説明

親水性立方晶窒化ホウ素膜およびその作製方法

【課題】親水性を向上させる新規の立方晶窒化ホウ素膜の成膜技術を確立し、該成膜技術に基づく新規の立方晶窒化ホウ素膜およびその製造方法を提供する。
【解決手段】親水性立方晶窒化ホウ素膜の作製方法は、金属またはケイ素を全成分または主成分とする基板上に成膜されたフッ素原子を含有する立方晶窒化ホウ素(cBN)を全成分または主成分とする膜に対して、基板バイアス電圧を印加しながら水素ガス雰囲気下で低圧プラズマエッチングを行う工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング材料の技術分野に属し、特に、バイオコーティングなどの分野において有用な立方晶窒化ホウ素から成る新規なコーティング材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在盛んに研究が進められている材料として、人間の体内に埋め込むためのインプラント等の生体材料がある。生体材料は体内で種々の細胞、血液および酸等の過酷な環境にさらされることから、生体材料の表面に、高硬度で、耐腐食性が高く(化学的不活性)、生体親和性が高い材料をコーティングすること(いわゆるバイオコーティング)が必要とされる。
【0003】
バイオコーティングに使用されるコーティング材料としては、ダイヤモンド状炭素膜(DLC)があり、この材料は高硬度且つ化学的不活性であることから広く研究されている。しかし、DLC単体では生体親和性(特に親水性)が不十分であることから、DLCよりもさらに特性が優れたコーティング材料が求められている。
【0004】
このような状況の中、立方晶窒化ホウ素は、コーティング材料として使用する観点から、DLCより高硬度であるとともに、DLCと同様に化学的に不活性であり、人体の主要構成元素である炭素との物理化学的親和性が高いという利点を有している。成膜された立方晶窒化ホウ素膜の親水性(ぬれ性)を向上させることによって、特にバイオコーティングに好適なコーティング材料が得られることが考えられるが、現在のところ、そのような高品質な立方晶窒化ホウ素膜は得られていない。
【0005】
従来から、材料の性状を改良する目的でプラズマ処理が行われているものがある(例えば、特許文献1〜4参照)。しかし、それらはいずれも材料の親水性を高めることを目的とするものではない。
【0006】
近年、本発明者らはフッ素含有ガスを導入することによって、基板との密着性および結晶性に優れる高品質な立方晶窒化ホウ素(cBN)膜を形成する独自のプラズマ化学的気相蒸着法を確立した(非特許文献1参照)。cBNは、硬度や、耐摩耗性,しゅう動性,熱伝導性,電気絶縁性等の化学的安定性に優れる材料であり、その優れた特性を活かして、様々な分野で利用される可能性を秘めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2002−535074号公報
【特許文献2】特願2006−169080号公報
【特許文献3】特願2006−237478号公報
【特許文献4】特表2010−510168号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】K.Teii, R.Yamao, T.Yamamura, S.Matsumoto,"Synthesis of cubic boron nitride films with mean energies of a few eV ", J. Appl. Phys. 101 (2007) 033301.
