観察方法、入射タイミング設定方法および観察装置
【課題】試料の存在する領域と存在しない領域とを含む観察範囲の観察において試料を高いコントラストで観察する。
【解決手段】試料Aを含む観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波L2を照射することにより、観察範囲において反射または該観察範囲を透過した第1の電磁波L2と、テラヘルツ波L2よりも波長が短いパルス状の第2の電磁波L1とを光学結晶8に入射させるステップと、光学結晶8から出射された第2の電磁波L1を検出するステップとを備え、第2の電磁波L1が、観察範囲内に存在する試料Aにおいて反射または該試料Aを透過した第1の電磁波L2の電場振幅または観察範囲内の試料A以外の領域において反射または該領域を透過した第1の電磁波L2の電場振幅の一方が他方より大きくなる位相に配されるタイミングで光学結晶8に入射される観察方法を提供する。
【解決手段】試料Aを含む観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波L2を照射することにより、観察範囲において反射または該観察範囲を透過した第1の電磁波L2と、テラヘルツ波L2よりも波長が短いパルス状の第2の電磁波L1とを光学結晶8に入射させるステップと、光学結晶8から出射された第2の電磁波L1を検出するステップとを備え、第2の電磁波L1が、観察範囲内に存在する試料Aにおいて反射または該試料Aを透過した第1の電磁波L2の電場振幅または観察範囲内の試料A以外の領域において反射または該領域を透過した第1の電磁波L2の電場振幅の一方が他方より大きくなる位相に配されるタイミングで光学結晶8に入射される観察方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観察方法、入射タイミング設定方法および観察装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、透明な物質(例えば、水)のセンシング技術として、テラヘルツ波を使用したものが知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
このセンシング技術は、テラヘルツ波を透明な試料に通過させたときに、その成分分布に応じた強度分布をテラヘルツ波が備えることを利用している。
【0003】
非特許文献1では、透明な試料を透過したテラヘルツ波を電気光学結晶に入射させる一方、ダイクロイックミラーによって同一光路に入射させた近赤外光を電気光学結晶に照射している。電気光学結晶はテラヘルツ波が照射されると、その電場状態に応じて特性が変化する。すなわち、電気光学結晶に試料情報が記録されることになる。そして、試料情報が記録された電気光学結晶を近赤外光が通過すると、通過の際に近赤外光が変調を受ける。したがって、変調された近赤外光を検出することにより、試料の成分分布を撮影することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】西澤潤一編著、「テラヘルツ波の基礎と応用」、株式会社工業調査会発行、2005年4月1日、p160−161
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電気光学結晶に入射されるテラヘルツ波は、試料を通過した後に電気光学結晶に入射するテラヘルツ波のみならず、試料を通過することなく電気光学結晶に入射するテラヘルツ波も電場の空間分布を有している。したがって、観察範囲に試料が存在する領域と試料が存在しない領域とが存在する場合には、試料が存在する領域においても何らかの情報が電気光学結晶に書き込まれてしまい、この領域における情報によって試料情報を高いコントラストで観察することが困難になるという不都合がある。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、試料の存在する領域と存在しない領域とを含む観察範囲の観察において試料を高いコントラストで観察することができる観察方法、入射タイミング設定方法および観察装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、試料を含む観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波を照射することにより、観察範囲において反射または該観察範囲を透過した第1の電磁波と、前記テラヘルツ波よりも波長が短いパルス状の第2の電磁波とを光学結晶に入射させるステップと、前記光学結晶から出射された前記第2の電磁波を検出するステップとを備え、前記第2の電磁波が、前記観察範囲内に存在する試料において反射または該試料を透過した第1の電磁波の電場の振幅または前記観察範囲内の試料以外の領域において反射または該領域を透過した第1の電磁波の電場の振幅の一方が他方より大きくなる位相に配されるタイミングで前記光学結晶に入射される観察方法を提供する。
【0008】
本発明によれば、試料を含む観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波からなる第1の電磁波が照射されると、試料各部の屈折率分布に応じた量だけ第1の電磁波において位相の遅れ、あるいは、試料における吸収によって振幅の変形が生じる。したがって、第1の電磁波は、試料の有無や、試料における屈折率分布、吸収特性の分布に応じて、その電場波形に空間的な変化が生じる。この第1の電磁波が光学結晶に入射すると、第1の電磁波が結晶内を通過するあるタイミングにおいて、第1の電磁波が持つ電場振幅の分布が光学結晶の特性の分布として反映される。また、第1の電磁波が結晶内を伝播する際、その振幅は時間の経過に伴って変化する。
【0009】
そして、光学結晶に書き込まれた第1の電磁波の電場振幅の分布を第1の電磁波よりも波長が短いパルス状の第2の電磁波によって読み出す場合には、パルス状の第2の電磁波の光学結晶への入射に一致するタイミングで光学結晶に入射されている第1の電磁波の電場振幅の分布が読み出される。この場合において、試料において反射または試料を透過しうた第1の電磁波の電場振幅または試料以外の領域において反射または該領域を透過した第1の電磁波の電場振幅の一方が他方より大きくなる位相に一致するタイミングで第2の電磁波を光学結晶に入射させることにより、振幅が小さい方の第1の電磁波の影響を抑え、大きい方の第1の電磁波の振幅分布を第2の電磁波によって読み出すことができる。その結果、試料をコントラストよく観察することができる。
【0010】
上記発明においては、前記第2の電磁波が、前記観察範囲内に存在する試料において反射または該試料を透過した第1の電磁波の電場振幅または前記観察範囲内の試料以外の領域において反射または該領域を透過した第1の電磁波の電場振幅の一方がほぼゼロとなる位相に配されるタイミングで前記光学結晶に入射されることが好ましい。
このようにすることで、振幅がほぼゼロとなる側の第1の電磁波はほぼ消滅した状態となっているので、この第1の電磁波の影響を受けることなく、振幅が大きい側の第1の電磁波の電場振幅分布を第2の電磁波によって読み出すことができ、より高いコントラストで試料を観察することができる。
【0011】
また、本発明は、上記観察方法における第2の電磁波の入射のタイミングを設定する方法であって、観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波を照射することにより前記観察範囲において反射または該観察範囲を透過した前記第1の電磁波と前記第2の電磁波とを前記第1の電磁波に対する前記第2の電磁波の入射タイミングを変更しながら光学結晶に入射させるステップと、光学結晶から出射された前記第2の電磁波の強度分布を取得するステップと、取得された強度分布を前記入射タイミングと対応づけて記憶するステップとを観察範囲内に試料を配置した場合および配置しない場合において行った後に、前記第2の電磁波の入射のタイミング毎に、試料を配置しないで記憶された第2の電磁波の強度分布および試料を配置して記憶された第2の電磁波の強度分布の一方を他方から減算または一方を他方で除算することにより補正するステップと、補正された第2の電磁波の強度分布において、最大強度と最小強度との差の絶対値が最も大きくなる入射タイミングを選択するステップとを行う入射タイミング設定方法を提供する。
【0012】
本発明によれば、まず、観察範囲内に試料を配置しない状態で、光学結晶に対して第1の電磁波を入射させ、第2の電磁波の入射タイミングをずらしながら第2の電磁波を光学結晶に入射させて、光学結晶から出射された第2の電磁波を検出して得られた強度分布を第2の電磁波の入射タイミングとともに記憶しておく。次いで、観察範囲内に試料を配置した状態で、上記と同様の検出を行い、得られた第2の電磁波の強度分布を第2の電磁波の入射タイミングとともに記憶する。そして、同じ入射タイミングで第2の電磁波を入射させたときに検出された試料を配置した時と試料を配置しない時の第2の電磁波の強度分布の一方を他方から減算または一方を他方で除算することにより補正する。補正された第2の電磁波の強度分布において最大強度と最小強度との差の絶対値が最も大きくなるタイミングを選択することで、一方の強度分布が他方の強度分布によって最も影響を受け難い第2の電磁波の入射タイミングを設定することができる。
【0013】
また、本発明は、上記観察方法における第2の電磁波の入射のタイミングを設定する方法であって、観察範囲内に試料を配置せずに観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波を照射し、前記観察範囲において反射または該観察範囲を透過した前記第1の電磁波と前記第2の電磁波とを前記第1の電磁波に対する前記第2の電磁波の入射タイミングを変更しながら光学結晶に入射させ、光学結晶から出射された前記第2の電磁波の強度分布を取得して、取得された強度分布を前記入射タイミングと対応づけてデータベースに記憶しておき、観察範囲内に試料を配置して、観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波を照射することにより前記観察範囲において反射または該観察範囲を透過した前記第1の電磁波と前記第2の電磁波とを前記第1の電磁波に対する前記第2の電磁波の入射タイミングを変更しながら光学結晶に入射させるステップと、光学結晶から出射された前記第2の電磁波の強度分布を取得するステップと、取得された強度分布を前記入射タイミングと対応づけて記憶するステップとを行った後に、前記第2の電磁波の入射のタイミング毎に、前記データベースに記憶されている第2の電磁波の強度分布および試料を配置して記憶された第2の電磁波の強度分布の一方を他方から減算または一方を他方で除算することにより補正するステップと、補正された第2の電磁波の強度分布において、最大強度と最小強度との差の絶対値が最も大きくなる入射タイミングを選択するステップとを行う入射タイミング設定方法を提供する。
【0014】
本発明によれば、観察範囲内に試料を配置しない状態で、予め光学結晶に対して第1の電磁波を入射させ、第2の電磁波の入射タイミングをずらしながら第2の電磁波を光学結晶に入射させて、光学結晶から出射された第2の電磁波を検出して得られた強度分布と第2の電磁波の入射タイミングとをデータベースとして記憶しているので、観察の都度に、試料を配置しない状態での第2の電磁波の入射タイミング毎の第2の電磁波の強度分布の取得作業を行わずに済む。したがって、観察範囲内に試料を配置した状態で、入射タイミングをずらしながら第2の電磁波の強度分布を取得するだけで、一方の強度分布が他方の強度分布によって最も影響を受け難い第2の電磁波の入射タイミングを設定することができる。その結果、高いコントラストで試料の観察を行うことが可能な第2の電磁波の入射タイミングを設定することができる。
