説明

複極室および該複極室を備えた電気化学的液体処理装置

【課題】 (1)電極寿命の長寿命化、(2)電極反応による副生成物、有害物質または腐食性物質の生成抑制、(3)メンテナンスの簡易化が可能となる複極室および該複極室を備えた電気化学的液体処理装置を提供する。
【解決手段】 電気透析装置および電気分解装置に用いる複極室において、陽極側より順に、アニオン交換膜、電極およびカチオン交換膜の順に設置し、カチオン交換膜とアニオン交換膜の間に供給する液体が純水である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気透析装置および電気分解装置に用いる複極室および該複極室を備えた電気化学的液体処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気透析装置および電気分解装置における複極室としては、特許文献1乃至3などが公知例としてある。しかし、これらの構造においては、電極である金属が、被処理液である電解質溶液に直接的に接しているため、被処理液の性状によっては金属腐食が促進される場合があった。例えば、特許文献1にはチタンに対する濃アルカリ溶液の腐食性が高いことが記載されている。
また、被処理液中のイオンが電極反応を起こすことにより、有害物質または腐食を促進する物質が液体または気体として発生する場合があり、装置の防食対策および安全対策およびメンテナンスに多額の費用がかかる場合があった。また、電極反応により、副生成物が生成する場合があり、製品の品質に影響を与える場合があった。
【特許文献1】特開昭54−90079号公報
【特許文献2】特開平10−81986号公報
【特許文献3】特開昭51−43377号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする課題は、(1)電極寿命の長寿命化、(2)電極反応による副生成物、有害物質または腐食性物質の生成抑制、(3)メンテナンスの簡易化が可能となる新規な複極室を提供することである。
本発明が解決しようとする別の課題は、上述した複極室を備えた電気化学的液体処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、イオン交換膜とイオン交換体および電極材料を効果的に組み合わせ、複極室に純水または非電解質の水溶液を供給することにより、上記課題を克服可能な複極室を見出した。
【0005】
本発明の複極室は、電気透析装置および電気分解装置に用いる複極室において、陽極側より順に、アニオン交換膜、電極およびカチオン交換膜の順に設置し、カチオン交換膜とアニオン交換膜の間に供給する液体が純水であることを特徴とするものである。
本発明の複極室の他の態様は、電気透析装置および電気分解装置に用いる複極室において、陽極側より順に、アニオン交換膜、電極およびカチオン交換膜の順に設置し、カチオン交換膜とアニオン交換膜の間に供給する液体が非電解質の水溶液であることを特徴とするものである。
【0006】
また、カチオン交換膜と電極の間にカチオン交換体を配置することを特徴とする。
また、アニオン交換膜と電極の間にアニオン交換体を配置することを特徴とする。
また、前記カチオン交換体またはアニオン交換体は、繊維状材料で構成されるイオン交換不織布または織布であることを特徴とする。
また、前記繊維状材料で構成されるイオン交換不織布または織布は、放射線グラフト重合法を利用して製造されることを特徴とする。
また、前記電極は、通液性かつ通ガス性の導電性材料から構成されていることを特徴とする。
【0007】
また、前記通液性かつ通ガス性の導電性材料は、ラス網状(エキスパンデッドメタル)、金属斜交網、格子状金属材料、網状金属材料、発泡金属材料、焼結金属繊維シートから選択されることを特徴とする。
また、前記複極室は、前記純水または非電解質の水溶液を供給する供給口を備えるとともに、電気分解で生成された気体および純水または非電解質の水溶液が排出される流出口を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の複極室の他の態様は、電気透析装置および電気分解装置に用いる複極室において、陽極側より順に、アニオン交換膜、アニオン交換体、電極、カチオン交換体、およびカチオン交換膜の順に設置したことを特徴とするものである。
また、前記カチオン交換体またはアニオン交換体は、繊維状材料で構成されるイオン交換不織布または織布であることを特徴とする。
また、前記繊維状材料で構成されるイオン交換不織布または織布は、放射線グラフト重合法を利用して製造されることを特徴とする。