【非特許文献2】D. K. Owens and R. C. Wendt, Journal of Applied Polymer Science Vol.13, pp.1741-1747 (1969)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、この手法によって得られる高品質な立方晶窒化ホウ素膜はフッ素原子を含有し、特に膜表面がフッ素終端されることから疎水性を示し、このままでは生体親和性が要求される用途には適用できないという課題を有する。
【0010】
本発明の目的は、前記課題を解消するためになされたもので、フッ素原子を含有する高品質な立方晶窒化ホウ素膜に対して、親水性を向上させる新規の立方晶窒化ホウ素膜の成膜技術を確立し、該成膜技術に基づく新規の立方晶窒化ホウ素膜およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、金属またはケイ素を全成分または主成分とする基板上に成膜されたフッ素原子を含有する立方晶窒化ホウ素(cBN)を全成分または主成分とする膜に対して、基板バイアス電圧を印加しながら水素ガス雰囲気下で低圧プラズマエッチングを行うことにより、特に親水性に優れる立方晶窒化ホウ素膜が得られることを見出した。
【0012】
かくして、本発明に従えば、親水性立方晶窒化ホウ素膜の作製方法であって、金属またはケイ素を全成分または主成分とする基板上に成膜されたフッ素原子を含有する立方晶窒化ホウ素(cBN)を全成分または主成分とする膜に対して、基板バイアス電圧を印加しながら水素ガス雰囲気下で低圧プラズマエッチングを行う工程を含むことを特徴とする方法が提供される。
【0013】
本発明が適用されるフッ素原子を含有する立方晶窒化ホウ素(cBN)を全成分または主成分とする膜としては、例えば、フッ素ガスを導入する従来技術(非特許文献1参照)を用いて成膜することができる。
【0014】
本発明によれば、低圧プラズマエッチングの際に基板バイアス電圧を印加することによって、cBN膜の表面粗さや表面形状をきめ細かく制御することができる。これは、基板バイアスを印加することで、プラズマと基板間の電位差(いわゆるシース電圧)が変化し、その結果、発生するイオンのエネルギーやフラックスが変化するのに対し、中性ラジカルはその影響を受けないため、基板面の垂直方向と平行方向のプラズマエッチングの速度比が変化するためと推察される。
【0015】
また、本発明に従えば、金属またはケイ素を全成分または主成分とする基板上に載置され、立方晶窒化ホウ素(cBN)を全成分または主成分とし、膜表面に設置された静止液体との接触角が3°以下であることを特徴とする立方晶窒化ホウ素膜も提供される。
【0016】
本発明の立方晶窒化ホウ素(cBN)は、上述したように、フッ素原子を含有する高品質な立方晶窒化ホウ素膜が有する高い密着性と結晶性に加えて、さらに高い親水性を有することから、それらの特性が要求される用途に使用することができ、例えば、車体、家電、トイレ、住宅壁等の汚れ防止用コーティングや鏡や窓ガラスの曇り防止用コーティングにも使用することができるが、特に好ましいのは、それらの特性が高度に要求されるバイオコーティングである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の方法および原理を模式的に表す模式図およびエッチング前後のcBN膜のXPSスペクトルを示す説明図である。
【図2】基板上に作製されたcBN膜に対して、脱イオン水およびエチレングリコールの接触角、膜の表面粗さを、エッチング前後のバイアス電圧ごとに測定した結果およびみかけの表面自由エネルギーの計算結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に従えば、金属またはケイ素を全成分または主成分とする基板上に成膜されたフッ素原子を含有する立方晶窒化ホウ素から成る結晶体に対して、基板バイアス電圧を印加しながら水素ガス雰囲気下で低圧プラズマエッチングを行い、立方晶窒化ホウ素膜を得る。
【0019】
基板の種類
本発明に適用することができる基板は、金属またはケイ素を全成分または主成分とするものである。ここで、金属としては、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、金(Au)、銀(Ag)、バナジウム(V)、白金(Pt)、タンタル(Ta)、銅(Cu)、鉄(Fe)またはそれらから成る合金などが挙げられるが、このうち、取扱いの容易性から、強度が高く耐食性に優れるチタンまたはチタン合金を使用することが好ましい。生体材料(バイオコーティング)の分野に適用される場合は、ケイ素成分を含む基板(例えば、SiNxやSiO2など)及びチタンを含む材料が好ましい。
