説明

複合電磁波シールドフィルタ

【課題】 色素の耐久性が高くかつ幅広い波長領域の近赤外線に対して良好な吸収特性を有しながら、可視光領域における優れた光透過性をも同時に具備した複合電磁波シールドフィルタを提供する。
【解決手段】 電磁波シールド性能と近赤外線吸収性能を有する複合電磁波シールドフィルタであって、透明基材2とメッシュ層3と中間層として粘着層4とを含んでなり、この粘着層4が、近赤外線吸収色素(フタロシアニン系の化合物)の内の少なくとも三種類を含有している複合電磁波シールドフィルタ、及びこの複合電磁波シールドフィルタをディスプレイの観察者側に配置していることを特徴とするプラズマディスプレイ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過性を有する電磁波シールドフィルタに関し、更に詳しくは光学フィルタ機能として近赤外線吸収性能も有し、特にプラズマディスプレイ用に好適な電磁波シールドフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
電気的、もしくは電子的な装置が発生した電磁波は、他の装置に悪影響を与えたり、また、人体や動物に対して影響を与えることがあると言われている。一例として、プラズマディスプレイ(以降、PDPと略記することがある。)からは、30MHz〜1GHzの周波数の電磁波が発生するため、周囲にあるコンピュータ、もしくはコンピュータ利用機器に影響を与えることがあり、発生する電磁波をできるだけ外部に洩らさないことが望まれている。
【0003】
PDPはまた、放電ガスにネオンとキセノンの混合ガスを用いているため、波長800nm〜1000nmの近赤外線を放出し、この近赤外線は、近赤外線を利用した各種機器、例えば、家庭電気製品のリモートコントローラや、パソコンやコードレス電話等の近赤外線を利用した通信機器に影響を与える場合がある。
【0004】
そこで、電磁波シールド層と近赤外線吸収層とを有する、電磁波シールド性能と近赤外線吸収性能を有する複合電磁波シールドフィルタが提案されている(特許文献1)。
【0005】
このような複合電磁波シールドフィルタは、通常、電磁波シールド層と、近赤外線吸収層と、例えば表面保護層、光学機能層、基板等の他の層とを、粘着剤等によって積層一体化したうえで、前面フィルタとしてディスプレイの前面に配置される。
【特許文献1】特開2001−210988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ディスプレイの前面に配置される前面フィルタには、所定の電磁波シールド性能および近赤外線吸収性能、ならびにその他の光学的性能(例えば、光透過性、反射防止性)等を備えたうえで、軽量で薄く、かつ製造コストの点でも好ましい必要がある。前面フィルタを軽量で薄いものとし、かつ製造コストの低減を図るためには、前面フィルタの層構成を省略ないし簡素化することが有利である。通常、この種の一般的な前面フィルタでは、粘着剤層が少なくとも一層形成されていることから、近赤外線吸収層を別途設けるのではなく、近赤外線吸収剤を粘着剤層に混入し、粘着剤層に近赤外線吸収性能を付与することによって、前面フィルタの層構成を省略ないし簡素化することが考えられる。
【0007】
しかし、例えばジインモニウム系あるいはアミニウム系のような従来の近赤外線吸収剤を粘着剤層に混入させた場合、近赤外線吸収剤が劣化して、近赤外線吸収性能を長期間安定して持続させることができなかったり、吸収することが望まれる全ての近赤外線の波長領域において目的とする近赤外線吸収特性を得ることが難しいという問題があった。
【0008】
近赤外線吸収剤の劣化は、近赤外線吸収剤と粘着剤との反応や、使用環境における熱、水蒸気、紫外線等の影響によるものと推測される。ここで、近赤外線吸収剤と粘着剤とが反応する場合には、近赤外線吸収剤と同様に粘着剤の自身も劣化する可能性があり、粘着力が低下することもありえる。
【0009】
粘着剤の劣化によって粘着力が低下することや、あるいは近赤外線吸収剤の劣化によって近赤外線吸収特性が十分でなかったり使用によって変化することは、それがたとえ一部の波長領域内の近赤外線に限定される場合であったとしても、ディスプレイの前面フィルタとして適さないことは言うまでもない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、広い近赤外線領域に吸収を持ち、長期間の使用によってもその近赤外線吸収特性の変化が抑制された、耐久性の優れた複合電磁波シールドフィルタを経済的に提供するものである。
【0011】
このような本願発明による複合電磁波シールドフィルタは、電磁波シールド性能と近赤外線吸収性能を有する複合電磁波シールドフィルタであって、透明基材と、メッシュ状導電体層を含むメッシュ層と、中間層として粘着層とを含んでなり、この粘着層が、下記の四種類の近赤外線吸収色素(A)〜(D)の内の少なくとも三種類を含有すること、を特徴とするものである。
【0012】
近赤外線吸収色素(A):
下記の式〔I〕で表されるフタロシアニン化合物(但し、A〜A16の内の少なくとも4つは硫黄原子を介する置換基であり、かつ、少なくとも3つは塩素原子を有する。Mは酸化バナジウムである。)
近赤外線吸収色素(B):
下記の式〔I〕で表されるフタロシアニン化合物(但し、A〜A16の内の少なくとも4つは硫黄原子を介する置換基であり、かつ、実質的に塩素原子を有さない。Mは酸化バナジウムである。)
近赤外線吸収色素(C):
下記の式〔I〕で表されるフタロシアニン化合物(但し、A〜A16の内の少なくとも4つは窒素原子を介する置換基であり、かつ、硫黄原子を介する置換基を実質的に含まない。Mは酸化バナジウムである。)
近赤外線吸収色素(D):
下記の式〔I〕で表されるフタロシアニン化合物(但し、A〜A16の内の少なくとも4つは窒素原子を介する置換基であり、かつ硫黄原子を介する置換基を実質的に含まない。Mは銅である。)
【化1】

(式〔I〕中、A〜A16は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ヒドロキシスルホニル基、アミノスルホニル基、あるいは窒素原子、硫黄原子、酸素原子またはハロゲン原子を含んでも良い炭素数1〜20の置換基を表し、かつ、隣り合う2個の置換基が連結基を介して繋がっていてもよい。Mは、酸化バナジウムまたは銅を表す。)
【0013】
そして、本発明によるプラズマディスプレイは、上記の複合電磁波シールドフィルタがディスプレイの観察者側に配置されていること、を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明による複合電磁波シールドフィルタは、電磁波シールド性能と近赤外線吸収性能を有する複合電磁波シールドフィルタであって、透明基材と、メッシュ状導電体層を含むメッシュ層と、中間層として粘着層とを含んでなり、この粘着層が、特定の四種類の近赤外線吸収色素(A)〜(D)の内の少なくとも三種類を含有するものであることから、色素の耐久性が高くかつ幅広い波長領域の近赤外線に対する良好な吸収特性を有しながら、可視光領域における優れた光透過性をも同時に具備した、複合電磁波シールドフィルタが経済的に提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態を説明する。
先ず、図1は、本発明による複合電磁波シールドフィルタについて、基本的な形態例として四例を示す断面図である。
【0016】
図1(A)の複合電磁波シールドフィルタ1は、最も基本的な形態であり、透明基材2上に、メッシュ状導電体層を含むメッシュ層3が形成され、更に、該メッシュ層3の直上およびその開口部を含めた全面に、近赤外線吸収色素を含有する粘着層4が形成され、更に機能層5が形成されたものである。
【0017】
図1(B)の複合電磁波シールドフィルタ10は、透明基材2上に、近赤外線吸収色素を含有する粘着層4が形成され、その上にメッシュ状導電体層を含むメッシュ層3が形成され、該メッシュ層3の直上およびその開口部を含めた全面に透明樹脂層6が形成され、更に機能層5が形成されたものである。
【0018】
図1(C)の複合電磁波シールドフィルタ11は、透明基材2上に、メッシュ状導電体層を含むメッシュ層3が形成され、該メッシュ層3の直上およびその開口部を含めた全面に透明樹脂層6が形成され、その上に近赤外線吸収色素を含有する粘着層4が形成され、更に機能層5が形成されたものである。
【0019】
