説明

触媒反応器およびそれを用いた触媒反応装置

【課題】臭気、揮発性有機化合物、自動車排気ガス等の有害ガスを分解し、それらの排出を抑制するための触媒反応器、特にトルエンやキシレン等の揮発性有機化合物を含むVOCガスを効率良く除去するのに適したVOC除去用の触媒反応器およびそれを用いた触媒反応装置を提供する。
【解決手段】触媒が担持された箔状のアルミニウム基材からなる触媒体と、表面に凹凸が形成されたセパレータとが一緒に捲回された状態で、実質的に円筒状のケーシング内に収容された構造を有しており、前記の箔状アルミニウム基材の表面には、エッチング処理によってピットが形成されており、当該ピットの表面には、さらに陽極酸化処理によって微細孔を有する陽極酸化皮膜が形成されており、少なくとも当該陽極酸化皮膜の微細孔に触媒が担持されている。この際、前記セパレータの表面に形成された凹凸高さは0.5〜5mmであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭気、揮発性有機化合物(VOC)、自動車排気ガス等の有害ガスを分解し、それらの排出を抑制するための触媒反応器、特にトルエンやキシレン等の揮発性有機化合物を含むVOCガスを効率良く除去するのに適したVOC除去用の触媒反応器およびそれを用いた触媒反応装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、様々な場所で環境面から排ガス処理の必要性が叫ばれており、様々な排ガス処理を行うために新たな触媒開発が進められている。特に、印刷工場においては、トルエン等の揮発性有機化合物を含んだVOCガスを効率良く除去することが可能な触媒反応装置の開発が望まれている。
【0003】
数多くの触媒の中でも、陽極酸化アルミニウム皮膜を用いた触媒体(以下、アルマイト触媒体という)は、アルミニウムを陽極酸化し、その微細で表面積が大きい多孔質皮膜により多くの触媒を把持することができるので触媒反応効率が非常に高く、触媒反応体をコンパクトに設計することができる非常に優れた触媒体である。
【0004】
又、アルマイト触媒体は、脱臭装置、揮発性有機化合物分解装置、さらに自動車排気ガス、焼却燃焼ガス等の有害ガスの分解装置等の触媒反応体として負荷変動の減少、省エネルギー化、反応装置のコンパクト化等に非常に優れており、アルマイト触媒体を環境浄化装置に適用することによって、装置の小型軽量化が可能になる。
【0005】
このような点から、環境保護、環境改善の見地からも有害ガスの分解性能に優れたアルマイト触媒体を活用した脱臭装置、揮発性有機化合物分解装置、自動車排気ガス分解装置、焼却燃焼ガス浄化装置等が広く普及することが求められている。
【0006】
しかし、アルミニウムに微細な多孔質の皮膜を形成するための陽極酸化処理は電解処理によるものであり、電気量を多く消費する。そのために処理コストが高い。さらに、触媒に用いる金属類も高価であり、実用化のための量産化には支障がある。
【0007】
まず、アルマイト触媒体に関しては特許文献1において既に開示されている。このアルマイト触媒体は多孔質アルミナ層表面に触媒を担時させ、触媒活性を高めたものである。
【0008】
本発明はこのアルマイト触媒体の実用化技術として位置づけるもので、前記の有害ガス等の燃焼分解装置の開発、実用化に資するためにコストの低減、さらに触媒効率を高めるための新たな提案である。
【0009】
触媒担体としてのアルミニウム等表面皮膜を活用した事例としては、たとえば、特許文献2および特許文献3においては、浄水、脱臭、有害ガス等の分解のために光触媒の触媒効率を高めるために、マグネシウム、マグネシウム合金を中心にマグネシウム系金属材料をまず機械的、化学的に粗面化加工をし、次いで陽極酸化皮膜を形成して、それに光触媒を担持させて、触媒効率を増大させる技術手段が提案されている。
【0010】
