説明

複合金属酸化物の製造方法

【課題】 アルカンのアンモ酸化などで、選択率、活性などの性能が良好な触媒を提供する。
【解決手段】 原料化合物を含む水系混合物を、100〜350℃で水熱処理することを特徴とする下記一般式[1]で表される複合金属酸化物の製造方法。
【化1】
Mo1.0aTebSbα-bx(NH4yn [1]
(式中、XはTi,Zr,Nb,Ta,Cr,W,Mn,Fe,Ru,Co,Rh,Ir,Ni,Pd,Pt,Cu,Ag,Zn,In,Sn,Pb,Bi,およびCeの中から選ばれる一種以上の元素を表し、0.01≦a<1.0、0≦b≦α、0≦x<1.0、0.01≦α/(1+a+x)≦0.50、0≦y≦(1+a+x)、nは他の元素の酸化状態により決定される数である。)

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はMo、V、並びに、Teおよび/またはSbを含有する複合金属酸化物の新規な製造方法に関する。該複合金属酸化物は気相酸化用触媒、特に低級炭化水素の気相酸化、アンモ酸化反応用触媒として有用である。
【0002】
【従来の技術】Mo、V、Te、OまたはMo、V、Sb、Oを必須成分とする複合金属酸化物触媒は、低級飽和炭化水素の気相選択酸化触媒として知られている。たとえば、プロパンのアンモ酸化反応によるアクリロニトリルの製造に有効な触媒として、特開平5-208136号公報では、Mo、V、Te、Oを必須成分とした触媒が、特開平9-157241号公報では、Mo、V、Sb、Oを必須成分とした触媒が開示されている。
【0003】また、プロパンの気相酸化反応によるアクリル酸の製造に有効な触媒として、特開平6-279351号公報、特開平7-10801号公報、特開平8-196626号公報では、Mo、V、Te、Oを必須成分とした触媒が、特開平9-316023号公報、特開平10-045664号公報、特開平10-118491号公報、特開平10-120617号公報、特開平10-137585号公報では、Mo、V、Sb、Oを必須成分とした触媒が開示されている。さらに、エタンの気相酸化によるエチレンの製造に有効な触媒として、特開平7-53414号公報では、Mo、V、Te、Oを必須成分とした触媒が、特開平10-175885号公報では、Mo、V、Sb、Oを必須成分とした触媒が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】これらの公報によると、十分な性能を有する複合金属酸化物触媒を調製するためには、500℃以上の高温で焼成する必要がある。また、これらの方法で調製された触媒は触媒性能は十分高いものの、工業的に使用するには、更に高い性能が求められている。本発明は、Mo、V、並びに、Teおよび/またはSbを含有する複合金属酸化物触媒系において、所望の触媒をエネルギーコストの安価な低温で効率よく合成すること、目的物の選択性や生成速度などの性能の良好な触媒を得ることを目的とする。
【0005】
【問題を解決するための手段】本発明者らは、上述の課題を考慮しつつ、Mo、V、含有複合金属酸化物の合成方法について検討を重ねた結果、水熱合成条件下合成すると、従来法と比較してより低温条件でMo、V、並びに、Teおよび/またはSbを含有する複合金属酸化物を合成し得ることを見出し、さらに、本発明の製造方法で調製した複合金属酸化物が触媒として非常に高活性であることを見出し本発明に到達した。
【0006】すなわち、本発明の要旨は、原料化合物を含む水系混合物を、100〜350℃で水熱処理することを特徴とする下記一般式[1]で表される複合金属酸化物の製造方法に存する。
【0007】
【化2】
Mo1.0aTebSbα-bx(NH4yn [1]
【0008】(式中、XはTi,Zr,Nb,Ta,Cr,W,Mn,Fe,Ru,Co,Rh,Ir,Ni,Pd,Pt,Cu,Ag,Zn,In,Sn,Pb,Bi,およびCeの中から選ばれる一種以上の元素を表し、0.01≦a<1.0、0≦b≦α、0≦x<1.0、0.01≦α/(1+a+x)≦0.50、0≦y≦(1+a+x)、nは他の元素の酸化状態により決定される数である。)
【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。本発明において、複合金属酸化物を製造するための各原料は反応前に水中に分散または溶解した状態で存在し、圧力容器中で加熱することが必要である。目的とする複合酸化物を収量良好に製造するためには、原料の少なくとも一部が水に可溶であることが好ましい。
【0010】本発明に用いられる原料化合物としては、Mo原料は、通常少なくともその一部が水に可溶な、Moを含む化合物であり、好ましくはMoを含む水溶性化合物であり、さらに好ましくはTeとMoとを含む水溶性化合物またはSbとMoとを含む水溶性化合物であり、特に好ましくはTeとMoとを含むヘテロポリアニオンを有する水溶性化合物またはSbとMoを含むヘテロポリアニオンを有する水溶性化合物であり、最も好ましくは、アンダーソン型Te−Moヘテロポリアニオンを有する水溶性化合物またはアンダーソン型Sb−Moヘテロポリアニオンを有する水溶性化合物である。
【0011】アンダーソン型Te−Moヘテロポリアニオンおよびアンダーソン型Sb−Moヘテロポリアニオン(以下まとめて「アンダーソン型ヘテロポリアニオン」という)はMoの一部がVに置換されていてもよい。アンダーソン型ヘテロポリアニオン有する化合物のカチオンとしては、通常アンモニウムカチオン、H+、アルカリ金属カチオンなどが挙げられ、好ましくはアンモニウムカチオン、アンモニウムカチオンとH+との併用が用いられる。ここで、アンダーソン型Te−Moヘテロポリアニオンとは、(TeMo6-kVkO24)(6+k)-(kは0または1を表す)の構造を有するヘテロポリアニオンであり、また、アンダーソン型Sb−Moヘテロポリアニオンとは、(SbMo6-lVlO24)(7+l)-(lは0または1を表す)の構造を有するヘテロポリアニオンである。
【0012】具体的には、(TeMo6O24)(NH46、(TeMo5V1O24)(NH47、(TeMo6O24)H(NH45などのアンダーソン型Te−Moヘテロポリアニオンを含む化合物、(SbMo6-lVlO24)(NH47、(SbMo5V1O24)(NH48、(SbMo6O24)H(NH46、などのアンダーソン型Sb−Moヘテロポリアニオンを含む化合物、パラモリブデン酸アンモニウム、MoO2(acac)2で表されるモリブデニルアセチルアセトナート(ただし、acacはCH3COCHCOCH3(-)を表す)、ハロゲン化モリブデン、J. Zubietaによる総説、Molecular Engineering, Vol.3, 93-120 (1993) や CoordinationChemistry Reviews, Vol.114 107-167 (1992) に示されているモリブデン化合物群、等が使用可能であるが、好ましくはアンダーソン型ヘテロポリアニオンを含む化合物、パラモリブデン酸アンモニウムが使用される。これらのMo原料は1種でも2種以上を併用してもよい。