図1(D)の複合電磁波シールドフィルタ12は、透明基材7上に、近赤外線吸収色素を含有する粘着層4が形成され、その上に透明基材2が形成され、更にメッシュ状導電体層を含むメッシュ層3が形成されたものである。
【0020】
以下、本発明の複合電磁波シールドフィルタについて、透明基材2から、各層毎に順に説明する。
【0021】
〔透明基材〕
透明基材2は、一般的に機械的強度が弱いメッシュ層を補強する為の層である。従って、機械的強度と共に光透過性を有すれば、その他、耐熱性、絶縁性等も適宜勘案した上で、用途に応じたものを選択使用すれば良い。透明基材の具体例としては、例えば、樹脂板、樹脂シート(乃至はフィルム、以下同様)、ガラス板等である。
【0022】
樹脂板、樹脂シート等として用いる透明樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、テレフタル酸−イソフタル酸−エチレングリコール共重合体、テレフタル酸−シクロヘキサンジメタノール−エチレングリコール共重合体などのポリエステル系樹脂、ナイロン6などのポリアミド系樹脂、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体などのスチレン系樹脂、トリアセチルセルロースなどのセルロース系樹脂、イミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。
【0023】
なお、これら樹脂は、樹脂材料的には、単独、または複数種類の混合樹脂(ポリマーアロイを含む)として用いられ、また層的には、単層、または二層以上の積層体として用いられる。また、樹脂シートの場合、一軸延伸や二軸延伸した延伸シートが機械的強度の点でより好ましい。
【0024】
また、これら樹脂中には、必要に応じて適宜、紫外線吸収剤、充填剤、可塑剤、帯電防止剤などの添加剤を加えても良い。
【0025】
また、ガラス板のガラスとしては、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラスなどがあり、より好ましくは熱膨脹率が小さく寸法安定性および高温加熱処理における作業性に優れ、また、ガラス中にアルカリ成分を含まない無アルカリガラス等が挙げられ、ディスプレイの前面基板等とする電極基板と兼用することもできる。
【0026】
なお、透明基材の厚さは、用途に応じたものとすれば良く特に制限は無く、透明樹脂から成る場合は、通常12〜1000μm程度であるが、好ましくは50〜700μm、より好ましくは100〜500μmが望ましい。一方、透明基材がガラス板である場合には、通常1〜5mm程度が好適である。いずれの材料に於いても、上記未満の厚さとなると機械的強度が不足して反りや弛み、破断などが起こり、上記を超える厚さとなると過剰性能でコスト高となるうえ、薄型化が難しくなる。
【0027】
なお、透明基材としては、これらの無機材料、有機材料等からなる、シート(乃至はフィルム)、板などが適用でき、また、透明基材は、前面基板および背面基板等からなるディスプレイ本体の一構成要素である前面基板と兼用しても良いが、前面基板の前に配置する前面フィルタとして複合電磁波シールドフィルタを用いる形態では、薄さ、軽さの点で、板よりもシートの方が優れており、また割れない等の点でも、ガラス板よりも樹脂シートが優れていることは言うまでもない。
【0028】
また、複合電磁波シールドフィルタを連続的に製造し生産性を向上できる点では、透明基材は、メッシュ状導電体層形成等の少なくとも製造初期の段階に於いては、連続帯状のシートの形態で取り扱うのが好ましい。
【0029】
この様な点で、透明基材としては樹脂シートが好ましい材料であるが、樹脂シートのなかでも、特に、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂シート、セルロース系樹脂シートが、透明性、耐熱性、コスト等の点で好ましく、より好ましくはポリエチレンテレフタレートシートが最適である。なお、透明基材の透明性は高いほどよいが、好ましくは可視光線透過率で80%以上となる光透過性が良い。
【0030】
なお、樹脂シート等の透明基材は、適宜その表面に、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理、フレーム処理、プライマー処理、予熱処理、除塵埃処理、蒸着処理、アルカリ処理、などの公知の易接着処理を行ってもよい。
【0031】
〔メッシュ層:メッシュ状導電体層〕
メッシュ状導電体層3aは、電磁波シールド機能を担う層であり、またそれ自体は不透明性であっても、メッシュ状の形状で開口部が存在することにより、電磁波シールド性能と光透過性を両立させており、メッシュ状の形状をしているメッシュ層3の必須の層である。なお、メッシュ層3には、メッシュ状導電体層3a以外にも、メッシュ層3の形状的特徴のもととなるメッシュ状導電体層が有するメッシュ形状が維持される点で、後述する防錆層3bや黒化層3c等も含めて、メッシュ状導電体層3として捉える。従って、図1の断面図では、メッシュ層3としては必須のメッシュ状導電体層のみ符号的に明示した例であるが、必要に応じ設ける防錆層や黒化層を有する場合のメッシュ層も含めた概念的な図面である。
【0032】
メッシュ状導電体層3aのメッシュ状としての形状は、任意で特に限定されないが、そのメッシュの開口部の形状として、正方形が代表的である。開口部の形状は、例えば、正三角形等の三角形、正方形、長方形、菱形、台形等の四角形、六角形、等の多角形、或いは、円形、楕円形などである。メッシュはこれら形状からなる複数の開口部を有し、開口部間は通常幅均一のライン状のライン部となり、通常は、開口部および開口部間は全面で同一形状同一サイズである。具体的サイズを例示すれば、開口率およびメッシュの非視認性の点で、開口部間のライン部の幅は50μm以下、好ましくは20μm以下が良い。また、開口部サイズは〔ライン間隔或いはラインピッチ〕−〔ライン幅〕であるが、この〔ライン間隔或いはラインピッチ〕で言うと150μm以上、好ましくは200μm以上とするのが、光透過性の点で好ましい。
【0033】
なお、バイアス角度(メッシュのライン部と複合電磁波シールドフィルタの外周辺との成す角度)は、ディスプレイの画素ピッチや発光特性を考慮して、モアレが出難い角度に適宜設定すれば良い。
【0034】
また、複数の開口部を有する領域(メッシュ部3A)は、少なくとも光透過性が必要な領域であれば良く、従って全面でなくても良い。その一例として、図3の平面図で例示するように、四角形の複合電磁波シールドフィルタ1、10〜14の四辺周囲の画像表示に影響しない部分を額縁状に、開口部無しのままにした額縁部3Bとして、その内側のみに複数の開口部を有するメッシュ部3Aとする形態が挙げられる。額縁部はアースを取るのに利用できる。なお、額縁部3Bは全周囲でなくても、一辺のみ等でも良い。また、額縁部の一部領域或いは全領域はアースが取り易い様に露出させるのが好ましく、この為には、粘着層、機能層等のメッシュ層上に設ける層は、額縁部では露出された部分が残る様にメッシュ部3A、乃至はメッシュ部3Aから一部額縁部3Bにかかる様に設けると良い。
【0035】
メッシュ状導電体層3aは、一般的には金属箔のエッチングで形成した物が代表的であるが、これ以外のものでも、電磁波シールド性能に於いては意義を有する。従って、本発明では、メッシュ状導電体層の材料および形成方法は特に限定されるものでは無く、従来公知の光透過性の電磁波シールドフィルタに於ける各種メッシュ状導電体層を適宜採用できるものである。例えば、印刷法やめっき法等を利用して透明基材上に最初からメッシュ状の形状でメッシュ状導電体層を形成したもの、或いは、最初は透明基材上に全面に、めっき法で導電体層を形成後、エッチング等でメッシュ状の形状にしてメッシュ状導電体層としたもの等でも構わない。
【0036】
例えば、メッシュ状導電体層のメッシュ形状をエッチングで形成する場合は、透明基材に積層した金属層をエッチングでパターンニングして開口部を空けてメッシュ状にすることで形成できる。透明基材に金属層を積層するには、金属箔として用意した金属層を接着剤で透明基材にラミネートしたり、或いはラミネート用接着剤は用いずに、金属層を蒸着、スパッタ、めっき等の1或いは2以上の物理的或いは化学的形成手法を用いて透明基材上に積層したりすることもできる。なお、エッチングによるメッシュ状導電体層は、透明基材に積層前の金属箔単体をエッチングでパターンニングしてメッシュ状のメッシュ状導電体層とすることも可能である。この層単体のメッシュ状導電体層は、接着剤等で透明基材に積層する。これらのなかでも、機械的強度が弱いメッシュ状導電体層の取扱が容易で且つ生産性にも優れる等の点で、金属箔を接着剤で透明基材に積層した後、エッチングでメッシュ状に加工して、透明基材上に接着剤を介して積層された形態となる、メッシュ状導電体層が望ましい。