また、前記電極は、通液性かつ通ガス性の導電性材料から構成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の電気化学的液体処理装置は、陽極と陰極を有する電気化学的液体処理装置であって、該陽極と該陰極の間に上述の複極室を少なくとも1つ有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明による複極室により、(1)電極寿命の長寿命化、(2)電極反応による副生成物、有害物質または腐食性物質の生成抑制、(3)メンテナンスの簡易化が可能となる。環境保護及び資源保護の両方の観点から、極めて有用性の高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の複極室の各種態様を説明する。
図1は、本発明に係る複極室の一例を示す概略図である。図1に示すように、本発明の複極室は、陽極側より順に、アニオン交換膜1、電極2およびカチオン交換膜3の順に設置されており、アニオン交換膜1と電極2の間にはアニオン交換体としてのアニオン交換不織布4が充填されている。また、カチオン交換膜3と電極2の間にはカチオン交換体としてのカチオン交換不織布5が充填されている。電極2は通液性かつ通ガス性の導電性材料から構成されている。前記通液性かつ通ガス性の導電性材料は、ラス網状(エキスパンデッドメタル)、金属斜交網、格子状金属材料、網状金属材料、発泡金属材料、焼結金属繊維シートから選択される。複極室は、下部および上部にそれぞれ液体入口(供給口)6および液体出口(流出口)7を備えている。液体入口6から導入された液体は、電極2、カチオン交換不織布5およびアニオン交換不織布4の空隙を通過して液体出口7に到達する構成である。通電時には電気分解反応により電極2の陰極側からは酸素ガス、電極2の陽極側からは水素ガスが発生する。これらのガスは主に電極2の空隙を通過して液体出口7から液体と共に排出される。
【0012】
図2は本発明に係る複極室の別の一例を示す概略図である。陽極側より順に、アニオン交換膜1、電極2およびカチオン交換膜3の順に設置されており、アニオン交換膜1と電極2の間にはアニオン交換体としてのアニオン交換スペーサ14が充填されている。また、カチオン交換膜3と電極2の間にはカチオン交換体としてのカチオン交換スペーサ15が充填されている。これらのスペーサ14、15は通液性および通ガス性を有した構成のものである。電極2は平板状である。複極室は、下部および上部にそれぞれ液体入口6および液体出口7を備えている。液体入口6から導入された液体は、カチオン交換スペーサ15およびアニオン交換スペーサ14の空隙を通過して液体出口に到達する構成である。通電時には電気分解反応により電極2の陰極側からは酸素ガス、電極2の陽極側からは水素ガスが発生する。これらのガスもカチオン交換スペーサ15およびアニオン交換スペーサ14の空隙を通過して液体出口7から液体と共に排出される。液体出口7を電極2を中心として2つの液体出口に分ければ、発生した酸素ガスと水素ガスとを分離することが可能となる。
【0013】
電極材料としては、白金、白金めっき金属、ダイヤモンド、カーボンなどを好適に用いることができる。電子伝導が可能な材料であればこれらに限るものではない。
イオン交換膜に負荷される電流密度としては、通常3A/dm以下である。アニオン交換膜とカチオン交換膜との距離は、通常10mm以下、好ましくは6mm以下である。
イオン交換膜としては、通常市販されているものを用いることができ、例えば(株)アストム製のアニオン交換膜であるAHA、カチオン交換膜であるCMBなどを用いることができる。
【0014】
イオン交換体としては、高分子繊維基材にイオン交換基をグラフト重合法によって導入したものが好ましく用いられる。
放射線グラフト重合法とは、高分子基材に放射線を照射してラジカルを形成させ、これにモノマーを反応させることによってモノマーを基材中に導入するという技法である。放射線グラフト重合法に用いることができる放射線としては、α線、β線、γ線、電子線、紫外線等を挙げることができるが、本発明においてはγ線や電子線を好ましく用いる。放射線グラフト重合法には、グラフト基材に予め放射線を照射した後、グラフトモノマーと接触させて反応させる前照射グラフト重合法と、基材とモノマーの共存下に放射線を照射する同時照射グラフト重合法とがあるが、本発明においては、いずれの方法も用いることができる。また、モノマーと基材との接触方法により、モノマー溶液に基材を浸漬させたまま重合を行う液相グラフト重合法、モノマーの蒸気に基材を接触させて重合を行う気相グラフト重合法、基材をモノマー溶液に浸漬した後モノマー溶液から取り出して気相中で反応を行わせる含浸気相グラフト重合法などを挙げることができるが、いずれの方法も本発明において用いることができる。