【0013】Te原料は、通常少なくともその一部が水に可溶な、Teを含む化合物であり、好ましくはTeを含む水溶性化合物であり、さらに好ましくはTeとMoとを含む水溶性化合物であり、特に好ましくはTeとMoとを含むヘテロポリアニオンを有する水溶性化合物であり、最も好ましくは、アンダーソン型Te−Moヘテロポリアニオンを有する水溶性化合物である。アンダーソン型Te−MoヘテロポリアニオンはMoの一部がVに置換されていてもよい。
【0014】具体的には、(TeMo6O24)(NH46、(TeMo5V1O24)(NH47、(TeMo6O24)H(NH45などのアンダーソン型Te−Moヘテロポリアニオンを含む化合物、テルル酸、二酸化テルル、三酸化テルル、ハロゲン化テルル等が使用できるが、好ましくはアンダーソン型Te−Moヘテロポリアニオンを含む化合物、テルル酸、二酸化テルル、更に好ましくはアンダーソン型Te−Moヘテロポリアニオン、テルル酸が使用される。これらのTe原料は1種でも2種以上を併用してもよい。
【0015】Sb原料は、通常少なくともその一部が水に可溶な、Sbを含む化合物であり、好ましくはSbを含む水溶性化合物であり、さらに好ましくはSbとMoとを含む水溶性化合物であり、特に好ましくはSbとMoとを含むヘテロポリアニオンを有する水溶性化合物であり、最も好ましくは、アンダーソン型Sb−Moヘテロポリアニオンを有する水溶性化合物である。アンダーソン型Sb−MoヘテロポリアニオンはMoの一部がVに置換されていてもよい。
【0016】具体的には、(SbMo6-lVlO24)(NH47、(SbMo5V1O24)(NH48、(SbMo6O24)H(NH46、などのアンダーソン型Sb−Moヘテロポリアニオンを含む化合物、酸化アンチモンゾル、Sb2O3、Sb2O5、ハロゲン化アンチモン、酒石酸アンチモニルアンモニウム等が使用できるが、好ましくは、アンダーソン型ヘテロポリアニオンを含む化合物が使用される。これらのSb原料は1種でも2種以上を併用してもよい。
【0017】V原料は、通常少なくともその一部が水に可溶な、Vを含む化合物、好ましくはVを含む水溶性化合物であり、さらに好ましくはVの平均価数が4+以上5+未満であるVからなる化合物またはVの平均価数が4+以上5+未満となるような複数の化合物の組み合わせであり、特に好ましくは、Vの平均価数が実質的に4+であるVからなる化合物である。このような化合物としては、J. Zubietaによる総説、Molecular Engineering, Vol.3, 93-120 (1993) や Coordination Chemistry Reviews, Vol.114 107-167 (1992) に示されているバナジウム化合物群、シュウ酸バナジル、硫酸バナジル、硝酸バナジル、VO(acac)2で表されるバナジルアセチルアセトナート(acacはCH3COCHCOCH3(-)を表す)、VCl4などが挙げられる。特に好ましくは硫酸バナジルが使用される。また、メタバナジン酸アンモニウム又はV2 5 のような価数が5+である原料も後述する還元剤を適量添加することにより使用可能である。これらのV原料は1種でも2種以上を併用してもよい。
【0018】Xは、Ti,Zr,Nb,Ta,Cr,W,Mn,Fe,Ru,Co,Rh,Ir,Ni,Pd,Pt,Cu,Ag,Zn,In,Sn,Pb,Bi,およびCeから選ばれる1種類以上の元素、好ましくはTi,Nb,TaおよびWから選ばれた1以上の元素、さらに好ましくはNbおよび/またはTaが使用される。X原料は、通常水中で分散性が良ければ特に水溶性である必要はないが、好ましくは水溶性化合物であり、具体的にはこれらの元素の酸化物ゾル、水酸化物、水溶性オキソ酸またはその塩、カルボン酸塩、カルボン酸アンモニウム塩、アルコキシド、アセチルアセトナート、等が使用可能である。
【0019】NH4原料は特に必要ではないが使用する場合には、上記の金属含有化合物のアンモニウム塩を用いても、アンモニア水を用いてもよいが、上記の金属含有化合物のアンモニウム塩が好ましい。これらのMo,V,Te,Sb,X,NH4の各原料は、通常室温以上90℃以下の水に、生成する複合金属酸化物重量として、通常1〜50重量%、好ましくは10〜30重量%となるように投入、攪拌して、水系原料混合物を得る。水系原料混合物での各原料の状態は、水スラリーでも水溶液でもよいが、水溶液であることがより好ましい。得られた水中原料混合物は必要に応じて、pH調整などを行っても良い。
【0020】本発明の複合金属酸化物の金属原料は、少なくとも一成分が、少なくともその一部が水に可溶な化合物であれば、水に不溶または難溶の化合物を用いてもよい。水に不溶または難溶の化合物を金属原料として用いる場合、好ましくは、Mo原料及び/またはV原料が少なくともその一部が水に可溶な化合物、Te原料及び/またはSb原料が水に不溶または難溶の化合物という組合せである。
【0021】水に不溶または難溶の化合物を原料として用いることができる理由は明らかではないが、■水に不溶または難溶の化合物であってもごく微量は水に溶解し、この溶解した化合物と、溶解した少なくともその一部が水に可溶な化合物とが反応し、水に不溶または難溶の化合物の水への溶解平衡が移動することにより、水に不溶または難溶の化合物の平衡が移動し、順次水に不溶または難溶の化合物が溶解するため、あるいは、■水に溶解した少なくともその一部が水に可溶な化合物が、水に不溶または難溶の化合物とその表面で反応し、水に可溶な化合物となって溶解するため、と推測される。これらの原料において、少なくともその一部が水に可溶な化合物としては、通常、常温で100gの水に0.01g以上の溶解度を有する化合物が挙げられ、水に不溶または難溶の化合物としては、通常、常温で100gの水に0.01g未満の溶解度を有する化合物が挙げられる。
【0022】原料として用いる各成分の比率は、通常、得られる複合酸化物の比率と同じとなるようにされる。目的とする複合酸化物の各元素の組成は、Moモル数を1.0とした場合、Vのモル比は、0.01以上1.0未満であり、好ましくは0.1以上0.6未満であり、更に好ましくは0.2以上0.5未満である。また、Moモル数を1.0とした場合、Xのモル比は、0以上1.0未満、好ましくは0.02以上0.30未満、更に好ましくは0.03以上0.20未満である。TeとSbの合量の、MoとVとXとの合量に対するモル比は0.01以上0.50以下であり、好ましくは0.03以上0.25以下である。
