説明

記録装置及びキャリッジ速度予測方法

【課題】 キャリッジ移動速度が低速であってもより正確にキャリッジ速度を予測することができる記録装置とキャリッジ速度予測方法とを提供することである。
【解決手段】 キャリッジの移動方向に沿って設けられ、所定の等間隔でスリットが設けられたスケールからキャリッジと共に移動するエンコーダを用いて、そのスケールのスリットを読み取ってキャリッジの位置を検出し、エンコーダがそのスリットを読み取った直後に得られる検出信号の立上がり時間と立下り時間との内、少なくともいずれかの時間からキャリッジの速度を予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は記録装置及びキャリッジ速度予測方法に関し、特に、例えば、インクジェット記録ヘッドをキャリッジに搭載したシリアル記録を行う記録装置及びキャリッジ速度予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のシリアル記録装置では機構系の駆動源として、その制御の容易さからパルスモータが用いられてきた。この場合、目的とする位置での停止はモータに加えるパルス数で制御でき、そのスピードはパルスの周期で制御できる。また動作音の低減のため、モータに流れる電流をマイクロステップ等の手法を用いて正弦波状にするなどしている。
【0003】
近年になり、より動作音の低減が求められるようになり、駆動源としてパルスモータからDCモータへ移行が進んでいる。しかし、DCモータを使用する場合にはパルスモータを使用する場合のようなデジタル的な制御は行えずアナログ制御を行う必要がなる。
【0004】
例えば、記録ヘッドを搭載したキャリッジの駆動制御では、キャリッジの移動方向に沿って設けられたスケールのスリットをキャリッジに搭載したエンコーダにより読取り、その結果得られたエンコーダ信号などを基にして、キャリッジの位置と速度を求め、目標とする速度と位置と比較し合わせながら印加すべきDCモータに印加する電圧を決定する。
【0005】
さて、上述のスケールには一定間隔でスリットが設けらており、スリット通過数、及び単位時間あたりのスリットの通過数で、キャリッジの位置と速度を知ることができる。また、その位置と速度を検出するときは、得られた二つの相をもつエンコーダ信号の内、片方の相を用い、そのときのもう片方の相のレベルでキャリッジの移動方向を知るようにしている。相の検出は相の片側のエッジを用いる。
【0006】
しかしなから、このような方法ではキャリッジ停止直前の低速時にはスリットから次のスリットまでの移動時間が長くなり、位置情報及び速度情報の更新頻度が低下することにより、位置・速度検出の精度が低下する。
【0007】
この問題の対策として、従来より次のような技術が知られている。
【0008】
即ち、エンコーダ信号の両相各々の立上がり・立下りの両エッジを用いて、次々と発生するエッジ間隔を逐次記録し、現在にもっとも近いデータと過去3回のデータの合計からキャリッジ速度を求める。なお、現在にもっとも近いデータと過去3回のデータの合計は、従来の手法でのエンコーダの1周期分に相当する。このようにして、通常の検出に要した時間の1/4の時間ごとに情報が更新されるため、精度向上が期待できる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−219613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら上記従来例でも依然として次のような問題点がある。
【0010】
即ち、ある時点で得られる速度情報は、その情報を得る直前にキャリッジ(即ち、エンコーダ)が通過するスリットともう1つ前のスリットとの間の移動時間に基づいて求めているので、このデータを用いて制御を決定する時にはエンコーダ周期の1/4以上の時間が経過した後となり、キャリッジ低速時の特に、キャリッジの加減速中は検出誤差が大きくなる。
【0011】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたもので、キャリッジ移動速度が低速であってもより正確にキャリッジ速度を予測することができる記録装置とキャリッジ速度予測方法とを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明の記録装置は、以下のような構成からなる。
【0013】
即ち、記録ヘッドを搭載したキャリッジをキャリッジモータの駆動力により往復移動させて記録媒体に記録を行なう記録装置であって、前記キャリッジの移動方向に沿って設けられ、所定の等間隔でスリットが設けられたスケールと、前記キャリッジに装着され前記キャリッジと共に移動し、前記スケールのスリットを読み取ってキャリッジの位置を検出するエンコーダと、前記エンコーダが前記スリットを読み取った直後に得られる検出信号の立上がり時間と立下り時間との内、少なくともいずれかの時間から前記キャリッジの速度を予測する予測手段とを有することを特徴とする。
