説明

複数の分析物の検出のためのデバイスおよび方法

【課題】複数の選択された分析物の1つ以上の存在、非存在、および/または量について、サンプルを同時に試験するための方法およびデバイスを提供する。
【解決手段】1つの局面において、液体サンプル中の複数の異なる分析物を検出または定量するためのデバイス30を包含する。デバイスは、(i)サンプル注入口38、(ii)1つ以上の検出チャンバ、および(iii)各チャンバと注入口との間に行き止まり流体連通を提供するチャネル手段を有するサンプル分配ネットワーク34を規定する基板32を備える。各チャンバは、サンプル中に存在し得る選択された分析物と反応するに有効な分析物特異的試薬、およびシグナルを検出するための検出手段を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、サンプル中の1つ以上の選択された分析物を検出または定量するためのデバイスおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
【表1】

【0003】
【表2】

【0004】
発明の背景
生化学的試験は、疾患の検出およびモニタリングのためにますます重要な手段となっている。例えば、基礎的な医学情報(例えば、血液型および移植適合性)を得るための試験が長期にわたって知られているが、多くの疾患の根底にある生化学の理解における進歩が、実施され得る試験の数を非常に拡張した。従って、多くの試験が、種々の分析目的のために利用可能となっている。このような目的としては、例えば、病原体の検出、疾患の診断およびモニタリング、健康状態の変化の検出およびモニタリング、ならびに薬物療法のモニタリングが挙げられる。
【0005】
多くの生化学的試験の開発を制限する重大な障害は、費用である。1つの分析物についての複数のサンプルの同時試験はいくらかの助けとなった。しかし、1つのサンプル内における多数の分析物の同時アッセイは、長期にわたるサンプル操作、複数の試験デバイス、複数の分析器械を必要とすること、および他の欠点のためにあまり現実的でなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
理想的には、1つの試験デバイスを用いる個々のサンプルを分析するための方法は、少量のサンプルを必要としながらも多数の潜在的な分析物についての診断情報を提供すべきである。デバイスは、目的の分析物についての高感度の検出を提供しながらもサイズは小型であるべきである。この方法はまた、最小限のサンプル操作を必要とするべきである。好ましくは、このデバイスは、分析物の特異的な検出のために予製試薬を含む。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の要旨
本発明は、一般に、1つ以上の選択された分析物の存在、非存在、および/または量について、サンプルを同時に試験するための方法およびデバイスに関する。
【0008】
本発明は、1つの局面において、液体サンプル中の複数の異なる分析物の1つ以上を検出または定量するためのデバイスを包含する。デバイスは、(i)サンプル注入口、(ii)1つ以上の検出チャンバ、および(iii)各チャンバと注入口との間に行き止まり流体連通を提供するチャネル手段を有するサンプル分配ネットワークを規定する基板を備える。好ましくは、各チャンバは、サンプル中に存在し得る選択された分析物と反応させるのに有効な分析物特異的試薬、およびシグナルを検出するための検出手段を含む。
【0009】
1つの実施態様では、各チャンバについての検出手段は、それを通ってシグナルが光学的に検出され得る光学的に透明な窓を備える。別の実施態様では、検出手段は、シグナルを検出するための非光学センサーを備える。
【0010】
デバイスのチャネル手段は、多数の様式で配置され得る。例えば、1つの実施態様では、チャネル手段は、検出チャンバが行き止まり流体連通により連結された1つのチャネルを備える。第2の実施態様では、チャネル手段は、少なくとも2つの異なるチャネルを備え、各々が、異なる群の検出チャンバに連結されている。さらに別の実施態様では、チャネル手段は、各検出チャンバについて個々のチャネルを備える。
【0011】
デバイスは、サンプルの添加前に真空下に検出チャンバを置くための真空ポートを備え得る。1つの実施態様では、真空ポートは、サンプル注入口と検出チャンバとの間であり、かつこれらと流体連絡している部位でチャネル手段に連結されている。別の実施態様では、真空ポートは、検出チャンバの下流の部位でチャネル手段に連結されている。この配置では、真空ポートは、検出チャンバが満たされた後、チャネル手段から液体を除去するのにさらに有用であり、検出チャンバを互いから隔離し、さらに交差混入(cross-contamination)を減少させる助けとなる。
【0012】
真空ポートは、複数口バルブ(例えば、三方向バルブ)と一体となり得る。このバルブは、ネットワークおよび関連検出チャンバが真空供給源、サンプル注入口、および通気または選択されたガス供給源に交互に曝露されることを可能にする。
【0013】
あるいは、本発明のデバイスは、真空ポートが不要となるように、製造時に真空下で作製および密閉される。
【0014】
本発明の重要な特性に従って、デバイスは、サンプルがネットワーク中に流れ、真空作用により検出チャンバに分配されるのに充分な時間、サンプル分配ネットワーク内の真空(デバイスの外側の外部大気圧に比較して低い内部気圧)を維持し得る。この目的のために、サンプル分配ネットワークは、検出チャンバを継続的に満たす間に、ネットワークに背圧が蓄積することを防止するために、検出チャンバと液体連絡し、そしてその下流にある真空リザーバを備え得る。
【0015】
1つの実施態様では、真空リザーバは、注入口およびチャネル手段から排気された残余ガスの蓄積のために、最終充填検出チャンバの下流に連結された非フロースルー(non-flowthrough)キャビティを備える。別の実施態様では、リザーバは、真空供給源に連結されたチャネル手段の末端を備え、サンプル充填が完了するまで、サンプルにより置換された残余ガスを継続的に除去することを可能にする。
【0016】
検出チャンバにおける分析物特異的試薬は、広範な分析物クラスを検出するように適合化され得る。このクラスとしては、例えば、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、多糖、および小分子分析物が挙げられる。1つの実施態様では、分析物は、選択された配列のポリヌクレオチドであり、そして分析物特異的試薬は、ポリヌクレオチドの検出のための配列選択試薬を含む。ポリヌクレオチド分析物は、任意の適切な方法により検出される。このような方法としては、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応、リガーゼ連鎖反応、オリゴヌクレオチド連結アッセイ、またはハイブリダイゼーションアッセイが挙げられる。
【0017】
1つの特定の実施態様では、ポリヌクレオチド検出のために、分析物特異的試薬は、ポリメラーゼ連鎖反応による、プライマー対に相補的な配列が隣接する選択された分析物における標的ポリヌクレオチド領域の増幅に適切なオリゴヌクレオチドプライマー対を含む。標的ポリヌクレオチドの存在(増幅の成功により示されるような)は、任意の適切な方法により検出される。
【0018】
別の実施態様では、各検出チャンバにおける分析物特異的試薬は、選択された分析物抗原について特異的な抗体を含む。関連の実施態様では、分析物が抗体である場合、分析物特異的検出試薬は、サンプル中に存在し得る選択された分析物抗体と反応させるための抗原を含む。
【0019】
なお別の実施態様では、デバイスは、サンプルと検出試薬との反応を促進するために、検出チャンバの温度を調節するための手段を備え、好ましくは、0℃と100℃との間の温度制御を提供する。1つの好ましい実施態様では、温度調節手段は、選択された温度にチャンバの内容物を迅速に加熱するために、それぞれの検出チャンバについて伝導加熱エレメントを含む。温度制御手段は、好ましくは、選択されたアッセイプロトコルに従ってチャンバを加熱および冷却するために、検出チャンバの温度を調節するように適合化され得る。
【0020】
デバイスは、サンプル分配ネットワーク(例えば、サンプル注入口、検出チャンバ、およりチャネル手段)が真空下で提供されて使用者が即時に使用できるように製造および梱包され得る。あるいは、サンプル分配ネットワークは大気圧下で提供され、排気工程がサンプル充填前にエンドユーザーにより実施される。
【0021】
本発明はまた、選択された分析物について1つのサンプルまたは複数のサンプルを試験するための、複数の上記サンプル分配ネットワークを備える基板を包含する。
【0022】
別の局面では、本発明は、上記のようなデバイスを製造する方法を包含する。
【0023】
別の局面では、本発明は、液体サンプル中の複数の分析物を検出または定量するための方法を包含する。この方法において、上記のタイプのデバイスが提供され、ここでそのネットワークの内部が真空下に配置される。次いで、液体サンプルが注入口に適用され、このサンプルは、真空の作用によりサンプル分配ネットワークに流され、サンプルを検出チャンバに送達する。送達されたサンプルは、選択された分析物がサンプル中に存在する場合に検出可能なシグナルを生じるのに有効な条件下で、各検出チャンバにおいて分析物特異的試薬と反応させられる。反応チャンバは、サンプル中の選択された分析物の存在および/または量を決定するために検査または分析される。
【0024】
本発明のデバイスはまた、選択された試薬、適切であればサンプル調製材料、およびデバイスの使用のための指示書をさらに含むキットの一部として提供され得る。
【0025】
本発明のこれらおよび他の目的および特徴は、添付の図面を考慮して一読された場合、以下の詳細な説明からより明らかである。
【0026】
したがって、本発明は以下を提供する。
1.液体サンプル中の複数の異なるポリヌクレオチド分析物を検出または定量するためのデバイスであって、該デバイスは、
(i)サンプル注入口、(ii)1つ以上の検出チャンバ、および(iii)各該チャンバと該注入口との間に行き止まり流体連通を提供するチャネル手段を有するサンプル分配ネットワークを規定する基板を備え、ここで該検出チャンバの少なくとも2つは各々、検出可能シグナルを生じる、該サンプル中に存在し得る異なるポリヌクレオチド分析物を検出するための検出試薬を含み、そして
該基板は、各チャンバについて、このようなシグナルを検出するための検出手段を提供し、
それにより、該注入口のサンプルの適用前の該ネットワークの排気は、該チャンバの各々に真空によりサンプルを流すのに有効である、
デバイス。
2.前記チャネル手段が、前記検出チャンバが前記流体連通により連結されている1つのチャネルを備える、請求項1に記載のデバイス。
3.前記チャネル手段が、第1の群の検出チャンバがこのような行き止まり流体連通により連結されている第1のチャネル、および第2の群の検出チャンバがこのような行き止まり流体連通により連結されている第2のチャネルを備える、請求項1に記載のデバイス。
4.前記チャネル手段が、前記注入口と各検出チャンバとの間に行き止まり流体連通を提供するために、各検出チャンバについて個々のチャネルを備える、請求項1に記載のデバイス。
5.前記サンプル注入口と前記検出チャンバに液体連絡している部位で前記チャネル手段に連結された真空ポートをさらに備える、請求項1に記載のデバイス。
【0027】
6.前記真空ポートが、前記検出チャンバの下流の部位で前記チャネル手段に連結されている、請求項5に記載のデバイス。
7.前記チャネル手段と液体連絡した非フロースルー真空リザーバをさらに備える、請求項1に記載のデバイス。
8.前記検出手段が各検出チャンバと関連した光学透明窓を備え、それを通ってこのようなシグナルが光学的に検出され得る、請求項1に記載のデバイス。