しかし、ここには本発明の目的である陽極酸化処理時の電気量、電気エネルギーの節減、製造コスト削減をした上で、かつ、触媒反応効率を維持向上させるための対応技術は開示されていない。すなわち、陽極酸化処理に先立って行われる機械的、化学的粗面化加工の方法が示されているのみで、その粗面の状態、性状と触媒反応機能との関連は不明である。この触媒体の機械的、化学的粗面化の状態や性状が後処理である陽極酸化皮膜の状態、性状を決めることになる重要な要素である。
【0011】
また、特許文献4におけるエキスバンド、エッチング等いずれかの加工をした薄板の不織性多孔性アルミニウム含有耐熱合金のAlを含む酸化層に触媒を担持した排ガス浄化装置のAlを含む酸化層は、陽極酸化による皮膜とはその皮膜構造が異なり、微細孔をもつ多孔質ではない。
【0012】
尚、これまでに触媒反応器として、ハニカム状の触媒体を用いたものも提案されてきているが、このような触媒反応器の場合には、コストが高いという問題点がある。そこで、装置のコストを抑えた装置として、例えば下記の特許文献5には、気体の流入口と流出口を有する熱交換器型の構造体の外壁に絶縁被覆された電気加熱手段を配した触媒構造体であって、該触媒構造体の内部がセパレートシートとコルゲートフィンを交互に積み重ねて構成されていると共に、少なくともコルゲートフィンが、陽極酸化された表面に触媒を担持してなる触媒反応器が提案されている。しかしながら、このような触媒反応器は構造が複雑であって、製造しにくいという問題点があった。
【0013】
【特許文献1】特開昭62−237947号公報
【特許文献2】特開2005−103504号公報
【特許文献3】特開2005−103505号公報
【特許文献4】特開2005−325756号公報
【特許文献5】特開平8−318164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、アルミニウムの陽極酸化皮膜に生成された微細孔に触媒を担持したアルマイト触媒体を利用し、臭気、揮発性有磯化合物、自動車排気ガス、焼却燃焼ガス等の有害ガスを分解する触媒反応器およびそれを用いた触媒反応装置を提供することを課題とする。
本発明者等は、種々検討を行った結果、箔状のアルミニウム基材をエッチング処理によって当該アルミニウム基材の表面にピットを形成した後、さらに陽極酸化処理によって微細孔を有する皮膜を形成し、少なくとも当該皮膜の微細孔に触媒を担持した触媒体と、表面に所定の高さの凹凸を形成したセパレータを重ね合わせた状態で一緒に渦巻き状に捲回し、この捲回体を円筒状のケース内に収容することによって、比較的簡単な構造で製造し易く、各種有害ガス、特に揮発性有磯化合物を含むVOCガスの除去に適した触媒反応器が実用化できることを見出して、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決可能な本発明の触媒反応器は、触媒を担持した箔状のアルミニウム基材からなる触媒体と、表面に凹凸が形成されたセパレータとが一緒に捲回された状態で、実質的に円筒状のケーシング内に収容された構造を有しており、前記の箔状アルミニウム基材の表面には、エッチング処理によってピットが形成されており、当該ピットの表面には、さらに陽極酸化処理によって微細孔を有する陽極酸化皮膜が形成されており、少なくとも当該陽極酸化皮膜の微細孔に触媒が担持されている。
【0016】
又、本発明は、上記の特徴を有した触媒反応器において、前記ピットが、深さが15μm以上で、径が0.3μm以上であり、当該アルミニウム基材の表面に対してほぼ垂直なピットであることを特徴とするものである。
【0017】
更に、本発明は、上記の特徴を有した触媒反応器において、前記陽極酸化皮膜の厚さが5μm以下であり、当該陽極酸化皮膜に形成された微細孔の径が0.005μm以上であることを特徴とするものである。
【0018】
又、本発明は、上記の特徴を有した触媒反応器において、前記陽極酸化皮膜に形成された微細孔に、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、コバルト、鉄、銅、亜鉛、金、銀、レニウム、マンガン、および錫、またはこれらの合金もしくは混合物のいずれかからなる触媒が把持されていることを特徴とするものである。
【0019】
