合に透明性を保証する。そのような薄さは一般に1個の、またはいくつかのダイオードに対する十分な表面導電性を保証する。しかし、上部電極全体が多数のダイオードに対して共通である場合には、一般には、この第1層だけでは十分な導電性をもつことはできず、したがって第2伝導層がさらに有用となる。
【0027】
共通上部電極のそれぞれについて、第2伝導層の厚さは第1伝導層の厚さより厚いことが好ましい。
【0028】
共通上部電極のそれぞれについて、第2伝導層の表面導電率は第1伝導層の導電率より大きいことが好ましい。この高い導電率のおかげで、第2層は電流がパネル表面全体にわたり一様に分配されることを保証する。
【0029】
「層の表面導電率」という表現はこの層のある正方形の表面要素の導電率を意味すると理解されるべきである。第1層に対する金属、すなわち高い導電性材料という選択、そして第2層に対する導電性酸化物ベース、すなわち低導電性材料という選択に加えられた条件は、第2層の厚さが第1層の厚さよりずっと厚いことを意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1は、本発明の1つの実施例である、緩衝層が別々の緩衝要素に分割されたパネルの部分的な断面図である。図1を参考にしながら、本発明を限定する目的ではなく一例として以下の記述を読むことにより、本発明をより良く理解することができるだろう。
【0031】
この構造は基板1から出発し、ここによく知られているアクティブマトリックスを集積するが、その製法はここには詳述しない。絶縁材料から作られた硬いプレート11は、「ピクセル回路」とよばれるダイオードに対する制御/供給回路のネットワークを支える。ピクセル回路は、それぞれが金属製で反射性をもつことが好ましい下部電極15に接続された出力端子14を持つ。この硬いプレートは一般に、特にピクセル回路の要素を互いに分離する第1絶縁層12、ならびにダイオード相互を分離しダイオードの発光領域の外側では上部電極から下部電極を絶縁する第2絶縁層13を含む、いくつかの電気絶縁層を支える。ダイオードの位置において、この第2絶縁層13には窓が開けられており、下部電極15の表面を露出させている。最終的に、この基板は、特に例えば選択しおよびアドレシングするピクセル回路を駆動するための(不図示の)他の電極アレイを集積している。
【0032】
下部電極15はパネル上で実現されるダイオードの配置に従い、一般に行および列に配置される。
【0033】
有機エレクトロルミネッセント層は、真空蒸着のような物理的成膜方法によって下部電極15の全面上に成膜される。ダイオード列上で異なった色を得るために、異なった有機層2、2’を隣接する列上に成膜する。この目的のためにマスクが用いられる。実際には図1に示すように、マスクを用いることにより生ずる成膜層の位置決めの不正確さから、および短絡を避けるため、絶縁層13に作られた窓によって露出した下部電極15の全表面を覆う必要性から、有機層2、2’の成膜はこれらの窓の境界をかなり越えて広がっている。
【0034】
一般に、有機層2、2’はいくつかの副次的な層、特に電荷(電子または正孔)の注入および輸送を行う層、実際の有機エレクトロルミネッセント層、また適切であれば、電荷の非輻射再結合を制限するための電荷ブロッキング層などに分けられる。電荷注入および輸送のための副次層として、ドーピングした有機材料を用いることが好ましい。これらの材料は、電極のために用いことができる材料の選択範囲を拡げ、平坦化効果を得るために厚さを増加させる。
【0035】
有機層が成膜された後、基板の全活性領域を覆うように完全に金属からなる第1伝導層31が20nm以下で、1nmよりは厚い厚さを持って成膜される。この第1伝導層は連続的でほぼ一定の厚さをもち、意図的な穴や窓を持たない。
【0036】
次に、再び成膜マスクを用いて、緩衝層32の絶縁要素が第1伝導層31の上の各ダイオードの位置に成膜される。
【0037】
使用されるマスクは、次の条件で設計される。
【0038】
緩衝層32の要素の位置と表面は、絶縁層13に作られた窓によって露出された下部電極15の全表面を再び覆うこと
緩衝層32の絶縁要素の面積は、ダイオード間の、すなわち行の間および/または列の間の広い領域が第1伝導層31の表面によって覆われない状態にするため十分小さくなること
この目的のため、3回の成膜操作を要する有機層の成膜のために用いたのと同じマスクを使用することが可能である。また、1回の操作で成膜を行うことを可能にするような特別なマスクを使用することも可能である。このマスクは、いくつかのダイオードを、またはすべてのダイオードの行と列さえも覆うような開口部をもつことも可能である。ダイオードあたりたった1つの開口部をもつマスクの場合には、この開口部は、保護することが望まれる有機層の面積に依存して、有機層の成膜に用いられるマスクよりも大きくまたは小さくすることができる。
【0039】
緩衝層32のこれらの要素については、引き続く第2伝導層の成膜の間、有機層2、2’を効果的に保護するために適切な、電気的絶縁性があり透明な材料が選ばれる。緩衝層32の要素の厚さは、用いられる材料が透明であるためここでは透明性を減らすという危険性を伴わず、やはりこの目的に適合している。「透明な材料」という用語は、その材料が覆っている有機層のエレクトロルミネッセント発光スペクトルの少なくとも一部分を透過させる材料を意味すると理解されたい。本発明の変形により、この材料は特にダイオードの発光スペクトルと発色特性に適合するように、光学フィルタの役割を果たすこともできる。
