説明

視覚情報処理装置及びその視覚情報処理方法

【課題】光空間変調素子とイメージャとを組み合わせることによって、従来では得られることのなかった新たな視覚情報処理を実現する。
【解決手段】本発明に係る視覚情報処理装置は、撮像対象物からの入射光を画素毎に変調すると共に、前記入射光を反射或いは透過させて出力する光空間変調素子と、光空間変調素子から出力された前記撮像対象物からの入射光を撮像し、画像データを生成するイメージャと、イメージャで生成された画像データを画像処理する画像データ処理部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は視覚情報処理装置及びその視覚情報処理方法に係り、特に、光空間変調素子及び高速撮像素子を用いた視覚情報処理装置及びその視覚情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、CMOS画像センサ等のイメージャ(固体撮像素子)を用いた撮像装置やカメラは、民生用、産業用を問わず多種多様な形態でその応用分野を広めつつある。
【0003】
特に、産業用の撮像装置の分野においては、例えば毎秒1000フレームの超高速性と高解像度とを同時に達成できる撮像装置も実現されてきており、各種の画像解析や制御システムのセンサとして用いられている。
【0004】
他方、近時、光空間変調素子と呼ばれるデバイスが開発、実用化されプロジェクタ装置等に多く用いられるようになってきている(例えば、特許文献1)。光空間変調素子には、液晶ライトバルブ等の透過型のものと、DMD(Digital Micro-mirror Device)と呼ばれる反射型のものがある。
【0005】
透過型の光空間変調素子を用いたプロジェクタ装置では、画像信号を液晶ライトバルブに印加し、光源からの光を液晶ライトバルブに透過させて前方のスクリーン等に画像を投影する。
【0006】
これに対して、反射型の空間変調素子を用いたプロジェクタ装置は、光源からの光をDMDに反射させた後、前方のスクリーン等に画像を投影するものである。DMDには多数の微小なミラーが画素数に対応する数だけ配置されており、ミラーの角度を画素毎に変えることによりスクリーンに投影する光の量を画素毎にオン・オフさせ2次元画像を形成するものである。ミラーの角度の変化はオン・オフ信号によって2値的に変化するが、パルス幅変調によってオン・オフの周期を設定することにより人間の眼に対しては連続的な光の強度を表現することができる。また、画素毎、フレーム毎にパルス幅変調のデューティ比を変化させることにより、空間的にも時間的にも連続な動画像を形成することができる。
【特許文献1】特開2003−114479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、液晶ライトバルブやDMD等の光空間変調素子は、専らプロジェクタ装置に用いられることが多かった。高輝度化、高速化のシステム技術の進展に伴って、プレゼンテーション用のプロジェクタに留まらず、大型テレビとして、或いは劇場映画用のプロジェクタとして多方面に活用されるようになってきているものの、基本的にはプロジェクタ装置の画像形成素子として用いられている。
【0008】
本発明に係る視覚情報処理装置は、これらの光空間変調素子を従来の画像形成素子として用いるものではない。
【0009】
画像形成(撮像)そのものは、CMOS画像センサ等のイメージャ(固体撮像素子)で行なう。同時に、液晶ライトバルブやDMD等の光空間変調素子を用いて、イメージャに入射する対象物からの光に対して空間的、時間的な変調を施すものである。
【0010】
本発明に係る視覚情報処理装置は、光空間変調素子とイメージャとを組み合わせることによって、従来では得られることのなかった新たな視覚情報処理を実現することを目的とする。
【0011】
具体的には、本発明のひとつの目的は、光空間変調素子とイメージャとを組み合わせることによって、特定の固定或いは移動対象物については高解像度を実現することができる視覚情報処理装置及びその視覚情報処理方法を提供することにある。
【0012】
また、本発明の他の目的は、光空間変調素子とイメージャとを組み合わせることによって、所定の輝度変動を画素毎に抽出し、輝度変動スペクトラム画像を生成することができる視覚情報処理装置及びその視覚情報処理方法を提供することにある。
【0013】
さらに、本発明の他の目的は、光空間変調素子とイメージャとを組み合わせることによって、画像全体、又は特定の固定若しくは移動対象物に対してエッジ強調等の空間フィルタ処理を施すことができる視覚情報処理装置及びその視覚情報処理方法を提供することにある。
