説明

複層塗膜形成方法

【課題】電着塗膜とアンダーコート塗膜との間の滑りが小さく、かつ、アンダーコートの密着性に優れた複層塗膜形成方法を提供すること。
【解決手段】本発明の複層塗膜形成方法は、被塗物上に、カチオン性エポキシ樹脂、イソシアネート硬化剤、アクリル系表面改質剤および顔料を含有するカチオン性電着塗料を塗装し、焼き付けて、電着塗膜を形成する工程と、この電着塗膜の塗装面に、アクリル重合体微粒子、可塑剤、充填剤、ブロック型ウレタン樹脂およびミネラルターペンを含有するアクリルゾル系アンダーコート塗料を塗装し、焼き付けて、アンダーコート塗膜を形成する工程と、を含む。カチオン性電着塗料は、200ppm〜1000ppmのヒンダードフェノール系化合物をさらに含有し、アンダーコート塗料は、塗料液全体に対してミネラルターペンを5質量%〜11質量%含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層塗膜形成方法に関する。より詳細には、本発明は、電着塗膜と防錆保護塗膜とを有する複層塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電着塗膜が形成された被塗物に車体用防錆保護塗料(以下、アンダーコートと称する)を塗布し、複層塗膜を形成する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、このような技術においては、複層塗膜の加熱硬化時に電着塗膜とアンダーコートとの間で滑りが生じ、塗膜外観が不良になるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−118893号公報(段落0014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、電着塗膜とアンダーコート塗膜との間の滑りが小さく、かつ、アンダーコートの密着性に優れた複層塗膜形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の複層塗膜形成方法は、被塗物上に、カチオン性エポキシ樹脂、イソシアネート硬化剤、アクリル系表面改質剤および顔料を含有するカチオン性電着塗料を塗装し、焼き付けて、電着塗膜を形成する工程と、該電着塗膜の塗装面に、アクリル重合体微粒子、可塑剤、充填剤、ブロック型ウレタン樹脂およびミネラルターペンを含有するアクリルゾル系アンダーコート塗料を塗装し、焼き付けて、アンダーコート塗膜を形成する工程と、を含む。該カチオン性電着塗料は、200ppm〜1000ppmのヒンダードフェノール系化合物をさらに含有し、該アンダーコート塗料は、塗料液全体に対してミネラルターペンを5質量%〜11質量%含有する。
好ましい実施形態においては、上記焼き付け後の電着塗膜のヨウ化メチレン接触角は42°以下である。
好ましい実施形態においては、上記可塑剤はジイソノニルフタレートであり、上記充填剤は炭酸カルシウムであり、上記アンダーコート塗料の塗装後かつ焼き付け前において、上記電着塗膜近傍100μmにおけるアンダーコート塗膜は、炭酸カルシウムに対するIRピーク強度比で1.0〜3.2のジイソノニルフタレートを含有する。
好ましい実施形態においては、上記アンダーコート塗料において、上記ジイソノニルフタレートの配合量は塗料液全体に対して15質量%〜40質量%であり、上記炭酸カルシウムの配合量は塗料液全体に対して20質量%〜45質量%である。
好ましい実施形態においては、上記アンダーコート塗料において、上記アクリル重合体微粒子/前記ブロック型ウレタン樹脂の質量比は90/10〜15/85である。
好ましい実施形態においては、上記被塗物は自動車車体である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、電着塗料に特定量のヒンダードフェノール系化合物を含有させ、かつ、アンダーコート塗料に特定量のミネラルターペンを含有させることにより、電着塗膜とアンダーコート塗膜との間の滑りが小さく、かつ、アンダーコートの密着性に優れた複層塗膜形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の複層塗膜形成方法は、被塗物上に、カチオン性電着塗料を塗装し、焼き付けて、電着塗膜を形成する工程と、該電着塗膜の塗装面に、アクリルゾル系アンダーコート塗料を塗装し、焼き付けて、アンダーコート塗膜を形成する工程と、を含む。まず、本発明に用いられる被塗物および各塗料について説明し、次いで、本発明の複層塗膜の形成方法を説明する。
【0008】
A.被塗物
上記被塗物としては、電着塗装が可能な任意の基材が挙げられる。このような基材としては、例えば、鉄、鋼、アルミニウム、錫、亜鉛、およびこれらの金属を含む合金、ならびにこれらの金属のめっきまたは蒸着製品が挙げられる。具体的には、これら金属部材を用いて製造された乗用車、トラック、オートバイ、バス等の自動車の車体および部品等が挙げられる。また、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂類や各種のFRP等に導電処理を施したプラスチック材料を基材として使用することもできる。
【0009】
本発明の複層塗膜形成方法においては、上記基材をそのまま使用してもよく、あるいは電着塗装前に脱脂や化成処理等の前処理を行なってもよい。
【0010】
B.カチオン性電着塗料
本発明の複層塗膜形成方法に用いられるカチオン性電着塗料は、カチオン性エポキシ樹脂、イソシアネート硬化剤、アクリル系表面改質剤および顔料を含有する。本発明の複層塗膜形成方法においては、カチオン性電着塗料は、200ppm〜1000ppmのヒンダードフェノール系化合物をさらに含有する。
【0011】
B−1.カチオン性エポキシ樹脂
上記カチオン性エポキシ樹脂としては、任意の適切な樹脂が採用され得る。カチオン性エポキシ樹脂の代表例としては、アミンで変性されたエポキシ樹脂が挙げられる。カチオン性エポキシ樹脂の具体例は、例えば、特開昭54−4978号公報、同昭56−34186号公報などに記載されている。
【0012】
上記カチオン性エポキシ樹脂は、典型的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ環の全部をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環するか、あるいは、一部のエポキシ環を他の活性水素化合物で開環し、残りのエポキシ環をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環して製造される。
【0013】
上記ビスフェノール型エポキシ樹脂の典型例としては、ビスフェノールA型またはビスフェノールF型エポキシ樹脂が挙げられる。ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、エピコート828(油化シェルエポキシ社製、エポキシ当量180〜190)、エピコート1001(同、エポキシ当量450〜500)、エピコート1010(同、エポキシ当量3000〜4000)が挙げられる。ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としてはエピコート807(同、エポキシ当量170)が挙げられる。
【0014】
上記カチオン性エポキシ樹脂として、特開平5−306327号公報に記載される、下記式
【0015】
【化1】

【0016】
[式中、Rはジグリシジルエポキシ化合物のグリシジルオキシ基を除いた残基、R’はジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた残基、nは正の整数を意味する。]で表されるオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を用いてもよい。耐熱性および耐食性に優れた塗膜が得られるからである。
【0017】
エポキシ樹脂にオキサゾリドン環を導入する方法としては、例えば、メタノールのような低級アルコールでブロックされたブロックイソシアネート硬化剤とポリエポキシドを塩基性触媒の存在下で加熱保温し、副生する低級アルコールを系内より留去することで得られる。