9.前記分析物特異的検出試薬が、プライマーにより開始されるポリメラーゼ連鎖反応による選択されたポリヌクレオチド分析物セグメントの増幅のために、該セグメントに相補鎖の反対末端領域にハイブリダイズするのに有効な配列を有する第1および第2のオリゴヌクレオチドプライマーを含む、前記請求項のいずれかに記載のデバイス。
10.前記分析物特異的検出試薬が、前記分析物が前記サンプル中に存在する場合に検出可能な蛍光シグナルを生じるために、前記プライマーの1つの下流の領域の分析物セグメントにハイブリダイズし得る蛍光剤−消光剤オリゴヌクレオチドをさらに含む、請求項9に記載のデバイス。
11.前記分析物特異的検出試薬が、選択された分析物のオリゴヌクレオチド連結アッセイ検出のために、該分析物中の標的配列の隣接した連続的な領域に結合するのに有効な第1および第2のオリゴヌクレオチドを含む、前記請求項のいずれかに記載のデバイス。
12.前記分析物特異的検出試薬が、リガーゼ連鎖反応による前記ポリヌクレオチド分析物の増幅のために、第1のオリゴヌクレオチド対により結合された領域に相補的な隣接した連続的な領域に結合するのに有効である第2のオリゴヌクレオチド対を含む、請求項11に記載のデバイス。
【0028】
13.前記分析物特異的検出試薬が、前記ポリヌクレオチド分析物中の選択された配列にハイブリダイズするのに有効な結合ポリマーを含み、そして該結合ポリマーが、該選択された配列にハイブリダイズする際に検出可能シグナルを生じる蛍光染料部分を含む、前記請求項のいずれかに記載のデバイス。
14.前記分析物特異的検出試薬が、二本鎖ポリヌクレオチドをインターカレートする際に光学検出可能シグナルを生じるインターカレート化合物をさらに含む、前記請求項のいずれかに記載のデバイス。
15.前記基板が、各検出チャンバの温度を制御するための温度調節手段をさらに含む、前記請求項のいずれかに記載のデバイス。
16.前記基板が、少なくとも2つのこのようなサンプル分配ネットワークを規定する、前記請求項のいずれかに記載のデバイス。
17.前記ネットワークの内部が真空下にある、前記請求項のいずれかに記載のデバイス。
18.液体サンプル中の複数のポリヌクレオチド分析物の1つ以上を検出または定量するための方法であって、該方法は、
液体サンプルを前記請求項のいずれかに記載のデバイスのサンプル注入口に適用し、そして該サンプルを真空作用によりネットワークに流させ、該サンプルを検出チャンバに送達する工程、
該送達されたサンプルを、該選択された分析物が該サンプル中に存在する場合に各検出チャンバにおいて検出可能シグナルを生じるのに有効な条件下で、各検出チャンバにおいて分析物特異的試薬と反応させる工程、および
該反応チャンバで生じたシグナルを測定し、どの選択された分析物が該サンプル中に存在するかを決定する工程
を包含する、方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
発明の詳細な説明
I.定義
本明細書中で用いられる以下の用語および語句は、以下の意味を有するものとする。
【0030】
「検出チャンバとサンプル注入口との間の行き止まり流体連通」は、検出チャンバとの単一の流体アクセスを提供する流体連通を言い、これによって流体は行き止まり流体連通以外のいかなる経路でも検出チャンバに流入または流出し得ない。
【0031】
特に、「行き止まり流体連通」はチャネルを言い、その断面が、流体が双方向このチャネルを流通するのを防止するのに十分に狭いチャネルを言う。すなわち、エアまたは別の液体が一方向にチャネルを流通すると、液体はこれと反対方向にチャネルを流通することができない。
【0032】
本明細書中で使用されるように、「マイクロデバイス」は本発明に従うデバイスを意味する。
【0033】
II.アッセイデバイス
ある局面においては、本発明は、1種以上の流体サンプルの有無、および/または1種以上の選択された分析物の量をテストするのに有用なデバイスを提供する。このデバイスは、(i)サンプル注入口と、(ii)1個以上の検出チャンバ(好ましくは複数の検出チャンバ)と、(iii)各チャンバと注入口との間の行き止まり流体連通を提供するチャネル手段とを有するサンプル分配ネットワークを規定する基板を備える。各チャンバは、そのようなサンプルに存在するであろう選択された分析物と反応するのに効果的な、分析物特異的試薬を備える。
【0034】
ある実施態様においては、基板はまた各チャンバに光学的に透明な窓を提供し、この窓を通して分析物特異的反応生成物を検出し得る。別の実施態様においては、各チャンバの検出手段はシグナル検出用の非光学センサを備える。
【0035】
本発明はサンプル中の複数の分析物のアッセイにおいて、以下に述べるような多数の利点を提供する。特に、本発明はマクロサイズのサンプルをミクロサイズのサンプルに容易に変換し、ここで、本発明のデバイスはマルチ分析物検出アッセイにおいて、試薬およびサンプルの1段階での計量を提供する。
A.ネットワークの構成
図1Aおよび1Bはそれぞれ、本発明による例示的なアッセイデバイス30の平面図および斜視図を示す。デバイス30は、サンプル分配ネットワーク34を規定する基板32を備える。図1Bを参照して、このデバイスはまたサンプル注入口38と、必要に応じて、検出チャンバの下流に配設される真空ポート手段40とを有するマウント36を備える。
【0036】
注入口38はサンプルを充填するために、シリンジの端部で真空気密シールを形成するか、またはマルチポートバルブによりサンプルと1種以上の液体またはガス性流体との流体連絡を提供するように作成され得る。真空下でネットワークを保持し、かつサンプルをカニューレまたは針で導入することが所望であれば、注入口はさらに隔壁キャップを有していてもよい。
【0037】
真空ポート40は、真空ポンプのような真空源と連結するように作成され得る。真空連結部は、サンプル分配ネットワークを真空源から閉鎖するバルブか、または真空源と1種以上の選択されたガス供給源とを連結するマルチポートバルブを有し得る。
【0038】
基板30は凹部または孔42をさらに有し、これは図1Aに示すように、デバイスホルダ中の対応するピンまたは突起部(図示せず)に係合して分析物を固定化し、かつ配向させるために非対称に配設され得る。
【0039】
発明の要旨で述べたように、本発明のサンプル分配ネットワークは、サンプルを個々の検出チャンバに送達するために、任意の多数の異なるチャネル配置、すなわちチャネル手段を用い得る。図2Aを参照して、分配ネットワーク34aはサンプル注入口38a、複数の検出チャンバ44a、およびチャネル手段を有し、チャネル手段は検出チャンバが行き止まり流体連通48aによってそれぞれ連結される単一のチャネル46aを備える。検出チャンバはチャネル46aの両側に配設され、チャネルの反対側に分岐した一対の流体連通部を備える。図2Bは注入口38bと検出チャンバ44bとを備えた別のネットワーク34bの一部を示す。ここで、流体連通48bはチャネル46bからスタッガー様式で分岐している。
【0040】
本発明のデバイス中の検出チャンバは、種々のチャンバの指標および同定を容易にし、かつ、光学的検出が使用される場合にサンプルとの反応時における各チャンバからの光学シグナルを迅速に計測するために、反復2次元アレイ(repeating 2-dimentional array)を形成するように配置され得る。
【0041】
例えば、図2A〜2Bは検出チャンバが垂直軸に沿って行および列をなすように配置されたネットワークを示し、所望であればXおよびY座標によってチャンバを同定し得る。このタイプのアレイ(垂直アレイ)はまた、順次チャンバ(chamber-by-chamber)分析モードにおいて、チャンバの連続的なインターロゲーションを容易にする。しかし、スタッガーアレイまたは六方最密アレイのような他の配置を使用しても良い。例えば、図2Cは注入口38cと一連のスタッガー検出チャンバ44cとを有するネットワーク34cの一部を示す。この検出チャンバは流体連通部48cによって共通の送達チャネル46cに連結されている。
【0042】
このデバイスはまた、検出される分析物の同定または確認を容易にするために、検出チャンバに隣接した同定シンボルを有し得る。
【0043】
好ましくは、本発明のデバイスの検出チャンバは分析物特異的試薬を各々供え、この試薬は、以下に述べるように、サンプル中に存在し得る選択された分析物と反応するのに効果的である。サンプルと分析物特異的試薬との反応により、選択された分析物が存在することを示す検出可能なシグナルを生じる。
【0044】
本発明の重要な特徴によれば、サンプルは真空動作によって検出チャンバに送達される。サンプルの充填に先だって、サンプル分配ネットワークの内部を真空状態とし、これによりネットワークの残留ガス圧を実質的に大気圧未満(すなわち、実質的に760mmHg未満)とする。本発明のこの特徴による利点の1つは、ネットワークを通って流体を押し出すためのポンプを必要としないことである。代わりに、このデバイスは周囲大気圧を利用して、サンプルをサンプル注入口を通してサンプル分配ネットワークに押し出す。これはサンプルを迅速かつ効率的に検出チャンバに送達することを可能にする。
【0045】
図3A〜3Cは、図2Aに一致するサンプル分配ネットワーク34についての充填プロセスを示す。このネットワークは、サンプル注入口38、検出チャンバ44、およびサンプル送達チャネル46を有し、送達チャネル46は行き止まり流体連通48によって種々の検出チャンバに連結されている。ネットワークは、送達チャネルの末端に真空リザーバ40をさらに有する。複数の検出チャンバ44は異なる選択された分析物を検出する乾燥検出試薬を各チャンバに備え、1個以上のチャンバは必要に応じてコントロールとして確保される。
【0046】
図3Aはサンプルの充填が開始される前のデバイスを示す。このネットワークを真空にして、ネットワークの内部圧力を実質的に大気圧未満(例えば、1〜40mmHg)とする。ネットワークの内部はまた、蒸気圧の問題を最小化するために実質的に液体がない状態にされるべきである。図3Bはサンプル流体50を注入口38を通してネットワークに注入した後のネットワークを示す(図3B)。サンプルがチャネル46を移動するにつれて、サンプルは各検出チャンバを順次満たし(図3B)、全てのチャンバが満たされるまで続ける(図3C)。続いて図3Cを参照して、一旦検出チャンバが全て満たされると、サンプル流体はチャネル46を通って真空リザーバ40に流れ、リザーバが一杯になるか、または流れを終結させる(例えば、真空リザーバのバルブを閉鎖することによる)まで流れ続ける。
【0047】
本発明の利点の1つによると、チャネル手段を通るサンプルの連続流は、既に満たされた検出チャンバの内容物に実質的に影響を与えない。なぜなら、満たされた検出チャンバの各々に出入りするさらなる流れは、連結部48のような行き止まり流体連通によって制限されるからである。これによって、異なる検出チャンバ間の交差混入を低減し、交差混入に起因する誤シグナルを回避し得る。本発明のさらなる利点は、各チャンバから別の場所にサンプルを移動させる必要なく、サンプルが同一のサンプルチャンバ内で分析物特異的検出試薬と混合され得、そして全て検出され得ることである。さらに、サンプルと検出試薬とはシグナル検出用にチャンバ内に残留し得るので、検出試薬を検出チャンバの内側表面に固定化または接着する必要がない。
【0048】
サンプル分配ネットワークの構成は、分析物の正確な検出および/または定量ができるように、適切な容量のサンプルが検出チャンバに送達されることを確実にするように設計される。概して、サンプルで占有されねばならない検出チャンバの容積%は、使用する試薬および検出システムの必要性に応じて変化する。代表的には、容積%は75%よりも大きく、好ましくは90%よりも大きく、より好ましくは95%よりも大きい。検出チャンバが加熱される(特に、約60℃と約95℃との間の温度まで加熱される)アッセイフォーマットにおいては、チャンバの充填容積%は好ましくは95%より大きく、より好ましくは少なくとも99%である。