【0014】
前記スリットはキャリッジ方向に2列設けられ、それら2列のスリットは前記エンコーダが位相が90度異なる2つの検出信号を発生するように、互いに対してずらされていることが好ましい。
【0015】
また、前記キャリッジモータはDCモータであることが好ましい。
【0016】
さらに、前記予測手段は、90度位相の異なる2つの検出信号各々の立上がり時間と立下り時間とからその検出信号の1周期当たり4回のキャリッジ速度の予測を行うことが望ましい。
【0017】
またさらに、前記予測手段によって予測された予測速度と前記エンコーダによって検出されたキャリッジ位置とに基づいてキャリッジモータの駆動を制御する制御手段を備えることが望ましい。
【0018】
なお、前記予測手段は、前記検出信号と第1の閾値とを比較する第1の比較手段と、その検出信号と第1の閾値より大きな値の第2の閾値とを比較する第2の比較手段と、これら第1及び第2の比較手段夫々による比較結果に基づいて、前記立上がり時間と前記立下り時間とを決定する決定手段と、第1の比較手段による比較結果から決定された前記立上がり時間と立下り時間とを判別する判別手段とを備えることが望ましい。
【0019】
さらに、その予測手段は、立上がり時間と立下り時間を比較する参照値を格納したテーブルを備え、そのテーブルの参照値と立上がり時間或いは立下り時間との比較からキャリッジの移動速度を予測することが望ましい。
【0020】
前記記録ヘッドは、インクを吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッドでも良く、そのインクジェット記録ヘッドは、熱エネルギーを利用してインクを吐出するために、インクに与える熱エネルギーを発生するための電気熱変換体を備えていることがより好ましい。
【0021】
また他の発明に従えば、記録ヘッドを搭載したキャリッジをキャリッジモータの駆動力により往復移動させて記録媒体に記録を行なう記録装置で用いるキャリッジ駆動制御方法であって、前記キャリッジの移動方向に沿って設けられ、所定の等間隔でスリットが設けられたスケールから、前記キャリッジと共に移動するエンコーダを用い、前記スケールのスリットを読み取ってキャリッジの位置を検出する検出工程と、前記エンコーダが前記スリットを読み取った直後に得られる検出信号の立上がり時間と立下り時間との内、少なくともいずれかの時間から前記キャリッジの速度を予測する予測工程とを有することを特徴とするキャリッジ速度予測方法を備える。
【発明の効果】
【0022】
従って本発明によれば、エンコーダがスリットを読み取った直後に得られる検出信号の立上がり時間と立下り時間との内、少なくともいずれかの時間からキャリッジ速度を予測するので、キャリッジの現時点に最も近いエンコーダからの検出信号に基づいた速度予測が可能となるという効果がある。従って、キャリッジが低速での加減速中においてもより精度の高い速度予測が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下添付図面を参照して本発明の好適な実施例について、さらに具体的かつ詳細に説明する。
【0024】
なお、この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0025】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0026】
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきもので、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【0027】
またさらに、「ノズル」とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
【0028】
<インクジェット記録装置の説明(図1)>
図1は本発明の代表的な実施形態であるインクジェット記録装置の構成の概要を示す外観斜視図である。
【0029】
図1に示すように、インクジェット記録装置(以下、記録装置という)は、インクジェット方式に従ってインクを吐出して記録を行なう記録ヘッド3を搭載したキャリッジ2にキャリッジモータM1によって発生する駆動力を伝達機構4より伝え、キャリッジ2を矢印A方向に往復移動させるとともに、例えば、記録紙などの記録媒体Pを給紙機構5を介して給紙し、記録位置まで搬送し、その記録位置において記録ヘッド3から記録媒体Pにインクを吐出することで記録を行なう。
【0030】
また、記録ヘッド3の状態を良好に維持するためにキャリッジ2を回復装置10の位置まで移動させ、間欠的に記録ヘッド3の吐出回復処理を行う。
【0031】