更に、本発明は、上記の特徴を有した触媒反応器において、前記セパレータの表面に形成された凹凸高さが0.5〜5mmであることを特徴とするものである。
【0020】
ここで、上記の特徴を有した触媒反応器において、前記セパレータの表面に、前記凹凸として、一定間隔をあけて複数の波線状又はジグザグ線状の溝が互いに平行に配置されて形成されており、当該溝の延びる方向が、前記ケーシングの軸方向と平行になるようにして前記セパレータが前記ケーシング内に収容されるように構成してもよい。
【0021】
また、上記の特徴を有した触媒反応器において、前記セパレータの表面に、前記凹凸として、複数の突起が千鳥状に配置されて形成されるように構成してもよい。
【0022】
そして、本発明の触媒反応装置は、上記触媒反応器を用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
エッチングしたアルミニウム箔に微細孔を有する陽極酸化皮膜を形成後、触媒を担持することで、分解性能を低下することなく陽極酸化皮膜を薄くすることができるので、触媒体のコストを低減できる。
触媒体がコルゲートフィンではなく箔状であり、凹凸を形成したセパレータと捲回することで、簡単な構造でも乱流を発生させることができ、効率良く分解することができる。この際、凹凸の高さが0.5mm未満では分解ガスの流れが不十分となり分解効果が悪くなり、5mmを超えると触媒反応器に収納される触媒箔の量が少なくなるため、分解反応場(触媒箔の面積)が減少し、分解効果が悪くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の触媒反応器における最良の形態について、図面を用いて説明する。図1は、本発明の触媒反応器におけるセパレータの好ましい一例の表面状態(ジグザグ線状の溝が形成されている)を示す顕微鏡写真であり、図2は、図1とは異なる本発明の触媒反応器におけるセパレータの好ましい一例の表面状態(半球状の突起が千鳥状に配置されて形成されている)を示す顕微鏡写真である。図3は、本発明の触媒反応器の好ましい外観の一例を示す写真であり、同図(a)は、本発明の触媒反応器の好ましい一例における外観を示す写真で、アルミニウムの陽極酸化皮膜に生成された微細孔に触媒を担持したアルマイト触媒体1と、図1に示される表面に複数のジグザグ線状の溝が形成されたセパレータ2とが一緒に捲回された状態で、円筒状のケーシング3内に収容された構造を有している。ここで、複数のジグザグ線状の溝は、セパレータ2の表面に互いに平行に配置されて形成されており、当該溝の延びる方向が、ケーシング3の軸方向と平行になるようにしてセパレータ2がケーシング3内に収容されている。図3(b)は、同図(a)の触媒反応器を上方から見た時の写真であり、同図(c)は、アルマイト触媒体1とセパレータ2とから成る捲回体をケーシング3から取り出した際の状態を示す写真である。
【0025】
まず最初に、本発明の触媒反応器に使用されるアルマイト触媒体1について説明する。
この触媒体1は、箔状のアルミニウム基材をエッチング処理することによって当該アルミニウム基材の表面にピットを形成した後、さらに陽極酸化処理を行うことによって微細孔を有する皮膜を形成し、少なくとも当該皮膜の微細孔に触媒を担持したものである。このような触媒体1を製造するには、まず最初に、アルミニウム基材に触媒を担持する、微細孔を有する多孔質のアルミニウム皮膜を生成させるために陽極酸化処理を行う。電解処理としての陽極酸化処理は電気量を多量に消費するので、生産工程における生産コスト削減のためには電気量の消費を削減することが必要になるが、そのためには陽極酸化皮膜を薄くすることになる。
【0026】
また、電気量の削減は省エネルギーの観点からも環境保全に非常に望ましい。陽極酸化皮膜を薄くすると、必然的に当該皮膜の微細孔が少なくなり、触媒の担持容量も減少し、触媒担持量が少なくなる。したがって、そのままでは触媒反応性が維持できず、本来の機能である触媒効果が発揮できない。そこで、触媒担持量を削減した状態で、かつ触媒効果を従来と同等以上にすることが本発明の重要な課題である。