【0049】
検出チャンバがサンプルで満たされる度合いは、概して、(1)ネットワーク内の初期圧力に対する外部(大気)圧力の初期の比と、(2)検出チャンバによって規定される個々の容積および全容積と、(3)チャネル手段によって規定される容積と、(4)最後の検出チャンバの下流のネットワーク性質と、に依存する。
【0050】
例えば、サンプル注入口に最も近く、かつ最初に満たされる検出チャンバの場合には、サンプル充填後のチャンバにおけるサンプル流体の占有%(容積%)(Vs,%)は、外部圧力(Pext)と、サンプル充填前のネットワークの初期内部圧力(Pint)とに関係し、以下の式で表される。
【0051】
(Vs,%)≒(Pext)/(Pext+Pint)
よって、ネットワーク内の初期圧力(Pint)が10mmHgであり、外部圧力(Pext)が760mmHgである場合、最初の検出チャンバの約99%がサンプル流体で満たされ(Vs,%≒99%)、残りの容積(≒1.3%)はサンプルによって移動させられた残留ガス(例えば、エア)で満たされる。(この計算は、サンプルがチャンバに到達する時間までに、チャンバの上流のガスの移動によって、ネットワーク内部圧力は認められる程には増加しないと仮定している。)同様に、Pextが760mmHgであり、Pintが40mmHgでしかない場合でも、サンプルで占有されるチャンバの容積%は依然として非常に高い(約95%)。
【0052】
サンプル流体が検出チャンバに到達して、連続的に検出チャンバを満たすにつれて、チャネル手段から移動させられる残留ガスは残りのネットワーク容積に徐々に蓄積し、これにより内部圧力が次第に増加することが理解される。この結果による背圧の増加は、連続する各チャンバのVs,%を減少させ得、最後に満たされる検出チャンバのVs,%は最初に満たされたチャンバのVs,%よりも著しく低い。
【0053】
この問題を回避するために、チャネルと行き止まり流体連通の寸法は、好ましくは検出チャンバによって規定される全容積よりも実質的に小さい全容積を規定するように選択される。好ましくは、チャネル手段の総容積は検出チャンバの全総容積の20%未満であり、より好ましくは5%未満である。同様に、各行き止まり流体連通の容積は、それが接続する検出チャンバの容積よりも実質的小さいべきである。好ましくは、各行き止まり流体連通の容積はそれが接続する検出チャンバの容積の20%未満であり、好ましくは10%未満であり、より好ましくは5%未満である。
【0054】
背圧の問題は、最後に満たされる検出チャンバの下流に真空リザーバを備えることによってさらに減少され得る。ある実施態様においては、真空リザーバは非フロースルーキャビティであり、この内部にサンプル流体によって移動させられるガスが集められ得る。リザーバの容積は特定のデバイスの形状および必要性によって変化し得る。例えば、リザーバの容積は、1個以上の検出チャンバの容積と等しい容積になるように選択され得るか、あるいはチャネル手段の全総容積の1〜5倍であるように選択され得る。
【0055】
別の実施態様においては、真空リザーバは真空源に連結され、これにより、検出チャンバのサンプル充填が以下にさらに述べるように完結するまで、残留ガスを連続的に除去し得る。
【0056】
図4は本発明に一致する別のサンプル分配ネットワークを示し、ここで、ネットワークのチャネル手段は少なくとも2個の異なるサンプル送達チャネルを有し、各々は異なる検出チャンバグループに連結されている。図4は、サンプル注入口62、3つの異なる検出チャンバグループ64a、64b、および64c、ならびにチャネル手段66を有する分配ネットワーク60を示し、このチャネル手段66は3個のチャンバグループに接続された対応するチャネル66a、66b、および66cを有する。チャンバはチャネル64a〜64cに行き止まり流体連通68a〜68cを介して連結され、この行き止まり流体連通はサンプルを検出チャンバへ単一方向に流す。
【0057】
複数の送達チャネルを用いることの利点の1つは、検出チャンバをサンプルで満たすのに必要な時間を、単一の送達チャネルを用いて同数の検出チャンバを満たすのに必要な時間に比べて、著しく削減し得ることにある。例えば、図4に一致するネットワークについての導入時間は、図2Aに示した単一のチャネルフォーマットであって、他の全てのファクターが同じであるチャネルフォーマットを介して同数の検出チャンバを満たすのに必要な時間の約1/3であり得る。より一般的には、所定数の検出チャンバについて、充填時間は用いる送達チャネルの数に反比例して変化する。
【0058】
図4のサンプル分配ネットワークは別々の真空リザーバ70a〜70cをさらに備え、この真空リザーバは検出チャンバの下流にあるサンプル送達チャネル64a〜64cの末端に連結されている。真空チャンバは、サンプルを充填する間に内部ガス圧力を低く維持するのを補助する大きさにされる。
【0059】
別の実施態様においては、チャネル手段は図5に示すように、各検出チャンバに対して個々のチャネルを備える。ネットワーク80は注入口82、検出チャンバ84、および各検出チャンバに接続する行き止まり流体連通86を備え、この行き止まり流体連通はサンプルを各チャンバに送達するチャネル手段ともいわれ得る。各行き止まり流体連通は、各検出チャンバをサンプルで十分に満たすために、それらに接続された検出チャンバの容積よりも実質的に小さい容積を規定するような大きさにされる。本実施態様は交差混入を最小にしつつ、検出チャンバの充填を迅速にする。
【0060】
本発明のデバイスはまた、サンプルを充填する前またはその間にネットワークを真空にするための、サンプル分配ネットワークと連絡する真空ポートを備え得る。ある実施態様においては、真空ポートはサンプル注入口と検出チャンバとの間の部位の流体連絡において、チャネル手段に連結される。この例示を図9に示す。従って、真空ポートは、サンプル充填に先だってネットワーク内の内部圧力を選択された残留圧力にまで減少させる簡便な方法を提供する。特に、サンプルが、サンプル注入口に連結されたシリンジバレルを用いてネットワークに導入される場合、真空ポートはサンプルをネットワーク内に収容する前にシリンジと注入口との間の空間からエアを除去するために用いられ得る。
【0061】
別の実施態様において、真空ポートはサンプル注入口および検出チャンバの下流の部位でチャネル手段に連結される(例えば、図6A)。この構成において、真空ポートはさらに、検出チャンバが満たされた後にチャネル手段から液体を除去し、検出チャンバを互いに分けるのを補助し、かつ、交差混入をさらに低減させるのに使用され得る。この構成において、真空ポートは上記の真空リザーバの一部を構成し、ここでリザーバはサンプル送達チャネルの末端部に結合された真空源を有する。真空ポートはサンプル充填の間、ネットワークに対して開口して、検出チャンバの全てが満たされるまで残留ガスをネットワークから連続的に除去する。
【0062】
真空ポートはマルチポートバルブ(例えば、3方向バルブ)を含み、マルチポートバルブはネットワークおよび接続された検出チャンバを、真空源、サンプル注入口、およびベントまたはガス供給源に選択的に接続させ(expose)得る。このようなバルブは、ネットワークを真空源および選択されたガス供給源に選択的に接続して、残留エアを選択されたガスで置換するために使用され得る。このようなネットワークのガス置換は、酸素分子(O)または、さもなくば検出試薬の性能に干渉し得る他の大気中の気体を除去するのに有用であり得る。
【0063】
アルゴンおよび窒素はほとんどの条件下に適し得る不活性ガスである。使用し得る別のガスは二酸化炭素(CO)であり、これは炭酸イオンおよび重炭酸イオンを形成し得るので、水によく溶ける。サンプル流体が水溶液である場合、サンプル充填の間にネットワーク中に生じ得る二酸化炭素の気泡は、サンプル流体中へ溶解して排出され得る。従って、検出チャンバへのサンプル充填の程度を高める。もちろん、二酸化炭素が検出試薬に干渉する場合には、二酸化炭素を使用すべきでない。
【0064】
上述のようなマルチポートバルブは選択された分析物の検出に必要とされるガスを供給するのにも使用され得る。例えば、検出試薬が酸化反応を伴う場合には、酸素分子またはオゾンを供給することが望ましいだろう。炭化水素(エチレン、メタン)または窒素ガスなどの他のガスもまた適切なものとして導入され得る。
【0065】
B.デバイスの製造
本発明のデバイスは、小型で製造が安価なデバイスを用いて、光学的分析により、多くの異なる分析物用のサンプルの試験を可能にするように設計されている。概して、デバイスは、標準のクレジットカードの断面以下の断面(≦5cm×10cm)を有し、2cm以下の厚み(深さ)を有する。より好適には、デバイスは、サンプルの注入口用および真空ポート用のアタッチメントを除いて、約5×5×1cm以下の体積を占める。より好適には、デバイスは、約3cm×2cm×0.3cm以下の寸法を有する。デバイスが適切な感度を提供しエンドユーザにとって取り扱い易くあるべきであることを考慮して、これよりも小さいデバイスもまた考えられる。
【0066】
デバイス内の検出チャンバは、検出チャンバの高密度を達成するために、概してできるだけ小型であるように設計される。チャンバのサイズおよび形状は、多くの要因に依存する。シグナル検出が光学的手段によるときは、各チャンバのオーバーヘッド(overhead)断面は、選択された分析物がサンプル中に存在するときに生成されるシグナルの信頼できる測定を可能にするに十分大きくなければならない。さらに、チャンバの深さは、用いられる特定の光学的方法用に設定され得る。蛍光検出のためには、クエンチの影響を最小にするために、薄いチャンバが望ましいことがあり得る。他方、吸光または化学ルミネッセンス検出のためには、検出シグナルを増大させるために、より厚いチャンバが適切であり得る。
【0067】
添付の図面には正方形のオーバーヘッド断面を有するチャンバを示しているが、円形または卵形状などの他の形状もまた用いられ得ることが理解される。同様に、ネットワーク内のチャネルは、必要に応じて直線形状でも湾曲していてもよく、断面は、浅い、深い、正方形、矩形、凹形状、V形状、または他のいずれの適切な形状でもよい。
【0068】
典型的には、検出チャンバは、1チャンバ当たり0.001μL〜10μL、より好適には0.01μLと2μLとの間のサンプルを保持するような寸法を有する。チャンバが充満されたことを視覚的に確認することを可能にするためには、各検出チャンバの容量が約0.1μLと1μLとの間であることが都合がよい。例えば、0.2μLの容量を有するチャンバは、1mm×1mm×0.2mmという寸法を有し得、最後の寸法はチャンバの深さである。
【0069】
サンプル送達チャネルは、できるだけ少ない容量を占めながら検出チャンバへのサンプルの急速な送達を容易にするような寸法を有する。チャネルのための典型的な断面の寸法は、幅および深さ共、5μmから約250μmの範囲である。理想的には、チャンバ間の経路の長さは、総チャネル容量を最小にするために、できるだけ短い。この目的のために(容量を最小にするために)、ネットワークは好適には実質的に平面である。すなわち、デバイス内のチャネル手段および検出チャンバは共通の平面で交差する。
【0070】
本発明のサンプル分配ネットワークを規定する基板は、分析物検出を行うに適したいずれの固体材料からも形成され得る。用いられ得る材料は、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイミドおよびポリカーボネートなどの様々なプラスチックポリマーおよびコポリマーを含む。ガラスおよびシリコンなどの無機材料もまた役立つ。シリコンは、必要に応じてデバイスの急速な加熱および冷却を容易にする高い熱伝導率という観点から特に有利である。基板は、単一の材料または複数の材料から形成され得る。
