説明

複合部材およびその製造方法

【課題】軽金属とFRPとを強固に接着でき、剥離強度や耐衝撃性に優れる複合部材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】軽金属10と繊維強化プラスチック30とを接着剤層を介して接合した複合部材であって、該接着剤層は2層構造を有し、軽金属側はゴムを含有するエポキシ系接着剤の層21、繊維強化プラスチック側はエポキシ系常温硬化接着剤の層22であることを特徴とする複合部材。軽金属と繊維強化プラスチックとを接着剤層を介して接合した複合部材の製造方法であって、軽金属にゴムを含有するエポキシ系接着剤の層を設ける工程と、該ゴムを含有するエポキシ系接着剤の層を加熱硬化させる工程と、該ゴムを含有するエポキシ系接着剤の層と繊維強化プラスチックとを、エポキシ系常温硬化接着剤を介して接合させる工程とを有することを特徴とする複合部材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムと繊維強化プラスチックとの複合部材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、熱硬化性樹脂を繊維によって補強した繊維強化プラスチック(以下、FRPともいう。)は、自動車、船舶、航空機、構造材等に広く適用されている。
このようなFRPとアルミニウムなどの軽金属とを複合化することにより、軽金属の比強度、比弾性、疲労特性等は大幅に改善され、軽くて強い複合部材が得られる(例えば、特許文献1を参照)。
しかしながら、該特許文献の複合部材は強度が十分でなく、剥離強度や耐衝撃性についてさらなる向上が求められていた。
【0003】
【特許文献1】特開平03−150155号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上のような問題点に鑑みて為されたものであり、その目的とする処は、軽金属とFRPとを強固に接着でき、剥離強度や耐衝撃性に優れる複合部材およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記の技術的構成により上記課題を解決できたものである。
(1)軽金属と繊維強化プラスチックとを接着剤層を介して接合した複合部材であって、該接着剤層は2層構造を有し、軽金属側はゴムを含有するエポキシ系接着剤の層、繊維強化プラスチック側はエポキシ系常温硬化接着剤の層であることを特徴とする複合部材。
(2)前記ゴムは、アクリルゴムであることを特徴とする前記(1)記載の複合部材。
(3)前記ゴムを含有するエポキシ系接着剤は、シート状接着剤であることを特徴とする前記(1)記載の複合部材。
(4)軽金属と繊維強化プラスチックとを接着剤層を介して接合した複合部材の製造方法であって、軽金属にゴムを含有するエポキシ系接着剤の層を設ける工程と、該ゴムを含有するエポキシ系接着剤の層を加熱硬化させる工程と、該ゴムを含有するエポキシ系接着剤の層と繊維強化プラスチックとを、エポキシ系常温硬化接着剤を介して接合させる工程とを有することを特徴とする複合部材の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、軽金属とFRPとを強固に接着でき、剥離強度や耐衝撃性に優れる複合部材およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0008】
<実施形態>
まず、図1を用いて複合部材の構成を説明する。
図1は実施形態の複合部材を示す斜視図である。
10は軽金属、20は接着剤層、21はゴムを含有するエポキシ系接着剤、22はエポキシ系常温硬化接着剤、30は繊維強化プラスチックである。
本発明の複合部材は、軽金属10と繊維強化プラスチック30とを接着剤層20を介して接合した複合部材であって、接着剤層20は2層構造を有し、軽金属側はゴムを含有するエポキシ系接着剤の層21、繊維強化プラスチック側はエポキシ系常温硬化接着剤の層22であることを特徴とする。
このように、接着剤層20を特定の2層構造とすることで、軽金属10、繊維強化プラスチック30それぞれと強固な接着が可能となる。
また、ゴムを含有するエポキシ系接着剤の層21とエポキシ系常温硬化接着剤の層22も強固に接着できるので、接着剤層20が分離することもない。
【0009】
ゴムを含有するエポキシ系接着剤を用いることで、耐衝撃性を向上させることができる。
また、ゴムを含有するエポキシ系接着剤は、シート状接着剤とすることが好ましい。
これによって、軽金属10の表面にムラなく層を形成できる。
ゴムとしては、アクリルゴム、天然ゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴムなどを用いることができるが、その中でもアクリルゴムが好ましい。