【0037】
メッシュ状導電体層は、電磁波シールド性能を発現するに足る導電性を有する物質であれば、特に制限は無いが、通常は、導電性が良い点で金属層が好ましく、金属層は上記の如く、蒸着、めっき、金属箔ラミネート等により形成することができる。金属層乃至は金属箔の金属材料としては、例えば、金、銀、銅、鉄、ニッケル、クロム等が挙げられる。また金属層の金属は合金でも良く、金属層は単層でも多層でも良い。例えば、鉄の場合には、低炭素リムド鋼や低炭素アルミキルド鋼などの低炭素鋼、Ni−Fe合金、インバー合金、等が好ましい。一方、金属が銅の場合は、銅や銅合金となるが、銅箔としては圧延銅箔や電解銅箔があるが、薄さおよびその均一性、黒化層との密着性等の点からは、電解銅箔が好ましい。
【0038】
なお、金属層による導電体層の厚さは、1〜100μm程度、好ましくは2〜10μmである。厚さがこれより薄くなり過ぎると電気抵抗上昇により十分な電磁波シールド性能を得難くなり、厚さがこれより厚くなり過ぎると高精細なメッシュ形状が得難くなり、開口率低下により光透過性や、メッシュ側面が邪魔してディスプレイの視野角が低下する。
【0039】
また、メッシュ状導電体層となる金属層の表面は、透明接着剤層等の隣接層との密着性向上の為に粗面である事が好ましい。例えば、銅箔の場合、黒化処理による黒化層の形成と同時にその表面(黒化層の表面)に粗面が得られる。なお、その粗面の程度は、10点平均粗さRz(μm)〔JIS−B0601準拠(1994年版)〕で、0.1〜10μm程度が良く、より好ましくは1.5μm以下、さらに好ましくは0.5〜1.5μmである。粗さがこれ未満では、粗面化の効果が十分に得られず、またこれより大きくなると、接着剤やレジスト等の塗布時に気泡を抱き込んだりし易くなる。
【0040】
〔メッシュ層:防錆層〕
メッシュ層3はメッシュ状導電体層3aだけでも良いが、金属層からなるメッシュ状導電体層は製造時、取扱時等に錆びて変質して電磁波シールド性能の低下をきたすことがあるので、錆びを防ぐ必要がある場合には、防錆層3bでメッシュ状導電体層3a表面を被覆することが好ましい。また、後述する黒化層3cが錆び易い場合には、黒化層3cも含めて被覆するのが好ましい。防錆層3bの被覆は、メッシュ状導電体層3aの表面、裏面、側面の各面のうち必要な1以上の面の中から製造コスト等を勘案して選んだ面について行えば良い。従って、防錆層3bの被覆は、表面だけ、裏面だけ、表裏両面〔例えば図2(A)参照〕、側面(両側或いは片側)だけ、表面と両側面〔例えば図2(B)参照〕、裏面と両側面、表裏両面と両側面等である。
【0041】
なお、本明細書にて、「表面」とは、注目層(ここではメッシュ状導電体層)の透明基材2から遠い方の面(図面上方の面、透明基材ではその図面上方の面)、「裏面」とは該注目層の透明基材2に近い方の面(図面下方の面、透明基材ではその図面下方の面)、「側面」とは表面と裏面とを連結する面(図面左右方向に向いた面)を言うことにする。また、ディスプレイ用途等に適用した場合に於いて、観察者側の面が常に本発明で定義する表面では無く裏面の場合もあり得る。
【0042】
防錆層は、それで被覆するメッシュ状導電体層3aよりも錆び難いものであれば、金属等の無機材料、樹脂等の有機材料、或いはこれらの組合せ等、特に限定されるものではない。また場合によっては、黒化層3cをも防錆層3bで被覆することで、黒化層の粒子の脱落や変形を防止し、黒化層の黒さを高めることもできる。この点では、メッシュ状導電体層を金属箔で形成する場合、透明基材上の金属箔に黒化処理で黒化層を設けておく場合には、該黒化層の脱落や変質防止の意味で、透明基材と金属箔との積層前に設けておくのが好ましい。
【0043】
防錆層は、従来公知のものを適宜採用すれば良く、例えば、クロム、亜鉛、ニッケル、スズ、銅等の金属乃至これら金属を含む合金、或いはこれら金属を含む金属酸化物等の金属化合物の層等である。これらは、公知のめっき法等で形成できる。ここで、防錆効果および密着性等の点で好ましい防錆層の一例を示せば、亜鉛めっきした後、クロメート処理して得られるクロム化合物層が、挙げられる。また、このクロム化合物層による防錆層は、後述する銅−コバルト合金粒子層からなる黒化層、および透明接樹脂層6(特に二液硬化型ウレタン樹脂系の接着剤)との密着性にも優れる。
【0044】
なお、クロムの場合はクロメート(クロム酸塩)処理等でもよい。なお、クロメート処理は、処理面にクロメート処理液を接触させて行うが、該接触は、ロールコート、カーテンコート、スクイズコート、かけ流し法(以上片面接触)等の塗布法の他、静電霧化法、浸漬法等によれば両面接触も可能である。また、接触後は水洗せずに乾燥すればよい。なお、クロメート処理液にはクロム酸を含む水溶液を通常使用し、具体的には、「アルサーフ(登録商標)1000」(日本ペイント株式会社製)、「PM−284」(日本パ−カライジング株式会社製)等の処理液を利用できる。
【0045】
また、クロメート処理は、該処理前に亜鉛めっきするのが、密着性、防錆効果の点で好ましい。また、防錆層中には、エッチングや酸洗浄時の耐酸性向上の為に、シランカップリング剤等のケイ素化合物を含有させることもできる。
【0046】
なお、防錆層の厚さは通常0.001〜10μm程度、好ましくは0.01〜1μmである。
【0047】
〔メッシュ層:黒化層〕
黒化層3cにより、ディスプレイの明室時の画像のコントラストを向上できる。なお、黒化層の中には、上述した如く該層表面が粗面となり密着強化を図れるものもある。黒化層3cはディスプレイ画像のコントラスト向上の点では、観察者から見えるメッシュ層(メッシュ状導電体層自体、或いは防錆層等形成済みのメッシュ状導電体層)の全ての面に設けることが好ましいが、そのうち、表面、裏面、側面の各面のうち1以上の面に設ければ相応の効果が得られる。従って、設ける面は、本複合電磁波シールドフィルタとディスプレイとの配置関係にもよるが、表面だけ、裏面だけ、表裏両面〔例えば図2(A)参照〕、側面(両側或いは片側)だけ、表面と両側面〔例えば図2(B)参照〕、裏面と両側面、表裏両面と両側面等である。
【0048】
いずれにしても、黒化層としては、黒等の暗色を呈する層であれば良く、密着性等の基本的物性を満足するものであれば良く、公知の黒化層を適宜採用し得る。
【0049】
従って、黒化層としては、金属等の無機材料、黒着色樹脂等の有機材料等を用いることができ、例えば無機材料としては、金属、合金、金属酸化物、金属硫化物の金属化合物等の金属系の層として形成する。金属系の層の形成法としては、従来公知の各種黒化処理法を適宜採用できる。なかでも、めっき法による黒化処理は密着性、均一性、容易性等で好ましい。めっき法の材料は、例えば、銅、コバルト、ニッケル、亜鉛、モリブデン、スズ、クロム等の金属や金属化合物等を用いる。これらは、密着性、黒さ等の点でカドミウム等による場合よりも優れている。
【0050】
なお、メッシュ状導電体層が銅箔等、銅による場合、黒化層形成の為の黒化処理として好ましいめっき法には、銅からなるメッシュ状導電体層(メッシュ状とする前に行うのであればその前の導電体層)を、硫酸、硫酸銅および硫酸コバルト等からなる電解液中で、陰極電解処理を行いカチオン性粒子を付着させるカソーディック電着めっき法がある。この方法によれば、カチオン性粒子の付着で黒色と同時に粗面も得られる。カチオン性粒子としては、銅粒子、銅合金粒子を採用できる。銅合金粒子としては、銅−コバルト合金粒子が好ましく、更にその平均粒子径は0.1〜1μmが好ましい。銅−コバルト合金粒子により、銅−コバルト合金粒子層からなる黒化層が得られる。カソーディック電着法では、付着させるカチオン性粒子の平均粒子径0.1〜1μmに揃えられる点でも好ましい。平均粒子径が上記範囲超過では、付着粒子の緻密さが低下し黒さの低下やムラが起こり、粒子脱落(粉落ち)が発生し易くなる。一方、平均粒子径が上記範囲未満でも、黒さが低下する。なお、カソーディック電着法は処理を高電流密度で行うことで、処理面がカソーディックとなり、還元性水素発生で活性化し、銅面とカチオン性粒子との密着性が著しく向上する。
【0051】