【0018】
特に好ましいエポキシ樹脂は、オキサゾリドン環含有エポキシ樹脂である。耐熱性及び耐食性に優れ、更に耐衝撃性にも優れた塗膜が得られるからである。
【0019】
二官能エポキシ樹脂とモノアルコールでブロックしたジイソシアネート(すなわち、ビスウレタン)とを反応させるとオキサゾリドン環を含有するエポキシ樹脂が得られることは公知である。このオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂の具体例および製造方法は、例えば、特開2000−128959号公報の〔0012〕〜〔0047〕に記載されている。
【0020】
これらのエポキシ樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、および単官能性のアルキルフェノールのような適切な樹脂で変性してもよい。また、エポキシ樹脂は、エポキシ基とジオールまたはジカルボン酸との反応を利用して鎖延長することができる。
【0021】
これらのエポキシ樹脂は、好ましくは開環後0.3〜4.0meq/gのアミン当量となるようにして、より好ましくはそのうちの5〜50%を1級アミノ基が占めるようにして活性水素化合物で開環される。
【0022】
カチオン性基を導入し得る活性水素化合物としては、例えば、1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩、スルフィド及び酸混合物が挙げられる。1級、2級および/または3級アミノ基含有エポキシ樹脂を調製するためには、1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩を、カチオン性基を導入し得る活性水素化合物として用いる。
【0023】
具体例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエチルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルエタノールアミン酢酸塩、ジエチルジスルフィド・酢酸混合物などのほか、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどの1級アミンをブロックした2級アミンがある。アミン類は複数の種類を併用して用いてもよい。
【0024】
上記カチオン性エポキシ樹脂は、カチオン性電着塗料の固形分100質量部に対して、好ましくは20〜80質量部、さらに好ましくは30〜60質量部の割合で含有される。
【0025】
B−2.イソシアネート硬化剤
上記イソシアネート硬化剤としては、本発明の効果が得られる限りにおいて任意の適切なイソシアネートが採用され得る。代表例としては、ブロックイソシアネートが挙げられる。本明細書において、ブロックイソシアネートとは、ポリイソシアネートの反応性基をブロックして高温加熱時のみに反応するようにしたものをいう。ポリイソシアネートとは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう。ポリイソシアネートは、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系および芳香族−脂肪族系等のいずれであってもよい。
【0026】
ポリイソシアネートの具体例としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、及びナフタレンジイソシアネート等のような芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネート等のような炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、及び1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)等のような炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等のような芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトンイミン、ビューレット及び/又はイソシアヌレート変性物);等が挙げられる。これらは、単独で、または2種以上併用することができる。
【0027】
ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比2以上で反応させて得られる付加体またはプレポリマーもブロックイソシアネート硬化剤として使用してもよい。
【0028】
ポリイソシアネートをブロックするブロック剤は、イソシアネート基に付加し、常温では安定であるが解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生し得るものである。ブロック剤の具体例としては、フェノール、酸アミド、ラクタム、低級1価アルコール、セロソルブ、カプロラクタム、オキシム類が挙げられる。
【0029】
上記イソシアネート硬化剤は、硬化時にカチオン性エポキシ樹脂中の1級、2級アミノ基、水酸基、等の活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに十分な量が必要とされる。好ましいイソシアネート硬化剤の量は、カチオン性エポキシ樹脂とイソシアネート硬化剤との固形分質量比(カチオン性エポキシ樹脂/硬化剤)で表して90/10〜50/50であり、より好ましくは80/20〜65/35である。カチオン性エポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤との固形分量比の調整により、造膜時の塗膜(析出膜)の流動性および硬化速度が改良され、塗膜の平滑性が向上する。また、表面処理済みの鋼板がより小さな粗度であるものを使用する事により、電着塗膜の平滑性はより向上させる事が出来る。
【0030】
B−3.アクリル系表面改質剤
上記アクリル系表面改質剤は、代表的には、電着塗膜のハジキ防止に用いられる。1つの実施形態においては、アクリル系表面改質剤は、(a)5〜90質量%の水酸基含有アクリルモノマー、(b)5〜40質量%のアミノ基含有アクリルモノマー、(c)1〜40質量%の水酸基を持たないエーテル基含有アクリルモノマー、および(d)残余のその他のモノマーからなるモノマー組成を有する。アクリル系表面改質剤は、(a)〜(d)の成分を共重合させて得られる。
【0031】
上記水酸基含有アクリルモノマー(a)としては、任意の適切なものが用いられ得る。例えば、アルキレンジオールのモノ(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。アルキレンジオールのモノ(メタ)アクリレート類の好ましい具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。(メタ)アクリルアミド類の好ましい具体例としては、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。また、ヒドロキシアルキルモノ(メタ)アクリレートとε−カプロラクトンとの反応生成物またはヒドロキシアルキルモノ(メタ)アクリレートと六員環カーボネートとの反応生成物も好適に使用できる。
【0032】
水酸基含有アクリルモノマー(a)の配合量は、好ましくは5〜90質量%であり、さらに好ましくは10〜60質量%であり、特に好ましくは15〜40質量%である。水酸基含有アクリルモノマー(a)の配合量が少なすぎると、アンダーコート塗膜との密着性が不十分となる場合があり、多すぎると、得られる複層塗膜の外観、耐水性および耐食性を低下させる場合がある。配合量が上記の範囲であれば、上記の特性を同時に満足させることができる。
【0033】
上記アミノ基含有アクリルモノマー(b)としては、任意の適切なものが用いられ得る。具体例としては、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルメタアクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピルメタアクリレート等が挙げられる。