【0023】生成物中のアンモニウムイオンの量は製造条件、特に温度やpHによって変化するが、MoとVとXとの合量に対するモル比は通常0以上1.0以下である。水系原料混合物には、還元作用を有する物質を添加してもよい。水系原料混合物に還元作用を有する物質を添加することにより、Mo、V、Te、Sb、X、の価数バランスを制御することが可能である。水系原料混合物に添加される還元作用を有する物質の量は、目的とする平均金属価数と仕込みの平均金属価数、および還元効率とのかねあいにより決定されるので、その好適な使用量は一概には決定できないが、通常、仕込みの合計金属モル数に対して通常0.01モル倍以上20.0モル倍以下、好ましくは0.1モル倍以上10.0モル倍以下の割合で添加する。
【0024】還元性を有する物質としては、ヒドロキシルアミンやヒドラジンのような無機アミン類およびその塩、脂肪族アルデヒドや芳香族アルデヒドのようなアルデヒド類、ブタノール類、ベンジルアルコール類のような炭素数7以下のアルコール、シュウ酸や酒石酸のような炭素数4以下のカルボン酸およびブドウ糖のような還元糖類などが使用可能である。水熱処理により生成した複合金属酸化物との濾別が容易であるという点で、還元剤と酸化された還元剤の双方が水溶性であることが望ましい。還元作用を有する物質は、1種でも2種以上を併用してもよい。
【0025】水熱処理は水熱合成条件で有れば特に制限はないが、上述した水系原料混合物をオートクレーブなどの耐圧容器に入れて加熱して反応させればよい。耐圧容器内の残存空気が存在する状態で水熱処理を行っても、水熱処理に先立って残存空気を窒素に置換してもよいが、構成元素の価数を制御するためには水熱処理に先立って残存空気を窒素に置換する事が好ましい。
【0026】反応温度は100℃以上、350℃以下、好ましくは150℃以上である。反応速度を考慮すると温度は高い方が望ましいが、300℃以上では圧力が数十気圧に達するために操作が困難になるという欠点はある。また、生成する複合金属酸化物の熱力学的安定性も操作温度の選択に関連するので一概に高温で有れば良いとは言えない。150℃以上であると反応が促進されるので好ましい。
【0027】反応圧力は、通常飽和水蒸気圧であるが、好ましくは4.5〜85atmである。水熱処理中、攪拌は行っても行わなくてもよいが、原料の系内均質性を維持するために、攪拌を行うことが好ましい。水熱処理の処理時間は、通常1〜240時間、好ましくは4〜200時間である。昇温速度に関しては特に制限はない。200℃以上に昇温する場合には、予め所定温度に所定時間保った後に目的の温度へ再昇温する段階的昇温操作も可能である。すなわち、構成元素の組み合わせ等により必要な場合には2回に分けた昇温条件も好適に使用される。
【0028】水熱処理終了後、冷却し、生成した水に不溶の固体を、濾過、水洗、乾燥することにより、本発明の複合金属酸化物が得られる。また用途により機械的強度が必要な場合にはいわゆる担体を適量混合することができる。担体としてはたとえば、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、チタニア、ジルコニア、等が挙げられる。これらの担体は水熱合成時に添加しても良いし、水熱合成後の複合金属酸化物に混合して、後述する焼成に供しても良い。
【0029】このようにして得られた複合金属酸化物は、さらに気相中で加熱焼成してもよい。さらに焼成することにより結晶化度を高めることができるので、水熱合成条件よりも高い温度で使用する場合には、焼成することが好ましい。また担体と混合した後に焼成する事で機械的強度を増加させることもできる。焼成温度は350℃以上、好ましくは550〜650℃である。焼成時間は、通常5分〜20時間、好ましくは1〜6時間である。焼成雰囲気は、通常空気よりも酸素濃度の低い雰囲気、好ましくは酸素濃度500ppm以下、さらに好ましくは酸素濃度100ppm以下、もっとも好ましくは実質上酸素を含まない窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気である。
【0030】複合金属酸化物は、さらに、用途により粉砕、混練、成形、含浸、などの後処理をしてもよい。本発明により得られた複合金属酸化物は、低級アルカンの気相酸化触媒またはアンモ酸化触媒としてきわめて高い性能を有する。たとえば、nブタンから無水マレイン酸、プロパンからアクリル酸、プロパンからアクリロニトリル、プロパンからアクリル酸とアクリロニトリル、エタンからエチレンを製造する反応における触媒として有用である。
【0031】例えば、プロパンからアクリロニトリルおよび/またはアクリル酸を製造する場合、本発明の方法で得られた複合金属酸化物触媒を反応装置内に入れ、反応温度は通常350〜500℃で、プロパン/アンモニア/酸素/窒素のモル比が、通常1.0/0.1〜3.0/0.1〜10.0/0〜50.0である反応ガスを空間速度SVを通常100〜30000h-1の条件で反応装置に供給することにより製造される。アルカンからニトリルとα、β不飽和カルボン酸とを同時に製造する場合、ニトリルとα、β不飽和カルボン酸との生成割合を制御する方法を、プロパンからアクリロニトリルとアクリル酸とを同時に製造する場合を例にして、以下説明する。
【0032】アクリロニトリルとアクリル酸の製造比率制御に関しては供給原料の転化率、および生成物の選択率に依存するので一概には規定できないが、概略の目安としては以下の通りである。供給するプロパン、アンモニア、酸素のモル比を変化させることにより、アクリロニトリルとアクリル酸の生成比率を制御することができる。例えば、供給するプロパン/アンモニア/酸素のモル比をc/d/eとするとき、2c≦eの場合は、通常c≦dの条件でアクリロニトリルを主生成物として製造でき、通常d≦cの条件でアクリロニトリルとアクリル酸を同時に製造でき、通常d=0の条件でアクリル酸を主生成物として製造可能である。また、e≦2cの場合には、通常e≦2dの条件でアクリロニトリルを主生成物として製造でき、通常2d≦eの条件でアクリロニトリルとアクリル酸を同時に製造でき、通常d=0の条件でアクリル酸を主生成物として製造可能である。このように触媒として使用する場合、特に原料転化率を低く押さえ、高い生成物選択率を実現する場合には反応器出口の未反応原料を分離してリサイクルし、再び原料として使用する方法が経済的に有利である。
【0033】
【実施例】以下、本発明を実施例、および比較例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はその趣旨を越えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。WWH、プロパン転化率、アクリロニトリル選択率、アクリル酸選択率、アクリル酸収率、アクリロニトリル生成速度、アクリロニトリル+アクリル酸生成速度、アクリル酸生成速度は次のように計算する。