なお、ゴムとエポキシ系接着剤の重量比は5:5〜8:2が好ましく、6:4〜7:3がより好ましい。
【0010】
エポキシ系常温硬化接着剤を用いることで、ゴムを含有するエポキシ系接着剤の層21との接着が強固になり、剥離強度を向上させることができる。
また、常温硬化接着剤を用いることで、繊維強化プラスチック30を加熱せずに複合部材を作製でき、硬化の工程を簡素化して生産性を向上させることができる。
【0011】
軽金属10は、特に制限はないが、アルミニウムやマグネシウムおよびその合金などを用いることができる。
その中でもアルミニウムおよびその合金が好ましい。
軽金属10の形状は、板状、棒状、筒状など適宜選択できる。
【0012】
繊維強化プラスチック30を構成する樹脂は、特に制限はないが、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ベンゾオキシザン樹脂などを用いることができる。
その中でもエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂が好ましい。
繊維強化プラスチック30を構成する繊維は、ガラス繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維、炭素繊維などを用いることができる。
その中でもガラス繊維が好ましい。
繊維の形状は、針状、織物状など適宜選択でき、樹脂中に規則的または不規則的に配置することができる。
【0013】
次に、図2を用いて複合部材の製造方法を説明する。
図2は実施形態の複合部材の製造方法を示す正面図であって、(a)は接合前の軽金属の図、(b)は軽金属にシート状接着剤を貼った図、(c)は完成した複合部材の図である。
本発明の複合部材の製造方法は、軽金属10と繊維強化プラスチック30とを接着剤層20を介して接合した複合部材の製造方法であって、軽金属10にゴムを含有するエポキシ系接着剤の層21を設ける工程と、ゴムを含有するエポキシ系接着剤の層21を加熱硬化させる工程と、ゴムを含有するエポキシ系接着剤の層21と繊維強化プラスチック30とを、エポキシ系常温硬化接着剤を介して接合させる工程とを有することを特徴とする。
【0014】
まず、図2(a)に示すように、軽金属10を用意する。
次に、図2(b)に示すように、軽金属10の表面にゴムを含有するエポキシ系接着剤の層21を設ける。
このとき、ゴムを含有するエポキシ系接着剤がシート状接着剤であれば、シートを載せるだけでムラなく接着剤の層を形成できて好ましい。
そして、ゴムを含有するエポキシ系接着剤の層21を加熱硬化させる。
加熱の条件は適宜変更できるが、100〜200℃で、30分〜90分程度が好ましい。
そして、図2(c)に示すように、ゴムを含有するエポキシ系接着剤の層21と繊維強化プラスチック30とを、エポキシ系常温硬化接着剤を介して接合させる。
具体的には、硬化させたゴムを含有するエポキシ系接着剤の層21にエポキシ系常温硬化接着剤を塗布し、繊維強化プラスチック30を貼り合わせる。
または、繊維強化プラスチック30にエポキシ系常温硬化接着剤を塗布し、ゴムを含有するエポキシ系接着剤の層21に貼り合わせてもよい。
このとき、繊維強化プラスチック30を加熱せずにすむので、破損したり劣化したりするおそれがない。
【実施例】
【0015】
以下、実施例を用いて説明する。
<実施例1>
まず、以下のようにしてゴムを含有するエポキシ系接着剤を作製した。
アクリルゴム(ナガセケムテックス社製、商品名:「SG−80H」)200重量部を市販のメチルエチルケトンに溶解させ、15重量%溶液とした。
エポキシ樹脂(JER社製、商品名:「エピコート1001」)100重量部を市販のメチルエチルケトンに溶解させ、80重量%溶液とした。
シリカ(トクヤマ社製、商品名:「SE−03」)35重量部と、イミダゾール系硬化剤(四国化成社製、商品名:「2MA−OK」)5重量部と、市販のビーズ(粒径2mm)150重量部とを、市販のテトラヒドロフラン150重量部に入れ、シェイカーで15分程度分散させて分散液とした。
該分散液に、前記80重量%溶液および前記15重量%溶液を加えて混合し、混合液とした。
該混合液を市販のフィルターに通し、ビーズを取り除いて、塗布液を得た。
該塗布液を厚さ100μmとなるように、剥離剤付きポリエチレンテレフタレートに塗工し、110℃で3min乾燥させて、ゴムを含有するエポキシ系接着剤であるシート状接着剤を得た。
【0016】
次に、以下のようにしてエポキシ系常温硬化接着剤を作製した。
液状エポキシ樹脂(JER社製、商品名:「エピコートYL980」)100重量部と、液状アミン系硬化剤(富士化成社製、商品名:「トーマイド235R」)100重量部とを空気が入らないようにヘラで混合して、エポキシ系接着剤である常温硬化接着剤を得た。