【0034】
また、グリシジル(メタ)アクリレートのようなエポキシ基を有するモノマーを共重合させた後、エポキシ基に2級アミンを反応させてもよい。この場合には、予めグリシジル(メタ)アクリレートのアミン付加体を合成してから共重合体を合成したのと実質的に同様の効果を得ることができる。エポキシ基との反応に使用し得る2級アミンとしては、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、モルホリン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン等が挙げられる。特に、分子内にヒドロキシル基と2級アミノ基を有するアミンが好ましい。また、ジエチレントリアミンのメチルイソブチルケトンジケチミン化物や2−(2−アミノエチルアミノ)エタノールのメチルイソブチルケトンモノケチミン化物等も使用できる。アミンは、上記共重合体中のエポキシ基に対し化学量論的に反応させる。
【0035】
アミノ基含有アクリルモノマー(b)の配合量は、好ましくは5〜40質量%であり、さらに好ましくは5〜20質量%である。アミノ基含有アクリルモノマー(b)の配合量が少なすぎると、アンダーコート塗膜との密着性が不十分となる場合があり、多すぎると、得られる複層塗膜の耐水性および耐食性に悪影響を及ぼしたり、樹脂の水溶性が高くなりすぎて電着時の析出性に問題が生じる場合がある。
【0036】
上記水酸基を持たないエーテル基含有アクリルモノマー(c)としては、任意の適切なものが用いられ得る。具体例としては、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、4−メトキシブチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、プロポキシエチル(メタ)アクリレート、ヘキシルブチルオキシエチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルオキシブチル(メタ)アクリレート、フルフリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。水酸基を持たないエーテル基含有アクリルモノマーを使用することによって、アンダーコート塗膜との密着性を損なうことなく、ハジキの発生を防止することができる。
【0037】
水酸基を持たないエーテル基含有アクリルモノマー(c)の配合量は、好ましくは1〜40質量%であり、さらに好ましくは3〜20質量%である。水酸基を持たないエーテル基含有アクリルモノマー(c)の配合量が少なすぎると、アンダーコート塗膜との密着性が不十分となる場合があり、多すぎると、ハジキの発生を十分に防止できない場合がある。配合量が上記の範囲であれば、上記の特性を同時に満足させることができる。
【0038】
上記その他のモノマー(d)としては、代表的には、エチレン性不飽和モノマーが挙げられる。具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、酢酸ビニルが挙げられる。
【0039】
上記モノマー成分を共重合する際の重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート、t−ブチルヒドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオクテート等の有機過酸化物またはアゾビスイソブチロニトリル、アゾイソ酪酸ニトリル等のアゾ化合物等を使用することができる。重合開始剤は単独で用いてもよく、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。重合開始剤の添加量は、モノマー混合物に対して0.1〜15質量%であることが好ましい。
【0040】
共重合に用いる溶媒としては、トルエン、キシレン等のような芳香族系炭化水素、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のようなケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のようなエステル類およびn−ブタノール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メトキシプロパノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のようなアルコール類等を使用することができる。溶媒は、単独で用いてもよく複数を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
共重合時の反応温度は、好ましくは50℃〜170℃であり、さらに好ましくは80℃〜150℃である。
【0042】
アクリル系表面改質剤を構成する共重合体の数平均分子量は、GPCによるスチレン標準を用いた換算値で好ましくは1000〜50000である。分子量が小さすぎると、ハジキの発生抑制効果が不十分となる場合があり、大きすぎると、得られる複層塗膜表面の平滑性が損なわれる場合がある。分子量が上記の範囲であれば、上記の特性を同時に満足させることができる。分子量の調節は、共重合の条件を調整して行ってもよく、ドデシルメルカプタンやチオグリコール酸2−エチルヘキシル等の連鎖移動剤を使用して行ってもよい。
【0043】
上記アクリル系表面改質剤は、電着焼付け時にハジキの発生を抑え良好な硬化塗膜を与えるのに十分な量が必要とされる。好ましいアクリル系表面改質剤の含有量は、カチオン性電着塗料の樹脂固形分に対して1〜20質量%であり、より好ましくは2〜18質量%である。含有量が1質量%よりも少ないと、ハジキの発生抑制効果が不十分となる場合があり、20質量%よりも多いと、耐食性の低下を引き起こす恐れがある。
【0044】
B−4.顔料
上記顔料としては、電着塗料に使用され得る任意の適切な顔料が採用され得る。顔料の代表例としては無機顔料が挙げられる。無機顔料の具体例としては、チタンホワイト、カーボンブラック及びベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム及びリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛のような防錆顔料等、が挙げられる。
【0045】
顔料を電着塗料の成分として用いる場合、代表的には、顔料を予め高濃度で水性溶媒に分散させてペースト状にする。顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。一般にこのようなペーストを顔料分散ペーストという。顔料分散ペーストは、顔料を顔料分散樹脂ワニスと共に水性溶媒中に分散させて調製する。顔料分散樹脂としては、一般に、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体を用いる。水性溶媒としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。一般に、顔料分散樹脂は、顔料100質量部に対して固形分比20〜100質量部の量で用いる。顔料分散樹脂ワニスと顔料とを混合した後、その混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミル等の通常の分散装置を用いて分散させて、顔料分散ペーストを得ることができる。
【0046】
上記顔料は、上記カチオン性電着塗料の固形分100質量部に対して、好ましくは3〜30質量部、さらに好ましくは10〜25質量部の割合で使用される。
【0047】
B−5.ヒンダードフェノール系化合物
上記ヒンダードフェノール系化合物は、好ましくは、フェノールのオルソ位に、例えばt−ブチル基のような嵩高いバルキーな置換基を有する。捕捉したラジカルの連鎖移動が起こり難く、安定性が増すからである。ヒンダードフェノール系化合物は、さらに好ましくは、両側のオルソ位にバルキーな置換基を有する。