【0027】
したがって、陽極酸化皮膜の厚さを従来よりも薄くすること、そして、その薄い陽極酸化皮膜に担持可能な触媒量で、従来と同等以上の触媒効果が発揮できれば、陽極酸化処理コスト、触媒コストの両面でアルマイト触媒体のコスト低減が可能になる。
【0028】
そこでまず、陽極酸化処理に伴う電気量の削減のために、それに伴う陽極酸化皮膜の厚さを薄くすることを検討した。前記のように単純に陽極酸化皮膜を薄くすると当該皮膜に生成する多孔質微細孔の深さが減少する為、触媒が担持される表面積が減少する。そこで、この陽極酸化皮膜の表面積を拡大し、それによって多孔質の微細孔を増加させる方法として、陽極酸化処理に先立ってエッチング処理によるピット形成を検討した。
【0029】
このようなエッチング処理によるピットを形成させ、それをさらに陽極酸化処理をすることによって、陽極酸化皮膜の表面積を増大させることができ、前記の有害ガスと触媒との反応面積が増大することになり、触媒効率が向上することも可能になり、少ない触媒担持量でも従来と同等以上の触媒効率が発揮できる。
【0030】
アルミニウム基板の表面積を拡大するためのエッチング処理は次のようなプロセスで行われる。まず、エッチング処理の前段で、塩素イオンを含む溶液(例えば塩酸溶液)中での電気化学反応によって、アルミニウム基板の表面からトンネルピットを発生させ、後段で、酸性溶液(例えば硝酸溶液)中での化学溶解もしくは中性または酸性溶液中での電気化学反応(電解)によってトンネルピットの径を拡大させる。
【0031】
エッチング処理によってアルミニウム表面積の増大に有効なピット、特にピット深さと平均ピット径はアルミニウムの結晶方位に大きく左右されることが判明した。それはアルミニウム材質として純度が高い材質(例えば99.3%以上)であっても(1,0,0)面の結晶方位占有率が90%以上の材質であることが所望のピット深さとピット径を得るために好ましかった。
つまり、材質の(1,0,0)結晶方位占有率を高くするためにはアルミニウム素材を熱処理することが必要であり、一般的に軟質材(O材)と呼ばれる調質材を使用することが望ましいことが判明した。すなわち、触媒反応性を発揮するために必要なアルミニウム表面積のエッチングピット深さとピット径は、アルミニウムの結晶方位とほぼ関係することが解った。
【0032】
さらに、陽極酸化アルミニウム皮膜を用いた触媒体として、前記の有害ガス等を高効率で少量の触媒担持量でも分解するためには、エッチング処理により形成されるピットの形状は、有害ガスと触媒とが充分接触すること、かつ有害ガスがピットに充分入り込むこと、そして触媒反応で分解されたガスが容易に当該ピットから排出される形状であることが必要な条件であった。そのためには、当該ピットがアルミニウム基板面に垂直方向に形成されていること、さらに当該ピット径が適正に確保されていることが好ましかった。
【0033】
当該ピット径は前出の有害ガスの分解を充分に行うこと、および触媒担持するためのアルミニウムの表面積を確保することを勘案し、当該ピット径の最適範囲が求められる。実験の結果、当該ピット径が0.3μm未満では孔が細すぎて反応ガスの出入が充分ではなく、触媒効率が低下する。他方、当該ピット径が4μm以上の場合は充分な表面積が得られず、触媒担持量が減少し触媒機能が低下する場合があるので望ましくはない。よって、ピット径は0.3μm以上、4μm未満であることが好ましい。
【0034】
このような現象は当該ピットの深さにも関係する。すなわち、エッチング処理によるピット径の深さが適正でなければ、やはり反応ガスの出入が速やかではなくなり、触媒の反応速度の低下や触媒反応効率が低下する。陽極酸化皮膜の触媒担持する表面積を充分に確保するためにはアルミニウム基板からのピット深さは15μm以上であることが好ましかった。
他方、アルミニウム基板のピット深さの最長は、アルミニウム基板の厚さの30〜40%程度が望ましい。この根拠はピット深さがアルミニウム基板の厚さの40%を超えるとアルミニウム基板の強度が不足し、破壊しやすくなったことによるものである。
【0035】