【0014】
また、本発明の他の目的は、光空間変調素子とイメージャとを組み合わせることによって、明暗の差が非常に大きな対象物に対しても適正な明度のダイナミックレンジを確保することができる視覚情報処理装置及びその視覚情報処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明に係る視覚情報処理装置は、請求項1に記載したように、撮像対象物からの入射光を画素毎に変調すると共に、前記入射光を反射或いは透過させて出力する光空間変調素子と、前記前記光空間変調素子から出力された前記撮像対象物からの入射光を撮像し、画像データを生成するイメージャと、前記イメージャで生成された画像データを画像処理する画像データ処理部とを備えたことを特徴とする。本視覚情報処理装置によれば、従来のイメージャ単体では得られなかった新たな画像処理を実現できる。
【0016】
また、本発明に係る視覚情報処理装置は、請求項2に記載したように、全画素領域が複数にグループ化され、前記各グループ内の複数の画素信号を順次切り換えて撮像対象物からの入射光を反射或いは透過させて出力する光空間変調素子と、前記光空間変調素子から出力された前記撮像対象物からの入射光を、前記グループ数と同じ画素数の解像度で撮像するイメージャと、順次切り換えて前記イメージャに入力される前記複数の画素信号を合成し、前記イメージャの解像度を前記光空間変調素子と同じ解像度に高める高解像度処理部とを備えたことを特徴とする。本視覚情報処理装置によれば、高感度の画像データを提供しつつも、特定の固定或いは移動対象物については高解像度を実現することができる。
【0017】
また、本発明に係る視覚情報処理装置は、請求項3に記載したように、全画素領域が複数にグループ化され、前記各記グループ内の複数の画素信号をそれぞれ異なる周波数でオン・オフして撮像対象物からの入射光を反射或いは透過させて出力する光空間変調素子と、前記光空間変調素子から出力された前記撮像対象物からの入射光を、前記光空間変調素子の解像度と同じ解像度で撮像し画像データを生成するイメージャと、前記撮像対象物の輝度変動を前記異なる周波数に対応して周波数分解し、前記異なる周波数に対応したスペクトラム画像を生成するスペクトラム画像生成部とを備えたことを特徴とする。本視覚情報処理装置によれば、所定の輝度変動を画素毎に抽出し、輝度変動スペクトラム画像を生成することができる。
【0018】
また、本発明に係る視覚情報処理装置は、請求項4に記載したように、全画素領域が複数にグループ化され、前記各グループ内の複数の画素信号を所定の複数の空間パターンに基づいて順次切り換えて撮像対象物からの入射光を反射或いは透過させて出力する光空間変調素子と、前記光空間変調素子から出力された前記撮像対象物からの入射光を、前記グループ数と同じ画素数で撮像し画像データを生成するイメージャと、前記複数の空間パターンに基づいて順次イメージャから出力される複数の信号を演算し、前記グループ内の複数の画素を処理単位とする空間フィルタリングを行なう空間フィルタ部とを備えたことを特徴とする。本視覚情報処理装置によれば、画像全体、又は特定の固定若しくは移動対象物に対してエッジ強調等の空間フィルタ処理を施すことができる。
【0019】
また、本発明に係る視覚情報処理装置は、請求項5に記載したように、所定の画素領域を有し、撮像対象物からの入射光の露光時間を画素毎に制御する光空間変調素子と、画素毎に露光時間が制御された前記光空間変調素子からの反射光或いは透過光によって前記撮像対象物を撮像し画像データを生成するイメージャと、前記イメージャで生成された画像データの画素毎の輝度情報に基づいて、前記露光時間を画素毎に制御する制御信号を生成する制御部とを備えたことを特徴とする。本視覚情報処理装置によれば、明暗の差が非常に大きな対象物に対しても適正な明度のダイナミックレンジを確保することができる。
【0020】
また、本発明に係る視覚情報処理方法は、請求項7に記載したように、撮像対象物からの入射光を光空間変調素子によって画素毎に変調すると共に、前記入射光を反射或いは透過させて出力するステップと、前記前記光空間変調素子から出力された前記撮像対象物からの入射光をイメージャで撮像し、画像データを生成するステップと、前記イメージャで生成された画像データを画像処理するステップとを備えたことを特徴とする。本視覚情報処理方法によれば、従来のイメージャ単体では得られなかった新たな画像処理を実現することができる。
【0021】