【0015】
また、本発明は、上記観察方法における第2の電磁波の入射のタイミングを設定する方法であって、観察範囲内に試料を配置して、観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波を照射することにより前記観察範囲において反射または該観察範囲を透過した前記第1の電磁波と前記第2の電磁波とを前記第1の電磁波に対する前記第2の電磁波の入射タイミングを変更しながら光学結晶に入射させるステップと、光学結晶から出射された前記第2の電磁波の強度分布を取得するステップと、取得された強度分布を前記入射タイミングと対応づけて記憶するステップとを行った後に、取得された前記第2の電磁波の強度分布のうち、試料が存在していない領域に対応する光学結晶から出射された第2の電磁波のいずれかの強度に基づいて、試料を配置しない時の第2の電磁波の強度分布を生成するステップと、記憶されている前記第2の電磁波の強度分布および生成された試料を配置しない時の前記第2の電磁波の強度分布の一方から他方を減算または一方を他方で除算することにより補正するステップと、補正された第2の電磁波の強度分布において、最大強度と最小強度との差の絶対値が最も大きくなる入射タイミングを選択するステップとを含む入射タイミング設定方法を提供する。
【0016】
本発明によれば、観察範囲内において試料が存在していない領域に対応する光学結晶から出射される第2の電磁波の強度に基づく強度分布を生成し、観察範囲から得られた第2の電磁波の強度分布を、生成された強度分布で補正するので、補正用に試料が存在していない領域に対応する光学結晶からの代表的な第2の電磁波の強度を取得しておけば足り、これによって、高いコントラストで試料の観察を行うことが可能な第2の電磁波の入射タイミングを設定することができる。このとき、試料を配置していない状態と試料を配置した状態とで分けて測定を行う必要がなく、簡易かつ迅速に入射タイミングを設定することができる。
【0017】
また、本発明は、上記観察方法における第2の電磁波の入射のタイミングを設定する方法であって、前記光学結晶に前記第1の電磁波が入射していない状態で前記第2の電磁波を前記光学結晶に入射させて、該光学結晶から出射した前記第2の電磁波を検出して取得したバックグラウンドの強度分布を記憶しておき、観察範囲内に試料を配置して、観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波を照射することにより前記観察範囲において反射または該観察範囲を透過した前記第1の電磁波と前記第2の電磁波とを前記第1の電磁波に対する前記第2の電磁波の入射タイミングを変更しながら光学結晶に入射させるステップと、光学結晶から出射した前記第2の電磁波の強度分布を取得するステップと、取得された強度分布を前記入射タイミングと対応づけて記憶するステップとを行った後に、前記第2の電磁波の入射タイミング毎に、記憶されている第2の電磁波の強度分布から予め記憶しておいた前記バックグラウンドの強度分布を減算または除算して補正するステップと、前記第2の電磁波の入射タイミング毎に、補正された第2の電磁波の強度分布をフーリエ変換するステップと、フーリエ変換された強度分布において、試料の大きさに対応する周波数成分が最も大きくなる入射タイミングを選択するステップとを行う入射タイミング設定方法を提供する。
【0018】
本発明によれば、第1の電磁波を入射させないで第2の電磁波のみを入射させた場合においても光学結晶から出射した第2の電磁波として取得されてしまうバックグラウンドの強度分布を記憶しておき、第1の電磁波を入射して取得された第2の電磁波の強度分布を記憶していたバックグラウンドの強度分布によって補正するので、補正された第2の電磁波の強度分布からはバックグラウンドノイズが除去されている。そして、バックグラウンドノイズが除去された強度分布をフーリエ変換して試料のサイズに対応する周波数成分強度を調べることにより、試料部分の強度分布が急激に変化するタイミングを簡単に見つけることができる。フーリエ変換成分は周波数増大につれて強度が減少する曲線を示すが、コントラストが良くない場合には高周波での強度減少が大きくなる。このコントラスト低下による強度減少が明瞭に観測される周波数は試料のサイズが小さくなるにつれて高周波になるため、試料のサイズに応じた周波数の強度変化を調べ、その強度が最も大きくなるタイミングを選ぶことによって、試料の存在する領域と試料の存在しない領域との境界をコントラストよく検出可能な第2の電磁波の入射タイミングを設定することができる。
【0019】
また、本発明は、試料を含む観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波からなる第1の電磁波を照射する第1の照射部と、前記観察範囲において反射または該観察範囲を透過した前記第1の電磁波を入射させる光学結晶と、該光学結晶に向けて前記テラヘルツ波よりも波長が短いパルス状の第2の電磁波を入射させる第2の照射部と、前記光学結晶から出射された前記第2の電磁波を検出する検出部とを備え、前記第2の照射部から発せられる前記第2の電磁波の入射タイミングは、該第2の電磁波が、前記観察範囲内に存在する試料において反射または該試料を透過した第1の電磁波の電場の振幅または前記観察範囲内の試料以外の領域において反射または該領域を透過した第1の電磁波の電場の振幅の一方が他方より大きくなる位相に設定されている観察装置を提供する。
【0020】
上記発明においては、前記第2の電磁波の入射タイミングは、前記第2の電磁波が、前記観察範囲内に存在する試料において反射または該試料を透過した第1の電磁波の電場の振幅または前記観察範囲内の試料以外の領域において反射または該領域を透過した第1の電磁波の電場の振幅の一方がほぼゼロとなる位相に設定されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、試料の存在する領域と存在しない領域とを含む観察範囲の観察において試料を高いコントラストで観察することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る観察装置を示す全体構成図である。
【図2】図1の観察装置における(a)試料への入射前のテラヘルツ波、(b)ステージを通過した後のテラヘルツ波をそれぞれ示す図である。
【図3】図1の観察装置における近赤外光の電気光学結晶への入射タイミングの設定方法を説明するフローチャートである。
【図4】図1の観察装置の第1の変形例を示す全体構成図である。
【図5】図1の観察装置の第2の変形例を示す全体構成図である。
【図6】図5の観察装置におけるテラヘルツ波と近赤外光の入射方向を説明する図である。
【図7】図1の観察装置の第3の変形例を示す全体構成図である。
【図8】図1の観察装置の光学結晶として和周波混合または差周波混合を行うものを説明する図である。
【図9】図3の入射タイミングの設定方法の第1の変形例を説明するフローチャートである。
【図10】図3の入射タイミングの設定方法の第2の変形例を説明するフローチャートである。
【図11】図3の入射タイミングの設定方法の第3の変形例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施形態に係る観察方法、入射タイミング設定方法および観察装置1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る観察装置1は、図1に示されるように、パルス状の近赤外光(例えば、フェムト秒パルスレーザ光)L1を発生する光源2と、該光源2からの近赤外光L1を2つの光路に分割するビームスプリッタ3と、該ビームスプリッタ3により分割された一方の光路に設けられ、テラヘルツ波L2を発生するテラヘルツ波照射光学系4と、他方の光路に設けられた近赤外光照射光学系5と、テラヘルツ波照射光学系4の途中位置に配置された細胞等の試料Aを載置するステージ6と、これら照射光学系4,5を導光されてきたテラヘルツ波L2と近赤外光L1とを合波するビームスプリッタ7と、該ビームスプリッタ7の後段に配置された電気光学結晶8と、電気光学結晶8を透過した近赤外光L1を検出する検出光学系9とを備えている。
【0024】
テラヘルツ波照射光学系4は、ビームスプリッタ3により分割された近赤外光L1の内の一方の近赤外光L1をテラヘルツ波L2に変換するテラヘルツ波放射素子11と、該テラヘルツ波放射素子11から放射されたテラヘルツ波L2を略平行光にする集光レンズ10と、ステージ6上の試料Aを透過させられたテラヘルツ波L2の光束径を調節するレンズ12とを備えている。
【0025】
近赤外光照射光学系5は、ビームスプリッタ3により分割された近赤外光L1の内の他方の近赤外光L1の偏光状態を直線偏光に整える1/2波長板15と、近赤外光L1のビームスプリッタ3,7間の光路長を調節する光路長調節光学系13と、光路を調節された近赤外光L1の光束径を増大させて略平行光に変換するビームエキスパンダ14とを備えている。
【0026】
光路長調節光学系13は、近赤外光L1を折り返す2個の可動ミラー13aと,該可動ミラー13aの一方に対向して配置された固定ミラー13bと、可動ミラー13aを固定ミラー13bに対して矢印Bの方向に移動させる移動機構(図示略)とを備えている。固定ミラー13bに対して可動ミラー13aを移動させることで、近赤外光L1の位相を調節することができるようになっている。
【0027】
電気光学結晶8は、テラヘルツ波L2が照射されることにより、その電場状態に応じて屈折率の分布が変化する非線形光学結晶である。例えば、ZnTe:テルル化亜鉛を挙げることができる。電気光学結晶8に電場の空間分布を有するテラヘルツ波L2が照射されることで、その電場振幅の分布が屈折率分布として電気光学結晶8に書き込まれる(反映される)。その書き込まれた領域に近赤外光L1を通過させると、近赤外光L1の偏光方向が変化させられるようになっている。書き込まれた情報は瞬時に消失するので、情報の書き込み直後に読み出せるように、テラヘルツ波L2の直後に近赤外光L1を電気光学結晶8に入射させる必要がある。
【0028】
検出光学系9は、電気光学結晶8を透過した近赤外光L1を結像させる結像光学系19と、1/2波長板15に対して直交配置された偏光子16と、該偏光子16を通過した近赤外光L1を撮像して2次元的な強度分布を取得するCCDカメラ17とを備えている。ここで、CCDカメラ17は試料Aと光学的に共役な位置に配置されている。近赤外光L1は、テラヘルツ波L2が照射されている電気光学結晶8を透過することにより、テラヘルツ波L2の電場によって誘起された複屈折のために偏光状態が楕円偏光となっている。したがって、偏光子16を通過した近赤外光L1のみを検出することにより、偏光状態が変化した成分のみを撮像することができるようになっている。なお、CCDカメラ17に代えて、CMOSカメラを採用してもよい。図中符号18はミラー、符号27は集光レンズである。
【0029】
また、光路長調節光学系13およびCCDカメラ17には、光路長調節光学系13から出力される後述する近赤外光L1の入射タイミングと、CCDカメラ17から出力される近赤外光L1の強度分布とを対応づけて記憶する記憶部28が接続されている。
【0030】
ここで、本実施形態に係る観察装置1における前記近赤外光L1の電気光学結晶8への入射タイミングについて以下に説明する。
図2(a)に示されるように、試料Aへの入射前において、各部のテラヘルツ波L2の電場の位相および波形はほぼ一致している。一方、図2(b)に示されるように、試料Aを通過したテラヘルツ波L2’は、試料Aの屈折率によって、試料Aを通過していないテラヘルツ波L2と比較して、位相が遅れる。また、試料Aを通過したテラヘルツ波L2’は、試料Aにおける吸収によって、波形が変形する。
【0031】