また、黒化層として、黒色クロム、黒色ニッケル、ニッケル合金等も好ましく、該ニッケル合金としては、ニッケル−亜鉛合金、ニッケル−スズ合金、ニッケル−スズ−銅合金である。特に、ニッケル合金は黒色度合いと導電性が良い上、黒化層に防錆機能も付与でき(黒化層兼防錆層となる)、防錆層を省略することもできる。しかも、通常、黒化層の粒子は針状のために、外力で変形して外観が変化しやすいが、ニッケル合金による黒化層では粒子が変形し難く、後加工工程で外観が変化し難くい利点も得られる。なお、黒化層として、ニッケル合金の形成方法は、公知の電解または無電解メッキ法でよく、ニッケルメッキを行った後に、ニッケル合金を形成してもよい。
【0052】
〔粘着層〕
粘着層4は、本発明による複合電磁波シールドフィルタの中間層として存在し、この粘着層4に接触した各層を接合する機能とともに、下記特定の四種類の近赤外線吸収色素(A)〜(D)の内の少なくとも三種類を含有することに基づく近赤外線吸収機能をも、併せて備えたものである。従って、この粘着層4は、少なくとも1種の粘着剤と、特定の四種類の近赤外線吸収色素(A)〜(D)の内の少なくとも三種類の近赤外線吸収色素とを含有するものである。
【0053】
ここで、粘着剤とは、単に適度な加圧(通常、軽く手で押圧する程度の加圧)のみで、表面の粘着性のみで接着可能なものを言う。粘着剤の粘着力発現には、特に加熱、加湿、放射線(例えば、紫外線や電子線等)照射といった物理的なエネルギー乃至作用が不要で、且つ重合反応等の化学反応も不要である。
【0054】
この粘着剤は、各層を接合する機能がある点で広義の接着剤に包含されるが、加熱、加湿、放射線照射といった物理的なエネルギー乃至作用によって接着力を発揮する接着剤(以下、狭義の接着剤と言う場合がある)を包含しないものである。そして、本発明における粘着剤は、接着後も再剥離可能な程度の接着力を経時的に維持し得る点で、上記の狭義の接着剤と区別される。
【0055】
本発明による複合電磁波シールドフィルタにおいて粘着層4を構成する粘着剤としては、特に制限は無く、公知の粘着剤として慣用されているものの中から、適度な粘着性(接着力)、透明性、塗工適性を有し、本発明に於いて使用する特定の近赤外線吸収剤と反応してその近赤外線および可視光線領域の透過スペクトルに実質を変化させることの無いものを適宜選択して用いることができる。
【0056】
例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリウレタン系粘着剤およびポリエステル系粘着剤等を用いることが出來る。これらの中で、一般的にはアクリル系粘着剤、およびゴム系粘着剤がよく用いられるが、耐光性をも考慮するとアクリル系粘着剤が好ましい。
【0057】
上記アクリル系粘着剤としては、主成分として、例えば(メタ)アクリル酸エステル単独重合体、(メタ)アクリル酸エステル単位2種以上を含む共重合体および(メタ)アクリル酸エステルと他の官能性単量体との共重合体の中から選ばれた少なくとも1種を含有するものが用いられる。
【0058】
例えば、(メタ)アクリル酸エステル単独重合体としては、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸プロピル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、ポリ(メタ)アクリル酸オクチル等が挙げられる。
【0059】
アクリル酸エステル単位2種以上を含む共重合体としては、(メタ)アクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸エチル共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸2ヒドロキシエチル共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸2ヒドロキシ3フェニルオキシプロピル共重合体等が挙げられる。
【0060】
(メタ)アクリル酸エステルと他の官能性単量体との共重合体としては、(メタ)アクリル酸メチル−スチレン共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−エチレン共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸2ヒドロキシエチル−スチレン共重合体が挙げられる。
【0061】
尚、此処で(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸、またはメタクリル酸のことを意味する。
【0062】
また、ゴム系粘着剤としては、主成分として、例えば天然ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリイソブチレン、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体などの中から選ばれた少なくとも1種を含有するものが用いられる。
【0063】
これらの粘着剤には、所望に応じて、イソシアネート化合物等の架橋剤、粘着付与剤、酸化防止剤、シランカップリング剤、充填剤等を配合することができる。
【0064】
そして、本発明での粘着層4は、下記の四種類の近赤外線吸収色素(A)〜(D)の内の少なくとも三種類を含有するものであって、複合電磁波シールドフィルタとして近赤外線吸収機能を付与する層である。なお、近赤外線とは、可視光領域に隣接し可視光よりも長波長側の光線であり、本発明で注目する近赤外線とは、波長800〜1000nm程度の光線のことである。
【0065】
本発明の粘着層4において、適当な近赤外線吸収性能としては、一般的には、該780〜1000nmの波長領域にて、平均して、少なくとも50%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、吸収するのが望ましい。特にプラズマディスプレイ用への複合電磁波シールドフィルタとして用いる場合には、800〜950nmの波長領域にて、70%以上、より好ましくは90%以上の近赤外線吸収性能が望ましい。
【0066】
粘着層の形成は、粘着層形成材料(例えば、粘着材料、所定の近赤外線吸収色素、必要に応じて、例えば架橋剤、酸化防止剤、溶剤等のその他の材料を、例えばロールコート、コンマコート、グラビアコート、カーテンコート、スクイズコート、かけ流し法、静電霧化法、浸漬法等によって形成する方法が挙げられる。また、任意形状で部分形成可能な層形成手段として、例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷等の印刷法を採用することもできる。
【0067】
近赤外線吸収色素
本発明では、下記の四種類の近赤外線吸収色素(A)〜(D)の内の少なくとも三種類を使用することが重要である。
【0068】
近赤外線吸収色素(A):
下記の式〔I〕で表されるフタロシアニン化合物(但し、A〜A16の内の少なくとも4つは硫黄原子を介する置換基であり、かつ、少なくとも3つは塩素原子を有する。Mは酸化バナジウムである。)
近赤外線吸収色素(B):
下記の式〔I〕で表されるフタロシアニン化合物(但し、A〜A16の内の少なくとも4つは硫黄原子を介する置換基であり、かつ、実質的に塩素原子を有さない。Mは酸化バナジウムである。)
近赤外線吸収色素(C):
下記の式〔I〕で表されるフタロシアニン化合物(但し、A〜A16の内の少なくとも4つは窒素原子を介する置換基であり、かつ、硫黄原子を介する置換基を実質的に含まない。Mは酸化バナジウムである。)
近赤外線吸収色素(D):
下記の式〔I〕で表されるフタロシアニン化合物(但し、A〜A16の内の少なくとも4つは窒素原子を介する置換基であり、かつ硫黄原子を介する置換基を実質的に含まない。Mは銅である。)
【化2】

(式〔I〕中、A〜A16は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ヒドロキシスルホニル基、アミノスルホニル基、あるいは窒素原子、硫黄原子、酸素原子またはハロゲン原子を含んでも良い炭素数1〜20の置換基を表し、かつ、隣り合う2個の置換基が連結基を介して繋がっていてもよい。Mは、酸化バナジウムまたは銅を表す。)
【0069】
本発明における近赤外線吸収色素(A)〜(D)は、上記式〔I〕で表されるフタロシアニン化合物において、置換基A〜A16ならびにMに関する所定の条件が満たされる限りにおいて特に制限を受けないが、以下に具体的に記載する。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子が挙げられる。この中では、特にフッ素原子および塩素原子が好ましい。
【0070】