【0017】
次に、軽金属としてアルミニウム板(商品名:「AA1100」)を用意した。
そして、該アルミニウム板にシート状接着剤を載せて、加熱炉で150℃、2時間加熱し、アルミニウム板の表面にゴムを含有するエポキシ系接着剤の層を設けた。
次に、ガラス繊維強化プラスチックを用意した(ガラス繊維15.4重量%、不飽和ポリエステル84.6重量%))
そして、ゴムを含有するエポキシ系接着剤の層に前記常温硬化接着剤を厚さ100μmとなるように塗布し、そこにガラス繊維強化プラスチックを貼り合わせた。
その後、常温で1日放置して乾燥させ、実施例1の複合部材を得た。
なお、複合部材は、JIS K6852、JIS K6855、JIS K6856に規定の大きさのものをそれぞれ作製した。ただし、JIS K6852についてはアルミニウム板の厚さは1mm、ガラス繊維強化プラスチックの厚さは5mmとした。
【0018】
<比較例1>
ゴムを含有するエポキシ系接着剤のみを用いたことを除き、実施例1と同様にして比較例1の複合部材を得た。
【0019】
<比較例2>
エポキシ系常温硬化接着剤のみを用いたことを除き、実施例1と同様にして比較例2の複合部材を得た。
【0020】
実施例および比較例の主な条件を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
実施例および比較例の複合部材について、以下の評価を行った。
<剥離強度>
(圧縮せん断接着力)
JIS K6852に準じて市販のせん断力試験機による測定を行い、圧縮せん断接着力とした。
○:40kg/cm以上、×:40kg/cm未満
【0023】
(曲げ接着強さ)
JIS K6852に準じて曲げ接着強さを測定した。ただし、手で荷重を加えて状態を目視で観察した。
○:アルミニウム板が屈曲しても接着状態を維持、×:アルミニウム板とガラス繊維強化プラスチックが剥離
【0024】
<耐衝撃性>
JIS K6855に準じて耐衝撃性を測定した。ただし、衝撃を加えた状態を目視で観察した。
○:アルミニウム板とガラス強化繊維プラスチックが接着状態を維持、×:アルミニウム板とガラス繊維強化プラスチックが剥離
【0025】
評価結果を表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
表2から明らかなように、実施例1では剥離強度も耐衝撃性も実用上問題なかった。
これに対し、比較例1では、そもそもアルミニウム板とガラス強化繊維プラスチックが熱膨張係数の違いにより接着しなかった。
また、比較例2では、曲げ接着強さと耐衝撃性において実用上問題があった。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施形態の複合部材を示す斜視図
【図2】実施形態の複合部材の製造方法を示す正面図であって、(a)は接合前の軽金属の図、(b)は軽金属にシート状接着剤を貼った図、(c)は完成した複合部材の図
【符号の説明】
【0029】
10 軽金属
20 接着剤層
21 ゴムを含有するエポキシ系接着剤
22 エポキシ系常温硬化接着剤
30 繊維強化プラスチック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽金属と繊維強化プラスチックとを接着剤層を介して接合した複合部材であって、
該接着剤層は2層構造を有し、軽金属側はゴムを含有するエポキシ系接着剤の層、繊維強化プラスチック側はエポキシ系常温硬化接着剤の層であることを特徴とする複合部材。
【請求項2】
前記ゴムは、アクリルゴムであることを特徴とする請求項1記載の複合部材。
【請求項3】
前記ゴムを含有するエポキシ系接着剤は、シート状接着剤であることを特徴とする請求項1記載の複合部材。
【請求項4】
軽金属と繊維強化プラスチックとを接着剤層を介して接合した複合部材の製造方法であって、
軽金属にゴムを含有するエポキシ系接着剤の層を設ける工程と、
該ゴムを含有するエポキシ系接着剤の層を加熱硬化させる工程と、
該ゴムを含有するエポキシ系接着剤の層と繊維強化プラスチックとを、エポキシ系常温硬化接着剤を介して接合させる工程とを有することを特徴とする複合部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−149350(P2010−149350A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329007(P2008−329007)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【Fターム(参考)】