また、本発明に係る視覚情報処理方法は、請求項8に記載したように、全画素領域が複数にグループ化された光空間変調素子によって、前記各グループ内の複数の画素信号を順次切り換えて撮像対象物からの入射光を反射或いは透過させて出力するステップと、前記光空間変調素子から出力された前記撮像対象物からの入射光を、前記グループ数と同じ画素数の解像度のイメージャで撮像するステップと、順次切り換えて前記イメージャに入力される前記複数の画素信号を合成し、前記イメージャの解像度を前記光空間変調素子と同じ解像度に高めるステップとを備えたことを特徴とする。本視覚情報処理方法によれば、高感度の画像データを提供しつつも、特定の固定或いは移動対象物については高解像度を実現することができる。
【0022】
また、本発明に係る視覚情報処理方法は、請求項9に記載したように、全画素領域が複数にグループ化された光空間変調素子によって、前記各記グループ内の複数の画素信号をそれぞれ異なる周波数でオン・オフして撮像対象物からの入射光を反射或いは透過させて出力するステップと、前記光空間変調素子から出力された前記撮像対象物からの入射光を、前記光空間変調素子の解像度と同じ解像度のイメージャで撮像し画像データを生成するステップと、前記撮像対象物の輝度変動を前記異なる周波数に対応して周波数分解し、前記異なる周波数に対応したスペクトラム画像を生成するステップとを備えたことを特徴とする。本視覚情報処理方法によれば、所定の輝度変動を画素毎に抽出し、輝度変動スペクトラム画像を生成することができる。
【0023】
また、本発明に係る視覚情報処理方法は、請求項10に記載したように、全画素領域が複数にグループ化された光空間変調素子によって、前記各グループ内の複数の画素信号を所定の複数の空間パターンに基づいて順次切り換えて撮像対象物からの入射光を反射或いは透過させて出力するステップと、前記光空間変調素子から出力された前記撮像対象物からの入射光を、前記グループ数と同じ画素数のイメージャで撮像し画像データを生成するステップと、前記複数の空間パターンに基づいて順次イメージャから出力される複数の信号を演算し、前記グループ内の複数の画素を処理単位とする空間フィルタリングを行なうステップとを備えたことを特徴とする。本視覚情報処理方法によれば、画像全体、又は特定の固定若しくは移動対象物に対してエッジ強調等の空間フィルタ処理を施すことができる。
【0024】
また、本発明に係る視覚情報処理方法は、請求項11に記載したように、所定の画素領域を有した光空間変調素子によって、撮像対象物からの入射光の露光時間を画素毎に制御するステップと、画素毎に露光時間が制御された前記光空間変調素子からの反射光或いは透過光によって前記撮像対象物をイメージャで撮像し画像データを生成するステップと、前記イメージャで生成された画像データの画素毎の輝度情報に基づいて、前記露光時間を画素毎に制御する制御信号を生成するステップとを備えたことを特徴とする。本視覚情報処理方法によれば、明暗の差が非常に大きな対象物に対しても適正な明度のダイナミックレンジを確保することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る視覚情報処理装置及びその視覚情報処理方法によれば、光空間変調素子とイメージャとを組み合わせることによって、従来では得られることのなかった新たな視覚情報処理を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明に係る視覚情報処理装置及びその視覚情報処理方法の実施形態について、添付図面を参照して説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施形態に係る視覚情報処理装置において共通して用いられる光空間変調素子とイメージャの関係を示した図である。本発明の実施形態において、光空間変調素子10は、図1に示したように、撮像対象物100からの入射光を空間的に変調する形態として用いる。この場合、光空間変調素子10としては反射型と透過型の2つの形態をとり得る。図1(a)は、反射型の光空間変調素子10a、例えば、DMDを用いた形態である。また、図1(b)は、透過型の光空間変調素子10b、例えば、透過型液晶ライトバルブを用いた形態である。いずれの形態も、撮像対象物100からの入射光を光空間変調素子10a、10bで画素毎に変調(空間変調)した後、イメージャ20に出力する形態である。
【0028】
以下の説明では、図面上は透過型の光空間変調素子を用いているが、説明の重複を避けるためであり、反射型の光空間変調素子を除外するものではない。
【0029】
(1)第1の実施形態
図2は、第1の実施形態に係る視覚情報処理装置1の構成例を示した図である。
【0030】