記録装置1のキャリッジ2には記録ヘッド3を搭載するのみならず、記録ヘッド3に供給するインクを貯留するインクカートリッジ6を装着する。インクカートリッジ6はキャリッジ2に対して着脱自在になっている。
【0032】
図1に示した記録装置はカラー記録が可能であり、そのためにキャリッジ2にはマゼンタ(M)、シアン(C)、イエロ(Y)、ブラック(K)のインクを夫々、収容した4つのインクカートリッジを搭載している。これら4つのインクカートリッジは夫々独立に着脱可能である。
【0033】
さて、キャリッジ2と記録ヘッド3とは、両部材の接合面が適正に接触されて所要の電気的接続を達成維持できるようになっている。記録ヘッド3は、記録信号に応じてエネルギーを印加することにより、複数の吐出口からインクを選択的に吐出して記録する。特に、この実施形態の記録ヘッド3は、熱エネルギーを利用してインクを吐出するインクジェット方式を採用し、熱エネルギーを発生するために電気熱変換体を備え、その電気熱変換体に印加される電気エネルギーが熱エネルギーへと変換され、その熱エネルギーをインクに与えることにより生じる膜沸騰による気泡の成長、収縮によって生じる圧力変化を利用して、吐出口よりインクを吐出させる。この電気熱変換体は各吐出口のそれぞれに対応して設けられ、記録信号に応じて対応する電気熱変換体にパルス電圧を印加することによって対応する吐出口からインクを吐出する。
【0034】
図1に示されているように、キャリッジ2はキャリッジモータM1の駆動力を伝達する伝達機構4の駆動ベルト7の一部に連結されており、ガイドシャフト13に沿って矢印A方向に摺動自在に案内支持されるようになっている。従って、キャリッジ2は、キャリッジモータM1の正転及び逆転によってガイドシャフト13に沿って往復移動する。また、キャリッジ2の移動方向(矢印A方向)に沿ってキャリッジ2の絶対位置を示すためのスケール8が備えられている。この実施形態では、スケール8は透明なPETフィルムに必要なピッチで黒色のバー(スリット)を印刷したものを用いており、その一方はシャーシ9に固着され、他方は板バネ(不図示)で支持されている。そして、キャリッジ2にはスケール8のスリットを読み取るためのエンコーダ(不図示)が設けられている。
【0035】
なお、そのスリットはキャリッジ移動方向に沿って上下2列のスリットからなり、それら2列のスリットは90度異なる位相(A相、B相)のエンコーダ信号を発生するために、そのスリット位置がすらされている。
【0036】
また、記録装置には、記録ヘッド3の吐出口(不図示)が形成された吐出口面に対向してプラテン(不図示)が設けられており、キャリッジモータM1の駆動力によって記録ヘッド3を搭載したキャリッジ2が往復移動されると同時に、記録ヘッド3に記録信号を与えてインクを吐出することによって、プラテン上に搬送された記録媒体Pの全幅にわたって記録が行われる。
【0037】
さらに、図1において、14は記録媒体Pを搬送するために搬送モータM2によって駆動される搬送ローラ、15はバネ(不図示)により記録媒体Pを搬送ローラ14に当接するピンチローラ、16はピンチローラ15を回転自在に支持するピンチローラホルダ、17は搬送ローラ14の一端に固着された搬送ローラギアである。そして、搬送ローラギア17に中間ギア(不図示)を介して伝達された搬送モータM2の回転により、搬送ローラ14が駆動される。
【0038】
またさらに、20は記録ヘッド3によって画像が形成された記録媒体Pを記録装置外ヘ排出するための排出ローラであり、搬送モータM2の回転が伝達されることで駆動されるようになっている。なお、排出ローラ20は記録媒体Pをバネ(不図示)により圧接する拍車ローラ(不図示)により当接する。22は拍車ローラを回転自在に支持する拍車ホルダである。
【0039】
またさらに、記録装置には、図1に示されているように、記録ヘッド3を搭載するキャリッジ2の記録動作のための往復運動の範囲外(記録領域外)の所望位置(例えば、ホームポジションに対応する位置)に、記録ヘッド3の吐出不良を回復するための回復装置10が配設されている。
【0040】
回復装置10は、記録ヘッド3の吐出口面をキャッピングするキャッピング機構11と記録ヘッド3の吐出口面をクリーニングするワイピング機構12を備えており、キャッピング機構11による吐出口面のキャッピングに連動して回復装置内の吸引手段(吸引ポンプ等)により吐出口からインクを強制的に排出させ、それによって、記録ヘッド3のインク流路内の粘度の増したインクや気泡等を除去するなどの吐出回復処理を行う。
【0041】
また、非記録動作時等には、記録ヘッド3の吐出口面をキャッピング機構11によるキャッピングすることによって、記録ヘッド3を保護するとともにインクの蒸発や乾燥を防止することができる。一方、ワイピング機構12はキャッピング機構11の近傍に配され、記録ヘッド3の吐出口面に付着したインク液滴を拭き取るようになっている。
【0042】
これらキャッピング機構11及びワイピング機構12により、記録ヘッド3のインク吐出状態を正常に保つことが可能となっている。