その結果、試料Aを通過したテラヘルツ波L2’と、試料Aを通過していないテラヘルツ波L2とは、そのピーク位置の位相が時間軸方向にずれる。そして、図2(b)に符号Cで示されるように、試料Aを通過していないテラヘルツ波L2の電場振幅がほぼゼロとなる位置において試料Aを通過したテラヘルツ波L2’が大きな電場振幅(例えば、ピーク振幅)を有する位相が存在する。
【0032】
電気光学結晶8においては、入射されるテラヘルツ波L2,L2’の電場振幅に依存して屈折率が変化させられるので、一方のテラヘルツ波L2の電場振幅がほぼゼロとなる位相においては、他方のテラヘルツ波L2’のみによる屈折率の変化のみが発生することになる。したがって、その位相に一致するタイミングで近赤外光L1を入射させることにより、一方のテラヘルツ波L2による屈折率変化を実質的に消滅させた状態で他方のテラヘルツ波L2’による屈折率変化の情報のみを近赤外光L1に重畳させることができ、そのような近赤外光L1を検出光学系9によって検出することができるようになっている。
【0033】
このように構成された本実施形態に係る観察装置1を用いた観察方法について以下に説明する。
本実施形態に係る観察装置1を用いて透明な細胞のような試料Aの観察を行うには、ステージ6に試料Aを載置し、光源2からパルス状の近赤外光L1を出射させる。
【0034】
ビームスプリッタ3により分岐されてテラヘルツ波照射光学系4に入射された近赤外光L1は、ミラー18によって偏向され、集光レンズ27によって集光されてテラヘルツ波放射素子11を通過させられることにより、テラヘルツ波L2に変換され、レンズ10によって略平行光に変換された後に、ステージ6上の試料Aを含む観察範囲に照射される。
【0035】
観察範囲内における試料Aが存在する領域においては、テラヘルツ波L2は、試料Aの屈折率によって位相が遅らせられ、試料Aの吸収によってその波形が変形されたテラヘルツ波L2’となる。一方、試料Aが存在しない領域においては、テラヘルツ波L2は、位相の遅れや波形の変形を伴うことなくそのまま透過させられる。そして、テラヘルツ波L2はレンズ12によって光束径が調節される。
【0036】
試料Aは透明な細胞等であるが、試料Aを透過させられたテラヘルツ波L2’は、試料Aにより変調されて試料A内における屈折率や吸収の分布に応じた電場振幅の分布を有するようになる。そして、観察範囲を透過させられることにより試料Aの情報を重畳させられて電場振幅の分布を有するテラヘルツ波L2,L2’が電気光学結晶8に入射されると、電気光学結晶8においては、テラヘルツ波L2,L2’の電場振幅の分布に応じた屈折率分布が発生する。
【0037】
一方、ビームスプリッタ3により分岐されて近赤外光照射光学系5に入射された近赤外光L1は、1/2波長板15を透過させられることによって電気光学結晶8に複屈折が生じた際に偏光状態が変化するように直線偏光の回転方向を設定される。そして、偏光状態を設定された近赤外光L1は、光路長調節光学系13によってその位相を調節された後に、ビームエキスパンダ14によって光束径を拡大させられて、ビームスプリッタ7によってテラヘルツ波L2,L2’と同一の光路に合流され、電気光学結晶8に入射される。
【0038】
この場合において、本実施形態においては、光路長調節光学系13により近赤外光照射光学系5の光路長を調節することによって、近赤外光L1の電気光学結晶8への入射タイミングが調節されている。すなわち、近赤外光L1は、試料Aを透過することなく電気光学結晶8に入射されるテラヘルツ波L2の電場振幅がほぼゼロとなりかつ試料Aを透過して電気光学結晶8に入射されるテラヘルツ波L2’の電場振幅が十分に大きくなる位相にほぼ一致するタイミングで電気光学結晶8に入射される。
【0039】
これにより、試料Aを透過することなく電気光学結晶8に入射したテラヘルツ波L2による電気光学結晶8の屈折率の変化を抑え、試料Aを透過した後に電気光学結晶8に入射したテラヘルツ波L2’のみによる屈折率分布、すなわち、試料Aの屈折率分布を近赤外光L1によって精度よく読み出すことができる。
【0040】
電気光学結晶8を透過させられることにより、試料Aの屈折率分布の情報が重畳された近赤外光L1は、偏光子16を通過させられることにより、電気光学結晶8によって変化した成分のみが抽出された後に、CCDカメラ17によって撮像される。これにより、試料Aを含む観察範囲の画像が取得される。この画像中においては、試料Aが存在しない領域を通過したテラヘルツ波L2の影響が取り除かれており、高いコントラストで、試料Aの鮮明な観察を行うことができる。
【0041】
次に、上記観察方法における近赤外光L1の電気光学結晶8への入射タイミング設定方法について、図3を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る入射タイミング設定方法は、ステージ6上に試料Aを載置しないで行う試料Aなしデータの取得ステップと、ステージ6上に試料Aを載置して行う試料Aありデータの取得ステップと、取得された試料Aありデータおよび試料Aなしデータに基づいて、近赤外光L1の入射のタイミングを算出するタイミング算出ステップとを備えている。
【0042】
試料Aなしデータの取得ステップおよび試料Aありデータの取得ステップは、試料Aが載置されているかいないかの違いだけであるので、ここでは試料Aなしデータの取得ステップについて説明し試料Aありデータの取得ステップについては説明を省略する。
試料Aなしデータの取得ステップは、観察範囲内に試料Aを配置しない状態(ステップS1)で、電気光学結晶8にテラヘルツ波L2および近赤外光L1を入射させ、光路長調節光学系13を作動させて、テラヘルツ波L2に対する近赤外光L1の入射タイミングをずらしながら近赤外光L1の強度分布を取得する。
【0043】
具体的には、試料Aなしデータの取得ステップは、近赤外光L1の入射タイミングを初期設定するステップS2と、観察範囲を透過したテラヘルツ波L2と近赤外光L1とを電気光学結晶8に入射させる入射ステップS3と、電気光学結晶8を透過した近赤外光L1をCCDカメラ17によって撮像して強度分布を取得する強度分布取得ステップS4と、取得された近赤外光L1の強度分布をそのときの入射タイミングとともに記憶部28に記憶する記憶ステップS5と、全ての入射タイミングで強度分布の取得を行ったか否かを判定し、終了していない場合には、光路長調節光学系13を作動させて入射タイミングを所定の変動幅でずらすタイミング変動ステップS6と、ステップS3〜S6を、所定の入射タイミングの範囲にわたって繰り返す繰返ステップS7とを含んでいる。
【0044】
試料Aありデータの取得ステップは、試料Aなしデータの取得ステップの後に、試料Aが載置されているか否かを確認し(ステップS8)、試料Aが載置されていない場合に、試料Aを載置し(ステップS9)、ステップS2〜S7を繰り返す。
【0045】
タイミング算出ステップは、近赤外光L1の入射タイミング毎に、試料Aなしデータの取得ステップにおいて記憶した近赤外光L1の強度分布と、試料Aありデータの取得ステップにおいて記憶した近赤外光L1の強度分布とを用いて、一方から他方を減算または一方を他方で除算することにより補正する補正ステップS10と、補正された近赤外光L1の強度分布において、最大強度と最小強度との差の絶対値を算出する算出ステップS11と、算出結果が最も大きくなる入射タイミングを選択する選択ステップS12とを含んでいる。
【0046】
そして、このようにして選択された入射タイミングに設定して観察を行うことで、試料Aが存在しない領域を透過したテラヘルツ波L2による影響を抑えた高いコントラストの観察を行うことができる。
【0047】
このように、本実施形態に係る観察装置1および観察方法によれば、観察範囲内に配置される細胞等の透明な試料Aを試料Aではない領域から区別して高いコントラストで鮮明な観察を行うことができるという利点がある。
また、本実施形態に係る入射タイミング設定方法によれば、上記観察方法において使用する近赤外光L1の入射タイミングを簡易に設定することができ、高コントラストでの観察を容易に実現することができる。
【0048】
なお、本実施形態においては、試料Aを透過していないテラヘルツ波L2の電場振幅がほぼゼロとなり、かつ試料Aを透過したテラヘルツ波L2’の電場振幅がピークとなるタイミングで近赤外光L1を電気光学結晶8に入射させることとした。これに代えて、試料Aを透過していないテラヘルツ波L2の電場振幅がピークとなり、試料Aを透過したテラヘルツ波L2’の電場振幅がほぼゼロとなるタイミングで近赤外光L1を電気光学結晶8に入射させてもよい。
【0049】
また、本実施形態においては、試料Aを透過していないテラヘルツ波L2または試料Aを透過したテラヘルツ波L2’の電場振幅の一方がほぼゼロとなるタイミングを選択したが、これに代えて、電場振幅が厳密にゼロにならなくても他方に対して十分に低いレベルの振幅となっているタイミングを採用することにしてもよい。
【0050】
また、本実施形態においては、近赤外光照射光学系5に光路長調節光学系13を配置して、近赤外光照射光学系5の光路長を調節することで、テラヘルツ波L2に対する近赤外光L1の入射タイミングを調節することとしたが、これに代えてあるいはこれとともに、テラヘルツ波照射光学系4に光路長調節光学系(図示略)を配置することにしてもよい。
【0051】
また、本実施形態においては、図4〜図8に示されるように、電気光学結晶8の表面に試料Aを載置する載置面8aを設けることにしてもよい。図4において、符号20は集光レンズ、符号21,22は放物面ミラー、符号23は対物レンズ、符号24は1/4波長板、符号25は偏光子、符号26は結像レンズである。また、図4,5,7において、光路長調節光学系13は、三角プリズム13a‘,13b’により構成されている。
【0052】
このように構成することで、試料Aを通過した直後にテラヘルツ波L2を電気光学結晶8に入射させることができ、光学系によって空間分解能を制限されることなく、高い分解能で観察することができるという利点がある。その結果、細胞のように微細な試料Aであっても、簡易な構成で高い空間分解能により精度よく観察することができる。
【0053】
また、図5および図6に示すように電気光学結晶8の載置面8aにテラヘルツ波L2を透過させ、近赤外光L1を反射する反射膜27を配置して、テラヘルツ波L2と近赤外光L1の電気光学結晶8への入射方向を逆方向に構成することにしてもよい。このようにすると、近赤外光L1が試料Aを透過しないので、読み出し用の近赤外光L1が試料Aによって変調されず、テラヘルツ波L2によって、図6の斜線Eで示される電気光学結晶8の領域に書き込まれた情報をより正確に読み出すことができる。
【0054】
また、図7に示されるように、共焦点観察装置を構成してもよい。
図7に示す例では、図5の観察装置1の近赤外光照射光学系5の途中に、近赤外光L1を2次元的に走査するスキャナ(近接ガルバノミラー)30を設け、対物レンズ23の焦点位置と光学的に共役な位置に、共焦点ピンホール31を配置している。これにより、対物レンズ23の焦点位置が配置されている電気光学結晶8の載置面8a近傍の領域Eからの近赤外光L1のみを光検出器(例えば、光電子増倍管)32によって検出することができる。したがって、電気光学結晶8自体を比較的厚く構成しても鮮明な画像を得ることができる。
【0055】
また、上記各実施形態においては、光学結晶として、電気光学結晶8を例示して説明したが、これに代えて、2種類の異なる波長の光L1,L2を同時に入射させると、その2つの光L1,L2が和周波混合または差周波混合されて、その周波数の和または差の周波数を有する他の光L3が射出される非線形光学結晶8’を採用してもよい。このようにすることで、例えば、和周波混合の場合では、図1に示される観察装置1において、テラヘルツ波L2と近赤外光L1とを同時に試料Aおよび非線形光学結晶8’に入射させると、図8に示されるように、試料Aの屈折率分布に応じて変調されたテラヘルツ波L2(例えば、波長3mm、周波数0.1THz)とさほど変調されていない近赤外光L1(例えば、波長800nm)とが非線形光学結晶8’において和周波混合され、試料Aの屈折率分布の情報を含む他の波長(例えば、波長799.79nm)の和周波混合光L3が対物レンズ23により集光される。したがって、これを検出することにより、試料Aの画像を取得することができる。