【0034】WWH:単位時間(hr)当たりの供給プロパンの質量(kg)/触媒の質量(kg)プロパン転化率:反応したプロパンのモル数/供給したプロパンのモル数アクリロニトリル選択率:生成したアクリロニトリルのモル数/反応したプロパンのモル数アクリル酸選択率:生成したアクリル酸のモル数/反応したプロパンのモル数プロピレン選択率:生成したプロピレンのモル数/反応したプロパンのモル数アクリル酸収率:生成したアクリル酸のモル数/供給したプロパンのモル数アクリロニトリル生成速度:単位時間(hr)当たりに生成したアクリロニトリル質量(kg)/触媒の質量(kg)アクリロニトリル+アクリル酸生成速度:単位時間(hr)当たりに生成したアクリロニトリル質量(kg)/触媒の質量(kg)+単位時間(hr)当たりに生成したアクリル酸質量(kg)/触媒の質量(kg)アクリル酸生成速度:単位時間(hr)当たりに生成したアクリル酸質量(kg)/触媒の質量(kg)
【0035】<実施例1>まず、実験式がMo1V0.27Te0.18Nb0.15(NH4)0.28Onである複合金属酸化物を次のように合成した。パラモリブデン酸アンモニウム塩7.1g、テルル酸1.5gをはかりとり、水40mlに溶解させた。次いで、この溶液に、Vが12mmolとなるように秤量した硫酸バナジル粉末を80℃に加熱した温水10mlに投入し溶解した溶液を加えて青色溶液を得た。さらに、この溶液にNbが4.8mmolとなるように秤量した五酸化ニオブゾル、n-ブタノール8.4mmolを添加し、原料化合物の水系混合物を得た。この原料化合物の水系混合物を10分間撹拌した後、溶液をテフロン内筒簡易ステンレスオークレーブ(100ml)に入れ密閉し、オートクレーブ内の残存空気を窒素ガスで十分置換した後、175℃(9.9atm)で48時間加熱した。加熱終了後オートクレーブを自然冷却し、生成した固体を濾別し、80℃で乾燥して、実験式がMo1V0.27Te0.18Nb0.15(NH4)0.28Onである黒紫色固体6.5gを得た。次いで、得られた固体25mgを固定床流通型反応器に充填し、反応温度420℃、空間速度SV約16000h-1にしてプロパン/アンモニア/空気=1/1.2/15のモル比でガスを供給し、気相接触酸化反応を行った。結果を表−1に示す。
【0036】<実施例2>まず、実験式がMo1V0.25Te0.17Nb0.12(NH4)0.27Onである複合金属酸化物を次のように合成した。公知文献(Howard T.Evans.Jr.ら、Acta Crystallographica(1974).B30.2095)に従ってアンダーソン型ヘテロポリ酸((NH4)6TeMo6O247H2O)を得た。該ヘテロポリ酸をTeが6.6mmolとなる量はかりとり、80℃に加熱した水40mlに溶解させた。次いで、この溶液に、Vが12mmolとなるように秤量した硫酸バナジル粉末を80℃に加熱した温水10mlに投入し溶解した溶液を加えて青色溶液を得た。さらに、この溶液に、Nbが4.8mmolとなるように秤量した五酸化ニオブゾル、シュウ酸16.7mmolを添加し、原料化合物の水系混合物を得た。この原料化合物の水系混合物を10分間撹拌した後、溶液をテフロン内筒簡易ステンレスオークレーブ(100ml)に入れ、密閉し、オートクレーブ内の残存空気を窒素ガスで十分置換した後、175℃(9.9atm)で48時間加熱した。オートクレーブを自然冷却の後、生成した固体を濾別し、80℃で乾燥して、実験式がMo1V0.25Te0.17Nb0.12(NH4)0.27Onである黒紫色固体6.6gを得た。次いで、得られた固体25mgを固定床流通型反応器に充填し、反応温度420℃、空間速度SV約16000h-1にしてプロパン/アンモニア/空気=1/1.2/15のモル比でガスを供給し、気相接触酸化反応を行った。結果を表−1に示す。
【0037】<実施例3>まず、実験式がMo1V0.27Te0.18Nb0.15Onである複合金属酸化物を次のように合成した。実施例1で得られた黒紫色固体を、さらに、窒素気流下600℃で2時間処理することにより、実験式がMo1V0.27Te0.18Nb0.15Oである黒色の複合金属酸化物を得た。次いで、得られた複合金属酸化物50mgを固定床流通型反応器に充填し、反応温度420℃、空間速度SV約7900h-1にしてプロパン/アンモニア/空気=1/1.2/15のモル比でガスを供給し、気相接触酸化反応を行った。結果を表−1に示す。
【0038】<比較例1>まず、実験式がMo1V0.3Te0.23Nb0.12(NH4)0.55Onである複合金属酸化物を次のように合成した。温水5.68リットルに1.38kgのパラモリブデン酸アンモニウム塩、0.275kgのメタバナジン酸アンモニウム塩、0.413kgのテルル酸を溶解し、均一な水溶液を調製した。この溶液にニオブの濃度が0.659mol/kgのシュウ酸ニオブアンモニウム水溶液0.618kgを混合し、スラリーを調製した。このスラリーを噴霧乾燥機を用いて200℃で乾燥して水分を除去し、固体を得た。得られた固体を窒素気流下175℃(1.0atm)で48時間加熱処理をして、実験式がMo1V0.3Te0.23Nb0.12(NH4)0.55Onである黒色の固体を得た。
【0039】次いで、得られた固体50mgを固定床流通型反応器に充填し、反応温度420℃、空間速度SV約7900h-1にしてプロパン/アンモニア/空気=1/1.2/15のモル比でガスを供給し、気相接触酸化反応を行った。結果を表−1に示す。比較例1は、実施例1とは、ほぼ同じ組成の複合金属酸化物であり、いずれも、175℃48時間の処理をして得られたものであるにもかかわらず、表−1より、水熱処理しない比較例1の触媒より、水熱処理して得られた実施例1の触媒の方が性能が優れていることが分かる。
【0040】<比較例2>まず、実験式がMo1V0.3Te0.23Nb0.12(NH4)0.42Onである複合金属酸化物を次のように合成した。比較例1において、窒素気流下で加熱処理していたのを、空気気流下で加熱処理した他は、比較例1と同様に行い、実験式がMo1V0.3Te0.23Nb0.12(NH4)0.42Onである黒色の固体を得た。次いで、得られた固体を用い、比較例1と同様に気相接触酸化反応を行った。結果を表−1に示す。比較例2は、実施例1とほぼ同じ組成の複合金属酸化物であり、いずれも、175℃48時間の処理をして得られたものであるにもかかわらず、表−1より、水熱処理しない比較例2の触媒より、水熱処理して得られた実施例1の触媒の方が性能が優れていることが分かる。