第1の実施形態に係る視覚情報処理装置1は、イメージャ20と光空間変調素子10とを組み合わせることにより、イメージャ20の解像度の向上させる処理を行なうように構成されたものである。
【0031】
視覚情報処理装置1は、光空間変調素子10と、画像特徴抽出部2bと、高解像度処理部30(画像データ処理部)とを備えて構成されている。
【0032】
本実施形態に係る光空間変調素子10は、高解像度処理部30からの制御信号に基づいて、入射光を反射或いは透過させる画素を所定のグループ内で順次切り替えてイメージャ20へ出力するものである。
【0033】
図3は、視覚情報処理装置1による高解像度処理の動作概念を示した図である。
【0034】
第1の実施形態に係る視覚情報処理装置1では、光空間変調素子10の解像度の方がイメージャ20の解像度よりも高く構成されている。図3の例では、光空間変調素子10は16×16(256)画素、イメージャ20は4×4(16)画素であり、光空間変調素子10はイメージャ20に対して16倍の解像度を有している。
【0035】
光源等の無い暗い場所にある対象物を撮像する場合等では、より感度の高いイメージャ20が求められる。一般にイメージャ20の感度を向上させるには、画素面積の増大が最も有効であり、高感度イメージャは通常のイメージャに比べて画素面積を大きくとったものが多い。このため、一般に高感度イメージャは所定エリア内の画素数が制約され、解像度は通常のイメージャに比べて低いものが多い。
【0036】
第1の実施形態に係る視覚情報処理装置1では、このような高感度かつ低解像度のイメージャであっても、光空間変調素子10と組み合わせることにより、高解像度を実現するものである。
【0037】
図3に例示したイメージャ20の解像度は、光空間変調素子10の解像度に比べて1/16となっている。即ち、光空間変調素子10の16画素がイメージャ20の1画素に対応する例である。
【0038】
まず、光空間変調素子10の画素を16(4×4)素子毎にグループ化する。そして、グループ内の1画素のみを順次オンしていく。図10の例では、(4×4)素子のグループ内の左上の画素から順次切り替えて(スキャンして)オンとしていく。他のグループについても同様の切り替えシーケンスで画素をオンにしていく。
【0039】
このような画素に切り替え方法によって、1画素の切り替え毎に各グループからグループの数に対応した数の画素が出力されることになる。図3の例では、光空間変調素子10の16グループから各1画素がオンとなり、合計16画素がイメージャ20に出力される。イメージャ20ではこの16画素によってまず低解像度の画像データが1枚生成される。光空間変調素子10では、グループ内の画素が順次切り替えられてオンとされていき、イメージャ20では低解像度の画像データを順次生成する。グループ内の全画素の切り替えが終了した時点で、イメージャ20では16枚の低解像度画像を生成されることになる。
【0040】
次にこれらの16枚の低解像度画像データを合成することにより、1枚の高解像度画像データを生成する。16枚の各低解像度画像データとグループ内の画素位置とは1対1に対応しているため、16枚の低解像度画像データの合成により、1枚の高解像度画像データの生成が可能である。本例では、イメージャ20の解像度の16倍の高解像度化が可能となる。
【0041】
図3の例では、グループ内の16画素を1画素ずつオンする形態を示している。これに対して、例えば、16画素のうち、4(2×2)画素ずつオンとする形態でも良い。この場合、イメージャ20では4枚の低解像度画像データが生成されることになり、これらの4枚を合成することにより、4倍の解像度の画像データを生成することができる。前の例に比べると合成後の画像データの解像度は1/4となっているものの、合成する画像データの枚数も1/4となっており、処理時間は短縮される。
【0042】
このように、本実施形態に係る視覚情報処理装置1では、イメージャ20の解像度の向上が可能であり、また向上させる解像度も上記のように容易に変更することができる。
【0043】
(2)第2の実施形態
図4は、第2の実施形態に係る視覚情報処理装置1aの構成例を示す図である。
【0044】
第2の実施形態に係る視覚情報処理装置1aは、イメージャ20と光空間変調素子10とを組み合わせることにより、撮像対象物の輝度変動等の周波数成分を画素毎に抽出し画像化したスペクトラム画像を生成することができるように構成されたものである。
【0045】
視覚情報処理装置1aは、光空間変調素子10と、イメージャ20と、スペクトラム画像生成部40(画像データ処理部)とを備えて構成されている。
【0046】