【0056】
また、上記各実施形態においては、試料Aを透過したテラヘルツ波L2を検出した。これに代えて、試料Aで反射したテラヘルツ波L2を電気光学結晶8もしくは非線形光学結晶8’に入射させ、その電場波形を測定しても良い。このようにすることで、テラヘルツ波L2が試料Aを透過しない場合においても、測定を行うことが可能となる。
【0057】
また、本実施形態に係る入射タイミング設定方法においては、観察の都度に、試料Aを載置しないときの近赤外光L1の強度分布を入射タイミング毎に取得して対応づけて記憶し、その後、試料Aを載置したときの近赤外光L1の強度分布を入射タイミング毎に取得して対応づけて記憶することとした。これに代えて、予め、試料Aを載置しないときの近赤外光L1の強度分布を入射タイミング毎に取得して対応づけて記憶したデータベースを作成しておいてもよい。この場合には、図9に示されるように、試料Aなしデータの取得ステップを省略して最初から試料Aを載置し(ステップS21)、その代わりに、補正前にデータベースから試料Aを載置しないときの近赤外光L1の強度分布を読み出すことにすればよい(ステップS22)。
【0058】
また、観察範囲内の試料Aの存在する領域と試料Aが存在しない領域とを予め区別することができる場合には、図10に示されるように、ステップS5において記憶された近赤外光L1の強度分布の内のいずれかの強度分布から、試料Aが存在しない領域に対応するいずれかの位置の強度値を得て、その強度値を全ての位置の強度値とする強度分布を試料Aが存在しない場合の強度分布として擬似的に生成してもよい(ステップS23)。このようにすることで、試料Aが存在しない場合の強度分布の取得を省略して簡易にコントラストよく観察するための入射タイミングを設定することができる。
【0059】
また、図11に示されるように、テラヘルツ波L2を入射させることなく近赤外光L1のみを電気光学結晶8に入射させて、電気光学結晶8を透過してきた近赤外光L1を撮像することによりバックグラウンドの強度分布を予め記憶しておいてもよい。この場合には、全ての入射タイミング毎の近赤外光L1の強度分布を取得した後に、予め記憶しておいたバックグラウンドの強度分布を読み込み(ステップS24)、近赤外光L1の入射のタイミング毎に、記憶されている近赤外光L1の強度分布から読み出したバックグラウンドの強度分布を減算または除算して補正し(ステップS25)、補正された強度分布をフーリエ変換し(ステップS26)、フーリエ変換された強度分布において、試料のサイズに対応する周波数成分が最も大きくなるタイミングを選択すればよい(ステップS11,S12)。
【0060】
このようにすることで、高い周波数成分の存在する領域、例えば、試料Aの輪郭を鮮明に際立たせた観察を行うことができる。また、試料がコントラストよく観察できている画像では、試料のサイズに応じた周波数の強度が強くなっている。したがって、その強度が強い位置を探索することにより、コントラストが向上するタイミングを選択することができる。試料のサイズによって対応する周波数が異なるため、複数個の試料が存在する場合には、探索する周波数を選ぶことで、特定の試料をコントラストよく観察できるようにすることもできる。
【0061】
なお、この場合には、塵埃等の不純物も際立たせてしまうことがあるので、この場合には、ローパスフィルタを併用して、所定以上の高い周波数成分を消去することにしてもよい。または、これに加えて、ハイパスフィルタ、バンドパスフィルタを併用してもよい。
【符号の説明】
【0062】
A 試料
L1 近赤外光(第2の電磁波)
L2 テラヘルツ波(第1の電磁波)
1 観察装置
4 テラヘルツ波照射光学系(第1の照射部)
5 近赤外光照射光学系(第2の照射部)
8 電気光学結晶(光学結晶)
8′ 非線形光学結晶(光学結晶)
8a 載置面
9 検出光学系
【技術分野】
【0001】
本発明は、観察方法、入射タイミング設定方法および観察装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、透明な物質(例えば、水)のセンシング技術として、テラヘルツ波を使用したものが知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
このセンシング技術は、テラヘルツ波を透明な試料に通過させたときに、その成分分布に応じた強度分布をテラヘルツ波が備えることを利用している。
【0003】
非特許文献1では、透明な試料を透過したテラヘルツ波を電気光学結晶に入射させる一方、ダイクロイックミラーによって同一光路に入射させた近赤外光を電気光学結晶に照射している。電気光学結晶はテラヘルツ波が照射されると、その電場状態に応じて特性が変化する。すなわち、電気光学結晶に試料情報が記録されることになる。そして、試料情報が記録された電気光学結晶を近赤外光が通過すると、通過の際に近赤外光が変調を受ける。したがって、変調された近赤外光を検出することにより、試料の成分分布を撮影することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】西澤潤一編著、「テラヘルツ波の基礎と応用」、株式会社工業調査会発行、2005年4月1日、p160−161
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電気光学結晶に入射されるテラヘルツ波は、試料を通過した後に電気光学結晶に入射するテラヘルツ波のみならず、試料を通過することなく電気光学結晶に入射するテラヘルツ波も電場の空間分布を有している。したがって、観察範囲に試料が存在する領域と試料が存在しない領域とが存在する場合には、試料が存在する領域においても何らかの情報が電気光学結晶に書き込まれてしまい、この領域における情報によって試料情報を高いコントラストで観察することが困難になるという不都合がある。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、試料の存在する領域と存在しない領域とを含む観察範囲の観察において試料を高いコントラストで観察することができる観察方法、入射タイミング設定方法および観察装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、試料を含む観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波を照射することにより、観察範囲において反射または該観察範囲を透過した第1の電磁波と、前記テラヘルツ波よりも波長が短いパルス状の第2の電磁波とを光学結晶に入射させるステップと、前記光学結晶から出射された前記第2の電磁波を検出するステップとを備え、前記第2の電磁波が、前記観察範囲内に存在する試料において反射または該試料を透過した第1の電磁波の電場の振幅または前記観察範囲内の試料以外の領域において反射または該領域を透過した第1の電磁波の電場の振幅の一方が他方より大きくなる位相に配されるタイミングで前記光学結晶に入射される観察方法を提供する。
【0008】
本発明によれば、試料を含む観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波からなる第1の電磁波が照射されると、試料各部の屈折率分布に応じた量だけ第1の電磁波において位相の遅れ、あるいは、試料における吸収によって振幅の変形が生じる。したがって、第1の電磁波は、試料の有無や、試料における屈折率分布、吸収特性の分布に応じて、その電場波形に空間的な変化が生じる。この第1の電磁波が光学結晶に入射すると、第1の電磁波が結晶内を通過するあるタイミングにおいて、第1の電磁波が持つ電場振幅の分布が光学結晶の特性の分布として反映される。また、第1の電磁波が結晶内を伝播する際、その振幅は時間の経過に伴って変化する。
【0009】
そして、光学結晶に書き込まれた第1の電磁波の電場振幅の分布を第1の電磁波よりも波長が短いパルス状の第2の電磁波によって読み出す場合には、パルス状の第2の電磁波の光学結晶への入射に一致するタイミングで光学結晶に入射されている第1の電磁波の電場振幅の分布が読み出される。この場合において、試料において反射または試料を透過しうた第1の電磁波の電場振幅または試料以外の領域において反射または該領域を透過した第1の電磁波の電場振幅の一方が他方より大きくなる位相に一致するタイミングで第2の電磁波を光学結晶に入射させることにより、振幅が小さい方の第1の電磁波の影響を抑え、大きい方の第1の電磁波の振幅分布を第2の電磁波によって読み出すことができる。その結果、試料をコントラストよく観察することができる。
【0010】
上記発明においては、前記第2の電磁波が、前記観察範囲内に存在する試料において反射または該試料を透過した第1の電磁波の電場振幅または前記観察範囲内の試料以外の領域において反射または該領域を透過した第1の電磁波の電場振幅の一方がほぼゼロとなる位相に配されるタイミングで前記光学結晶に入射されることが好ましい。
このようにすることで、振幅がほぼゼロとなる側の第1の電磁波はほぼ消滅した状態となっているので、この第1の電磁波の影響を受けることなく、振幅が大きい側の第1の電磁波の電場振幅分布を第2の電磁波によって読み出すことができ、より高いコントラストで試料を観察することができる。
【0011】
また、本発明は、上記観察方法における第2の電磁波の入射のタイミングを設定する方法であって、観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波を照射することにより前記観察範囲において反射または該観察範囲を透過した前記第1の電磁波と前記第2の電磁波とを前記第1の電磁波に対する前記第2の電磁波の入射タイミングを変更しながら光学結晶に入射させるステップと、光学結晶から出射された前記第2の電磁波の強度分布を取得するステップと、取得された強度分布を前記入射タイミングと対応づけて記憶するステップとを観察範囲内に試料を配置した場合および配置しない場合において行った後に、前記第2の電磁波の入射のタイミング毎に、試料を配置しないで記憶された第2の電磁波の強度分布および試料を配置して記憶された第2の電磁波の強度分布の一方を他方から減算または一方を他方で除算することにより補正するステップと、補正された第2の電磁波の強度分布において、最大強度と最小強度との差の絶対値が最も大きくなる入射タイミングを選択するステップとを行う入射タイミング設定方法を提供する。
【0012】
本発明によれば、まず、観察範囲内に試料を配置しない状態で、光学結晶に対して第1の電磁波を入射させ、第2の電磁波の入射タイミングをずらしながら第2の電磁波を光学結晶に入射させて、光学結晶から出射された第2の電磁波を検出して得られた強度分布を第2の電磁波の入射タイミングとともに記憶しておく。次いで、観察範囲内に試料を配置した状態で、上記と同様の検出を行い、得られた第2の電磁波の強度分布を第2の電磁波の入射タイミングとともに記憶する。そして、同じ入射タイミングで第2の電磁波を入射させたときに検出された試料を配置した時と試料を配置しない時の第2の電磁波の強度分布の一方を他方から減算または一方を他方で除算することにより補正する。補正された第2の電磁波の強度分布において最大強度と最小強度との差の絶対値が最も大きくなるタイミングを選択することで、一方の強度分布が他方の強度分布によって最も影響を受け難い第2の電磁波の入射タイミングを設定することができる。