【0015】
高分子繊維よりなるグラフト化基材は、ポリオレフィン系高分子、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどの一種の単繊維であってもよく、また、軸芯と鞘部とが異なる高分子によって構成される複合繊維であってもよい。
用いることのできる複合繊維の例としては、ポリオレフィン系高分子、例えばポリエチレンを鞘成分とし、鞘成分として用いたもの以外の高分子、例えばポリプロピレンを芯成分とした芯鞘構造の複合繊維が挙げられる。かかる複合繊維材料に、イオン交換基を、放射線グラフト重合法を利用して導入したものが、イオン交換能力に優れ、厚みが均一に製造できるので、上記の目的で用いられるイオン交換繊維材料として好ましい。イオン交換繊維材料の形態としては、織布、不織布などを挙げることができる。
また、斜交網等のスペーサー部材の形態のイオン交換体としては、ポリオレフィン系高分子製樹脂、例えば、電気透析槽において広く使用されているポリエチレン製の斜交網(ネット)を基材として、これに、放射線グラフト重合法を用いてイオン交換機能を付与したものが、イオン交換能力に優れ、被処理水の分散性に優れているので、好ましい。
【0016】
上述の各種の形態のイオン交換体の中では、不織布又は織布などの形態のイオン交換繊維材料が特に好ましい。織布、不織布などの繊維材料は、樹脂ビーズや斜交網などの形態の材料と比較して表面積が極めて大きいのでイオン交換基の導入量が大きく、また、樹脂ビーズのようにビーズ内部のミクロポア又はマクロポア内にイオン交換基が存在するということはなく、全てのイオン交換基が繊維の表面上に配置されるので、処理水中の金属イオンが容易にイオン交換基の近傍に拡散され、イオン交換によって吸着される。従って、イオン交換繊維材料を用いると、金属イオンの除去・回収効率をより向上させることができる。
【0017】
なお、上記のイオン交換繊維材料など以外でも、公知のイオン交換体樹脂ビーズを用いることもできる。例えば、ポリスチレンをジビニルベンゼンで架橋したビーズなどを基材樹脂として用い、これを硫酸やクロロスルホン酸のようなスルホン化剤で処理してスルホン化を行なって基材にスルホン基を導入することにより、本発明で使用することのできる強酸性カチオン交換樹脂ビーズを得ることができる。このような製造方法は当該技術において周知であり、またこのような手法によって製造されたカチオン交換樹脂ビーズとしては、種々の商品名で市販されているものを挙げることができる。また、官能基としてイミノジ酢酸及びそのナトリウム塩から誘導される官能基、各種アミノ酸、例えば、フェニルアラニン、リジン、ロイシン、バリン及びプロリン並びにそのナトリウム塩から誘導される官能基、イミノジエタノールから誘導される官能基などを有する樹脂ビーズを用いてもよい。
【0018】
不織布などの繊維基材やスペーサー基材に導入するイオン交換基としては、特に限定されることなく種々のカチオン交換基又はアニオン交換基等を用いることができる。例えば、カチオン交換基としては、スルホン基などの強酸性カチオン交換基、リン酸基などの中酸性カチオン交換基、カルボキシル基などの弱酸性カチオン交換基、アニオン交換基としては、第1級〜第3級アミノ基などの弱塩基性アニオン交換基、第4アンモニウム基などの強塩基性アニオン交換基を用いることができ、或いは、上記カチオン交換基及びアニオン交換基の両方を併有するイオン交換体を用いることもできる。
【0019】
また、官能基として、イミノジ酢酸及びそのナトリウム塩から誘導される官能基、各種アミノ酸、例えば、フェニルアラニン、リジン、ロイシン、バリン及びプロリン並びにそのナトリウム塩から誘導される官能基、イミノジエタノールから誘導される官能基などを有するイオン交換体を用いてもよい。
この目的で用いることのできるイオン交換基を有するモノマーとしては、アクリル酸(AAc)、メタクリル酸、スチレンスルホン酸ナトリウム(SSS)、メタリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、ビニルスルホン酸ナトリウム、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド(VBTAC)、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドなどを挙げることができる。
例えば、スチレンスルホン酸ナトリウムをモノマーとして用いて放射線グラフト重合を行うことにより、基材に直接、強酸性カチオン交換基であるスルホン基を導入することができ、また、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライドをモノマーとして用いて放射線グラフト重合を行うことにより、基材に直接、強塩基性アニオン交換基である第4級アンモニウム基を導入することができる。