窒素原子、硫黄原子、酸素原子、ハロゲン原子を含んでもよい炭素数1〜20の置換基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、等の直鎖、分岐または環状のアルキル基、メトキシメチル基、フェノキシメチル基、ジエチルアミノメチル基、フェニルチオメチル基、ベンジル基、p−クロロベンジル基、p−メトキシベンジル基、等のヘテロ原子や芳香環を含むアルキル基、フェニル基、p−メトキシフェニル基、p−t−ブチルフェニル基、p−クロロフェニル基等のアリール基、
メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、iso−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、iso−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基等のアルコキシ基、メトキシエトキシ基、フェノキシエトキシ基等のアルコキシアルコキシ基、ヒドロキシエトキシ基等のヒドロキシアルコキシ基、ベンジルオキシ基、p−クロロベンジルオキシ基、p−メトキシベンジルオキシ基等のアラルキルオキシ基、フェノキシ基、p−メトキシフェノキシ基、p−t−ブチルフェノキシ基、p−クロロフェノキシ基、o−アミノフェノキシ基、p−ジエチルアミノフェノキシ基等のアリールオキシ基、
アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基、iso−プロピルカルボニルオキシ基、n−ブチルカルボニルオキシ基、iso−ブチルカルボニルオキシ基、sec−ブチルカルボニルオキシ基、t−ブチルカルボニルオキシ基、n−ペンチルカルボニルオキシ基、n−ヘキシルカルボニルオキシ基、シクロヘキシルカルボニルオキシ基、n−ヘプチルカルボニルオキシ基、3−ヘプチルカルボニルオキシ基、n−オクチルカルボニルオキシ基等のアルキルカルボニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p−クロロベンゾイルオキシ基、p−メトキシベンゾイルオキシ基、p−エトキシベンゾイルオキシ基、p−t−ブチルベンゾイルオキシ基、p−トリフロルオメチルベンゾイルオキシ基、m−トリフルオロメチルベンゾイルオキシ基、o−アミノベンゾイルオキシ基、p−ジエチルアミノベンゾイルオキシ基等のアリールカルボニルオキシ基、
メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、iso−プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、iso−ブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基、n−ペンチルチオ基、n−ヘキシルチオ基、シクロヘキシルチオ基、n−ヘプチルチオ基、n−オクチルチオ基、2−エチルヘキシルチオ基等のアルキルチオ基、ベンジルチオ基、p−クロロベンジルチオ基、p−メトキシベンジルチオ基等のアラルキルチオ基、フェニルチオ基、p−メトキシフェニルチオ基、p−t−ブチルフェニルチオ基、p−クロロフェニルチオ基、o−アミノフェニルチオ基、o−(n−オクチルアミノ)フェニルチオ基、o−(ベンジルアミノ)フェニルチオ基、o−(メチルアミノ)フェニルチオ基、p−ジエチルアミノフェニルチオ基、ナフチルチオ基等のアリールチオ基、
メチルアミノ基、エチルアミノ基、n−プロピルアミノ基、n−ブチルアミノ基、sec−ブチルアミノ基、n−ペンチルアミノ基、n−ヘキシルアミノ基、n−ヘプチルアミノ基、n−オクチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ−n−プロピルアミノ基、ジ−n−ブチルアミノ基、ジ−sec−ブチルアミノ基、ジ−n−ペンチルアミノ基、ジ−n−ヘキシルアミノ基、ジ−n−ヘプチルアミノ基、ジ−n−オクチルアミノ基等のアルキルアミノ基、フェニルアミノ基、p−メチルフェニルアミノ基、p−t−ブチルフェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジ−p−メチルフェニルアミノ基、ジ−p−t−ブチルフェニルアミノ基等のアリールアミノ基、アセチルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、n−プロピルカルボニルアミノ基、iso−プロピルカルボニルアミノ基、n−ブチルカルボニルアミノ基、iso−ブチルカルボニルアミノ基、sec−ブチルカルボニルアミノ基、t−ブチルカルボニルアミノ基、n−ペンチルカルボニルアミノ基、n−ヘキシルカルボニルアミノ基、シクロヘキシルカルボニルアミノ基、n−ヘプチルカルボニルアミノ基、3−ヘプチルカルボニルアミノ基、n−オクチルカルボニルアミノ基等のアルキルカルボニルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、p−クロロベンゾイルアミノ基、p−メトキシベンゾイルアミノ基、p−メトキシベンゾイルアミノ基、p−t−ブチルベンゾイルアミノ基、p−クロロベンゾイルアミノ基、p−トリフルオロメチルベンゾイルアミノ基、m−トリフルオロメチルベンゾイルアミノ基等のアリールカルボニルアミノ基、
ヒドロキシカルボニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロピルオキシカルボニル基、iso−プロピルオキシカルボニル基、n−ブチルオキシカルボニル基、iso−ブチルオキシカルボニル基、sec−ブチルオキシカルボニル基、t−ブチルオキシカルボニル基、n−ペンチルオキシカルボニル基、n−ヘキシルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、n−ヘプチルオキシカルボニル基、n−オクチルオキシカルボニル基、2−エチルヘキシルオキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基、メトキシエトキシカルボニル基、フェノキシエトキシカルボニル基、ヒドロキシエトキシカルボニル基等のアルコキシアルコキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基、p−メトキシフェノキシカルボニル基、p−t−ブチルフェノキシカルボニル基、p−クロロフェノキシカルボニル基、o−アミノフェノキシカルボニル基、p−ジエチルアミノフェノキシカルボニル基等のアリールオキシカルボニル基、
アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、エチルアミノカルボニル基、n−プロピルアミノカルボニル基、n−ブチルアミノカルボニル基、sec−ブチルアミノカルボニル基、n−ペンチルアミノカルボニル基、n−ヘキシルアミノカルボニル基、n−ヘプチルアミノカルボニル基、n−オクチルアミノカルボニル基、2−エチルヘキシルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、ジエチルアミノカルボニル基、ジ−n−プロピルアミノカルボニル基、ジ−n−ブチルアミノカルボニル基、ジ−sec−ブチルアミノカルボニル基、ジ−n−ペンチルアミノカルボニル基、ジ−n−ヘキシルアミノカルボニル基、ジ−n−ヘプチルアミノカルボニル基、ジ−n−オクチルアミノカルボニル基等のアルキルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、p−メチルフェニルアミノカルボニル基、p−t−ブチルフェニルアミノカルボニル基、ジフェニルアミノカルボニル基、ジ−p−メチルフェニルアミノカルボニル基、ジ−p−t−ブチルフェニルアミノカルボニル基等のアリールアミノカルボニル基、
メチルアミノスルホニル基、エチルアミノスルホニル基、n−プロピルアミノスルホニル基、n−ブチルアミノスルホニル基、sec−ブチルアミノスルホニル基、n−ペンチルアミノスルホニル基、n−ヘキシルアミノスルホニル基、n−ヘプチルアミノスルホニル基、n−オクチルアミノスルホニル基、2−エチルヘキシルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ジエチルアミノスルホニル基、ジ−n−プロピルアミノスルホニル基、ジ−n−ブチルアミノスルホニル基、ジ−sec−ブチルアミノスルホニル基、ジ−n−ペンチルアミノスルホニル基、ジ−n−ヘキシルアミノスルホニル基、ジ−n−ヘプチルアミノスルホニル基、ジ−n−オクチルアミノスルホニル基等のアルキルアミノスルホニル基、フェニルアミノスルホニル基、p−メチルフェニルアミノスルホニル基、p−t−ブチルフェニルアミノスルホニル基、ジフェニルアミノスルホニル基、ジ−p−メチルフェニルアミノスルホニル基、ジ−p−t−ブチルフェニルアミノスルホニル基等のアリールアミノスルホニル基等が挙げられる。