【0013】
また、本発明は、上記観察方法における第2の電磁波の入射のタイミングを設定する方法であって、観察範囲内に試料を配置せずに観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波を照射し、前記観察範囲において反射または該観察範囲を透過した前記第1の電磁波と前記第2の電磁波とを前記第1の電磁波に対する前記第2の電磁波の入射タイミングを変更しながら光学結晶に入射させ、光学結晶から出射された前記第2の電磁波の強度分布を取得して、取得された強度分布を前記入射タイミングと対応づけてデータベースに記憶しておき、観察範囲内に試料を配置して、観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波を照射することにより前記観察範囲において反射または該観察範囲を透過した前記第1の電磁波と前記第2の電磁波とを前記第1の電磁波に対する前記第2の電磁波の入射タイミングを変更しながら光学結晶に入射させるステップと、光学結晶から出射された前記第2の電磁波の強度分布を取得するステップと、取得された強度分布を前記入射タイミングと対応づけて記憶するステップとを行った後に、前記第2の電磁波の入射のタイミング毎に、前記データベースに記憶されている第2の電磁波の強度分布および試料を配置して記憶された第2の電磁波の強度分布の一方を他方から減算または一方を他方で除算することにより補正するステップと、補正された第2の電磁波の強度分布において、最大強度と最小強度との差の絶対値が最も大きくなる入射タイミングを選択するステップとを行う入射タイミング設定方法を提供する。
【0014】
本発明によれば、観察範囲内に試料を配置しない状態で、予め光学結晶に対して第1の電磁波を入射させ、第2の電磁波の入射タイミングをずらしながら第2の電磁波を光学結晶に入射させて、光学結晶から出射された第2の電磁波を検出して得られた強度分布と第2の電磁波の入射タイミングとをデータベースとして記憶しているので、観察の都度に、試料を配置しない状態での第2の電磁波の入射タイミング毎の第2の電磁波の強度分布の取得作業を行わずに済む。したがって、観察範囲内に試料を配置した状態で、入射タイミングをずらしながら第2の電磁波の強度分布を取得するだけで、一方の強度分布が他方の強度分布によって最も影響を受け難い第2の電磁波の入射タイミングを設定することができる。その結果、高いコントラストで試料の観察を行うことが可能な第2の電磁波の入射タイミングを設定することができる。
【0015】
また、本発明は、上記観察方法における第2の電磁波の入射のタイミングを設定する方法であって、観察範囲内に試料を配置して、観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波を照射することにより前記観察範囲において反射または該観察範囲を透過した前記第1の電磁波と前記第2の電磁波とを前記第1の電磁波に対する前記第2の電磁波の入射タイミングを変更しながら光学結晶に入射させるステップと、光学結晶から出射された前記第2の電磁波の強度分布を取得するステップと、取得された強度分布を前記入射タイミングと対応づけて記憶するステップとを行った後に、取得された前記第2の電磁波の強度分布のうち、試料が存在していない領域に対応する光学結晶から出射された第2の電磁波のいずれかの強度に基づいて、試料を配置しない時の第2の電磁波の強度分布を生成するステップと、記憶されている前記第2の電磁波の強度分布および生成された試料を配置しない時の前記第2の電磁波の強度分布の一方から他方を減算または一方を他方で除算することにより補正するステップと、補正された第2の電磁波の強度分布において、最大強度と最小強度との差の絶対値が最も大きくなる入射タイミングを選択するステップとを含む入射タイミング設定方法を提供する。
【0016】
本発明によれば、観察範囲内において試料が存在していない領域に対応する光学結晶から出射される第2の電磁波の強度に基づく強度分布を生成し、観察範囲から得られた第2の電磁波の強度分布を、生成された強度分布で補正するので、補正用に試料が存在していない領域に対応する光学結晶からの代表的な第2の電磁波の強度を取得しておけば足り、これによって、高いコントラストで試料の観察を行うことが可能な第2の電磁波の入射タイミングを設定することができる。このとき、試料を配置していない状態と試料を配置した状態とで分けて測定を行う必要がなく、簡易かつ迅速に入射タイミングを設定することができる。
【0017】
また、本発明は、上記観察方法における第2の電磁波の入射のタイミングを設定する方法であって、前記光学結晶に前記第1の電磁波が入射していない状態で前記第2の電磁波を前記光学結晶に入射させて、該光学結晶から出射した前記第2の電磁波を検出して取得したバックグラウンドの強度分布を記憶しておき、観察範囲内に試料を配置して、観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波を照射することにより前記観察範囲において反射または該観察範囲を透過した前記第1の電磁波と前記第2の電磁波とを前記第1の電磁波に対する前記第2の電磁波の入射タイミングを変更しながら光学結晶に入射させるステップと、光学結晶から出射した前記第2の電磁波の強度分布を取得するステップと、取得された強度分布を前記入射タイミングと対応づけて記憶するステップとを行った後に、前記第2の電磁波の入射タイミング毎に、記憶されている第2の電磁波の強度分布から予め記憶しておいた前記バックグラウンドの強度分布を減算または除算して補正するステップと、前記第2の電磁波の入射タイミング毎に、補正された第2の電磁波の強度分布をフーリエ変換するステップと、フーリエ変換された強度分布において、試料の大きさに対応する周波数成分が最も大きくなる入射タイミングを選択するステップとを行う入射タイミング設定方法を提供する。
【0018】
本発明によれば、第1の電磁波を入射させないで第2の電磁波のみを入射させた場合においても光学結晶から出射した第2の電磁波として取得されてしまうバックグラウンドの強度分布を記憶しておき、第1の電磁波を入射して取得された第2の電磁波の強度分布を記憶していたバックグラウンドの強度分布によって補正するので、補正された第2の電磁波の強度分布からはバックグラウンドノイズが除去されている。そして、バックグラウンドノイズが除去された強度分布をフーリエ変換して試料のサイズに対応する周波数成分強度を調べることにより、試料部分の強度分布が急激に変化するタイミングを簡単に見つけることができる。フーリエ変換成分は周波数増大につれて強度が減少する曲線を示すが、コントラストが良くない場合には高周波での強度減少が大きくなる。このコントラスト低下による強度減少が明瞭に観測される周波数は試料のサイズが小さくなるにつれて高周波になるため、試料のサイズに応じた周波数の強度変化を調べ、その強度が最も大きくなるタイミングを選ぶことによって、試料の存在する領域と試料の存在しない領域との境界をコントラストよく検出可能な第2の電磁波の入射タイミングを設定することができる。
【0019】
また、本発明は、試料を含む観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波からなる第1の電磁波を照射する第1の照射部と、前記観察範囲において反射または該観察範囲を透過した前記第1の電磁波を入射させる光学結晶と、該光学結晶に向けて前記テラヘルツ波よりも波長が短いパルス状の第2の電磁波を入射させる第2の照射部と、前記光学結晶から出射された前記第2の電磁波を検出する検出部とを備え、前記第2の照射部から発せられる前記第2の電磁波の入射タイミングは、該第2の電磁波が、前記観察範囲内に存在する試料において反射または該試料を透過した第1の電磁波の電場の振幅または前記観察範囲内の試料以外の領域において反射または該領域を透過した第1の電磁波の電場の振幅の一方が他方より大きくなる位相に設定されている観察装置を提供する。
【0020】
上記発明においては、前記第2の電磁波の入射タイミングは、前記第2の電磁波が、前記観察範囲内に存在する試料において反射または該試料を透過した第1の電磁波の電場の振幅または前記観察範囲内の試料以外の領域において反射または該領域を透過した第1の電磁波の電場の振幅の一方がほぼゼロとなる位相に設定されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、試料の存在する領域と存在しない領域とを含む観察範囲の観察において試料を高いコントラストで観察することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る観察装置を示す全体構成図である。
【図2】図1の観察装置における(a)試料への入射前のテラヘルツ波、(b)ステージを通過した後のテラヘルツ波をそれぞれ示す図である。
【図3】図1の観察装置における近赤外光の電気光学結晶への入射タイミングの設定方法を説明するフローチャートである。
【図4】図1の観察装置の第1の変形例を示す全体構成図である。
【図5】図1の観察装置の第2の変形例を示す全体構成図である。
【図6】図5の観察装置におけるテラヘルツ波と近赤外光の入射方向を説明する図である。
【図7】図1の観察装置の第3の変形例を示す全体構成図である。
【図8】図1の観察装置の光学結晶として和周波混合または差周波混合を行うものを説明する図である。
【図9】図3の入射タイミングの設定方法の第1の変形例を説明するフローチャートである。
【図10】図3の入射タイミングの設定方法の第2の変形例を説明するフローチャートである。
【図11】図3の入射タイミングの設定方法の第3の変形例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施形態に係る観察方法、入射タイミング設定方法および観察装置1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る観察装置1は、図1に示されるように、パルス状の近赤外光(例えば、フェムト秒パルスレーザ光)L1を発生する光源2と、該光源2からの近赤外光L1を2つの光路に分割するビームスプリッタ3と、該ビームスプリッタ3により分割された一方の光路に設けられ、テラヘルツ波L2を発生するテラヘルツ波照射光学系4と、他方の光路に設けられた近赤外光照射光学系5と、テラヘルツ波照射光学系4の途中位置に配置された細胞等の試料Aを載置するステージ6と、これら照射光学系4,5を導光されてきたテラヘルツ波L2と近赤外光L1とを合波するビームスプリッタ7と、該ビームスプリッタ7の後段に配置された電気光学結晶8と、電気光学結晶8を透過した近赤外光L1を検出する検出光学系9とを備えている。
【0024】
テラヘルツ波照射光学系4は、ビームスプリッタ3により分割された近赤外光L1の内の一方の近赤外光L1をテラヘルツ波L2に変換するテラヘルツ波放射素子11と、該テラヘルツ波放射素子11から放射されたテラヘルツ波L2を略平行光にする集光レンズ10と、ステージ6上の試料Aを透過させられたテラヘルツ波L2の光束径を調節するレンズ12とを備えている。
【0025】
近赤外光照射光学系5は、ビームスプリッタ3により分割された近赤外光L1の内の他方の近赤外光L1の偏光状態を直線偏光に整える1/2波長板15と、近赤外光L1のビームスプリッタ3,7間の光路長を調節する光路長調節光学系13と、光路を調節された近赤外光L1の光束径を増大させて略平行光に変換するビームエキスパンダ14とを備えている。
【0026】
光路長調節光学系13は、近赤外光L1を折り返す2個の可動ミラー13aと,該可動ミラー13aの一方に対向して配置された固定ミラー13bと、可動ミラー13aを固定ミラー13bに対して矢印Bの方向に移動させる移動機構(図示略)とを備えている。固定ミラー13bに対して可動ミラー13aを移動させることで、近赤外光L1の位相を調節することができるようになっている。