【0071】
サンプル分配ネットワークは、当該分野で公知の任意の適切な方法によっても形成される。プラスチック材料の場合、所望のパターンを有する検出チャンバおよび連通チャネルを形成するために、射出成形が概して適している。シリコンの場合、例えばSze(1988)に記載のように、半導体産業からの標準のエッチング技術が用いられ得る。
【0072】
典型的には、デバイスの基板は、図6A、図6C〜図8を参照して以下に述べるように、積層された2以上の層から形成される。光学的検出の場合、デバイスは、各検出チャンバ用に光学的に透明な窓を提供する1以上の層を含む。上記窓を介して、分析物特異的シグナルが検出される。この目的のために、例えば、シリカベースのガラス、石英、ポリカーボネートまたは光学的に透明なプラスチック層が用いられ得る。特定の窓材料の選択は、部分的に、材料の光学特性に依存する。例えば、蛍光ベースのアッセイにおいて、材料は測定中の波長において低い蛍光発光を有するべきである。窓材料はさらに、目的のシグナル波長に対して最小の吸光を示すべきである。
【0073】
デバイス内の他の層は、同一のまたは別の材料を用いて形成され得る。好適には、検出チャンバを規定する層は、主に、シリコンまたは熱伝導性金属などの高い熱伝導率を有する材料から形成される。サンプルに接するシリコンの表面は、好適には、表面をより不活性にするために、酸化層または他の適切なコーティングでコートされる。同様に、熱伝導性金属が基板に用いられる場合、金属は、金属の腐食を防止し且つ金属表面をサンプルとの接触から分離するために、プラスチックポリマーなどの不活性材料でコートされ得る。特定の表面の適性は、選択されたアッセイに対して証明されるべきである。
【0074】
光学的検出の場合、検出チャンバを規定する基板材料の不透明度または透明度は、概して、シグナル検出用に用いられる許可可能な検出器形状に影響を与える。以下の記載に関して、検出チャンバの「上壁」とは、光学シグナルが検出されるチャンバ表面または壁を意味する。チャンバの「下壁」とは、上壁に対向するチャンバ表面または壁を意味する。
【0075】
検出チャンバの下壁および側面を規定する基板材料が光学的に不透明であり且つ検出が吸光または蛍光によりなされる場合、検出チャンバは、通常、同一の表面(すなわち、光学的に透明なチャンバの上面)において照明され且つ光学的に走査される。従って、蛍光検出の場合、不透明な基板材料は好適には、検出器方向への照明光の反射が最小になるように、低い反射特性を示す。逆に、吸光をベースとする検出の場合は、高い反射率が望ましい。
【0076】
検出チャンバの上表面および側面を規定する基板材料が光学的に透明であり、且つ検出が蛍光測定を含む場合、チャンバはチャンバの側面を介して(デバイスの検出チャンバにより、まとめて規定される平面内で)、またはより典型的には上から対角線方向に(例えば45度の角度で)、励起光により照らされ得、発光した光は、チャンバの上から(すなわち、上壁を介して、検出チャンバにより規定される平面に対して直交する方向に)集光される。好適には、基板材料は、レイリー散乱を制限するために照明光の低い分散を示す。
【0077】
基板材料全体が光学的に透明である場合、または少なくともチャンバの上壁および下壁が光学的に透明である場合、チャンバはいずかの壁(上壁または下壁)を介して照らされ得る。発光された又は透過した光は、いずれかの壁を介して適宜測定される。すでに上述したように、他の方向からのチャンバに対する照明もまた可能である。
【0078】
特定の波長の光が、典型的には、外部光源によってサンプルを照らすことなく生成される化学ルミネッセンス検出の場合、基板がシグナルを検出するための少なくとも1つの光学的に透明な窓を提供すれば、基板の吸光および反射特性は、さほど重要ではない。
【0079】
図6A〜図6Cは、本発明によるデバイスの特定の実施形態を示す。図6Aおよび図6Bにおいて、デバイス100は、サンプル注入口102と、サンプル分配ネットワーク104と、真空ポート106とを含む。真空ポート106は、ネットワーク104の終端部に連結している。ネットワーク104は、行き止まりの流体連通部112を介してサンプル送達チャネル110に連結する検出チャンバ108の垂直アレイ(7行×8列)を含む。デバイスはさらに、サンプル注入口102に隣接する、デバイスに識別ラベルを取り付ける、及びアタッチメントとしてユーザがデバイスを掴むことを可能にする垂直パネル114を含む。
【0080】
図6Bから理解されるように、検出チャンバは共に近接してパックされ、デバイス内で試験され得る分析物の数を増加させる。流体連通部112は、L字形状(図6C)で設けられることにより、サンプルを充填した後にチャンバから流体が流出することを防止し且つチャンバの内容物が互いに分離することを補助する。図6Aおよび図6Bにおいて検出チャンバの水平方向の行は、垂直方向の可変空間により互いに分離しているように示されている(図面を明瞭にするため)が、チャンバは、チャンバの分析を容易にするために垂直および水平方向の両方において均等な距離で分離され得る。
【0081】
図7および図8は、図6Aおよび図6Bによる試験デバイスを製造するための2つの例としてのアプローチを示す。図7は、サンプル分配ネットワーク104(図6A)を形成するために組み合わせられ得る2つの基板層140および142を示す。ネットワークは、主に基板層140により規定される。基板層140は、サンプル注入口102(図示せず)と、複数の検出チャンバ108と、サンプル送達チャネル110と、行き止まりの流体連通部112とを規定する凹部(indentation)を含む。基板層142と層140の対向面との接触により、ネットワーク104の形成が完了する。
【0082】
図8は、別のアプローチによりネットワークを形成する基板層150と152とを示す。基板層150は、複数の検出チャンバ108を規定する凹部を含む。他方、基板層152は、サンプル送達チャネル110と行き止まりの流体連通部112とを規定する凹部を含む。こうして、図7に示す2つの基板層の対向する面を接触させることにより、ネットワーク104が形成され得る。
【0083】
デバイスは、サンプル充填のためのサンプル分配ネットワーク内に真空気密(vacuum-tight)環境を与え、また、慎重に規定された反応容積を有する検出チャンバを与えるように設計されるため、ネットワークおよび関連する検出チャンバが確実に漏れないようにすることが望ましい。従って、基板層同士の積層は、すべてのチャンバおよびチャネルが確実に十分に封止されるように達成されなければならない。
【0084】
一般に、基板層は、多くの方法で封止可能に結合され得る。従来から、接着剤またはエポキシ系樹脂などの適切な結合物質が、結合される対向表面の一方または両方に塗布される。結合物質は、結合物質が(硬化後に)検出チャンバおよび分配ネットワークに接触するように、いずれかの表面の全体に塗布され得る。この場合、結合物質は、アッセイに使用されるサンプルおよび検出試薬と適合性を有するように選択される。あるいは、結合物質は、サンプルとの接触が最小になるかまたは完全に防がれるように、分配ネットワークおよび検出チャンバの周囲に塗布されてもよい。結合物質はまた、接着剤で裏打ちされたテープまたは膜の一部分として与えられてもよく、このテープまたは膜はその後に、対向する表面と接触する。さらに別のアプローチでは、2つの基板層の間に配置される接着剤ガスケット層を用いて、封止可能な結合が達成される。これらのアプローチのいずれにおいても、結合は、例えば圧力封止、超音波溶接、および熱硬化などの任意の適切な方法によって達成され得る。
【0085】
本発明のデバイスは、検出チャンバの高速加熱および冷却によってサンプルの分析物検出試薬との反応を促進することを可能にするように適合され得る。1つの実施形態では、デバイスは、外部温度制御装置を用いて加熱または冷却される。温度制御装置は、デバイスの1つまたはそれ以上の表面を加熱/冷却するように適合されるか、あるいは、検出チャンバ自体を選択的に加熱するように適合され得る。
【0086】
この実施形態を用いた加熱または冷却を促進するために、試験デバイスの基板材料は、好ましくは、銅、アルミニウムまたはシリコンなどの高熱伝導性を有する材料からなる。あるいは、図7の層140などの基板層は、適度な熱伝導性または低熱伝導性を有する材料からなっていてもよく、基板層142(図7)は、薄い層として与えられ、検出チャンバの温度が、層142の材料の熱伝導性に関わらず、層142を通してデバイスを加熱または冷却することによって都合よく制御され得るようにする。1つの好適な実施形態では、層142は、接着性の銅で裏打ちされたテープの形態で与えられる。
【0087】
別の実施形態では、デバイス自体の基板に、検出チャンバの温度を変えるための手段が設けられる。例えば、図7を参照して、基板層142は、反応チャンバに隣接する領域に接する抵抗性トレース(trace)を含み得、それにより、トレースを流れる電流の通路が、チャンバを加熱または冷却するのに効果的となる。このアプローチは、シリコンベースの基板に特に適切であり、優れた温度制御を与えることができる。
【0088】
本発明のさらなる説明は、図9に示されるデバイスによって与えられる。デバイス160は、ネットワークを規定する基板層161と、層161を結合し且つ封止するための平坦な基板層180とを含む。
【0089】
層161は、サンプル注入口162と、(i)サンプル分配ネットワーク164および(ii)ネットワーク164の終端に接続される真空リザーバ166を規定する凹部とを含む。ネットワーク164は、行き止まり流体連通部172を介してサンプル送達チャネル170に結合される検出チャンバ168の2次元の垂直方向のアレイ(7×7)を含む。図6A〜図6Bの場合のように、デバイスは、サンプル注入口162に隣接する垂直方向のパネル174をさらに含む。ネットワーク164の形成は、デバイス160の上面全体を層180の対向面に接触させることによって終了される。層180は、好ましくは、膜または薄い層の形態で与えられる。
【0090】
図9のデバイス160は、デバイス160が送達チャネル170の終端に真空ポートではなく真空リザーバ166を含むという点で、図6Aのデバイス100とは異なる。さらに、デバイス160のサンプル注入口162は、注入口取り付け具190に関連して動作するように都合よく適合され、ネットワークの排気およびサンプルの充填をネットワークに関して1つの位置から行うことができるようにする。
【0091】
サンプル注入口162は、ネットワーク172に接続する開いた近位端177と、開いた遠位端178とを有する中空の注入口シリンダ176を含む。シリンダ176は、遠位端の終端付近に配置される開口部179をさらに含む。
【0092】
注入口取り付け具190は、注入口キャップ構造200と、それに付属するポート構造210とを含む。キャップ構造200は、開いた近位端204と閉じた遠位端206とを有する中空のシリンダ202を規定する。シリンダ202の内径は、注入口162の上に配置されたときに真空気密シールを形成するような大きさにされる。ポート構造210は、真空ポート212およびサンプルポート214を規定する。ポート212および214はそれぞれ、シリンダ202の側面に形成される開口部216および218を介してシリンダ202と連通する。取り付け具190はさらに、パネル174の隣接する縁部を受け入れるためのガイド構造220をさらに含み、取り付け具190が注入口162の上に適合され、注入口162に沿って摺動されるときに取り付け具190を配向し案内する。
【0093】