【0071】
隣り合う2個の置換基が連結基を介して繋がっていてもよい置換基としては、下記式等で表されるようなヘテロ原子を介して5員環あるいは6員環を形成する置換基が挙げられる。
【化3】

【0072】
近赤外線吸収色素(A)および(B)における「硫黄原子を介する置換基」、あるいは近赤外線吸収色素(C)および(D)における「窒素原子を介する置換基」としては、アミノ基、アミノスルホニル基、上記のアルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アリールカルボニルアミノ基等が挙げられる。フタロシアニンの吸収波長は通常600〜750nm程度であるが、硫黄原子あるいは窒素原子を介する置換基が導入されることにより、吸収が長波長化され、800nm以上に吸収を有するようになる。そのためには、A〜A16の内の少なくとも4つは硫黄原子を介する置換基および/または窒素原子を介する置換基であり、より好ましくは8つ以上が硫黄原子を介する置換基および/または窒素原子を介する置換基である。
【0073】
本発明による複合電磁波シールドフィルタにおける近赤外線吸収層は、上記の四種類の近赤外線吸収色素(A)〜(D)の内の少なくとも三種類を含むものである。即ち、本発明での近赤外線吸収層は、近赤外線吸収層として、上記四種類の近赤外線吸収色素(A)〜(D)の全種類を含むもの、および上記四種類の化合物から選択された三種類の近赤外線吸収色素を含むものである。三種類の近赤外線吸収色素の選択方法ないしフタロシアニン化合物の組み合わせ、ならびに各フタロシアニン化合物の混合比率等は任意である。例えば、本発明では、フタロシアニン化合物中の置換基A〜A16の具体的内容、それによるフタロシアニン化合物の具体的特定、特に赤外線吸収特性、等を考慮して、フタロシアニン化合物の組み合わせ、各フタロシアニン化合物の混合比率ならびに全フタロシアニン化合物の総配合量等を定めることができる。なお、本発明は、同種類のフタロシアニン化合物として分類された化合物を二種以上併用することを排除しない。即ち、例えば近赤外線吸収色素(A)として分類された化合物群に属する二種以上の近赤外線吸収色素(A)を併用する場合を排除しない。近赤外線吸収色素(B)〜(D)についても同様である。
【0074】
このような本発明では、フタロシアニン化合物の具体的種類およびその組み合わせ、各フタロシアニン化合物の配合量ないしそれらの配合比率等を適当に変更することによって、複合電磁波シールドフィルタの光学的特性(例えば、吸収波長領域や光透過率等)を任意に制御することが可能であって、複合電磁波シールドフィルタの具体的用途、目的等に応じた最も好ましい近赤外線吸収フィルタを提供することができる。
【0075】
なお、粘着層中には、必要に応じて、近赤外線吸収色素以外の色素を含有させることができる。例えば、近赤外線吸収色素が可視光領域にも吸収を持ち、その吸収が可視光領域で均一で無いために着色し画像のホワイトバランスが崩れるのを防ぐ為には、可視光領域全体で光吸収がニュートラル(無彩色)となる様に、更に、可視光領域内のその他の部分に吸収を持つ色素を併用すると良い。或いは、PDPから放射されるネオン発光を抑えて色再現性を向上させるネオン光吸収剤、不要な外光反射を抑える色素等である
また、粘着層中の近赤外線吸収色素の含有量は、要求特性、透明樹脂層の厚み等に応じて適宜決めれば良いが、例えば、粘着層の全量に対して好ましくは0.1〜10質量%である。
【0076】
本発明において、近赤外線吸収色素は、ディスプレイから放射される近赤外線を吸収する為には、該近赤外線が複合電磁波シールドフィルタを通過する部分であるメッシュ層の開口部に存在すれば良い。従って、所定の粘着力が得られるならば、粘着層はメッシュ層の開口部のみに形成することができる。例えば、特に図1(A)の場合には、粘着層は、メッシュ層3の開口部内及びライン部直上部の両方にわたって形成される。
【0077】
また、これ以外の形態として図示は省くが、例えば粘着層をメッシュ層3の開口部のみに、この開口部を埋めるようにメッシュ層3とほぼ同一の厚さで形成することができ、また、メッシュ層3の非開口部領域における色素量を減らすために、メッシュ層3より僅かに厚い粘着層4を形成することができる。
【0078】
〔機能層〕
機能層5は、本発明による複合電磁波シールドフィルタの構成層として、光学特性改善や、保護機能、機械的強度向上等の上述した層構成からは実現できないその他の機能を、複合電磁波シールドフィルタ更に付与する為に、複合電磁波シールドフィルタの表面層あるいは場合によってはその他の層として形成されるものである。この機能層5は、好ましくは、例えば、(イ)光学機能層、例えば反射防止機能層、防眩機能層、ネオン光遮蔽機能層、あるいは(ロ)保護機能層、例えば防汚染機能層、傷つき防止機能層、紫外線吸収機能層、ガス(水蒸気を含む)バリヤ機能層、耐衝撃層として、複合電磁波シールドフィルタに形成することができる。
【0079】
以下に、本発明における特に好ましい機能層の具体例を示す。なお、一層の機能層が、同時に複数機能を具備することがあること、そして多くの場合そのように複数機能を具備するものが好ましいしいことから、下記では同一の機能層が複数箇所にわたって記載されている場合がある。
【0080】
(イ)光学機能層
(1)反射防止機能層
反射防止機能層は、高屈折率層と低屈折率層が順に積層されたものが代表的であるが、これ以外の積層構造を持つものもある。高屈折率層は、例えば、ZnOやTiOの素材の薄膜、もしくはこれらの素材の微粒子が分散した透明樹脂膜である。また、低屈折率層は、MgFやSiOからなる薄膜、もしくはSiOゲル膜、または、フッ素含有の、もしくはフッ素およびケイ素含有の透明樹脂膜である。反射防止機能層が積層されたことにより、積層された側の外光等の不要な光の反射を低下させ、適用されるディスプレイの画像もしくは映像のコントラストを高めることができる。
【0081】
(2)防眩機能層
防眩機能層は、例えば、透明樹脂中に直径数μm程度のポリスチレン樹脂やアクリル樹脂等のビーズを分散させたものが挙げられ、層が持つ光拡散性により、ディスプレイ前面に配置した際に、ディスプレイの特定の位置、方向に生じるシンチレーションの防止を行なうためのものである。
【0082】
(3)ネオン光遮蔽機能層
ネオン光遮蔽機能層は、PDPにおける主にネオンガスの励起によって放出される595nm付近の不要な発光をカットするためのもので、この波長付近に吸収極大を持つネオン光遮蔽色素およびバインダ樹脂、並びにその他の必要に応じて添加する添加剤等を用いて、前記した近赤外線吸収層の形成と同様にして行なえばよい。ネオン光遮蔽色素としては、シアニン系、オキソノール系、メチン系、サブフタロシアニン系、もしくはポルフィリン系の化合物を好ましく用いることができ、ポルフィリン系の化合物が耐久性の面で特に好ましい。
【0083】
(ロ)保護機能層
(1)傷つき防止機能層
傷つき防止機能層は、本発明による複合電磁波シールドフィルタを製造する過程、あるいは加工する過程、あるいは製造あるいは加工にあたり移動させる過程、あるいはPDPに組み込まれた後の使用過程等において、外部からの衝撃等によって複合電磁波シールドフィルタが傷つくのを防止するものである。この傷つき防止機能層は、十分な表面硬度を有し、実質的に複合電磁波シールドフィルタに悪影響を与えないものが好ましい。そのようなものとしては、例えば透明基材2として前記したものを挙げることができる。
【0084】
(2)防汚染機能層
防汚染機能層は、複合電磁波シールドフィルタを使用する際に、その表面に、不用意な接触や環境からの汚染が原因で、ごみや汚染物質が付着するのを防止し、あるいは付着しても除去しやすくするために形成される層である。例えば、フッ素系コート剤、シリコン系コート剤、シリコン・フッ素系コート剤等が使用され、なかでもシリコン・フッ素系コート剤が好ましく適用される。これらの防汚染機能層の厚さは好ましくは0.1〜10μm程度とする。
【0085】
(3)紫外線吸収機能層