【0041】<比較例3>まず、実験式がMo1V0.25Te0.17Nb0.12(NH4)0.27Onである複合金属酸化物を次のように合成した。実施例2において得られた、原料化合物の水系混合物を10分間攪拌した後、200℃で噴霧乾燥して水分を除去し、固体をえて、この固体を空気気流下175℃(1.0atm)で48時間加熱処理することにより実験式がMo1V0.25Te0.17Nb0.12(NH4)0.27Onである黒色の固体を得た。次いで、得られた黒色の固体50mgを固定床流通型反応器に充填し、反応温度420℃、空間速度SV約7900h-1にしてプロパン/アンモニア/空気=1/1.2/15のモル比でガスを供給し、気相接触酸化反応を行った。結果を表−1に示す。比較例3は、実施例2と同じヘテロポリ酸原料を使用し、いずれも175℃48時間処理して得られた、ほぼ同じ組成の複合金属酸化物であるにもかかわらず、表−1より、水熱処理を行わない比較例3より水熱処理して得られた実施例2の触媒の方が性能が優れていることが分かる。
【0042】<比較例4>まず、実験式がMo1V0.3Te0.23Nb0.12Onである複合金属酸化物を次のように合成した。比較例1において噴霧乾燥して得られた固体を空気中350℃(1.0atm)でアンモニア臭がしなくなるまで分解した後、窒素気流下600℃(1.0atm)で2時間加熱処理をして、実験式がMo1V0.3Te0.23Nb0.12Onである黒色の複合金属酸化物を得た。次いで、得られた固体を用い、実施例3と同様に気相接触酸化反応を行った。結果を表−1に示す。比較例4は、実施例3と同様に、得られた複合金属酸化物を窒素下600℃2時間の後処理を行っているにもかかわらず、実施例3のように水熱処理して得られた触媒の方が、水熱処理しないで得られた触媒に比べ、活性(アクリロニトリル生成速度)および選択性が優れていることが、表−1より分かる。
【0043】<実施例4>まず、実験式がMo1V0.3Sb0.17Nb0.05(NH4)0.2Onである複合金属酸化物を次のように合成した。パラモリブデン酸アンモニウム7.1g(Mo 40mmol)を水40mlに溶解し、31%過酸化水素0.715gを加えた。更に三酸化アンチモン粉末(Sb2O3)0.96gを加え、攪拌しながら80℃に加熱して完全に溶解させた。次いで、Vが16mmolとなるように秤量した硫酸バナジル粉末を80℃に加熱した温水10mlに投入し溶解した溶液を加えて青色溶液を得た。さらに、この溶液に、Nbが2.0mmolとなるように秤量した五酸化ニオブゾル、およびシュウ酸8.4mmolを添加し、原料化合物の水系混合物を得た。この原料化合物の水系混合物を10分間撹拌した後、溶液をテフロン内筒簡易ステンレスオークレーブ(100ml)に入れ、密閉し、オートクレーブ内の残存空気を窒素ガスで十分置換した後、175℃(9.9atm)で48時間加熱した。オートクレーブを自然冷却の後、生成した固体を濾別し、80℃で乾燥して、実験式がMo1V0.3Nb0.05Sb0.17(NH4)0.2Onである黒紫色固体7.0gを得た。次いで、得られた固体を用い、実施例3と同様に気相接触酸化反応を行った。結果を表−1に示す。
【0044】<比較例5>まず、実験式がMo1V0.3Sb0.17Nb0.05(NH4)0.5Onである複合金属酸化物を次のように合成した。温水325mlにメタバナジン酸アンモニウム15.7gを溶解し、次いでこれに三酸化アンチモン粉末10.9gを添加した。このスラリーを80℃で6時間加熱攪拌を行ったのち、これにパラモリブデン酸アンモニウム 78.9gを添加し、更にシュウ酸ニオブアンモニウム水溶液(ニオブ2.23mol/kg含有)10gを添加した。このスラリーを蒸発乾固させて、窒素気流下、175℃(1.0atm)で48時間処理した。次いで、得られた固体を用い、実施例3と同様に気相接触酸化反応を行った。結果を表−1に示す。
【0045】
【表1】


【0046】水熱処理して得られた触媒の方が、水熱処理しないで得られた触媒に比べ、活性(アクリロニトリル生成速度)が優れていることが、表−1より分かる。
【0047】<実施例5>まず、実験式がMo1V0.32Te0.17Nb0.12(NH4)0.23Onである複合金属酸化物を次のように合成した。パラモリブデン酸アンモニウム塩7.1g、テルル酸1.5gをはかりとり、水40mlに溶解させた。次いで、この溶液に、Vが16mmolとなるように秤量した硫酸バナジル粉末を80℃に加熱した温水10mlに投入し溶解した溶液を加えて青色溶液を得た。さらに、この溶液にNbが4.8mmolとなるように秤量した五酸化ニオブゾル、シュウ酸11.7mmolを添加し、原料化合物の水系混合物を得た。この原料化合物の水系混合物を10分間撹拌した後、溶液をテフロン内筒簡易ステンレスオークレーブ(100ml)に入れ密閉し、オートクレーブ内の残存空気を窒素ガスで十分置換した後、175℃(9.9atm)で48時間加熱した。加熱終了後オートクレーブを自然冷却し、生成した固体を濾別し、80℃で乾燥して、実験式がMo1V0.32Te0.17Nb0.12(NH4)0.23Onである黒紫色固体7.9gを得た。次いで、得られた固体25mgを固定床流通型反応器に充填し、反応温度410℃、空間速度SV約16000h-1にしてプロパン/アンモニア/空気=1/0.3/4のモル比でガスを供給し、気相接触酸化反応を行った。結果を表−2に示す。
【0048】<実施例6>実施例5において、プロパン/アンモニア/空気=1/0.2/4のモル比とした以外は実施例5と同様にして気相接触酸化反応を行った。結果を表−2に示す。
<実施例7>実施例5において、プロパン/アンモニア/空気=1/0.15/4のモル比とした以外は実施例5と同様にして気相接触酸化反応を行った。結果を表−2に示す。
【0049】<比較例6>実施例5において、反応器に比較例1で得られた複合金属酸化物を充填した以外は、実施例5と同様にして気相接触酸化反応を行った。結果を表−2に示す。
<比較例7>実施例6において、反応器に比較例1で得られた複合金属酸化物を充填した以外は、実施例6と同様にして気相接触酸化反応を行った。結果を表−2に示す。
<比較例8>実施例7において、反応器に比較例1で得られた複合金属酸化物を充填した以外は、実施例7と同様にして気相接触酸化反応を行った。結果を表−2に示す。
【0050】<実施例8>まず、実験式がMo1V0.32Te0.17Nb0.12Onである複合金属酸化物を次のように合成した。実施例5で得られた黒紫色固体を、さらに、窒素気流下600℃(1.0atm)で2時間処理することにより、実験式がMo1V0.32Te0.17Nb0.12Onである黒色の複合金属酸化物を得た。次いで、得られた複合金属酸化物50mgを固定床流通型反応器に充填し、反応温度410℃、空間速度SV約7900h-1にしてプロパン/アンモニア/空気=1/0.3/4のモル比でガスを供給し、気相接触酸化反応を行った。結果を表−2に示す。
【0051】<実施例9>実施例8において、プロパン/アンモニア/空気=1/0.2/4のモル比とした以外は実施例8と同様にして気相接触酸化反応を行った。結果を表−2に示す。
<実施例10>実施例8において、プロパン/アンモニア/空気=1/0.15/4のモル比とした以外は実施例8と同様にして気相接触酸化反応を行った。結果を表−2に示す。