図9に従って準備されたデバイスの例示的な寸法は、以下の通りである:検出チャンバ168、1.2mm×1.2mm×0.75mm;送達チャネル170、0.25mm×0.25mm(幅×深さ);行き止まり流体連通部172、0.25mm×0.25mm(幅×深さ);外部寸法:22cm×15cm×1mm(ネットワークを規定する部分の寸法、注入口162およびパネル174を除く)。好ましくは、本発明のマイクロデバイスの検出チャンバは、10μL未満、2μL未満、および最も好ましくは1μL以下の容積を有する。
【0094】
デバイス160は、ポリマーの接着剤で裏打ちされた基板層180を層161の対応する表面に結合し、封止されたネットワークを形成することによって、通常の大気条件下で準備され得る。注入口取り付け具190は、開口部179および216が互いに整列されるように、注入口162のシリンダ176上に適合される。真空ポート212は真空ラインに接続され、ネットワークの内部が選択された時間の間排気される。あるいは、上述のように、ネットワークは、二酸化炭素などの選択されたガス、および真空でフラッシュされてもよい。排気中、サンプルポート214は、流体サンプルが充填されるか、または、流体サンプルと流体連通される。好ましくは、サンプルポートは、サンプルポート中のサンプルと開口部218との間に空気がないように、一杯にされる。ネットワークが排気されると(通常、数秒で終了する)、取り付け具190は、開口部179がサンプル開口部218と整列されるまで層161の方にさらに下げられ、ネットワークの内部をサンプルと流体連通させる。サンプルは、すぐにチャンバを満たし、典型的には、1/2秒未満で満たす。検出チャンバは、95%よりも大きい重量パーセントまで満たされる。余分なサンプルおよび残留ガスは、リザーバ166に集まる。
【0095】
チャンバがサンプルで満たされると、取り付け具190は、注入口162を封止するために層161の方にさらに下げられ、それにより、ネットワークの内部を外部雰囲気から封止する。サンプルは、検出チャンバ内の検出試薬と反応することが可能となり、反応中または反応後に、チャンバ内で生成された光学シグナルが検出される。
【0096】
C.検出試薬
デバイスの検出チャンバには、対象の選択された分析物に特異的な検出試薬が予め充填され得る。検出試薬は、以下の第II章で示される光学的方法のいずれかによって、光学的に検出可能なシグナルを生成するように設計される。
【0097】
各検出チャンバ内の試薬は、特定のチャンバ内で検出される分析物に特異的な物質を含んでいなければならないが、検出用の光学シグナルを生成するために必要なその他の試薬が、充填前にサンプルに加えられてもよく、または、サンプルと混合するためにネットワーク中のその他の場所に配置されてもよいことが認識されるであろう。特定のアッセイ成分が検出チャンバ内に含まれるか、その他の場所に含まれるかは、特定のアッセイの性質と、所与の成分が乾燥に対して安定しているかどうかとに依存する。一般に、アッセイの均一性を高め、エンドユーザによって行われるアッセイステップを最小にするために、デバイスの製造中に、検出チャンバ内にできるだけ多くの検出試薬が予め充填されることが好ましい。
【0098】
検出される分析物は、その存在の有無または量を決定することが望ましい任意の物質であり得る。検出手段は、対象の分析物を検出または測定するために適切である任意の試薬または試薬の組合せを含み得る。必要であれば、1つの検出チャンバで1つよりも多い分析物を試験することができることが認識されるであろう。
【0099】
1つの実施形態では、分析物は、DNAまたはRNAなどの選択された配列のポリヌクレオチドであり、分析物特異的試薬は、ポリヌクレオチドを検出するための配列選択的試薬を含む。配列選択的試薬は、所定の配列を有する標的ポリヌクレオチドに選択的に結合するために効果的な少なくとも1つの結合ポリマーを含む。
【0100】
結合ポリマーは、DNAまたはRNAのような従来のポリヌクレオチドであるか、または必要な配列選択性を有するその適切なアナログであり得る。例えば、チオホスホジエステル結合を有するデオキシヌクレオチドのようなポリヌクレオチドのアナログであり、また単鎖または二本鎖の標的ポリヌクレオチドに塩基特異的に結合し得る結合ポリマーが使用され得る。デオキシリボヌクレオシドサブユニット間の無電荷であるが立体異性のメチルホスホネート結合を含むポリヌクレオチドアナログが報告されている(Miller, 1979, 1980, 1990, Murakami, Blake, 1985a, 1985b)。他種類の類似の無電荷ホスホラミデート結合オリゴヌクレオチドアナログもまた報告されている(Froehler)。また、アキラルで無電荷のサブユニット間結合を有するデオキシリボヌクレオシドアナログ(Stirchak)、およびアキラルなサブユニット間結合を有する無電荷でモルホリノベースのポリマー(米国特許第5,034,506号)もまた報告されている。一般にペプチド核酸として知られる結合ポリマーもまた使用され得る(Buchardt,1992)。結合ポリマーは、ワトソン−クリック塩基対形成を介して単鎖標的分子に配列特異的に結合するように、または二本鎖核酸の主要な溝内のHoogstein結合部位を介して二本鎖標的ポリヌクレオチドに配列特異的に結合するように設計され得る(Kornberg)。他の多種類の適切なポリヌクレオチドアナログもまた知られている。
【0101】
ポリヌクレオチドを検出するための結合ポリマーは、典型的には、10〜30個のヌクレオチドの長さであり、正確な長さはアッセイの要件に依存する。もっと長い場合および短い場合も考えられる。
【0102】
1つの実施形態では、分析物特異的試薬は、オリゴヌクレオチドプライマー対を含み、このプライマー対は、プライマー対に相補的な3’配列に隣接する選択された分析物の標的ポリヌクレオチド領域を、ポリメラーゼ連鎖反応によって増幅させるのに適するものである。この実施形態の実行においては、プライマーを標的内の対向する鎖の相補領域にアニールするのに好適なハイブリダイゼーション条件下で、プライマー対を標的ポリヌクレオチドと反応させる。次に反応混合物に対して、周知のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)方法(Mullis, Saiki)に従って、プライマー拡張、変性、およびプライマー/標的配列アニーリングよりなる熱サイクルが数回、典型的には約20〜40回行われる。
【0103】
典型的には、各プライマー対の両方のプライマーが、プライマー拡張では標準的なヌクレオチドトリホスフェートまたはそのアナログ(例えば、ATP、CTP、GTP、およびTTP)と共に、ならびにMgClまたはMnClなどの他の適切な試薬と共に、各検出チャンバーのそれぞれに予め充填される。また、Taq、Ventなどの熱安定性のDNAポリメラーゼをチャンバーに予め充填するか、またはサンプル充填前にサンプルと混合させてもよい。他の試薬は、検出チャンバーまたは他の適切な場所に含まれ得る。もしくは、検出チャンバーには、各プライマー対のうちの一方のプライマーを充填し、他方のプライマー(例えば、検出チャンバーすべてに共通のプライマー)はサンプル内にまたは他の場所に与えられ得る。
【0104】
標的ポリヌクレオチドが、単鎖DNAまたはRNAのような単鎖である場合は、サンプルは、好ましくは、サンプル充填前にDNAまたはRNAポリメラーゼにより前処理され、次の増幅のために二本鎖ポリヌクレオチドを形成する。
【0105】
増幅が成功した場合に示される、検出チャンバー内の標的ポリヌクレオチドの有無および/または量は、任意の適切な手段によって検出される。例えば、増幅された配列は、二本鎖核酸に結合すると蛍光の増加または減少を示す、例えば、臭化エチジウム、アクリジンオレンジ、またはオキサゾール誘導体などのインターカレート染料または架橋染料を含むことによって、二本鎖の形態で検出され得る(Sambrook, 1989;Ausubel;Higuchi, 1992, 1993;Ishiguro, 1995)。
【0106】
増幅レベルはまた、Leeら(1993)およびLivakら(1995)に開示されているような蛍光標識されたオリゴヌクレオチドを用いる蛍光検出によって測定され得る。この実施形態では、検出試薬は、上述のもっと一般的なPCR方法におけるように配列選択的プライマー対、および蛍光剤(fluorescer)−消光剤(quencher)対を含有する配列選択的オリゴヌクレオチド(FQオリゴ)を含む。プライマー対の各プライマーは、増幅される領域に隣接する、標的分析物セグメントの対向する鎖の3’領域に相補的である。FQオリゴは、プライマーのうちの一方のプライマーより下流側の領域の分析物セグメントに選択的にハイブリダイズし得るように選択され、増幅される領域内に位置する。
【0107】
蛍光剤−消光剤対は、蛍光剤染料と消光剤染料とを含み、これらは、蛍光剤および消光剤の両方がオリゴヌクレオチドに結合される一方で、消光剤染料が、選択された波長で蛍光剤が発光する光を顕著に消光することができるように、オリゴヌクレオチド上の互いから離れた位置に配置される。FQオリゴは、好ましくは、3’ホスフェートまたは他の阻害基を含み、これによりオリゴの3’末端が末端拡張するのを防ぐ。
【0108】
蛍光剤および消光剤染料は、発光(蛍光剤)および吸収(消光剤)波長が適切に重複し、またFQオリゴが標的にハイブリダイズされるときオリゴがポリメラーゼによって酵素切断されるのを可能にする染料の組み合わせから選択され得る。ローダミンおよびフルオレセイン(fluorscein)誘導体などの適切な染料、ならびにこれらを接着する方法は周知であり、例えば、Menchenら(1993,1994)、Bergotら(1991)、およびFungら(1987)に記載されている。
【0109】
蛍光剤および消光剤染料は、蛍光剤が確実に十分に消光されるように十分に近く、且つポリメラーゼが確実に蛍光剤と消光剤との間の位置でFQオリゴを切断し得るように十分に離れて配置される。一般に、Livakら(1995)に概括的に記載されているように、約5から約30個の塩基に相当する間隔が適切である。好ましくは、FQオリゴの蛍光剤は、消光剤に関して5’であるヌクレオチド塩基に共有結合される。
【0110】
この方法の実行においては、プライマー対およびFQオリゴを、標的内の適切な相補領域への配列選択的ハイブリダイゼーションを可能にするのに効果的な条件下で標的ポリヌクレオチド(この例では二本鎖)と反応させる。各プライマーは、DNAポリメラーゼ活性を介してプライマーの拡張を開始するのに効果的である。ポリメラーゼが対応するプライマーより下流側のFQプローブに遭遇すると、ポリメラーゼはFQプローブを切断し、この結果、蛍光剤が消光剤に近い位置に保持されることがなくなる。従って、開放された蛍光剤からの蛍光シグナルが増大し、標的配列が存在することを示す。
【0111】
本実施形態の1つの利点は、測定可能なシグナルを生成するために、FQプローブの一部分しか切断する必要がないということである。別の実施形態では、検出試薬は、識別可能な蛍光剤染料が結合し、例えばヘテロ接合性により増幅領域に存在し得る異配列の領域に対して相補である2つ以上のFQオリゴを含み得る(Lee, 1993)。
【0112】
別の実施形態では、検出試薬は、選択された分析物の標的配列の隣接する連続領域に選択的に結合するのに効果的であり、リガーゼ酵素によってまたは化学的な手段によって共有結合され得る第1および第2オリゴヌクレオチドを含む(Whiteley, 1989;Landegren, 1988)(オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ、OLA)。この方法では、2つのオリゴヌクレオチド(オリゴ)を、オリゴヌクレオチドが確実にそれらの標的配列に特異的にハイブリダイズするのに効果的な条件下で標的ポリヌクレオチドと反応させる。オリゴの対向する末端サブユニットが標的内の直接連続する塩基と塩基対を形成する、オリゴヌクレオチドがそれらの標的配列と塩基対を形成すると、これら2つのオリゴは、例えばリガーゼによる処理による連結によって結合され得る。連結工程の後、検出ウェルは加熱されて、連結されていないプローブを解離し、連結され標的に結合されたプローブの存在が、インターカレート染料との反応によって、または他の手段によって検出される。