紫外線吸収機能層は、電気的もしくは電子的な装置や自然光等に含まれる紫外線を、遮蔽ないし制御するものである。このことによって、ディスプレイを構成する各種の樹脂材料その他の構成材料(例えば、透明樹脂材料や色素等)の耐久性を更に向上させることが可能になる。本発明では、例えば380nmより下の領域の波長の全てにおいて光線透過率が、40%以下、好ましくは30%以下、である紫外線吸収機能層を前記反射防止機能層と近赤外線吸収層(本発明に於いては前記中間層)との間に設けることができる。このような紫外線吸収機能層が形成された複合電磁波シールドフィルタは、本発明の好ましい一具体例である。紫外線吸収剤は、上述の透明基材中に含有させてもよいし、紫外線吸収剤を含有させた独立の層、即ち、紫外線吸収機能層として設けられていてもよい。紫外線吸収機能層は、バインダー樹脂として、例えば、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エチレンービニルアルコール系共重合樹脂、エチレンー酢酸ビニル系共重合樹脂、AS樹脂、ポリエステル系樹脂、塩酢ビ樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、PVPA、ポリスチレン系樹脂、フェノール系樹脂、フェノキシ系樹脂、ポリスルフォン、ナイロン、セルロース系樹脂、酢酸セルロース系樹脂等に、紫外線吸収剤を含有させたものを、塗布法により、通常、0.1〜30μm、好ましくは0.5〜10μmの膜厚の層として形成する。尚、紫外線吸収機能層は、フィルタとしての使用時に近赤外線吸収層よりも外界側に位置させるか、外界側に位置する層に含有させるのが、近赤外線吸収層中の近赤外線吸収剤の劣化を保護するために好ましい。
【0086】
〔透明樹脂層〕
透明樹脂層6は、例えば図1(B)あるいは図1(C)のように、メッシュ層3の開口部を埋めるように形成される場合、特にメッシュ層3の開口部を埋めた上でメッシュ層3の非開口部上にも十分な厚さで形成される場合においては、この透明樹脂層6は、メッシュ層3の平坦化層として機能するものである。
【0087】
この透明樹脂層6によって、図1(B)の場合には、機能層5との接合界面および機能層5の表面がより平坦なものとなり、図1(C)の場合には、粘着層4との接合界面、粘着層4と機能層5との接合界面および機能層5の表面がより平坦なものにすることが
できる。
【0088】
この透明樹脂層6は、透明樹脂を形成でき、かつメッシュ層3の開口部を埋めて、本発明による複合電磁波シールドフィルタの構成層として形成可能なものであるならば、任意の材料および方法によって形成することができる。本発明では、例えば、電離放射線照射、熱その他の作用によって透明樹脂を形成可能な組成物からなる塗工液を、平坦面が形成されるように塗工し、それを硬化させることによって形成することが好ましい。
【0089】
<プラズマディスプレイ>
本発明によるプラズマディスプレイは、上記の複合電磁波シールドフィルタがプラズマディスプレイ(PDP)の観察側に配置されていること、を特徴とするものである。
【0090】
上記の本発明による複合電磁波シールドフィルタがPDP用として用いられる際は、PDPから放射される電磁波および近赤外線光をカットするべくPDPの前面に設置される。このため、可視光線の透過率が低いと、画像の鮮明さが低下することから、フィルタの可視光線の透過率は高い程良く、少なくとも30%以上、好ましくは50%以上必要である。
【0091】
また、近赤外線光のカット領域はPDPからの発光がある800〜1000nmであり、その領域の光線の透過率が30%以下、更に好ましくは10%以下、になるように設計することが好ましい。
【実施例】
【0092】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明する。なお、これらの記載により本発明を制限するものではない。
【0093】
<実施例1>
近赤外線吸収色素(A)の合成
250mlの4ツ口フラスコに、3−(4−クロロフェノキシ)−4,5−ビス(フェニルチオ)−6−フルオロフタロニトリル20g(41ミリモル)、三塩化バナジウム2g(13ミリモル)、オクタノール2gおよびベンゾニトリル30gを仕込み、還流下で撹拌しながら約6時間保持した。その後ベンゾニトリル60gを投入し60℃に保温後、1−(2−アミノエチル)モルホリン30g(230ミリモル)を加え60℃に保持しながらで撹拌し約6時間保持した。反応液を、アセトニトリルと水の混合溶液を用いたフタロニトリル法にて析出させた後、真空乾燥して、VOPc(PhS){4−ClPhO}(OCN(CHNH) を8g得た(ここで、Pcはフタロシアニンを、Phはフェニルを意味する。以下同様)。なお、近赤外線吸収色素(イ)をポリエステル系樹脂(バイロン200、東洋紡績(株)製)に分散させた場合の最大吸収波長は925nmであった。
【0094】
近赤外線吸収色素(B)の合成
3−(4−クロロフェノキシ)−4,5−ビス(フェニルチオ)−6−フルオロフタロニトリルの代わりに3−フェノキシ−4,5−ビス(4−メトキシフェニルチオ)−6−フルオロフタロニトリル22g(41ミリモル)を用いた以外はフタロシアニン化合物(A)と同様にして、VOPc{4−(CHO)PhS}(PhO)(OCN(CHNH)を10g得た。なお、近赤外線吸収色素(B)をポリエステル系樹脂(バイロン200、東洋紡績(株)製)に分散させた場合の最大吸収波長は975nmであった。
【0095】
近赤外線吸収色素(C)の合成
250mlの4ツ口フラスコに、3−フェノキシ−4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリル20g(34ミリモル)、3塩化バナジウム2g(13ミリモル)、およびn−オクタノール30mlを仕込み、窒素をバブリングしながら170℃下で攪拌しながら約4時間保持した。その後常温まで冷却し、PhCHNHを15g(136ミリモル)とベンゾニトリル120mlを加え、90℃に保温しながらで約5時間保持した。反応液を冷却し、フタロニトリル法にて析出させた後、真空乾燥して、VOPc(2,5−ClPhO)(PhO)(PhCHNH)を180g得た。なお、近赤外線吸収色素(C)をポリエステル系樹脂(バイロン200、東洋紡績(株)製)に分散させた場合の最大吸収波長は878nmであった。
【0096】
近赤外線吸収色素(D)の合成
三塩化バナジウムの代わりに、塩化銅1g(10ミリモル)を用いた他は化合物(C)の合成と同様にして、CuPc(2,5−ClPhO)(PhO)(PhCHNH)を180g得た。なお、近赤外線吸収色素(D)をポリエステル系樹脂(バイロン200、東洋紡績(株)製)に分散させた場合の最大吸収波長は810nmであった。
【0097】
複合電磁波シールドフィルタの作製
図3(A)において、先ず、メッシュ状導電体層3aとする金属箔として、一方の面に銅−コバルト合金粒子から成る黒化層3cが形成された厚さ10μmの連続帯状の電解銅箔を用意した。また、透明基材2として厚さ100μmで連続帯状の無着色透明な二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用意した。
【0098】
そして、前記銅箔の両面に対して、亜鉛めっき後、ディッピング法にて公知のクロメート処理を行い、表裏両面に防錆層3bを形成した。次いで、この銅箔をその黒化層面側で上記透明基材に、平均分子量3万のポリエステルポリウレタンポリオール12質量部と、キシレンジイソシアネート系プレポリマー1質量部とから成る透明な二液硬化型ウレタン樹脂系接着剤でドライラミネートした後、50℃3日間養生して、銅箔(防錆層)と透明基材間に厚さ7μmの透明接着剤層を有する連続帯状の銅貼積層シートを得た。
【0099】
次いで、上記銅貼積層シートに対して、その銅箔(全面の、導電体層、黒化層および防錆層)をフォトリソグラフィ法を利用したエッチングにより、防錆層3b、メッシュ状導電体層3aおよび黒化層3cからなるメッシュ層3が透明基材2上に形成されたメッシュ積層シートを得た。
【0100】
エッチングは、具体的には、カラーTVシャドウマスク用の製造ラインを利用して、連続帯状の上記銅貼積層シートに対してマスキングからエッチングまでを行った。すなわち、上記銅貼積層シートの導電体層面全面にエッチングレジストを塗布後、所望のメッシュパターンを密着露光し、現像、硬膜処理、ベーキング後、塩化第二鉄溶液で黒化層、防錆層を含めて銅箔をエッチングしてメッシュ状の開口部を形成し、次いで、水洗、レジスト剥離、洗浄、乾燥を順次行った。メッシュ層のメッシュの形状は、図3に示されるように、その開口部が正方形で非開口部となる線状部分のライン幅は10μm、そのライン間隔(ピッチ)は300μm、メッシュ部3Aの長方形領域の長辺に対する劣角として定義されるバイアス角度49度である。また、メッシュ層のメッシュは、連続帯状のシートを所望の大きさの枚葉の四角形のシートに切断した時に、その四辺外周に開口部が無い幅15mmの額縁部3Bを残す様にエッチングした。