【0048】
ヒンダードフェノール系化合物としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、2−t−ブチル−4,6−ジ−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、2,6−t−ブチル−4−ヒドロキシメチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−2−ジメチルアミノ−p−クレゾール、n−オクタデシル−3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、スチレネートフェノール、2,2'−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2'−メチレン−ビス−(6−シクロヘキシル−4−メチルフェノール)、2,2'−ブチリデン−ビス−(2−t−ブチル−4−メチルフェノール)、4,4'−メチレン−ビス−(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、1,6−ヘキサンジオール−ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、テトラキス−{メチレン−3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}メタン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、3,9−ビス[1,1−ジ−メチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、ペンタエリスリトール−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレン−ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、ベンゼンプロパン酸−3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシC7−C9側鎖アルキルエステル、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−t−ブチル−a,a’,a”−(メチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、カルシウムジエチルビス[[[3,5−ビス−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスホネート](50%)とポリエチレンワックス(50%)とのブレンド、4,6−ビス−(オクチルチオメチル)−o−クレゾール等が挙げられる。
【0049】
好ましいヒンダードフェノール系化合物は、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2−t−ブチル−4,6−ジ−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、スチレネートフェノール、2,2'−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2'−メチレン−ビス−(6−シクロヘキシル−4−メチルフェノール)、4,4'−メチレン−ビス−(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、テトラキス−{メチレン−3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}メタン、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−t−ブチル−a,a’,a”−(メチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、ペンタエリスリトール−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートである。
【0050】
市販のヒンダードフェノール系化合物としては、例えば、住友化学社製のスミライザー(Sumilizer)BHT、スミライザーS、スミライザーBP-76、スミライザーMDP-S、スミライザーBP-101、スミライザーGA-80、スミライザーBBM-S、スミライザーWX-R、スミライザーNW、スミライザーGM、スミライザーGS、及び旭電化社製のアデカスタブAO-20、アデカスタブAO-30、アデカスタブAO-40、アデカスタブAO-50、アデカスタブAO-60、アデカスタブAO-75、アデカスタブAO-80、アデカスタブAO-330、アデカスタブAO-616、アデカスタブAO-635、アデカスタブAO-658、アデカスタブAO-15、アデカスタブAO-18、アデカスタブ328、アデカスタブAO-37、チバスペシャリティケミカルズ社製のイルガノックス1010、イルガノックス1035、イルガノックス1076、イルガノックス1098、イルガノックス1135、イルガノックス1330、イルガノックス1425WL、イルガノックス1520Lが挙げられる。
【0051】
ヒンダードフェノール系化合物は、カチオン性電着塗料の固形分に対して、上記のように200ppm〜1000ppmの割合で含有され、好ましくは300ppm〜600ppmの割合で含有される。ヒンダードフェノール系化合物をこのような範囲で用いることにより、硬化電着塗膜のヨウ化メチレン接触角を所望の範囲に制御することができる。これは、ヒンダードフェノール系化合物によって焼き付け時の塗膜の熱分解が抑制されることに関連すると推察される。なお、上記好適範囲の上限を超えても、増量による効果は得られない場合が多い。
【0052】
B−6.その他の成分
上記カチオン性電着塗料は、代表的には、水性媒体中の分散体であるので、水性媒体を含む。また、上記カチオン性電着塗料は、上記成分の他に、例えば、解離触媒、中和酸、有機溶媒を含み得る。
【0053】
上記解離触媒は、上記イソシアネート硬化剤のブロック剤解離を促進するためのものである。このような解離触媒としては、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫オキシドなどの有機錫化合物や、N−メチルモルホリンなどのアミン類、ストロンチウムや、コバルト、銅などの金属塩が使用できる。解離触媒の濃度は、カチオン性電着塗料中のカチオン性エポキシ樹脂とイソシアネート硬化剤の合計100質量部(固形分)に対して0.1質量部〜6質量部である。
【0054】
上記中和酸は、代表的には、上記水性媒体中に含有され、上記カチオン性エポキシ樹脂を中和して、バインダー樹脂エマルションの分散性を向上させる。中和酸としては、塩酸、硝酸、リン酸のような無機酸、ギ酸、酢酸、乳酸のような有機酸が挙げられる。使用される中和酸の量は、カチオン性エポキシ樹脂及びブロックイソシアネート硬化剤を含むバインダー樹脂固形分100gに対して、下限10mg当量、上限30mg当量の範囲であるのが好ましい。上記下限は15mg当量であるのがより好ましく、上記上限は29mg当量であるのがより好ましい。中和酸の量が10mg当量未満であると水への親和性が十分でなく水への分散ができないか、著しく安定性に欠ける状態となることが多く、30mg当量を超えると析出に要する電気量が増加し、塗料固形分の析出性が低下し、つきまわり性が劣る状態となることが多い。
【0055】
上記有機溶媒は、カチオン性エポキシ樹脂、イソシアネート硬化剤、顔料分散樹脂等の樹脂成分を合成する際に溶媒として必要であり、完全に除去するには煩雑な操作を必要とする。また、バインダー樹脂に有機溶媒が含まれていると造膜時の塗膜の流動性が改良され、塗膜の平滑性が向上する。カチオン性電着塗料に通常含まれ得る有機溶媒としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテルが挙げられる。
【0056】