【0113】
OLAのためのオリゴはまた、上述のように、蛍光剤−消光剤対を一緒に配置することにより、分析物配列が存在すると蛍光シグナルが減少するように設計してもよい。
【0114】
上記のOLA連結方法では、必要であれば、ハイブリダイゼーションおよび連結工程を繰り返すことによる増幅によって、分析物ポリヌクレオチドからの標的領域の濃度を増大させることができる。簡単な加法増幅は、分析物ポリヌクレオチドを標的として使用し、連結された産物の所望の濃度が得られるまで変性、アニーリング、および連結工程を繰り返すことによって実現され得る。
【0115】
もしくは、既知の方法(Winn-Deen)によれば、ハイブリダイゼーションおよび連結によって形成される連結された産物は、リガーゼ連鎖反応(LCR)によって増幅され得る。この方法では、二本鎖核酸の各標的領域に対して、2セットの配列特異的オリゴが用いられる。一方のプローブセットは、標的の第1の鎖の標的配列の隣接する連続領域に配列特異的に結合するように設計された第1および第2オリゴヌクレオチドを含む。第2のオリゴヌクレオチド対は、標的の対向する鎖の標的配列の隣接する連続領域に結合(ハイブリダイズ)するのに効果的である。これら2つの相補オリゴセットの存在下で、変性、アニーリング、および連結よりなるサイクルを連続して繰り返すことによって、標的配列は指数関数的に増幅され、このため検出および/または増幅されるのは標的のうちの少量のみでよい。
【0116】
別の改変では、OLAまたはLCRアッセイのためのオリゴが、1つ以上の介在塩基によって分離される標的ポリヌクレオチドの隣接領域に結合され、連結は、(i)DNAポリメラーゼと反応して、介在する単鎖領域を相補ヌクレオチドで埋めることによって、および(ii)リガーゼ酵素と反応して、得られる結合オリゴヌクレオチドに共有結合することによって実現される(Segev, 1992, 1994)。
【0117】
他の実施態様において、標的配列は、ハイブリダイゼーション−蛍光アッセイ(Leeら、1993年)に基づいて検出され得る。検出試薬には、上記のように、蛍光剤−消光剤対を含む配列選択的結合ポリマー(FQ-オリゴ)が含まれる。蛍光剤染料の蛍光発光は、FQ-オリゴが溶液中で遊離している(即ち、相補配列にハイブリダイズしていない)ときに、消光剤によって実質的に消光される。
【0118】
FQ-オリゴが標的内で相補配列にハイブリダイズして二本鎖複合体を形成すると、これは、蛍光剤の蛍光シグナルをかき乱す(例えば、増加させる)のに有効である。このことは、標的がサンプル中に存在していることを示す。他の実施態様において、結合ポリマーは、蛍光剤染料(しかし、消光剤染料ではない)のみを含み、その蛍光シグナルは、標的とハイブリダイズするときに減少または増加し、検出可能なシグナルを生成する。
【0119】
言うまでもなく、サンプル中の選択された分析物は、通常、デバイス内の一般的に均一な温度および圧力条件下で試験されるので、様々な検出チャンバ内の検出試薬は、実質的に同一の反応動力学を有していなければならない。これは、一般に、同様または同一の溶融曲線を有するオリゴヌクレオチドおよびプライマーを用いて成し遂げられ得、当該技術分野で公知の経験または実験方法によって決定され得る。
【0120】
他の実施態様において、分析物は抗原であり、各検出チャンバ内の分析物特異的試薬は、選択された分析物−抗原に特異的な抗体を含む。検出は、蛍光検出、凝集、または他の均質なアッセイフォーマットであり得る。本明細書で用いる用語「抗体」は、モノクローナルもしくはポリクローナル抗体、抗体のFc部分、または同等の機能を有する他の任意の種類の結合パートナーを指すものとする。
【0121】
蛍光検出に関しては、抗体は、分析物に対する抗体の特異的な結合が、化合物の蛍光を検出可能に増加または減少させるのに有効であるように、蛍光剤化合物で標識され得、検出可能なシグナル(非競合フォーマット)を生成する。他の実施態様(競合フォーマット)において、検出手段は、(i)標識されていない分析物特異的抗体、および(ii)分析物と競合して、抗体に特異的に結合するのに有効な蛍光剤標識リガンドを含む。リガンドの抗体への結合は、付着した蛍光剤の蛍光シグナルを増加または減少させるのに有効である。従って、測定シグナルは、サンプルから分析物によって置換されたリガンドの量に依存する。本発明に適合し得る例示的な蛍光アッセイフォーマットは、例えば、Ullman(1979年、1981年)およびYoshida(1980年)に見いだされ得る。
【0122】
関連の実施態様において、分析物が抗体であるとき、分析物特異的検出試薬は、サンプル中に存在し得る選択された分析物抗体と反応する抗原を含む。試薬は、上記のフォーマットに類似した競合または非競合型のフォーマットに適合し得る。あるいは、分析物特異的試薬は、抗体−分析物によって特異的に結合されるエピトープの少なくとも1つのコピーを含む一価または多価抗原を含み、検出シグナルを提供する凝集反応を促進する。
【0123】
さらに他の実施態様において、選択された分析物は酵素であり、検出試薬は、酵素の基質特異性に基づいて、サンプル中の特異的な分析物酵素と反応するように設計される酵素−基質分子を含む。従って、デバイス内の検出チャンバはそれぞれ、分析物酵素が特異的であり得る、異なる基質または基質組合せを含む。本実施態様は、サンプル中に存在し得る少なくとも1つの酵素を検出もしくは測定し、または選択された酵素の基質特異性をプローブするのに有用である。特に、好ましい検出試薬としては、NAD/NADH、FAD/FADH、ならびに、例えば、ヒドロゲナーゼ、オキシダーゼ、およびヒドロゲナーゼおよびオキシダーゼによってアッセイされ得る生成物を生成する酵素をアッセイするのに有用な様々な他の還元染料などの発色体基質が挙げられる。エステラーゼまたはヒドロラーゼ(例えば、グリコシダーゼ)検出に関しては、例えば、ニトロフェノールなどの発色体部分が有用であり得る。
【0124】
他の実施態様において、分析物は薬物候補であり、検出試薬は、適切な薬物標的またはその等価物を含み、薬物候補の標的への結合を試験する。言うまでもなく、この概念は、一般に、少なくとも1つの選択された標的物質と反応または結合する物質のスクリーニングを含むものとされ得る。例えば、アッセイデバイスは、アセチルコリンレセプタなどの選択されたレセプタタンパク質のアゴニストまたはアンタゴニストを試験するのに用いられ得る。他の実施態様において、アッセイデバイスは、少なくとも1つの選択された酵素の基質、アクチベーター、またはインヒビターをスクリーニングするのに用いられ得る。アッセイはまた、選択された標的に結合する分析物の投与量−応答曲線を測定するのに適合し得る。
【0125】
サンプルまたは検出試薬はさらに、ウシ血清アルブミン(BSA)などのキャリヤタンパク質を含み、アッセイ成分の検出チャンバの壁への非特異的結合を減少し得る。
【0126】
分析物特異的検出試薬は、好ましくは、少量の液体溶液(例えば、0.1から1μL)を搬送するために設計された分配システムを用いて、自動的に検出チャンバに分配される。システムには、交差混入なく予め選択された検出チャンバに分配された個別の分析物特異的検出試薬が供給される。
【0127】
本発明に従って調製された試薬充填デバイスは、複数のドロップオンデマンド(drop-on-demand)インクジェット印刷ヘッドに連結された分配ロボット(AsymtekAutomove 402)を有する。ロボットは、0.001インチの横方向解像度、1秒当たり0〜20インチの横方向速度、0.001インチのZ軸解像度、および1秒当たり0から8インチのZ軸速度を有するX、Y軸ワークテーブル(12インチ×12インチ)を有する。ロボットは、選択に応じて、チップロケータ、オフセットカメラ、ストローブドロップカメラ、オン軸カメラ、および/または重量測定ドロップ較正を有する。印刷ヘッドは、ガラス、テフロン(登録商標)、およびポリプロピレンから通常選択される湿った面を有するドロップオンデマンド圧電性型である。最少ドロップ量は25nLであり、最大フローは1分当たり1μLである。
【0128】
試薬充填は、好ましくは、少なくとも1つの精密な分配ロボットを用いて、注意深く制御された無菌条件下で行われる。適用後、試薬は、チャンバ内で乾燥し、ほとんどまたはすべての溶媒が蒸発する。乾燥は、必要に応じて、焼成または減圧によって促進され得る。次に、検出チャンバは、基板層を含むチャンバを適切なカバー層に付着させることによってシールされ、デバイスは使用準備される。
【0129】
III.シグナル検出および分析
分析物特異的試薬をサンプルと反応させることによって生成されるシグナルは、光学および非光学方法を含む任意の適切な検出手段によって測定される。
【0130】
シグナルが光学的に検出される場合、検出は、シグナルの分光特性と適合する任意の光学検出器を用いて成し遂げられ得る。アッセイには、光学シグナルの増加または減少が伴われ得る。光学シグナルは、蛍光、化学ルミネセンス、吸光度、円二色性、光学回転、ラマン散乱、放射能、および光散乱を含む任意の種々の光学原理に基づき得る。好ましくは、光学シグナルは、蛍光、化学ルミネセンス、または吸光度に基づく。
【0131】
一般に、検出される光学シグナルは、約180nm(紫外線)と約50μm(遠赤外線)との間の波長を有する光の吸収または放出を含む。より典型的には、波長は、約200nm(紫外線)と約800nm(近赤外線)との間である。このような波長を有する光を測定するための種々の検出装置が当該技術分野で周知であり、典型的には、例えば、光フィルタ、光電子増倍管、ダイオードベース検出器、および/または電荷結合検出器(CCD)を含む。
【0132】
個々の検出チャンバにおいて生成される光学シグナルは、1回に1個ずつまたは小グループでチャンバを繰り返し走査することによって連続して測定され得るか、または検出チャンバすべてを連続してまたは短期間ずつ調べる検出器を用いて同時に測定され得る。好ましくは、シグナルは、検出チャンバのそれぞれにおけるシグナルレベルを瞬時(実時間)に表示し、シグナルの時間経過を格納して後に分析することが可能なコンピュータを用いて記録され得る。
【0133】
各チャンバにおける光学シグナルは、規定の帯域幅(例えば、500nm±5nm)を有する少なくとも1つの選択された波長を有する光の検出に基づき得る。あるいは、光学シグナルは、選択された波長範囲における放出または吸収された光の形状またはプロフィールに基づき得る。好ましくは、光学シグナルは、内部制御を含むために、少なくとも2つの特有の波長を有する光の測定を含む。例えば、第1の波長は、分析物を測定するために用いられ、第2の波長は、チャンバが空ではないことを証明するか、または選択された試薬もしくは較正標準が検出チャンバ内に存在することを証明するために用いられる。第2の波長に対してシグナルがずれているまたは存在しない場合、これは、チャンバが空であり得る、サンプルが適切に調製されていない、または検出試薬に欠陥があることを示す。
【0134】
本発明を支持するように行われた研究において、検出アセンブリは、本発明によるデバイスを用いて、サンプル中の標的ポリヌクレオチドを蛍光検出するために調製された。アセンブリは、試験デバイスを位置決めするためのトランスレーションステージを有する。試験デバイスは、蛍光検出試薬を含むアドレス可能な7×7アレイの検出チャンバを有する。アセンブリ内の検出器は、タングステンバルブ(または石英ハロゲンバルブ、75W)照射源、CCDカメラ、および適切なフォーカシング/集光光学部品からなる。照射源は、上部から斜め(例えば、照射面に対して45度の傾斜角度)にデバイスを照射するように位置決めされる。光学部品は、放出フィルタによって分離された2つのレンズを有する。第1のレンズは、入力像を放出フィルタにコリメートし、第2のレンズは、フィルタリングされたビームをCCDに再び撮像する。試験デバイスは、第1のレンズの焦点に配置される。