【0020】
また、イオン交換基に転換可能な基を有するモノマーとしては、アクリロニトリル、アクロレイン、ビニルピリジン、スチレン、クロロメチルスチレン、メタクリル酸グリシジル(GMA)などが挙げられる。例えば、メタクリル酸グリシジルを放射線グラフト重合によって基材に導入し、次に亜硫酸ナトリウムなどのスルホン化剤を反応させることによって強酸性カチオン交換基であるスルホン基を基材に導入したり、又はクロロメチルスチレンをグラフト重合した後に、基材をトリメチルアミン水溶液に浸漬して4級アンモニウム化を行うことによって、強塩基性アニオン交換基である第4級アンモニウム基を基材に導入することができる。
また、基材にクロロメチルスチレンをグラフト重合した後、スルフィドを反応させてスルホニウム塩とした後、イミノジ酢酸ナトリウムを反応させることによって、官能基としてイミノジ酢酸ナトリウム基を基材に導入することができる。或いは、まず基材にクロロメチルスチレンをグラフト重合した後、クロロ基をヨウ素で置換し、次にイミノジ酢酸ジエチルエステルを反応させてヨウ素をイミノジ酢酸ジエチルエステル基で置換し、次に水酸化ナトリウムを反応させてエステル基をナトリウム塩に変換することによって、官能基としてイミノジ酢酸ナトリウム基を基材に導入することができる。
【0021】
図3は、電気透析装置に本発明に係る複極室を組み入れた一例である。図3に示す電気透析装置は、原水(被処理水)から選択的にアニオンであるフッ素を分離濃縮する場合である。電気透析装置は、陽極室21、中和室22、脱イオン室23、複極室24、中和室25、脱イオン室26、陰極室27の7つの部屋を備えている。脱イオン室23,26は、流入した被処理水から選択的にアニオンだけを除去しアニオン濃度が低下した処理水を取り出す部屋である。中和室22,25は、脱イオン室23,26から受け入れたアニオンを陽極室21、又は複極室24から供給される水素イオンにより電気的に中和する部屋である。陽極室21と中和室22との間にはカチオン交換膜Cが配置され、中和室22と脱イオン室23との間にはアニオン交換膜Aが配置され、脱イオン室23と複極室24との間にはアニオン交換膜Aが配置されている。さらに、複極室24と中和室25との間にはカチオン交換膜Cが配置され、中和室25と脱イオン室26との間にはアニオン交換膜Aが配置され、脱イオン室26と陰極室27との間にはアニオン交換膜Aが配置されている。
【0022】
複極室24は、ラス網状電極38の両側にイオン交換不織布の一種であるアニオン交換不織布およびカチオン交換不織布を配した構造になっている。原水はアニオン交換膜A,Aの間に設けられた脱イオン室23および26に供給され、脱イオン室23および26の内部に設けられたアニオン交換体(アニオン交換スペーサ、アニオン交換不織布)により捕捉される。両極(陽極51、陰極53)の間には直流電圧が印加されており、陰極室27および複極室24で電気分解により発生した水酸化物イオンが陽極側に移動すると共に、脱イオン室23および26内のアニオン交換体(アニオン交換スペーサ、アニオン交換不織布)に捕捉されたアニオンがアニオン交換膜Aを介して中和室22および25に移動する。陽極室21および複極室24では、電気分解により発生した水素イオンが陰極側に移動し、カチオン交換膜Cを介して中和室22および25に移動する。
【0023】
中和室22および25には陽極側から順にカチオン交換不織布41、カチオン交換スペーサ42、アニオン交換スペーサ43およびアニオン交換不織布44が充填されている。ここで、カチオン交換不織布とアニオン交換不織布の間に導入するものはカチオン交換体またはアニオン交換体であれば種類は問わない。脱イオン室23,26にはアニオン交換不織布46およびアニオン交換スペーサ47が充填されている。
【0024】
図4は、電気透析装置に本発明に係る複極室を組み入れた別の一例である。図4に示す電気透析装置は、原水(被処理水)から選択的にカチオンであるNHを分離濃縮する場合である。電気透析装置は、陽極室21、脱イオン室23、中和室22、複極室24、脱イオン室26、中和室25、陰極室27の7つの部屋を備えている。脱イオン室23,26は、流入した被処理水から選択的にカチオンだけを除去しカチオン濃度が低下した処理水を取り出す部屋である。中和室22,25は、脱イオン室23,26から受け入れたカチオンを複極室24、又は陰極室27から供給される水酸化物イオンにより電気的に中和する部屋である。陽極室21と脱イオン室23との間にはカチオン交換膜Cが配置され、脱イオン室23と中和室22との間にはカチオン交換膜Cが配置され、中和室22と複極室24との間にはアニオン交換膜Aが配置されている。さらに、複極室24と脱イオン室26との間にはカチオン交換膜Cが配置され、脱イオン室26と中和室25との間にはカチオン交換膜Cが配置され、中和室25と陰極室27との間にはアニオン交換膜Aが配置されている。