上記カチオン性電着塗料は、上記以外にも、目的に応じて任意の適切な塗料用添加剤をさらに含むことができる。塗料用添加剤の具体例としては、可塑剤、界面活性剤、紫外線吸収剤が挙げられる。カチオン性電着塗料は、アミノ基含有アクリル樹脂、アミノ基含有ポリエステル樹脂等を含んでもよい。
【0057】
B−7.カチオン性電着塗料の調製
本発明で用いられるカチオン性電着塗料は、上記の各成分を水性溶媒中に分散することによって調製される。
【0058】
C.アクリルゾル系アンダーコート塗料
本発明の複層塗膜形成方法に用いられるアクリルゾル系アンダーコート塗料は、アクリル重合体微粒子、可塑剤、充填剤、ブロック型ウレタン樹脂およびミネラルターペンを含有する。本発明においては、アンダーコート塗料は、アンダーコート塗料液全体に対してミネラルターペンを5質量%〜11質量%含有する。
【0059】
C−1.アクリル重合体微粒子
上記アクリル重合体微粒子としては、アクリルゾルに使用され得る任意の適切な重合体微粒子を使用することができる。例えば、アクリル酸アルキルエステルや、メタクリル酸アルキルエステル等から選ばれるモノマーの単独重合体や共重合体を使用することができる。これらのモノマーとして、具体的には、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート等が挙げられる。
【0060】
アクリル重合体微粒子は、好ましくは、コア部およびシェル部から構成されているコア−シェル型微粒子である。コア−シェル型のアクリル重合体微粒子を用いる場合には、そのアクリルゾルの貯蔵安定性がより向上し、アンダーコートとして塗装した際の粘度上昇や、加熱硬化後のブリード発生をより抑制するという利点がある。さらに、アクリル重合体微粒子をコア−シェル型とした場合には、コア部を可塑剤親和性ポリマーにて構成し、シェル部を可塑剤非親和性ポリマーで構成することが好ましい。可塑剤と相溶性の乏しいシェル部のポリマーが、相溶性のあるコア部を被覆することにより、貯蔵中のアクリルゾルの粘度上昇を抑制し、貯蔵安定性がより向上する。また、このシェル部のポリマーは、適当な温度に加熱することによって、可塑剤との相溶性を有するため、加熱硬化後にブリードを発生することはない。
【0061】
上記コア部は、好ましくは、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、エチルメタクリレート等から選ばれるメタクリレートの単独重合体または共重合体を50質量%以上含有する重合体で構成される。このように、コア部を可塑剤と相溶性の高いものにすることで、加熱硬化後におけるブリードの発生を抑制することができる。特に、塗膜に柔軟性を付与するという観点から、コア部はブチルメタクリレートとイソブチルメタクリレートの共重合体を主体とすることが好ましい。
【0062】
上記シェル部は、好ましくは、メチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、スチレン等から選ばれるモノマーの単独重合体または共重合体を50質量%以上含有した重合体で構成される。このように、シェル部を可塑剤と相溶性の低いものとすることで、貯蔵中のアクリルゾルの粘度上昇を抑制し、貯蔵安定性がより向上する。特に、この貯蔵安定性をより向上させるという観点から、シェル部はメチルメタクリレートを主体とすることが好ましい。
【0063】
上記コア部と上記シェル部の構成比は、重合体の質量比で好ましくは25/75〜70/30である。コア成分が、その質量比として25/75より少ない場合には、上記望ましい範囲のものと比較して、加熱硬化後にブリードが発生する可能性が高くなる。また、コア成分がその質量比として70/30を超える場合には、上記望ましい範囲のものと比較して、シェル成分のコア部への被覆が不充分となることがあり、貯蔵安定性に影響することがある。
【0064】
アクリル重合体微粒子の分子量は、耐チッピング性、貯蔵安定性等の観点より、好ましくは重量平均分子量で10万〜数100万である。アクリル重合体微粒子の平均粒子径は、可塑剤への拡散性や貯蔵安定性の観点より、好ましくは0.1〜10μmである。
【0065】
C−2.可塑剤
上記可塑剤としては、本発明の効果が得られる限りにおいて任意の適切な化合物を用いることができる。可塑剤の具体例としては、ジイソノニルフタレート、ジ−(2−エチルヘキシル)フタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート等のフタル酸系可塑剤、ジ−(2−エチルヘキシル)アジペート、ジ−n−デシルアジペート、ジ−(2−エチルヘキシル)アゼレート、ジブチルセバケート、ジ−(2−エチルヘキシル)セバケート等の脂肪酸エステル系可塑剤、トリブチルホスフェート、トリ−(2−エチルヘキシル)ホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤、エポキシ化大豆油等のエポキシ系可塑剤、その他ポリエステル系可塑剤、安息香酸系可塑剤等が挙げられる。これらの可塑剤は、単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。好ましい可塑剤は、ジイソノニルフタレートである。安価で入手しやすいからである。
【0066】
1つの実施形態においては、可塑剤は、耐チッピング性、スプレー性等の観点から、アクリル重合体微粒子100質量部に対して、好ましくは50質量部〜500質量部の割合で配合される。1つの実施形態においては、可塑剤は、アンダーコート塗料液全体に対して、好ましくは15質量%〜40質量%、さらに好ましくは20質量%〜35質量%の割合で配合される。
【0067】
C−3.充填剤
上記充填剤としては、本発明の効果が得られる限りにおいて任意の適切なものを用いることができる。充填剤の具体例としては、炭酸カルシウム、マイカ、タルク、カオリンクレー、シリカ、硫酸バリウム等の他、ガラス繊維、ワラストナイト、アルミナ繊維、セラミック繊維、各種ホイスカー等の繊維状充填剤を使用することができる。好ましい充填剤は、炭酸カルシウムである。安価で入手しやすいからである。
【0068】
1つの実施形態においては、充填剤は、耐チッピング性、発泡性、コスト等の観点から、アクリル重合体微粒子100質量部に対して、好ましくは50質量部〜800質量部の割合で配合される。1つの実施形態においては、充填剤は、アンダーコート塗料液全体に対して、好ましくは20質量%〜45質量%、さらに好ましくは25質量%〜40質量%の割合で配合される。
【0069】
C−4.ブロック型ウレタン樹脂
上記ブロック型ウレタン樹脂としては、例えば、α−ポリオールとイソシアネートとを反応させて得られるウレタン樹脂を、ブロック剤を用いてブロックしたウレタン樹脂を使用することができる。α−ポリオールとしては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールが挙げられる。イソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)が挙げられる。ブロック剤は、上記B−2項で説明したとおりである。ウレタン樹脂としては、特に、汎用であるという理由から、ポリプロピレングリコール(PPG)とトリレンジイソシアネート(TDI)から合成されたウレタン樹脂が好ましい。
【0070】
上記アンダーコート塗料を自動車の床裏部やホイルハウス部に塗装する場合には、その後工程である焼き付け時の加熱を利用して、アンダーコート(アクリルゾル)をゲル化させる。この際、自動車の床裏部やホイルハウス部は、加熱装置の下方に位置する関係上、高い温度まで加熱されにくい(具体的には140℃程度に加熱されるにすぎない)。したがって、140℃程度の温度において、上記ブロック剤が解離し、後に説明する硬化剤との反応を促進させることが必要となる。解離温度が低いという観点から、アンダーコート塗料におけるブロック剤としては、オキシム類、アミン類が好ましい。具体例としては、メチルエチルケトンオキシムや3,5−ジメチルピラゾール等が挙げられる。特に、より低温で解離するという観点から、3,5−ジメチルピラゾールが好ましい。
【0071】