【0052】<比較例9>まず、実験式がMo1V0.3Te0.23Nb0.12Onである複合金属酸化物を次のように合成した。比較例1において噴霧乾燥して得られた固体を空気中350℃(1.0atm)でアンモニア臭がしなくなるまで分解した後、窒素気流下600℃(1.0atm)で2時間加熱処理をして、実験式がMo1V0.3Te0.23Nb0.12Onである黒色の複合金属酸化物を得た。次いで、得られた複合金属酸化物を用い、実施例8と同様に気相接触酸化反応を行った。結果を表−2に示す。
【0053】<比較例10>実施例9において、反応器に比較例9で得られた複合金属酸化物を充填した以外は実施例9と同様にして気相接触酸化反応を行った。結果を表−2に示す。
<比較例11>実施例10において、反応器に比較例9で得られた複合金属酸化物を充填した以外は実施例10と同様にして気相接触酸化反応を行った。結果を表−2に示す。
【0054】<実施例11>まず、実験式がMo1V0.3Te0.16Nb0.125(NH4)0.19Onである複合金属酸化物を次のように合成した。実施例5において、175℃(9.9気圧)での水熱処理時間を48時間から12時間に変えた以外は実施例5と同様にして、実験式がMo1V0.3Te0.16Nb0.125(NH4)0.19Onで黒紫色固体である複合金属酸化物を調製した。次いで、得られた複合金属酸化物を用い、実施例5と同様にして気相接触酸化反応を行った。結果を表−2に示す。
【0055】<実施例12>実施例7において、反応器に実施例11で得られた複合金属酸化物を充填した以外は実施例7と同様にして気相接触酸化反応を行った。結果を表−2に示す。
<実施例13>まず、実験式がMo1V0.3Te0.16Nb0.125Onである複合金属酸化物を次のように合成した。実施例11で得られた黒紫色固体を、さらに、窒素気流下600℃(1.0atm)で2時間処理することにより、実験式がMo1V0.3Te0.16Nb0.125Onである黒色の複合金属酸化物を合成した。次いで、得られた複合金属酸化物50mgを固定床流通型反応器に充填し、反応温度410℃、空間速度SV約7900h-1にしてプロパン/アンモニア/空気=1/0.3/4のモル比でガスを供給し、気相接触酸化反応を行った。結果を表−2に示す。
【0056】<実施例14>実施例10において、反応器に実施例13で得られた複合金属酸化物を充填した以外は実施例10と同様にして気相接触酸化反応を行った。結果を表−2に示す。
【0057】<実施例15>まず、実験式がMo1V0.36Te0.16Nb0.12(NH4)0.17Onである複合金属酸化物を次のように合成した。実施例5において、175℃(9.9気圧)での水熱処理時間を48時間から90時間とした以外は実施例5と同様にして、実験式がMo1V0.36Te0.16Nb0.12(NH4)0.17Onである複合金属酸化物を調製した。次いで、得られた複合金属酸化物を用い、実施例5と同様にして気相接触酸化反応を行った。結果を表−2に示す。
【0058】<実施例16>実施例10において、反応器に実施例15で得られた複合金属酸化物を充填した以外は実施例10と同様にして気相接触酸化反応を行った。結果を表−2に示す。
【0059】<実施例17>まず、実験式がMo1V0.36Te0.16Nb0.12Onである複合金属酸化物を次のように合成した。実施例15で得られた黒紫色固体を、さらに、窒素気流下600℃(1.0atm)で2時間処理することにより、実験式がMo1V0.36Te0.16Nb0.12Onである黒色の複合金属酸化物を得た。次いで、得られた複合金属酸化物50mgを固定床流通型反応器に充填し、反応温度410℃、空間速度SV約7900h-1にしてプロパン/アンモニア/空気=1/0.3/4のモル比でガスを供給し、気相接触酸化反応を行った。結果を表−2に示す。
【0060】<実施例18>実施例10において、反応器に実施例17で得られた複合金属酸化物を充填した以外は実施例10と同様にして気相接触酸化反応を行った。結果を表−2に示す。
<実施例19>まず、実験式がMo1V0.36Te0.13Ti0.10(NH4)0.23Onである複合酸化物触媒を次のように合成した。実施例5において、五酸化ニオブゾルの代わりに、Tiが4mmolとなるよう秤量した、TiO2の含有量が6重量%であるニ酸化チタンゾルを加えた以外は、実施例5と同様にして実験式がMo1V0.36Te0.13Ti0.10(NH4)0.23Onである複合金属酸化物を調製した。次いで、得られた複合金属酸化物100mgを固定床流通型反応器に充填し、反応温度410℃、空間速度SV約4000h-1にしてプロパン/アンモニア/空気=1/0.3/4のモル比でガスを供給し、気相接触酸化反応を行った。結果を表−2に示す。
【0061】<比較例12>まず、実験式がMo1V0.3Te0.17Ti0.10(NH4)0.5Onである複合金属酸化物を次のように合成した。パラモリブデン酸アンモニウム塩7.1g、テルル酸1.5g、メタバナジン酸アンモニウム1.4gを温水80mlに溶解させた。さらに、この溶液に、Tiが4mmolとなるように秤量した、TiO2の含有量が6重量%である二酸化チタンゾルおよびシュウ酸11.7mmolを添加し、攪拌した。このスラリーを蒸発乾固し、175℃(1.0atm)で48時間窒素気流中で処理した。次いで、得られた複合金属酸化物100mgを固定床流通型反応器に充填し、反応温度410℃、空間速度SV約4000h-1にしてプロパン/アンモニア/空気=1/0.3/4のモル比でガスを供給し、気相接触酸化反応を行った。結果を表−2に示す。
【0062】<実施例20>まず、実験式がMo1V0.35Te0.17Ta0.1(NH4)0.17Onである複合金属酸化物を次のように合成した。実施例5において、五酸化ニオブゾルの代わりに、Taが4mmolとなるよう秤量した、Taの含有量が0.66mol/lであるシュウ酸タンタル水溶液を加え、また、シュウ酸の添加量を6.67mmolとした以外は、実施例5と同様にして実験式がMo1V0.35Te0.17Ta0.1(NH4)0.17Onである複合金属酸化物を調製した。次いで、得られた複合金属酸化物25mgを固定床流通型反応器に充填し、反応温度410℃、空間速度SV約16000h-1にしてプロパン/アンモニア/空気=1/0.3/4のモル比でガスを供給し、気相接触酸化反応を行った。結果を表−2に示す。
【0063】<比較例13>まず、実験式がMo1V0.3Te0.17Ta0.1(NH4)0.5Onである複合金属酸化物を次のように合成した。比較例12において、二酸化チタンゾルの代わりに、Taが4mmolとなるように秤量した、Taの含有量が0.66mol/lであるシュウ酸タンタル水溶液を加え、シュウ酸の添加量を6.67mmolとした以外は比較例12と同様にして、実験式がMo1V0.3Te0.17Ta0.1(NH4)0.5Onである複合金属酸化物を調製した。次いで得られた複合金属酸化物50mgを固定床流通型反応器に充填し、反応温度410℃、空間速度SV約7900h-1にしてプロパン/アンモニア/空気=1/0.3/4のモル比でガスを供給し、気相接触酸化反応を行った。結果を表−2に示す。