【0025】
複極室24は、ラス網状電極38の両側にイオン交換不織布の一種であるアニオン交換不織布およびカチオン交換不織布を配した構造になっている。原水はアニオン交換膜C,Cの間に設けられた脱イオン室23および26に供給され、脱イオン室23および26の内部に設けられたカチオン交換体(カチオン交換スペーサ、カチオン交換不織布)により捕捉される。両極(陽極51、陰極53)の間には直流電圧が印加されており、陽極室21および複極室24で電気分解により発生した水素イオンが陰極側に移動すると共に、脱イオン室23および26内のカチオン交換体に捕捉されたカチオンがカチオン交換膜Cを介して中和室22および25に移動する。複極室24および陰極室27では、電気分解により発生した水酸化物イオンが陽極側に移動し、アニオン交換膜Aを介して中和室22および25に移動する。
【0026】
中和室22および25には陽極側から順にカチオン交換不織布41、カチオン交換スペーサ42、アニオン交換スペーサ43およびアニオン交換不織布44が充填されている。ここで、カチオン交換不織布とアニオン交換不織布の間に導入するものはカチオン交換体またはアニオン交換体であれば種類は問わない。脱イオン室23,26にはカチオン交換不織布41およびカチオン交換スペーサ42が充填されている。
【0027】
なお、図3および図4において、陽極室21にはラス網状(エキスパンデッドメタル)の電極51とカチオン交換膜Cの間にカチオン交換不織布52が充填されている。陰極室27にはラス網状(エキスパンデッドメタル)の電極53とアニオン交換膜Aの間にアニオン交換不織布54が充填されている。陽極室21および陰極室27ではラス網状(エキスパンデッドメタル)の電極51,53を用いているため、電気分解により生成した酸素ガスまたは水素ガスが電極の空孔を通じて電極間より外に向かって排出される。絶縁体である気体がカチオン交換不織布52またはアニオン交換不織布54の内部に滞ることがないために通電抵抗の上昇を抑制することができる。
【0028】
陽極室21、陰極室27および複極室24共に通液する液体は純水が望ましい。用いることのできる純水としては特に制約は無く、当業者が通常用いている純水製造方法により製造される純水がすべて使用可能である。例えばRO(逆浸透)膜、イオン交換、蒸留、電気式脱塩などの公知技術またはその組合わせにより製造した純水、またはその純水の純度を更に高めた超純水でもよい。純水の代わりに、非電解質の水溶液を用いてもよい。例えば、イソプロピルアルコールを0.5mg/L程度添加した純水は支障なく使用可能である。
【0029】
以下の実施例により、本発明をより具体的に説明する。以下の実施例の記載は、本発明の一具体例を説明するもので、本発明はこれらの記載によって限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
図3に示す複極式の構成の装置を用いて実験を行った。原水は、半導体工場から排出されるフッ化物イオン含有排水(500mg−F/L)とした。被濃縮水としては純水を用いた。また、被濃縮水は循環させる構成とした。陽極室、陰極室および複極室の極液としては純水を用いた。複極室には陽極側からアニオン交換不織布、ラス網状(エキスパンデッドメタル)電極およびカチオン交換不織布を順に充填した。また、ラス網状(エキスパンデッドメタル)電極の材質はチタンに白金めっきをしたものとした。電流密度は3A/dmとした。SV(空塔速度)は原水、被濃縮水および純水共に50〜100[1/hr]とした。
この結果、処理水のフッ化物イオン濃度は1〜3mg/Lが得られた。運転電圧は40Vと低い値で安定した。原水中のフッ化物イオンはフッ化水素水として5000mg/L以上に濃縮された。以上より、本発明による複極室は、低電圧で純水を電解して、電極として機能することが確認された。
【0031】
・カチオン交換不織布:基材はポリエチレン製不織布からなり、官能基はスルホン基であり、グラフト重合法により作成した。
・アニオン交換不織布:基材はポリエチレン製不織布からなり、官能基は4級アンモニウム基であり、グラフト重合法により作成した。
・カチオン交換スペーサ:基材はポリエチレン製斜孔網からなり、官能基はスルホン基であり、グラフト重合法により作成した。
・アニオン交換スペーサ:基材はポリエチレン製斜孔網からなり、官能基は4級アンモニウム基であり、グラフト重合法により作成した。