上記ブロック型ウレタン樹脂の配合量は、アクリル重合体微粒子/ブロック型ウレタン樹脂の質量比で、好ましくは90/10〜15/85である。配合量が90/10未満である場合には、上記望ましい範囲のものと比較して、チッピング性能や耐寒性、および塗膜の基材への接着性が不充分となることが多い。配合量が15/85を超える場合には、上記望ましい範囲のものと比較して、調製されたアクリルゾルの粘度が高くなり、塗装する際の作業性に影響を与えることが多い。
【0072】
C−5.ミネラルターペン
上記ミネラルターペンは、アンダーコート塗料の希釈剤として用いられる。ミネラルターペンは流動パラフィンの別称であり、ミネラルスピリット、白色鉱油、石油スピリット、白灯油、ホワイトスピリット等とも称される。本発明においては、ミネラルターペンは、塗料液全体に対して5質量%〜11質量%の割合、好ましくは7質量%〜9質量%の割合でアンダーコート塗料に含有される。ミネラルターペンをこのような量でアンダーコート塗料に用いることにより、電着塗膜とアンダーコート塗膜との間の滑りを良好に防止することができる。
【0073】
C−6.硬化剤
上記アンダーコート塗料は、代表的には、硬化剤を含有する。硬化剤としては、例えば、固形の脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、またはヒドラジド化合物等が挙げられる。比較的低温で硬化し、かつ貯蔵安定性が極めて良好であるという観点から、固形のヒドラジン系硬化剤が好ましい。固形のヒドラジン系硬化剤としては、例えば、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)、セバシン酸ジヒドラジド(SDH)等が挙げられる。これらのヒドラジド化合物は、比較的低温で硬化するので、アンダーコート塗料を上記のような140℃程度の温度に加熱した場合にブロック型ウレタン樹脂に結合しているブロック剤の解離を促進し、そのウレタン樹脂と反応する。その結果、ヒドラジド化合物はウレタン樹脂と尿素結合を形成し、この尿素結合により、アクリルゾルの塗膜の耐久性や塗膜と基材との接着性が向上する。また、これら固形のヒドラジン系硬化剤は、アクリルゾルを貯蔵する温度条件において、液状のウレタン樹脂中に分散しており、かつ融点が高いため、液状の硬化剤を用いた場合と比較して、格段に貯蔵安定性が向上する。なお、特に、汎用なヒドラジド化合物であるという理由から、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)が好ましい。また、硬化剤は、ウレタン樹脂を硬化させるために必要な量として、ヒドラジド化合物の活性水素当量がそのウレタン樹脂のイソシアネート当量と同量となる量を添加することが好ましい。
【0074】
C−7.その他の成分
上記アクリルゾル系アンダーコート塗料は、目的に応じて任意の適切な塗料用添加剤をさらに含むことができる。塗料用添加剤の具体例としては、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤が挙げられる。
【0075】
C−8.アンダーコート塗料の調製
上記アクリルゾル系アンダーコート塗料は、任意の適切な方法で調製することができる。例えば、任意の適切な混合機を用いて上記の各成分を充分に混合撹拌することにより調製することができる。混合機としては、例えば、プラネタリーミキサー、ニーダー、グレンミル、ロール等が挙げられる。
【0076】
D.複層塗膜形成方法
本発明の複層塗膜形成方法は、上記被塗物上に、上記カチオン性電着塗料を塗装し、焼き付けて、電着塗膜を形成する工程と、該電着塗膜の塗装面に、上記アクリルゾル系アンダーコート塗料を塗装し、焼き付けて、アンダーコート塗膜を形成する工程と、を含む。
【0077】
D−1.電着塗膜の形成
電着塗装は、上記A項に記載の被塗物を上記B項に記載のカチオン性電着塗料の浴に浸漬すること、および、当該被塗物を陰極として陽極との間に電圧を印加し、被膜を析出させること、を含む。電着塗料の浴液温度は、代表的には、10℃〜45℃である。印加電圧は、代表的には、50V〜450Vである。印加電圧が50V未満であると電着が不充分となることが多く、450Vを超えると、塗膜が破壊され異常外観となることが多い。電圧を印加する時間は、電着条件に応じて適切に設定され得る。印加時間は、代表的には2分〜4分である。
【0078】
電着塗膜の膜厚は、好ましくは5μm〜25μm、より好ましくは10μm〜20μmである。膜厚が5μm未満であると、防錆性が不充分となることが多く、25μmを超えると、塗料の浪費につながる。
【0079】
上記のようにして得られる電着塗膜を、そのまま又は水洗した後、焼き付けることによって、硬化電着塗膜が形成される。焼き付け温度は、好ましくは120℃〜260℃であり、さらに好ましくは140℃〜220℃である。焼き付け時間は、焼き付け温度等に応じて適切に設定され得る。焼き付け時間は、代表的には10分〜30分である。焼き付け時の加熱手段としては、任意の適切な加熱手段が採用され得る。例えば、ガス炉であってもよく、電気炉であってもよい。
【0080】
焼き付け後の電着塗膜(硬化電着塗膜)のヨウ化メチレン接触角は、好ましくは42°以下であり、さらに好ましくは40°以下である。ヨウ化メチレン接触角をこのような範囲とすることにより、アンダーコートの滑りが顕著に防止され得る。上記カチオン性電着塗料の組成を調整することにより(特に、ヒンダードフェノール系化合物の含有量を上記所定の範囲とすることにより)、ヨウ化メチレン接触角を42°以下に制御することができる。
【0081】
D−2.アンダーコート塗膜の形成
次に、上記硬化電着塗膜の塗装面に、上記アクリルゾル系アンダーコート塗料を塗装する。塗装方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体例としては、刷毛塗り、ローラー塗装、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装等が挙げられる。なお、自動車製造の塗装ラインサイドで、目的の塗膜膜厚を得ようとするならば、短時間に厚膜を得ることができるエアレススプレー塗装が最も適している。なお、本明細書において、エアレススプレー塗装は、静電エアレススプレー塗装およびエアアシストエアレススプレー塗装も包含する。
【0082】
上記のように、1つの実施形態においては、上記アンダーコート塗料に含有される可塑剤はジイソノニルフタレートであり、充填剤は炭酸カルシウムである。この場合、好ましくは、上記アンダーコート塗料の塗装後かつ焼き付け前において、上記電着塗膜近傍100μmにおけるアンダーコート塗膜は、炭酸カルシウムに対するIRピーク強度比で1.0〜3.2のジイソノニルフタレートを含有する。言い換えれば、アンダーコート塗膜は、電着塗膜近傍により高濃度でジイソノニルフタレートを含有する。これは、アンダーコート塗料に含まれるミネラルターペンの塗膜界面への移行量が増大し、それに伴ってジイソノニルフタレートの塗膜界面への移行量が増大するからであると推察される。従って、アンダーコート塗料を上記のような所定の範囲に抑制する事により、アンダーコートと電着塗膜の密着性が確保でき、アンダーコートの滑りが顕著に防止され得る。
【0083】
次いで、上記塗装されたアンダーコート塗料を焼き付けて、アンダーコート塗膜を形成する。焼き付け時の加熱温度、加熱時間および加熱手段は、任意の適切な条件が採用され得る。例えば、加熱は、一定温度で行ってもよく、温度を連続的に変化させて行ってもよく、温度を段階的に変化させて行ってもよい。加熱時間は、加熱温度に応じて適切に設定され得る。加熱手段としては、例えば、熱風循環乾燥炉が挙げられる。1つの実施形態においては、90℃〜100℃で5分〜10分、次いで、120℃〜140℃で15分〜30分の2段階で焼き付けが行われる。
【0084】
以上のようにして、電着塗膜とアンダーコート塗膜(防錆保護塗膜)とを有する複層塗膜が形成される。