【0064】<実施例21>まず、実験式がMo1V0.36Te0.17W0.09(NH4)0.20Onである複合金属酸化物を次のように合成した。実施例5において、五酸化ニオブゾルの代わりに、Wが4mmolとなるよう秤量したパラタングステン酸アンモニウム((NH4)10W12O41・5H2O)を温水に溶解したものを加え、シュウ酸の添加量を13.5mmolとした以外は、実施例5と同様にして実験式がMo1V0.36Te0.17W0.09(NH4)0.20Onである複合金属酸化物を調製した。次いで、得られた複合金属酸化物50mgを固定床流通型反応器に充填し、反応温度410℃、空間速度SV約7900h-1にしてプロパン/アンモニア/空気=1/0.3/4のモル比でガスを供給し、気相接触酸化反応を行った。結果を表−2に示す。
【0065】<比較例14>まず、実験式が実験式がMo1V0.3Te0.17W0.1(NH4)0.5Onである複合金属酸化物を次のように合成した。比較例12において、二酸化チタンゾルの代わりに、Wが4mmolとなるよう秤量したパラタングステン酸アンモニウム((NH4)10W12O41・5H2O)を温水10mlに溶解したものを加え、シュウ酸の添加量を13.5mmolとした以外は比較例12と同様にして、実験式が実験式がMo1V0.3Te0.17W0.1(NH4)0.5Onである複合金属酸化物を調製した。次いで、得られた複合金属酸化物50mgを固定床流通型反応器に充填し、反応温度410℃、空間速度SV約7900h-1にしてプロパン/アンモニア/空気=1/0.3/4のモル比でガスを供給し、気相接触酸化反応を行った。結果を表−2に示す。
【0066】
【表2】


【0067】表中、PPAはプロパン、ANはアクリロニトリル、AAはアクリル酸を表す。プロパンからアクリロニトリルを主生成物として製造する場合、およびアクリロニトリルとアクリル酸を同時に製造する場合の両方において、水熱処理して得られた触媒の方が、水熱処理しないで得られた触媒に比べ、活性(アクリロニトリル+アクリル酸生成速度)が優れていることが、表−2より分かる。
【0068】<実施例22>実施例5の複合酸化物50mgを固定床流通型反応器に充填し、反応温度410℃、空間速度約26000hr-1にしてプロパン/H2O/空気=1/12/4のモル比でガスを供給し気相接触酸化反応を行った。3時間後の結果を表−3に示す。反応成績は長時間にわたり安定であった。
【0069】<比較例15>まず、実験式がMo1V0.3Te0.17Nb0.12(NH4)0.55Onである複合金属酸化物を次のように合成した。比較例1において、テルル酸の量を0.3kgとした以外は比較例1と同様にして実験式がMo1V0.3Te0.17Nb0.12(NH4)0.55Onである複合金属酸化物を合成した。次いで、得られた複合金属酸化物を用いて、実施例22と同様に気相接触酸化反応を行った。その結果、実施例22と異なり、プロパンの転化率が著しく低いのみならず、活性が経時的に低下する現象が観測され、反応開始から1.5時間後の時点でのアクリル酸生成速度は0.12kg-AA/kg-cat/hrであったが、2.5時間後の時点では0.06kg-AA/kg-cat/hrまで低下した。2.5時間後の結果を表−3に示す。
【0070】<実施例23>まず、実験式がMo1V0.32Te0.17Nb0.12Onである複合金属酸化物を次のように合成した。実施例22で用いた、実施例5で得られた実験式がMo1V0.32Te0.17Nb0.12(NH4)0.23Onである複合金属酸化物をさらに、窒素気流下600℃(1.0atm)で2時間処理することにより、実験式がMo1V0.32Te0.17Nb0.12Onである黒色の複合金属酸化物を得た。次いで、得られた複合金属酸化物100mgを用いて実施例22と同様に気相接触酸化反応を行った。結果を表−3に示す。反応成績は長時間にわたり安定であった。
【0071】<比較例16>まず、実験式がMo1V0.3Te0.17Nb0.12Onである複合金属酸化物を次のように合成した。比較例15で得られた複合金属酸化物を空気中350℃(1.0atm)でアンモニア臭がしなくなるまで分解した後、窒素気流下600℃(1.0atm)で2時間加熱処理をして、実験式がMo1V0.3Te0.17Nb0.12Onである黒色の複合酸化物を得た。次いで、得られた複合酸化物100mgを用いて実施例23と同様に気相接触酸化反応を行った。結果を表−3に示す。
【0072】
【表3】


【0073】表中、PPAはプロパン、AAはアクリル酸、PPYはプロピレンを表す。プロパンからアクリル酸を製造する場合においても、水熱処理して得られた触媒の方が、水熱処理しないで得られた触媒に比べ、活性(アクリル酸生成速度)が優れていることが、表−3より分かる。
【0074】<実施例24>まず、実験式がMo1V0.3Te0.17Nb0.12On である複合金属酸化物を次のように合成した。テフロン内筒簡易ステンレスオートクレーブ(100ml)に、水50mlと、三酸化モリブデン(MoO3)5.76g 、二酸化テルル(TeO2) 1.06g、五酸化バナジウム(V2O5)1.09g 、シュウ酸二水和物(H2C2O4・2H2O)1.51g、Nbが4.8mmol となるように秤量した五酸化ニオブゾルを加え、十分攪拌した後、密封し、オートクレーブ内の残存空気を窒素ガスで十分置換した後、実施例1と同様に175 ℃(9.9atm)で48時間加熱した。オートクレーブを自然冷却の後、生成した固体を濾別し、80℃で乾燥して、実験式がMo1V0.3Te0.17Nb0.12On である複合金属酸化物7.0 gを得た。次いで、得られた複合金属酸化物25mgを実施例1と同様に固定床流通型反応器に充填し、反応温度420℃、空間速度SV約16000h-1にしてプロパン/アンモニア/ 空気=1/1.2/15 のモル比でガスを供給し、気相接触酸化反応を行った。結果を表−4に示す。
【0075】<比較例17>まず、実験式がMo1V0.3Te0.17Nb0.12On である複合金属酸化物を次のように合成した。水50mlに、三酸化モリブデン(MoO3)5.76g 、二酸化テルル(TeO2) 1.06g、五酸化バナジウム(V2O5)1.09g 、シュウ酸二水和物(H2C2O4・2H2O)1.51g、Nbが4.8mmol となるように秤量した五酸化ニオブゾルを添加し、十分攪拌して得たスラリーを、攪拌しながら蒸発乾固させた。得られた固体を粉砕し、窒素気流下(1.0atm)175℃ 48時間処理を行って、実験式がMo1V0.3Te0.17Nb0.12On である複合金属酸化物を得た。次いで、得られた複合金属酸化物50mgを固定床流通型反応器に充填し、反応温度420℃、空間速度SV約7900h-1にしてプロパン/ アンモニア/ 空気=1/1.2/15 のモル比でガスを供給し、気相接触酸化反応を行った。結果を表−4に示す。