【0101】
次いで、一旦巻き取られた上記メッシュ積層シートを、巻き出してそのメッシュ層3の面に対して、粘着層4を形成する為に、所定の近赤外線吸収色素を添加した粘着剤形成用塗液(詳細後記)を、間欠塗工によって、メッシュ上に(固形分基準)塗工量で25g/m塗布した。塗工は、幅方向に走る額縁部および両側の額縁部の全内周から2.5mm外側の位置まで塗工した。
【0102】
なお、上記粘着剤形成用塗液は、上記の近赤外線吸収色素(A)〜(D)、粘着主剤としてアクリル系粘着剤(SK1811L、綜研化学(株)製)を80g、イソシアネート系硬化剤(L−45、綜研化学(株)製)を1.6g、トルエン:メチルエチルケトン(以下、MEK)=1:1の混合溶媒20gを混合したものであって、上記塗工量で塗工後に於ける開口部での粘着層中の単位面積当りの濃度(以下、「面積濃度」とも呼ぶ)が順に、近赤外線吸収色素(A):0.09g/m、近赤外線吸収色素(B):0.13g/m、近赤外線吸収色素(C):0.13g/m、近赤外線吸収色素(D):0.18g/mとなる様な割合で含有したものである。
【0103】
そして、上記塗布後、溶剤を乾燥後の塗膜に対して、厚さ50μmの連続帯状の二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(コスモシャインA400、東洋紡績(株)製)をその易接着処理未処理面で塗膜にラミネートした本発明による複合電磁波シールドフィルタを製造した。
【0104】
複合電磁波シールドフィルタの評価
得られた本発明による複合電磁波シールドフィルタの製造直後の分光特性を分光光度計(島津製作所製:UV−3100)を用いて測定した。一方、上記の本発明による複合電磁波シールドフィルタを、温度60℃、湿度95%の雰囲気中に100時間の条件下で保存した後の分光特性を、上記と同様に測定した。
結果は、図4に示される通りである。図4において、(イ)は製造直後の分光特性を、(ロ)は保存後の分光特性を示す。図4から明らかな様に、保存後の近赤外線領域の分光透過率は800〜950nm域において15%以下を保持し、且つ可視光線域(380〜780nm)に於いても変化は認められ無い。
【0105】
<実施例2>
近赤外線吸収色素として3種類の近赤外線吸収色素、即ち、近赤外線吸収色素(A):0.13g/m、近赤外線吸収色素(C):0.13g/m、近赤外線吸収色素(D):0.18g/mを用いた以外は実施例1と同様にして複合電磁波シールドフィルタの製造を行った。
得られた複合電磁波シールドフィルタの製造直後の分光特性、および同フィルタを温度60℃、湿度95%の雰囲気中に100時間の条件下で保存した後の分光特性を、実施例1と同様に測定した。
結果は、図5に示される通りである。図5(イ)は製造直後の分光特性を、図5(ロ)は保存後の分光特性を示す。図5から明らかなように、1000nm付近の光線透過率は若干高いものの、PDPパネルからの近赤外線輻射強度の強い800−950nmも光透過率は10%以下であり近赤外線を充分に遮蔽していた。
【0106】
<比較例1>
実施例1の粘着剤形成用塗液において、近赤外線吸収色素(A)〜(D)の代わりに、ジインモニウム色素(IRG−022、日本化薬(株)製)を0.25g/mおよび2種類の近赤外線吸収色素、即ち、近赤外線吸収色素(C):0.13g/m、近赤外線吸収色素(D):0.12g/mを用いた以外は実施例1と同様にして、複合電磁波シールドフィルタの製造を行った。
得られた複合電磁波シールドフィルタの製造直後の分光特性、および同フィルタを温度60℃、湿度95%の雰囲気中に100時間の条件下で保存した後の分光特性を、実施例1と同様に測定した。
結果は、図6に示される通りである。図6において、(イ)は製造直後の分光特性を、(ロ)は保存後の分光特性を示す。図6から明らかな様に、保存後の近赤外線領域の光透過率は900〜1000nm付近で30%を超過し近赤外線遮断性能は不十分となっている。且つ可視域(380〜780nm)に於いても明らかに変化を来たし、色相の変化が認められた。
【0107】
<比較例2>
近赤外線吸収色素として2種類の近赤外線吸収色素、即ち、近赤外線吸収色素(C):0.13g/m、近赤外線吸収色素(D):0.12g/mのみを用いた以外は実施例1と同様にして複合電磁波シールドフィルタの製造を行った。
得られた複合電磁波シールドフィルタの製造直後の分光特性、および同フィルタを温度60℃、湿度95%の雰囲気中に100時間の条件下で保存した後の分光特性を、実施例1と同様に測定した。
結果は、図7に示される通りである。図7(イ)は製造直後の分光特性を、図7(ロ)は保存後の分光特性を示す。図7から明らかなように、保存試験前後で分光特性の変化は殆ど起きていないが、PDPパネルからの近赤外線輻射強度の強い800−950nmのうち900nm以降を充分に遮蔽できなかった。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明による複合電磁波シールドフィルタの形態例を例示する断面図。
【図2】本発明による複合電磁波シールドフィルタの形態例を例示する断面図。
【図3】メッシュ層の周囲に設ける額縁部を例示する平面図。
【図4】実施例1で得られた複合電磁波シールドフィルタの分光特性を示す図。
【図5】実施例2で得られた複合電磁波シールドフィルタの分光特性を示す図。
【図6】比較例1で得られた複合電磁波シールドフィルタの分光特性を示す図。
【図7】比較例2で得られた複合電磁波シールドフィルタの分光特性を示す図。
【符号の説明】
【0109】
1、10〜14 複合電磁波シールドフィルタ
2 透明基材
3 メッシュ層
3a メッシュ状導電体層
3b 防錆層
3c 黒化層
3A メッシュ部
3B 額縁部
4 粘着層
5 機能層
6 透明樹脂層
7 透明基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波シールド性能と近赤外線吸収性能を有する複合電磁波シールドフィルタであって、
透明基材と、メッシュ状導電体層を含むメッシュ層と、中間層として粘着層とを含んでなり、この粘着層が、下記の四種類の近赤外線吸収色素(A)〜(D)の内の少なくとも三種類を含有することを特徴とする、複合電磁波シールドフィルタ。
近赤外線吸収色素(A):
下記の式〔I〕で表されるフタロシアニン化合物(但し、A〜A16の内の少なくとも4つは硫黄原子を介する置換基であり、かつ、少なくとも3つは塩素原子を有する。Mは酸化バナジウムである。)
近赤外線吸収色素(B):
下記の式〔I〕で表されるフタロシアニン化合物(但し、A〜A16の内の少なくとも4つは硫黄原子を介する置換基であり、かつ、実質的に塩素原子を有さない。Mは酸化バナジウムである。)
近赤外線吸収色素(C):
下記の式〔I〕で表されるフタロシアニン化合物(但し、A〜A16の内の少なくとも4つは窒素原子を介する置換基であり、かつ、硫黄原子を介する置換基を実質的に含まない。Mは酸化バナジウムである。)
近赤外線吸収色素(D):
下記の式〔I〕で表されるフタロシアニン化合物(但し、A〜A16の内の少なくとも4つは窒素原子を介する置換基であり、かつ硫黄原子を介する置換基を実質的に含まない。Mは銅である。)
【化1】

(式〔I〕中、A〜A16は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ヒドロキシスルホニル基、アミノスルホニル基、あるいは窒素原子、硫黄原子、酸素原子またはハロゲン原子を含んでも良い炭素数1〜20の置換基を表し、かつ、隣り合う2個の置換基が連結基を介して繋がっていてもよい。Mは、酸化バナジウムまたは銅を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の複合電磁波シールドフィルタがディスプレイの観察者側に配置されていることを特徴とする、プラズマディスプレイ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−319251(P2006−319251A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142588(P2005−142588)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】