アルミニウムの陽極酸化処理によって形成されたアルマイト皮膜はそこに生成した多孔質微細孔に微細な粒子の触媒をより多く、かつ強固に担持させることが可能である。このアルミニウムの陽極酸化処理は次のようなプロセスで行われる。陽極酸化の電解浴は酸性浴のみならず、アルカリ浴、あるいはホルムアルデヒドと硼酸系の非水浴によっても多孔質皮膜を形成することができる。
陽極酸化処理の酸性電解浴としては、燐酸、硫酸、蓚酸、クロム酸、スルフォサルチル酸、ピロリン酸、スルファミン酸、リンモリブデン酸、硼酸、マロン酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、フタル酸、イタコン酸、リンゴ酸、グリコール酸等のうち1種類以上を溶解した水溶液である。
【0036】
この酸性浴における電解方法は定電流、定電圧、定電力、および連続、断続あるいは電流回復などを応用した高速アルマイト法などである。さらに電解時の電流波形は直流、交流、交直重畳、交直併用、不完全整流波形、パルス波形、三角波形、あるいは周期波形等が用いられる。
他方、アルカリ電解浴としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、燐酸ナトリウム、燐酸カリウム、アンモニア水等のうち1種類以上を溶解した水溶液である。アルカリ電解用の場合も電解方法、電流波形は酸性電解浴の場合と同様である。
【0037】
本発明では、エッチング処理によるピットの形成と陽極酸化皮膜の形成とを併用することによってアルミニウム基板の陽極酸化皮膜の表面積を増大することができる。すなわち、エッチング処理によるピットのマクロポアの中に陽極酸化処理による皮膜に生成された多孔質微細孔のミクロポアが存在して、表面積が増大するものである。
このようにアルミニウム基板にエッチング処理によるマクロポアと陽極酸化処理によるミクロポアとを形成させた場合には、そのミクロポアの総表面積は陽極酸化皮膜のみの微細孔の表面積に比べて、10〜100倍に増大することになる。すなわち、アルミニウム基板の陽極酸化皮膜の厚さはエッチング処理によるピット形成によって表面積が増大する分だけ薄くできることになる。
例えば、従来のアルマイト触媒体の陽極酸化皮膜の厚さは40μm〜50μmであった。これに対し、本発明によれば、ミクロポアの総表面積を陽極酸化皮膜のみの微細孔の表面積に比べて、10〜100倍に増大することができるため、陽極酸化皮膜の厚さを従来の陽極酸化皮膜の厚さの1/10〜1/100にすることが可能である。したがって、本発明によれば、陽極酸化皮膜の厚さを5μm以下、好ましくは0.8μm程度とすることにより、陽極酸化処理に要する電気量を低減し、処理コストを削減することができる。
【0038】
次に、陽極酸化皮膜の微細孔に担持する触媒とその担持方法は次のとおりである。脱臭、揮発性有機化合物、自動車排気ガス等の有害ガス分解処理に適用できる触媒はパラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、コバルト、鉄、銅、亜鉛、金、銀、レニウム、マンガン、および錫、またはこれらの合金もしくは混合物のいずれかである。
これらの触媒、たとえば、白金触媒の場合には、塩化白金酸にアルミニウム基板を低圧で含浸させることによって担持させる。このような触媒担持は、その他に、加圧含浸、減圧含浸、ゾルゲル法、電気泳動法等々により行われる。
なお、この場合に触媒金属の粒子径が1〜4nmであるので、陽極酸化皮膜に生成した微細孔の径は0.005〜0.1μmであることが必要である。
【0039】
このような触媒担持方法によって、本発明の陽極酸化皮膜は、従来の陽極酸化皮膜の1/10〜1/100倍の厚さであっても高い分解能力を有する。
【0040】
これは、触媒が有害ガスと接触する接触面積、すなわち、触媒と有害ガスとの反応点が陽極酸化皮膜の表面積増大と共に増加するので、触媒の反応効率が向上するためと考えられる。