【0076】<実施例25>まず、実験式がMo1V0.3Te0.17Nb0.12On である複合金属酸化物を次のように合成した。実施例24で得られた黒紫色固体を、さらに、窒素気流下(1.0atm)600℃で2時間処理することにより、実験式がMo1V0.3Te0.17Nb0.12On である黒色の複合金属酸化物を得た。次いで、得られた複合金属酸化物50mgを固定床流通型反応器に充填し、反応温度420℃、空間速度SV約 7900h-1にしてプロパン/ アンモニア/ 空気=1/1.2/15 のモル比でガスを供給し、気相接触酸化反応を行った。結果を表−4に示す。
【0077】<比較例18>まず、実験式がMo1V0.3Te0.17Nb0.12On である複合金属酸化物を次のように合成した。比較例17で得られた固体を、さらに、窒素気流下(1.0atm)600℃で2時間処理することにより、実験式がMo1V0.3Te0.17Nb0.12On である黒色の複合金属酸化物を得た。次いで、得られた複合金属酸化物を用い、実施例25と同様に気相接触酸化反応を行った。結果を表−4に示す。
【0078】
【表4】


表中、PPAはプロパン、ANはアクリロニトリルを表す。
【0079】表−4より実施例24は、比較例17と全く同一の、単独では水に不溶または難溶の二酸化テルル、少くともその一部が水に可溶な三酸化モリブデン等を使用し、175℃処理しているにも関わらず、水熱処理をしない比較例17よりも格段に優れた触媒性能を示すことが分かる。また、実施例25は、比較例18 と全く同一の、単独では水に不溶または難溶の二酸化テルル、少くともその一部が水に可溶な三酸化モリブデン等を使用し、600℃処理しているにも関わらず、水熱処理をしない比較例18よりも格段に優れた触媒性能を示すことが分かる。
【0080】
【発明の効果】本発明によれば、水熱条件を選択することにより従来法と比較してより低温でMo、V、並びに、Teおよび/またはSbを必須成分とする複合金属酸化物触媒触媒を合成することが可能であり、また、選択率、活性などの性能が良好な触媒を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 原料化合物を含む水系混合物を、100〜350℃で水熱処理することを特徴とする下記一般式[1]で表される複合金属酸化物の製造方法。
【化1】
Mo1.0aTebSbα-bx(NH4yn [1]
(式中、XはTi,Zr,Nb,Ta,Cr,W,Mn,Fe,Ru,Co,Rh,Ir,Ni,Pd,Pt,Cu,Ag,Zn,In,Sn,Pb,Bi,およびCeの中から選ばれる一種以上の元素を表し、0.01≦a<1.0、0≦b≦α、0≦x<1.0、0.01≦α/(1+a+x)≦0.50、0≦y≦(1+a+x)、nは他の元素の酸化状態により決定される数である。)
【請求項2】 一般式[1]において、0.1≦a<0.6、0≦b≦α、0.02≦x<0.30、0.03≦α/(1+a+x)≦0.25、0≦y≦(1+a)であることを特徴とする請求項1に記載の複合金属酸化物の製造方法。
【請求項3】 Mo原料が水溶性Mo化合物、V原料が水溶性V化合物、Te原料が水溶性Te化合物、Sb原料が水溶性Sb化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の複合金属酸化物の製造方法。
【請求項4】 TeおよびMo原料が(TeMo6-kVkO24)(6+k)-(kは0または1を表す)で表されるアンダーソン型Te−Moヘテロポリ酸またはその塩であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項に記載の複合金属酸化物の製造方法。
【請求項5】 SbおよびMo原料が(SbMo6-kVkO24)(7+k)-(kは0または1を表す)で表されるアンダーソン型Sb−Moヘテロポリ酸またはその塩であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項に記載の複合金属酸化物の製造方法。
【請求項6】 V原料がVの平均価数nが4≦n<5となるようなV化合物の組み合わせであることを特徴とする請求項1ないし5いずれか1項に記載の複合金属酸化物の製造方法。
【請求項7】 原料化合物を含む水系混合物に還元作用を有する物質を添加することを特徴とする請求項1ないし6いずれか1項に記載の複合金属酸化物の製造方法。
【請求項8】 還元作用を有する物質が無機アミン類、アルデヒド類、炭素数7以下のアルコール、炭素数4以下のカルボン酸および還元糖類から選ばれる少なくとも1種類である請求項7に記載の複合金属酸化物の製造方法。
【請求項9】 水熱処理して得られた複合金属酸化物をさらに350℃以上の温度で焼成することを特徴とする請求項1ないし8いずれか1項に記載の複合金属酸化物の製造方法。
【請求項10】 焼成雰囲気が空気より低い酸素濃度雰囲気であることを特徴とする請求項9に記載の複合金属酸化物の製造方法。
【請求項11】 請求項1ないし10いずれか1項の製造方法により得られた複合金属酸化物触媒。
【請求項12】 触媒の存在下、アルカンをアンモ酸化してニトリルを製造する方法において、触媒として請求項11に記載の複合金属酸化物触媒を用いることを特徴とするニトリルの製造方法。
【請求項13】 触媒の存在下、アルカンを気相酸化してα、β不飽和カルボン酸を製造する方法において、触媒として請求項11に記載の複合金属酸化物触媒を用いることを特徴とするα、β不飽和カルボン酸の製造方法。
【請求項14】 請求項11に記載の複合金属酸化物触媒、アンモニア、酸素の存在下、アルカンを気相反応させ、ニトリルおよびα、β不飽和カルボン酸を製造する方法において、反応器に供給するアンモニアとアルカンと酸素の比率を変化させることにより、生成するニトリルとα、β不飽和カルボン酸の比率を制御することを特徴とするニトリルおよびα、β不飽和カルボン酸の製造方法。
【請求項15】 アルカンがプロパンまたはイソブタンであることを特徴とする請求項12ないし14いずれか1項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2000−143244(P2000−143244A)
【公開日】平成12年5月23日(2000.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−10263
【出願日】平成11年1月19日(1999.1.19)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】