【0135】
CCDは熱電気的に冷却された、機器グレード(instrumentationgrade)の前部照明型CCD(Princeton Instruments TEA/CCD-512TK/1)である。CCDの検出プレートは、512×512個の27μm正方画素のアレイを有し、これは試験デバイスのオーバーヘッド断面全体をカバーする。カメラヘッドは、コンピュータ(Quadra650、Apple Computers)と連絡してシグナルデータを収集および処理する、コントローラ(Princeton Instruments ST-135)によって制御される。このシステムは画素をオンチップでビン化(binning)する能力を有する。1mm×1mmのオーバーヘッド断面を有する検出チャンバについては、2×2画素のサイズを有するビンが適している。より一般には、ビンのサイズは、必要な総処理時間、検出チャンバのサイズおよび数、感度、およびシグナルノイズに基づいて選択される。
【0136】
アッセンブリ中のコンピュータは、シグナルを測定する各検出チャンバ内の適切な部分領域(sub-region)を選択するためのシグナル処理ソフトウェアを含んでいる。そのような部分領域は、入射光の均一性のために、エッジ領域が確実に排除されるように選択される。デバイスのシグナルイメージは、アッセイの要求に応じて、選択された時間間隔(interval)で記録および格納される。好ましくは、各検出チャンバのシグナルは、各チャンバ内の選択された部分領域についてビン毎の平均シグナルとして記録される。これは、各チャンバ内の選択された部分領域のサイズは通常、チャンバによって異なるためである。
【0137】
検出器光学系はさらに、2つ以上の波長における蛍光を検出するためのフィルタホイールを有するように構成されてもよい。
【0138】
上述のように、適切な場合、いくつかの適した方法のうちの任意の方法によって、検出チャンバの温度を制御してもよい。本発明に基づいて作成した検出アッセンブリにおいて、加熱手段は試験デバイスの外部におかれており(オフチップ加熱)、55℃から95℃の範囲において約±4°/秒の勾配レート(ramp rate)を有するペルティエ素子(ITI Ferro Tec model 6300)を備えた温度制御器(MarlowIndustries model SE 5020)を有している。チャンバを加熱するための抵抗性トレーシング(resistive tracing)(あるいは同等物)をデバイスが有するオンチップ加熱の場合については、アッセンブリは、200mmの領域にわたって最大パワー散逸(maximumpower dissipation)25Wを確立することができる、1つまたは2つの抵抗加熱ゾーンを提供するように改変され得る。このモードにより、55℃から95℃への遷移の間に、±10°/秒の勾配レートが得られ得る。
【0139】
上述の、各チャンバ中において分析物関連シグナルを検出するための、チャンバと対応する光学窓を備えた構造(セクションIIB)を、本明細書において、そのようなシグナルを検出するための検出手段と総称することもある。
【0140】
別のタイプの検出手段は、分析物と分析物特異的な試薬との反応を各チャンバ内において検出し得る、バイオセンサデバイスである。本発明での使用に適した電流測定型バイオセンサは、様々な原理で動作する。その1つにおいては、測定中の分析物自体が、分析物特異的試薬と相互作用し得ることによって、電気化学種、すなわち電極と接触した際に電子ドナーまたはアクセプタとして機能し得る種を生成する。一例として、分析物コレステロールと試薬コレステロールオキシダーゼとの反応により電気化学種Hが生成され、これは電極と接触した際に、この電極を含む回路中に測定可能な電流を発生させる。
【0141】
分析物特異的試薬は、電気化学種(ならびにサンプル中の他の小さな成分)に対して選択的に透過性を有する選択透過性(permselective)層によって電極表面から分離されたフィルム上に、局所化されてもよい。サンプル流体がバイオセンサに与えられたとき、分析物と対応する試薬との反応が電気化学種を生成し、その存在および量を、電極を介した電流測定によって定量化する。
【0142】
または、分析物特異的試薬は、分析物に特異的なレセプタであってもよい。まず、レセプタ部位を分析物−酵素結合体で満たしておく。分析物が存在すれば、結合体はレセプタから解放された後に電極に近い位置に自由に遊泳できるようになり、電極の近傍において過渡的な電気化学種(カタラーゼの存在下におけるHなど)を生成する。
【0143】
別の一般的なタイプのバイオセンサは、脂質二重層膜を、サンプル流体チャンバと電極との間に設けられた、電気化学種に対するゲートとして用いる。二重層はイオンチャネルタンパク質を有しており、イオンチャネルタンパク質は、分析物がタンパク質に結合することによって開き得るイオンゲートとして機能する。このように、分析物のチャネルタンパク質(分析物特異的試薬の役割を果たす)に対する結合により、膜を横切るイオン流ならびに、電極における検出可能なシグナルが得られる。
【0144】
上述のタイプの薄膜バイオセンサは、米国特許第5,391,250号、第5,212050号、第5,200,051号および第4,975,175号に記載されるように、フォトリソグラフィー法によってマイクロチップまたは小基板形態で形成されてもよい。本発明に適用した場合、基板中のチャンバー壁部は、必要な電極およびフィルム層の堆積のための基板として機能し得る。これらの層に加えて、電極を電気配線に接続する適切な導電性コネクタもまた設けられる。
【0145】
典型的なデバイスにおいて、各チャンバは所与の分析物のためのバイオセンサを含んでいる。サンプルがデバイスに導入された後、複数のサンプル分析物を各チャンバ内において別々に測定し、その結果をデバイスに電気的に接続された処理ユニットに報告する。
【0146】
IV.アッセイ法
別の局面において、本発明は液体サンプル中の複数の分析物を検出または定量化するための方法を包含する。本方法において、上述のタイプのデバイスを提供し、ネットワークの内部を真空下に置く。次に液体サンプルを注入口から加え、真空作用によってサンプルをサンプル分配ネットワーク中に流入させ、サンプルを検出チャンバに送達させる。送達されたサンプルは、各検出チャンバ中において、選択された分析物がサンプル中に存在するとき検出可能なシグナルを生成するのに効果的な条件下で、分析物特異的試薬との反応に供される。反応チャンバを検査あるいは分析することにより、選択された分析物のサンプル中における存在および/または量を決定する。
【0147】
試験されるサンプルは、デバイスとともに用い得る(compatible)液体中に溶解または抽出され得る、任意の供給源から得られたものであってよく、また、問題とする分析物を1つ以上含有していてもよい。例えばサンプルは、血液、血清、血漿、尿、汗、涙液、精液、唾液、脳脊髄液などの生体由来の流体、あるいはその精製あるいは修飾された誘導体であってもよい。サンプルはまた、植物、動物組織、細胞ライゼート、細胞培養物、微生物サンプル、土壌サンプルなどから得てもよい。必要であれば、サンプルを試験前に精製あるいは前処理することによって分析物検出に干渉し得る物質を除去してもよい。典型的にはサンプル流体は(特に例えばポリペプチド、ポリヌクレオチド、塩などの極性分析物においては)水溶液である。溶液は、分析物の溶解度を改善するための界面活性剤または洗浄剤を含んでいてもよい。非極性および疎水性分析物においては、有機溶媒がより適切であり得る。
【0148】
上述のように、本デバイスをサンプル分配ネットワークが真空下にあるような形態で製造販売することにより、デバイスがエンドユーザによって即充填されるようにしてもよい。または、真空ポートまたはサンプル注入口自体を介して、ユーザがネットワークの排気を行う。
【0149】
サンプルの充填に先だって、アッセイの要求に応じ、ネットワーク中のガスを別のガスと置換し得る。好適な実施態様においては残留ガスを二酸化炭素と置換することにより、(特にサンプルが水溶液である場合)サンプル充填後にネットワーク中に現れるガス気泡が素早くサンプル流体によって溶解されるようにする。
【0150】
本デバイスが、検出チャンバの下流に真空ポートを有する場合、検出チャンバが満たされた後にデバイス中のサンプル送達チャネルからサンプルを除去することによって、検出チャンバを互いにさらに隔離し得ることが理解されるであろう。本発明はまた、追加的な流体、例えば鉱物油またはアガロースその他の粘性材料(例えばDubrowの米国特許第5,164,055号およびMenchenらの米国特許第5,290,418号を参照)を含有する粘性ポリマー溶液を用いて送達チャネルを満たすことにより、チャンバを互いに隔離することや、あるいはアッセイを容易にするための試薬を含有する溶液で満たすことも意図している。
【0151】
本発明の特に有用な実施態様において、充填前にデバイスのサンプル分配ネットワーク内に真空を生成するために、大容積の注射器を用い得る。「大容積」とは、注射器の容積が、デバイスの(すなわちサンプル分配ネットワークの)総内容積よりも大きいことを意味する。好ましくは、注射器の容積はデバイスの内容積よりも少なくとも20倍大きい。図9のデバイスにおいて、注射器の注入口端側が真空ポート212に接続される。開口部216が開口部179と位置合わせされたとき、注射器を用いてデバイスの内部から空気を引き抜き、内圧を低下させる。例えば、容積50mLの注射器を用いた場合、デバイスの内容積が100μLであれば、サンプル分配ネットワーク内の圧力は、500分の1に減少することができる(=0.1mL/50mL)。このように、初期内圧760torrを2torr未満に減少させることができる。図6Aのデバイスを参照して、適切な接続具を用いて注射器を取り付け具106または102に接続することにより、分配ネットワークから脱気することができる。
【0152】
従って、本発明は、(i)上述のデバイスおよび(ii)デバイスの内部から脱気するための注射器を有するキットを包含する。本発明はまた、キットを用いて上述のようにサンプル中の1つ以上の分析物を検出する方法を包含する。注射器を用いることによりデバイス内に真空を作成する工程が非常に簡略化され、機械的真空ポンプを必要とすることなしに本デバイスを素早く直ちに用いることができることが理解されるであろう。
【0153】
V.有用性
本発明は、多種多様の用途に使用することが可能である。本発明は、病原体の検出、疾患の診断または観察、遺伝学的スクリーニング、抗体または抗原力価の決定、健康上の変化の検出および観察、ならびに薬物治療の観察などの、医学的または獣医学的目的に使用することが可能である。本発明はまた、活性に関する薬物候補(drug candidates)のスクリーニングを含む、多種多様な法医学的、環境的、および産業的用途においても有用である。
【0154】
より概略的には、本発明は、サンプル中の複数の分析物を同時にアッセイするのに便利な方法を提供する。本発明は、その用途において非常に柔軟性があり、それにより多種多様な分析物およびサンプル物質の分析に適合され得る。本発明は、予め調剤された、分析物特異的試薬を別々の検出チャンバ内に提供することによって、複雑で時間を消費する試薬調製の必要性を排除する。
【0155】