【0027】
電気光学結晶8は、テラヘルツ波L2が照射されることにより、その電場状態に応じて屈折率の分布が変化する非線形光学結晶である。例えば、ZnTe:テルル化亜鉛を挙げることができる。電気光学結晶8に電場の空間分布を有するテラヘルツ波L2が照射されることで、その電場振幅の分布が屈折率分布として電気光学結晶8に書き込まれる(反映される)。その書き込まれた領域に近赤外光L1を通過させると、近赤外光L1の偏光方向が変化させられるようになっている。書き込まれた情報は瞬時に消失するので、情報の書き込み直後に読み出せるように、テラヘルツ波L2の直後に近赤外光L1を電気光学結晶8に入射させる必要がある。
【0028】
検出光学系9は、電気光学結晶8を透過した近赤外光L1を結像させる結像光学系19と、1/2波長板15に対して直交配置された偏光子16と、該偏光子16を通過した近赤外光L1を撮像して2次元的な強度分布を取得するCCDカメラ17とを備えている。ここで、CCDカメラ17は試料Aと光学的に共役な位置に配置されている。近赤外光L1は、テラヘルツ波L2が照射されている電気光学結晶8を透過することにより、テラヘルツ波L2の電場によって誘起された複屈折のために偏光状態が楕円偏光となっている。したがって、偏光子16を通過した近赤外光L1のみを検出することにより、偏光状態が変化した成分のみを撮像することができるようになっている。なお、CCDカメラ17に代えて、CMOSカメラを採用してもよい。図中符号18はミラー、符号27は集光レンズである。
【0029】
また、光路長調節光学系13およびCCDカメラ17には、光路長調節光学系13から出力される後述する近赤外光L1の入射タイミングと、CCDカメラ17から出力される近赤外光L1の強度分布とを対応づけて記憶する記憶部28が接続されている。
【0030】
ここで、本実施形態に係る観察装置1における前記近赤外光L1の電気光学結晶8への入射タイミングについて以下に説明する。
図2(a)に示されるように、試料Aへの入射前において、各部のテラヘルツ波L2の電場の位相および波形はほぼ一致している。一方、図2(b)に示されるように、試料Aを通過したテラヘルツ波L2’は、試料Aの屈折率によって、試料Aを通過していないテラヘルツ波L2と比較して、位相が遅れる。また、試料Aを通過したテラヘルツ波L2’は、試料Aにおける吸収によって、波形が変形する。
【0031】
その結果、試料Aを通過したテラヘルツ波L2’と、試料Aを通過していないテラヘルツ波L2とは、そのピーク位置の位相が時間軸方向にずれる。そして、図2(b)に符号Cで示されるように、試料Aを通過していないテラヘルツ波L2の電場振幅がほぼゼロとなる位置において試料Aを通過したテラヘルツ波L2’が大きな電場振幅(例えば、ピーク振幅)を有する位相が存在する。
【0032】
電気光学結晶8においては、入射されるテラヘルツ波L2,L2’の電場振幅に依存して屈折率が変化させられるので、一方のテラヘルツ波L2の電場振幅がほぼゼロとなる位相においては、他方のテラヘルツ波L2’のみによる屈折率の変化のみが発生することになる。したがって、その位相に一致するタイミングで近赤外光L1を入射させることにより、一方のテラヘルツ波L2による屈折率変化を実質的に消滅させた状態で他方のテラヘルツ波L2’による屈折率変化の情報のみを近赤外光L1に重畳させることができ、そのような近赤外光L1を検出光学系9によって検出することができるようになっている。
【0033】
このように構成された本実施形態に係る観察装置1を用いた観察方法について以下に説明する。
本実施形態に係る観察装置1を用いて透明な細胞のような試料Aの観察を行うには、ステージ6に試料Aを載置し、光源2からパルス状の近赤外光L1を出射させる。
【0034】
ビームスプリッタ3により分岐されてテラヘルツ波照射光学系4に入射された近赤外光L1は、ミラー18によって偏向され、集光レンズ27によって集光されてテラヘルツ波放射素子11を通過させられることにより、テラヘルツ波L2に変換され、レンズ10によって略平行光に変換された後に、ステージ6上の試料Aを含む観察範囲に照射される。
【0035】
観察範囲内における試料Aが存在する領域においては、テラヘルツ波L2は、試料Aの屈折率によって位相が遅らせられ、試料Aの吸収によってその波形が変形されたテラヘルツ波L2’となる。一方、試料Aが存在しない領域においては、テラヘルツ波L2は、位相の遅れや波形の変形を伴うことなくそのまま透過させられる。そして、テラヘルツ波L2はレンズ12によって光束径が調節される。
【0036】
試料Aは透明な細胞等であるが、試料Aを透過させられたテラヘルツ波L2’は、試料Aにより変調されて試料A内における屈折率や吸収の分布に応じた電場振幅の分布を有するようになる。そして、観察範囲を透過させられることにより試料Aの情報を重畳させられて電場振幅の分布を有するテラヘルツ波L2,L2’が電気光学結晶8に入射されると、電気光学結晶8においては、テラヘルツ波L2,L2’の電場振幅の分布に応じた屈折率分布が発生する。
【0037】
一方、ビームスプリッタ3により分岐されて近赤外光照射光学系5に入射された近赤外光L1は、1/2波長板15を透過させられることによって電気光学結晶8に複屈折が生じた際に偏光状態が変化するように直線偏光の回転方向を設定される。そして、偏光状態を設定された近赤外光L1は、光路長調節光学系13によってその位相を調節された後に、ビームエキスパンダ14によって光束径を拡大させられて、ビームスプリッタ7によってテラヘルツ波L2,L2’と同一の光路に合流され、電気光学結晶8に入射される。
【0038】
この場合において、本実施形態においては、光路長調節光学系13により近赤外光照射光学系5の光路長を調節することによって、近赤外光L1の電気光学結晶8への入射タイミングが調節されている。すなわち、近赤外光L1は、試料Aを透過することなく電気光学結晶8に入射されるテラヘルツ波L2の電場振幅がほぼゼロとなりかつ試料Aを透過して電気光学結晶8に入射されるテラヘルツ波L2’の電場振幅が十分に大きくなる位相にほぼ一致するタイミングで電気光学結晶8に入射される。
【0039】
これにより、試料Aを透過することなく電気光学結晶8に入射したテラヘルツ波L2による電気光学結晶8の屈折率の変化を抑え、試料Aを透過した後に電気光学結晶8に入射したテラヘルツ波L2’のみによる屈折率分布、すなわち、試料Aの屈折率分布を近赤外光L1によって精度よく読み出すことができる。
【0040】
電気光学結晶8を透過させられることにより、試料Aの屈折率分布の情報が重畳された近赤外光L1は、偏光子16を通過させられることにより、電気光学結晶8によって変化した成分のみが抽出された後に、CCDカメラ17によって撮像される。これにより、試料Aを含む観察範囲の画像が取得される。この画像中においては、試料Aが存在しない領域を通過したテラヘルツ波L2の影響が取り除かれており、高いコントラストで、試料Aの鮮明な観察を行うことができる。
【0041】
次に、上記観察方法における近赤外光L1の電気光学結晶8への入射タイミング設定方法について、図3を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る入射タイミング設定方法は、ステージ6上に試料Aを載置しないで行う試料Aなしデータの取得ステップと、ステージ6上に試料Aを載置して行う試料Aありデータの取得ステップと、取得された試料Aありデータおよび試料Aなしデータに基づいて、近赤外光L1の入射のタイミングを算出するタイミング算出ステップとを備えている。
【0042】
試料Aなしデータの取得ステップおよび試料Aありデータの取得ステップは、試料Aが載置されているかいないかの違いだけであるので、ここでは試料Aなしデータの取得ステップについて説明し試料Aありデータの取得ステップについては説明を省略する。
試料Aなしデータの取得ステップは、観察範囲内に試料Aを配置しない状態(ステップS1)で、電気光学結晶8にテラヘルツ波L2および近赤外光L1を入射させ、光路長調節光学系13を作動させて、テラヘルツ波L2に対する近赤外光L1の入射タイミングをずらしながら近赤外光L1の強度分布を取得する。
【0043】
具体的には、試料Aなしデータの取得ステップは、近赤外光L1の入射タイミングを初期設定するステップS2と、観察範囲を透過したテラヘルツ波L2と近赤外光L1とを電気光学結晶8に入射させる入射ステップS3と、電気光学結晶8を透過した近赤外光L1をCCDカメラ17によって撮像して強度分布を取得する強度分布取得ステップS4と、取得された近赤外光L1の強度分布をそのときの入射タイミングとともに記憶部28に記憶する記憶ステップS5と、全ての入射タイミングで強度分布の取得を行ったか否かを判定し、終了していない場合には、光路長調節光学系13を作動させて入射タイミングを所定の変動幅でずらすタイミング変動ステップS6と、ステップS3〜S6を、所定の入射タイミングの範囲にわたって繰り返す繰返ステップS7とを含んでいる。
【0044】
試料Aありデータの取得ステップは、試料Aなしデータの取得ステップの後に、試料Aが載置されているか否かを確認し(ステップS8)、試料Aが載置されていない場合に、試料Aを載置し(ステップS9)、ステップS2〜S7を繰り返す。
【0045】
タイミング算出ステップは、近赤外光L1の入射タイミング毎に、試料Aなしデータの取得ステップにおいて記憶した近赤外光L1の強度分布と、試料Aありデータの取得ステップにおいて記憶した近赤外光L1の強度分布とを用いて、一方から他方を減算または一方を他方で除算することにより補正する補正ステップS10と、補正された近赤外光L1の強度分布において、最大強度と最小強度との差の絶対値を算出する算出ステップS11と、算出結果が最も大きくなる入射タイミングを選択する選択ステップS12とを含んでいる。
【0046】
そして、このようにして選択された入射タイミングに設定して観察を行うことで、試料Aが存在しない領域を透過したテラヘルツ波L2による影響を抑えた高いコントラストの観察を行うことができる。
【0047】
このように、本実施形態に係る観察装置1および観察方法によれば、観察範囲内に配置される細胞等の透明な試料Aを試料Aではない領域から区別して高いコントラストで鮮明な観察を行うことができるという利点がある。
また、本実施形態に係る入射タイミング設定方法によれば、上記観察方法において使用する近赤外光L1の入射タイミングを簡易に設定することができ、高コントラストでの観察を容易に実現することができる。
【0048】
なお、本実施形態においては、試料Aを透過していないテラヘルツ波L2の電場振幅がほぼゼロとなり、かつ試料Aを透過したテラヘルツ波L2’の電場振幅がピークとなるタイミングで近赤外光L1を電気光学結晶8に入射させることとした。これに代えて、試料Aを透過していないテラヘルツ波L2の電場振幅がピークとなり、試料Aを透過したテラヘルツ波L2’の電場振幅がほぼゼロとなるタイミングで近赤外光L1を電気光学結晶8に入射させてもよい。
【0049】
また、本実施形態においては、試料Aを透過していないテラヘルツ波L2または試料Aを透過したテラヘルツ波L2’の電場振幅の一方がほぼゼロとなるタイミングを選択したが、これに代えて、電場振幅が厳密にゼロにならなくても他方に対して十分に低いレベルの振幅となっているタイミングを採用することにしてもよい。
【0050】
また、本実施形態においては、近赤外光照射光学系5に光路長調節光学系13を配置して、近赤外光照射光学系5の光路長を調節することで、テラヘルツ波L2に対する近赤外光L1の入射タイミングを調節することとしたが、これに代えてあるいはこれとともに、テラヘルツ波照射光学系4に光路長調節光学系(図示略)を配置することにしてもよい。
【0051】