本実施形態に係る光空間変調素子10は、スペクトラム画像生成部40からの制御信号に基づいて画素毎に所定の周期信号によってオン・オフし、撮像対象物100からの入射光を反射或いは透過させてイメージャ20へ出力するものである。
【0047】
図5は、視覚情報処理装置1aによるスペクトラム画像生成処理の動作概念を示した図である。
【0048】
第2の実施形態では、光空間変調素子10とイメージャ20とは基本的には同じ画素数で構成される。
【0049】
光空間変調素子10は複数の画素を有する複数のグループに分割される。図5の例では、4(2×2)画素毎にグループ化される。
【0050】
グループ内の4画素に対して、それぞれ異なる周波数のオン・オフ制御信号を印加する。例えば、画素1ないし画素4に対してそれぞれ周波数1ないし周波数4でオン・オフが切り替わる制御信号を印加する。
【0051】
撮像対象物の輝度が所定の周波数で変動している場合、この変動周波数と光空間変調素子10に印加するオン・オフ制御信号の周波数が一致した場合、イメージャ20では該当する画素の輝度が保持される。他方、撮像対象物の輝度変動の周波数と光空間変調素子10に印加するオン・オフ制御信号の周波数が不一致の場合、イメージャ20では該当する画素の輝度は抑制される。即ち、光空間変調素子10を相関器として機能させ、イメージャ20が備える容量成分により積分器が構成されるため、画素毎に撮像対象物の変動周波数を抽出することが可能となる。
【0052】
例えば、複雑な背景の中に50Hzの商用電源で蛍光灯が点灯されている場合、本実施形態に係る視覚情報処理装置1aでは、オン・オフ制御周波数の1つを50Hzと一致させることにより、蛍光灯の部分のみが強調されたスペクトラム画像を生成することができる。
【0053】
各グループ内のオン・オフ制御周波数は任意に設定することが可能であり、撮像対象物の物理的条件や測定対象周波数に応じて適宜設定することができる。
【0054】
例えば、構造物のクラック等を検出する場合、このクラック等が特定の共振周波数で変動することが予めわかっているときには、オン・オフ制御周波数の1つをこの共振周波数に一致させることによりクラック等の位置に対応したスペクトラム画像を生成することが可能となる。この結果、視認が困難な微細なクラック等に対してもその共振周波数を抽出し画像化することによってクラック等の可視化が可能となる。
【0055】
また、逆に、観測対象物の共振周波数が未知の場合であっても、画像中の特定の部位の周波数とその周囲の範囲の周波数が異なる場合には、その特定の部位を抽出した画像(スペクトラム画像)を生成することもできる。
【0056】
例えば、プリント配線基板を既知の周波数で振動させ、この振動周波数と異なった周波数成分を有する部分を画像として抽出することにより、実装部品の半田付け不良部位を画像情報として検出することが可能となる。
【0057】
(3)第3の実施形態
図6は、第3の実施形態に係る視覚情報処理装置1bの構成例を示した図である。第3の実施形態に係る視覚情報処理装置1bは、イメージャ20と光空間変調素子10とを組み合わせることにより、エッジ強調等の空間フィルタリング処理を簡素な演算処理によって実現可能に構成されたものである。
【0058】
視覚情報処理装置1bは、光空間変調素子10と、イメージャ20と、空間フィルタリング処理部50(画像データ処理部)とを備えて構成されている。
【0059】
本実施形態に係る光空間変調素子10は、空間フィルタリング処理部50からの制御信号に基づいて画素毎にオン・オフし、撮像対象物100からの入射光を反射或いは透過させてイメージャ20へ出力するものである。
【0060】
図7は、視覚情報処理装置1bによる空間フィルタリング処理の動作概念を示した図である。
【0061】
第3の実施形態では、光空間変調素子10の画素数はイメージャ20の画素数よりも多い画素数で構成される。図7の例では、光空間変調素子10の画素数はイメージャ20の画素数の4倍として構成されている。
【0062】
光空間変調素子10は複数の画素を有する複数のグループに分割される。図7の例では、4(2×2)画素毎にグループ化される。
【0063】
グループ内の4画素に対しては、所定の空間パターンに基づいて対応する画素にオン・オフ制御信号を印加する。例えば、図7に例示したように、空間パターン1では、グループ内の4画素総てをオンとする。空間パターン2では、右半分の2画素をオンとし左半分の2画素はオフとする。逆に、空間パターン3では、左半分の2画素をオンとし右半分の2画素はオフとする。
【0064】
本実施形態に係る視覚情報処理装置1bでは、光空間変調素子10を空間パターン1、2および3に設定したときに得られるイメージャ20の画像データから、減算処理のみよってX方向、Y方向のエッジ強調処理をする空間フィルタリング処理を実現することができる。