【0040】
緩衝層32のこれらの要素のために選ばれる材料については、下地にある有機層2、2’を劣化させる危険性なしに成膜できることがまた重要である。
【0041】
緩衝層32のこれらの要素の材料として、有機材料よりも、下地にある有機層のよりよい保護を与える鉱物材料を選ぶことが好ましい。下地にある有機層を劣化させる危険を生じることなく、「マイルド」と呼ばれる条件で成膜できる材料、すなわち、その成膜に対しては基板温度が50℃より高温となることが要求されず、また成膜の間、基板に堆積される粒子のエネルギーが100eV未満となるような材料が選ばれることが好ましい。上部電極の光の抽出レベルを改良するために、屈折率が2より大きい材料が好ましい。
【0042】
このようにして、緩衝層32の要素のための材料としては、化学式SiOの酸化ケイ素(ここで0<x≦2)、または窒化ケイ素SiN(ここで0<y≦1.33)、または酸窒化ケイ素、または酸化タンタルTaOを選ぶことが好ましい。指数x、y、zは緩衝材料が2より大きな屈折率をもつように公知の方法で調節することが好ましい。それで、屈折率が2より大きく、また加熱によって簡単に蒸発させることができるという利点をもつセレン化鉛(ZnSe)を選択することが望ましい。
【0043】
アルカリまたはアルカリ土類金属ハロゲン化物またはカルコゲン化物のような、ほかの透明な絶縁性無機材料を、本発明の技術範囲から逸脱することなく緩衝層32として用いることができる。
【0044】
緩衝層の厚さは、下地の有機層の劣化の危険に関して所望のレベルの保護作用が得られるように公知の方法で調節される。実際には、これは一般に20nmより大きな厚さを意味し、その結果、この緩衝層の表面導電率は引き続き成膜される第2伝導層33の表面導電率より小さくなる。それによって、上部電極の2つの伝導層の間に本発明による直接接触領域を形成させることが必要となる。この緩衝層の表面導電率は第2伝導層33の表面導電率の1/10未満であることが好ましいだろう。
【0045】
緩衝層32の要素が成膜された後で、基板の全活性領域を覆うために第2伝導層33が20nmより大きな厚さで成膜される。この第2伝導層もまた連続的で、近似的に一定の厚さをもち、意図的な孔や窓をもたない。
【0046】
緩衝層32の要素によって与えられる保護のおかげで、下地の有機層を劣化させるという危険を生じることなく高エネルギー成膜法を用いることが可能となる。
【0047】
第2伝導層33のため、真空スパッタリングで成膜される材料であるITOまたはIZOべーすの材料を使用することが好ましい。
【0048】
図1に示されているように、第1伝導層31の表面の中の緩衝層32の要素によって覆われていない広い領域は、第2伝導層33と直接接触しており、したがってこれらの領域は接触領域4となる。
【0049】
第1伝導層31、緩衝層32および第2伝導層33はそれゆえここでは上部電極3を形成し、これは基板1によって支持されたパネルのすべてのダイオードに共通である。
【0050】
この上部電極の第2伝導層33は、第1伝導層31、および緩衝層32の窓または開口部に対応するこれらの層の間の接触領域4を通して、各ダイオードに供給される電流を分配するように意図されている。
【0051】
第2伝導層33の厚さは、第1伝導層31のそれよりも厚いことが好ましい。第2伝導層33の厚さは、この層の表面導電率が第1層31のそれよりも少なくとも10倍大きくなるように調節することが好ましく、それによってダイオードに供給される電流の効果的および一様な分配が保証される。
【0052】
このようにして、本発明による発光ダイオードのパネルが得られる。このパネルの各ダイオード5、5’は、上部電極3と下部電極15の重なり領域に対応する発光領域をもち、その上部電極はこの領域の中でこのダイオードによって発せられる光に対し透明であって、またその発光領域は
この領域の中にあってこれら電極の間にある有機エレクトロルミネッセント層2、2’と、
この領域の中にあって上部電極3の第1伝導層31および第2伝導層33の間にあり、絶縁性および透明性をもつ緩衝層32の要素と
を備えている。
【0053】
緩衝層32の絶縁要素の表面導電率は、一般に第1伝導層のそれの10分の1より小さい。
【0054】
もし、上述のように、電流の効率的でかつ一様な分配を保証するために、これら緩衝層の要素の配置がダイオード間に十分な面積の接触領域を残すようになっているならば、本発明の技術範囲からはずれることなく、緩衝層の要素は分離されたパッドとして、すなわちダイオードあたり1つもしくは1組のダイオードについて1つの要素、またはそれぞれがダイオードの行と列を覆う連続的な帯として、さらには他の構成によって分布させることができる。本発明の技術範囲からはずれることなく、上述のように緩衝層の別々の要素を成膜するかわりに、第1伝導層31と直接接触する領域を提供するために、ダイオード間に出現する窓を備えた「完全」緩衝層の成膜を思い描くことも可能である。
【0055】