【0085】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例には限定されない。なお、実施例における評価方法は以下の通りである。また、特に明記しない限り、実施例における「部」および「%」は質量基準である。
【0086】
(I)ヨウ化メチレン接触角
硬化電着塗膜上に0.4mlのヨウ化メチレンを滴下し、滴下直後の接触角を、協和界面科学社製、固液界面解析装置DropMaster500(商品名)を用いて測定した(測定温度:25℃)。
(II)アンダーコートの滑り
硬化電着塗膜が形成された板(電着塗板)にアンダーコート塗料を直径10mmのビート形状で、長さ10cm塗布し、試験片とした。この試験片を垂直に吊り下げ、30分間静置した。次に、試験片をそのままの状態で、95℃で8分間焼き付け、次いで130℃で20分間焼き付けた。この試験片のアンダーコート塗膜の滑り(垂れ)長さを測定した。滑りの評価基準は以下の通りである。
○:滑り(垂れ)の長さが3mm以下
×:滑り(垂れ)の長さが3mmを超える
(III)IRピーク強度比
20MILドクターブレードにて電着塗板にアンダーコート塗料を塗布した後、60分間放置した。その後、4MILドクターブレードにてアンダーコート塗膜の上層部を掻きとって除去した。上層部を除去したアンダーコート塗膜から試料を採取し、日本分光株式会社製FT/IR−4100を用いて、炭酸カルシウム(848cm−1)に対するジイソノニルフタレート(1667cm−1)のピーク面積強度比を算出した。
(IV)アンダーコートの密着性
100×25×0.8mmの電着塗板の端部にアンダーコート塗料を塗布し、接着部の面積25×25mm、厚さ3mmとなるようにスペーサーを挟み圧着した。この状態で、130℃で20分間焼付を行った後、室温にて12時間静置させた。その後、スペーサーを取り除き、引っ張り速度50mm/minでせん断方向に引っ張り、密着性を評価した。評価基準は以下の通りである。
○:凝集破壊
×:界面破壊
【0087】
(製造例1:カチオン性電着塗料の調製)
(1)アミン変性エポキシ樹脂の製造
撹拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに、液状エポキシ940部、メチルイソブチルケトン(以下、MIBKと略す)61.4部およびメタノール24.4部を仕込んだ。反応混合物を撹拌下室温から40℃まで昇温したあと、ジブチル錫ラウレート0.01部およびトリレンジイソシアネート(以下TDIと略す)21.75部を投入した。40〜45℃で30分間反応を継続した。反応はIRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。上記反応物にポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル82.0部、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート125.0部を添加した。反応は55℃〜60℃で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。続いて昇温し、100℃でN,N-ジメチルベンジルアミン2.0部投入し、130℃で保持、分留管を用いメタノールを分留すると共に反応させたところ、エポキシ当量は284となった。その後、MIBKで不揮発分95%となるまで希釈し、反応混合物を冷却し、ビスフェノールA268.1部と2-エチルヘキサン酸93.6部を投入した。反応は120℃〜125℃で行いエポキシ当量が1320となったところでMIBKで不揮発分85%となるまで希釈し反応混合物を冷却した。ジエチレントリアミンの1級アミンをMIBKブロックしたもの93.6部、N−メチルエタノールアミン65.2部を加え、120℃で1時間反応させた。その後、カチオン性基を有するオキサゾリドン環含有変性エポキシ樹脂(樹脂固形分85%)を得た。
【0088】
(2)イソシアネート硬化剤の製造
クルードMDI 1330部およびMIBK585.6部を反応容器に仕込み、これを85〜95℃まで加熱した後、ブチルジグリコールエーテル456.6部を2.5時間かけて滴下した。滴下終了後、一時間保温した。その後MIBK194.8部を投入し、50℃まで冷却し、プロピレングリコール532部を滴下した。滴下完了後60℃に加温し、一時間保温した。ジブチル錫ラウレートを0.4部投入した後昇温し、70℃にて1時間保温した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、ブロックポリイソシアネート硬化剤を得た。
【0089】
(3)アクリル系表面改質剤の製造
攪拌器、温度計、デカンター、還流冷却器、窒素導入管および滴下ロートを備えた反応容器にブチルセロソルブ1500部を仕込み、窒素ガスを導入しつつ120℃に昇温し、メタクリル酸メチル627部、メタクリル酸ラウリル191部、メタクリル酸ヒドロキシエチル182部、アクリル酸−2−メトキシエチル300部、メタクリル酸ジメチルアミノエチル200部およびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート50部の混合物を3時間かけて等速滴下した。滴下終了後、120℃で3時間さらに反応させた後冷却し、アクリル系表面改質剤を得た。得られた樹脂は不揮発分50%で数平均分子量10000であった。
【0090】
(4)顔料分散樹脂の製造
撹拌装置、冷却管、窒素導入管および温度計を装備した反応容器にイソホロンジイソシアネート(以下IPDIと略す)2220部およびMIBK342.1部を仕込み、昇温して、50℃でジブチル錫ラウレート2.2部を投入し、60℃でメチルエチルケトンオキシム(以下MEKオキシムと略)878.7部を仕込んだ。その後、60℃で1時間保温し、NCO当量が348となっていることを確認し、ジメチルエタノールアミン890部を投入した。60℃で1時間保温し、IRでNCOピークが消失していることを確認後、60℃を超えないよう冷却しながら50%乳酸1872.6部と脱イオン水495部を投入して、4級化剤を得た。
また、別の反応容器にTDI870部およびMIBK49.5部を仕込み、50℃以上にならないように2−エチルヘキサノール667.2部を2.5時間かけて滴下した。滴下終了後MIBK35.5部を投入し、30分保温した。その後、NCO当量が330〜370になっていることを確認し、ハーフブロックポリイソシアネートを得た。
さらに、撹拌装置、冷却管、窒素導入管および温度計を装備した別の反応容器中にエポキシ940.0部を仕込み、メタノール38.5部で希釈した後、ジブチル錫ジラウレート0.1部を加えた。これを50℃に昇温した後、TDIを87.1部投入し、さらに昇温した。100℃でN,N−ジメチルベンジルアミン1.4部を加え、130℃で2時間保温した。このとき、分留管によりメタノールを分留した。これを115℃まで冷却し、MIBKを固形分濃度90%になるまで仕込み、その後ビスフェノールAを270.3部、2−エチルヘキサン酸を39.2部仕込み、125℃で2時間加熱攪拌した後、前述のハーフブロックポリイソシアネート516.4部を30分間かけて滴下し、その後30分間加熱攪拌した。ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル1506部を徐々に加え溶解させた。90℃まで冷却後、前述の4級化剤を加え、70〜80℃に保ち、酸価2以下を確認して顔料分散樹脂を得た。この顔料分散樹脂の樹脂固形分は30%であった。
【0091】
(5)顔料分散ペーストの製造
サンドグラインドミルに上記(4)で得た顔料分散樹脂を106.9部、カーボンブラック1.6部、カオリン40部、二酸化チタン55.4部、リンモリブデン酸アルミニウム3部、脱イオン水13部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た(固形分60%)。
【0092】
(6)カチオン性電着塗料の調製