【0065】
具体的には、図7の式(1)に示したように、空間パターン2のときに得られるイメージャ20の画像、I(x,y,t+Δt)から、空間パターン1のときに得られるイメージャ20の画像のI(x,y,t)の1/2を減算することによってX方向のエッジが強調された画像データを生成することができる。空間パターン1から得られる画像データと空間パターン2から得られる画像データとは厳密には時刻が異なっているものの、光空間変調素子10の画素を高速に切り替えることにより、図7の式(1)右辺の演算式を左辺で近似することができる。
【0066】
同様にして、図7の式(2)に示したように、空間パターン3のときに得られるイメージャ20の画像、I(x,y,t+2Δt)から、空間パターン1のときに得られるイメージャ20の画像のI(x,y,t)の1/2を減算することによってY方向のエッジが強調された画像データを生成することができる。
【0067】
第3の実施形態に係る視覚情報処理装置1bによれば、複数の空間パターンを光空間変調素子10を用いて形成し、各空間パターンに応じて得られるイメージャ20の画像データに対して、減算等の簡素な演算によって空間フィルタリング処理を行なうことができる。
【0068】
この他、より広い領域に対してテンプレート画像などマッチングする画像を光空間変調素子10で空間パターンとして生成することにより、空間的なマッチング処理等も可能となる。また、あらかじめ用意した画像だけではなく、前フレームの画像情報に基づいた変調パターンを用意することで、ブロックマッチング等の処理も可能となる。
【0069】
(4)第4の実施形態
図8は、第4の実施形態に係る視覚情報処理装置1cの構成例を示した図である。第4の実施形態に係る視覚情報処理装置1cは、反射対象物100からの入射光の露光時間を画素毎に制御可能に構成されたものである。
【0070】
視覚情報処理装置1cは、光空間変調素子10と、イメージャ20と、制御部60(画像データ処理部)とを備えて構成されている。
【0071】
光空間変調素子10は制御部60からの制御信号に基づいて、画素毎に露光時間を制御し、反射光或いは透過光をイメージャ20に出力するものである。反射型の光空間変調素子10a、例えば、DMDの場合にはオン時間、即ちマイクロミラーの反射面がイメージャ20を向いている時間を画素毎に制御することにより露光時間を画素毎に制御することができる。また、透過型の光空間変調素子10bの場合には画素に印加する電圧を制御することにより透過量を画素毎に制御することにより露光時間を等価的に画素毎に制御することができる。
【0072】
図9は、視覚情報処理装置1cによる露光時間制御の動作概念を示した図である。イメージャ20単体では、素子精度等の問題から明るさに対するダイナミックレンジに限界があり、輝度が極めて高い対象物と輝度が非常に低い対象物とを同時に鮮明な画像で撮像することは一般に困難である。イメージャ20の画素毎に感度制御回路等を設けてダイナミックレンジを拡大する形態も原理的には可能であるが、感度制御回路等の実装上の制約から画素数の低減や画素面積の低減となり、分解能や感度といった本来のイメージャの性能を犠牲にすることとなる。
【0073】
これに対して、本実施形態に係る視覚情報処理装置1cにおいては、光空間変調素子10によって露光時間を制御し、露光時間が制御された反射光或いは透過光を従来のイメージャ20へ出力する形態である。イメージャ20で撮像された画像データの輝度情報を画素毎に制御部60で抽出し、光空間変調素子10にフィードバックする。イメージャ20で撮像された画像データの特定領域の輝度が高すぎる場合にはその領域の画素の露光時間を減少させ、逆に他の特定領域の輝度が低すぎる場合にはその領域の画像の露光時間を増加させる。このようにイメージャ20で観測された画像の輝度を画素単位で制御することにより、実質的に極めて広いダイナミックレンジを実現することが可能となる。
【0074】
また、本実施形態では、イメージャ20自体は従来の形態のものがそのまま使用できるため、イメージャ20が本来備える解像度や感度を犠牲にすることもない。
【0075】
第4の実施形態に係る視覚情報処理装置1cの変形例として、空間感度の自動補正機能を備えた視覚情報処理装置1cとすることができる。
【0076】
一般に、イメージャ20は画素領域の全範囲において完全に均一な感度を有するとは限らず、空間的に感度に差がある。また、カラー撮像の場合に用いられるRGBやCMY等のカラーフィルタアレイも同様に空間的な感度(透過率)の不均一性を有している。