さらに、陽極酸化皮膜が薄くなることによって、そこに生成した微細孔は皮膜の表層部に存在するので、皮膜の深さ方向の下層に触媒が担持される量は少なくなる、すなわち、陽極酸化皮膜の下層に担持された触媒は有害ガスとの接触が非常に少なく、分解反応への寄与は小さいものであるので、このような触媒が減少することにより、触媒のより有効な使用が可能になると考えられる。
【0041】
従来のアルミニウム基材に陽極酸化皮膜のみのアルマイト触媒体における触媒担持量が平均的に0.5g/mであるのに対して、本発明の触媒反応器における触媒体では、0.3g/mの触媒担持量であっても、従来のアルマイト触媒体とほぼ同等の触媒効果を示し、その分だけ材料費のコスト低減が可能である。
【0042】
本発明では、前述の方法によって、製造コストと触媒コストを合わせると約40%のコスト低減が可能になる。かつ、陽極酸化処理や触媒担持処理時間の短縮による電気量の省エネルギー、そして、エッチング処理(ピット)と陽極酸化皮膜(多孔質微細孔)による表面積の増大で触媒担持カの増強なども可能になり、実用的に優れた触媒体が得られるため、前記のVOCガスの分解処理装置の普及に資する。
【0043】
本発明におけるアルマイト触媒体の最良の形態は、アルミニウム表面における(1,0,0)面の結晶方位占有率が90%以上で、厚さ110μmのアルミニウム基板をエッチング処理し、エッチングピット深さ30μm、ピット孔径2μmで、そのエッチング処理したアルミニウム基板を陽極酸化した皮膜の厚さが0.8μmで、そこに生成した微細孔の径が0.03μm、担持した触媒量が0.3g/mであるアルマイト触媒体である。
【0044】
一方、本発明の触媒反応器におけるセパレータは、処理対象ガスに乱流を発生させることが可能な表面凹凸を有するものであれば良いが、好ましいセパレータとしては、シート状のアルミニウム基材の表面に、図1に示されるようなジグザグ線状の溝が形成されたものや図2に示されるような半球状の突起が千鳥状に配置されたものが挙げられる。しかしながら、セパレータ表面の凹凸形状は、これらに限定されるものではない。例えば、ぎざぎざに屈曲したジグザグ線状の溝に代えて滑らかに屈曲した波線状の溝をセパレータ表面に形成してもよい。また、半球状の突起に限らず、ドーム状や柱状の突起をセパレータ表面に形成してもよい。なお、セパレータの表面に凹凸を形成させる方法としては、雄型ロールと雌型ロールを用いた連続プレス加工が好適であるが、凹凸形成方法も、これに限定されるものではない。
【0045】
本発明の触媒反応器の具体的な実施形態を実施例により説明する。ただし、本発明はこれら実施例によって、何らの制限を受けるものではない。
【実施例】
【0046】
〔実施例1〕
触媒を担持する純度99.99%、(1,0,0)結晶方位占有率95%のアルミニウム箔をエッチング浴温80℃、5wt%塩酸+20wt%硫酸の浴で電流密度0.20A/cmで50秒間電解し、次に、エッチング浴温80℃、5wt%硝酸浴で電流密度0.10A/cmで500秒間、いずれも直流で電解した。得られたエッチング箔を測定した結果、ピットはアルミニウム箔表面からほぼ垂直に形成され、エッチング深さが片面約30μm、平均ピット径が2.0μmのアルミニウム板を得た。その後、このエッチング処理したアルミニウム板を浴温25℃で燐酸濃度7wt%の水溶液中で直流により電流密度0.07A/cmで1,430秒間電解した。その結果、陽極酸化皮膜の厚さが0.8μm、微細孔径が平均0.03μmの陽極酸化皮膜が生成していることを確認した。このエッチング処理および陽極酸化処理をしたアルミニウム板を塩化白金酸に定圧で浸漬し、白金を担持してアルマイト触媒を得た。この場合の触媒担持量は、0.3g/mであった。この触媒箔を、凹凸高さが0.3mmのセパレータ(図2と同様に半球状の突起が千鳥状に配置された、厚さ100μmのAl)と共に巻回し、円筒状のアルミニウムケースに入れ、本発明の触媒反応器を作製した。
【0047】
〔実施例2〕
実施例1と同様に触媒箔を作製し、凹凸高さが0.5mmのセパレータ(図2と同様に半球状の突起が千鳥状に配置された、厚さ100μmのAl)と巻回し、実施例1と同様の円筒状ケースに入れ、本発明の触媒反応器を作製した。
【0048】
〔実施例3〕