また、本実施形態においては、図4〜図8に示されるように、電気光学結晶8の表面に試料Aを載置する載置面8aを設けることにしてもよい。図4において、符号20は集光レンズ、符号21,22は放物面ミラー、符号23は対物レンズ、符号24は1/4波長板、符号25は偏光子、符号26は結像レンズである。また、図4,5,7において、光路長調節光学系13は、三角プリズム13a‘,13b’により構成されている。
【0052】
このように構成することで、試料Aを通過した直後にテラヘルツ波L2を電気光学結晶8に入射させることができ、光学系によって空間分解能を制限されることなく、高い分解能で観察することができるという利点がある。その結果、細胞のように微細な試料Aであっても、簡易な構成で高い空間分解能により精度よく観察することができる。
【0053】
また、図5および図6に示すように電気光学結晶8の載置面8aにテラヘルツ波L2を透過させ、近赤外光L1を反射する反射膜27を配置して、テラヘルツ波L2と近赤外光L1の電気光学結晶8への入射方向を逆方向に構成することにしてもよい。このようにすると、近赤外光L1が試料Aを透過しないので、読み出し用の近赤外光L1が試料Aによって変調されず、テラヘルツ波L2によって、図6の斜線Eで示される電気光学結晶8の領域に書き込まれた情報をより正確に読み出すことができる。
【0054】
また、図7に示されるように、共焦点観察装置を構成してもよい。
図7に示す例では、図5の観察装置1の近赤外光照射光学系5の途中に、近赤外光L1を2次元的に走査するスキャナ(近接ガルバノミラー)30を設け、対物レンズ23の焦点位置と光学的に共役な位置に、共焦点ピンホール31を配置している。これにより、対物レンズ23の焦点位置が配置されている電気光学結晶8の載置面8a近傍の領域Eからの近赤外光L1のみを光検出器(例えば、光電子増倍管)32によって検出することができる。したがって、電気光学結晶8自体を比較的厚く構成しても鮮明な画像を得ることができる。
【0055】
また、上記各実施形態においては、光学結晶として、電気光学結晶8を例示して説明したが、これに代えて、2種類の異なる波長の光L1,L2を同時に入射させると、その2つの光L1,L2が和周波混合または差周波混合されて、その周波数の和または差の周波数を有する他の光L3が射出される非線形光学結晶8’を採用してもよい。このようにすることで、例えば、和周波混合の場合では、図1に示される観察装置1において、テラヘルツ波L2と近赤外光L1とを同時に試料Aおよび非線形光学結晶8’に入射させると、図8に示されるように、試料Aの屈折率分布に応じて変調されたテラヘルツ波L2(例えば、波長3mm、周波数0.1THz)とさほど変調されていない近赤外光L1(例えば、波長800nm)とが非線形光学結晶8’において和周波混合され、試料Aの屈折率分布の情報を含む他の波長(例えば、波長799.79nm)の和周波混合光L3が対物レンズ23により集光される。したがって、これを検出することにより、試料Aの画像を取得することができる。
【0056】
また、上記各実施形態においては、試料Aを透過したテラヘルツ波L2を検出した。これに代えて、試料Aで反射したテラヘルツ波L2を電気光学結晶8もしくは非線形光学結晶8’に入射させ、その電場波形を測定しても良い。このようにすることで、テラヘルツ波L2が試料Aを透過しない場合においても、測定を行うことが可能となる。
【0057】
また、本実施形態に係る入射タイミング設定方法においては、観察の都度に、試料Aを載置しないときの近赤外光L1の強度分布を入射タイミング毎に取得して対応づけて記憶し、その後、試料Aを載置したときの近赤外光L1の強度分布を入射タイミング毎に取得して対応づけて記憶することとした。これに代えて、予め、試料Aを載置しないときの近赤外光L1の強度分布を入射タイミング毎に取得して対応づけて記憶したデータベースを作成しておいてもよい。この場合には、図9に示されるように、試料Aなしデータの取得ステップを省略して最初から試料Aを載置し(ステップS21)、その代わりに、補正前にデータベースから試料Aを載置しないときの近赤外光L1の強度分布を読み出すことにすればよい(ステップS22)。
【0058】
また、観察範囲内の試料Aの存在する領域と試料Aが存在しない領域とを予め区別することができる場合には、図10に示されるように、ステップS5において記憶された近赤外光L1の強度分布の内のいずれかの強度分布から、試料Aが存在しない領域に対応するいずれかの位置の強度値を得て、その強度値を全ての位置の強度値とする強度分布を試料Aが存在しない場合の強度分布として擬似的に生成してもよい(ステップS23)。このようにすることで、試料Aが存在しない場合の強度分布の取得を省略して簡易にコントラストよく観察するための入射タイミングを設定することができる。
【0059】
また、図11に示されるように、テラヘルツ波L2を入射させることなく近赤外光L1のみを電気光学結晶8に入射させて、電気光学結晶8を透過してきた近赤外光L1を撮像することによりバックグラウンドの強度分布を予め記憶しておいてもよい。この場合には、全ての入射タイミング毎の近赤外光L1の強度分布を取得した後に、予め記憶しておいたバックグラウンドの強度分布を読み込み(ステップS24)、近赤外光L1の入射のタイミング毎に、記憶されている近赤外光L1の強度分布から読み出したバックグラウンドの強度分布を減算または除算して補正し(ステップS25)、補正された強度分布をフーリエ変換し(ステップS26)、フーリエ変換された強度分布において、試料のサイズに対応する周波数成分が最も大きくなるタイミングを選択すればよい(ステップS11,S12)。
【0060】
このようにすることで、高い周波数成分の存在する領域、例えば、試料Aの輪郭を鮮明に際立たせた観察を行うことができる。また、試料がコントラストよく観察できている画像では、試料のサイズに応じた周波数の強度が強くなっている。したがって、その強度が強い位置を探索することにより、コントラストが向上するタイミングを選択することができる。試料のサイズによって対応する周波数が異なるため、複数個の試料が存在する場合には、探索する周波数を選ぶことで、特定の試料をコントラストよく観察できるようにすることもできる。
【0061】
なお、この場合には、塵埃等の不純物も際立たせてしまうことがあるので、この場合には、ローパスフィルタを併用して、所定以上の高い周波数成分を消去することにしてもよい。または、これに加えて、ハイパスフィルタ、バンドパスフィルタを併用してもよい。
【符号の説明】
【0062】
A 試料
L1 近赤外光(第2の電磁波)
L2 テラヘルツ波(第1の電磁波)
1 観察装置
4 テラヘルツ波照射光学系(第1の照射部)
5 近赤外光照射光学系(第2の照射部)
8 電気光学結晶(光学結晶)
8′ 非線形光学結晶(光学結晶)
8a 載置面
9 検出光学系
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を含む観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波を照射することにより、前記観察範囲において反射または該観察範囲を透過した第1の電磁波と、前記テラヘルツ波よりも波長が短いパルス状の第2の電磁波とを光学結晶に入射させるステップと、
前記光学結晶から出射された前記第2の電磁波を検出するステップとを備え、
前記第2の電磁波が、前記観察範囲内に存在する試料において反射または該試料を透過した第1の電磁波の電場の振幅または前記観察範囲内の試料以外の領域において反射または該領域を透過した第1の電磁波の電場の振幅の一方が他方より大きくなる位相に配されるタイミングで前記光学結晶に入射される観察方法。
【請求項2】
前記第2の電磁波が、前記観察範囲内に存在する試料において反射または該試料を透過した第1の電磁波の電場の振幅または前記観察範囲内の試料以外の領域において反射または該領域を透過した第1の電磁波の電場の振幅の一方がほぼゼロとなる位相に配されるタイミングで前記光学結晶に入射される請求項1に記載の観察方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の観察方法における前記第2の電磁波の入射のタイミングを設定する方法であって、
観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波を照射することにより前記観察範囲において反射または該観察範囲を透過した前記第1の電磁波と、前記第2の電磁波とを前記第1の電磁波に対する前記第2の電磁波の入射タイミングを変更しながら光学結晶に入射させるステップと、光学結晶から出射された前記第2の電磁波の強度分布を取得するステップと、取得された強度分布を前記入射タイミングと対応づけて記憶するステップとを観察範囲内に試料を配置した場合および配置しない場合において行った後に、
前記第2の電磁波の入射のタイミング毎に、試料を配置しないで記憶された第2の電磁波の強度分布および試料を配置して記憶された第2の電磁波の強度分布の一方を他方から減算または一方を他方で除算することにより補正するステップと、補正された第2の電磁波の強度分布において、最大強度と最小強度との差の絶対値が最も大きくなる入射タイミングを選択するステップとを行う入射タイミング設定方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の観察方法における第2の電磁波の入射のタイミングを設定する方法であって、
観察範囲内に試料を配置せずに観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波を照射することにより、前記観察範囲において反射または該観察範囲を透過した前記第1の電磁波と、前記第2の電磁波とを前記第1の電磁波に対する前記第2の電磁波の入射タイミングを変更しながら光学結晶に入射させ、光学結晶から出射された前記第2の電磁波の強度分布を取得して、取得された強度分布を前記入射タイミングと対応づけてデータベースに記憶しておき、
観察範囲内に試料を配置して、観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波を照射するステップと、前記観察範囲において反射または該観察範囲を透過した前記第1の電磁波と前記第2の電磁波とを前記第1の電磁波に対する前記第2の電磁波の入射タイミングを変更しながら光学結晶に入射させるステップと、光学結晶から出射された前記第2の電磁波の強度分布を取得するステップと、取得された強度分布を前記入射タイミングと対応づけて記憶するステップとを行った後に、
前記第2の電磁波の入射のタイミング毎に、前記データベースに記憶されている第2の電磁波の強度分布および試料を配置して記憶された第2の電磁波の強度分布の一方を他方から減算または一方を他方で除算することにより補正するステップと、補正された第2の電磁波の強度分布において、最大強度と最小強度との差の絶対値が最も大きくなる入射タイミングを選択するステップとを行う入射タイミング設定方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の観察方法における第2の電磁波の入射のタイミングを設定する方法であって、
観察範囲内に試料を配置して、観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波を照射することにより前記観察範囲において反射または該観察範囲を透過した前記第1の電磁波と、前記第2の電磁波とを前記第1の電磁波に対する前記第2の電磁波の入射タイミングを変更しながら光学結晶に入射させるステップと、光学結晶から出射された前記第2の電磁波の強度分布を取得するステップと、取得された強度分布を前記入射タイミングと対応づけて記憶するステップとを行った後に、