【0077】
本実施形態に係る視覚情報処理装置1cでは、光空間変調素子10によって画素毎の露光時間を制御することが可能であるため、イメージャ20やカラーフィルタアレイの空間的な不均一性を容易に補正することができる。
【0078】
また、第4の実施形態に係る視覚情報処理装置1cの他の変形例として、室内での撮像等の場合に生じる、照明光の位置の偏りによる輝度の不均一性を補正する形態とすることもできる。照明光に近い領域から遠い領域に向かって輝度が徐々に下がるような場合、特に2値化画像を生成する際には輝度が均一になるように補正する必要がある。本実施形態に係る視覚情報処理装置1cでは、イメージャ20の輝度情報をモニタし、光空間変調素子10の露光時間を制御することにより、照明光の位置に寄らず画素全体で均一な輝度の画像データを生成することができる。
【0079】
上述した各実施形態に係る視覚情報処理装置および視覚情報処理によれば、光空間変調素子とイメージャ(固体撮像素子)とを組み合わせることによって、従来では得られることのなかった新たな視覚情報処理を実現することができる。
【0080】
なお、本発明は上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせても良い。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明に係る視覚情報処理装置の第1ないし第4の実施形態における光空間変調素子とイメージャとの関係を示す図。
【図2】本発明に係る視覚情報処理装置の第1の実施形態のシステム構成例を示す図。
【図3】本発明に係る視覚情報処理装置の第1の実施形態における高解像度処理の動作概念を説明する図。
【図4】本発明に係る視覚情報処理装置の第2の実施形態のシステム構成例を示す図。
【図5】本発明に係る視覚情報処理装置の第2の実施形態におけるスペクトラム画像生成処理の動作概念を説明する図。
【図6】本発明に係る視覚情報処理装置の第3の実施形態のシステム構成例を示す図。
【図7】本発明に係る視覚情報処理装置の第3の実施形態における空間フィルタリング処理の動作概念を説明する図。
【図8】本発明に係る視覚情報処理装置の第4の実施形態のシステム構成例を示す図。
【図9】本発明に係る視覚情報処理装置の第4の実施形態における露光時間制御の動作概念を説明する図。
【符号の説明】
【0082】
1、1a、1b、1c 視覚情報処理装置
10 光空間変調素子
10a 光空間変調素子(反射型)
10b 光空間変調素子(透過型)
20 イメージャ
30 高解像度処理部
40 スペクトラム画像生成部
50 空間フィルタリング処理部
60 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像対象物からの入射光を画素毎に変調すると共に、前記入射光を反射或いは透過させて出力する光空間変調素子と、
前記前記光空間変調素子から出力された前記撮像対象物からの入射光を撮像し、画像データを生成するイメージャと、
前記イメージャで生成された画像データを画像処理する画像データ処理部と、
を備えたことを特徴とする視覚情報処理装置。
【請求項2】
全画素領域が複数にグループ化され、前記各グループ内の複数の画素信号を順次切り換えて撮像対象物からの入射光を反射或いは透過させて出力する光空間変調素子と、
前記光空間変調素子から出力された前記撮像対象物からの入射光を、前記グループ数と同じ画素数の解像度で撮像するイメージャと、
順次切り換えて前記イメージャに入力される前記複数の画素信号を合成し、前記イメージャの解像度を前記光空間変調素子と同じ解像度に高める高解像度処理部と、
を備えたことを特徴とする視覚情報処理装置。
【請求項3】
全画素領域が複数にグループ化され、前記各記グループ内の複数の画素信号をそれぞれ異なる周波数でオン・オフして撮像対象物からの入射光を反射或いは透過させて出力する光空間変調素子と、
前記光空間変調素子から出力された前記撮像対象物からの入射光を、前記光空間変調素子の解像度と同じ解像度で撮像し画像データを生成するイメージャと、
前記撮像対象物の輝度変動を前記異なる周波数に対応して周波数分解し、前記異なる周波数に対応したスペクトラム画像を生成するスペクトラム画像生成部と、
を備えたことを特徴とする視覚情報処理装置。
【請求項4】
全画素領域が複数にグループ化され、前記各グループ内の複数の画素信号を所定の複数の空間パターンに基づいて順次切り換えて撮像対象物からの入射光を反射或いは透過させて出力する光空間変調素子と、
前記光空間変調素子から出力された前記撮像対象物からの入射光を、前記グループ数と同じ画素数で撮像し画像データを生成するイメージャと、