【0043】
この実施例では、キャリッジモータM1としてDCモータを採用している。
【0044】
<インクジェット記録装置の制御構成(図2)>
図2は図1に示した記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【0045】
図2に示すように、コントローラ600は、MPU601、後述する制御シーケンスに対応したプログラム、所要のテーブル、その他の固定データを格納したROM602、キャリッジモータM1の制御、搬送モータM2の制御、及び、記録ヘッド3の制御のための制御信号を生成する特殊用途集積回路(ASIC)603、画像データの展開領域やプログラム実行のための作業用領域等を設けたRAM604、MPU601、ASIC603、RAM604を相互に接続してデータの授受を行うシステムバス605、以下に説明するセンサ群からのアナログ信号を入力してA/D変換し、デジタル信号をMPU601に供給するA/D変換器606などで構成される。
【0046】
また、図2において、610は画像データの供給源となるコンピュータ(或いは、画像読取り用のリーダやデジタルカメラなど)でありホスト装置と総称される。ホスト装置610と記録装置1との間ではインタフェース(I/F)611を介して画像データ、コマンド、ステータス信号等を送受信する。
【0047】
さらに、620はスイッチ群であり、電源スイッチ621、プリント開始を指令するためのプリントスイッチ622、及び記録ヘッド3のインク吐出性能を良好な状態に維持するための処理(回復処理)の起動を指示するための回復スイッチ623など、操作者による指令入力を受けるためのスイッチから構成される。630はホームポジションhを検出するためのフォトカプラなどの位置センサ631、環境温度を検出するために記録装置の適宜の箇所に設けられた温度センサ632等から構成される装置状態を検出するためのセンサ群である。
【0048】
さらに、640はキャリッジ2を矢印A方向に往復走査させるためのキャリッジモータM1を駆動させるキャリッジモータドライバ、642は記録媒体Pを搬送するための搬送モータM2を駆動させる搬送モータドライバである。
【0049】
ASIC603は、記録ヘッド3による記録走査の際に、RAM602の記憶領域に直接アクセスしながら記録ヘッドに対して記録素子(吐出ヒータ)の駆動データ(DATA)を転送する。
【0050】
キャリッジ2に装着されているエンコーダ2aからのエンコーダ信号は位置検出機構641を経てコントローラ600のMPU601へと転送される。
【0051】
図3は位置検出機構641の詳細な構成とその周辺部の制御構成を示すブロック図である。
【0052】
図3に示すように、位置検出機構641は、エンコーダ2aからのエンコーダ信号の立上がり時間(tr)及び立下り時間(tf)を測定するtr、tf測定部641aと、tr時間とtf時間からキャリッジ速度へ変換する速度変換部641c、エンコーダ信号に基づいてスケール8のスリット数をカウントしてキャリッジ位置を検出する位置検出部641bとから構成されている。そして、検出されたキャリッジ速度とキャリッジ位置とはMPU601へと出力される。
【0053】
ここで、この実施例に従うキャリッジ速度・位置検出について、従来の検出方法と比較しながら説明する。
【0054】
図4はキャリッジ速度・位置検出の概略を示す信号タイムチャートである。ここで、図4(a)は従来例の概略を、図4(b)はこの実施例の概略を示している。
【0055】
まず従来例について説明する。
【0056】
図4(a)にはエンコーダ出力信号であるA相及びB相と、速度情報が更新される様子が図示されている。図4(a)から分かるように、A相の立ち上がりからA相の次の立上がりまでを360度とすると、B相の信号は位相が90度遅れている。
【0057】
従来は、A相及びB相の両方の信号の立上がり及び立下りの全ての変化点の各々について、それぞれの間隔を測定し、エンコーダの1周期の1/4毎に位置・速度情報を求めていた。速度情報に関しては、最新の情報とその前の連続した過去3回分の情報を合わせることでエンコーダの1周期分の情報としていた。そして、A相或いはB相の出力信号のデューティが異なる場合などは、必要に応じて最適な手法で速度情報を求めていた。なお、ある時点で得られている速度情報は位相が90度前の情報、即ち、直前のスリットともう1つ前のスリットとの間の移動時間を基に求めたものであり、特にキャリッジが低速で加減速中は検出誤差が大きくなる可能性がある。
【0058】
次にこの実施例の概略を説明する。
【0059】
図4(b)にも同様にエンコーダ出力信号であるA相及びB相と、速度情報が更新される様子が図示されている。さて、従来例では各相の変化点間の時間を測定することで速度を予測していたが、この実施例では各変化点での波形の立上がり時間、或いは立下り時間から速度を予測する。この方法では、ある時点の速度情報は直前の変化点の情報から求められており、従来例よりも時間的な誤差が少ないので、キャリッジが低速で加減速中の速度予測に有効である。