実施例1と同様に触媒箔を作製し、凹凸高さが1.0mmのセパレータ(図1に示される波形の表面凹凸形状を有する厚さ100μmのAl)と巻回し、実施例1と同様の円筒状ケースに入れ、本発明の触媒反応器を作製した。
【0049】
〔実施例4〕
実施例1と同様に触媒箔を作製し、凹凸高さが2.0mmのセパレータ(図2に示される表面凹凸形状を有する厚さ100μmのAl)と巻回し、実施例1と同様の円筒状ケースに入れ、本発明の触媒反応器を作製した。
【0050】
〔実施例5〕
実施例1と同様に触媒箔を作製し、凹凸高さが5.0mmのセパレータ(図2と同様に半球状の突起が千鳥状に配置された、厚さ100μmのAl)と巻回し、実施例1と同様の円筒状ケースに入れ、本発明の触媒反応器を作製した。
【0051】
〔実施例6〕
実施例1と同様に触媒箔を作製し、凹凸高さが6.0mmのセパレータ(図2と同様に半球状の突起が千鳥状に配置された、厚さ100μmのAl)と巻回し、実施例1と同様の円筒状ケースに入れ、本発明の触媒反応器を作製した。
【0052】
〔従来例1〕
実施例1と同様に触媒箔を作製し、セパレータを入れずに、触媒箔をそのまま巻回し、ケース内の空間が少なくなるようにして実施例1と同様の円筒状ケースに入れ、触媒反応器(比較品)を作製した。
【0053】
〔従来例2〕
実施例1と同様に触媒箔を作製し、セパレータを入れずに、触媒箔をそのまま巻回し、前記従来例1よりもケース内の空間が多くなるようにして実施例1と同様の円筒状ケースに入れ、触媒反応器(比較品)を作製した。
【0054】
上記実施例1〜6及び従来例1〜2の触媒反応器を触媒反応装置に順次取り付け、揮発性有機化合物(VOC)であるトルエンの触媒分解率を測定した。
なお、処理を行うトルエンガスの濃度は約500ppmとし、反応温度(入口ガスの温度)は230℃とし、入口トルエン濃度と出口トルエン濃度はガスクロマトグラフィーにより決定した。
その結果を、以下の表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
上記表1の実験結果から、セパレータの凹凸高さが0.3mm(実施例1)では、圧力損失が大きいため、処理ガス量を高くすると、ピット内のガスの出入りが不十分になり、分解率が不十分となる傾向があり、又、セパレータの凹凸高さが6.0mm(実施例6)では、圧力損失はほとんどないが、触媒箔の面積が少なくなり分解反応場が減少するため、分解率が不十分となる傾向がある。そして、セパレータの凹凸高さが0.5〜5.0mm(実施例2〜5)の場合には、良好なトルエン分解能力が得られ、特にセパレータの凹凸高さが1.0〜2.0mm(実施例3及び4)の場合には、SV値を高くしてもトルエン分解率はほとんど低下しないことがわかった。実施例4の場合、アルミニウム箔触媒の面積が小さいにもかかわらず、実施例3のものよりもトルエン分解率が約10%向上したことから、半球状の突起が千鳥状に配置された凹凸形状により、反応ガスが触媒に効率よく接触したことが示唆された。
これに対して、セパレータなし(従来例1)では、ケース内の空間が少なく、圧力損失が大きくなるため、処理ガス量(SV値)の増大とともに分解能力が悪化し、30000h−1ではあまり効果がないことがわかった。又、触媒箔の面積を従来例3と同じにし、ケース内の空間を多くした従来例2は、セパレータなしで電極間に均等に十分な空間を確保することができないため、分解能力が低下した。
【0057】
本発明の触媒反応器において使用されている箔使用の触媒は、シート状で皮膜厚みが薄いためにしなやかであり、加工性に富んでおり、酸化皮膜生成電気量も削減でき、触媒量の低減も図ることができる。又、薄い箔状であるために、装置の軽量化にも寄与できる。
そして、さらに表面に凹凸が形成されたセパレータと重ねて一緒に捲回することにより、乱流を発生させて有害ガスの滞留時間、すなわち触媒とガスの接触時間を増やすことができるので、より分解効率を高めることができる。