前記複数の空間パターンに基づいて順次イメージャから出力される複数の信号を演算し、前記グループ内の複数の画素を処理単位とする空間フィルタリングを行なう空間フィルタ部と、
を備えたことを特徴とする視覚情報処理装置。
【請求項5】
所定の画素領域を有し、撮像対象物からの入射光の露光時間を画素毎に制御する光空間変調素子と、
画素毎に露光時間が制御された前記光空間変調素子からの反射光或いは透過光によって前記撮像対象物を撮像し画像データを生成するイメージャと、
前記イメージャで生成された画像データの画素毎の輝度情報に基づいて、前記露光時間を画素毎に制御する制御信号を生成する制御部と、
を備えたことを特徴とする視覚情報処理装置。
【請求項6】
前記光空間変調素子は、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)或いは液晶ライトバルブであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の視覚情報処理装置。
【請求項7】
撮像対象物からの入射光を光空間変調素子によって画素毎に変調すると共に、前記入射光を反射或いは透過させて出力するステップと、
前記前記光空間変調素子から出力された前記撮像対象物からの入射光をイメージャで撮像し、画像データを生成するステップと、
前記イメージャで生成された画像データを画像処理するステップと、
を備えたことを特徴とする視覚情報処理方法。
【請求項8】
全画素領域が複数にグループ化された光空間変調素子によって、前記各グループ内の複数の画素信号を順次切り換えて撮像対象物からの入射光を反射或いは透過させて出力するステップと、
前記光空間変調素子から出力された前記撮像対象物からの入射光を、前記グループ数と同じ画素数の解像度のイメージャで撮像するステップと、
順次切り換えて前記イメージャに入力される前記複数の画素信号を合成し、前記イメージャの解像度を前記光空間変調素子と同じ解像度に高めるステップと、
を備えたことを特徴とする視覚情報処理方法。
【請求項9】
全画素領域が複数にグループ化された光空間変調素子によって、前記各記グループ内の複数の画素信号をそれぞれ異なる周波数でオン・オフして撮像対象物からの入射光を反射或いは透過させて出力するステップと、
前記光空間変調素子から出力された前記撮像対象物からの入射光を、前記光空間変調素子の解像度と同じ解像度のイメージャで撮像し画像データを生成するステップと、
前記撮像対象物の輝度変動を前記異なる周波数に対応して周波数分解し、前記異なる周波数に対応したスペクトラム画像を生成するステップと、
を備えたことを特徴とする視覚情報処理方法。
【請求項10】
全画素領域が複数にグループ化された光空間変調素子によって、前記各グループ内の複数の画素信号を所定の複数の空間パターンに基づいて順次切り換えて撮像対象物からの入射光を反射或いは透過させて出力するステップと、
前記光空間変調素子から出力された前記撮像対象物からの入射光を、前記グループ数と同じ画素数のイメージャで撮像し画像データを生成するステップと、
前記複数の空間パターンに基づいて順次イメージャから出力される複数の信号を演算し、前記グループ内の複数の画素を処理単位とする空間フィルタリングを行なうステップと、
を備えたことを特徴とする視覚情報処理方法。
【請求項11】
所定の画素領域を有した光空間変調素子によって、撮像対象物からの入射光の露光時間を画素毎に制御するステップと、
画素毎に露光時間が制御された前記光空間変調素子からの反射光或いは透過光によって前記撮像対象物をイメージャで撮像し画像データを生成するステップと、
前記イメージャで生成された画像データの画素毎の輝度情報に基づいて、前記露光時間を画素毎に制御する制御信号を生成するステップと、
を備えたことを特徴とする視覚情報処理方法。
【請求項12】
前記光空間変調素子は、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)或いは液晶ライトバルブであることを特徴とする請求項7ないし11のいずれかに記載の視覚情報処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−295253(P2006−295253A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−109201(P2005−109201)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(390005164)株式会社フォトロン (18)
【Fターム(参考)】