【0020】
膜の構成要素
本発明が適用される立方晶窒化ホウ素膜は、フッ素原子を含有し、立方晶窒化ホウ素(cBN)のみから成るものとしてもよいし、立方晶窒化ホウ素(cBN)を主成分とし、六方晶窒化ホウ素(hBN)を含んで成るものとしてもよい。本発明の立方晶窒化ホウ素膜がcBNのみから成る場合には、cBNの特性である高い硬度が膜に備わることとなり、硬度が要求される用途に好適となる。
また、本発明が適用される立方晶窒化ホウ素膜が、cBNを主成分とし、hBNを含んで成る場合には、さらにhBNの特性である柔軟性が膜に備わることとなり、硬度とともに柔軟性が要求される用途に好適となる。本発明が適用される立方晶窒化ホウ素膜は、その成膜にフッ素含有ガスを用いることで、cBN膜の結晶性や結晶サイズを向上させるとともに、cBN膜の膜厚や、cBN膜と基板との密着性も高めることができる。
【0021】
このような基板上に成膜されたフッ素原子を含有する立方晶窒化ホウ素(cBN)を全成分または主成分とする膜は、例えば、フッ素含有ガスを導入する従来技術を用いて成膜することができる(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1の記載に従えば、三フッ化硼素あるいは他の硼素源材料により硼素を、窒素、アンモニア等により窒素を、三フッ化硼素、フッ素、フッ化水素等よりフッ素を気相中に供給し、気相をプラズマにより活性化した状態にして、立方晶窒化ホウ素を基体上へ析出させる。
【0022】
非特許文献1に関して、さらに詳述すれば、反応とプラズマの制御のために水素、希ガスのうちどちらか単独をあるいは両方を加えることができる。反応容器壁あるいは反応容器内に設置した参照電極に対し、基板の時間平均電位を同電位もしくは正にバイアスすること、フロート電位にすること、または負にバイアスすることにより、基板に入射するイオンの衝撃を弱め、cBN膜の結晶性や結晶サイズを上げ、それらを制御することができる。またcBN膜の膜厚や、cBN膜と基板との密着性も高めることができる。プラズマは、10-6Paの低圧から数気圧の高い圧力までのさまざまな高密度プラズマが利用でき、熱プラズマでも非平衡低温プラズマでも可能である。基板バイアスには直流、交流、高周波、あるいはそれらの重積、あるいはそれらをパルス化した電源のいずれでも用いることができる。このようにプラズマのみで立方晶窒化ホウ素の結晶体を成膜できるうえに、各種のプラズマを用いうるので低コストで大面積の成膜が可能である。
【0023】
その一方で、本発明が適用される立方晶窒化ホウ素がフッ素原子を含有することにより、膜自体は疎水性を示してしまう。本発明では、この後、水素雰囲気下でプラズマエッチングを行うことによって、膜の親水性を大幅に向上させることができる。結果として、従来に無い密着性、結晶性および親水性のいずれもが高い立方晶窒化ホウ素膜を得ることができる。
【0024】
プラズマエッチング
この水素ガス雰囲気下で行うプラズマエッチングに使用できるプラズマの種類は、低圧条件下で実施できるものであれば特に限定されず、誘導結合プラズマ法(ICP)、容量結合プラズマ法(CCP)、電子サイクロトロン共鳴プラズマ法(ECR)、ヘリコン波励起プラズマ法(HWP)、表面波励起プラズマ法(SWP)、プラズマジェット、マイクロ波プラズマ等を用いることができる。このうち取り扱いが容易な点から、例えば、誘導結合プラズマ法(ICP)を使用することができる。なお、低圧とは、100Pa以下を指し、例えば、40Paとすることができる。
【0025】
基板バイアス電圧
本発明に従う立方晶窒化ホウ素膜の製造方法における特徴の一つは、基板にバイアス電圧を付加した状態でプラズマ処理を行うことにある。
基板バイアス電圧とは、容器内に設置した参照電極に対して、基板に印加する電圧である。その電圧値としては、誘導結合プラズマ法(ICP)の場合には、接地された容器をゼロ電位として、基板に印加する電圧が+10〜+100Vであることが好ましく、例えば、+70Vとすることができる。プラズマエッチングの際に、この基板バイアス電圧を印加することにより、従来の単純なプラズマエッチングのみでは得られない膜表面の粗化を行うことができる。これは、基板バイアス電圧を印加することによって、プラズマにより発生するイオンが膜表面に衝突する際のエネルギーとイオンのフラックスを制御しているためと推察される。