取得された前記第2の電磁波の強度分布のうち、試料が存在していない領域に対応する光学結晶から出射された第2の電磁波のいずれかの強度に基づいて、試料を配置しない時の第2の電磁波の強度分布を生成するステップと、
記憶されている前記第2の電磁波の強度分布および生成された試料を配置しない時の前記第2の電磁波の強度分布の一方から他方を減算または一方を他方で除算することにより補正するステップと、
補正された第2の電磁波の強度分布において、最大強度と最小強度との差の絶対値が最も大きくなる入射タイミングを選択するステップとを行う入射タイミング設定方法。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の観察方法における第2の電磁波の入射のタイミングを設定する方法であって、
前記第1の電磁波を前記光学結晶に入射させずに前記第2の電磁波を前記光学結晶に入射させて、該光学結晶から出射された前記第2の電磁波を検出して取得したバックグラウンドの強度分布を記憶しておき、
観察範囲内に試料を配置して、観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波を照射することにより前記観察範囲において反射または該観察範囲を透過した前記第1の電磁波と前記第2の電磁波とを前記第1の電磁波に対する前記第2の電磁波の入射タイミングを変更しながら光学結晶に入射させるステップと、光学結晶から発せられた前記第2の電磁波の強度分布を取得するステップと、取得された強度分布を前記入射タイミングと対応づけて記憶するステップとを行った後に、
前記第2の電磁波の入射タイミング毎に、記憶されている第2の電磁波の強度分布から予め記憶しておいた前記バックグラウンドの強度分布を減算または除算して補正するステップと、
前記第2の電磁波の入射タイミング毎に、取得された前記補正後の強度分布をフーリエ変換するステップと、
フーリエ変換された強度分布において、試料のサイズに対応する周波数成分が最も大きくなる入射タイミングを選択するステップとを行う入射タイミング設定方法。
【請求項7】
試料を含む観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波からなる第1の電磁波を照射する第1の照射部と、
前記観察範囲において反射または該観察範囲を透過した前記第1の電磁波を入射させる光学結晶と、
該光学結晶に向けて前記テラヘルツ波よりも波長が短いパルス状の第2の電磁波を入射させる第2の照射部と、
前記光学結晶から出射された前記第2の電磁波を検出する検出部とを備え、
前記第2の照射部から発せられる前記第2の電磁波の入射タイミングが、前記観察範囲内に存在する試料において反射または該試料を透過した第1の電磁波の電場の振幅または前記観察範囲内の試料以外の領域において反射または該領域を透過した第1の電磁波の電場の振幅の一方が他方より大きくなる位相に設定されている観察装置。
【請求項8】
前記第2の電磁波の入射タイミングが、前記観察範囲内に存在する試料において反射または該試料を透過した第1の電磁波の電場の振幅または前記観察範囲内の試料以外の領域において反射または該領域を透過した第1の電磁波の電場の振幅の一方がほぼゼロとなる位相に設定されている請求項7に記載の観察装置。
【請求項1】
試料を含む観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波を照射することにより、前記観察範囲において反射または該観察範囲を透過した第1の電磁波と、前記テラヘルツ波よりも波長が短いパルス状の第2の電磁波とを光学結晶に入射させるステップと、
前記光学結晶から出射された前記第2の電磁波を検出するステップとを備え、
前記第2の電磁波が、前記観察範囲内に存在する試料において反射または該試料を透過した第1の電磁波の電場の振幅または前記観察範囲内の試料以外の領域において反射または該領域を透過した第1の電磁波の電場の振幅の一方が他方より大きくなる位相に配されるタイミングで前記光学結晶に入射される観察方法。
【請求項2】
前記第2の電磁波が、前記観察範囲内に存在する試料において反射または該試料を透過した第1の電磁波の電場の振幅または前記観察範囲内の試料以外の領域において反射または該領域を透過した第1の電磁波の電場の振幅の一方がほぼゼロとなる位相に配されるタイミングで前記光学結晶に入射される請求項1に記載の観察方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の観察方法における前記第2の電磁波の入射のタイミングを設定する方法であって、
観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波を照射することにより前記観察範囲において反射または該観察範囲を透過した前記第1の電磁波と、前記第2の電磁波とを前記第1の電磁波に対する前記第2の電磁波の入射タイミングを変更しながら光学結晶に入射させるステップと、光学結晶から出射された前記第2の電磁波の強度分布を取得するステップと、取得された強度分布を前記入射タイミングと対応づけて記憶するステップとを観察範囲内に試料を配置した場合および配置しない場合において行った後に、
前記第2の電磁波の入射のタイミング毎に、試料を配置しないで記憶された第2の電磁波の強度分布および試料を配置して記憶された第2の電磁波の強度分布の一方を他方から減算または一方を他方で除算することにより補正するステップと、補正された第2の電磁波の強度分布において、最大強度と最小強度との差の絶対値が最も大きくなる入射タイミングを選択するステップとを行う入射タイミング設定方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の観察方法における第2の電磁波の入射のタイミングを設定する方法であって、
観察範囲内に試料を配置せずに観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波を照射することにより、前記観察範囲において反射または該観察範囲を透過した前記第1の電磁波と、前記第2の電磁波とを前記第1の電磁波に対する前記第2の電磁波の入射タイミングを変更しながら光学結晶に入射させ、光学結晶から出射された前記第2の電磁波の強度分布を取得して、取得された強度分布を前記入射タイミングと対応づけてデータベースに記憶しておき、
観察範囲内に試料を配置して、観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波を照射するステップと、前記観察範囲において反射または該観察範囲を透過した前記第1の電磁波と前記第2の電磁波とを前記第1の電磁波に対する前記第2の電磁波の入射タイミングを変更しながら光学結晶に入射させるステップと、光学結晶から出射された前記第2の電磁波の強度分布を取得するステップと、取得された強度分布を前記入射タイミングと対応づけて記憶するステップとを行った後に、
前記第2の電磁波の入射のタイミング毎に、前記データベースに記憶されている第2の電磁波の強度分布および試料を配置して記憶された第2の電磁波の強度分布の一方を他方から減算または一方を他方で除算することにより補正するステップと、補正された第2の電磁波の強度分布において、最大強度と最小強度との差の絶対値が最も大きくなる入射タイミングを選択するステップとを行う入射タイミング設定方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の観察方法における第2の電磁波の入射のタイミングを設定する方法であって、
観察範囲内に試料を配置して、観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波を照射することにより前記観察範囲において反射または該観察範囲を透過した前記第1の電磁波と、前記第2の電磁波とを前記第1の電磁波に対する前記第2の電磁波の入射タイミングを変更しながら光学結晶に入射させるステップと、光学結晶から出射された前記第2の電磁波の強度分布を取得するステップと、取得された強度分布を前記入射タイミングと対応づけて記憶するステップとを行った後に、
取得された前記第2の電磁波の強度分布のうち、試料が存在していない領域に対応する光学結晶から出射された第2の電磁波のいずれかの強度に基づいて、試料を配置しない時の第2の電磁波の強度分布を生成するステップと、
記憶されている前記第2の電磁波の強度分布および生成された試料を配置しない時の前記第2の電磁波の強度分布の一方から他方を減算または一方を他方で除算することにより補正するステップと、
補正された第2の電磁波の強度分布において、最大強度と最小強度との差の絶対値が最も大きくなる入射タイミングを選択するステップとを行う入射タイミング設定方法。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の観察方法における第2の電磁波の入射のタイミングを設定する方法であって、
前記第1の電磁波を前記光学結晶に入射させずに前記第2の電磁波を前記光学結晶に入射させて、該光学結晶から出射された前記第2の電磁波を検出して取得したバックグラウンドの強度分布を記憶しておき、
観察範囲内に試料を配置して、観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波を照射することにより前記観察範囲において反射または該観察範囲を透過した前記第1の電磁波と前記第2の電磁波とを前記第1の電磁波に対する前記第2の電磁波の入射タイミングを変更しながら光学結晶に入射させるステップと、光学結晶から発せられた前記第2の電磁波の強度分布を取得するステップと、取得された強度分布を前記入射タイミングと対応づけて記憶するステップとを行った後に、
前記第2の電磁波の入射タイミング毎に、記憶されている第2の電磁波の強度分布から予め記憶しておいた前記バックグラウンドの強度分布を減算または除算して補正するステップと、
前記第2の電磁波の入射タイミング毎に、取得された前記補正後の強度分布をフーリエ変換するステップと、
フーリエ変換された強度分布において、試料のサイズに対応する周波数成分が最も大きくなる入射タイミングを選択するステップとを行う入射タイミング設定方法。
【請求項7】
試料を含む観察範囲に対してパルス状のテラヘルツ波からなる第1の電磁波を照射する第1の照射部と、
前記観察範囲において反射または該観察範囲を透過した前記第1の電磁波を入射させる光学結晶と、
該光学結晶に向けて前記テラヘルツ波よりも波長が短いパルス状の第2の電磁波を入射させる第2の照射部と、
前記光学結晶から出射された前記第2の電磁波を検出する検出部とを備え、
前記第2の照射部から発せられる前記第2の電磁波の入射タイミングが、前記観察範囲内に存在する試料において反射または該試料を透過した第1の電磁波の電場の振幅または前記観察範囲内の試料以外の領域において反射または該領域を透過した第1の電磁波の電場の振幅の一方が他方より大きくなる位相に設定されている観察装置。
【請求項8】
前記第2の電磁波の入射タイミングが、前記観察範囲内に存在する試料において反射または該試料を透過した第1の電磁波の電場の振幅または前記観察範囲内の試料以外の領域において反射または該領域を透過した第1の電磁波の電場の振幅の一方がほぼゼロとなる位相に設定されている請求項7に記載の観察装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−33586(P2011−33586A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182783(P2009−182783)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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