【0060】
ここで、この実施例に従うtr、tf測定部641aの構成とエンコーダ信号の立上がり時間(tr)と立下り時間(tf)を求める手順の概略を説明する。
【0061】
図5はエンコーダ信号の立上がり時間(tr)と立下り時間(tf)の算出に関係する信号のタイムチャートである。
【0062】
図5(a)はエンコーダ波形を表しており、HレベルとLレベルの閾値として90%レベルと10%レベルの位置を記してある。図5(b)は図5(a)で示したエンコーダ波形がHレベル以上であるか、或いはLレベル以上であるかを示す信号であり、エンコーダ信号がLレベル以上にある区間を示す信号をLevel10といい、Hレベル以上にある区間を示す信号をLevel90という。
【0063】
この実施例では2つ信号Level10とLevel90の排他的論理和をとることでエンコーダ信号の立上がり時間(tr)と立下り時間(tf)の期間とを求めている。また、この実施例では、立上がり時間(tr)或いは立下り時間(tf)の期間へ入る直前の信号Level10をモニタしておくことで、その期間が立上がり時間(tr)の期間(tr期間)であるか或いは立下り時間(tf)の期間(tf期間)であるかの判別を行っている。
【0064】
図5(c)はtr期間或いはtf期間の時間を測定する様子を示している。
【0065】
図5(b)に示した2つ信号(Level10、Level90)からtr期間とtf期間を判別できるので、その期間だけカウンタを動作させ、その期間が終了したらカウンタを停止させそのときの値をラッチする。従って、そのカウンタ出力(counter)がtr期間とtf期間となり、その結果はtr期間が終了直後にtr信号として、また、tf期間が終了直後にtf信号として出力される。
【0066】
図6は2つ信号(Level10、Level90)を測定するために用いる回路の概略を示す図である。
【0067】
図6には2つのコンパレータ671、672が図示されており、コンパレータ671には信号Level10の閾値信号(Vref10)が入力され、コンパレータ672には信号Level90の閾値信号(Vref90)が入力されている。また、エンコーダ信号は両方のコンパレータに入力されている。即ち、エンコーダ信号がVref10に達すれば制御信号Level10がアクティブになり、Vref90に達すれば制御信号Level90がアクティブとなる。
【0068】
次に、tr時間とtf時間からキャリッジ速度を求めるキャリッジ速度変換部641cの動作について説明する。
【0069】
図7はtr期間或いはtf期間からキャリッジ速度を判定する手順の概略を示す信号タイムチャートである。
【0070】
この実施例ではキャリッジ速度を求めるために変換テーブルを用いる。
【0071】
即ち、エンコーダ信号のA相、B相の各々の変換点において、得られたtr期間或いはtf期間を予めROMなどの記憶領域内に記録されている変換テーブルと比較して、随時速度へ変換する。図7に示す例ではROM内に記憶されているテーブルを参照して、Tref0≦tr<Tref1であれば、キャリッジ速度(v)はv=V0と判断し、Tref1≦tr<Tref2ならv=V1、Tref2≦tr<Tref3なら、v=V2としている。
【0072】
なお、変換テーブルは、A相用、B相用、tr用、tf用などの様に適宜分けても制御は同様である。
【0073】
図7に示す例では、A相のエンコーダ信号から得られるtr期間を時間順にtra1、tra2、……と表記し、B相のエンコーダ信号から得られるtr期間を時間順にtrb1、trb2、……と表記し、A相のエンコーダ信号から得られるtf期間を時間順にtfa1、tfa2、……と表記し、B相のエンコーダ信号から得られるtf期間を時間順にtfb1、tfb2、……と表記している。
【0074】
また、図7には、参考例として、ある時点のエンコーダ信号の立上がりと立下りと、位相が90度異なるエンコーダ信号の立上がりと立下りの間の夫々の移動時間に基づいて速度情報を得る従来の方法で用いる移動時間を時間順に、Vra1、Vrb1、Vfa1、Vfb1、Vra2、Vrb2……として示している。
【0075】
これらの比較からもこの実施例では、従来のものと比較してよりリアルタイム的にキャリッジ速度が求められることが分かる。
【0076】
図8はキャリッジ速度検出のタイミングを示す図である。
【0077】
図8において、AtrはA相のエンコーダ信号の立上がりを検出する信号、BtrはB相のエンコーダ信号の立上がりを検出する信号、AtfはA相のエンコーダ信号の立下がりを検出する信号、BtfはB相のエンコーダ信号の立下がりを検出する信号であり、これらの信号により、A、B両相のエンコーダ信号の各々の変換点が分かる。
【0078】