【0026】
本発明に従えば、従来に無い極めて親水性の高い立方晶窒化ホウ素(cBN)を主成分とする膜が得られる。得られた膜は、例えば、一般に、親水性が極めて高く、接触角が極めて低い。一般的には接触角は3°以下であり、膜の表面粗さは、例えば、230nm〜330nmの範囲にまで上昇する。表面自由エネルギーも著しく増加する。特に、その双極子力成分と膜の表面積との両方が著しく増加し、高いぬれ性を示す。
【0027】
このような特性が得られるのは、フッ素原子を含有する立方晶窒化ホウ素(cBN)を全成分または主成分とする膜が、本発明の方法および原理を模式的に表す図1(a)に示すように、フッ素を含有する状態(A)から、基板バイアス電圧を印加しながら水素ガス雰囲気下で低圧プラズマエッチングを行うことにより、可及的にフッ素が除去された状態(B)または一部のフッ素が水素によって置換された状態(C)になるためと推察される。
【0028】
事実、XPSスペクトルデータによれば、立方晶窒化ホウ素膜を構成する窒素原子やホウ素原子の結合状態は、低圧プラズマエッチングの前後で何ら変化しないが、フッ素原子は明らかに減少していることが認められる(後述の実施例を参照)。
【0029】
以下に、本発明の特徴をさらに具体的に示すために実施例を記すが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
(実施例1)
【0030】
基板上へのcBN膜の作製
上記の非特許文献1の記載に従い、フッ素を含むガス系からの高周波誘導プラズマを用
いてcBN膜を作製した。高周波誘導プラズマ装置において、13.56MHzの高周波電力を用いる。バルブを通してヘリウムガス(He)を80sccm、窒素ガス(N2)を10sccm、水素ガス(H2)を10sccmで流し、高周波電源からの1.0kWの高周波をワークコイルに供給し、プラズマを発生させた。バルブを通して10%BF3/Heを18sccmで流し、直流バイアス電源11により+70Vの直流バイアスを基板ホルダーを通して基板に印加し、基板温度700℃にて40Pa下において、30分間合成することにより、Si基板上にcBN膜を得た。
【0031】
プラズマエッチング
次に、高周波誘導プラズマを使用し、プラズマエッチングを行った。cBN膜がコーティングされたSi基板を、13.56MHzの高周波電力を用いる高周波誘導プラズマ装置内に設置した。バルブを通してヘリウムガス(He)10sccmを流し、高周波電源からの1.0kWの高周波をワークコイルに供給し、プラズマを発生させた。直流バイアス電源により+10〜+100Vの範囲で制御した直流バイアスを基板ホルダーを通してSi基板に印加し、基板温度700℃にて、発生したプラズマを40Pa下で数分〜15分間曝露させ、Si基板上のcBN膜表面をエッチングすることで膜を改質した。本プラズマエッチングにより、膜厚が160〜200 nmから90〜120 nmへと有意に減少した。なお、cBN膜を基板上に作製後、大気にさらすことなく、同じ装置内で続けて本プラズマエッチングを行うことも可能である。
【0032】
エッチング前後のcBN膜のXPS(X線光電子分光法)スペクトルを図1(b)に示す。エッチング後のフッ素原子のF1sスペクトルから、膜表面付近のフッ素原子濃度が減少していることがわかった。フッ素原子濃度は、エッチング前は1.1%であったが、基板バイアスを+70V印加した場合のエッチング後では0.5%、基板バイアスを+40V印加した場合のエッチング後では0.3%と1%未満まで大幅に減少した。その一方で、ホウ素原子(B1s)と窒素原子(N1s)のスペクトル形状には変化が無かった。
【0033】
基板上に作製されたcBN膜に対して、脱イオン水およびエチレングリコールの接触角、膜の表面粗さを、エッチング前後のバイアス電圧ごとに測定した結果を図2(a)に示す。接触角は、室温常圧で、膜表面に3 μlの脱イオン水(またはエチレングリコール)を滴下し、側面からCCDカメラによって液滴を観察し、その角度を測定することで得た。表面粗さは、表面平均自乗平方根(RMS)粗さとして求め、室温、大気中で、10×10 μm2範囲の原子間力顕微鏡(AFM)像から計算した。
【0034】
エッチング前のRMS粗さは約180nmであったが、エッチング後は、いずれの場合も230nm〜330nmまでRMS粗さが増加し、特に基板バイアス電圧が+70Vの場合において最大の粗さ330nmを示した。また、エッチング前の脱イオン水の接触角は64°であったが、エッチング後は全て測定限界以下である3°以下まで大幅に減少した。