上記(1)で得られたアミン変性エポキシ樹脂と上記(2)で得られたブロックイソシアネート硬化剤とを、固形分比で70/30で均一になるように混合した。さらに、ヒンダードフェノール系化合物(3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−t−ブチル−a,a’,a”−(メチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、酸化防止剤、チバスペシャリティケミカルズ社製、製品名「イルガノックス1330」)を樹脂固形分に対し400ppm混合し、上記(3)で得られたアクリル系表面改質剤を樹脂固形分に対し3%混合した。その後、樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量が27になるよう氷酢酸で中和し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のブロックイソシアネート含有のアミン変性ビスフェノール型エポキシ樹脂エマルションを得た。
このエマルション1730部および上記(5)で得られた顔料分散ペースト295部と、イオン交換水1970部と、10%酢酸セリウム水溶液40部およびジブチル錫オキサイド10部とを混合して、固形分20重量%のカチオン電着塗料組成物Aを得た。
【0093】
(製造例2:カチオン性電着塗料の調製)
ヒンダードフェノール系化合物として、ペンタエリスリトール−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](酸化防止剤、チバスペシャリティケミカルズ社製、製品名「イルガノックス1010」)を800ppm用いたこと以外は製造例1と同様にして、カチオン性電着塗料Bを調製した。
【0094】
(製造例3:カチオン性電着塗料の調製)
ヒンダードフェノール系化合物として、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(酸化防止剤、チバスペシャリティケミカルズ社製、製品名「イルガノックス1076」)を400ppm用いたこと以外は製造例1と同様にして、カチオン性電着塗料Cを調製した。
【0095】
(製造例4:カチオン性電着塗料の調製)
ヒンダードフェノール系化合物を用いなかったこと以外は製造例1と同様にして、カチオン性電着塗料Dを調製した。
【0096】
(製造例5:アンダーコート塗料の調製)
コア部はブチルメタクリレートとイソブチルメタクリレートの共重合体を主体とし、シェル部はメチルメタクリレート重合体を主体とする、コア−シェル型アクリル重合体微粒子を通常の方法で調製した。この微粒子の平均粒子径は60μmであった。一方、TDIとポリプロピレングリコール(PPG)とを反応させて得られたウレタン樹脂を、アミン系ブロック剤である3,5−ジメチルピラゾールでブロックしたブロック型ウレタン樹脂を得た。
次に、上記アクリル重合体微粒子を90質量部、上記ブロック型ウレタン樹脂を10質量部、硬化剤(アジピン酸ジヒドラジド)を0.8質量部、可塑剤(ジイソノニルフタレート)を150質量部、発泡剤(アゾジカルボンアミド)を3質量部、充填剤(炭酸カルシウム)を180質量部、ミネラルターペンを40質量部配合し、ニーダーにより混合分散してアンダーコート塗料Eを得た。ここで、ミネラルターペンのアンダーコート塗料液全体に対する含有量は8.4質量%であった。
【0097】
(製造例6:アンダーコート塗料の調製)
ミネラルターペンのアンダーコート塗料液全体に対する含有量が12.4質量%となるように配合したこと以外は製造例5と同様にして、アンダーコート塗料Fを得た。
【0098】
(実施例1)
基材としてリン酸亜鉛処理を施したSPCC鋼板を用意した。この基材を、カチオン性電着塗料Aを用いて電着塗装した。電着塗料Aの浴液温度は30℃、印加電圧は200V、印加時間は3分であった。このようにして形成された塗膜を焼き付けて、硬化電着塗膜を得た。焼き付けは、ガス炉を用いて170℃で20分行った。得られた電着塗膜の厚みは15μmであった。
次に、上記電着塗膜の塗装面にアンダーコート塗料Eを塗布し、95℃で8分間焼き付け、次いで130℃で20分間焼き付けた。得られたアンダーコート塗膜は長さ10cm、直径10mmのビート形状(蒲鉾形)であった。以上のようにして、複層塗膜aを形成した。本実施例で用いた電着塗料について、複層塗膜aの特性を上記の(I)〜(III)で評価した。
また、上記電着塗膜の塗装面にアンダーコート塗料Eを塗布し、130℃で20分間焼き付けた。得られたアンダーコート塗膜の厚みは3mmであった。以上のようにして、複層塗膜bを形成した。本実施例で用いた電着塗料について、複層塗膜bの特性を上記の(IV)で評価した。結果を下記表1に示す。
【0099】
【表1】

【0100】
(実施例2〜3および比較例1〜2)
上記表1に示す電着塗料およびアンダーコート塗料を用いて複層塗膜を形成した。得られた塗膜について、実施例1と同様の評価に供した。結果を上記表1に示す。
【0101】
表1から明らかなように、電着塗料にヒンダードフェノール化合物を含有させることにより、ヨウ化メチレン接触角を小さくすることができる。一方、アンダーコート塗料におけるミネラルターペンの含有量を調整することにより、上層部を除去した焼付け前のアンダーコート塗膜においてジイソノニルフタレート(DINP)/炭酸カルシウムの強度比を小さくすることができる。言い換えれば、電着塗膜近傍のアンダーコート塗膜のジイソノニルフタレート含有量を少なく制御できる。これらを組み合わせることにより、アンダーコートの滑りを防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の複層塗膜形成方法は、塗料分野で好適に用いられ、自動車車体の塗装に特に好適に用いられ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物上に、カチオン性エポキシ樹脂、イソシアネート硬化剤、アクリル系表面改質剤および顔料を含有するカチオン性電着塗料を塗装し、焼き付けて、電着塗膜を形成する工程と、
該電着塗膜の塗装面に、アクリル重合体微粒子、可塑剤、充填剤、ブロック型ウレタン樹脂およびミネラルターペンを含有するアクリルゾル系アンダーコート塗料を塗装し、焼き付けて、アンダーコート塗膜を形成する工程と、を含み
該カチオン性電着塗料が、200ppm〜1000ppmのヒンダードフェノール系化合物をさらに含有し、
該アンダーコート塗料が、塗料液全体に対してミネラルターペンを5質量%〜11質量%含有する
複層塗膜形成方法。
【請求項2】
前記焼き付け後の電着塗膜のヨウ化メチレン接触角が42°以下である、請求項1に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項3】
前記可塑剤がジイソノニルフタレートであり、前記充填剤が炭酸カルシウムであり、
前記アンダーコート塗料の塗装後かつ焼き付け前において、前記電着塗膜近傍100μmにおけるアンダーコート塗膜が、炭酸カルシウムに対するIRピーク強度比で1.0〜3.2のジイソノニルフタレートを含有する
請求項1または2に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項4】
前記アンダーコート塗料において、前記ジイソノニルフタレートの配合量が塗料液全体に対して15質量%〜40質量%であり、前記炭酸カルシウムの配合量が塗料液全体に対して20質量%〜45質量%である、請求項3に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項5】
前記アンダーコート塗料において、前記アクリル重合体微粒子/前記ブロック型ウレタン樹脂の質量比が90/10〜15/85である、請求項1から4のいずれかに記載の複層塗膜形成方法。
【請求項6】
前記被塗物が自動車車体である、請求項1から5のいずれかに記載の複層塗膜形成方法。



【公開番号】特開2010−284586(P2010−284586A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140003(P2009−140003)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】