従って、この実施例では、A・B両相のエンコーダ信号各々の変換点で、その時点でのキャリッジ速度(Vexp)をほぼリアルタイム的に求めることができ、MPU101へは随時新しい速度情報を転送更新することで、従来よりもエンコーダ信号の1/4周期分早く速度情報が得られる。
【0079】
図9はこの実施例に従うキャリッジ駆動制御処理を示すフローチャートである。
【0080】
まず、ステップS702では、エンコーダ信号からキャリッジ位置を検出する。
【0081】
次のステップS703ではキャリッジ2が目標とする位置に到達しているかどうかを調べる。ここで、既にキャリッジ2が目標位置に達していると判断されたなら、処理はステップS710に進む、キャリッジ2を停止をして、一連の制御を終了する。これに対して、キャリッジ2が目標位置に達していないと判断されたならば、処理はステップS704に進む。
【0082】
ステップS704では、上述した方法に従ってエンコーダ信号の立上がり時間(tr)、或いは立下り時間(tf)を測定し、次に、変換テーブルを用いて立上がり時間(tr)或いは立下り時間(tf)からキャリッジ速度を求める。
【0083】
即ち、ステップS705で変数(n)を初期化し(n=0)、ステップS706では、変換テーブルを用いて、例えば、立上がり時間(tr)がどの時間帯に属しているのかを判定する(tn≦tr、tf<tn+1)。ここで、条件(tn≦tr、tf<tn+1)が満たされなければ、処理はステップS709に進み、変数(n)の値を順次インクリメント(+1)して、テーブルの参照する位置を変え、その後、処理はステップS706の条件判断を行う。
【0084】
これに対して、条件(tn≦tr、tf<tn+1)が満たされれば、処理はステップS707に進み、その範囲に対応する速度(Vrefn)を予測速度(Vexp)として速度情報を更新する。さらにステップS708では、予測速度(Vexp)とステップS702で求めたキャリッジの位置情報により、モータ駆動値を決定して駆動し、その後処理はステップS702へ戻る。
【0085】
従って以上説明した実施例に従えば、キャリッジの現時点に最も近いエンコーダ信号の変化点からほぼリアルタイムに速度を予測することができるため、キャリッジが低速で加減速中においてもより正確な速度予測ができる。
【0086】
さらに、以上の実施例において、記録ヘッドから吐出される液滴はインクであるとして説明し、さらにインクタンクに収容される液体はインクであるとして説明したが、その収容物はインクに限定されるものではない。例えば、記録画像の定着性や耐水性を高めたり、その画像品質を高めたりするために記録媒体に対して吐出される処理液のようなものがインクタンクに収容されていても良い。
【0087】
以上の実施例は、特にインクジェット記録方式の中でも、インク吐出を行わせるために利用されるエネルギーとして熱エネルギーを発生する手段(例えば電気熱変換体やレーザ光等)を備え、前記熱エネルギーによりインクの状態変化を生起させる方式を用いることにより記録の高密度化、高精細化が達成できる。
【0088】
また以上の実施例はシリアルスキャンタイプのインクジェット記録装置を例として説明したが、本発明はこれに限らず、他の記録方式、例えば、熱転写記録方式などを採用した記録装置にも本発明は有効に適用できる。
【0089】
加えて、以上の実施例のようなシリアルスキャンタイプのものでも、装置本体に固定された記録ヘッド、あるいは装置本体に装着されることで装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のカートリッジタイプの記録ヘッドを用いた場合にも本発明は有効である。
【0090】
さらに加えて、本発明のインクジェット記録装置の形態としては、コンピュータ等の情報処理機器の画像出力装置として用いられるものの他、リーダ等と組合せた複写装置、さらには送受信機能を有するファクシミリ装置の形態を採るもの等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録装置の構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示した記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【図3】位置検出機構641の詳細な構成とその周辺部の制御構成を示すブロック図である。
【図4】キャリッジ速度・位置検出の概略を示す信号タイムチャートである。
【図5】エンコーダ信号の立上がり時間(tr)と立下り時間(tf)の算出に関係する信号のタイムチャートである。
【図6】2つ信号(Level10、Level90)を測定するために用いる回路の概略を示す図である。
【図7】tr期間或いはtf期間からキャリッジ速度を判定する手順の概略を示す信号タイムチャートである。
【図8】キャリッジ速度検出のタイミングを示す図である。