【0035】
さらに、脱イオン水およびエチレングリコールの接触角をともに3°と仮定し、さらに表面積を一定と仮定して、エッチング前後のみかけの表面自由エネルギーを、双極子成分と分散力成分のそれぞれについて計算して求めた。この膜の表面自由エネルギーの分散成分と双極子成分は、水とエチレングリコールの接触角(実験値)と、それらの表面エネルギーの分散成分と双極子成分(文献値)に基づいて、水とエチレングリコールの各々の液体についての以下の連立方程式を解くことによって得た。その結果を図2(b)に示す。なお、この連立方程式は、非特許文献2の記載に基づくものである。
【0036】
【数1】

【0037】
(上記式中、θは接触角を示し、γldは液体の分散成分を示し、γlhは液体の双極子成分を示し、γsdは膜の分散成分を示し、γshは膜の双極子成分を示し、γsvは膜の各成分の和を示し、γlvは液体の各成分の和を示す。)
図2(b)に示すように、エッチング前の表面自由エネルギーは53.1×10-3J/m2であったが、エッチング後は双極子成分の大幅な増加により76.1×10-3J/m2まで増加した。以上の結果から、本発明のプラズマエッチング処理を施すことにより、表面積と双極子成分の増加をもたらし、cBN膜のぬれ性が大幅に向上したと考えられる。
(比較例1)
比較例1として、Si表面を改質させる目的で、プラズマ処理を用いずに、フッ酸水溶液を用いるケースを実施した。
【0038】
上記の実施例で得られたcBN膜がコーティングされたSi基板を、3wt%フッ酸水溶液に浸して常温で30秒間洗浄し、さらに水に浸して洗浄し、取り出して自然乾燥した。その後、水接触角は、65°から23°に減少したが、処理前後で膜の表面平均自乗平方根(RMS)粗さは、処理前後で変化せず、170 nmのままであった。
(比較例2)
比較例2として、基板バイアス電圧を印加しないケースを実施した。プラズマ処理としては、マイクロ波プラズマを用いてプラズマエッチングを行った。cBN膜は、上記の実施例1と同様にしてSi基板上に作製した。cBN膜がコーティングされたSi基板を、2.45GHzのマイクロ波電力を用いるマイクロ波プラズマ装置の内部に設置した。水素ガス(H2)を100sccmで流し、マイクロ波電源からの800Wのマイクロ波を導波管とマイクロ波キャビティを通して装置内へ供給し、プラズマを発生させた。基板ホルダーおよび基板をフローティング電位(基板バイアス印加なし)に保ち、基板温度700℃にて、13.3kPa下で1分間、水素ガス雰囲気下でプラズマを曝露させ、基板上のcBN膜表面をエッチングにより改質した。その後、水接触角は65°から10°に減少し、処理前後での膜の表面平均自乗平方根(RMS)粗さは、170 nmから200 nmに増加したことから、本発明の基板バイアス電圧を印加するとともになされるプラズマエッチングの優位性が示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性立方晶窒化ホウ素膜の作製方法であって、金属またはケイ素を全成分または主成分とする基板上に成膜されたフッ素原子を含有する立方晶窒化ホウ素(cBN)を全成分または主成分とする膜に対して、基板バイアス電圧を印加しながら水素ガス雰囲気下で低圧プラズマエッチングを行う工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
低圧プラズマエッチングを誘導結合プラズマ法に従って行うことを特徴とする請求項1に記載の立方晶窒化ホウ素膜の作製方法。
【請求項3】
金属またはケイ素を全成分または主成分とする基板上に載置され、立方晶窒化ホウ素(cBN)を全成分または主成分とし、膜表面に設置された静止液体との接触角が3°以下であることを特徴とする立方晶窒化ホウ素膜。
【請求項4】
生体材料のコーティングに使用されることを特徴とする請求項3に記載の立方晶窒化ホウ素膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−188717(P2012−188717A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54643(P2011−54643)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】