本発明は、能動的マトリクス方式の発光パネルについて説明したものである。当業者にとって、本発明が特許請求の範囲からはずれることなく、他のタイプの表示装置や照明パネル、特に受動的マトリクスパネルに応用できることは明らかである。受動的マトリクスの場合、各下部電極は一般にダイオードの行に対して共通であり、各上部電極は一般にダイオードの列に対して共通であるか、またはその逆である。本発明は下部電極がアノードで上部電極がカソードである場合、および下部電極がカソードで上部電極がアノードであるという逆の場合にも同じようにうまく適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】緩衝層が別々の緩衝要素に分割された本発明の1つの実施例であるパネルの部分的な断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明パネルまたは画像表示パネルであって、
基板によって支持された有機発光ダイオードのアレイと、
前記基板と接触する少なくとも1つの下部電極のアレイと、
上部電極のアレイとを備え、
各ダイオードは、前記下部電極および前記ダイオードから発せられる光に対しそれ自身が透明な上部電極の間に挿入された有機エレクトロルミネッセント層を含み、
前記上部電極の少なくとも1つは複数のダイオードに対し共通であって、前記有機エレクトロルミネッセント層と接触する第1伝導層、第2伝導層ならびに前記2つの伝導層の間に挿入された透明な緩衝層を有し、
前記複数のダイオードに対し共通な前記上部電極のそれぞれに対して、前記緩衝層は、前記共通電極の前記第1伝導層および前記第2伝導層の間の直接的接触のための直接接触領域を与える窓となる孔を持つことを特徴とするパネル。
【請求項2】
各ダイオードにおいて、このダイオードの前記下部電極および前記上部電極の重なり領域として活性領域を定義したとき、前記各上部電極に対して、前記直接接触領域は前記上部電極を共通にもつダイオードの活性領域のいずれとも重なっていないことを特徴とする請求項1に記載のパネル。
【請求項3】
前記上部電極のそれぞれに対して、前記緩衝層の表面導電率は、前記上部電極の前記第2伝導層の表面導電率の1/10未満であることを特徴とする請求項1または2に記載のパネル。
【請求項4】
前記共通上部電極のそれぞれに対して、前記緩衝層の表面導電率は、前記上部電極の前記第1伝導層の表面導電率より小さいことを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のパネル。
【請求項5】
前記共通上部電極のそれぞれに対して、前記緩衝層の材料は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素および酸化タンタルからなるグループから選ばれることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のパネル。
【請求項6】
前記共通上部電極のそれぞれに対して、前記第2伝導層の材料は酸化物ベースの材料であることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載のパネル。
【請求項7】
前記酸化物は、混合インジウムすず酸化物(ITO)および混合インジウム亜鉛酸化物(IZO)からなるグループから選ばれることを特徴とする請求項6に記載のパネル。
【請求項8】
前記第2伝導層の厚さは、100nmに等しいかそれ以上であることを特徴とする請求項6または7に記載のパネル。
【請求項9】
前記共通上部電極のそれぞれに対して、前記第1伝導層の材料は金属材料であることを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載のパネル。
【請求項10】
前記第1伝導層の厚さは、1nmより大きいが20nmを超えないことを特徴とする請求項9に記載のパネル。
【請求項11】
前記共通上部電極のそれぞれに対して、前記第2伝導層の厚さは前記第1伝導層の厚さより厚いことを特徴とする請求項1乃至10いずれかに記載のパネル。
【請求項12】
前記共通上部電極のそれぞれに対して、前記第2伝導層の表面導電率は、前記第1伝導層の表面導電率より大きいことを特徴とする請求項1乃至11いずれかに記載のパネル。

【図1】
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【公表番号】特表2009−506480(P2009−506480A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−512803(P2008−512803)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【国際出願番号】PCT/EP2006/062355
【国際公開番号】WO2006/125735
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(501263810)トムソン ライセンシング (2,848)
【氏名又は名称原語表記】Thomson Licensing 
【住所又は居所原語表記】46 Quai A. Le Gallo, F−92100 Boulogne−Billancourt, France
【Fターム(参考)】