検出チャンバを単一のサンプル注入口を介して充填することが可能なので、本発明の実施はさらに単純化される。均一なサイズの検出チャンバを使用することにより、デバイスの自己計量が可能になり、正確な分量のサンプルがそれぞれのチャンバに送達される。このように、分析物特異的試薬の量および組成、チャンバ内のサンプルの量、ならびに反応条件を注意深く制御することが可能なので、アッセイの正確性、精度、および再現性の全てが向上する。さらに、デバイス内のサンプル分配ネットワークの寸法を非常に小さくすることが可能なので、非常に少量のサンプルを必要とする。
【0156】
このデバイスは、多種多様な材料から形成され得、それによりデバイスの構成をアッセイにおける特定の試薬および条件に適合させることが可能である。このデバイスが可動部品を必要とせず、且つサイズを比較的小さくする(典型的にはミリメートルからセンチメートルのオーダーの寸法を有する)ことが可能である限り、このデバイスの製造は単純化され、且つ費用が低減される。
【0157】
本発明の特徴および利点は、いかなる点においても本発明の範囲を限定することを意図されない、以下の実施例からさらに理解され得る。
【実施例】
【0158】
実施例
以下の調査は、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)によるヒトβ-アクチン遺伝子の検出を実証するために、実質的に図9に示すようなポリカーボネートマイクロデバイスを使用して実施された。PCR検出用のアッセイコンポーネントは、PEApplied Biosystems (Foster City, CA, β-actin kit, part #N808-0230)から販売されている。キットコンポーネントは、以下のストック溶液を含んでいた:
β-アクチン前進(forward)プライマー:
10mMのTris-HCL中に3μMのプライマー、pH8.0(室温時)、1mMのEDTA
β-アクチン逆(reverse)プライマー:
10mMのTris-HCL中に3μMのプライマー、pH8.0(室温時)、1mMのEDTA
β-アクチンプローブ:
10mMのTris-HCL中に2μMのTAMRA標識プローブ、pH8.0(室温時)、1mMのEDTA
DNAサンプル:
10mMのTris-HCL中に370μg/mLのヒトゲノムDNA、pH8.0(室温時)、1mMのEDTA(CoriellCell Repositories, Camden, N.J.から販売)
dNTP:
オートクレーブされ脱イオン化し、限外濾過された水中の、NaOHを用いてpH7.0に滴定された、20mMのdNTP(dUTP、dATP、dCTPおよびdGTPについてそれぞれ1チューブ)
DNAポリメラーゼ:
5U/μLの“AMPLITAQ GOLD” DNAポリメラーゼ、PE AppliedBiosystems, part #N808-0240から入手(PE Applied Biosystems “AMPLITAQ GOLD” ProductBrochure, 1996)
“AMPERASE” UNG:
1U/μLの、PE Applied Biosystems、part#N808-0096から販売されているウラシル-N-グリコシラーゼ、
10x“TAQMAN”緩衝液A
500mM KCl、100mM Tris-HCl、0.1 M EDTA、600nM パッシブリファレンス(passive reference)1(ROX)、pH8.3(室温時)、オートクレーブされた
MgCl
オートクレーブされ脱イオンし、且つ限外濾過された水中の20mMのMgCl
【0159】
前進プライマー、逆プライマー、およびTAMRA標識プローブの配列の記述は、PEApplied Biosystems “TAQMAN” PCR Reagent Protocol (1996)に見られ得る。ここにはまた、“TAQMAN”アッセイ技術の全工程も記述されている。前進および逆プライマーは、297塩基対PCR産物を製造するのに効果的である。
【0160】
平坦な基板層180および基板層161は、標準的な射出成形法によってポリカーボネートから(基板層161)、またはシートストックから(層180)形成された。それぞれの検出チャンバの容積は1μLであった。
【0161】
検出チャンバには、以下のような様々な量の前進プライマー、逆プライマー、および蛍光プローブを充填した。それぞれ0.5mLのβ-アクチン前進プライマー溶液、逆プライマー溶液、および蛍光プローブをポリプロピレンチューブに加えて、1.5mLの最終プライマー/プローブストック溶液を提供した。次いで、ロボット制御の微量注射器を用いて、この溶液を基板層161の交互の検出チャンバに充填した。具体的には、交互のチャンバに、1x、5x、または10x量のプライマー/プローブ溶液を充填し、1x(14nLのプライマー/プローブストック溶液)は、15nMの各プライマーならびに10nMの蛍光プローブの検出チャンバにおける最終濃度と同等であり(乾燥したチャンバを続いてサンプルで充填した後)、5x(72nLのプライマー/プローブストック溶液)は、75nMの各プライマーおよび50nMの蛍光プローブの最終濃度と同等であり、そして10x(145nLのプライマー/プローブストック溶液)は、150nMの各プライマーならびに100nMの蛍光プローブの最終濃度と同等であった。充填済みチャンバ内のプライマーおよびプローブの量は、1x、5x、および10xチャンバに関して、それぞれ標準的な反応条件下で使用される濃度の1/20、1/4、および1/2に相当した。充填済みチャンバは、それぞれの充填済みチャンバが介在する空きチャンバによって分離される、基板層161に「チェッカー盤」模様を形成した。
【0162】
充填済みチャンバを室温で空気乾燥して乾燥させた後、充填済み基板層(161)を、超音波溶接によって平坦な基板層180に接合した。次いで、注入口取付具190を、開口部179が真空ポート開口部216に整合されるように、サンプル注入口162を覆って配置した。サンプル分配ネットワーク164および検出チャンバ168を、真空ポンプに接続された真空ポート212を介して約1〜10torrの最終内部圧力まで減圧した。
【0163】
プライマーおよびプローブを含まないPCR反応混合物(サンプル)を、上記のストック溶液から調製して、サンプルにおいて以下の最終濃度を提供した:
10mMのTris-HCL、pH8.3
50mMのKCL
3.5mMのMgCl
400μMのdUTP
それぞれ200μMのdATP、dCTP、およびdGTP
0.01U/μLのウラシル-N-グリコシラーゼ
0.25U/μLの“AMPLITAQ GOLD” DNAポリメラーゼ
0.74ng/μLのヒトゲノムDNAテンプレート

マイクロデバイスへのサンプルの充填に関して、上記のサンプル溶液を充填したマイクロピペットを、ピペットの先端で空気によって占有される空き容量を最小限にするように、サンプルポート214内に配置した。次いで、サンプルが真空作用によってポート214から検出チャンバ内に引かれるように、注入口取付具190を押し下げて、開口部179を開口部218にさらに整合させた。チャンバの充填は、2秒もかからずに完了した。
【0164】
次いで、マイクロデバイスを、アルミニウム製加熱シンクに接着されたペルティエ素子(20mm×20mm)にクランプした。循環運動は、Marlow温度制御器(Marlow Industries Inc., Dallas, Texas, Model No. SE 5020)を用いて制御された。サーミスタをペルティエ素子に取り付けて、温度フィードバックを提供した(Marlowpart No. 217-2228-006)。マイクロデバイスは、以下のように熱循環された:
1)予備循環:50℃で2分間;95℃で10分間
2)40回の循環:95℃で15秒;60℃で60秒
3)72℃で保持。
【0165】
シグナルの検出は、照明用のタングステンバルブと、CCDカメラと、検出用の4色フィルタホイールとから成る蛍光検出器具を用いて達成された。全ての検出チャンバ(ウェル)の画像を、レポータの蛍光の増大を観察するために、それぞれの熱循環の終了時(60℃の段階中)に幾つかの波長で撮影した。妨害する蛍光変動を、所定のチャンバについてのパッシブリファレンス(ROX染料)の発光強度により、レポータ染料の発光強度を分割することによって、正常化した。励起波長は488nmであった。レポータ強度は518nmで測定され、そしてパッシブリファレンス強度は602nmで測定された。
【0166】
結果。ポジティブ蛍光シグナルは、5xおよび10濃度のβ-アクチンプライマーおよび蛍光プローブを充填した全てのチャンバで検出された。1x濃度で充填されたチャンバに関しては、シグナルは、わずかに検出されるか、あるいは全く検出されなかった。β-アクチンプライマーおよびプローブを含まないチャンバに関しては、検出可能なシグナルは、バックグラウンド上に全く検出されず、40回の加熱/冷却循環後、検出チャンバ間では交差混入は発生しなかった。
【0167】
最高の最終蛍光シグナルは、10x量のプライマーおよびプローブを充填した、約23回の循環後に検出可能シグナルが現れる検出チャンバにおいて得られた。5xチャンバもまた、23回の循環後に検出可能シグナルを示したが、最終蛍光シグナルは、(プローブの濃度が低いため)10xウェルに関するシグナル程には高くなかった。このように、β-アクチン遺伝子は、通常の条件下で使用されるプライマーおよびプローブ濃度の1/4および1/2に等しいプライマーおよびプローブ濃度を使用して、容易に検出された。その結果もまた、予め充填されたプライマーおよびプローブは、サンプルの充填後にサンプルに首尾よく溶解したことを示す。
【0168】
本発明は、明確化と理解を目的として図解および実施例によって説明されたが、様々な改変が本発明から逸脱することなく行われ得ることが理解されるであろう。上記に引用された全ての参考文献を、本明細書に参考として援用する。
【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1】図1Aおよび1Bは、本発明に従う例示的なアッセイデバイスの平面図(1A)および斜視図(1B)を示す。
【図2】図2A〜2Cは、本発明に従ういくつかの例示的なサンプル分配ネットワーク配置を示す。
【図3】図3A〜3Cは、サンプル分配ネットワークの検出チャンバの液体サンプルでの充填についての時間順序を示す。
【図4】図4は、サンプルを3つの異なるセットの検出チャンバに送達するための3つのサンプル送達チャネルを含むサンプル分配ネットワークを示す。
【図5】図5は、各々の異なる検出チャンバについて別個の送達チャネルを有するサンプル分配ネットワークを示す。
【図6A】図6A〜6Cは、本発明に従う別のサンプル分配ネットワークの選択された特徴を示す:デバイスを平面図(6A)、斜視図(6B)に示し、デバイスのサンプル分配ネットワークの一部分を図6Cに示す。
【図6B】図6A〜6Cは、本発明に従う別のサンプル分配ネットワークの選択された特徴を示す:デバイスを平面図(6A)、斜視図(6B)に示し、デバイスのサンプル分配ネットワークの一部分を図6Cに示す。
【図7】図7は、本発明に従うデバイスの一部分の分解図を示す。
【図8】図8は、本発明に従う別のデバイスの一部分の分解図を示す;そして
【図9】図9は、本発明に従う別のデバイスの斜視図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−25313(P2009−25313A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−229123(P2008−229123)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【分割の表示】特願平9−535575の分割
【原出願日】平成9年4月2日(1997.4.2)
【出願人】(500069057)アプレラ コーポレイション (120)
【住所又は居所原語表記】850 Lincoln Centre Drive Foster City CALIFORNIA 94404 U.S.A.
【Fターム(参考)】