・陽極 :チタンに白金めっきを施したものからなり、ラス網形状(エキスパンデッドメタル)であった。
・陰極 :SUS304からなり、ラス網形状(エキスパンデッドメタル)であった。
・カチオン交換膜:アストム製CMB
・アニオン交換膜:アストム製AHA
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る複極室の一例を示す図である。
【図2】本発明に係る複極室の別の一例を示す図である。
【図3】本発明に係る複極室を用いた電気透析装置の一例を示す図である。
【図4】本発明に係る複極室を用いた電気透析装置の別の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1,A アニオン交換膜
2 電極
3,C カチオン交換膜
4 アニオン交換不織布
5 カチオン交換不織布
6 液体入口
7 液体出口
14 アニオン交換スペーサ
15 カチオン交換スペーサ
21 陽極室
22,25 中和室
23,26 脱イオン室
24 複極室
27 陰極室
38 ラス網状電極
41,52 カチオン交換不織布
42 カチオン交換スペーサ
43,47 アニオン交換スペーサ
44,46,54 アニオン交換不織布
51,53 ラス網状の電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気透析装置および電気分解装置に用いる複極室において、陽極側より順に、アニオン交換膜、電極およびカチオン交換膜の順に設置し、カチオン交換膜とアニオン交換膜の間に供給する液体が純水であることを特徴とする複極室。
【請求項2】
電気透析装置および電気分解装置に用いる複極室において、陽極側より順に、アニオン交換膜、電極およびカチオン交換膜の順に設置し、カチオン交換膜とアニオン交換膜の間に供給する液体が非電解質の水溶液であることを特徴とする複極室。
【請求項3】
カチオン交換膜と電極の間にカチオン交換体を配置することを特徴とする請求項1または2記載の複極室。
【請求項4】
アニオン交換膜と電極の間にアニオン交換体を配置することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の複極室。
【請求項5】
前記カチオン交換体またはアニオン交換体は、繊維状材料で構成されるイオン交換不織布または織布であることを特徴とする請求項3または4記載の複極室。
【請求項6】
前記繊維状材料で構成されるイオン交換不織布または織布は、放射線グラフト重合法を利用して製造されることを特徴とする請求項5記載の複極室。
【請求項7】
前記電極は、通液性かつ通ガス性の導電性材料から構成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の複極室。
【請求項8】
前記通液性かつ通ガス性の導電性材料は、エキスパンデッドメタル、金属斜交網、格子状金属材料、網状金属材料、発泡金属材料、焼結金属繊維シートから選択されることを特徴とする請求項7記載の複極室。
【請求項9】
前記純水または非電解質の水溶液を供給する供給口を備えるとともに、電気分解で生成された気体および純水または非電解質の水溶液が排出される流出口を備えることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の複極室。
【請求項10】
電気透析装置および電気分解装置に用いる複極室において、陽極側より順に、アニオン交換膜、アニオン交換体、電極、カチオン交換体、およびカチオン交換膜の順に設置したことを特徴とする複極室。
【請求項11】
前記カチオン交換体またはアニオン交換体は、繊維状材料で構成されるイオン交換不織布または織布であることを特徴とする請求項10記載の複極室。
【請求項12】
前記繊維状材料で構成されるイオン交換不織布または織布は、放射線グラフト重合法を利用して製造されることを特徴とする請求項11記載の複極室。
【請求項13】
前記電極は、通液性かつ通ガス性の導電性材料から構成されていることを特徴とする請求項10乃至12のいずれか1項に記載の複極室。
【請求項14】
陽極と陰極を有する電気化学的液体処理装置であって、該陽極と該陰極の間に請求項1乃至13のいずれか1項に記載の複極室を少なくとも1つ有することを特徴とする電気化学的液体処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−2235(P2006−2235A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−181859(P2004−181859)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】