【図9】キャリッジ駆動制御処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0092】
2 キャリッジ
2a エンコーダ
8 スケール
601 MPU
640 キャリッジモータドライバ
641 位置測定機構
641a tr,tf測定部
641b 位置測定部
641c 速度変換部
671、672 コンパレータ
M1 キャリッジモータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録ヘッドを搭載したキャリッジをキャリッジモータの駆動力により往復移動させて記録媒体に記録を行なう記録装置であって、
前記キャリッジの移動方向に沿って設けられ、所定の等間隔でスリットが設けられたスケールと、
前記キャリッジに装着され前記キャリッジと共に移動し、前記スケールのスリットを読み取ってキャリッジの位置を検出するエンコーダと、
前記エンコーダが前記スリットを読み取った直後に得られる検出信号の立上がり時間と立下り時間との内、少なくともいずれかの時間から前記キャリッジの速度を予測する予測手段とを有することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記スリットは前記キャリッジ方向に2列設けられ、前記2列のスリットは前記エンコーダが位相が90度異なる2つの検出信号を発生するように、互いに対してずらされていることを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記キャリッジモータはDCモータであることを特徴とする請求項1又は2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記予測手段は、前記90度位相の異なる2つの検出信号各々の立上がり時間と立下り時間とから前記検出信号の1周期当たり4回のキャリッジ速度の予測を行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の記録装置。
【請求項5】
前記予測手段によって予測された予測速度と前記エンコーダによって検出されたキャリッジ位置とに基づいて前記キャリッジモータの駆動を制御する制御手段をさらに有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の記録装置。
【請求項6】
前記予測手段は、
前記検出信号と第1の閾値とを比較する第1の比較手段と、
前記検出信号と前記第1の閾値より大きな値の第2の閾値とを比較する第2の比較手段と、
前記第1及び第2の比較手段夫々による比較結果に基づいて、前記立上がり時間と前記立下り時間とを決定する決定手段と、
前記第1の比較手段による比較結果から前記決定手段により決定された前記立上がり時間と立下り時間とを判別する判別手段とを有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の記録装置。
【請求項7】
前記予測手段は、前記立上がり時間と立下り時間を比較する参照値を格納したテーブルを有し、
前記テーブルの参照値と前記立上がり時間或いは前記立下り時間との比較から前記キャリッジの移動速度を予測することを特徴とする請求項6に記載の記録装置。
【請求項8】
前記記録ヘッドは、インクを吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッドであることを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項9】
前記インクジェット記録ヘッドは、熱エネルギーを利用してインクを吐出するために、インクに与える熱エネルギーを発生するための電気熱変換体を備えていることを特徴とする請求項8に記載の記録装置。
【請求項10】
記録ヘッドを搭載したキャリッジをキャリッジモータの駆動力により往復移動させて記録媒体に記録を行なう記録装置で用いるキャリッジ速度予測方法であって、
前記キャリッジの移動方向に沿って設けられ、所定の等間隔でスリットが設けられたスケールから、前記キャリッジと共に移動するエンコーダを用い、前記スケールのスリットを読み取ってキャリッジの位置を検出する検出工程と、
前記エンコーダが前記スリットを読み取った直後に得られる検出信号の立上がり時間と立下り時間との内、少なくともいずれかの時間から前記キャリッジの速度を予測する予測工程とを有することを特徴とするキャリッジ速度予測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−159510(P2006−159510A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−351516(P2004−351516)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】