従って、本発明の触媒反応器を使用することによって、各種有害ガス、特に揮発性有磯化合物を含むVOCガスを効率良く除去することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の触媒反応器におけるセパレータの好ましい一例の表面状態(波形の凹凸が形成されている)を示す顕微鏡写真である。
【図2】図1とは異なる本発明の触媒反応器におけるセパレータの好ましい一例の表面状態(半球状の凹凸が千鳥配置されている)を示す顕微鏡写真である。
【図3】本発明の触媒反応器の好ましい外観の一例を示す写真であり、(a)は、本発明の触媒反応器の好ましい一例における外観を示す写真、(b)は、(a)の触媒反応器を上方から見た時の写真、(c)は、アルマイト触媒体1とセパレータ2とから成る捲回体をケーシング3から取り出した際の状態を示す写真である。
【符号の説明】
【0059】
1 アルマイト触媒体
2 セパレータ
3 ケーシング(円筒状ケース)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒を担持した箔状のアルミニウム基材からなる触媒体と、表面に凹凸が形成されたセパレータとが一緒に捲回された状態で、実質的に円筒状のケーシング内に収容された構造を有しており、前記の箔状アルミニウム基材の表面には、エッチング処理によってピットが形成されており、当該ピットの表面には、さらに陽極酸化処理によって微細孔を有する陽極酸化皮膜が形成されており、少なくとも当該陽極酸化皮膜の微細孔に触媒が担持されていることを特徴とする触媒反応器。
【請求項2】
前記ピットが、深さが15μm以上で、径が0.3μm以上であり、当該アルミニウム基材の表面に対してほぼ垂直なピットであることを特徴とする請求項1に記載の触媒反応器。
【請求項3】
前記陽極酸化皮膜の厚さが5μm以下であり、当該陽極酸化皮膜に形成された微細孔の径が0.005μm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の触媒反応器。
【請求項4】
前記陽極酸化皮膜に形成された微細孔に、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、コバルト、鉄、銅、亜鉛、金、銀、レニウム、マンガン、および錫、またはこれらの合金もしくは混合物のいずれかからなる触媒が担持されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の触媒反応器。
【請求項5】
前記セパレータの表面に形成された凹凸高さが0.5〜5mmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の触媒反応器。
【請求項6】
前記セパレータの表面に、前記凹凸として、一定間隔をあけて複数の波線状又はジグザグ線状の溝が互いに平行に配置されて形成されており、当該溝の延びる方向が、前記ケーシングの軸方向と平行になるようにして前記セパレータが前記ケーシング内に収容されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の触媒反応器。
【請求項7】
前記セパレータの表面に、前記凹凸として、複数の突起が千鳥状に配置されて形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の触媒反応器。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の触媒反応器を用いたことを特徴とする触媒反応装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−154048(P2009−154048A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332094(P2007−332094)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(305045449)株式会社 アルマイト触媒研究所 (4)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)
【Fターム(参考)】